JP4183047B1 - 遺伝子及び薬剤の送達に利用可能な自己会合型磁性脂質ナノ粒子及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 脂溶性界面活性剤で被覆された磁性体ナノ結晶と脂溶性薬剤から構成される、薬物送達システム等に応用可能な、自己会合型の磁性脂質ナノ粒子の製造方法を提供する。特に、自己会合型とすることにより製造工程の簡略化を図り、粒子組成の変更による磁性脂質ナノ粒子の高性能化等を容易とする。
【解決手段】 脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射によりwater in oil型の逆ミセルを得る。逆ミセルに引き続き超音波照射を行いながら、急速かつ強力な減圧を行うことにより、脂溶性有機溶媒を除去することを特徴とする自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【解決手段】 脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射によりwater in oil型の逆ミセルを得る。逆ミセルに引き続き超音波照射を行いながら、急速かつ強力な減圧を行うことにより、脂溶性有機溶媒を除去することを特徴とする自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法を提供する。
【選択図】図1
Description
本発明は、自己会合型の磁性脂質ナノ粒子の製造方法に関する。
医学分野において、薬物の病巣部への運搬を目指した薬物送達システムが開発されてきたが、未だ決定的なものは存在しない。特に、2006年度ノーベル賞受賞テーマであるsiRNA(短鎖干渉RNA)の機能の解明以降、siRNAは新規遺伝子治療用薬剤としても大変期待されているが、「患部へのsiRNAの運搬法」の開発研究は非常に遅れている。
その状況の中で、外部エネルギーである磁場による磁性体の集積を利用した薬物送達システムが近年開発されている。該薬物送達システム(非特許文献1)の主要なもののひとつとして、ポリエチレンイミンで被覆した磁性体ナノ結晶(非特許文献2)が挙げられる。
しかしながら、ポリエチレンイミンを主原料とするナノ粒子は全般的に、(1)ポリエチレンイミンの強い毒性のため生体内の利用は大幅に制限される、(2)生体外の利用においても、ポリエチレンイミン自体の構造変更等による薬物送達システムの性能向上は容易ではない、といった解決すべき技術課題を有する。さらに、ポリエチレンイミンを主原料をするナノ粒子を用いた遺伝子治療の臨床治験は報告されていないため、すなわち、過去の臨床治験データが存在しないため、ポリエチレンイミンを主原料とするナノ粒子の遺伝子治療への早急な臨床応用は非常に困難である。
一方、脂質を主原料とするナノ粒子は、(1)脂質の選択により毒性を回避することが容易である、(2)ナノ粒子の材料として選択可能な脂質は無数に存在するため、脂質の種類、組み合わせ及び比率の選択により、薬物送達システムの高性能化が容易である(非特許文献3)、といった特長をもつ。さらに、脂質を主な原料とするナノ粒子を用いた遺伝子治療の臨床治験は、これまでも数多く存在する。
そのため、磁場により集積可能な磁性脂質ナノ粒子を開発することができれば、核酸等の病巣部への安全、高性能かつ臨床応用可能な次世代薬物送達システムとして利用することが可能となる。特に、製造方法の簡略化等が可能な、自己会合型の磁性脂質ナノ粒子の開発が望まれる。
一方、工業分野において、脂溶性界面活性剤で被覆された磁性体ナノ結晶を含有する脂溶性磁性流体(特許文献1、非特許文献4)は、1960年代のアポロ計画の際に宇宙服の可動部のシール部品等として開発されて以降、各種ダンパーやスピーカーの構成部品、ハードディスクドライブの潤滑用シール部品等として、今日、広範に利用されている。
本発明の課題は、脂溶性界面活性剤で被覆された磁性体ナノ結晶と脂溶性薬剤から構成される、薬物送達システム等に応用可能な、自己会合型の磁性脂質ナノ粒子の製造方法を提供することにある。特に、自己会合型とすることにより磁性脂質ナノ粒子の製造工程の簡略化を図り、粒子組成の変更による磁性脂質ナノ粒子の高性能化等を容易とする。
本発明者は、脂質ナノ粒子を構成する脂質の種類及び組み合わせを選択することにより比較的容易に薬物送達システムの性能向上が可能であることを既に報告している(非特許文献3)。本発明者は、異分野である工業分野において主に利用されている脂溶性磁性流体(特許文献1、非特許文献4)の方法論を、脂質ナノ粒子の作製技術に応用することにより、上記課題を解決しうるという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、(A)脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射等により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを得る工程;及び(B)上記逆ミセルに引き続き超音波照射等を行うことにより、比重の高い磁性体ナノ結晶の均一な分散を維持した状態で、急速かつ強力な減圧を行う。該減圧により、脂溶性有機溶媒を急速に蒸発させることにより、磁性体ナノ結晶を被覆する上記界面活性剤の疎水基と脂溶性薬剤の疎水基同士の速やかな疎水結合による自己会合を促す。該自己会合により脂溶性薬剤の親水基をナノ粒子の最外層に表出させることにより、ナノ粒子に親水性を付与し、水溶液中で分散性の高い自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得る自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法を提供する。自己会合型とすることにより、磁性脂質ナノ粒子の調整の簡略化を図り、粒子構成脂質組成等の変更による磁性脂質ナノ粒子の高性能化を容易とする製造方法となる。
本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法は、(A)脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水あるいは水溶性薬剤の溶解した水溶液等を添加し、超音波照射等により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを得る工程;及び(B)上記逆ミセルに引き続き超音波照射等を行うことにより、比重の高い磁性体ナノ結晶の均一な分散を維持した状態で、急速かつ強力な減圧を行う。該減圧により、脂溶性有機溶媒を急速に蒸発させることにより、磁性体ナノ結晶を被覆する上記界面活性剤の疎水基と脂溶性薬剤の疎水基同士の速やかな疎水結合による自己会合を促す。該自己会合により脂溶性薬剤の親水基をナノ粒子の最外層に表出させることにより、ナノ粒子に親水性を付与し、水溶液中で分散性の高い自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得ることを特徴とする。
図1は、本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法の工程を図示したものである。図1に示すように、本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法においては、(A)脂溶性薬剤等を溶解させた脂溶性磁性流体と水溶液の混合物からwater in oil型の逆ミセルを得る工程及び(B)上記逆ミセルの超音波照射下での減圧により、自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得る工程からなる。
先ず、本発明において用いられる脂溶性磁性流体について説明する。脂溶性磁性流体は、磁性体ナノ結晶、磁性体ナノ結晶を被覆する脂溶性界面活性剤及び脂溶性有機溶媒から構成される。脂溶性界面活性剤で被覆された磁性体ナノ結晶はブラウン運動や界面活性剤の電荷による反発力等を介して脂溶性有機溶媒中に均一に分散する。
本発明において用いられる脂溶性磁性流体を構成する磁性体ナノ結晶の種類については、例えば、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(Fe2O3)、一酸化鉄(FeO)、鉄(Fe)、ニッケル、コバルト、コバルト白金クロム合金、バリウムフェライト合金、マンガンアルミ合金、鉄白金合金、鉄パラジウム合金、コバルト白金合金、鉄ネオジムボロン合金、及びサマリウムコバルト合金等特に限定されず、脂溶性界面活性剤により被覆することのできるものは全て用いることができるが、生体内利用を目的とした場合、毒性による有害事象回避のため、マグネタイト、マグヘマイト、一酸化鉄、鉄等の使用が好ましい。また、必要に応じて二種種以上の磁性体ナノ結晶を混合して用いることも可能である。
本発明において用いられる脂溶性磁性流体を構成する脂溶性界面活性剤の種類としては、例えば、オレイン酸、リノレイン酸、リノレン酸等炭素数18の脂溶性不飽和脂肪酸が好ましい。その中でも二重結合数が最小である、すなわち、酸化耐性の高いオレイン酸が好ましい。但し、脂溶性磁性流体を作製可能であれば、界面活性剤の種類に何ら制限なく用いることができる。また、必要に応じて二種種以上の界面活性剤を混合して用いることも可能である。
本発明において用いられる脂溶性磁性流体を構成する脂溶性有機溶媒の種類としては、例えば、クロロホルム、n−ヘキサン等、比較的低沸点の減圧により蒸発しやすい、脂溶性界面活性剤で被覆された磁性体ナノ結晶の安定した分散が可能であり、かつ脂溶性薬剤の溶解可能な非極性脂溶性有機溶媒が好ましい。但し、脂溶性薬剤の溶解可能な脂溶性磁性流体を作製可能であれば、脂溶性有機溶媒の種類に何ら制限なく用いることができる。また、必要に応じて二種種以上の有機溶媒を混合して用いることも可能である。
本発明において用いられる脂溶性薬剤については、脂溶性磁性流体に溶解可能かつ自己会合型磁性脂質ナノ粒子を作製可能であれば、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、不飽和あるいは飽和の脂肪酸、脂溶性抗癌剤、脂溶性光感受性物質、脂溶性造影剤等何ら制限なく用いることができる。また、必要に応じて、二種種以上の脂溶性薬剤を混合して用いることも可能である。
本発明において用いられるリン脂質としては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等)及びこれらの水素添加物等が挙げられる。
本発明において用いられる糖脂質としては、例えば、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガンクリオシド、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド等)、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等)等が挙げられる。
本発明において用いられるステロールとしては、例えば、動物由来ステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等)、植物由来ステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等)、微生物由来ステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール等)等が挙げられる。
本発明において用いられる飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸等の炭素数12〜20の不飽和または飽和の脂肪酸が挙げられる。
本発明において用いられる脂質は、中性脂質、陽性荷電脂質および陰性荷電脂質に分類され、中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられる。陽性荷電脂質としては、例えば、DOTAP(1,2−dioleoyloxy−3−trimethylammonio propane)、DC−6−14(O,O‘−ditetradecanoyl−N−(alpha−trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride、DC−Chol(3beta−N−(N,N,−dimethyl−aminoethane)carbamol cholesterol)、TMAG(N−(alpha−trimethylammonioacetyl)didodecyl−D−glutamate chloride)、DOTMA(N−2,3−di−oleyloxypropyl−N,N,N−trimethylammonium)、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DDAB(didodecyl−ammonium bromide)、DOSPA(2,3−dioleyloxy−N−[2(sperminecarboxamido)ethyl]−N,N−dimethyl−1−propanaminum trifluoroacetane)等が挙げられる。
生体内利用を目的とする場合、自己会合型磁性脂質ナノ粒子表面に親水性ポリマーを有することが好ましい。自己会合型磁性脂質ナノ粒子表面に親水性ポリマーを修飾することにより血管内滞留時間を延長することが可能になる。自己会合型磁性脂質ナノ粒子を構成する脂質に対する親水性ポリマーの含有量は、特に限定されないが、1〜10%(モル比)、好ましくは7〜10%(モル比)である。自己会合型磁性脂質ナノ粒子を構成する脂質は、親水性ポリマーの主鎖末端に結合するのが好ましいが、側鎖に結合していても良い。
本発明において用いられる該親水性ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、例えば、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール)、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナン等が挙げられるが、ポリアルキレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコールがさらに好ましい。
本発明において用いられる親水性ポリマーがポリアルキレングリコールである場合、その分子量は、通常300〜10000、好ましくは1000〜5000である。
本発明において用いられる親水性ポリマーには、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等)、ヒドロキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基等の置換基が導入されていても良い。
自己会合型磁性脂質ナノ粒子構成脂質と親水性ポリマーとは、自己会合型磁性脂質ナノ粒子構成脂質が有する官能基と親水性ポリマーが有する官能基とを反応させることにより、共有結合を介して結合させることができる。共有結合を形成可能な官能基の組み合わせとしては、例えば、アミノ基/カルボキシル基、アミノ基/ハロゲン化アシル基、アミノ基/N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、アミノ基/ベンゾトリアゾールカーボネート基、アミノ基/アルデヒド基、チオール基/マレイミド基、チオール基/ビニルスルホン基等が挙げられる。
次に、本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法について、工程毎に説明する。先ず、上記工程(A)について説明する。上記工程(A)は、脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射等により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを得る工程である。
上記工程(A)においては、先ず脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整する。脂溶性磁性流体を得る方法としては、従来公知の方法を何ら制限なく用いることができる。脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることができれば、いかなる方法を用いてもよいが、本発明においてはペプチゼーション法を用いることが好ましい。ペプチゼーション法により、短時間のうちに磁性体ナノ結晶は脂溶性界面活性剤にて均一に被覆され脂溶性有機溶媒中に分散することにより脂溶性磁性流体を形成する。
ペプチゼーション法については、従来公知の方法により実施することができる。以下、ペプチゼーション法による脂溶性磁性流体の調整について簡単に説明する。ペプチゼーション法は、磁性体ナノ結晶析出工程と、脂溶性界面活性剤による磁性体ナノ結晶被覆工程とに分けられる。以下、マグネタイトナノ結晶をオレイン酸で被覆し、クロロホルムに分散させる場合について説明する。マグネタイトナノ結晶析出工程は、鉄イオンを含有する水溶液のアルカリ化により行われる。かかる脂溶性界面活性剤によるマグネタイトナノ結晶被覆工程は、得られたマグネタイトナノ結晶表面を脂溶性界面活性剤で被覆することにより脂溶性有機溶媒中でマグネタイトナノ結晶の均一な分散が可能な脂溶性磁性流体を調整するために行われる工程である。
ペプチゼーション法におけるマグネタイトナノ結晶析出工程は、一般的に2価及び3価の塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等鉄塩を含有する水溶液をアルカリ処理することによりナノサイズのマグネタイト結晶を得るための工程である。アルカリ処理はアンモニア水の添加により行われることが好ましい。但し、マグネタイトナノ結晶を析出可能であれば、鉄塩の種類あるいはアルカリ処理の方法に何ら制限なく用いることができる。
次に、ペプチゼーション法における脂溶性界面活性剤による磁性体ナノ結晶被覆工程について説明する。ペプチゼーション法における脂溶性界面活性剤による磁性体ナノ結晶被覆工程は、先ず、アンモニア過剰のマグネタイトスラリーに灯油に溶解したオレイン酸を加え良く攪拌することにより、オレイン酸を水溶性のオレイン酸アンモニウムに置換する。この操作により、マグネタイトナノ結晶表面の水酸基とオレイン酸アンモニウムのカルボキシル基が結合する。攪拌を続けながらセ氏95度まで加温を行っていくと、セ氏78度にてオレイン酸アンモニウムはアンモニアガスを発生しながら脂溶性のオレイン酸に分解するため上層の灯油層と下層の水層の2相に分離する。この分解により、マグネタイトナノ結晶はオレイン酸で被覆されかつ灯油層に分散するようになる。
オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶が分散する灯油層を取出し、アセトン等の極性有機溶媒を加えることによりフロキュレーションさせ、さらに永久磁石あるいは遠心分離によるフロキュレーションの回収を行う。回収したフロキュレーションにアセトンを加え、永久磁石あるいは遠心分離によるフロキュレーションの洗浄を行うことにより余剰のオレイン酸を除去する。続いて、永久磁石あるいは遠心分離によるフロキュレーションの回収ののち、減圧によりアセトンを蒸発させることにより、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶を乾燥させる。
得られたオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶にクロロホルムを加え、クロロホルム中にオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶を再分散させることにより、脂溶性磁性流体を得る。
本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法における脂溶性界面活性剤による磁性体ナノ結晶被覆工程においては、上述したペプチゼーション法等のように、磁性体ナノ結晶析出工程により得られた磁性体ナノ結晶表面を脂溶性界面活性剤で被覆することにより脂溶性有機溶媒中で磁性体ナノ結晶の均一な分散が可能な脂溶性磁性流体を形成する。
上記工程(A)は、脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射等により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを得る工程である。引き続き、上述のペプチゼーション法により得られたクロロホルムベースの脂溶性磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射等により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを得る工程について説明する。以下、得られたクロロホルムベースの脂溶性磁性流体に、リン脂質、陽性荷電脂質を溶解させ、さらに水を加えた混合物からwater in oil型の逆ミセルを得る工程について説明する。
上述のペプチゼーション法により得られたクロロホルムベースの脂溶性磁性流体にリン脂質、陽性荷電脂質を溶解させ、さらに水を加えた混合物に超音波照射等を行うことにより、リン脂質、陽性荷電脂質が溶解したクロロホルムベースの脂溶性磁性流体中に水の小滴が分散したwater in oil型の逆ミセルを得る。尚、超音波照射直前に、ボルテックス法等により混合物を良く攪拌させたのち超音波照射を行うのが好ましい。さらに好ましくは、ボルテックス法による攪拌の際に、ガラスビーズを用いることにより攪拌の効率を高めることが可能となる。この攪拌は、超音波照射によるwater in oil型の逆ミセルの形成をより円滑にするものである。また、water in oil型の逆ミセルは放置により逆ミセル径の拡大を惹起するため、工程(B)の直前まで、超音波照射を継続するのが好ましい。
上述した工程(A)により、脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤等を溶解させ、さらに水溶液等を添加し、超音波照射等により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを形成する。
次に、上記工程(B)について説明する。上記工程(B)は、上記工程(A)で得られた逆ミセルに引き続き超音波照射等を行うことにより、比重の高い磁性体ナノ結晶の均一な分散を維持した状態で、急速かつ強力な減圧を行う。該減圧により、脂溶性有機溶媒を急速に蒸発させることにより、磁性体ナノ結晶を被覆する上記界面活性剤の疎水基と脂溶性薬剤の疎水基同士の速やかな疎水結合による自己会合を促す。該自己会合により脂溶性薬剤の親水基をナノ粒子の最外層に表出させることにより、ナノ粒子に親水性を付与し、水溶液中で分散性の高い自己会合型磁性脂質ナノ粒子を形成する。以下、リン脂質、陽性荷電脂質が溶解したクロロホルムベースの脂溶性磁性流体中に水の小滴が分散したwater in oil型の逆ミセルから、自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得る場合について説明する。
上記工程(A)により得られたリン脂質、陽性荷電脂質が溶解したクロロホルムベースの脂溶性磁性流体中に水の小滴が分散したwater in oil型の逆ミセルに対し超音波照射等を継続あるいは断続して行うことにより逆ミセル径の拡大を防止したうえで、真空ポンプ等を用いて、急速かつ強力な減圧を行う。該減圧による有機溶媒の蒸発の過程で、磁性体ナノ結晶の濃縮が生じ、比重の大きな磁性体ナノ結晶の逆ミセルからの分離が起こりやすくなるが、超音波照射処理の継続により該分離は防止される。さらに、効果的に該分離を防止するためには、急速かつ強力な該減圧が好ましい。すなわち、急速かつ強力な該減圧は、磁性体ナノ結晶の逆ミセルからの分離が始まる前に有機溶媒をほぼ完全に蒸発させることにより、安定した自己会合型磁性脂質ナノ粒子を形成する。
本発明において用いられる水溶性薬剤については、緩衝塩(例えば、リン酸緩衝塩、クエン酸緩衝塩、酢酸緩衝塩等)、糖類、多価アルコール、水溶性高分子、非イオン性界面活性剤、抗酸化剤、水和促進剤、pH調整剤等、自己会合型磁性脂質ナノ粒子を作製可能であれば、何ら制限なく用いることができる。
本発明においては、逆ミセルの形成および維持において用いられる超音波照射装置は、自己会合型磁性脂質ナノ粒子の原料の酸化防止、超音波発生装置の構成金属等の混入防止のため、開放型超音波発生装置でなく、カップホーン型等の密閉型の高出力超音波発生装置であることが好ましい。但し、逆ミセルの形成および維持が可能であれば、超音波照射装置の種類に何ら制限無く用いることができる。
上述した工程(B)により、工程(A)で得られた逆ミセルに引き続き超音波照射等を行うことにより、比重の高い磁性体ナノ結晶の均一な分散を維持した状態で、急速かつ強力な減圧を行う。該減圧により、脂溶性有機溶媒を急速に蒸発させることにより、磁性体ナノ結晶を被覆する上記界面活性剤の疎水基と脂溶性薬剤の疎水基同士の速やかな疎水結合による自己会合を促す。該自己会合により脂溶性薬剤の親水基をナノ粒子の最外層に表出させることにより、ナノ粒子に親水性を付与し、水溶液中で分散性の高い自己会合型磁性脂質ナノ粒子を形成する。
自己会合型磁性脂質ナノ粒子の磁気誘導による送達を目的とする物質は、特に限定されるものではなく、例えば、核酸(例えば、DNA、RNA、またはこれらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸、ホスホロチオエートDNA等)、ペプチド、タンパク質、薬物(例えば、抗癌剤、光感受性物質、造影剤等)、糖、これらの複合体等が挙げられる。尚、該核酸の形態は、一本鎖又は二本鎖、線状又は環状等、特に限定されない。
送達を目的とする物質が核酸である場合、陰性荷電をもつ核酸と自己会合型磁性脂質ナノ粒子を構成する陽性荷電脂質の静電的相互作用を介して、自己会合型磁性脂質ナノ粒子−核酸複合体を形成し、該複合体の磁気誘導による標的への送達が可能となる。但し、目的物質が送達可能であれば、自己会合型磁性脂質ナノ粒子に目的物質を結合する方法については、特に限定されることなく利用することが可能である。
目的物質を結合した、又は、目的物質との複合体を形成した自己会合型磁性脂質ナノ粒子は、目的物質の細胞内送達用運搬体として使用することが可能である。
目的物質を送達すべき標的細胞が由来する生物種は、例えば、動物、植物、微生物等、特に限定されることはないが、動物由来であることが好ましく、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット等、哺乳動物であることがより好ましい。また、該標的細胞の種類は、例えば、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等、特に限定されない。
目的物質を結合した、又は、目的物質との複合体を形成した自己会合型磁性脂質ナノ粒子は、生体内、生体外のいずれにおいても使用することができる。生体内で使用する場合、投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、門脈内、実質臓器内(例えば、脳、目、甲状腺、乳腺、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、副腎、卵巣、精巣等)、管腔臓器の管腔内(例えば、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、大腸、胆嚢、尿管、膀胱内等)、脳脊髄腔内、胸腔内、腹腔内、筋肉内、関節内、皮下、皮内等、特に限定されない。
目的物質を結合した、又は、目的物質との複合体を形成した自己会合型磁性脂質ナノ粒子の標的細胞への送達後、該標的細胞による自己会合型磁性脂質ナノ粒子の取り込み効率を向上させるため、必要に応じて、細胞膜表面の受容体と結合可能な物質(例えば、抗体またはその断片(例えば、Fab断片、F(ab)‘2断片、単鎖抗体等)、インスリン、トランスフェリン、葉酸、ヒアルロン酸、糖鎖、アポリポタンパク(例えば、アポA−1、アポB−48、アポB−100、アポE等)、成長因子(例えば、上皮成長因子、肝細胞成長因子、線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子等)等、特に限定されることなく自己会合型磁性脂質ナノ粒子表面に結合することが可能である。
特開昭49−84998
特公2006−167521
特公2006−167521
本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法を用いて、自己会合型磁性脂質ナノ粒子を製造した場合、脂質ナノ粒子を磁場により集積させることが可能になるので、遺伝子、抗癌剤、光感受性物質等、各種薬剤等の送達システム等として用いることができる。本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子は、従来技術であるポリエチレンイミン被覆磁性体ナノ結晶と比較して、組成の変更によるナノ粒子の高性能化や毒性の回避が容易であり、用途に応じた設計の自由度が高い。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1(工程A)
0.04モルの塩化鉄(I)4水和物と0.08モルの塩化鉄(II)6水和物を脱イオン水50mlに溶解した。得られた塩化鉄水溶液を室温にて、スターラーバー及び温度調節可能なスターラー装置を用いて激しく攪拌しながらアンモニア水50mlを毎秒1から2mlの速度で加えたところ、マグネタイトナノ結晶のスラリーを得た。さらにスターラーバーにより攪拌を続けながら、セ氏95度まで熱し、10質量%のオレイン酸を含む灯油55mlを毎秒2から3mlの速度で加えた。この過程で、脂溶性のオレイン酸は水溶性のオレイン酸アンモニウムに置換され、マグネタイトナノ結晶表面の水酸基とオレイン酸アンモニウムのカルボキシル基が結合する。さらに、生じたオレイン酸アンモニウムはセ氏78度にてアンモニアガスを発生しながらオレイン酸へと分解されるため、マグネタイトナノ結晶は脂溶性のオレイン酸で被覆され、上層の灯油層へ均一に分散した。均一な分散を確認した後、塩化アンモニウムを大量に含む下層の水層の大半をパスツールピペットで取り除き、水層が完全に蒸発するまでセ氏95度にて加熱を続けた。得られた灯油層のうち10mlを200ml容積のビーカーに入れ、100mlのアセトンを加えることにより、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶をフロキュレーションさせた。ビーカー外部より、1.4テスラの永久磁石をあて5分間室温に放置することによりフロキュレーションを磁気的に集積させた。該磁石をビーカー外部にあてフロキュレーションを集積させたまま上清をデカンテーションにより廃棄した。得られたフロキュレーションに80mlのアセトンを加え、1から2分間軽く攪拌した後、再度同様に磁石を用いて上清をデカンテーションにより廃棄することにより、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶から余剰のオレイン酸を取り除いた。さらに、真空オーブンを用いてセ氏25度、50mmHgの減圧処理を8時間行うことによりオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶からアセトンを完全に取り除いた。ガスクロマトグラフィーによる解析を行ったところ得られたオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶は19.2重量%のオレイン酸を含有していた。得られたオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶10mgをクロロホルム10mlに再分散させることにより、脂溶性磁性流体を形成した。
0.04モルの塩化鉄(I)4水和物と0.08モルの塩化鉄(II)6水和物を脱イオン水50mlに溶解した。得られた塩化鉄水溶液を室温にて、スターラーバー及び温度調節可能なスターラー装置を用いて激しく攪拌しながらアンモニア水50mlを毎秒1から2mlの速度で加えたところ、マグネタイトナノ結晶のスラリーを得た。さらにスターラーバーにより攪拌を続けながら、セ氏95度まで熱し、10質量%のオレイン酸を含む灯油55mlを毎秒2から3mlの速度で加えた。この過程で、脂溶性のオレイン酸は水溶性のオレイン酸アンモニウムに置換され、マグネタイトナノ結晶表面の水酸基とオレイン酸アンモニウムのカルボキシル基が結合する。さらに、生じたオレイン酸アンモニウムはセ氏78度にてアンモニアガスを発生しながらオレイン酸へと分解されるため、マグネタイトナノ結晶は脂溶性のオレイン酸で被覆され、上層の灯油層へ均一に分散した。均一な分散を確認した後、塩化アンモニウムを大量に含む下層の水層の大半をパスツールピペットで取り除き、水層が完全に蒸発するまでセ氏95度にて加熱を続けた。得られた灯油層のうち10mlを200ml容積のビーカーに入れ、100mlのアセトンを加えることにより、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶をフロキュレーションさせた。ビーカー外部より、1.4テスラの永久磁石をあて5分間室温に放置することによりフロキュレーションを磁気的に集積させた。該磁石をビーカー外部にあてフロキュレーションを集積させたまま上清をデカンテーションにより廃棄した。得られたフロキュレーションに80mlのアセトンを加え、1から2分間軽く攪拌した後、再度同様に磁石を用いて上清をデカンテーションにより廃棄することにより、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶から余剰のオレイン酸を取り除いた。さらに、真空オーブンを用いてセ氏25度、50mmHgの減圧処理を8時間行うことによりオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶からアセトンを完全に取り除いた。ガスクロマトグラフィーによる解析を行ったところ得られたオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶は19.2重量%のオレイン酸を含有していた。得られたオレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶10mgをクロロホルム10mlに再分散させることにより、脂溶性磁性流体を形成した。
得られた磁性流体のうち0.4mlを20ml容積のナシ型フラスコに入れ、ジオレオイルフォスファチジルエタノールアミン(Dioleoylphosphatidyl ethanolamine、以下「DOPE」という、SIGMA社から購入した)0.516mg及びN−[1−(2,3−ジオレオイロキシ)プロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(N−[1−(2,3−dioleoyloxy)propyl]−N,N,N−trimethylammonium chloride、以下「DOTAP」という、SIGMA社から購入した)0.484mgを加え良く攪拌する。得られた混合物に0.6mlのクロロホルムを加え、全容が1mlになるように調整する。さらに、1mlの蒸留水および1mm径のガラスビーズ30個を加え、酸化防止のためナシ型フラスコ内をアルゴンガスで置換後、ガラス栓による密封後、温浴槽を用いてセ氏37度まで加温する。該加温後、ボルテックスミキサーを用いて最大振動数にて1分間攪拌を行い、ガラス栓を外し、その直後に、ロータリーエバポレーターに接続する。ロータリーエバポレーターの回転数を最大にすると同時にナシ型フラスコ部分を、カップホーン型ソニケーターのカップに入れ、最大出力で超音波照射を1分間行う。尚、該カップ部には、セ氏37度の湯水を予め循環させておく。該超音波照射により、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶、DOPE、DOTAP及びクロロホルムから構成される脂溶性磁性流体中に蒸留水の小水滴が分散する逆ミセルを形成する。
(工程B)
上記の超音波照射後、さらに最大出力で超音波照射を継続しながら、ロータリーエバポレーターに接続した真空ポンプを用いて50mmHgまで最大速度にて急速に減圧を行う。この減圧により、上記逆ミセルよりクロロホルムの蒸発が起こり、マグネタイトナノ結晶を被覆するオレイン酸の疎水基、DOPEの疎水基及びDOTAPの疎水基同士が疎水結合により結合する。該結合により、DOPE及びDOTAPが親水基をナノ粒子最外層に向けて、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶表面を被覆することにより、蒸留水中で安定して分散する自己会合型磁性脂質ナノ粒子を形成する。尚、上述したクロロホルムの蒸発の過程で、ナシ型フラスコ内部における逆ミセルの飛散を伴うため、必要に応じてフラスコ内部をアルゴンガス等の不活性ガスで置換することにより常圧に戻した後、フラスコをロータリーエバポレーターから外し、ガラス栓で密栓し、回転遠心機を用いた遠心分離により飛散した逆ミセルをフラスコ底部に集める。
上記の超音波照射後、さらに最大出力で超音波照射を継続しながら、ロータリーエバポレーターに接続した真空ポンプを用いて50mmHgまで最大速度にて急速に減圧を行う。この減圧により、上記逆ミセルよりクロロホルムの蒸発が起こり、マグネタイトナノ結晶を被覆するオレイン酸の疎水基、DOPEの疎水基及びDOTAPの疎水基同士が疎水結合により結合する。該結合により、DOPE及びDOTAPが親水基をナノ粒子最外層に向けて、オレイン酸被覆マグネタイトナノ結晶表面を被覆することにより、蒸留水中で安定して分散する自己会合型磁性脂質ナノ粒子を形成する。尚、上述したクロロホルムの蒸発の過程で、ナシ型フラスコ内部における逆ミセルの飛散を伴うため、必要に応じてフラスコ内部をアルゴンガス等の不活性ガスで置換することにより常圧に戻した後、フラスコをロータリーエバポレーターから外し、ガラス栓で密栓し、回転遠心機を用いた遠心分離により飛散した逆ミセルをフラスコ底部に集める。
得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子からクロロホルムを取り除くため、ロータリーエバポレーターを用いて、セ氏20度の温浴槽にて15分間、10mmHgの減圧処理を行う。尚、該減圧により、蒸留水の蒸発が生じるため、必要に応じてフラスコ内部をアルゴンガス等の不活性ガスで置換することにより常圧に戻した後、フラスコをロータリーエバポレーターから外し、蒸発量に応じた蒸留水を加えよく攪拌する。得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子分散水に全容が1.4mlになるように蒸留水を加えよく攪拌することにより1mg/mlの濃度の自己会合型磁性脂質ナノ粒子を形成する。得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子のネガティブ染色後透過型電子顕微鏡(JEM1200EX、JEOL)写真を図2に示す。図2に示すように、本発明により得られた磁性脂質ナノ粒子は自己会合型であり、マグネタイトナノ結晶を脂質が被覆する構造を有していた。また、光散乱分光測定器(ELS−8000,大塚電子)による粒径計測では、得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子の平均直径は358.2nmであり、電子顕微鏡写真の結果と一致した。以上の結果から、自己会合による磁性脂質ナノ粒子の形成に成功したことを確認した。
実施例2
得られた磁性流体に加える脂溶性薬剤として、O,O‘−ジテトラデカノイル−N−(アルファ−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロライド(O,O‘−ditetradecanoyl−N−(alpha−trimethyl−ammonioacetyl)diethanolamine chloride、第一製薬から供与を受けた)0.690mg及びDOPE0.310mgを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得た。得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子も、電子顕微鏡による解析では、実施例1で得られたものと同様の形状を有していたが、より小さなナノ粒子径を有していた(図3)。また、光散乱分光測定器による測定では、得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子の平均直径は165.8nmであり、電子顕微鏡写真の結果と一致した。以上の結果から、自己会合による磁性脂質ナノ粒子の形成に成功したことを確認した。
得られた磁性流体に加える脂溶性薬剤として、O,O‘−ジテトラデカノイル−N−(アルファ−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロライド(O,O‘−ditetradecanoyl−N−(alpha−trimethyl−ammonioacetyl)diethanolamine chloride、第一製薬から供与を受けた)0.690mg及びDOPE0.310mgを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得た。得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子も、電子顕微鏡による解析では、実施例1で得られたものと同様の形状を有していたが、より小さなナノ粒子径を有していた(図3)。また、光散乱分光測定器による測定では、得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子の平均直径は165.8nmであり、電子顕微鏡写真の結果と一致した。以上の結果から、自己会合による磁性脂質ナノ粒子の形成に成功したことを確認した。
実施例3
本実施例では、ヒト細胞における全てのメッセンジャーRNA(mRNA)を阻害しないことが確認されている遺伝子配列をもつsiRNAであるAllstars Transfection Control siRNA(キアゲン社より購入した、以下「siRNAControlという)を陰性コントロールとして、また、ハウスキーピンク遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(glycer−aldehyde 3−phosphate dehydrogenase(GAPDH)のmRNAを阻害することが確認されている遺伝子配列をもつsiRNAであるAllstars Transfection GAPDHsiRNA(キアゲン社より購入した、以下「siRNAGAPDH」という)を陽性コントロールとして使用した。
本実施例では、ヒト細胞における全てのメッセンジャーRNA(mRNA)を阻害しないことが確認されている遺伝子配列をもつsiRNAであるAllstars Transfection Control siRNA(キアゲン社より購入した、以下「siRNAControlという)を陰性コントロールとして、また、ハウスキーピンク遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(glycer−aldehyde 3−phosphate dehydrogenase(GAPDH)のmRNAを阻害することが確認されている遺伝子配列をもつsiRNAであるAllstars Transfection GAPDHsiRNA(キアゲン社より購入した、以下「siRNAGAPDH」という)を陽性コントロールとして使用した。
血清及び抗生物質を含まないRPMI1640培地に懸濁したヒト胃癌細胞株KATOIII(1.0×104細胞/100μl)を96穴細胞培養プレート上にて12時間培養した。実施例2で得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子分散液0.375μlに合計25μlになるようRPMI1640培地を加え、5分間室温でインキュベートした。得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子/RPMI1640分散液に、300nMの濃度のsiRNA(siRNAControl又はsiRNAGAPDH)25μlを加え、10分間室温でインキュベートした。上記96穴細胞培養プレート上のKATOIIIの培養液を除去後、得られた50μl自己会合型磁性脂質ナノ粒子/siRNA複合体を加えた。
上記複合体を添加した培養プレート底面のウェル部に、直径6mm、長さ8mmの円柱形の0.2テスラのネオジム磁石を圧着させることこより細胞に磁場を照射し、10分間37度で培養を行った(磁場照射群)。又は、磁場を照射せず、10分間37度で培養を行った(磁場非照射群)。引き続き、上記複合体を除去後、血清及び抗生物質を含まないRPMI1640培地を200μl加え、48時間培養を行った。
上記培養液を除去し、さらに250μlのリン酸緩衝生理食塩水で細胞を2回洗浄後、細胞溶解処理後にGAPDH酵素定量を行った。細胞溶解処理及びGAPDH酵素定量は、GAPDH酵素定量用細胞溶解液(アンビオン社より購入した)及びGAPDH酵素定量用試薬キット(KDalert試薬キット、アンビオン社より購入した)、蛍光吸光度計(パーキンエルマー社)を用いて、該キットのマニュアルに従い行った。
上記により、GAPDH酵素活性を定量したところ、「siRNAGAPDH+非磁場照射」群は「siRNAControl+磁場照射」群(すなわち、陰性コントロール群)の96.1%のGAPDH酵素活性を示した(すなわち、自己会合型磁性脂質ナノ粒子による非磁場照射下でのGAPDH酵素阻害効果はわずか3.9%であった)。一方、「siRNAGAPDH+磁場照射」群は、「siRNA(Control+磁場照射」群(すなわち、陰性コントロール群)の43.6%のGAPDH酵素活性を示した(すなわち、自己会合型磁性脂質ナノ粒子による磁場照射下でのGAPDH酵素阻害効果は56.4%であり、非磁場照射下の14倍以上の阻害効果を示した)。以上の結果から、自己会合型磁性脂質ナノ粒子は、siRNAの磁気誘導型運搬体として有用であることを確認した。
以上説明したように、本発明の自己会合型磁性脂質ナノ粒子は、構成する脂溶性薬剤の種類や混合比を変更することにより、細胞や動物組織への遺伝子導入等のバイオテクノロジー分野での利用、遺伝子・薬物の患部への送達による疾患の治療用だけでなく、患部に集積した自己会合型磁性脂質ナノ粒子の微量磁気検出装置による検出・患部に集積した放射性同位元素あるいは造影剤を含有させた自己会合型磁性脂質ナノ粒子の検出による疾患の診断用にも使用可能である。
Claims (5)
- (A)脂溶性界面活性剤で被覆した磁性体ナノ結晶を脂溶性有機溶媒に分散させることにより脂溶性磁性流体を調整し、該磁性流体に脂溶性薬剤を溶解させ、さらに水溶液を添加し、超音波照射により磁性体ナノ結晶が均一に分散するwater in oil型の逆ミセルを得る工程;及び
(B)上記逆ミセルに引き続き超音波照射を行うことにより、比重の高い磁性体ナノ結晶の均一な分散を維持した状態で、急速かつ強力な減圧を行い、該減圧により脂溶性有機溶媒を急速に蒸発させ、該蒸発により磁性体ナノ結晶を被覆する上記界面活性剤の疎水基と脂溶性薬剤の疎水基同士の速やかな疎水結合による自己会合を促し、該自己会合により脂溶性薬剤の親水基をナノ粒子の最外層に表出させることにより、ナノ粒子に親水性を付与し、水溶液中で分散性の高い自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得る自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法。 - 上記脂溶性磁性流体及び上記脂溶性薬剤の量及び比率、又は反応温度を変化させることにより自己会合型磁性脂質ナノ粒子を得る、請求項1に記載の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法。
- 上記超音波照射は、比重の高い磁性体ナノ結晶の均一な分散の維持を目的に、連続的あるいは断続的に行われる、請求項1から2のいずれか1項に記載の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法。
- 上記減圧は、減圧強度及び減圧速度を変化させることにより、磁性ナノ粒子の自己会合を促す、請求項1から3のいずれか1項に記載の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法。
- 請求項1から4のいずれか1項に記載の自己会合型磁性脂質ナノ粒子の製造方法により得られた自己会合型磁性脂質ナノ粒子。
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