本発明のポリエステル複合繊維は主たる組成がポリエステルである。本発明でいうポリエステルとは、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステルであって、特に制限されるものではないものの、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどが挙げられる。
またこれらジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体には、本発明の主旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、共重合成分として、例えば、ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
また共重合成分として、例えばジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
また共重合成分として、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
また本発明におけるポリエステルとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であっても良く、特に制限されるものではないものの、例えばこれらにかかる重合体としては、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレートバリレート)、といったポリ(ヒドロキシカルボン酸)を挙げることができ、その他にも、これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)には、本発明の主旨を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていても良い。
そしてこれらポリエステルのうち、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、あるいは乳酸であるポリエステルが好ましく、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルがより好ましい。
本発明のポリエステルは特に制限されるものではなく、通常合成繊維に供する固有粘度(以下IV)のポリエステルを使用することが出来る。特に制限されるものではないものの、例えばポリエチレンテレフタレートであれば、IV0.4〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.3であることがより好ましい。また、ポリプロピレンテレフタレートであれば、IV0.7〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.8であることがより好ましい。あるいは、ポリブチレンテレフタレートであれば、IV0.6〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.4であることがより好ましい。また本発明に用いるポリエステルで、IVにて評価しないものとしてポリ乳酸に代表されるポリ(ヒドロキシカルボン酸)があるが、これらは重量平均分子量(以下単に平均分子量と称することがある)にて記載しうるものであり、例えばポリ乳酸であれば平均分子量が5万〜50万のものが通常用いられ、好ましくは10万〜30万、加工性や紡糸性を考えると15万〜25万の平均分子量のポリ乳酸がより好ましく用いられる。
本発明のポリエステル複合繊維中におけるポリエステルの含有量は主たる成分であることから50重量%以上であることが必要であるものの、50重量%以上の含有量においては特に制限されるものではなく、任意の含有量を取ることができる。特に、繊維物性において強度が高いことが好ましいことから、複合繊維におけるポリエステル含有量は、70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上である。
本発明のポリエステル複合繊維は、マレイミド構造を持たない熱可塑性ポリマ(除くポリエステル、以下単に熱可塑性ポリマと記載することがある)を島成分として有する。熱可塑性ポリマは、ポリエステル複合繊維の繊維単糸横断面において島を形成することから、ポリエステルに対して実質的に非相溶である。本発明において「非相溶」とは、ポリエステルと熱可塑性ポリマが高分子の分子鎖サイズオーダーで相溶せず、ポリエステルの中で熱可塑性ポリマにより形成される島の平均サイズ(島の最も短い直径相当長さ)が、少なくとも10nmの大きさを有するものを指す。ポリエステルと熱可塑性ポリマが相溶性である場合、すなわち形成される島の平均サイズが10nm以下である場合、熱可塑性ポリマが形成する島は非常に小さなサイズとなり、空隙を有することがないもしくは軽量性に優れた繊維となるのに必要な空隙が十分に発現せず、結果的に軽量性に劣る複合繊維となり好ましくない。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、マレイミド構造を持たず、かつポリエステルに対して前述のとおり非相溶であれば特に制限されるものではなく、多種多様な熱可塑性ポリマを使用することができる。例えば、ポリアミド系ポリマ、ポリオレフィン系ポリマやその他ビニル重合体、フッ素系ポリマ、シリコーン系ポリマ、エラストマー、ポリカーボネート系ポリマ、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマ、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマや、そのほかにもポリスルホン系ポリマ、脂肪族ポリエーテル系ポリマ、芳香族ポリエーテル系ポリマ、ポリフェニレンスルフィド系ポリマ、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマ、ポリエーテルケトンケトン系ポリマなどの合成ポリマやセルロース系ポリマや、キチン、キトサンの誘導体など、天然高分子由来のポリマ、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
より具体的には、例えばラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合といったビニル基を有したモノマーが付加重合反応、もしくは開環重合反応によりポリマが生成する機構により合成されるポリオレフィンやその他のビニル重合体などのポリマにおいては、ポリオレフィンであればポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテンの単独重合体あるいは共重合体、誘導体が挙げられ、またその他のビニル重合体であればポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、およびこれらの共重合体や誘導体などが挙げられるものの、これら付加重合反応もしくは開環重合反応により合成されるポリマの中で、後述する臨界表面張力、密度、あるいはガラス転移温度(Tg)などの観点から好ましいものとして、ポリオレフィン系ポリマをまず挙げることができる。
該好ましいとするポリオレフィン系ポリマの中で、まず主たる繰り返し構造がオレフィンから成るポリオレフィンとして例えばエチレン、プロピレン、ブテン、メチルブテン、メチルペンテン、エチルペンテン、ヘキセン、エチルヘキセン、オクテン、デセン、テトラデセン、オクタデセンをモノマーとして用いたポリオレフィンのほかに、脂環族モノマーの開環重合、付加重合などにより合成される、例えば下記化学式1、化学式2、あるいは化学式3に示す、環状構造を有するポリオレフィン系ポリマが挙げられる。
ここで置換基X、Yはそれぞれ、水素、アルキル基、脂環基、シアノ基、アルキルエステル基、脂環エステル基の中から選ばれる基。
該構造を有するものとしては、例えば、JSR(株)製アートン(登録商標)、日本ゼオン(株)製ゼオノア(登録商標)などが挙げられるものの環状構造を有するポリオレフィンは特にこれらに制限されるものではない。
上記これらポリオレフィン系ポリマはモノマー1種類を単独で用いた単独重合体であっても良く、あるいは複数種を用いた共重合体であっても良く、さらにはオレフィンと他のビニル化合物とを共重合した共重合体であってもよい。共重合成分として具体的には、2〜6個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルや、1〜20個の炭素原子を有するアルコールから導かれるアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルや、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸あるいは該不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物およびエステルや、スチレンあるいはスチレン誘導体や、アクリロニトリルあるいはアクリロニトリル誘導体や、ビニロキシアルキル誘導体(アルコール型あるいはカルボン酸型)といったビニル化合物、あるいは脂環構造を持つビニル化合物が挙げられる。特に該脂環構造を共重合成分として有するポリオレフィン系ポリマとしては、例えば三井化学(株)製アペル(登録商標)などが挙げられるが、言うまでもなく該脂環構造を有する共重合ポリオレフィン系ポリマはこれに限定されるものではない。
そしてこれら熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)の中で好ましいとして例示したポリオレフィン系ポリマのうち、形成される繊維の空隙生成性が高いという点で、プロピレンおよび/またはメチルペンテンを主たる繰り返し単位とするポリオレフィン系ポリマ、あるいは環状構造を有するポリオレフィン系ポリマ、脂環構造を有する共重合ポリオレフィン系ポリマが好ましい。
また、本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)としては、前記ポリオレフィン系ポリマ以外にもポリエーテル系ポリマが挙げられ、その中でポリフェニレンエーテルに代表される芳香族ポリエーテル系ポリマが好ましい。ポリフェニレンエーテルは、フェニレンオキサイドが主たる構造を成す単独重合体であっても良く、あるいは第2成分を共重合させた共重合体であっても良く、また発明の主旨を損ねない範囲において、添加物含有するもの、すなわちポリスチレン系ポリマ、ポリアミド系ポリマ、ポリエステル系ポリマ、ポリオレフィン系ポリマなどを第二成分としてアロイ化した変性ポリフェニレンエーテルであっても良い。該変性ポリフェニレンエーテルとしては、例えば三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユピエース(登録商標)、レマロイ(登録商標)や、日本ジーイープラスチックス(株)製のノリル(登録商標)、旭化成(株)製のザイロン(登録商標)、住友化学(株)製のアートレックス(登録商標)、アートリー(登録商標)などが挙げられるが、言うまでもなく好ましい熱可塑性ポリマとして挙げられる芳香族ポリエーテル系ポリマがこれらに限定されるものではない。
本発明における熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、前述の通り、分子骨格にマレイミド構造を持たないことが必要である。熱可塑性ポリマが該マレイミド構造を有する場合、前述の通り、生成した後の繊維が黄変するといったデメリットが見られるのみならず、ポリエステルと熱可塑性ポリマのポリマ間の親和性が高すぎるため空隙生成性に乏しく、十分な軽量性が発現しないだけでなく、空隙生成に劣ることで得られる繊維の遮光性も低くなるため好ましくない。該マレイミド構造を有する熱可塑性ポリマとしては、例えば電気化学(株)製のスチレンマレイミドポリマ(タイプ:MS−NAなど)が挙げられる。
本発明におけるマレイミド構造を持たない熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、前述したポリマを1種類を単独で用いても良く、あるいは発明の主旨を損ねない範囲において、複数種を併用しても良い。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、密度が1.0g/cm3以下であることが好ましい。該熱可塑性ポリマの密度が1.0g/cm3よりも大きくなる場合には、繊維の見かけ比重を1.2以下とするために、例えば、空隙を形成せしめた際により多く存在させれば良い。ただしやはり空隙が多すぎると逆に強度低下を引き起こし糸が破断しやすくなるため注意が必要である。
該熱可塑性ポリマは、密度が小さいほど好適であり、好ましくは密度が1.0g/cm3以下であり、より好ましくは0.95g/cm3以下であり、特に好ましくは0.90g/cm3以下である。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)において、密度が1.0g/cm3以下であるものとして、例えば前述のポリオレフィンが挙げられ、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルブテン、メチルペンテン、エチルペンテン、ヘキセン、エチルヘキセン、オクテン、デセン、テトラデセン、オクタデセンなどをモノマーとして用いることができる。これらポリオレフィンはモノマー1種類を単独で用いた単独重合体であっても良く、あるいは複数種を用いた共重合体であっても良い。また、これらオレフィンと他のエチレン性不飽和化合物とを共重合した共重合体であってもよく、具体的には、2〜6個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルや、1〜20個の炭素原子を有するアルコールから導かれるアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルや、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸あるいは該不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物およびエステルや、スチレンあるいはスチレン誘導体や、アクリロニトリルあるいはアクリロニトリル誘導体や、ビニロキシアルキルアルコールあるいはその誘導体や、ビニロキシアルキルカルボン酸あるいはその誘導体などのエチレン性不飽和化合物が挙げられる。これらポリエステル以外の熱可塑性ポリマは、1種類を単独で用いても良くあるいは発明の主旨を損ねない範囲において、複数種を併用しても良い。これらポリエステル以外の熱可塑性ポリマのなかで、エチレンおよび/またはプロピレンおよび/またはブチレンおよび/またはメチルペンテンが80モル%以上を占めるポリオレフィンの単独重合体あるいは共重合体が好ましく、プロピレンおよび/またはメチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体がより好ましい。かかるプロピレンおよび/またはメチルペンテンが80モル%以上を占める共重合体において、共重合されるものとしては、特に制限されるものではないものの、例えば炭素数が5個以上の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、あるいはこれらの誘導体を側鎖に有するビニル化合物が挙げられる。
また本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)の平均分子量については特に制限されるものではないものの、ポリエステルとの混練性が優れる、あるいは繊維中における形態保持性、剛性といった点から数平均分子量が2000〜10000000であることが好ましく、5000〜5000000であることがより好ましく、10000〜1000000であることがさらにより好ましい。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、より軽量性に優れ、かつ得られたポリエステル複合繊維の糸物性が優れるという点で、含有量は1〜30重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましく、3〜15重量%であることがさらにより好ましい。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、本発明のポリエステル海島状複合繊維の複合界面において、空隙を生成しやすくし、結果的により比重が小さく、軽量性に優れるという点で、該熱可塑性ポリマの臨界表面張力が10〜35dyn/cmであることが好ましく、12〜30dyn/cmであることがより好ましく、15〜25dyn/cmであることがさらにより好ましい。そして該臨界表面張力の範囲を満足する熱可塑性ポリマとしては、前述のオレフィンモノマーあるいは他のエチレン性不飽和化合物からなるポリオレフィンのうち、プロピレンおよび/またはメチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体が好ましく、メチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体がより好ましい。また本発明のポリエステルの臨界表面張力についても、特に制限されるものではないものの前述の通り空隙生成する際に熱可塑性ポリマとの剥離性がより高いことが好ましいことから、ポリエステルの臨界表面張力は35dyn/cm以上であることが好ましく、38dyn/cm以上であることがより好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系ポリマは共に臨界表面張力が約43dyn/cmであり、また脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸やポリグリコール酸は臨界表面張力が約36dyn/cmである。またさらに、より臨界表面張力を高くしうる共重合成分、例えばスルホイソフタル酸塩や、リン酸塩などの極性基を有する成分を共重合させた共重合ポリエステルなどではそれら極性基を有する成分を共重合していないポリエステルに比べて、より大きな臨界表面張力をとりうるため好ましい。なお臨界表面張力は後述G.の方法で定義される。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、ポリエステル複合繊維の耐熱性が良好で高温での軽量性に優れるという点で、該熱可塑性ポリマの融点(Tm)は150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。ここで融点(Tm)とは後述実施例のF.の方法で定義される。そして該Tmの範囲を満足する熱可塑性ポリマとしては、前述のオレフィンモノマーあるいは他のエチレン性不飽和化合物からなるポリオレフィンのうち、プロピレンおよび/またはメチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体が好ましく、メチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体がより好ましい。かかるメチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体は黄変し難いという点でも好ましい。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)の溶融粘度は、特に制限されるものではなく、用いるポリエステルの溶融紡糸温度で、剪断速度が10sec-1の剪断粘度が1〜10000パスカル秒のポリマが通常用いられ、好ましくは10〜5000パスカル秒である。
本発明のポリエステル複合繊維で島成分を形成する熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、ポリエステル複合繊維の延伸時に空隙が生成しやすく、得られる繊維の軽量性が高いという点で、熱可塑性ポリマのガラス転移温度(Tg)はポリエステルのガラス転移温度(Tgp)より5℃以上高いことが好ましい。ここでガラス転移温度(Tg)とは、後述実施例のF.の方法で定義される。そして該TgはTgpより10℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことがさらにより好ましく、50℃以上高いことが特に好ましい。熱可塑性ポリマのTgがポリエステルより5℃以上高いことで、延伸時の空隙生成においてはポリエステルと熱可塑性ポリマ間の界面剥離で発現するのみならず、熱可塑性ポリマ自身の割裂及び剥離でも発現する。さらに溶融紡糸においても、熱可塑性ポリマはポリエステルよりも高い温度で固化し空隙生成に有利な島構造を形成するため、やはり軽量性を向上させるため好ましい。そして該島成分をなす熱可塑性ポリマのガラス転移温度(Tg)は、より空隙生成に適しているという点で、130℃以上である。なお各ポリエステルのガラス転移温度Tgpは下記F.の方法で、ポリエチレンテレフタレートであれば72℃に、ポリプロピレンテレフタレートであれば47℃に、ポリブチレンテレフタレートであれば24℃に、ポリ乳酸であれば58℃に、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートであれば87℃に、ポリエチレンナフタレートであれば122℃に、それぞれ観測される。
本発明の熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)は、特に制限されるものではないものの、発明の主旨を損ねない範囲で難燃剤、滑剤、酸化防止剤、結晶核剤、末端基封止剤等の添加剤を少量含有しても良い。
本発明における島成分の海成分への添加方法としては特に制限されるものではなく、例えば、(A)通常のポリエステルの重合反応において、ポリエステルの重合反応が停止する以前の任意の段階で添加する方法、(B)ポリエステルの紡糸時にポリエステル以外の熱可塑性ポリマを添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(C)通常のポリエステルの重合反応においてポリエステル以外の熱可塑性ポリマを高濃度で添加し、エクストルーダやスタティックミキサーといった混練機によりポリエステル以外の熱可塑性ポリマを添加していないポリエステルを同時に添加して希釈し、常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(D)ポリエステル以外の熱可塑性ポリマをポリエステルに添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で高濃度で溶融混練したのち、ポリエステルの紡糸時にエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機によりポリエステル以外の熱可塑性ポリマを添加していないポリエステルを同時に添加して希釈し、常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(E)溶液状態でポリエステルにポリエステル以外の熱可塑性ポリマを添加・混練し、紡糸に供する方法、(F)ポリエステルの紡糸における吐出以前の任意の段階でポリエステル以外の熱可塑性ポリマの溶融体あるいは溶液をノズル状の管などから吐出しポリエステル中に含有せしめる方法、などが挙げられるが、好ましくは前述の(B)、(C)あるいは(D)の方法が採用される。
本発明のポリエステル複合繊維は、ポリエステルと熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)の相溶性が悪い場合がある。そこで相溶化剤を含有していることが好ましい。本発明における相溶化剤とは、島成分を海成分に含有せしめるときに複合界面における相互作用を変化させて両者の相溶性を高め、該島成分の分散径を制御する化合物である。該相溶化剤としては、低分子化合物あるいは高分子化合物など多種多様の化合物を採用することができ、例えば、低分子化合物としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやアルキルスルホネートナトリウム塩、グリセリンモノステアレート、テトラブチルホスホニウムパラアミノベンゼンスルホネートなどのアニオン系あるいはカチオン系の界面活性剤や両性界面活性剤、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリ(アルキレンオキシド)グリコールやエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体などの非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
また、相溶化剤として挙げられる高分子化合物としては、ポリエステル、およびポリエステル以外の熱可塑性ポリマのそれぞれに対し、相溶性あるいは親和性の高い高分子化合物を用いれば良く、例えば、ポリスチレン系ポリマ、ポリアクリレート系ポリマ、ポリメタクリレート系ポリマ、ポリ(ビニルアルコール−エチレン)コポリマー、ポリ(ビニルアルコール−プロピレン)コポリマー、ポリ(ビニルアルコール−スチレン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル−エチレン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル−プロピレン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル−スチレン)コポリマーといったビニル系のポリマあるいはコポリマー、アイオノマー、側鎖部分を化学修飾することにより耐熱性及び溶融可塑性を向上させた多糖類、ポリアルキレンオキシドあるいはポリ(アルキレンオキシド−エチレン)コポリマー、ポリ(アルキレンオキシド−プロピレン)コポリマーなどのアルキレンオキシドと各ビニル誘導体のコポリマー、あるいはポリアルキレンオキシドの誘導体、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマー、などといったポリマ、コポリマーなどが挙げられる。それらの中でも、相溶化剤としての効果が大きく、本発明の繊維を形成した場合の糸物性が良好であることを考慮すると、ポリスチレン系ポリマ、ポリアクリレート系ポリマ、ポリメタクリレート系ポリマ、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール、アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマー、またはこれらポリマの誘導体が好ましい。
以下に、好ましいと思われるアルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオール、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、あるいはポリ(アルキレンオキシド)グリコールまたはその誘導体について具体例を述べるが、言うまでもなく、本発明における相溶化剤がこれらに制限されるものではない。
アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマーとしてはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートなどから選ばれたアルキレンテレフタレートと、ポリエチレンジオール、ポリブチレンジオールなどから選ばれたポリアルキレンジオールとからなるコポリマーであり、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールをそれぞれ1種類ずつ用いても良く、あるいは複数種用いても良い。特に制限されるものではないものの、具体的には、ポリ(エチレンテレフタレート−ポリエチレンジオール)コポリマー、ポリ(プロピレンテレフタレート−ポリエチレンジオール)コポリマー、ポリ(ブチレンテレフタレート−ポリブチレンジオール)コポリマーなどを挙げることができる。
アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマーとしてはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートなどから選ばれたアルキレンテレフタレートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(あるいはテトラメチレングリコール)、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールから選ばれたアルキレングリコールとからなるコポリマーであり、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールをそれぞれ1種類ずつ用いても良く、あるいは複数種用いても良い。特に制限されるものではないものの、具体的には、ポリエチレンテレフタレート−ブチレグリコールコポリマー、ポリプロピレンテレフタレート−エチレングリコールコポリマー、ポリブチレンテレフタレート−テトラメチレングリコールコポリマーなどを挙げることができる。
アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマーとしてはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートなどから選ばれたアルキレンテレフタレートと、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ジプロピレングリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体からなるポリ(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)グリコール、などから選ばれたポリ(アルキレンオキシド)グリコールとからなるコポリマーであり、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールをそれぞれ1種類ずつ用いても良く、あるいは複数種用いても良い。特に制限されるものではないものの、具体的には、ポリエチレンテレフタレート−ジエチレングリコールコポリマー、ポリエチレンテレフタレート−ポリ(エチレンオキシド)グリコールコポリマー、ポリブチレングリコール−ポリ(エチレンオキシド)グリコールコポリマー、ポリプロピレンテレフタレート−ポリ(エチレンオキシド)グリコールコポリマーなどを挙げることができる。
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールまたはその誘導体の主たる化学構造としては、脂肪族、芳香族、脂環族などの炭素が主鎖をなしている基(もしくはグループ)と酸素原子が交互に結合しているような繰り返し構造を有しているものであれば良く、例えば下記一般式(1)で表されるような単一アルキレンオキシドを繰り返し単位としたポリ(アルキレンオキシド)グリコールを用いることができる。
−[(CH2 )a −O]m − ・・・(1)
(1)式を満足するものとしては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)グリコール(a=2)、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール(a=3)、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(a=4)、などのポリ(アルキレンオキシド)グリコールが挙げられる。
また、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、たとえば下記一般式(2)で表されるような、異なったアルキレンオキシドの交互、ランダム、あるいはブロック共重合体でも良い。
−{[(CH2 )a −O]m −[(CH2 )b −O]n }x −・・・(2)
(2)式を満足するものとして、たとえばポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)共重合体(a=2または3、b=2または3、またaとbは同じであっても異なっても良い。)、ポリ(オキシテトラメチレン−オキシエチレン−オキシプロピレン)共重合体(a=1または2または3、b=1または2または3、またaとbは同じであっても異なっても良い。)などのように、異なったアルキレンオキシドの共重合体などが挙げられる。
さらに、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、上記一般式(1)あるいは(2)で表されるポリアルキレンオキシドを、1種単独であっても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で、発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせたものを用いても良い。
これら低分子量化合物あるいは高分子量化合物である相溶化剤は、1種類を単独で用いても良いし、あるいは発明の主旨を損ねない範囲で、2種類以上を組み合わせて用いても良い。そして特に限定するものではないものの、相溶化剤としては、明成化学工業製ポリエチレンオキサイドのアルコックス(登録商標)、東レ・デュポン製のハイトレル(登録商標)、新日鐵化学製ポリスチレン系樹脂のエスチレン(登録商標)などを好ましいものとして挙げることができる。
本発明のポリエステル複合繊維における相溶化剤の含有量としては、相溶化がより効果的に発現し、得られるポリエステル複合繊維の繊維物性が優れたものとなるという点で、相溶化剤の含有量は、島成分に対し10〜200重量%であることが好ましく、20〜100重量%であることがより好ましい。
本発明における相溶化剤のポリエステルへの添加方法としては特に制限されるものではなく、例えば、(A)通常のポリエステルの重合反応において、ポリエステルの重合反応が停止する以前の任意の段階で添加する方法、(B)ポリエステルの紡糸時に相溶化剤を添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(C)通常のポリエステルの重合反応において相溶化剤を高濃度で添加し、エクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により相溶化剤を添加していないポリエステルを同時に添加して希釈し、常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(D)相溶化剤をポリエステルに添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で高濃度で溶融混練したのち、ポリエステルの紡糸時にエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により相溶化剤を添加していないポリエステルを同時に添加して希釈し、常圧もしくは減圧下で溶融混練する方法、(E)溶液状態でポリエステルに相溶化剤を添加・混練し紡糸に供する方法、などが挙げられ、特に制限されるものではないが、好ましくは前述の(A),(B)あるいは(C)の方法が採用される。
本発明におけるポリエステル複合繊維は、繊維の形状をしている必要がある。繊維とは、細長い形状を有していて、その見かけ直径に対する長さの比が少なくとも20であるものを指し、例えば従来の合成繊維の製造で作られる、長繊維(フィラメント)、短繊維(ステープル)や、天然繊維の綿、羊毛、麻、シルクなどが代表的な形状として挙げられる。また、繊維の繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、繊維物性に優れ、あるいは布帛を形成する上で加工性がより向上するという点で、繊維直径は0.01〜5000μmであることが好ましく、より好ましくは1000μm以下であり、200μm以下であることがさらにより好ましい。また、繊維の断面形状についても特に制限されるものではなく、例えば丸形、多角形、多葉型、中空型などが挙げられるが、繊維が安定した物性を有する点では丸形が好ましく、あるいは軽量性を向上させるという点では、多葉型や中空型が好ましい。特に制限されるものではないものの、中空型としては、紡糸吐出孔の形状を例えばC型あるいは井型と行った中空を形成しうるような吐出形状にして中空繊維を得たり、試薬を用いて溶出しうる成分を芯成分として芯鞘繊維を得た後に、芯成分を溶出して中空繊維を得る方法などが挙げられる。
本発明におけるポリエステル複合繊維は、
(1)繊維単糸横断面において、ポリエステルが海成分、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)が2つ以上の島成分である。
(2)島成分が繊維軸方向に不連続に分散して存在する。
(3)島成分の繊維単糸横断面における最大分散直径が5μm以下である。
(4)島成分のガラス転移温度(Tg)が130℃以上である。
という条件を満たすポリエステル複合繊維である。本発明のポリエステル複合繊維において、繊維単糸横断面において、ポリエステルが海成分、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)が2つ以上の島成分であり、かつ島成分が繊維軸方向に不連続に分散して存在することにより、ポリエステル複合繊維中における海成分と島成分との複合界面の面積が非常に大きくなり、複合界面の少なくとも一部分に存在する空隙の数が非常に多くなり、軽量性に非常に優れるポリエステル複合繊維となる。しかし、繊維単糸横断面において、島成分が1つ、および/または島成分が繊維軸方向に連続(分散していない)した場合には、得られるポリエステル複合繊維の横断面形状は芯鞘型の複合であり、および/または島成分が蓮根状に連続して存在する海島型の複合繊維となり、複合界面の面積は非常に小さくなり空隙は生成しないか、もしくは低減し軽量性に乏しくなる。島成分が繊維軸方向に不連続に分散して存在することについては、繊維軸方向の断面について、後述する測定法などにより観察して確認することが可能であるものの、その不連続性については、島成分の繊維単糸横断面における1つの分散している島の直径(α)と、その分散の繊維軸方向の長さ(β)の比β/αが1000以下であることを、「ポリエステル以外の熱可塑性ポリマが繊維軸方向に不連続に分散して存在する」と定義し、β/αが100以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
また本発明のポリエステル複合繊維における島成分の繊維単糸横断面における最大分散直径が5μm以下である場合、前述したように複合界面の面積が非常に大きくなり、複合界面の少なくとも一部分に存在する空隙が非常に多くなり、軽量性に非常に優れるポリエステル複合繊維となることに加え、生成した空隙が過度に大きいものではなく、繊維の欠陥とはなりがたいため、ポリエステル複合繊維の繊維強度も低下せずに非常に優れたものとなる。しかし、島成分の繊維単糸横断面における最大分散直径が、5μmよりも大きい場合には、複合界面の面積が減り空隙の数が非常に少なくなり軽量性に劣るほか、繊維強度についても低強度化して、非常に劣った繊維物性となるかもしくは製造段階において製糸性や延伸性に劣ってしまう。そして本発明における島成分の繊維単糸横断面における最大分散直径は、繊維の単糸直径に比べて小さいほど好ましく、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、さらにより好ましくは0.8μm以下である。また、島成分の最大分散直径の繊維単糸横断面の直径(換言すると単繊維径)に対する比率は、前述のとおり最大分散直径が5μm以下であれば特に制限されるものではないものの、より多くの空隙が生成するあるいは繊維物性が優れるという点において、[単繊維径/島成分の最大分散直径]の値が2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、10以上であることがさらにより好ましい。
本発明のポリエステル複合繊維は、前述のとおり、複合界面の少なくとも一部分に空隙を有することが必要である。空隙を有することで本発明のポリエステル複合繊維は非常に軽量性に優れたものとなり好ましいほか、空隙を微細としていることから繊維構造における欠点となり難く、繊維強度も優れたものとなる。また、繊維中の空隙の容積の割合を示す空隙率については特に制限されるものではないものの、本発明の繊維の見かけ比重が1.2以下を有し、より軽量性に優れたものとなる点から、15%以上の空隙率を有することが好ましく、25%以上の空隙率を有することがより好ましい。そして、該空隙を発現させる方法としては特に制限されるものではなく、例えば応力を印可し空隙を発現しうる方法であれば良く、例示すると、紡糸に巻き取って得られた未延伸糸を高倍率で延伸する方法、紡糸時に未延伸糸を巻き取ることなく連続して高倍率で延伸する方法、紡糸において高速で引き取る方法、などが挙げられ、あるいは得られた糸を加熱あるいは特定の光を照射することにより、ポリエステル複合繊維中のポリエステル以外の熱可塑性ポリマを収縮させる方法などが挙げられ、それぞれ任意の方法を採用しうるものの、工程が簡便でかつ空隙生成の制御が容易という点で、紡糸に巻き取って得られた未延伸糸を高倍率で延伸する方法、あるいは紡糸時に未延伸糸を巻き取ることなく連続して高倍率で延伸する方法が好ましい。
本発明のポリエステル複合繊維は、特に制限されるものではないものの、形態安定性や耐候性が優れる、あるいは衣料用あるいは産業用の各種素材における様々な使用環境での収縮特性を採用するという点で、温水あるいは沸騰水(約70〜100℃)中、15分間保持した際の収縮率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらにより好ましい。
また本発明のポリエステル複合繊維は、特に制限されるものではないものの、形態安定性が優れることのほかに、衣料用あるいは産業用の各種素材の許容変形度を鑑みて、20℃での繊維の伸度が100%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、45%以下であることがさらにより好ましい。また繊維の伸度の下限については特に制限されるものではないものの、生産にて達成しうるものとして3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
本発明のポリエステル複合繊維を製造する手段としては特に制限されるものではなく、通常用いられる合成繊維の製造方法を採用することができ、例えば、樹脂の溶融体あるいは溶液をノズルから同時に吐出する、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、乾湿式紡糸法などの方法など多種多様な製造方法が採用できるものの、工程が非常に簡便であり、生産性に優れ、繊維の断面形状も自由に制御可能であるといった利点を有することから、溶融紡糸法であることが好ましい。そして溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、あるいは乾湿式紡糸法などの方法により得られた繊維の場合、特に制限されるものではないものの、必要に応じて、一旦、本発明で用いたポリエステルのガラス転移温度以下に冷却され、好ましくは100〜10000m/分の引取速度において引き取った後、巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、好ましくは1.5倍以上の延伸倍率で延伸加工もしくは延伸仮撚り加工されることが好ましい。延伸加工においてポリエステル複合繊維は、加熱されることなくもしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、熱水などの液状物あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱された後、1段もしくは複数段階によって延伸される。延伸仮撚り加工においてポリエステル複合繊維は、延伸した後に加熱されることなく、もしくは未延伸糸を加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、熱水などの液状物あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸加工もしくは延伸仮撚り加工されたポリエステル複合繊維は、そのままもしくは特に制限されるものではないものの熱セットされた後に巻き取られることが好ましい。
本発明のポリエステル複合繊維には、本発明の効果を妨げない範囲で、ポリエステルと熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)以外のポリマを配合することができる。
本発明におけるポリエステル複合繊維の見かけ比重が、1.2以下であることが必要である。幼児あるいは年配者用衣料として用いる場合はもちろんのこと、スポーツ用ユニフォームあるいはアウトドア用衣料として用いる場合に繊維の見かけ比重が小さく、同等の嵩(体積)で軽量性に優れることは非常に好ましい特性となる。さらに産業用素材として用いる場合を考えた場合には、同等の強力を担う場合に、重量が小さくなるために、運搬において非常に好ましいほか、逆に同等の重量となした場合にはより大きな強力を有する素材を形成しうるため、非常に優れている。そして、かかるポリエステル複合繊維の見かけ比重は、1.0以下が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.90以下がさらにより好ましく、0.85以下がもっとも好ましい。また見掛け比重の下限としては特に制限されるものではないものの、生産しうるものとして、見掛け比重は通常0.30以上、好ましくは0.35以上の繊維を達成しうる。
本発明におけるポリエステル複合繊維の繊維強度は、4.0cN/dtex以上であることが必要である。前述した、幼児あるいは年配者用衣料として用いる場合はもちろんのこと、スポーツ用ユニフォームあるいはアウトドア用衣料として用いる場合に、さらには産業用素材として用いる場合を考えた場合には、丈夫な素材である必要がある。また、繊維あるいは布帛の加工性を考慮した場合であっても糸物性は強度が高いことが求められる。そして、かかるポリエステル複合繊維の強度は4.5cN/dtex以上であることがより好ましく、4.7cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。
本発明のポリエステル複合繊維は、発明の主旨を損ねない範囲で難燃剤、滑剤、酸化防止剤、結晶核剤、末端基封止剤等の添加剤を少量保持しても良い。
本発明のポリエステル複合繊維は、繊維中に形成されている空隙や、用いられている相溶化剤の相乗効果により吸湿性や吸水性、保温性などの効果を具備している。例えば吸湿性については、衣料用の布帛として本発明のポリエステル複合繊維を一部あるいは全部に用いた場合に、着用時にベタつくことなくより快適な着用感が得られることから、本発明のポリエステル複合繊維の吸湿性の指標である吸湿性指数(ΔMR)の値は0.10%以上であることが好ましく、0.20%以上であることがより好ましい。ここでΔMRを具体的に説明すると、30℃、90%RHでの吸湿率(MR2)から20℃、65%RHでの吸湿率(MR1)を差し引いた値である(ΔMR(%)=MR2−MR1)。ΔMRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォースであり、軽〜中度の作業あるいは運動を行った際の衣服内温度を30℃,90%RHで代表させ、外気温度を20℃,65%RHで代表させ、両者の差をとったものである。本発明では吸湿性評価の尺度としてこのΔMRを指標として用いており、ΔMRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く、着用時の快適性が良好であることに対応する。
本発明のポリエステル複合繊維は軽量性に優れることから繊維そのものとしても非常に有用で、繊維をそのまま使用することができるが、軽量性に優れることから、本発明のポリエステル複合繊維を布帛の一部または全部に用いても良い。本発明のポリエステル複合繊維が一部または全部に用いられている布帛とは、タフタ、ツイル、サテン、デシン、パレス、ジョーゼットなどの織物、平編、ゴム編、両面編、シングルトリコット編、ハーフトリコット編などの編物、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ(スパンレース)法、スティッチボンド法、フェルト法などの方法により形成された不織布等を示し、生糸、撚糸、加工糸など繊維の形態等については特に制限はない。また当然ながら、織物あるいは編物であれば常法の精練、染色、熱セット等の加工を受けてもよく、あるいは不織布であれば、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工、ヒートセッティングなどの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工、泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用、低温プラズマ応用などの応用処理がなされていても良く、最終形態として、衣料品として縫製されていてもよい。
また本発明のポリエステル複合繊維が一部に用いられている布帛とは、本発明のポリエステル複合繊維と本発明とは異なる合成繊維、半合成繊維、天然繊維など、例えばセルロース繊維、ウール、絹、ストレッチ繊維、アセテート繊維から選ばれた少なくとも1種類の繊維を用いたことを特徴とする混用布帛である。具体的に例を挙げると、セルロース繊維としては、綿、麻等の天然繊維、鋼アンモニアレーヨン、レーヨン、ポリノジック等が挙げられ、これらセルロース繊維と混用するポリエステル複合繊維の含有率については特に制限はないが、セルロース繊維の風合い、吸湿性、吸水性、制電性を生かし、かつ本発明のポリエステル複合繊維の軽量性を生かすために、25〜75%が好ましい。また、混用布帛に用いられるウール、絹は既存のものがそのまま使用でき、これらウール、あるいは絹と混用するポリエステル複合繊維の含有率については、ウールの風合い、暖かみ、かさ高さ、また、絹の風合い、きしみ音を生かし、かつ本発明のポリエステル複合繊維の軽量性を生かすために、25〜75%が好ましい。また、混用布帛に用いられるストレッチ繊維は、特に限定されるものではなく、乾式紡糸または溶融紡糸されたポリウレタン繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維やポリテトラメチレングリコール共重合ポリブチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル系弾性糸等が挙げられ、ストレッチ繊維を用いる混用布帛において、ポリエステル複合繊維の含有率は60〜98%程度が好ましい。ポリエステル複合繊維の含有率が70%を越える場合には、伸縮特性が抑えられるので、アウター、カジュアルウェアー用途等に用いることができる。また70%未満の場合には、その伸縮特性のためにインナーウェアー、ファンデーション、水着用途等に用いることができる。また、混用布帛に用いられるアセテート繊維は特に制限されるものではなく、ジアセテート繊維でもトリアセテート繊維でもよい。これらアセテート繊維と混用するポリエステル複合繊維の含有率については、アセテート繊維の風合い、鮮明性、光沢を生かし、かつ本発明のポリエステル複合繊維の軽量性を生かすために、25〜75%が好ましい。
これら各種の混用布帛において、本発明のポリエステル複合繊維の形態、混用方法については特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、混用方法としては経糸または緯糸に用いる交織織物、リバーシブル織物等の織物、トリコット、ラッセル等の編物などが挙げられ、その他交撚、合糸、交絡を施してもよい。
本発明の布帛は、混用布帛も含め、染色されていてもよく、例えば製編織後、常法により精練、プレセット、染色、ファイナルセットの過程をとることが好ましい。また、必要に応じて、精練後、染色前に常法によりアルカリ減量処理するのも好ましい。精練は40〜98℃の温度範囲で行うことが好ましい。特にストレッチ繊維との混用の場合には、布帛をリラックスさせながら精練することが弾性を向上させるのでより好ましい。染色前後の熱セットは一方あるいは両方共省略することも可能であるが、布帛の形態安定性、染色性を向上させるためには両方行うことが好ましい。熱セットの温度としては、120〜190℃、好ましくは140〜180℃であり、熱セット時間としては10秒〜5分、好ましくは、20秒〜3分である。
本発明のポリエステル複合繊維は、優れた軽量性、繊維物性を利用して、例えばスポーツ衣料(ゴルフウエア、ゲートボール、野球、テニス、サッカー、卓球、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ホッケー、陸上競技、トライアスロン、スピードスケート、アイスホッケー等のユニフォーム)や、水着、幼児衣料、婦人衣料、年配者の衣料、アウトドア衣料(靴、鞄、サポーター、靴下、登山着)などに好適であるほか、自動車、鉄道、飛行機、船舶などの各種車両内装材、BCF、あるいは各種運搬に用いられるような梱包材などにも好適に用いられる。
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。本発明は、繊維材料の1例としてポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記することがある)を取り上げ実施例を説明するが、当然ながら以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
A.繊維強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、初期試料長200mm、引張速度200mm/分で測定し、5回測定した平均値を測定値とした。
B.繊維の見かけ比重の測定および空隙率の算出
繊維の見かけ比重は、JIS−L−1013:1999 8.17.1(日本規格協会発行、化学繊維フィラメント糸試験方法)に定められた浮沈法に基づき測定し、測定比重値(Q)とした。また空隙率の算出には、以下の式を用いた。
空隙率(%)=100(1−Q/R),
R=100/(S/V+(100−S)/Vp)、
ただし、S:熱可塑性ポリマの添加量(重量%)、
V:熱可塑性ポリマの密度(g/cm3)、
Vp:ポリエステルの密度(g/cm3;例えばポリエチレンテレフタレートについて、未延伸糸であれば1.34を、延伸糸であれば1.38を用いた)
R:空隙のない場合のポリエステル複合繊維の見かけ比重
C.繊維径、島成分の分散直径の確認
(株)ニコン社製、走査型電子顕微鏡ESEM−2700を用いて、加速電圧10kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、倍率2000倍〜20000倍の間の任意の倍率で確認した。サンプルの調製は、液体窒素中で試料として用いる繊維及び刃物を冷却し、15分の冷却後に液体窒素中で切断して供した。
D.島成分の不連続性(繊維軸方向の分散長さ)の確認
得られたポリエステル複合繊維0.1gを、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液200mlに含浸し、50℃にて24時間攪拌することにより加水分解することによりポリエステルを溶解させた。そして水溶液表面に浮いている浮遊物を島成分である熱可塑性ポリマとみなし、スポイトで採取し、光学顕微鏡でおよそ100〜600倍で観察した。不連続性については、島成分の繊維単糸横断面における1つの分散している島の直径(α)と、その分散の繊維軸方向の長さ(β)の比β/αを求め、観察しうる最大の比をその繊維の不連続性の指標とし、200以下である場合に○とし、200を超えて大きい場合に×とした。
E.延伸性の評価
延伸工程における延伸性について、1kgの未延伸糸を延伸したときに、単糸切れが起こり単糸が延伸ローラーに巻き付く回数で評価し、延伸不可能な場合もしくは20回以上単糸が巻き付く場合を×(不可)、単糸が巻き付く回数が10回以上19回以下を△(劣る)、単糸が巻き付く回数が4回以上9回以下を○(良好)、単糸が巻き付く回数が3回以下を二重丸(優れる)と評価した。
F.ガラス転移温度(TgpあるいはTg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
G.臨界表面張力の測定
ポリエステルあるいは熱可塑性ポリマからなるフィルムにおいて、純水72.8dyne/cm、エチルアルコール(特級以上)22.3dyne/cm、ジオキサン33.6dyne/cm、ヘキサン18.4dyne/cm、20%アンモニア水59.3dyne/cmの有機溶媒もしくは水溶液の中から選ばれる5種類の液体を用いて、20℃、湿度40〜80%、静置の条件下、固体上に液滴を置いて液滴が静止したときに、液滴が接している固体平面と液滴が空気層と接している液滴表面とがなす角度を接触角θとして測定し、用いた液体の表面張力に対しcosθをプロットし(Zismanプロット)、完全に濡れる、すなわちcosθ=1となるときの表面張力をプロットした点について外挿することで臨界表面張力を求めた。
H.重量平均分子量の測定
(株)島津製作所製高速液体クロマトグラフLC−6A(示差屈折計RID−6A,ポンプLC−9A,カラムオーブンCTO−6A,カラムShim-pack GPC-801C,-804C,-806C,-8025C)を用いて、溶媒にクロロフォルム(流速1mL/分,サンプル量200μL(ただしサンプル0.5w/w%をクロロフォルムに溶解したもの)を用いて、カラム温度40℃で測定して得た。
I.固有粘度(IV)の測定
試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。
参考例
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.70のポリエチレンテレフタレートを得た。
このポリエステルを用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて、紡糸温度290℃で孔径が0.3mm、孔数が24個の口金を用いて溶融紡糸を行い、1200m/分の引き取り速度で引き取って、292dtex−24フィラメントの、断面形状が丸状のポリエステルマルチフィラメント繊維を得た。紡糸中に糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。
得られたポリエステル繊維について延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度100m/分とし、第1ローラーと第2ローラー間で延伸を行うために熱源として100℃のホットプレートを用いて、延伸倍率が3.5倍で延伸し、第2ローラーを150℃で熱処理した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下に冷却した後に巻き取った。延伸中に糸切れは発生せず、延伸性は優れていた。
参考例1
参考例で得られたポリエステルを用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて溶融紡糸を行う際に、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として、三井化学(株)製ポリメチルペンテン(TPX(登録商標),タイプRT18、以下特に断りのない限り同製品同タイプを用いた。以下PMPと略記する)を8重量%を添加して参考例と同様にして溶融紡糸を行い、参考例と同様にして倍率3.5倍で延伸を行った。得られた繊維の強度あるいは比重などの繊維物性、および製糸性、延伸性は良好であった。参考例1の結果を表1に示す。
比較例1
参考例で得られたポリエステルを用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて溶融紡糸を行う際に、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として、電気化学工業(株)製スチレンマレイミド共重合体(MSN、平均分子量約11万、以下MSNと略記する)を10重量%を添加して参考例と同様にして溶融紡糸を行い、参考例と同様にして倍率3.0倍で延伸を行った。得られた繊維の強度あるいは比重などの繊維物性は特許文献1(特開2000−154427号公報)の実施例1に示されているものとほぼ同等の値の繊維が得られた。製糸性あるいは延伸性については断糸が頻発し延伸倍率を下げざるを得ず、劣っていたことに加え、繊維強度は実施例に比較して低いものであった。また得られた糸と参考例1により得られた延伸糸とを目視で比較して、MSNの添加に由来すると推測される明確な黄変が見られた。比較例1の結果を表1に示す。
比較例2
参考例で得られたポリエステルおよび参考例1のPMPを用いて溶融紡糸を行う際に、芯鞘複合紡糸機を用いてポリエステルを鞘、PMPを芯として芯:鞘=8:92となる重量比率で芯鞘複合紡糸を行い、参考例と同様にして溶融紡糸を行い、参考例と同様にして倍率3.5倍で延伸を行った。得られた繊維の強度あるいは比重などの繊維物性の結果を表1に示す。製糸性および延伸性は良好であったが、芯と鞘の界面剥離が生じた程度で繊維は殆ど軽量化しなかった。
比較例3
参考例で得られたポリエステルおよび参考例1のPMPを用いて溶融紡糸を行う際に、通常のプレッシャーメルタ型溶融紡糸機を用いてポリエステルおよびPMPの重量分率がPMP:ポリエステル=8:92となるように、チップ状態のままドライブレンドしたものをホッパーに充填し、紡糸口金から吐出されるまでのポリマ流路内で混練されるように供することで溶融紡糸を行い(ポリマ流路内にミキサー等は配設していない)、その他は参考例と同様の条件で製糸して繊維を得た後、参考例と同様にして倍率3.5倍で延伸を行った。得られた繊維の強度あるいは比重などの繊維物性の結果を表1に示す。製糸性および延伸性は非常に劣り延伸を連続して5分以上行うことはできなかった。また得られた延伸糸の繊維軸方向に直角な断面方向について電子顕微鏡を用いて観察した結果、PMPの最大分散直径は5μmを超えるものであった。
参考例2
参考例で得られたポリエステルを用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて溶融紡糸を行う際に、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)としてPMPを5重量%、相溶化剤としてエチレンテレフタレートとポリ(エチレンオキシド)グリコールとの共重合体(以下PET−PEG;ポリ(エチレンオキシド)グリコール成分が10%共重合されたもの)をPMPの添加量に対して20重量%、それぞれ添加して参考例と同様にして溶融紡糸を行い、得られた繊維を参考例と同様の方法で3.7倍で延伸した。強度あるいは比重などの繊維物性は優れ、また製糸性、延伸性も優れていた。参考例2の結果を表1に示す。
比較例4
参考例2において、PMPを添加しなかった以外は、参考例2と同様の溶融紡糸および延伸を行った。比較例2の結果を表1に示す。PMPが添加されていない場合、製糸性、延伸性は優れていたものの空隙は見られず、軽量化されなかった。
参考例3
参考例2において、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として(株)グランドポリマー製ポリプロピレン(グレードJ108M,以下PPと略記する)を15重量%、相溶化剤としてブチレンテレフタレートとポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールとの共重合体(PBT−PTMG;ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール成分が10%共重合されたもの)をPPの添加量に対して20重量%、それぞれ含有せしめた以外は、実施例2と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行った。得られた延伸糸について、強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。参考例3の結果を表1に示す。
参考例4
参考例2において、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として三井化学(株)製ポリエチレン(ハイゼックス(登録商標)、グレード8200B、以下PEと略記する)を15重量%、相溶化剤として明成化学工業製の平均分子量が約30万のポリ(エチレンオキシド)であるアルコックス(登録商標、タイプE−30)をPEの含有量に対して33重量%、それぞれ含有せしめた以外は、参考例2と同様の方法で溶融紡糸を行った。そして続けて参考例と同様にして倍率3.6倍で延伸を行った。得られた延伸糸について強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。参考例4の結果を表1に示す。
参考例5〜8
参考例2において、PMP含有量を種々変更し、相溶化剤のPET−PEGをPMPの含有量に対して40重量%、それぞれ含有せしめた以外は参考例2と同様にして溶融紡糸を行った。そして続けて参考例と同様にして参考例5,7については倍率3.7倍で、参考例6,8については倍率3.3倍でそれぞれ延伸を行った。
表2から明らかなように、参考例5、6よりも参考例7、8の方が軽量性および繊維物性に優れていた。つまり熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)の含有量を適切な量とすることで、得られる延伸糸はより軽量性あるいは繊維物性が優れるものとなった。
参考例9〜12
参考例3において、PP含有量を10重量%とし、相溶化剤のPBT−PTMGをPPの含有量に対して種々変更して、それぞれ含有せしめた以外は参考例3と同様にして溶融紡糸を行った。そして続けて参考例と同様にして倍率3.5倍でそれぞれ延伸を行った。表2から明らかなように、参考例9、10よりも参考例11、12の方が軽量性および繊維物性に優れていた。つまり相溶化剤の含有量を適切な量とすることで、得られる延伸糸はより軽量性あるいは繊維物性が優れるものとなった。
実施例13,14
参考例2において、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)としてJSR(株)製ノルボルネン系樹脂アートン(登録商標、実施例13、タイプF5023)、あるいは三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユピエース(登録商標、実施例14,タイプAH90)をそれぞれ10重量%含有せしめた以外は、参考例2と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行った。得られた延伸糸について、強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。実施例13,14の結果を表3に示す。アートンあるいはユピエースは相溶化剤無しでもポリエステルに対する相溶性が優れており、またガラス転移温度が高く、非常に軽量性に優れることが分かった。また黄変も見られなかった。
実施例15
参考例2において、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として日本ゼオン(株)製ゼオノア(登録商標、タイプ1600R、以下ゼオノア)を10重量%、相溶化剤としてPET−PEGをゼオノアの添加量に対して40重量%、それぞれ含有せしめた以外は、参考例2と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行った。得られた延伸糸について、強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。実施例15の結果を表3に示す。ゼオノアがガラス転移温度が高いことに由来して、得られた繊維は非常に軽量性に優れ、また黄変も見られないことが分かった。
参考例16
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.70のポリエチレンテレフタレートを得た。
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.12のポリトリメチレンテレフタレート(以下PPT)を得た。
得られたPPTを用いて参考例と同様の方法で溶融紡糸及び延伸を行う際に、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として三井化学製PMP(ただしタイプDX881、以下PMP881と略する)を7重量%、相溶化剤として新日鐵化学製エスチレン(登録商標、タイプMS200,以下エスチレン)をPMP881の添加量に対して29重量%、それぞれ含有せしめ、紡糸温度260℃、延伸時のホットプレートの温度を80℃、延伸倍率4.5倍とした以外は、参考例と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行った。得られた延伸糸は強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。参考例16の結果を表3に示す。
実施例17
参考例16において、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)として三井化学製アペル(登録商標、タイプ6015T、以下アペル)を15重量%、相溶化剤として東レ・デュポン(株)製ハイトレル(登録商標、タイプ4057,以下ハイトレル)をアペルの添加量に対して13重量%、それぞれ含有せしめた以外は、参考例16と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行った。得られた延伸糸について、強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。実施例17の結果を表3に示す。
参考例18,19
L−ラクチド300重量部に触媒としてオクチル酸スズを0.005重量部添加し、窒素置換を行った後、170℃で反応させて、重量平均分子量15.3万のポリ乳酸(以下PLA)を得た。
得られたPLAを用いて参考例と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行う際に、熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)としてPMP881を5重量%(参考例18)、あるいは10重量%(参考例19)、また参考例19においては相溶化剤として参考例4で用いたアルコックス(登録商標)の平均分子量が10万のタイプR−150をPMP881の添加量に対して30重量%、それぞれ含有せしめ、紡糸温度240℃、延伸時のホットプレート温度90℃、延伸倍率4.5倍とした以外は参考例と同様の方法で溶融紡糸および延伸を行った。得られた延伸糸について、強度あるいは比重などの繊維物性が優れ、また延伸性も優れていた。参考例18および19の結果を表3に示す。