JP4275334B2 - 銅系合金及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は,形状記憶特性及び超弾性に優れている銅系合金及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来,形状記憶特性及び超弾性を有する銅系合金としては,例えば特開2001−20026号公報に示されるものがある。
そして,そこには,Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Ni,Co,Fe,Ti,ミッシュメタル等の添加元素0.001〜10質量%と,残部Cu及び不可避不純物とよりなる組成物からなり,再結晶組織がオーステナイト(β)相単相からなる銅系合金が示されている。
この銅系合金は,優れた形状記憶特性及び超弾性を有している。
【0003】
ところで,形状記憶特性及び超弾性を有する銅系合金においては,特にこれをバネ材として利用する場合などには,超弾性の向上を図ることが要求される。
そして,この超弾性の向上を図ろうとする場合,オーステナイト(β)相の結晶粒を粗大化させることが効果的である。
【0004】
【解決しようとする課題】
しかしながら,このようにオーステナイト(β)相結晶粒の粗大化を図ると,部分的に節部分を形成する,いわゆるバンブー構造が発生する。そして,かかるバンブー構造を発生させて上記のようにオーステナイト(β)相結晶粒の増大化を図ると,銅系合金の降伏応力が低下する。
そのため,オーステナイト(β)相結晶粒の増大化による超弾性の向上には限界がある。
【0005】
本発明は,かかる従来の問題点に鑑み,バンブー構造が発生するほど結晶粒を粗大化させても,高い降伏応力を有し,形状記憶特性及び超弾性を有する銅系合金,及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題の解決手段】
第1の発明は,形状記憶特性及び超弾性を有し,
Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Co0.001〜2質量%と残部Cu及び不可避不純物とからなる銅系合金であって,
再結晶組織がオーステナイト(β)相内又は結晶粒界の少なくともいずれかにベイナイト(γ)相を析出させており,
また,該銅系合金は線材であり,その線材直径(S)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/S)が1.0以上であるバンブー構造において,降伏応力が100MPa以上であることを特徴とするAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金にある(請求項1)。
【0007】
本第1発明において,Alは3〜10質量%が必要である。3質量%未満では銅系合金がオーステナイト(β)相を形成し難く,一方10質量%を越えると銅系合金が脆くなる。なお,更に好ましくはAl6〜10質量%である。
また,Mnは,オーステナイト(β)相が存在しうる組成範囲を低Al側へ広げ,銅系合金の冷間加工性を向上させるために必要である。Mnは5質量%未満では冷間加工性が劣り,かつオーステナイト(β)相を形成することが困難となる。一方,20質量%を越えると形状記憶特性が低下してしまう。なお,更に好ましくは8〜12質量%である。
また,Coは0.001〜2質量%が必要である。Coは基地組織の強化に有効な元素である(後述の段落「0025」参照)。
本発明においては,再結晶組織が,上記従来の銅系合金のようにオーステナイト(β)相単相ではなく,オーステナイト(β)相内又は結晶粒界の一方又は双方に,ベイナイト(γ)相を析出させている。
そのため,形状記憶特性及び超弾性を高くするために結晶粒を粗大化させてバンブー構造が発生しても,例えば100MPa以上という高い降伏応力を得ることができる。
【0008】
本発明において,上記形状記憶特性とは,ある回復温度以下で変形を加えても,回復温度以上に加熱すればもとの記憶した形状に戻る現象であり,また超弾性とは前記回復温度以上で曲げたり伸ばしたりしても,負荷を除くとゴムのように元の形状に戻る現象である。
【0009】
本発明によれば,バンブー構造が発生するほど結晶粒を粗大化させても,高い降伏応力を有し,形状記憶特性及び超弾性を有するAl−Mn−Co−Cuよりなる,線材の銅系合金を提供することができる。
【0010】
次に,第2発明は,形状記憶特性及び超弾性を有し,
Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Co0.001〜2質量%と残部Cu 及び不可避不純物とからなる銅系合金であって,
再結晶組織がオーステナイト(β)相内又は結晶粒界の少なくともいずれかにベイナイト(γ)相を析出させており,
また,該銅系合金は板材であり,その板材厚み(P)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/P)が1.0以上であるバンブー構造において,降伏応力が100MPa以上であることを特徴とするAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金にある(請求項2)。
【0011】
本第2発明において,Alは3〜10質量%が必要である。3質量%未満では銅系合金がオーステナイト(β)相を形成し難く,一方10質量%を越えると銅系合金が脆くなる。なお,更に好ましくはAl6〜10質量%である。
また,Mnは,オーステナイト(β)相が存在しうる組成範囲を低Al側へ広げ,銅系合金の冷間加工性を向上させるために必要である。Mnは5質量%未満では冷間加工性が劣り,かつオーステナイト(β)相を形成することが困難となる。一方,20質量%を越えると形状記憶特性が低下してしまう。なお,更に好ましくは8〜12質量%である。
また,Coは0.001〜2質量%が必要である。Coは基地組織の強化に有効な元素である(後述の段落「0025」参照)。
【0012】
本発明においては,再結晶組織が,上記従来の銅系合金のようにオーステナイト(β)相単相ではなく,オーステナイト(β)相内又は結晶粒界の一方又は双方に,ベイナイト(γ)相を析出させている。
そのため,形状記憶特性及び超弾性を高くするために結晶粒を粗大化させてバンブー構造が発生しても,例えば100MPa以上という高い降伏応力を得ることができる。
【0013】
したがって,本第2発明によれば,バンブー構造が発生するほど結晶粒を粗大化させても,高い降伏応力を有し,形状記憶特性及び超弾性を有するAl−Mn−Co−Cuよりなる,板材の銅系合金を提供することができる。
【0014】
次に,第3発明は,Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Co0.001〜2質量%と,残部Cu及び不可避不純物とよりなる組成物からなる線材又は板材の銅系合金であり,再結晶組織が,オーステナイト(β)相内又は結晶粒界の少なくともいずれかに,ベイナイト(γ)相を析出させており,
上記線材はその線材直径(S)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/S)が1.0以上であるバンブー構造において降伏応力が100MPa以上であり,
上記板材はその板材厚み(P)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/P)が1.0以上であるバンブー構造において降伏応力が100MPa以上である,形状記憶特性及び超弾性を有する,線材または板材の銅系合金を製造する方法であって,
上記組成物をオーステナイト(β)相領域となる温度に加熱保持した後,α相を出現させない230℃/秒以上の速度で急冷し,次いで200〜300℃の範囲において,時効及び変態処理を行なうことを特徴とするAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金の製造方法にある(請求項3)。
【0015】
本発明においては,上記組成物をオーステナイト(β)相領域となる温度に加熱保持した後,α相を出現させない230℃/秒以上の速度で急冷し,次いで200〜300℃の間で時効及び変態処理を行なっている。
そのため,再結晶組織は,オーステナイト(β)相単相ではなく,オーステナイト(β)相内又は結晶粒界の一方又は双方に,ベイナイト(γ)相を析出させたものとなる。それ故,結晶粒の粗大化を図ることができると共に,結晶粒の粗大化によってバンブー構造が発生しても,高い降伏応力を得ることができる。
【0016】
また,本第3発明においては,上記組成物を用い,これをオーステナイト(β)相領域となる温度に加熱保持した後,α相が出ない程度の速度で急冷する。
上記急冷時にα相が出ると形状記憶特性及び超弾性特性が得られないという問題がある。上記の「α相が出ない程度の速度」とは,例えば8.10質量%Al−10.2質量%Mn−0.51質量%Co−残部Cuの場合には,230℃/秒以上の速度である。
【0017】
また,上記急冷後の時効及び変態処理は,200〜300℃において行なう。200℃未満では時効及び変態処理が長くなり,処理コスト上昇という問題がある。一方,300℃を越えると,析出したベイナイト(γ)相が粗大化し,銅系合金が脆くなることと,処理の時間範囲が狭くなり,制御が困難となる問題がある。
なお,上記の時効及び変態処理は,温度が高い程短時間で良く,例えば,200℃では55〜300分,250℃では8〜30分,300℃では1〜5分とすることが好ましい(図1参照)。
【0018】
また,更に好ましくは,時効及び変態処理は,200〜300℃で,かつ温度(T)℃に対する時間(t)分が,T=−26Ln(t)+304と,T=−25Ln(t)+339とで囲まれた範囲において行なう。図1の実線及び破線は,概略の上記関係式を示している。
【0019】
本第3発明においては,上記第1,第2発明に示したと同様の銅系合金を得ることができる。したがって,本発明によれば,バンブー構造が発生するほど結晶粒を粗大化させても,高い降伏応力を有し,形状記憶特性及び超弾性を有する,線材又は板材のAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金及を提供することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
上記第1発明において,形状記憶特性及び超弾性を有する銅系合金は,上記のごとくAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金である。
また,上記銅系合金は,オーステナイト(β)相及びベイナイト(γ)相を発生する銅系合金であり,Cuの他にAl,Mn,Coを含有している。
また,上記再結晶組織におけるベイナイト(γ)相は,オーステナイト(β)相内又は結晶粒界のいずれか一方又は双方に析出しておれば良い。
【0021】
次に,上記ベイナイト(γ)相はベイナイト変態が完全に終了していないことが好ましい。
この場合には,適量のベイナイト(γ)相のために,超弾性特性を保持したまま,例えば100MPa以上という高い降伏応力を得ることができる。
【0022】
次に,上記において,上記不可避不純物としては,例えばO,Nなどがある。
【0023】
次に,上記銅系合金は,さらにNi,Fe,Ti,V,Cr,Si,Nb,Mo,W,Sn,Sb,Mg,P,Be,Zr,Zn,B,C,Ag及びミッシュメタルの1種又は2種以上よりなる添加元素を,合金全体を100質量%として,合計で0.001〜10質量%含有していることが好ましい。
【0024】
上記添加元素は,上記列挙した元素の1種又は2種以上を用いる。
その中でNi及びCoが特に好ましい。これらの元素は冷間加工性を維持したまま固溶強化して銅系合金の強度を向上させる効果を発揮する。
上記の添加元素の含有量は,合金全体を100質量部として,合計で0.001〜10質量%であるのが好ましく,特に0.001〜5質量%が好ましい。これらの元素の合計含有量が10質量%を超えるとマルテンサイト変態温度が低下し,β単相組織が不安定になる。
【0025】
次に,Co,Ni,Fe,Sn及びSbは,基地組織の強化に有効な元素である。Ni及びFeの好ましい含有量はそれぞれ0.001〜3質量%である。Coは,CoAlの形成により析出強化するが,過剰になると合金の靭性を低下させる。Coの含有量は0.001〜2質量%である。Sn及びSbの好ましい含有量はそれぞれ0.001〜1質量%である。
【0026】
Tiは合金特性を阻害する元素であるN及びOと結合して,酸化物及び窒化物を形成する。また,Bと複合添加するとボライドを形成し,析出強化に寄与する。Tiの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。
【0027】
W,V,Nb,Mo及びZrは硬さを向上させて耐摩耗性を向上させる効果を有する。またこれらの元素はほとんど合金基地に固溶しないので,bcc結晶として析出し,析出強化に有効である。W,V,Nb,Mo及びZrの好ましい含有量はそれぞれ0.001〜1質量%である。
【0028】
Crは耐摩耗性及び耐食性を維持するのに有効な元素である。Crの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。
Siは耐食性を向上させる効果を有する。Siの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。
【0029】
Mgは合金特性を阻害する元素であるN及びOを除去するとともに,阻害元素であるSを硫化物として固定し,熱間加工性や靭性の向上に効果があるが,多量の添加は粒界偏析を招き,脆化の原因となる。Mgの好ましい含有量は0.001〜0.5質量%である。
【0030】
Pは脱酸剤として作用し,靭性向上の効果を有する。Pの好ましい含有量は0.01〜0.5質量%である。
Beは基地組織を強化する効果を有する。Beの好ましい含有量は0.001〜1質量%である。
【0031】
Znは形状記憶温度を上昇させる効果を有する。Znの好ましい含有量は0.001〜5質量%である。
B及びCは粒界に偏析し,粒界を強化する効果,及びボライドやカーバイドを粒界に析出し,結晶粒を微細化する効果を有する。B及びCの好ましい含有量はそれぞれ0.001〜0.5質量%である。
【0032】
Agは冷間加工性を向上させる効果を有する。Agの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。
ミッシュメタルは脱酸剤として作用し,靭性向上の効果を有する。ミッシュメタルの好ましい含有量は0.001〜5質量%である。
【0033】
次に,上記銅系合金が線材の場合,該線材は,その線材直径(S)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/S)が1.0以上となるバンブー構造においても,降伏応力が100MPa以上で,形状記憶特性及び超弾性を有する。
【0034】
この場合には,特に降伏応力が100MPa以上という優れた性質を有し,形状記憶特性及び超弾性を有する銅系合金の線材を得ることができる。上記線材直径(S)は単位がμm,平均結晶粒径(C)は単位がμmである。
【0035】
次に,上記銅系合金は板材の場合,該板材は,その板材厚み(P)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/P)が1.0以上となるバンブー構造においても,降伏応力が100MPa以上で,形状記憶特性及び超弾性を有する。
この場合には,上記線材の場合と同様の,銅系合金の板材を得ることができる。なお,板材厚み(P)の単位はμmである。
【0036】
次に,第3発明の製造方法においては,降伏応力100MPa以上の形状記憶特性及び超弾性を有するAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金を得る。
この場合には,優れた降伏応力及び伸びを有する,形状記憶特性及び超弾性を有する銅系合金を得ることができる。
【0037】
【実施例】
実験例1
8.07質量%Al−9.68質量%Mn−0.51質量%Co−残部Cuよりなる銅系合金の線材(直径1mm)を用い,結晶粒を粗大化させるため850℃(オーステナイト(β)相領域)で5分間加熱保持し,空冷処理を4回行ない,850度(オーステナイト(β)相領域)で5分加熱後水焼入れを行なった。これによりオーステナイト(β)相単相とした,焼入れたままの試料1を多数準備した。
【0038】
次に,上記試料1について,各種温度と時間において時効及び変態処理を行なった。
即ち,上記試料1を,目的とする時効及び変態処理の温度まで99℃/分の速度で昇温し,その温度に所定時間等温保持し,変態を確認し,測定を終了した。
変態の開始,終了はDSC(示差走査熱量測定装置)により測定した。上記各試料1は23〜25mgとした。
【0039】
上記の時効及び変態処理の等温保持は,200,230,250,260,270,280,290,300,320,400,500℃をそれぞれ用いた。なお,320℃以上では,昇温中に変態が開始してしまうため,変態の開始,終了の時間は測定できなかった。
上記時効及び変態処理における,ベイナイト変態TTT線図を,図1に示す。
【0040】
図1において,左方線は変態の開始を,右方線は,変態の終了を示し,黒丸印(●),三角印(△)は上記各測定の温度を示す。
図1より,等温変態温度が高い程,変態の開始から終了までの時間が早いことが分る。また,高温にすれば時効及び変態処理時間を短くできるが,ベイナイト(γ)相の析出量の制御が難しくなる。
【0041】
次に,上記の各試料1における,ベイナイト(γ)相を観察するため,上記測定後の試料1の断面を,腐食液によりエッチングし,SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。
そのSEM写真(倍率1000倍)を,図2及び図3に示す。両図には,上記200℃〜500℃における各等温の時効及び変態処理温度を示した。
両図より知られるごとく,試料1にはそれぞれベイナイト(γ)相が析出(針状結晶)し,時効及び変態処理温度が低いほど析出ベイナイト(γ)相が緻密であることが分る。また,析出相は,粗大なほど脆くなるので,200〜300℃の低温で時効及び変態処理を行なう方が良い。
【0042】
また,図4は,上記試料1について,DSC測定を行なった際の時間とDSC(mw)との関係を例示している。同図中,Msはマルテンサイト変態開始温度を,Mfはマルテンサイト変態終了温度を,Asはマルテンサイト逆変態開始温度を,Afはマルテンサイト逆変態終了温度を示している。
そして,この例では,約250℃からベイナイト変態が開始されていることが分る。
【0043】
次に,上記の各温度において時効及び変態処理した試料1について,その等温変態温度と硬さ(Hv0.1)との関係を図5に示した。上記硬さは,マイクロビッカースにより,荷重100gにて3〜5点測定を行なった。
同図より,200〜300℃までの間は,硬さの低下は余り見られないが,300℃を越えると,著しく硬さが低下することが分る。なお,200〜250℃の間は殆ど同じ硬さを維持していることが分る。
【0044】
また,析出ベイナイト(γ)相は,上記のごとく温度が低いほど緻密で針状析出物も小さい。これらのことを考慮すると,析出ベイナイト(γ)相を,転位や応力誘起マルテンサイト相のピン止め効果として利用するには,硬さが高い方が良いと考えられるため,変態量の制御の容易さ,組織の緻密さから考えて200〜270℃における時効及び変態処理温度がより望ましい。
【0045】
次に,図6は,上記試料1について300℃,3分の時効及び変態処理を行なった本発明にかかる銅系合金と,上記試料1について200℃,15分の時効及び変態処理をしたオーステナイト(β)単相の比較試料1についての,ひずみと応力との引張サイクル特性を示したものである。
同図より,本発明にかかる銅系合金(実線)は,ひずみ1%以上において100MPa以上の高い応力を有する。
これに対して比較例にかかる銅系合金(点線)は,ひずみ5%以上において若干100MPa程度を発揮するにすぎない。
このように,本発明の銅系合金は優れた超弾性を有することが分る。
【0046】
実験例2
上記実験例1に示した試料1について,曲げ実験を行なった。上記試料1は,200℃で,15,178分の各時効及び変態処理を行なった。
その結果を図7に示す。
まず,上記曲げ実験は,直線状態で長さ80mm,直径1mmの銅系合金線材1を,間隔71.5mmに配置した固定枠2,2の間に,半径49.5mmの円弧状に曲げて固定した。線材1が均一に曲がるとすると,ひずみは1%に相当する。
【0047】
同図より知られるとごく,200℃で178分の時効及び変態処理をしたものは,局部折れの発生がなく,一方200℃で15分の時効及び変態処理をしたものは,局部折れが発生していた。
このことより,200℃で178分の時効を行う場合には,オーステナイト(β)相内或いは結晶粒界の一方又は双方に,ベイナイト(γ)相が析出しているため,局部折れが発生せず,一方200℃で15分の時効を行う場合にはベイナイト(γ)相が析出していないため局部折れが発生すると考えられる。
【0048】
次に,図8は結晶粒の粗大化について説明している。
即ち,同図において,(A)に示す銅系合金線材1について,その結晶粒10の粗大化を図ると,(B)に示すごとく,粗大化した結晶粒10の間に節が形成され,銅系合金線材はいわゆるバンブー構造を呈する。
同図(B)は,線材直径(S)に対する平均結晶粒子径(C)の比(C/S)が1.0以上であることを示している。
【0049】
本発明は,バンブー構造になっても,上記のごとく,オーステナイト(β)相内或いは結晶粒界にベイナイト(γ)相を析出させ,オーステナイト(β)単相としないことにより,降伏応力の低下防止を図っているものである。
【0050】
実験例3
8.12質量%Al−9.73質量%Mn−0.52質量%Co−残部Cuよりなる銅系合金の線材(直径1mm)を用い,実験例1と同様に結晶粒を粗大化させるため850℃で5分間加熱保持し,空冷処理を4回行い850℃で,5分加熱後,水焼入れを行なった。
これによりオーステナイト(β)相単相とした,焼入れたままの試料2〜6を多数準備した。
【0051】
次に,これらにつき,表1に示すごとく,各種温度と時間において時効及び変態処理を行った。この処理に当っては,目的とする時効及び変態処理の温度に設定した炉内に上記線材を投入し,その温度に所定時間等温保持した。
【0052】
上記処理の後各試料について,上記図6に示したものと同様に,ひずみと応力との引張サイクル特性を測定した。
これにより,超弾性特性を測定した。その結果を表1に示した。
表1より,試料No.3及びNo.6は,200℃又は300℃における処理時間が長すぎて,ベイナイト変態が終了し,超弾性特性が得られなかった。
【0053】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験例1における,ベイナイト変態TTT線図。
【図2】 実験例1における,各種時効及び変態処理後の金属組成を示すSEM写真(倍率1000倍)
【図3】 図2につづく,同様のSEM写真。
【図4】 実験例1における,DSC測定の説明図。
【図5】 実験例1における,等温変態完了後の硬さを示す線図。
【図6】 実験例1における,応力−ひずみ線図。
【図7】 実験例2における,曲げ実験の説明図。
【図8】 実験例2における,結晶粒粗大化,バンブー構造の説明図。
【符号の説明】
1...銅系合金線材,
10...結晶粒,
Claims (3)
- 形状記憶特性及び超弾性を有し,
Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Co0.001〜2質量%と残部Cu及び不可避不純物とからなる銅系合金であって,
再結晶組織がオーステナイト(β)相内又は結晶粒界の少なくともいずれかにベイナイト(γ)相を析出させており,
また,該銅系合金は線材であり,その線材直径(S)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/S)が1.0以上であるバンブー構造において,降伏応力が100MPa以上であることを特徴とするAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金。 - 形状記憶特性及び超弾性を有し,
Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Co0.001〜2質量%と残部Cu及び不可避不純物とからなる銅系合金であって,
再結晶組織がオーステナイト(β)相内又は結晶粒界の少なくともいずれかにベイナイト(γ)相を析出させており,
また,該銅系合金は板材であり,その板材厚み(P)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/P)が1.0以上であるバンブー構造において,降伏応力が100MPa以上であることを特徴とするAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金。 - Al3〜10質量%と,Mn5〜20質量%と,Co0.001〜2質量%と,残部Cu及び不可避不純物とよりなる組成物からなる線材又は板材の銅系合金であり,再結晶組織が,オーステナイト(β)相内又は結晶粒界の少なくともいずれかに,ベイナイト(γ)相を析出させており,
上記線材はその線材直径(S)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/S)が1.0以上であるバンブー構造において降伏応力が100MPa以上であり,
上記板材はその板材厚み(P)に対する平均結晶粒径(C)の比(C/P)が1.0以上であるバンブー構造において降伏応力が100MPa以上である,
形状記憶特性及び超弾性を有する,線材または板材の銅系合金を製造する方法であって,
上記組成物をオーステナイト(β)相領域となる温度に加熱保持した後,α相を出現させない230℃/秒以上の速度で急冷し,次いで200〜300℃の範囲において,時効及び変態処理を行なうことを特徴とするAl−Mn−Co−Cuよりなる銅系合金の製造方法。
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