JP4213524B2 - 新規なカルボニル還元酵素、その酵素をコードするdnaを含むポリヌクレオチド、その製造方法、およびこれを利用した光学活性アルコールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADPHと略す)依存性の新規なカルボニル還元酵素に関する。また本発明は、該酵素タンパク質をコードするポリヌクレオチド、該酵素の製造方法、該酵素を用いた(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを製造する方法として、3,4−ジメトキシフェニルアセトンに微生物を作用させ還元する方法が知られている(特許文献1および2参照)。しかしながら、いずれも生成物濃度が1%以下と生産性が低い。そのため、経済的に優れ、且つ、簡便な方法で高い反応収率で光学純度の高い(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを得る方法の確立が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】
特開平8−325188号公報
【0004】
【特許文献2】
特開平8−89261号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造において、光学純度の高い生成物を収率良く与えることができる製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、NADPHを補酵素として、3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して、高い光学純度の(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成する新規な酵素の提供を課題とする。更に本発明は、目的とする性状を備えた該酵素をコードするDNAを単離し、組換え体として得ることを課題とする。加えて、組換え体による(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造方法の提供をも課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、経済的に優れ、且つ、簡便な方法で光学純度の高い(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを得る方法として、立体選択的に3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成する酵素を、異種微生物により高発現させ、得られた高活性な遺伝子組換え菌を用いて3,4−ジメトキシフェニルアセトンから(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを効率的に生産する方法に着目したところ、トルラスポラ・デルブレッキー(Torulaspora delbrueckii)が高い反応収率と高い立体選択性を有していることを見出し、本菌株中に存在する3,4−ジメトキシフェニルアセトンの還元に関与する酵素に関する研究を進めた結果、本菌株の無細胞抽出液から、3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元する酵素を電気泳動的に単一のバンドになるまで精製し、その諸性質を明らかにした。その結果、本酵素が様々なカルボニルを還元する新規なカルボニル還元酵素であることを見出した。また、本酵素は還元反応において3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して高い収率で高い光学純度の(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成した。
【0007】
更に、本酵素をコードするDNAを単離し、本酵素を高発現する組換え菌を造成し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下のカルボニル還元酵素、この酵素をコードするDNAを含むポリヌクレオチド、この酵素の製造方法、および用途に関する。
【0008】
従来、3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元する酵素としては、フェニルアセトアルデヒド還元酵素(Eur.J.Biochem.,269,2394-2402(2002))が知られている。本酵素はNADH依存的にケトンを還元し、かつ、NAD依存的に2級アルコールに対して脱水素活性を有しており、本発明のカルボニル還元酵素とは性質が異なる。
【0009】
また、3,4−ジメトキシフェニルアセトンと構造が類似した3,4−メチレンジオキシフェニルアセトンを還元する酵素としてチゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)が産生するketoreductase(Eur.J.Biochem.,267,5493-5501(2000))が知られている。しかしながら、3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対する活性および立体選択性は報告されていない。また、SDS-PAGEにおける分子量が42,000、至適pHが6.6−6.8、至適温度が37−39℃である、など本発明のカルボニル還元酵素とは性質が異なる。
【0010】
また、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を用いてSWISS-PROTを対象にBLAST programを用いてホモロジー検索を行った結果、本発明のカルボニル還元酵素にホモロジーを有するタンパク質が見出された。具体的には、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)のゲノム解析の結果より得られた4種類の予想ORFであり、それぞれYGL157w,YGL039w,YDR541c,YOL151wと命名されている。これらの内、YGL157w,YGL039w,YDR541cがコードするタンパク質は機能未知である。YOL151wは、J.Am.Chem.Soc.,123(8),1547-1555(2001)において種々のカルボニル化合物に対する還元活性が測定されているが、3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対する活性は報告されていない。
【0011】
すなわち本発明は、以下の新規なカルボニル還元酵素、該酵素をコードするポリヌクレオチド、該酵素の製造方法、および該酵素を利用した光学活性アルコールの製造方法、およびその用途に関し、より具体的には、
〔1〕 次の(1)および(2)に示す理化学的性状を有するカルボニル還元酵素、
(1)作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を補酵素として、ケトンを還元し、光学活性アルコールを生成する
(2)基質特異性
(a)還元反応の補酵素として還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を利用する
(b)3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成する
(c)3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対して還元活性を有するが、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールに対して酸化活性を有しない、
〔2〕 更に付加的に、次の(3)および(4)に示す理化学的性状を有する〔1〕に記載のカルボニル還元酵素、
(3)至適pH
pH 5.5−6.5。
(4)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム −ポリアクリルアミドゲル電気泳動、および、ゲルろ過による分子量が約38,000。
〔3〕 トルラスポラ属に属する微生物によって産生される〔1〕に記載のカルボニル還元酵素、
〔4〕 トルラスポラ属に属する微生物がトルラスポラ・デルブレッキー(Torulaspora delbrueckii)である、〔3〕に記載のカルボニル還元酵素、〔5〕 下記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチド、
(a)配列番号:1に記載された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
〔6〕 〔1〕の(1)および(2)に示す理化学的性状を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、下記(c)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
〔7〕 〔5〕または〔6〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、
〔8〕 〔5〕または〔6〕に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター、〔9〕 さらに補酵素再生用脱水素酵素遺伝子を含む〔8〕に記載の組換えベクター、
〔10〕 〔5〕もしくは〔6〕に記載のポリヌクレオチド、または〔8〕もしくは〔9〕に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体、
〔11〕 〔1〕の(1)および(2)に示す理化学的性状を有し、かつ少なくとも80%ee以上の(S)-1-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-プロパノールを生成する機能を有するタンパク質であって、下記(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を含むカルボニル還元剤、
(a)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号:16、20、もしくは24に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
〔12〕 トルラスポラ属に属し、〔1〕に記載の酵素を産生する微生物を培養する工程を含む、〔1〕に記載の酵素の製造方法、
〔13〕 トルラスポラ属に属する微生物が、トルラスポラ・デルブレッキー(Torulaspora delbrueckii)である〔12〕に記載の製造方法、
〔14〕 下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養する工程、を含む〔9〕に記載のカルボニル還元剤の製造方法、
(a)配列番号:16、20、もしくは24に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:16、20、もしくは24に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(e)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
〔15〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のカルボニル還元酵素、〔7〕に記載のタンパク質、該酵素もしくはタンパク質を産生する微生物、該微生物の処理物、〔10〕に記載の形質転換体、または〔11〕に記載のカルボニル還元剤をケトンに作用させ、光学活性アルコールを製造することを特徴とする、光学活性アルコールの製造方法、
〔16〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のカルボニル還元酵素、〔7〕に記載のタンパク質、該酵素もしくはタンパク質を産生する微生物、該微生物の処理物、〔10〕に記載の形質転換体、または〔11〕に記載のカルボニル還元剤、を3,4−ジメトキシフェニルアセトンに作用させ、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを製造することを特徴とする、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造方法、を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明によるカルボニル還元酵素は、補酵素としてNADPHを利用しうること、アルコールに対して脱水素活性を有しないこと、また、NADPHを補酵素として3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元し、90%ee以上の(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成することによって特徴付けられる。
【0013】
本発明において、3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対する還元活性は、例えば、次のようにして確認することができる。
・3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対する還元活性測定法:
50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、0.2mM NADPH、5mM 3,4−ジメトキシフェニルアセトンおよび酵素を含む反応液中30℃で反応させ、NADPHの減少にともなう340 nmの吸光度の減少を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。
【0014】
上記のような理化学的性状を持つカルボニル還元酵素は、例えばトルラスポラ属の酵母の培養物より精製することができる。特に、トルラスポラ・デルブレッキー(Torulaspora delbrueckii)が本発明によるカルボニル還元酵素の産生能に優れる。本発明のカルボニル還元酵素を得るために利用することができるトルラスポラ・デルブレッキーしては、IFO 0381、JCM 5921などが挙げられる。
【0015】
上記微生物は、YM培地等の酵母の培養に用いられる一般的な培地で培養される。十分に増殖させた後に菌体を回収し、2−メルカプトエタノールやフェニルメタンフルホニルフルオリド等の還元剤やプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中で破砕して無細胞抽出液とする。無細胞抽出液から、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など)や、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより精製することができる。例えば、フェニル−セファロースを用いた疎水クロマトグラフィー、MonoQを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、ブチル−セファロースを用いた疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトを用いた吸着クロマトグラフィー等を経て電気泳動的に単一バンドにまで精製することができる。
【0016】
トルラスポラ・デルブレッキーに由来する本発明のカルボニル還元酵素は、以下の理化学的性状(1)、(2)を備えたタンパク質である。
(1)作用
NADPHを補酵素として、ケトンを還元し、光学活性アルコールを生成する。
(2)基質特異性
(a)還元反応の補酵素としてNADPHを利用する。
(b)3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成する。
(c)3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対して還元活性を有するが、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールに対して酸化活性を有しない。
【0017】
また、本発明のカルボニル還元酵素は、更に付加的に、次の(3)、(4)に示す理化学的性状を有することが好ましい。
(3)至適pH
pH 5.5−6.5。
(4)分子量
SDS-PAGE、および、ゲルろ過による分子量が約38,000。
【0018】
本発明は、カルボニル還元酵素をコードするポリヌクレオチドおよびそのホモログに関する。本発明において、ポリヌクレオチドは、DNAやRNA等の天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であることもできる。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA-RNAのキメラ分子であることもできる。本発明のカルボニル還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば配列番号:1に示す塩基配列を含む。配列番号:1に示す塩基配列は、配列番号:2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしており、このアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明によるカルボニル還元酵素の好ましい態様を構成する。
【0019】
本発明のカルボニル還元酵素をコードするポリヌクレオチドのホモログとは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、前記理化学的性状(1)−(2)を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。当業者であれば、配列番号:1記載のポリヌクレオチドに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することによりポリヌクレオチドのホモログを得ることが可能である。
【0020】
また、本発明におけるポリヌクレオチドのホモログは、配列番号:1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドであって、かつ、前記理化学的性状(1)−(2)を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも含む。ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号:1に記載中の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択したDNAをプローブDNAとし、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5x SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0021】
さらに、本発明におけるポリヌクレオチドのホモログは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上のホモロジーを有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。タンパク質のホモロジー検索は、例えばSWISS-PROT, PIR,DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベースや DDBJ、EMBL、あるいはGene-BankなどのDNA配列に関するデータベース、DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベースなどを対象に、BLAST, FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。
【0022】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列を用いてDADを対象にBLASTプログラムを用いてホモロジー検索を行った結果、既知のタンパク質の中で高いホモロジーを示したのは、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)の産生するYOL151w(61%)、チゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)が産生するketoreductase(45%)であった。本発明の70%以上のホモロジーとは、例えば、Lipman-Pearson法(Science,227,1435-1441(1985))によるプログラムを用いて計算した値を表す。
【0023】
即ち本発明の好ましい態様においては、上記(1)および(2)に示す理化学的性状を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、下記(c)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、並びに本発明のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を提供する。
【0024】
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
【0025】
また、このBLAST検索において、本発明のカルボニル還元酵素にホモロジーを有する機能未知の予想オープンリーディングフレーム(ORF)が見いだされた。具体的には、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)のゲノム解析の結果より得られた3種類の予想ORFであり、それぞれYGL157w,YGL039w,YDR541cと命名されている。これらの予想アミノ酸配列の本発明のカルボニル還元酵素に対するホモロジーは、57%、56%、61%であった。これらの予想タンパク質が本発明のカルボニル還元酵素活性を有するか否かを明らかにするために、DDBJに登録されているDNA配列を基にプライマーを合成し、サッカロマイセス・セレビジエのゲノムDNAより予想ORF部分をPCRクローニングした。各ORFを発現ベクターに導入し、大腸菌を形質転換して得られた形質転換株を培養して、それぞれのタンパク質を発現させた結果、YGL157w,YGL039w,YDR541c は、予想通りカルボニル還元活性を示した。また、これらのホモログは還元反応において3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して高い光学純度の(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成した。
【0026】
すなわち、配列番号:17、21、25に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明のカルボニル還元酵素のホモログの好ましい態様を表す。これらのタンパク質は、そのORFは公知であったものの、その機能はこれまでのところ未知であった。本発明者らによって、これらのタンパク質がカルボニル還元酵素であることが初めて示唆された。これらのタンパク質は、カルボニル還元剤として、例えば、光学活性アルコール(例えば、(S)-1-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-プロパノール等)の製造に利用することが可能であり非常に有用なものである。上記タンパク質のカルボニル還元剤としての用途は、本発明者らによって初めて見出されたものである。
【0027】
従って本発明の好ましい態様としては、上記(1)および(2)に示す理化学的性状を有するタンパク質であって、下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を含むカルボニル還元剤を提供する。
【0028】
(a)配列番号:16、20、もしくは24に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:16、20、もしくは24に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(e)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
【0029】
本発明のさらに好ましい態様においては、上記(1)および(2)に示す理化学的性状を有し、かつ少なくとも80%ee以上の(S)-1-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-プロパノールを生成する機能を有するタンパク質であって、下記(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を含むカルボニル還元剤を提供する。
【0030】
(a)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号:16、20、もしくは24に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:17、21、もしくは25に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
【0031】
本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質に関する。本発明はまた、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のホモログを含む。
【0032】
本発明のカルボニル還元酵素のホモログとは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を意味する。本発明において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等とは、当該タンパク質が前記(1)−(2)に示した物理化学的性状を有することを意味する。当業者であれば、配列番号:1記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することによりカルボニル還元酵素のホモログをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。そのカルボニル還元酵素のホモログをコードするポリヌクレオチドを宿主に導入して発現させることにより、配列番号:2に記載のカルボニル還元酵素のホモログを得ることが可能である。
【0033】
さらに、本発明のカルボニル還元酵素のホモログとは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上のホモロジーを有するタンパク質をいう。タンパク質のホモロジー検索は、例えばSWISS-PROT, PIR,DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベースやDDBJ、EMBL、あるいはGene-BankなどのDNA配列に関するデータベース、DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベースなどを対象に、BLAST、FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。
【0034】
本発明のカルボニル還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば、以下のような方法によって単離することができる。
【0035】
配列番号:1に記載の塩基配列を元にPCR用のプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行うことにより本発明のDNAを得ることができる。
【0036】
さらに、得られたDNA断片をプローブとして、酵素生産株の染色体DNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
【0037】
また、PCRにより得られたDNA断片の塩基配列を解析し、得られた配列から、既知のDNAの外側に伸長させるためのPCRプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAを適当な制限酵素で消化後、自己環化反応によりDNAを鋳型として逆PCRを行うことにより(Genetics 120, 621-623 (1988))、また、RACE法(Rapid Amplification of cDNA End、「PCR実験マニュアル」p25-33, HBJ出版局)などにより本発明のポリヌクレオチドを得ることも可能である。
【0038】
なお本発明のポリヌクレオチドには、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、合成によって得られたDNAが含まれる。
【0039】
このようにして単離された、本発明によるカルボニル還元酵素をコードするポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに挿入することにより、カルボニル還元酵素発現ベクターが提供される。即ち本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。本発明の好ましい態様においては、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。本発明のベクターとしては、例えば、大腸菌における発現ベクターpSE420Dにカルボニル還元酵素をコードする遺伝子を発現可能に挿入した、pSE-TDR1、 pSE-YDR1、 pSE-YGP7、 pSE-YGD9などが挙げられる。また、本発明の組換えベクターには、後述の補酵素再生用脱水素酵素遺伝子を含めることができる。
【0040】
また、この発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、本発明のカルボニル還元酵素を組換え体から得ることができる。
【0041】
本発明においてカルボニル還元酵素を発現させるために、形質転換の対象となる微生物は、カルボニル還元酵素を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換され、カルボニル還元酵素活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。本発明は、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のベクターにより形質転換された形質転換体を提供する。本発明の形質転換体の対象となる微生物としては、例えば以下のような微生物を示すことができる。
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ
【0042】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物中などにおいて、本発明のNADPHを電子供与体とするカルボニル還元酵素遺伝子を発現させるためには、まず微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中にこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。
【0043】
そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'-側上流に、より好ましくはターミネーターを3'-側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる必要がある。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−などに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75-102 (1990)、Yeast 8, 423-488 (1992)、などに詳細に記述されている。
【0044】
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PRなどに由来するプロモーターなどが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどを用いることができる。これらの中で、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D(特開2000-189170に記載)が好適に利用できる。
【0045】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどが利用可能であり、染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしてapr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α−アミラーゼ)などが利用できる。
【0046】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240などが利用可能であり、プロモーター、ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子などが利用できる。
【0047】
ブレビバクテリウム属特に、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene 39, 281 (1985))などのプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター、ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0048】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol. Gen. Genet. 196, 175 (1984)などのプラスミドベクターが利用可能である。
【0049】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属においては、pHV1301(FEMS Microbiol. Lett. 26, 239 (1985)、pGK1(Appl. Environ. Microbiol. 50, 94 (1985))などがプラスミドベクターとして利用可能である。
【0050】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J. Bacteriol. 137, 614 (1979))などが利用可能であり、プロモーターとして大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0051】
ロドコッカス(Rhodococcus)属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である (J.
Gen. Microbiol. 138,1003 (1992) )。
【0052】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486 (Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、pKC1064(Gene 103,97-99 (1991) )、pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995) )が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol. 11, 46-53 (1997) )。
【0053】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能であり、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP 537456など)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β−ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)などのプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0054】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J. Bacteriol. 145, 382-390 (1981))、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNAなどとの相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP 537456など)などが利用可能である。また、ADH、PGKなどに由来するプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0055】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)およびサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol. Cell. Biol. 6, 80 (1986))。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーターなどが利用できる(EMBO J. 6, 729 (1987))。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0056】
チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)由来のpSB3(Nucleic Acids Res. 13, 4267 (1985))などに由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーターや、チゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri. Biol. Chem. 54, 2521 (1990))などが利用可能である。
【0057】
ピキア(Pichia)属においては、ピキア・アンガスタ(旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))において宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast 7, 431-443 (1991))。また、メタノールなどで誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーターなどが利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などにピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、 PARS2)などを利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol. Cell. Biol. 5, 3376 (1985))、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOXなど強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res. 15, 3859 (1987))。
【0058】
キャンディダ(Candida)属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス(Candida utilis)などにおいて宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいてはキャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri. Biol. Chem. 51, 51, 1587 (1987))、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターは強力なプロモーターが開発されている(特開平 08-173170)。
【0059】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー (Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae) などがカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7, 283-287 (1989))。
【0060】
トリコデルマ(Trichoderma)属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用したホストベクター系が開発され、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーターなどが利用できる(Biotechnology 7, 596-603 (1989))。
【0061】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315, 592-594 (1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。
【0062】
本発明において使用するカルボニル還元酵素生産能を有する微生物は、カルボニル還元酵素生産能を有するトルラスポラ属に属するすべての菌株、突然変異株、変種、遺伝子操作技術の利用により作成された本発明の酵素生産能を獲得した形質転換株を含む。
【0063】
本発明は、前記カルボニル還元酵素を利用したケトンの還元による光学活性なアルコール、特に(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造方法・用途に関する。本発明の好ましい態様においては、トルラスポラ属に属し、本発明のカルボニル還元酵素を産生する微生物を培養する工程を含む、本発明の酵素の製造方法を提供する。さらに本発明は、本発明の上記形質転換体を培養する工程を含む、本発明のカルボニル還元剤の製造方法を提供する。酵素分子、その処理物、酵素分子を含む培養物、あるいは酵素を生成する微生物等の形質転換体を反応溶液と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせることによって、光学活性なアルコールの製造を行うことができる。なお、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。また、上記方法に使用される微生物としては、好ましくはトルラスポラ・デルブレッキー(Torulaspora delbrueckii)を挙げることができる。
【0064】
本発明の光学活性アルコールの製造方法の好ましい態様としては、本発明のカルボニル還元酵素、本発明のタンパク質、該酵素もしくはタンパク質を産生する微生物、該微生物の処理物、本発明の形質転換体、または本発明のカルボニル還元剤をケトンに作用させ、光学活性アルコールを製造することを特徴とする、光学活性アルコールの製造方法を提供する。また、本発明の方法の一例としては、本発明のカルボニル還元酵素、本発明のタンパク質、該酵素もしくはタンパク質を産生する微生物、該微生物の処理物、本発明の形質転換体、または本発明のカルボニル還元剤、を3,4−ジメトキシフェニルアセトンに作用させ、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを製造することを特徴とする、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造方法を示すことができる。
【0065】
本発明におけるカルボニル還元酵素を含む微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどが含まれる。
【0066】
本発明による光学活性なアルコールの製造方法におけるケトンとしては、1−アセトキシ−2−プロパノン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、4−クロロアセト酢酸エチル、4−クロロアセト酢酸メチル、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン、あるいは、3,4−ジメトキシフェニルアセトン、などが好適に用いられ、(S)−1−アセトキシ−2−プロパノール、(S)−3−ヒドロキシブタン酸エチル、(S)−3−ヒドロキシブタン酸メチル、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブタン酸エチル、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブタン酸メチル、(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノール、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノール、などを製造することができる。
【0067】
本発明の好ましい態様においては、本発明のカルボニル還元酵素もしくはカルボニル還元活性を有するタンパク質、該酵素またはタンパク質を産生する微生物、もしくは該微生物の処理物、を3,4−ジメトキシフェニルアセトンに作用させ、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを製造することを特徴とする、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造方法を提供する。
【0068】
上記還元反応に付随してNADPHから生成するNADP+の、NADPHへの再生は、微生物の持つNADP+還元能(解糖系、メチロトローフのC1化合物資化経路など)を用いて行うことができる。これらNADP+還元能は、反応系にグルコースやエタノール、などを添加することにより増強することが可能である。また、NADP+からNADPHを生成する能力を有する微生物やその処理物、酵素を反応系に添加することによっても行うことができる。例えば、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などを含む微生物、その処理物、ならびに部分精製もしくは精製酵素を用いてNADPHの再生を行うことができる。これらのNADPH再生に必要な反応を構成する成分は、本発明による光学活性アルコールの製造のための反応系に添加する、固定化したものを添加する、あるいはNADPHの交換が可能な膜を介して接触させることができる。
【0069】
また本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養する工程、を含む本発明のカルボニル還元活性を有するタンパク質の製造方法に関する。本方法において、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターで形質転換した微生物の生菌体を前記光学活性アルコールの製造方法に利用する場合には、NADPH再生のための付加的な反応系を不要とできる場合がある。すなわち、NADPH再生活性の高い微生物を用いることにより、形質転換体を用いた還元反応において、NADPH再生用の酵素を添加することなく効率的な反応が行える。さらに、NADPH再生に利用可能なグルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などの遺伝子(補酵素再生用脱水素酵素遺伝子)を、本発明のNADPH依存性カルボニル還元酵素をコードするDNAと同時に宿主に導入することによって、より効率的なNADPH再生酵素とNADPH依存性カルボニル還元酵素の発現、還元反応を行うことも可能である。これらの2つもしくはそれ以上の遺伝子の宿主への導入には、不和合性を避けるために複製起源のことなる複数のベクターに別々に遺伝子を導入した組換えベクターにより宿主を形質転換する方法や、単一のベクターに両遺伝子を導入する方法、両方、もしくは、片方の遺伝子を染色体中に導入する方法などを利用することができる。
【0070】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター、ターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
【0071】
例えば、NADPH再生用酵素として、バシラス・サブチルス(Bacillus subtilis)やサーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)に由来するグルコース脱水素酵素が利用可能であり、具体的には、カルボニル還元酵素とバシラス・サブチリス由来のグルコース脱水素酵素の遺伝子を導入した組換えベクターであるpSG-TDR1、pSG-YDR1、 pSG-YGP7、 pSG-YGD9などが好適に利用される。
【0072】
本発明の酵素を用いた還元反応は、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルエステルなどの有機溶媒中、もしくは、水性媒体との2相系、もしくは水に溶解する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシドなどとの混合系により行うことができる。本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。
【0073】
本発明の反応は、反応温度4−60℃、好ましくは15−37℃、pH3−11、好ましくはpH5−9、基質濃度0.01−50%、好ましくは0.1−20%、さらに好ましくは0.1−10%で行うことができる。反応系には必要に応じて補酵素NADP+もしくはNADPHが0.001mM−100mM、好ましくは、0.01−10mM添加できる。また、基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。
【0074】
NADPHの再生のために、例えば、グルコース脱水素酵素を利用する場合のグルコース、アルコール脱水素酵素を利用する場合のエタノールもしくはイソプロパノールなどが反応系に添加される。これらの化合物は、基質ケトンに対してモル比で0.1−20、好ましくは1−5倍過剰に添加することができる。一方、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素などの、NADPH再生用の酵素は、本発明のNADPH依存性カルボニル還元酵素に比較して酵素活性で0.1−100倍、好ましくは0.5−20倍程度添加することができる。
【0075】
本発明のケトンの還元により生成する光学活性アルコールの精製は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理などによる分離、溶媒抽出、蒸留などを適当に組み合わせることにより行うことができる。
【0076】
例えば、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールでは、微生物菌体を含む反応液を遠心分離し、微生物菌体を除いた後、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブタノール、などで抽出後、これを減圧濃縮することにより、光学活性アルコールとして、採取することができる。さらに反応生成物の純度を上げるには、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどを行うことにより、さらに高度に精製することができる。
【0077】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
[実施例1] カルボニル還元酵素の精製
酵素精製のための菌体は、トルラスポラ・デルブレッキー JCM 5921株を1.2LのYM培地(グルコース20g/L、酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/L、ペプトン5g/L、pH 6.0)で培養した後、遠心分離により調製した。得られた湿菌体を50mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、0.02% 2−メルカプトエタノールおよび2mM フェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)で澱懸し、ビードビーター(Biospec社製)により破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液にプロタミン硫酸を添加し、遠心分離により除核酸した上清を得た。その上清に硫安が30%飽和になるまで添加し、30%硫安を含む標準緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、0.01%2−メルカプトエタノール、10% グリセロール)で平衡化したフェニル−セファロースHP(2.6cm×10cm)に添加した後、本酵素を硫安濃度30%−0%の勾配溶出により溶出した。NADPH依存性3,4−ジメトキシフェニルアセトン還元活性は、勾配溶出画分に観察され、溶出したピーク部分を回収し、限外濾過により濃縮した。
【0079】
濃縮した酵素液を標準緩衝液に対して透析した後、同緩衝液で平衡化したMonoQ(0.5cm× 5cm)に添加し、0−0.5M塩化ナトリウムの勾配溶出を行った。溶出した活性画分を回収し、限外濾過により濃縮酵素液を得た。
【0080】
濃縮酵素液を0.01%2−メルカプトエタノール、10%グリセロールを含む5mMリン酸カリウム緩衝液(pH 8.0)に透析した後、同緩衝液で平衡化したヒドロキシアパタイトカラム(0.5cm×10cm)に添加し、5−350mMリン酸カリウム緩衝液(pH 8.0)の濃度勾配溶出を行った。溶出した活性画分の内、最も比活性が高かった画分をSDS-PAGEにより解析した結果、本酵素のみの単一バンドであった(図1)。
【0081】
精製酵素の比活性は196 mU/mgであった。精製の要約を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
[実施例2] カルボニル還元酵素の分子量測定
実施例1で得られた酵素のサブユニットの分子量をSDS-PAGEにより求めた結果、約38,000であった。また、スーパーデックスG200のゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約38,000であった。従って、本酵素はモノマーと推定された。
【0084】
[実施例3] カルボニル還元酵素の至適pH
リン酸カリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、ブリットン・ロビンソンの広域緩衝液を用いてpHを変化させて、実施例1で得られた酵素の3,4−ジメトキシフェニルアセトンの還元活性を調べ、各pHにおける活性を、最大活性を100とした相対活性で表し、図2に示した。至適pH(80%以上の相対活性を示した範囲)は、5.5−6.5であった。
【0085】
[実施例4] カルボニル還元酵素の至適温度
実施例1で得られた酵素を標準反応条件のうち温度だけを変化させて、3,4−ジメトキシフェニルアセトンの還元活性を測定し、各温度における活性を、最大活性を100とした相対活性で表し、図3に示した。至適温度(80%以上の相対活性を示した温度範囲)は50−55℃であった。
【0086】
[実施例5] カルボニル還元酵素の基質特異性
実施例1で得られた酵素を種々のケトン、ケトエステル、等と反応させ、その還元反応の活性を3,4−ジメトキシフェニルアセトンの還元を100とした相対活性で表し、表2(カルボニル還元酵素の基質特異性)に示した。なお、1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールに対する脱水素活性は、次のように測定した。50mM トリス−塩酸緩衝液(pH 8.5)、2.5mM NADP+、5mM 1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールおよび酵素を含む反応液中30℃で反応させ、NADPHの生成にともなう340 nmの吸光度の増大を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADPHの生成を触媒する酵素量とした。また、NADH依存的な3,4−ジメトキシフェニルアセトンの還元活性は、次のようにして測定した。50mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADH、5mM 3,4−ジメトキシフェニルアセトンおよび酵素を含む反応液中30℃で反応させ、NADHの減少にともなう340 nmの吸光度の減少を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADHの減少を触媒する酵素量とした。
【0087】
【表2】
【0088】
[実施例6] カルボニル還元酵素を用いた(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの合成
200mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、1mM NADP+、2U グルコース脱水素酵素(WAKO純薬)、250mM グルコース、0.25U カルボニル還元酵素、50mM 3,4−ジメトキシフェニルアセトンを含む反応液1mL中で、25℃で終夜反応させた。生成した(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの光学純度は次のようにして求めた。反応液0.5mLに酢酸エチル1mLを加えて、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを抽出し、抽出溶媒を脱溶媒した後、0.5mLの溶解液(n−ヘキサン:イソプロパノール=4:1)を加えて溶解し、光学分割カラムを用いた液体クロマトグラフィーにより分析した。光学分割カラムは、ダイセル化学工業株式会社製キラルセルOF(CHIRALCEL OF 4.6 mm × 25 cm)を用い、n−ヘキサン:イソプロパノール=4:1の溶離液、流速1.0mL/min、波長220nm、温度40℃により行った。その結果、本発明によって生成した(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールは99%ee以上であった。
【0089】
また、生成された(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールをガスクロマトグラフィーで定量し、出発原料である3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対する収率を求めた。すなわち、Thermon3000(10%)-Chromosorb W(AW-DMCS,Mesh 60-80)、3.2mmx210cmを用い、カラム温度を210℃とし、水素炎イオン化検出器(FID)を利用して分析した。その結果、反応の収率は約95%であった。
【0090】
[実施例7] カルボニル還元酵素の部分アミノ酸配列
実施例1で得られた酵素を用いて、プロテインシーケンサーによりN末端アミノ酸配列を解析した。アミノ酸配列を配列番号:3に示した。また、SDS-PAGEのゲルより、カルボニル還元酵素を含むゲル断片を切り出し、2回洗浄後、リジルエンドペプチダーゼを用いて、35℃で終夜イン・ゲル・ダイジェションを行った。消化したペプチドを逆相HPLC (東ソー製TSK gel ODS-80-Ts、2.0mm × 250mm) を用い、0.1% トリフルオロ酢酸中でアセトニトリルのグラジエント溶出によりペプチドを分離し、分取した。
【0091】
分取したペプチドピークを lep_41とし、プロテインシーケンサー(Hewlett Packard G1005A Protein Sequencer System) によりアミノ酸配列の解析を行った。lep_41のアミノ酸配列を配列番号:4で示した。
【0092】
[実施例8] トルラスポラ・デルブレッキーからの染色体DNAの精製
トルラスポラ・デルブレッキー JCM 5921株をYM培地で培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Meth. Cell Biol. 29, 39-44 (1975)に記載の方法により行った。
【0093】
[実施例9] カルボニル還元酵素遺伝子のコア領域のクローニング
N末端、lep_41のアミノ酸配列を元にそれぞれセンスプライマー、アンチセンスプライマーを合成した。それぞれの塩基配列を配列番号:5 (TdCR-N1) 、6 (TdCR-41)に示した。
【0094】
プライマーTdCR-N1とTdCR-41各50pmol、dNTP10nmol、トルラスポラ・デルブレッキー由来染色体DNA50ng、Ex-Taq用緩衝液(宝酒造製)、Ex-Taq 2U (宝酒造製)を含む50μLの反応液を用い、変性(94℃、30秒)、アニール(51℃、30秒)、伸長(70℃、20秒)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いて行った。
【0095】
PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動により解析した結果、330bpあたりに特異的と思われるバンドが検出できた。得られたDNA断片をフェノール/クロロホルム抽出後、エタノール沈殿として回収し、EcoRIで制限酵素消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。
【0096】
得られたDNA断片を、EcoRIで消化したpUC18(宝酒造製)とTakara Ligation Kitを用いて、ライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。
【0097】
形質転換株をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地(1%バクト−トリプトン、0.5%バクト−酵母エキス、1%塩化ナトリウム、以下、LB培地と略す)プレート上で生育させ、Blue/Whiteセレクション法により選別されたいくつかの白色のコロニーをアンピシリンを含む液体LB培地で培養し、Flexi-Prep (ファルマシア製) によりプラスミドを精製し、pTDRとした。
【0098】
精製したプラスミドを用いて、挿入DNAの塩基配列を解析した。DNA塩基配列の解析には、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS ready Reaction Kit (パーキンエルマー製)を用いてPCRを行い、DNAシーケンサーABI PRISMTM310(パーキンエルマー製)により行った。決定されたコア領域の塩基配列を配列番号:7として示した。
【0099】
[実施例10] カルボニル還元酵素遺伝子のコア領域周辺の塩基配列の解析
トルラスポラ・デルブレッキー由来染色体DNAを制限酵素BamHIで消化し、T4リガーゼを用いて16℃で終夜セルフ・ライゲーション反応により、各断片を環化させた。次に、プライマーTdCR-59(配列番号:8)およびTdCR-234(配列番号:9)を各100pmol、環化DNAを25ng、Ex-Taq用緩衝液(宝酒造製)、Ex-Taq 2U(宝酒造製)を含む50μLの反応液を用い、変性(94℃、30秒)、アニール(55℃、30秒)、伸長(72℃、7分)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いて行った。PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動により解析した結果、約2000bpのDNA断片が検出できた。このDNA断片をSephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製し、塩基配列をプライマーウォーキング法により解析した。その結果、カルボニル還元酵素遺伝子のORF配列を決定することができた。決定したDNA配列は配列番号:1に、予想されるアミノ酸配列を配列番号:2に示す。ORF検索は、Genetyx-win(株式会社ゼネティックス製)ソフトを用いて行った。
【0100】
[実施例11] カルボニル還元酵素遺伝子TdCR1の一部を含むプラスミドpSE-TDXの構築
カルボニル還元酵素遺伝子のORFの5'末端からXbaI部位までをクローニングするために、プライマーTd-ATG1(配列番号:10)、Td-XbaR(配列番号:11)を合成した。
【0101】
プライマーTd-ATG1とTd-XbaRを各50 pmol、dNTP10 nmol、トルラスポラ・デルブレッキー由来染色体DNA50 ng、Pfu Turbo DNA polymerase用緩衝液 (STRATAGENE製)、Pfu Turbo DNA polymerase 3.75 U (STRATAGENE製)を含む50μLの反応液を用い、変性(95℃、2分30秒)、アニール(55℃、1分)、伸長(72℃、1分)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いて行った。得られたPCR産物をTd-PCR1とした。
【0102】
得られたPCR産物を、フェノール-クロロホルム抽出後、エタノール沈殿として回収した。Td-PCR1をBspHI、XbaIの2つの制限酵素で消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。
【0103】
制限酵素消化されたTd-PCR1は、NcoI、XbaIの2つの制限酵素で消化したベクターpSE420D(特開2000-189170)とTakara Ligation Kitを用いてライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換株をアンピシリンを含むLB培地で生育させ、挿入断片の塩基配列を解析した。ここで得られたプラスミドをpSE-TDXとした。プラスミド構築の過程を図4に示した。
【0104】
[実施例12] カルボニル還元酵素遺伝子TdCR1の一部を含むプラスミドpUC-TDXの構築
カルボニル還元酵素遺伝子のORFのXbaI部位から3’末端までをクローニングするために、プライマーTd-XbaF(配列番号:12)、Td-TAA1(配列番号:13)を合成した。
【0105】
プライマーTd-XbaFとTd-TAA1を各50 pmol、dNTP10 nmol、トルラスポラ・デルブレッキー由来染色体DNA 50ng、Pfu Turbo DNA polymerase用緩衝液 (STRATAGENE製)、Pfu Turbo DNA polymerase 3.75 U (STRATAGENE製)を含む50μLの反応液を用い、変性(95℃、2分30秒)、アニール(55℃、1分)、伸長(72℃、1分)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いて行った。得られたPCR産物をTd-PCR2とした。
【0106】
得られたPCR産物を、フェノール-クロロホルム抽出後、エタノール沈殿として回収した。Td-PCR2をXbaIで消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。
【0107】
制限酵素消化されたTd-PCR2は、XbaIで消化したpUC18(宝酒造製)とTakara Ligation Kitを用いてライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換株をアンピシリンを含むLB培地で生育させ、挿入断片の塩基配列を解析した。ここで得られたプラスミドをpUC-TDXとした。プラスミド構築の過程を図5に示した。
【0108】
[実施例13] カルボニル還元酵素遺伝子TdCR1の一部を含むプラスミドpSG-TDXの構築
実施例11に記載の方法と同様の方法で得られたPCR産物Td-PCR1を、フェノール-クロロホルム抽出後、エタノール沈殿後、BspHI、XbaIの2つの制限酵素で消化した後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。
【0109】
制限酵素消化されたTd-PCR1は、NcoI、XbaIの2つの制限酵素で消化した枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を含むプラスミドpSE-BSG1(特開2000-189170)とTakara Ligation Kitを用いてライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。形質転換株をアンピシリンを含むLB培地で生育させ、挿入断片の塩基配列を解析した。ここで得られたプラスミドをpSG-TDXとした。プラスミド構築の過程を図6に示した。
【0110】
[実施例14] カルボニル還元酵素遺伝子TdCR1を発現するプラスミドpSE-TDR1の構築
実施例12で得られたプラスミドpUC-TDXを制限酵素XbaIで消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、TdCR1遺伝子の一部を含む約0.8 kbのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep (Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。得られたDNA断片と、同制限酵素で消化し、アルカリフォスファターゼ処理後、フェノール抽出、フェノール-クロロホルム抽出、クロロホルム抽出、エタノール沈殿したプラスミドpSE-TDXをTaKaRa Ligation Kitを用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAによって大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50 mg/L)を含むLB培地で生育させ、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製した。その結果、全TdCR1遺伝子を含み、TdCR1を発現可能なプラスミドであるpSE-TDR1を得た。プラスミド構築の過程を図7に示した。
【0111】
[実施例15] カルボニル還元酵素遺伝子TdCR1と枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を共発現するプラスミドpSG-TDR1の構築
実施例12で得られたプラスミドpUC-TDXを制限酵素XbaIで消化し、エタノール沈殿後、アガロース電気泳動を行い、TdCR1遺伝子の一部を含む約0.8 bpのバンドを切り出し、Sephaglas BandPrep (Amersham Pharmacia Biotech製)により精製、回収した。得られたDNA断片と、同制限酵素で消化し、アルカリフォスファターゼ処理後、フェノール抽出、フェノール-クロロホルム抽出、クロロホルム抽出、エタノール沈殿したプラスミドpSG-TDXを、TaKaRa Ligation Kitを用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAによって大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50 mg/L)を含むLB培地で生育させ、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製した。その結果、グルコース脱水素酵素とTdCR1を同時に発現可能なプラスミドであるpSG-TDR1を得た。
【0112】
プラスミド構築の過程を図8に示した。
【0113】
[実施例16]カルボニル還元酵素の活性確認
カルボニル還元酵素を発現するプラスミドpSE-TDR1とカルボニル還元酵素と枯草菌由来のグルコース脱水素酵素を共発現するプラスミドpSG-TDR1で形質転換された大腸菌JM109株をアンピシリンを含む液体LB培地で終夜30℃培養し、0.1 mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。
【0114】
菌体を遠心分離により集菌した後、0.5 M NaCl、0.02% 2-メルカプトエタノール、2 mM PMSF、10%グリセリンを含む50mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に懸濁し、超音波により菌体を破砕後、遠心分離により得られた上清を無細胞抽出液とした。無細胞抽出液を用いて3,4-ジメトキシフェニルアセトン還元活性とグルコース脱水素活性を測定した。なお、グルコース脱水素活性は、次のように測定した。100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、2.5 mM NAD+、100 mMグルコースおよび酵素を含む反応液中で30℃で行った。1Uは、上記反応条件において1分間に1 μmolのNADH生成を触媒する酵素量とした。
【0115】
各無細胞抽出液を用いて3,4-ジメトキシフェニルアセトン還元活性とグルコース脱水素酵素活性を測定した結果を表3に示した。いずれも3,4-ジメトキシフェニルアセトン還元活性を有することが確認された。
【0116】
【表3】
【0117】
[実施例17] サッカロマイセス・セレビジエからの染色体DNAの精製
サッカロマイセス・セレビジエ X2180-1B (Yeast Genetic Stock Center) をYM培地で培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Meth. Cell Biol. 29, 39-44 (1975) に記載の方法により行った。
【0118】
[実施例18] カルボニル還元酵素のホモログ YGL157w のクローニング
DDBJに登録されている予想タンパク質YGL157w (SWISS-PROT Accession No., P53111) に対応するDNA配列 (DDBJ Accession No. Z48618) を基にPCR用プライマーYGL1-ATG1(配列番号:14)、YGL1-TAA1 (配列番号:15)を合成した。
【0119】
プライマーを各25pmol、dNTP10nmol、サッカロマイセス・セレビジエ由来染色体DNA50ng、Pfu DNA polymerase用緩衝液 (STRATAGENE製)、Pfu DNA polymerase 2U (STRATAGENE製)を含む50μLの反応液を用い、変性(95℃、45秒)、アニール(55℃、30秒)、伸長(72℃、1分20秒)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いてPCRを行った結果、特異的な増幅産物が得られた。
【0120】
増幅産物をフェノール処理後、制限酵素BspHI, XbaIで2重消化し、制限酵素NcoI, XbaIで2重消化したベクターpSE420DとTAKARA Ligation Kitによりライゲーションした。ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製した。
【0121】
プラスミドの挿入DNA部分の塩基配列を解析し、その結果を配列番号:19に示した。得られた塩基配列は、DDBJに登録されている塩基配列と完全に一致した。得られたプラスミドをpSE-YGP7とした。配列番号:16の塩基配列から予想されるアミノ酸配列を配列番号:17に示した。プラスミド構築の過程を図9に示した。
【0122】
[実施例19] カルボニル還元酵素のホモログYGL157wと枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を共発現するプラスミドpSG-YGP7の構築
枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を含むプラスミドpSE-BSG1(特願2000-374593)をNheI、XbaIの2つの制限酵素で二重消化し、pSE-YGP7から同酵素で切り出したYGL157w遺伝子を含むDNA断片とTakara Ligation Kitを用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製し、グルコース脱水素酵素とYGL157wを同時に発現可能なプラスミドであるpSG-YGP7を得た。プラスミド構築の過程を図10に示した。
【0123】
[実施例20] カルボニル還元酵素のホモログ YGL039w のクローニング
DDBJに登録されている予想タンパク質YGL039w (SWISS-PROT Accession No. P53183) に対応するDNA配列 (DDBJ Accession No. Z72561) を基にPCR用プライマーYGL2-ATG2(配列番号:18)、YGL2-TAA2(配列番号:19)を合成した。
【0124】
プライマーを各25pmol、dNTP10nmol、サッカロマイセス・セレビジエ由来染色体DNA50ng、Pfu DNA polymerase用緩衝液 (STRATAGENE製)、Pfu DNA polymerase 2U (STRATAGENE製)を含む50μLの反応液を用い、変性(95℃、45秒)、アニール(50℃、30秒)、伸長(72℃、1分15秒)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いてPCRを行った結果、特異的な増幅産物が得られた。
【0125】
増幅産物をフェノール処理後、制限酵素BspHI, NheIで2重消化し、制限酵素NcoI, XbaIで2重消化したベクターpSE420DとTAKARA Ligation Kit によりライゲーションした。ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製した。プラスミドの挿入DNA部分の塩基配列を解析し、その結果を配列番号:20に示した。得られた塩基配列は、DDBJに登録されている塩基配列と完全に一致した。得られたプラスミドをpSE-YGD9とした。配列番号:20の塩基配列から予想されるアミノ酸配列を配列番号:21に示した。プラスミド構築の過程を図11に示した。
【0126】
[実施例21] カルボニル還元酵素のホモログYGL039wと枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を共発現するプラスミドpSG-YGD9の構築
pSE-YGD9をEcoRI、HindIIIの2つの制限酵素で二重消化し、枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を含むプラスミドpSE-BSG1(特願2000-374593)から同酵素で切り出したグルコース脱水素遺伝子を含むDNA断片とTakara Ligation Kitを用いてライゲーションした。
【0127】
ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製し、グルコース脱水素酵素とYGL039wを同時に発現可能なプラスミドであるpSG-YGD9を得た。プラスミド構築の過程を図12に示した。
【0128】
[実施例22] カルボニル還元酵素のホモログ YDR541c のクローニング
DDBJに登録されている予想タンパク質YDR541c (SWISS-PROT Accession No. U43834-5) に対応するDNA配列 (DDBJ Accession No. Z48239) を基にPCR用プライマーYDR-ATG1(配列番号:18)、YDR-TAA1 (配列番号:23)を合成した。
【0129】
プライマーを各25pmol、dNTP10nmol、サッカロマイセス・セレビジエ由来染色体DNA50ng、Pfu DNA polymerase用緩衝液 (STRATAGENE製)、Pfu DNA polymerase 2U (STRATAGENE製)を含む50μLの反応液を用い、変性(95℃、45秒)、アニール(52℃、30秒)、伸長(72℃、1分20秒)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー製)を用いてPCRを行った結果、特異的な増幅産物が得られた。
【0130】
増幅産物をフェノール処理後、制限酵素AflIII, XbaIで2重消化し、制限酵素NcoI, XbaIで2重消化したベクターpSE420DとTAKARA Ligation Kit によりライゲーションした。ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製した。プラスミドの挿入DNA部分の塩基配列を解析し、その結果を配列番号:27に示した。得られた塩基配列は、DDBJに登録されている塩基配列と完全に一致した。得られたプラスミドをpSE-YDR1とした。配列番号:24から予想されるアミノ酸配列を配列番号:25に示した。プラスミド構築の過程を図13に示した。
【0131】
[実施例23] カルボニル還元酵素のホモログYDR541cと枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を共発現するプラスミドpSG-YGP7の構築
pSE-YDR1をEcoRI、HindIIIの2つの制限酵素で二重消化し、枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を含むプラスミドpSE-BSG1(特願2000-374593)から同酵素で切り出したグルコース脱水素遺伝子を含むDNA断片とTakara Ligation Kitを用いてライゲーションした。
【0132】
ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製し、グルコース脱水素酵素とYDR541cを同時に発現可能なプラスミドであるpSG-YDR1を得た。プラスミド構築の過程を図14に示した。
【0133】
[実施例24] カルボニル還元酵素のホモログ YGL157w、YGL039w、YDR541c の活性確認
pSE-YGP7, pSE-YGD9, pSE-YDR1,pSG-YGP7, pSG-YGD9, pSG-YDR1をそれぞれ含有する大腸菌JM109株をアンピシリンを含むLB培地で培養し、0.1 mM IPTGにより誘導を4時間行い、遠心分離により集菌菌体を得た。
【0134】
それぞれの菌体を菌体破砕液(50mM KPB pH 8.0、1mM EDTA、0.02% 2-ME、2mM PMSF、10% Glycerol)に懸濁し、超音波により菌体を破砕後、遠心分離により得られた上清を無細胞抽出液とした。
【0135】
各無細胞抽出液を用いて3,4−ジメトキシフェニルアセトン還元活性を測定した結果を表4に示した。YGL157w(pSE-YGP7とpSG-YGP7)、YGL039w(pSE-YGD9とpSG-YGD9)、YDR541c(pSE-YDR1とpSG-YDR1)は、いずれも3,4−ジメトキシフェニルアセトン還元酵素活性を有することが確認された。
【0136】
【表4】
【0137】
[実施例25] カルボニル還元酵素のホモログ YGL157w, YGL039w, YDR541c による(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの合成実施例18で調製した粗酵素液をUF膜にて10倍に濃縮して酵素反応用の粗酵素液を調製した後、200mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、1mM NADP+、2U グルコース脱水素酵素(WAKO純薬)、250mM グルコース、0.2U ホモログ酵素、50mM 3,4−ジメトキシフェニルアセトンを含む反応液1mL中で、25℃で終夜反応させた。生成した(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの光学純度、および定量は実施例6と同様に行った。その結果、YGL157w(pSE-YGP7)は収率66%で93.7%ee、YGL039w(pSE-YGD9)は収率94%で93.6%ee、YDR541c(pSE-YDR1)は収率6%で94.8%eeの(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成した。
【0138】
【発明の効果】
光学活性アルコールなどの生産に有用な、NADPH依存性のカルボニル還元酵素が提供された。本酵素を利用することにより、3,4−ジメトキシフェニルアセトンからから光学純度の高い(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの効率的な生産方法が提供された。
【0139】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 SDS-PAGEにおけるパターンを示す図である。レーン1は分子量マーカー、レーン2は実施例1で得られた酵素を示す。
【図2】 実施例1で得られた酵素の3,4−ジメトキシフェニルアセトン還元活性のpH依存性を示す図である。白丸はBritton and Robinson広域Buffer、白三角は酢酸−酢酸ナトリウムBuffer、黒丸はリン酸カリウム緩衝液を表す。
【図3】 実施例1で得られた酵素の3,4−ジメトキシフェニルアセトン還元活性の温度依存性を示す図である。
【図4】 トルラスポラ・デルブレッキー由来のTdCR1の一部を導入したプラスミド(pSE-TDX)の構築図である。
【図5】 トルラスポラ・デルブレッキー由来のTdCR1の一部を導入したプラスミド(pUC-TDX)の構築図である。
【図6】 トルラスポラ・デルブレッキー由来のTdCR1の一部を導入したプラスミド(pSG-TDX)の構築図である。
【図7】 全TdCR1遺伝子を含み、TdCR1を発現可能なプラスミド(pSE-TDR1)の構築図である。
【図8】 グルコース脱水素酵素とTdCR1を同時に発現可能なプラスミド(pSG-TDR1)の構築図である。
【図9】 サッカロマイセス・セレビジエ由来のYGL157w遺伝子を導入したプラスミド(pSE-YGP7)の構築図。プラスミドのマップ中で、Pはtrcプロモーターを、T(rrnB)はrrnBT1T2ターミネーターを、ampはアンピシリン抵抗性を示すβ−ラクターゼ遺伝子を、oriはプラスミドの複製起源を、ropはROP−protein遺伝子を、laqIqはラクトースリプレッサーを表す。
【図10】 サッカロマイセス・セレビジエ由来のYGL157w遺伝子と枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を導入したプラスミド(pSG-YGP7)の構築図。プラスミドのマップ中で、Pはtrcプロモーターを、T(rrnB)はrrnBT1T2ターミネーターを、ampはアンピシリン抵抗性を示すβ−ラクターゼ遺伝子を、oriはプラスミドの複製起源を、ropはROP−protein遺伝子を、laqIqはラクトースリプレッサーを、BsGlcDHは枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を表す。
【図11】 サッカロマイセス・セレビジエ由来のYGL039w遺伝子を導入したプラスミド(pSE-YGD9)の構築図。プラスミドのマップ中で、Pはtrcプロモーターを、T(rrnB)はrrnBT1T2ターミネーターを、ampはアンピシリン抵抗性を示すβ−ラクターゼ遺伝子を、oriはプラスミドの複製起源を、ropはROP−protein遺伝子を、laqIqはラクトースリプレッサーを表す。
【図12】 サッカロマイセス・セレビジエ由来のYGL039w遺伝子と枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を導入したプラスミド(pSG-YGD9)の構築図。プラスミドのマップ中で、Pはtrcプロモーターを、T(rrnB)はrrnBT1T2ターミネーターを、ampはアンピシリン抵抗性を示すβ−ラクターゼ遺伝子を、oriはプラスミドの複製起源を、ropはROP−protein遺伝子を、laqIqはラクトースリプレッサーを、BsGlcDHは枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を表す。
【図13】 サッカロマイセス・セレビジエ由来のYDR541c遺伝子を導入したプラスミド(pSE-YDR1)の構築図。プラスミドのマップ中で、Pはtrcプロモーターを、T(rrnB)はrrnBT1T2ターミネーターを、ampはアンピシリン抵抗性を示すβ−ラクターゼ遺伝子を、oriはプラスミドの複製起源を、ropはROP−protein遺伝子を、laqIqはラクトースリプレッサーを表す。
【図14】 サッカロマイセス・セレビジエ由来のYDR541c遺伝子と枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を導入したプラスミド(pSG-YDR1)の構築図。プラスミドのマップ中で、Pはtrcプロモーターを、T(rrnB)はrrnBT1T2ターミネーターを、ampはアンピシリン抵抗性を示すβ−ラクターゼ遺伝子を、oriはプラスミドの複製起源を、ropはROP−protein遺伝子を、laqIqはラクトースリプレッサーを、BsGlcDHは枯草菌由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を表す。
Claims (8)
- 下記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:1に記載された塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド - 下記〔1〕および〔2〕に示す理化学的性状を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、下記(c)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
〔1〕作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を補酵素として、ケトンを還元し、光学活性アルコールを生成する。
〔2〕基質特異性
〔i〕還元反応の補酵素として還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を利用する。
〔ii〕3,4−ジメトキシフェニルアセトンを還元して、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを生成する。
〔iii〕3,4−ジメトキシフェニルアセトンに対して還元活性を有するが、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールに対して酸化活性を有しない。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号:1に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな65 ℃、 0.1 × SSC および 0.1 % SDS の条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド - 請求項1または2に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
- 請求項1または2に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
- さらに補酵素再生用脱水素酵素遺伝子を含む請求項4に記載の組換えベクター。
- 請求項1もしくは2に記載のポリヌクレオチド、または請求項4もしくは5に記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
- 請求項3に記載のタンパク質、または請求項6に記載の形質転換体をケトンに作用させ、光学活性アルコールを製造することを特徴とする、光学活性アルコールの製造方法。
- 請求項3に記載のタンパク質、または請求項6に記載の形質転換体を3,4−ジメトキシフェニルアセトンに作用させ、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールを製造することを特徴とする、(S)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−プロパノールの製造方法。
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