JP4375131B2 - 磁気特性に優れた耐酸化性hddr磁石粉末の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の新規な製造方法に関する。
Nd−Fe−B系磁石粉末に代表されるR−Fe−B系磁石粉末(R:Yを含む希土類元素)などの希土類系磁石粉末を、バインダとして熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いて所定形状に加熱成形することで製造される希土類系ボンド磁石は、樹脂バインダを含有しているために希土類系焼結磁石に比較すれば磁気特性が低くなるものの、フェライト磁石などに比べればなお十分に高い磁気特性を有しており、また、複雑形状や薄肉形状の磁石やラジアル異方性磁石を容易に得ることができるといった希土類系焼結磁石にはない特徴を持っている。従って、希土類系ボンド磁石は、特にスピンドルモータやステッピングモータなどの小型モータに多く用いられ、近年、その需要が増加している。
中でも、所定の組成を有する希土類系磁石合金を水素中で加熱して水素を吸蔵させた後、脱水素処理し、次いで冷却してから粉砕することによって得られる、磁気的異方性を有するHDDR(Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)磁石粉末(例えば特許文献1や特許文献2を参照)を用いて所定形状に加熱成形したボンド磁石は、磁気特性に優れることから、これまで磁気的等方性希土類系ボンド磁石などが用いられていた製品への応用展開に注目が高まっている。
しかしながら、HDDR磁石粉末は、その組成の大半をRやFeが占めるので、酸化による磁気特性の低下が顕著な磁石粉末であり、HDDR磁石粉末と樹脂バインダを混練してボンド磁石用コンパウンドを調製し、調製されたコンパウンドを用いて磁界中で配向させながら射出成形などにより所定形状に加熱成形してボンド磁石を製造した場合、コンパウンド調製時や加熱成形時の高温環境下(通常150℃以上であり場合によっては250℃を超えることもある)において、HDDR磁石粉末が酸化することで高い磁気特性を有するボンド磁石が得られない場合がある。従って、コンパウンド調製や加熱成形は、より低温で行うことが望ましいが、自動車部品に用いられる射出成形ボンド磁石などは、使用時に120℃以上の高温に曝されることもあるため、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などの高融点樹脂が樹脂バインダとして採用されることから、コンパウンド調製や加熱成形を250℃以上、典型的には300℃以上で行う必要がある。よって、これらの工程を低温で行うことには限界があるので、高温環境下においてもHDDR磁石粉末が酸化しない方法を開発しなければならない状況にある。また、自動車部品に用いられるボンド磁石は、使用時の高温による磁気特性の低下や、高温で長時間使用した際の磁束の低下が問題になる。これらの問題を解決する方法として、磁石の保磁力そのものを大きくする方法、即ち、温度上昇による保磁力の低下分を予め見込んでおいて、室温での保磁力を大きくする方法が一般的に採用されているが、高い保磁力と高い残留磁束密度を両立させることは困難である。
以上のような問題を解決する方法としては、下記の特許文献3にて提案されているような、蒸着、スパッタリング、めっきなどにより、磁気的異方性を有するR−Fe−B系磁石粉末の表面に金属被膜を形成し、金属被膜で表面被覆された磁石粉末を用いてボンド磁石を製造する方法がある。この特許文献3には、この方法の効果として磁石粉末の耐酸化性の向上が記載されており、また、磁石粉末の表面に金属被膜を形成した後、300℃〜1000℃の範囲で熱処理を行うことで、磁石粉末と金属被膜との密着性の向上を図ることができるとともに、被膜を構成する金属の磁石粉末の粒子内部への拡散による磁気特性の向上を図ることができるとされ、その実施例1では、磁石粉末の表面に蒸着によりアルミニウム被膜を形成し、次いで900℃で1時間と600℃で1時間の2段熱処理を行っている。
アルミニウム蒸着被膜は、耐酸化性や量産性に優れていることに加え、部品組み込み時に必要とされる接着剤との接着信頼性に優れている(接着剤が本質的に有する破壊強度に達するまでに被膜と接着剤との間で剥離が生じにくい)ので、磁石成形体に対する耐酸化性被膜として利用価値が高いものであるが、強い磁石粉末と樹脂バインダとの界面強度が要求されるHDDR磁石粉末を用いたボンド磁石における磁石粉末に対しても適用することができることから、特許文献3に記載された方法は注目に値するものである。
しかしながら、平均結晶粒径が通常1μm以下の微細な結晶粒を有するHDDR磁石粉末に対してこの特許文献3に記載された方法に従ってその表面にアルミニウム被膜を形成し、900℃や600℃という高温での熱処理を行うと、磁石粉末の微細な結晶粒が粗大化することで磁気特性が低下するという問題がある。また、このような問題とともに、アルミニウム被膜が軟化や溶融することで磁石粉末の凝集が起こるという問題がある。HDDR磁石粉末のような磁気的異方性希土類系磁石粉末が凝集した場合、凝集体に含まれる磁石粉末の容易磁化方向はランダムであるので、このような凝集体と樹脂バインダを混練してボンド磁石用コンパウンドを調製し、調製されたコンパウンドを用いて磁界中で配向させながら射出成形などにより所定形状に加熱成形してボンド磁石としても、磁石粉末の容易磁化方向を磁界方向に十分に配向させることができないことで、高い磁気特性(特に減磁曲線の角型性)が得られない。また、磁石粉末と樹脂バインダを十分に混練できないことで、ボンド磁石として十分な成形性や機械的強度が得られない。もちろん、凝集体を解砕してもよいが、このような処理を行うと、磁石粉末の表面からのアルミニウム被膜の剥離が多少なりとも起こるので、ボンド磁石中における磁石粉末の酸化を防止するという本来的な目的を達することができなくなるという問題がある。また、アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末に対して900℃や600℃という高温での熱処理を行った場合、磁石粉末の粒子内部へのアルミニウムの拡散が必要以上に起こることで磁気特性の低下を招くという問題がある。HDDR磁石粉末は平均結晶粒径が通常1μm以下の微細な結晶粒を有するので、その主相であるNd2Fe14B相にアルミニウムが置換して固溶した場合の影響は非常に大きなものとなる。このような現象が起きると、磁化やキュリー点の低下などといった問題を引き起こすが、キュリー点の低下は磁石の耐熱性に悪影響を及ぼすので、自動車部品への使用が困難になる恐れがある。
以上のような問題は、特許文献3に記載の磁石粉末においても考えられるが、ここに記載の磁石粉末は、焼結磁石を粉砕して得られるものであり、平均結晶粒径は5μm以上であることが通常であることから、HDDR磁石粉末とは形状や特性が全く異なるので、以上のような問題による影響はさほど深刻なものではなく、900℃や600℃という高温で熱処理を行うことで主相の一部にアルミニウムが置換しても、その影響はHDDR磁石粉末と比較して遥かに小さいものである。しかしながら、以上のような問題は、HDDR磁石粉末にとっては致命的なものであるので、特許文献3に記載された方法は、HDDR磁石粉末には適用し得ないものである。
また、下記の特許文献4には、異方性希土類磁石粉末の表面に希土類元素であるネオジム、ジスプロシウム、テルビウム、プラセオジムのコーティング層を設けることで、保磁力の温度係数を改善することができることが記載されているが、希土類元素のコーティング層自体が耐食性や耐酸化性に劣るという問題がある。
特公平6−82575号公報 特公平7−68561号公報 特開平3−217003号公報 特開2000−96102号公報
そこで本発明は、磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の新規な製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は上記の点に鑑みて種々の検討を行った結果、HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で熱処理を行うことにより、磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末を製造することができることを知見した。
上記の知見に基づいてなされた本発明の磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の製造方法は、請求項1記載の通り、HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で、熱処理を行うことによるキュリー点の低下が熱処理前に比較して10℃以内として、熱処理を行うことを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、アルミニウム被膜の膜厚を0.05μm〜2μmとすることを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1または2記載の製造方法において、アルミニウム被膜の体積比率を3%以下とすることを特徴とする。
また、請求項4記載の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法において、HDDR磁石粉末の表面へのアルミニウム被膜の形成を物理蒸着法で行うことを特徴とする。
また、請求項5記載の製造方法は、請求項4記載の製造方法において、真空処理室の内部にて、二重圧力勾配型直交磁場放電により発生させた放電プラズマ流を、溶融蒸発部に収容したアルミニウム被膜の形成源に照射することでアルミニウムを加熱蒸発させてイオン化し、イオンプレーティングを行うことにより、振動および/または攪拌させたHDDR磁石粉末の表面にアルミニウム被膜を形成することを特徴とする。
また、請求項6記載の製造方法は、請求項5記載の製造方法において、イオンプレーティングを行う際の真空処理室の内部のバックグラウンド真空度を1×10−3Pa以下とすることを特徴とする
た、本発明のボンド磁石用コンパウンドの製造方法は、請求項記載の通り、アルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で、熱処理を行うことによるキュリー点の低下が熱処理前に比較して10℃以内として、熱処理を行ったHDDR磁石粉末と、樹脂バインダを混練することを特徴とする。
また、請求項記載の製造方法は、請求項記載の製造方法において、樹脂バインダが熱可塑性樹脂であることを特徴とする
た、本発明のボンド磁石の製造方法は、請求項記載の通り、アルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で、熱処理を行うことによるキュリー点の低下が熱処理前に比較して10℃以内として、熱処理を行ったHDDR磁石粉末と、樹脂バインダを混練することで得たボンド磁石用コンパウンドを用いて磁界中で配向させながら所定形状に加熱成形することを特徴とする。
また、請求項10記載の製造方法は、請求項記載の製造方法において、所定形状への加熱成形を射出成形、圧縮成形、押出成形、ロール成形から選ばれるいずれか一つの方法で行うことを特徴とする


本発明によれば、磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の製造方法が提供される。
本発明の磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の製造方法は、HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で熱処理を行うことを特徴とするものである。
本発明において、HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆する工程は、HDDR磁石粉末の表面にアルミニウム被膜を形成することができる方法であればどのような方法で行ってもよいが、被膜形成時における磁石粉末の磁気特性の低下が少ないこと、真空中において粉末表面の吸着水分などを除去してから被膜を形成することでその後に行う熱処理による酸化の問題が少ないことなどに鑑みれば、真空蒸着法やイオンプレーティング法やスパッタリング法などの物理蒸着法で行うことが望ましい。とりわけ、例えば、真空処理室の内部にて、二重圧力勾配型直交磁場放電により発生させた放電プラズマ流を、溶融蒸発部に収容したアルミニウム被膜の形成源に照射することでアルミニウムを加熱蒸発させてイオン化し、イオンプレーティングを行うことにより、振動および/または攪拌させたHDDR磁石粉末の表面にアルミニウム被膜を形成する方法を好適に採用することができる。
二重圧力勾配型直交磁場放電(Double-Pressure-Gradient-Type PIG Discharge)が二重の圧力勾配型放電とPIG放電を組み合わせた放電方式であることは当業者にとって自明である(浦本上進,「真空」,第37巻,第10号,1994,p833-838を必要ならば参照のこと)。この放電方式で発生させた放電プラズマ流は極めて高いプラズマ密度を有するので、この放電方式によれば、アルミニウムの加熱蒸発とイオン化を効率的に行うことができる。また、気相成長法による被膜形成方法としてイオンプレーティングを行うことにより、高い被膜形成効率で密着性に優れたアルミニウム被膜を磁石粉末の表面に形成することができる。これにより、短時間で優れた特性を有するアルミニウム被膜を所望する膜厚で磁石粉末の表面に形成することができるので、生産性の向上を図ることができる他、加熱された溶融蒸発部からの輻射熱などによる、磁石粉末の微細な結晶粒の粗大化の問題や、アルミニウム被膜の軟化や溶融に起因する磁石粉末の凝集の問題を回避することができるので、磁気特性の低下を未然に防止することができる。
この工程は、例えば、図1にその模式的正面を示したイオンプレーティング装置を用いて実施することができる。
図1において、真空処理室1の内部上面には、アルミニウム被膜の形成源2を収容した溶融蒸発部3がターゲットとして配置されており、溶融蒸発部3の下方には、図略の手段により上下左右に振動させることが可能なHDDR磁石粉末Xを収容するための粉体保持容器4が配置されている。符号30は、溶融蒸発部3に収容されたアルミニウム被膜の形成源2から生成したイオン粒子の降下領域である。
真空処理室1の内部下面には排気口5が設けられ、この排気口5を介して排気手段としての真空ポンプ6により、真空処理室1の内部を真空排気するようになっている。真空ポンプ6は、真空処理室1の内部の真空度を少なくとも1×10-3Pa未満に真空化できる性能を有するものが望ましい。真空処理室1の左側面には、例えば、アルゴン、ヘリウム、水素などのキャリアガスを真空処理室1の内部に導入するためのキャリアガス導入口7が開口しており、キャリアガス導入口7に連通するキャリアガス導入経路8に放電プラズマ流発生装置としてのプラズマガン9が配置されている。このプラズマガン9は、陰極10、筒状第1中間電極11、筒状第2中間電極12、補助陽極筒13、補助陽極リング14を、キャリアガスの流れ方向に沿って順次に備えている。陰極10としては、プラズマ発生用に適したTa−LaB6複合陰極などを用いることが望ましい。
符号15は、プラズマガン9における補助陽極領域(補助陽極筒13と補助陽極リング14)を通過する放電プラズマ流Fを収束させるための空芯の電磁コイルである。符号16は、補助陽極リング14を抜けた放電プラズマ流Fを真空処理室1の内部上面に配置された溶融蒸発部3の方向に偏向させるための磁場手段としての永久磁石である。符号17は、筒状第1中間電極11、筒状第2中間電極12、補助陽極筒13、補助陽極リング14および溶融蒸発部3と、陰極10との間の電位差を段階的に増大させるための放電電源である。符号18は、真空処理室1の内部上面に設けられ、真空処理室1の内部での易酸化性のアルミニウム被膜の酸化を抑制するための、水素などの還元性ガスとアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガスを導入するガス導入口である。
陰極10からの放電プラズマ流Fは、筒状第1中間電極11、筒状第2中間電極12、補助陽極筒13、補助陽極リング14を順次に抜けて、キャリアガス導入口7を通して真空処理室1の内部に導入される。プラズマガン9における補助陽極領域には、放電プラズマ流Fに平行な強磁場(例えば300〜500ガウス)がかかっており、電子は多数回のマグネトロン運動と中性粒子との多数回の衝突の後に陽極としての補助陽極リング14の中央まで到達できる。補助陽極リング14を抜けた放電プラズマ流Fは、真空処理室1の内部には適当な磁場があるので、陽極としての溶融蒸発部3に照射されることになる。
放電プラズマ流Fは、プラズマガン9に導入するキャリアガス量と真空処理室1の内部の排気速度を調節することで、陰極領域を10Pa〜100Paに、中間電極領域−補助陽極領域を0.1Pa〜10Paに、真空処理室の内部を1×10-2Pa〜0.1Paに維持することにより、二重の圧力勾配の存在下で直流放電が行われて発生させられる。溶融蒸発部3は、例えば、Mo,W,Cまたはセラミックなどの耐熱材料で構成される。溶融蒸発部3の底面がアルミニウム被膜の形成源2の蒸発面3aとなっており、この蒸発面3aには多数の微小な蒸発孔3bが形成されている。溶融蒸発部3に収容されたアルミニウム被膜の形成源2は、微小な蒸発孔3bを通して溶融蒸発部3の外部に臨むことになるが、微小な蒸発孔3bは、溶融したアルミニウム被膜の形成源2の落下を防止しつつその蒸気化を促すことのできる孔径に設定されている。具体的には微小な蒸発孔3bの孔径としては、0.1mm〜数mm程度が望ましい。
HDDR磁石粉末Xは、粉体保持容器4に収容され、この粉体保持容器4を矢示の如く上下左右に振動させることで磁石粉末Xを振動および/または攪拌させる一方、以上の二重圧力勾配型直交磁場放電により発生させた放電プラズマ流Fを、溶融蒸発部3に収容したアルミニウム被膜の形成源2に照射することでアルミニウムを加熱蒸発させてイオン化し、イオンプレーティングを行う。溶融蒸発部3を磁石粉末Xの上方に配置し、溶融蒸発部3に収容されたアルミニウム被膜の形成源2から生成したイオン粒子を、溶融蒸発部3と粉体保持容器4の間に図略の方法で付加した電圧によって加速させて磁石粉末Xに被着させることにより、高い被膜形成効率で、かつ、均一に磁石粉末Xの表面にアルミニウム被膜を形成することができる。磁石粉末Xの表面にアルミニウム被膜を形成するための具体的処理条件は、磁石粉末Xの処理量や所望するアルミニウム被膜の膜厚などに応じて適宜決定される。
イオンプレーティングを行う際の真空処理室1の内部のバックグラウンド真空度は、1×10-3Pa以下とすることが望ましい。1×10-3Paを超えると、良質のアルミニウム被膜が形成できない恐れがあるからである。
HDDR磁石粉末の表面に形成するアルミニウム被膜の膜厚は0.05μm〜2μmとすることが望ましい。膜厚が0.05μm未満であると、磁石粉末に十分な耐酸化性を付与することができずに、コンパウンド調製時や加熱成形時の高温環境下において、磁石粉末が酸化することで優れた磁気特性を有するボンド磁石を製造することができない恐れがある一方、膜厚が2μmを超えると、アルミニウム被膜で表面被覆したHDDR磁石粉末中における磁石粉末の有効体積が小さくなり、ボンド磁石とした際に優れた磁気特性(特に高い残留磁束密度)を確保することができなくなる恐れがあるからである。なお、HDDR磁石粉末の表面に形成するアルミニウム被膜の膜厚は、より望ましくは0.1μm〜1μmである。
アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末中におけるアルミニウム被膜の体積比率は3%以下とすることが望ましく、2%以下とすることがより望ましい。3体積%を超えると、アルミニウム被膜で表面被覆したHDDR磁石粉末中における磁石粉末の有効体積が小さくなり、ボンド磁石とした際に優れた磁気特性(特に高い残留磁束密度)を確保することができなくなる恐れがあるからである。
HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆する工程は、例えば、処理室の内部の酸素分圧と水分圧の和が1×10-3Pa〜1Paの条件下で、抵抗加熱方式の溶融蒸発部に、水素を0.5ppm〜11ppm含有する水素含有アルミニウムワイヤーを連続供給しながらアルミニウムを蒸発させ、イオンプレーティング法により、温度が50℃〜330℃のHDDR磁石粉末を振動および/または攪拌させながらその表面にアルミニウム被膜を形成する方法を採用して行ってもよい。この方法によっても、短時間で優れた特性を有するアルミニウム被膜を所望する膜厚で磁石粉末の表面に形成することができる。
次に、アルミニウム被膜で表面被覆したHDDR磁石粉末を450℃〜600℃で熱処理を行う。この工程により、HDDR磁石粉末の粒子内部に被膜を構成するアルミニウムを適度に拡散させることで磁気特性の向上を図ることができ、アルミニウム被膜で表面被覆していないHDDR磁石粉末に対して、好適には残留磁束密度の低下を3%以下に抑制しつつ保磁力を5%以上向上させることも可能である。熱処理温度が450℃未満であると、アルミニウムの磁石粉末の粒子内部への拡散が十分に起こらずに磁気特性の向上を図ることができない恐れがある一方、熱処理温度が600℃を超えると、磁石粉末が凝集することでボンド磁石の配向を十分に行うことができなかったり、アルミニウムの拡散が必要以上に起こり、典型的には、HDDR磁石粉末の主相であるNd2Fe14B相にアルミニウムが置換して固溶することで10℃を超えるキュリー点の低下を招いたりする恐れがある。このような必要以上のアルミニウムの拡散に起因する問題は、平均結晶粒径が1μm以下のHDDR磁石粉末に顕在する問題である。熱処理温度を450℃〜600℃とすることにより、熱処理を行うことによるキュリー点の低下を熱処理前に比較して10℃以内にすることができる。これは、この熱処理温度では、粒子内部へのアルミニウムの拡散が表面近傍および/または結晶粒界近傍に留まり、Nd2Fe14B相にアルミニウムが置換して固溶するまでには至っていないことを示唆している。なお、この工程は、工業的製造規模においては、自体公知の粉体を攪拌するための回転機構と排気機構を備える加熱炉(例えば特開2002−93610号公報の図2に記載の装置を参照)などを用いて行えばよい。また、この工程は、真空中やアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中において行うことが望ましい。熱処理温度は、望ましくは500℃〜550℃である。熱処理時間は、望ましくは5分〜30分である。
本発明の磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末は、自体公知の方法で樹脂バインダと混練してボンド磁石用コンパウンドとすることができる。コンパウンド中におけるこの磁石粉末の含有割合は、ボンド磁石を製造するために採用する成形方法に適した含有割合とすればよい。例えば、射出成形を行う場合、コンパウンドは、この磁石粉末を80質量%〜96質量%含有してなることが望ましく、90質量%〜94質量%含有してなることがより望ましい。含有割合が80質量%未満であると、優れた磁気特性を有するボンド磁石を製造することができなくなる恐れがある一方、含有割合が96質量%を超えると、樹脂バインダが少なすぎて優れた流動性を有するコンパウンドが得られないことで、ボンド磁石の配向を十分に行うことができない恐れがあるからである。また、圧縮成形を行う場合、コンパウンドは、この磁石粉末を90質量%〜99質量%含有してなることが望ましく、95質量%〜98質量%含有してなることがより望ましい。
樹脂バインダとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド(ナイロン66やナイロン6やナイロン12など)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイドなどの熱可塑性樹脂、ゴムやエストラマ、これらの変性体や共重合体や混合物(例えば、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)に熱可塑性樹脂の粉末を分散させたもの:F.Yamashita, Applications of Rare-Earth Magnets to the Small motor industry, pp.100-111, Proceedings of the seventeenth international workshop, Rare Earth Magnets and Their Applications, August 18-22, 2002, Newark, Delaware, USA, Edited by G.C. Hadjipanayis and M.J.Bonder, Rinton Pressを参照)などを用いることができるが、例えば、射出成形におけるスプルーのリサイクルなどの観点からは熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。また、自動車部品に用いられるボンド磁石に採用される樹脂バインダとしては、250℃以上の高融点の熱可塑性樹脂(PPSなど)が望ましい。コンパウンドを調製する際には、カップリング剤や潤滑剤や硬化剤などの添加剤をその目的に応じて通常用いられる添加量にて添加してもよい。
以上のようにして調製されたコンパウンドを用いて磁界中で配向させながら所定形状に加熱成形する工程を行うことでボンド磁石を得る。この工程は、自体公知の条件下にて磁界中で配向させながら、射出成形や圧縮成形や押出成形やロール成形などで行えばよい。なお、HDDR磁石粉末を用いたボンド磁石は脱磁が困難であるので、ボンド磁石は、それが適用される部品に直接磁界中で配向させながら加熱成形するようにしてもよい。また、圧縮成形を行うことでボンド磁石を得る場合、例えば、粉末顆粒状のコンパウンドを成形機の金型内に投入した後、磁界中で0.1GPa〜1GPa程度の圧力で圧縮成形し、得られた成形体を樹脂バインダの硬化反応温度で加熱するようにしてもよいし、粉末顆粒状のコンパウンドを成形機の金型内に投入した後、加熱して樹脂バインダを溶融させた状態で磁界中圧縮成形(いわゆる温間圧縮成形)し、得られた成形体を樹脂バインダの硬化反応温度で加熱するようにしてもよい。
本発明によれば、平均結晶粒径が1μm以下の微細な結晶粒を粗大化させることなくHDDR磁石粉末に優れた磁気特性と耐酸化性を付与することができる。本発明は、とりわけ、平均粒子径が50μm〜150μmであるHDDR磁石粉末を用いてボンド磁石を製造する際にその効果を発揮する。平均粒子径が50μm未満であると、十分な耐酸化性を磁石粉末に付与することができるに足る膜厚のアルミニウム被膜を磁石粉末の表面に形成した場合、アルミニウム被膜で表面被覆したHDDR磁石粉末中における磁石粉末の有効体積が小さくなり、ボンド磁石とした際に優れた磁気特性(特に高い残留磁束密度)を確保することができなくなる恐れがある一方、平均粒子径が150μmを超えると、樹脂バインダと混練してボンド磁石用コンパウンドを調製しても、流動性や磁界中での配向性に優れたコンパウンドが得られず、射出成形や圧縮成形や押出成形やロール成形などにより所定形状に加熱成形することが困難になる恐れがあるからである。
平均粒子径が50μm〜150μmであるHDDR磁石粉末は、所定の組成を有する希土類系磁石合金を水素中で加熱して水素を吸蔵させた後、脱水素処理し、次いで冷却してから所望する平均粒子径になるように粉砕することによって得ることができる。また、所定の組成を有する希土類系磁石合金を所望する平均粒子径になるように粉砕してから、水素中で加熱して水素を吸蔵させた後、脱水素処理し、次いで冷却することによって得ることもできる。水素吸蔵処理は吸熱反応であり、脱水素処理は発熱反応であることから、これらの処理を行う際には合金材料の温度分布が一様にならず、反応が均一に起こらない場合がある。従って、このような問題を回避するために、HDDR処理炉は、原料合金を分割して投入することができる構成や、処理時の吸熱反応や発熱反応と同期して吸熱や発熱に対する温度補償機構を備えたものであることが望ましい。
本発明の適用対象として好適なHDDR磁石粉末の詳細は次の通りである。
HDDR磁石粉末は、磁気的異方性を有してなるものが望ましい。高温環境下において優れた磁気特性を発揮するためには、HDDR磁石粉末が備えるべき本来的な残留磁束密度(Br)は1.10T以上であることが望ましく、1.20T以上であることがより望ましく、1.25T以上であることがさらに望ましい。また、保磁力(HcJ)は960kA/m以上であることが望ましく、1000kA/m以上であることがより望ましい。HDDR磁石粉末が本来的にこのような磁気特性を備えるためには、その平均結晶粒径は1μm以下であることが望ましい(下限値は通常0.1μmである)。平均結晶粒径が1μmを越えると、優れた保磁力を得ることができない恐れがある。また、例えば、大気中100℃といったような実使用環境において、酸化に伴う熱減磁が急激に進行し、実用上問題となる恐れがある。
HDDR磁石粉末がR−Fe−B系である場合、RはYを含む希土類元素を意味するが、好適なRはNdおよび/またはPrを主体とした希土類元素である。HDDR磁石粉末中のRの含有量は希土類元素全体で11.0原子%〜14.0原子%であることが望ましく、11.5原子%〜13.5原子%であることがより望ましく、12.0原子%〜13.0原子%であることがさらに望ましい。含有量が11.0原子%未満であると、保磁力が低下し、高温環境下において優れた磁気特性を発揮することができない恐れがある。一方、含有量が14.0原子%を越えると、耐酸化性が低下し、その表面をアルミニウム被膜で被覆して熱処理を行っても、高温環境下において酸化に伴う熱減磁が進行する恐れがある。
Rには保磁力の向上を目的として、Dyおよび/またはTbを含有させてもよい。この場合、Dyおよび/またはTbの含有量は3.0原子%以下であることが望ましい。含有量が3.0原子%を越えると、残留磁束密度の低下を招く恐れがある。
HDDR磁石粉末中のBの含有量は4.0原子%〜10.0原子%であることが望ましい。含有量が4.0原子%未満であると、保磁力が低下し、高温環境下において優れた磁気特性を発揮することができない恐れがある。一方、含有量が10.0原子%を越えると、残留磁束密度の低下を招く恐れがある。
HDDR磁石粉末にCoを含有させれば、磁石粉末のキュリー点を上昇させることができるので、耐熱性の向上を図ることができる。この場合、Coの含有量は1.0原子%〜25.0原子%であることが望ましい。含有量が1.0原子%未満であると、磁石粉末のキュリー点を十分に上昇させることができない恐れがある。一方、含有量が25.0原子%を越えると、コストの上昇を招来するだけでなく、十分な磁気特性を得ることができない恐れがある。
HDDR磁石粉末中には、目的に応じて、Al,Si,Ti,V,Cr,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,In,Sn,Ta,W,Pt,Auなどを含有させてもよい。この場合、これらの金属元素の含有量は全体で3原子%以下であることが望ましい。これらの金属元素の中でもGa,Zr,Nbは、優れた磁気特性を得る上で有効であるので、HDDR磁石粉末中には、これらの金属元素の少なくとも1種を0.1原子%〜1.0原子%含有させることが望ましい。
なお、HDDR磁石粉末中の酸素量は重量比で5000ppm以下に抑制することが望ましく、3000ppm以下に抑制することがより望ましい。酸素量が5000ppmを越えると、磁石粉末が酸化して優れた磁気特性を得ることができない恐れがある。
アルミニウム被膜の形成源は、アルミニウム以外の金属元素を含むアルミニウム合金であってもよいが、ジスプロシウムなどの希土類元素を含むアルミニウム合金の使用は避けることが望ましい。このような希土類元素を含む合金を用いて被膜を形成した場合、被膜が形成されたHDDR磁石粉末が、磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石のいずれの状態にある場合であっても、磁石粉末の粒子表面に存在する希土類化合物が、わずかな水分の存在によっても容易に水酸化物を形成し、磁石粉末の腐食の進行を促進させたり、ボンド磁石を部品に組み込んだ際に、錆が飛散して周辺部品を汚染したりするといった問題を引き起こす恐れがあるからである。
なお、本発明により製造される磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末を用いたボンド磁石に、耐食性を付与することなどを目的として、その表面に樹脂塗装被膜や電気めっき被膜や化成処理被膜などの各種被膜を単層形成や積層形成してもよいことはいうまでもない。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例は、高周波溶解によって組成がNd:12.4原子%,Fe:64.9原子%,Cu:0.1原子%,Co:16.1原子%,Ga:0.2原子%,Zr:0.1原子%,B:6.2原子%の鋳隗を作製し、アルゴンガス雰囲気中で1100℃×24時間焼鈍したものを酸素濃度0.5%以下のアルゴンガス雰囲気中で粉砕して平均粒子径100μmの合金粉末としてからこれを0.15MPaの水素ガス加圧雰囲気中で870℃×3時間の水素化熱処理を行い、その後、減圧(1kPa)アルゴンガス流気中で850℃×1時間の脱水素処理を行ってから冷却して製造したHDDR磁石粉末(平均結晶粒径850nm:磁石粒子の破面の走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所社製S2150)観察による)を用いて行った。
A:アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末の製造
図1に示すイオンプレーティング装置を用いてHDDR磁石粉末の表面にアルミニウム被膜を形成した。アルミニウム被膜の形成源としては純アルミニウムを用いた。
内径500mmの粉体保持容器にHDDR磁石粉末を100g収容した後、真空処理室の内部のバックグラウンド真空度が1×10-4Pa以下になるまで真空排気した。
続いて、プラズマガンに導入するアルゴンガス(キャリアガス)量と真空処理室の内部の排気速度を調節することで、陰極領域を約40Paに、中間電極領域−補助陽極領域を約1.3Paに、真空処理室の内部を4×10-2Paに維持した。
その後、粉体保持容器を上下左右に振動させることにより、HDDR磁石粉末を振動および/または攪拌させながら、プラズマガンによって直流放電電流100A、放電電圧70Vの条件で二重圧力勾配型直交磁場放電を起こして放電プラズマ流を発生させ、発生させた放電プラズマ流を、溶融蒸発部に収容したアルミニウム被膜の形成源としての純アルミニウムに照射することでアルミニウムを加熱蒸発させてイオン化し、イオンプレーティングを行うことにより、種々の膜厚と体積比率を有するアルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末を作製した。
得られたアルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末を光学顕微鏡にて観察したところ、磁石粉末の凝集体は見当たらず、個々の磁石粒子がアルミニウム被膜によって均一に表面被覆されていた。
なお、HDDR磁石粉末の表面に形成されたアルミニウム被膜の膜厚は、サンプルを乳鉢で軽く粉砕することによって生じた磁石粒子の破面を、SEM(同上)で観察することにより求めた。また、その体積比率は、ICP発光分析によって求めたアルミニウムの質量比率、未処理のHDDR磁石粉末の密度(7.6g/cm3)、アルミニウムの密度(2.7g/cm3)から算出した。
B:アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末の熱処理
アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末0.5gをニオブ箔で包んでサンプルとした。このサンプルを赤外線加熱炉の処理室に収容し、真空度が1×10-1Pa以下となるまで真空排気した後、アルゴンガス流気中で所定時間熱処理を行ってから、処理室内でアルゴンガスにより強制冷却を行った。その後、処理室からサンプルを取り出し、アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末の残留磁束密度(Br)と保磁力(HcJ)を振動試料型磁力計(VSM:東英工業社製VSM−5)で測定した。また、磁石粉末の凝集の有無を拡大鏡で確認した。
種々の条件でアルミニウム被膜形成と熱処理を行った結果(試料1〜試料13:但し試料1は熱処理なし)を、アルミニウム被膜で表面被覆していない未処理のHDDR磁石粉末(参考試料1)の結果と、当該磁石粉末に対して直接種々の条件で熱処理を行った結果(参考試料2〜参考試料4)とともに表1と表2に示す。
表1と表2から明らかなように、アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末に対して450℃〜600℃で熱処理を行った場合、保磁力を向上することができた。アルミニウム被膜の膜厚が増加するに従って、残留磁束密度の低下が進行するが、試料3〜試料10の磁石粉末においてはキュリー点の低下は全く乃至はほとんど見られないことを別途の試験によって確認できているので、これらの磁石粉末においては、被膜を構成するアルミニウムは、磁石粉末の粒子内部に適度に拡散して、その表面近傍や結晶粒界近傍にのみ存在し、Nd2Fe14B相には全く乃至はほとんど固溶していないことから、残留磁束密度の低下が3%以下に抑制されたと考えられた。
試料1と試料7の磁石粉末の表面を、SEM(同上)を用いて観察したところ、試料1の磁石粉末の表面は、物理蒸着法で形成したアルミニウム被膜特有の性状を有しているのに対し、試料7の磁石粉末の表面は、550℃×15分の熱処理により、被膜を構成するアルミニウムが明らかに少なくとも自己拡散している性状を有していることがわかった。
また、試料1と試料7と参考試料1の磁石粉末を、フェノール樹脂に埋め込み、研磨剤として平均粒子径が1μmのダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨することにより、断面観察サンプルを作製し、これを電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA:島津製作所社製EPM−810)を用いて観察したところ、試料7の磁石粉末の粒子の表面近傍には、アルミニウムリッチな被覆層が存在していることがわかった。
また、試料1と試料7と参考試料1の磁石粉末について、磁石粉末の粒子内部へのアルミニウムの拡散の程度を確認するために、粒子内部におけるEPMAのAlKα線の強度を評価した。評価は、分光結晶にRAP(酸性フタル酸ルビジウム)を用い、AlKα線の強度が最大になるように分光結晶の角度を調整し、測定時の加速電圧を15kV、照射電流を0.1μA、プローブ径を1μmとし、断面の長径が60μm〜100μmの粉末粒子のほぼ中央に電子線を照射することで発生したAlKα線を測定して行った。AlKα線の強度は、検出部における、10秒間の積算カウント数を5回測定し、その平均値を積算時間(10秒)で除した値(単位:cps)からバックグラウンド値(1037cps)を引いた値として算出した。得られた結果を表3に示す。
表3から明らかなように、試料1の磁石粉末の粒子中央のAlKα線の強度は、参考試料1の磁石粉末の粒子中央のそれとほぼ同等であった。一方、試料7の磁石粉末の粒子中央のAlKα線の強度は、試料1と参考試料1の磁石粉末の粒子中央のそれと比較して明らかに高く、この結果からも、試料7の磁石粉末の粒子内部には、被膜を構成するアルミニウムが拡散していることがわかった。なお、参考試料1の粉末粒子においてもアルミニウムが検出されるのは、HDDR磁石粉末の原料合金に含まれる不純物としてのアルミニウムに起因するものと考えられる。
また、試料1と試料7の磁石粉末について、永久磁石で外部磁界を付与した熱天秤装置(熱磁気天秤:メトラー・トレド社製TGA/SDTA851e)を用いてキュリー点を測定した。その結果、試料1と試料7の磁石粉末のキュリー点はいずれも473℃であり、熱処理を行うことによるキュリー点の低下は認められなかった。磁石粉末の粒子内部へのアルミニウムの拡散により、Nd2Fe14B相にアルミニウムが置換して固溶すると、キュリー点が低下することから、この結果は、試料7の磁石粉末においては、熱処理による粒子内部へのアルミニウムの拡散が、Nd2Fe14B相にアルミニウムが置換して固溶するまでには至っていないことを示唆している。
以上の結果から、アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末に対して450℃〜600℃で熱処理することにより、保磁力を向上することができたのは、被膜を構成するアルミニウムの磁石粉末の粒子内部への拡散が適度に起こり、表面近傍および/または結晶粒界近傍に留まったことで、Nd2Fe14B相にアルミニウムが置換して固溶するまでには至らなかったことによるものと考えられた。
C:アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末を用いたボンド磁石の作製(その1)
エポキシ樹脂とフェノール系硬化剤を重量比率で100:3の割合でメチルエチルケトンに溶解して樹脂液を調製した。表1の試料7の磁石粉末と樹脂液を、試料7の磁石粉末と樹脂液の合計重量に対する樹脂液の重量の比率が3%となるように均一混合した後、メチルエチルケトンを室温で蒸発させて粉末顆粒状のボンド磁石用コンパウンドを調製した。得られたコンパウンドを、100℃の温間で磁場中圧縮成形した。成形時の配向磁場は0.96MA/m、成形圧力は0.6GPaとした。得られた成形体を150℃のアルゴンガス雰囲気中で1時間加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、縦12.0mm×横7.6mm×高さ(配向方向)7.4mmのボンド磁石(密度は約5.8g/cm3)を作製した。また、比較例として、表1の試料1の磁石粉末を用いて、同様の方法でボンド磁石を作製した。このようにして得た2種類のボンド磁石に対し、3.2MA/m以上のパルス磁界を付与して着磁を行った後、BHトレーサを用いて、室温(20℃)、60℃、100℃、140℃における磁気特性を評価した。保磁力の測定結果を表4に示す。
表4から明らかなように、試料7の磁石粉末は、ボンド磁石作製後も室温から高温の広い温度範囲で、試料1の磁石粉末よりも高い保磁力を有していることが確認できた。
また、このようにして得た2種類のボンド磁石に対し、3.2MA/m以上のパルス磁界を付与して着磁を行った後、大気中100℃で加熱放置した場合の磁束の経時変化を測定した。また、試験開始から1000時間後に再び3.2MA/m以上のパルス磁界を付与して着磁を行い、こうして再着磁を行ったボンド磁石の磁束から、永久減磁率を求めた。結果を図2に示す。
図2から明らかなように、試料1の磁石粉末を用いて作製したボンド磁石は、大気中100℃での長時間放置において、放置時間を対数軸とした場合の減磁が加速的に進行していくのに対し、試料7の磁石粉末を用いて作製したボンド磁石は、減磁の進行が抑制されていることがわかった。
また、試験開始から1000時間後に再着磁を行うことで求めた永久減磁率は、試料1の磁石粉末を用いて作製したボンド磁石が−6.2%であるのに対し、試料7の磁石粉末を用いて作製したボンド磁石は−5.1%であり、試料1の磁石粉末を用いて作製したボンド磁石よりも改善されていることがわかった。これは、アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末に対して熱処理を行ったことで、被膜を構成するアルミニウムが磁石粉末の粒子内部に適度に拡散し、より均一かつ強固な磁石粉末に優れた耐酸化性が付与されたことに基づくものであると考えられた。
D:アルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末を用いたボンド磁石の作製(その2)
表1の試料7の磁石粉末7:92質量%、ナイロン12樹脂(宇部興産社製P3012U):6.7質量%、チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ社製KR−TTS):0.75質量%、エチレンビスステアリン酸アミド:0.55質量%を混合し、ラボプラストミルを用いて回転数80rpm、混練温度230℃、混練時間10分の条件で混練してボンド磁石用コンパウンドを調製した。調製されたコンパウンドを解砕した後、磁界中射出成形機を用い、射出温度270℃、配向磁場800kA/m、金型温度80℃の条件にて、直径10mm×高さ(配向方向)7mmの円柱状ボンド磁石を作製した。得られた円柱状ボンド磁石は、優れた磁気特性と耐酸化性を有するものであった。
本発明は、磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の新規な製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆するためのイオンプレーティング装置の一例の模式的正面図である。 実施例のアルミニウム被膜で表面被覆されたHDDR磁石粉末を用いたボンド磁石の作製(その1)における作製されたボンド磁石の大気中100℃で加熱放置した場合の減磁率を示すグラフである。
符号の説明
1 真空処理室
2 アルミニウム被膜の形成源
3 溶融蒸発部
3a 蒸発面
3b 蒸発孔
4 粉体保持容器
5 排気口
6 真空ポンプ
7 キャリアガス導入口
8 キャリアガス導入経路
9 プラズマガン
10 陰極
11 筒状第1中間電極
12 筒状第2中間電極
13 補助陽極筒
14 補助陽極リング
15 電磁コイル
16 永久磁石
17 放電電源
18 ガス導入口
30 イオン粒子の降下領域
F 放電プラズマ流
X HDDR磁石粉末

Claims (10)

  1. HDDR磁石粉末をアルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で、熱処理を行うことによるキュリー点の低下が熱処理前に比較して10℃以内として、熱処理を行うことを特徴とする磁気特性に優れた耐酸化性HDDR磁石粉末の製造方法。
  2. アルミニウム被膜の膜厚を0.05μm〜2μmとすることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. アルミニウム被膜の体積比率を3%以下とすることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
  4. HDDR磁石粉末の表面へのアルミニウム被膜の形成を物理蒸着法で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 真空処理室の内部にて、二重圧力勾配型直交磁場放電により発生させた放電プラズマ流を、溶融蒸発部に収容したアルミニウム被膜の形成源に照射することでアルミニウムを加熱蒸発させてイオン化し、イオンプレーティングを行うことにより、振動および/または攪拌させたHDDR磁石粉末の表面にアルミニウム被膜を形成することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
  6. イオンプレーティングを行う際の真空処理室の内部のバックグラウンド真空度を1×10−3Pa以下とすることを特徴とする請求項5記載の製造方法
  7. アルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で、熱処理を行うことによるキュリー点の低下が熱処理前に比較して10℃以内として、熱処理を行ったHDDR磁石粉末と、樹脂バインダを混練することを特徴とするボンド磁石用コンパウンドの製造方法。
  8. 樹脂バインダが熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項記載の製造方法
  9. アルミニウム被膜で表面被覆した後、450℃〜600℃で、熱処理を行うことによるキュリー点の低下が熱処理前に比較して10℃以内として、熱処理を行ったHDDR磁石粉末と、樹脂バインダを混練することで得たボンド磁石用コンパウンドを用いて磁界中で配向させながら所定形状に加熱成形することを特徴とするボンド磁石の製造方法。
  10. 所定形状への加熱成形を射出成形、圧縮成形、押出成形、ロール成形から選ばれるいずれか一つの方法で行うことを特徴とする請求項記載の製造方法
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