以下この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明による直噴形エンジンの制御装置の実施の形態1の全体の構成図である。まず、図1を参照して、実施の形態1の直噴形エンジンの制御装置の全体的な構成を説明する。この実施の形態1の直噴形エンジンの制御装置は、直噴形エンジン10と、その制御装置80を含む。
直噴形エンジン10は、スプレーガイド燃焼モードで運転されるように構成される。この発明では、スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10の運転モードが、ノーマルモードNMと、燃焼安定度回復モードRMを含む。これらのノーマルモードNMおよび燃焼安定度回復モードRMでは、直噴形エンジン10は、いずれもスプレーガイド燃焼モードで運転され、ノーマルモードNMで、その運転時間が増大して、燃焼安定度が低下した場合に、燃焼安定度回復モードRMに切替えられる。
直噴形エンジン10は、エンジン本体20と、その吸気系60と、その排気系70を含む。エンジン本体20は、例えば4気筒4サイクルのガソリンエンジンであり、吸気、圧縮、燃焼(爆発)、排気の各行程を繰り返す。このエンジン本体20は、4つの気筒21を有するが、図1には、その1つの気筒21を代表として図示している。各気筒21は、互いに同じに構成される。この気筒21は、燃焼室22と、ピストン25と、吸入弁26と、排気弁28と、燃料インジェクタ30と、燃料ポンプ40と、点火プラグ45と、クランク軸50と、コネクティングロッド51と、エンジン回転センサ55を有する。
燃焼室22は、シリンダ23と、シリンダヘッド24と、ピストン25により構成される。シリンダ23は円筒形に構成され、シリンダヘッド24は、シリンダ23の上部を閉鎖するように、シリンダ23の上部にそれと一体に形成される。ピストン25は、シリンダ23の内部に、その軸線L−Lの方向に往復運動が可能なように嵌め込まれる。燃焼室22は、シリンダ23と、シリンダヘッド24と、ピストン25により囲まれた空間に形成される。
シリンダヘッド24には、吸気弁26と、排気弁28と、燃料インジェクタ30と、点火プラグ45が配置される。吸気弁26は、クランク軸50とともに回転する吸気制御カム(図示せず)により駆動され、クランク軸50の回転と同期して吸気口27を開閉する。排気弁28は、クランク軸50とともに回転する排気制御カム(図示せず)により駆動され、クランク軸50の回転と同期して排気口29を開閉する。
燃料インジェクタ30は、例えばシリンダヘッド24の中心に配置される。この燃料インジェクタ30は、燃料管41を通じて燃料ポンプ40に連結され、燃料ポンプ40から燃圧fpに加圧された燃料の供給を受ける。燃料ポンプ40は、電動式燃料ポンプであり、図示しないバッテリ電源から給電を受ける燃料駆動モータを内蔵し、この燃料駆動モータで燃料に燃圧fpを与え、燃料管41を通じて燃料インジェクタ30に供給する。燃料ポンプ40には、制御装置80から燃圧指示信号IPが供給される。この燃圧指示信号IPは、燃料ポンプ40から燃料インジェクタ30に供給される燃料の燃圧fpを、ノーマル燃圧fpnと回復モード燃圧fprに切替える。
ノーマル燃圧fpnと、回復モード燃圧fprは、fpr>fpnの関係に設定される。回復モード燃圧fprは、ノーマル燃圧fpnの1.5〜3.0倍に設定される。具体的には、ノーマル燃圧fpnは、例えば10メガパスカル、回復モード燃圧fprは、例えば20メガパスカルに設定される。直噴形エンジン10が、燃焼安定度回復モードRMで運転されるときには、燃圧指示信号IPは、燃料ポンプ40が、回復モード燃圧fprの燃料を燃料インジェクタ30に供給するように燃料ポンプ40を制御するが、この燃焼安定度回復モードRM以外のノーマルモードNMでは、ノーマル燃圧fpnを維持するように、燃料ポンプ40が制御される。燃料管41には、圧力センサ42が配置される。この圧力センサ42は、燃料インジェクタ30に供給される燃料の圧力、すなわち燃圧fpを表わす燃圧検出信号FPを発生し、この燃圧検出信号FPを制御装置80へ供給する。
制御装置80から燃料インジェクタ30へ燃料噴射制御信号FCが供給される。燃料インジェクタ30は、燃料噴射制御信号FCに基づいて、制御された燃料噴射タイミングで燃焼室22に燃料を噴射する。具体的には、燃料インジェクタ30は、燃料噴射制御信号FCにより制御された燃料噴射開始タイミングtaで燃料室22への燃料噴射を開始し、また燃料噴射制御信号FCに基づいて制御された燃料噴射終了タイミングtbで燃料噴射を終了する。燃料インジェクタ30は、燃料噴射開始タイミングtaと燃料噴射終了タイミングtbとの間の燃料噴射時間tcを通じて、燃料を燃焼室22の直接噴射し、燃焼室22内の点火プラグ45の近傍に、燃料と空気からなる噴霧成層混合気を生成する。燃焼室22へ噴射される燃料量は、燃圧fpと燃料噴射時間tcに比例する。燃圧fpは、燃圧指示信号IPにより決定され、燃料噴射時間tcは、燃料噴射制御信号FCにより制御される。
点火プラグ45は、例えば燃料インジェクタ30と排気口29との間に配置される。この点火プラグ45は、ベース電極46と、これに放電ギャップ47を介して対向する対向電極48を有する。この点火プラグ45には、点火回路49が接続され、この点火回路49には、制御装置80から点火制御信号IGが供給される。点火回路49は、制御装置80からの点火制御信号IGにより制御された点火タイミングtiで、高圧点火電圧を発生し、この高圧点火電圧を点火プラグ45に供給する。点火プラグ45は、点火タイミングtiで、点火回路49からの高圧点火電圧に基づいて、放電ギャップ47に点火スパークを発生し、燃焼室22内の噴霧成層混合気に点火して、それを燃焼させる。
点火プラグ45は、制御装置80へイオン電流信号IOを供給する。点火プラグ45のベース電極46と対向電極48の間には、例えば300ボルトの低圧直流電圧が常時印加され、この低圧直流電圧に基づいて、ベース電極46と対向電極48との間に流れるイオン電流をイオン電流信号IOとして、制御装置80に供給する。このイオン電流信号IOは、燃焼室22内の混合気の燃焼状態に対応して、大きさが変化する。
クランク軸50は、ピストン25の下方に配置される。コネクティングロッド51は、ピストン25とクランク軸50を連結し、シリンダ23内におけるピストン25の往復運動をクランク軸50の回転運動に変換する。クランク軸50の外周には、エンジン回転センサ55が配置される。このエンジン回転センサ55は周知であるので、詳細な説明は省略するが、クランク軸50の回転に伴ないエンジン回転信号RSを発生し、制御装置80に供給する。エンジン回転センサ55は、例えばクランク軸50の1回転当たり、36個のパルスを発生し、このパルスをエンジン回転信号RSとして、制御装置80に供給する。
吸気系60は、吸気管61と、スロットルバルブ63と、スロットルアクチュエータ64を含む。吸気管61は、空気吸込口62と、吸気口27とを連結する。空気吸入口62から空気AIRが取り込まれる。スロットルバルブ63は、吸気管61の途中に配置される。スロットルアクチュエータ64は、D.Cモータまたはステッピングモータを有し、スルットルバルブ63を駆動する。
スロットルアクチュエータ64は、制御装置80からスロットル駆動信号TDを受け、このスロットル駆動信号TDにより駆動される。スロットル駆動信号TDは、アクセルポジションセンサ65から制御装置80に供給されるアクセルポジション信号APに応じて決定される。アクセルポジションセンサ65は、直噴形エンジン10に付属するアクセルペダル66の踏込度合を検出し、このアクセルペダル66の踏込度合に対応するアクセルポジション信号APを制御装置80に供給する。制御装置80は、アクセルポジション信号APに基づき、スロットル駆動信号TDを発生し、スロットルアクチュエータ64はこのスロットル駆動信号TDに応じてスロットルバルブ63の開度を制御し、燃焼室22への吸入空気量を調整する。
排気系70は、排気管71と、三元触媒73と、リーンNOx触媒74と、空燃比センサ75を含む。排気管71は、排気口29と、排気ガス排出口72とを連結する。排気ガス排出口72から、排気ガスEXGが排出される。三元触媒73は、排気管71の上流側に配置される。この三元触媒73は、燃焼室22内において、燃料が理論空燃比で完全燃焼したときに、排気ガス中に含まれるCO、HC、NOxの有害ガス成分を同時に酸化還元して、排気ガスを浄化する。この三元触媒73は、空燃比が空気の過剰なリーン状態になれば、CO、HCの有害ガスを酸化して浄化する酸化触媒として働き、また、空燃比が燃料の過剰なリッチ状態になれば、NOxの有害ガスを還元して浄化する。
リーンNOx触媒74は、三元触媒73の下流に配置される。このリーンNOx触媒74は、空燃比がリーン状態になった場合に、三元触媒73で浄化されないNOxの有害ガス成分を触媒内貯蔵し、そのNOxの貯蔵量が限界に達するまで、NOxの排出を抑制する。リーンNOx触媒74に貯蔵されたNOxは、空燃比をリーン状態からリッチ状態に切替えることにより分解し、放出される。放出されたNOxは、リッチ状態での燃焼で酸素が存在しない排気ガス中に含まれるHC、COの還元剤によってリーンNOx触媒74上によってNOxパージされる。このNOxの貯蔵とNOxパージのサイクルを繰り返すことにより、リーンNOx触媒74は排気ガス中のNOxの有害ガスを浄化する。排気管71には、三元触媒73の上流側に空燃比センサ75が配置される。この空燃比センサ75は、排気口29から排気された排気ガスの空燃比を検出し、この空燃比に応じた空燃比信号A/Fを制御装置80に供給する。
制御装置80は、電子的な制御ユニット81で構成される。この制御ユニット81は、例えばマイクロプロセッサで構成され、CPU82と、メモリ83を有する。CPU82は、直噴形エンジン10の各種の制御を行う。燃圧検出信号FP、イオン電流信号IO、エンジン回転信号RS、アクセルポジション信号APおよび空燃比信号A/Fは、制御ユニット81に供給される。
制御ユニット81は、この発明の特徴として、スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10の運転モードを、ノーマルモードNMと燃焼安定度回復モードRMで制御する。CPU82は、燃焼状態検出手段85と、モード切替手段87を有する。燃焼状態検出手段85は、エンジン回転信号RSまたはイオン電流信号IOを使用して、燃焼室22の燃焼状態の変化に対応して燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを発生する。モード切替手段87は、燃焼安定度信号SCに基づき、スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10の運転モードを、ノーマルモードNMと燃焼安定度回復モードRMとの間で切替え、それらの各モードで直噴形エンジン10を制御する。また、制御ユニット81は、表示ランプなどの報知手段89を制御し、燃焼安定度回復モードRMで直噴形エンジン10を運転した場合に、燃焼安定度の回復が不可能なことを運転者に報知する。
モード切替手段87は、燃圧検出信号FPと燃焼安定度信号SCに基づいて、ノーマルモードNMと、燃焼安定度回復モードRMとを切替え、このノーマルモードNMと燃焼安定度回復モードRMのそれぞれに対応して、燃圧指示信号IPと、燃料噴射制御信号FCと、点火制御信号IGと、スロットル駆動信号TDを発生して直噴形エンジン10の制御を行なう。
ノーマルモードNMでは、次の制御が行なわれる。燃圧指示信号IPは、燃圧fpをノーマル燃圧fpnとするように、燃料ポンプ40を制御する。燃料噴射制御信号FCは、エンジン回転信号RSと、アクセルポジション信号APと、空燃比信号A/Fに基づき、燃料噴射タイミングta1、燃料噴射終了タイミングtb1を決定し、燃料インジェクタ30を制御する。点火制御信号IGは、エンジン回転信号RSと、アクセルポジション信号APに基づき、点火タイミングti1を決定し、点火回路49から点火プラグ45に高圧点火電圧を供給する。スロットル駆動信号TDは、アクセルポジション信号APに基づき、スロットルバルブ63の開度を決定し、スロットルアクチュエータ64を制御する。
燃焼安定度回復モードRMでは、燃圧指示信号IPは、燃圧fpを回復モード燃圧fprとするように、燃料ポンプ40を制御し、併せて、点火制御信号IGは、ノーマルモードNMにおける点火タイミングti1よりも早い点火タイミングti2を与えるように制御する。また、燃料噴射制御信号FCは、燃圧fpの上昇に伴ない、ノーマルモードNMにおける燃料噴射時間tc1よりも短縮された燃料噴射時間tc2を与えるように制御する。その他は、ノーマルモードNMと同様な制御が行なわれる。
さて、スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10と、そのノーマルモードNMと燃焼安定度回復モードRMについて、さらに詳細に説明する。まず、燃料インジェクタ30の詳細と、この燃料インジェクタ30により形成される噴霧成層混合気について、図2から図5を参照して説明する。図2は、燃焼室22をさらに拡大して示す断面図であり、図3は、燃料インジェクタ30の先端部分の拡大図である。燃料インジェクタ30は、図2に示すように、シリンダヘッド24の中心部に形成された取付孔31に、先端部を嵌め込んで固定される。取付孔31の中心は、シリンダ23の軸線L−Lと一致する。燃料インジェクタ30は、具体的にはマルチホール形の燃料インジェクタであり、図3に示すように、先端部に燃料噴射板32を有し、この燃料噴射板32には、軸線L−Lを中心として、6つの燃料噴射口33が形成される。これらの燃料噴射口33は、軸線L−Lの周りに、図2に示す6つの噴霧成層混合気35を形成する。
燃料インジェクタ30によって形成される噴霧成層混合気35について、図2、図3を参照して説明する。図2は、燃料インジェクタ30の燃料噴射口33およびその近傍に、デポジットが堆積されていない状態における噴霧成層混合気35を示している。直噴形エンジン10が新品であるか、またはメンテナンスの終了直後の状態では、デポジットが堆積しておらず、燃料インジェクタ30は、図2に示す形状で噴霧成層混合気35を形成する。燃料インジェクタ30は、6つの燃料噴射口33のそれぞれから同時に燃料を噴射することにより、合計6本の噴霧成層混合気35を同時に形成する。各噴霧成層混合気35は、それぞれ各燃料噴射口33から噴射された燃料が、粒子に***し、さらに蒸発し空気を取り込んで形成される。図2において、各噴霧成層混合気35の噴霧角をαとする。
各噴霧成層混合気35は、それぞれ液相優勢領域36と、気相優勢領域37を含む。液相優勢領域36は、燃料噴射口33から噴射された燃料が粒子に***したものの、まだ蒸発が不充分で液相噴霧を多く含む領域である。気相優勢領域37は、燃料噴射口33から噴射された燃料が粒子に***し、さらに蒸発が進み、燃料粒子が気化した気相燃料を多く含む領域である。気相優勢領域37は、各液相優勢領域36の外周を取り囲むように形成される。6本の噴霧混合気35について、それぞれの気相優勢領域37は、隣接する各噴霧混合気35の間で互いに繋がるように形成され、その結果、軸線L−Lの周りで連続する筒形状の噴霧混合気35が形成される。
6つの燃料噴射口33中の1つの燃料噴射口33aは、点火プラグ45の近傍に向けて燃料を噴射し、この燃料噴射口33aから噴出された燃料が、点火プラグ45の近傍に噴霧成層混合気35aを形成する。燃料噴射弁30の燃料噴射口33およびその近傍にデポジットが堆積していない状態では、図2に示すように、噴霧成層混合気35aの気相優勢領域37が点火プラグ45の放電ギャップ47を覆うように、噴霧成層混合気35aが形成される。
さて、スプレーガイド燃焼モードは、各気筒21の吸気行程または圧縮行程で燃料を噴射して噴霧成層混合気35を形成し、この噴霧成層混合気35が余り周囲に拡散しない状態で、言い換えれば、拡散度合が小さい噴霧成層混合気35に点火プラグ45で点火する。
図4(a)は、スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10のノーマルモードNMのタイムシーケンスを例示する。図4の横軸は、クランク軸50の回転角度であり、この横軸に沿って、各気筒21の吸気行程とそれ続く圧縮行程が示される。クランク軸50の回転角度が0度であるとき、ピストン25は吸気上死点にあり、クランク軸50の回転角度が180度であるとき、ピストン25は下死点にあり、またクランク軸50の回転角度が360度であるとき、ピストン25は圧縮上死点にある。吸気行程は、クランク軸50の回転角度が0〜180度の範囲であり、圧縮行程は、クランク軸50の回転角度が180〜360度の範囲である。
ノーマルモードNMでは、図4(a)に示すように、燃料噴射開始タイミングがta1、燃料噴射終了タイミングがtb1、点火タイミングがti1とされる。これらの各タイミングta1、tb1、ti1は、例えば圧縮行程の終期近くに設定される。スプレーガイド燃焼モードでは、燃料インジェクタ30は、例えば圧縮行程において、燃料噴射開始タイミングta1と燃料噴射終了タイミングtb1の間の燃料噴射時間tc1で燃料を噴射し、点火プラグ45の近傍に噴霧成層混合気35を形成する。ノーマルモードNMでは、燃料噴射終了タイミングtb1から拡散時間td1の後で、噴霧成層混合気35が形成された状態で点火タイミングti1となり、噴霧成層混合気35に点火する。燃料噴射終了タイミングtb1と点火タイミングti1の間の拡散時間td1で、噴霧成層混合気35は周りに拡散する。この拡散時間td1は、比較的短く、噴霧成層混合気35が余り周囲に拡散しない状態で、点火が行なわれる。燃料噴射タイミングta1および燃料噴射終了タイミングtb1は、エンジン回転信号RSと、アクセルポジション信号APと、空燃比信号A/Fに基づいて、調整される。点火タイミングti1は、エンジン回転信号RSと、アクセルポジション信号APに基づいて、調整される。
スプレーガイド燃焼モードでは、とくに、噴霧成層混合気35の気相優勢領域37は、点火の容易な燃料濃度を有しており、この気相優勢領域37が点火プラグ45の放電ギャップ47を覆う状態で、点火することが重要である。気相優勢領域37が点火プラグ45の放電ギャップ47を覆う状態で点火することにより、失火を起こすことなく、噴霧成層混合気35を確実に、しかも排気ガスEXGの有害ガス成分を少なくして、直噴形エンジン10を運転することができる。もし、液相優勢領域36が、点火プラグ45の放電ギャップ47を覆う状態になれば、放電ギャップ47の周りの混合気はオーバーリッチ状態となり、点火プラグ45のベース電極46および対向電極48が燃料で濡らされ、点火放電が阻害されて、失火が起こり、この失火により燃焼状態が変動し、また点火しても液相燃料の燃焼により、未燃焼成分HCおよび不完全燃焼成分COの排出濃度が増加し、燃焼状態の変動が増加する。逆に気相優勢領域37が、放電ギャップ47から離れると、放電ギャップ47の周りの混合気がオーバーリーン状態となり、失火が起こり、失火により燃焼状態が変動し、また未燃焼ガスによる排気ガスの有害成分も増加する。
ノーマルモードNMにおいて、直噴形エンジン10をスプレーガイド燃焼モードで運転し、その運転時間が増大すると、燃料インジェクタ30の燃料噴射口33およびその近傍にデポジットが堆積し、燃料インジェクタ30の燃料噴霧特性が変化し、噴霧成層混合気35の形状が変化する。図5は、燃料インジェクタ30の燃料噴射口33の近傍に、デポジット38が堆積した状態を示す。図5では、デポジット38が、燃料インジェクタ30の先端部分の外面、具体的には、取付孔31と燃料噴射板32の外面との間に堆積した状態を示す。
燃料インジェクタ30から噴射される燃料は、燃料インジェクタ30の先端部分または燃料噴射口33の内部に液体として付着し、液膜を形成する。そのとき、燃料が付着した部分の温度が、燃料の90%蒸発温度より高ければ、燃料中の高沸点成分が蒸発せずに残渣として残る。この残渣の中に、デポジット38を形成する前駆体が存在し、直噴形エンジン10の運転時間の増大に伴ない、すす、またはコールタール状のカーボンデポジット38が形成される。図5では、デポジット38が、燃料インジェクタ30の先端部に堆積したものだけを示しているが、デポジットは、上記メカニズムにより、燃料噴射口33の内壁および燃料噴射板32の内面にも生成する。図6は、燃料噴射口33の内壁に形成されたデポジット38aを例示する。
これらのデポジット38、38aの堆積に伴ない、燃料インジェクタ30の燃料噴霧特性が変化し、噴霧成層混合気35の形状が変化する。図5では、デポジット38、38aにより、噴霧成層混合気35の形状が、噴霧角を小さくするように変化した状態を示している。図5において、各噴霧成層混合気35の噴射角をβとする。β<αである。図5に示すように、噴霧角が小さくなるように噴霧成層混合気35の形状が変化すると、気相優勢領域37は点火プラグ45の放電ギャップ47から離れてしまう。このような状態では、放電ギャップ47の周りの混合気はオーバーリーンとなり、失火による燃焼状態の変動、さらに未燃ガスによる排気ガス濃度の悪化が起こり、点火性能および燃焼安定性が大きく悪化する。また、デポジットの付着位置が異なると、噴霧成層混合気35の形状が、噴霧角が大きくなるように変化し、点火プラグ45の周りの混合気がオーバーリッチになる場合もある。
もし、液相優勢領域36が、点火プラグ45のベース電極46、対向電極48を覆う場合には、点火プラグ45の周りの混合気はオーバーリッチ状態となり、点火プラグ45の電極46、48が燃料によって濡らされ火花放電が阻害され失火するか、点火しても液相燃料の燃焼により、未燃焼成分HCや不完全燃焼成分COの排出濃度が増加し、また燃焼状態の変動が増加する。
制御ユニット81の燃焼状態検出手段85は、例えばエンジン回転信号RSに基づき、燃焼状態の変化に対応して燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを発生する。この燃焼安定度scは、噴霧成層混合気35の形状の変化に基づいて起こる燃焼状態の変化に対応して変化し、この燃焼安定度scに応じて燃焼安定度信号SCの大きさが変化する。
図7は、エンジン回転センサ55から制御ユニット81に入力されるエンジン回転信号RSに基づいて得られる直噴形エンジン10の回転変動の変化を示す特性図である。図7の横軸は、直噴形エンジン10のすべての気筒21の燃焼サイクルを示し、その縦軸は、直噴形エンジン10の回転数である。
図7の横軸に沿って、複数の期間#11、#31、#41、#21、#12、#32が連続して示される。期間#11、#12は、直噴形エンジン10の4つの気筒21の中の第1気筒の燃焼(爆発)行程、#31、#32はその第3気筒の燃焼(爆発)行程、#41はその第4気筒の燃焼(爆発)行程、#21はその第2気筒の燃焼(爆発)行程を示す。各期間#11、#31、#41、#21、#12、#32は、それぞれクランク軸50の1/2回転に相当するので、例えば2つの連続する期間#11、#31がクランク軸50の1回転に相当し、4つの連続する期間#11、#31、#41、#21がクランク軸50の2回転に相当する。
図7の信号RS11、RS31、RS41、RS21、RS12、RS32は、それぞれ各期間#11、#31、#41、#21、#12、#32に対応する直噴形エンジン10の回転数の変動を示す。ΔN11は、信号RS11の所定回転数Neからのピーク値であり、同様に、ΔN31、ΔN41、ΔN21、ΔN12、ΔN32は、それぞれ信号RS31、RS41、RS21、RS12、RS32の所定回転数Neからのピーク値である。
信号RS11、RS31、RS41、RS21、RS12、RS32に示すように、各気筒21の燃焼(爆発)行程の中で、回転数は変動し、ピーク値ΔN11、ΔN31、ΔN41、ΔN21、ΔN12、ΔN32も順次変化している。これらのピーク値ΔN11、ΔN31、ΔN41、ΔN21、ΔN12、ΔN32の標準偏差ΔNを求めることにより、直噴形エンジン10の燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SC=(1−ΔN)を得ることができる。噴霧成層混合気35の形状が安定し、その気相優勢領域37が点火プラグ45の放電ギャップ47を覆うように形成されれば、標準偏差ΔNは小さい値となり、燃焼安定度信号SCは大きくなる。しかし、デポジット38、38aの堆積により、噴霧成層混合気35の形状が変化すれば、それに伴なって標準偏差ΔNが大きくなり、燃焼安定度信号SCが低下する。
同一気筒、例えば第1気筒の信号RS11、RS12、・・・、RS1nのピーク値ΔN11、ΔN12、・・・、ΔN1nの標準偏差ΔN1を求めることもできる。この場合の燃焼安定度信号SCは、(1−ΔN1)である。噴霧成層混合気35の形状が安定し、その気相優勢領域37が点火プラグ45の放電ギャップ47を覆うように形成されれば、標準偏差ΔNは小さい値となり、燃焼安定度信号SCは大きくなる。しかし、デポジット38、38aの堆積により、噴霧成層混合気35の形状が変化すれば、それに伴なって標準偏差ΔN1が大きくなり、燃焼安定度信号SCが低下する。
なお、標準偏差ΔN1は、次の式により求めることができる。標準偏差ΔNも同様な式で求めることができる。
制御ユニット81の燃焼状態検出手段85は、エンジン回転信号RSに代わって、イオン電流信号IOに基づき、燃焼状態の変化に対応して燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを発生することもできる。図8は、点火プラグ45から制御ユニット81に入力されるイオン電流信号IOの変化を示す特性図である。図8の横軸は、直噴形エンジン10のすべての気筒21の燃焼サイクルを示し、その縦軸は、直噴形エンジン10の各気筒21のイオン電流である。図8の横軸に沿って、複数の期間#11、#31、#41、#21、#12、#32が連続して示される。これらの期間#11、#31、#41、#21、#12、#32は、図7と同じである。
図8の信号IO11、IO31、IO41、IO21、IO12、IO32は、それぞれ各期間#11、#31、#41、#21、#12、#32に対応する各気筒21のイオン電流を示す。ΔI11は、信号IO11の主燃焼火炎のピーク値であり、同様に、ΔI31、ΔI41、ΔI21、ΔI12、ΔI32は、それぞれ信号IO31、IO41、IO21、IO12、IO32の主燃焼火炎のピーク値である。A11は、信号IO11の全体の面積(積分値)であり、同様に、A31、A41、A21、A12、A32は、それぞれ信号IO31、IO41、IO21、IO12、IO32の全体の面積(積分値)である。
信号IO11、IO31、IO41、IO21、IO12、IO32に示すように、各気筒21の燃焼(爆発)行程の中で、イオン電流IOは変動し、それぞれの主燃焼火炎のピーク値ΔI11、ΔI31、ΔI41、ΔI21、ΔI12、ΔI32も順次変化している。これらのピーク値ΔI11、ΔI31、ΔI41、ΔI21、ΔI12、ΔI32の標準偏差ΔIを求めることにより、直噴形エンジン10の燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを得ることができる。この場合の燃焼安定度信号SCは、(1−ΔI)となる。また、同一気筒、例えば第1気筒の信号IO11、IO12、・・・、IO1nの主燃焼火炎のピーク値ΔI11、ΔI12、・・・、ΔI1nの標準偏差ΔI1から、燃焼安定度信号SCを得ることもできる。この場合の燃焼安定度SCは、(1−ΔI1)となる。標準偏差ΔI、ΔI1は、前記式と同様な式から求められる。
また、信号IO11、IO31、IO41、IO21、IO12、IO32のそれぞれの面積A11、A31、A41、A21、A12、A32も、順次変化している。これらの面積A11、A31、A41、A21、A12、A32の標準偏差ΔAを求めることにより、直噴形エンジン10の燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを得ることができる。この場合の燃焼安定度信号SCは、(1−ΔA)となる。また、同一気筒、例えば第1気筒の信号IO11、IO12、・・・、IO1nの面積A11、A12、・・・、A1nの標準偏差ΔA1を求めることにより、燃焼安定度信号SCを得ることもできる。この場合の燃焼安定度信号SCは、(1−ΔA1)となる。標準偏差ΔA、ΔA1は、前記式と同様な式から求められる。
モード切替手段87は、燃圧検出信号FPと、燃焼安定度信号SCとに基づいて、ノーマルモードNMと燃焼安定度回復モードRMを切替える。ノーマルモードNMで、直噴形エンジン10をスプレーガイド燃焼モードで運転し、その運転時間が増大し、デポジット38、38aが堆積すると、燃料インジェクタ30の燃料噴霧特性が変化し、噴霧成層混合気35の形状が図5に示すように変化して、燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCが低下する。燃焼安定度scが、閾値sctより小さくなれば、モード切替手段87は、ノーマルモードNMから燃焼安定度回復モードRMに切替える。モード切替手段87は、燃圧検出信号FPが、回復モード燃圧fprとなったときにも、ノーマルモードNMから燃焼安定度回復モードRMに切替える。
この燃焼安定度回復モードRMについて説明する。この燃焼安定度回復モードRMでは、燃圧指示信号IPが、燃料ポンプ40からの燃圧fpを、回復モード燃圧fprとするように、またはこの燃圧fprを維持するように制御され、これに伴ない、燃料噴射時間tc2が、ノーマルモードNMにおける燃料噴射時間tc1より小さく制御され、また、点火タイミングti2が、ノーマルモードNMにおける点火タイミングti1よりも早められる。図4(b)は、燃焼安定度回復モードRMのタイムシーケンスを例示する。この燃焼安定度回復モードRMでは、燃料噴射開始タイミングがta2、燃料噴射終了タイミングがtb2、点火タイミングがti2とされる。
燃料噴射時間tc2は、ノーマルモードNMにおける燃料噴射時間tc1よりも小さく、tc2<tc1とされる。ノーマルモードNMと同じ燃料噴射量を噴射するとき、燃圧fpが回復モード燃圧fprに上昇しているので、ノーマルモードNMよりも小さい燃料噴射時間tc2とされる。具体的には、例えば燃料噴射終了タイミングtb1、tb2をほぼ同じタイミングとしたとき、燃焼安定度回復モードRMにおける燃料噴射開始タイミングta2は、ノーマルモードNMにおける燃料噴射開始タイミングta1より遅くされ、短縮された燃料噴射時間tc2が与えられる。燃料噴射開始タイミングta2と燃料噴射終了タイミングtb2は、ノーマルモードNMと同様に、例えば圧縮工程の終期に設定される。燃料噴射開始タイミングta2および燃料噴射終了タイミングtb2は、燃圧検出信号FPと、エンジン回転信号RSと、アクセルポジション信号APと、空燃比信号A/Fにより決定される。
燃焼安定度回復モードRMにおける点火タイミングti2は、ノーマルモードNMにおける点火タイミングti1よりも早められる。燃焼安定度回復モードRMでは、燃圧fpが回復モード燃圧fprに上昇しているので、燃料インジェクタ30からの燃料噴射速度および燃料拡散が、ノーマルモードNMよりも早くなるため、点火タイミングti2を、ノーマルモードNMにおける点火タイミングti1より早くする。この点火タイミングti2は、燃圧検出信号FP、エンジン回転信号RS、アクセルポジション信号APにより決定される。
燃焼安定度回復モードRMでは、燃圧fpが回復モード燃圧fprに上昇されるので、燃料インジェクタ30の燃料噴射口33から噴射される燃料の噴射圧力が高くなり、その噴射速度も高くなる。この高い噴射圧力と噴射速度により、燃料インジェクタ30の燃焼噴射口33またはその近傍に付着したデポジット38、38aの全部、または少なくとも一部が、吹き飛ばされて解消し、噴射成層混合気35の形状が図2に示すように回復し、燃焼安定度scが回復する。
図9は、燃焼安定度回復モードRMにおける噴霧成層混合気35の様子を示す。燃料噴射口33からの燃料噴射圧力が増大し、燃料噴射口33の内壁のデポジット38aおよびその近傍のデポジット38が吹き飛ばされる。図9は、図5、図6に示したデポジット38、38aが完全に除去され、燃料インジェクタ30の燃料噴射口33から、図2と同様に、中心軸線L−Lに対し、角度αで噴霧成層混合気35が形成された状態を示している。加えて、燃焼安定度回復モードRMでは、図9に示すように、燃料噴射口33から噴射される燃料粒子の噴出速度が高くなり、燃焼室22内の空気とのせん断力が大きくなり、噴霧燃料の巻き上がりが大きくなり、燃料の気化が促進され、点火プラグ45の近傍に噴霧成層混合気35が早期に集まる。このため、燃焼安定度回復モードRMでは、ノーマルモードNMにおける点火タイミングti1よりも早い点火タイミングti2で点火を行なう。
図10は、燃焼モードの制御パラメータである燃料噴射終了タイミングtbおよび点火タイミングtiと燃焼状態との関係を示す。原点Oは圧縮上死点を示し、横軸は燃料噴射終了タイミングtb、縦軸は点火タイミングtiである。図中、領域91は、燃料噴射の後、比較的短い拡散時間tdで点火するスプレーガイド燃焼モードが成立する領域である。ノーマルモードNMでは、直線で示す特性92に沿って制御が行なわれ、燃焼安定度回復モードRMでは、直線で示す特性93に沿って制御が行なわれる。特性92は、燃料噴射終了タイミングtbと点火タイミングtiとの間の拡散時間tdが比較的短く、かつ一定となる特性を示している。特性93は、特性92とほぼ平行であり、特性92の上に位置している。特性93では、特性92よりも、点火タイミングtiが原点Oの上方へ移動しており、特性92よりも点火タイミングtiが早くされている。
図11は、実施の形態1について、ノーマルモードNMと燃焼安定度回復モードRMの切替えを行なうフローチャートを示す。このフローチャートは、スタートとリターンの間に、ステップS101からステップS114までの14のステップを含む。最初のステップS101では、圧力センサ42からの燃圧検出信号FPに基づき、燃圧fpをCPU82に読み込む。次のステップS102では、燃圧fpがノーマル燃圧fpnであるかどうかを判定する。
燃圧fpがノーマル燃圧fpnであり、ステップS102の判定結果がYESになれば、モード切替手段85は、ノーマルモードNMを選択し、次のステップS103で、直噴形エンジン10をスプレーガイド燃焼モードのノーマルモードNMで運転するために、ノーマルモードNMの燃料噴射開始タイミングta1、燃料噴射終了タイミングtb1、点火タイミングti1を設定し、次のステップS104に進む。この場合、直噴形エンジン10は、スプレーガイド燃焼モードのノーマルモードNMで運転される。
ステップS104では、燃焼状態検出手段85により、燃焼室22における燃焼安定度scを検出し、この燃焼安定度scを示す燃焼安定度信号SCを出力し、次のステップS105に進む。ステップS105では、モード切替手段87は、燃焼安定度信号SCに基づいて、燃焼安定度scが、閾値sct以上かどうかを判定する。この閾値sctは、メモリ83に記憶されており、ステップS105でメモリ83からCPU82に移される。燃焼安定度scが閾値sct以上であり、ステップS105の判定結果がYESになれば、リターンに到り、次の制御サイクルを繰返す。この場合、モード切替手段87はノーマルモードNMを維持する。
ステップS105において、燃焼安定度scが閾値sctより小さく、ステップS105の判定結果がNOになれば、ステップS106に進む。このステップS106では、モード切替手段87が、ノーマルモードNMから燃焼安定度回復モードRMへの切替えを行ない、燃圧指示信号IPにより、燃圧fpを回復モード燃圧fprに上昇させる。次のステップS107では、モード切替手段87は、直噴形エンジン10を燃焼安定度回復モードRMで運転するために、燃料噴射開始タイミングta2、燃料噴射終了タイミングtb2、および点火タイミングti2を設定する。この場合、直噴形エンジン10は、燃焼安定度回復モードRMで運転される。
ステップS102において、燃圧fpがすでに回復モード燃圧fprになっておれば、ステップS102の判定結果はNOとなり、次のステップS108で、直噴形エンジン10を燃焼安定度回復モードRMで運転するために、燃料噴射開始タイミングta2、燃料噴射終了タイミングtb2、および点火タイミングtc2を改めて設定し、次のステップS109に進む。このステップS109では、回復モード時間tr1から1を減算し、次のステップS110では、回復モード時間tr1が0になったかどうかを判定する。ステップS102の判定結果がNOになってから回復モード時間tr1の後に、ステップS110の判定結果がYESとなる。ステップS102の判定結果がNOになってから回復モード時間tr1が0になるまでの間では、ステップS110の判定結果がNOとなり、リターンに至り、次の制御サイクルを繰返す。なお、回復モード時間tr1は制御ユニット81のメモリ83に記憶され、ステップS109において、メモリ83からCPU82に移され、各制御サイクル毎に1が減算される。
ステップS110の判定結果がYESになれば、次のステップS111に進む。このステップS111では、燃焼状態検出手段85からの燃焼安定度信号SCに基づき、燃焼室22の燃焼安定度scを検出し、次のステップS112に進む。
ステップS112では、燃焼安定度信号SCに基づき、燃焼安定度scが閾値sct以上に回復したかどうかを判定する。この判定は、ステップS102がNOとなってから回復モード時間tr1の後で実行される。このステップS112の判定結果がYESになれば、ステップS113に進み、モード切替手段87は、直噴形エンジン10を、再びノーマルモードNMで運転するために、燃圧fpをノーマル燃圧fpnに設定した後、リターンに至り、再びスタートに返り、次の制御サイクルを繰返す。ステップS112の判定結果がNOになれば、ステップS114に進む。このステップS114では、報知手段89によりアラームを行ない、燃焼安定度回復モードRMによっても、燃焼安定度scが回復しないことを運転者に報知する。
デポジット83、83aは、燃焼安定度回復モードRMで燃圧fpが回復モード燃圧fprに上昇することにより、多くの場合、極く短時間に除去される。回復モード燃圧fprを与えることによって、デポジット38、38aが完全に除去できないとしても、そのデポジット38、38aの少なくとも一部が、回復モード燃圧fprが与えられることにより、極く短時間に除去され、燃焼安定度scの回復が図られる。このため実施の形態1では、回復モード時間tr1は短時間に設定され、ステップS102の判定結果がNOになってから、この短時間の回復モード時間tr1の後で、ステップS111で燃焼安定度scを検出し、ステップS112で、燃焼安定度scが閾値sct以上に回復したかどうかが判定される。回復モード時間tr1の後で燃焼安定度scが閾値sct以上に回復しておれば、ステップS112の判定結果は、YESになるが、デポジット83、83aの付着強度が強い場合には、回復モード燃圧fprを与えても、デポジット83、83aを除去できない場合もあり、この場合には、ステップS112の判定結果がNOとなり、ステップS114で運転者へのアラームが行なわれる。
図12は、実施の形態1における燃焼安定度scの変化を例示する。図12の横軸は、直噴形エンジン10の運転時間であり、縦軸は燃焼安定度scである。スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10は、原点OからノーマルモードNMで継続して運転され、デポジット38.38aが徐々に堆積し、それに伴なって燃焼安定度scが低下し、運転時間がT1に到達し、燃焼安定度scが閾値sct以下に低下したものと想定する。原点Oから時間T1まで直噴形エンジン10は、ノーマルモードNMで継続して運転されるが、時間T1に至り、燃焼安定度scが閾値sct以下となったときに、燃焼安定度回復モードRMに切替えられる。この燃焼安定度回復モードRMは、短い回復モード時間tr1だけ選択される。図12では、時間T1で燃焼安定度回復モードRMが選択された直後に、燃焼安定度scが初期状態まで回復した場合を例示する。これは、燃焼安定度回復モードRMで回復モード燃圧fprが与えられた結果、その直後に、デポジット38、38がほぼ完全に除去され、燃焼安定度scが初期値に回復したことを意味する。
図12において、運転時間T1から回復モード時間tr1の後、再びノーマルモードで運転が継続され、運転時間がT2となったときに、再び燃焼安定度scが閾値sct以下に低下したと想定する。この時間T2でも、短い回復モード時間tr1だけ燃焼安定度回復モードRMが与えられるが、この燃焼安定度回復モードRMでは、燃焼安定度scが閾値sct以上に回復せず、報知手段89により、運転者にアラームが与えられる結果となる。
以上のように、実施の形態1では、制御装置80が、燃焼状態の変化に対応して燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを出力する燃焼状態検出手段85と、前記燃焼安定度信号SCに基づき直噴形エンジン10を燃焼安定度回復モードRMで運転させるモード切替手段87を有し、燃焼状態回復モードRMでは、燃焼安定度scを所定範囲に回復させるので、スプレーガイド燃焼モードの運転時間が増大しても、燃焼安定度回復モードRMにより燃焼安定度の悪化を防止し、直噴形エンジン10の排気ガスの悪化、および燃費増大を抑制することができる。
実施の形態2.
実施の形態1は、燃焼安定度回復モードRMにおいて、燃圧fpを回復モード燃圧fprに上昇させるが、この実施の形態2では、燃焼安定度回復モードRMを選択したときに、燃圧fpの切替えは行なわずに、直噴形エンジン10の少なくとも高負荷運転状態におけるスロットルバルブ63の弁開度を、ノーマルモードNMよりも大きくするように、制御する。その他は、実施の形態1と同じに構成される。
この実施の形態2でも、ノーマルモードNMは、実施の形態1と同じである。実施の形態2では、モード切替手段87が、燃焼安定度回復モードRMを選択したときに、燃圧fpをノーマル燃圧fpnに維持し、直噴形エンジン10の少なくとも高負荷運転状態におけるスロットルバルブ63の弁開度を、ノーマルモードNMよりも大きくするように、制御する。直噴形エンジン10において、その高負荷運転状態におけるスロットルバルブ63の弁開度を大きくする結果、吸気口27から燃焼室22に吸入される空気量が増大し、噴霧成層混合気35が高酸素状態となり、燃焼室22の燃焼温度が上昇する。この燃焼温度の上昇は、デポジット38、38aを焼き切る効果をもたらし、燃焼安定度scを回復する効果をもたらす。デポジット38、38aが焼き切られると、噴霧成層混合気35の形状は、図2に示すデポジットのない状態に回復し、燃焼安定度scが回復する。
図13は、実施の形態2において、排気口29から排出される排気ガスの排気ガス温度と、その排気ガス中の酸素濃度との関係を示す。図13で、横軸は、排気口29から排出される排気ガス温度を示し、縦軸はその排気ガス中の酸素濃度を示す。図13では、横軸と縦軸で形成される領域が、曲線95によって、領域Nと領域Rに分けられる。曲線95は、排気口29から排出される排気ガス中の酸素濃度をy、その排気ガス温度をxとしたとき、y=1/x2に近い特性を示し、領域Nは、原点Oに近い領域と、排気ガス温度xと排気ガス中の酸素濃度yのいずれか一方が大きい領域を含む。領域Rは、排気ガス温度xと排気ガス中の酸素濃度yの両方が大きい領域である。
実施の形態2では、ノーマルモードNMでは、直噴形エンジン10は、図13の領域Nで運転され、また燃焼安定度回復モードRMでは、図13の領域Rで運転される結果となる。領域Nでは、デポジット38、38aが堆積するが、領域Rでは、高い酸素濃度により、デポジット38、38aの焼き切りが行なわれる。
実施の形態2では、アクセルポジション信号APにスロットル駆動乗数dthを乗算してスロットル駆動信号TDが生成される。モード切替手段87がノーマルモードNMを選択したときには、ノーマルモードNMにおけるスロットル駆動乗数dthnは、dthn=1とされ、アクセルポジション信号APに比例したスロットル駆動信号TDが発生される。モード切替手段87が燃焼安定度回復モードRMを選択したときには、燃焼安定度回復モードRMにおけるスロットル駆動常数dthrは、1.3から2.0、例えば1.5とされ、アクセルポジション信号APにこのスロットル駆動乗数dthrを乗算し、そのスロットル駆動乗数dthrが乗算されたアクセルポジション信号APに基づいて、スロットル駆動信号TDが発生され、ノーマルモードNMに比べで、スロットルバルブ63の弁開度が、直噴形エンジン10のとくに高負荷運転状態で増大される。スロットル駆動乗数dthは、制御ユニット81のメモリ83に記憶され、CPU82に移される。
図14は、実施の形態2におけるノーマルモードNMと、燃焼安定度回復モードRMとの切替えのフローチャートを示す。この図14のフローチャートは、スタートとリターンの間のS201からS211の11つのステップを含む。
最初のステップS201では、スロットル駆動信号TDの発生に使用されるスロットル駆動乗数dthを読取る。次のステップS202では、スロットル駆動乗数dthがdthnかどうかを判定する。ノーマルモードNMに対応して、スロットル駆動乗数dthがdthnであれば、ステップS202の判定結果はYESとなり、次のステップS203に進む。このステップS203では、燃焼状態検出手段85により算出された燃焼安定度信号SCに基づいて、燃焼安定度scの検出が行なわれ、次のステップS204に進む。
ステップS204では、燃焼安定度scが閾値sct以上であるどうかの判定が行なわれる。燃焼安定度scが閾値sct以上であり、ステップS204の判定結果がYESになれば、リターンに至り、再び次の制御サイクルが実行される。この場合、モード切替手段87は、ノーマルモードNMを選択し、直噴形エンジン10はノーマルモードNMで運転される。
燃焼安定度scが閾値sctよりも小さく、ステップS204の判定結果がNOとなれば、次のステップS205に進み、このステップS205で、スロットル駆動信号TDの発生に使用されるスロットル駆動信号dthをdthrに設定する。この場合、モード切替手段87は、燃焼安定度回復モードRMを選択し、直噴形エンジン10は燃焼安定度回復モードRMで運転される。
ステップ202において、スロットル駆動信号TDの発生に使用されるスロットル駆動乗数dthがdthrとなっておれば、ステップS202の判定結果はNOとなり、次のステップS206に進む。このステップS206では、回復モード時間tr2から1を減算し、次のステップS207では、回復モード時間tr2が0になったかどうかを判定する。ステップS202の判定結果がNOとなってから回復モード時間tr2が経過すれば、ステップS207の判定結果はYESとなる。ステップS202の判定結果がNOになってから回復モード時間tr2が経過するまでの間では、ステップS207の判定結果がNOとなり、リターンに至り、次の制御サイクルを繰返す。なお、回復モード時間tr2は制御ユニット81のメモリ83に記憶され、ステップS206において、CPUに移され、制御サイクル毎に1の減算が行なわれる。
ステップS207の判定結果がYESになれば、次のステップS208に進み、このステップS208で、燃焼安定度scの検出が実行される。次のステップS209では、ステップS208で検出された燃焼安定度scが、閾値以上かどうかを判定する。ステップS209の判定結果がYESならば、ステップS210に進み、スロットル駆動信号TDの発生に使用されるスロットル駆動乗数dthをノーマルモードNMに対応してdthnに切替える。ステップS209の判定結果がNOになれば、ステップS211に進み、報知手段89により運転者にアラームを行ない、燃焼安定度回復モードRMによって、燃焼安定度の回復が不可能なことを報知する。
図15は、実施の形態1における燃焼安定度scの変化を例示する。図15の横軸は、直噴形エンジン10の運転時間であり、縦軸は燃焼安定度scである。スプレーガイド燃焼モードで運転される直噴形エンジン10は、原点OからノーマルモードNMで継続して運転され、デポジット38.38aが徐々に堆積し、それに伴なって燃焼安定度scが低下し、運転時間がT1に到達し、燃焼安定度scが閾値sct以下に低下したものと想定する。原点Oから時間T1まで直噴形エンジン10は、ノーマルモードNMで継続して運転されるが、時間T1に至り、燃焼安定度scが閾値sct以下となったときに、燃焼安定度回復モードRMに切替えられる。この燃焼安定度回復モードRMは、回復モード時間tr2だけ選択される。図15では、時間T1で燃焼安定度回復モードRMが選択された後、回復モード時間tr2の経過後に、燃焼安定度scが初期状態まで回復した場合を例示する。これは、燃焼安定度回復モードRMにおいて、スロットル駆動信号TDの発生に使用されるスロットル駆動乗数dthがdthrとされた結果、燃焼室22の燃焼温度が上昇し、デポジット38、38aがほぼ完全に除去され、燃焼安定度scが初期値に回復したことを意味する。
図15において、運転時間T1から回復モード時間tr2の後、再びノーマルモードで運転が継続され、運転時間がT2となったときに、再び燃焼安定度scが閾値sct以下に低下したと想定する。この時間T2でも、ノーマルモードNMから燃焼安定度回復モードRMに切替えが行なわれるが、時間T2では、燃焼安定度回復モードRMへの切替えによっても、燃焼安定度scが閾値sct以上に回復せず、報知手段89により、運転者にアラームが与えられる結果となる。
なお、実施の形態2における回復モード時間tr2は、実施の形態1の回復モード時間tr1に比べて、大きく設定される。実施の形態2では、直噴形エンジン10のとくに高負荷運転状態におけるスリットルバルブ63の開度の増大に基づいて、デポジット38、38aが焼き切り、除去するが、このデポジット38、38aの除去には、実施の形態1よりも、長い時間が必要とされるためである。
以上のように、実施の形態2では、制御装置80が、燃焼状態の変化に対応して燃焼安定度scを表わす燃焼安定度信号SCを出力する燃焼状態検出手段85と、前記燃焼安定度信号SCに基づき直噴形エンジン10を燃焼安定度回復モードRMで運転させるモード切替手段87を有し、燃焼状態回復モードRMでは、燃焼安定度scを所定範囲に回復させるので、スプレーガイド燃焼モードの運転時間が増大しても、燃焼安定度回復モードRMにより燃焼安定度の悪化を防止し、直噴形エンジン10の排気ガスの悪化、および燃費増大を抑制することができる。
この発明の各種の変更および変形は、この発明の観点と精神を逸脱しない範囲で、関係技術者によって明確なところであり、また図示された実施の形態には制限されないものと理解されるべきである。