JP4193757B2 - 超高強度ラインパイプ用鋼板およびその製造方法ならびに溶接鋼管 - Google Patents
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また、特許文献2には、低温靭性及の優れた引張強さ950MPa超のラインパイプ用鋼材が開示されている。
1)760MPa以上の超高強度鋼板は、シャルピー吸収エネルギー値やDWTT延性破面率が良好であっても、不安定延性破壊抵抗性に欠けている原因は、加速冷却処理を施したままで使用されていたために鋼板表層部の組織が適切でなく亀裂近傍の延性領域の広がりが制限されるからである。
本発明は上記の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(2)質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.5%以下、Mn:1〜2.5%、P:0.01%以下、P:0.01%以下、S:0.005%以下、Mo:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.06%、Ti:0.004〜0.015%、sol.Al:0.05%以下、N:0.001〜0.005%を含み、さらにNi:0.1〜2.5%、Cu:1.5%以下、Cr:0.1〜1%、V:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.002%のうちの1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、下記(2)式で表されるPcm2値が0.16〜0.30%の範囲にあり、板厚中心部の平均旧オーステナイト粒径が18μm以下であり、かつベイナイト、マルテンサイト、又はその両者の混合組織からなる鋼板であって、かつ焼き戻しマルテンサイト組織を80%以上含む組織が、鋼板表裏面部に合計で板厚割合で少なくとも5%以上30%以下の部分を占めることを特徴とする引張強さが750MPa以上である、超高強度ラインパイプ用鋼板。
(3)Feの一部に代えて、質量%でZr:0.03%以下およびCa:0.003%以下の1種または2種を含有する上記(1)または(2)に記載の超高強度ラインパイプ用鋼板。
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼板からなる引張強さが750MPa以上である超高強度ラインパイプ用溶接鋼管。
(1) 金属組織
平均旧オーステナイト粒径:
平均旧オーステナイト粒径(D)を18μm以下としたのは、粒径が18μmを超えると、超高強度の不安定延性破壊抵抗性優れた鋼板は得られないからである。
粒径が小さいほど変態後の組織も細かくなり、変態後の組織が細かいことが、不安定延性破壊抵抗性に優れた超高強度ラインパイプ用鋼板を得るためには必要不可欠である。望ましくは15μm以下である。
鋼板の表裏面の表層部を適切に加熱処理して焼戻しマルテンサイト組織にすることにより不安定延性破壊抵抗を高めることができると共に、鋼板をパイプに成形するときに、超高強度鋼板のために生ずる割れや曲がりにくさを緩和することができ、製管能率を上げることができる。
板厚の30%超に亘ってマルテンサイト組織にすると、強度の低下をもたらし、また熱処理コストや熱処理に掛かる時間が長くなり、経済性を損なうと同時に、強度低下や溶接性、溶接HAZ靭性の低下をもたらすからである。一方、5%未満では、板厚全体に占める割合が小さすぎ、焼戻しマルテンサイト組織の十分な効果が得られないから下限は5%とした。なお、全て焼戻しマルテンサイト組織にして超高強度を得るためには高合金化する方法も考えられるが、高合金化すれば溶接性や溶接HAZ靭性の劣化をもたらす可能性があるのでこの方法は採用できない。
本発明の焼戻しについては、主として加熱による焼戻し処理が好ましいが、Ms点から室温までの過程を利用する「自己焼戻しあるいは自動焼戻し」も可能である[「レスリー鉄鋼材料学」(同)p242参照]。この場合、「自己焼戻しあるいは自動焼戻し」については、マルテンサイト変態後の温度およびその後の冷却過程を制御する必要がある。加熱による焼戻し処理の場合、このような制御の困難さがなく、品質管理が容易におこなえる利点がある。
「ベイナイト」は、パーライトとマルテンサイトとの中間で生じる組織であり、等温変態によって生じる組織として研究されてきた[「第3版 鉄鋼便覧 I 基礎」(S56.6.20 丸善)P461参照]。その後、本発明に関係する制御圧延、加速冷却の加工オーステナイトからの変態組織が研究され、その組織形態の類似性から、加工オーステナイトからの変態組織についても、ベイナイトの名称が使われている[「鉄鋼の変態挙動 ―実用材料の変態と性質―」(H1.10.2 日本鉄鋼協会)P11,P58など参照]。
上部ベイナイトは、比較的高温で生じるベイナイトでラス状フェライトとラス状フェライト境界の棒状ないし針状の炭化物が特徴である。
加工CCT図は、「鉄鋼の変態挙動 ―実用材料の変態と性質―」(同)の3章「加工オーステナイトからのCCT図解説」P139にあるように、測定装置の開発により、加工CCT図が容易に得られるようになっており、また、「加工オーステナイトからのCCT図集」が4章に収められているので、類似の組成の鋼については、これを利用することができる。また、通常のCCT図集は、金属データブック(S49.7.20. 丸善)などを利用することができる。
(2)化学組成
鋼板の化学組成を限定した理由について説明する。なお、各元素の含有量を示す%は「質量%」である。
Cは鋼板の強度を確保するために必要な元素であり、0.02%未満では十分な強度を確保することができず、0.1%を超えると靭性および不安定延性破壊抵抗性を劣化させる。したがって、C含有量は0.02〜0.1%とした。
Siは脱酸のために添加するが、0.5%を超えて含有させると靭性や溶接性を劣化させる。したがって、Si含有量は0.5%以下とした。
Mnは鋼の強度および靭性を向上させる効果があり、1%未満ではその効果が十分ではなく、一方2.5%を超えると溶接性が劣化する。したがって、Mn含有量は1〜2.5%とした。
Pは不可避不純物元素で溶接性を劣化させる。この傾向は0.01%を超えると顕著となので、P含有量は0.01%以下とした。
Sは鋼中においては一般にMnS系の介在物となり、不安定延性破壊抵抗性を劣化させる。また、Ca添加によりMnS系からCaS系介在物に形態制御されるが、Sの含有量が多いとCaS系介在物の量も多くなり、不安定延性破壊抵抗性を劣化させる。この傾向は、S量が0.005%を超えると顕著となる。したがって、S含有量は0.005%以下とした。
Moは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.8%を超えて含有させると溶接性や不安定延性破壊抵抗性を劣化させる。したがって、Mo含有量の上限は0.8%とした。一方、0.1%以上含有させないと靭性の改善と強度の上昇効果が小さいので、下限を0.10とした。
Nbは圧延時や焼入れ時の粒成長を抑制し、微細粒化により靭性を向上させる効果がある。しかし、Nb含有量が0.005%未満ではその効果がなく、0.06%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化する。したがって、Nb含有量は0.005〜0.06%とした。
TiはTiNを形成して溶接HAZ部の靭性を改善する効果がある。しかし、Ti含有量が0.004%未満ではその効果がなく、0.015%を超えると靭性が劣化する。したがって、Ti含有量は0.004〜0.015%、好ましくは0.005〜0.015%とした。
Alは脱酸剤として添加するが、0.05%を超えて含有させると清浄度の低下により不安定延性破壊抵抗性を劣化させる。したがって、Al含有量は0.05%以下とした。
NはTiNを形成して溶接HAZ部の靭性を改善する効果がある。しかし、N含有量が0.001%未満ではその効果がなく、0.0050%を超えると靭性が劣化する。したがって、N含有量は0.001〜0.005%とした。
以下の元素は必要により含有させることができる。
これらの元素は、強度を高める効果があるので必要により1種以上含有させてもよい。
Niは強度を高める効果がある他に靱性改善効果もある。しかし、高価な元素であり2.5%を超えて含有させてもコスト上昇の割りには効果が小さい。したがって、Niを含有させる場合は2.5%以下とした。一方、0.1%以上含有させないと靭性改善と強度向上効果が小さいので、下限は0.1%とした。
ZrおよびCaは溶接HAZ部の靭性改善に効果を発揮する元素であり、必要により少なくとも1種含有させてもよい。
溶接割れ感受性組成Pcmは、X65級以上の強度を確保するためには0.16%以上が必要であので、下限を0.16%とした。一方、0.3%を超えると、溶接性が悪くなるんで、上限を0.3%とした。ただし、溶接性を重視する場合、上限を0.25%とすることが好ましい。Pcmは化学組成により次の2つの式を使い分ける必要がある。
Pcm2=C+Si/30+Mn/20+Ni/60+Mo/15+Cu/20+Cr/20+V/10+5B
なお、本発明の鋼の残部は実質的に鉄であり、上記以外の元素及び不可避不純物については、本発明の効果を損なわない限り含有することができる。
加熱温度:
鋼片の加熱温度が、950℃未満では鋼の変形抵抗が大きく、所定の圧延仕上げ温度を確保することができないだけでなく、目標の強度が得られなくなる場合も生ずるため下限を950℃とした。一方、1200℃を超える温度では、鋼のオーステナイト粒径が粗大化して圧延後の鋼の靭性を劣化させるだけでなく、エネルギー効率が悪くなるうえスラブの表面酸化による圧延スケールも著しいので、上限を1200℃とした。
圧延後、焼入れ組織とするために加速冷却処理を施すが、加速冷却とは水などの冷却媒体を用いて空冷より早い速度で鋼板を冷却することをいう。
昇温速度が3℃/s未満の速度では、昇温に時間が掛かりすぎ、昇温途中で鋼材の特性が影響を受けてしまい、安定して所定の特性を確保できなくなるので、昇温速度の下限を3℃/s以上とした。上限は特に限定しないが、加熱手段の能力により上限は必然的に制限されることになる。
圧延後の昇温方法については誘導加熱装置や直接または反射式加熱バーナを用いた加熱炉を用いるなどの方法があるが、この内誘導加熱が、本発明の加速冷却によって硬化した鋼板表面組織の焼戻し処理に対し好適である。
超高強度ラインパイプ用溶接鋼管は、本発明で規定した鋼板を冷間加工または温間加工によって、鋼管の形状に成形した鋼板の端部同士を溶接によって接合することにより製造した鋼管である。通常は、室温での冷間成形がおこなわれる。しかし、冬期などでは冷間成形時に鋼板に割れを生じることがあり、室温以上のそれほど高くない温度に鋼板を熱して加工をおこなうことがある。これを温間加工という。
平均旧オーステナイト粒径の計測は、圧延方向に平行でかつ板面に垂直な鋼材面について、板厚中心部近傍を500倍の倍率で観察し、板厚方向に100mm(実寸:0.2mm)の直線を5本引き、直線の交点数をカウントし、平均切片長さを求め、同様の作業を5回以上繰り返し実施し、求めた平均切片長さを平均旧オーステナイト粒径とした。金属組織の調査結果は表2に示す通りであった。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.5%以下、Mn:1〜2.5%、P:0.01%以下、S:0.005%以下、Mo:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.06%、Ti:0.004〜0.015%、sol.Al:0.05%以下、N:0.001〜0.005%を含み、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、下記(1)式で表されるPcm1値が0.16〜0.3%の範囲にあり、
板厚中心部の平均旧オーステナイト粒径が18μm以下であり、かつベイナイト、マルテンサイト、又はその両者の混合組織からなる鋼板であって、かつ焼き戻しマルテンサイト組織を80%以上含む組織が、鋼板表裏面部に合計で板厚割合で少なくとも5%以上30%以下の部分を占めることを特徴とする引張強さが750MPa以上である、超高強度ラインパイプ用鋼板。
Pcm1=C+Si/30+Mn/20+Ni/60+Mo/15 (1) - 質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.5%以下、Mn:1〜2.5%、P:0.01%以下、P:0.01%以下、S:0.005%以下、Mo:0.1〜0.8%、Nb:0.005〜0.06%、Ti:0.004〜0.015%、sol.Al:0.05%以下、N:0.001〜0.005%を含み、さらにNi:0.1〜2.5%、Cu:1.5%以下、Cr:0.1〜1%、V:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.002%のうちの1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、下記(2)式で表されるPcm2値が0.16〜0.30%の範囲にあり、
板厚中心部の平均旧オーステナイト粒径が18μm以下であり、かつベイナイト、マルテンサイト、又はその両者の混合組織からなる鋼板であって、かつ焼き戻しマルテンサイト組織を80%以上含む組織が、鋼板表裏面部に合計で板厚割合で少なくとも5%以上30%以下の部分を占めることを特徴とする引張強さが750MPa以上である、超高強度ラインパイプ用鋼板。
Pcm2=C+Si/30+Mn/20+Ni/60+Mo/15+Cu/20+Cr/20+V/10+5B (2) - Feの一部に代えて、質量%でZr:0.03%以下およびCa:0.003%以下の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の超高強度ラインパイプ用鋼板。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の超高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の化学組成を有する鋼片を、950〜1200℃の温度範囲に加熱し、熱間圧延を施した後、850〜650℃の範囲内の温度から少なくとも450℃の温度まで加速冷却処理を施し、その後、焼き戻しマルテンサイト組織を80%以上含む組織が、鋼板表裏面部に合計で板厚割合で少なくとも5%以上30%以下の部分を占めるように、3℃/s以上の昇温速度にて鋼板表層部のみを400〜700℃までの温度に昇温し、その温度で60s以下の保持をおこなう昇温と保持の処理を1回以上することを特徴とする、超高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。 - 加速冷却処理後の昇温を誘導加熱装置により実施することを特徴とする、請求項4に記載の超高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板からなる引張強さが750MPa以上である超高強度ラインパイプ用溶接鋼管。
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