〔実施例1〕
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。まずは、本実施例に係る表示装置の1画素分の概略構成を、図1ないし図3を参照して説明する。
上記表示装置の各画素は、図1に示すように、第1および第2のデータ信号線1,2と、隣接する2本の走査信号線3とに囲まれる領域に形成される。尚、以降の説明では、ある画素に注目した場合、その画素の前段側に存在する走査信号線と次段側に存在する走査信号線とを区別する必要がある場合、注目画素の前段側に存在する走査信号線を走査信号線3Aとし、注目画素の次段側に存在する走査信号線を走査信号線3Bとして区別する。
第1のデータ信号線1は、第1のTFT4を介して第1のデータ電極6と接続されており、第2のデータ信号線2は、第2のTFT5を介して第2のデータ電極7と接続されている。また、第1および第2のデータ電極6,7は、第3のTFT8のソース−ドレインを介して接続されている。第1および第2のTFT4、5のゲート電極は、走査信号線3Aに接続されている。また、第3のTFT8のゲート電極は、走査信号線3Bに接続されている。
また、上記表示装置は、図2に示すように、2枚のガラス基板11,12の間に誘電性物質層13が挟持され、この誘電性物質層13に液晶(図示せず)が封入されている。上記図1に示す構成は、基板11における基板12との対向面において形成されている。また、第1および第2のデータ信号線1,2と走査信号線3との間には絶縁膜14が形成されている。さらに、基板11,12における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板15,16が備えられている。そして、この表示装置は、第1のデータ電極6および第2のデータ電極7間に電圧を印加することによって形成される電界により、誘電性物質層13内の液晶の配向方向を変化させて表示を行う。
上記構成の表示装置において、各画素の等価回路図は図3に示すようなものとなる。すなわち、上記表示装置では、第1のTFT4と第2のTFT5との間に表示部容量20が存在する。この表示部容量20は、第1のデータ電極6と第2のデータ電極7との間に存在する容量である。
図1〜図3に示した構成の表示装置において、第1のTFT4および第2のTFT5は、同一の走査信号線3Aに接続されていることから、同一の走査信号が入力され、同時にスイッチングを行う。そして、第1および第2のTFT4,5がオンした場合、第1および第2のデータ電極6,7の間に形成される表示部容量20には、第1のデータ信号線1と第2のデータ信号線2との間の電位差分の電圧が印加されることとなる。
このとき、第1および第2のデータ信号線1,2から第1および第2のデータ電極6,7に対して印加される電圧は、第1および第2のデータ電極6,7間の電位差が0Vとなるときの階調電位を基準にして、逆電位の関係となっている。このため、本実施の形態に係る構成では、図25で示した従来構成(共通信号線112から基準電位とデータ信号線110からの印加電圧とを与える構成)と比較して、2倍の電圧を印加することができる。つまり、従来と同じ耐圧のTFT、及びデータ信号回路を用いた場合であっても、従来の2倍の電圧を誘電性物質層に対して印加することが可能となる。
一方、第3のTFT8は、そのゲート電極が走査信号線3Bに接続され、ソース−ドレインが第1のデータ電極6および第2のデータ電極7に接続されている。このため、第3のTFT8がオンした場合、第1のデータ電極6と第2のデータ電極7とがショートされ、これらの電極間(表示部容量20)の電位差は0Vとなる。
すなわち、上記表示装置は、走査信号線3Aがオン、走査信号線3Bがオフとなる状態において、第1のデータ電極6および第2のデータ電極7間の電位差に応じた階調表示を行うことができる。また、走査信号線3Bがオンとなる状態において、第1のデータ電極6および第2のデータ電極7間の電位差を0Vとし、ノーマリーブラックモードと組み合わせることで黒表示を行うことができる。
つまり、上記表示装置では、同一の走査信号線3に接続された1ライン分の素子列に対して、走査信号線3Aのオン時に書き込み制御を行い、走査信号線3Bのオン時に一括して黒表示を行っている。これにより、上記表示装置では、照明装置の間欠点灯といった手法を用いること無しに間欠点灯が可能となり、動画ボケを抑制することができる。
また、図1に示す構成においては、1本の走査信号線3に対して、第1のTFT4、第2のTFT5、および第3のTFT8の全てのスイッチング素子が設けられている。つまり、この構成では、各走査信号線3は、その前段の素子列に対しては走査信号線3Bとして機能し、その次段の素子列に対しては走査信号線3Aとして機能する。
つまり、上記構成では、各走査信号線3は、その前段の素子列に対して第3のTFT8を有し、その次段の素子列に対して第1のTFT4および第2のTFT5を有している。なお、各走査信号線3は、その前段の素子列に対して第1のTFT4および第2のTFT5を有し、その次段の素子列に対して第3のTFT8を有する構成であっても良い。
このように、各走査信号線3において走査信号線3Aの機能と走査信号線3Bの機能とを兼用させることにより、図4に示すように、マトリクス状に画素を配置した構成において、1本の走査信号線3の走査により、上記走査信号線3に隣接する2ライン分の画素を同時にスイッチングすることが可能となり、かつ、一方のラインの画素には階調信号を、他方のラインの画素には0Vを入力することが可能となる。尚、図4において、Xは走査信号線、Y1は第1のデータ信号線、Y2は第2のデータ信号線を示している。
また、上記構成では、1本の走査信号線3で2ライン分の画素を同時に走査することが可能なことから、従来構成(1本の走査信号線で1ライン分の画素を走査する構成)で間欠点灯する場合に比べ、TFTのオン時間を2倍確保することが可能である。これにより、誘電体物質層の比誘電率が大きいことに起因して、表示部容量20の容量値が大きくなる場合にも、従来のTFTを用いて、十分な書き込み能力を得ることができる。
但し、本発明の表示装置においては、走査信号線3Aの機能と走査信号線3Bの機能と1本の走査信号線3に兼用させる構成に限定されるものではない。つまり、走査信号線3Aの機能と走査信号線3Bの機能とは、それぞれ別の走査信号線に持たせても良い。
また、上記表示装置においては、奇数行の走査信号線3の走査と、偶数行の走査信号線3の走査とを、フレーム毎に交互に行う構成とすることが好ましい。このような駆動によっては、各画素は、階調信号の入力と0Vの入力とをフレーム毎に順次繰り返すこととなる。この場合、各画素においては、ホールド期間(階調信号の入力による階調表示期間)とブランキング期間(0Vの入力による黒表示期間)との時間比率が1:1となり、良好な間欠点灯を行うことができる。
ここで、各画素に対して階調信号を入力する時には、第1および第2のTFT4,5の2つが駆動されるが、各画素への入力を0Vにするためには、第3のTFT8のみが駆動されることとなる。つまり、第3のTFT8は、第1のTFT4、あるいは第2のTFT5の2倍の充電能力(オン電流)を持つことが本来望ましい。
しかしながら実際には、第3のTFT8を、第1または第2のTFT4,5と同等、あるいはそれ以下の充電能力(オン電流)としても、視認性の観点からは、間欠点灯としての問題は特に生じないと考えられる。その理由は以下のとおりである。
まず、低い階調(黒に近い側の階調)の階調表示状態から黒表示状態に移行する場合を考える。この場合、階調表示を行っている画素への印加電圧が小さいことから、表示部容量20に蓄えられている電荷も小さく、第3のTFT8の充電能力(オン電流)が小さいとしても、所定の期間内で上記画素の印加電圧を0Vにすること(間欠点灯)は十分に可能である。
一方、高い階調(白に近い側の階調)の階調表示状態から黒表示状態に移行する場合では、階調表示を行っている画素への印加電圧が大きいことから、表示部容量20に蓄えられている電荷も大きく、第3のTFT8の充電能力(オン電流)が小さければ、所定の期間内で上記画素の印加電圧が完全には0Vとならないこともあり得る。しかしながら、高い階調、つまり、高輝度の状態にある場合、人間の瞳孔は絞られているため、間欠点灯時の黒状態が多少浮いていても、その輝度は十分暗く認識され、視認性的には間欠点灯が成立する。
このように、本発明の表示装置によれば、比誘電率が大きな誘電体物質層を持つ構成の表示素子、あるいは、高い駆動電圧が必要な誘電体物質層を持つ表示素子に適した間欠点灯が可能となる。
上記表示素子の具体例を以下に説明する。
図5(a)および図5(b)は、本実施例にかかる表示装置(本表示装置)に備えられる表示素子(画素)10Aの概略構成を示す断面図である。本表示装置は、このような表示素子10Aを複数備えている。
表示素子10Aでは、対向する2枚の基板(基板11および12)間に、光学変調層である誘電性物質層13を挟持している。また、基板11における基板12との対向面には、誘電性物質層13に電界を印加するための電界印加手段である第1のデータ電極6および第2のデータ電極7を互いに対向配置している。さらに、基板11および12における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板15および16を備えている。
なお、図5(a)はデータ電極6・7間に電圧が印加されていない状態(電圧無印加状態(オフ状態))を表しており、図5(b)はデータ電極6・7間に電圧が印加されている状態(電圧印加状態(オン状態))を表している。
基板11および12は、ガラス基板で構成されている。ただし、基板11および12の材質はこれに限るものではなく、基板11および12のうち、少なくとも一方が透明な基板であればよい。なお、表示素子10Aにおける両基板間の間隔、すなわち誘電性物質層13の厚みは10μmとした。ただし、両基板間の間隔はこれに限定されるものではなく、任意に設定すればよい。
図6は、電極6,7の配置と偏光板15,16の吸収軸方向との関係を説明するための図である。この図に示すように、表示素子10Aにおける電極6および電極7は、櫛歯状に形成した櫛形電極からなり、互いに対向配置とされている。なお、表示素子10Aでは、電極6,7は、線幅5μm、電極間距離(電極間隔)5μmで形成したが、これに限らず、例えば、基板11と基板12との間のギャップに応じて任意に設定することができる。また、電極6,7の材料としては、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極材料、アルミニウム等の金属電極材料等、電極材料として従来公知の各種材料を用いることができる。また、両電極6,7の形状は、櫛形電極に限るものではなく、適宜変更してもよい。
また、図6に示すように、両基板11,12にそれぞれ設けられた偏光板15,16は、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と電極6,7における櫛歯部分の電極伸長方向(電界印加方向に直交する方向)とが約45度の角度をなすように形成されている。このため、各偏光板における吸収軸は、電極6,7による電界印加方向に対して、約45度の角度をなす。
また、誘電性物質層13には、下記の構造式を有する化合物(以下、化合物Aという)を封入している。
この化合物Aは、33.3℃未満でネマチック相を示し、それ以上の温度では、液晶分子の配向方向が等方的となり、等方相を示す特徴を持つ。
このため、本表示装置では、誘電性物質層13の温度を所定の温度、すなわち、化合物Aのネマチック相−等方相相転移温度(液晶−等方相相転移温度)以上の温度に加熱する加熱手段(図示せず)を備えている。この加熱手段は、例えば、表示素子10Aの周辺に設けられるヒータであってもよく、表示素子10Aに直接貼合されるシート状ヒータ等であってもよい。
また、両基板11,12の対向面上に、ラビング処理が施された配向膜を、必要に応じて形成してもよい。この場合、基板12側に形成される配向膜は、データ電極6,7を覆うように形成してもよい。
図7(a)は、本表示装置において、誘電性物質層13をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保った状態で、データ電極6,7間に電圧を印加しない場合での、液晶分子の配向状態を示す説明図である。また、図7(b)は、本表示装置において、ネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保った状態で、データ電極6,7間に電圧を印加した場合での、液晶分子の配向状態を示す説明図である。
これらの図に示したように、本表示装置では、誘電性物質層13を加熱手段によってネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度(相転移温度よりもわずかに高い温度、たとえば+0.1K)に保ち、電圧印加を行うことにより、透過率を変化させることができる。すなわち、図7(a)に示すように、電圧無印加状態では、化合物Aからなる誘電性物質層13は等方相であるため、光学的に等方的であり、黒表示状態となる。一方、電圧印加時には図7(b)に示すように、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物Aの分子の長軸方向が配向して複屈折が発現するので、透過率を変調できる。
図7(c)は、本表示装置において、誘電性物質層13をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極6,7間に印加する電圧を変化させた場合の、電圧透過率曲線を示すグラフである。この図に示すように、本表示装置では、印加する電圧に応じて透過率を変化させることができ、かつ、0V印加時には黒表示を得るノーマリーブラックモードとすることが可能である。
なお、誘電性物質層13の温度を相転移点直上に保つ場合、0V〜100V前後の電圧で、実用上十分な程度に透過率を変調させることができる。しかしながら、相転移温度から十分に遠い温度(相転移温度よりも十分に高い温度)においては、以下に説明するように、必要な電圧が大きくなる。
すなわち、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折は、
△n=λBE2
で記述できる。なお、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
そして、このカー定数Bは、
B∝(T−Tni)−1
に比例する。ここで、Tniは転移点の温度であり、Tは媒質の温度である。
したがって、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができるが、相転移温度から十分遠い温度では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなる。したがって、上述の相転移温度直上のカー効果を利用した表示素子では、高精度な温度制御が必要であり、温度制御の精度が低くなるほど、駆動電圧を高くすることが必要となる。
本実施例1の各表示素子10Aの具体的構成については、図1ないし図3を参照して説明した通りである。
つまり、本実施例1に係る各表示素子10Aでは、データ電極6とデータ電極7との関係は先に述べた通りであり、この2つのデータ電極6,7間に誘電性物質層13が挟まれることにより、表示領域(すなわち、表示部容量20)が得られる。
また、表示素子10Aにおける走査信号線3Aには、その前段に隣接する画素の第3のTFT8が接続され、表示素子10Aにおける走査信号線3Bには、次段に隣接する画素の第1のTFT4および第2のTFT5が接続されている。つまり、各走査信号線3は、その前段の素子列に対しては走査信号線3Bとして機能し、その次段の素子列に対しては走査信号線3Aとして機能する。これにより、本実施例1にかかる表示装置では、表示素子10Aは、図3に示すようなマトリクス状に複数配置される。
以下に、表示素子10Aの製造方法について説明する。
先ず、基板12上に、タンタル等からなる金属材料をスパッタリング法により成膜し、パターニングを行った後、陽極酸化を行うことにより、走査信号線3およびTFTのゲート電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ゲート絶縁膜14として窒化シルコン膜、および、チャネル層などを形成する半導体層としてシリコン膜を成膜し、パターニングを行った。さらに、アルミニウム等からなる金属材料をスパッタリング法により成膜し、パターニングを行うことで、TFTのソース電極およびドレイン電極、また、データ信号線およびデータ電極を同時に形成した。
次に、表示素子10Aへの入力信号波形、および表示素子10Aにおける電位状態を図8に示す。波形(a),(b)は、第1および第2のデータ信号線1,2のそれぞれに対する入力信号、すなわちデータ信号の波形を示すものである。これらの波形の関係は、データ電極6とデータ電極7の間の電位差が0Vとなるときの電位(図中、破線で示す)を基準に逆電位となっている。
波形(c),(d)は、走査信号線3A,3Bのそれぞれに対する入力信号、すなわち走査信号の波形を示すものである。また、波形(e),(f)は、第1および第2のデータ電極6,7のそれぞれにおける電位状態を示すものである。
期間t1において、走査信号線3Aに対する走査信号(波形(c))がオンとなると、第1のデータ電極6および第2のデータ電極7は、第1のデータ信号線1および第2のデータ信号線2と同電位となる。この時の電位は、期間t2でも第1のデータ電極6および第2のデータ電極7において保持される(ホールド期間)。
次に、期間t3において、走査信号線3Bに対する走査信号(波形(d))がオンとなると、第1のデータ電極6と第2のデータ電極7とが接続される。これにより、第1のデータ電極6および第2のデータ電極7の電位差は0Vとなり、その後の期間t4において表示素子10Aは黒表示となる(ブランキング期間)。
上記駆動により、誘電性物質層13には、表示素子10Aの駆動を行うために必要な十分な電圧を印加することができた。特に、上記誘電性材料では、高速応答特性と高視野角特性とを備えた表示装置を実現できた。
ここで、走査信号線3による走査においては、図9に示すように、奇数行の走査信号線3の走査と偶数行の走査信号線3の走査とを、フレーム毎に交互に行うこととした。これにより、各画素は、階調信号と0Vとの入力がフレーム毎に順次繰り返され、また、先に述べた誘電性物質層13の特性から、階調表示と黒書き込みとを順次行うことから、間欠点灯表示になり、動画ボケを抑制することが可能となった。
また、同一走査により2行分の画素を同時に走査することが可能であるため、各TFTは、表示部容量20への十分な書き込み能力を持つことができ、表示ムラなどがない良好な表示を得ることができた。
また、本表示装置は、図10に示すように、第1および第2のデータ電極6,7に並列に接続された補助容量21を備えている構成(表示素子10Cとする)としてもよい。この補助容量21は、本実施例の構成において、第1および第2のデータ電極6,7間の領域の基板12を誘電体物質として、必然的に形成されているものであったが、ここでは特に、基板の比誘電率を大きくすることにより、補助容量21の容量値を大きくすることを試みた。結果として、補助容量21の容量値を大きくすることにより、第1ないし第3のTFT4,5,8や、誘電性物質層13におけるリーク電流の影響を小さくすることができた。
本表示装置では、誘電性物質層13に封入する媒質として上述した化合物Aを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の液晶性物質であってもよい。この場合、例えば、単一化合物で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質の混合により液晶性を示すものでもよい。あるいは、これらに他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
例えば、特許文献1に記載してあるような液晶性物質、すなわち、5CB(4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル)、5OCB(4−シアノ−4’−n−ペンチルオキシビフェニル)、3OCB(4−シアノ−4’−n−プロピルオキシビフェニル)と5OCBと7OCB(4−シアノ−4’−n−ヘプチルオキシビフェニル)との等量混合物、PCH5(トランス−4−ヘプチル−(4−シアノフェニル)−シクロヘキサン)、3HPFFと5HPFFと7HPFFとの混合物(1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)とよりなる混合物)などを適用してもよい。あるいは、これらの液晶性物質に溶媒を添加したものを適用してもよい。
また、特許文献2に記載してあるように、液晶性物質を、網目状高分子、マイクロカプセル、多孔質無機質などで小区域に分割したものを適用することもできる。
また、非特許文献9に記載してあるような高分子・液晶分散系(ネマチック液晶/高分子複合系)を適用することもできる。また、非特許文献10に記載してあるようなゲル化剤を添加しても良い。
また、基板に封入する媒質(誘電性物質層13)は、例えば、PLZT(ジルコン酸鉛とチタン酸鉛との固溶体にランタンを添加した金属酸化物)のように、カー効果(電気光学効果)を示すものであってもよい。また、誘電性物質層13に封入する媒質としては、例えば、ニトロベンゼンなどのように、有極性分子を含有するものであってもよい。これらの媒質は、典型的には、電圧無印加時には光学的に概ね等方であり、電圧印加により光学変調を誘起される媒質である。すなわち、これらの媒質は、典型的には、電圧印加に伴い分子、または分子集合体(クラスター)の配向秩序度が上昇する物質である。なお、誘電性物質層13に封入する媒質は、特に、電界印加により複屈折が上昇することが望ましい。
また、誘電性物質層13に封入する媒質は、電圧印加によって光学的異方性が変化する他の媒質であってもよい。ここで、電圧印加によって光学的異方性が変化する媒質とは、例えば、電界無印加時には光学的等方性を示し、電界印加により光学的異方性が発現する媒質であってもよい。あるいは、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質であってもよい。
例えば、ナノスケールの構造を有する液晶相であり、光学的には等方的に見える液晶相を適用することができる。これらに電界を印加することにより、ナノスケールの微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。
あるいは、液晶分子が光の波長以下のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いてもよい。これらに電界を印加すれば、放射状配向の集合体にひずみが与えられ、光学変調を誘起させることが可能である。
以下に、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として利用可能な媒質の例を、媒質例として記載する。ただし、以下に示す媒質例は、利用可能な媒質の一例を示すものであり、本表示装置に利用可能な媒質を限定するものではない。
〔媒質例1〕
例えば、従来のIPS方式(IPSモード)による液晶表示装置に用いられている液晶(例えば、ネマチック液晶など)を用いることができる。すなわち、本表示装置の構成は、IPS方式を用いた液晶表示素子にも適用できる。
この場合、例えば、本表示装置に備えられる表示素子を、図11に示す表示素子10Bのような構成としてもよい。
図11に示すように、表示素子10Bは、図5の構成に加えて、基板11の内側にカラーフィルタ層(CF層)31を備えている。また、基板11および12の内側には、データ電極(画素電極)6,7の伸長方向(電界方向に垂直な方向)に対して10度程度斜めの方向(右回りまたは左回りのどちらでもよい)にラビングを施した水平配向膜32,33がそれぞれ備えられている。
なお、基板11および12は、両基板の間隙(誘電性物質層13の幅)が5μmとなるように貼り合わされており、誘電性物質層13には、ネマチック液晶が封入されている。また、この構成では、基板12をTFT基板と表現し、基板11をCF基板と表現することもできる。
このように、本表示装置を、IPS方式の液晶表示装置として構成した場合、化合物Aを用いた上記の構成と略同様の効果を得ることができる。すなわち、走査信号線3に印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子である第1ないし第3のTFT4,5,8の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、第1および第2のデータ信号線1,2に印加する電圧を大きくした場合でも、第1ないし第3のTFT4,5,8の耐久性の低下を抑制することができる。
また、このような構成の本表示装置では、従来のIPS方式の液晶表示装置と比較して、高電圧駆動を行うことが可能である。このため、応答速度の高速化が可能となる。また、電極間ギャップ(電極6と電極7との間隔)を広げることができるので、高開口率化を図ることができる。
なお、上記の例では、データ電極6,7の伸長方向に対して10度程度斜めの方向にラビングを施した水平配向膜32,33を備えているとしたが、これに限るものではない。例えば、データ電極6,7に対するラビング方向の傾斜角度は、任意に設定すればよい。また、基板11および12は、両基板の間隙が5μmとなるように貼り合わされているとしたが、これに限らず、両基板の間隙は任意に設定すればよい。
〔媒質例2〕
また、図5に示した本表示装置の構成において、誘電性物質層13に封入される媒質として、化合物Aではなく、電圧印加によって光学的異方性が変化する他の媒質を用いてもよい。
このような媒質として、例えば、非特許文献5および6に記載されているBABH8を用いることができる。このBABH8の構造式は、
で表される。
ここで、誘電性物質層13に封入する物質としてBABH8を用いた場合、すなわち、図5の構成において、誘電性物質層13にBABH8を封入した場合の本表示装置における表示原理について説明する。
このような構成の本表示装置において、誘電性物質層13の温度を136.7℃以上161℃以下に制御する。この温度範囲では、BABH8は、光学波長以下(可視光の波長以下)のスケールの、キュービック対称性(立方晶の対象性)を有する秩序構造からなるキュービック相(cubic phase:立方晶相)を示す。なお、非特許文献5には、キュービック相の構造モデルが示されている。
上記したように、BABH8は、秩序構造が光学波長以下であるため透明である。すなわち、上記温度範囲において、電圧無印加の場合には、誘電性物質層13は光学的に等方性を示す。したがって、BABH8を用いた本表示装置では、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、誘電性物質層13の温度を136.7℃以上161℃以下に制御しながら、データ電極6,7間に電圧を印加すると、キュービック対称性を有する構造に歪が生じ、光学的異方性が発現する。すなわち、BABH8は、上記の温度範囲において、電圧無印加状態では光学的に等方性であり、電圧印加により光学的異方性が発現する。
このように、上記の構成の本表示装置では、電圧を印加することによってキュービック対称性を有する構造に歪が生じ、複屈折が発生するので、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電圧印加によって変化する。また、データ電極6,7間に印加する電圧と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、上記のような広い温度範囲において、安定した曲線となる。すなわち、上記構成の本表示装置では、136.7℃以上161℃以下の約20Kの温度範囲において安定した電圧透過率曲線を得ることができ、温度制御が極めて容易となる。
ここで、BABH8を用いた場合の本表示装置と、従来の表示方式の液晶表示装置との、表示原理の相違点について説明する。
図12は、BABH8を用いた場合の本表示装置および従来の表示方式の液晶表示素子における、表示原理の違いを説明するための説明図であり、電圧印加時および電圧無印加時における屈折率楕円体の形状および方向を模式的に表したものである。なお、図12では、従来の表示方式として、TN方式、VA(Vertical Alignment:垂直配向)方式、IPS(In Plane Switchig:面内応答)方式における表示原理を示している。
この図に示すように、TN方式の液晶表示素子では、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。そして、電圧無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電圧印加時には、液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図12に示すように、電圧無印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向いており、電圧印加時には長軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体の形は変わらずに、その方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。
また、VA方式の液晶表示素子では、TN方式と同様、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。ただし、VA方式の液晶表示素子では、電圧無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電圧印加時には、液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図12に示すように、電圧無印加時には長軸方向が基板面法線を向いており、電圧印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向く。すなわち、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体の形は変わらずに、その方向が変化する。
また、IPS方式の液晶表示素子では、1つの基板上に、対向する1対の電極が備えられており、両電極間の領域に液晶層が形成される構成である。そして、電圧印加によって液晶分子の配向方向を変化させ、電圧無印加時と電圧印加字とで、異なる表示状態を実現できるようになっている。したがって、IPS方式の液晶表示素子でも、図12に示すように、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体の形は変わらずに、その方向が変化する。
このように、従来の表示方式の液晶表示素子では、電圧無印加時でも液晶分子が何らかの方向に配向しており、電圧を印加することによってその配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、屈折率楕円体の形は変化しないが、屈折率楕円体の方向が電圧印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。つまり、従来の表示方式の液晶表示素子では、液晶分子の配向秩序度は一定であり、配向方向を変化させることによって表示を行っている。
なお、BABH8を用いた場合の本表示装置は、等方相(いわゆる液体相)を用いない点が、従来の電気光学効果を用いた液晶表示装置と異なっている。等方相とは、分子の配向方向が等方的である相を意味する。これらの表示方式に対して、BABH8を用いた本表示装置では、図12に示すように、電圧無印加時には屈折率楕円体が球状となる。すなわち、電圧無印加時には等方的(配向秩序度=0)である。そして、電圧を印加することによって異方性(配向秩序度>0)が発現する。すなわち、BABH8を用いた本表示装置では、電圧無印加時には屈折率楕円体の形が等方的(nx=ny=nz)であり、電圧印加によって屈折率楕円体の形に異方性(nx>ny)が発現する。ここで、nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行であって両電極の対向方向に平行な方向、基板面に平行であって両電極の対向方向に直交する方向、基板面に垂直な方向に対する、屈折率を表している。
このように、BABH8を用いた本表示装置では、光学異方性の方向は一定(電圧印加方向は変化しない)であり、配向秩序度を変調させることによって表示を行っている。すなわち、BABH8を用いた本表示装置では、媒質そのものの異方性(または配向秩序)が変化する。したがって、BABH8を用いた本表示装置の表示原理は、他の表示方式の液晶表示装置と大きく異なっている。
また、BABH8を用いた本表示装置では、キュービック対称性を有する構造に生じる歪、すなわち、媒質における光学的異方性の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の表示方式の液晶表示装置よりも、広視野角特性を実現できる。さらに、BABH8を用いた本表示装置では、複屈折が発生する方向が一定であり、光軸方向が変化しないため、より広い視野角特性を実現できる。
また、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する異方性を用いて表示を行っている。このため、従来方式の表示原理のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がなく、1ms程度の高速応答を実現することができる。すなわち、従来方式の表示原理では液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していたが、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造の歪を利用するため、液晶固有の粘度の影響が小さく、高速応答を実現することができる。
なお、上記の説明では、電界印加によって光学的異方性が変化する媒質の例としてBABH8を用いる場合を説明したが、これに限らず、例えば、BABH8以外の、キュービック相を示す分子からなる媒質を用いてもよい。
〔媒質例3〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、液晶相の一つであるスメクチックD相(SmD)を示す分子からなる媒質を適用できる。
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、ANBC16がある。なお、ANBC16については、非特許文献1(p.21,図1構造1(n=16))や、非特許文献6(p.888,Table1,化合物(compound no.)1,化合物1a,化合物1a−1)に記載されている。これらの分子構造を、以下に列挙する。
4’n-alkoxy-3’-nitro-biphenyl-4-carboxylic acids X=NO2
n-15 Cr 127 SmC 187 Cub 198 SmA 204 I
この液晶性物質(ANBC16)は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相を示す。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数が光学波長以下である。すなわち、スメクチックD相は、キュービック対称性を有する。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
また、ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16からなる誘電性物質層13に電界を印加すれば、分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、誘電性物質層13に光学異方性が発現する。
したがって、ANBC16を本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、電圧印加時と電圧無印加時とで光学的異方性が変化するので、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例4〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、液晶マイクロエマルションを適用できる。ここで、液晶マイクロエマルションとは、山本らによって名づけられた、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である(非特許文献2参照)。
液晶マイクロエマルションの具体例として、例えば、非特許文献2に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶(温度転移形液晶)であるPentylcyanobiphenyl(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal:濃度転移形液晶、ライオトロピック液晶)であるDidodecyl ammonium bromide(DDAB)の水溶液との混合系がある。
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光学波長より一桁程度小さい。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、上記の混合系は、光学的には等方性を示す。
そして、上記の混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学異方性が発現する。したがって、上記の混合系を本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。なお、上記の混合系に限らず、電圧無印加と電圧印加時とで光学的異方性が変化する液晶マイクロエマルションであれば、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例5〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、特定の相を有するリオトロピック液晶(ライオトロピック液晶)を適用できる。ここで、リオトロピック液晶とは、一般に液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味するものとする。また、上記の特定の相とは、電界印加時と電圧無印加時とで、光学的等方性が変化する相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献7に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液などは球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキングして(分子集合体を形成して)球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光学波長以下であるため、光学波長領域では異方性を示さず等方的に見える。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため異方性を発現する。よって、球状ミセル相を示すリオトロピック液晶を、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相などを示すリオトロピック液晶を誘電性物質層13に封入しても、略同様の効果を得ることができる。
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基が入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶を、誘電性物質層13に封入する媒質として適用することにより、ミセル相を示すリオトロピック液晶を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、媒質例2で説明した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を示すリオトロピック液晶の一例である。
また、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液には、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電圧を印加すると、秩序構造に歪が生じて光学異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を示すリオトロピック液晶も、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例6〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの、電界印加時と電圧無印加時とで光学的等方性が変化する相を示す液晶微粒子分散系を適用できる。ここで、液晶微粒子分散系とは、溶媒中に液晶微粒子を混在させた混合系である。
このような液晶微粒子分散系としては、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系がある。この液晶微粒子分散系では、スポンジ相が発現する。したがって、上記媒質例3の場合と同様、上記の液晶微粒子分散系を、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
なお、上記のラッテックス粒子を媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABと置き換えることによって、媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
〔媒質例7〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、デンドリマー(デンドリマー分子)を適用できる。ここで、デンドリマーとは、モノマー単位ごとに枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。
デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学異方性が発現する。したがって、デンドリマーを、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
また、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABを、デンドリマー物質に置き換えることにより、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができ、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例8〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を適用できる。
コレステリックブルー相は、高い対称性の構造を有している。また、コレステリックブルー相は、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学異方性が発現する。すなわち、コレステリックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、コステリックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
なお、コステリックブルー相を示す物質としては、例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を48.2%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を47.4%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を4.4%混合した物質がある。この物質は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
〔媒質例9〕
本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として、スメクチックブルー(BPSm)相を示す分子からなる媒質を適用できる。
スメクチックブルー相は、コステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有している。また、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学異方性が発現する。すなわち、スメクチックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の誘電性物質層13に封入する媒質として適用できる。
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献8に記載されているFH/FH/HH−14BTMHCがある。この物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃BPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。
上記誘電性物質層を、上記したいずれかの媒質を含む構成とすることにより、電圧印加時と電圧無印加時とで、異なる表示状態を実現できる。
〔実施例2〕
本実施例2に係る表示素子は、前記実施例1の表示素子10A,10B,および10Cにおいて、特に、走査信号線3とデータ電極6.7との間に発生する寄生容量、およびデータ信号線1,2とデータ電極6,7との間に発生する寄生容量を考慮し、これらの寄生容量が表示に与える影響をさらに抑制しようとするものである。よって本実施例2に係る表示素子の基本構成は、実施例1と同様なものを用いて説明する。
図13は、図10に示した表示素子10Cの等価回路図に対し、上述の寄生容量を追加して記載したものを、表示素子10Dとして示したものである。
先ず、走査信号線3A,3Bとデータ電極6,7との間に発生する寄生容量としては、寄生容量41〜44がある。寄生容量41は走査信号線3Aとデータ電極6との間の寄生容量であり、寄生容量42は走査信号線3Aとデータ電極7との間の寄生容量であり、寄生容量43は走査信号線3Bとデータ電極6との間の寄生容量であり、寄生容量44は走査信号線3Bとデータ電極7との間の寄生容量である。
先ず、データ信号線1,2とデータ電極6,7との間に発生する寄生容量としては、寄生容量45〜48がある。寄生容量45はデータ信号線1とデータ電極6との間の第1の寄生容量であり、寄生容量46はデータ信号線1とデータ電極7との間の第2の寄生容量であり、寄生容量47はデータ信号線2とデータ電極6との間の第3の寄生容量であり、寄生容量48はデータ信号線2とデータ電極7との間の第4の寄生容量である。
データ電極6およびデータ電極7の電位は、走査信号線3とデータ電極6,7との間の寄生容量41〜44によって、走査信号線3の電位変動の影響を受け、若干の変動が生じる。
本実施例では、図1に示すように、走査信号線3およびデータ電極6との間隔と、走査信号線3およびデータ電極7の間隔とを等しくすることにより、寄生容量41,43(第5の寄生容量)の容量値と寄生容量42,44(第6の寄生容量)の容量値とを等しくすることができる。結果として、走査信号線3の電位変動が生じても、データ電極6,7のそれぞれに与えられる電位変動の値が等しくなり、総じて、データ電極6とデータ電極7との間の電位差が変動することはない。つまり、目標の印加電圧を誘電体物質層13に加えることができる。
また、データ信号線1,2とデータ電極間6,7に発生する寄生容量45〜48についても、表示内容によってはクロストークを発生する可能性がある。本表示装置では、寄生容量45〜48の容量値を等しくした条件において、最もクロストークのない良好な表示を得ることができる。
さらには、上記第1ないし4の寄生容量のそれぞれの容量値を、上記第5および第6の寄生容量の容量値よりも大きくすることで、データ電極6およびデータ電極7の電位をより安定化させることができ、TFTのスイッチング時に表示容量部の電界変化を抑制し、フリッカの発生を抑制することができる。
また、図14に示すように、上記図13の構成に補助容量線9を設け、補助容量線9とデータ電極6との間に補助容量22を、補助容量線9とデータ電極7との間に補助容量23を設けた場合には、これら補助容量22,23が、データ電極6,7の電位変動そのものを抑制する効果があった。
本実施例では、補助容量線9は、図15および図16に示すように、走査信号線3と同層に、同材料を用いて、一括して形成することができる。
また、このとき、補助容量線9の電位は、基本的には自由に設定できるが、本実施例の場合、補助容量線9とデータ信号線1,2とが交差する構造となっているため、データ電極6とデータ電極7との間の電位差が0Vとなるときの階調電位と等しくしておくことが、最もその良好な表示状態を維持できる条件となる。
〔実施例3〕
本実施例にかかる表示装置(本表示装置)に備えられる表示素子(画素)10Eの概略構成を図17ないし図19を参照して以下に説明する。本表示装置は、このような表示素子10Eを複数備えて構成されている。尚、表示素子10Eは、実施例1にて示した表示素子10Aと類似した構成を有するため、表示素子10Aと同様の構成および作用を有する部材について同一の部材番号を付して説明する。
表示素子10Eでは、図17に示すように、第1のデータ信号線1に、第1のTFT4のソース−ドレインを介して、第1のデータ電極6が接続されている。第1のTFT4のゲート電極は、走査信号線3Aに接続されている。また、第1のデータ電極6は、第3のTFT8のソース電極に接続されており、第3のTFT8のゲート電極は走査信号線3Bに接続されている。
表示素子10Eは、図1に示される表示素子10Aとは異なり、第2のデータ信号線2、第2のTFT5、および第2のデータ電極7を有していない。但し、表示素子10Eでは、共通信号線51とこれに直接接続された共通電極52とが備えられており、共通電極52が第3のTFT8のドレイン電極に接続されている。
本実施例に係る表示素子10Eでは、データ電極6と共通電極52との間に誘電性物質層13に電界を生じさせることにより(図18参照)、表示領域(すなわち、表示部容量20)を得ている。
上記表示素子10Eの等価回路図は、図19に示すようなものとなる。すなわち、上記表示装置では、第1のTFT4と共通信号線51との間に表示部容量20が存在する。この表示部容量20は、第1のデータ電極6と共通電極52との間に存在する容量である。また、第1のデータ電極6と、走査信号線3A、第1のデータ信号線1、および共通信号線51のそれぞれとの間には、寄生容量41,45,49が存在する。
また、表示素子10Eは、走査信号線3Aに、隣接する画素の第3のTFT8を接続し、走査信号線3Bに、別の隣接する画素の第1のTFT4を接続することで、図20の等価回路図に示すようなマトリクス状に複数配置される。尚、図20において、Xは走査信号線、Yは第1のデータ信号線、Cは補助容量線を示している。
これら表示素子10Eは、以下の製造方法により得られる。
基板12上に、タンタル等からなる金属材料をスパッタリング法により成膜し、パターニングを行なうことで、共通信号線51、および共通電極52を形成し、その後、陽極酸化を行うことにより、走査信号線3および、TFT4,8のゲート電極を形成した。次に、プラズマCVD法によりゲート絶縁膜14として窒化シルコン膜を、および、チャネル層などを形成する半導体層としてシリコン膜を成膜し、パターニングを行った。ここでは、第3のTFT8のドレイン電極と共通電極52とを接続するためのコンタクトホールのパターニングを追加した。
また、このとき、共通電極52上の絶縁膜14も同時に除去しても構わない。さらには、表示領域の絶縁膜14を同時に除去し、図21に示すような構造としてもよい。これにより、絶縁膜14の影響による、データ電極6−共通電極52間の印加電圧降下を防ぐことが可能となる。
次に、アルミニウム等からなる金属材料をスパッタリング法により成膜し、パターニングを行うことで、TFT5,8のソース電極およびドレイン電極、また、データ信号線1およびデータ電極6を同時に形成した。また、誘電性物質層13には、実施例1で示したものと同様なものを用いた。
次に、表示素子10Eへの入力信号波形、および表示素子10Eにおける電位状態を図22に示す。波形(a)は、第1のデータ信号線1に対する入力信号、すなわちデータ信号の波形を示すものである。この波形は、共通電極52の電位(図中、破線で示す)を基準に反転する矩形波となっている。
波形(b)、(c)は、走査信号線3A,3Bのそれぞれに対する入力信号、すなわち走査信号の波形を示すものである。また、波形(d)は、第1のデータ電極6における電位状態を示すものである。
期間t1において、走査信号線3Aに対する走査信号(波形(b))がオンとなると、第1のデータ電極6に、第1のデータ信号線1と同電位となる。この時の電位は、期間t2でも第1のデータ電極6において保持される(ホールド期間)。
次に、期間t3において、走査信号線3Bに対する走査信号(波形(c))がオンとなると、第1のデータ電極6と共通電極52とが接続される。これにより、第1のデータ電極6の電位は共通電極52の電位と等しくなり、第1のデータ電極6と共通電極52との間の電位差は0Vとなるため、その後の期間t4において表示素子10Eは黒表示となる(ブランキング期間)。
ここで、実施例1での図9と同様に、奇数行の走査信号線3の走査と、偶数行の走査信号線3の走査とを、フレーム毎に交互に行う構成とすることが好ましい。このような駆動によっては、各画素は、階調信号の入力と0Vの入力とをフレーム毎に順次繰り返すこととなり、誘電性物質層13の特性から、階調表示と黒表示とを順次行われることから、間欠点灯表示になり、動画ボケを抑制することが可能となった。
また、同一走査により、2行分の画素を同時に走査することが可能であったため、TFTは、表示部容量203への十分な書き込み能力持ち、表示ムラなどがない良好な表示を得ることができた。
本実施例3の構成では、実施例1と比較し、TFTの数が少ないことにより、作成プロセスにおいて、良品率が向上した。