本発明は、環状脂肪族基を有する不飽和エステル類の重水素化物およびその製造方法に関し、さらに該化合物を原料とした重合体および光学部品への応用に関する。
環状脂肪族基を有する不飽和エステル類から製造されるポリマーは、対応する不飽和メチルエステル類から製造されるポリマーなどと比べて、高いガラス転移点(Tg)を有する、低吸湿である等、さまざまな特徴を有しており、プラスチックレンズなどにも応用されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、光学材料の分野では、ポリマー材料中のH原子を重水素原子(D)に変えることにより新たな光学特性を発揮し得ることが知られている。例えばプラスチック光ファイバにおいては、ある光源波長におけるC−H振動に起因する材料損失による伝送時の光損失を低減するためにポリマー中のH原子をD原子に変換することが有効であることがよく知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらより、環状脂肪族基を有する不飽和エステル類を重水素化した化合物は魅力的な光学材料をもたらすことが期待される。
環状脂肪族基を有する不飽和エステル類の原料となり得るシクロペンタジエンは、重水および塩基によってH−D交換可能であることが知られている(例えば非特許文献2、非特許文献3参照)。それらの方法によれば、高いD化率を有する重水素化シクロペンタジエンを得ることができるが、金属ナトリウムを重水に投じる方法を採用していること、高いD化率に到達するまでに分液操作を多数(3〜6回)繰り返していることなどから、安全面、コスト面の観点で大量合成への応用が極めて困難な合成方法であった。即ち、シクロペンタジエンのH−D交換の方法には改良の余地が残されている。さらに、このようにして合成される重水素化シクロペンタジエンを原料として、環状脂肪族基を有する不飽和エステル類の重水素化物を合成した例についてはこれまでに報告されていない。
POFコンソーシアム編「プラスチック光ファイバ」共立出版、1997年、41〜53頁
J.Org.Chem.,1987,52,4772
Tetrahedron,1992,48,9649
USP 4、591、626(1986)
本発明は、これらの従来技術の問題点を考慮して、光学部品、特にプラスチック光ファイバの材料として有用な重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステル類、重合体および重合性組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、重水素化シクロペンタジエンを部分構造として有する化合物を、安全かつ効率よく製造する方法を提供することを課題とする。さらに本発明は、重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステル類、重合体および重合性組成物を利用した新規な光学部品を提供することを課題とする。
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表される化合物(以下、「重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステル類」という場合がある)の合成に成功するとともに、該化合物の大量合成に適性のある製造方法を開発し、さらにそれを用いたポリマー素材および光学材料への応用を検討し、本発明を完成するに至った。
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
(式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、H、D、ハロゲン原子、CH3、CD3またはCF3を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に、H、Dまたは置換基を表し、R4とR5は連結して更に環状骨格を形成していてもよい。但し、式中の環状脂肪族基中の水素原子の55%以上が重水素原子(D)である。)
[2] 前記環状脂肪族基中の水素原子の60%以上が重水素原子(D)である[1]に記載の化合物。
[3] 前記環状脂肪族基中の水素原子の80%以上が重水素原子(D)である[1]に記載の化合物。
[4] 下記化合物Aまたは下記化合物Bである[1]に記載の化合物。
[5] 前記一般式(1)で表される化合物の製造方法であって、式(1−1)のシクロペンタジエンを重水中、塩基の存在下、H−D交換して、式(1−2)の化合物を生成する工程を含む製造方法。
(式中、XはHまたはDを表し、Xのうち少なくとも1つはDである。)
[6] 前記H−D交換工程において、シクロペンタジエン上の水素原子の50%以上が重水素原子(D)に変換される[5]に記載の製造方法。
[7] 前記工程に引き続き、式(1−2)の化合物と式(1−3)の化合物とのDiels−Alder反応により式(1−4)の化合物を生成する工程、式(1−4)の化合物の水和反応により式(1−5)の化合物を生成する工程、および式(1−5)の化合物と式(1−6)の化合物とのエステル化反応により式(1)の化合物を生成する工程を含む[5]または[6]に記載の製造方法。
式中、R1〜R5はそれぞれ、請求項1の式(1)中の置換基R1〜R5と同様であり、X1は、Cl、Br、OHまたはODを表す。式(1)において、カルボキシル基と環状脂肪族基の結合は、環状脂肪族基の8位、もしくは9位に結合することを意味する。
[8] 下記一般式(3)で表される繰り返し単位を少なくとも含む重合体。
(式中、R1〜R3はそれぞれ独立に、H、D、ハロゲン原子、CH3、CD3またはCF3を表し、R4およびR5はそれぞれ独立に、H、Dまたは置換基を表し、R4とR5は連結して更に環状骨格を形成してもよい。ただし、式中の環状脂肪族基中の水素原子の55%以上が重水素(D)である。)
[9] 下記一般式(3−A)で表される[8]に記載の重合体。
(式中、R1〜R3、R4およびR5については、前記一般式(3)中のそれぞれと同義であり、式中の環状脂肪族基中の水素原子の55%以上が重水素(D)である。Aは不飽和エチレン性モノマーから誘導される繰り返し単位である。mおよびnはそれぞれの繰り返し単位のモル%であり、m+n=100、0<m≦100及び0≦n<100を満足する。)
[10] [1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を単独でまたは他の重合性モノマーととともに重合反応して製造された重合体。
[11] [1]〜[4]のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を含有する重合性組成物。
[12] [8]〜[10]のいずれかに記載の重合体を含む光学部品。
[13] [11]に記載の重合性組成物を重合してなる領域を有する光学部品。
[14] 光学部品の材料である[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物。
[15] 光学部品の材料である[8]〜[10]のいずれかに記載の重合体。
[16] 光学部品の材料である[11]の重合性組成物。
[17] [1]〜[4]のいずれかに記載の化合物を含有する光学材料。
[18] [8]〜[10]のいずれかに記載の重合体を含有する光学材料。
本発明によれば、光学部品、特にプラスチック光ファイバの材料として有用な重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステル類、重合体および重合性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、重水素化シクロペンタジエンを部分構造として有する化合物を、安全かつ効率よく製造する方法を提供することができる。さらに本発明によれば、重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステル類、重合体および重合性組成物を利用した新規な光学部品を提供することができる。特に、本発明の化合物を利用して作製したプラスチック光ファイバは、伝送損失が小さく、優れた伝送能と耐熱性を有する。
発明の実施の形態
以下において、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値を最小値および最大値として含む範囲を意味する。また、本明細書において、基に含まれるD原子の比率を、{(D原子の数)/(H原子の数+D原子の数)}の平均値を重水素化率(D化率)として定義する。
まず、本発明の式(1)で表される化合物について詳細に説明する。
前記式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、H、D、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、CH3、CD3またはCF3を表す。R1〜R3として好ましくはH、D、F、Cl、CH3、CD3またはCF3であり、さらに好ましくはD、FまたはCD3である。R1〜R3の組み合わせとして好ましくは、R1およびR2がHまたはDで、且つR3がH、D、CH3またはCD3の場合であり、特に好ましくはR1およびR2がともにDで、且つR3がCD3の場合である。
前記式(1)において、R4およびR5はそれぞれ独立に、H、Dまたは置換基を表す。置換基の例としては、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子(F,Cl、Br、I)、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が例として挙げられる。置換基が水素原子を含む場合はH原子でもD原子でもよいが、D原子であることが好ましい。これらの置換基は、これらの置換基でさらに置換されていてもよい。
R4およびR5が置換基である場合、その配座はそれぞれ2種あり、どちらの配座をとるかによって4種のジアステレオマー異性体が可能であるが、式(1)で表される化合物においては、いずれの異性体でもよいし、異性体混合物であってもよい。
R4およびR5は互いに結合してさらに環状骨格を形成していてもよい。R4およびR5が結合して形成される環状骨格は、炭素、窒素、酸素、硫黄およびリン原子から選ばれる少なくとも1種の原子からなり、非芳香族の環構造を意味する。環を形成する場合は5〜8員環が好ましい。環内の原子はさらに置換基を有していてもよく、その具体例としてはR4またはR5が有していてもよい置換基として挙げた例が同様に挙げられる。環状構造としては、C、HおよびDのみからなる5員もしくは6員の炭化水素環が好ましく;C、HおよびDのみからなる5員もしくは6員の飽和炭化水素環が好ましく;R4およびR5がトリメチレン基(−CH2−CH2−CH2−、但し、Hの一部または全部はDであってもよい)である場合、即ち、前記環状脂肪族基がトリシクロデカニル基である場合が特に好ましい。
R4およびR5は、H、D、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルケニル基、F、Cl、ヘテロ環基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基もしくはアルコキシカルボニル基であるか、または連結して環状骨格を形成するのが好ましく;H、D、アルキル基もしくはアルコキシ基であるか、または連結して環状骨格を形成するのが好ましく;R4およびR5ともにDであるか、またはトリメチレン基(−CH2−CH2−CH2−、但し、Hの一部または全部がDであってもよい)で環状骨格を形成するのが特に好ましい。
R1〜R5の組み合わせとして最も好ましくは、R1およびR2がDであり、R3がCD3であり、且つR4およびR5がともにHもしくはD、またはトリメチレン基(−CH2−CH2−CH2−、但し、Hの一部または全部がDであってもよい)で環状骨格を形成する組み合わせである。即ち、下記一般式(1)で表される化合物の中でも、重水素化ノルボルニルメタクリレート(化合物A)および重水素化トリシクロデカニルメタクリレート(化合物B)が最も好ましい。
前記一般式(1)中の環状脂肪族基(R4およびR5を含む)中の水素原子は、位置を問わず平均値としてその55%以上がD原子である。環状脂肪族基のD化率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
以下に、下記一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。なお、環状脂肪族基中の水素原子及び重水素原子は省略したが、D化率は55%以上である。以下の例示化合物においても、環状脂肪族基中のD化率は60%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
次に、本発明の製造方法について説明する。
D化の目的を詳述すると以下の通りである。C−H結合の伸縮振動の基本モードに対応した吸収波長は、3390nmであり、4,5,6および7倍音に相当する吸収波長は、各々901,736,627,及び549nmである。これらの波長は光通信に使用されている波長領域に属する。C−H結合がC−DまたはC−F結合に変換された材料は、吸収波長領域が長波側にシフトするので、通信用途に好ましいことが記載(国際公開WO93/08488号公報)されている。C−H結合による伝送損失に対する改良法としては、C−D結合への変換およびC−Fへの変換が一般的に知られているが、C−D結合への変換のほうが、反応の安全性確保、副生成物の処理等のために特別な設備が不要であり、安全面やコスト的に優位性がある。
本発明の製造方法は、前記一般式(1)で表される重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステル類の製造方法であって、シクロペンタジエンを重水中、塩基の存在下、H−D交換する下記工程を含む重水素化された不飽和エステル化合物の製造方法である。即ち、下記式(a)の化合物のH−D交換反応により下記式(b)の化合物を生成すする工程を含む製造方法である。
式中、XはHまたはDを表し、Xのうち少なくとも1つはDである。
本工程では、前記反応を、塩基存在下、重水中で進行させる。反応の進行中は、反応溶媒を攪拌するのが好ましい。前記工程では、塩基がシクロペンタジエンからHを引き抜き、シクロペンタジエニルアニオンを生成し、シクロペンタジエニルアニオンが重水中のDを引き抜くことによりH−D交換が進行する。
重水の使用量は限定されないが、シクロペンタジエンに対して質量で2〜10倍程度加えることが好ましい。塩基としては重水酸化物イオン(OD-)を有するイオン性化合物、またはD2Oと反応してOD-を与える化合物を用いることができる。具体的にはNaOD、KOD、金属ナトリウム、ナトリウムメトキシド(NaOCH3)、ナトリウムt−ブトキシド(NaOt−Bu)、カリウムメトキシド(KOCH3)、カリウムt−ブトキシド(KOt−Bu)などが挙げられる。D原子を含まず、重水との反応が温和であるNaOCH3やKOt−Buなどの塩基が使用可能であることは、コストの観点で好都合である。塩基の使用量は限定されないが、重水に対してmol比で、0.5%〜10%用いることが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0%である。
シクロペンタジエンは、市販のジシクロペンタジエンをクラッキングして得ることができる。シクロペンタジエンは再び2量化してジシクロペンタジエンに戻りやすい性質を有しているため、H-D交換の工程は、室温以下で行うことが好ましい。−10〜10℃で行うことがより好ましく、さらに好ましくは0〜5℃である。反応時間は限定されないが、目安としては0〜5℃で行った場合に2〜4時間程度である。
本工程では、非水溶性のシクロペンタジエンを重水中で反応させるため、反応液は2相に分離する。2相に分離したままであってもH-D交換は可能であるが、反応速度を向上させるために、相溶性の液体または層間移動触媒を加えることが好ましい。具体的には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、重メタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、4級アンモニウム塩類、4級ホスホニウム塩類などを、反応系に加えるのが好ましい。DMSOを重水に対して質量で0.5〜1.5倍程度加えるのが特に好ましい。
シクロペンタジエンのD化率は、1H−NMRの積分値によって測定することができる。具体的には重水素化シクロペンタジエンと標準物質(例えば、ベンゼン、トルエンなど)を一定量(例えば、等molずつ)混合してNMRを測定し、シクロペンタジエン由来のピークの積分値と標準物質由来のピークの積分値を比較することにより算出することができる。さらに、確実にD化率を算出する方法として、誘導化法がある。具体的には、重水素化シクロペンタジエンを、Diels−Alder反応によって重水素化されていない電子求引性基を有するオレフィン類で誘導化し、得られた付加生成物の1H−NMRの積分値を比較することにより算出する方法である。この誘導化法については、実施例で詳述する。
重水素化されたシクロペンタジエンは蒸留により単離精製できる(沸点 41〜43℃/常圧)。また、シクロペンタジエンを2量化したジシクロペンタジエンを中間体とする化合物(例えば、例示化合物I−1)を合成する場合は、シクロペンタジエンとしては単離せずに、例えば、室温または加熱下で攪拌を行い、そのままジシクロペンタジエンまでワンポットで誘導することも可能である。
次に、重水素化シクロペンタジエンから前記一般式(1)で表される化合物を合成するまでの工程について述べる。
重水素化シクロペンタジエンを原料として、前記一般式(1)で表される化合物まで合成する方法については特に限定されず、重水素化シクロペンタジエンを原料として合成可能なあらゆるルートおよび手法を採用することが可能である。以下にその一例となる反応スキームを示すが、本ルートに限定されるものではない。以下の反応式において、水素原子は省略するが、HであってもDであってもよい。なお、下記式(1)において、カルボキシル基と環状脂肪族基の結合は、環状脂肪族基の8位、もしくは9位に結合することを意味する。
上記合成経路では、まず、工程1は、Diels−Alder反応であり、式(1−2)の化合物と式(1−3)の化合物とから式(1−4)の化合物を得る工程である。式(1−3)中のR4およびR5が置換基である場合は、複数の立体異性体が存在するが、用いる試薬はそのいずれであってもよいし、混合物であってもよい。工程2は水の付加反応であり、式(1−4)の化合物から式(1−5)の化合物を得る工程である。二重結合に水を付加させ得るあらゆる試薬および方法の選択が可能であり、例としては、希硫酸中で加熱する方法などが挙げられる。ここで、通常の水のかわりに重水を使用することも可能であり、それにより高いD化率を有する化合物へと導くことができる。工程3は、式(1−5)の化合物と式(1−6)の化合物のエステル化反応により、式(1)の化合物を得る工程である。あらゆるエステル化試薬(例えば、X1=Clすなわち酸クロライド、X1=OHすなわちカルボン酸)および方法の選択が可能であり、例としては、対応するカルボン酸とアルコールとを濃硫酸存在下で加熱する方法が挙げられる。
なお、各工程の間に、他の反応が含まれていてもよく、例えば、R4またはR5で表される置換基の官能基変換工程などが含まれていてもよい。実施例として後述する例示化合物(I−1)の合成においては、H2またはD2による接触水素添加の工程がこの官能基変換にあたる。
次に、本発明の重合体について説明する。本発明の重合体は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を少なくとも含む重合体である。
式中、R1〜R3、R4およびR5については、前記一般式(1)中のそれぞれと同義であり、また好ましい範囲も同様であり、環状脂肪族基中の水素原子の55%以上が重水素(D)であり、D化率の好ましい範囲についても、前記一般式(1)で表される化合物と同様である。
本発明の重合体は、前記式(3)の繰り返し単位のみからなる単独重合体であっても、他の繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。本発明の重合体を光学材料に用いる場合、特にプラスチック光ファイバのマトリックスに用いる場合は、下記一般式(3−A)で表される重合体が好ましい。
Aは、不飽和エチレン性モノマーから誘導される繰り返し単位である。不飽和エチレン性モノマーとしては、例えばアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、ビニルケトン類、アリル化合物、オレフィン酸、ビニルエーテル類、N−ビニルアミド類、ビニル異節環化合物、マレイン酸エステル類、イタコン酸エステル類、フマル酸エステル類、クロトン酸エステル類などがある。この中では、(メタ)アクリル酸エステル類が、特に好ましい。
具体的な例を挙げるとすると、アクリル酸エステル類としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、tert−オクチルアクリレート、2−クロロエチルアクリレート、2−ブロモエチルアクリレート、4−クロロブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、ノルボルニルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アダマンチルアクリレート、トリシクロデシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、2−アセトキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、2−クロロシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−iso−プロポキシアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、ω−メトキシポリエチレングリコールアクリレート(付加モル数n=9)、1−ブロモ−2−メトキシエチルアクリレート、1,1−ジクロロ−2−エトキシエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルアクリレート等が挙げられる。
メタクリル酸エステル類としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、N−エチル−N−フェニルアミノエチルメタクリレート、2−(3−フェニルプロピルオキシ)エチルメタクリレート、ジメチルアミノフェノキシエチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、ジプロピレングリコールモノメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、3−メトキシブチルメタクリレート、2−アセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−iso−プロポキシエチルメタクリレート、2−ブトキシエチルメタクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられ、これらの繰り返し単位中のC−H結合は、C−D結合になっているのが、特に好ましい。
mおよびnはそれぞれの繰り返し単位のモル%であり、m+n=100、0<m≦100及び0≦n<100を満足する。mは1〜75モル%であるのが好ましく、1〜50モル%であるのがより好ましい。
本発明の重合体は、通常用いられている、不飽和エステルの単独重合または共重合方法を利用して、前記一般式(1)の化合物をモノマーとして、単独で重合させるまたは他のモノマーと共重合させることによって製造することができる。また、前記一般式(1)の化合物をモノマーとして用いずに、例えば、対応するポリ(メタ)アクリル酸を重合または共重合させた後に、高分子反応(エステル化)により、環状脂肪族基を導入することもできる。前記一般式(3−A)で表される共重合体を製造する場合は、重水素化された環状脂肪族基を有する不飽和エステルモノマーと、Aに相当する不飽和エチレン性モノマーとを共重合して製造するのが好ましい。
以下に、一般式(3)の繰り返し単位を含む重合体の具体例を挙げるが、勿論本発明の重合体は、これらに限定されるものではない。
次に、本発明の化合物および重合体を、光学部品の作製に用いる光学材料として利用する態様について述べる。
本発明の化合物および重合体は、一般カメラ用レンズ、ビデオカメラ用レンズ、レーザーピックアップレンズ、レーザブリンター用fθレンズ、フレネルレンズ、液晶プロジェクター用レンズ、眼鏡用レンズ等のレンズ、光ファイバ、(高分子)光導波路等の光学部品の作製に用いることができる。これらの中でも光ファイバ(SI−POF、MSI−POF、GI−POFなど)、高分子光導波路の材料として好適に用いることができる。
本発明の重合体を光学部品の材料として用いる場合、所望の光学特性を得るために、本発明の重合体に屈折率制御剤(以下、「ドーパント」という場合がある)を添加してもよく、かかる場合には、ドーパントが本発明の重合体中に均一に分散されている態様と、濃度分布がある態様とがある。ドーパントの濃度分布がある態様では、該濃度分布に基づいて屈折率が分布し、GI型POFや複写機に使用されているアレイレンズへの適用が好ましい。
本発明の光学部品は、本発明の重合体を含む組成物を、射出成形法、圧縮成形法、マイクロモールド法、フローティングモールド法、ローリンクス法、注型法等の公知の成形法を利用して、所望の形状に成形することによって製造することができる。さらに、上記のような成形法により得られた成形品表面に、各種のコーティングを施すことにより、耐湿性、光学特性、耐薬品性、耐磨耗性、曇り止めなどを向上させてもよい。
以下、本発明の式(1)で表される化合物を含有する重合性組成物を用いて製造したGI−POFの態様について詳細に説明する。GI−POFは、クラッド部およびコア部からなる。まずコア部について説明する。
コア部は重合性組成物を重合して形成する。前記重合性組成物は、1種以上の重合性モノマーを必須成分とし、その他に、重合開始剤、連鎖移動剤、または屈折率制御剤などの添加剤を含んでいてもよい。前記重合性モノマーとしては、前記式(1)で表される化合物が好ましく、前記式(1)で表される化合物の例示化合物の中から選ばれるのがより好ましい。前記式(1)で表される化合物とともに、該化合物と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを用いてもよく、該モノマーとしては、(メタ)クリル酸エステル類が好ましく、さらに重水素化されている(メタ)クリル酸エステル類がより好ましい。
前記重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができるが、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−t−ブチルパーオキシド(PBD)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物、または2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−t−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は2種類以上を併用してもよい。
前記コア部形成用の重合性組成物は、連鎖移動剤を含有しているのが好ましい。前記連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。重合性組成物が連鎖移動剤を含有していると、重合性モノマーの重合速度および重合度を前記連鎖移動剤によってより制御することができ、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、コア部及びクラッド部にそれぞれ相当する領域を有するプリフォームを作成し、その後、該プリフォームを延伸により線引きして、光伝送体の形態にする場合は、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。前記連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いるのが好ましく、中でも、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、前記連鎖移動剤は、2種類以上を併用してもよい。
本発明において、コア部用重合性組成物は、屈折率調整成分を含有していてもよい。その場合、重合の際に、重合の進行方向に沿って、屈折率調整成分の濃度に傾斜を持たせることによって、屈折率分布型のプラスチック光ファイバを作製することができる。屈折率調整成分は、併用する前記重合性モノマーの屈折率と異なる成分を意味し、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。その屈折率差は、0.005以上であるのが好ましい。屈折率調整成分は、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有するものを用いるのが好ましい。また、屈折率調整成分は重合性化合物であってもよく、重合性化合物が屈折率調整成分の場合は、これを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いるのが好ましい。上記性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、屈折率調整成分として用いることができる。例えば、コア部形成用重合性組成物に屈折率調整成分を含有させ、コア部を形成する工程において界面ゲル重合法により重合の進行方向を制御し、屈折率調整成分の濃度に傾斜を持たせ、コア部に屈折率調整成分の濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成するのが好ましい(以下、屈折率の分布を有するコア部を「屈折率分布型コア部」という場合がある)。屈折率分布型コア部を形成することにより、得られる光学部材は広い伝送帯域を有する屈折率分布型プラスチック光学部材となる。
前記屈折率調整成分としては、低分子化合物として、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジルn−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ビフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体などが挙げられる。硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体については、下記に具体的に示す化合物の中から適宜選ばれる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOおよび硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体が好ましい。なお、これらの化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物も広い波長域での透明性を向上させる目的で用いることが出来る。また、重合性化合物として、例えば、トリブロモフェニルメタクリレート等が挙げられる。屈折率調整成分として重合性化合物を用いる場合は、マトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性屈折率調整成分とを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。
屈折率調整剤の濃度および分布を調整することによって、コア部の屈折率を所望の値に変化させることができる。その添加量は、用途に応じて適宜選ばれる。屈折率調整剤は、複数種類添加してもよい。
前記式(1)で表されるモノマーを含有する重合性組成物に、熱および/または光等が供与されると、例えば、重合開始剤からラジカル等が発生し、式(3)で表される単独重合、あるいは共重合が開始する。前記重合性モノマーの他、屈折率調整成分を含んでいる場合は、例えば、後述の界面ゲル重合法のように、重合の進行方向を制御して、屈折率調整成分の濃度に傾斜を持たせることによって、もしくは屈折率調整成分を含んでいない場合も、前記重合性モノマーの共重合比に傾斜を持たせることによっても、屈折率分布構造を形成することができる。特に、本発明では重合性モノマーとして、上記式(1)で表される化合物を用いているので、作製される光学部材の光伝送損失を大きく軽減することができる。さらに、吸湿による光伝送損失の増大も顕著に軽減することができる。また、重合性モノマーの重合速度および重合度を、重合開始剤および所望により添加される連鎖移動剤によって制御し、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られた重合体を延伸により線引きして、光ファイバとする場合は、連鎖移動剤によって製造される重合体の分子量(好ましくは1万〜100万、より好ましくは3万〜50万)を調整すれば、延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
次に、クラッド部について説明する。GI−POFを構成する他の重要な要素であるクラッド部は、コア部よりも少なくとも3%小さい屈折率を有する透明重合体からなるのが望ましい。3%より小さい屈折率を有する場合、クラッド部による光の反射する割合が小さくなり導光損失が大きくなる。この開口数の観点から、クラッド部はフッ素樹脂が好ましい。好ましいフッ素樹脂としては、例えば、弗化ビニル、弗化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、トリフルオロメチルトリフルオロビニルエーテル、パーフルオロプロピルトリフルオロビニルエーテル、メタクリル酸パーフルオロ−t−ブチルなどの含弗素重合体やポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルやその共重合体をあげることができる。これらの含弗素重合体の中で特に好適には、弗化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、トリフルオロエチレン−弗化ビニリデン共重合体、弗化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロペン共重合体およびメタクリル酸パーフルオロ−t−ブチル重合体を挙げることができる。クラッド部は、具体的には、1.42以下の屈折率で、結晶性でなく無定形に近く、且つ前記コア部のマトリックスである(メタ)クリル酸エステル類の重合体との接着性が良好なものが望ましい。
以下に、本発明の式(1)で表される化合物を、コア部とクラッド部とを有する屈折率分布型プラスチック光学部材の製造に用いた実施の形態について説明する。本実施の形態は、主として2種類あるが、以下の実施形態に限定されるわけではない。
第一の実施形態は、クラッド部用重合性組成物を重合してクラッド部となる円筒管を作製する第1の工程と、前記円筒管の中空部でコア部形成用重合性組成物を界面ゲル重合させることによりコア部となる領域を形成し、コア部およびクラッド部に各々対応する領域からなるプリフォームを作製する第2の工程と、得られたプリフォームを所望の形態に加工する第3の工程とを含むプラスチック光学部材の製造方法である。
第二の実施形態は、クラッド部に相当する、例えばポリフッ化ビニリデン樹脂のような含フッ素樹脂からなる円筒状パイプの中空部でアウターコア用重合性組成物を回転重合により重合して、2層からなる同心円筒状パイプを作製する第1の工程と、前記円筒管のさらに中空部で、インナーコア部形成用重合性組成物を界面ゲル重合させることによりインナーコア部となる領域を形成し、クラッド部、アウターコア部およびインナーコア部に各々対応する領域からなるプリフォームを作製する第2の工程と、および得られたプリフォームを所望の形態に加工する第3の工程とを含むプラスチック光学部材の製造方法である。後者の実施形態においては、2層からなる同心円筒状パイプを作製する際、上記のように段階的ではなく、フッ素樹脂とアウターコア用重合組成物の重合体を溶融共押し出しの方法の一段階で作製してもよい。
前記クラッド部あるいはアウターコア部形成用重合性組成物は、重合性モノマー、ならびに所望により、該重合性モノマーの重合を開始させる重合開始剤および連鎖移動剤を含有する。前記コア部あるいはインナーコア部形成用重合性組成物は、前記一般式(1)で表される重合性モノマー、ならびに所望により、該重合性モノマーの重合を開始させる重合開始剤、連鎖移動剤、および屈折率調整剤を含有する。前記第一の実施の形態ではクラッド部/コア部形成用、第二の実施の形態ではアウターコア部/インナーコア部形成用の各々の重合性組成物に用いられる重合性モノマーは、互いに等しいのが好ましい(但し、その組成比については同一でなくてもよく、また副成分については等しくなくてもよい)。等しい種類の重合性モノマーを用いることによって、クラッド部/コア部またはアウターコア部/インナーコア部界面における光透過性および接着性を向上させることができる。
第二の実施形態では、クラッド部とコア部との間にアウターコア部を形成することによって、クラッド部とコア部との材質の違いによる接着性の低下および生産性の低下などを軽減させている。その結果、クラッド部およびコア部に用いる材料の選択の幅を広げることができる。本実施形態では、クラッド部は疎水性が高く、且つコア部との屈折率差を大きくすることができる含フッ素樹脂を用いるのが好ましく、具体的には、ポリフッ化ビニリデン樹脂等が好ましい。クラッド部に相当する円筒形状の管は、例えば、市販されているフッ素樹脂を溶融押出しにより、所望の径と厚みのパイプに成形することで作製することができる。さらに、得られたパイプの中空部で上記重合性組成物を回転重合させ、その内壁にアウターコア層を形成することができる。また、その他、前記フッ素樹脂と前記重合性組成物からなる重合体を共押し出しすることによっても同様の構造体を作製することもできる。
前記クラッド部、アウターコア部およびコア部形成用重合性組成物において、各成分の含有割合の好ましい範囲は、その種類に応じて異なり一概に定めることはできないが、一般的には、重合開始剤は、重合性モノマーに対して0.005〜0.5質量%であるのが好ましく、0.01〜0.5質量%であるのがより好ましい。前記連鎖移動剤は、重合性モノマーに対して0.10〜0.40質量%であるのが好ましく、0.15〜0.30質量%であるのがより好ましい。また、前記コア部形成用重合性組成物において、前記屈折率調整成分は、重合性モノマーに対して1〜30質量%であるのが好ましく、1〜25質量%であるのがより好ましい。
前記クラッド部、アウターコア部およびコア部形成用重合性組成物を重合することによって得られるポリマー成分の分子量は、プリフォームを延伸する関係から、重量平均分子量で1万〜100万の範囲であることが好ましく、3万〜50万であることがさらに好ましい。さらに延伸性の観点で分子量分布(MWD:重量平均分子量/数平均分子量)も影響する。MWDが大きくなると、極端に分子量の高い成分がわずかでもあると延伸性が悪くなり、場合によっては延伸できなくなることもある。従って、好ましい範囲としては、MWDが4以下が好ましく、さらには3以下が好ましい。
前記クラッド部、アウターコア部およびコア部形成用重合性組成物にはそれぞれ、重合時の反応性や光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、耐候性や耐久性等を向上させる目的で、耐酸化剤や耐光剤等の安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することが可能となり、伝送距離が向上するので、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。
次に、前記第一および第二の形態(特に前記第一の実施形態)の各工程について詳細に説明する。
前記第1の工程では、クラッド部に相当する1層の、またはクラッド部およびアウターコア部に相当する2層の中空状(例えば円筒形状)の管を作製する。中空の円筒管の作製方法としては、例えば国際公開WO93/08488号公報に記載されている様な製造方法が挙げられる。具体的には、前記クラッド部形成用重合組成物を円筒形状の重合容器に、またはアウターコア部形成用重合性組成物をフッ素樹脂よりなるパイプ(さらに外側に円筒形状の容器に入れられたもの)に注入し、該重合容器を回転(好ましくは、円筒の軸を水平に維持した状態で回転)させつつ、前記重合性モノマーを重合させることにより、1層(一重)または2層(二重)円筒形状の重合体からなる構造体を作製することができる。重合容器に注入する前にフィルターにより濾過して、組成物中に含まれる塵埃を除去するのが好ましい。重合温度および重合時間は、用いるモノマーや重合開始剤によって異なるが、一般的には、重合温度は60〜150℃であるのが好ましく、重合時間は5〜24時間であるのが好ましい。この時に、特開平8−110419号公報に記載されている様に、原料をプレ重合して原料粘度を上昇させてから行ってもよい。また、重合に使用する容器が回転によって変形してしまうと、得られる円筒管に歪みを生じさせることから、充分な剛性を持つ金属管・ガラス管を用いることが望ましい。
前記一重または二重円筒形状の重合体からなる構造体は、コア部(前記第二の実施の形態においてはインナーコア部。以下、「コア部」という場合は「インナーコア部」の意味でもある)の原料となる重合性組成物を注入できるように、底部を有しているのが好ましい。底部は前記円筒管を構成している重合体と密着性および接着性に富む材質であるのが好ましい。また、底部を前記円筒管と同一の重合体で構成することもできる。重合体からなる底部は、例えば、重合容器を回転させて重合する(以下、「回転重合」という場合がある)前もしくは後に、重合容器を垂直に静置した状態で、重合容器内に少量の重合性モノマーを注入し、重合することによって形成することができる。
前記回転重合後に、残存するモノマーや重合開始剤を完全に反応させることを目的として、該回転重合の重合温度より高い温度で得られた構造体に加熱処理を施してもよく、所望の中空管が得られた後、未重合の組成物を取り除いてもよい。
また、前記第1の工程では、一旦、前記重合性組成物を重合させて重合体を作製した後、押し出し成形等の成形技術を利用して、所望の形状(本実施の形態では一重円筒形状あるいはフッ素樹脂と前記重合性組成物重合体からなる二重(同心)円筒状)の構造体を得ることもできる。
前記第2の工程では、前記第1の工程で作製した一重または二重円筒形状の構造体の中空部に、前記コア部形成用重合性組成物を注入し、組成物中の重合性モノマーを重合する。フィルターにより濾過して、組成物に含まれる塵埃を除去するのが好ましい。重合法は重合後の残留物の観点から溶媒等を用いない界面ゲル重合法が特に好ましい。この界面ゲル重合法を用いることで、重合性モノマーの重合は、前記円筒管のゲル効果によって、粘度の高くなった内壁表面から断面の半径方向、中心に向かって進行する。重合性モノマーに前記屈折率調整成分を添加して重合すると、前記円筒管を構成している重合体に対して親和性の高いモノマーが前記円筒管の内壁面に偏在して重合し、外側には屈折率調整成分濃度が低い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の該屈折率調整成分の比率が増加する。このようにして、コア部となる領域内に屈折率調整成分の濃度分布が生じ、この濃度分布に基づいて、連続した屈折率の分布が導入される。
上記説明したように、第2の工程において、形成されるコア部となる領域に屈折率の分布が導入されるが、屈折率が互いに異なる部分間は熱挙動も互いに異なるので、重合を一定温度で行うと、その熱挙動の違いからコア部となる領域は、重合反応に対して発生する体積収縮の応答性が変化し、プリフォーム内部に気泡が混入する、もしくはミクロな空隙が発生し、得られたプリフォームを加熱延伸した際に多数の気泡が発生する可能性がある。重合温度が低すぎると、重合効率が低下し、反応終了までに時間がかかってしまい、生産性を著しく損なう。また、重合が不完全となって光透過性が低下し、作製される光ファイバの光伝送能を損なう。一方、初期の重合温度が高すぎると、コア部となる領域の収縮に対して応答緩和できず、気泡発生の傾向が著しい。そのため、モノマーの沸点や生成するポリマーのガラス転移温度(Tg)を勘案しながら、重合温度と後処理温度を調整して行う。但し、後処理温度はポリマーのガラス転移温度以上となるように選択する。例えば、典型的なメタクリレート系のモノマーを使用した場合には、重合温度は好ましくは、60℃〜160℃、さらに好ましくは80℃〜140℃である。また、重合収縮に対する応答性を高めるために加圧した不活性ガス中で重合させることも好ましい。さらに、重合前のモノマーを減圧雰囲気で脱水・脱気する事でさらに気泡の発生を低減させることができる。
重合温度および重合時間は、用いるモノマーによって異なるが、一般的には、重合温度は60〜150℃であるのが好ましく、重合時間は5〜72時間であるのが好ましい。具体的には、重合性モノマーとしてメチルメタクリレートを用い、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)を用いた場合は、初期重合温度を100〜110℃に48〜72時間維持し、その後、120〜160℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましく、重合開始剤としてジt−ブチルパーオキシドを用いた場合は、初期重合温度を90〜110℃に4〜48時間維持し、120〜160℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましい。なお、昇温は段階的に行っても、連続的に行ってもよいが、昇温にかける時間は短いほうがよい。
重合は、加圧状態で行うのが好ましい(以下、加圧状態で行う重合を「加圧重合」という)。加圧重合を行う場合は、前記重合性組成物を注入した一重または二重円筒形状の構造体を、治具の中空部に挿入して、治具に支持された状態で重合を行うのが好ましい。前記治具は、前記構造体を挿入可能な中空を有する形状であり、該中空部は前記構造体と類似の形状を有しているのが好ましい。本実施の形態では、クラッド部となる構造体が円筒管であるので、前記治具も円筒形状であるのが好ましい。治具は、加圧重合中に前記円筒管が変形するのを抑制するとともに、加圧重合が進むに従ってコア部となる領域が収縮するのを緩和可能に支持する。従って、治具の中空部は、前記一重または二重円筒形状の構造体の外径より大きい径を有し、前記クラッド部となる円筒管を非密着状態で支持するのが好ましい。前記治具の中空部は、前記一重または二重円筒形状の構造体の外径に対して0.1%〜40%だけ大きい径を有しているのが好ましく、10〜20%だけ大きい径を有しているのがより好ましい。
前記一重または二重円筒形状の構造体を治具の中空部に挿入した状態で、重合容器内に配置することができる。重合容器内において、前記一重または二重円筒形状の構造体は、円筒の高さ方向を垂直にして配置されるのが好ましい。前記治具に支持された状態で前記円筒管を、重合容器内に配置した後、前記重合容器内を加圧することができる。窒素等の不活性ガスで重合容器内を加圧し、不活性ガス雰囲気下で加圧重合を進行させるのが好ましい。重合時の加圧の好ましい範囲については、用いるモノマーによって異なるが、重合時の圧は、一般的には0.05〜1.0MPa程度が好ましい。
以上の工程を経て、光学部材のプリフォームを得ることができる。なお、上記第二の実施の形態では、1層のアウターコア部を有する円筒形状のプリフォームの作製方法を示したが、アウターコア部は2層以上であってもよい。また、アウターコア部は、加工によって種々の形態(例えば、延伸によって光ファイバーの形態)となった後は、インナーコア部と一体になり、双方が識別できなくなっていてもよい。
第3の工程では、作製されたプリフォームを加工して所望の形態の光学部材を得る。例えば、プリフォームを軸方向に垂直にスライスすれば断面が凹凸を有しない円盤状もしくは円柱状のレンズを得ることができる。また、延伸してプラスチック光ファイバを得る。光ファイバは、第3の工程でプリフォームを加熱延伸して作製することができるが、その加熱温度はプリフォームの材質等に応じて、適宜決定することができる。一般的には、180〜250℃中の雰囲気で行われることが好ましい。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望のプラスチック光ファイバの径および用いた材料等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、線引張力については、特開平7−234322号公報に記載されている様に、溶融したプラスチックを配向させるために10g以上としたり、特開平7−234324号公報に記載されている様に溶融延伸後に歪みを残さないようにするために100g以下とすることが好ましい。また、特開平8−106015号公報に記載されている様に、延伸の際に予備加熱を設ける方法等をとることもできる。以上の方法によって得られるファイバについては、得られる素線の破断伸びや硬度について特開平7−244220号公報に記載の様に規定することでファイバの曲げや側圧特性を改善することができる。
前述した方法で製造されたプラスチック光ファイバは、そのままの形態で種々の用途に供することができる。また、保護や補強を目的として、その外側に被覆層を有する形態、繊維層を有する形態、および/または複数のファイバを束ねた状態で、種々の用途に供することができる。被覆工程は、例えばファイバ素線の通る穴を有する対向したダイスにファイバ素線を通し、対向したダイス間に溶融した被覆用の樹脂を満たし、ファイバ素線をダイス間に移動することで被覆されたファイバを得ることができる。被覆層は可撓時に内部のファイバへの応力から保護するため、ファイバ素線と融着していないことが望ましい。さらにこのとき、溶融した樹脂と接することでファイバ素線に熱的ダメージが加わるので、極力ダメージを押さえるような移動速度や低温で溶融できる樹脂を選ぶことも望ましい。このとき、被覆層の厚みは被覆材の溶融温度や素線の引き抜き速度、被覆層の冷却温度による。その他にも、光部材に塗布したモノマーを重合させる方法やシートを巻き付ける方法、押し出し成形した中空管に光部材を通す方法などが知られている。
素線を被覆することにより、プラスチック光ファイバケーブル製造が可能となる。その際にその被覆の形態として、被覆材とプラスチック光ファイバ素線の界面が全周にわたって接して被覆されている密着型の被覆と、被覆材とプラスチック光ファイバ素線の界面に空隙を有するルース型被覆がある。ルース型被覆では、たとえばコネクタとの接続部などにおいて被覆層を剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散されるおそれがあるため、通常は密着型が好ましい。しかし、ルース型の被覆の場合、被覆と素線が密着していないので、ケーブルにかかる応力や熱とはじめとするダメージの多くを被覆材層で緩和させることができ、素線にかかるダメージを軽減させることができるため、使用目的によっては好ましく用いることができる。水分の伝播については、空隙部に流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を充填することで、端面からの水分伝播を防止でき、かつ、これらの半固体や粉粒体に耐熱や機械的機能の向上などの水分伝播防止と異なる機能をあわせ持つようにすることでより高い性能の被覆を形成できる。ルース型の被覆を製造するには、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置を加減することで空隙層を作ることができる。空隙層の厚みは前述のニップル厚みと空隙層を加圧/減圧することで調整が可能である。
さらに、必要に応じて被覆層(1次被覆層)の外周にさらに被覆層(2次被覆層)を設けても良い。2次被覆層に難燃剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、昇光剤、滑剤などを導入してもよく、耐透湿性能を満足する限りにおいては、1次被覆層にも導入は可能である。なお、難燃剤については臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤や燐含有のものがあるが、毒性ガス低減などの安全性の観点で難燃剤として金属水酸化物を加える主流となりつつある。金属水酸化物はその内部に結晶水として水分を有しており、またその製法過程での付着水が完全に除去できないため、金属水酸化物による難燃性被覆は本発明の対透湿性被覆(1次被覆層)の外層被覆(2次被覆層)として設けることが望ましい。
また、複数の機能を付与させるために、様々な機能を有する被覆を積層させてもよい。例えば、本発明のような難燃化以外に、素線の吸湿を抑制するためのバリア層や水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テープや吸湿ジェルを被覆層内や被覆層間に有することができ、また可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層等の緩衝材、剛性を挙げるための強化層など、用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線等の線材を熱可塑性樹脂に含有すると、得られるケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としてはステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や、配線時の作業性を向上させるための機構を組み込むことができる。
また、ケーブルの形状は使用形態によって、素線を同心円上にまとめた集合ケーブルや、一列に並べたテープ心線と言われる態様、さらにそれらを押え巻やラップシースなどでまとめた集合ケーブルなど用途に応じてその形態を選ぶことができる。
また、本発明の光ファイバを用いたケーブルは、軸ずれに対して従来の光ファイバに比べて許容度が高いため突き合せによる接合でも用いることができるが、端部に接続用光コネクタを用いて接続部を確実に固定することが好ましい。コネクタとしては一般に知られている、PN型、SMA型、SMI型などの市販の各種コネクタを利用することも可能である。
本発明の光学部材としての光ファイバ、および光ファイバケーブルを用いて光信号を伝送するシステムには、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置等で構成される。また、必要に応じて他の光ファイバなどと組合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LAN等をはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON., VOL. E84-C, No.3, MARCH 2001, p.339-344「High-Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3, No.6, 2000 476頁〜480ページ「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号等公報に記載の導光路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手段等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
以下に例示化合物(I−1)の合成例を詳細に説明する。本実施例によれば該環状脂肪族基のD化率が83%程度である例示化合物(I−1)を得ることができる。最も安価な重水素源であるD2Oを用いて高いD化率を有するトリシクロデカニルエステルを合成することが可能であり、本発明の製造方法の有用性を示すものである。
以下に示す反応式(5)の合成ルートにより、例示化合物(I−1)を合成した。
シクロペンタジエン(A−2)の合成:
蒸留装置を取り付けた500mlのナス型フラスコに、ジシクロペンタジエン(A−1)325g(2.5mol)を入れ、常圧下160℃で8時間加熱してクラッキングを行い、無色透明の液体シクロペンタジエン(A−2)230g(収率約71%)を得た。下記に化合物(A−2)の1H NMRデータを示す。
1H NMR(300MHz,CDCl3):δ3.0(m,2H),6.5(m,2H),6.6(m,2H)
重水素化シクロペンタジエン(A−3)の合成:
2Lの三口フラスコに、市販されている30質量%重水酸化ナトリウム重水溶液(NaOD/D2O)100g(NaODとして0.73mol)および重水820g(41mol)を加え、攪拌しながら5℃に冷却した。この溶液にジメチルスルホキシド500ml、および(A−2)132g(2.0mol)を反応液の温度を10℃以下に保ちながら添加し、氷冷(内温を0〜10℃に保つ)しながら3時間攪拌した。反応液を分液漏斗に移して静置し、水層を廃棄、有機層をフラスコに戻し、同様に30質量%重水酸化ナトリウム重水溶液100g、重水820g、ジメチルスルホキシド500mlを加えて0〜10℃で3時間攪拌した。シメン(イソプロピルトルエン)400mlを加えて分液し水層を廃棄した後常圧にて蒸留し、(A−3)を43g(収率約30%)得た。D化率は下記に示す方法で96%と算出された。
(A−3)の重水素化率決定法(D化率の測定):
D化率は誘導化の手法を用いて行った。具体的には、(A−3)158mg(2.2mmol)の酢酸エチル0.5ml溶液に、p−トリルマレイミド 410mg(2.2mmol)を加えて室温で1時間攪拌した後、酢酸エチルを減圧にて留去し、薄層シリカゲルクロマトグラフィーにてDiels−Alder付加体(A−7)を単離、1H NMRの積分値でD化率を算出した。
Diels−Alder 生成物(A−7)の1H NMRデータ(非重水素化物のものを記す)を以下に示す。
1H NMR(300MHz,CDCl3):δ1.61(s,2H),2.33(s,3H),3.33(m,2H),3.48(m,2H),6.23(s,2H),6.98(d,2H),7.24(d,2H)
以下にDiels−Alder反応のスキームを示す。
重水素化ジシクロペンタジエン(A−4)の合成:
96%のD化率を有する(A−3)57g(0.79mol)を5時間加熱還流(外温60℃)した。残留した(A−3)を減圧で留去、無色透明液体(A−4)を51g(収率約89%)得た。
(A−5)の合成:
(A−4)51g(0.35mol)に、重水84g(4.2mol)および濃硫酸(H2SO4)36g(0.37mol)を加えて6時間加熱還流した(外温120℃)。室温に冷ました後反応液を氷水に注ぎトルエンで抽出、有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。トルエンを減圧留去した後減圧にて蒸留し(70〜80℃/3〜4mmHg)、油状無色透明液体の合成中間体(A−5)37g(収率約63%)を位置異性体混合物として得た。
重水素化トリシクロデカニルアルコール(A−6)の合成:
オートクレーブ中に、(A−5)34g(0.21mol)のエタノール150ml溶液および水添触媒 5% Pd/C 0.34gを加え、水素ガス(H2)を充填して5.0MPaとした。室温で4時間攪拌後、触媒をセライト濾過しエタノールを減圧にて留去、油状無色透明の合成中間体(A−6)を31g(収率約90%)得た。
重水素化トリシクロデカニルメタクリレート(I−1)の合成:
三ツ口ナス型フラスコに、(A−6)28g(0.17mol)、メタクリル酸−d5 19.2g(0.21mol)、濃硫酸0.3mlおよび重合禁止剤イルガノックス 30mgを加えて、窒素雰囲気下、外温120度前後にて5時間加熱攪拌した。室温に冷ました後、反応液を氷水に注ぎ酢酸エチルで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。酢酸エチルを減圧留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液 酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製し、(I−1)21g(収率約52%)を油状無色透明液体として得た。
重水素化合物(A−5、A−6およびI−1)の同定:
各化合物の非重水素化物(以下H体と呼ぶ)を(重水素化合物を用いる点を除いて)上記方法と同一の処方で合成し、1H−NMRにて構造を同定した。さらに、ガスクロマトグラフィーを用いてH体と保持時間がほぼ一致すること、および98%以上の純度を有することを確認した。
以下に、H体の1H−NMR(300MHz,CDCl3)データを示す。
(A−5)のH体(但し、位置異性体混合物): δ1.2−2.1(m,9H),2.4−2.8(m,2H),3.7−3.9(m,1H),5.42−5.47(m,1H),5.67−5.70(m,1H)
(A−6)のH体:δ0.9−1.1(m,2H),1.2−2.1(m,13H),3.71−3.74(m,1H)
(I−1)のH体:δ0.9−1.1(m,2H),1.1−2.1(m,15H),4.62(m,1H),5.51(s,1H),6.06(s,1H)
最終物(I−1)の重水素化率は直接測定していないが、(A−3)の重水素化率が96%(A−4のD数:0.96×12)であり、水の付加の工程で用いている希硫酸中のDの割合が92%であり(水の付加工程により導入されるD数:0.92×1)、水素添加の工程でH2を用いている(水素添加工程により導入されるD数:0×2)ことから、(I−1)の環状脂肪族基(D数とH数の合計:15)のD化率は下式より約83%と見積もることができる。
(0.96×12 + 0.92×1 + 0×2)/15 = 0.83
[実施例2]
上記反応式(5)の合成ルートにおいて、水付加反応の工程(A−4→A−5)では重硫酸(D2SO4)を、接触水素添加の工程では重水素ガス(D2)を用いることにより、さらに高いD化率を有する(I−1)を製造することができる。以下に、96%以上のD化率を有する(I−1)の合成例を示す。以下、実施例2においては、本実施例で合成される合成中間体および(I−1)を「高D化率」と形容する。
高D化率(A−5)の合成:
実施例1に示す方法で合成したD化率96%を有する(A−4)74g(0.52mol)に、重水118g(5.9mol)および重濃硫酸(D2SO4)36g(0.36mol)を加えて6時間加熱還流した(外温120℃)。室温に冷ました後、氷水中に注ぎ、トルエンで抽出、有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。トルエンを減圧留去した後減圧にて蒸留し(70〜80℃/3〜4mmHg)、油状無色透明液体の合成中間体(A−5)53g(収率約63%)を位置異性体混合物として得た。
高D化率(A−6)の合成:
オートクレーブに上記方法で合成した高D化率の(A−5)49g(0.30mol)のエタノール125ml溶液および水添触媒 5% Pd/C 0.50gを加え、重水素ガス(D2)を充填して5.2MPaとした。室温で7時間攪拌後、触媒をセライト濾過しエタノールを減圧にて留去、油状無色透明の合成中間体(A−6)を43g(収率約86%)得た。
高D化率(I−1)の合成:
上記方法で合成した高D化率の(A−6)31.2g(0.19mol)、メタクリル酸−d5 21.1g(0.23mol)、濃硫酸0.3ml、および重合禁止剤イルガノックス 30mgを用いて、実施例1に記載の方法と同じ方法にて(I−1)24g(収率約54%)を油状無色透明液体として得た。
高D化率を有する(I−1)の実際の重水素化率は直接測定していないが、(A−3)の重水素化率が96%であり、その後使用している試薬中の水素原子のうち(I−1)に含まれる水素原子はすべて重水素原子であることから、これらの化合物のD化率は96%を下回ることはない。
[実施例3]
実施例1に示した実施例は、さらに簡略化、低コスト化することが可能である。以下に示す実施例は、(A−2)→(A−4)の工程において、NaODを安価で入手容易なNaOCH3に変更、途中の分液操作を省略、(A−3)での単離を省略してワンポットで(A−4)まで誘導、さらに(A−4)→(A−5)において重水ではなく通常の水を利用して例示化合物(I−1)を合成した例である。このようにして合成した(I−1)のD化率は実施例1で示したものより低くなるが、なお70%のD化率を有する。
(A−4)の合成:
2Lの三口フラスコに、NaOCH3 21g(0.39mol)および重水400g(20mol)を加え、攪拌しながら5℃に冷却した。この溶液にジメチルスルホキシド400ml、および実施例1に記載の方法で合成した(A−2)66g(1.0mol)を反応液の温度を10℃以下に保ちながら添加し、氷冷(内温を0〜10℃に保つ)しながら3時間攪拌した。数分静置し上澄みであるシクロペンタジエンを少量(0.2ml程度)抜き出し、実施例1に記載の方法と同様にして、p−トリルマレイミドとのDiels−Alder反応による誘導化の手法でD化率を測定した。D化率は87%であった。この反応液に冷却管を取り付け、40℃で7時間攪拌した。室温まで冷ました後、反応液を分液漏斗に移し、酢酸エチル500mlで抽出、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒および残存したシクロペンタジエンを減圧にて留去した後、蒸留にて単離しジシクロペンタジエン(A−4)の重水素化物を37g(収率約52%)得た。
(A−5)の合成:
このように合成した(A−4)35g(0.25mol)に、30%硫酸(H2SO4とH2Oから調整した)80mlを加えて6時間加熱還流した(外温120℃)。実施例1に記載の方法と同様に処理を行い、(A−5)28g(収率約70%)を位置異性体混合物として得た。
(A−6)および(I−1)の合成:
このようにして合成した(A−5)を26g(0.16mol)使用し、実施例1に記載の方法と同様にしてH2を用いた接触水素添加を行い、(A−6)を22g(収率約84%)得た。この(A−6)のうちの20g(0.12mol)、メタクリル酸−d5 14.6g(0.16mol),濃硫酸0.2ml,および重合禁止剤イルガノックス 20mgを使用し、実施例1に記載の方法と同様の方法にて(I−1)16g(収率約55%)を得た。
最終物(I−1)の重水素化率は直接測定していないが、中間体(A−3)の重水素化率が87%であり、水の付加の工程でD原子を含まない硫酸を用いており、水素添加の工程でH2を用いていることから、その後の工程でDは導入されず、(I−1)の環状脂肪族基のD化率は下式より約70%と見積もることができる。
(0.87×12)/15 = 0.70
[実施例4]
次に、上記実施例1〜3で合成した、高いD化率を有する(I−1)を原料としたGI−POFの製造について説明する。
呉羽化学製KF−850を用いて押し出し成形によって作製されたフッ化ビニリデン樹脂パイプ(内径22mmおよび長さ600mm、底部もKF−850で作製されている)に、重合性モノマーとして、重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8:水分を1000ppm以下に除去したもの)と化合物(I−1)(全重水素化率83%)との8/2(質量比)の混合物を所定量注入した。重合開始剤として、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)をモノマー混合溶液に対して0.5質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー混合溶液に対して0.62質量%配合した。上記モノマー混合溶液の注入された重合容器を60℃湯浴中に入れ、震盪を加えながら2時間予備重合を行った。その後、該重合容器を65℃下にて水平状態(円筒の高さ方向が水平となる状態)に保持し、3000rpmにて回転させながら3時間加熱重合した。その後、90℃で24時間の熱処理し、上記共重合体からなる円筒管を得た。
次に、該円筒管の中空部に、コア部の原料である重合性モノマー(重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)(水分を1000ppm以下に除去したもの)と化合物I−1(TCDMA:全重水素化率87.3%)を質量比で8/2の混合物と、屈折率調整成分として重水素化ブロモベンゼンをモノマー混合溶液に対して10質量%混合した溶液とを、精度0.2μmの四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過しつつ、濾液を直接注入した。重合開始剤としてジt−ブチルパーオキシドをモノマー混合溶液に対し0.016質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー混合溶液に対し0.27質量%配合した。この混合溶液等を注入した該円筒管を、該円筒管外径に対し9%だけ広い内径を持つガラス管内に挿入した状態で、加圧重合容器に垂直に静置した。その後、加圧重合容器内を窒素雰囲気に置換した後、0.1Mpaまで加圧し、100℃で、48時間加熱重合した。その後、0.4Mpaまで加圧し、120℃で、24時間加熱重合および熱処理を行い、プリフォームを得た。該プリフォームの重量平均分子量は11万6000であった。また、このコア部を構成するポリマーのガラス転移温度(Tg)は117℃であり、PMMA−d8のTgの105℃と比較して高くなっており、より高温下での使用に耐えうることが分かる。
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きを行い、直径約300μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されなかった。得られたファイバの伝送損失値を測定したところ、波長650nmで98dB/km、波長780nmで100dB/km、波長850nmで150dB/kmであった。このファイバの帯域を測定したところ、1GHz・100mであった。
[実施例5〜6、比較例1〜2]
コア部用の重合組成物中のモノマーで、モノマー組成(MMA−d8/TCDMA(8/2))は同一で、化合物I−1(TCDMA)の全重水素化率だけを表1のように変更し、それ以外は実施例4と同様な操作を行い、ファイバを得、実施例4と同様な評価を行った。その結果を表1に合わせて示す。