JP4266571B2 - 脂質結合グリコサミノグリカンの製造法 - Google Patents
脂質結合グリコサミノグリカンの製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脂質結合グリコサミノグリカンの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
グリコサミノグリカンの還元末端に脂質が共有結合した脂質結合グリコサミノグリカンの製造法としては、例えば特許第2997018号公報、特許第2986519号公報、特許第2986518号公報、特開平9-30979号公報及び特開平6-72893号公報に開示された以下の方法が知られている。
【0003】
(還元末端限定酸化法)
この方法は、グリコサミノグリカンの還元末端の糖残基であるガラクトース残基、ウロン酸残基またはヘキソサミン残基を還元し、限定酸化(部分酸化)することにより、還元末端のピラノース環を特異的に開環(開裂)させるとともに、該グリコサミノグリカンの還元末端にホルミル基を形成させてアルデヒド化合物とし、このアルデヒド化合物のホルミル基(アルデヒド基)と脂質の1級アミノ基とを反応させてシッフ塩基を形成させ、次いでシッフ塩基を還元し、アミノアルキル結合(-CH2-NH-)を形成させて、グリコサミノグリカンと脂質とを共有結合させる方法である(P.W. Tang et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. (1985) vol.132, 474-480参照)。
【0004】
(還元末端ラクトン化法)
この方法は、グリコサミノグリカンの還元末端の糖残基であるガラクトース残基、ウロン酸残基またはヘキソサミン残基を酸化することにより、還元末端のピラノース環を特異的に開環(開裂)させて該グリコサミノグリカンの還元末端にカルボキシル基を形成させて、次いでラクトン形成反応に付すことによって該グリコサミノグリカンの還元末端をラクトン構造とし、このラクトンと脂質の1級アミノ基とを反応させて酸アミド結合(-CO-NH-)を形成させることによって、グリコサミノグリカンと脂質とを共有結合させる方法である(N. Sugiura et al., J. Biol. Chem. (1993) vol.268, 15779-15787参照)。
【0005】
一方、ラクトース等の中性のオリゴ糖とジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンをクロロホルムーメタノール混合溶媒中反応させ、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaCNBH3)還元剤の存在化さらに反応させ、該オリゴ糖の還元末端に脂質が共有結合したネオグリコリピッドを得る方法が Biochem. J.(1988) 256, 661-664, Mark S. STOLL, Tsuguo MIZUOCHI, et. alに開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高分子の酸性多糖であるグリコサミノグリカンの還元末端に脂質がアミノアルキル結合を介して共有結合した脂質結合グリコサミノグリカンを従来法より収率よく、高純度で得る製造法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者らは、上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩と1級アミノ基を有する脂質とを、該グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩および該脂質の双方を溶解しうる極性有機溶媒中、無水条件化、還元剤の存在下において反応させることにより、グリコサミノグリカンの還元末端に脂質がアミノアルキル結合を介して共有結合した脂質結合グリコサミノグリカンが高純度、高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、医薬等として有用な脂質結合グリコサミノグリカンを従来法より収率よく、高純度で得る製造法を提供することをその要旨とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、発明の実施の形態により本発明を詳説する。
本発明のグリコサミノグリカンは、D-グルコサミン又はD-ガラクトサミンと、D-グルクロン酸、L-イズロン酸及び/又はD-ガラクトースの2糖の繰り返し単位を基本骨格として構成される多糖であり、動物等の天然物から抽出されたもの、微生物を培養して得られたもの、化学的もしくは酵素的に合成されたもの等のいずれも使用することができる。具体的には例えばヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸(コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸K、コンドロイチンポリ硫酸等)、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸(ケラタンポリ硫酸も含まれる)等が挙げられ、コンドロイチン硫酸、ヘパリン及びヒアルロン酸が好ましく、特にコンドロイチン硫酸が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0009】
コンドロイチン硫酸の分子量は、一般に約1,000〜100,000程度であるが、約2,000〜80,000程度が好ましく、特に約3,000〜70,000が好ましい。ヘパリン及びヘパラン硫酸の分子量は一般に約1,000〜60,000程度であるが、約2,000〜18,000程度が好ましく、特に約2,500〜17,000が好ましい。また、ヒアルロン酸の分子量は一般に約1,000〜15,000,000程度であるが、約5,000〜10,000,000程度が好ましく、特に約10,000〜1,000,000が好ましい。尚、グリコサミノグリカンの分子量とは、通常平均分子量を意味し、一般的には極限粘度から算出される重量平均分子量を指称する。
【0010】
また、上述のグリコサミノグリカンに結合させる脂質としては、動物、植物、微生物などの天然物由来、又は化学的もしくは酵素的に合成もしくは部分的に分解された複合脂質又は単純脂質を使用することができ、リン脂質等のグリセロ脂質、長鎖の脂肪酸、長鎖の脂肪族アミン、コレステロール類、スフィンゴ脂質、セラミド等いずれも使用することができる。特にホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルトレオニン、エタノールアミンプラスマロゲン、セリンプラスマロゲン、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルイノシトール等のリン脂質、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール等の中性脂質等のグリセロ脂質が好ましい。これらのうち、リン脂質が特に好ましく、ホスファチジルエタノールアミンがより好ましい。
【0011】
アシル基を有する脂質中のアシル基の鎖長及び不飽和度は特に限定されないが、炭素数6以上のものが好ましい。アシル基としては例えばパルミトイル(ヘキサデカノイル)又はステアロイル(オクタデカノイル)などが例示される。また、これらの脂質は通常使用される薬理学的に許容される塩であってもよい。
以下、本発明の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法につき詳説する。
【0012】
〈ヘミアセタール法〉
通常、糖鎖の還元末端糖は、環状構造と開環構造の平衡状態にあり、開環構造ではアルデヒド基が生じ、そこにアミノ基を有する脂質を加えるとシッフ塩基が形成される。この反応も平衡反応であり、その割合は反応条件により大きく変わる。ここに選択的還元剤を添加するとシッフ塩基が還元(水素付加)され、アミノアルキル型結合体が形成される。本発明の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法は、このヘミアセタール法を高分子の酸性多糖であるグリコサミノグリカンと1級アミンを有する脂質との反応に利用するに際し、グリコサミノグリカンに適した反応条件を見出したことに基づくものである。
本方法の反応式は以下に示される。
【0013】
【化1】
【0014】
式中、Sは3位または4位にグリコシド結合したグリコサミノグリカン糖鎖を示し;RはOH、OSO3 -、NHCOCH3またはNHSO3 -を示し;XはH、COO-、CH2OHまたはCH2OSO3 -を示し;Wは3位または4位のOHまたはOSO3 -を示し;NH2-Yは1級アミノ基を有する脂質を示し;Zは還元剤を示す。
【0015】
具体的には、グリコサミノグリカンがナトリウム塩等のアルカリ金属塩である場合等、以下の方法で有機溶媒溶解性塩とすることができる。すなわち、Dowex 50W-X8、Dowex 50W-X12、Dowex 50W-X4(いずれも室町化学社製)、Amberlite IR-120、Amberlite IRC-50(いずれもオルガノ社製)、Duolite 225、Duolite C26C(いずれもダイアプロシム社製)、Bio-Rex 70、Chelex 100、AG 50W-X8(いずれもバイオラド社製)、SE Cellulose(ワットマン社製)等のH+型の陽イオン交換樹脂に通して脱陽イオン化して遊離型とし、ただちにテトラブチルアンモニウム等の有機アミンあるいはその水溶液を添加し、pHを弱酸性から中性に調整する。この溶液を減圧濃縮し、室温で約3日間凍結乾燥して有機溶媒溶解性のグリコサミノグリカン有機アミン塩乾燥粉末を得ることができる。
【0016】
次いでグリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩と1級アミノ基を有する脂質とを、該グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩および該脂質の双方を溶解しうる極性有機溶媒中、無水条件下、還元剤の存在下において反応させ、該グリコサミノグリカンの還元末端糖アルデヒド基と該脂質の1級アミノ基とのアミノアルキル型結合を形成させることにより脂質結合グリコサミノグリカンを合成する。具体的には、例えば上記の有機アミン塩乾燥粉末に無水極性有機溶媒を溶解し、その溶液をホスファチジルエタノールアミン等脂質の無水極性有機溶媒溶液に添加する。得られた混合液を窒素雰囲気下、20℃〜120℃で1〜24時間撹拌後、還元剤を加え更に20℃〜120℃で1〜24時間撹拌を続ける。上記還元剤を更に約24時間おきに2回添加し、20℃〜120℃で1〜72時間反応させ、シッフ塩基形成、還元アミノ化反応を完結させる。
【0017】
上記反応の反応生成物を反応液から精製する方法は特に限定されるものではないが、以下の方法により効率よく精製し、高純度の脂質結合グリコサミノグリカンを製造することができる。すなわち、例えば反応液を濃縮した後、酢酸ナトリウム等の塩類を加え、精製した不溶物を除去し、上清に酢酸ナトリウム等の塩類を含む有機溶媒(エタノール等)を添加して粗精製物を沈殿させ、粗精製物を疎水クロマトグラフィー担体(疎水性担体)を用いて塩類存在下で疎水クロマトグラフィーによって精製することができる。具体的には粗精製物の水溶液又は含水有機溶媒溶液(水−メタノール、水−アセトニトリル、水−ジメチルホルムアミド(DMF)、水−ジメチルスルホキサイド(DMSO)、水−アセトン等)とブチルセルロファイン(生化学工業(株)製)ゲルなどの疎水性担体を混合し、次いで塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、酢酸ナトリウム(NaOAc)、酢酸カリウム(KOAc)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)等の塩または塩溶液を加えて、該疎水性担体に粗精製物を吸着させ、次いで脱塩水あるいは水−メタノール、水−アセトニトリル、水−DMF、水−DMSO、水−アセトン等の含水有機溶媒で溶出を行うことにより目的の脂質結合グリコサミノグリカンを得ることができる。
【0018】
上記の粗精製物の疎水クロマトグラフィーによる精製時、例えば、粗精製物の水溶液(脱塩水)と疎水性担体をまず混合させ、そこに塩(溶液)を加えることで脂質結合グリコサミノグリカンの自己会合(ミセル化)を防いで効率よく該担体に吸着させ、次いで溶出させることにより、高い収率で高純度の脂質結合グリコサミノグリカンを得ることができる。
【0019】
ここにおいてグリコサミノグリカンを有機溶媒可溶性にするために使用する有機アミンとしては、テトラブチルアンモニウムの他、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、テトラエチルアンモニウム、エタノールアミン、プトレシン等が挙げられる。シッフ塩基形成、還元アミノ化反応を行う際に使用する極性有機溶媒としては、メタノール、アセトニトリル、DMF、DMSO、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルピロリドン等が例示される。これら極性有機溶媒は単独であるいは混合物で用いられるが、好ましくは単独で、より好ましくはメタノール単独で用いられる。還元剤としてはシアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaCNBH3)、トリメチルアミンボラン複合体((CH3)3N・BH3)、ジメチルアミンボラン複合体((CH3)2NH・BH3)、トリエチルアミンボラン複合体((C2H5)3N・BH3)、ピリジンボラン複合体 (C6H5N・BH3) 等が例示され、好ましくはトリメチルアミンボラン複合体が用いられる。
【0020】
粗精製物の精製に用いられる疎水性担体としては、ブチルセルロファインの他フェニルセルロファイン、オクチルセルロファイン(いずれも生化学工業(株)製)、フェニルセファロース、オクチルセファロース、フェニルスーパーロース(いずれもファルマシア社製)、フェニルトヨパール、 TSK gelスチレン 250、TSK gel ODS-4PW(いずれも東ソー社製)、ODS シリカゲル Cosmosil C18(コスモバイオ社製)等が挙げられる。
【0021】
上記の方法で得られる脂質結合グリコサミノグリカンの具体例としては、ジパルミトイル-L-(α-ホスファチジル)エタノールアミン結合コンドロイチン硫酸、ジパルミトイル-L-(α-ホスファチジル)エタノールアミン結合デルマタン硫酸、ジパルミトイル-L-(α-ホスファチジル)エタノールアミン結合ヒアルロン酸、ジパルミトイル-L-(α-ホスファチジル)エタノールアミン結合ヘパリン、ジパルミトイル-L-(α-ホスファチジル)エタノールアミン結合ヘパラン硫酸、ステアロイルパルミトイルホスファチジルセリン結合コンドロイチン硫酸、モノステアロイルグリセロール・コハク酸エステル結合コンドロイチン硫酸等が挙げられる。
【0022】
上記方法で得られる脂質結合グリコサミノグリカンの収率は、原料グリコサミノグリカンに対して、グリコサミノグリカンがコンドロイチン硫酸の場合、約31〜44%、デルマタン硫酸の場合、約29%、ヒアルロン酸の場合、約33%、ヘパリンの場合、約7.5%、ヘパラン硫酸の場合、約27〜32%であり、得られる脂質結合グリコサミノグリカンの純度はほぼ100%である。
【0023】
これら脂質結合グリコサミノグリカンは、安定で低毒性であり、細胞接着阻害活性、滑膜細胞伸展阻害活性、神経突起伸展作用、骨誘導促進作用、上皮細胞伸展促進作用等を有することから癌転移抑制剤、抗リウマチ剤、神経疾患治療剤、上皮細胞伸展促進剤等の医薬としての用途が期待される。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。
実施例1
サメ由来コンドロイチン硫酸(CS)ナトリウム塩(生化学工業(株)製、平均分子量:20,000)2.0gを蒸留水100mlに溶解し、Dowex 50W-X8(室町化学社製、H+form)カラム(2.5cmφ × 6.5cm)にアプライし、ナトリウム塩フリーとなった通過液を氷浴上で集め、更に100mlの蒸留水を流し洗浄液として一緒に集めた。通過液集積開始からpHをモニターし、テトラブチルアンモニウム(But4N+)水溶液を添加し、pHを弱酸性から中性に調整した。その溶液(約200ml)をロータリーエバポレーターで約100mlまで減圧濃縮し、室温で3日間凍結乾燥して、CS・But4N+ 塩を乾燥粉末として得た。この時の収率はほぼ定量的であった。
【0025】
その乾燥粉末を脱水メタノール50mlに溶解し、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(PE)208mg(300μmol)の脱水メタノール溶液50mlを添加した。窒素雰囲気下、50℃で1時間撹拌した後、(CH3)3N・BH373.0mgを加え、更に50℃で撹拌を続けた。(CH3)3N・BH3 を更に(73mgずつ)2回(24時間おき)添加し、50℃で3日間反応させた。
反応液を少量(約200μl)サンプリングし、減圧濃縮後、0.2M NaCl水溶液(200μl)を加え、沈殿を除去し、その濾液(約50μl)をSuperose 6 HR 10/30 カラム(アマシャムファルマシア製)にアプライし、クロマトグラフィーを行ったところ、高分子側に移行した反応生成物は約40%と見積もられた。
【0026】
反応液を減圧濃縮後、メタノールを加え減圧濃縮を繰り返し、その残渣に0.2M 酢酸ナトリウム(NaOAc) 40mlを加えた。室温で約2時間撹拌した後、遠心分離(6,000rpm、30分以上)により不溶物を除去し、その上清にNaOAc飽和エタノールを3倍容(120ml)加えて4℃で2時間以上置き、生成した沈殿を遠心分離(4℃、6,000rpm、30分以上)により集めた。その沈殿を乾燥させずに、水50mlおよびメタノール50mlを加え、溶解させた。その溶液にブチルセルロファイン type H(生化学工業(株)製)ゲル5gを添加した。その懸濁液をゆっくりと撹拌しながら、1M NaCl(20ml)をゆっくり滴下して、反応生成物を吸着させた。4℃で2時間撹拌後、カラム(2.5cmφ× 8.0cm)に充填した。溶液を抜き、0.2M NaCl200mlで洗浄した後、蒸留水50mlおよび30%(v/v)メタノール−蒸留水混液200mlで溶出した。溶出液中のメタノールを留去し、その残留液に飽和NaOAc−95%(v/v)エタノールを3倍容加え、生成した沈殿を遠心分離により集めた。沈殿をエタノールで再洗浄して濾取、真空乾燥することで、求めるコンドロイチン硫酸−リン脂質結合体(CS−PE)が0.8g(収率 40%)得られた。この標品の純度はSuperose FPLCで100%であった。
【0027】
実施例2
ウシ気管軟骨由来コンドロイチン硫酸(CS(T),生化学工業(株)製、平均分子量12,000)1.0gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、疎水クロマトグラフィーで精製して、目的のコンドロイチン硫酸−脂質結合体(CS(T)−PE)を合成した。収量0.44g、収率44%。
【0028】
実施例3
クジラ軟骨由来コンドロイチン硫酸(CS(W),生化学工業(株)製、平均分子量15,000)1.0gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、疎水クロマトグラフィーで精製して、目的のコンドロイチン硫酸−脂質結合体(CS(W)−PE)を合成した。収量0.31g、収率31%。
【0029】
実施例4
チョウザメ軟骨由来コンドロイチン硫酸(CSA,生化学工業(株)製、平均分子量10,000)0.5gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、疎水クロマトグラフィーで精製して、目的のコンドロイチン硫酸−脂質結合体(CSA−PE)を合成した。収量0.16g、収率32%。
【0030】
実施例5
ニワトリ鶏冠由来デルマタン硫酸(DS,生化学工業(株)製、平均分子量32,000)0.8gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、疎水クロマトグラフィーで精製して、目的のデルマタン硫酸−脂質結合体(DS−PE)を合成した。収量0.23g、収率29%。
【0031】
実施例6
低分子化ニワトリ鶏冠由来ヒアルロン酸(HA、生化学工業(株)製、平均分子量23,000)0.9gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、ヒアルロン酸−脂質結合体(HA−PE)0.3g(収率 33%)を得た。
【0032】
実施例7
ウシ腸管由来ヘパリン(Hep、和光純薬工業社製、平均分子量10,000)6.0gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、ヘパリン−脂質結合体(Hep−PE)0.45g(収率 7.5%)を得た。
【0033】
実施例8
ブタ大動脈由来ヘパラン硫酸(HS(PA)、生化学工業(株)製、平均分子量10,000)0.44gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、ヘパラン硫酸−脂質結合体(HS(PA)−PE)0.14g(収率 32%)を得た。
【0034】
実施例9
ブタ腎臓由来ヘパラン硫酸(HS(PK)、生化学工業(株)製、平均分子量10,000)0.4gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、ヘパラン硫酸−脂質結合体(HS(PK)−PE)0.12g(収率 30%)を得た。
【0035】
実施例10
マウスEHS腫瘍由来ヘパラン硫酸(HS(EHS)、生化学工業(株)製、平均分子量10,000)0.3gを実施例1と同様にして、塩交換をし、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンと反応させて、ヘパラン硫酸−脂質結合体(HS(EHS)−PE)0.08g(収率 27%)を得た。
【0036】
比較例1(Biochem. J.(1988) 256, 661-664, Mark S. STOLL, Tsuguo MIZUOCHI, et. alの方法でCS−PEを製造)
コンドロイチン硫酸 200 mg を実施例1と同様にテトラブチルアンモニウム塩として、凍結乾燥品を得た。この乾燥粉末とジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(70 mg)をメタノール・クロロホルム(1:1) 混合溶媒(20 ml)に溶解し、(CH3)3N・BH3を2回に分けて添加し、50℃で3日間反応させた。反応中にゲル状の沈殿が生成してきた。反応液を減圧濃縮後、実施例1と同様にNaOAc水溶液に溶解し、エタノール沈殿して粗精製物を得た。この粗精製物を Superose 6 FPLCカラムで分析したところ、求めるコンドロイチン硫酸−脂質結合体(CS−PE)は 1% 程度の含量しかなかった。
【0037】
実施例11:細胞接着阻害活性の測定
96穴ポリスチレンプレート(MS-3496F;住友ベークライト社製)にフィブロネクチン(0.5μg/0.1ml/well)をコートし(4℃、1晩)、ハンクス液で3回洗浄した後、実施例1から10で得られた各種グリコサミノグリカン−脂質結合体標品を濃度を変えて(0および0.02〜5μg/0.1ml/well)4℃、1日静置してコートし、更にハンクス液で3回洗浄した。
【0038】
100mm径の細胞培養用培養皿でダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)−10%ウシ胎児血清を培地として37℃で培養した、コンフルエント前のBHK細胞(若年性ハムスター腎由来線維芽細胞)をトリプシンで単細胞化し、ハンクス液で洗浄した後の、懸濁細胞(1.0×104cells/0.1ml/well)を上記前処理プレートに撒き、37℃で1時間静置培養した。
【0039】
接着細胞を3%(w/v)パラフォルムアルデヒド/リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)で固定し、非接着細胞をPBSで洗い出した後、プレートの接着した細胞数を顕微鏡下で計数した。フィブロネクチンのみのコートで結合した細胞数を100として相対的細胞接着率を算出し、50%接着を阻害するときの各種グリコサミノグリカン−脂質結合体(GAG−PE)の塗布濃度をIC50とした。本発明の製造法で合成した標品のIC50値を表1に、特許第2997018号公報に記載の方法(ラクトン法)で製造した標品のIC50値を表2に示した。
【0040】
【表1】
表1:本発明品の細胞接着阻害活性
【0041】
【表2】
表2:特許第2997018号公報に記載の方法(ラクトン法)により得られた標品の細胞接着阻害活性
【0042】
表1及び表2に示されるように、合成法に関わらず各種GAG−PEの細胞接着阻害活性は、CS−PEで強く、Hep−PEやHS−PEで弱いなど、GAGの種類に応じて近い値を示し、本発明標品は従来法で得られたGAG−PEと同等の活性を持つことが証明された。
【0043】
【発明の効果】
従来法による脂質結合グリコサミノグリカンの収率は、グリコサミノグリカンの種類にもよるが、約1〜3%、高くても10%前後であったが、グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩と1級アミノ基を有する脂質とを、該グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩および該脂質の双方を溶解しうる極性有機溶媒中、無水条件化、還元剤の存在下において反応させることにより、約7.5%〜44%の高い収率で、従来法で得られる物質と同等の活性をもつ脂質結合グリコサミノグリカンが得られる。また、上記反応後、粗精製物を疎水クロマトグラフィーを用いて精製することにより、より効率よく脂質結合グリコサミノグリカンを得ることができる。例えば、粗精製物の水溶液(脱塩水)と疎水性担体をまず混合させ、そこに塩(溶液)を加えることで脂質結合グリコサミノグリカンの自己会合(ミセル化)を防いで効率よく該担体に吸着させ、次いで溶出させることにより、高い収率で高純度の脂質結合グリコサミノグリカンが得られる。
Claims (8)
- グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩と1級アミノ基を有する脂質とを、該グリコサミノグリカンの有機溶媒溶解性塩および該脂質の双方を溶解しうる極性有機溶媒中、無水条件下、還元剤の存在下において反応させ、該グリコサミノグリカンの還元末端糖アルデヒド基と該脂質の1級アミノ基とのアミノアルキル型結合を形成させることを特徴とする、脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びケラタン硫酸からなる群から選択される物質であることを特徴とする請求項1に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- 脂質がグリセロ脂質であることを特徴とする請求項1または2に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- グリセロ脂質がリン脂質であることを特徴とする請求項3に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- リン脂質がホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする請求項4に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- グリコサミノグリカンがコンドロイチン硫酸であり、脂質がホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする請求項1に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- 極性有機溶媒が、メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、ヘキサメチルホスホルアミド及びN−メチルピロリドンから選ばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
- 極性有機溶媒がメタノール単独であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載の脂質結合グリコサミノグリカンの製造法。
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