近年、鉄道の自動改札機や、建物への入退出におけるセキュリティシステム、電子マネーシステム等の分野では、非接触式のICカードや無線タグ等(以下、まとめて非接触ICカードという。)を用いた、いわゆるRFID(Radio Frequency IDentification)システムが導入され始めている。
このRFIDシステムは、非接触式ICカードと、このICカードに対してデータの書き込みや読み出しを行うリーダライタとから構成されている(例えば、特許文献1を参照。)。このRFシステムでは、電磁誘導の原理に基づいて、リーダライタ側のアンテナコイルとICカード側のアンテナコイルとが誘導結合によって磁気的に結合し、ICカードとリーダライタとの間で非接触データ通信が行われる。
このようなRFIDシステムでは、従来の接触型ICカードシステムのようなリーダライタに対してICカードを装填したり、金属接点を接触させたりする手間が省けるため、簡易且つ高速にデータのやり取りを行うことができる。また、非接触ICカードは、リーダライタ側のアンテナコイルに励起される交流磁界を受けて電力が供給されるため、内部に電池等の電源を持つ必要がなく、また、メンテナンス性に優れ、動作信頼性が高く、且つ低価格である。
ところで、上述したRFIDシステムでは、例えば携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistants)といった携帯可能な電子機器に、上述した非接触ICカード機能とリーダライタ機能とを実装させて、この電子機器自体を上述したサービスが受けられる非接触データ通信装置として利用することが検討されている。
しかしながら、非接触ICカード回路とリーダライタ回路とを同時に実装したデータ通信装置では、非接触ICカードとして使用した場合に、外部のリーダライタから送信された電磁波が、互いに近接するICカード側のアンテナコイルとリーダライタ側のアンテナコイルとの両方に受信されるために、リーダライタ側のアンテナや回路等の影響によって損失が発生し、外部のリーダライタとの通信距離が大幅に低下してしまうといった問題があった。
具体的に、従来の回路構成では、図10に示すように、リーダライタ側のアンテナコイル201とICカード側のアンテナコイル202とが同一面内に近接して配置されている。ICカード側のアンテナコイル201は、コンデンサ203と並列共振回路を構成すると共に、一対の接続端子S1’,S2’を介して非接触ICカード回路(図示せず。)と電気的に接続されている。
一方、リーダライタ側のアンテナコイル202は、一対の接続端子S3’,S4’を介してリーダライタ回路(図示せず。)と電気的に接続されている。また、このアンテナコイル202とリーダライタ回路との間には、ローパスフィルタ204が挿入されている。このローパスフィルタ204は、アンテナコイル202の両極に一対配置されており、それぞれリーダライタ回路204とアンテナコイル202との間の伝送線路に直列に接続された一対のコイル205,206と、これら一対のコイル205,206の間に一端が接続され、他端が接地されたコンデンサ207とからなる。
このローパスフィルタ204は、リーダライタ回路から送信される送信波が矩形波となるため、この矩形波をそのままアンテナコイル202に供給することができないことから、通信品質を確保するために挿入されたものである。また、微弱無線局の規格を満足するためには、送信波の高調波(スプリアス)を低減するフィルタが必須となっている。
ここで、外部のリーダライタから送信された電磁波をICカード側のアンテナコイル201が受けて、このアンテナコイル201に誘導される電力により接触ICカード回路が動作されるとき、リーダライタから送信された電磁波によって、ICカード側のアンテナコイル201とリーダライタ側のアンテナコイル202との両方に電力が誘導されるため、リーダライタ側のアンテナコイル201に誘導された電流I’がローパスフィルタ204のコイル205及びコンデンサ207を通って接地へと流れ込むことになる。
すなわち、非接触ICカード回路が動作されるとき、ローパスフィルタ204は、リーダライタ側のアンテナコイル202側から見て負荷となっている。このとき、このアンテナコイル202側から見た負荷インピーダンスは、コイル205のインピーダンスZ1とコンデンサ207のインピーダンスZ2とが直列になっているのと等価である。したがって、リーダライタ回路が非動作時にハイインピーダンスであると仮定すると、アンテナコイル202側から見た総合インピーダンスZは、Z1+Z2となる。そして、この総合インピーダンスZは、リーダライタ側のアンテナコイル202に誘導された電力を消費することから、ICカード側のアンテナコイル201に誘導される電力の低下を招くことになる。
このように、従来のデータ通信装置では、非接触ICカード回路を動作させるとき、外部のリーダライタから送信された電磁波が、互いに近接するICカード側のアンテナコイル201とリーダライタ側のアンテナコイル202との両方に受信されることによって、上述した電力ロスが生じてしまい、その結果、外部のリーダライタとの通信距離が大幅に低下してしまうといった問題が生じていた。
以下、本発明を適用したデータ通信装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明を適用したデータ通信装置は、例えば図1に示すように、通常の電話機能等に加えて非接触ICカード機能とリーダライタ機能とを有する携帯電話機1である。具体的に、この携帯電話機1は、本体部2に対してパネル部3が開閉可能に取り付けられた構造を有している。本体部2のパネル部3に臨む側の主面には、テンキーや、通話ボタン、電源ボタン等の各種の操作ボタンからなる入力部4と、音声を入力するマイクロフォン5とが設けられている。また、この本体部2の背面側には、内部電源となるバッテリ(図示せず。)が着脱可能に取り付けられている。一方、パネル部3の本体部2に臨む側の主面には、液晶表示パネル(LCD:LiquidCrystal Display)からなる表示部6と、音声が出力されるスピーカ7とが設けられている。また、パネル部3には、通信アンテナ8が設けられている。
この携帯電話機1は、図2に示すように、上記通信アンテナ8と接続された送信部9及び受信部10と、これら送信部9及び受信部10と接続されたDSP(Digital Signal Processor)11と、このDSP11と接続された音声処理部12及びCPU(Central Processing Unit)13とを備えている。
送信部9は、DSP11から供給された音声情報に対して、デジタルアナログ変換処理及び周波数変換処理等を施し、その結果得られた音声信号を、通信アンテナ8を介して基地局に送信する。受信部10は、例えば通信アンテナ8で受信されたRF信号を増幅して周波数変換及びアナログデジタル変換処理等を施し、その結果得られた音声情報をDSP11に出力する。なお、送信部9及び受信部10においては、例えばPDC(Personal Digital Cellular)方式、又はIMT−2000、DS−CDMA Systemに準拠した通信が行われる。
DSP11は、受信部10から供給された音声情報に対して、例えばスペクトラム逆拡散処理を施し、その結果得られたデータを音声情報に出力する。また、DSP11は、音声処理部12から供給された音声情報に対してスペクトラム拡散処理を施し、その結果得られたデータを送信部9に出力する。
音声処理部12は、マイクロフォン5により集音されたユーザの音声を音声情報に変換し、それをDSP11に出力する。また、音声処理部12は、DSP11から供給された音声情報をアナログ音声信号に変換し、スピーカ7から出力する。
CPU13は、ROM(Read Only Memory)14に格納されている制御プログラムをRAM(Random Access Memory)15に展開し、その制御プログラムに従って各部の制御を行う。なお、入力部4は、各種の操作ボタンに対する入力に応じた信号をCPU13に出力し、表示部6は、CPU13から供給された情報に対する画面の表示を行う。
また、この携帯電話機1は、CPU13と接続されたRFID回路部20を備え、このRFID回路部20は、外部のリーダライタによってデータの書き込み又は読み出しが行われる非接触ICカード回路21と、外部の非接触ICカードに対してデータの書き込み又は読み出しを行うリーダライタ回路22とを有しており、これらが1つの半導体集積回路(ICチップ)に集積された構造を有している。
また、非接触ICカード回路21には、一対の接続端子S1,S2を介してアンテナ回路23が電気的に接続されている。このアンテナ回路23は、平面状に導線が巻線された第1のアンテナコイル24と、この第1のアンテナコイル24と並列に接続されたコンデンサ25とを有し、これらが並列共振回路を構成すると共に、後述する外部のリーダライタ100のアンテナコイル101と第1のアンテナコイル24とが誘導結合によって磁気的に結合することで、データを送受信するようになされている。
一方、リーダライタ回路22には、一対の接続端子S3,S4を介してアンテナ回路26が電気的に接続されている。このアンテナ回路26は、平面状に導線が巻線された第2のアンテナコイル27を有し、後述する外部の非接触ICカード102のアンテナコイル103と第2のアンテナコイル27とが誘導結合によって磁気的に結合することで、データを送受信するようになされている。なお、第2のアンテナコイル27には、リーダライタ回路22のアンテナ駆動回路方式に応じて、共振用のコンデンサが並列或いは直列に接続される場合もある。
ここで、第1のアンテナコイル24及び第2のアンテナコイル27は、図3に示すようなアンテナモジュール28を構成しており、このアンテナモジュール28は、図1に示すように、本体部2の筐体内において背面側に臨むように配置されている。
具体的に、このアンテナモジュール28は、図3に示すように、例えばポリイミドやマイカ等の可撓性を有する絶縁フィルム又は絶縁基板29に形成された電解銅等の導体金属箔膜をエッチングするなどして、内側に第2のアンテナコイル27と、その外側に第1のアンテナコイル24とが同心円状に巻回された巻回パターンとしてパターン形成された構造を有している。なお、これらアンテナコイル24,27を作製する際は、上記方法に限定されず、例えば銀ペースト等の導体ペーストを用いて巻回パターンを印刷形成する方法や、金属ターゲットを基板上にスパッタして巻回パターンを形成する方法等を用いることができる。このように、第1のアンテナコイル24及び第2のアンテナコイル27は、同一面内に近接して配置されている。
また、リーダライタ回路22とアンテナ回路26との間には、リーダライタ回路22によって駆動されて第2のアンテナコイル27から放出される信号を所定の信号レベルに抑制するフィルタ回路30が配置されている。このフィルタ回路30は、上述した通信品質を確保すると共に、各国の電波法に準拠するために送信波のスプリアス、いわゆる不要輻射を低減するため、必要に応じて挿入されるローパスフィルタやバンドパスフィルタを有している。
具体的に、このフィルタ回路30は、図4に示すように、リーダライタ回路22とアンテナ回路26との間の伝送線路に一対のローパスフィルタを有しており、これら一対のローパスフィルタは、一対のコイル31,32及びコンデンサ33からなる、いわゆるT型3次ローパスフィルタである。すなわち、一方の伝送線路には、一方のコイル31の一端が第2のアンテナコイル27の一端と接続され、一方のコイル31の他端が他方のコイル32の一端と接続され、他方のコイル32の他端が接続端子S3と接続され、コンデンサ33の一端が一対のコイル31,32の間に接続され、コンデンサ33の他端が接地されたローパスフィルタが挿入されている。また、もう一方の伝送線路にも同様に、一方のコイル31の一端が第2のアンテナコイル27の他端と接続され、一方のコイル31の他端が他方のコイル32の一端と接続され、他方のコイル32の他端が接続端子S4と接続され、コンデンサ33の一端が一対のコイル31,32の間に接続され、コンデンサ33の他端が接地されたローパスフィルタが挿入されている。
また、フィルタ回路30には、外部のリーダライタ100と非接触ICカード回路21との通信が行われるとき、このフィルタ回路30の動作を抑制するための動作抑制手段として、MOS(Complementary-Metal Oxide Semiconductor)型のFET(Field Effect Transistor)からなる切換スイッチ34が配置されている。この切換スイッチ34は、ゲートが後述する切換制御回路53の出力端子S5と接続され、ドレインがコンデンサ33の他端と接続され、ソースが接地点と接続されている。
非接触ICカード回路21は、図5に示すように、第1のアンテナコイル24から供給された電気信号を整流平滑する整流回路35と、整流回路35から供給された電気信号を直流電力に変換するレギュレータ36と、整流回路35から供給された電気信号の高域成分を抽出するHPF(High Pass-Filter)37と、HPF37から入力された高周波成分の信号を復調する復調回路38と、この復調回路38から供給されるデータに対応してデータの書き込み及び読み出しを制御するシーケンサ39と、復調回路38から供給されるデータを記憶するメモリ40と、第1のアンテナコイル24により送信するデータを変調する変調回路41とを有している。
整流回路35は、ダイオード42、抵抗43及びコンデンサ44から構成されている。このうち、ダイオード42のアノード端子が第1のアンテナコイル24及びコンデンサ25の一端に接続され、ダイオード42のカソード端子が抵抗43及びコンデンサ44の一端に接続され、抵抗43及びコンデンサ44の他端が第1のアンテナコイル24及びコンデンサ25の他端に接続されている。そして、この整流回路35は、第1のアンテナコイル24から供給された電気信号を整流平滑した電気信号をレギュレータ36及びHPF37に出力する。
レギュレータ36は、上述した整流回路35のダイオード42のカソード端子、抵抗43及びコンデンサ44の一端と接続されている。そして、このレギュレータ36は、整流回路35から供給された電気信号の電圧変動(データ成分)を抑制し、安定化した後、直流電力としてシーケンサ39に供給する。これにより、シーケンサ39等の誤動作の原因となる、例えば携帯電話機1の位置が動くことにより発生する電圧変動、並びに非接触ICカード回路21内の消費電力の変化により発生する電圧変動が抑制される。
HPF37は、コンデンサ45及び抵抗46により構成されており、上述した整流回路35から供給された電気信号の高域成分を抽出し、復調回路38に出力する。
復調回路38は、上述したHPF37のコンデンサ45の他端及び抵抗46の一端と接続されており、このHPF37から入力された高周波成分の信号を復調し、シーケンサ39に出力する。
シーケンサ39は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)を内部に有しており、上述した復調回路38と接続されている。そして、このシーケンサ39は、復調回路38から入力された信号(コマンド)をRAMに記憶させ、ROMに内蔵されているプログラムにしたがってこれを解析し、解析された結果に基づいて、必要に応じてメモリ40に格納されているデータを読み出す。或いはメモリ40に復調回路38から供給されるデータを書き込む。また、このシーケンサ39は、コマンドに対応するレスポンスを返すために、レスポンス信号を生成し、変調回路41に供給する。
メモリ40は、データの保持に電力を必要としないEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性メモリからなり、上述したシーケンサ39と接続されている。そして、このメモリ40は、シーケンサ39の解析結果に基づいて、復調回路38から供給されるデータを記憶する。
変調回路41は、インピーダンス47とFET(Field Effect Transistor)48との直列回路から構成されており、このうち、インピーダンス47の一端が上述した整流回路35のダイオード42のカソード端子に接続され、インピーダンス47の他端がFET48のドレイン端子と接続され、FET48のソース端子が接地点に接続され、FET48のゲート端子がシーケンサ39と接続されている。また、この変調回路41は、上述した共振回路を構成する第1のアンテナコイル24と並列に接続されており、FET48をシーケンサ39からの信号に対応してスイッチング動作させ、第1のアンテナコイル24に対するインピーダンス47の負荷を変動させる、いわゆる付加変調方式を採用している。
リーダライタ回路22は、図6に示すように、データの変調を行う変調回路49と、データの復調を行う復調回路50と、送受信するデータの制御を行う制御回路51とを有している。
変調回路49は、制御回路51から入力された送信データを発信器が変調し、この変調した信号をアンテナ回路26に供給する。
復調回路50は、アンテナ回路26からの変調波を復調し、この復調したデータを制御回路51に供給する。また、この復調回路50とフィルタ回路30との間には、大信号が入力された場合にこれを低減するための保護回路52が設けられている。
制御回路51は、例えば外部からの指令や内蔵するプログラムにしたがって、各種制御用のコントロール信号を生成し、変調回路49及び復調回路50を制御すると共に、指令に対応した送信データを生成し、変調回路49に供給する。また、制御回路51は、復調回路50からの応答データに基づいて再生データを生成し、外部に出力している。
CPU13は、上述した非接触ICカード回路21とリーダライタ回路22とを選択的に動作させるための切換制御を行う。具体的には、電源無しの環境で非接触ICカード回路21を動作させるスリープモードと、RFID回路部20を起動して非接触ICカード回路21を動作させるICカードモードと、RFID回路部20を起動してリーダライタ回路22を動作させるR/Wモードとの切換制御を行う。
また、CPU13とフィルタ回路30との間には、フィルタ回路30内に挿入された切換スイッチ34のオン・オフを切り換える切換制御回路53が設けられている。この切換制御回路53は、CPU13からRFID回路部20に供給される制御信号に基づいて、フィルタ回路30内に挿入された切換スイッチ34のオン・オフを下記表1に示すように切り換える。
なお、表1中に示すENは、CPU13からのRFID回路部20を活性化させるための信号であり、lowは、スリープモードの状態であり、highは、起動(待機)状態である。また、P_ONは、CPU13からの無線カードモードとR/Wモードとを切り換えるモード切換信号であり、lowは、無線カードモードの状態であり、highは、R/Wモードの状態である。また、表1中に示すLPF-SWは、これらCPU13からの制御信号EN,P_ONに基づいて、切換制御回路53から切換スイッチ34のゲート端子と接続された出力端子S5に出力される信号(電圧)であり、lowは、切換スイッチ34がオフの状態であり、highは、切換スイッチ34がオンの状態である。
したがって、表1に示すように、スリープモード及びICカードモードのとき、切換スイッチ34は、オフ状態となり、R/Wモードのとき、切換スイッチ34は、オン状態となる。
この携帯電話機1を非接触ICカードとして使用する場合には、図7に示すように、上述したスリープモード及びICカードモードの状態で、本体部2の背面側を外部のリーダライタ100に近接させる。このとき、リーダライタ100側のアンテナコイル101と、第1のアンテナコイル24とが誘導結合によって磁気的に結合し、リーダライタ100によって非接触ICカード回路21に対するデータの書き込み又は読み出しが行われる。
具体的に、非接触ICカード回路21では、外部のリーダライタ100から送信された質問信号としての電磁波が第1のアンテナコイル24を介して受信されると、受信された電磁波に対応する電気信号が整流回路35に供給される。なお、アンテナ回路23の共振周波数は、リーダライタ100からの発振周波数(キャリア周波数)に対応する値、例えば13.56MHzに設定されている。
整流回路35は、第1のアンテナコイル24から供給されてきた電気信号を整流平滑すると共に、正のレベルの電圧をレギュレータ36及びHPF37に供給する。レギュレータ36に供給された整流回路35からの正のレベルの電圧は、そこで安定化されて、所定のレベルの直流電圧に変換された後、内部回路を駆動する電力として各部に供給される。
また、HPF37は、整流回路35から供給された正のレベルの電圧から、高域成分を排除して、復調回路38に供給する。復調回路38は、HPF37から供給された信号を復調し、その結果得られた信号をシーケンサ39に供給する。シーケンサ39は、復調回路38から入力された信号(コマンド)をRAMに記憶させ、ROMに内蔵されているプログラムにしたがってこれを解析し、解析して得た結果に基づいて、復調回路38から入力された信号(コマンド)が読み出し指令である場合に、その指令に基づいて復調回路38から供給された書き込みデータをメモリ40に書き込む。
一方、シーケンサ39は、復調回路38から入力された信号(コマンド)が読み出し指令である場合に、その指令に対応する読み出しデータをメモリ40から読み出す。そして、この読み出しデータに基づいて、変調回路41のFET48がスイッチング動作される。すなわち、この変調回路41では、FET48がオンされるとインピーダンス47と第1のアンテナコイル24とが並列に接続され、FET48がオフされるとインピーダンス47と第1のアンテナコイル24との並列接続が解除される。これにより、読み出しデータに応じて、第1のアンテナコイル24と磁気的に結合しているリーダライタ100側のアンテナコイル101のインピーダンスを変化させることができる。このように、非接触ICカード回路21では、送信するデータに応じて、リーダライタ100のアンテナコイル101の負荷を変化させながら、振幅変調を行い、応答信号を第1のアンテナコイル24を介して外部のリーダライタに送信する。
以上のようにして、この携帯電話機1では、外部のリーダライタ100によるデータの書き込み又は読み出しが行われる。
一方、この携帯電話機1をリーダライタとして使用する場合には、図8に示すように、上述したR/Wモードの状態で、本体部2の背面側に外部の非接触ICカード102を近接させる。このとき、リーダライタ回路22側の第2のアンテナコイル27と、非接触ICカード102のアンテナコイル103とが誘導結合によって磁気的に結合し、外部の非接触ICカード回路21に対してリーダライタ回路22によるデータの書き込み又は読み出しが行われる。
具体的に、リーダライタ回路22では、CPU13から外部の非接触ICカード102に対する書き込みが指令されると、この指令に基づいて、制御回路51が書き込みのためのコマンド信号を生成すると共に、指令に対応した送信データ(書き込みデータ)を生成し、変調回路49に供給する。変調回路49は、所定の周波数の搬送波をASK(Amplitude Shift Keying)変調し、第2のアンテナコイル27に供給する。第2のアンテナコイル27は、入力された変調信号に対応する電磁波を放射する。また、リーダライタ回路22は、外部の非接触ICカード102からの応答信号が第2のアンテナコイル27を介して受信されたとき、それを復調回路50が復調し、読み出しデータを取得し、これをCPU13に出力する。
以上のようにして、この携帯電話機1では、外部の非接触ICカード102に対してデータの書き込み又は読み出しを行う。
ところで、この携帯電話機1を非接触ICカードとして使用した際には、図4に示すように、外部のリーダライタ100から送信された電磁波を第1のアンテナコイル24が受けて、この第1のアンテナコイル24に誘導される電力により非接触ICカード回路21が動作されることになる。
このとき、外部のリーダライタ100から送信された電磁波によって、非接触ICカード回路21側の第1のアンテナコイル24とリーダライタ回路22側の第2のアンテナコイル27との両方に電力が誘導されるため、第2のアンテナコイル27に誘導された電流Iは、フィルタ回路30のコイル31及びコンデンサ33を通るものの、オフ状態された切換スイッチ34で遮断されることになる。
すなわち、この携帯電話機1では、外部のリーダライタ100と非接触ICカード回路21との通信が行われるとき、フィルタ回路30内に挿入された切換スイッチ34をオフ状態とし、コンデンサ33のインピーダンスを無限大(実際には、MOS型FETの寄生ダイオードによるC成分やR成分が残留することになる。)とすることで、第1のアンテナコイル24側から見た総合インピーダンスを大きくし、フィルタ回路30が負荷とならないようにする。
これにより、携帯電話機1では、外部のリーダライタ100と非接触ICカード回路21との通信が行われ、非接触ICカード回路21が動作されるとき、外部のリーダライタ100から送信された電磁波によって第2のアンテナコイル27に誘導した電力が、フィルタ回路30のコイル31及びコンデンサ32を通って接地へと流れ込むのを防ぐことができる。すなわち、この携帯電話機1では、第2のアンテナコイル27に誘導される電力は消費されずに、外部のリーダライタ100から送信された電磁波によって誘導された電力を非接触ICカード回路21において略々全て使用することが可能となる。
したがって、この携帯電話機1では、電力ロスを生じさせることなく、外部のリーダライタ100との十分な通信距離を確保することが可能であり、非接触ICカード側の第1のアンテナコイル24の大型化を招くことなく、装置全体を更に小型化することが可能である。
ここで、フィルタ回路30内に上記切換スイッチ34を挿入した場合と、挿入しなかった場合との通信距離の違いについて測定した。以下、測定結果を表2に示す。なお、本測定には、リーダライタとして、ソニー社製のRC−S440/C(強磁界)を使用した。
表2に示すように、フィルタ回路30内に切換スイッチ34を挿入した場合には、挿入しなかった場合に比べて、通信距離が長くなることがわかる。
なお、本発明では、少なくとも外部のリーダライタ100と非接触ICカード回路21との通信が行われるとき、フィルタ回路30の動作を抑制するための動作抑制手段として、第2のアンテナコイル27側から見たフィルタ回路30の負荷インピーダンスが、リーダライタ回路22を動作させるときよりも大きくなるように切り換える切換スイッチ34を配置することを特徴としている。特に、このような切換スイッチ34をフィルタ回路30内に挿入することで、上述した第2のアンテナコイル27における電力損失を回避することが可能である。
一方、リーダライタ回路22を動作させるとき、すなわち外部の非接触ICカード102とリーダライタ回路22との通信が行われるときには、フィルタ回路30内に挿入された切換スイッチ34をオン状態とする。このとき、スイッチオン抵抗の十分小さいデバイスを選択することで、フィルタ回路30の特性をそのまま確保することが可能である。また、この場合、切換スイッチ34を直接信号線路に挿入しないため、この切換スイッチ34を通過する際の波形の悪化や電力ロスの発生を防ぐことが可能である。なお、このような信号線路に直列挿入しない切換スイッチ34としては、上記MOS型FETの他にも、接合型FET、トランジスタ等の半導体スイッチを使用することが可能である。なお、本発明は、例えば電磁リレー等のメカニカルスイッチを切換スイッチ34として使用することを妨げるものではない。
次に、本発明の別の構成例として、図9に示す回路構成について説明する。
この回路構成では、上述した図4に示すフィルタ回路30内に挿入された切換スイッチ34に代わる動作抑制手段として、第2のアンテナコイル27とフィルタ回路30との間に切換スイッチ54が配置されている。
この切換スイッチ54は、第2のアンテナコイル27とフィルタ回路30との間の伝送線路に挿入された一対の電磁リレーからなり、第2のアンテナコイル27側の接点とフィルタ回路30側の接点との間の接続を物理的に切り換えることによって、第2のアンテナコイル27とフィルタ回路30との間の電気的な接続を切り替える。また、この切換スイッチ54は、上述したCPU13からの制御信号EN,P_ONに基づいて、切換制御回路53によるオン・オフの切換制御が行われる。すなわち、スリープモード及びICカードモードのとき、切換スイッチ54は、切換制御回路53によりオフ状態とされ、R/Wモードのとき、切換スイッチ54は、切換制御回路53によりオン状態とされる。
したがって、外部のリーダライタ100と非接触ICカード回路21との通信が行われるとき、外部のリーダライタ100から送信された電磁波によって第2のアンテナコイル27に誘導された電流Iは、オフ状態とされた切換スイッチ54で遮断されることになる。
これにより、携帯電話機1では、外部のリーダライタ100から送信された電磁波によって誘導された電力を非接触ICカード回路21において略々全て使用することが可能となる。したがって、この携帯電話機1では、電力ロスを生じさせることなく、外部のリーダライタ100との十分な通信距離を確保することが可能であり、第1のアンテナコイル24の大型化を招くことなく、装置全体を更に小型化することが可能である。
なお、この回路構成では、第2のアンテナコイル27とフィルタ回路30との間の線路を完全に遮断する必要があることから、切換スイッチ54としては、上記電磁リレー54のように、第2のアンテナコイル27とフィルタ回路30との間の電気的な接続を切り替えるメカニカルスイッチを使用することが望ましい。
なお、本発明を適用したデータ通信装置は、上記携帯電話機1に限定されるものではなく、上述した非接触ICカード機能及びリーダライタ機能を搭載する携帯可能な電子機器に対して広く適用可能である。
1 携帯電話機、2 本体部、3 パネル部、20 RFID回路部、21 非接触ICカード回路、22 リーダライタ回路、24 第1のアンテナコイル、27 第2のアンテナコイル、30 フィルタ回路、34 切換スイッチ(半導体スイッチ)、53 切換制御回路、54 切換スイッチ(メカニカルスイッチ)