JP4363124B2 - 光放射評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価する光放射評価方法に関するものである。
従来より、主に果樹園や農地などの農業分野において、夜蛾類のもたらす農作物への被害が問題とされてきた。例えば夜蛾は夜間に果樹園に飛来して、くちばしで果実に穿孔し、吸汁するため、その箇所を中心に果実が腐敗し、商品価値が低下するという問題があった。また農地では、夜蛾の幼虫が野菜や花卉の花芽や葉を食い荒らすために、収穫量が減少するという問題があった。
このような夜蛾類による農作物への被害を低減するために、夜蛾類が夜行性で、周囲が暗くなる夜間には活発に活動するが、周囲が明るい昼間は殆ど活動しないという習性を利用し、果樹園や農地に防蛾灯を設置して、夜蛾を防除する対策が実施されていた。その原理は、夜間に果樹園や農地を防蛾灯で照明し、夜蛾の複眼を昼同様に明順応させることによって、吸汁や交尾や産卵などの活動を抑制するというものである(例えば特許文献1参照)。
ところで、防蛾灯に用いる光源としてどのような光源が適当かを検証した実験が行われており、野村らの研究(野村健一:電燈照明による吸蛾類の防除、日本応用動物昆虫学会誌別刷第9巻第3号,pp.179-186,1965)によれば、黄色蛍光ランプがアカエグリバ複眼を比較的短時間で明順応させることができると判明した。図6は5種類の蛍光ランプ(ブラックライト蛍光ランプ、青色カラードランプ、黄色カラードランプ、白色蛍光ランプ、赤色カラードランプ)による吸汁性夜蛾(Ap,Cp,As,Os)の明順応所要時間を示しており、所要時間のデータは短波長側から見てブラックライト蛍光ランプ、青色カラードランプ、黄色カラードランプ、白色蛍光ランプ、赤色カラードランプの順番となっている。ここで明順応の所要時間が短いということは、短時間で夜蛾の活動を抑制できることを意味するので、黄色蛍光ランプ(短波長側から3番目のデータ群)は他の蛍光ランプに比べて行動抑制効果が高いと言える。また圃場での実用試験(例えば八瀬らの試験:黄色蛍光灯によるカーネーション、バラ、キクのタバコガ・ヨトウムシ類防除技術,近畿中国農研,93,pp.10-14,1997)によっても、黄色蛍光ランプによる行動抑制効果が確認された。このような試験結果を踏まえ、従来は防蛾灯に用いる光源として、波長580nmに分光放射エネルギーのピークを持つ黄色蛍光ランプが使用されてきた。
また近年になって、特許文献2、3に示されるように防蛾灯に使用する目的で様々な光源が開発されてきた。
特開2001−258454号公報 特開平11−307054号公報 特開2000−125746公報
上述のように防蛾灯に使用する目的で様々な光源が開発されているが、これらの光源は黄色蛍光ランプと分光特性が異なるために、野村らの研究成果から対象昆虫の複眼の明順応の時間を推定することはできず、圃場での実用試験を行う以外に、これら光源の防蛾灯としての効果を評価する方法がなかった。
本発明は上記問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、圃場実験を行うことなく、夜蛾をはじめとする夜行性昆虫に対する行動抑制効果を簡単に評価できる光放射評価方法を提供することにある。
ところで、夜蛾をはじめとする夜行性昆虫の明順応とは、昆虫の複眼内に存在する色素細胞における色素顆粒の移動を指す。これらの色素細胞は、複眼を構成する個眼内にある円錐晶体や個眼網膜の外側を取り囲むように存在し、網膜に到達する光量を調節するために、明暗に応じて色素細胞内で凝集したり、拡散したりする所謂色素移動を行う。
このように色素移動は光量調節のために行われるので、昆虫複眼を効率的に明順応させるためには、光受容器である視細胞を効率的に興奮させる光を照射する必要がある。
ところで、視細胞の興奮の度合いを測定する手段としては、網膜電図(Electroretinogram,ERG)を測定する方法がある。これは視細胞の興奮が、細胞膜にあるイオンチャネルを通した細胞内外のイオン交換により生じる電位変動であることから、細胞外の電位変動を測定して視細胞の興奮の度合いを測るものであり、ERGは多くの視細胞の反応の総和である。
しかしながら、防蛾灯の主な対象昆虫については、これまで分光感度を測定する目的でERGを記録した例が無く、本発明者らは防蛾灯の主な対象昆虫に対して、そのERGを記録することで、複眼網膜の分光感度を測定した。
これにより昆虫の網膜における分光感度と、光放射の分光特性との積をとることで、複眼網膜全体の興奮の度合いを簡易的に計算できるようになり、ひいては光放射の分光特性を知るだけで、複眼網膜を効率的に興奮させ、明順応を引き起こすことができる光放射特性を知ることができるようになった。
本願発明は上述のような昆虫の視覚系の仕組みを利用して光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価する方法であり、請求項1の発明は、少なくとも光源を含む光放射部の光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価する光放射評価方法であって、λを光放射の波長、S(λ)を防除対象の昆虫の網膜における分光感度を示す関数、Φe(λ)を光放射部による放射強度の分光特性を示す関数、visをS(λ)>0となるような波長λの範囲、Eを評価指数とした場合に、
E=∫visS(λ)Φe(λ)dλ
なる式で求めた評価指数が大きいほど、行動抑制効果が高いと判断することを特徴とする。
ここで、防除対象の昆虫の網膜における分光感度S(λ)は各単色光を照射した際のERGをもとに導出されるもので、波長λの光放射が引き起こす網膜の興奮の大きさを示している。
したがって、ある分光特性Φe(λ)を持つ光放射によって引き起こされる網膜の興奮の大きさの総和は、分光特性Φe(λ)と分光感度S(λ)との積を、分光感度S(λ)>0となる範囲で積分した値となる。これを表したのが上記の式であり、この式で求めた評価指数Eが網膜における視細胞の興奮の大きさを示しているので、この評価指数Eを求めることによって、光放射による行動抑制効果を直接的に評価することができ、且つ光放射の分光特性が分かれっていれば評価が行えるため、圃場での実用試験などを必要とせず、簡易的に行動抑制効果を評価することができる。
また請求項2の発明は、少なくとも光源を含む光放射部の光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価する光放射評価方法であって、λを光放射の波長、S(λ)を防除対象の昆虫の網膜における分光感度を示す関数、Φe(λ)を光放射部による放射強度の分光特性を示す関数、V(λ)を人間の分光視感効率を示す関数、visをS(λ)>0となるような波長λの範囲、vis1を波長λが約380nm以上且つ約780nm以下の範囲、E’を光放射部の測光値に乗算するための補正係数とした場合に、
E’=∫visS(λ)Φe(λ)dλ/∫vis1V(λ)Φe(λ)dλ
なる式で求めた補正係数E’を光放射部の測光値に乗じた値を評価指数とし、この評価指数が大きいほど、行動抑制効果が高いと判断することを特徴とする。ここに、測光値(測光量)とは光束およびそれから導き出される諸量のことをいい、光度、輝度、照度、光量などがある。
現状では光放射の分光特性を測定する機器よりも、照度、輝度、光束等の測光値を測定する機器の方が普及している。このため、光源毎にこれらの測光値に対する補正係数を予め計算しておき、測光値に対し補正係数を乗じて行動抑制効果を評価する方が、実用上は便利な場合もある。そこで、請求項2の発明では、測光値(例えば単位光束、照度、輝度など)あたりの昆虫網膜の興奮の大きさを示す補正係数E’を求め、この補正係数E’を測光値に乗じることで評価指数を求めており、例えば蛍光ランプや白熱灯などの光源の種類ごとに補正係数E’を計算しておくことで、照度計や輝度計と言った普及率の高い計器で測定した測光値から評価指数を求めることができ、この評価指数をもとに光放射による行動抑制効果を直接的に評価することができる。また、光放射の測光値を求めれば評価が可能なため、圃場での実用試験などを必要とせず、簡単に行動抑制効果を評価することができる。
また請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、S(λ)が、検出対象の複数種類の昆虫の網膜における分光感度の平均であることを特徴とする。
果樹園や農地では複数種類の昆虫から被害を受ける場合があるが、この発明によれば複数種類の昆虫の網膜における分光感度の平均をS(λ)として、請求項1又は2の評価式から評価指数又は補正係数を求めているので、複数種類の昆虫に対する行動抑制効果を実用試験なしで直接的に評価することができる。
また請求項4の発明は、請求項3の発明において、S1(λ),S2(λ),…,Sn(λ)をそれぞれ各種類の昆虫の網膜における分光感度を示す関数、k1,k2,…,knをそれぞれ各種類の昆虫の分光感度に対する重み係数とし、この重み係数として各種類の昆虫の存在する割合又は各種類の昆虫によって発生する被害の大きさの割合の何れかを用い、
S(λ)=(k11(λ)+k22(λ)+…+knn(λ))/(k1+k2+…+kn
なる式でS(λ)を求めたこと特徴とする。
果樹園や農地において複数種類の昆虫から被害を受ける場合、昆虫の種類によって果樹園や農地に存在する個体数に偏りがあったり、受ける被害の大きさに差がある場合があるが、この発明によれば、複数種類の昆虫の存在する割合又は複数種類の昆虫によって発生する被害の大きさの割合の何れかを重み係数として用い、複数種類の昆虫の分光感度の加重平均をとることで、より重要な昆虫に的を絞った評価を行うことができ、複数種類の昆虫に対する行動抑制効果を、種毎の昆虫の数や被害の大きさに合わせて、実用試験なしで直接的に評価することができる。
また請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、R(λ)を波長毎の誘虫性を示す分光特性、rをR(λ)>0となるような波長λの範囲、Kを定数とした場合に、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ)なる補正項を加算したことを特徴とする。
光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、他の昼行性の昆虫を誘引する効果も有しており、特に波長が360nm付近の紫外領域の光放射は、昼行性の昆虫を誘引する効果が高くなっている。果樹園や農地では、光放射に集まる昆虫が農作物に被害を与えることもあるため、防蛾灯としては昆虫を誘引する波長の光をできるだけ放射しないことが好ましい。この発明によれば、波長毎の誘虫性を示す分光特性R(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を、R(λ)>0となるような波長の範囲rで積分した結果に、(−K)をかけた値(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ)を補正項として、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、他の昼行性昆虫を誘引しやすい光放射は、その評価指数を割り引くことで、誘虫性を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに評価できる。
また請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、Pr(λ)を波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトル、prをPr(λ)>0となるような波長λの範囲、Lを定数とした場合に、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に(−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)なる補正項を加算したことを特徴とする。
光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、光に敏感な植物に対しては花芽の形成に悪影響を与える場合がある。多くの植物は、日長(昼間の時間)の変化に反応して花芽を形成する光周期を有し、日長が一定時間(限界日長)よりも短くなると花芽を形成するものを短日植物、反対に長くなると花芽を形成するものを長日植物という。キクやイチゴなどの短日植物の場合は、防蛾灯を終夜点灯させると花芽が形成されないなどして、収穫量が減少することがある。またホウレン草などの長日植物の場合は、花芽の形成が促進され(抽苔)、菜食部である葉が固くなって、商品価値が低下する場合がある。
ところで植物の光周性には、植物に含まれるフィトクロム色素が関係していることが知られている(例えば、夜間照明影響研究調査委員会報告書、照明学会、1985)。フィトクロム色素にはPr(赤色光吸収型)とPfr(遠赤色光吸収型)とがあり、Prに赤色光を照射するとPfrに転換し、逆にPfrに遠赤色光を照射するとPrに転換する。また、光の照射を遮断すると徐々にPfrからPrに転換する特性がある(暗転換)。このため全フィトクロム色素中のPfrの量は日長が長いと増加し、短くなると減少する傾向にあり、このPfrの量が植物の開花時期を制御すると言われている。つまり光放射が植物の花芽形成に悪影響を与える原因は、本来ならフィトクロム色素が暗転換されなければならない夜間に、光放射に含まれる赤色光がフィトクロム色素に作用することで、暗転換が発生せず、Pfrの量が減少しないことにある。
この発明によれば、波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトルPr(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を、Pr(λ)>0となるような波長の範囲prで積分した結果に、(−L)をかけた値(−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)を補正項として、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、植物の花芽形成に悪影響を与える光放射は、その評価指数を引くことで、花芽形成に与える悪影響を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに評価できる。
また請求項7の発明は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、R(λ)を波長毎の誘虫性を示す分光特性、rをR(λ)>0となるような波長λの範囲、Pr(λ)を波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトル、prをPr(λ)>0となるような波長λの範囲、K,Lを定数とした場合に、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)なる補正項を加算したことを特徴とする。
光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、他の昼行性の昆虫を誘引する場合や、光に敏感な植物に対しては花芽の形成に悪影響を与える場合がある。この発明によれば、波長毎の誘虫性を示す分光特性R(λ)と光放射の分光特性Φe(λ)との積を、R(λ)>0となるような波長の範囲rで積分した結果に、(−K)をかけた値(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ)と、波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトルPr(λ)と光放射の分光特性Φe(λ)との積を、Pr(λ)>0となるような波長の範囲prで積分した結果に、(−L)をかけた値(−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)との和(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)を補正項として、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、他の昼行性昆虫を誘引しやすい光放射や、植物の花芽形成に悪影響を与える光放射は、その評価指数を割り引くことで、誘虫性や花芽形成に与える悪影響を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに評価できる。
また請求項8の発明は、請求項5又は7の発明において、分光特性R(λ)にBickfordによる昆虫の走光性曲線を用いたことを特徴とする。
昆虫の走光性の分光特性としては、Bickfordによる走光性曲線(Bickford,E.D.:Average insect vision function,National Technical Conference,IES of North America,No.2,1964)がよく知られている。この走光性曲線は一部の昆虫について調べられたものではあるが、多くの昆虫に適用できることが知られている。この発明によれば分光特性R(λ)にBickfordの走光性曲線を用いており、多くの昆虫の光放射に対する誘虫性を加味した形で行動抑制効果を直接的に評価できる。
以上説明したように、請求項1の発明では、ある分光特性Φe(λ)を持つ光放射によって引き起こされる網膜の興奮の大きさの総和は、分光特性Φe(λ)と分光感度S(λ)との積を、分光感度S(λ)>0となる範囲で積分した値となり、この式で求めた評価指数Eが網膜における視細胞の興奮の大きさを示しているので、この評価指数Eを求めることによって、光放射による行動抑制効果を直接的に評価することができ、且つ光放射の分光特性が分かっていれば評価が可能なため、圃場での実用試験などを必要とせず、簡単に評価することができる。
また請求項2の発明では、測光値(例えば単位光束、照度、輝度など)あたりの昆虫網膜の興奮の大きさを示す補正係数E’を求め、この補正係数E’を測光値に乗じることで評価指数を求めており、例えば蛍光ランプや白熱灯などの光源の種類ごとに補正係数E’を計算しておくことで、照度計や輝度計と言った普及率の高い計器で測定した測光値から評価指数を求めることができ、この評価指数をもとに光放射による行動抑制効果を直接的に評価することができる。また、光放射の測光値を求めれば評価が可能なため、圃場での実用試験などを必要とせず、簡単に行動抑制効果を評価することができる。
また果樹園や農地では複数種類の昆虫から被害を受ける場合があるが、請求項3の発明によれば複数種類の昆虫の網膜における分光感度の平均をS(λ)として、請求項1又は2の評価式から評価指数又は補正係数を求めているので、複数種類の昆虫に対する行動抑制効果を実用試験なしで直接的に評価することができる。
また更に、果樹園や農地において複数種類の昆虫から被害を受ける場合、昆虫の種類によって果樹園や農地に存在する個体数に偏りがあったり、受ける被害の大きさに差がある場合があるが、請求項4の発明によれば、複数種類の昆虫の存在する割合又は複数種類の昆虫によって発生する被害の大きさの割合の何れかを重み係数として用い、複数種類の昆虫の分光感度の加重平均をとることで、より重要な昆虫に的を絞った評価を行うことができ、複数種類の昆虫に対する行動抑制効果を、種毎の昆虫の数や被害の大きさに合わせて、実用試験なしで直接的に評価することができる。
また光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、他の昼行性の昆虫を誘引する場合もあるが、請求項5の発明によれば、波長毎の誘虫性を示す分光特性R(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を、R(λ)>0となるような波長の範囲rで積分した結果に、(−K)をかけた値(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ)を補正項として、請求項1又は2の式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、他の昼行性昆虫を誘引しやすい光放射は、その評価指数を割り引くことで、誘虫性を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに評価できる。
さらに光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、光に敏感な植物に対しては花芽の形成に悪影響を与える場合があるが、請求項6の発明によれば、波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトルPr(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を、Pr(λ)>0となるような波長の範囲prで積分した結果に、(−L)をかけた値(−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)を補正項として、請求項1又は2の式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、植物の花芽形成に悪影響を与える光放射は、その評価指数を引くことで、花芽形成に与える悪影響を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに評価できる。
また更に光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、他の昼行性の昆虫を誘引する場合や、光に敏感な植物に対しては花芽の形成に悪影響を与える場合があるが、請求項7の発明によれば、波長毎の誘虫性を示す分光特性R(λ)と光放射の分光特性Φe(λ)との積を、R(λ)>0となるような波長の範囲rで積分した結果に、(−K)をかけた値(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ)と、波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトルPr(λ)と光放射の分光特性Φe(λ)との積を、Pr(λ)>0となるような波長の範囲prで積分した結果に、(−L)をかけた値(−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)との和(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)を補正項として、請求項1又は2の式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、他の昼行性昆虫を誘引しやすい光放射や、植物の花芽形成に悪影響を与える光放射は、その評価指数を割り引くことで、誘虫性や花芽形成に与える悪影響を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに評価できる。
また請求項8の発明によれば分光特性R(λ)にBickfordによる昆虫の走光性曲線を用いており、多くの昆虫の光放射に対する誘虫性を加味した形で行動抑制効果を直接的に評価できる。
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)
図1は本発明に係る光放射評価方法を用いた評価装置のブロック図である。本装置は入力部1と、演算部2と、出力部3と、記憶部4とで構成され、光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価するために用いられる。
入力部1は、光放射の分光特性や対象昆虫の分光特性を入力するためのもので、例えば光放射の分光特性を測定する機器や、対象昆虫のERGを測定する装置から測定データを取り込む入力装置によって実現される。
記憶部2は例えばパーソナルコンピュータの記憶装置により実現され、入力部1から入力された光放射の分光特性や対象昆虫の分光特性のデータ、及び、演算部3の動作プログラムなどを格納する。
演算部3は例えばパーソナルコンピュータの演算装置により実現され、記憶部2に組み込まれた動作プログラムを実行し、記憶部2に記憶されたデータをもとに後述する演算式を用いて、光放射による行動抑制効果の評価指数を算出する。
出力部4は例えばディスプレイ装置やプリンタなどの表示装置によって構成され、演算部3の演算によって求められた行動抑制効果の評価指数を出力するものである。
次に、3種類の防蛾灯L1〜L3について2種類の昆虫(オオタバコガおよびハスモンヨトウ)に対する行動抑制効果を評価する方法について以下に説明する。なお以下の各実施形態ではオオタバコガ(以下昆虫Aと言う)とハスモンヨトウ(以下昆虫Bと言う)の2種類の昆虫に対して、光放射による行動抑制効果の評価指数を求めているが、対象昆虫が上記の2種類に限定される趣旨のものではなく、対象昆虫の網膜における分光分布Φe(λ)が分かっていれば、どのような種類の昆虫に対しても光放射による行動抑制効果を評価することができる。
図2は防蛾灯L1〜L3の分光特性を示し、同図中のイは防蛾灯L1の分光特性、ロは防蛾灯L2の分光特性、ハは防蛾灯L3の分光特性である。防蛾灯L1とL2の分光分布はよく似ているが、防蛾灯L1は580nm付近にピークを有し、防蛾灯L2は550nm付近にピークを有している。一方、防蛾灯L3の分光分布は防蛾灯L1,L2に比べて短波長側に分布しており、530nm付近にピークを有している。
また図3はERGから求めた2種類の昆虫A,Bの複眼網膜の分光感度を示し、同図中のa(□)が昆虫Aの分光感度、b(○)が昆虫Bの分光感度である。昆虫A,Bの分光感度は、20nm間隔の単色光を照射して得られたERGをもとに計算されたため、20nm間隔のデータとして入力部1に入力されており、演算部3では入力部1から入力された分光感度のデータを補間して5nmのデータに変換し、記憶部2に記憶させている。同様に演算部3では、入力部1から入力された防護灯L1〜L3の分光特性のデータを補間することで5nmのデータに変換して、記憶部2に記憶させており、両者のサンプリング間隔を揃えている。
ここで記憶部2には、光放射の分光特性と対象昆虫の分光特性のデータをもとに以下の式(1)を用いて、光放射による行動抑制効果を表す評価指数Eを求めるプログラムが組み込まれている。
E=∫visS(λ)Φe(λ)dλ …(1)
但し、λは光放射の波長、S(λ)は対象昆虫の網膜における分光感度を示す関数、Φe(λ)は防蛾灯L1〜L3による放射強度の分光特性を示す関数、visはS(λ)>0となるような波長λの範囲である。
そして演算部3は記憶部2に組み込まれたプログラムを実行し、対象昆虫の複眼網膜における分光感度S(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を各波長毎(5nm毎)に計算し、複眼網膜の分光感度がある波長の範囲(つまり分光感度S(λ)の値が正の値となる波長の範囲)visで得られた積の総和をとり、この総和にサンプリング間隔(この場合は5nm)を乗じて評価指数Eを算出しており、この算出結果を出力部4に出力する。
ここで、対象昆虫の複眼網膜の分光感度S(λ)は単色光を照射した際のERGをもとに導出され、波長λの光放射が引き起こす網膜の興奮の大きさを示している。したがって、ある分光特性Φe(λ)を持つ光放射によって引き起こされる網膜の興奮の大きさの総和は、分光特性Φe(λ)と分光感度S(λ)との積を、S(λ)>0となる波長λの範囲で積分した値となり、これを表したのが上記の式(1)で、この式(1)から求めた評価指数Eが、光放射による対象昆虫の網膜における視細胞の興奮の大きさを示している。
したがって、評価担当者は出力部4に出力された評価指数Eの演算結果をもとに、評価指数Eが大きいほど、行動抑制効果が高いと判断することができ、光源の光放射の分光特性が分かっていれば、圃場での実用試験などを必要とせずに、行動抑制効果を直接的に評価することができる。なお表1は防蛾灯L1〜L3の光放射による対象昆虫A,Bについての行動抑制効果の評価指数Eの算出結果を示し、何れの昆虫A,Bに対しても防蛾灯L3による行動抑制効果が高いことが判る。
Figure 0004363124
なお本実施形態では防蛾灯L1〜L3の全放射について夜行性昆虫の行動抑制効果を評価しているが、評価対象の光放射が光源或いは照明器具の全放射に限定されるものではなく、面或いは空間に入射する全放射、光源或いは光源の光を反射する反射面から所定の方向への単位面積当たりの放射、光源或いは照明器具などから所定の単位立体角内への放射の何れかを評価対象とし、上述の光放射評価方法を用いて行動抑制効果を評価するようにしても良いことは言うまでもない。
(実施形態2)
実施形態1では、光放射の分光感度S(λ)を測定し、光放射の分光感度S(λ)と対象昆虫の網膜における分光感度Φe(λ)とをもとに、上述の式(1)を用いて評価指数Eを算出しているが、光放射の分光感度S(λ)を測定するには大掛かりな測定装置が必要になる。現状では光放射の分光感度を測定する装置に比べて、照度・輝度・光束などの人間の分光視感効率に基づいた測光値を測定する装置の方がより普及しているので、本実施形態の光放射評価方法を用いる評価装置では、上記の測光値から行動抑制効果の評価指数を求めるための補正係数を光源毎に予め計算しておき、測定装置から入力された測光値に補正係数を掛け合わせることで、光放射による行動抑制効果の評価指数を算出している。なお評価装置の構成は実施形態1と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
以下に、図2に示す防蛾灯L1〜L3の分光特性が光束1000lm当たりの分光放射強度である場合に、各々の防蛾灯L1〜L3について実施形態1で説明した対象昆虫Aに対する補正係数E’を求め、この補正係数E’を用いて行動抑制効果を評価する方法について説明を行う。
図3のa(□)はERGから求めた昆虫Aの複眼網膜の分光感度を示している。この分光感度は、20nm間隔の単色光を照射して得られたERGをもとに計算されたため、20nm間隔のデータとして入力部1に入力されており、演算部3では入力部1から入力された分光感度のデータを補間して5nm間隔のデータに変換し、記憶部2に記憶させている。また記憶部2には、予め測定しておいた防護灯L1〜L3の放射強度の分光特性のデータや人間の分光視感効率のデータが登録されており、演算部3では、これらのデータを補間することで5nm間隔のデータに変換し、サンプリング間隔を揃えている。
ここで記憶部2には、光放射の分光特性と対象昆虫の分光特性のデータと人間の分光視感効率のデータをもとに以下の式(2)を用いて補正係数E’を求めるプログラムが組み込まれている。
E’=∫visS(λ)Φe(λ)dλ/∫vis1V(λ)Φe(λ)dλ …(2)
但し、λは光放射の波長、S(λ)は対象昆虫の網膜における分光感度を示す関数、Φe(λ)は防蛾灯L1〜L3による放射強度の分光特性を示す関数、V(λ)は人間の分光視感効率を示す関数、visはS(λ)>0となるような波長λの範囲、vis1は波長λが380nm以上且つ780nm以下の範囲(可視光の波長域)である。
そして演算部3は記憶部2に組み込まれたプログラムを実行し、対象昆虫の複眼網膜における分光感度S(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を各波長毎(5nm毎)に計算して、複眼網膜の分光感度がある波長の範囲(つまり分光感度S(λ)>0となる波長の範囲)visで得られた積の総和をとり、この総和にサンプリング間隔(この場合は5nm)を乗じて式(2)の分子を計算する。また演算部3は、人間の分光視感効率V(λ)と、光放射の分光特性Φe(λ)との積を各波長毎(5nm毎)に計算し、上記の波長の範囲vis1で得られた積の総和をとり、この総和にサンプリング間隔(この場合は5nm)を乗じて式(2)の分母を計算する。そして演算部3は上述の演算で得られた分子の項を分母の項で除して補正係数E’を求める。演算部3は各々の防蛾灯L1〜L3について上述の計算を行って補正係数E’を求めており、これらの算出結果を記憶部2に記憶させる。なお表2は防蛾灯L1〜L3について対象昆虫Aに対する補正係数E’を算出した結果を示している。
Figure 0004363124
ここで、ある農地における上記の防蛾灯L1〜L3による最低照度が下記の表3に示すような値となる場合に、本実施形態の評価装置を用いて各防蛾灯L1〜L3による行動抑制効果を評価する際は、測光値として照度計(図示せず)から各防蛾灯L1〜L3の最低照度の測定値が入力部1に入力されると、演算部3は入力部1に入力された最低照度の測定値に、予め記憶部2に記憶させておいた各防蛾灯L1〜L3毎の補正係数E’を乗じて、各防蛾灯L1〜L3による行動抑制効果を評価指数を求め、評価指数の算出結果を出力部4に出力している。評価担当者は出力部4に出力された評価指数の演算結果をもとに、評価指数が大きいほど、行動抑制効果が高いと判断することができ、この場合は防蛾灯L3の補正係数E’が最も大きいため、照度の最も低い防蛾灯L3が他の防蛾灯L1,L2よりも行動抑制効果が高くなっている。
Figure 0004363124
このように本実施形態では、照度・輝度・光束などの人間の分光視感効率に基づいた測光値が測定可能な簡易な装置を用いて測光値を測定すれば、予め求めた補正係数E’を用いて、圃場での実用試験などを必要とせずに行動抑制効果の評価指数を簡単に求めることができる。
(実施形態3)
上述の実施形態1では2種類の昆虫A,Bに対し、光放射による行動抑制効果の評価指数Eをそれぞれ求めているが、本実施形態ではある作物に対して複数種類の昆虫による被害がある場合に、複数種類の昆虫の網膜における分光感度の平均をS(λ)として、行動抑制効果の評価指数Eを求めている。なお評価装置の構成は実施形態1と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
以下では、ある作物に対して昆虫Aによる被害と昆虫Bによる被害の割合が3:1の場合について、実施形態1で説明した防蛾灯L1〜L3による行動抑制効果の評価指数Eを求める方法を説明する。
実施形態1で説明したように、記憶部2には2種類の昆虫A,Bの分光感度S1(λ),S2(λ)のデータが格納されており、演算部3は、各波長毎に昆虫A,Bの分光感度S1(λ),S2(λ)にそれぞれ昆虫A,Bによる被害の大きさの割合を示す重み係数k1,k2(k1=0.75,k2=0.25)を乗じて和をとることで、分光感度の加重平均を求めて、この加重平均をS(λ)とし、記憶部2に記憶させている。而して加重平均S(λ)は以下の式で表される。
S(λ)=k11(λ)+k22(λ) …(3)
このようにして分光感度S(λ)が求まると、演算部3は実施形態1と同様の方法で評価指数Eを算出しており、その算出結果を以下の表4に示す。
Figure 0004363124
本実施形態では複数種の昆虫の網膜における分光感度の平均をS(λ)とし、この分光感度S(λ)から行動抑制効果の評価指数Eを求めているので、複数種の昆虫に対する行動抑制効果を実用試験なしで直接的に評価することができる。
なお本実施形態では、2種の昆虫A,Bの網膜における分光感度S1(λ),S2(λ)と、昆虫A,Bによる被害の大きさの割合を示す重み係数k1,k2とから分光感度の加重平均を求めているが、3種類以上の昆虫の場合には、以下の式(4)を用いて分光感度の加重平均を求めればよい。但し、S1(λ),S2(λ),…,Sn(λ)はそれぞれ複数種の昆虫の網膜における分光感度、k1,k2,…,knは各々の昆虫の重み係数である、
S(λ)=k11(λ)+k22(λ)+…+knn(λ) …(4)
また本実施形態では、複数種の昆虫の分光感度S1(λ)…に対する重み係数k1…として複数種の昆虫による被害の大きさの割合を用いているが、重み係数k1…として複数種の昆虫の存在する割合を用いても良く、特定の昆虫に的を絞って行動抑制指数を求めることができる。なお重みを付けずに、複数種の昆虫の分光感度S1(λ)…の平均をとって分光感度S(λ)としても良い。
また実施形態2において、測光値に対する補正係数E’を求める際に用いる分光感度S(λ)を、複数種の昆虫の分光感度S1(λ)…の平均や加重平均としても良いことは言うまでもない。
(実施形態4)
ところで光放射は夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、他の昼行性の昆虫を誘引する場合や、光に敏感な植物に対しては花芽の形成に悪影響を与える場合があるので、本実施形態では誘虫性や花芽形成に与える悪影響を加味した形で行動抑制効果の評価指数を求めている。なお評価装置の構成は実施形態1と同様であるので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
上述のように光放射は、夜蛾などの夜行性昆虫の行動を抑制する一方で、他の昼行性の昆虫を誘引する効果も有しており、特に波長が360nm付近の紫外領域の光放射は、昼行性の昆虫を誘引する効果が高くなっている。果樹園や農地では、光放射に集まる昆虫が農作物に被害を与えることもあるため、防蛾灯L1〜L3としては昼行性の昆虫を誘引する光をできるだけ放射しないことが好ましい。
また光放射は、光に敏感な植物に対しては花芽の形成に悪影響を与える場合がある。多くの植物は、日長(昼間の時間)の変化に反応して花芽を形成する光周期を有し、一般に、日長が一定時間(限界日長)よりも短くなると花芽を形成するものを短日植物、反対に長くなると花芽を形成するものを長日植物という。キクやイチゴなどの短日植物の場合は、防蛾灯を終夜点灯させると花芽が形成されないなどして、収穫量が減少することがある。またホウレン草などの長日植物の場合は、花芽の形成が促進され(抽苔)、菜食部である葉が固くなって、商品価値が低下する場合がある。したがって、防蛾灯L1〜L3としては花芽形成に悪影響を与える光をできるだけ放射しないことが好ましい。
そこで、本実施形態では誘虫性を評価する補正項A1と、花芽形成に対する悪影響を評価する補正項A2とをそれぞれ求めて、上記の式(1)の行動抑制効果を表す項A0(=∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に加算しており、評価指数Eは以下の式で表される。
E=∫visS(λ)Φe(λ)dλ+A1+A2 …(5)
ここで、誘虫性を評価する補正項A1は、R(λ)を波長毎の誘虫性を示す分光特性、rをR(λ)>0となるような波長λの範囲、Kを定数とすると、以下の式(6)で表される。
A1=−K∫R(λ)Φe(λ)dλ …(6)
なお分光特性R(λ)としては図4に示すようなBickfordによる昆虫の走光性曲線を用いており、記憶部2には、Bickfordによる昆虫の走光性曲線のデータと、上記の式(6)を用いて補正項A1を求めるプログラムが組み込まれている。また定数Kは例えばK=1としている。
而して演算部3は記憶部2に組み込まれたプログラムを実行し、昆虫の走光性曲線のデータを5nm間隔でサンプリングしたものをR(λ)とし、この分光特性R(λ)と光放射の分光特性Φe(λ)との積を各波長毎(5nm毎)に計算して、上記の範囲rで得られた積の総和をとり、この総和にサンプリング間隔(5nm)を乗じ(つまり分光特性R(λ)と分光特性Φe(λ)との積を範囲rで積分し)、さらに(−1)を乗じることで補正項A1を求めている。
一方、花芽形成に対する悪影響を評価する補正項A2は以下のようにして求めている。植物の光周性には、植物に含まれるフィトクロム色素が関係していることが知られている。フィトクロム色素にはPr(赤色光吸収型)とPfr(遠赤色光吸収型)とがあり、本来ならPfrがPrに暗転換されなければならない夜間に、光放射に含まれる赤色光がフィトクロム色素に作用することで暗転換が発生せず、Pfrの量が減少しないために、花芽形成に悪影響を与えるものと考えられる。
そこで、花芽形成に対する悪影響を評価する補正項A2は、Pr(λ)を波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素Prの吸収スペクトル、prをPr(λ)>0となるような波長λの範囲、Lを定数とすると以下の式(7)で表される。
A2=−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ …(7)
図5はフィトクロム色素Prの吸収スペクトルの分布特性を示し、記憶部2にはフィトクロム色素Prの吸収スペクトルの分布特性のデータと、上記の式(7)を用いて補正項A2を求めるプログラムが組み込まれている。また定数Lは例えばL=1としている。
而して演算部3は記憶部2に組み込まれたプログラムを実行し、フィトクロム色素Prの吸収スペクトルの分布特性を5nm間隔でサンプリングしたものをPr(λ)として、このPr(λ)と光放射の分光特性Φe(λ)との積を各波長毎(5nm毎)に計算し、上記の範囲prで得られた積の総和をとって、この総和にサンプリング間隔(5nm)を乗じ(つまりPr(λ)と分光特性Φe(λ)との積を範囲prで積分し)、さらに(−1)を乗じることで補正項A2を求めている。
そして、演算部3では以上のようにして求めた補正項A1,A2を、実施形態1で説明した手順で求めた行動抑制効果を評価する項A0に加算して評価指数Eを求めており、評価指数Eの演算結果を出力部4に出力する。ここで、下記の表5は評価指数Eの演算結果を示しており、表5の左から2番目の列より順番に行動抑制効果の評価項A0と補正項A1と補正項A2とを示し、右端の列に上記の式(5)で求めた評価指数Eを示す。
Figure 0004363124
このように本実施形態では式(1)の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に補正項A1,A2を加算しており、たとえ夜行性昆虫の網膜を大きく興奮させて高い行動抑制効果が得られても、他の昼行性昆虫を誘引しやすい光放射や、植物の花芽形成に悪影響を与える光放射は、その評価指数を割り引くことで、誘虫性や花芽形成に与える悪影響を加味した形で行動抑制効果を実用試験なしに直接的に評価できる。
尚、誘虫性又は花芽形成に与える悪影響の何れかを加味した形で評価指数Eを求める場合は、式(1)の行動抑制効果を評価する項A0に補正項A1,A2の何れか一方のみを加算すれば良く、補正項A1のみを加算した評価指数Eの演算結果(E=A0+A1)と、補正項A2のみを加算した評価指数Eの演算結果(E=A0+A2)も表5に示している。
また本実施形態では実施形態1において行動抑制効果の評価項A0に補正項A1,A2を加算して評価指数Eを求めているが、実施形態2において、演算部3が上述の式(2)を用いて補正係数E’を算出する際に、式(2)の行動抑制効果を評価する項A0(=∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に本実施形態で用いた補正項A1,A2を加算し、以下の式(8)から補正係数E’を求めるようにしても良く、誘虫性や花芽形成に与える悪影響を加味した形で補正係数E’を求めることができる。
E’=(∫visS(λ)Φe(λ)dλ+A1+A2)/∫vis1V(λ)Φe(λ)dλ …(8)
尚、誘虫性又は花芽形成に与える悪影響の何れかを加味した形で補正係数E’を求める場合は、式(2)の行動抑制効果を評価する項A0(=∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に補正項A1,A2の何れか一方のみを加算すれば良い。その場合の演算式は以下の式(9)又は(10)のようになる。
E’=(∫visS(λ)Φe(λ)dλ+A1)/∫vis1V(λ)Φe(λ)dλ …(9)
E’=(∫visS(λ)Φe(λ)dλ+A2)/∫vis1V(λ)Φe(λ)dλ …(10)
防蛾灯などに使用する目的で光放射により夜行性昆虫の行動を抑制するための光源が種々開発されているが、本発明に係る光放射評価方法を用いて行動抑制効果の評価指数を求めることによって、圃場での実用試験を行うことなく、対象昆虫の行動抑制効果を簡易的に評価することができる。
実施形態1の光放射評価装置のブロック図である。 評価対象の防蛾灯の分光特性を示す図である。 防除対象の昆虫の分光感度を示す図である。 Bickfordによる昆虫の走光性曲線を示す図である。 フィトクロム色素Prの吸収スペクトルの分布特性である。 各種の蛍光ランプによる吸汁性夜蛾の明適応化所要時間の説明図である。
符号の説明
1 入力部
2 記憶部
3 演算部
4 出力部

Claims (8)

  1. 少なくとも光源を含む光放射部の光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価する光放射評価方法であって、λを光放射の波長、S(λ)を防除対象の昆虫の網膜における分光感度を示す関数、Φe(λ)を光放射部による放射強度の分光特性を示す関数、visをS(λ)>0となるような波長λの範囲、Eを評価指数とした場合に、
    E=∫visS(λ)Φe(λ)dλ
    なる式で求めた評価指数が大きいほど、行動抑制効果が高いと判断することを特徴とする光放射評価方法。
  2. 少なくとも光源を含む光放射部の光放射による夜行性昆虫の行動抑制効果を評価する光放射評価方法であって、λを光放射の波長、S(λ)を防除対象の昆虫の網膜における分光感度を示す関数、Φe(λ)を光放射部による放射強度の分光特性を示す関数、V(λ)を人間の分光視感効率を示す関数、visをS(λ)>0となるような波長λの範囲、vis1を波長λが約380nm以上且つ約780nm以下の範囲、E’を光放射部の測光値に乗算するための補正係数とした場合に、
    E’=∫visS(λ)Φe(λ)dλ/∫vis1V(λ)Φe(λ)dλ
    なる式で求めた補正係数E’を光放射部の測光値に乗じた値を評価指数とし、この評価指数が大きいほど、行動抑制効果が高いと判断することを特徴とする光放射評価方法。
  3. 前記S(λ)が、検出対象の複数種類の昆虫の網膜における分光感度の平均であることを特徴とする請求項1又は2記載の光放射評価方法。
  4. 1(λ),S2(λ),…,Sn(λ)をそれぞれ前記各種類の昆虫の網膜における分光感度を示す関数、k1,k2,…,knをそれぞれ前記各種類の昆虫の分光感度に対する重み係数とし、この重み係数として前記各種類の昆虫の存在する割合又は前記各種類の昆虫によって発生する被害の大きさの割合の何れかを用い、
    S(λ)=(k11(λ)+k22(λ)+…+knn(λ))/(k1+k2+…+kn
    なる式で前記S(λ)を求めたこと特徴とする請求項3記載の光放射評価方法。
  5. R(λ)を波長毎の誘虫性を示す分光特性、rをR(λ)>0となるような波長λの範囲、Kを定数とした場合に、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ)なる補正項を加算したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の光放射評価方法。
  6. Pr(λ)を波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトル、prをPr(λ)>0となるような波長λの範囲、Lを定数とした場合に、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に(−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)なる補正項を加算したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の光放射評価方法。
  7. R(λ)を波長毎の誘虫性を示す分光特性、rをR(λ)>0となるような波長λの範囲、Pr(λ)を波長λにおける植物に含まれるフィトクロム色素の吸収スペクトル、prをPr(λ)>0となるような波長λの範囲、K,Lを定数とした場合に、上式の項(∫visS(λ)Φe(λ)dλ)に(−K∫R(λ)Φe(λ)dλ−L∫prPr(λ)Φe(λ)dλ)なる補正項を加算したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の光放射評価方法。
  8. 分光特性R(λ)にBickfordによる昆虫の走光性曲線を用いたことを特徴とする請求項5又は7記載の光放射評価方法。
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