JP4287582B2 - Min6細胞下位株 - Google Patents

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【0001】
本発明は、インスリン分泌細胞株であるMIN6の、長期間の継代培養に耐えて機能を維持する新たな下位株に関し、更に詳しくはグルコース応答性の良好なMIN6m9細胞株に関する。
【0002】
【発明の属する技術分野】
膵β細胞におけるグルコース誘導性のインスリン分泌の障害は、2型糖尿病の発生における重要な一要因であることが知られている。2型糖尿病は、膵β細胞からのインスリン分泌の障害及び標的組織におけるインスリンの作用の障害の両方によって特徴づけられる多機能障害であるが、何れの欠陥が主たるものであるのかは決定されていない。しかしながら、欠陥のあるβ細胞機能自身が2型糖尿病の発病に重要であることを示唆する証拠が蓄積されてきた。
【0003】
例えば、2型糖尿病の幾つかのサブタイプは、インスリン機能に関与する遺伝子とは別の、β細胞で発現される遺伝子の突然変異によって引き起こされることが見出されている。これらは、若者の成人発症型糖尿病の幾つかのサブタイプ(MODY1〜5)を含んでいる。MODY1,2,3,4,及び5は、それぞれ、肝細胞核因子(HNF)4α、グルコキナーゼ(GK)、HNF1α、インスリンプロモーター因子1(IPF−1)、及びHNF1βにおける突然変異によって引き起こされ、それらは何れもインスリンの合成及び分泌並びにβ細胞の発生を含む、膵β細胞機能に関係している。
【0004】
加えて、母体から伝えられるミトコンドリア遺伝子の突然変異が、おそらくATP産生の欠陥のために、インスリン分泌障害による糖尿病を引き起こすと考えられている。インスリン分泌は、血液中のグルコース濃度の制御に決定的であるから、インスリン合成及び/又はインスリン分泌に関与している膵β細胞における遺伝子発現の変化によるグルコース誘導性のインスリン分泌の障害は、2型糖尿病の発症に十分寄与し得る。
【0005】
グルコース誘導性のインスリン分泌の障害に関与する遺伝子を同定するための一つの方法は、正常被験者のβ細胞における遺伝子発現を、グルコース誘導性のインスリン分泌の障害を有する2型糖尿病患者のそれらと比較することであるが、しかしこれは現実的でない。なぜならば、ヒト被験者からの膵島は得るのが困難だからである。別のアプローチは、例えば正常のインスリン応答を示す細胞株と障害された応答を示す細胞株のような、異なったインスリン分泌プロフィールを示す2つの異なった細胞株の間で、遺伝子の発現を比較することである。
【0006】
MIN6細胞株は、グルコースその他の分泌促進物質に対するインスリン分泌応答を維持している数少ないβ細胞株の一つであり(Miyazaki J et al., Endocrinology 127:126-132(1990), Ishihara H et al., Diabetologia 36:1139-1145(1993))、インスリン分泌の機構の研究において繁用されている。しかしながら、実験中において、継代していくうちにMIN6からのグルコース誘導性のインスリン分泌が突然失われる例がこれまでしばしば認められており、それはグルコース応答性の乏しい細胞の過剰増殖か又はグルコース誘導性のインスリン分泌を担う遺伝子発現低下による可能性がある。従って、グルコースに対し異なったインスリン分泌応答を示すMIN6細胞のサブクローニングは、それらの間での遺伝子の発現の比較とグルコースに対するインスリン分泌応答の障害に関係する遺伝子の同定とを可能にするであろう。また、そのようなMIN6細胞下位株は、2型糖尿病の治療薬の開発に有力な手段を提供することになる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような背景の下で、本発明は、繰り返しの継代培養に耐えて当初の機能を一貫して維持することのできるインスリン分泌細胞株を提供することを目的とし、特に、そのような安定な細胞株であってグルコース応答性の良好な株を含有しない細胞株を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明等は、インスリン分泌β細胞株であるMIN6細胞から上記の目的にかなう下位株を樹立することを試みた。その結果、限界希釈法を用いたMIN6からの単一細胞を起源とするコロニー培養と、グルコース誘導性インスリン分泌を指標とするこれらのコロニーのスクリーニングとを組み合わせることによって、グルコース誘導性のインスリン分泌特性において明瞭に異なり、且つ度重なる継代培養を経ても機能的特性が維持されるという特徴を備えた、2つの下位株(「MIN6m9」及び「MIN6m14」と命名。それぞれ、「m9」及び「m14」と略す)を樹立することに成功した。
【0009】
すなわち本発明は、先ず、MIN6細胞株を限界希釈し培養して得ることのできるモノクローナル細胞株であって、所定濃度のグルコース及び0.5%の牛血清アルブミン含有のpH7.4のHEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液中で37℃にて2時間インキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大し、グルコース濃度5mMではインスリン分泌量が4±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25mMではインスリン分泌量が25±5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にあることを特徴とする細胞株(m9)を提供する。
【0010】
本発明のm9細胞株は、モノクローナル細胞株であって、所定濃度のグルコース及び0.5%の牛血清アルブミン含有のpH7.4のHEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液中で37℃にて2時間インキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大せず、グルコース濃度5mMではインスリン分泌量が6±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25 mMではインスリン分泌量が7.5±2.5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にあることを特徴とする細胞株(m14)は含んでいない。
【0011】
従って、本発明は、MIN6細胞株より誘導される下位株であって、所定濃度のグルコース及び0.5%の牛血清アルブミン含有のpH7.4のHEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液中で37℃にて2時間インキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大し、グルコース濃度5mMではインスリン分泌量が4±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25mMではインスリン分泌量が25±5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にあることを特徴とし、且つ、同一条件でインキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大せずグルコース濃度5mMではインスリン分泌量が6±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25 mMではインスリン分泌量が7.5±2.5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にある細胞を含有しないことを更に特徴とする細胞株をも提供する。
【0012】
上記の各細胞株の各々において、該HEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液の好ましい組成は、塩化ナトリウム119 mM、塩化カリウム4.74 mM、塩化カルシウム2.54 mM、塩化マグネシウム 1.19 mM、リン酸二水素カリウム 1.19 mM、炭酸水素ナトリウム 25 mM、及びHEPES 10 mMである。
【0013】
本発明のMIN6m9細胞株は、多数回の反復継代培養に耐えて優れたグルコース誘導性インスリン分泌機能を安定に維持できる。このため、m9細胞株は、2型糖尿病の治療薬の開発において、候補化合物のスクリーニングシステムとして、及びそれに基づく化合物設計のために、有利に利用することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
上記の通り、m9細胞は、グルコースに応答して濃度依存性にインスリン分泌を増大させ、その分泌特性は正常の膵島と同様であった。一方、m14細胞は、後述のように、グルコースに対し(及びα−ケトイソカプロン酸に対しても)弱い応答性しか示さなかったが、膜の脱分極後のインスリン分泌は正常を維持している。乳酸分泌及びグルコース消費は、m14細胞において促進されており、そしてm14細胞は、グルコースによって産生されるATPはカルボニルシアニドm−クロロフェニルヒドラゾン(ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化のアンカップラーである)によって影響を受けない。
【0015】
本発明のm9細胞について、グルコース応答性の低い細胞(m14)との対比でのmRNAディファレンシャルディスプレーにより、後述のように、顕著に異なったレベルで発現している10個の遺伝子が見出された。これらの遺伝子は、グルコース誘導性インスリン分泌の分子的基礎を明らかにするのに有用であると共に、2型糖尿病治療剤候補化合物の作用の評価及び分子設計において、m9細胞のグルコース誘導性インスリン分泌に与える各種化合物の影響を、それらの遺伝子の発現の変動と関連づけて評価することを可能にする。このことは、m9細胞を利用した2型糖尿病治療薬の開発を促進するものである。
以下、実施例により、本発明のMIN6m9細胞株の調製及びその生理学的特徴につき具体的に説明する。
【0016】
【実施例】
<MIN6細胞のサブクローニング>
MIN6細胞を、10%の熱不活性化胎仔牛血清、50μM の2−メルカプトエタノール、100 mg/lのストレプトマイシン及び60.5mg/lの硫酸ペニシリンを添加したダルベッコ改良イーグル培地(DMEM、25 mMのグルコース)中で、5%CO2/95%空気の湿潤した条件で37℃にて培養した。MIN6細胞からの細胞のサブクローニングは限界希釈法により行った。要するに、細胞を希釈し、単一の細胞から発した別個のコロニーを形成するようにペトリ皿中で培養した。各コロニーをとり、新たなペトリ皿中で更に培養してクローン細胞を得た。次いで細胞をグルコース誘導性インスリン分泌を指標としてスクリーニングした。基準は、3 mMグルコースによる場合との比較したとき、25mMグルコースによるインスリン分泌の有意な増加とした。
【0017】
(結果)
本発明者等は、MIN6細胞から総計42の細胞株をサブクローンした。これらのうち、グルコースに対する応答良好株及び応答不良株として、それぞれMIN6m9(工業技術院生命工学工業技術研究所:FERM P−18081)及びm14と本発明者等が命名した2つの細胞株を選択した。これら2つの細胞株の形態における唯一の相違は、m14細胞が概して丸く、一方m9細胞は幾分不規則な形状をしていることである(図1を参照)。細胞増殖率はm14よりm9の方が僅かに高かった。双方の細胞株とも、18回の継代培養で樹立され、以下の通りその機能的特性が確認された。
【0018】
<インスリン分泌の測定>
細胞を播種し(1×105個/ウェル、48ウェルプレート)、DMEM中で2日間予備培養した。実験当日に、細胞を、0.5%の牛血清アルブミン(BSA)を含有するHEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液(KRH:119 mMの塩化ナトリウム、4.74 mMの塩化カリウム、2.54 mMの塩化カルシウム、1.19 mMの塩化マグネシウム、1.19 mMのリン酸二水素カリウム、25 mMの炭酸水素ナトリウム、及び10 mMのHEPES、pH7.4)(BSA−KRH)で一回洗浄した。同じ緩衝液中で細胞を5 mMのグルコースと共に30分間予備インキュベートした。BSA-KRHで2回洗浄の後、細胞をBSA-KRH中で種々濃度のグルコース及び/又はα−ケトイソカプロン酸塩(KIC)(解糖系を迂回する非グルコースのインスリン分泌促進剤)と共に2時間インキュベートした。次いで培地の一部をとり、エンザイムイムノアッセイ(EIA)キット(三井製薬工業)による免疫反応性のインスリンの測定のためにBSA-KRHで適度に希釈した。氷冷KRHで細胞を3回洗浄し、タンパク質アッセイ試薬(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いた細胞タンパク質量の定量のために、200μlの1N水酸化ナトリウムを加えた。分泌されたインスリン量は、細胞数やDNA含量ではなく細胞タンパク質量によって標準化した。m9及びm14細胞のタンパク質含量は実際上等価だからである〔m9については0.21±0.029タンパク質/106細胞、m14については0.20±0.010 mgタンパク質/106細胞(平均±平均偏差)〕。細胞インスリンは、酸性エタノールの添加により抽出し(Ishihara H et al., Diabetologia 36: 1139-1145 (1993) を参照)、その量はEIAにより定量した。また、2.8mMのグルコース存在下において、30mM塩化カリウム及び250μMジアゾキシドの添加により、細胞の脱分極を誘導し、インスリン分泌量を同様に測定した。
【0019】
(結果)
m9細胞からのインスリン分泌はグルコースによって濃度依存的に促進され(図2)、これは元のMIN6細胞からのインスリン分泌と同等であった。m9細胞はまた、α−ケトイソカプロン酸によっても濃度依存的にインスリンを分泌した(図3)。更には、正常な膵島と同様に、グリベンクラミド及びアセチルコリンの刺激効果もm9細胞には認められた(データは示さず)。これとは対照的に、m14細胞からのインスリン分泌は、グルコース(図2)とKIC(図3)の何れを増加しても応答は乏しく、その一方で低グルコース領域(1〜5 mM)でのm14細胞からのインスリン分泌は、m9細胞からのそれより高かった(図2)。2.8mMのグルコース、30 mMの塩化カリウム及び250μMのジアゾキシドの存在下では、しかしながら、m14細胞はm9細胞とほぼ同じ量のインスリンを分泌した(図4:平均±平均偏差(n=4))。図5は、m9細胞及びm14細胞におけるグルコース誘導性のインスリン分泌に対する3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX:cAMPホスホジエステラーゼ阻害剤である)の効果を示す。グルコース誘導性インスリン分泌は、100μM IBMXにより両細胞株において同様(IBMX不存在下のそれに比し2〜3倍増大)に増強された。更には、フォルスコリン(アデニレートサイクラーゼのアクティベーターである)及び8−Br−cAMP(膜透過性のcAMP類縁体である)も、IBMXと同様の効果を示した(データは示さず)。両細胞におけるこれらのインスリン分泌の特性は、少なくとも40回の継代を経ても維持された(データは示さず)。m14細胞の細胞内インスリン含量は、m9細胞のそれの半分であった(m14では41.1±5.47。対してm9では81.9±12.9 mU/mgタンパク質;n=8〜9;p<0.01)。
【0020】
<培地中のグルコース及び乳酸の測定>
グルコースはその代謝物によってインスリン分泌を促進するものであることから、本発明者等は、以下のように両細胞株の代謝上の特徴を調べた。
48ウェルのプレート中で細胞を1×105個/ウェルの密度で培養した。培養1、3及び5日後、培地の一部をとり0.3 mol/lの過塩素酸の添加により除蛋白した。得られた遠心上清につき、キット(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いて乳酸とグルコースのアッセイを行った。
【0021】
(結果)
図6は、各細胞培地中の乳酸及びグルコースの濃度の変化を示している。m14細胞によるグルコース消費はm9細胞に比して遥かに高いが(図6、右)、m14から培地中へ放出された乳酸は、m9細胞からのそれより有意に高かった(図6、左)(平均±平均偏差(n=6))。
【0022】
<細胞ATP含量、及び呼吸鎖によるATP合成の測定>
細胞ATP含量は、インスリン分泌実験と同じ条件下に測定した。すなわち、ミトコンドリアの酸化的リン酸化のアンカップラーであるカルボニルシアニドm−クロロフェニルヒドラゾン(CCCP:Sigma, St. Louis, MO)の存在下又は不存在下に細胞を、グルコースと共に又はグルコースなしで2時間インキュベートした。次いで細胞を氷冷KRHで2回洗浄し、100μlの細胞培養物溶解試薬(Promega, Madison, WI)で溶解させ、溶解物を収集した。ATP量は、ATPバイオルミネッセンス アッセイキット(Roche Diagnostics)で、メーカーのマニュアルに従って測定した。
【0023】
ジギトニンを透過させた細胞における呼吸鎖によるATP合成の測定を行った。要するに、剥離した細胞をHAMs F10培地に懸濁させ、室温にて30分間維持した。細胞を洗浄し、150mM塩化カリウム、25mMトリス塩酸、2mM EDTA、10mMリン酸二水素カリウム、1mM ADP、0.1%BSA、20μg/mlジギトニン、10mMマレイン酸塩、及び10mMグルタミン酸塩(pH7.4)中に懸濁させた。37℃にて10分間反応を持続させ、そして0.5M(最終濃度)のPCAを加えて反応を終了させて、氷上で15分冷却した。次いで細胞を集め、ATP量を上記のようにして測定した。ミトコンドリア以外によるATP産生量を排除するため、10μMのCCCPの存在下におけるATP量をその不存在下におけるATP量から引いた。
【0024】
<酵素活性のアッセイ>
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の活性を、次のようにして測定した。すなわち、細胞抽出物をグリシルグリシン緩衝液(pH10.0)中で1mM乳酸、5mMNAD、50mMグルタミン酸塩、及び10単位/mlグルタメート−ピルベートトランスアミナーゼと共に25℃にてインキュベートした。340nmの吸光度を読むことによりNADH生成速度をモニターした。酵素活性は、nmol NADH/分/mgタンパク質として表した。
【0025】
グルコースリン酸化活性の測定のためには、破壊した細胞を遠心して上清を、0.5mM NAD、5mM ATP、1単位/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、及び0.5又は50mMグルコースを含むトリエタノールアミン緩衝液(pH7.4)中で30にてインキュベートした。340nmの吸光度を読むことによりNADH生成速度をモニターした。酵素活性は、nmol NADH/分/mgタンパク質として表した。
【0026】
(結果)
m14細胞のグルコース消費はm9細胞よりも遙かに大きかったが(図6)、25mMグルコースにより刺激した後の細胞内ATP量の増加については、両細胞株の間で有意な差はなかった(図7)。m9細胞のATP含量は、10μM CCCPによって大幅に低下したが、同化合物はm14細胞におけるATP産生には影響を及ぼさなかった(図7)。この観察に合致するように、非酸化的グルコース代謝物である乳酸は、m14培地における方が、m9細胞培地におけるよりも高い(図6)。表1に示すように、細胞のLDH活性もまた、m14細胞において高かった。
【0027】
【表1】
Figure 0004287582
【0028】
ミトコンドリアの酸化的リン酸化システムの機能的容量を調べるため、ジギトニンを透過させたm9及びm14細胞において、呼吸鎖によって駆動されるATP合成を測定した。マレイン酸塩及びグルタミン酸塩で刺激したとき、CCCP感受性のATP産生(CCCPなしでのATP産生−10μMCCCP存在下でのATP産生)は、m14では減少せず、m9細胞に比して却って増強された(図8)。NADHデヒドロゲナーゼサブユニット1及びチトクロームcオキシダーゼサブユニット2mRNAによる評価によれば、m9及びm14のミトコンドリア遺伝子の発現には、差はなかった(図9)。
【0029】
<電気生理学的分析>
単一チャネル記録は、切り出した裏返し膜パッチ形態で行った [Kawaki J., et al., Diabetes, 48:2001-2006(1999)]。細胞内溶液は、110mMアスパラギン酸カリウム、30mM塩化カリウム、2mM塩化カリウム、2mM硫酸マグネシウム、1mM EGTA、0.084mM塩化カルシウム、及び10mM MOPSを含有した(pH7.2)。ピペット溶液は、140mM塩化カリウム、2mM塩化カルシウム、及び5mM MOPSを含有した(pH7.4)。
【0030】
細胞の膜電位は、電流クランプモードで穿孔パッチクランプ法 [Gonoi T., et al., J. Biol. Chem., 269:16989-16922(1994)] によって測定した。細胞外溶液は、125mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、1.3mMリン酸二水素カリウム、2mM塩化カルシウム、1mM塩化マグネシウム、10mM HEPES、及び2.8mMグルコースを含有した(pH7.4)。ピペット溶液は、130mMアスパラギン酸カリウム、10mM塩化カリウム、10mM EGTA、10mM MOPS及び100μg/mlニスタチンを含有した(pH7.2)。
【0031】
電圧依存性カルシウムチャネル(VDCC)を通る全細胞Ba2+電流は、次のようにして記録した。すなわち、Ba2+をVDCC電流の電荷キャリアーとして用いた。細胞外溶液は、40mM水酸化バリウム、20mM4−アミノピリジン、90mM水酸化テトラエチルアンモニウム、10mM塩化テトラエチルアンモニウム、140mMメタンスルフォネート、及び10mM MOPSを含有した(pH7.4)。ピペット溶液は、10mM塩化セシウム、130mMアスパラギン酸セシウム、10mM EGTA、5mM ATPマグネシウム、及び10mM MOPSを含有した(pH7.2)。細胞を、−60mVの維持電圧に保ち、400msの長さの、1ステップ10mVの方形パルスを−40〜+70mVの間で4秒毎に適用した。記録は、EPC-7アンプ(List Electronics, Darmstadt, Germany)を用いて行った。
【0032】
(結果)
図10に示すように、m14細胞の標準化したピークKATPチャネルコンダクタンスは、m9のそれより有意に低く、このことは、細胞膜上の機能的KATPチャネルの数がm14において相対的に少ないことを示している。しかしながら、Kir6.4及びSUR1(β細胞KATPチャネルの構成要素である)のmRNAレベルについては、m9とm14との間で有意な差はなかった(図9、C)。β細胞のKATPチャネルによっt測定される膜静止電位は、m9に比してm14において有意に高かった(図11)。
【0033】
<細胞内カルシウム濃度[Ca2+]iの測定>
154mM塩化ナトリウム、6.2mM塩化カリウム、3.3mM塩化カルシウム、1.5mMリン酸二水素カリウム、1.6mM硫酸マグネシウム、12.4mM炭酸水素ナトリウム、20mM HEPES、及び2.8mMグルコースを含有する緩衝液(pH7.4)中で、細胞に、2μMのフラ−2−アセトキシメチルエステル(Dojindo, Kumamoto, Japan)を50分間負荷し、次いで、細胞を顕微鏡の台に載せた。約37℃にて、還流速度約1ml/分であった。[Ca2+]iは測定は、二重励起波長法(340/380nm)により行った。[Ca2+]iの較正は、既知濃度のCa2+を含有する溶液の液滴につき、較正キット(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて較正した。510nmにおける蛍光発光をモニターし、コンピュータ化した画像プロセッサー(Argus-50/CA; Hamamatsu Photonics, Hamamatsu, Japan)により、10秒毎に比のディジタル計算を行った。
【0034】
[Ca2+]iは、m9細胞においては25mMグルコースに応答して劇的に高まったが、m14細胞においては[Ca2+]iに有意な変化は観察されなかった(図12)。更に、m9細胞及びm14細胞におけるVDCCの電流−電圧関係を図13に示す。m14細胞におけるVDCC内向き電流は、m9細胞のそれに比して有意に小さかった。
【0035】
<mRNAディファレンシャルディスプレー>
グルコース誘導性インスリン分泌の障害に関与する遺伝子を同定するために、本発明者等は、mRNAディファレンシャルディスプレー法によりm9とm14との間で遺伝子発現を比較した。
独立に単離した2組の総RNAを、以下の反応を2列行うのに使用した。第1鎖cDNAは、300ngの総RNAを用いて、75 pmol の9通りのT11VV(ここにVはa, c 又はgである)アンカードプライマーと共にSuperscript IITM (Life Technologies, Rockville, MD) によって合成した。次に、10 ngのcDNAを、Perkin Elmer Thermal Cycler(Perkin Elmer, Norwalk, CT)中で40サイクルのPCR(0.025 U/μlの Taq DNAポリメラーゼ、12.5μMのdNTP、0.2μCi/μlのα−[35S]dATP、0.5μMの上流プライマー、及び2.5μMの下流プライマー、総反応液量20μl)による増幅を行った(変性94℃×30秒、アニーリング40℃×120秒、延長72℃×90秒)。この反応において、9通りの下流アンカードプライマー(各cDNA合成に用いたプライマーと同一)を上流プライマーとしての24通りのランダムな任意のデカマー(ディファレンシャルディスプレーキット:宝酒造)と組み合わせて用いた。次いで、次いで2列行ったPCR産物を変性条件下に5%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。ゲルをWhatman 3MM紙(Whatman International Ltd., Maidstone, England)上に固定化して乾燥させた後、ゲルにKodak X-OMAT ARフィルム(Eastman-Kodak, Rochester, NY)を48〜72時間曝露した。サブクローン細胞株のどちらか一方に独特なバンドを切り出して水で抽出した。得られたDNA断片を、元のプライマーセット及び上記と同じ温度条件の下にPCRにより更に増幅した。PCR産物をSuprecTM-02(宝酒造)で精製し、pGEM-T Easy Vectors(Promega)中へサブクローンした。次いで、得られたクローンをRNAブロット分析にかけた。配列決定は、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Kit 及び DNAシーケンサー モデル377(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行った。これらの配列を、BLAST ネットワークサービスを用いて、the National Center for Biotechnology Informationにある配列と比較した。
【0036】
(結果)
上記のように、アンカードプライマーと任意プライマーとの216(9×24)通りの組み合わせを用いて、m9細胞とm14細胞とで差別的に発現された98個の独特のバンドが逆転者酵素PCR法(RT−PCR)により検出された。これらのうち10のクローンにおいて、これら2つの細胞株の間で5倍を超える相違が確認された(図14参照)。クローンg−1、g−2及びg−3は、m14細胞においては発現が低かった。クローンp−1及びp−2は、m14細胞において過剰発現していた。
【0037】
<RNAブロット分析>
m9及びm14細胞からの10μgの総RNAをホルムアルデヒド−アガロースゲル電気泳動にかけた。このRNAをナイロン膜に移しとり紫外線架橋した。この膜を、マウスグルコキナーゼ(GK)(GenBank Acc. No. L38990, nt 98-652)、マウスヘキソキナーゼ(HK)(J05277, nt 1464-1903)、ハムスタースルフォニルウレア受容体1(SUR1)(L40623, nt 3126-4049)、マウスKir6.2(U73626, nt 753-1427)、マウスGLUT1(M23384, nt 473-885)、マウスGLUT2(X15684, nt 297-955)、マウスNADHデヒドロゲナーゼサブユニット1(ND1)(J01420, n5 2761-3061)、マウスチトクロームcオキシダーゼサブユニット2(COX2)(J01420, nt 7016-7500)、又はマウスβアクチン(X03672, nt 571-1170)のcDNAに対応するα-[32P]dCTP−標識プローブとハイブリダイズさせた。これらのプローブを標識するのには、Megaprimeランダムプライマー標識キット(Amersham-Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)を使用した。mRNAディファレンシャルディスプレーにより得られたcDNAを、同様に標識し、ハイブリダイゼーション用プローブとして用いた。-70℃にて、Kodak X-OMAT AR filmをブロットで露光した。
【0038】
(結果)
RNAブロット分析は、高Kmグルコースリン酸化酵素であるグルコキナーゼmRNAの発現が、m9細胞に較べm14細胞において顕著に低下していることを明らかにした(図9、B上段)。これに対し、低Km酵素であるヘキソキナーゼmRNAは、m14細胞において顕著に増加した(図9、B下段)。50mMグルコースの存在下(グルコキナーゼ+ヘキソキナーゼの活性を表す)において、m9細胞とm14細胞との間にグルコースリン酸化活性における差は見られなかったが、0.5mMグルコースの存在下(ヘキソキナーゼ活性を表す)においては、m14細胞において活性が有意に高かった(表1を参照)。グルコキナーゼ活性(50mMグルコース下でのグルコースリン酸化活性−0.5mMグルコース下での活性)は、m14細胞において極度に低かった(表1)。
【0039】
GLUT1 mRNAの発現は、m9細胞及びm14細胞の双方に検出されたが、これに対して、GLUT2 mRNAの発現は、何れの細胞株においても検出されなかった(図9、D)。m9及びm14のcDNAからのGLUT2のPCR産物は、30サイクルの増幅で僅かに検出されたに過ぎなかったのに対し、GLUT1のPCR産物は、25サイクルの増幅で明瞭に検出された(データは示さず)。GLUT1及びGLUT2のmRNAの発現に関し、m9細胞とm14細胞との間には有意な差はなかった。。
【0040】
<配列決定及びデータベース分析>
mRNAディファレンシャルディスプレーによって得られたクローンを同定するために配列決定とデータベース調査とを行った。
配列決定は、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Kit 及びDNAシーケンサー model 377 (Applied Biosystems)を用いて実施した。決定された配列をBLASTネットワークサービスを用いて、the National Center for Biotechnology Informationのデータベース中にある配列と比較した。
【0041】
(結果)
結果を表2にまとめる。
【表2】
Figure 0004287582
DLK:デルタ様タンパク質前駆体、Pref-1:前脂肪細胞因子−1、
EST:エクスプレッション シークエンス タグ、
E3KARP:Na+/H+エクスチェンジャー3キナーゼA調節タンパク質、
CCK:コレシストキニン
【0042】
5個のクローンの配列は既知の遺伝子を現している。クローンg-1、g-2、及びg-3は、m9細胞においてのみ発現されており、スタニオカルシン(STC)、デルタ様タンパク質前駆体(DLK)/前脂肪細胞因子1(Pref-1)、及びKIAA0480を、それぞれ表していた。クローンp-1及びp-2は、m14細胞において過剰発現されており、Na+/H+エクスチェンジャー3キナーゼA制御タンパク質(E3KARP)及びコレシストキニン-B(CCK-B)受容体を、それぞれ表していた。4個は、EST配列にのみ一致したに止まり、1個はGenBankデータベースの如何なる配列とも一致しなかった。
【0043】
<未知クローンの種々組織におけるRNAブロット分析>
上記の未知クローンの遺伝子発現の組織分布を決定するために、マウス組織のRNAブロット分析を行った(図15)。クローンg-4は、卵巣、脳、腎臓及び精巣において発現されていた。クローンg-5は、卵巣及び精巣において発現されていた。クローンp-3の発現は、卵巣、肺、腎臓、小腸、及び精巣において観察された。クローンp-4は、脳においてのみ発現されていた。クローンp-5においてはハイブリダイゼーションシグナルは検出されなかった(データは示さず)。
【0044】
<統計解析>
これら2つのグループ間の統計学的な有意差は、非対Students t test によって判定した。差は、P<0.05のとき有意であると見なした。
【0045】
(考察)
上記研究において、本発明者等はMIN6細胞から導かれる2つの下位株を樹立し、特徴を明らかにした。一方は、m9と命名したが、元のMIN6細胞と同様の特徴を有し、継代の反復後もグルコース誘導性のインスリン分泌を維持する。他方は、m14と命名したが、グルコース応答性のインスリン分泌が障害されている。m14細胞の細胞内インスリン含量はm9のそれの50%まで低下している。m14細胞の障害された分泌は、この細胞内グルコースの低下のみでは説明できない。なぜなら25 mM(最大下刺激)のグルコースにおけるインスリン分泌量の差は、3倍以上であり、分泌プロフィールはm9細胞とは質的に異なっていたからである。更には高K+により刺激されるインスリン分泌は、これら両細胞株においてほぼ同一であり(図4)、このことは、m14細胞におけるグルコース誘導性のインスリン分泌の障害の主要な要因が膜脱分極より末端の、すなわち電位依存性Ca2+チャネル活性化やインスリン顆粒のCa2+誘導性エキソサイトーシスの異常ではないことを示唆している。
【0046】
膵β細胞においては、グルコース輸送体であるGLUT2及びグルコースリン酸化酵素であるグルコキナーゼ(GK)が、グルコース濃度の検知において重要な役割を演じている。m14細胞におけるGLUT2の発現レベルはm9細胞と異ならないが、GKのmRNA発現レベルは低下しており、ヘキソキナーゼ(HK)のそれは上昇している(データは示さず)。しかしながら、KICによるインスリン分泌誘導の障害、乳酸産生速度の亢進、及びグルコース誘導性ATP産生に対するCCCPの阻害効果の顕著な低下という知見は、m14細胞におけるグルコース誘導性インスリン分泌の障害が、GKの発現レベルの低下のみでは説明できず、m14細胞にTCAサイクル内又はそれ以降の異常があることを示唆している。これらの代謝像はミトコンドリアのDNAを枯渇させたβ細胞株のそれに似てはいるものの(Tsuruzoe K. et al., Diabetes 47:621-631(1998), Soejima A. et al., J Biol Chem 271:374-380(1996), Kennedy ED. et al, Diabetes 47:374-380 (1998))、m14細胞は、m9細胞と比較してミトコンドリア遺伝子の同等量を発現し(データは示さず)そして生存にビルビン酸又はウリジンの追加を必要としないことから、独特である。驚くべきことに、インスリン分泌応答において大きな相違があるにも拘わらず、グルコースは細胞内ATPを何れの細胞においても殆ど同じ程度に増加させた。m9細胞におけるATPは、おおむねミトコンドリアでの酸化的リン酸化によって産生されたが、m14細胞におけるATPはそうではなかった(図7)。グルコース処理速度はm14細胞において著しく亢進されていることから(図6)、ATPは主として非酸化的経路を介して(すなわち解糖それ自身によって)産生されているようである。内向き整流Kir6.2及びスルホニルウレア受容体SUR1よりなるβ細胞のATP感受性K+チャネルは、グルコース誘導性インスリンb分泌におけるATPの重要な標的である。しかしながら、Kir6.2及びSUR1のmRNAの発現レベルは、m9細胞とm14細胞との間で差がなかった(データは示さず)。こうして、m9細胞との比較において、m14細胞は、グルコース誘導性インスリン分泌の障害をもたらすまだ同定されていない機構によるグルコース代謝の障害とエネルギー産生の障害との両方を持っている。
【0047】
mRNAディファレンシャルディスプレー法は、異なった表現型を有する2つの被検物の間の遺伝子発現の差を検出するのに効果的である。使用するプライマーの限界とRT−PCRによる定量の限界のために、この方法は、異なって発現されている遺伝子のすべてを検出することはできない。実際、RNAブロッティング(データは示さず)によって見出されたGK及びHKの遺伝子発現におけるm9細胞とm14細胞との相違は、mRNAディファレンシャルディスプレー法によっては見逃された。それにも拘わらず、mRNAディファレンシャルディスプレーは、この目的に有用である。なぜならこの方法は、差引きハイブリッド形成法等のような他の方法と同じだけ多くの遺伝子をカバーできるからである。
【0048】
本発明者等は、10個の遺伝子がm9細胞とm14細胞との間で全く異なって発現されていることをmRNAディファレンシャルディスプレー法により突き止めた。これらのうち、STC及びDLK/Pref-1は、特に興味深い。なぜならばそれらはカルシウム動員又は細胞分化の制御に関与している筈だからである。STCは、硬骨魚類において最初に発見されたカルシウム制御ホルモンであり(Wager GF et al, Mol Cell Endocrionl 79:129-138(1991))、ヒト及びマウスの両方における分化した脳ニュウロンにおけるその高い発現が、最近明らかにされた(Olsen HS et al., Proc Natl Acat Sci USA 93:1792-1796(1996), Zhang KZ et al., Ann J Pathol 153:439-445(1998))。Zhang等はこの分子が、膜透過カルシウム流出を制御し、終末へと分化したニューロンにおける高カルシウム血症に対する保護に貢献していることを示唆している(Zhang KZ et al., Ann J Pathol 153:439-445(1998))。DLKは、ホメオティックタンパク質のEGF様ファミリー膜貫通タンパク質であり(Lee YL et al., Biochim Biophys Acta 1261:223:232(1995))、Pref-1は同じ遺伝子の変種産物である(Smas CM et al., Cell 73:725-734(1993))。発生中の膵臓において、Pref-1は、初期において大半の上皮細胞中で発現されるが、その発現は後にはβ細胞にのみ限定される。更には、Pref-1の切り離された形である胎児抗原−1(FA-1)は、成人膵臓においてβ細胞のインスリン分泌顆粒中にインスリンと共に同時局在する。Pref-1/FA-1は、従って、β細胞のオートクリン増殖因子としての役割を有しそれらの分化及び増殖を制御している可能性がある(Nielsen JH et al., J Mol Med 77:62-66(1999), Jensen CH et al., Eur J Biochem 225:83-92(1994))。
【0049】
グルコースに応答したインスリン分泌は、膵β細胞の最も重要な機能である。グルコースがその代謝によってβ細胞からのインスリン分泌を誘導することから、グルコース代謝の経路に関与する分子の異常がインスリン分泌の障害を引き起こして2型糖尿病を発生させるということもあり得る。例えば、MODY2の発病の原因部位は、GK遺伝子中の突然変異であり、GK欠損遺伝子はまたグルコースに対するインスリン分泌応答の障害を有する。グルコース代謝に関係する分子の欠陥に加えて、膵臓の調節及び発生に関与する他の因子の障害が、インスリン分泌特性における異常を引き起こし得る。インスリン分泌β細胞は最終的且つ高度に分化していることが知られているからである。実際、β細胞特異的遺伝子の発現の調節を介してβ細胞機能に影響を及ぼすHNFs転写因子は、MODY1、3、及び5の原因となる遺伝子である(Yamagata K et al., Nature 384:458-460(1996), Yamagata K et al., Nature 384:455-458(1996), Horikawa Y et al., Nat Genet 1997 17:384-385(1997))。加えて、他のβ細胞特異的転写因子であるIPF-1(これは膵臓前駆細胞の運命を決定し並びにインスリン遺伝子の転写を調節する)における突然変異は、MODY4の原因となる(Stoffers DA et al., Nat Genet 1997 17:138-139(1997))。MODY患者の生理学的研究は、グルコース誘導性インスリン分泌が、正常被験者に比して有意に低下していることを明らかにしており、それのことは、β細胞のインスリン分泌応答が、グルコース代謝の変化によってのみならずβ細胞発生又は分化の変化によっても影響を受ける可能性があることを示している。従って、STC又はDLK/Pref-1の発現レベルの低さがm14細胞におけるインスリン分泌に影響を及ぼしている可能性がある。
【0050】
表2に掲げられた残りの遺伝子は、3個の既知遺伝子及び5個の未知遺伝子である。KIAA0480は、Kazuma DNAリサーチインスティテュートによって特徴づけがなされたcDNAクローンであるが、その機能は未だ知られていない。このcDNAは1252個のアミノ酸をコードしており、該タンパク質は細胞骨格関連タンパク質モチーフ(Riehemann K et al., Trends Biochem Sci 18:82-83(1993)及びリン酸結合ループ(Saraste M et al., Trenads Biochem Sci 15:430-434(1990)を含んでいる。E3KARPは、3型Na+/H+エクスチェンジャー(exchanger)(NHE3)であるが(Yun CH et al., Proc Natl Acad Sci USA 94:3010-3015(1997))、β細胞中にはNHE3が存在するという証拠はない。しかしながら、E3KARPが、他のタンパク質と結合することによって細胞機能に影響を及ぼしている可能性はあり得る。なぜなら、それは2個のPDZドメインを含んでおり且つNHE3以外のタンパク質と相互作用するとの報告があるからである(Hall RA et al., Proc Natl Acad Sci USA 95:8496-8501(1998))。CCK-B受容体は、中枢神経系における主要なCCK受容体であるが(Wank SA et al., Proc Natl Acad Sci USA 89:8691-8695(1992))、リガンドを有しない受容体の上向き調節の影響は予測困難である。これら5個の未知クローンのうち、クローンg-5及びp-4の発現は、2、3の組織に限定されており、そのことは独特の機能があることを示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 MIN6m9細胞とMIN6m14細胞の形態を示す顕微鏡写真。
【図2】 MIN6m9細胞とMIN6m14細胞のグルコースに対する応答を示すグラフ。
【図3】 MIN6m9細胞とMIN6m14細胞のKICに対する応答を示すグラフ。
【図4】 MIN6m9細胞とMIN6m14細胞の膜脱分極による影響を示すグラフ(n=4)。
【図5】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞におけるグルコース誘導性のインスリン分泌に対する3−イソブチル−1−メチルキサンチンの効果を示すグラフ。
【図6】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞培地中の乳酸及びグルコースの濃度の変化を示すグラフ(n=6)。
【図7】 25mMグルコース及び10μM CCCPのMIN6m9細胞及びMIN6m14細胞の細胞内ATP量に対する影響を示すグラフ。
【図8】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞のCCCP感受性のATP産生を示すグラフ。
【図9】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞における、グルコース誘導性インスリン分泌に関与するmRNAの発現を示す、RNAブロット。
【図10】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞におけるピークKATPチャネルコンダクタンスを示すグラフ。
【図11】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞における膜静止電位を示すグラフ。
【図12】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞における25mMグルコースの細胞内Ca2+濃度に対する影響を示すグラフ。
【図13】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞におけるVDCCの電流−電圧関係を示すグラフ。
【図14】 MIN6m9細胞及びMIN6m14細胞についてのmRNAディファレンシャルディスプレーにおける主たる相違を示す。
【図15】 未知遺伝子のマウス組織分布を示すRNAブロット分析。

Claims (6)

  1. 工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−18081として寄託されたMIN6m9細胞株
  2. MIN6細胞株を25mMのグルコースを含む培地中で限界希釈し培養して得ることのできるモノクローナル細胞株であって、所定濃度のグルコース及び0.5%の牛血清アルブミン含有のpH7.4のHEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液中で37℃にて2時間インキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大し、グルコース濃度5mMではインスリン分泌量が4±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25mMではインスリン分泌量が25±5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にあることを特徴とする細胞株。
  3. 該HEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液の組成が、塩化ナトリウム119 mM、塩化カリウム4.74 mM、塩化カルシウム2.54 mM、塩化マグネシウム 1.19 mM、リン酸二水素カリウム 1.19 mM、炭酸水素ナトリウム 25 mM、及びHEPES 10 mMである、請求項の細胞株。
  4. MIN6細胞株を25mMのグルコースを含む培地中で限界希釈し培養することにより誘導される下位株であって、所定濃度のグルコース及び0.5%の牛血清アルブミン含有のpH7.4のHEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液中で37℃にて2時間インキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大し、グルコース濃度5mMではインスリン分泌量が4±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25mMではインスリン分泌量が25±5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にあることを特徴とし、且つ、同一条件でインキュベートしたとき該培地中のグルコース濃度5〜25 mMの間で細胞タンパク質重量あたりのインスリン分泌量がグルコース濃度に依存して増大せずグルコース濃度5mMではインスリン分泌量が6±2mU/時/mg細胞タンパク質、グルコース濃度25 mMではインスリン分泌量が7.5±2.5mU/時/mg細胞タンパク質の範囲にある細胞を含有しないことを更に特徴とする細胞株。
  5. 該HEPES平衡Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液の組成が、塩化ナトリウム119 mM、塩化カリウム4.74 mM、塩化カルシウム2.54 mM、塩化マグネシウム 1.19 mM、リン酸二水素カリウム 1.19 mM、炭酸水素ナトリウム 25 mM、及びHEPES 10 mMである、請求項の細胞株。
  6. 工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−18081として寄託されたMIN6m9細胞株である、請求項2ないし5の何れかの細胞株
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