本発明に係る超音波診断装置の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の参考例]
第1の参考例を図1〜図3を参照して説明する。この参考例に示す超音波診断装置は、被検体に超音波造影剤を投与し、その染影度から血流状態を観察する構成を備える。この場合、血流状態は関心部位全てにおいて観察できるが、本参考例では、肝臓実質または心臓筋肉に流入する造影剤の染影度に基づき血流動態のデータを得て異常部位を同定する装置について説明する。
図1に、超音波診断層装置の全体構成を概略的に示す。図1に示す超音波ドプラ診断装置は、装置本体11と、この装置本体11に接続された超音波プローブ12、操作パネル13、およびECG(心電計)14とを備える。
操作パネル13は、オペレータから各種の指示、情報を装置本体11に与えるために使用されるもので、キーボード13A、トラックボール13B、マウス13C、および後述する送信音圧最適化制御を開始させるための「実行」ボタン13Dを備えている。トラックボール13Bは例えば、モニタ画面上のポインティングデバイスとして機能させるほか、画像上にROI(関心領域)の設定などを行うために使用される。キーボード13Aなどを操作して「Bモード」、「CFM(Color Flow Mapping)モード」、および「PWD(Pulsed Wave Doppler)モード」の間の切換を指令することができる。CFMモードは血流状態を2次元のカラー像で表示するモードである。
超音波プローブ12は、被検体との間で超音波信号の送受信を担うデバイスであり、電気/機械可逆的変換素子としての圧電セラミックなどの圧電振動子を有する。好適な一例として、複数の圧電振動子がアレイ状に配列されてプローブ先端に装備され、フェーズドアレイタイプのプローブ12が構成されている。これにより、プローブ12は装置本体11から与えられるパルス駆動電圧を超音波パルス信号に変換して被検体内の所望方向に送信し、また被検体で反射してきた超音波エコー信号をこれに対応する電圧のエコー信号に変換する。
ECG14は、主に被検体の体表に接触させて使用され、被検体の心電波形データを得る。
装置本体11は図示の如く、プローブ12に接続された送信ユニット21および受信ユニット22、この受信ユニット22の出力側に置かれたレシーバユニット23、Bモード用DSC(デジタル・スキャン・コンバータ)24、イメージメモリ25、TIC演算ユニット26、ドプラユニット27、表示データ合成器28、および表示器29を備える。TIC演算ユニット26には、本診断装置の外部に置かれた外部出力装置30が接続されている。この外部出力装置は、例えばプリンタ、磁気記憶媒体、ネットワーク経由のパソコンなどにより構成される。装置本体11は、さらに、送信ユニット21に拠る超音波信号の送信状態を制御するための送信条件コントローラ31と、ECG14が検出したECG信号を受ける心拍検出ユニット32とを備える。
上記装置本体11の各回路の構成および動作をさらに説明する。
送信ユニット21は、パルス発生器、送信遅延回路、およびパルサを有する。パルス発生器は、例えば5KHzのレート周波数fr[Hz](周期1/fr[秒])のレートパルスを発生する。このレートパルスは、送信チャンネル数分に分配されて送信遅延回路に送られる。送信遅延回路には、遅延時間を決めるタイミング信号が送信チャンネル毎に供給されるようになっている。これにより、送信遅延回路はレートパルスに指令遅延時間をチャンネル毎に付与する。遅延時間が付与されたレートパルスが送信チャンネル毎にパルサに供給される。パルサはレートパルスを受けたタイミングでプローブ12の圧電振動子(送信チャンネル)毎に電圧パルスを与える。これにより、超音波信号がプローブ12から放射される。超音波プローブ12から送信された超音波信号は被検体内でビーム状に集束されかつ送信指向性が指令スキャン方向に設定される。
この送信ユニット21によって実行されるスキャンの時間間隔は、送信条件コントローラ31によって後述するように制御される。送信条件コントローラ31は1つの特徴を成す構成要素である。
被検体内では前述した遅延時間にしたがってビームフォーミングがなされる。送信された超音波パルス信号は、被検体内の音響インピーダンスの不連続面で反射される。この反射超音波信号は再びプローブ12で受信され、対応する電圧量のエコー信号に変換される。このエコー信号はプローブ12から受信チャンネル毎に受信ユニット22に取り込まれる。
受信ユニット22は、その入力側から順に、プリアンプ、受信遅延回路、および加算器を備える。プリアンプおよび受信遅延回路はそれぞれ、受信チャンネル分のアンプ回路または遅延回路を内蔵する。受信遅延回路の遅延時間は、所望の受信指向性に合わせて遅延時間パターンの信号として与えられる。このため、エコー信号は、受信チャンネル毎に、プリアンプで増幅され、受信遅延回路により遅延時間が与えられた後、加算器で加算される。この加算により、所望の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。送信指向性と受信指向性との総合により送受信の総合的な超音波ビームが形成される。
受信ユニット22の加算器の出力端は、レシーバユニット23およびBモードDSC24を順に経由して表示データ合成器28に至る。
レシーバユニット23は、図示しないが、対数増幅器、包絡線検波器、A/D変換器を備える。なお、ハーモニックイメージング法を実施する装置の場合、このレシーバユニット27には、超音波信号の送信周波数の、例えば2倍の高周波成分のみを通過させる帯域通過型フィルタが装備される。このレシーバユニットにより、受信指向性が与えられた方向のエコーデータがデジタル量で形成され、BモードDSC24に送られる。
BモードDSC24はエコーデータを超音波スキャンのラスタ信号列からビデオフォーマットのラスタ信号列に変換し、これを表示データ合成器28に送るようになっている。
イメージメモリ25はBモードDSC24に接続され、このDSCの処理信号(超音波スキャンのラスタ信号列、ビデオフォーマットのラスタ信号列のいずれか)を記録するメモリ素子およびその書込み・読出し制御回路を備える。このメモリ素子に記録されたエコーデータは、イメージング中またはイメージング後において、オペレータの指示に応答してフレーム単位で読み出される。この読出しデータは、BモードDSC24および表示データ合成器28を経由して表示器29に送られて表示される。
また、イメージメモリ25の読出し出力端はTIC演算ユニット26にも接続され、メモリからの読出しデータがその演算ユニット26に取り込み可能になっている。TIC演算ユニット26は、ワークメモリとCPUなどの演算回路とを備え、ワークメモリに読み込んだエコーデータからTIC(Time Intensity Curve)データを演算し、その演算データを表示データ合成器28および、必要に応じて外部出力装置30に出力できるようになっている。これにより、TICデータが表示器29および外部出力装置30に表示または出力される。
ドプラユニット27は、レシーバユニット23における加算エコー信号を受信する。このユニット27は、図示しないが、直交検波器、クラッタ除去フィルタ、ドプラ偏移周波数解析器、平均速度などの演算器、DSC、カラー処理回路などを備え、ドプラ偏移周波数すなわち血流の速度情報やそのパワー情報などがカラーフロー画像データとして得られる。このカラーフロー画像データ(CFMデータ)は、ドプラユニット27に内蔵のDSCにてノイズキャンセルなどの処理を受けるとともに、その走査方式が変換されて表示データ合成器28に送られる。このカラーフロー画像データは、イメージメモリ25に送って記憶させることもできる。
心拍検出ユニット32は、ECG14から供給されたECG信号を入力し、その心電波形データを表示データ合成器28に表示用として送出する一方で、心臓画像を心電波形に同期させる、いわゆる心電同期をとるためのトリガ信号を作り、このトリガ信号を送信条件コントローラ31に送る。
表示データ合成器28は、BモードDSC24から送られてくるBモード画像データ(グレースケール画像)、ドプラユニット27から送られてくるCFMモード画像データ(カラーフロー画像)、心拍検出ユニット32から送られてくる心電波形、TIC演算ユニット26の演算データ、および/または所望の設定パラメータを並べる、あるいは重ねるなどの処理によって1フレームの画像データに再構築する。このフレーム画像データは表示器29により順次読み出される。表示器29では、画像データを内蔵D/A変換器でアナログ量に変換し、TVモニタなどのディスプレイに被検体の組織形状の断層像を表示する。
さらに、送信条件コントローラ31は、操作パネル13からの操作データを受けるA/D変換器およびCPU(中央処理装置)のほか、このCPUに接続されたメモリを備える。メモリには送信条件制御のためのプログラムが予め格納されている。CPUはインターフェイスを介して操作パネル13、レシーバユニット23、心拍検出ユニット32、送信ユニット21、およびTIC演算ユニット26に接続され、入力信号に基づき後述する図2に示す処理を行って制御信号を出力する。
(送信音圧の最適化制御)
本装置の好適な使用態様の1つは、被検体に超音波造影剤を投与してコントラストエコー法を実施する態様で動作させることである。図2は、このコントラストエコー法の実施下において、送信条件コントローラ31により実施される送信条件の最適化制御の一例を示す。なお、送信条件コントローラ31は心拍検出ユニット32からECG同期信号Secgを受けて、送信超音波ビーム信号に対して連続的にまたは間欠的に後述する最適化制御を行うようになっている。
送信条件としては、ここでは送信音圧を選択し、プローブ11に与える送信駆動電圧を直接上下させることで送信音圧を最適化制御するように構成しているが、参考例は必ずしもこれに限定されない。診断部位の音場音圧を結果的に変化させ得るパラメータを使用すればよいのであって、例えば、プローブ11における送信駆動素子数を変えるようにしてもよい。
いま、初期値として、送信音圧は従来診断と同様の値に制御されているとする。このような初期値としては例えば、約1Mパスカルの送信音圧であり、造影剤の微小気泡を消失させるには十分なレベルであることが知られている。被検体に投与された造影剤が診断部位に到達すると、通常は、エコー信号の強度は当然に増加することになるが、送信音圧が大きい場合、そのようにはならず、診断部位に流入する気泡は瞬時に消失しまっているので、エコー信号の強度は低い。送信音圧と気泡の残存数との定性的関係の例を図3に示す。
そこで、送信条件コントローラ31は、図2に示す如く、送信音圧制御の開始を判断する(同図、ステップ101)。この判断は、本参考例では、コントローラ31が操作パネル13上の「実行」ボタン13Dが押されたかどうかを検出して行われる。この判断がYES(送信音圧開始)となるときは、レシーバユニット23からエコー信号Secho(ビームフォーミングされたエコー信号)を読み込み、その信号値(振幅、強度)をSaとする(ステップ102)。ここで読み込むエコー信号Sechoの値は、一例として、表示対象となる画像全体のエコー信号の積分値である。
次いで、コントローラ31は、送信音圧を所定値ΔDだけ下げるための音圧制御信号Ssdを送信ユニット21に送出する(ステップ103)。この音圧制御信号Ssdに応答して、送信ユニット21は例えばパルサからの駆動電圧を所定音圧低減値に対応して下げる。この結果、プローブ11から照射された診断部位における音場の音圧値は指定値ΔDだけ下げられる。この低減させた音圧の元で、超音波反射信号がプローブ11を介して受信される。この反射信号は受信ユニット22で受信処理され、レシーバユニット23にて電気量のエコー信号が生成される。
このエコー信号Sechoは再度、送信条件コントローラ31に読み込まれ、その信号値はSbとして認識される(ステップ104)。この音圧低減後のエコー信号を受信するときには、図3から分かるように、造影剤の気泡消失の度合いが抑えられるか、または、少なくとも前の状態と変わらない。このため、診断部位からの超音波反射信号の強度が増加するか、または、音圧減少分だけ減少することから、エコー信号の信号値は上昇、または、下降する(場合によっては不変のこともある)。
そこで、送信条件コントローラ31はそれまでに読み込んでいる信号値Sa,Sbについて、Sa>Sbか否かの判断を実施する(ステップ105)。この判断でNOの場合、つまりSa≦Sbあるときは、未だ送信音圧の最適値に到達していないとして認識し、音圧低減後の信号値Sbを音圧低減前の信号値Saに置き換え(ステップ106)、その後、前述したステップ103の処理に戻る。このため、再度、送信音圧が再度、所定値ΔDだけ下げられ、上述したと同様のSa>Sbか否かの判断が実施される(ステップ103〜105)。この一連の処理はSa>Sbの状態になるまで繰り返される。
上述した送信音圧の低減および信号値の比較処理を繰り返している間に、送信音圧が気泡の消失しないレベルまで達していた場合、その次に送信音圧を下げたときには、エコー信号が下がり始めるので、判断ステップ105でSa>Sb(YES)となる。つまり、Sa>Sbの判断が下された時点で送信に供している音圧が最適音圧であるので、この音圧を記憶して(ステップ107)、最適化処理が終了する。
このため、オペレータが操作パネル13の「実行」ボタン13Dを押すことで、上述した送信音圧の最適化制御がECG同期の元で実行される。したがって、造影剤の投与タイミングに合わせて最適化制御を手動で開始させることができ、開始タイミングを容易に設定できる。また、オペレータにとって、最適化を実施するか、しないかの選択も容易である。
この最適化によって超音波ビーム信号が供する音圧は、診断部位に流入してくる造影剤の気泡を殆ど消失させないレベルになる。このため、最も高い強度のエコー信号を得ることができ、造影効果が格段に向上する。とくに、血流速度が遅い臓器実質や、比較的細い血管が診断対象になっている場合でも、流入する造影剤の気泡が従来のように造影剤の輝度増強を確認する前に次々と超音波照射によって消失してしまうという事態を確実に回避できる。
したがって、上述のように最適化した送信音圧(送信条件)を使ってコントラストエコー法を実施すると、従来法に比べて格段に高いS/N比のエコー信号を得ることができ、超音波造影剤に拠るエコーの輝度増強効果の利点を十分に享受したBモード像や、Bモード像にCFMモードのカラー血流像を重畳させた画像を提供できる。
なお、上述した音圧低減前後のエコー信号値Sa,Sbの比較処理において、この処理に供するエコー信号は、上述したように画像全体のラスタに対するエコー信号(積分値)を使用する態様に限定されない。この他にも、例えば、代表的な送信ラスタ(例えば画像中央の5本のラスタ)に対するエコー信号を用いてもよく、これにより計算量が少なくて済む。また、オペレータが予め指定したROI内のラスタのエコー信号を用いてもよく、これにより、診断に最も重要と思われる局所的部位を指定でき、その部位に対して最適な送信条件を自動設定できるので、最適か制御の制度が一段と向上するという更なる利点が得られる。
[第2の参考例]
超音波診断装置の第2の参考例を図4を参照して説明する。この参考例は、上述した送信条件の最適化制御をパルスドプラ(PWD)法に適用したものである。
図4に示す超音波診断装置は、前述した図1記載の装置構成の内のCFMモードに関わるドプラユニットに代えてPWDモードの回路系を備えるとともに、ECG系の回路および外部出力回路を省略した構成になっている。
PWDモードの回路系としては、操作パネル13に接続されるサンプルボリューム用のドプラコントローラ41を備え、このコントローラ41の出力側に配置したレンジゲート回路42、直交位相検波器43、サンプル/ホールド回路44、BPF45、A/D変換器46、および周波数解析器47を備える。直交位相検波器43は、送信条件コントローラ31と同様に、レシーバユニット23のビームフォーミング用加算器の出力を受けるようになっている。
このため、オペレータが操作パネル13を使ってスキャン画像の一部に×印ROIなどによるサンプルボリュームを設定すると、このボリューム部位を指定する位置情報がコントローラ41に与えられる。
これにより、コントローラ41からはその位置情報に対応した位置信号がレンジゲート回路42に渡される。レンジゲート回路42は指定サンプルボリュームに対応したレンジゲート信号を発生させ、これをサンプル/ホールド回路44に送る。このサンプル/ホールド回路44によって、直交位相検波器43から出力される位相検波信号の内の指定サンプルボリュームに対応した信号のみがサンプリングされる。このサンプル信号はBPF45により高域側、低域側のノイズなどがカットされ、さらにA/D変換器46でデジタル信号に変換されて、周波数解析器47に送られる。つまり、このPWDモードの場合、ある瞬間に周波数解析器47に与えられる信号は、指定サンプルボリュームのみの信号である。周波数解析器47は指定サンプルボリューム位置の位相検波データ列を周波数解析し、時事刻々変化するスペクトルデータを表示データ合成器28に出力する。これにより、Bモード像と共に、指定サンプルボリューム位置のドプラ情報がスペクトルとして表示される。
一方、送信条件コントローラ31は第1の参考例のときと同様に、オペレータが任意タイミングを見計らって実行ボタン13Dを押すことにより、送信条件としての送信音圧の最適化制御を実施することができる。
このようにPWDモードについても、第1の参考例のように好適に送信条件を最適化できる。このPWDモードの場合、ある瞬間に周波数解析器への入力信号はサンプルボリュームの1値のみであるから、かかる最適化制御が非常に有効に機能する。
[第3の参考例]
超音波診断装置の第3の参考例を図5〜図6に基づき説明する。この参考例は、送信条件の最適化制御に拠る送信音圧(パワー)の表示に関する。
図5に示す超音波診断装置は、上述した図4の構成に加えて、送信条件コントローラ31と表示データ合成器28との間に介挿した送信音圧表示プロセッサ51を備える。この送信音圧表示プロセッサ51は、例えばCPUを備えて構成される。そして、このプロセッサ51は送信条件コントローラ31で設定される送信音圧値をリアルタイムに入力し、時事刻々、自動制御される送信音圧値を表す数値データおよび/またはグラフデータを表示データ合成器28に送出する。これにより、送信音圧を最適化している間に送信音圧が変化していく様子および最終設定値を一目で視認できる。
本参考例における送信音圧表示プロセッサ51の処理例を図6(a),(b)に示す。同図(a)の場合、送信音圧の初期値を画面の右上に表示し、この初期値Aから変化していく最適化制御中の送信音圧値Bを矢印を介して、その右側にリアルタイムに更新および表示するものである。また同図(b)の場合、画面右上に送信音圧の初期値からの時間変化グラフCと、リアルタイムに変化する最適化制御中の送信音圧値Dとを表示するものである。
このように表示することにより、オペレータにとって、送信音圧の初期値からの変化の様子と、下げられた現在の送信音圧とが一目瞭然となることあら、操作のスムーズ化などに貢献できる。
なお、この送信音圧値の表示は、前述した第1の参考例で説明した構成に適用することもできる。
[第1の実施形態]
本発明に係る超音波診断装置の第1の実施形態を図7〜図8に基づき説明する。この実施形態は、とくに、送信音圧の最適化制御とTIC計測との組み合わせに関する。なお、好適には、超音波造影剤は持続注入法により投与される。
既に説明してあるように、コントラストエコー法の実施下におけるTIC計測は、造影剤が関心領域に流入して輝度が上昇する態様で計測する場合、その計測パラメータとしては輝度変化のピーク値、上昇の速度、輝度変化のピークから輝度減少(ウオッシュアウト)などが重要である。このような変化を主体とするパラメータを計測するTIC計測時に、上述した実施形態に係る送信音圧の最適化制御を行うと、最適値を求めて送信音圧を変化させている期間に、かかる輝度変化の情報(少なくとも正確な情報)が得られないという事態が発生する。そこで、本実施形態の超音波診断装置はそのような事態を確実に回避し、正確で安定したTIC計測が行えるようにすることを更なる目的とする。
この目的を達成するため、図7に示す超音波診断装置が備える送信条件コントローラ31は、図8の処理を実行して、TIC演算ユニット26によるTIC計測開始タイミング、および、最適化終了に関する表示を制御できるようになっている。そのほかの構成要件は図1に示した構成と同一または同様である。
図8に示すように、送信条件コントローラ31は、初期値としての通常音圧値のビーム送信によるスキャン、エコーデータのイメージメモリ25へのフレーム毎の記憶、および表示器29による表示を指令する(ステップ111)。この結果、従来から使用されている通常の送信音圧値に対応して、例えばBモード像上にCFM像を重畳させた血流のカラー像の表示器29への表示が開始される。このスキャン、エコーデータの記憶、および画像表示が以後、画像フリーズのときを除いてほぼリアルタイムに継続される。
次いでコントローラ31は、操作パネル13からの操作情報を読み込み、TIC計測をスキャンとリアルタイムに実施するか、フリーズ下で行うかなどの情報を得る(ステップ112)。同様に、表示されている例えばカラー像上の任意の位置にオペレータによって例えばグラフィカルなROI(関心領域)が設定されたか否かを判断し(ステップ113)、ROIが設定されたと判断できるときは、ROI位置、ROIの大きさなどの情報を読み込む(ステップ114)。
この後、コントローラ31はステップ115〜120の処理を順次実行していく。まず、送信条件としての送信音圧の最適化制御を開始するか否かを、操作パネルの実行ボタン13Dからの信号によって判断する(ステップ115)。そして、最適化開始のときは送信音圧の最適化制御処理を実行する(ステップ116)。この処理は前述した図2のステップ102〜107と同様である。これにより、超音波造影剤の気泡から最大のエコー信号が反射してくる最適の送信音圧が自動的に設定される。これが済むと、送信制御コントローラ31から表示データ合成器28に、最適化終了を示すデータDaおよび最適化した音圧値データDbが送られる(ステップ117)。このため、表示器29の画面の一部に最適化終了のマークおよび最適音圧値が数値データとして重畳表示される。
次いで、コントローラ31は一旦、造影剤の気泡全部を消失させ得るほど高い音圧(高音圧)の超音波送信を送信ユニット21に瞬間的に指令する(ステップ118)。これにより、いまスキャンしているスキャン面およびその近傍の微小気泡の殆ど全てが瞬時に消失する。
これが済むと、コントローラ31は直ちに送信音圧を、既に設定して最適音圧値に復帰させて超音波送信を行うように送信ユニット21に指令する(ステップ119)。すなわち、高音圧送信によってスキャン面およびその近傍の気泡が瞬時に破壊された後、直ぐに、最適音圧送信の状態に戻されるので、それまでの気泡が殆ど存在しないスキャン面部分に新たな気泡が流入してくる。この新たな流入気泡に照射される超音波ビームの音圧は最適化された値に戻されているので、気泡の消失が少なく、改めて最大の超音波エコーが発生することとなる。
この状態で、コントローラ31は次いで、ステップ112での読込み情報に基づき、TIC計測をリアルタイムに行うか、またはフリーズ状態で行うかを判断する。リアルタイムに計測すると判断した場合(YES)、ステップ121に移行し、TIC演算ユニット26に、TIC計測およびその結果表示を許容する開始タイミング信号Sst並びにROI情報(位置、大きさ)SROIを送る。この信号Sstに応答して、TIC演算ユニット26は、BモードDSC24を介してイメージメモリ25に経時的に格納されるエコーのフレームデータを読み出し、前述した各種パラメータを指定ROI位置に関して演算する。この演算結果は表示データ合成器28および外部出力装置30に送られる。これにより、表示器29の画面には、リアルタイムの血流カラー断層像と、TIC計測結果を表すグラフおよび/または数値データとがほぼリアルタイムに例えば分割態様で表示される。
一方、TIC計測を画像フリーズ状態で行うと判断した場合(ステップ120:NO)、ステップ122に移行し、現在設定されている最適音圧によるスキャン状態を一定時間継続させる。この一定時間の幅はTIC計測に必要なエコーデータを収集できる値に設定されている。この一定時間の間に、一定枚数のフレームエコーデータが収集され、イメージメモリ25に格納される。一定時間が経過すると、コントローラ31は前述したステップ121のときと同様に、開始タイミング信号SstおよびROI情報SROIをTIC演算ユニット26に送出するとともに、いま以上の送信を禁止するフリーズ信号Sfzを送信ユニット21に送出する。これにより、表示器29に表示される断層像はフリーズ状態になる。同時に、TIC演算ユニット26は、上記一定時間の待機期間中にイメージメモリ25に格納されていた複数フレーム分のエコーデータを読み出し、前述した各種パラメータを指定ROI位置に関して演算する。この演算結果は表示データ合成器28および外部出力装置30に送られる。これにより、表示器29の画面には、フリーズの血流カラー断層像と、TIC計測結果を表すグラフおよび/または数値データとがほぼリアルタイムに例えば分割態様で表示される。
このように本実施形態によれば、瞬間的に高音圧の超音波ビームを照射してスキャン面およびその近傍の微小気泡を瞬時に殆ど全部を消失させ、その後、最適音圧に戻す手法を用いている。したがって、気泡が何も無いまっさらの状態に再び流入してくる造影剤の様子を観測できることから、あたかも最初から最適音圧の超音波送信を行うことと等価の状態をつくり出すことができ、その後に行うリアルタイムまたはフリーズ下のTIC計測を高精度かつ安定して行うことができる。
すなわち、最適値を求めて送信音圧を変化させている期間に、造影剤に拠る輝度変化の情報(少なくとも正確な情報)が得られないという事態の発生は確実に防止される。もちろん、TIC計測開始のタイミングを的確に管理しているから、送信音圧の最適化制御を行っている間の受信エコーデータがTIC計測に入り込んだり、関与することもない。
また、本装置によれば、TIC計測のモードをリアルタイム状態のモードとフリーズ状態のモードとの間で選択でき、計測の便宜が計られている。
さらに、本装置では、TIC計測のためのROI設定、送信音圧の最適化制御、最適音圧でのスキャン、TIC計測が一連の作業の中で全て自動化されている。このため、オペレータにとって作業労力が少なく、作業能率にも優れているので、患者スループットの向上も期待できる。もちろん、ROI設定をTIC計測の都度、実行するように設定することもできる。
[第2の実施形態]
本発明に係る超音波診断装置の第2の実施例を図9〜図12を参照して説明する。本実施形態の超音波診断装置は、超音波造影剤の物理的性質を利用して血流流入量に関わる画像を得ることを特徴とする。この画像収集には、いわゆるフラッシュエコー法と呼ばれるイメージング法を使用する。フラッシュエコー法は前述したように、超音波ビームを間欠的に送信することで、臓器に割らないで密集させた微小気泡(造影剤)を一度に消滅させる、高強度のエコー信号を収集する手法である。つまり、本実施形態の手法は、これまでの実施形態のものとは異なり、造影剤を成す微小気泡を一定の規則性をもって積極的に崩壊させることで、効率良い診断画像を得ようとするものである。なお、超音波造影剤は好適には持続注入法により投与され、この造影剤によるコントラストエコー法が実施される。
この手法を実施する超音波診断装置を図9に示す。この超音波診断装置に備える送信条件コントローラ31は、送信のフレームレートを制御するとともに、ループ再生のための指令をBモードDSC24およびイメージメモリ25に与える機能を追加的に有している。操作パネル13はフリーズボタン13Eを備える。そのほかの構成は図1のものと同一または同様である。
従来使用されている超音波診断装置の場合、通常、フレームレート(送信の時間間隔)は、観測中において例えば10(a)に示す如く、一定に制御されている。もちろん、視野深度や走査線密度を変更した場合、フレームレートも変わるが、一定のスキャン条件の下では通常、一定間隔に保持される。これに対して、本実施形態の超音波診断装置の場合、その送信条件コントローラ31はフレームレートを、一定のスキャン条件の下であっても、例えば図10(b)に示す如く変化させる。この例の場合、1フレームの画像データを得る時間間隔(フレームレート)が「0.1秒、0.2秒、0.3秒、…、1.0秒」といった具合に経時的に大きくなるように、CPUの実行プログラムで予め設定してある。
なお、このフレームレートの間隔は経時的に短くなるように制御してもよい。また、超音波造影剤を持続注入法で投与する場合、図10(b)で示すシーケンスを繰り返してもよい。
ここで、フレームレートを変化させることで血流量の多少を表す画像が得られることの原理を説明する。図11(a)は超音波照射によって血管を横断する有効音場部分の気泡が消失した瞬間を模式的に表している。この消失後、直ぐに音場内に造影剤(気泡)が流入し始める。次の超音波照射が比較的短い時間の内に行われる場合、同図(b)に示す如く、音場内に流入している気泡の量は少量である。この気泡状態でフラッシュエコー法を実施した場合、気泡が少量であるから、エコー信号の強度も相対的に小さい。しかし、超音波照射の間隔(フレームレート)を長くしていくと、例えば同図(c)で示すように、照射までに流入する気泡の量も増えるから、エコー信号の強度も大きくなる。
このため、超音波照射で気泡を消失させるのに有効な音場(有効音場)内に気泡が一杯に充満するまでの時間を飽和時間Tfullとすると、この飽和時間Tfullよりも長い間隔(フレームレート)でスキャンしたとしても、それにより得られるエコー信号の強度は一定になる。
この関係を、横軸にフレームレートをとり、縦軸にエコー信号強度をとって図12に例示する。同図は2つの血管1、2(data 1,data 2)について比較例示している。血管1の飽和時間Tfull=0.2秒で、血管2の飽和時間Tfull=0.4秒である。このことから、血管1は血流供給速度は血管2よりも速く、信号強度も高いので、したがって血流量も多いことがわかる。
このような原理に基づき、送信条件コントローラ31は、フレームレートを例えば図10(b)のシーケンスにしたがって変化させる。このシーケンスで得られた複数フレームの画像データ(Bモード像およびCFM像の画像データ)前述したようにイメージメモリ25に格納される。そこで、一連の送信が終わった後、コントローラ31は、フリーズボタン13Eからのオペレータの信号に応答してスキャンを停止させた後、イメージメモリ25およびDSC24にループ再生を指令する指令信号Sdpを与える。これにより、表示器29の画面には輝度が徐々に増加していくBモード像、または、カラー血流像(CFM像)をBモード像に重畳した断層像がループ再生される。血流量が大きい血管ほど、速く高輝度になるから、この差異によって血流量を大小を計測・観測することができる。
また、送信条件コントローラ31は、何秒の時間間隔(気泡を溜めている時間間隔)、すなわち例えば図10(b)に示すシーケンスを表す数値データまたはグラフデータなどのデータDcgを表示データ合成器28に送るようになっている。このため、ループ再生画面には、この時間間隔の情報も一緒に再生されるので、オペレータにとって血流量の大小を判断する上で不可欠な情報も併せて得られ、効率良い診断が可能になる。
この第2の実施形態の変形例を説明する。血流量の表示能を考えると、上記フレーム間隔は一定の規則性の下に変化させることが重要であるが、その規則性自体はどのような関数に拠ってもよい。例えば図13に示すように、フレーム間隔を0.1秒、0.1秒、0.1秒、0.1秒、0.2秒、0.2秒、0.2秒、0.2秒、…のように同一間隔を4回ずつ繰り返しながら増やすシーケンスでもよい。この結果得られた4枚のフレーム画像の画素値を平均し、その平均値から成る1枚のフレーム画像データを同一フレーム間隔の代表画像として表示するようにしてもよい。
また別の変形例は上記フレーム間隔の設定法に関する。送信条件コントローラ31は図14に示す処理を行う。コントローラ31は、オペレータが操作パネル13を操作したことに伴うパネルやキーボードからの情報を読み込み(ステップ131)、上述した第2の実施形態に係るスキャンモード(フレームレートを積極的に変化させるモード)を識別する(ステップ132)。かかるスキャンモードが指令されている場合(ステップ133、YES)、その後、フレーム間隔の変化パターンを設定し、それを記憶する(ステップ134、135)。この変化パターンの設定には、オペレータが操作パネルを操作してその都度入力してもよいが、メモリに予め格納してある複数の変化パターンを用意したテーブルを画面表示させ、このテーブルの中から選択するようにすると便利である。
[第3の実施形態]
本発明に係る超音波診断装置の第3の実施形態を図15〜図17を参照して説明する。この実施形態は、血流量画像の差分画像を生成することに関する。
図15の超音波診断装置は差分演算ユニット53を備える。この演算ユニット53は送信条件コントローラ31からの指令信号Ddifの下に、イメージメモリ25から2枚の画像データを読み出し、その画素値毎の差分を演算するようになっている。この差分値で構成されるフレームデータはBモードDSC24を介して表示される。操作パネル13には、フリーズボタン13Eのほか、差分開始ボタン13Fが装備され、オペレータが操作できるようになっている。
送信条件コントローラ31は、大略、図16に示す処理を行う。まず、スキャンによってエコーデータを取り込ませた後、オペレータはフリーズボタン13Eを押すことになる。コントローラ31はこのフリーズ指令を入力すると(ステップ161)、送信ユニット21のスキャンを停止させる一方で、フリーズ信号SfをDSC24およびイメージメモリ25に送って、それまで取り込んだ画像を表示させる(ステップ162)。次いで、オペレータはトラックボールなどを利用して差分演算に使用する2枚の画像A,Bを表示画面上で選択する(ステップ163)。この表示画像には、その画像が何秒のフレーム間隔(気泡を溜めている時間)でスキャンされたかを示すデータが表示されている。
画像選択後、コントローラ31はオペレータにより差分開始ボタン13Fが押されたかどうかを検知する(ステップ164)。この検知がなされたときに、コントローラ31は差分開始信号Sdifを差分演算ユニット53に送出し、そのユニット52に、選択された画像A,B相互間の輝度値差分を画素毎に演算させ、この差分画像データをDSC24に出力させる(ステップ165)。このようにフリーズ後、イメージメモリ25に記録されていた画像を任意に読み出し、その差分画像を作成し、表示させることができる。
この差分演算による効果には従来にはない顕著なものがある。図17に例示するフレーム間隔対エコー信号強度のグラフから分かるように、血管1,2の曲線は、十分長い時間のフレーム間隔をとった場合、両曲線ともほぼ同等な信号値(染影輝度)に収束する。それは、同図の場合、フレーム間隔を示す横軸上で0.4秒以上の範囲である。両曲線の違いはその0.4秒のフレーム間隔までの気泡の供給速度に在る。仮に0.2秒間隔でフラッシュエコー方に拠る送信を行えば、血管1の方が大きな染影度を呈する(同図中の点1Aと点2Aを参照)。このため、フレーム間隔が0.4秒間隔の画像から0.2秒間隔の画像との間で差分が演算されると、血管1の点1A、1B間には輝度差は殆ど無いため、画素値はキャンセルされ、殆ど零になる。しかし、血管2の場合、点2A,2B間には差があるため、この差分が画像化される。
結局、上述のように適度なフレーム間隔の画像間で差分処理を行うことで、ある特定の血流速度レンジの血流情報を抽出して表示できる、というユニークな利点がある。この表示はループ再生などが好適である。
なお、この差分処理を連続的に行った画像をイメージメモリ25に再度記憶させておいて、または、別のメモリに記憶させておき、複数枚の差分画像についてのTICデータをTIC演算ユニット26に演算させることもできる。また差分演算とリアルタイムにTIC演算を実施させるようにしてもよい。
また、上述した差分演算は、フリーズ状態にて後処理として実施する手法に限定されず、リアルタイムに実施してもよい。例えば、スキャンに伴いDSC24からほぼリアルタイムに得られる画像データを予め定めたフレーム間隔毎に差分演算ユニット53に読み込み、差分可能なデータが揃った時点で差分を画素毎に行い、この差分結果をDSC24に戻して、例えば分割態様で断層像と共に表示させるようにしてもよい。
この超音波診断装置によれば、例えば超音波造影剤を被検体に投与した状態で、送信音圧などの送信パワー条件を受信信号が最大になるように適応制御することを要旨したため、コントラストエコー法において常に送信パワー条件が造影剤を成す気泡の消失を著しく抑制することができ、最適化された送信パワー条件によって最も造影効果が高い高画質の断層像を得ることができる。この結果、種々の画像処理機能をより効果在らしめることが可能になり、血管部の血流動態やパーフュージョンの検出による臓器実質レベルの血行動態の観測及びそれらの定量評価、鑑別診断を安定かつ高精度に行うことができる。
また、本願の超音波診断装置によれば、被検体に超音波造影剤を投与した状態で受信信号が最大となるように送信パワー条件を適応制御し、この後に送信パワー条件を一時的に高い送信パワー条件に上げ、この後に最適化された送信パワー条件に復帰させて受信信号の輝度変化曲線(TIC)のデータを経時的に測定するようにしたため、送信音圧などの送信パワー条件の最適化によって最も造影効果を確保して、コントラストエコー法を確実かつ安定して実施できる。同時に、一回のコントラストエコー法実施の中で、送信パワー条件の最適化からTIC測定までを一貫して自動的に実施できるので、オペレータの操作上の労力が軽減されることから、操作性や操作能率に優れ、患者スループットの向上にも寄与する。
上述した各実施形態およびその変形例は単なる例示であって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲の記載にしたがって決まるもので、本発明の範囲を逸脱しない範囲において様々な態様の超音波診断装置を実施することができる。