JP4309834B2 - 調質圧延方法 - Google Patents

調質圧延方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4309834B2
JP4309834B2 JP2004366425A JP2004366425A JP4309834B2 JP 4309834 B2 JP4309834 B2 JP 4309834B2 JP 2004366425 A JP2004366425 A JP 2004366425A JP 2004366425 A JP2004366425 A JP 2004366425A JP 4309834 B2 JP4309834 B2 JP 4309834B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
rolling
roll
hole
less
steel plate
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2004366425A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2006167781A (ja
Inventor
明弘 榎本
明彦 谷口
武志 白石
収 宮前
敦史 杉橋
浩文 今井
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Priority to JP2004366425A priority Critical patent/JP4309834B2/ja
Publication of JP2006167781A publication Critical patent/JP2006167781A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4309834B2 publication Critical patent/JP4309834B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Metal Rolling (AREA)
  • Reduction Rolling/Reduction Stand/Operation Of Reduction Machine (AREA)
  • Heat Treatment Of Sheet Steel (AREA)

Description

本発明は、表面処理鋼板用原板、特にぶりきやティンフリースチール(TFS)などの缶用素材鋼板を安定して製造することのできる湿式の調質圧延方法、調質圧延用ロール、および美麗な表面性状とともに方向性の無い機械的性質から製缶性にも優れる缶用素材鋼板に関する。
近年、焼鈍後の表面処理鋼板用原板に対して、表面形状を改善し、使用目的に応じた表面粗度を与える、また、用途に応じた適当な硬度と機械的性質を与える工程を担う調質圧延方法の改善が産業界において強く望まれている。とりわけ、缶用素材鋼板では鋼板の成分や焼鈍条件に加えて、調質圧延での圧下率の調整によっても硬度を調整することから、工程管理や品質管理が煩雑になるという問題を抱えており、これがエネルギー問題とも関連して、製造プロセス全体の簡素化や、美麗な表面性状を有する缶用素材鋼板の安定供給を可能とする、新たな調質圧延方法の確立が求められている。
また、近年における食品や飲料等の保存容器としてのスチール缶には、薄肉化や高強度化のみならず、ファンシー缶に代表されるように、様々な形状や優れた意匠性を有する形状のものが求められており、表面処理鋼板用原板、特にぶりきやティンフリースチール(TFS)などの缶用素材鋼板には、従来にも増して美麗な表面性状が要求されるとともに、このような意匠性に優れた形状の加工を可能とする製缶性の向上も望まれている。とりわけ、鋼板の圧延平行方向と圧延直角方向において降伏点や伸び等の機械的性質に大きな差があると、加工時のブランク取りにおいて変形を生じたり、鋼板に印刷したパターンが製品原板を切り出す際にいびつに変形することから、鋼板の圧延平行方向と圧延直角方向における機械的性質の差、いわゆる、鋼板の方向性の問題を改善することが急務となっている。
周知のとおり調質圧延には、圧延油等の潤滑剤を用いない乾式圧延と潤滑剤を用いる湿式圧延とがある。
乾式圧延は、潤滑剤を使用しないことから圧延制御が容易である反面、ロールと鋼板との摩擦係数が高いため、許容圧下率を超えるとロールや鋼板からの金属粉が発生しやすく、これが巻き込み疵の原因となり、鋼板品質を低下させるという問題がある。換言すると、潤滑剤を使用しない乾式圧延では、軽圧下率しか確保することができない。
また、この軽圧下率しか確保できないという乾式圧延の性格から、この方式では製鋼段階での材質設計が大きなウェイトを占めている。すなわち、図1(a)に示すようにT1〜DR8の調質度を得るのに上工程から多くの合金成分系の缶用素材鋼帯を用意しなければならず、これが工程管理や品質管理を煩雑にするひとつの要因となっている。
したがって、0.5〜1.5%程度の軽圧下率しか確保できない乾式圧延は、近年ますます要請される製造プロセス全体の簡素化やコスト削減を図るには技術的限界があるとも言える。
これに対して湿式圧延は、潤滑剤を使用するため、ロールと鋼板との摩擦係数が低くなり、圧下率が1.5%以上の圧延が可能となるから、焼鈍工程まで単一成分系鋼帯で製造し、その後の調質圧延工程において圧下率を制御することにより、鋼板の調質度を制御することが可能である。
すなわち、湿式圧延は、多くの合金成分系鋼帯を用意しなければならない乾式圧延とは異なり、単一成分系鋼帯から様々な調質度の缶用素材鋼板を造り分けることが可能な調質圧延方法であり、製造プロセス全体の簡素化ひいてはコスト削減やエネルギー削減を図れるという有意義な特徴を持つ調質圧延方法と言える(例えば、特許文献1参照)。
しかし、このように材質設計上有利な湿式圧延ではあるが、図1(a)および(b)に示すように1.5〜6%の圧下率の範囲でジャンピングという現象が生じやすい。ジャンピング現象とは、降伏伸びに関連する現象であり、圧下率が増加すると降伏点が減少する領域で発生する。この領域では、或る圧延荷重を加えると、材料は降伏点が上昇して釣り合う点まで伸びようとするが、圧延機は伸び率を制御しようとして圧下荷重を下げる制御を行う。その結果、材料の伸びは減少するが、今度は、圧下荷重を下げたことで設定値に比べて伸びが小さいので、圧延機は圧下荷重を増やして伸びを確保しようとする。伸びを確保すると、圧下率が増加すると降伏点が減少する領域に再び入るので、材料は降伏点が上昇して釣り合う点まで再び伸びようとする。これを繰り返すのがジャンピング現象であり、実際には、圧下率が例えば2%程度狙いの場合に、伸び率が0〜8%程度変動することがある。それに伴い圧下荷重も±200トン程度変動して非常に不安定になる。
このため、従来の湿式圧延においては、特殊な潤滑剤を使用したり、その塗布方法や張力の調整等によりロールと鋼板との摩擦係数を調整して改善を試みていたが(例えば、特許文献1参照)、当該現象を完全に阻止することは困難であった。
すなわち、ジャンピングの発生により、湿式圧延の有利な特徴、すなわち、単一成分系鋼帯から様々な調質度の缶用素材鋼板を造り分けて、製造プロセス全体の簡素化ひいてはコスト削減やエネルギー削減に資するという湿式圧延の有利な特徴を十分に発揮することができなかった。
また、ジャンピングを防止する別の方法としては、ロールの表面粗度を調整する方法があり、例えば、ショットブラストを用いて加工したダルロールを最初のロールに用いる方法が知られている。
しかし、このダルロールを用いて湿式圧延を行った後にブライトロールで圧延を行うと、ダルロールで鋼板に転写された凹部に潤滑剤がまばらに残り、製品に潤滑むらと呼ばれる光沢むらが生じるという問題があった。特に、ショットブラストを用いて加工したダルロールを用いてジャンピングを防止しようとするとロール粗度を大きくする必要があるため、潤滑むらあるいはNo.2スタンドでの異常延びが発生しやすく、これが美麗な表面性状を要求される缶用素材鋼板にとっては致命的な問題となっていた。
一方、鋼板の方向性を改善する方法については、C:0.010%以下、Si:0.04%以下、Mn:0.1〜1.2%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.020%、N:0.01〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼片に対し、熱間圧延、自己焼鈍、酸洗、冷間圧延、連続焼鈍をし、15〜30%の圧下率で調質圧延することにより、圧延方向と直角方向との伸びの差が3%以下となるフランジ加工性およびネック成形性に優れる溶接缶用鋼板の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、この方法においては、比較的高価なNを0.01〜0.03%も添加する必要があるため、生産コスト的に問題があった。また、一般にNの含有率が高くなると鋳片に表面疵が発生しやすいことから、美麗な表面性状を要求される缶用素材鋼板にとっては致命的な問題となった。
特公昭56−3413号公報 特許第3108615号公報
本発明の解決すべき課題は、材質設計上有利な湿式圧延において頻発するジャンピングを防いで、安定した圧下率の制御を可能とすることにより、単一成分系鋼帯から様々な調質度の鋼板、特に製缶性に優れる方向性の無い缶用素材鋼板を造り分けるとともに、缶用素材鋼板に要求される優れた表面性状や表面光沢の均一性をも同時に満たすことのできる湿式の調質圧延方法およびこれを可能とする圧延用ロール、ならびに上記特性に優れた缶用素材鋼板を安定して提供することである。
なお、缶用素材鋼板とは、容器材料に用いられる鋼板であり、代表的なものとしては、ぶりきやティンフリースチール(TFS)、その他、Ni系めっき鋼板等がある。
まず、本発明者は、改善が急務となっている製缶性の向上、すなわち、鋼板における圧延平行方向と圧延直角方向との機械的性質の差、いわゆる、鋼板の方向性の問題を改善すべく、方向性の発生要因およびそれらを解決する方法について数多くの理論検討および実験検討を行った結果、以下の知見を得た。
(A)調質圧延において圧下率を振らせると降伏点が下がる領域が存在するが、この領域においては鋼板の方向性が改善されること。そして、この領域は、乾式圧延よりも湿式圧延のほうが広いこと。
(B)当該領域においては、従来から使用してきた鋼帯成分に特段の変更を加えることなく、鋼板の方向性を改善することができること。
(C)湿式圧延の方向性が改善される領域は、ジャンピングが発生する領域(1.5〜6%の圧下率の範囲)と重なり、1.5〜10%の圧下率の範囲であること。
(D)したがって、湿式圧延におけるジャンピング発生の問題を解決すれば、鋼板の方向性の問題を改善できるとともに、単一成分系鋼帯から様々な調質度を有する鋼板を安定して造り分けることも可能となること。
次に、本発明者は、これらの目的を阻害するジャンピングの発生要因およびそれを解決する方法について数多くの理論検討および実験検討を行った結果、以下の知見を得た。
(E)ジャンピングは、鋼板とロールとの摩擦力が変化して、ロール圧下力が鋼板に伝わる状況が微妙に変化すると発生しやすいこと。そして、前記鋼板とロールとの摩擦力が変化する要因としては、潤滑剤を介してのロールと鋼板間のグリップ力の変化が主であり、潤滑剤の流入の変化が従であること。
(F)主要因たるロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制するためには、ロール表面に一定の深さを有する穴、例えば、直径が30〜120μmである円形の穴を複数設ければ、当該変化を低減できること。
また、穴縁の総長密度を調整することにより、前記主要因たるロールと鋼板間のグリップ力の変化を低減できる摩擦係数を確保できること。そして、穴縁の総長密度は5〜15mm/mの範囲が望ましいこと。
さらに、前記穴の形状をなるべく円筒形、すなわち、深さ方向になるべく均一な断面積を有する形状にすれば、ロールが磨耗しても摩擦係数が変化しないことから、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制できること。
また、前記穴の形状を、深さ方向に完全に均一な断面積を有する形状に加工することが困難である場合には、ロール表面から所定の深さにいたるまでの穴の直径の変化量が少なければ、摩擦係数の変化も抑制できることから、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制できること。
(G)第二の要因である潤滑剤の流入の変化を抑制するためには、潤滑剤の膜切れを防止すること及び鋼板とロールとの濡れ性を向上させることが効果的であること。
前者については、穴の面積率を5〜40%とし、かつ穴の深さを3μm以上とすれば、穴の中に積極的に潤滑剤が溜まり、ロールバイト内でもロールと鋼板間に連続的に潤滑剤が供給されるので、前記潤滑油膜切れを防止できること。
後者については、ロールバイト入り側でロールの穴に対する鋼板の表面部分は微視的には圧延されないで穴の形状たる凸状になるために、潤滑剤と鋼板との接触角が幾何学上小さくなるので、前記濡れ性をも改善できること。
さらに、穴の加工方法によっては穴の周囲に盛り上がり(リム)が形成される場合があるが、リムが存在すると圧延時に潤滑剤と鋼板との接触角が幾何学上大きくなり、前記濡れ性を改善することが困難となるので、リムを形成しないように穴を加工することが望ましいこと。ただし、リム高さが1μm以下ならば前記濡れ性への影響が小さく許容される範囲であること。
最後に、本発明者は、缶用素材鋼板に要求される鋼板の美麗性を満たすべく、潤滑むらやNo.2スタンドでの異常伸びの発生要因およびそれらを解決する方法について数多くの理論検討および実験検討を行った結果、以下の知見を得た。
(H)ダルロールを用いて湿式圧延を行った後にブライトロールで圧延を行うと、ダルロールで鋼板に転写された凹部に潤滑剤がまばらに残り、これが原因で潤滑むらやNo.2スタンドでの異常伸びが発生すること。
(I)これらの発生を防止するためには、幅方向の潤滑均一性を確保する必要があること。そして、幅方向の潤滑均一性を確保するためには、前記リムが鋼板に転写されて生じる凹部に潤滑剤が残らないようにすれば良いため、前記凹部の深さを1μm以下に抑えるか、さらに望ましくはリムを形成しないように穴を開けて前記凹部を形成させないことが重要であること。
上記の知見に基づき、本発明者は、材質設計上有利な湿式圧延において頻発するジャンピングを防いで、安定した圧下率の制御を可能とすることにより、単一成分系鋼帯から様々な調質度の鋼板、特に製缶性に優れる方向性の無い缶用素材鋼板を造り分けるとともに、缶用素材鋼板に要求される優れた表面性状や表面光沢の均一性をも同時に満足することのできる湿式の調質圧延方法およびこれを可能とする圧延用ロール、ならびに上記特性に優れる缶用素材鋼板に想到した。その要旨とするところは以下の通りである。
(1)ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mmである圧延用ロールを用いて、湿式圧延を行うことを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延方法。
(2)ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm 、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下である圧延用ロールを用いて、湿式圧延を行うことを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延方法。
(3)1.5〜10%の圧下率で湿式圧延を行うことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の缶用素材鋼板の調質圧延方法。
(4)質量%で、
C :0.1%以下、
Si :0.05%以下、
Mn :0.05〜0.4%、
solAl:0.01〜0.1%、
N :0.002〜0.01%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、
ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm ある圧延用ロール、またはロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm 、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下である圧延用ロールを用いて、湿式圧延を行うことを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延方法。
(5)前記湿式圧延の次に、表面粗度が1.0μmRa以下のブライトロールを用いて圧延を行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の缶用素材鋼板の調質圧延方法。
(6)ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下であることを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延用ロール。
(7)ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm、穴の面積率が5〜40%、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下、ロール表面の穴の直径を基準に穴の深さ方向の直径の変化量が30%以下の部分をロール表面から3μm以上有することを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延用ロール。
(8)突起の表面が平滑で、円形の直径が30〜120μm、周囲長の総長密度が5〜15mm/mm、鋼板表面からの高さが1μm以下である凸状円形突起を鋼板表面に有することを特徴とする缶用素材鋼板。
(9)突起の表面が平滑で、円形の直径が30〜120μm、周囲長の総長密度が5〜15mm/mm、鋼板表面からの高さが1μm以下である凸状円形突起を鋼板表面に有し、当該凸状円形突起の周りに鋼板表面からの深さが1μm以下である凹みを有することを特徴とする缶用素材鋼板。
(10)圧延平行方向と圧延直角方向との機械的性質の差が、降伏点で15MPa以下、伸びが5%以下であることを特徴とする前記(8)または(9)に記載の缶用素材鋼板。
(11)質量%で、
C :0.1%以下、
Si :0.05%以下、
Mn :0.05〜0.4%、
solAl:0.01〜0.1%、
N :0.002〜0.01%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする前記(10)に記載の缶用素材鋼板。
(12)T3〜DR8のいずれかの調質度を有することを特徴とする前記(11)に記載の缶用素材鋼板。
(A)本発明によれば、従来技術で頻発したジャンピングが生じることなく安定して湿式圧延することができるので、焼鈍工程まで単一成分系鋼帯で製造し、その後の調質圧延工程において圧下率を制御することにより、様々な調質度の缶用素材鋼板を安定して造り分けることが容易となる。具体的には、図1(a)および(b)に示すように、従来方法では様々な鋼成分や焼鈍条件を調整して硬度を確保していたT3〜T5が、本発明によればT3と同じ成分範囲、焼鈍条件で、調質圧延での圧下率のみを制御することにより、しかもジャンピングが生じることなく安定して製造することができる。また、従来方法ではDR8専用の鋼種(鋼成分)が用意されていたが、本発明によればジャンピングの生じ易い圧下領域においても当該鋼種を他の調質度、例えば、T5に適用することが可能である。これは表面処理鋼板用原板、特にぶりきやティンフリースチール(TFS)などの缶用素材鋼板の製造プロセス全体の簡素化ひいてはコスト削減や省エネルギー化に資するものであり、その環境に与える影響ならびに経済的効果は極めて大きい。
(B)また、従来のスクラッチロール(圧延方向に筋目の入ったロール)による圧延では、ロールバイトでの圧延方向と幅方向の摩擦係数の差があるが、本技術による穴空きロールでは摩擦係数の差が小さくなり、圧延方向と幅方向のメタルフロー差が小さくなるので、鋼板の圧延平行方向と圧延直角方向における降伏点や伸び等の機械的性質に差のない、いわゆる方向性に優れた缶用素材鋼板を安定して製造することができる。このため、加工時のブランク取りにおける変形や、製品原板を切り出す際に印刷パターンが変形等する問題を解決することができる。これは、様々な形状や意匠性に優れた形状を要求されるスチール缶の製缶性の向上に資するものであり、その製缶プロセスに与える影響ならびに経済的効果は極めて大きい。
(C)さらに、従来技術によってジャンピングを防止しようとすると、潤滑剤残りによる潤滑むらやNo.2スタンドでの異常延びが発生しやすいという弊害を生じたが、本発明によれば前記弊害を生じることなく、美麗な表面性状を満足する缶用素材鋼板を安定して製造することができる。これは、製缶メーカのみならず、エンドユーザを含む社会的ニーズに適合するものであり、その社会的影響は極めて大きい。
以下、図1〜図4を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。図1(a)は本発明のロール適用前の缶用素材鋼板における圧下率と調質度の関係を示す図、図1(b)は本発明のロール適用後の缶用素材鋼板における圧下率と調質度の関係を示す図、図2は本発明の圧延ロール1の表面を模式的に示す図、図3(a)は従来のロール表面に設けた穴を示す断面図、図3(b)は本発明のロール表面に設けた穴を示す断面図、図4(a)は従来のロールを用いた場合の鋼板表面を示す断面図、図4(b)は本発明のロールを用いた場合の鋼板表面を示す断面図である。
本発明の課題のひとつは、材質設計上有利な湿式圧延において頻発するジャンピングを防いで安定した圧下率の制御を可能とすることにより、単一成分系鋼帯から様々な調質度の鋼板、特に製缶性に優れる方向性の無い缶用素材鋼板を安定して造り分けることのできる湿式の調質圧延方法、およびこれを可能とする圧延用ロールを提供することである。
ジャンピング現象とは、降伏伸びに関連する現象であり、圧下率が増加すると降伏点が減少する領域で発生する。この領域では、或る圧延荷重を加えると、材料は降伏点が上昇して釣り合う点まで伸びようとするが、圧延機は伸び率を制御しようとして圧下荷重を下げる制御を行う。その結果、材料の伸びは減少するが、今度は、圧下荷重を下げたことで設定値に比べて伸びが小さいので、圧延機は圧下荷重を増やして伸びを確保しようとする。伸びを確保すると、圧下率が増加すると降伏点が減少する領域に再び入るので、材料は降伏点が上昇して釣り合う点まで再び伸びようとする。これを繰り返すのがジャンピング現象であり、実際には、圧下率が例えば2%程度狙いの場合に、伸び率が0〜8%程度変動することがある。それに伴い圧下荷重も±200トン程度変動して非常に不安定になる。また、圧下率が1.5〜6%の範囲で発生しやすく、湿式圧延の方が乾式圧延に比べ発生しやすい。
また、ジャンピングは、鋼板とロールとの摩擦力が変化してロール圧下力が鋼板に伝わる状況が微妙に変化すると発生しやすく、前記鋼板とロールとの摩擦力が変化する要因としては、潤滑剤を介してのロールと鋼板間のグリップ力、すなわち、ロールと鋼板がスリップしないために必要なロールの鋼板に対する拘束力の変化が主であり、潤滑剤の流入の変化が従である。
このうち、主要因たるロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制するためには、図2および図3(b)に示すようにロール1表面に一定の深さを有する穴2、例えば、円の直径3が30〜120μmである円形の穴を複数設ければ、当該変化を低減することができる。円の直径が30〜120μmであれば、圧延後の鋼板表面を観察しても穴の跡が見立つことはない。一方、30μm未満では圧延中に異物が穴に入って穴を潰すおそれがあり、120μm超では圧延後の鋼板表面に穴の跡が目立って表面性状を害するおそれがある。
なお、円とは、真円のみを意味するものではなく、楕円や長円、円の一部が欠けた円等をも含むものとする。
また、穴縁4の総長密度を調整することにより、前記主要因たるロール1と鋼板間のグリップ力の変化を低減できる摩擦係数を確保することができるが、当該穴縁4の総長密度としては5〜15mm/mmの範囲が望ましい。
穴縁4の総長密度が15mm/mmを超えるとロール1が磨耗しやすくなり、ロール1表面から金属粉が発生しやすくなり、これが巻き込み疵の原因となって鋼板品質を害するおそれがある。一方、5mm/mm未満では、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を低減できる摩擦係数を確保することが困難である。なお、穴縁4の総長密度とは、単位面積あたりの穴の縁部分の長さの和をいう。
さらに、前記穴2の形状については、図3(b)に示すようになるべく円筒形、すなわち、穴の深さ方向の断面積が均一となる形状とするのが望ましい。穴の深さ方向の断面積をなるべく均一化することにより、ロールが磨耗しても摩擦係数が変化せず、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制することができ、ジャンピング現象を防ぐことができる。
また、前記穴の形状を、深さ方向に均一な断面積を有する形状に加工することが困難である場合には、ロール表面から所定の深さにいたるまでの穴の直径の変化量が少なければ、摩擦係数の変化も抑制できることから、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制することができる。例えば、ロール表面の穴の直径を基準とした場合、この直径が穴の底部にいたるまで変化しないことが最も望ましいが、30%以下の変化量の範囲であれば、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を抑制することができる。また、ロール表面から少なくとも3μmまでの深さにおいては、当該変化量を30%以下とすることが望ましい。
なお、円筒形における円とは、真円のみを意味するものではなく、楕円や長円、円の一部が欠けた円等をも含むものとする。
次に、第二の要因たる潤滑剤の流入の変化を抑制するためには、潤滑剤の膜切れを防止することや鋼板とロールとの濡れ性を向上させることが効果的である。
前者については、穴の面積率7を5〜40%とし、かつ穴の深さ5を3μm以上とすれば、穴の中に積極的に潤滑剤が溜まり、ロールバイト内でもロールと鋼板間に連続的に潤滑剤が供給されるので、前記潤滑剤の膜切れを防止することができる。穴の面積率7が5%未満では膜切れが生じやすく、40%超では穴の中に溜まる潤滑剤が過剰となり、摩擦係数が低下し過ぎるおそれがある。また、穴の深さ5を3μm以上とすることにより、ロールが磨耗しても前記潤滑剤の膜切れの防止を維持することができる。
後者については、ロールバイト入り側でロールの穴に対する鋼板の表面部分は微視的には圧延されないで穴の形状たる凸状になるために、潤滑剤と鋼板との接触角が幾何学上小さくなるので、前記濡れ性を改善することができる。
なお、穴の加工方法によっては図3(a)に示すように穴の周囲に盛り上がり(リム)が形成される場合があるが、リムが存在すると圧延時に潤滑剤と鋼板との接触角が幾何学上大きくなり、前記濡れ性を改善することが困難となる。このため、リムを形成しないように穴を加工することが望ましい。
ただし、穴の加工に際してリムが形成されてしまう場合には、穴の周囲の盛り上がり部の高さ(リム高さ)が1μm以下ならば、前記濡れ性への影響が比較的小さい。
ロール1の加工方法、すなわちロール表面に穴を開ける方法としては、パルスレーザーを用いて1つずつ穴を開けるパルスレーザー法、エネルギー密度の高い電子ビームを用いて1つずつ穴を開ける電子ビーム法、ロール表面と電極の間でスパークを発生させることでロール表面を溶融させ、同時に発生するガスの圧力によって溶融部を吹き飛ばす放電ダル加工法、ロール表面に穴のマークを書いた感光膜を張って光で感光させた後に穴のマーク部のみをエッチングするフォトエッチング法等がある。
パルスレーザー法は、ロールの表面から3μm以上の深さにおいても、穴の直径の変化量を30%以下に抑えることができる、すなわち、ロール磨耗による摩擦係数の変化を抑制することができるので、穴の形状が半球状に近いフォトエッチング法に比べて有利である。
しかし、レーザー強度が高く、かつ単発照射により穴を開けようとすると図3(a)に示すように穴の周囲にリムが形成され、リム高さが1μmを超えてしまうので、レーザー強度や照射時間を適度に設定して穴を形成するのが望ましい。例えば、パルスレーザーの単発照射に必要な1パルス分のパルス幅を複数個に分割すれば、単発照射を複数回の照射にすることができるので、図3(b)に示すようにリムの形成ないしは穴の周囲の盛り上がり部の高さを低減することができる。なお、電子ビーム法や放電ダル加工法を使用する場合についても同様である。
なお、フォトエッチング法は、前記リムの形成ないしはリム高さを低減することができるので、この点においてはパルスレーザー法に比べて有利である。
本発明が解決すべきもうひとつの課題は、潤滑むらやNo.2スタンドでの異常延び等を防いで、缶用素材鋼板に要求される優れた表面性状や表面光沢の均一性を満足することのできる湿式の調質圧延方法、およびこれを可能とする圧延用ロールを提供することである。
潤滑むらとは、ダルロールを用いて湿式圧延を行った後にブライトロールで圧延を行うと、ダルロールで鋼板に転写された凹部に潤滑剤がまばらに残り、これにより光沢むらが生じる現象であり、ジャンピングと同様に、美麗な表面性状が要求される缶用素材鋼板にとっては致命的な問題のひとつである。
この潤滑剤は、通常は、調質圧延機の最初のロールと2番目のロールの間に有るリンガーロールで除去されるが、ブライトロールの粗度が大きい場合には完全に除去するのが難しい。特に、ショットブラストを用いて加工したダルロールを用いてジャンピングを防止しようとするとロール粗度を大きくする必要が有るため、潤滑むらあるいはNo.2スタンドでの異常延びが発生しやすい。
なお、調質圧延機にはシングルスタンド、2スタンド等があるが2スタンドが主流であり、さらに2スタンド以上有する調質圧延機も存在する。ここでいうNo.2スタンドとは、2スタンド以上有する調質圧延機の場合には調質圧延機の第2スタンドを意味し、または潤滑剤が残存する場合にはシングルスタンド調質圧延機の2回目の圧延時のスタンドをも意味する。
潤滑むらおよびNo.2スタンドでの異常延びを防止して表面光沢を均一化するためには、幅方向の潤滑均一性を確保する必要がある。
そして、幅方向の潤滑均一性を確保するためには、最初のロールに形成された穴の周囲の盛り上がり(リム)が鋼板に転写されて生じる凹部13に潤滑剤が残らないようにすればよいため、図4(a)に示す凹部13の深さを1μm以下に抑えるか、さらに望ましくはリムを形成しないように穴を加工して前記凹部13を形成させないことが重要である。
換言すれば、最初のロールに形成される穴の周囲の盛り上がり部の高さ(リム高さ)6を1μm以下にすることが必要である。穴の周囲の盛り上がり部の高さ(リム高さ)6を1μm以下に抑えるか、当該リムを形成しないようにすれば、鋼板表面上の凹部13の形成を低減することができる。
本発明で用いる鋼帯としては、C:0.1%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.05〜0.4%、solAl:0.01〜0.1%、N:0.002〜0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる低炭素アルミキルド鋼またはキャップド鋼を用いるのが望ましい。
以下に、それぞれの成分範囲を限定した理由について述べる。なお、各成分の含有量は質量%表示である。
C : Cは、多くなると硬くなりすぎるので、その上限を0.1%に限定した。
Si: Siは、JISG 3303のMR型のぶりきについては0.01%以下と規定されているが、連続焼鈍で軟質のぶりき及びTFS用原板を製造する際にはSiの多い方が好ましいので、その上限を0.05%とした。
Mn: Mnは、不可避的不純物のSが誘発する熱間脆性を防止する有効な成分であるから0.05%以上含有させる。また、過剰の含有は硬質化の原因となるので、その上限を0.4%にした。
solAl: solAlは、連続焼鈍低炭素アルミキルド鋼の硬さを低下させ、表面処理後の硬質化も低減する有効な成分であり0.01%以上含有させることが必要である。しかし、あまり多量に添加すると硬くなりすぎるので、その上限を0.1%とする。
N : Nは、熱延条件に関連して適当量のAlNとして析出し、これがC析出の核となり、固溶Cの低減を促進し鋼を軟質化する有効な成分である。しかし、Nが0.002%未満では熱延後析出するAlNが少なく、その効果を消失し、また、0.01%を超える過剰の含有は多量のAlNを析出し、かえって硬質化の原因となるので、その上限を0.01%とした。なお、低炭素リムドおよびキャップド鋼では、軟質化と調質圧延後の硬質化を軽減するために0.003%以下に抑えるのが望ましい。
次に、本発明の実施例1について説明するが、本実施例の条件は、本発明の実施可能性および顕著な効果を立証するために採用した一条件であり、本発明は、この一条件に限定されるものではない。
実施例1の条件を表1と表2に示す。表1は本実施例1で使用した鋼成分条件を示すものであり、全5種類の焼鈍後の低炭素アルミキルド鋼(板厚200μm、板幅1058mm)に対して、表2に示すレーザー加工を施したロールを最初のロール、次のロールに表面粗度が0.2〜1.0μmのブライトロールを使用して湿式の調質圧延を実施した。そして、当該条件により得られた鋼板の表面性状を表3に示す。
なお、圧下率は表2に示す通りであり、圧延速度は400mpmとした。また、潤滑剤はパーム油ベースの潤滑剤を使用している。
また、比較例は、穴の直径3、穴縁4の総長密度、穴の深さ5、穴の周囲の盛り上がり部の高さ6、穴の面積率7が本発明範囲から外れ、それ以外は前記した本発明例と同一条件である。
なお、表2に示す平均ピッチPとは、図2の場合はP=√(P×P)、穴の分布がランダムのときはP=√N×1000を言い、Pはロールの周方向のピッチ、Pはロールの軸方向のピッチ、Nは個数[個/mm]を意味する。また、穴縁4の長さは、穴の直径3から計算している。
Figure 0004309834
Figure 0004309834
Figure 0004309834
まず、比較例については、ロール表面に設けた穴の直径3が本発明範囲より下方に外れる比較例1については、ロール穴への異物の詰まりが確認され、これが起因となり鋼板表面には押し込み疵が発生した。
反対に、穴の直径3が本発明範囲より上方に外れる比較例2については、鋼板表面への圧延痕が目立ち、缶用素材鋼板に要求される美麗性を満たさなかった。また、比較例2は、穴の面積率7も本発明範囲より上方に外れることから、潤滑剤過剰に伴う摩擦係数の低下からジャンピング現象が発生した。
また、穴縁4の総長密度が本発明範囲より下方に外れる比較例3については、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を低減できる摩擦係数を確保できずジャンピングが発生して、スリップ疵が発生した。
反対に、穴縁4の総長密度が本発明範囲より上方に外れる比較例4については、ロールと鋼板間の摩擦係数が過大になり、ロール表面から金属粉が発生し、最終的には巻き込み疵が発生した。
穴の面積率7が本発明範囲より下方に外れる比較例5については、潤滑剤の膜切れが確認された。また、ジャンピングが発生してスリップ疵が発生し、鋼板表面にはチャターマークも確認された。
穴の周囲の盛り上がり部の高さ(リム高さ)6が本発明範囲より上方に外れる比較例6については、潤滑剤の膜切れに起因する潤滑むらが発生した。
穴の深さ5が本発明範囲より下方に外れる比較例7については、ロールと鋼板間のグリップ力の変化を低減できる摩擦係数を確保できずジャンピングが発生して、スリップ疵が発生した。
一方、本発明の実施例である発明例1〜5で得られた缶用素材鋼板8には、図4(b)に図示するように、表2に記載した穴の直径に相当する直径を有する円形状の痕跡(表面が平滑な凸状円形の突起9)を400倍程度の顕微鏡を用いて観察できた。例えば、発明例1で得られた鋼板8には、円形の直径が60μmである凸状円形突起9を、発明例2で得られた鋼板8には、円形の直径が45μmである凸状円形突起9を確認できた。
また、その凸状円形突起の周囲長11の総長密度を凸状円形突起の円形の直径10の計測値から計算すると、表2に記載した穴縁の総長密度に相当する値を確認できた。例えば、発明例1で得られた鋼板8における凸状円形突起9の周囲長11の総長密度は12mm/mm、発明例2で得られた鋼板8における凸状円形突起9の周囲長11の総長密度は10mm/mmであった。
さらに、これらの凸状円形突起の高さ12は、いずれも1μm以下であった。
すなわち、鋼板表面に、表面が平滑な凸状円形の突起9を有し、その凸状円形突起の円形の直径10が30〜120μm、凸状円形突起の周囲長11の総長密度が5〜15mm/mm、凸状円形突起の高さ12が1μm以下で有る缶用素材鋼板8を得ることができた。
以上の結果は、いずれも圧延時に本発明の課題のひとつであるジャンピング現象が発生しなかったことを示すものである。
また、鋼板の表面性状についても、表1に示す鋼成分1〜5のすべての条件において、潤滑むらやNo.2スタンドでの異常延び等が発生することなく、缶用素材鋼板に要求される美麗性および表面光沢の均一性を十分満足するものであることを確認できた。
なお、凸状円形突起9の周りには、リムが鋼板に転写されて生じる凹部13が確認されたが、図4(a)に示す従来品とは対比できない程の極めて僅かな深さ(1μm以下)であり、鋼板の表面性状に影響を与えるものではなかった。また、凸状円形突起9が圧延されることにより前記凹部13が形成される場合もあるが、この場合も0.1〜0.2μm程度の極めて僅かな深さであり、鋼板の表面性状に影響を与えるものではないことを確認している。
さらに、硬度については、例えば、表1の成分1を含有する低炭素アルミキルド鋼を使用した場合については、圧下率が1.5%である発明例3についてはT3、圧下率が2.5〜4%である発明例1、2および4についてはT4、圧下率が5%である発明例5についてはT5相当の硬度であることを確認できた。すなわち、表1に示す単一成分系鋼帯(低炭素アルミキルド鋼)から圧下率を制御することにより、複数の硬度(T3〜T5)を有する缶用素材鋼板8を造り分けることができた。
また、表1の成分3を含有する低炭素アルミキルド鋼を使用した場合については、圧下率が2.5〜5%である発明例1、2、4および5についてはT5、圧下率が7.5〜10%においてはDR8相当の硬度であることを確認できた。
なお、上記結果(圧下率と調質度の関係)をプロットしたものを図1(b)に示すが、当該図および図1(a)における鋼種1は表1の成分1を、鋼種2は成分3を意味する。また、図1(a)における鋼種3は表1の成分4を、鋼種4は成分5を意味する。
以上の結果から、本発明によれば、従来技術で頻発したジャンピングが生じることなく安定して湿式圧延することができるので、焼鈍工程まで単一成分系鋼帯で製造し、その後の調質圧延工程において圧下率を制御することにより、様々な調質度の缶用素材鋼板を安定して造り分けることができることを確認できた。これは表面処理鋼板用原板、特にぶりきやティンフリースチール(TFS)などの缶用素材鋼板の製造プロセス全体の簡素化ひいてはコスト削減や省エネルギー化に資するものであり、その環境に与える影響ならびに経済的効果は極めて大きい。
また、従来技術によってジャンピングを防止しようとすると、潤滑剤残りによる潤滑むらやNo.2スタンドでの異常延びが発生しやすいという弊害を生じたが、本発明によれば前記弊害を生じることなく、美麗な表面性状を満足する缶用素材鋼板を安定して製造することができることを確認できた。これは、製缶メーカのみならず、エンドユーザを含む社会的ニーズに適合するものであり、その社会的影響は極めて大きい。
次に、本発明者は、鋼板における圧延平行方向と圧延直角方向との機械的性質の差、いわゆる、鋼板の方向性の改善効果を確認するための試験を実施した。
表4に確認試験の条件を示すが、具体的には表1に示した成分の低炭素アルミキルド鋼(成分1〜3)に対し、実施例1の発明例1で用いた圧延ロールを使用して、圧下率が1.5〜8.5%の範囲(1.5〜6%はジャンピングの発生しやすい領域)で湿式の調質圧延を実施し、その結果得られる缶用素材鋼板の鋼種(硬度)、降伏点(YP)および伸び(EL)を測定した。その結果も表4に示す。
なお、比較例は、従来のショットブラストを用いた圧延ロールを使用して圧下率1.2〜1.4%の範囲で乾式圧延を行った場合について示すものであるが、この結果からも圧延平行方向と圧延直角方向とでは機械的性質に差が生じていることを確認することができる。例えば、比較例の中で比較的方向性の少ない比較例8においても、降伏点(YP)で16MPa、伸び(EL)においては3.2%の差が生じている。
Figure 0004309834
これに対し、実施例1の発明例1で用いた圧延ロールを使用して、湿式の調質圧延を実施した本発明例6〜13においては、降伏点(YP)の差で0.0〜14.6MPa、伸び(EL)の差においては0.8〜5.0%の範囲内に収まっており、方向性の問題が改善されたことを確認できた。なお、図5(a)〜(c)にYP(L)−YP(C)相関図を示すが、(a)は発明例6、10、比較例8の各20サンプルを、(b)は発明例7、11、比較例9の各20サンプルを、(c)は発明例8、12、比較例10の各20サンプルをプロットしたものである。また、図6(a)〜(c)に時効EL(L)−EL(C)相関図を示すが、(a)は発明例8、13、比較例10の各20サンプルを、(b)は発明例7、10、11、12の各20サンプルを、(c)は発明例6、9、比較例8、9の各20サンプルをプロットしたものである。
なお、特開平8−311609では、焼きなまし処理をする為に均熱加熱後で焼きなまし処理前の冷却速度を60℃/s以上としている。この方法はDI缶では特に有効であるが、汎用の缶用鋼板の場合には、焼きなまし処理は特に意識しないで均熱加熱後の冷却速度を通常20℃/s〜50℃/sにしている。また、特開平8−311609ではYP差が2kgf/mm以下(19.6MPa以下)であるが、本発明では、15MPa以下である。この理由は、ロール表面の穴により、鋼板が長手方向と幅方向に拘束されて、鋼板の変形が長手方向と幅方向で均一化された可能性が有る。
以上の結果から、本発明によれば、鋼板の圧延平行方向と圧延直角方向における降伏点や伸び等の機械的性質に差のない、いわゆる方向性に優れた缶用素材鋼板を安定して製造できることを確認できた。これは、加工時のブランク取りにおける変形や、製品原板を切り出す際に印刷パターンが変形等する問題を解決するものであり、様々な形状や意匠性に優れた形状を要求されるスチール缶の製缶性の向上に資して、その製缶プロセスに与える影響ならびに経済的効果は極めて大きい。
缶用素材鋼板における圧下率と調質度の関係を示す図であり、(a)は本発明のロール適用前(従来技術)、(b)は本発明のロール適用後の圧下率と調質度の関係を示す図である。 本発明の圧延ロールの表面を模式的に示す図である。 (a)は従来のロール表面に設けた穴を示す断面図、(b)は本発明のロール表面に設けた穴を示す断面図である。 (a)は従来のロールを用いた場合の鋼板表面を示す断面図、(b)は本発明のロールを用いた場合の鋼板表面を示す断面図である。 YP(L)−YP(C)相関図である。 EL(L)−EL(C)相関図である。
符号の説明
1 圧延用ロール
2 穴
3 穴の直径
4 穴の縁
5 穴の深さ
6 穴の周囲の盛り上がり部の高さ(リム高さ)
7 穴の面積率
8 缶用素材鋼板
9 表面が平滑な凸状円形突起
10 凸状円形突起の直径
11 凸状円形突起の周囲長
12 凸状円形突起の高さ
13 凹部

Claims (12)

  1. ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mmである圧延用ロールを用いて、湿式圧延を行うことを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延方法。
  2. ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm 、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下である圧延用ロールを用いて、湿式圧延を行うことを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延方法。
  3. 1.5〜10%の圧下率で湿式圧延を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の缶用素材鋼板の調質圧延方法。
  4. 質量%で、
    C :0.1%以下、
    Si :0.05%以下、
    Mn :0.05〜0.4%、
    solAl:0.01〜0.1%、
    N :0.002〜0.01%を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、
    ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm ある圧延用ロール、またはロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm 、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下である圧延用ロールを用いて、湿式圧延を行うことを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延方法。
  5. 前記湿式圧延の次に、表面粗度が1.0μmRa以下のブライトロールを用いて圧延を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の缶用素材鋼板の調質圧延方法。
  6. ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下であることを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延用ロール。
  7. ロール表面に直径が30〜120μmである円形の穴を複数有し、当該穴縁の総長密度が5〜15mm/mm、穴の面積率が5〜40%、穴の周囲の盛り上がり部の高さが1μm以下、ロール表面の穴の直径を基準に穴の深さ方向の直径の変化量が30%以下の部分をロール表面から3μm以上有することを特徴とする缶用素材鋼板の調質圧延用ロール。
  8. 突起の表面が平滑で、円形の直径が30〜120μm、周囲長の総長密度が5〜15mm/mm、鋼板表面からの高さが1μm以下である凸状円形突起を鋼板表面に有することを特徴とする缶用素材鋼板。
  9. 突起の表面が平滑で、円形の直径が30〜120μm、周囲長の総長密度が5〜15mm/mm、鋼板表面からの高さが1μm以下である凸状円形突起を鋼板表面に有し、当該凸状円形突起の周りに鋼板表面からの深さが1μm以下である凹みを有することを特徴とする缶用素材鋼板。
  10. 圧延平行方向と圧延直角方向との機械的性質の差が、降伏点で15MPa以下、伸びが5%以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の缶用素材鋼板。
  11. 質量%で、
    C :0.1%以下、
    Si :0.05%以下、
    Mn :0.05〜0.4%、
    solAl:0.01〜0.1%、
    N :0.002〜0.01%を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項10に記載の缶用素材鋼板。
  12. T3〜DR8のいずれかの調質度を有することを特徴とする請求項11に記載の缶用素材鋼板。
JP2004366425A 2004-12-17 2004-12-17 調質圧延方法 Active JP4309834B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2004366425A JP4309834B2 (ja) 2004-12-17 2004-12-17 調質圧延方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2004366425A JP4309834B2 (ja) 2004-12-17 2004-12-17 調質圧延方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2006167781A JP2006167781A (ja) 2006-06-29
JP4309834B2 true JP4309834B2 (ja) 2009-08-05

Family

ID=36669074

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2004366425A Active JP4309834B2 (ja) 2004-12-17 2004-12-17 調質圧延方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4309834B2 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5135553B2 (ja) * 2009-06-11 2013-02-06 新日鐵住金株式会社 長寿命冷延ロール
WO2013179356A1 (ja) * 2012-05-31 2013-12-05 日鉄ハード株式会社 食品加工用ロールおよび食品加工用ロールの製造方法
JP6354072B2 (ja) * 2015-08-26 2018-07-11 Jfeスチール株式会社 調質圧延方法およびこれを用いた鋼板の製造方法
JP7120576B2 (ja) * 2019-03-13 2022-08-17 国立大学法人信州大学 金属表面の濡れ性の制御方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2006167781A (ja) 2006-06-29

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4407081B2 (ja) 缶用極薄鋼板
JP5453884B2 (ja) 高強度容器用鋼板およびその製造方法
JP2010043349A (ja) 高強度容器用鋼板およびその製造方法
JP2008238268A (ja) 耐型かじり性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法
CN111957752B (zh) 消除热轧低碳软钢表面的亮带及附加浪形缺陷的生产方法
WO2015166653A1 (ja) 高強度容器用鋼板及びその製造方法
JP5018843B2 (ja) 高加工性3ピース溶接缶用鋼板およびその製造方法
JP4309834B2 (ja) 調質圧延方法
JP4980119B2 (ja) 調質圧延時の圧延安定性を高めた鋼板の冷間圧延方法、冷間圧延設備、及びその方法に使用する冷延鋼板
JP4414873B2 (ja) 缶用素材鋼板とその冷間圧延方法および冷間圧延用ロール
CN115672980A (zh) 一种不锈钢极薄带的制备工艺
JP6680426B1 (ja) 圧延用ワークロールおよびこれを備えた圧延機ならびに圧延方法
JP6421773B2 (ja) 缶用鋼板およびその製造方法
JP4280231B2 (ja) 缶用素材鋼板及びその調質圧延方法
CN112974530A (zh) 一种耐高温高电阻窄幅超薄精密不锈钢箔轧制方法
JP4452248B2 (ja) 圧延ロール,湿式調質圧延方法,鋼帯,及び錫めっき鋼板
JP6673525B2 (ja) 鋼板およびその製造方法、ならびに二次冷間圧延機
TWI729852B (zh) 罐用鋼板及其製造方法
JP3750214B2 (ja) プレス破断の発生しがたい成形性に優れた極薄缶用鋼板およびその製造方法
JP2010007138A (ja) 耳発生の小さい深絞り用鋼板および製造方法
JP2005291224A (ja) 耐摩耗性に優れたロール
JPH0999304A (ja) リジング特性の良好なフェライト系ステンレス鋼板の製造方法
CN115555405A (zh) 一种软质带钢及其制备方法
JPH01306527A (ja) 異方性の小さい硬質薄鋼板の製造方法
JP2015004095A (ja) 缶ボディ用アルミニウム合金板及びその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20060906

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20080722

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20080826

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20081022

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20090428

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20090508

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 4309834

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120515

Year of fee payment: 3

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130515

Year of fee payment: 4

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130515

Year of fee payment: 4

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130515

Year of fee payment: 4

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130515

Year of fee payment: 4

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130515

Year of fee payment: 4

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140515

Year of fee payment: 5

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350