JP4427591B2 - 異材接合用鋼材、異材接合体および異材接合方法 - Google Patents
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Description
この目的を達成するための本発明鋼材の要旨は、5000系または7000系アルミニウム合金材との異材接合用鋼材であって、この鋼材の組成を、質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.1〜3.00%、Mn:0.1〜3.00%を各々含有するとともに、P:0.10%以下(0%を含む)、S:0.05%以下(0%を含む)、N:300ppm以下(0%を含む)に各々規制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとし、この鋼材表面上に存在する、Mn、Siを合計量で1at%以上含む外部酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の水平方向の長さ1μmに対して占めるこの酸化物の合計長さの平均割合として、80〜100%としたことである。
上記目的を達成するための本発明異材接合体の要旨は、上記要旨の異材接合用鋼材とアルミニウム合金材との異材接合体であって、上記アルミニウム合金材が、質量%でMg:1.0%以上を含む5000系または7000系アルミニウム合金からなり、異材接合体の前記アルミニウム合金材側の接合界面におけるFeの含有量が2.0質量%以下であるとともに、上記接合界面にFeとAlとの反応層が形成されていること異材接合異材接合異材接合である。
上記目的を達成するための本発明異材接合方法の要旨は、鋼材とアルミニウム合金材との異材接合方法であって、請求項1に記載の鋼材と、質量%でMg:1.0%以上を含む5000系または7000系アルミニウム合金からなるアルミニウム合金材とをスポット溶接またはフリクションスポット接合(摩擦攪拌接合)することである。
ここで、本発明における、上記外部酸化物層における、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物以外の残部は、Mn、Siの含有量が合計量で1at%未満である酸化物と空隙であり、本発明における外部酸化物層は、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物、Mn、Siの含有量が合計量で1at%未満である酸化物、空隙とから構成される。
前記異材接合体がスポット溶接されたものであり、スポット溶接箇所毎の条件として、前記鋼材とアルミニウム合金材との接合界面に形成された前記FeとAlとの反応層のナゲット深さ方向の平均厚みが0.1〜3μmの範囲であるとともに、前記FeとAlとの反応層の形成範囲が、スポット溶接面積の70%以上の面積であることが好ましい。また、前記異材接合体の十字引張試験片により測定された剥離強度が2kN以上であることが好ましい。また、前記異材接合体が自動車の車体構造用であることが好ましい。また、前記スポット溶接箇所毎の条件として、電極間加圧力2.0〜3.0kNにて、10〜35kAの電極間電流を、接合されるアルミニウム合金材部分の厚みtmmとの関係で、200×tmsec以下の時間通電することが好ましい。また、前記鋼材とアルミニウム合金材との接合箇所毎の条件として、電極間加圧力2.0〜3.0kNにて、10〜35kAの電極間電流を、溶接されるアルミニウム合金材部分の厚みtmmとの関係で、200×tmsec以下の時間通電することにより、鋼材とアルミニウム合金材とをスポット溶接することが好ましい。
以下に、先ず、本発明が対象とする鋼材の外部酸化物層と内部酸化物層との具体的な量的組成バランスについて説明する。
図1(a)の低酸素分圧雰囲気焼鈍の場合、一旦酸洗されて既存の外部酸化物層が除去された、Mn、Siを含む鋼材は、鋼材の鋼生地表面が50nm程度の薄い外部酸化物層によって被覆されている。しかし、酸素分圧が低いために、鋼材内部にまで酸素は侵入(拡散)せず、鋼生地表面から下の鋼材内部には、粒界酸化物を含む内部酸化物は形成されない。この図1(a)のような表面組織、即ち、後述する図1(b)、図1(c)の外部酸化物層よりも、破壊されにくい外部酸化物層と、内部酸化物が無い鋼材内部組織とを合わせて有する鋼材が、本発明が対象とする鋼材である。
これに対して、図1(b)の、酸素分圧が図1(a)よりも比較的高い、中酸素分圧の雰囲気焼鈍の場合、鋼材内部にまで酸素が侵入(拡散)する。このため、一旦酸洗されて既存の外部酸化物層が除去された、Mn、Siを含む鋼材には、上記した外部酸化物層とともに、鋼生地表面から下の鋼材内部の比較的浅い、例えば、鋼材の鋼生地表面からの深さが10μm以下の鋼領域に内部酸化物が形成される。前記特許文献7で、溶接手法や、溶接されるアルミニウム合金材と鋼材との材料の組み合わせが異なっても、同じ外部酸化物層と内部酸化物層との条件としているのは、この図1(b)の条件である。
この図1(c)は、酸素分圧が図1(b)よりも更に高い、高酸素分圧の雰囲気焼鈍の場合を示し、本発明で特徴的な外部酸化物層と内部酸化物層との具体的な量的組成バランスを示す。この図1(c)の場合には、図1(b)よりも更に、鋼材内部にまで酸素が侵入(拡散)する。このため、一旦酸洗されて既存の外部酸化物層が除去された、Mn、Siを含む鋼材には、前記外部酸化物層とともに、上記した内部酸化物が、鋼生地表面から下の鋼材内部の比較的深い領域、より鋼材内部に深く形成される。これらの内部酸化物は、主としてこの鋼材の鋼生地表面から20μmまでの深さの鋼領域に形成される。
図1の鋼材とアルミニウム合金材との溶接接合時には、鋼材表面上の上記外部酸化層を破って、鋼材とアルミニウム合金材との接合面に、Al−Fe反応層が形成される。この点で、鋼材表面上の上記外部酸化層には、接合時のFeとAlの拡散を抑えて、Al−Fe系の脆い金属間化合物層 (反応層) 生成を抑制する効果がある。
このために、本発明では、このような破壊されにくい組成の外部酸化物層を有する鋼材に対して、接合するアルミニウム合金材の合金組成を、前記外部酸化物層を還元する機能を有する元素として、Mgを多く含む5000系および7000系アルミニウム合金材とする。これによって、溶解したアルミニウム合金材によって、接合面にMgを存在させ、鋼材の破壊されにくい外部酸化物層を、このMgの還元作用によって破壊して、スポット溶接時のFe、Alの拡散を必要なだけ、かつ過剰に抑制しないように、効果的に制御する。
前記した通り、本発明で対象とする鋼材では、この内部酸化物は少なくなり、また積極的には存在させない。ただ、この内部酸化物を存在させないとは、内部酸化物が全く無い状態だけでなく、鋼材組成や焼鈍条件の範囲(振れ)から、後述する表3の通り、内部酸化物が微量存在する場合を含む。この状態を定量的に表現すると、内部酸化物1(鋼板の鋼生地表面からの深さが10μmまでの鋼領域に存在する、粒界酸化物とMn、Siを合計量で1at%以上含む粒内酸化物)の占める割合(密度)を、この鋼領域の視野面積10μm2 内において占める平均面積割合として5%未満(0%を含む)とすることが好ましい。また、更に、内部酸化物2(鋼板の鋼生地表面からの深さが10μmを超えて20μm以下の鋼領域に存在する、粒界酸化物とMn、Siを合計量で1at%以上含む粒内酸化物)の占める割合が、この鋼領域の視野面積10μm2 内において占める平均面積割合として0.1%以下(0%を含む)であることが好ましい。
なお、内部酸化物のうち、粒内に生成する酸化物は、前述した通り、Mn、Siを合計量で1at%以上含む球状乃至粒状の酸化物、とMn、Siとが合計量で1at%未満であるFe3O4 などの酸化物があり、一方、鋼の粒界上に形成される酸化物は概ねMn、Siを合計量で1at%以上含む粒状の酸化物である。そこで、本件発明においては、内部酸化物の規定において、粒界の存在する酸化物およびMn、Siを合計量で1at%以上含む結晶粒内に存在する酸化物の占める割合を規定した。
本発明における外部酸化物の測定は、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を併用した1万〜3万倍の倍率のTEM(透過型電子顕微鏡)にて行なう。即ち、外部酸化物は、EDXにより、鋼材の厚み方向断面における、鋼生地と外部酸化物層との界面を水平方向に分析することによって、界面近傍の外部酸化物層中のMn、Siの合計量を求め、Mn、Siを合計量で1at%以上含む界面近傍の酸化物の相 (複数の酸化物) を、それ以外の相と区別して特定する。次いで、TEMにより、このEDX分析と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、上記界面における水平方向の長さを求める。そして、界面の水平方向の長さ1μmに対して占める、この酸化物相の合計長さの割合を求める。これを複数箇所にて行い、平均化する。
これら鋼材の外部酸化物および内部酸化物の制御は、前記した通り、鋼材の焼鈍条件(酸素分圧)を制御することにより行なうことができる。より具体的には、鋼材の焼鈍雰囲気中の酸素分圧(露点)を変えて制御できる。いずれの鋼種においても、酸素分圧(露点)が高い場合は、鋼材表面上の外部酸化物層中のMn、Siが濃化した酸化物量が少なくなる。また、鋼内部まで酸化し、内部酸化、粒界酸化が進んで、鋼内にSiO2、Mn2SiO4 などが形成され、鋼内に占めるMn、Siを含む酸化物の面積割合が高まる。
上記のように表面の酸化物層を制御した鋼材とアルミニウム材とを溶接にて接合した異材接合体においては、適切な溶接条件とすることによって、高い接合強度が得られる。但し、溶接素材側の条件を整えても、溶接施工条件 (溶接条件) によっては、高い接合強度を実現できない場合がある。
次ぎに、異材接合体における上記FeとAlの反応層を、接合部に出来るだけ広範囲に形成させる必要がある。即ち、接合後の前記反応層の形成範囲が、スポット溶接やFSW(摩擦攪拌接合)などの点溶接では、接合面積 (鋼材の水平方向、ナゲット深さ方向に直角の方向) の70%以上の面積であることが好ましい。
上記本発明における反応層の測定は、後述する実施例の通り、鋼材−アルミ材との接合部を切断して、断面より接合界面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察し、反応層の上記測定を行なう。
先ず、本発明が対象とする鋼材の成分組成について以下に説明する。本発明では、Si、Mnなどを含む引張強度が450MPa以上の高強度鋼材(ハイテン)を主たる対象とする。更には、表面上の既存の酸化物層を酸洗などにより一旦除去した上で、更に、酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍などした場合に、Si、Mnなどを所定量含む外部酸化物層を新たに生成させ得る鋼材を対象とする。
C:
Cは強度上昇に必要な元素であるが、含有量が0.02%未満では鋼材の強度確保ができず、また0.3%を超えると冷間加工性が低下する。したがって、C含有量は0.02〜0.3%の範囲とする。
Si、Mnは、鋼材の表面にSiまたはMnを所定量含む、前記外部酸化物層を形成する。この外部酸化物層は、FeとAlの異材接合の場合に、互いの母材側からのFeとAlの拡散を妨害し、脆い金属間化合物の形成を最小限に抑えることができる。また、金属間化合物の脆性の改善にも役立っている。
Siは、鋼材の延性を劣化させずに、必要な強度確保が可能な元素としても重要であり、そのためには0.1%以上の含有量が必要である。一方、3.00%を超えて含有すると延性が劣化してくる。したがって、Si含有量は、この理由からも0.1〜3.00%の範囲とする。
Mnも、鋼材の強度と靱性を確保するための元素としても必要不可欠で、含有量が0.1%未満ではその効果は得られない。一方、含有量が3.00%を超えると著しく強度が上昇し冷間加工が困難となる。したがって、Mn含有量は、この理由からも0.1〜3.00%の範囲とする。
Alは、溶鋼の脱酸元素として、固溶酸素を捕捉するとともに、ブローホールの発生を防止して、鋼の靭性向上の為にも有効な元素である。Al含有量が0.002%未満ではこれらの十分な効果が得られず、一方で、0.10%を超えると、逆に溶接性を劣化させたり、アルミナ系介在物の増加により鋼の靭性を劣化させる。したがって、Al含有量は0.002〜0.1%の範囲とする。
Nb、Ti、Zr、Cr、Mo、Cu、Niの1種または2種以上の含有は、共通して、鋼の高強度化や高靭性化に寄与する。
本発明においては、使用する鋼材の強度を特に限定するものではないが、自動車部材用を想定すると、鋼材の引張強度が400MPa以上であることが好ましい。これより低強度鋼では、一般に低合金鋼が多く、酸化皮膜がほぼ鉄酸化物であるため、FeとAlの拡散が容易となり、脆い金属間化合物が形成しやすい。また、Si、Mn量が少ないために、鋼材の表面および内部に、本発明における母材のFeとAlの拡散抑制に必要な前記Si、Mnを含む酸化物が形成されにくく、Si、Mnを含む、外部と内部との酸化物(層)の組成や厚みの制御ができず、溶接時の反応層の制御が困難となる。更には、鋼材の強度が不足するために、スポット溶接時の電極チップによる加圧によって、鋼材の変形が大きくなり、酸化皮膜が容易に破壊されるため、アルミニウムとの反応が異常に促進され、金属間化合物が形成しやすくなる。
本発明で用いるアルミニウム合金材は、前記接合面にMgを存在させ、これら外部酸化物層の還元、破壊作用を得るために、Mg含有量が1.0質量%以上のAl−Mg系であるAA乃至JIS規格における5000系、またはAl−Zn−Mg系、あるいはAl−Zn−Mg−Cu系であるAA乃至JIS規格における7000系アルミニウム合金材とする。これらの合金材は、自動車車体の各部用途に応じて、形状を特に限定するものではなく、前記した、汎用されている板材、形材、鍛造材、鋳造材などが適宜選択される。ただ、アルミニウム材の強度についても、上記鋼材の場合と同様に、スポット溶接時の加圧による変形を抑えるために高い方が望ましい。
5000系アルミニウム合金材は、前記Mg含有による鋼材の外部酸化物層の還元、破壊作用の他に、前記自動車車体用などの用途の、成形性や強度、溶接性、耐食性などの諸特性を満たすために、Mg:2.0〜6.0質量%を含み、更に、Fe、Mn、Cr、Zr及びCuの内から選ばれる一種また二種以上を合計で0.03〜2.5質量%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなることが好ましい。
これら記載元素以外の元素は基本的には不純物である。ただ、Al合金のリサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、Al合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用した場合には、不純物元素が混入される。そして、これら不純物元素を例えば検出限界以下などに低減すること自体がコストアップとなり、ある程度の含有の許容が必要となる。したがって、本発明の目的や効果を阻害しない範囲での記載元素以外の元素の含有を許容する。例えば、Si:0.5%以下、V:0.3%以下、Ti:0.5%以下、B:0.05%以下、Zn:0.5%以下の含有を各々許容する。また、この他の元素も上記不可避的不純物として、本発明の必要特性を阻害しない範囲での含有を許容する。
Mgは、加工硬化能を高め、自動車車体用としての必要な強度や耐久性を確保する。また、材料を均一に塑性変形させて破断割れ限界を向上させ、成形性を向上させる。Mgの含有量が2.0%未満では、Mg含有のこれら効果発揮が不十分となる。一方、Mgの含有量が6.0%を越えると、圧延板や押出材の製造が困難となり、しかも成形時に、却って粒界破壊が発生しやすくなり、成形性が著しく低下する。したがって、Mgの含有量は2.0〜6.0質量%の範囲とする。
Fe、Mn、Cr、Zr及びCuは、少量の含有で結晶粒の微細化に有効であり、少量の含有で成形性を向上させる。各含有量の合計が0.03%未満では含有効果がないが、一方、これら各元素の各含有量の合計が2.5%を超えると、これらの元素に起因する粗大な晶出物や析出物が多くなり、これらが破壊の起点になりやすく、却って成形性などを低下させる。したがって、Fe、Mn、Cr、Zr及びCuの内から選ばれる一種また二種以上の含有量は、合計で0.03〜2.5質量%の範囲とする。
7000系アルミニウム合金材も、前記Mg含有による鋼材の外部酸化物層の還元、破壊作用の他に、前記した自動車車体補強材用としての強度、曲げ圧壊性や耐食性などの諸特性を満足するために、質量%で、Zn:4.5〜6.5%、Mg:1.0〜2.0%、Fe:0.01〜0.40%を各々含有し、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなることが好ましい。また、この組成に更に加えて、更に、Mn:0.01〜0.6%、Cr:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.25%、Ti:0.001〜0.10%、の一種または二種以上を合計量で0.30%以下、選択的に含んでも良い。また、更に、Cu:0.01〜0.2%を選択的に含んでも良い。
必須の合金元素であるZn、Mgは、合金材の人工時効処理によって、GPゾーンあるいは中間析出相と呼ばれるMgZn2 、Mg32AlZn49などの微細分散相を形成して強度を向上させる。特にZnは強度−延性のバランス向上効果が高い。Znが4.5%未満、Mgが1.0%未満など、Zn、Mgの含有量が少な過ぎると、これら微細分散相が不足して、強度が低下する。また、Mg含有量が1.0質量%未満では、前記接合面におけるMgの存在量が不足して、前記Mg含有による鋼材の外部酸化物層の還元、破壊作用が不足する。
Feは、スクラップなどの溶解原料などから多く混入しやすいが、析出効果によって、アルミニウム合金材の強度を向上させることができる。少なすぎると、このような効果が期待できず、多すぎると、前記粒界析出物や晶出物の個数あるいは数密度が多くなり、特に押出材では曲げ圧壊性および耐食性が著しく低下する。また、Feが多すぎると、粗大な晶出物や析出物が形成され、逆に強度や伸び(延性)の低下の原因ともなる。したがって、Feは0.01〜0.40%の範囲とする。
Mn、Cr、Zr、Tiも、スクラップなどの溶解原料などから多く混入しやすいが、析出効果によって、アルミニウム合金材の強度を向上させることができる。また、Tiには、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出材組織を微細な結晶粒とする効果もある。これら元素の含有量が少なすぎると、このような効果が期待できず、これらの含有量が多すぎると、粒界析出物の個数あるいは数密度が多くなり、曲げ圧壊性および耐食性が著しく低下する。また、これらの含有量が多すぎると、粗大析出物が形成され、逆に強度や伸び(延性)の低下の原因となる。したがって、このような効果を得たい場合には、Mn、Cr、Zr、Tiの一種または二種以上を、Mn:0.01〜0.6%、Cr:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.25%、Ti:0.001〜0.10%、の一種または二種以上を、これらの合計量で0.30%以下の範囲で選択的に含有させる。
Cuは、固溶強化によって強度や伸びを向上させる。Cuが少なすぎるとこのような効果が期待できず、Cuの含有量が多すぎると、粒界析出物の個数あるいは数密度が多くなり、曲げ圧壊性および耐食性が著しく低下する。また、Cuの含有量が多すぎると、析出物が粗大化し、強度や伸びも却って低下する。したがって、選択的に含有させる場合には、Cuの含有量は0.01〜0.2%の範囲とする。
また、鋼材やアルミニウム合金材の溶接される部分の厚み(板厚など)は、特に限定されず、自動車部材などの適用部材の必要強度や剛性などの設計条件から適宜選択乃至決定される。
なお、本発明において、接合方法は、前提として、鋼材側が溶解せずに、アルミニウム合金材側のみが溶解するような溶接を選択する。この点で、接合方法は、スポット溶接、またはフリクションスポット接合(摩擦攪拌接合、FSW、スポットFSWとも言う)に限定される。即ち、鋼材側もアルミニウム合金材側も両方が溶解するようなMIG溶接、レーザー溶接は対象外であり、両方とも溶解しない超音波接合、拡散接合、摩擦圧接、ろう付けなどの溶接手法も対象外である。なお、生産性や適切な条件の採用のし易さなどから、フリクションスポット接合よりもスポット溶接による接合の方がより好ましい。
(外部酸化物形成範囲)
外部酸化物は、断面試料を集束イオンビーム加工装置 (FIB:Focused Ion Beam Process、日立製作所製:FB-2000A)により製作し、前記EDX(型式:NORAN-VANTAGE) により、鋼板の厚み方向断面における、鋼生地と外部酸化物層との界面を水平方向に分析することによって、界面近傍の外部酸化物層中のMn、Siの合計量を求め、Mn、Siを合計量で1at%以上含む界面近傍の酸化物の相 (複数の酸化物) を、それ以外の相と区別して特定した。次いで、10万倍の倍率のTEM(JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡:JEM-2010F、加速電圧200kV ) により断面観察し、前記EDX と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、上記界面における水平方向の長さを求める。そして、界面の水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物相の合計長さの割合を求めた。これを各々3 視野にて行い、それらの平均値を求めた。
内部酸化物は、鋼板の鋼生地表面からの深さが、この鋼材の鋼生地表面から10μm以下の深さの鋼領域における内部酸化物を内部酸化物1、および鋼板の鋼生地表面からの深さが10μmを超えて20μm以下の鋼領域における内部酸化物を内部酸化物2として、これらの組成を分析した。組成分析は、これら各鋼領域におけるMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の平均面積割合にて行う。先ず、これら各鋼領域におけるMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物を、前記EDX により、それ以外の相と区別して特定する。そして、3 万倍の倍率のTEM(JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡:JEM-2010F、加速電圧200kv ) により断面観察し、前記EDX と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、10μm2当たりの視野面積 (地鉄面積) 内において占める面積割合を各々求めた。ここで、粒界酸化物の占める面積も、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物に加える。これを各々3 視野にて行い、それらの平均値を求めた。
このようにして製作した各異材接合体の、界面反応層の厚さと形成範囲とを測定した。これらの結果を表5に示す。界面反応層の厚さ測定は、各スポット溶接部の中央にて切断し、樹脂に埋め込んで研磨をし、接合部全体に渡り0.5mm間隔でSEM観察を行った。反応層の厚さが1μm以上の場合は2000倍の視野にて、1μm未満の場合は10000倍の視野にて測定し、各スポット溶接部ごとに平均値を求め、30点のスポット溶接部の平均値を界面反応層の平均厚みとした。また、界面反応層の形成範囲は、各スポット溶接部において、スポット全面積に対する反応層形成面積の割合を求め、30点のスポット溶接部の平均値を求めた。
同じく、製作した各異材接合体の、アルミニウム合金材側の接合界面における、Feの含有量(質量%:表5、6では界面でのAl中Fe濃度と表示)を測定した。これらの結果を表5、6に示す。
Claims (9)
- 5000系または7000系アルミニウム合金材との異材接合用鋼材であって、この鋼材の組成を、質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.1〜3.00%、Mn:0.1〜3.00%を各々含有するとともに、P:0.10%以下(0%を含む)、S:0.05%以下(0%を含む)、N:300ppm以下(0%を含む)に各々規制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとし、この鋼材表面上に存在する、Mn、Siを合計量で1at%以上含む外部酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の水平方向の長さ1μmに対して占めるこの酸化物の合計長さの平均割合として、80〜100%であることを特徴とする異材接合用鋼材。
- 前記異材接合用鋼材が、更に、質量%で、Al:0.002〜0.1%を含有する請求項1に記載の異材接合用鋼材。
- 前記異材接合用鋼材が、更に、質量%で、Nb:0.005〜0.10%、Ti:0.005〜0.10%、Zr:0.005〜0.10%、Cr:0.05〜3.00%、Mo:0.01〜3.00%、Cu:0.01〜3.00%、Ni:0.01〜3.00%、の1種または2種以上を含有する請求項1または2に記載の異材接合用鋼材。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼材とアルミニウム合金材との異材接合体であって、上記アルミニウム合金材が、質量%でMg:1.0%以上を含む5000系または7000系アルミニウム合金からなり、異材接合体の前記アルミニウム合金材側の接合界面におけるFeの含有量が2.0質量%以下であるとともに、上記接合界面にFeとAlとの反応層が形成されていることを特徴とする異材接合体。
- 前記異材接合体がスポット溶接されたものであり、スポット溶接箇所毎の条件として、前記鋼材とアルミニウム合金材との接合界面に形成された前記FeとAlとの反応層のナゲット深さ方向の平均厚みが0.1〜3μmの範囲であるとともに、前記FeとAlとの反応層の形成範囲が、スポット溶接面積の70%以上の面積である請求項4に記載の異材接合体。
- 前記異材接合体の十字引張試験片により測定された剥離強度が2kN以上である請求項4または5に記載の異材接合体。
- 前記異材接合体が自動車の車体構造用である請求項4乃至6のいずれか1項に記載の異材接合体。
- 鋼材とアルミニウム合金材との異材接合方法であって、請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼材と、質量%でMg:1.0%以上を含む5000系または7000系アルミニウム合金からなるアルミニウム合金材とをスポット溶接またはフリクションスポット接合(摩擦攪拌接合)することを特徴とする異材接合方法。
- 前記鋼材とアルミニウム合金材との接合箇所毎の条件として、電極間加圧力2.0〜3.0kNにて、10〜35kAの電極間電流を、溶接されるアルミニウム合金材部分の厚みtmmとの関係で、200×tmsec以下の時間通電することにより、鋼材とアルミニウム合金材とをスポット溶接することを特徴とする請求項8に記載の異材接合方法。
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