JP4469467B2 - 細胞増殖抑制剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はトロンビンによる細胞の増殖を抑制しうる薬剤に関する。さらに詳しくは、PAR1型トロンビンレセプターの特定の領域に結合して該レセプターの細胞増殖に関する機能を阻害する薬剤に関する。本発明はまた、新規なヒトPAR1型トロンビンレセプター、ならびにそれをコードするDNA断片に関する。
【0002】
【従来の技術】
トロンビンは血液凝固カスケードの最終段階に関与し、血栓止血において極めて重要な役割を果たすセリンプロテアーゼである。一方、トロンビンは血管内皮細胞上のトロンボモジュリンと結合すると、凝固促進的な働きは全くなくなり、逆にプロテインCの活性化能が数千倍も増強される。このようにして活性化されたプロテインCは、第V因子や第VIII因子を分解して抗凝固作用を示す。したがって、トロンビンは抗凝固因子としての働きももっていることになる。トロンボモジュリンはトロンビン受容体の一種であるが、最近トロンビンのシグナルを伝達するタイプの受容体(レセプター)が発見された(Vu, T. K. H. et al. :Cell, 64, 1057-1068 (1991))。最初にクローニングされたシグナル伝達型のトロンビンレセプター(PAR1)のcDNAは425個のアミノ酸残基からなる蛋白質をコードしており、7個の膜貫通領域をもつ典型的なG蛋白共役型レセプターの構造を有している。
【0003】
トロンビンはPAR1型トロンビンレセプターの細胞外N末端側の部位Arg(41)−Ser(42)を限定分解する。PAR1型トロンビンレセプターのN末端側が遊離すると、新たに露呈してきたN末端部位がアゴニストとして働くという極めて特徴的な構造をしている。すなわちトロンビンはリガンドとして働くのではなく、レセプターに内在しているリガンド(TRAP: Thrombin Receptor Agonist Peptide)を露呈させる役目をもっているだけである。このリガンド部位のC末端側には隣接して酸性アミノ酸に富んだ部位がある(−Glu−Asp−Glu−Glu−)。この部位はトロンビンの天然インヒビターであるヒルの唾液中のヒルジンに相同性が高く、ヒルジン様ドメインとよばれており、トロンビンが結合する部位と考えられている(医学のあゆみ、167, 484-487 (1993))。
【0004】
トロンビンのシグナルにより、血小板や血管内皮細胞のみならず、血管平滑筋細胞やマクロファージなども活性化され、遊走し、増殖する。粥状硬化、PTCA後などにPAR1型トロンビンレセプターが過剰発現していることからみて、このレセプターが各種血管病変の成立に重要な役割を果たすと考えられてきた。
【0005】
抗トロンビン剤、すなわちトロンビン阻害剤は、前述したようなトロンビンの機能を考えると、血液凝固カスケードを阻害するばかりでなく活性化プロテインCの生成も抑制することになる。すなわち血管内皮上の凝固と抗凝固のバランスがくずれることが予想され、副作用として、例えば出血が懸念される。
【0006】
一方、トロンビンレセプター阻害剤は、その作用機序からみて、血液凝固系には全く影響を及ぼさずに細胞表面のレセプターを調節することで、細胞増殖や細胞遊走などの細胞活性化のみを抑制することが期待できる。つまり、トロンビン阻害剤と異なり、トロンビンレセプター阻害剤は、出血という副作用の少ない薬剤となりうると考えれる。さらに、対象疾患のすみわけも可能である。例えば、トロンビン阻害剤は血栓症が対象になるのに対し、トロンビンレセプター阻害剤は細胞増殖性の疾患が対象となる。
【0007】
次に、トロンビンと細胞上のレセプターとの反応が各種疾患といかに関連するかについて説明する。例えば、リウマチにおける滑膜細胞増殖や、動脈硬化における血小板凝集、平滑筋細胞増殖、あるいはマクロファージ遊走に細胞上のトロンビンレセプターが関与していることを示唆する報告を以下に示す。
【0008】
リウマチ患者の滑膜組織においてPAR1型トロンビンレセプターは過剰発現している(Ann. Rheum. Dis., 55: 841-843 (1996))。また、リウマチ患者の滑液中には活性化トロンビンが多量に存在し、さらに滑液中ではトロンビン生成量を反映するメルクマールであるTAT(Thrombin−Antithrombin Complex)が健常人血漿値に比べて数千倍も高値になっていることが最近明らかにされている(J. of Rheumatology, 23, 1505-1511 (1996); Clin. Exp. Rheumatol., 17, 161-170 (1999))。
【0009】
さらに、リウマチ患者由来の滑膜細胞は、in vitroで培養液中にトロンビンあるいはTRAPを添加することによって、トリチウムチミジンの取り込みが増加すること、すなわちトロンビンレセプターの作用を介して増殖することが示唆されている(Clinical Immunology and Immunopathology, 76: 225-233 (1995))。
【0010】
また、慢性関節リウマチにおいては増殖した滑膜組織内に新生血管が多くみられることが特徴であるが、トロンビンは血管内皮細胞の管腔形成など血管新生の過程に関与することが示唆されている(Am. J. Physiol., 273, c239-245, 1997)。
【0011】
さらに、慢性関節リウマチ患者の病態においてマトリックスメタロプロテアーゼの発現が亢進していることが知られている。トロンビンは血管内皮細胞に作用してマトリックスメタロプロテアーゼ−1および−3の発現を亢進するが、そのうちのマトリックスメタロプロテアーゼ−3の発現にPAR1型トロンビンレセプターが関与していることが報告されている(Atheroscler. Thromb. Vasc. Biol., 17, 1731-1738 (1997))。このことから、トロンビンレセプターは慢性関節リウマチの滑膜増生、およびそれに引き続いて起きる骨軟骨破壊の過程に関与していると考えられる。
【0012】
これらの報告をまとめてみると、関節局所で生成したトロンビンが滑膜組織あるいは滑膜細胞表面上のトロンビンレセプターを介してシグナル伝達を起こし、滑膜細胞増殖が惹起されていると考えられる。
【0013】
リウマチの発症機序は、最近の研究から滑膜細胞増殖が骨軟骨破壊に到るステップであることが明らかにされている。しかしながら、現行の抗リウマチ薬の作用をみると、痛みを和らげる抗炎症薬が主流であり、滑膜細胞増殖を有効に阻害調節する薬剤は未だない。早期リウマチ治療を考えた場合、滑膜細胞増殖阻害剤は、対症療法のための薬剤ではなく根治薬となりうる。
【0014】
また、粥状動脈硬化やPTCA後の再狭窄などの血管病変の病態進展においては新生内膜肥厚がその大きな要因となっており、その新生内膜組織にはPAR1型トロンビンレセプターの過剰発現が認められることが報告されている(Journal of Clinical Investigation, 90, 1614-1621 (1992))。
【0015】
一方、トロンビンはin vitroで血小板の凝集、平滑筋細胞の増殖、マクロファージの遊走を惹起することから、病変部位においても浸潤したマクロファージや血小板、内膜平滑筋細胞表面上のトロンビンレセプターを介するシグナル伝達に関与し、局所炎症亢進、平滑筋細胞増殖を起こしていることが強く示唆される。
【0016】
また、上記以外にもPAR1型トロンビンレセプターと疾患に関する報告例のひとつとして、脳神経細胞(Astrocyte)がトロンビンあるいはTRAPによってアポトーシスを起こすことが最近報告されており(The Journal of Neuroscience, 17, 5316-5326, (1997))、トロンビンレセプターと脳神経障害との関連性が示唆されている。また、トロンビンレセプターはある種のヒト肺ガン細胞の転移にも関与しているとの報告もある(Nature Med., 4, 909-914,1998)。
【0017】
PAR1型トロンビンレセプターは、その生体内における分布や機能から考えると、上述のリウマチや動脈硬化、脳神経障害に限らず、各種疾患の発症あるいは増悪に関連していると考えられる。
【0018】
しかしながら、一部の報告ではPAR1型トロンビンレセプターのTRAP部位に対する抗体でラットの血管平滑筋細胞の増殖を抑制しうることが示されているものの(Circ.Res. 82, 980-987 (1998))、ヒトPAR1型トロンビンレセプターに対する阻害剤で細胞増殖を抑制したという報告は現在のところない。また、PAR1型トロンビンレセプターのTRAP部位による刺激は細胞の増殖には不十分である可能性も報告されている(FEBS Lett., 15, 225-228 (1993); J Surg. Res., 68, 139-144 (1997); Circulation 95, 1870-1876 (1997))。さらに近年トロンビンに反応するといわれる複数のレセプター(PAR3、PAR4、N−PAR)が報告されており、それらのレセプターと細胞の増殖作用などとの関連については明らかになっていない(Nature, 386, 502-506 (1997); Nature, 394, 690-694 (1998); Biochem. J., 313, 353-368 (1996))。
【0019】
次にファージミド技術すなわちファージディスプレイライブラリーについて詳述する。
ファージ表面上に発現されたタンパク質をあたかもファージと融合した巨大タンパク質として扱うことが可能となり、目的の物質(例えば抗原タンパク質)に結合するファージクローンを効率的に選別できるようになった。いったん選択されたファージはたとえ少数であろうとも、大腸菌での感染、増殖過程を経ることにより大量のファージとすることができる。
【0020】
また、ファージディスプレイベクターの最大の特長は、ファージ表面に提示されたタンパク質の性質(表現型)を指標として選択を行うことにより、そのタンパク質をコードするDNA配列(遺伝子型)を同時に回収できることであり、したがって遺伝子レベルでの解析を行うことが容易な点である。
【0021】
特異的結合能をもつファージクローンをライブラリーから選択的に分離するためには、基本的に標的タンパク質への結合、洗浄、そして溶出という操作を行う。さらに、標的タンパク質に特異的に強く結合するファージクローンを濃縮するために、溶出操作後に得られたファージを大腸菌に感染してその増殖を行い、標的タンパク質での選択操作を繰り返す必要がある。このような結合、洗浄、溶出、増殖という過程はパンニングとよばれており、通常この操作を5回程度繰り返すことにより、ライブラリーより特異的結合能をもつファージを選択的に分離することができる。
【0022】
ファージの結合対象としては、タンパク質のみならずターゲットタンパク質を表面に発現している細胞そのもの、炭水化物、核酸、化学薬品などがある。
また、溶出過程では、酸あるいはアルカリによる処理が一般的に用いられている。
【0023】
ファージディスプレイは、その原理上いかなるポリペプチドにも応用可能である。例えば抗体のVHとVL領域をペプチドリンカーでつないだ一本鎖抗体すなわち単鎖型Fv(single chain Fv; scFv)断片の形で、外殻タンパク質IIIとの融合タンパク質としてファージ表面上に提示することができる。
【0024】
抗原(標的タンパク質あるいは細胞など)を免疫したマウスのBリンパ細胞に由来するcDNAを鋳型として、PCR法によりVHとVL遺伝子をそれぞれ増幅すると共にクローン化することにより、さまざまな抗原結合部位を提示するファージミドライブラリーを作製することができる。そのライブラリーの大きさは、通常の分子生物学的手法によれば10の8乗程度である。この方法を用いることで特定の抗原に対して異なる結合特性をもつ単鎖抗体を同時に多種類取得することが可能となる。
【0025】
従来のトロンビンレセプターに対する抗体は、アミノ末端の細胞外部分のペプチドを合成し、抗原として動物に免疫して取得されている。例えば、ウサギポリクローナル抗体の調製が報告されている(Circulation., 91, 2961-2971 (1995))。また、ラットのトロンビンレセプターのTRAP部位を含むペプチドSFFLRNPSEDTFEQFをウサギに免疫して得られたポリクローナル抗体は、ラットの平滑筋細胞のトロンビンによる増殖を抑制したことが報告されている(Circ. Res., 82, 980-987 (1998))。
【0026】
しかしながら、本発明者らの検討では、ヒトPAR1型トロンビンレセプターのTRAP部位を含むペプチドSFLLRNPNDKYEPFを免疫して得たウサギポリクローナル抗体によっては、ヒト血管平滑筋細胞およびヒト関節滑膜細胞のトロンビンによる細胞増殖を抑制することはできなかった。
【0027】
トロンビンレセプターはリガンドを分子中に内在し、トロンビンによってアミノ末端側が切断されて露呈したTRAP部分が分子内の特定部分と相互作用をすることによってシグナル伝達が起こると考えられている。また、トロンビンはトロンビンレセプターを切断した後、レセプター分子から離れて次々とレセプターを活性化していくものと考えられる。こうしたことから、トロンビンレセプターはトロンビンと結合した後に、さらにはトロンビンによって切断された後に、分子内で立体構造変化を起こしていることが示唆されている(米国心臓学会、1996年)。
【0028】
一方ファージミド技術によって得られたscFvは、1回のライブラリーの作成により多数の独立したクローンが得られること、またその各クローンは単一の抗原決定基に対して特異的であり、かつ同一の特異性を有する抗体を安定的に産生できるという利点をもつことから、リガンドとレセプターの機能解析、アンタゴニストあるいはアゴニスト分子デザイン、構造活性相関研究に近年利用されるようになってきた。
【0029】
PAR1型トロンビンレセプターの細胞増殖シグナル伝達においては、TRAP部位以外の部位が関与している可能性が考えられてきたが、その部位については今までの情報では特定できていない。
【0030】
しかしながら、PAR1型トロンビンレセプター上に存在する未知の細胞増殖に関与する部位に対する抗体を作成するために、PAR1型トロンビンレセプターの全配列を分割した複数の部分ペプチドを作成して免疫し、得られたそれぞれの抗体について細胞増殖抑制活性を検討する方法では効率が悪いといわざるを得ない。
【0031】
そこで本発明者らは、トロンビン切断部位およびTRAP部位を欠損させた組み換えPAR1型ヒトトロンビンレセプターを細胞上に発現させ、その機能および構造活性相関に関して鋭意研究を重ねた。その結果、このヒトトロンビンレセプター改変体を発現した細胞を抗原としてマウスに免疫し、構築したファージディスプレイライブラリーからヒトトロンビンレセプターに対するscFvを作製することで、トロンビンレセプターの機能を特異的に抑制する薬剤を得ることができた。
【0032】
本発明のscFvは、慢性関節リウマチ患者より取得した関節滑膜細胞のトロンビン惹起増殖を特異的に抑制する活性を有する。現在まで、トロンビンレセプターに対する抗体を含むトロンビンレセプター阻害剤によってトロンビンによる細胞増殖を有意に抑制したと報告はなく、この活性は本発明の薬剤において初めて認められたものである。
【0033】
例えば特表平6−508742号公報にはトロンビンレセプターに対する抗体を含むアンタゴニストの取得についての記載があるものの、トロンビンレセプターのアンタゴニストによる細胞増殖作用の抑制についての記載はない。
【0034】
さらに、本発明に至る過程で、種々のPAR1型トロンビンレセプターと結合しうるscFvおよび抗体についてトロンビンによる細胞増殖の抑制の検討を行ったところ、PAR1型トロンビンレセプター上の特定の配列を認識するscFvクローンのみが有意に抑制活性を示した。すなわち、従来PAR1型トロンビンレセプターのトロンビンとの結合に関与する部位といわれていたYEPFW配列を認識するscFvのうち、一部のscFvクローンのみが細胞増殖抑制活性を有することも明らかになった。この細胞増殖抑制活性をもつscFvクローンは、該活性をもたないscFvクローンと比較してトロンビンによる細胞でのCa流入反応、血小板凝集に対する抑制効果、およびエピトープペプチドに対するアフィニティの強さにおいて特に強い活性を示すことはなく、したがって従来の技術により細胞増殖抑制活性をもつscFvや抗体を取得することは困難と考えられる。
【0035】
さらに、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、トロンビンによる細胞増殖を抑制する活性のあるscFvクローンは、その認識エピトープであるヒトPAR1型トロンビンレセプターの52番目から56番目のアミノ酸配列のうちの56番目のトリプトファン残基をアラニン残基に置き換えることで、該エピトープへの結合性を失った。
【0036】
これに対し、同様のエピトープに結合しうる細胞増殖抑制活性のないscFvクローンは、PAR1型トロンビンレセプターエピトープの56番目のトリプトファンをアラニンに置き換えてもそれへの結合性を保持していた。つまり、PAR1型ヒトトロンビンレセプターの細胞増殖に関与する部位は、従来のトロンビンに対するアニオン外部部位結合領域では規定されず、そのすぐ下流に位置するヒルジン様配列(EDEE)の間に位置する56番目のトリプトファン残基を中心にした部位であることが示された。
【0037】
以上のことから、本発明はトロンビンによる細胞の増殖を抑制しうる薬剤を効率よく取得するための技術を含んでいる。すなわち、従来のトロンビンレセプター阻害剤の取得方法であるトロンビンによる細胞でのCa流入反応の抑制や、血小板の凝集抑制を評価項目とする方法では、トロンビンによる細胞の増殖を有効に抑制しうる薬剤を取得することは困難であり、本明細書に示されているように、PAR1型トロンビンレセプターの細胞増殖に関連する特定の配列の情報を得たことによってトロンビンの細胞増殖作用を有効に阻止しうる抗体や薬剤の取得が可能になったのである。
【0038】
本発明の薬剤の一例は、マウス抗体骨格をもつscFvであるが、該遺伝子配列をもとにCDRグラフティングなどの技術を利用することによって、ヒト化抗体を作製することが可能である。またscFvを改変してFc部分を付加したり、あるいは二本鎖の完全分子型の抗体にすることも可能である。これらは血中半減期が異なると予想され、対象疾患、投与部位、投与方法によって抗体の剤型を変えることができる。
【0039】
また、本発明のscFvはPAR1型トロンビンレセプターの細胞増殖に重要な部位を認識するため、このscFvを用いてより活性の高い抗体やPAR1型トロンビンレセプターと結合してその活性を修飾しうる化合物を選別、取得するためのツールとして用いることが可能である。
【0040】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、PAR1型トロンビンレセプターに対する多種類の抗体を取得することによってPAR1型トロンビンレセプターの細胞増殖への関与を検証するとともに、PAR1型トロンビンレセプター上の増殖に強く関与する部位を特定し、その情報をもとにトロンビンによる細胞増殖を有効に抑制しうる薬剤を取得する点にある。
【0041】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはPAR1型ヒトトロンビンレセプターを特異的に認識するポリペプチドを見出し、本発明に到達した。
【0042】
すなわち本発明者らは、遺伝子工学的に各種PAR1型ヒトトロンビンレセプターを昆虫細胞表面に機能を有する蛋白として発現させた。本発明者らが作製したPAR1型トロンビンレセプター改変体は次の3種類である。
(1)△1−49TR
PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端の1番目から49番目までのアミノ酸を欠失させたレセプター:内在性リガンドであるTRAP部分やトロンビンによって切断されて遊離するペプチド部分を欠失させたレセプター。トロンビン結合部位すなわちヒルジン様ドメインは有している。△1−49TRのDNA配列およびアミノ酸配列を配列番号1に示す。
(2)△1−80TR
PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端1番目から80番目のアミノ酸を欠失したレセプター:TRAP部分、遊離ペプチド、ヒルジン様ドメインを含まないレセプター。△1−80TRのDNA配列およびアミノ酸配列を配列番号2に示す。
(3)Full TR
天然に存在するPAR1型ヒトトロンビンレセプター:各機能部位を分子内に有する。Full TRのDNA配列およびアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0043】
本発明者らは上記(1)〜(3)の各レセプターを発現させた昆虫細胞を抗原としてマウスに免疫し、得られたマウス抗血清から抗体を調製し、それぞれの抗体のプロファイルを検討した。その結果、△1−49TR発現昆虫細胞を抗原として免疫し得られた抗体にアンタゴニスト的な活性プロファイルが認められた。
【0044】
そこで本発明者らは、△1−49TR発現細胞を抗原として免疫したマウスの脾臓細胞よりファージミドライブラリーを作製し、そのライブラリーから吸脱着すなわちパンニング法によってヒトトロンビンレセプターを特異的に認識して結合するscFvを選別、取得した。
【0045】
本発明者らは、さらに研究を進めた結果、取得したPAR1型ヒトトロンビンレセプターを認識するscFvの中に、次のような特徴を有するものがあることを見出した。すなわち、ヒト細胞表面上のPAR1型トロンビンレセプターに結合し、トロンビンによるトロンビンレセプターを介したカルシウム流入を抑制する活性を有すること、さらにはヒト血小板上のPAR1型トロンビンレセプターに結合して、トロンビンによるトロンビンレセプターを介した血小板凝集を阻害する活性を有すること、さらにはヒト滑膜細胞のトロンビンレセプターに結合して、トロンビンによるトロンビンレセプターを介した滑膜細胞増殖を阻害する活性を有することが明らかになった。
【0046】
さらに本発明者らは、取得した抗体の結合部位のアミノ酸配列を決定した。該エピトープの解析手法としては、PAR1型ヒトトロンビンレセプターの部分合成ペプチドを固相化したELISAおよび各種トロンビンレセプター発現細胞を用いるELISAを行った。また、PAR1型ヒトトロンビンレセプターのすべての細胞外領域を包含するように1つのピン当たり15アミノ酸の長さのペプチドを計94種類ピン上に固相合成したマルチピンELISAを行った。
【0047】
トロンビンレセプターの内在性リガンドであるTRAP部分に対するポリクローナル抗体、あるいはトロンビン結合部位であるヒルジンライクドメインに対するポリクローナル抗体は、それぞれの機能部位に対して複数のエピトープで結合するため、トロンビンレセプターの機能に影響を与える可能性はある。しかしながらどのエピトープをブロックすることがアンタゴニストとして有効かはこれまで明らかではなかった。そこで、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ヒルジン様ドメインに包含されるPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の51番目から55番目のアミノ酸が増殖惹起を含むトロンビンレセプター機能に重要であり、その部分に由来する機能を抑えることが該レセプター阻害剤として有効であることがわかった。
【0048】
このエピトープのアミノ酸配列は、トロンビンレセプターの活性化および機能発現において重要な部位であると考えられる。例えばこの部位に抗体が結合することによってトロンビンとトロンビンレセプターの相互作用が阻害されること、またトロンビンはレセプターに結合するが、TRAPによるレセプターの細胞外ループ部分への相互作用を阻害していることなど種々の可能性が考えられる。
【0049】
また、このヒトPAR1型トロンビンレセプターのアミノ末端側の51番目から55番目の配列の中でも増殖に関与する部位があることが判明した。すなわち本発明者らは同様の部位に結合し、かつ同様のエピトープに対する親和性を示す複数のscFvを取得しているが、トロンビンの細胞の増殖を抑制しうるのはその一部のscFvであった。そのトロンビンによる細胞増殖を抑制しうるscFvは、PAR1型トロンビンレセプターのアミノ末端側から55番目のトリプトファン残基をアラニンに置換するとその配列に対する結合性が消失するのに対し、トロンビンによる細胞増殖を抑制しないscFvにおいては同様な置換を行ったエピトープに対する結合性は維持されていた。すなわち、トロンビンによる細胞増殖を抑制しうるscFvのPAR1型トロンビンレセプターへの結合には該レセプターのアミノ末端から55番目のトリプトファン残基が重要であり、また該レセプターの細胞増殖に対する作用にはこの該レセプターのアミノ末端から55番目のトリプトファン残基の周辺の配列が重要な役割をもつことが示された。
【0050】
本発明者らは、前記のトロンビンレセプターおよび改変体を作製する研究過程で詳細な検討を進めた結果、新しい事実を見出した。それは従来知られているPAR1型ヒトトロンビンレセプターをコードする遺伝子とは2箇所異なる塩基配列があることが判明した点である。本発明者らは、該遺伝子が細胞表面上にPAR1型トロンビンレセプターとしての機能を有する形で発現していることを確認した。つまりトロンビンおよびTRAP(内在性リガンド部分の合成ペプチド:H2N−Ser−Phe−Leu−Leu−Arg−Asn−Pro−COOH)いずれにおいても細胞内シグナル伝達が認められた。また、TRAP部分に対するウサギポリクローナル抗体の結合性がフローサイトメトリーによって認められた。この点からも本発明者らが新たに見出した遺伝子配列は機能しているものであることが明らかになった。
【0051】
既報のPAR1型トロンビンレセプターは、最初に巨核球細胞株Dami細胞のcDNAをアフリカツメガエルの卵母細胞にトランスフェクトし、トロンビン刺激に対する応答性からクローニングされた。これに対し、本発明者らはPAR1型トロンビンレセプターをコードする遺伝子をヒト大動脈と胎盤由来の正常組織のcDNAライブラリーからクローニングした。既報のcDNAの由来がガン細胞の一種であるDami細胞だとすると、遺伝子変異もしくは遺伝子多型による可能性もある。
【0052】
また、上述のことから、本発明者らが見出したPAR1型トロンビンレセプターは、アミノ酸配列が既報のものに比べて2箇所異なったものであることがわかる。したがって本発明の薬剤は、新規なレセプターを認識し、結合するものである。
【0053】
すなわち本発明は下記の発明を包含する。
1)トロンビンによる細胞増殖を抑制しうるポリペプチドまたは化合物。
2)PAR1型ヒトトロンビンレセプターの構造のうち細胞増殖に関与する特定の領域に結合するポリペプチドまたは化合物。
3)ペプチド配列X1−Glu−Pro−X2−Trp−X3に結合する前記ポリペプチドまたは化合物。ここで、X1は任意のアミノ酸またはペプチド配列であり、X2は任意のアミノ酸を、X3は任意のアミノ酸またはペプチド配列を表す。
4)PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の52番目から56番目のアミノ酸配列:X4−Tyr−Glu−Pro−Phe−Trp−X5なる部分に結合するポリペプチドまたは化合物。ここでX4およびX5は、任意のアミノ酸またはペプチド配列を表す。
5)単鎖型Fvあるいはその断片であるPAR1型トロンビンレセプターアンタゴニストたる前記ポリペプチド。
6)抗体あるいはその断片であるPAR1型トロンビンレセプターアンタゴニストたる前記ポリペプチド。
7)トロンビンレセプターを介した細胞増殖に関わるシグナル伝達系を阻害する、PAR1型トロンビンレセプター阻害剤としての前記ポリペプチド。
8)前記ポリペプチドを取得するために用いることが可能な改変型PAR1型トロンビンレセプターの遺伝子またはその断片、ならびにそれを発現する細胞。
9)トロンビンによる細胞増殖を抑制しうる前記ポリペプチドまたは化合物を取得するための方法。
【0054】
【発明の実施の形態】
本発明におけるscFvの作製方法について詳細に説明する。
A.ファージミドライブラリーの作製
△1−49TR発現昆虫細胞をアジ化ナトリウムによって死細胞化し、死菌体(シグマ社製)と混合して生理食塩水に懸濁した。細胞の形態が生細胞と同程度であることを確認し、マウス腹腔に投与した。この免疫を2週間間隔で5回行い、最終免疫の4日後に心臓から採血すると同時に脾臓細胞を摘出した。
【0055】
上記抗原の細胞を調製する際、アジ化ナトリウムを細胞と接触させることによってレセプターの細胞内へのインターナリゼーション(internalization)を防ぐことができる。細胞表面に存在するレセプター蛋白数をインタナーナリゼーションを防いで恒常的に維持することは、免疫感作を十分に行うために必要である。
【0056】
一般的には純化精製された抗原蛋白であれば、免疫の際の必要量は比較的少量でよいと考えられている。例えばモノクローナル抗体の例では、マウス1匹あたり1回投与量として数μg〜数十μgでよい。
【0057】
しかしながら、細胞表面上のレセプターを抗原とする場合では細胞表面上には各種蛋白が存在する。レセプターに対する免疫動物の抗体価を上げるためには、レセプターの数がこれら細胞表面上の夾雑蛋白に比べてある程度多量に必要である。本発明者らはアジ化ナトリウムによってレセプターの細胞内へのインタナライゼーションを防ぎ、該トロンビンレセプター発現昆虫細胞を抗原として動物に免疫することによってレセプターの構造を反映した機能部位を特異的に認識するファージミド抗体を取得した。
【0058】
ファージミド抗体の作成はアマーシャムファルマシア・バイオテク社より市販されている「Recombinant Phage Antibody System」を用いて業者添付のプロトコールにしたがって行った。キットに含まれるpCANTAB5ベクターについては、このベクターのNotI部位に塩基配列ggccgcacatcatcatcaccatcacggを挿入し、クローニングした遺伝子が発現される際にHis6配列およびE−tag配列が付加されるようにデザインした(pCANTAB5−HE)。上記のトロンビンレセプター発現昆虫細胞を免疫したマウスの脾臓よりmRNAを取得し、抗体cDNAを作成した。そのcDNAよりキットに含まれるPCRプライマーを用いて免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の抗原結合部位(それぞれVHおよびVL)の遺伝子を取得した。このVLおよびVH遺伝子断片をキットに含まれるリンカー遺伝子を用いて一本のDNAとして連結させ、さらにVHの5’側を認識し、制限酵素SfiI認識部位を含むプライマーおよびVLの3’側を認識し、制限酵素NotI認識部位を含むプライマーを用いてPCRを行い、このVH−VL連結遺伝子を増幅して取得した。この増幅DNA産物を制限酵素SfiIおよびNotIで処理し、pCANTAB5−HEベクターのSfiI−NotIクローニング部位に挿入し、大腸菌TG1株に導入した。この遺伝子導入大腸菌にヘルパーファージM13K07を添加することで抗体蛋白質を発現し、かつ抗体遺伝子を含有するファージミドライブラリーを作成した。
【0059】
B.パンニング
上記のように作成したファージミドライブラリーは、目的のPAR1型トロンビンレセプターに対するファージミド抗体以外のものを多数含んでいる。たとえば、ここで用いた抗体遺伝子はバキュロウイルス法でトロンビンレセプターを発現させた細胞そのものを免疫しているため、細胞自体の成分やウイルスの構成成分に対するファージミド抗体も多種類存在することが考えられる。したがって、パンニング法による目的のファージミド抗体の濃縮を行った。すなわち、このファージミド抗体を天然型バキュロウイルスAcMNPVを感染させた昆虫細胞と反応させることで目的以外のファージミド抗体を吸着除去を行った後、トロンビンレセプター(△1−49TR)を発現させた昆虫細胞と反応させ、結合したファージミド抗体のみを取得することでトロンビンレセプターと結合するファージミド抗体を濃縮した。この濃縮ファージミドライブラリーを大腸菌HB2151に感染させ、アンピシリン含有寒天培地上で生育させた各コロニーを取得することで可溶型scFvを産生しうる大腸菌クローン(scFv産生大腸菌株)を取得した。
【0060】
C.キャラクタリゼーション
標準的な方法によりscFv産生株の培養およびペリプラズム画分取得を行い、標準的な方法により精製を行った。PAR1型トロンビンレセプターの機能阻害活性を評価するin vitroの方法として、ヒト巨核芽球系細胞を用いたカルシウム流入阻害評価、ヒト血小板を用いた凝集阻害評価、慢性関節リウマチ患者由来の滑膜細胞を用いた増殖阻害評価を実施した。また、上記評価にてトロンビンレセプターの機能阻害活性を認めたscFvおよび該活性を認めなかったscFvについてPAR1型トロンビンレセプター上のエピトープを決定したうえで、さらに詳細な認識ペプチド配列の解析を行った。
【0061】
以下に、標準的なscFvの産生、ペリプラズム画分取得、および精製について述べる。
scFv産生大腸菌株を2×YT培地にて終夜培養を行い、終夜培養液と本培養液を1:10の割合で混合した。30℃、160回転/分で1時間培養後、IPTG(イソプロピルチオガラクトシド)を最終濃度で1mM加えて6時間培養し、scFv産生を誘導した。本発明者らの用いたscFv産生システムではscFvは大腸菌のペリプラズム画分に産生、集積することが知られている。このため、培養液を遠心操作し、菌体沈殿物を10倍濃度のHEPES緩衝液に懸濁したのち、再度遠心操作により得た沈殿物を超純水に懸濁し、浸透圧ストレスを加え、再度遠心して上清を回収してペリプラズム画分を得た。
【0062】
本発明者らの調製したscFvは、そのアミノ酸配列内にポリHis領域を有しており、この領域の金属イオン結合性を利用したNi−NTAカラムによるアフィニティーカラムクロマトによる精製が可能である。取得したペリプラズム画分をNi−NTAアガロースカラムにロードし、数回洗浄の後にイミダゾールを含むHepes−tyrode緩衝液により溶出した。さらに、溶出物を限外濾過膜を用いて濃縮してからHepes−tyrode緩衝液に対して透析を行い、精製scFvを取得した。
【0063】
次に、上記工程A、Bで取得した各scFv産生大腸菌株の産生するscFvのトロンビンレセプター結合性について解析した。トロンビンレセプター発現昆虫細胞に精製scFvを反応させ、未反応のscFvを洗浄除去した。次にscFvのC末端に反応するホースラディシュパーオキシダーゼ(HRP)標識抗E−Tag抗体を結合させ、HRPの発色基質である2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)二アンモニウム塩(ABTS)による発色法で結合性を解析した。また、野生型バキュロウイルスAcMNPVを感染させた細胞においても同様に結合性を解析し、トロンビンレセプター発現昆虫細胞に結合してAcMNPV感染昆虫細胞には結合しないscFv産生大腸菌株を選択した。この選択した大腸菌株の産生するscFvについてトロンビンレセプターの機能阻害活性を評価した。
【0064】
以下にトロンビンレセプターの機能阻害活性を評価する方法について述べる。ヒト巨核芽球系の株化細胞にはトロンビンレセプターの発現が認められており、またトロンビンにより細胞内カルシウム濃度が上昇することが知られている。そこで、トロンビンにより惹起された細胞内カルシウム濃度上昇を測定し、上記方法により取得したscFvに機能阻害活性があるかどうか調べた。すなわち、ヒト巨核芽球系の株化細胞に蛍光色素(Fura2−AM)を取り込ませ、室温で30分間scFvとインキュベートした後にヒトトロンビンを添加し、添加30秒後の細胞内カルシウム流入量を測定し、scFvのカルシウム流入阻害活性を調べた。その結果、トロンビンによる細胞内カルシウム濃度上昇を抑制する複数種類のscFvクローンを取得した。
【0065】
上述のように、血小板上にはトロンビンレセプターが発現し、トロンビンにより凝集が惹起されることが知られている。そこで、トロンビンで惹起した血小板凝集に対するscFvの効果について検討した。健常人ヒト血液から血小板を精製し、洗浄血小板浮遊液を調製した。得られた血小板浮遊液に上記方法にて取得したscFvを添加し、室温で20分間静置した。さらに37℃で2分間で安定化し、CaCl2(最終濃度1.5mM)を添加した。次にヒトトロンビン(最終濃度0.1〜0.2u/ml)を添加して血小板凝集を惹起し、その濁度の変化からscFvによる血小板凝集阻害を評価した。その結果、血小板凝集を抑制する数種類のscFvクローンを取得した。
【0066】
また、本発明者らにより慢性関節リウマチ患者由来滑膜細胞はLPS(リポポリサッカライド)感受性を有し、LPSにより増殖が惹起されることが判明したため、ゲルろ過法およびカニ外殻キトサン多孔性粒子を用いたアフィニティー吸着除去法を併用し、上記のように精製、取得したscFvサンプルに含まれる大腸菌由来のエンドトキシンを除去した。
【0067】
上述のように、滑膜細胞にはトロンビンレセプターが発現しており、トロンビン刺激により細胞増殖が惹起されることが知られている。そこで、トロンビンにより惹起した滑膜細胞増殖能に対して上記方法によりエンドトキシンを除去したscFvに阻害活性があるかどうか調べた。すなわち、慢性関節リウマチ患者由来の滑膜細胞を血清飢餓状態にしてから37℃で30分間scFvとインキュベートした後、ヒトトロンビンで増殖を惹起した。そしてトロンビン添加24時間から48時間までの間のチミジンアナログ(BrdU)取り込みを測定することによってDNA合成能を測定し、scFvの細胞増殖阻害活性を調べた。その結果、滑膜細胞増殖を抑制する数種類のscFvクローンを取得した。
【0068】
上記の滑膜細胞増殖を阻害するscFvクローンのエピトープを決定するためにエピトープマッピング解析を行った。すなわち、1ペプチド当たり15アミノ酸の長さで、ヒトトロンビンレセプターのすべての細胞外領域を包含するように、94種類のペプチドをピン上に固相合成し、上記方法で取得した滑膜細胞増殖を阻害するscFvの結合性を調べた。その結果、PAR1型ヒトトロンビンレセプターのヒルジン様ドメインに包含されるアミノ末端側の51番目から55番目のアミノ酸が滑膜細胞増殖阻害scFvのエピトープであることがわかった。同様に滑膜細胞増殖を示さなかったscFvについても同様の解析を行ったところ、その中にPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の50番目から55番目のアミノ酸を認識するscFvクローンが見出された。
【0069】
さらにこのPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側から51番目から55番目のアミノ酸を認識して滑膜増殖を抑制するscFvクローン、およびPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側から50番目から55番目のアミノ酸を認識して滑膜増殖を抑制しないscFvクローンについて、そのエピトープを含むPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端から47番目から67番目のアミノ酸に相当する合成ペプチドを作成し、キーホールリムペットヘモシアニン(KLH)にコンジュゲート化した。これを表面プラズモン共鳴測定装置のセンサーチップ上に固定化し、それぞれの該ペプチドに対するアフィニティを計測した。滑膜細胞増殖抑制活性を有するscFvクローンと増殖抑制活性を有しないscFvクローンの間でアフィニティの差は認められなかった。
【0070】
また、以下にPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側から51番目から55番目のアミノ酸を認識して滑膜増殖を抑制するscFvクローン、およびPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側から50番目から55番目のアミノ酸を認識して滑膜増殖を抑制しないscFvクローンについて、エピトープのアミノ酸配列の一部を置換したペプチドに対する結合性を解析した。前記PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端から47番目から67番目のアミノ酸に相当する合成ペプチドをKLHにコンジュゲート化したものを表面プラズモン共鳴測定装置のセンサーチップに固定化し、この滑膜細胞増殖抑制活性を有するscFvクローンとPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端から55番目のトリプトファンをアラニンに置き換えた47番目から67番目のアミノ酸に相当するペプチドとを混合して解析を行ったところ、センサーチップに固定化したペプチドへの結合は阻害されなかった。しかしながら滑膜細胞増殖抑制活性をもたないscFvクローンについて同様の解析を行ったところ、センサーチップに固定化されたペプチドへの結合は強く阻害された。このことはエピトープペプチドの55番トリプトファンをアラニンに置換したことにより滑膜細胞増殖抑制活性を有するクローンのエピトープへの結合が失われたことを示しており、ひいてはこのPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端から55番目のトリプトファン周辺がトロンビンの細胞増殖活性に関与していることを示している。
【0071】
本発明の一態様である前記scFvあるいはその断片を有効成分として含有する薬剤(ポリペプチドまたは低分子化合物)は、炎症性の細胞、増殖した組織あるいは血小板を主体とする血栓に接触させることにより、トロンビンレセプターを介したシグナル伝達を抑制し、細胞増殖阻害やTNF−α、IL−6、IL−1βなどの炎症性メディエーターの産生や放出を抑制し、あるいは血小板凝集を阻害することにより血栓形成進展を阻害するので、各種炎症性疾患、細胞増殖性疾患、血栓性疾患の治療薬として利用できる。
【0072】
例えば本発明のトロンビンレセプター阻害剤は、静脈用注射用製剤として使用することができる。その場合、上記scFvあるいはその断片は広い範囲の含有割合でよく、投与量は種々の条件によって変動する。またこれらは通常静脈注射用として使用されている水性媒体中に溶解ないしは分散して使用することができる。また、注射剤以外にも外用剤または座薬として用いられる。非経口投与のための注射剤としては無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤が含まれる。非経口投与のためのその他の組成物としてはひとつ、またはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外用液剤、軟膏、塗布剤のような外用剤、直腸内投与のための座薬およびペッサリー等が含まれる。
【0073】
【実施例】
実施例1:各種組換えTR発現細胞の調製
[ヒトトロンビンレセプターcDNAの取得]
ヒト大動脈由来mRNA(Clontechより購入)1μgからcDNA合成キットSynthesis Kit(アマシャム ファルマシア バイオテク社製)を用いてcDNAを合成した。このcDNAの1/100量を用いてプライマーTR1[配列番号4]およびTR4[配列番号5]によりトロンビンレセプターのcDNA部分をPCR増幅した。そのPCR反応液をアガロースゲル電気泳動した結果、約1.3kb付近にトロンビンレセプターのcDNAフラグメントと推定されるバンドが認められた。このDNAフラグメントをDNA精製キット(QIAGEN社製QIAEXII使用)を用いてゲルから抽出、精製した。精製したDNAフラグメントをTAクローニングキット(Invitrogen社製)を用いて、pCRII pCR2.1(TM)ベクターに挿入し、数クローンについてプラスミド精製(QIAGEN社製プラスミド抽出キット使用)を行った。これらの精製したプラスミドを用いて日立DNA蛍光自動シーケンサーによりDNA配列を決定した。塩基配列決定に用いたプライマー6種を[配列番号6−11]で示す。その結果、このDNAフラグメントがトロンビンレセプターをコードしていることが明らかになった。決定したヒト大動脈由来のトロンビンレセプターの全塩基配列を[配列番号3]に示す。同様に、本発明者らはヒト胎盤由来のcDNA配列も決定したが、ヒト大動脈由来のものと一致した。この得られたヒト大動脈由来およびヒト胎盤由来のトロンビンレセプターcDNA配列と、DNA Data Base Japan(DDBJ)に登録されているトロンビンレセプターのcDNA配列(accession No. M62424)との比較を行ったところ、トロンビンレセプターの蛋白質をコードしている部分の5’末端より711番目の塩基がCがGに、712番目の塩基がGからCに、1091番目の塩基がCからGに、1092番目の塩基がGからCにデータベースでの表示から置き換わった形のcDNAとなっていることがわかった。また、ヒト胎盤由来のゲノムDNA中のトロンビンレセプター遺伝子についてもこの部位の塩基配列を解析したところ、本発明者らが取得した配列と同様の配列であることが確認された。このヒトトロンビンレセプターcDNAを挿入したpCRIIプラスミドをpCR−TR14と命名した。
【0074】
[トロンビンレセプターcDNA含有トランスファーベクターの作製]
上記pCR−TR14を制限酵素EcoRIおよびBamHIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行った。そしてトロンビンレセプターcDNAを含む約1.3kbフラグメントをDNA精製キット(QIAGEN社製QIAEXII使用)を用いてゲルから抽出、精製した。一方、バキュロウイルストランスファーベクターpVL1393(Invitrogen)[Technique, Vol. 2, No. 4, pp.173-188, 1990]を制限酵素EcoRIおよびBamHIで切断し、上記DNAフラグメントとライゲーション反応を行った。この反応液で大腸菌JM109株を形質転換し、いくつかの形質転換体のコロニーからプラスミドを抽出して約1.3kbフラグメントが挿入されたプラスミドを得た。これをpAc−TR14と命名した。このトロンビンレセプターcDNA含有トランスファーベクターを精製(QIAGEN社製プラスミド抽出キット使用)してトロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスの作製に用いた。
【0075】
[トロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスの作製]
組換えバキュロウイルスの作製にはファーミジェン社製のBaculoGold(TM)キットを用いた。Sf9昆虫細胞1×106 細胞を30mmディッシュに播種し、30分間室温にて接着させた。一方、0.25μgのBaculoGold(TM)DNAと2μgのpAc−TR14プラスミドDNAを混ぜ、室温に5分間静置し、その後0.5mlトランスフェクション緩衝液B(25mM HEPES pH7.1、125mM CaCl2、140mM NaCl)を加えてよく混ぜた。次に播種したSf9細胞の培地を抜き取り、0.5mlのトランスフェクション緩衝液A(グレース培地、10%牛血清含有)を加えた。ここに、トランスフェクション緩衝液BとDNAの溶液を少しずつ滴下していくことによりコトランスフェクションを行った。27℃でインキュベーションして4時間後に新しいグレース培地(10%牛血清含有)に取り換えた。5日後、組換えウイルスを含む培養上清を回収し、10倍、100倍、1000倍希釈液を作成し、Sf9細胞(1×106 細胞/dish)に室温で1時間感染させた。上清を抜き取り、1%SeaPlaqueアガロース含有グレース培地(42℃)を2ml滴下して加え、アガロースが固まるまで10分間程度室温に放置した。その後、27℃で3日間培養を行った。3日目にニュートラルレッド/PBS(1g/l)を1ml/dish加えた。4日目にウイルスプラークを観察したところ、100培希釈液を感染したディッシュに6個のプラークを確認した。数個のシングルウイルスプラークをアガロースごとパスツールピペットで抜き取り、グレース培地と混ぜて、ウイルスを培地中に拡散させた。このシングルプラーク由来のウイルス液を単層培養したSf9細胞(25cm2フラスコ培養)に感染させた。これを27℃で4−5日間培養してウイルス液を回収した。このウイルス液を1mlとって1.5mlエッペンドルフチューブに入れ、4℃、15000回転/分で30分間遠心し、ウイルス粒子を沈殿させた。沈殿物を200μlのTE(10mM Tris、0.1mM EDTA)緩衝液に懸濁し、50μlのLysis緩衝液(10%SDS、1mM EDTA)を加え、60℃で20分間インキュベートした。フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により反応液中のウイルスDNAを回収した。回収したウイルスDNAの1/5を使用し、プライマーBacF[配列番号12]およびTR−S2[配列番号7]によってPCR増幅を行い、DNA中にトロンビンレセプターcDNAが含有されていることを確認した。このトロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスをAcTRFと命名した。ウイルス液は適宜希釈してプラークアッセイを行い、タイターをチェックした。さらに、ウイルス液をMOI(Multiplicity of Infection)=0.25でSf9細胞に感染させることで1〜5×107程度の高濃度のウイルス液を得た。ウイルス液は4℃および−80℃で凍結保存した。
【0076】
[改変型トロンビンレセプターcDNAの構築]
トロンビンレセプターの構造の内在性リガンドペプチド部分(TRAP)を欠損させ、トロンビン結合部位は保持させた形の改変トロンビンレセプター△1−49TR、および内在性リガンドペプチド部位およびトロンビン結合部位の両方を欠損させた形の改変トロンビンレセプター△1−80TRのcDNAを構築し、バキュロウイル−昆虫細胞系での発現を行った。△1−49TRcDNAは完全長トロンビンレセプターcDNA(pCR−TR14)の遺伝子配列のうち、塩基番号79〜147の部位を、△1−80TRcDNAは完全長トロンビンレセプターの塩基番号79〜240の部位を遺伝子工学的に欠損させて構築した。これらの遺伝子は、細胞でトロンビンレセプターが発現したときに除去されるシグナルペプチド部位(アミノ酸残基番号1〜26)に、さらに、△1−49TRでは完全長トロンビンレセプターにおいてシグナルが除去されたときにアミノ末端となる部位から33アミノ酸残基を、△1−80TRでは64アミノ酸残基を欠損させた形のアミノ酸配列を付加した形のトロンビンレセプターとなるように設計されている。△1−49TRと△1−80のcDNAの塩基配列、ならびにそれらによってコードされているアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1と配列番号2に記載する。
【0077】
[△1−49TRcDNAの構築]
完全長トロンビンレセプターcDNA(pCR−TR14)よりその塩基番号79〜147の部位を欠損させて△1−49cDNAを作成する手順を以下に示す。
▲1▼pCR−TR14より△1−49cDNAの塩基配列1−185に相当する部位を含む遺伝子断片である△1−49−5’(190bp)断片を作成した。
▲1▼−1
pCR−TR14のpCRIIベクター(INVITROGEN社)の部位に相同なプライマー M13REV22プライマー[配列番号10]、および完全長トロンビンレセプターcDNAの塩基番号59〜78に相当する部位と塩基番号148〜157に相当する部位に相補的なプライマーであるTR△27−49Rプライマー[配列番号13]を用いてPCR反応を実施した。反応液組成はpCR−TR14DNA 200ng/ml、M13REV22プライマー 300nM、TR△29−49プライマー 300nM、DNA polymerization mix{20mM dNTPs mix}(Amersham Pharmacia−Biotech社)10μl/ml、×10 ExpandTM High−Fidelity PCR system緩衝液(Boehringer Mannhaim社)100μl/ml、3.5U/ml ExpandTM High−Fidelity PCR system enzymemix(Boehringer Mannhaim社)10μl/mlのものを用い、50μlの反応スケールで行った。反応条件はGeneAmp systemR PCR system 9600(Perkin Elmer社)で94℃2分間反応した後、94℃15秒間→59℃30秒間→72℃1分間のサイクルを10サイクル行い、その後に72℃7分間反応させる温度サイクルであった。反応後のサンプルは4% NUSIEVER GTGR AGAROSE(FMC Bio Products社)−TAE(40mM Tris−acetate pH7.6、1mM EDTA)緩衝液ゲルを用い、100Vで1時間電気泳動し、224bpのDNA鎖長に相当する部分のゲルを切り出した。切り出したゲルはHot−Phenol法でDNAを抽出、精製して約200ngのDNAを得た。
【0078】
▲1▼−2
完全長トロンビンレセプターcDNAの塩基番号148〜367に相当する部分の遺伝子断片を取得するため、完全長トロンビンレセプターcDNAの塩基番号69〜78に相当する部位と塩基番号148〜169に相当する部位よりなるTR△27−49Fプライマー[配列番号14]と、完全長トロンビンレセプターcDNAの塩基番号350〜367に相補的な配列よりなるTRS1プライマー[配列番号6]を用いたPCRを行った。反応液組成は▲1▼−1に示した反応組成中のM13REV22プライマーおよびTR△27−49RプライマーをTR△27−49FプライマーとTRS1プライマーに置き換えた他は同様に実施した。反応条件も▲1▼−1と同様に行った。得られたPCR反応物は4% NUSUEVETM GTGTM AGAROSE−TAE緩衝液ゲルを用い、100Vで1時間電気泳動を行った。220bpのDNA鎖長に相当する部位のゲルを切り出し、Hot−Phenol法でDNAの抽出、精製を行った。得られたDNA断片は約240ngである。
【0079】
▲1▼−3
TR△27−49RプライマーとTR△27−49Fプライマーの間には20bpの相補的な部分が生じるようにデザインされているため、▲1▼−1で得られた224bpのDNA断片と▲1▼−2で得られた220bpのDNA断片をassembly PCR法での連結を行った。まず、▲1▼−2で得られた220bpのDNA断片80ngと▲1▼−2で得られた220bpのDNA断片96ngを混合した。反応液組成は DNA plymerization mix 10μl/ml、×10 ExpandTM High−Fidelity PCR system緩衝液100μl/ml、3.5U/ml ExpandTM High−Fidelity PCR system enzyme mix 7.5μl/mlであり、40μlの反応スケールで実施した。反応は、GeneAmpRPCR systemで94℃2分間反応後、94℃15秒間→59℃30秒間→72℃1分30秒間のサイクルを5サイクル行い、その後72℃で7分間反応を行う温度サイクルプログラムで行った。次にその反応によって得られた反応産物40μlに、M13REV22プライマー 150ng/ml、TRS1プライマー 150ng/ml、DNA polymerization mix10μl/ml、×10 ExpandTM High−Fidelity PCR system緩衝液100μl/ml、3.5U ExpandTM High−Fidelity PCR system enzyme mix 6μl/mlになるように各試薬を加え、蒸留水で全量400μlになるように調整し、50μlづつ5本の反応チューブに分注してPCR反応を行った。反応はGeneAmp PCR system 9600で94℃2分間反応させた後、94℃15秒間→59℃30秒間→72℃1分30秒間のサイクルを10サイクル行い、その後94℃15秒間→59℃30秒間→72℃1分30秒間+各サイクルごとに20秒間延長のサイクルを10サイクル行い、最後に72℃7分間で反応させる温度サイクルプログラムで行った。得られたPCR反応物からエタノール沈殿法でDNAを回収した後、CHROMASPIN−100 DEPC−H2Oカラム(CLONTECH社)で精製した。これを制限酵素BamHI(宝酒造社)30U、続いて制限酵素BsmI(New England BioLabs社)30Uで切断した。制限酵素処理を行った産物を4% NUSIEVETM GTGTM AGAROSE−TAE緩衝液ゲルを用い、50Vで1時間電気泳動を行った。その190bpのDNA鎖長に相当する部位のゲルを切り出してHot−Phenol法でDNAの抽出、精製を行った。その結果、△1−49−5’(190bp)DNA断片に相当するDNA約400ngを得た。
【0080】
▲2▼完全長トロンビンレセプターcDNAの塩基番号255〜1278と△1−49TRcDNAの塩基番号186〜1209は配列が同一であるため、pCR−TR14に含まれる完全長トロンビンレセプターcDNA部分のうちの塩基番号1〜244の部分を切り出して、その部分を△1−49TRcDNAの塩基番号1〜185を含むDNA断片である△1−49−5’(190bp)とおきかえることで△1−49cDNAの塩基番号1〜1209の部分を構築した。
【0081】
▲2▼−1
pCR−TR14DNA 2.3μgを制限酵素BamHI 30U、続いて制限酵素BsmI 30Uで切断し、それを0.75% SEAPLAQUETMGTGTM AGAROSE(FMC Bio Products)−TAE緩衝液ゲルにのせて50Vで1時間電気泳動を行った。その4.1kbpに相当するDNA断片を含むゲルを切り出し、そこからHot−Phenol法で抽出、精製して約640ngのDNA断片を得た。
【0082】
▲2▼−2
▲1▼で得られた△1−49−5’(190bp)断片80ngと、▲2▼−1で得られたpCR−TR14 4.1kbp断片 64ngとを、UNI−Amp kit(CLONTECH社)のligation試薬(T4 ligase 37.5U/ml)を用い、20μlスケールで4℃20時間反応させて結合させた。得られた結合DNAは大腸菌 DH−10B株(GIBCO BRL社)に、BRL Cell PoratorR E. coli pulserR(GIBCO BRL社)を用いて遺伝子導入した。遺伝子を導入した大腸菌をアンピシリン100μg/mlを含むLB寒天培地に播き込み、37℃で一晩培養して可視的に見られるコロニーを組換え体クローンとした。それらについて△1−49TRcDNAの塩基番号1−20に相当するプライマーTR1プライマーとTRS1プライマーを用いてPCRを行い、電気泳動的に300bpの増幅産物がみられる△1−49cTRDNAを含むベクターが導入されたクローンの有無を解析したところ、組換え体クローン84クローン中17クローンに目的のDNAが導入されていることが確認された。このうちの1クローンpCR−△1−49TR clone e−01についてDNA塩基配列解析を行った。詳細にはpCRIIR ベクター部位に対するシークェンスプライマー M13REV22プライマー[配列番号10]、およびM13FOR24プライマー[配列番号11]、△1−49TRcDNAのシークェンスプライマーTR1、TRS1、TRS2[配列番号4、6、および7]、TRS3[配列番号8]、TRS4[配列番号9]ならびに、ABI PRISMTM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction kit with AmpliTaqR DNA polymerase FS (Perkin Elmer社)を用い、業者添付のプロトコールに従った。解析装置としてはABI 373A DNA Sequencer(Applied Biosystems現Perkin Elmer社)を用いた。その結果、pCR−△1−49TR clone e−1の△1−49TRcDNAに相当する部分のDNA塩基配列は、配列番号1に示したDNA塩基配列と完全に一致したことから、目的の△1−49TRcDNAが正しく構築されていることが確認された。このpCR−△1−49TR clone e−01を含有する大腸菌を、アンピシリン100μg/mlを含むCIRCLEGROWR培地で37℃で一晩培養し、その含有するプラスミドをQIAGENR PLASMID MIDIKIT(QIAGEN社)で抽出、精製し、34μgのpCR−△1−49TR clone e−01プラスミドを得た。
【0083】
[△1−49TRcDNA含有トランスファーベクターの作成]
△1−49TRcDNAを含有するバキュロウイルストランスファーベクターの作成は、完全長トロンビンレセプターcDNAのトランスファーベクターpAC−TR14作成と同様の方法で行った。方法を簡単に示すと、pCR−△1−49TR clone e−01の△1−49TRcDNA部分1.2kbpを制限酵素BamHIとEcoRIで切り出し、そのDNA断片を制限酵素BamHIおよびEcoRIで処理したpVL1393ベクター中へサブクローニングした。得られた組換え体クローン84クローンについてBacFプライマーとTRS2プライマーを用いてのPCR解析を行い、24クローンに△1−49TRcDNAがクローニングされていることを確認した。このうちの1クローン、pAc−△1−49TR clone e01E01プラスミドを含有する大腸菌を培養し、精製することで約390μgのプラスミドを得た。
【0084】
[△1−49TR改変トロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスの作成]
△1−49TRcDNAを含有する組換えバキュロウイルスの作成は、pAc−△1−49TR clone e01E01組換えトランスファーベクター2μgを用い、完全長トロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスpAC−TRF作成と同様に行った。組換えウイルスクローンのうちBacFおよびTR−S2プライマーでのPCRにより、△1−49TRcDNAが組み込まれていることが確認されたクローンpAC−△1−49TR−3を△1−49TR改変TR発現用組換えバキュロウイルスとした。これをSf9昆虫細胞にMOI=0.25で感染させることで、3×107pfu/mlの高濃度ウイルス液を取得した。
【0085】
[組換えバキュロウイルスによるトロンビンレセプターの昆虫細胞における発現]
上記のようにして得られたトロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスAcTRFを、150cm2フラスコに播種した1.8×107のSf9細胞にMOI=0.6−1.0で感染させ、40−48時間、27℃で静置培養した。培養後、感染細胞を回収し、ウエスタンブロッティングおよびカルシウム流入実験によってトロンビンレセプターの発現および機能を有することの確認を行った。
【0086】
[ウエスタンブロッティング]
回収した感染細胞(150cm2フラスコ2本分、約6×107)をPBSで2回洗浄した。これ以後の実験はすべて4℃の条件で行った。次に、5mlのホモジェナイズ用緩衝液(20mM TrisHCl(pH8.5)、5mM EDTA、COMPLETE(TM)(ベーリンガー社製)含有)に懸濁し、テフロンホモジェナイザーを用いて、2500回転/分で30strokeホモジェナイズを行った。このホモジェネートを15mlの遠心管にいれて2500回転/分(約1000g)で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清を50000回転/分(約100000g)で1時間、超遠心を行い、粗膜画分を沈殿させた。沈殿物を1mlのホモジェナイズ用緩衝液に懸濁し、50μlずつ分注して−80℃で凍結保存した。Nano Orange(TM)(ベーリンガー社製)を用いて定量した結果、タンパク濃度は14mg/mlであった。このようにして得られた粗膜画分につき、25μg−50μg/laneで、10%ゲルを用いたSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、これをニトロセルロース膜に転写した。この膜を3%ゼラチン/TBSで室温で1時間ブロッキングし、TBS−0.05%Tweenで3回、TBSで1回洗浄した。その後、トロンビンレセプターの内在性リガンド領域であるTRAPをウサギに免疫して得られた抗TRAPウサギポリクローナル抗体10−20μg/mlを含む1%ゼラチン/TBS溶液中、室温で終夜反応させた。翌日、TBS−0.05%Tweenで3回、TBSで1回洗浄し、抗ウサギIgGヤギポリクローナルHRP標識抗体(約1μg/ml、1%ゼラチン/TBS溶液)を室温1時間反応させた。次にTBS−0.05%Tweenで3回、TBSで2回洗浄し、コニカイムノステインHRPで10分間、室温にて発色させてバンドを検出した。その結果、トロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞に特異的に、約45kDおよび約85kD付近のバンドが観察され、トロンビンレセプターが昆虫細胞膜上に発現していることが確認された。
【0087】
[カルシウム流入実験]
回収した感染細胞(約3×107)をHEPES−Tyrode緩衝液(−Ca)で1回洗浄した後、10mlのHEPES−Tyrode緩衝液(1μg/ml Fura2−AM含有)に懸濁してFura2−AMを27℃で30分間負荷した。室温で800回転/分で5分間遠心して細胞を回収し、HEPES−Tyrode緩衝液(−Ca)で2回洗浄した後、2mlのHEPES−Tyrode緩衝液(−Ca)に再懸濁した。この細胞懸濁液に2μlの1M CaCl2を最終濃度1mMになるように加え、遮光して室温で5分間インキュベートした。このように調製したFura2−AM負荷感染細胞を490μlとってキュベットに入れ、細胞内カルシウム測定装置(日本分光CAF−100型)で測定した。[励起光340nmによる500nmの蛍光強度]/[励起光380nmによる500nmの蛍光強度](細胞内カルシウム濃度を反映)が0.02ぐらいに安定したらキュベットに10μlの10unit/mlトロンビンもしくは1.25mM TRAPを添加して刺激を与え、細胞内カルシウム濃度を経時的に測定した。カルシウムの流入は[励起光340nmによる500nmの蛍光強度]/[励起光380nmによる500nmの蛍光強度]の値が上昇することで検出される。その結果、トロンビンレセプター発現用組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞に特異的にカルシウム流入が観察された(表1参照)。この結果から、機能を有するトロンビンレセプターが昆虫細胞に発現していることが証明された。
【0088】
【表1】
【0089】
表中の値は
[励起光340nmによる500nmの蛍光強度]/[励起光380nmによる500nmの蛍光強度]の変化量を表す(高い値ほど強い反応を表す)。4回の測定の平均値±SD。
【0090】
実施例2:マウスの免疫および脾臓細胞からのファージミドライブラリーの作製ファージミドライブラリーの作製はリコンビナント・ファージアンチボディー・システム(ファルマシア社製)の方法に準じた。
抗体遺伝子取得のための免疫は以下のように行った。Sf9昆虫細胞2×107 細胞を細胞培養フラスコに播種して30分間静置の後、前述のpc△1−49TR−3ウイルスをMOI=2で感染させ、27℃で40時間培養した。この感染細胞を回収してPBS(0.9%NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液)で2回洗浄後、0.2Mアジ化ナトリウムを含むPBS40mlに懸濁した。この細胞懸濁液を室温で30分間放置したのち50μLを分取して等量の0.2%トレパンブルー染色液と混合し、光学顕微鏡で細胞を観察したところ、すべての細胞が青く染まったことから、回収した感染細胞が100%死細胞となったと判断した。この死細胞化した感染昆虫細胞をPBSで2回洗浄した後、約3mlのPBSに懸濁した。得られた死細胞化感染昆虫細胞は約6×107細胞であった。この細胞3mlに不活化百日咳死菌(シグマ社)を30μL添加した後、BALB/c系マウスに各1mlずつ腹腔内投与した。その後2週間おきに4回、同様の方法で免疫を行った後、最後の免疫実施から4日後にマウスを屠殺して脾臓の摘出を行った。
【0091】
△1−49TR発現昆虫細胞を免疫したマウスから脾臓を摘出し、mRNAを抽出した。これを鋳型としてHong Zhouらの報告(Nucleic Acid Reserch, 1994, vol. 22, No.5, 888-889)のPCRプライマーを使用して抗体のH鎖、L鎖の遺伝子をそれぞれ別々に増幅した。得られたDNAをリンカーを用いて連結し、アガロースゲル電気泳動により約750bpのDNA断片を分離、回収した。このDNAを制限酵素NotIとSfiIで消化し、再びアガロースゲル電気泳動により、約750bpのDNA断片を分離、回収した。こうして得られたDNAフラグメントを抗D1−49TR発現昆虫細胞scFv/NotI−SfiIと名付けた。
【0092】
アマーシャムファルマシアバイオテク社のpCANTAB5ベクターを制限酵素NotIとSfiIで消化し、アガロースゲル電気泳動によりDNA断片を分離、回収した。このDNA断片にヒスチジンTagアダプター(配列番号15)をTAKARAのLigation kit VerII(TM)でライゲーションし、大腸菌DH10B株に導入した。この遺伝子ベクター導入大腸菌を100μg/mLのアンピシリンを含むLB−アガロース固形培地に播種し、クローンを取得した。そのうちの20クローンについてプラスミドDNAをQIAGEN社プラスミド抽出キットによって取得し、E−tagプライマーとPE applied Biosytems社ABI PRISM(TM) Dye terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kitおよび同社ABI Model373A DNAシークェンサーを用いて塩基配列を解析することで、ヒスチジンTagアダプターが正しい方向にクローニングされたベクターを選択し、これをpCANTAB6HEベクターと名づけた。さらにこのpCANTAB6HEベクターを制限酵素NotIおよびSfiIで切断したベクターをpCANTAB6HE/NotI−SfiIと名づけた。
【0093】
抗D1−49TR発現昆虫細胞scFv/NotI−SfiIとpCANTAB6HE/NotI−SfiIをライゲーションキット(TAKARA社製)を用いてライゲーション反応を行った。このライゲーション溶液とコンピテントセルTG1−trを用いて形質転換を行った。
【0094】
アンピシリン(最終濃度100μg/ml)を含む2×YT(トリプトン 16g、イーストエクストラクト10g、NaCl 5g/L)寒天プレートに形質転換した液をまき、37℃で一晩インキュベートした。プレート上に生じたコロニーをかきとって2×YT培地に懸濁し、これをファージミドライブラリーとした(ライブラリーのサイズは約1.3×108pfu)。作製したファージミドライブラリーはグリセロールを最終25%程度になるように加えてマイナス80℃に保存した。
【0095】
実施例3:△1−49TR発現昆虫細胞を用いるパンニング
実施例2で得られたファージミドライブラリー100μlをアンピシリン(最終濃度100μg/ml)、グルコース(2%)を含む2×YT培地50mlに加え、600nmのODが0.6になるまで37℃で培養した。ヘルパーファージM13KO7(5×1010pfu/ml)を55μl加え、1時間感染させた。
【0096】
遠心により菌体を回収し、アンピシリン(最終濃度100μg/ml)、カナマイシン(最終濃度50μg/ml)を含む2×YT培地に懸濁し、37℃で一晩振とう培養した。培養液を遠心後、上清を回収し、5分の1量の20%ポリエチレングリコール、2.5M NaCl溶液を加えてファージを沈殿回収した。回収したファージは滅菌水に懸濁した。
【0097】
次に2%スキムミルクを含む溶液中でファージとAcMNPV感染昆虫細胞を混合し、室温で30分間反応させた。遠心により細胞に結合したファージを除き、上澄みを再度AcMNPV感染昆虫細胞と混合した。この操作を10回繰り返すことによりAcMNPV感染昆虫細胞に結合するファージを除去した。
【0098】
続いてそのファージ溶液と△1−49TR発現昆虫細胞を混合し、室温で1時間反応させた。遠心により結合しなかったファージ(上澄み)を除き、さらに5回の洗い操作によって非特異的な結合を排除した。その後0.1M HClで細胞からファージをはがして回収し、等量の1M Tris−HClで中和した。こうして回収したファージを大腸菌TG1−trに1時間感染させ、アンピシリン(最終濃度100μg/ml)を含む2×YT寒天プレート上で一晩培養することによりコロニーを作製し、回収したものを△1−49TR発現昆虫細胞1回パンニングファージミドライブラリーとした。
【0099】
ここまでのファージ調製、細胞に結合するファージの回収という操作を4回繰り返すことによって、△1−49TR発現昆虫細胞に結合するファージミドを濃縮した。各パンニングステップにおいて溶出されてきたファージ数は1回目から順に、8×107pfu、1×108pfu、1×109pfu、6×1010pfuである。
【0100】
実施例4:精製scFvの調製
[標準的なscFv産生株培養法およびペリプラズム画分取得方法]
(1)scFv産生大腸菌株を下記前培養液30mlに植菌して30℃、160回転/分で終夜培養を行う。(前培養液組成:2×YT培地、100μg/mlアンピシリン、0.5%グルコース含有)
(2)終夜培養液30mlを本培養液300mlに加える。(本培養液組成:2×YT培地、100μg/mlアンピシリン、0.4Mショ糖含有)
(3)30℃、160回転/分で1時間培養後、最終濃度1mMになるようにIPTG(イソプロピルチオガラクトシド)を加え、scFvの産生を誘導する。さらに、30℃、160回転/分で6時間培養する。
(4)培養液を500mlの遠心管に移し、4℃、5500回転/分で20分間遠心する。
(5)沈殿物を回収し、1.8mlの10×HEPES緩衝液(1mM APMSF含有、4℃)に懸濁する。
(6)40mlの遠心管に移し、氷上で15分間静置する。(5分おきにボルテックスで攪拌)
(7)4℃、8000回転/分で10分間遠心する。
(8)上清を回収し4℃に保存する。
(9)沈殿物を16.2ml注射用水(1mM APMSF含有、4℃)に懸濁する。
(10)氷上で20分間静置する。(5分おきにボルテックスで攪拌)
(11)4℃、12000回転/分で20分間遠心する。
(12)上清を回収し、(8)で保存してあった上清と合わせて「ペリプラズム画分」とする。
(13)4℃に保存または−20℃で凍結保存する。
【0101】
[標準的なscFv精製方法]
(1)ペリプラズム画分(30ml)の約1/10量の3mlのNi−NTAアガロース(アガロース担体の量として1/20量)を測りとる。
(2)室温で600回転/分で3分間遠心する。
(3)上清を捨て、1.5mlの脱イオン水を加え、攪拌する。
(4)真空ポンプで吸引し、10−20分間脱気を行う。
(5)30mlボリュームのカラムにNi−NTAアガロースを装填する。
(6)1時間室温で静置する。
(7)15ml緩衝液1(HEPES−Tyrode、150mM NaCl、20mM イミダゾール、pH8)でカラムを平衡化する。
(8)30mlのペリプラズム画分を4℃で0.5min/mlの滴下速度で2回アプライする。以下の操作はすべて4℃で行う。
(9)15ml緩衝液2(HEPES−Tyrode、150mM NaCl、10mM イミダゾール、1mM APMSF、pH8)で洗浄する。
(10)1.5ml緩衝液3(HEPES−Tyrode、650mM NaCl、250mM イミダゾール、pH8)で2回scFvを溶出する。
(11)Millicup LGC(ミリポア社製)で濃縮を行う。
(12)1000倍量のHEPES−Tyrode緩衝液で透析を2回行う。
(13)精製されたscFvを回収し、4℃または−20℃で凍結保存する。
【0102】
実施例5:リコンビナントTR発現昆虫細胞結合性の評価
実施例1で作製した△1−49TR発現昆虫細胞で4回パンニングしたファージを大腸菌HB2151に感染させ、37℃で一晩インキュベートし、コロニーを形成させた。
【0103】
こうして得られたファージミドがトランスフォームされた大腸菌HB2151株をアンピシリン(最終濃度100μg/ml)、グルコース(最終濃度0.5%)を含む2×YT培地中、30℃で一晩振とう培養した。培養液を10μlとり、100μlのアンピシリン(最終濃度100μg/ml)を含む培地に懸濁し、30℃で1時間振とう培養した。ここで最終濃度1mMになるようにIPTGを加え、さらに6時間振とう培養を続けた後、遠心によりペレットを回収した。これに10×Hepes−Tyrode緩衝液を加えて菌体を懸濁した後、4℃で15分静置した。最後に蒸留水を加えて1×Hepes−Tyrode緩衝液(10mM HEPES、129mM NaCl、8.9mM NaHCO3、2.8mM KCl、0.8mM KH2PO4、5.6mM D−グルコース、0.8mM MgCl2/L)の状態に戻したものをペリプラズム画分として回収した。これを結合評価用のscFvサンプルとした。
【0104】
△1−49TR発現昆虫細胞に対する結合性の評価は以下のように行った。
まず96ウエルマルチスクリーンプレート(ミリポア社製)を3%ウシ血清アルブミンでコーティングしたところに、△1−49TR発現昆虫細胞とAcMNPV感染昆虫細胞をそれぞれ抗原として加え、調製したscFvを混合し、1時間室温で反応させ、scFvのC末端側に存在するE tag部分を認識するHRP/抗E tag抗体コンジュゲートで検出した。こうして540個のコロニーを評価して△1−49TR発現昆虫細胞に結合し、AcMNPV感染昆虫細胞には結合しないscFvを34個選択した。
【0105】
実施例6:ヒト巨核芽球系細胞を用いるCa流入阻害評価
実施例4において作製したscFvのトロンビン惹起カルシウム流入阻害能を、以下に示す方法によって評価した。すなわち、巨核球細胞系の株化細胞をHEPES−tyrode緩衝液に懸濁し、最終濃度1μMのFura2−AM(和光純薬社製)を37℃で50分間インキュベートしたのち、HEPES−tyrode緩衝液で2回洗浄し、細胞密度が3.33×106cells/mlになるように調製した。次にその細胞懸濁液300μlに実施例4において作製したscFv溶液を200μl混合し、室温で30分間インキュベートしたのち、最終濃度が1mMになるようにCaCl2を添加し、さらに室温で5分間インキュベートした。そこにヒト血漿由来トロンビン(シグマ社製)を最終濃度が0.4U/mlになるように添加し、添加30秒後の細胞内カルシウム流入量をCAF−100(日本分光社製)を用いて測定した。その例として、4種類のクローン(N021、N022、N023、N025)について、scFv溶液のかわりにHEPES−tyrode緩衝液とインキュベートした場合のカルシウム流入量を100としたときの相対値および阻害率を算出した(表2参照)。
【0106】
【表2】
【0107】
実施例7:血小板凝集阻害評価
健常人より0.38%クエン酸加血として採血し、900回転/分で15分遠心することにより血小板を豊富に含む血漿を取得した。その血漿をセファロース2Bを用いHEPAS−Tyrode緩衝液にて展開することにより血小板を精製し、洗浄血小板浮遊液(>2×108/ml)を調製した。得られた血小板浮遊液210μlにscFv溶液90μlを混合し、20分間静置した。そのうち285μlをキュッベットに分取し、アグリゴメーターPAM8C(メバニクス株式会社)を用いて攪拌しつつ、37℃にて2分間で安定化した。その血小板浮遊液の濁度を測定しつつ、7.5μlのCaCl2 水溶液(最終濃度1.5mM)を添加した。さらに7.5μlのヒトトロンビン(最終濃度0.1〜0.2U/ml)を添加して血小板の凝集を惹起し、その濁度の変化から血小板の凝集度を11分間測定することによってscFvによる血小板凝集阻害を評価した。トロンビンで惹起された最大凝集度を100%としたときのscFvの阻害活性の例を表3に示した。
【0108】
【表3】
【0109】
実施例8:滑膜細胞増殖阻害評価
実施例4に示したように、Ni−NTAカラムにて精製したscFvについて、さらにエンドトキシンの除去を行った。Ni−NTAカラム溶出物160mlを限外濾過膜を用いて90mlに濃縮したのち、φ0.22μmのフィルターで濾過した後、セファクリルS−100を用いたゲル濾過クロマトグラフィーを行い、scFvが溶出する画分を回収した。それを再度Ni−NTAカラムにロードして60mlの溶出画分を得、それを限外濾過膜を用いて10mlに濃縮した。それを2LのHEPES−tyrode緩衝液に対して2回透析した後、カニ外殻キトサン多孔性粒子を用いたアフィニティーカラムにロードし、フロースルー画分を回収し、φ0.22μmのフィルターで濾過した。各精製工程におけるエンドトキシン量、蛋白質量を表4に示した。
【0110】
【表4】
【0111】
次に、慢性関節リウマチ患者の滑膜組織から外植片法により初代培養したのち数代継代した滑膜細胞を、96穴のマイクロタイタープレートにて1ウェル当たり5×103細胞になるように播き込み、10%のFBSを含むDMEM培地中、37℃、5%CO2の条件下で3日間培養した。上清を除去し、無血清のDMEM培地で洗浄した後に0.1%のFBSを含むDMEM培地を添加し、さらに48時間血清飢餓条件下で培養した。そこにエンドトキシンを除去したscFvを添加し、30分間インキュベートした後、ヒト血漿由来トロンビン(シグマ社製)を最終濃度が10U/mlになるように添加した。添加24時間後にチミジンのアナログであるBrdUを最終濃度1mMになるように添加し、添加48時間後に蛋白固相液により細胞核内に取り込まれたBrdUを固相化し、酵素標識された抗BrdU抗体を用いて検出した。トロンビンで惹起されたBrdU取り込み量を100%としたときのscFvの阻害活性の例を表5に示した。
【0112】
【表5】
【0113】
実施例9:scFvのエピトープの決定
以下に示す94種類の15アミノ酸をC末端が固相側になるように94本のピン上に固相合成した。該ペプチドはすべてPAR1型ヒトトロンビンレセプターの細胞外領域に包含されるペプチドである。
【0114】
ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の1番目から15番目のアミノ酸配列[配列番号16]、同じく2番目から16番目のアミノ酸配列[配列番号17]、同じく3番目から17番目のアミノ酸配列[配列番号18]、同じく4番目から18番目のアミノ酸配列[配列番号19]、同じく5番目から19番目のアミノ酸配列[配列番号20]、同じく6番目から20番目のアミノ酸配列[配列番号21]、同じく7番目から21番目のアミノ酸配列[配列番号22]、同じく8番目から22番目のアミノ酸配列[配列番号23]、同じく9番目から23番目のアミノ酸配列[配列番号24]、同じく10番目から24番目のアミノ酸配列[配列番号25]、同じく11番目から25番目のアミノ酸配列[配列番号26]、同じく12番目から26番目のアミノ酸配列[配列番号27]、同じく13番目から27番目のアミノ酸配列[配列番号28]、同じく14番目から28番目のアミノ酸配列[配列番号29]、同じく15番目から29番目のアミノ酸配列[配列番号30]、同じく16番目から30番目のアミノ酸配列[配列番号31]、同じく17番目から31番目のアミノ酸配列[配列番号32]、同じく18番目から32番目のアミノ酸配列[配列番号33]、同じく19番目から33番目のアミノ酸配列[配列番号34]、同じく20番目から34番目のアミノ酸配列[配列番号35]、同じく21番目から35番目のアミノ酸配列[配列番号36]、同じく22番目から36番目のアミノ酸配列[配列番号37]、同じく23番目から37番目のアミノ酸配列[配列番号38]、同じく24番目から38番目のアミノ酸配列[配列番号39]、同じく25番目から39番目のアミノ酸配列[配列番号40]、同じく26番目から40番目のアミノ酸配列[配列番号41]、同じく27番目から41番目のアミノ酸配列[配列番号42]、同じく41番目から55番目のアミノ酸配列[配列番号43]、同じく42番目から56番目のアミノ酸配列[配列番号44]、同じく43番目から57番目のアミノ酸配列[配列番号45]、同じく44番目から58番目のアミノ酸配列[配列番号46]、同じく45番目から59番目のアミノ酸配列[配列番号47]、同じく46番目から60番目のアミノ酸配列[配列番号48]、同じく47番目から61番目のアミノ酸配列[配列番号49]、同じく48番目から62番目のアミノ酸配列[配列番号50]、同じく49番目から63番目のアミノ酸配列[配列番号51]、同じく50番目から64番目のアミノ酸配列[配列番号52]、同じく51番目から65番目のアミノ酸配列[配列番号53]、同じく52番目から66番目のアミノ酸配列[配列番号54]、同じく53番目から67番目のアミノ酸配列[配列番号55]、同じく54番目から68番目のアミノ酸配列[配列番号56]、同じく55番目から69番目のアミノ酸配列[配列番号57]、同じく56番目から70番目のアミノ酸配列[配列番号58]、同じく57番目から71番目のアミノ酸配列[配列番号59]、同じく58番目から72番目のアミノ酸配列[配列番号60]、同じく59番目から73番目のアミノ酸配列[配列番号61]、同じく60番目から74番目のアミノ酸配列[配列番号62]、同じく61番目から75番目のアミノ酸配列[配列番号63]、同じく62番目から76番目のアミノ酸配列[配列番号64]、同じく63番目から77番目のアミノ酸配列[配列番号65]、同じく64番目から78番目のアミノ酸配列[配列番号66]、同じく65番目から79番目のアミノ酸配列[配列番号67]、同じく66番目から80番目のアミノ酸配列[配列番号68]、同じく67番目から81番目のアミノ酸配列[配列番号69]、同じく68番目から82番目のアミノ酸配列[配列番号70]、同じく69番目から83番目のアミノ酸配列[配列番号71]、同じく70番目から84番目のアミノ酸配列[配列番号72]、同じく71番目から85番目のアミノ酸配列[配列番号73]、同じく72番目から86番目のアミノ酸配列[配列番号74]、同じく73番目から87番目のアミノ酸配列[配列番号75]、同じく74番目から88番目のアミノ酸配列[配列番号76]、同じく75番目から89番目のアミノ酸配列[配列番号77]、同じく76番目から90番目のアミノ酸配列[配列番号78]、同じく77番目から91番目のアミノ酸配列[配列番号79]、同じく78番目から92番目のアミノ酸配列[配列番号80]、同じく79番目から93番目のアミノ酸配列[配列番号81]、同じく80番目から94番目のアミノ酸配列[配列番号82]、同じく81番目から95番目のアミノ酸配列[配列番号83]、同じく82番目から96番目のアミノ酸配列[配列番号84]、同じく83番目から97番目のアミノ酸配列[配列番号85]、同じく84番目から98番目のアミノ酸配列[配列番号86]、同じく85番目から99番目のアミノ酸配列[配列番号87]、同じく86番目から100番目のアミノ酸配列[配列番号88]、同じく87番目から101番目のアミノ酸配列[配列番号89]、同じく88番目から102番目のアミノ酸配列[配列番号90]、同じく89番目から103番目のアミノ酸配列[配列番号91]、同じく90番目から104番目のアミノ酸配列[配列番号92]、同じく159番目から173番目のアミノ酸配列[配列番号93]、同じく160番目から174番目のアミノ酸配列[配列番号94]、同じく235番目から249番目のアミノ酸配列[配列番号95]。同じく236番目から250番目のアミノ酸配列[配列番号96]、同じく237番目から251番目のアミノ酸配列[配列番号97]、同じく238番目から252番目のアミノ酸配列[配列番号98]、同じく239番目から253番目のアミノ酸配列[配列番号99]、同じく240番目から254番目のアミノ酸配列[配列番号100]、同じく241番目から255番目のアミノ酸配列[配列番号101]、同じく242番目から256番目のアミノ酸配列[配列番号102]、同じく243番目から257番目のアミノ酸配列[配列番号103]、同じく244番目から258番目のアミノ酸配列[配列番号104]、同じく245番目から259番目のアミノ酸配列[配列番号105]、同じく246番目から260番目のアミノ酸配列[配列番号106]、同じく247番目から261番目のアミノ酸配列[配列番号107]、同じく248番目から262番目のアミノ酸配列[配列番号108]、同じく329番目から346番目のアミノ酸配列[配列番号109]
【0115】
上記94種類のペプチドが固相化されたピンをプレコートバッファー(2% BSA、0.1% Tween20、0.1%アジ化ナトリウム0.01M PBS)に室温で60分間浸したのちに、洗浄バッファー(0.01M PBS)で室温で10分間洗浄した。次に20μg/mlのscFv溶液(1%BSA、0.1%スキムミルク含有)に4℃で終夜反応させたのちに洗浄バッファーで4回洗浄した。次にscFvのc−mycタグを特異的に認識する抗体である9E10にホースラディッシュペルオキシダーゼをコンジュゲートしたものを1μg/ml(1% BSA、0.1%スキムミルク、0.01M PBS含有)の濃度で室温で60分間反応させた後、洗浄バッファーで4回洗浄した。次に発色剤溶液(ABTS)にピンを10分間浸漬し、波長405nmにおける発色剤溶液の吸光度を測定した。その結果、滑膜細胞増殖を阻害するscFvクローンN022およびN025は、以下のアミノ酸配列に対して特異的に結合した。すなわち、PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の41番目から55番目のアミノ酸配列[配列番号43]、同じく42番目から56番目のアミノ酸配列[配列番号44]、同じく43番目から57番目のアミノ酸配列[配列番号45]、同じく44番目から58番目のアミノ酸配列[配列番号46]、同じく45番目から59番目のアミノ酸配列[配列番号47]、同じく46番目から60番目のアミノ酸配列[配列番号48]、同じく47番目から61番目のアミノ酸配列[配列番号49]、同じく48番目から62番目のアミノ酸配列[配列番号50]、同じく49番目から63番目のアミノ酸配列[配列番号51]、同じく50番目から64番目のアミノ酸配列[配列番号52]、同じく51番目から65番目のアミノ酸配列[配列番号53]である。
【0116】
このことから、トロンビンで惹起した滑膜細胞増殖を阻害するscFvクローンN022およびN025のエピトープは、PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の52番目から56番目のアミノ酸配列を認識することが示された。
【0117】
また滑膜細胞増殖を阻害しないscFvクローンN018は、以下のアミノ酸配列に対して特異的に結合した。すなわち、ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の41番目から55番目のアミノ酸配列[配列番号43]、同じく42番目から56番目のアミノ酸配列[配列番号44]、同じく43番目から57番目のアミノ酸配列[配列番号45]、同じく44番目から58番目のアミノ酸配列[配列番号46]、同じく45番目から59番目のアミノ酸配列[配列番号47]、同じく46番目から60番目のアミノ酸配列[配列番号48]、同じく47番目から61番目のアミノ酸配列[配列番号49]、同じく48番目から62番目のアミノ酸配列[配列番号50]、同じく49番目から63番目のアミノ酸配列[配列番号51]、同じく50番目から64番目のアミノ酸配列[配列番号52]、同じく51番目から65番目のアミノ酸配列[配列番号53]である。
【0118】
このことから、トロンビンで惹起した滑膜細胞増殖を阻害するscFvのエピトープは、ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の51番目から56番目のアミノ酸配列であることが示された。
【0119】
実施例10:scFvのKinetics解析
滑膜細胞増殖阻害能を有するscFvのエピトープに対するKinetics特異性の検証を表面プライズモン共鳴センサーBIACORE1000(BIACORE社)を用いて行った。
【0120】
以下に示す21アミノ酸を合成した(株式会社バイオロジカ)。このペプチドはPAR1型ヒトトロンビンレセプターの細胞外領域に包含され、活膜細胞増殖阻害能を有するscFvのエピトープを含むペプチドである。
ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列[配列番号110]
Asn Pro Asn Asp Lys Tyr Glu Pro Phe Trp Glu Asp Glu Glu Lys Asn Glu Ser Gly Leu Thr
【0121】
PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列[配列番号110]のペプチドに対してKLH複合体を作成した。PIERCE社より市販されている「Imject Immunogen EDC Conjugation Kit With KLH and BSA」を用い、まずPAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列ペプチド1mgをKitのEDC Conjugation緩衝液0.25mlに溶解し(ペプチド4mg/ml)、KLH溶液(10mg/ml)0.1mlを加えた。さらにEDC(10mg/ml)25μlをペプチド、KLH混合液に攪拌しながらゆっくり滴下し、引き続き30分間室温にて攪拌した。その後、EDC Conjugation緩衝液350μlを添加し、反応を停止させた。その後、PBS緩衝液pH7.4、3Lに対して2回透析し、KLH複合体ペプチドを得た。
【0122】
ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列のKLH複合体ペプチドまたリファレンスとしてKLHをCM5センサーチップ(BIACORE社)に固定化した。BIACORE社で市販している「アミンカップリングキット」を使用し、業者添付のプログラムに準じて行なった。BIACORE Control Software Ver.1.2を用いてCM5センサーチップに同社市販のHBS−EP緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%ボリソルベート20(v/v))を流速5μl/分で流した。さらにアミンカップリングキットのEDC/NHSの1:1混合液を7分間(35μl)反応させ、センサーチップ表面上のカルボキシメチルデキストランを活性化させた。100μg/mlのKLH ConjugatedペプチドまたはKLHを7分間(35μl)反応させることによりセンサーチップ上に結合させ、さらにアミンカップリングキット中のエタノールアミンを7分間(35μl)反応させて残余の活性型NHS基をブロッキングした。
【0123】
上記センサーチップ上に固定化されたKLHをリファレンスとし、ペプチドに対するscFvの結合解離曲線を測定した。HBS−EP緩衝液にてscFvを50μg/ml、25μg/ml、12.5μg/ml、6.25μg/mlに調製し、各scFv溶液について、流速20μl/分で3分間センサーチップに反応させた。その後、HBS−EP緩衝液を流速20μl/分で5分間流し、センサーチップを10mM HClで20μl/分で1分間洗浄することを繰り返した。一連の操作におけるセンサーチップ表面の質量変化を測定することによってペプチドに対する各scFvの結合解離曲線を得た。得られた結合解離曲線と各scFvの濃度から、BIAevaluation software ver.2.1を用いて同社添付のプログラムに準じ、各scFvの結合解離定数を算出した。その結果、各scFvの結合解離定数(KD値)は滑膜細胞増殖阻害活性をもつscFvでKD値:約5×10-7M、滑膜細胞増殖阻害活性をもたないscFvでKD値:約1×10-7Mであった(表6参照)。
【0124】
【表6】
【0125】
実施例11:scFvのエピトープのアミノ酸残基特異性の比較
滑膜細胞増殖阻害能を有するscFvのエピトープにおけるアミノ酸残基特異性の検証を、表面プライズモン共鳴センサーBIACORE1000(BIACORE社)を用いて行った。
【0126】
以下に示す5種類の21アミノ酸を合成した(株式会社バイオロジカ)。4種のペプチドはヒトトロンビンレセプターの細胞外領域に包含されるペプチドとそのアミノ酸残基置換ペプチドである。
【0127】
すなわち、ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列[配列番号112]、同じく47番目から67番目のアミノ酸残基中51番目のリジンをアラニンに置換したアミノ酸配列[配列番号113]、同じく47番目から67番目のアミノ酸残基中55番目のフェニルアラニンをアラニンに置換したアミノ酸配列[配列番号114]、同じく47番目から67番目のアミノ酸残基中56番目のトリプトファンをアラニンに置換したアミノ酸配列[配列番号115]、およびコントロールの21アミノ酸配列[配列番号111]
Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Lys Ala Ile Met Lys Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe
である。
【0128】
PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列[配列番号112]のペプチドに対してKLH複合体を作成した。PIERCE社より市販されている「Imject Immunogen EDC Conjugation Kit With KLH and BSA」を用い、PAR1型ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列ペプチド1mgをKitのEDC Conjugation緩衝液0.25mlに溶解し(ペプチド4mg/ml)、KLH溶解液(10mg/ml)0.1mlを加えた。さらにEDC(10mg/ml)25μlをペプチド、KLH混合液に攪拌しながらゆっくり滴下し、引き続き30分間室温にて攪拌した。その後、EDC Conjugation緩衝液350μlを添加し、反応を停止させた。さらにPBS緩衝液pH7.4、3Lに対して2回透析し、KLH複合体ペプチドを得た。
【0129】
ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列のKLH複合体ペプチド、またリファレンスとしてKLHをCM5センサーチップ(BIACORE社)に固定化した。BIACORE社で市販している「アミンカップリングキット」を使用し、業者添付のプログラムに準じて行なった。BIACORE Control Software Ver.1.2を用いてCM5センサーチップに同社市販のHBS−EP緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%ボリソルベート20(v/v))を流速5μl/分で流した。さらにアミンカップリングキットのEDC/NHSの1:1混合液を7分間(35μl)反応させ、センサーチップ表面上のカルボキシルデキストランを活性化させた。100μg/mlの KLH複合体ペプチドまたはKLHを7分間(35μl)反応させることによりセンサーチップ上に結合させ、さらにアミンカップリングキット中のエタノールアミンを7分間(35μl)反応させて残余のNHS基をブロッキングした。
【0130】
上記センサーチップ上に固定化されたKLHをリファレンスとし、ペプチドに対するscFvの結合を確認した。scFvをHBS−EP緩衝液にて50μg/mlに調製し、流速10μl/分で3分間反応させた。その後HBS−EP緩衝液を流速20μl/分で5分間流し、センサーチップを10mM HClで20μl/分で1分間洗浄することを繰り返した。一連の操作におけるセンサーチップ表面の質量変化を測定することによってペプチドに対する各scFvの最大結合量を得た。滑膜細胞増殖活性を有するscFvで最大結合量約300RU、滑膜細胞増殖活性のないscFvで最大結合量約600RUの結合値を得た。
【0131】
上記線センサーチップ上に固定化されたKLHをリファレンスに、ペプチドに対するscFv5種の各ペプチドによる競合結合阻害を測定した。HBS−EP緩衝液にてscFv(終濃度50μg/ml)とペプチド(終濃度5μg/ml)の混合液を調製し、scFv−ペプチド混合液を流速10μl/分で3分間反応させた。
【0132】
コントロールペプチドでは滑膜細胞増殖阻害活性をもつscFv、もたないscFvともに結合を阻害されなかった。ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸配列ペプチドでは滑膜細胞増殖阻害活性をもつscFv、もたないscFvともに結合が阻害された。
【0133】
活膜細胞増殖阻害活性をもたないscFvではヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸残基中、51番目のリジンをアラニンに置換したアミノ酸ペプチド、および47番目から67番目のアミノ酸残基中、55番目のフェニルアラニンをアラニンに置換したアミノ酸ペプチドでは結合阻害が認められず、アミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸残基中、56番目のトリプトファンをアラニンに置換したアミノ酸ペプチドで結合阻害が認められた。
【0134】
滑膜細胞増殖阻害活性をもつscFvではヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸残基中、51番目のリジンをアラニンに置換したアミノ酸ペプチドおよび47番目から67番目のアミノ酸残基中、55番目のフェニルアラニンをアラニンに置換したアミノ酸ペプチドで結合阻害が認められ、ヒトトロンビンレセプターのアミノ末端側の47番目から67番目のアミノ酸残基中、56番目のトリプトファンをアラニンに置換したアミノ酸ペプチドでは結合阻害が認められなかった。
【0135】
滑膜細胞増殖阻害活性をもつscFv、もたないscFvともにエピトープとして重複したアミノ酸配列を認識しているものの、そのエピトープにおける各アミノ酸残基に対する重要度に違いがあることが確認された。
【0136】
トロンビン惹起滑膜細胞増殖阻害にはヒトトロンビンレセプターのアミノ酸末端から56番目のトリプトファン残基がscFvの重要な結合部位であることが確認された。
【0137】
【発明の効果】
本発明の薬剤(ポリペプチドまたは化合物)は、トロンビンレセプターを介したシグナル伝達を抑制し、細胞増殖阻害活性やTNF−α、IL−6、IL−1βなどの炎症性メディエーターの産生や放出を抑制する活性を有し、各種炎症性疾患や細胞増殖性疾患の治療薬として用いられる。
【0138】
【配列表】
【0139】
Claims (4)
- PAR1型トロンビンレセプターの部分配列であってTyr−Glu−Pro−Phe−Trpを含むエピトープ、または前記エピトープに含まれるTyr−Glu−Pro−Phe−Trpの中のPheをAlaに置換したエピトープに結合し、トロンビンによる細胞増殖を抑制する単鎖型Fvもしくはその断片、または抗体もしくはその断片。
- PAR1型トロンビンレセプターの部分配列であってTyr−Glu−Pro−Phe−Trpを含むエピトープ、または前記エピトープに含まれるTyr−Glu−Pro−Phe−Trpの中のPheをAlaに置換したエピトープに結合するが、前記エピトープに含まれるTyr−Glu−Pro−Phe−Trpの中のTrpをAlaに置換したエピトープに結合せず、トロンビンによる細胞増殖を抑制する単鎖型Fvもしくはその断片、または抗体もしくはその断片。
- トロンビンレセプターを介した細胞増殖に関わるシグナル伝達系を阻害する請求項1または請求項2に記載の単鎖型Fvもしくはその断片、または抗体もしくはその断片。
- 配列番号1で示される改変型PAR1型トロンビンレセプター遺伝子。
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