図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された動力軸としてのリングギヤ軸32aに接続されたモータMG2と、リングギヤ軸32aの動力を変速して駆動輪39a,39bに連結された駆動軸36に出力する変速機60と、駆動輪39a,39bをロックするパーキングロック機構90と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32には動力軸としてのリングギヤ軸32aがそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aから変速機60,駆動軸36,デファレンシャルギヤ38を介して、最終的には車両の駆動輪39a,39bに出力される。
図2は、モータMG1,MG2やバッテリ50を中心とした電気駆動系の構成の概略を示す構成図である。モータMG1,MG2は、図1および図2に示すように、いずれも永久磁石が貼り付けられたロータ45a,46aと三相コイルが巻回されたステータ45b,46bとを有し、発電機として駆動できると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42は、いずれも6個のトランジスタT1〜T6,T7〜T12とトランジスタT1〜T6,T7〜T12に逆並列接続された6個のダイオードD1〜D6,D7〜D12とにより構成されている。各6個のトランジスタT1〜T6,T7〜T12は、バッテリ50の正極が接続された正極母線とバッテリ50の負極が接続された負極母線とに対してソース側とシンク側とになるよう2個ずつペアで配置され、その接続点にモータMG1,MG2の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、対をなすトランジスタT1〜T6,T7〜T12のオン時間の割合を調節することにより三相コイルに回転磁界を形成でき、モータMG1,MG2を回転駆動することができる。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40は、CPU40aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU40aの他に処理プログラムを記憶するROM40bと、データを一時的に記憶するRAM40cと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2のロータ45a,46aの回転位置θm1,θm2や、モータMG1,MG2の三相コイルのU相,V相に流れる相電流を検出する電流センサ45U,45V,46U,46Vからの相電流Iu1,Iv1,Iu2,Iv2などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42のトランジスタT1〜T6,T7〜T12へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
変速機60は、図示しないブレーキやクラッチを有し、動力軸としてのリングギヤ軸32aと駆動軸36との接続および接続の解除を行なうと共に両軸の接続をリングギヤ軸32aの回転数を4段に変速して駆動軸36に伝達できるよう構成されている。
パーキングロック機構90は、駆動軸36に取り付けられたパーキングギヤ92と、パーキングギヤ92と噛み合ってその回転駆動を停止した状態でロックするパーキングロックポール94と、から構成されている。パーキングロックポール94は、他のレンジからPレンジへの操作信号またはPレンジから他のレンジへの操作信号を入力したハイブリッド用電子制御ユニット70により図示しないアクチュエータが駆動制御されることによって作動し、パーキングギヤ92との噛合およびその解除によりパーキングロックおよびその解除を行なう。駆動軸36は機械的に駆動輪39a,39bに接続されているから、パーキングロック機構90は間接的に駆動輪39a,39bをロックしていることになる。
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからのバッテリ電圧Vb,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた電流センサ51bからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサ51bにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量SOCも演算している。
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、モータMG2の温度を検出する温度センサ47からのモータ温度αm2,イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、変速機60の図示しないブレーキやクラッチのアクチュエータへの駆動信号やパーキングロック機構90の図示しないアクチュエータへの駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
なお、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションセンサ82により検出するシフトレバー81のポジションとしては、駐車ポジション(Pポジション)や中立ポジション(Nポジション),ドライブポジション(Dポジション),リバースポジション(Rポジション)などがある。シフトレバー81が駐車ポジションの状態のときには、通常、変速機60の図示しないブレーキやクラッチが開放されて動力軸としてのリングギヤ軸32aが駆動軸36から切り離される。
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて動力軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にシフトレバー81が駐車ポジションにあるときの動作について説明する。図3は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駐車ポジション時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトレバー81が駐車ポジションにあるときに所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
駐車ポジション時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22の回転数Neや、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,モータMG2の温度を検出する温度センサ47からのモータ温度αm2,バッテリ50の残容量SOC,バッテリ50を充放電する実充放電電力Pb,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいて計算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されるモータMG1,MG2のロータ45a,46aの回転位置θm1,θm2に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の残容量SOCは、電流センサ51bにより検出された充放電電流の積算値に基づいて演算されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。バッテリ50の実充放電電力Pbは、電圧センサ51aにより検出されるバッテリ電圧Vbと電流センサ51bにより検出される充放電電流Ibとの積をバッテリECU52から通信により入力するものとした。また、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、温度センサ51cにより検出されたバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
続いて、エンジン22が運転されているか否かを判定し(ステップS110)、エンジン22が運転されていないと判定されたときには、エンジン22の始動要求がなされているか否かを判定する(ステップS120)。ここで、エンジン22が運転されているか否かの判定は、例えば、エンジン22が運転されているか否かに応じて設定されてエンジンECU24から通信により入力されたフラグの値を調べることにより行なうことができる。また、エンジン22の始動要求がなされているか否かは、例えば、バッテリ50の残容量SOCが所定残容量Sref1(例えば、30%や40%など)未満であるか否かなどに基づいて判定することができる。エンジン22が運転されておらず始動要求もなされていないと判定されたときには、回転制限制御フラグFに値0を設定してモータECU40に送信すると共に(ステップS130)、回転制限制御用トルクTm2に値0を設定してモータECU40に送信して(ステップS140)、駐車ポジション時制御用ルーチンを終了する。ここで、回転制限制御フラグFは、モータMG2のステータ46bの磁界の向きを固定してモータMG2のロータ46a(動力軸としてのリングギヤ軸32a)が回転しないようモータMG2を制御する回転制限制御を実行するか否かを示すフラグであり、回転制限制御を実行するときに値1が設定され、回転制限制御を実行しないときに値0が設定される。また、回転制限制御用トルクTm2は、回転制限制御を実行する際に用いられるトルクである。回転制限制御フラグFと回転制限制御用トルクTm2とを受信したモータECU40は、図4に例示する駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンにより、回転制限制御フラグFと回転制限制御用トルクTm2とに基づいてモータMG2のインバータ42のトランジスタT7〜T12のスイッチング制御を行なう。いま、回転制限フラグFに値0が設定されるときを考えているから、回転制限制御は実行されない。なお、回転制限制御や図4の駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンについて詳細は後述する。
ステップS120でエンジン22の始動要求がなされていると判定されたときには、モータリング経過時間tを入力し(ステップS150)、入力したエンジン22の回転数Neやモータリング経過時間tを用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する(ステップS160)。ここで、モータリング経過時間tは、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されてからの時間として図示しないタイマにより計測された時間を入力するものとした。モータMG1のトルク指令Tm1*は、実施例では、エンジン22の回転数Neやモータリング経過時間tとモータMG1のトルク指令Tm1*との関係を予め定めてトルク指令設定用マップとして記憶しておき、エンジン22の回転数Neやモータリング経過時間tが与えられると記憶したマップから対応するトルク指令Tm1*を導出して設定するものとした。トルク指令設定用マップの一例を図5に示す。トルク指令設定用マップでは、図示するように、エンジン22の始動指示がなされた時刻t1の直後からレート処理を用いて迅速に比較的大きなトルクをトルク指令Tm1*に設定してエンジン22の回転数Neを迅速に増加させる。続いて、エンジン22の回転数Neが共振回転数帯を通過したか共振回転数帯を通過するのに必要な時間以降の時刻t2に、エンジン22を安定して所定回転数Nref以上でモータリングすることができるトルクをトルク指令Tm1*に設定し、電力消費や駆動軸としてのリングギヤ軸32aにおける反力を小さくする。ここで、所定回転数Nrefは、燃料噴射制御や点火制御を開始する回転数であり、実施例では、共振回転数帯より余裕をもって大きな回転数を設定するものとした。そして、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至った時刻t3からレート処理を用いて迅速にトルク指令Tm1*を値0とし、エンジン22の完爆が判定された時刻t4に終了する。このようにエンジン22の始動指示がなされた直後に大きなトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定してエンジン22をモータリングすることにより、迅速にエンジン22を所定回転数Nref以上に回転させて始動させることができる。
続いて、回転制限制御フラグFに値1を設定する(ステップS170)。この処理により、回転制限制御フラグFは、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときに値0から値1に変更されることになる。そして、モータMG1のトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとに基づいて式(1)によりリングギヤ軸32aに作用する軸トルクTrを計算する(ステップS180)。ここで、モータMG1によってエンジン22がモータリングされる際の動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図6に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2であるリングギヤ32(リングギヤ軸32a)の回転数を示す。また、図中、R軸上の太線矢印は、モータMG1から出力されたトルクTm1がリングギヤ軸32aに作用する軸トルクTrを示す。式(1)は、図6の共線図から容易に導き出すことができる。
こうして軸トルクTrを計算すると、計算した軸トルクTrとステップS100で入力したモータ温度αm2およびバッテリ50の実充放電電力Pbとを用いて図7の回転制限制御用トルク設定処理により回転制限制御用トルクTm2を設定する(ステップS190)。以下、図3の駐車ポジション時制御ルーチンの説明を一旦中断し、図7の回転制限制御用トルク設定処理について説明する。
図7の回転制限制御用トルク設定処理では、まず、モータ温度αm2を閾値αrefと比較すると共に(ステップS600)、バッテリ50の実充放電電力Pbをバッテリ50の入出力制限Win,Woutと比較する(ステップS610,S620)。ここで、閾値αrefは、モータMG2に許容される許容温度などに設定することができ、モータMG2の定格などにより定められる。モータ温度αm2が閾値αref以下でありバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内のときには、軸トルクTr(=−Tm1*/ρ)を回転制限用トルクTm2として設定して(ステップS630)、回転制限制御用トルク設定処理を終了する。一方、モータ温度αm2が閾値αref以下でありバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには、軸トルクTrに補正係数β1を乗じた補正トルクを回転制限制御用トルクTm2として設定し(ステップS640)、モータ温度αm2が閾値αrefより高くバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内のときには、軸トルクTrに補正係数β2を乗じた補正トルクを回転制限制御用トルクTm2として設定し(ステップS650)、モータ温度αm2が閾値αrefより高くバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには、軸トルクTrに補正係数β3を乗じた補正トルクを回転制限制御用トルクTm2として設定して(ステップS660)、回転制限制御用トルク設定処理を終了する。ここで、補正係数β1,β2,β3は、いずれも値0から値1の間の値が設定され、モータMG1,MG2やバッテリ50の定格などにより定められる。実施例では、補正係数β1は実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内となるような係数として実験などにより定められた値を用いるものとし、補正係数β2はモータ温度αm2が閾値αref以下となるような係数として実験などにより定められた値を用いるものとし、補正係数β3は実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内となると共にモータ温度αm2が閾値αref以下となるような係数として実験などにより定められた値を用いるものとした。実施例では、補正係数β1,β2,β3は、それぞれ異なる値が用いられるものとした。したがって、モータ温度αm2が閾値αrefより高いときやバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには、軸トルクTrを補正係数β1,β2,β3のいずれかを用いて制限した補正トルクを回転制限制御用トルクTm2として設定することになる。図8は、エンジン22をモータリングして始動する際のモータMG1のトルク指令Tm1*とモータ温度αm2とバッテリ50の実充放電電力Pbと回転制限制御用トルクTm2との関係の一例を示す説明図である。いま、図3の駐車ポジション時制御ルーチンのステップS170で回転制限制御フラグFに値1が設定されるときを考えているから、前述の回転制限制御が実行される。エンジン22がモータリングされる際には、モータ温度αm2が閾値αref以下でありバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内のときには軸トルクTr(=−Tm1*/ρ)が回転制限制御用トルクTm2に設定され、この回転制限トルクTm2に基づいて回転制限制御が実行される。その後、回転制限制御の実行によりモータ温度αm2が上昇して閾値αref2を超えると(時刻t6)、軸トルクTrを補正係数β2を用いて制限した補正トルクが回転制限制御用トルクTm2に設定される。そして、その後にモータ温度αm2が低下して閾値αref以下になった時刻t7以降は、再び軸トルクTrが回転制限制御用トルクTm2に設定される。
図3の駐車ポジション時制御ルーチンの説明に戻る。回転制限制御用トルクTm2を設定すると(ステップS190)、モータMG1のトルク指令Tm1*や回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2をモータECU40に送信する(ステップS200)。モータMG1のトルク指令Tm1*や回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2を受信したモータECU40は、図示しない第1モータ制御ルーチンによりトルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されるようインバータ41のトランジスタT1〜T6のスイッチング制御を行なうと共に、図4の駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンにより回転制限制御フラグFと回転制限制御用トルクTm2とに基づいてインバータ42のトランジスタT7〜T12のスイッチング制御を行なう。いま、回転制限制御フラグFには値1が設定されているから、回転制限制御が実行される。このように、エンジン22の始動要求がなされているときには、回転制限制御を実行しながらモータMG1によってエンジン22をモータリングするのである。
ここで、回転制限制御を実行するときの様子の一例を図9に示す。図9の例では、ステータ46bには、電流が印加されたU相,V相,W相の各々で形成される磁界を合成した合成磁界(図中、実線矢印参照)が形成される。実施例では、この合成磁界が回転しないようにモータMG2を制御するのである。以下、こうした回転しない合成磁界を固定磁界と呼ぶ。固定磁界の向きがモータMG2のロータ46aの永久磁石により形成される磁束の向き(d−q座標系におけるd軸の向き)と一致するときには、モータMG2からリングギヤ軸32aにトルクは出力されない。しかしながら、エンジン22が運転される際にエンジン22から動力分配統合機構30を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクやエンジン22がモータリングされる際にモータMG1から出力されてリングギヤ軸32aに作用するトルク(これらのトルクは前述の軸トルクTrに相当するため、以下、これらのトルクを軸トルクTrという)によってモータMG2のロータ46aが回転し、ステータ46bに形成される固定磁界の向きと現在のd軸の向きとがズレると、ステータ46bにより形成される固定磁界の向きと現在のd軸の向きとが略一致する方向にロータ46aにトルクが作用し(以下、このトルクを吸引トルクという)、軸トルクTrと吸引トルクとが釣り合う位置でロータ46aは停止する。実施例では、このようにしてモータMG2のロータ46aが回転しないようにするのである。前述の回転制限制御用トルクTm2は、この回転制限制御を実行する際にモータMG2に印加すべき電流値を決定するためのトルクである。なお、d−q座標系において、d軸はロータ46aに貼り付けられた永久磁石により形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対して電気角でπ/2だけ進角させた方向である。
ステップS200でモータMG1のトルク指令Tm1*や回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2をモータECU40に送信すると、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至っているか否かを判定し(ステップS210)、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至っていないときにはそのまま駐車ポジション時制御ルーチンを終了し、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至ったときには、燃料噴射制御や点火制御の開始をエンジンECU24に指示して(ステップS220)、駐車ポジション時制御ルーチンを終了する。なお、実施例では、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至ったときに点火制御を開始するものとしたが、エンジン22のモータリングが開始されたときに図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいて行なわれる気筒判別が完了したときに点火制御を開始するものとしてもよい。
ステップS110でエンジン22が運転されていると判定されたときには、エンジン22の停止要求がなされているか否かを判定する(ステップS230)。ここで、エンジン22の停止要求がなされているか否かは、例えば、バッテリ50の残容量SOCが所定残容量Sref2(例えば、60%や70%など)を超えているか否かなどに基づいて判定することができる。エンジン22の停止要求がなされていないと判定されたときには、残容量SOCに基づいてバッテリ50に充電すべき充電要求パワーPb*を設定し(ステップS240)、設定した充電要求パワーPb*に応じたパワーがエンジン22から出力されるようエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*を設定し(ステップS250)、設定したエンジン22の目標回転数Ne*とモータMG2の回転数Nm2と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて次式(2)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて式(3)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS260)。ここで、充電要求パワーPb*は、実施例では、バッテリ50の入力制限Winの範囲内で設定されるものとした。また、エンジン22が運転されているときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図10に示す。図中、R軸上の太線矢印は、エンジン22を目標回転数Ne*および目標トルクTe*の運転ポイントで定常運転したときにエンジン22から出力されるトルクTe*がリングギヤ軸32aに伝達されるトルクを示す。式(2)はこの共線図を用いれば容易に導くことができる。また、式(3)は、エンジン22から出力されてサンギヤ31に作用するトルクに対して釣り合いを取るためのトルクと、モータMG1の目標回転数Nm1*と回転数Nm1との差を打ち消すためのトルクと、の和としてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する式である。式(3)中、右辺第1項は図10の共線図から容易に導き出すことができる。また、式(3)中、右辺第2項および第3項はモータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御の項であり、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
続いて、回転制限制御フラグFに値1を設定し(ステップS270)、トルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて軸トルクTrを計算し(ステップS280)、計算した軸トルクTrとモータ温度αm2と実充放電電力Pbとに基づいて前述した図7の回転制限制御用トルク設定処理により回転制限制御用トルクTm2を設定する(ステップS290)。ここで、図10に示したように、R軸上の太線矢印は、モータMG1から出力されてリングギヤ軸32aに作用するトルクとして考えることもできるため、ステップS280の処理では、前述した式(1)により軸トルクTrを計算することができる。
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1のトルク指令Tm1*,回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2が設定されると、エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*についてエンジンECU24に送信すると共にモータMG1のトルク指令Tm1*や回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2についてモータECU40に送信して(ステップS300)、駐車ポジション時制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などの制御を行なう。この場合、回転制限制御を実行しながら、エンジン22から出力されるパワーを用いてモータMG1によってバッテリ50の入力制限Winの範囲内の電力が発電される。
ステップS230でエンジン22の停止要求がなされているときには、エンジン22の回転数Neを調べ(ステップS310)、エンジン22の回転数Neが値0でないときには、エンジン22は未だ停止していないと判断し、燃料カット指令をエンジンECU24に送信すると共に(ステップS320)、エンジン22の回転数Neに基づいてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し(ステップS330)、回転制限制御フラグFに値1を設定し(ステップS340)、トルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて前述した式(1)により軸トルクTrを計算し(ステップS350)、計算した軸トルクTrとモータ温度αm2と実充放電電力Pbとに基づいて前述した図7の回転制限制御用トルク設定処理により回転制限制御用トルクTm2を設定し(ステップS360)、モータMG1のトルク指令Tm1*や回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2をモータECU40に送信して(ステップS370)、駐車ポジション時制御ルーチンを終了する。燃料カット指令を受信したエンジンECU24は、エンジン22の燃料噴射を停止するよう図示しない燃料噴射弁を制御する。また、トルク指令Tm1*は、実施例では、図11のエンジン22を停止する際のモータMG1のトルク指令Tm1*とエンジン22の回転数Neとの関係の一例に示すように、エンジン22の回転数Neが停止直前回転数Nstpに達するまでエンジン22の回転を抑制するトルクをトルク指令Tm1*に設定し、回転数Neが停止直前回転数Nstpに達したタイミング(時刻t8)でピストンを保持するトルクに切り替わるよう設定されている。ここで、停止直前回転数Nstpは、エンジン22が停止する直前の回転数として予め設定されたものであり、実施例では、およそエンジン22の圧縮工程間の角度(例えば、4気筒のエンジンの場合には180°CAなど)を回転して停止するようエンジン22の回転数(例えば、300rpmなど)を実験などにより求めて予め設定しておくものとした。このように、エンジン22の停止要求がなされているときには、回転制限制御を実行しながらエンジン22をモータリングするのである。その後、ステップS310でエンジン22の回転数Neが値0であると判定されると、エンジン22は停止していると判断し、回転制限制御フラグFに値0を設定してモータECU40に送信すると共に(ステップS130)、回転制限制御用トルクTm2に値0を設定してモータECU40に送信して(ステップS140)、駐車ポジション時制御ルーチンを終了する。
以上、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駐車ポジション時制御ルーチンについて説明した。次に、モータECU40により実行される図4の駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンについて説明する。このルーチンは、シフトレバー81が駐車ポジションにあるときに所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。なお、シフトレバー81が駐車ポジションにあるか否かは、実施例では、シフトポジションセンサ82から入力されたシフトポジションSPに基づくフラグをハイブリッド用電子制御ユニット70から通信により入力してこのフラグを調べることにより判定するものとした。
駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンが実行されると、モータECU40のCPU40aは、まず、回転位置検出センサ44からのモータMG2のロータ46aの回転位置θm2や電流センサ46U,46Vからの三相コイルのU相,V相に流れる相電流Iu2,Iv2,回転制限制御フラグF,回転制限制御用トルクTm2を入力すると共に(ステップS400)、入力したモータMG2のロータ46aの回転位置θm2に基づいて電気角θe2を計算する(ステップS410)。ここで、回転制限制御フラグFや回転制限制御用トルクTm2は、前述の図3の駐車ポジション時制御ルーチンにより設定されたものをハイブリッド用電子制御ユニット70から通信により入力するものとした。なお、回転制限制御フラグFには、前述したように、エンジン22が運転されるときやモータMG1によってエンジン22がモータリングされるときに値1が設定され、エンジン22が停止しているときには値0が設定されている。
続いて、入力した回転制限制御フラグFの値を調べ(ステップS420)、回転制限制御フラグFが値0のときには、他の制御を実行して(ステップS430)、駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンを終了する。ここで、他の制御としては、例えば、インバータ42のトランジスタT7〜T12の全てをゲート遮断する制御やモータMG2から出力すべきトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ42のトランジスタT7〜T12のスイッチング制御を行なう制御などがある。この他の制御は、本発明の中核をなさないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
一方、ステップS420で回転制限フラグFが値1のときには、前回の回転制限フラグ(前回F)の値を調べる(ステップS440)。前述したように、回転制限フラグFは、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときに値0から値1に変更されるから、ステップS420,S440の処理は、このときであるか否かを判定する処理となる。前回の回転制限フラグ(前回F)が値0のときには、電気角θe2を制御用電気角θesetとして設定し(ステップS450)、前回の回転制限フラグ(前回F)が値1のときにはステップS450の処理は行なわない。したがって、ステップS420,S440,S450の処理は、回転制限フラグFが値0から値1に変更されたとき、即ち、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときの電気角θe2を制御用電気角θesetとして設定する処理となる。
そして、モータMG2の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu2,Iv2,Iw2の総和を値0として制御用電気角θesetを用いて次式(4)により相電流Iu2,Iv2をd軸およびq軸の電流Id2,Iq2に座標変換(3相−2相変換)すると共に(ステップS460)、回転制限制御用トルクTm2の大きさに基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定する(ステップS470)。回転制限制御用トルクTm2とd軸の電流指令Id2*との関係の一例を図12に示す。d軸の電流指令Id2*は、実施例では、動力軸としてのリングギヤ軸32aに回転制限制御用トルクTm2が作用したときでもリングギヤ軸32aが回転しないようにすることができる電流を回転制限制御用トルクTm2の大きさに基づいて設定するものとした。このように制御用電気角θesetにおけるd軸およびq軸の電流指令Id2*,Iq2*を設定することにより、図9を用いて前述したように、ステータ46bの固定磁界の向き(制御用電気角θesetにおけるd軸の向き)と現在のd軸の向きとのズレを小さくする方向に作用する吸引トルクによりロータ46aが回転するのを抑制することができる。しかも、回転制限制御用トルクTm2に基づいてd軸の電流指令Id2*を設定することにより、d軸の電流指令Id2*をより適正に設定することができる。即ち、回転制限制御用トルクTm2に拘わらずd軸の電流指令Id2*に比較的大きい電流を設定するものに比してモータMG2のステータ46bの三相コイルに印加される電流を抑制してエネルギ効率の向上を図ることができ、回転制限制御用トルクTrに拘わらずd軸の電流指令Id2*に比較的小さい電流を設定するものに比してより確実にモータMG2のロータ46aが回転するのを抑制することができる。さらに、モータ温度αm2が閾値αrefより高いときや実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには、軸トルクTrを補正係数β1,β2,β3を用いて制限した補正トルクが設定される回転制限制御用トルクTm2の大きさに基づいてd軸の電流指令Id2*を設定するから、モータ温度αm2が閾値αrefを超えて過度に上昇したりバッテリ50が過大な電力により充放電されたりするのを抑制することができる。なお、モータ温度αm2が閾値αrefより高いときや実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには、前述したように、軸トルクTrよりも大きさが小さい補正トルクが回転制限制御用トルクTm2として設定されるため、モータMG2のロータ46aが若干回転することはあり得るが、この場合でも、回転制限制御用トルクTm2に基づいてd軸の電流指令Id2*を設定するため、ある程度はロータ46aが回転するのを抑制することができる。
こうして電流指令Id2*,Iq2*を設定すると、設定した電流指令Id2*,Iq2*と電流Id2,Iq2とを用いて次式(5)および式(6)によりd軸およびq軸の電圧指令Vd2*,Vq2*を計算すると共に(ステップS480)、計算したd軸およびq軸の電圧指令Vd2*,Vq2*を制御用電気角θesetを用いて次式(7)および式(8)によりモータMG2の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu2*,Vv2*,Vw2*に座標変換(2相−3相変換)し(ステップS490)、座標変換した電圧指令Vu2*,Vv2*,Vw2*をインバータ42のトランジスタT7〜T12をスイッチングするためのPWM信号に変換し(ステップS500)、変換したPWM信号をインバータ42のトランジスタT7〜T12に出力することによりモータMG2を駆動制御して(ステップS510)、駐車ポジション時第2モータ制御ルーチンを終了する。ここで、式(5)および式(6)中、「k3」および「k5」は比例係数であり、「k4」および「k6」は積分係数である。
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、シフトレバーが駐車ポジションにあるときには、エンジン22やモータMG1から動力分配統合機構30を介してリングギヤ軸32aに出力される軸トルクTrに基づいて回転制限制御用トルクTm2を設定し、この回転制限制御用トルクTm2の大きさに基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定し、設定した電流指令Id2*,Iq2*に基づいてモータMG2のステータ46bの磁界の向きを固定してロータ46aが回転しないようモータMG2を制御するから、軸トルクTrに応じてより適正にロータ46a(リングギヤ軸32a)が回転するのを抑制することができる。しかも、モータ温度αm2が閾値αrefより高いときやバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには、軸トルクTrを制限した補正トルクを回転制限制御用トルクTm2として設定すると共にこの回転制限制御用トルクTm2を用いてモータMG2を制御するから、モータ温度αm2や実充放電電力Pbを考慮しないものに比してモータ温度αm2が閾値αrefを超えて大きく上昇したりバッテリ50が過大な電力で充放電されたりするのを抑制することができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、モータ温度αm2が閾値αref以下でありバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内の状態から、モータ温度αm2が閾値αrefを超えたときやバッテリ50の充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外になったときには、回転制限制御用トルクTm2を軸トルクTrから軸トルクTrを制限した補正トルク(Tr・β1),(Tr・β2),(Tr・β3)に移行させるものとしたが、この際には、補正トルクに対してなまし処理やレート処理などの緩変化処理を用いて移行させるものとしてもよい。こうすれば、回転制限制御用トルクTm2が急変するのを抑制することができる。これにより、回転制限制御用トルクTm2に基づくd軸の電流指令Id2*が急変するのを抑制することができる。また、実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外から範囲内になったときやモータ温度αm2が閾値αrefより高い状態から閾値αref以下になったときに回転制限制御用トルクTm2を補正トルク(Tr・β1),(Tr・β2),(Tr・β3)から軸トルクTrに移行させる際にも、軸トルクTrに対してなまし処理やレート処理などの緩変化処理を用いて移行させるものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、電気駆動系の温度としてモータMG2の温度αm2を用いるものとしたが、これに代えてまたは加えて、インバータ42の温度や、モータMG2やインバータ42を冷却する冷却水の温度などを用いるものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、補正係数β1,β2,β3は、それぞれ異なる値を用いるものとしたが、同一の値を用いるものとしてもよい。また、補正係数β1は実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内となるような値を用いるものとし、補正係数β2はモータ温度αm2が閾値αref以下となるような値を用いるものとし、補正係数β3は実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内となると共にモータ温度αm2が閾値αref以下となるような値を用いるものとしたが、これらに限られず、それぞれ値0から値1の間の値であればよい。この場合でも、バッテリ50が過大な電力で充放電されることやモータ温度αm2が閾値αrefを超えて過度に上昇するのを抑制することができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、モータ温度αm2が閾値αref以下でありバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには補正トルク(Tr・β1)を回転制限制御用トルクTm2として設定し、モータ温度αm2が閾値αrefより高くバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内のときには補正トルク(Tr・β2)を回転制限制御用トルクTm2として設定し、モータ温度αm2が閾値αrefより高くバッテリ50の実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲外のときには補正トルク(Tr・β3)を回転制限制御用トルクTm2として設定するものとしたが、補正トルク(Tr・β1),(Tr・β2),(Tr・β3)に代えて、それぞれ所定値γ1,γ2,γ3を回転制限制御用トルクTm2として設定するものとしてもよいし、軸トルクTrよりもそれぞれ所定値δ1,δ2,δ3だけ大きさが小さいトルクを回転制限制御用トルクTm2として設定するものとしてもよい。ここで、所定値γ1,γ2,γ3は、同一の値を用いるものとしてもよいし、異なる値を用いるものとしてもよい。また、所定値δ1,δ2,δ3は、同一の値を用いるものとしてもよいし、異なる値を用いるものとしてもよい。例えば、所定値γ1や所定値δ1は実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内となるような値として実験などにより定められた値を用いることができ、所定値γ2や所定値δ2はモータ温度αm2が閾値αref以下となるような値として実験などにより定められた値を用いることができ、所定値γ3や所定値δ3は実充放電電力Pbがバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内となると共にモータ温度αm2が閾値αref以下となるような値として実験などにより定められた値を用いることができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、軸トルクTrとモータ温度αm2とバッテリ50の実充放電電力Pbとに基づいて回転制限制御用トルクTm2を設定するものとしたが、軸トルクTrとモータ温度αm2とに基づいて回転制限制御用トルクTm2を設定するものとしてもよいし、軸トルクTrとバッテリ50の実充放電電力Pbとに基づいて回転制限制御用トルクTm2を設定するものとしてもよい。また、軸トルクTrだけに基づいて回転制限制御用トルクTm2を設定するものとしてもよい。この場合、軸トルクTrをそのまま回転制限制御用トルクTm2として設定するものとしてもよい。さらに、軸トルクTrに代えて、軸トルクTrをキャンセルするためのトルクとしてのキャンセルトルクTc(=−Tc)を用いて回転制限制御用トルクTm2を設定するものとしてもよい。この場合でも、回転制限制御用トルクTm2の大きさに基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定し、設定した電流指令Id2*,Iq2*に基づいてモータMG2のステータ46bの磁界の向きを固定してロータ46aが回転しないようモータMG2を制御するから、実施例と同様に、軸トルクTrに応じてより適正にロータ46a(リングギヤ軸32a)が回転するのを抑制することができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、バッテリ50の入力制限Winの範囲内でバッテリ50の充電要求パワーPb*を設定するものとしたが、回転制限制御の実行によるモータMG2の電力消費を考慮して、即ちモータMG1による電力の発電とモータMG2による電力の消費とに基づいて、バッテリ50の入力制限Winの範囲内となるようバッテリ50の充電要求パワーPb*を設定するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときの電気角θe2を制御用電気角θesetとして設定するものとしたが、停止状態のエンジン22のモータリングが開始されたときの電気角θe2に限られず、例えば、エンジン22が停止状態であるとき即ちエンジン22のモータリングが開始される前の電気角θe2などを制御用電気角θesetとして設定するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22が停止しているときには、他の制御を実行するものとしたが、エンジン22が運転されているときやモータリングされているときと同様に、モータMG2のステータ46bの磁界の向きを固定してロータ46aが回転しないようモータMG2を制御するものとしてもよい。この場合、制御用電気角θesetとしては、例えば、エンジン22が停止状態のときの電気角θe2を用いることができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、d−q座標系に対して回転制限制御用トルクTm2に基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定し、設定したd軸およびq軸の電流指令Id2*,Iq2*に基づいてモータMG2を制御するものとしたが、回転制限制御用トルクTm2に基づく電流をモータMG2に印加してモータMG2のステータ46bの磁界の向きを固定するものであれば、3相−2相変換することなくモータMG2を制御するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、4段の変速段をもって変速可能な変速機60を用いるものとしたが、変速段は4段に限られるものではなく、2段以上の変速段をもって変速可能な変速機であればよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、駆動輪39a,39bに連結された駆動軸36に変速機60を介して接続された動力軸としてのリングギヤ軸32aにエンジン22からの動力を動力分配統合機構30を介して出力するものとしたが、図12の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ132と駆動輪39a,39bに動力を出力する駆動軸36に変速機60を介して接続された動力軸32bに接続されたアウターロータ134とを有し、エンジン22の動力の一部を動力軸32b,変速機60,駆動軸36を介して駆動輪39a,39bに伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機130を備えるものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22や動力分配統合機構30,モータMG1を動力源として備えるものとしたが、動力源としては、エンジンだけを備えるものとしてもよいし、モータだけを備えるものとしてもよい。
ここで、実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22とエンジン22のクランクシャフト26にキャリア34が接続されると共に動力軸としてのリングギヤ軸32aにリングギヤ32が接続された動力分配統合機構30と動力分配統合機構30のサンギヤ31に接続されたモータMG1とが「動力源」に相当し、動力軸としてのリングギヤ軸32aにロータ46aが接続されステータ46bの回転磁界によりロータ46aを回転駆動させてリングギヤ軸32aに動力を入出力するモータMG2が「電動機」に相当し、モータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50が「蓄電手段」に相当し、動力軸としてのリングギヤ軸32aと駆動輪39a,39bに連結された駆動軸36との間の変速段の変更を伴う動力の伝達とリングギヤ軸32aと駆動軸36との接続の解除を行なう変速機60が「変速手段」に相当し、モータMG2の温度であるモータ温度αm2を検出する温度センサ47や電圧センサ51aにより検出されるバッテリ電圧Vbと電流センサ51bにより検出される充放電電流Ibとを用いてバッテリ50の実充放電電力Pbを計算するバッテリECU52が「状態検出手段」に相当し、シフトレバー81が駐車ポジションにあるときに、エンジン22が停止しているときに回転制限フラグFに値0を設定してモータECU40に送信すると共に回転制限制御用トルクTm2に値0を設定してモータECU40に送信するS130,S140の処理とエンジン22が回転しているときに回転制限制御用フラグFに値1を設定すると共にエンジン22やモータMG1から動力分配統合機構30を介してリングギヤ軸32aに出力される軸トルクTrとモータ温度αm2とバッテリ50の充放電電力Pbとに基づいて回転制限制御用トルクTm2を設定し回転制限制御フラグFや回転制限制御用トルクTm2をモータECU40に送信するS170〜S200,S270〜S300,S340〜S370,S600〜S660の処理とを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70やハイブリッド用電子制御ユニット70からの回転制限制御フラグFが値1のときに回転制限制御用トルクTm2に基づいて制御用電気角θesetにおけるd軸の電流指令Id2*を設定すると共にq軸の電流指令Iq2*に値0を設定するS470の処理とd軸およびq軸の電流指令Iq2*を用いてモータMG2を制御するS480〜S510の処理とを実行するモータECU40が「制御手段」に相当する。また、モータMG2のロータ46aの回転位置θm2を検出する回転位置検出センサ44や検出した回転位置θm2に基づいて電気角θe2を計算するS410の処理を実行するモータECU40が「回転位置検出手段」に相当し、停止状態のエンジン22のモータリングを開始するときの電気角θe2を制御用電気角θesetとして設定するS420,S440,S450の処理を実行するモータECU40が「制御用回転位置設定手段」に相当する。なお、実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
実施例では、ハイブリッド自動車の形態として用いるものとしたが、自動車以外の車両の形態としてもよいし、こうした車両の制御方法の形態としてもよい。
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、32b 動力軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、36 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、40a CPU、40b ROM、40c RAM、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、45a,46a ロータ、45b,46b ステータ、45U,45V,46U,46V 電流センサ、47 温度センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 変速機、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 パーキングロック機構、92 パーキングギヤ、94 パーキングロックポール、130 対ロータ電動機、132 インナーロータ、134 アウターロータ、MG1,MG2 モータ、D1〜D12 ダイオード、T1〜T12 トランジスタ。