JP4199046B2 - 濾過部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばエアバックインフレータ用フィルタ等の巻線型フィルタのように複数層をなす素線同士が接合されて編目を形成した濾過部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両には衝突などによる急激な減速に伴いガスを瞬時に放出してバックを膨張させるエアバック装置が搭載されている。前記エアバック装置は、その作動に伴いガスを瞬時に放出する機能をもつインフレータと、該インフレータから放出したガスにより膨張して乗員を保護するためのバックとを備えている。そして、前記インフレータには、点火器及び該点火器の熱によって爆発的に燃焼してガスを発生するガス発生剤等と共に、このガス発生剤の燃焼により発生した高温で残渣を有するガスや液体を濾過及び冷却するためのエアバックインフレータ用フィルタが濾過部材として内装されている。このエアバックインフレータ用フィルタには、通常、金属製の丸線あるいは角線などの異形線(以下、「素線」という)を複数層に巻いて編目を有する筒状体に編み上げた巻線型フィルタが採用されている。即ち、この巻線型フィルタは、前記素線を筒状体となるように巻いたことで形成された編目の隙間をガスや液体が通過する際に濾過部材として機能するように構成されている。
【0003】
この種の巻線型フィルタにおいては、ガスや液体などが前記編目を通過する際の膨張、衝撃力により編目形状が崩れて濾過性能が変化するのを防止するため、通常、熱処理(焼結)により素線巻き付け後に編目を形成する素線同士の重なり合う部分を接合する。特に、エアバックで濾過部材として使用されるエアバックインフレータ用フィルタでは、非常に高温なガスが通過するため、強固な接合強度を付与する必要がある。そこで、近時においては、エアバックインフレータ用フィルタの要求性能により接合強度を向上させる製造方法として、焼結処理温度を高くしたり、焼結処理時間を長くしたり、又は焼結処理雰囲気ガスを変更したりする等の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
即ち、特許文献1では、巻線型フィルタを焼結処理する電気炉を備えており、当該電気炉内において前記巻線型フィルタを1150℃程度の高温で60分程度の時間を費やして焼結処理を行うことにより、その素線同士の重なり合う部分を接合するようにしている。尚、電気炉内は、焼結処理する際、1150℃程度の高温に保たれた窒素ガス等の雰囲気ガスで満たされ、焼結処理した後には、巻線型フィルタを炉の中で冷却するために常温程度まで温度が下げられる。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−171472号公報(第3−5頁、図4)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1において、常温の電気炉を1150℃という高温に昇温するには約1時間以上の時間を必要とする。このため、巻線型フィルタを生産しないときでも、電気炉を停止して温度を下げることはできず、電気炉を1日中連続稼働させなくてはならなかった。従って、電気炉による巻線型フィルタの焼結処理は効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、効率良い濾過部材の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、複数層をなす素線同士が重なり合って編目を形成した濾過部材の製造方法において、前記複数層のうち少なくとも一部の互いに隣接する特定層の素線同士を、高周波誘導加熱による加熱方法により接合することを要旨とする。
【0009】
また、請求項1に記載の発明は、前記特定層は、濾過部材における最外層と、当該最外層に対して径方向内側で隣接する層を少なくとも含んでいることを要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の濾過部材の製造方法において、高周波誘導加熱方法における発振周波数が、下記の式を満たすことを要旨とする。
【0012】
C2×ρ/(μr×B2)≦f≦C1×ρ/(μr×t2)
但し、f:発振周波数(Hz),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,t:素線の厚さ(m),B:濾過部材の厚さ(m),C1,C2は係数で、C1=12820,C2=51300
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をエアバック装置のインフレータに内装されるエアバックインフレータ用フィルタ(濾過部材の一種)の製造方法に具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態におけるエアバック装置(図示略)のインフレータ10の中央部分には、センサ(図示略)からの作動信号に基づき点火を行う点火器11と、この点火器11の点火により熱の発生を補助する可燃性の助燃剤12が装備されている。前記点火器11及び前記助燃剤12の外周部にはチャンバー部13が設けられており、前記点火器11及び前記助燃剤12により発生した熱が流れ込むようになっている。前記チャンバー部13内にはガス発生剤14が装備され、このガス発生剤14は、前記点火器11及び前記助燃剤12の作動により発生した熱によって爆発的に燃焼してガスを大量に発生し、そのガスをインフレータ10と共にエアバック装置に装備されたバック(図示略)に供給するようになっている。
【0015】
また、前記インフレータ10内には前記チャンバー部13を取り囲むように濾過部材であるフィルタ15が配置されている。そして、当該フィルタ15は前記ガス発生剤14の爆発的な燃焼により発生した高温のガスを冷却してバックに供給する冷却部材としての機能と共に、前記ガス中に含まれる残渣を濾過してバックにガス供給する濾過部材としての機能を有するものとされている。
【0016】
前記フィルタ15は、図2に示すように金属製の角線あるいは丸線などの異形線(以下、「素線」という)16を軸部材となる円筒状のボビン(図示略)に巻きつけて編目を形成した後、そのボビンを抜くことにより中空円筒状に作成される。本実施形態では、その一例として、鉄を主成分とした鉄線材を素線16とし、当該素線16を前記ボビンの外周面に500回巻いて(巻数:500)編目を形成した外径φ60mmで内径φ46mmの中空円筒状をなす巻線型のフィルタ15を例示している。また、この素線16は、角線であり、その横幅が0.3mmで、縦幅が0.68mmである(つまり、素線断面積は0.204mm2である)。尚、鉄線材の抵抗率ρは100×10-8Ω・mであり、比透磁率μrは1である。
【0017】
従って、このフィルタ15にあっては、金属製の素線16を巻くことにより形成された編目の隙間を、前記ガス発生剤14の爆発的な燃焼により発生した大量で高温なガスが通過する際に、前記ガスを冷却したり前記ガスに含まれる残渣を濾過したりすることが可能とされる。また、図2に示すように、巻き付け時における素線16の巻線間隔をピッチP、編目を形成するために互いに交差した素線16同士の巻き付け角を交差角θ、素線16のボビン軸方向に対する巻幅を巻幅L、互いに交差した素線16同士の接触して重なり合う部分を接触部Sと呼ぶことにする。
【0018】
ここで、濾過部材である前記フィルタ15の製造方法を説明する。まず、金属製の素線16を所定の張力が付与された状態にしてボビンの外周面にクロス巻きにて巻き付けて編目を形成する。巻き付け方法としては、巻き付ける素線16を巻幅L方向に動かしながら巻き付ける方法や、ボビンの軸部分を巻幅L方向に動かしながら素線16を巻き付ける方法等がある。前記フィルタ15の編目は、前記素線16のピッチP、巻幅L、交差角θ等をコンピュータシミュレーションにより最適な値を算出し、その最適な条件値で製造することにより、編目のパターンや巻き付け密度等を所望どおりにでき、多種多様な濾過機能の要請に応じた各種編目が形成される。
【0019】
次に、前記素線16の巻き終わり時には、当該素線16に未だ前記所定の張力がかかった状態で素線16の巻き終わり端部17を溶接、かしめ等で固定(接合)する。そして、軸部材であるボビンを抜くことにより中空円筒状の熱処理前フィルタを得る。その後、巻き付けにより複数層をなして交差する素線16同士の前記接触部Sを接続するために熱処理を行う。かかる熱処理は、高周波誘導加熱による加熱方法にて行う。
【0020】
ここで、高周波誘導加熱による加熱方法について説明する。図3(a)に示すように、搬送手段としての無端状ベルト31にて熱処理前のフィルタ15を高周波誘導加熱処理装置32に間欠的に搬送する。この高周波誘導加熱処理装置32は、フィルタ15を加熱する加熱ゾーン33と、加熱したフィルタ15を冷却する冷却ゾーン34とからなり、フィルタ15の投入口及び搬出口にそれぞれ開閉扉35を備えている。また、高周波誘導加熱処理装置32内は窒素雰囲気ガスで満たされており、開閉扉35は窒素雰囲気ガスが外部に流出しにくくするために、高周波誘導加熱処理装置32にフィルタ15が無端状ベルト31により搬入されるとき及び搬出されるときに開閉するようになっている。
【0021】
高周波誘導加熱処理装置32に搬入されたフィルタ15は、無端状ベルト31により加熱ゾーン33に搬送される。フィルタ15は、無端状ベルト31により加熱ゾーン33に搬送されると、所定の位置に停止する。フィルタ15が所定の位置に停止すると、図3(b)に示すように、無端状ベルト31に備えられた昇降機36が作動し、図4に示すように、無端状ベルト31の上方に配置された加熱コイル21の中に配置するようにフィルタ15を搬送する。そして、フィルタ15が加熱コイル21の中に配置されると、高周波誘導加熱処理装置32は、加熱コイル21に30秒程度高周波電流を流す(尚、図4において、実線で高周波電流を示す)。加熱コイル21に高周波電流が流されると、交番磁束が発生する(尚、図4において、破線で交番磁束を示す)。すると、フィルタ15にうず電流が流れ(図4において、一点鎖線でうず電流を示す)、うず電流損とヒステリシス損が生じてフィルタ15が発熱する。そして、前記接触部Sがその発熱に応じて接合する。その後、昇降機36が作動することによりフィルタ15は降下し、無端状ベルト31に戻される。次に、図3(c)に示すように、無端状ベルト31は、フィルタ15を冷却ゾーン34に搬送して30分程度冷却する。冷却を終えると、図3(d)に示すように無端状ベルト31は、フィルタ15を排出口から搬出する。
【0022】
ところで、高周波誘導加熱による加熱方法においては、加熱コイル21に高周波電流を流したときにフィルタ15に流れるうず電流の電流密度は、加熱コイル21に最も近い最外層18で最大となり、フィルタ15の内側に入るにつれて減少する性質(表皮効果)がある。加えて、うず電流の電流密度は、発振周波数が高くなるほど最外層18に集中し、加熱温度が高くなるという性質(近接効果)もある。つまり、高周波誘導加熱による加熱方法においては、フィルタ15の最外層18ほど加熱温度が高くなり、高周波電流の発振周波数を高くするほど、この傾向が顕著になりフィルタ15の内側まで加熱されなくなる。一方、フィルタ15は、隣接する層同士(より詳しくは、隣接する層を形成する素線16同士)が一定の接合強度を持って接合することによりガスや液体などが編目を通過する際の衝撃力を受けてもその形が一定に保たれる。従って、複数層からなるフィルタ15において、少なくとも一部の隣接する層同士が接合するように、高周波誘導加熱により最外層18からフィルタ15の径方向に向かって一定範囲内まで加熱温度を高める必要がある。このため、本実施形態では、加熱温度及び加熱範囲を左右する発振周波数を適切に定めるためにいくつかの条件を設定している。以下、それらの条件について説明する。
【0023】
高周波誘導加熱法において、発振周波数を選定するときは、透過深度との関係を考慮する必要がある。透過深度は、被加熱物の表面におけるうず電流の電流密度を基準として電流密度が37%となる位置のことであり、表面から透過深度までが均一に加熱されるということが知られている。この透過深度を求める理論式(1)は、次式のようになる。
【0024】
δ=503.3(ρ/(μr×f))0.5…(1)
但し、δ:透過深度(m),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,f:周波数(Hz)である。
【0025】
しかし、この理論式(1)は、均質な材料でできた円柱状の部材を被加熱物とした理想的な状態において適用することができるものであり、フィルタ15のように素線16を複数層に巻いて編目を有する筒状体に編み上げたものは部材の密度が不均一であるため、そのまま適用できず補正する必要がある。
【0026】
ここで、実際に素線16を複数層に巻くことにより得られたフィルタ15を周波数8KHzで高周波誘導加熱により加熱した場合における素線16一巻き当りの接合強度とフィルタ15の内周面(最内層19)からフィルタ15の径方向外側に向かったときの距離との関係を図5に示す。
【0027】
実線100が示すように、フィルタ15の外周面(最外層18)の近くに位置する接触部Sほど接合強度が高い。具体的には、フィルタ15の外周面、つまり、フィルタ15の内周面からの距離が7mmすなわち外周面の位置では、約45Nの接合強度を有する。そして、フィルタ15の径方向に沿って内側に近づくほど(0mm近傍ほど)その接合強度が小さくなる。接合強度は、一般に加熱温度が高ければ大きくなるので、高周波誘導加熱による加熱方法における性質(表皮効果)が現れているといえる。
【0028】
しかし、上記理論式(1)から求めた透過深度δの理論値は5.6mmとなる(尚、本実施形態では、被加熱物は鉄系材料であるので、抵抗率ρ=100×10-8,比透磁率μr=1としている)。もし、フィルタ15が均質な部材で有れば、外周面からフィルタ15の径方向に沿って透過深度まで均一に加熱されるのであるから、外周面から透過深度(即ち、図5において1.4mmから7mmの間)まではある程度の接合強度が得られるはずである。しかし、実際には実線100に示すように外周面から透過深度(理論値)に到達する前に接合強度が明らかに減少している。
【0029】
ところで、接合強度は、加熱温度と比例関係にあり、また、加熱温度と電流密度もまた比例関係にある。このため、外周面の近傍に位置する接触部Sの接合強度に対してその接合強度が37%となった接触部Sの位置を電流密度が37%に減少した位置、つまり、フィルタ15における実際の透過深度と推定することができる。
【0030】
そこで、接合強度が外周面の接合強度45Nの37%となった位置、即ち、接合強度が16.6Nになった位置を実験により得られた実線100から求めてみると、外周面から2.5mmの位置(内周面から4.5mm)がその位置に相当する。ここで、接合強度が37%となった位置をフィルタ15における実際の透過深度とみなすと、フィルタ15においては、透過深度の理論値が55%減少した値がフィルタ15における透過深度(つまり、理論値の45%が実際のフィルタ15における透過深度に相当する)ということになる。従って、透過深度の理論式(1)を次の実験式(2)のように補正することでフィルタ15における透過深度を求めることができる。
【0031】
Δ=0.45×503.3(ρ/(μr×f))0.5…(2)
但し、Δ:フィルタ15における透過深度(m),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,f:周波数(Hz)である。
【0032】
この実験式(2)から得られたフィルタ15の透過深度Δにより、発振周波数を変更した際に、フィルタ15の外周面からどこまで有効に加熱されるか、つまり、外周面からどこまでの接触部Sが所定値以上の接合強度で接合するかが判断できる。
【0033】
そして、フィルタ15は、その形状を一定に保つために複数層のうち少なくとも一部の互いに隣接する特定層の素線16同士が接合する必要があり、また、表皮効果よりフィルタ15の外周面に近いほど加熱するという特徴がある。このため、透過深度は、最外層18と最外層18に対して径方向内側で隣接する層が十分に加熱するように設定する必要がある。即ち、透過深度は、フィルタ15において最も外側の素線16と、当該素線16の次に外側の素線16が均一に加熱するように、外周面から2本分の素線16の厚さ以上である必要がある。さらに、フィルタ15の最外層18(外周面)から最内層19(内周面)までが加熱されれば十分であり、それ以上の範囲を加熱可能としても加熱効率が下がるだけであるので、フィルタ15の透過深度は、フィルタ15の径方向において最外層18から最内層19までの距離以下であれば十分である。従って、フィルタ15の透過深度Δは、次の条件式(3)を満たすようにすればよい。
【0034】
2t≦0.45×503.3(ρ/(μr×f))0.5≦B…(3)
但し、t:素線16の厚さ(m),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,f:周波数(Hz),B:フィルタ15の厚さ(m)である。
【0035】
尚、素線16の厚さとは、フィルタ15の径方向における素線16の断面の長さであり、また、フィルタ15の厚さとは、フィルタ15の径方向における最外層18から最内層19までの距離である。
【0036】
この条件式(3)を周波数について変形することで、次の条件式(4)のように高周波誘導加熱法における発振周波数の選定する際の条件を求めることができる。
【0037】
C2×ρ/(μr×B2)≦f≦C1×ρ/(μr×t2)…(4)
但し、t:素線16の厚さ(m),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,f:周波数(Hz),B:フィルタ15の厚さ(m),C1,C2は係数で、C1=12820,C2=51300である。
【0038】
この条件式(4)を満たす範囲内の発振周波数の交流電流を30秒ほど加熱コイル21に流すことにより、フィルタ15を構成する素線16同士の接触箇所の少なくとも一部が所定の接合強度を持って接合する。
【0039】
以上詳述したように本実施の形態は、以下の特徴を有する。
(1)加熱コイル21に高周波電流を流すことにより、フィルタ15は発熱し、素線16同士の接触部Sが接合する。焼結処理のように高温に熱した電気炉から伝わる熱伝導によりフィルタ15を加熱するのではないので、電気炉の場合とは異なり、炉内の温度を予め昇温する必要がない。従って、フィルタ15を製造するときのみに、高周波誘導加熱処理装置32を稼働させればよくなり、フィルタ15を製造する際の効率が良くなる。
【0040】
(2)電気炉でフィルタ15を焼結処理するにはおよそ60分程度の処理時間を要したが、高周波誘導加熱法においては、30秒という極めて短い処理時間で焼結処理とほぼ同程度の接合強度を得ることができる。このように、処理時間を大幅に短縮することができることにより、フィルタ15を製造する際の効率が良くなる。
【0041】
(3)焼結処理を行うために常温の電気炉を昇温する際には雰囲気ガスを炉内に満たしてから行わなくてはならなかったが、高周波誘導加熱による加熱方法では、高周波誘導加熱処理装置32内の温度を予め昇温する必要がないので、フィルタ15を製造するときのみに雰囲気ガスを供給すればよくなる。従って、雰囲気ガスの消費を少なくすることができ、フィルタ15の製造コストを低減することが可能となる。
【0042】
(4)高周波誘導加熱処理装置32の投入口及び搬出口にそれぞれ開閉扉35を設け、フィルタ15の搬入時及び搬出時にのみ開閉扉35を開閉するようにした。このため、高周波誘導加熱処理装置32内に供給される雰囲気ガスの消費が少なくなり、フィルタ15の製造コストを低減することができる。
【0043】
(5)一般的に焼結処理を行う電気炉においては、フィルタ15の温度を上げる加熱ゾーンとフィルタ15の温度を均一にする均熱ゾーンを必要とするため、電気炉の全長が長くなっていた。しかし、高周波誘導加熱処理装置32においては、フィルタ15を間欠的に搬送し、加熱しているときには、フィルタ15を停止しているので、全長を短くすることができる。
【0044】
(6)電気炉においては、電気炉全体を加熱することによりフィルタ15を加熱するので、炉壁材などの炉自体が耐えられる温度の限界がフィルタ15の加熱温度の上限である。しかし、高周波誘導加熱法においては、加熱時におけるフィルタ15自体の温度に対して雰囲気温度は低いために壁材等の温度上昇は少なく、発振周波数が同じでも加熱時間や出力を増加すれば壁材自体の構造が耐えられる限界以上の温度にフィルタ15を加熱することが可能である。つまり、壁材自体が耐えられる温度が同じ場合、高周波誘導加熱法は、電気炉による焼結処理に比べ設定することができる加熱温度の自由度が高く、フィルタ15をより高温で加熱することができる。
【0045】
(7)複数層のうち少なくとも最外層18の素線16と最外層18に対して径方向内側で隣接する層の素線16とを接合した。このため、ガスや液体などが編目を通過する際の衝撃力を受けても、フィルタ15の形状が確実に保たれ、フィルタ15の濾過性能が低下しない。
【0046】
(8)高周波誘導加熱による加熱方法において、高周波電流の発振周波数の選定は加熱効率等に大きな影響を与えるが、フィルタ15の仕様によって適当な発振周波数が異なるため、発振周波数の選定に手間がかかっていた。しかし、実験から得られた条件式(4)を適用することにより、フィルタ15の仕様を変更しても、複数層のうち少なくとも一部の互いに隣接する特定層の素線16同士を所定の接合強度を持って接合させ、かつ、加熱効率がよい発振周波数の選定を容易にすることが可能となる。
【0047】
なお、上記実施形態は、次のような別の実施形態(別例)にて具体化できる。
○上記実施形態では、発振周波数の選定範囲は、条件式(4)を満たす範囲内であったが、下記の式(5)を満たすならば、条件式(4)を必ずしも満たす必要はない。
【0048】
0<f≦C1×ρ/(μr×t2)…(5)
但し、f:発振周波数(Hz),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,t:素線の厚さ(m),C1は係数で、C1=12820である。
【0049】
この式(5)を利用すれば、複数層のうち少なくともフィルタ15の最外層18の素線16と該最外層18に対して径方向内側に隣接する層の素線16とが接合する発振周波数を選定することが容易にできる。
【0050】
○上記実施形態では、高周波電流を加熱コイル21に30秒だけ流したが、処理時間を30秒に限定するわけではなく、素線16の接触部Sが接合するように、フィルタ15の形状等に併せて処理時間を変更しても良い。尚、一般に処理時間を長くすれば加熱温度を容易に高くすることができ、さらに熱伝導によりフィルタ15の径方向内側に位置する接触部Sを接合することができる。
【0051】
○上記実施形態では、窒素雰囲気ガス内でフィルタ15を高周波誘導加熱による加熱を行ったが、雰囲気ガスは、非酸化雰囲気ガスならば、窒素雰囲気ガスに限られない。
【0052】
○上記実施形態において、濾過部材の最外層18の素線16と当該最外層18に対して径方向内側で隣接する層の素線16との接触部Sだけがフィルタ15の形状を保つのに十分な接合強度を有するように加熱コイル21に流す高周波電流の発振周波数を設定しても良い。このようにすれば、ガスや液体などが前記編目を通過する際の衝撃力を受けてもフィルタ15の形状が確実に保たれ、また、必要最小限の範囲だけを加熱するので、加熱効率も良くなる。
【0053】
以上に記載した実施形態及び別例から得ることができる技術的思想について開示する。
(イ)高周波誘導加熱方法における発振周波数は、濾過部材の最外層の素線と、当該最外層に対して径方向内側で隣接する層の素線との接触部だけが所定値以上の接合強度をもって接合する周波数であることを特徴とする請求項1に記載の濾過部材の製造方法。
【0054】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、効率よく濾過部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 インフレータの断面図。
【図2】 フィルタの斜視図。
【図3】 (a)は搬入時の高周波誘導加熱処理装置の概念図、(b)は加熱時の高周波誘導加熱処理装置の概念図、(c)は冷却時の高周波誘導加熱処理装置の概念図、(d)は搬出時の高周波誘導加熱処理装置の概念図。
【図4】 加熱コイルの斜視図。
【図5】 内周面からの距離と素線間の接合強度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
10…インフレータ、15…フィルタ(濾過部材)、16…素線、18…フィルタの最外層、21…加熱コイル、31…搬送手段としての無端状ベルト、32…高周波誘導加熱処理装置、35…開閉扉、S…接触部。
Claims (2)
- 複数層をなす素線同士が重なり合って編目を形成した濾過部材の製造方法において、前記複数層のうち少なくとも一部の互いに隣接する特定層の素線同士を、高周波誘導加熱による加熱方法により接合し、前記特定層は、濾過部材における最外層と、当該最外層に対して径方向内側で隣接する層を少なくとも含んでいることを特徴とする濾過部材の製造方法。
- 高周波誘導加熱方法における発振周波数が、下記の式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の濾過部材の製造方法。
C2×ρ/(μr×B 2 )≦f≦C1×ρ/(μr×t 2 )
但し、f:発振周波数(Hz),ρ:抵抗率(Ω・m),μr:比透磁率,t:素線の厚さ(m),B:濾過部材の厚さ(m),
C1,C2は係数で、C1=12820,C2=51300
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