本発明は、例えば、車両の減速運転中の制動力を補助する排気ブレーキ弁等の排気絞り弁を排気系に備えたディーゼルエンジンにおいて、その排気ガス中に含まれる有害成分、ことに、粒子状物質を減少させるため、エンジンの排気系に装備される排気ガス後処理装置及びその制御装置に関するものである。
環境対策の重要な一環として、車両用エンジンに対し、排気ガス中の有害成分とされる窒素酸化物(NOx)あるいは炭化水素(HC)等の規制が実施される一方、有害成分の低減に向けて各種の技術の開発が精力的に行われている。特に、ディーゼルエンジンに対する、特にディーゼルエンジン排気ガスの規制は、近年、逐次強化されるとともに、将来もより厳しい規制が実施される傾向にある。ディーゼルエンジンは、シリンダ内に供給される空気を圧縮し、高温高圧となった空気中に燃料を噴射して燃焼させるエンジンであって、ガソリンエンジンと比べ一般的に熱効率が高い。したがって、二酸化炭素(CO2)の排出量はその分少なくなるという特性を有しているものの、粒子状物質(パティキュレート:、PM)及びNOxについては、その削減が強く要請されている。
ディーゼルエンジンを搭載した車両のうち、車両総重量の大きな大型トラック等においては、車両の減速運転中のブレーキを補助し安全性を向上させるため、排気ブレーキ弁と呼ばれる絞り弁を排気系に設け、減速時にはこれによって排気を強く絞りディーゼルエンジンに作用する負荷トルクを増加させるものが多い。もちろん、排気ブレーキを備えたディーゼルエンジンにおいても、PM及びNOxの削減が求められており、大型トラックではエンジンが大型であるだけに排気ガス量も多く、その削減には小型のディーゼルエンジンよりも困難が伴うこととなる。
PMは、シリンダ内に噴射された燃料の不完全燃焼により、炭素や燃料の未燃焼成分が微小な粒子として排出されるものである。ディーゼルエンジンでは、噴射された燃料と空気との混合不良などに起因して、その運転状態によってはPMの発生量が増大する。ことに、NOxの低減を目的として、ディーゼルエンジンのシリンダ内に空気と混合して排気ガスを再循環する、いわゆるEGRを行う場合には、シリンダ内に供給される空気量の減少や燃焼最高温度の低下のため、PMの発生量が多くなる傾向にあるので、燃焼方法の制御によるPMの低減とNOxの低減とは背反的な面がある。
PMの排出を防止するには、ディーゼルエンジンの排気系にディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF)と呼ばれるフィルタを装着し、このDPFによってPMを捕捉する技術がある。DPFは、通常、多孔質のコーディエライト等のセラミック体に格子状に区画された多数の細い通路を軸方向に設け、隣り合う通路の出入口を交互に目封じしたものである。ディーゼルエンジンの排気ガスは、隣り合う通路間の多孔質セラミックの壁を通過して下流に流れ、このときに微粒子であるPMが捕集される。多孔質のセラミック体を使用する代わりに、セラミック繊維等の耐熱性繊維からなる目の細かな不織布を使用するものもある。なお、PMの排出を防止するため、セラミック担体に形成した多数の通路の表面に、白金、パラジウム又はロジウム等の貴金属からなる触媒をコーティングした酸化触媒装置を排気系に装着する技術も知られている。排気ガスが酸化触媒装置の通路を通過して流れるときに、その触媒作用によって排気ガス中のPMがディーゼルエンジンの排気ガス中の酸素と反応して酸化され、CO2などに変換される。このような触媒をDPFの表面に担持させる場合もある。
ところで、ディーゼルエンジンを搭載した車両に装備されるDPFには、エンジンが繰り返し運転されることによって捕捉したPMが堆積する。PMが多量に堆積すると、フィルタが目詰まり状態となってエンジンの背圧が上昇する弊害や、エンジンの高負荷時排気ガスが高温となったときに堆積したPMが一気に燃焼してDPFに熱損傷を与える等の弊害がある。このような弊害を防ぐためには、堆積したPMを適宜除去してDPFの機能を回復させる、いわゆるDPFの再生を行う必要がある。
再生の手段としては、電気ヒータやバーナ等で加熱してPMを燃焼させる方式が知られている。しかし、このPMを燃焼させる方式を採用したときは、DPFに電気ヒータ等を組み合わせることとなってDPFが複雑高価なものとなると同時に、再燃焼中はPMの捕集が不可能なため、排気通路に複数のDPFを並列に配設して捕集と燃焼を交互に行うシステムとなって装置が大掛かりになるという問題が発生する。この問題を踏まえ、近年では、DPFの排気ガス上流に酸化触媒を設置し、排気ガス中の未燃焼成分等を酸化してその温度を上昇させるなどの作用により、DPFに捕集したPMをエンジン作動中に連続的に酸化・除去し、DPFを再生させる方式が注目されている。なお、触媒を上流に設置する代わりにDPFの表面にコーティングする方法、例えば、いわゆるNOx吸蔵還元型触媒をDPFの上流側表面に担持させ、NOxを吸蔵、還元する際に発生する活性酸素を利用して捕集したPMを連続的に酸化・除去させる方法も考えられる。このように、DPFの上流に触媒を備え、捕集したPMを連続して除去し再生する方式のDPFを、ここでは、連続再生式DPFという。
連続再生式DPFは、その上流に設けられた触媒の作用によりPMを除去するものであるから、通常の触媒装置と同様に、触媒の活性温度以下では触媒が十分な機能を発揮せず、連続的な再生が行われない。触媒が活性化して良好な再生が行われるには、触媒特性に応じた活性化温度、例えば約350℃の温度が必要であるが、ディーゼルエンジンの燃料噴射量の少ない低負荷時には排気ガス温度が相当低下し、この運転状態が長時間継続すると、触媒の温度は活性温度を下回る。このため、DPFにPMが蓄積される結果となり、エンジンの背圧の上昇あるいは排気ガス温度上昇時における多量のPMの燃焼によるDPFの溶損等を招く。したがって、連続再生式DPFにおいても、DPFに一定量のPMが蓄積したときは、排気ガス温度を上昇させ触媒を活性化するなどの方法でPMを除去しなければならず、このようなDPFの再生を、以下では強制再生と称する。
ディーゼルエンジンの排気ガスの温度を上昇させるには、ポスト噴射と呼ばれる手段がある。これは、ディーゼルエンジンの膨張行程から排気行程において、エンジンシリンダ内に添加燃料を噴射し、その燃料がシリンダ内では燃焼せず、主に排気管やそこに置かれた触媒で酸化し燃焼することによって、排気ガスの温度を高めるものである。一般的には、膨張行程の終期以降に噴射することにより、良好な効果を得ることができる。ポスト噴射は、ディーゼルエンジンのシリンダ内にもともと備えられた燃料噴射ノズルから添加燃料を供給するので、付加的な装置を要しない利点がある。ポスト噴射の量や回数を制御し、昇温させる排気ガスの温度を調整することもできる。
また、ディーゼルエンジンの通常の燃料噴射、つまり圧縮行程の終期から膨張行程で噴射しエンジンのシリンダ内で燃焼させる燃料噴射、の噴射時期を遅延させると、エンジンの出力トルクに寄与しない燃料の燃焼が多くなる結果、排気ガスの温度が高まることとなる。このような噴射時期の遅延を実現するためには、いわゆるマルチ噴射が好ましい。マルチ噴射は燃料噴射を複数に分けて行うもので、ディーゼルエンジンにおいて、通常、圧縮行程の終期から膨張行程にかけて連続的に噴射する燃料を、複数回に分けて噴射する噴射方法に移行させることにより、制御された遅延噴射を容易に行うことが可能である。
連続再生式DPFの触媒の活性を確保するよう排気ガス温度を上昇させるには、ポスト噴射あるいはマルチ噴射は有効な手段であるけれども、これだけでは十分な温度上昇の得られない場合がある。そこで、連続再生式DPFの下流に絞り弁(下流絞り弁)を設け、ポスト噴射等による強制再生を実施するときに、下流絞り弁の開度を小さくして排気通路を絞り、連続再生式DPF内からの熱の放散を防いでこれを保温することにより、触媒の活性化を図ってDPFの再生を促進する手段が考えられる。このように、連続再生式DPFと下流絞り弁とを組み合わせたディーゼルエンジンの排気ガス後処理装置は、例えば特開2003−343287号公報に示されるように、公知のものである。下流絞り弁で排気を絞るとエンジン背圧が上昇し、エンジンに作用する負荷が増大する関係で、燃料噴射量が増加してさらに排気ガス温度の上昇をもたらすことともなる。
大型トラック等では、そのディーゼルエンジンの排気系に排気ブレーキ弁を設け、減速運転中のブレーキを補助するものが多いが、排気ブレーキのための排気絞り弁を有するディーゼルエンジンに、上記の連続再生式DPFと下流絞り弁とを組み合わせる排気ガス後処理装置を適用することも公知であって、例えば特開2003−90209号公報に記載されている。このときは、連続再生式DPFの上流側と下流側にそれぞれ排気絞り弁が配置されることとなる。なお、排気系に設置される排気絞り弁としては、制動力を増強させる排気ブレーキ以外のものも存在し、例えば特開2000−337173号公報に記載の技術は、エンジンの暖機促進のため排気系に排気絞り弁を設けるものである。ここでは、図4に基づいて、連続再生式DPFと下流絞り弁とを組み合わせた排気後処理装置を備え、さらに、上流側に排気ブレーキのための排気絞り弁を有するディーゼルエンジンについて説明する。
図4は、排気系に排気ブレーキを設け、連続再生式DPFと下流絞り弁を有するディーゼルエンジンを概略的に表すものである。ディーゼルエンジン本体1のシリンダ内には、エアクリーナ2及び吸気管3を介して空気が供給される。また、シリンダ内には、圧縮行程の終期に燃料噴射ノズル4から燃料が噴射され、噴射された燃料は、圧縮された空気と混合してシリンダ内で燃焼し動力を発生させる。燃焼後の排気ガスは、排気管5に排出されるとともに、その一部はEGR通路6を介して吸気管3に再循環される。再循環は主にNOxの発生防止を目的で行われるものであって、再循環される排気ガスの量はEGRバルブ7により制御される。
排気管5には、流体圧アクチュエータにより操作される排気ブレーキ弁16が設置される。この排気ブレーキ弁16は、減速中に車両の制動力を増強するものであり、流体圧アクチュエータに導入される作動流体を電磁弁161で制御し、これを閉じて排気ガスを絞ると、排気ガスの圧力が上昇してディーゼルエンジンには大きな負荷トルクが作用し、エンジンによる制動力を大幅に高めることができる。車両の減速時以外には、排気ブレーキ弁16は全開となっている。
また、排気管5には、連続再生式DPF8が設置され、その下流には、やはり流体圧アクチュエータにより操作される下流絞り弁9が設置されている。この下流絞り弁9は、流体圧アクチュエータに導入される作動流体を電磁弁91により制御し、ディーゼルエンジンの通常運転中には全開に保持されている。連続再生式DPF8は、セラミック体の軸方向に多数の通路を形成したDPF81と、その上流に配置された酸化触媒82とを備えている。さらに、連続再生式DPF8には、DPF81の上流側圧力と下流側圧力との差圧を検出する差圧センサ83、酸化触媒81の上流側の排気ガス温度を検出する入口温センサ84及び出口側(DPF81の入口側)の温度を検出する出口温センサ85が設置されており、これらセンサの検出信号は、エンジン制御装置10(ECU)に入力される。
ディーゼルエンジンの稼動中は、燃料噴射ノズル4から噴射された燃料がシリンダ内で燃焼し、燃焼後の排気ガスが排気管5に排気される。排気ガスの一部は、EGR通路6を経て吸気管3に還流されるが、残りの排気ガスが連続再生式DPF8を通過する際に、その中のPMは、DPF81に形成された多数の軸方向通路間の壁面に捕捉され、DPF81の下流にはPMが除去された排気ガスが送り出される。DPF81に捕集され堆積したPMは、ディーゼルエンジンの通常運転中には、酸化触媒82の作用で高温となった排気ガスにより、排気ガス中の酸素等と化合し、酸化・除去される。
しかし、ディーゼルエンジンが長時間低負荷で運転された場合は、排気ガスの温度が低下して酸化触媒82の活性が下がり、捕集されたPMの堆積量が増大し、これに伴い、DPF81の上流側圧力と下流側圧力との差圧が増加する。酸化触媒82の入口温センサ84及び出口温センサ85によって検出された温度が低下し、さらに、差圧センサ83によって検出した差圧が所定値を超えたときは、DPF81を強制再生するため、排気ガスの温度を上昇させるよう、ECU10がポスト噴射を行わせる指令を出力する。
ポスト噴射による排気ガスの温度上昇は、車両走行中において実施されるが、触媒が活性化しないようなエンジンの低負荷領域においては、ECU10は、排気絞り弁9の開度を小さくするため電磁弁91に指令を出し、排気ガスの流れを強く絞る制御を行う。これによって連続再生式DPF8の下流が絞られ、連続再生式DPF8内が保温されるとともにエンジンに作用する負荷が増大するので、酸化触媒82が十分に活性化しDPF81の再生が進行する。
特開2003−343287号公報
特開2003−90209号公報
特開2000−337173号公報
前述のように、連続再生式DPFに捕集されたPMを酸化・除去するには、ポスト噴射等による排気ガスの高温化と下流絞り弁とを併用するのが効果的である。ただし、排気管に下流絞り弁を設けて、DPFの強制再生時にこれの開度を小さくすると、ディーゼルエンジンの排気抵抗が非常に増大し運転に多大な影響を及ぼすことになる。したがって、強制再生において排気絞り弁を併用する場合には、交差点等において車両が停車している時に、ディーゼルエンジンをアイドル運転として行うことが望ましい。また、運転者が強制再生のために車両を意図的に停車させ、排気絞り弁を併用する強制再生を実施することもできる。
下流絞り弁を併用する強制再生の運転が終了したときには、ディーゼルエンジンを通常運転に戻すため下流絞り弁を全開に復帰させる必要がある。下流絞り弁の閉鎖時はエンジンの排圧が高く燃料消費率が悪化しており、また、停車した車両を迅速に再走行させる必要性などから、下流絞り弁の全開への復帰はなるべく短時間で行うことが望ましい。ところが、連続再生式DPFの下流に設置された下流絞り弁では、これを急速に全開まで戻したときには、耳障りな大きな騒音が発生することが判明した。
下流絞り弁を閉鎖してポスト噴射等の強制再生を行うと排気管の上流側に高圧の排気ガスが滞留する。上記の騒音は、下流絞り弁の開放に伴って、滞留した排気ガスが瞬時に大気圧付近まで圧力降下を起こして出口側の排気管に流れ込み、この際に発生する衝撃的な圧力波に起因するものである。そして、連続再生式DPF等の排気ガス後処理装置は、排気管に比べると断面積が大きく大容量の排気ガスが貯留されることとなるので、騒音は一層激しいものとなる。本発明は、排気ガス後処理装置の下流に下流絞り弁を備え、排気ガス後処理装置の上流にも排気ブレーキ弁等の排気絞り弁が配置されたディーゼルエンジンにおいて、下流絞り弁の全開復帰時の騒音を低減させることを課題とする。
上記の課題に鑑み、本発明は、排気ガス後処理装置における強制再生が終了した後、下流絞り弁(第1の排気絞り弁)を全開まで復帰させる際の騒音を低減させること目的とし、強制再生の運転が終了したときは、上流の排気ブレーキ弁等(第2の排気絞り弁)を閉じた後に下流絞り弁を開放し、その後排気ブレーキ弁等を開くものである。すなわち、本発明は、
「排気ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタと、その上流側に設置された触媒とを有する連続再生式DPFを備えており、前記連続再生式DPFの下流側には第1の排気絞り弁が設置され、さらに、前記連続再生式DPFの上流側には第2の排気絞り弁が設置されたディーゼルエンジンにおいて、
前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタに堆積した粒子状物質を酸化除去しこれを再生するため、前記第1の排気絞り弁の開度を小とした状態で前記ディーゼルエンジンを運転した場合には、前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタの再生の運転が終了した時点において、前記第2の排気絞り弁の開度を小とした後に前記第1の排気絞り弁の開度を大とし、次いで、前記第2の排気絞り弁の開度を大とする」
ことを特徴とするディーゼルエンジンとなっている。
前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタの再生を、前記排気絞り弁の開度を小とした状態で前記ディーゼルエンジンを運転して実行する場合は、請求項2に記載のように、車両が停車しているときに前記ディーゼルエンジンをアイドル状態で運転するよう設定されていることが望ましい。
前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタを再生するときは、排気ガスの温度を上昇し酸化反応等を促進させるため、請求項3に記載のように、ディーゼルエンジンの膨張行程又は排気行程において燃料噴射ノズルから燃料を噴射するポスト噴射により燃料を添加することができる。
ところで、PMの発生量及びDPFへの堆積量は車両の運転状況によって異なり、強制再生の必要性の判断は困難な面がある。そこで、請求項4のように、PMが前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタに所定量以上堆積したときは、これを運転者に知らせる警報装置が設置されていることが好ましい。
DPFの上流に触媒を備えた連続再生式DPFであっても、排気ガスの温度低下による触媒の活性低下に起因して、DPFの強制再生の必要性が生じることがある。DPFの強制再生では、排気絞りを併用するのがより効果的であり、本発明は、DPFの強制再生のため、第1の排気絞り弁である下流絞り弁の開度を小とした状態で、排気ブレーキ弁等を装着したディーゼルエンジンを運転する場合において、下流絞り弁を全開に戻す際の騒音を低下させるために有効なものである。
すなわち、本発明では、PMがDPFに所定量以上堆積しこれを下流絞り弁の開度を小として強制再生をしたときには、再生の運転の終了時には、上流に装着された第2の排気絞り弁である排気ブレーキ弁等の開度を小さくした後に、下流絞り弁の開度を大として全開に復帰させる。下流絞り弁の開放に伴う騒音は、その上流に貯留された高圧の排気ガスの急激な圧力降下によるものであり、圧力降下を生じる排気ガスの量が大容量であるほど甚だしいものとなる。下流絞り弁の開放に先立ち排気ブレーキ弁等の開度を小としたときは、排気ブレーキ弁等の上流に滞留された排気ガスは圧力降下を生じることはなく、したがって、圧力降下を起こす排気ガスの量が大幅に減少するので、発生する騒音を低減することが可能となる。
下流絞り弁が開放されると、次いで、開度が小となった排気ブレーキ弁等を全開に戻す。このときは、排気ブレーキ弁等の上流に貯留された排気ガスの圧力降下に伴い、やはり騒音が発生するが、開放される排気ガスの量はその上流に貯留された分に限られるから、騒音はそれほど大きなものとはならない。なお、排気ブレーキ弁等の開弁は、下流絞り弁の全開を待って行われる必要はなく、騒音発生の問題がない程度であれば、下流絞り弁の開放開始後早期に排気ブレーキ弁等を開弁することができる。
このように、本発明は、強制再生時に下流絞り弁の上流に貯留される排気ガスを、排気ブレーキ弁等の排気絞り弁を利用して、いわば2段階に分割して圧力の開放を行わせ、騒音を低減するものである。そして、この騒音低減は、排気系に装備される排気ブレーキ弁あるいは暖機促進用の絞り弁等の操作によって可能であって、こうした排気絞り弁をもともと有するエンジンでは何ら付加的な装置を要することなく実施できる。
ディーゼルエンジンの排気系に装備される連続再生式DPFの再生を、下流絞り弁の開度を小とした状態で実行する場合には、エンジンに作用する負荷が増大し車両の運転に大きな影響を及ぼす。請求項2に記載のように、この再生を、車両が停車したときにディーゼルエンジンをアイドル状態で運転して行うようにすると、車両運転への影響を回避することが可能となる。
DPFの強制再生において、排気ガスの温度を上昇し酸化反応を促進させるため、請求項3に記載のように、燃料噴射ノズルから燃料を噴射するポスト噴射により燃料を添加するときは、もともとディーゼルエンジンに装備された燃料噴射ノズルから供給するので、燃料添加のための特別な装置を要しない。
請求項4のように、PMが前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタに所定量以上堆積したときに、これを運転者に知らせる警報装置を設置されていると、運転者は確実に強制再生の必要性を判断できることとなり、適切な対処が可能となる。
以下、図面に基づいて、本発明のディーゼルエンジンの排気ガス後処理装置について説明する。図1は、本発明にかかるディーゼルエンジンの排気ガス後処理装置の概略図であり、従来例(図4)の部品、装置に対応するものには、同一の番号が付してある。
本発明のディーゼルエンジンの排気ガス後処理装置を構成する基本的な機器及びその操作方法は、図4に示す従来の装置と格別異なるものではない。すなわち、ディーゼルエンジン本体1のシリンダ内では、燃料噴射ノズル4から噴射された燃料が、吸気管3から供給された空気と混合して燃焼し、燃焼した後の排気ガスは排気管5に排出される。排気ガスの一部は、EGR通路6から吸気管3へ還流され、シリンダ内へ再循環される。ちなみに、ディーゼルエンジンは、燃料貯蔵管(コモンレール)から電磁弁制御の燃料噴射ノズルによってエンジンの各シリンダに燃料を噴射する、いわゆるコモンレール式燃料噴射装置を備え、非常に高圧の燃料を、噴射量、噴射時期等を精密に制御しながら噴射することが可能なものとなっている。
排気管5には、DPF81とその上流の酸化触媒82とを有する連続再生式DPF8が設置されている。DPF81は、コーディエライト等から成る多孔質のセラミック体に多数の通路が平行に形成され、通路の入口と出口が交互に閉鎖された、いわゆるウォールフロー型と呼ばれるハニカムフィルタであって、排気ガスが通路間の壁面を通過する際にそれに含まれるPMを捕集する。
また、酸化触媒82は、例えばハニカム状のコーディエライトから成る担体の表面に、活性アルミナ等をコートしてウォッシュコート層を形成し、このコート層に白金、パラジウム又はロジウム等の貴金属からなる触媒活性成分を担持させたものが使用される。この酸化触媒82は、排気ガス中の未燃焼成分であるHCとCOを酸化してH2OとCO2を生成させ、あるいはNOを酸化してNO2を生成させる。酸化触媒82のこうした反応過程では熱が発生し排気ガスの温度が上昇するため、DPF81に捕集されたPMが酸化・除去され、通常は、DPF81は連続的に再生されることとなる。なお、DPF81又は酸化触媒82としてその他の慣用されている装置を使用することは当然可能であり、例えば、DPF81としては、その通路の表面に上記の酸化触媒と同様な触媒などをコーティングしたDPFを用いることもできる。
連続再生式DPF8の下流には第1の排気絞り弁である下流絞り弁9が設置され、その上流には第2の排気絞り弁である排気ブレーキ弁16が装着されている。これらの排気絞り弁は慣用されているバタフライバルブであって、これを開閉する流体圧アクチュエータを備え、電磁弁91、161を介して導入される作動流体によって操作される。ディーゼルエンジンの通常運転中には、これらの排気絞り弁は全開に保持され、ディーゼルエンジンの排気抵抗の増大を防止している。連続再生式DPF8には、図4の従来例と同様に、DPF81の上流側圧力と下流側圧力との差圧を検出する差圧センサ83、酸化触媒81の入口側と出口側の排気ガス温度をそれぞれ検出する入口温センサ84及び出口温センサ85が設置されており、これらセンサの検出信号は、エンジン制御装置10(ECU)に入力される。
前述したように、ディーゼルエンジンが長時間低負荷で運転された場合は、排気ガスの温度が低下して酸化触媒82の活性が下がり、DPF81に捕集されたPMの堆積量が増大するため、噴射燃料の増加あるいはポスト噴射等の手段によりDPF81の強制再生を行う必要がある。このような強制再生は、主に車両の走行中にいわば自動的に実施するよう設定され、また、交差点等での車両の一時停車によりエンジンがアイドル運転となったときは、下流絞り弁9を絞り位置として強制再生を行うよう設定されている。しかし、車両の運転状況によっては、DPFの堆積量が多量となって、意図的に車両を停車させ下流絞り弁9を併用する強制再生が必要となることがある。強制再生中に開度を小さくした下流絞り弁9を全開に戻す時に騒音が発生するのは、車両運行中の一時停車であれ意図的な停車であれ同じことであるので、ここでは、意図的な停車及びその後の下流絞り弁9の全開復帰を例にとり、本発明について説明する。
本発明の排気ガス後処理装置では、意図的に車両を停車させエンジンをアイドル運転として、下流絞り弁9を併用する強制再生を実行するために運転者が操作するマニュアル再生スイッチ11を設け、さらに、このような強制再生の必要性を運転者に知らせるパイロットランプ12及びウォーニングランプ13を設置している。
排気ガスの温度の低下に起因してDPF81に捕集されたPMの堆積量が増大すると、DPF81の上流側圧力と下流側圧力との差圧が増加する。本発明では、酸化触媒82との入口温センサ84と出口温センサ85により検出された温度が所定値以下となり、差圧センサ83によって検出した差圧が第1所定値を超えたときは、パイロットランプ12を点滅させ、下流絞り弁9を併用する強制再生のため、車両を停車させてマニュアル再生スイッチ11を押すよう運転者に促す。
パイロットランプ12の点滅に応じて運転者がマニュアル再生スイッチ11を押すと、排気ガス後処理装置の制御装置は強制再生の待機状態となる。このとき、運転者が車両を停止してアクセルペダルを戻し、ディーゼルエンジンをアイドル運転状態としていると、下流絞り弁9を併用するDPF81の強制再生が開始される。この制御を行うため、ECU10に入力されるアクセルペダルポジションセンサ14の検出信号及びエンジン回転数センサ15からの回転数信号が利用される。
この強制再生においては、電磁弁91を切り換えて流体圧アクチュエータに作動流体である負圧を導くことにより、下流絞り弁9の開度を小さくして排気管5を強く絞るとともに、ディーゼルエンジンをアイドル状態に維持するようアイドル回転数を目標値とするフィードバック制御が実行される。このときは、連続再生式DPF8の上流にある排気ブレーキ弁16は、電磁弁161により全開に保持されている。
上記のフィードバック制御では、回転数の目標値がアイドル回転数であったとしても、排気管5の絞りによりディーゼルエンジンに作用する負荷が増大しているので、通常のアイドル状態よりも多くの燃料が噴射され、その結果、排気ガスの温度が高まる。また、排気ガスの温度をさらに上昇させるため、この実施例では、マルチ噴射とポスト噴射の両方の手段を使用する。すなわち、まずマルチ噴射への移行によって、圧縮行程終期から膨張行程で噴射する燃料の噴射時期を実質的に遅延させて排気ガスの温度を上昇させる。マルチ噴射により、酸化触媒82の入口温センサ84の温度が一定値以上に上昇した後に、ディーゼルエンジンの膨張行程又は排気行程においてポスト噴射を実施する。このように予め排気ガスの温度を高めると、ポスト噴射で添加された燃料の、酸化触媒82における良好な酸化反応が確保され、DPF81の再生が円滑に行われる。ポスト噴射の噴射量を多段階に分け、酸化触媒82の温度上昇に応じて噴射量を増やすなど、より精密な調整をすることもできる。
パイロットランプ12の点滅にもかかわらず、何らかの都合で運転者がマニュアル再生スイッチ11を操作せず、あるいは強制再生を実行しないと、DPF81にはPMの堆積が続き差圧センサ83によって検出した差圧がさらに増加する。PMの堆積量の増大に伴い差圧が第2所定値に達したときは、パイロットランプ12の点滅の周期を短くし速い点滅として、運転者に早期の強制再生を促すようにする。これによっても運転者が強制再生を実施せず、PMの堆積が継続して差圧が第3所定値に達した場合には、ウォーニングランプ13を点灯させる。ウォーニングランプ13によって運転者に警告を与えるのは、この状態ではDPF81には大量のPMが堆積しており、強制再生を行うとPMの酸化燃焼で発生する熱量が過大となって、DPF81等が損傷する恐れがあるためである。ウォーニングランプ13が点灯したときは、運転者は車両を整備工場等に搬入し、ここでは、いわゆる逆洗や長時間を掛けた燃焼等の方法により、堆積したPMを除去することとなる。このように、本発明の排気後処理装置は、PMの堆積量に応じて3段階の警報手段を設け、運転者にきめ細かな強制再生の指示を与えるものとなっている。
ここで、本発明による下流絞り弁9の開放時における排気ガス後処理装置の作動について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。強制再生が開始され、ポスト噴射によるPMの酸化・除去が一定時間継続すると、DPF81の再生が完了する。再生完了後は、ポスト噴射を停止し、さらに、電磁弁91を介し流体圧アクチュエータに大気圧を導入して、下流絞り弁9を全開に復帰させることになる。本発明では、下流絞り弁9の開度を大とする前に、まず、強制再生時に全開となっていた排気ブレーキ弁16の開度を小とする。すなわち、図2において、強制再生の完了に応じてECU10の中で下流絞り弁9を開とする信号が発生すると、ECU10は、電磁弁161に排気ブレーキ弁16の開度を小とする指令を出力する(S1)そして、所定の時間が経過し排気ブレーキ弁16の開度が低下した時点で、下流絞り弁9の開放を開始する(S2、S3)。
前述したとおり、連続再生式DPF8の下流に設置した下流絞り弁9の開度を全開とする際には、その中に貯留されていた高圧の排気ガスの急激な開放に伴い、大きな騒音が発生する。この騒音は、排気ガスの急激な圧力降下に起因するので、貯留されていた排気ガス量が大容量であるほど大きなものとなる。ディーゼルエンジン本体1の直後には排気マニホールドが接続されており、排気ブレーキ弁16の上流側の排気系の容量も相当に大きく、下流絞り弁9の開度を小とした強制再生時には、当然、この部分にも排気ガスが滞留する。
本発明においては、下流絞り弁9の開放に先立って排気ブレーキ弁16の開度を小とする。したがって、下流絞り弁9の開放によって圧力降下を起こす排気ガスは、排気ブレーキ弁16と下流絞り弁9との間に貯留されていたもの、主に連続再生式DPF8内に貯留されていた排気ガスである。このため、先行して排気ブレーキ弁を閉鎖しないものと比較すると、圧力降下を起こす排気ガスの量が大幅に減少し、その分発生する騒音を低減することが可能となる。しかも、この騒音低減は、ディーゼルエンジンに元来装備されている排気ブレーキ弁等の操作によって可能なものであって、何ら付加的な装置を要することなく実施できる。
下流絞り弁9の開放を開始した後、所定の時間が経過すると、排気ブレーキ弁16を開放する(S4、S5)。これにより、排気絞り弁である下流絞り弁9及び排気絞り弁16は共に全開に復帰し、ディーゼルエンジンは通常の運転に差し支えのない状態となる。なお、排気ブレーキ弁16を開放する際は、その上流に貯留されていた排気ガスが、圧力降下を起こすことに伴い、やはりある程度音響が発生する。しかし、このときの排気ガスの量は、上流に貯留された分に限られ、また、音響は連続再生式DPF8で部分的に吸収されるから、外部に伝わる音は相当減殺される。なお、上述の実施例は、意図的に車両を停車して強制再生のためエンジンを運転させた場合のものであるが、車両運行中の一時停車において、下流絞り弁9を併用する強制再生の運転が終了したときの全開復帰にも、当然、本発明が適用可能である。
図3には、本発明に基づき、下流絞り弁9の開放に先行して排気ブレーキ弁16の開度を小としたときの騒音レベルの推移(実線)を、これを実施しない従来のもの(破線)と比較して示している。この図から、従来のものにあっては、下流絞り弁9の開放時に騒音レベルが非常に高まっているのに比べ、本発明のものでは、排気ブレーキ弁16の操作時に多少騒音が増加するものの、下流絞り弁9の開放時の騒音レベルは大幅に減少していることが分かる。なお、下流絞り弁9と排気ブレーキ弁16が共に開放されると、排圧が低下してほぼ大気圧となりディーゼルエンジンは通常のアイドル運転状態に復帰するので、騒音レベルも、排圧の高い強制再生時よりは低下している。
以上詳述したとおり、本発明は、排気ガス後処理装置として、連続再生式DPFを備えその下流に第1の排気絞り弁を有し、さらに、上流に第2の排気絞り弁を有するディーゼルエンジンにおいて、排気絞り弁を閉じてDPFに堆積したPMを除去する強制再生が終了した後、第1の排気絞り弁を全開まで復帰させる時の騒音を低減させることを目的とし、第1の排気絞り弁の全開復帰に先立って第2の排気絞り弁の開度を小とすることを特徴とする。したがって、第2の排気絞り弁としては、排気ブレーキ弁等の既存の絞り弁に限らず、本発明の実施のために新たに設ける排気絞り弁を利用することもできる。
また、連続再生式DPFとしては、前述の実施例で説明したような触媒を別体としてDPFの上流に設置するものに限らず、例えばDPFの表面に触媒をコーティングした連続再生式DPFに対しても本発明が適用できる。さらに、強制再生における排気ガス温度の上昇手段は、例えば排気系に取り付けた燃料添加装置を用いるなど、ポスト噴射あるいはマルチ噴射以外の手段が採用できることも明らかである。
本発明に基づくディーゼルエンジンの排気ガス後処理装置の概略図である。
本発明の排気ガス後処理装置の制御作動を示すフローチャートである。
本発明による騒音の低下を示すグラフである。
従来のディーゼルエンジンの排気ガス後処理装置を示す概略図である。
符号の説明
1 ディーゼルエンジン本体
4 噴射ノズル
5 排気管
6 EGR通路
8 連続再生式DPF
81 DPF
82 酸化触媒
83 差圧センサ
9 下流絞り弁(第1の排気絞り弁)
10 エンジン制御装置(ECU)
11 マニュアル再生スイッチ
12 パイロットランプ
13 ウォーニングランプ
16 排気ブレーキ弁(第2の排気絞り弁)