JP4489621B2 - 平版印刷用湿し水組成物 - Google Patents
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Description
しかしながら、このイソプロピルアルコールは水と蒸発のし易さが異なるために、湿し水のイソプロピルアルコール濃度を一定に保つための特殊な高価な装置が必要である。また、イソプロピルアルコールは特有の不快臭があることと共に、毒性の面でも問題があり、有機溶剤中毒予防規則(有機則)第2種有機溶剤であって規制を受ける。さらに、危険物第4類アルコール類に該当し、引火し易い化合物であるため、取り扱いや保管管理に注意が必要で作業環境上好ましくない。また、このイソプロピルアルコールを添加した湿し水を、通常の水棒を用いるオフセット印刷に適用しても、ローラー上および版面上でイソプロピルアルコールが蒸発するため、その効果を発揮することができないなどの問題があった。
また、イソプロピルアルコール代替化合物として不揮発性もしくは高沸点化合物を使用する技術が開発されている。例えば、アルキレンジアミンのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物を湿し水組成物に含めることが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。また該特許文献1において、アルキルアミンのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物を湿し水組成物に含めることが提案されている。これらの化合物を使用すると、湿し水の表面張力が下がり、版面に対する濡れ性が改善され、印刷汚れの発生が起きにくくなる効果はあるものの、インキの乳化が進行しやすく、長時間の印刷を行うとインキの過乳化により転移性の低下を起こしてしまい、水負けや着肉不良などのトラブルが発生する問題があった。
これらの問題を解消し、長時間の連続印刷でも安定した印刷が可能で、及び版の画像領域を溶解し画像を損なうことない、平版印刷用湿し水組成物が求められている。
本発明の目的は特に、長時間連続印刷しても、印刷版の汚れ、ブラインディング及び水負けといった問題や、版へのインキ着肉不良を発生させずに安定に印刷できる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はまた、インキを過度に乳化させることなく、インキロール上のインキを印刷に好適な状態に維持することができる湿し水組成物を提供することである。本発明のまた別の目的は、印刷機停止時に版面上に残った湿し水が水滴となり、水分が蒸発しても、画像部を溶解せず画像を損なうことがない平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はさらに、高品質の印刷物を得ることができる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。
従って本発明は、下記一般式(I)に示される化合物及び下記一般式(II)に示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する平版印刷用湿し水組成物である。
本発明の実施態様として、一般式(I)の化合物は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの付加モル数比率が5:95〜50:50の範囲にあることが好適である。本発明の湿し水組成物は好ましくは、さらにセルロース誘導体及びポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種を含有する。本発明の湿し水組成物は、実質的に揮発性有機溶剤を含まない湿し水組成物とすることができる。
また、本発明の平版印刷用湿し水組成物によれば、印刷機停止時、例えば昼休みなどの停止時に版面上に残った湿し水が水滴となり水分が蒸発しても、画像部を溶解せず画像を損なうことがない。本発明の湿し水組成物は、実質的に揮発性有機溶剤を含まずにイソプロピルアルコールを完全に代替することができ、労働衛生上及び消防安全上の問題が全くない上、高品質の印刷物を得ることができ、印刷の能率化、生産性の向上を図ることができる。
湿し水は通常商業ベースとするときは濃縮化し商品化するのが一般的であり、使用するときに、そのような濃縮液を適宜希釈して湿し水として使用することになる。本明細書中では濃縮化されたものを湿し水組成物と称する。
本明細書中で以下に言及する各種成分の含有量や添加量は、特に記載しない限り、使用時の湿し水の全質量に基づいたものである。
で示される化合物は、その重量平均分子量が500〜3000の範囲であることが適当であり、好ましくは1000〜2000である。
一般式(I)で示される化合物において各共重合鎖はブロック構造でもランダム構造でもよい。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの結合構造としては、先にエチレンオキサイドを付加し、その後プロピレンオキサイドを付加したブロック構造、先にプロピレンオキサイドを付加し、その後エチレンオキサイドを付加したブロック構造、同時にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加したランダム構造があるが、いずれの構造のものもほぼ同様の効果が得られる。
一般式(I)で示される化合物において、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの付加モル数比率が5:95〜50:50の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10:90〜40:60である。
で示される化合物は、その重量平均分子量が500〜3000の範囲であることが適当であり、好ましくは1000〜2000である。
本発明で使用する一般式(I)又は一般式(II)で示される化合物は、常法に従って製造することができる。例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、またはトリイソプロパノールアミンに触媒の存在下でエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させて、製造することができる。具体例としてはトリイソプロパノールアミンなどのアミン化合物をアセトニトリルとともに氷水浴で冷却しながら、プロピレンオキサイドをそこへ滴下し反応させることで一般式(II)の化合物を得ることができる。この反応後の溶液にその後、更にエチレンオキサイドを吹き込み反応させることで一般式(I)の化合物を得ることができる。
上記化合物の分子量やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの比率は、例えば水酸基価及びアミン価の測定、NMR測定などにより決定することができる。
一般式(I)に示される化合物及び一般式(II)に示される化合物からなる群から選ばれる化合物の湿し水における含有量は、0.01〜3質量%が適当であり、この範囲であると良好な印刷適性を発揮し、また、該湿し水を適用した後、印刷停止時に版上に残った水滴が放置により水が蒸発し、濃縮された状態になっても版の画像領域を侵すことがない。その含有量はより好ましくは0.05〜0.3質量%である。
このような水溶性高分子化合物の具体的な例としてはアラビアゴム、澱粉誘導体(例えばデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、燐酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉など)、アルギン酸塩、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、それらのグリオキサール変性体など)などの天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体などの合成物が挙げられる。これらの高分子化合物は単独でまたは混合して使用でき、その添加量は湿し水中、0.0001〜5質量%の範囲が適当であり、好ましくは0.003〜1質量%の範囲である。
湿し水組成物に含有させるポリビニルピロリドンは、ビニルピロリドンのホモポリマーを意味する。ポリビニルピロリドンは分子量200〜3,000,000のものが適当であり、好ましくは300〜500,000、より好ましくは300〜100,000のものである。特に好ましくは300〜30,000のものである。
これらポリビニルピロリドンは1種単独でも、又は分子量の異なるものを2種以上組み合わせて使用することもできる。また、低分子量のポリビニルピロリドン、例えば重合度3〜5のビニルピロリドンオリゴマーと組み合わせることができる。
このようなポリビニルピロリドンとしては、市販品を使用することができる。例えば、ISP社製のK−15、K−30、K−60、K−90、K−120などの各種グレードのものを使用することができる。
セルロース誘導体及びポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種の湿し水における含有量は、0.001〜0.6質量%が適当であり、好ましくは0.02〜0.3質量%である。
またグリセリンを単独で使用してもよく、又は糖類と併用してもよい。
湿し水において、糖類及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
本発明の湿し水組成物はまた、アルカリ金属水酸化物、燐酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、珪酸塩等を含有させ、pH7〜11付近のアルカリ領域で用いることもできる。
上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加する量としては湿し水中0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%が適当である。
防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体等が挙げられる。
消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型などのいずれも使用することができる。
これらの界面活性剤の含有量は発泡の点を考慮すると、湿し水中10質量%以下、好ましくは0.01〜3.0質量%が適当である。
これらの湿潤剤を単独又は2種以上の併用で、湿し水中0.01〜1質量%程度含ませることもできる。
ASTM D 2369-95の測定法は、試料3mlを熱風オーブン110℃で1時間の条件で、次式により揮発性有機溶剤量を求めるものである。
式:{(試料の質量−加熱残分の質量−試料中の水分質量)/(試料の質量)}×100=揮発性有機溶剤量(質量%)
また、使用時の湿し水中に15質量%程度までのイソプロピルアルコールを併用しても印刷品質上問題はない。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LP−NX)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製HP−S)、及びサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
下記表1の組成に従って、実施例1〜6及び比較例1〜4の各種湿し水組成物を調製した。表中、単位はグラムであり、水を加えて最終的に1000mlとした。これらはいずれも濃縮タイプで、使用時に希釈する。使用した比較化合物(I)、(II)及び(III)の構造は次のとおりである。
印刷機はハイデルMOV(アルカラー給水装置)を使用して、東洋インキ(株)の名称ハイユニティのプロセス4色(墨、藍、紅、黄)インキと、使用プレートとして富士写真フイルム(株)製のポジ型PS版VSを富士写真フイルム製FQIチャートのフィルムを用い、ウシオ製PSライトで露光後、富士写真フイルム製現像液DP−4で現像処理を行い、富士写真フイルム製ガム液FP−2でガム引き処理を行って製版したものを用いて、印刷テストを実施した。
(a)連続印刷安定性:
汚れを生じず、水負けを起こさない湿し水の量(最小水上げ量)を求め、その水目盛りで連続印刷を実施した。印刷物に汚れ又は水負けが発生し良好な印刷物が得られなくなるまでの印刷枚数により判定する。
10000枚以上 A
10000〜3000枚以上 B
2999〜1枚 C
なし D
良い A
やや悪い B
悪い C
(c)画像部劣化
印刷機を停止し、PS版のベタ部と30%網点部の画像部にシリンジを用いてそれぞれの湿し水を5μl、10μl、20μl及び50μlを滴下し、60分間放置する。その後印刷を再開し、画像領域の劣化について評価する。
問題なし A
若干劣化有り(リング状跡有り) B
劣化 C
テスト結果を下記の表2に示す。
Claims (3)
- 一般式(I)の化合物においてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの付加モル数比率が5:95〜50:50の範囲にある、請求項1記載の平版印刷用湿し水組成物。
- さらにセルロース誘導体及びポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2記載の平版印刷用湿し水組成物。
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