つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機構を含む駆動系統について説明すると、この発明は、車両に搭載される駆動系統を対象とすることができ、その駆動系統に含まれる無段変速機構は、ベルトをトルク伝達部材としたベルト式の無段変速機構や、パワーローラをトルク伝達部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機構である。図23には、ベルト式無段変速機構1を含む車両用駆動系統の一例を模式的に示しており、この無段変速機構1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して、動力源4に連結されている。
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との内周側の部分には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
このトルクコンバータ3は、この発明におけるクラッチに相当するロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図23に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
無段変速機構1は、従来知られているベルト式無段変速機構と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機構1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト15との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
無段変速機構1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
上記の無段変速機構1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の回転数(ロックアップクラッチ11の入力回転数)を検出して信号を出力するエンジン回転数センサー27、タービンランナー7の回転数(ロックアップクラッチ11の出力回転数)を検出して信号を出力するタービン回転数センサー28、駆動プーリー19の回転数を検出して信号を出力する入力回転数センサー29、従動プーリー20の回転数を検出して信号を出力する出力回転数センサー30などが設けられている。
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
上記の無段変速機構1を含む駆動系統を対象としたこの発明に係る制御装置は、前記のロックアップクラッチ11を無段変速機構1に対するいわゆるトルクヒューズとして機能させるように構成されている。これは、具体的には、トルクの変化が少ない定常走行状態あるいは準定常走行状態において、その時点に作用しているトルクで滑りが生じないように無段変速機構1のトルク容量およびロックアップクラッチ11のトルク容量を設定し、かつ各々のトルク容量(伝達トルク)のいわゆる余裕すなわち滑りが生じない範囲で最低のトルク容量に安全を見込んで付与されている余裕トルク容量が、無段変速機構1におけるよりもロックアップクラッチ11で小さくなるように設定する。これは、駆動系統に作用するトルクが増大(正方向に増大)もしくは低下(負方向に増大)した場合に、無段変速機構1に先行してロックアップクラッチ11に滑りを生じさせて無段変速機構1の滑りを防止する制御である。
この発明に係る制御装置は、この種のクラッチを無段変速機構1に対していわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を以下のようにして実行する。図1ないし図6はその制御例を示すフローチャートであり、図7はその制御を実行した場合の回転数、ロックアップクラッチ11の係合圧(油圧)、無段変速機構1における伝達トルクを決定するベルト挟圧力の変化を示すタイムチャートである。
この発明では、ロックアップクラッチ11の伝達トルクに余裕を与えるようにその係合圧(油圧)を設定するにあたり、先ず、ロックアップクラッチ11が安定的にオン制御されていることから制御を始める。これが、制御の前提条件であり、したがって図1に示すように、先ず、その制御前提条件の成立が判断される(ステップS110)。
ここで、安定的にオン制御されているとは、その時点の通常の走行状態で滑りを生じることなく係合状態を維持する係合圧が設定され、しかもその係合圧が過渡的な圧力でなく、安定して維持されている状態である。後述するように、係合状態から滑りが生じる直前の状態もしくは滑りの開始の係合圧にまで係合圧を低下させる制御をおこなうからである。
この制御前提条件が成立する状態は、図7のt1 時点以前の状態として示してある。すなわちエンジン回転数Ne およびタービン回転数Nt がほぼ一定に安定しており、またロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)の油圧が滑りの生じない程度に高い圧力に一定しており、さらにベルト挟圧力がベルト滑りの生じない程度に高い圧力に一定している。これは、通常の走行状態での制御内容であり、図7には「phase0」として示してある。なお、この「phase 」とは実行するべき制御内容に付した記号であり、図1ないし図6のフローチャートでは制御ステップの行き先を示すようにも機能する。
上記のステップS110で肯定的に判断された場合には、制御開始条件が成立したか否かが判断される(ステップS120)。制御開始条件が成立したことが判断された場合、すなわちステップS120で肯定的に判断された場合には、「phase 」が“1”とされる(ステップS130)。なお、既に制御開始条件が成立している場合には、ステップS120で否定的に判断され、その場合はステップS130を飛ばしてステップS140に進む。
ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして作用させる制御は、エンジン4から入力される駆動トルク(あるいは正トルク)や駆動輪26側から掛かる負トルクが安定している場合に可能であり、したがって定常状態もしくは準定常状態を条件として制御をおこなう。これが制御開始条件である。その定常状態もしくは準定常状態とは、アクセル開度(図示しないアクセルペダルの踏み込み量)や無段変速機構1の出力側のトルク(例えば従動プーリー20の軸トルク)の所定時間内の変化が所定範囲内であることである。そして、その所定範囲は車速に応じた範囲とすることができる。
つぎに、ステップS140においてその時点の入力トルクの領域が記憶され、またフラグF2 が“OFF”とされて初期化される。ここで入力トルクの領域とは、各種の制御を入力トルク毎に制御することとしており、そのために区分された入力トルクについての区分である。したがって入力トルクの属する領域が変動した場合には、運転状態が変化したことになる。
入力トルク領域を記憶した後、制御終了条件が成立しているか否かが判断される(ステップS150)。この制御終了条件は、上記の制御開始条件とされているいずれかの状態が成立しなくなることであり、例えば車両の走行状態が定常状態もしくは準定常状態ではなくなったこと、あるいはロックアップクラッチ11が滑りを生じて係合状態ではなくなったことなどである。
制御終了条件が成立していないことによりステップS150で否定的に判断された場合には、入力トルク領域が記憶値から変化したか否かが判断される(ステップS160)。ロックアップクラッチ11の係合圧の学習を含む各種の制御を入力トルク毎におこなっているので、入力トルクが変化した場合には、それに応じた制御をおこなう必要がある。そのために、ステップS160の判断をおこなっている。したがってステップS160で肯定的に判断された場合には、フラグF2 が“ON”とされる(ステップS170)。
なお、入力トルクの変化は、例えばエンジン4が希薄燃焼可能なエンジンの場合には、その空燃比の変更によって生じ、また空調用コンプレッサーなどの補機類のON・OFFによってエンジン負荷を変化させるように構成されている場合には、その補機類のON・OFFの切り換えによって生じる。したがってステップS160の判断は、空燃比の変更の有無や補機類のON・OFFの切り替えの有無を判断するステップに変更してもよい。
上記のステップS160で肯定的に判断されてフラグF2 が“ON”とされた場合、あるいはステップS160で否定的に判断された場合には、「phase 」が“1”に設定されているか否かが判断される(ステップS180)。上記のように制御開始条件が成立した場合には「phase 」が“1”に設定されているので、このステップS180では肯定的に判断される。その結果、ロックアップクラッチ11の係合圧(油圧)が第1の所定油圧PLU1に設定される(ステップS190)。これは、図7のt1 時点である。
この制御は、ロックアップクラッチ11の滑りを発生させる制御の応答性を向上させるために、予め係合圧を下げる制御であり、係合圧の低下率を特には制約しないように、すなわち直ちに低下するように制御される。言い換えれば、係合圧の低下勾配が最も大きくなるように制御される。
そして、この第1所定油圧PLU1は、ロックアップクラッチ11の特性のバラツキを考慮しても滑りの生じない程度の係合圧である。その圧力は、ロックアップクラッチ11に対する入力トルクに基づいて求めた摩擦係数μや機構上の特性のバラツキを考慮して設定された油圧とすることができ、あるいは無段変速機構1における目標とする挟圧力から無段変速機構1の入力トルクを求め、その入力トルクに基づいて演算した油圧とすることができる。
ついで、所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS200)。この所定時間は、係合圧を第1所定油圧PLU1に低下させる指令信号を出力してから係合圧が第1所定油圧PLU1に安定するまでに要する時間であり、予め定められた一定値もしくは車両の状態に応じて設定されたマップ値などである。図7では、t1 時点からt2 時点までの時間である。
このステップS200で肯定的に判断された場合には、「phase1」の制御が終了したことになるので、「phase 」が“2”に設定される(ステップS210)。これは、図7のt2 時点である。そして、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたか否かが判断される(ステップS220)。なお、上記の所定時間が経過していないことによりステップS200で否定的に判断された場合には、ステップS210を飛ばしてステップS220に進む。
このステップS220は、ロックアップクラッチ11の状態を確認することを目的として実行される。すなわちロックアップクラッチ11の伝達トルクに所定の余裕を設定する制御の過程でロックアップクラッチ11に意図しない(もしくは想定しない)滑りが生じると、その制御を正常に実行できなくなるからである。また、ロックアップクラッチ11の滑りの検出もしくは判定は、ロックアップクラッチ11の入力側の回転数(例えばエンジン回転数Ne )と出力側の回転数(例えばタービン回転数Nt )とを比較することによりおこなうことができる。より具体的には、これらの回転数の差が予め定めたしきい値より大きくなったことによって、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたことを検出することができる。
制御が想定したとおりに進行すれば、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないので、ステップS220で否定的に判断される。これに対して、何らかの理由でロックアップクラッチ11に意図しない滑りが生じた場合には、ステップS220で肯定的に判断される。その場合、「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0 が“ON”に設定される(ステップS230)。その後、ステップS250に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS220で否定的に判断された場合には、ステップS230を飛ばしてステップS250に進む。
ステップS250では、「phase 」が“2”に設定されているか否かが判断される。上述したように、ロックアップクラッチ11の係合圧を上記の第1所定油圧PLU1に低下させる制御が実行された場合には、「phase 」が“2”に設定されている。すなわち、上記の所定時間が経過したことにより、ステップS210で「phase 」が“2”に設定され、かつロックアップクラッチ11に意図しない滑りが生じていないことにより、上記のステップS230を飛ばしてステップS250に進んでいるので、「phase 」が“2”に設定されている。したがって、ステップS250で肯定的に判断される。その場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧(油圧)が、第2所定油圧PLU2に向けて、所定の低下率(第1スイープ勾配)DLPLU1で低下させられる(ステップS260)。これは、図7のt2 時点からt3 時点までの制御である。
この第1スイープ勾配DLPLU1は、上記の第1所定油圧PLU1に低下させる場合の低下率より小さいものの、ロックアップクラッチ11の係合圧をある程度、迅速に低下させるように設定された低下率である。すなわち、第1所定油圧PLU1に設定するのと同様に、ロックアップクラッチ11の滑りが生じる係合圧まで急激に低下させると、アンダーシュートによってロックアップクラッチ11が過剰に滑ってしまい、あるいはロックアップクラッチ11が解放してしまう。これを避けるために安定的な係合状態から徐々に係合圧を下げたのでは、応答性が悪くなる。そこで、最初にステップ的に係合圧を下げ、次にある程度大きい勾配で係合圧を低下させることとしたのである。
ついで、係合圧が第2所定油圧PLU2に到達したか否かが判断される(ステップS270)。この判断は、予め定めた時間が経過したことによって判断することができ、あるいは図示しない油圧センサの検出値に基づいて判断することができる。
また、第2所定油圧PLU2は、ロックアップクラッチ11の伝達トルクの余裕がゼロの係合圧に対して所定値だけ高い油圧であり、ロックアップクラッチ11に滑りが生じない圧力である。その一例を挙げれば、「phase0」の状態などの通常の走行時にロックアップクラッチ11を解放状態(OFF)から係合状態(ON)に切り替える際に設定される油圧である。
その油圧は、余裕伝達トルクに加えてエンジン4の慣性トルク分の油圧が加算されているので、その加算分を前記所定値とすることができるからである。あるいは、第2所定油圧PLU2は、ロックアップクラッチ11をOFF状態からON状態に切り替える際のロックアップ油圧とその時点の入力トルクに基づいて求まる必要係合油圧との差を、現時点の入力トルクから求まる必要係合油圧に加算して補正した油圧とすることができる。
ロックアップクラッチ11の係合圧が上記の第2所定油圧PLU2に到達することによりステップS270で肯定的に判断されると、つぎの制御に進むために「phase 」が“3”に設定される(ステップS280)。ついで、その時点のロックアップクラッチ11に対する入力トルクが、後述する学習値を得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS290)。なお、係合圧が第2所定圧PLU2に到達していないことによりステップS270で否定的に判断された場合には、つぎの制御に進ませないようにするために、ステップS280を飛ばしてステップS290に進む。
ここで説明している制御は、ロックアップクラッチ11の係合圧を伝達トルクに所定の余裕が生じる油圧に制御するためのものであり、そのために先ずはその余裕がゼロの状態を判定する必要があるが、その余裕がゼロの状態に相当する係合圧は、ロックアップクラッチ11に対する入力トルク毎に異なっている。そこで、伝達トルクについての所定の余裕を与える係合圧が求められた場合には、これを、その時点の入力トルクに対応させて記憶することにより、係合圧の学習をおこなうこととしてある。その学習は、後述するとおりである。したがって、既に学習値が得られている場合には、それを利用することにより不必要な制御を省略できるので、その時点の入力トルクが、学習値の得られているトルク領域に入っているか否かを判断することとしたのである。
したがって、その時点の入力トルクが、学習値の得られているトルク領域に入っていることによりステップS290で肯定的に判断された場合には、それに応じた制御に進むために「phase 」が“6”に設定され(ステップS300)、ついでステップS310に進む。なお、その時点の入力トルクが、学習値の得られているトルク領域に入っていないことによりステップS290で否定的に判断された場合には、学習値を利用した制御に進めないので、ステップS290を飛ばしてステップS310に進む。
このステップS310およびこれに続くステップS320は、前述したステップS220およびそれに続くステップS230と同様の制御ステップである。すなわち、上記のステップS290あるいはステップS300に至る過程で、ロックアップクラッチ11の係合圧が低下させられ、また入力トルクが変化することもあるので、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたか否かが判断される(ステップS310)。
そして、ロックアップクラッチ11の滑りが生じたことによりこのステップS310で肯定的に判断された場合には、その滑りが意図しないもの(あるいは想定していないもの)であるから、その滑りに対応した制御に進むために「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0 が“ON”に設定される(ステップS320)。その後、ステップS120に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS310で否定的に判断された場合には、ステップS320を飛ばしてステップS330に進む。
ステップS330では、「phase 」が“3”に設定されているか否かが判断される。上述したように、ロックアップクラッチ11の係合圧を上記の第2所定油圧PLU2に低下させる制御が実行された場合には、「phase 」が“3”に設定されている。その状態で、入力トルクが学習値の得られていない領域であれば、ステップS300での「phase 」の書き換えがおこなわれず、また意図しない滑りが生じていない場合には、ステップS320での「phase 」の書き換えがおこなわれないので、「phase 」が“3”になっており、したがってステップS330で肯定的に判断される。その場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧(油圧)が、所定の低下率(第2スイープ勾配)DLPLU2で低下させられる(ステップS340)。これは、図7のt3 時点からt4 時点までの制御である。
この第2スイープ勾配DLPLU2は、前述した第1スイープ勾配DLPLU1より小さい低下率である。すなわち、ロックアップクラッチ11の係合圧を低下させているので、油圧のわずかな変化でロックアップクラッチ11に滑りが生じ易く、したがってその滑りが過大にならないようにするために係合圧の低下率を小さく設定したのである。言い換えれば、油圧のアンダーシュートあるいはそれに起因する過大な滑りもしくはロックアップクラッチ11の解放を回避するためである。
ついで、その時点のロックアップクラッチ11に対する入力トルクが、後述する学習値を得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS350)。このステップS350は、前述したステップS290と同様の判断ステップであり、係合圧についての学習値が既に得られている場合には、それを利用するためである。
したがってこのステップS350で肯定的に判断された場合には、学習値を利用した制御に進むために、「phase 」が“6”に設定される(ステップS360)。ついで、ステップS370に進む。これとは反対に、ロックアップクラッチ11に対する入力トルクが学習値の得られていない領域のトルクであれば、「phase 」を書き換えることなく、ステップS370に進む。
上記のステップS340による油圧の低下制御は、係合状態にあったロックアップクラッチ11に滑りを生じさせるための油圧低下制御における最終段階の制御であり、したがってステップS370では、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたか否かが判断される。この判断は、前述したステップS220やステップS310におけるのと同様に、入力側の回転数と出力側の回転数とを比較し、もしくはその回転数差を所定のしきい値と比較することによりおこなうことができる。より具体的には、このステップS370で検出するロックアップクラッチ11の滑りは、係合圧を僅かずつ低下させることにより生じる微少な滑りであり、具体的には、ロックアップクラッチ11の入力側の回転数と出力側の回転数との回転数差が、予め定めた所定回転数(例えば50rpm)以上の状態が、予め定めた所定時間(例えば50ms)継続したことによって、ロックアップクラッチ11の滑りを検出することができる。
ロックアップクラッチ11に微少滑りが生じることによりステップS370で肯定的に判断された場合には、つぎの制御に進むために、「phase 」が“4”に設定される(ステップS380)。そして、ステップS390に進む。これとは反対にロックアップクラッチ11に未だ滑りが生じないことによりステップS370で否定的に判断された場合に、つぎの制御に進めないので、「phase 」を書き換えずに(ステップS380を飛ばして)、ステップS390に進む。
このステップS390では、「phase 」が“4”に設定されているか否かが判断される。ロックアップクラッチ11の係合圧を上記の第2スイープ勾配DLPLU2で低下させることにより、ロックアップクラッチ11が想定したとおりに滑りを生じると、ステップS380で「phase 」が“4”に設定されるので、ステップS390で肯定的に判断される。
この状態は、ロックアップクラッチ11の係合圧が、伝達トルクの余裕がゼロの係合圧よりも僅かに下回った状態である。したがってロックアップクラッチ11の滑りが検出された後に、第3スイープ勾配(油圧の増加率)DLPLU3で係合油圧が増大させられる(ステップS400)。これは、ロックアップクラッチ11を微少滑り状態から再係合させるための制御であり、伝達トルクの余裕がゼロの状態で再係合させるために、その第3スイープ勾配DLPLU3は最小の勾配に設定される。すなわち、ロックアップクラッチ11を係合させる油圧が、極めて僅かずつ昇圧される。これは、図7におけるt4 時点からt5 時点までの制御である。
ついで、ロックアップクラッチ11がトルク容量を持ち始めたか否かが判断される(ステップS410)。この判断は、具体的には、ロックアップクラッチ11の入力回転数であるエンジン回転数Ne と出力回転数である無段変速機構1の入力回転数Ninとの差の変化率Δ(Ne −Nin)が予め定めた判断基準値DNEINより小さいか否かを判断することによりおこなわれる。すなわち、ロックアップクラッチ11に作用するトルクに対してロックアップクラッチ11のトルク容量が小さい場合には、滑りが生じて入力回転数と出力回転数との差が増大し、また反対に入力されるトルクに対してトルク容量が十分な大きさであれば、ロックアップクラッチ11が完全に係合するように滑り回転数が低下する。
したがって上記の判断基準値DNEINを例えばゼロもしくは負の値としておけば、ステップS410で肯定的に判断されることにより、滑りが収束に向かっていることを検出できる。そして、その滑りの収束は、ロックアップクラッチ11に作用するトルクに対してトルク容量(すなわち係合圧)が必要十分な値であることに基づいているので、その時点のトルク容量すなわち係合圧が、ロックアップクラッチ11が滑りを生じることなく再係合する圧力となる。
また、ステップS410で肯定的に判断される時点では、ロックアップクラッチ11の滑りが収束に向かっているものの、滑りが終了していないので、回転変動に伴う大きな慣性トルクは生じていないから、その時点のロックアップクラッチ11の係合圧は、実質的に過渡的な慣性トルクを含まないトルクに対応する係合圧となっている。言い換えれば、ロックアップクラッチ11を再係合させるのに必要とする最小限の係合圧に相当する。したがってこの時点の係合圧が、この発明における「クラッチが再係合する係合圧」に相当する。
したがってステップS410で肯定的に判断された場合には、フラグF1 が“ON”か否かが判断され(ステップS420)、そのフラグF1 が“OFF”であることによりこのステップS420で否定的に判断された場合には、その時点のロックアップクラッチ11の係合圧PLUEXCに所定の余裕圧を付与した係合圧から、その時点に出力されているロックアップクラッチ11の係合圧指令値PLUTTを減算して学習値DPLU1が求められ、同時にフラグF1 が“ON”とされる(ステップS430)。その後、ステップS440に進む。ここで、上記の「所定の余裕圧の付与」は、ステップS410で肯定的に判断された時点の係合圧に所定の係数SF(>1)を掛けた値を求めることでもよく、あるいは予め定めた余裕圧を加算することでもよい。
なお、上記のフラグF1 は、学習値DPLU1が算出されることにより“ON”とされるフラグであるから、既に学習値DPLU1が算出されていれば、上記のステップS420で肯定的に判断される。その場合、学習値DPLU1を再度算出することなく(すなわちステップS430を飛ばして)ステップS440に進む。また、ロックアップクラッチ11の入出力回転数の差の変化率Δ(Ne −Nin)が判断基準値DNEIN以上であることによりステップS410で否定的に判断された場合にも、ステップS440に進む。
このステップS440では、ロックアップクラッチ11の係合判定が成立したか否か、すなわちロックアップクラッチ11が係合したか否かが判断される。伝達トルクの余裕がゼロであれば、ロックアップクラッチ11の入力回転数と出力回転数との差がなくなるが、これは、伝達トルクの余裕が過大である場合と同じであるから、伝達トルクの余裕がゼロの状態の再係合を検出することは、必ずしも正確にはおこなえない。そのため、上記の第3スイープ勾配DLPLU3で係合圧を昇圧している状態で、ロックアップクラッチ11の入力回転数と出力回転数との回転数差が所定値(例えば50rpm)より小さい状態が所定時間(例えば100ms)継続した場合に、ロックアップクラッチ11の再係合の判定が成立する。これは、図7のt5 時点である。なお、この時点におけるロックアップクラッチ11の係合圧は、入力トルクに応じて設定されている係合圧である。
こうして「phase4」の制御が終了したことになるので、つぎの制御に進むために、「phase 」が“5”に設定される(ステップS450)。これに続けて前述したフラグF0 が“ON”か否かが判断される(ステップS460)。このフラグF0 は、前述したように、係合圧の制御の過程で意図しない(もしくは想定しない)ロックアップクラッチ11の滑りが検出された場合に“ON”に設定される(ステップS230,S320)から、ステップS460では、ロックアップクラッチ11が意図しない滑りの後に再係合したか否かを判断していることになる。
したがってステップS460で肯定的に判断された場合には、意図しないロックアップクラッチ11の滑りに対応した前記「phase3」の制御をおこなうために、「phase 」が“3”に設定され、またフラグF0 が“OFF”に設定される(ステップS470)。その後、ステップS490に進む。
一方、ロックアップクラッチ11が意図した滑りの後に再係合したことによりステップS460で否定的に判断された場合には、フラグF2 が“ON”か否かが判断される(ステップS480)。すなわち、入力トルクが領域を渡って変化したか否かが判断される。このステップS480で肯定的に判断された場合には、入力トルクが変化し、係合圧の学習の前提とする状態が変化したことになるので、ステップS470に進んで前記「phase3」の制御をおこなうために、「phase 」が“3”に設定され、またフラグF0 が“OFF”に設定される。すなわちロックアップクラッチ11を解放させた後、再係合させる。係合圧の学習を再度おこなうためである。これに対してステップS480で否定的に判断された場合、すなわち入力トルクの変動が生じていない場合には、ステップS490に進む。
ステップS490では、「phase 」が“5”に設定されているか否かが判断される。上記のように係合圧をゆっくり低下させることによりロックアップクラッチ11が微少滑りを生じ、その後に係合圧を最小勾配で増大させたことによりロックアップクラッチ11の再係合の判定が成立すれば、「phase 」が“5”に設定されているので、ステップS490で肯定的に判断される。すなわち、係合圧の変化に伴うロックアップクラッチ11の挙動が想定したとおりに変化すると、「phase5」の制御に進むことになる。
ステップS490で肯定的に判断されると、ロックアップクラッチ11の係合油圧が、「phase4」の終了時点(図7のt5 時点)における油圧、すなわちロックアップクラッチ11の再係合が判定された時点の油圧(入力トルクに相当する油圧)に設定される(ステップS500)。そして、所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS510)。これは、図7におけるt5 時点からt6 時点までの間であり、ロックアップクラッチ11の係合油圧をt5 時点の油圧に安定させるための予め定めた時間である。
所定時間が経過することによりステップS510で肯定的に判断された場合には、前述した学習値DPLU1 が予め定めた所定範囲内か否かが判断される(ステップS520)。この判断は、例えば、算出された学習値DPLU1 を所定の判断基準値と比較することによっておこなうことができ、あるいは所定数のトルク領域での学習値の平均との大小を比較し、その差が大きい場合に所定範囲を外れていると判断することによりおこなうことができ、さらには継続して得られた学習値DPLU1 の平均値に基づいて判断することとしてもよい。
油圧制御系統の異常やロックアップクラッチ11の摩擦材の異常あるいはトルクコンバータ3のフルードの変化などが生じていなければ、学習値DPLU1 が所定の範囲内の値に収まるが、異常が生じているとその影響で学習値が極端に大きくなるなどの事態が生じる。すなわちステップS520では学習が正常におこなわれたか否かが判断されることになる。
学習値DPLU1 が所定範囲内に収まっていることによりステップS520で肯定的に判断された場合には、つぎの制御に進むために、「phase 」が“6”に設定される(ステップS530)。そして、上記の学習値DPLU1 が記憶される(ステップS540)。
すなわち、ロックアップクラッチ11に一旦滑りを生じさせた後、ロックアップクラッチ11が再係合する係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧と、入力トルクに応じた係合圧として予め設定もしくは記憶されている係合圧との差が、ロックアップクラッチ11の係合圧を補正するための値として、上記の学習値DPLU1 が記憶される。
なお、この学習値DPLU1は、入力トルクを所定の複数の領域に分割し、各領域毎に記憶し、マップとして保持する。したがって前述したステップS290やステップS350での判断は、このようにして得られた学習値の有無に基づく判断である。
一方、学習値DPLU1 が所定範囲を超えていることによりステップS520で否定的に判断された場合には、再度、学習をおこなうために「phase」が“3”に設定される(ステップS550)。また、所定範囲を超えた値であっても得られた学習値DPLU1を無段変速機構1の挟圧力の制御に反映させるために、前述したステップS430で得られた学習値DPLU1 が仮学習値として記憶される(ステップS560)。そして、この仮学習値DPLU1 の平均値の絶対値が予め定めた所定値以上か否かが判断される(ステップS570)。このステップS570で肯定的に判断された場合には、仮学習値DPLU1 が大きく偏っていることになるので、フラグF3 が“ON”とされる(ステップS580)。
これに対してステップS570で否定的に判断された場合には、予め定めた所定値を超える仮学習値DPLU1 の数が所定数以上か否かが判断される(ステップS590)。すなわち平均値としては所定値以下であるが、過大もしくは過小の仮学習値DPLU1 が多いか否かが判断される。この判断結果が肯定的であれば、何らかの異常があるものと考えられるので、ステップS580に進んでフラグF3 が“ON”とされる。反対に否定的に判断された場合には、フラグF3 が“OFF”とされる(ステップS600)。すなわち、仮学習値DPLU1 を無段変速機構1の挟圧力に反映させる制御をおこなわない。
上記のステップS540もしくはステップS580あるいはステップS600を経た後に、ステップS610に進む。また、所定時間が経過していないことによりステップS510で否定的に判断された場合には、直ちにステップS610に進み、この場合は、「phase 」は書き換えられずに“5”に維持される。
さらに、この時点においても意図しないロックアップクラッチ11の滑りが生じたか否かが判断される。これがステップS610の制御である。これは、前述したステップS220やステップS310と同様の判断ステップであり、したがってこのステップS610で肯定的に判断された場合には、その滑りに対応した制御に進むために「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0 が“ON”に設定される(ステップS620)。その後、ステップS630に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS610で否定的に判断された場合には、ステップS620を飛ばしてステップS630に進む。
ステップS630では、「phase 」が“6”に設定されているか否かが判断される。上述したように、ロックアップクラッチ11が再係合する係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧と、その時点の入力トルクに応じて指令もしくは設定されている係合圧との差が学習値DPLU1 として記憶されており、その学習値DPLU1 に異常がない場合には、「phase」が“6”に設定されているので、ロックアップクラッチ11の意図しない滑りが検出されない限り、ステップS630で肯定的に判断される。
その場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧として、入力トルクに基づいて求まる係合圧PLUTT に、その補正値として上記の学習値DPLU1 を加算(学習値DPLU1 が負の値であれば、減算)してロックアップクラッチ11の係合圧が求められる(ステップS640)。すなわち予め得られている係合圧が、上記の学習値DPLU1 によって補正される。その結果、ロックアップクラッチ11の係合圧として、その時点の入力トルクに対して伝達トルクに余裕がない係合圧(余裕がゼロの油圧)に、予め定められている所定の余裕油圧を加算した油圧であって、実際の無段変速機構1あるいは駆動系統の状態を反映した油圧が設定される。これは、図7のt6 時点での制御である。その余裕油圧DPLU2 は、定常的もしくは準定常的な走行状態でロックアップクラッチ11に滑りが生じるおそれがなく、また定常的もしくは準定常的な走行状態で作用するトルクを超えるトルクが作用した場合には、ロックアップクラッチ11に滑りが生じる程度の油圧である。
ロックアップクラッチ11の係合油圧を上記のように設定している状態でロックアップクラッチ11に対する入力トルクが変化することがあるので、上記のステップS640に続けて、入力トルクが未学習領域に入ったか否か、すなわち上記の学習値が得られていない入力トルクに変化したか否かが判断される(ステップS650)。その時点の状況は、ロックアップクラッチ11が滑りを生じることなく係合しており、かつその係合圧は伝達トルクの余裕の小さい油圧である。
したがってステップS650で肯定的に判断された場合には、再度、微少滑りを生じさせて学習をおこなうために、「phase2」の制御を実行することになる。すなわち「phase 」が“2”に設定される(ステップS660)。ついでステップS670に進む。なお、入力トルクが学習値の得られている領域に入っていることによりステップS650で否定的に判断された場合には、「phase 」を変更することなく、直ちにステップS670に進む。
この時点においても意図しないロックアップクラッチ11の滑りが生じたか否かが判断される。これがステップS670の制御である。これは、前述したステップS220やステップS310、ステップS610と同様の判断ステップであり、したがってこのステップS670で肯定的に判断された場合には、その滑りに対応した制御に進むために「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0 が“ON”に設定される(ステップS680)。その後、ステップS690に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS670で否定的に判断された場合には、ステップS680を飛ばしてステップS690に進む。
このステップS690では、「phase」が“6”に設定されているか否かが判断される。この判断結果が否定的の場合には、このルーチンを一旦終了する。これに対して肯定的に判断された場合には、前述した仮学習値DPLU1 を無段変速機構1の挟圧力に反映させるべきか否かが判断される(ステップS700)。具体的には、前述したフラグF3 が“OFF”か否かが判断される。学習値DPLU1 が所定の範囲に入っていなくても、その平均値の絶対値が所定値以内であったり、あるいは絶対値が所定値を超える個数が少ないなどのいわゆる異常の判定が成立しない場合には、フラグF3 が“OFF”にセットされている(ステップS600)。したがってステップS700で肯定的に判断された場合には、仮学習値DPLU1 を無段変速機構1の挟圧力の制御に反映する必要がないので、無段変速機構1のベルト挟圧力が、伝達トルクに所定の余裕を与える圧力に低下させられる(ステップS710)。その挟圧力は、図7に示すように、伝達トルクの余裕がゼロの圧力に、予め定めた所定値を加えた圧力である。なお、こうして設定される無段変速機構1での伝達トルクの余裕は、ロックアップクラッチ11における伝達トルクの余裕より大きく、したがって駆動トルクや負トルクなどが変化した場合には、ロックアップクラッチ11が無段変速機構1に先行して滑りを生じる。
一方、フラグF3 が“ON”に設定されていてステップS700で否定的に判断された場合には、前述した仮学習値DPLU1 に基づいて無段変速機構1のベルト挟圧力が補正される(ステップS720)。なお、この補正は、無段変速機構1の伝達トルクに所定の余裕を与える圧力として予め定められている値を増大補正するものであってもよく、あるいは上記の伝達トルクに余裕を与える圧力に低下させる制御自体を禁止するものであっもよい。また、仮学習値DPLU1 に基づくベルト挟圧力補正が、ベルト挟圧力を増大側に補正することになる場合にのみ、ステップS720の補正をおこなうこととしてもよい。何らかの異常に基づく誤った低下補正を回避して無段変速機構1での滑りを防止するためである。
なお、図1に示すステップS110で否定的に判断された場合、およびステップS150で肯定的に判断された場合、すなわち制御前提条件が成立しない場合および制御終了条件が成立した場合には、「phase」が“0”に設定される(ステップS240)。その場合、直ちに図6に示すステップS690に進むが、ここで否定的に判断されるので、このルーチンを終了する。その場合、ロックアップクラッチ11の係合圧(伝達トルク)を低下させ、また無段変速機構1の挟圧力(伝達トルク)を低下させるいわゆるトルクヒューズ制御が終了もしくは禁止され、それぞれの係合圧や挟圧力が通常時の圧力に増大させられる。これは図7のt7 時点の状態である。
したがって上記の制御をおこなうこの発明の制御装置によれば、無段変速機構1に対して直列に連結されているロックアップクラッチ11などのクラッチを再係合させる係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧を求め、その係合圧と予め設定されている係合圧との差を求めるなど、前記余裕圧の付与された係合圧に基づいてクラッチの係合圧の補正値を学習するので、無段変速機構1やこれを含む駆動系統の実際の状態を反映した係合圧でクラッチを係合させることができる。すなわちクラッチを無段変速機構1に対していわゆるトルクヒューズとして機能させる場合に、そのクラッチの係合圧を適正化することができる。そのため、ロックアップクラッチ11などのクラッチの滑りが繰り返し生じたり、それに伴って駆動系統の動力の伝達効率が低下して燃費が悪化するなどの事態を未然に回避することができる。
また、上記の図1ないし図6に示す制御を実行するように構成した場合には、ロックアップクラッチ11が再係合する係合圧として、実質的に慣性トルクを含まないトルクに対応する係合圧が求められるので、この点においても、クラッチの係合圧を適正化することができる。
さらに、学習値が所定範囲を超えていて偏りがある場合には、無段変速機構1のベルト挟圧力など伝達トルクを設定する制御量に、前記学習値の偏りを反映させるので、無段変速機構1で滑りが生じる伝達トルクに対する伝達トルクの余裕量を、これに直列に配列されたクラッチの伝達トルクの余裕量より常時大きく設定できる。その結果、クラッチをいわゆるトルクヒューズとして確実に機能させることができる。特に、無段変速機構1の伝達トルクの補正を増大補正に限ることとすれば、誤学習や異常を伴う学習などによって無段変速機構1の伝達トルクを低下させる事態が生じても、無段変速機構1の伝達トルクが低下させられないので、無段変速機構1での滑りを未然に防止もしくは抑制することができる。
さらにまた、定常的あるいは準定常的な走行状態でエンジントルクや駆動輪側の負トルクが急激に変化した場合には、ロックアップクラッチ11が無段変速機構1に先行して滑りを生じるので、無段変速機構1に滑りが生じることを確実に防止することができる。そして、そのような無段変速機構1の滑りを防止しつつ、その挟圧力を可及的に低くすることができるので、無段変速機構1での動力の伝達効率を向上させて、燃費を改善することができる。
なお、上述した図1ないし図6に示すルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。したがってその過程では、学習値が既に得られている領域に、その時点の入力トルクが入っていることがあり、その場合には以下のように制御される。
すなわち入力トルクが学習値の得られている領域に入っていると、図2に示すステップS290で肯定的に判断され、「phase 」が“6”に設定される(ステップS300)。この判断は、「phase1」において係合圧を第1所定油圧PLU1にステップ的に低下させた後、「phase2」で第1スイープ勾配DLPLU1で係合圧を低下させている途中で実行される。
上記のステップS300で「phase 」が“6”に設定された場合、「phase 」を判断するステップS330、ステップS390、ステップS490のいずれでも否定的に判断される。そのため、直ちにステップS630に進み、ここで肯定的に判断される。このステップS630以降の制御は、既に説明したとおりである。
したがって学習値が既に得られている場合には、入力トルクに基づく第1所定油圧PLU1を設定する「phase1」の制御が実行された後、直ちに学習値DPLU1で補正した係合圧に低下させられる(ステップS640)。その場合、設定するべき係合油圧が、ロックアップクラッチ11の滑りが生じる係合油圧に近いので、油圧のアンダーシュートによるロックアップクラッチ11の解放もしくは過剰な滑りを防止するために、なまし制御を施して係合油圧の低下制御を実行することが好ましい。
このように学習値が得られている場合には、その学習値を利用してロックアップクラッチ11の係合圧を低下制御できるので、上述した「phase2」ないし「phase5」の制御を省略して迅速な制御が可能になる。
また、上述した一連の制御の過程で入力トルクが変化し、その結果、入力トルクが学習値の得られている領域から学習値の得られていない領域に入ったり、その反対に学習値の得られていない領域から学習値の得られている領域に入る場合がある。前者の場合には、学習値を利用した制御をできないので、学習をおこなう必要があり、また後者の場合には、学習値を得るための制御が不要になるとともに、学習値を利用した制御が可能になる。
具体的に説明すると、学習値が得られているトルク領域から学習値の得られていないトルク領域に、ロックアップクラッチ11の入力トルクが変化した場合、上述したステップS290で否定的に判断され、あるいはステップS350で否定的に判断される。したがって伝達トルクの余裕がゼロの係合油圧に所定の余裕油圧を加えた係合油圧に設定する以前に、入力トルクが学習値の得られていないトルク領域に変化した場合には、「phase1」ないし「phase6」の一連の制御が前述した順に実行される。
これに対して、ロックアップクラッチ11の伝達トルクに所定の余裕を生じさせる係合油圧を設定した後に、入力トルクが学習値の得られていないトルク領域に変化すると、前記ステップS650で肯定的に判断される。それに伴って「phase 」が“2”に設定されるので、「phase2」の制御が実行される。これは、図2に示すステップS250で肯定的に判断された場合の制御であり、ロックアップクラッチ11に微少滑りが生じるように係合圧を第1スイープ勾配DLPLU1で低下させるとともに、第2所定油圧PLU2に達した後は、第2スイープ勾配DLPU2で係合圧を低下させ、その結果、ロックアップクラッチ11の微少滑りが検出された後に、第3スイープ勾配DLPLU3で昇圧し、再係合が検出された後に、その時点の油圧に所定油圧を加えた係合圧が設定される。これは、前述した一連の制御のステップS250以降の制御である。
一方、入力トルクが学習値の得られていないトルク領域から学習値の得られているトルク領域に変化した場合の例として、前記第1所定油圧PLU1にステップダウンした後(「phase1」の制御が完了した後)、ロックアップクラッチ11の入力トルクが、学習値の得られているトルク領域に入ると、図1に示す上記のステップS290で肯定的に判断される。この場合の制御は、上記の学習値が得られている場合と同様であって、直ちにステップS630に進んで、ロックアップクラッチ11の伝達トルクに所定の余裕を与える学習値に基づく係合油圧の設定が実行される(ステップS640)。
また、第2所定油圧PLU2まで係合圧を低下させた後に、入力トルクが学習値の得られているトルク領域に変化すると、図3に示すステップS350で肯定的に判断される。その結果、「phase 」が“6”に設定されるので、直ちにステップS630に進んで、学習値に基づいて、伝達トルクに所定の余裕が生じるように係合圧が設定される。
なお、ロックアップクラッチ11の微少滑りが検出された後は、前述した一連の制御の順に従って各制御が実行される。すなわち、前述した一連の制御と変わるところはない。
このようにこの発明に係る上記の制御装置では、入力トルクがいわゆる既学習領域と未学習領域との間で変化した場合、係合圧の制御の進行状態に応じて、その後の制御が選択される。そのため、上述した係合圧の学習をおこなうことができると同時に、必要としない無駄な制御を省略することができる。
ところで、ロックアップクラッチ11の係合油圧を、伝達トルクに所定の余裕が生じるように制御する上記の一連の過程の中で、係合油圧の低下や入力トルクの変化などに起因してロックアップクラッチ11の滑りが生じることがある。これは、例えばステップS220、ステップS310、ステップS370、ステップS610、ステップS670で検出される。
したがって係合圧を第2所定油圧PLU2まで低下させる過程、あるいはその第2所定圧PLU2になっている状態でロックアップクラッチ11に滑りが生じると、ステップS220もしくはステップS310で肯定的に判断される。これらいずれの場合であっても、「phase 」が“4”に設定され、またフラグF0 が“ON”に制御される(ステップS230、ステップS320)。その結果、図4に示すステップS390に進んでこれ以降の制御が順に実行され、係合圧がゆっくり昇圧される。
その結果、一旦、滑りの生じたロックアップクラッチ11が再係合する(ステップS128)が、この場合、フラグF0 が“ON”に設定されているので、「phase 」が“3”に設定され(ステップS460、ステップS470)、したがって制御は「phase3」に戻る。そのため、図5に示すステップS530に至らないので、学習がおこなわれない。これが学習の禁止に相当する。
このように、制御の過程で意図しないロックアップクラッチ11の滑りが生じた場合には、ロックアップクラッチ11を係合状態に戻し、再度、係合圧の低下、微少滑りの検出、昇圧などの上述した一連の制御が実行される。また、同時に伝達トルクの余裕がゼロとなる係合圧の学習、あるいはこれを含めた伝達トルクに所定の余裕が生じる係合圧の学習が禁止される。
また、第2所定油圧PLU2から低下させている場合にロックアップクラッチ11の滑りが生じた場合、図3に示すステップS370で肯定的に判断される。これは、意図した滑りであるから、「phase 」を“4”に設定し(ステップS380)、その後、前述した一連の制御が実行される。すなわち上記の一連の制御と変わるところはない。
さらに、ロックアップクラッチ11が再係合した後に意図しない滑りが生じた場合には、ステップS610で肯定的に判断される。この場合は、「phase 」が“4”に設定され、またフラグF0 が“ON”に制御される(ステップS620)ので、図4に示すステップS390に進んでこれ以降の制御が順に実行され、係合圧がゆっくり昇圧される。これは、上述した例と同様である。
このように、上記の制御では、ロックアップクラッチ11の滑りが意図せずに生じた場合には、その時点の制御の状況に応じて次におこなうべき制御を選択するので、ロックアップクラッチ11が過剰に滑ったり、あるいは不必要な制御を繰り返すなどの不都合を回避することができる。
また、図1ないし図6に示すフローチャートにおいて、「phase 」についての判断ステップS180,S250,S330,S390,S490,S630で否定的に判断された場合には、その判断がおこなわれたステップ以降の「phase 」についての判断ステップに順に進む。そして、「phase 」についての最終の判断ステップS690で否定的に判断された場合には、図1ないし図6に示すルーチンから抜ける。
上述したロックアップクラッチ11を無段変速機構1に対するいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御は、無段変速機構1のベルト挟圧力を可及的に低下させてその動力伝達効率を向上させ、かつ突発的な外乱によっても無段変速機構1に滑りが生じないようにする制御である。したがってその制御の開始条件は、例えば、車両が平坦路を所定のエンジン負荷以下で定速走行しているなどの定常走行状態あるいは準定常走行状態であることや、ロックアップクラッチ11もしくは無段変速機構1に滑りが生じていないことなどである。したがってこの制御開始条件が成立しなくなった場合、すなわち制御終了条件が成立すると、ロックアップクラッチ11の係合圧や無段変速機構1のベルト挟圧力の低下制御を終了してそれらの圧力を増大させることになる。
制御終了に伴うロックアップクラッチ11の係合圧の増大制御は、以下に述べるように実行する。図8および図9はその制御を説明するためのフローチャートであって、前述した図1ないし図6に示すフローチャートの一部を変更もしくは付加したものである。具体的に説明すると、図8において、制御終了条件が成立することによりステップS150で肯定的に判断され、その場合には、「phase」が“6”に設定されているか否かが判断される(ステップS730)。すなわち、ロックアップクラッチ11を再係合させる係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧でロックアップクラッチ11を係合させている状態か、あるいはそのための学習値DPLU1 を求める学習制御中かが判断される。
このステップS730で否定的に判断された場合には、前述した学習値を求める制御が実行されている状態であるから、その学習制御中におけるロックアップクラッチ11の滑りの発生を検出するために、ロックアップクラッチ11の滑りの有無が判断される(ステップS740)。ロックアップクラッチ11に滑りが生じていないことによりステップS740で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が最大圧に設定され、かつ「phase」が“0”に設定される(ステップS750)。このステップS750は、図1に示すステップS240に替わるものである。その後、前述した図6に示すステップS690に進む。
すなわち、制御終了条件が成立した際にロックアップクラッチ11に滑りが生じていなければ、ロックアップクラッチ11の係合圧を、制御装置の元圧であるライン圧もしくはその補正圧に増大させて、ロックアップクラッチ11を完全係合状態とする。その場合、ロックアップクラッチ11が完全係合状態になることに伴う回転変化が生じないので、慣性力やそれに起因するショックが発生することはない。
一方、ロックアップクラッチ11に滑りが生じていてステップS740で肯定的に判断された場合には、フラグF4 が“ON”に設定され(ステップS760)、その後、「phase」が“7”に設定される(ステップS770)。なお、上記のステップS730で肯定的に判断された場合にも、ステップS770に進んで「phase」が“7”に設定される。そして、前述した図1に示すステップS180に進む。
この「phase7」の制御内容を図9にフローチャートで示してある。この図9に示すフローチャートは、前述した図6におけるステップS680とステップS690との間に挿入されるフローチャートであって、先ず、「phase」が“7”に設定されているか否かが判断される(ステップS681)。このステップS681で否定的に判断された場合には、直ちにステップS690に進み、設定されている「phase」に従った制御が実行される。これとは反対にステップS681で肯定的に判断された場合には、フラグF4 が“ON”か否かが判断される(ステップS682)。
このフラグF4 は、前述したように、制御終了条件が成立した後にロックアップクラッチ11に滑りが検出された場合に“ON”とされるフラグである。したがってこのステップS682で否定的に判断された場合には、予め定めた所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS683)。その所定時間は、前述したステップS150で制御終了条件の成立が判断された場合、無段変速機構1のベルト挟圧力が通常時の圧力(最大圧力)に増大させられるので、この増大制御が完了するまで(すなわちベルト挟圧力が最大圧に安定するまで)の時間として設定されている。これは、図10のタイムチャートにおけるt7 時点からt8 時点までの時間である。その結果、このt7 時点では、ロックアップクラッチ11の係合圧が増大させられないので、無段変速機構1のベルト挟圧力の増大が先行し、その後にロックアップクラッチ11の係合圧が増大させられることになる。
したがってこのステップS683で否定的に判断された場合には、入力トルクに応じて設定された係合圧PLUTT を前記学習値DPLU1 で補正した係合圧でロックアップクラッチ11を係合させる制御が継続される(ステップS684)。その後、ステップS690に進む。その場合、前述した図8でステップS730、ステップS740、ステップS750の順に判断および制御が実行されるので、ロックアップクラッチ11の係合圧が最大圧まで増大させられて、ロックアップクラッチ11が完全係合状態となる。なお、滑りが生じていないので、完全係合状態とすることに伴うショックが発生することはない。
これに対してロックアップクラッチ11に滑りが生じていてステップS682で肯定的に判断された場合や、前記の所定時間が経過してステップS683で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合判定が成立したか否かが判断される(ステップS685)。すなわち、ロックアップクラッチ11を再係合させる油圧に所定の余裕圧を付与した係合圧でロックアップクラッチ11が滑っていないか否かが判断される。
ロックアップクラッチ11に滑りが生じていることによりステップS685で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が徐々に増大させられる(ステップS686)。すなわちスイープアップされる。その後、ステップS690に進む。その場合、前述したステップS740で肯定的に判断されるので、ロックアップクラッチ11の係合圧のスイープアップが継続される。
ロックアップクラッチ11の係合圧を徐々に増大させた結果、ロックアップクラッチ11が係合すると、ステップS685で肯定的に判断される。その場合、フラグF4 が“OFF”とされ(ステップS687)、その後、ステップS690に進む。この場合、前述したステップS740で否定的に判断されるので、ロックアップクラッチ11の係合圧が最大値に増大させられる(ステップS750)。すなわち、ロックアップクラッチ11は滑りを生じていない状態で完全係合状態に設定されるので、回転変動やそれに起因するショックが生じることはない。なお、他の制御は、図1ないし図6に示す制御と同様である。
したがってロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を終了する際に、ロックアップクラッチ11の係合圧を最大値に増大させる場合、ロックアップクラッチ11に先行して無段変速機構1のベルト挟圧力を増大させるので、制御の終了過渡状態であっても、ロックアップクラッチ11の伝達トルクのいわゆる余裕を無段変速機構1の伝達トルクのいわゆる余裕より小さい状態に維持でき、その結果、制御の終了過渡時に入力トルクの変動が生じても、ロックアップクラッチ11に滑りを生じさせて無段変速機構1に作用するトルクが過大になることを防止もしくは抑制し、無段変速機構1での滑りを回避することができる。
また、ロックアップクラッチ11の係合圧を最大値にするにあたり、滑りが生じている場合に、係合圧をスイープアップするので、ロックアップクラッチ11が急激に係合したり、それに伴ってショックが生じたりすることを未然に回避することができる。
ところで、上述した制御を実行するように構成されたこの発明の制御装置では、ロックアップクラッチ11などのいわゆるトルクヒューズとして機能とするクラッチの係合圧を一旦低下させた後、その係合圧を次第に増大させて再係合させる場合、そのクラッチの入力回転数と出力回転数との差が次第に小さくなる状態での圧力を、いわゆる余裕がゼロの係合圧(滑りが生じない範囲での最小の係合圧)として採用している。すなわちロックアップクラッチ11の滑りが生じている。これに対していわゆる余裕のある伝達トルクは、ロックアップクラッチ11に滑りがない状態の伝達トルクであり、上記の再係合する係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧で得られるトルク容量である。
しかしながら、上記のロックアップクラッチ11などの摩擦式クラッチの摩擦係数は、入出力回転数の偏差(滑り率)によって異なっているのが一般的であるから、入出力回転数差が生じている状態におけるいわゆる余裕がゼロの係合圧と、入出力回転数差が生じていない状態におけるいわゆる余裕がゼロの係合圧とは、摩擦係数の相違が原因となって、異なったものとなる。
その摩擦係数と滑り率との一般的な関係を示すと図11のとおりである。すなわち入出力回転数差が生じている係合判定時の摩擦係数μ1 に対して、入出力回転数差が生じいていない完全係合時の摩擦係数μ0 が小さい値を示す。したがって、係合判定時の係合圧を、完全係合時のいわゆる余裕がゼロの係合圧として採用すると、係合圧が不足気味になる。言い換えれば、完全係合時におけるいわゆる伝達トルクの余裕が不足することになる。したがって、これらの摩擦係数μ1 ,μ0 の比率(μ1 /μ0 )を、「μ勾配倍率」と定義すると、係合判定時の係合圧をそのμ勾配倍率によって補正することにより、完全係合時における滑りに対するいわゆる余裕がゼロの係合圧を正確なものとすることができ、ひいてはいわゆる余裕圧を付与した係合圧を過不足が生じることなく正確に設定することができる。
なお、ロックアップクラッチ11の摩擦係数に影響する要因(摩擦係数の変化因子)は多様であって、潤滑油(フルード)の温度、その劣化の程度や組成などによってロックアップクラッチ11の摩擦係数が変化する。その一例を示すと、図12は、油温との関係を示しており、油温が高いほど、摩擦係数μが大きくなる。また、図13は、フルードの劣化の程度との関係を示しており、劣化したフルードを使用した場合に摩擦係数μが大きくなり、またμ勾配倍率が小さくなる。
この発明の制御装置は、係合判定時と完全係合時とのロックアップクラッチ11の摩擦係数の相違を考慮して、滑りに対していわゆる所定の余裕のある伝達トルクを設定するために、係合圧の補正値の学習を以下のようにして実施することができる。すなわち、上述した各制御例では、前述したステップS430において、係合判定時の係合圧PLUEXCに所定の余裕圧を付与し(具体的には安全率SFを掛け)、その値から係合圧指令値PLUTTを減算して学習値DPLU1を求めている。そこで、図14に示す制御例では、係合判定時の係合圧PLUEXCを、完全係合時の摩擦係数に対応したものとするために、その係合圧PLUEXCをμ勾配倍率でわり算し、その値に安全率SFを掛けるなどの所定の余裕圧を付与し、さらにその値から係合圧指令値PLUTTを減算して学習値DPLU1を求めている(ステップS431)。なお、同時にフラグF1 を“ON”に設定し、その後、ステップS440に進むようになっている。
そのステップS431で採用するμ勾配倍率は、その時点の温度や使用しているフルードの劣化の程度などの所定の物理量に応じて適宜に採用される。これは、例えば予め用意したマップから読み出した値であってよい。なお、他の制御は、前述した図1ないし図6に示す制御、あるいはこれらに図8および図9に示す制御を付加もしくは置換した制御と同様である。
したがって図4に示すステップS430の制御を図14に示すステップS431に制御に置き換えた制御をおこなうように構成した場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧に実際の摩擦係数を反映させることができるので、ロックアップクラッチ11の係合圧を適正化することができる。それに伴い、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を安定してかつ良好におこなうことができる。
この発明は、無段変速機構1に対してトルクの伝達方向で直列に連結されているクラッチの係合圧を油圧によって制御する制御装置に適用することができる。この種の油圧式の制御装置においては、オイルの粘性が油圧の制御性に影響を及ぼすことがあり、その一般的傾向は、油温が低い場合には、粘度が高くなって油圧制御の精度が低下する。
そこで、この発明の制御装置は、油温を制御の開始条件あるいは終了条件とすることができる。その制御例を図15および図16に示してある。図15は前述したステップS120の制御内容を具体的に示すものであって、制御前提条件が成立していることにより前記ステップS110で肯定的に判断された場合、定常走行の判定中か否か、すなわち定常走行の判定が成立しているか否かが判断される(ステップS121)。この定常走行状態の判定は、例えば無段変速機構1の入力トルクと変速比とから算出した従動プーリー20の軸トルクが予め定めた所定範囲内であることなどを判断することによりおこなうことができる。
このステップS121で否定的に判断された場合には、開始条件が成立していないことになるので、前述したステップS120で否定的に判断された場合と同様に、「phase」の設定などの制御をおこなうことなく、ステップS140に進む。すなわち制御を開始しない。
これに対してステップS121で肯定的に判断された場合には、その時点の入力トルクが、学習値を既に得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS122)。その判断結果が肯定的である場合、油温が予め定めた第1基準値THOH1 以上か否かが判断される(ステップS123)。この第1基準値THOH1 は比較的低い温度であり、このステップS123で肯定的に判断された場合には、制御開始条件が成立したことになり、制御が開始される。すなわち学習値が既に得られていれば、無段変速機構1や駆動系統の実際の状態を反映した係合圧制御をおこなうことができるので、油温が相対的に低くて油圧制御精度が特には高くなくても、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を実行できる。
そのため、ステップS123で肯定的に判断された場合には、「phase」が“0”に設定されているか否かが判断される(ステップS124)。このステップS124で否定的に判断された場合には、設定されている「phase」に応じた制御をおこなうために、ステップS140に進む。これとは反対に「phase」が“0”に設定されていることによりステップS124で肯定的に判断された場合には、制御を順におこなうために、ステップS130に進んで「phase」が“1”に設定される。
一方、ステップS122で否定的に判断された場合、すなわちその時点の入力トルクが、学習値の得られていない領域に入っている場合には、油温が第2基準値THOH2 以上か否かが判断される(ステップS125)。この第2基準値THOH2 は前記第1基準値THOH1 より高い温度である。
このステップS125で肯定的に判断された場合には、制御開始条件が成立したことになり、制御が開始される。すなわち学習値が未だ得られていなければ、ロックアップクラッチ11の係合圧を滑りに対して所定の余裕が生じるように正確に設定することが困難であるから、油温が高いことにより油圧の制御が安定している状態で制御が開始される。
そのため、ステップS125で肯定的に判断された場合には、上記のステップS124に進む。これに対してステップS125で否定的に判断された場合には、制御開始条件が成立していないことになるので、「phase」の設定などの制御をおこなうことなく、ステップS140に進む。すなわち制御を開始しない。
したがって図15に示すように制御開始条件を判定することにより、学習値が既に得られている場合には、油温が低い場合であっても、ロックアップクラッチ11の係合圧を低下させ、それに併せて無段変速機構1のベルト挟圧力を下げて効率の良い運転をおこなうことができる。言い換えれば、ロックアップクラッチ11のいわゆるトルクヒューズ制御に伴う動力伝達効率の良好な運転の期間を長くして燃費の向上を図ることができる。また、学習値が得られていない場合には、油温がある程度高い状態で制御を開始するので、係合圧の学習制御およびその後のロックアップクラッチ11の係合圧の設定制御を安定してかつ正確におこなうことができる。
つぎに図16に示す終了条件の判定制御について説明する。図16は前述したステップS150の制御内容を具体的に示すものであって、入力トルクの領域が記憶(ステップS140)された後、定常走行の判定中か否か、すなわち定常走行の判定が成立しているか否かが判断される(ステップS151)。この判定は、上記のステップS121での判定と同様にしておこなうことができる。
このステップS121で否定的に判断された場合には、終了条件が成立したことになるので、前述した図8に示すステップS150で肯定的に判断された場合と同様に、ステップS730に進む。すなわち終了制御をおこなう。
これに対してステップS151で肯定的に判断された場合には、その時点の入力トルクが、学習値を既に得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS152)。その判断結果が肯定的である場合、油温が予め定めた第3基準値THOL1 より低いか否かが判断される(ステップS153)。この第3基準値THOL1 は比較的低い温度(<THOH1 )であり、このステップS153で肯定的に判断された場合には、制御終了条件が成立したことになり、ステップS730に進んで終了制御がおこなわれる。
すなわち学習値が既に得られていれば、無段変速機構1や駆動系統の実際の状態を反映した係合圧制御をおこなうことができるので、油温が相対的に低くて油圧制御精度が特には高くなくても、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を実行できる。そのため、油温が低い状態まで制御が継続される。
これに対して、油温が高いことによりステップS153で否定的に判断された場合には、終了条件が成立していないことになるので、前述したステップS160に進んで、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御が継続される。
一方、ステップS152で否定的に判断された場合、すなわちその時点の入力トルクが、学習値の得られていない領域に入っている場合には、油温が第4基準値THOL2 より低いか否かが判断される(ステップS154)。この第4基準値THOL2 は前記第3基準値THOL1 より高い温度(<THOH2 )である。
このステップS154で肯定的に判断された場合には、制御終了条件が成立したことになり、したがってステップS730に進んで終了制御がおこなわれる。すなわち学習値が未だ得られていなければ、ロックアップクラッチ11の係合圧を滑りに対して所定の余裕が生じるように正確に設定することが困難であるから、油温が相対的に高い状態であっても係合圧の制御が不安定になる可能性があるので、制御が終了される。
これに対してステップS154で否定的に判断された場合には、制御終了条件が成立していないことになるので、ステップS160に進んでロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御が継続される。
したがって図16に示す制御を実行するように構成すれば、学習値が既に得られていることにより、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させ、それに伴って無段変速機構1のベルト挟圧力を低下させることのできる期間を低油温の状態まで拡大し、その結果、燃費を向上させることができる。また、学習値が得られていない場合には、油温が比較的高い状態であっても制御を終了するので、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとする制御が不安定になったり、それに伴ってロックアップクラッチ11や無段変速機構1に滑りが生じることを回避もしくは抑制することができる。
ところで、摩擦式のクラッチにおける不都合としてジャダーが知られている。ジャダーは、クラッチの係合と滑りとが繰り返し生じ、その結果、出力側のトルクが大きく変動して車体の振動などを引き起こす現象であり、これは、摩擦係数が完全係合時と滑り発生時とで異なっていることに起因するものと思われる。したがってジャダーは、滑り状態と完全係合状態との間での移行時に生じる。
この発明で対象としている制御は、無段変速機構1に対していわゆるトルクヒューズとして機能するクラッチを、係合状態から一旦滑り状態に移行させ、その後に係合圧を増大させて再係合させ、その再係合のための係合圧に所定の余裕圧を付与してクラッチをトルクヒューズとして機能させる。これは、クラッチの係合圧を学習する制御を含んでおり、その過程でクラッチを係合状態から滑り状態に移行させ、さらに滑り状態から係合状態に移行させるから、ジャダーの発生の可能性がある。そこでこの発明の制御装置では、ジャダーの発生履歴を制御の開始条件あるいは終了条件とすることが好ましい。図17および図18にその制御例を示してある。
図17は制御の開始条件を成立を判定するためのフローチャートであって、前述した図15に示すフローチャートにジャダーの発生履歴の有無を判断するステップを加えたものである。すなわち、定常走行の判定中であることによりステップS121で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11が過去にジャダーを発生したことがあるか否かが判断される(ステップS126)。なお、そのジャダーの発生履歴は、入力トルクの領域毎に判断することとしてもよい。ジャダーの発生履歴があることによりこのステップS126で肯定的に判断された場合には、「phase」の設定などの制御を特におこなうことなくステップS140に進む。すなわち、前述したいずれの「phase」にも進まないので、制御が開始されない。
これに対してジャダーの発生履歴がないことによりステップS126で否定的に判断された場合には、前述したステップS122に進み、図15を参照して説明したとおり、ステップS122ないしステップS125の制御を実行する。
したがって図17に示す制御を実行するように構成されていれば、ロックアップクラッチ11にジャダーの発生履歴がある場合、それをもって制御の禁止条件とされ、ロックアップクラッチ11の係合圧を、滑りに対する余裕がゼロの圧力に所定の余裕圧を加えた圧力に設定し、もしくはそのための学習をおこなう制御が実行されないので、ロックアップクラッチ11のジャダーを防止することができる。
また、図18は制御の終了条件の成立を判定するためのフローチャートであって、前述した図16に示すフローチャートにジャダーの発生の履歴の有無を判断するステップを加えたものである。すなわち定常走行の判定中であることによりステップS151で肯定的に判断された場合、ロックアップクラッチ11が過去にジャダーを発生したことがあるか否かが判断される(ステップS155)。なお、そのジャダーの発生履歴は、入力トルクの領域毎に判断することとしてもよい。ジャダーの発生履歴があることによりこのステップS155で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS730に進んで終了制御が実行される。すなわち、ジャダーの発生履歴のあることが終了条件とされている。したがってそれ以降では、ロックアップクラッチ11を一旦滑らせた後に再係合させる学習制御が実行されないので、ロックアップクラッチ11のジャダーを防止することができる。
なお、ジャダーの発生履歴がないことによりステップS155で否定的に判断された場合には、図16を参照して説明したステップS152に進み、ステップS152ないしステップS154において油温についての終了条件の成立の判断およびその判断の結果に伴う制御が実行される。
なお、前述した学習値DPLU1 が得られている領域にその時点の入力トルクが入っている場合、既に学習値DPLU1 が得られていることから判るように、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させることが可能であるから、その場合は、ジャダーの発生履歴の有無を判定せずに、制御を実行することとしてもよい。その例を図19に示してあり、ここに示す例では、ジャダーの発生履歴の有無が、既学習領域でない場合に油温を第2基準値THOH2 と比較するステップS125の後に判断される(ステップS126)ようになっている。なお、ステップS125の前で判断するようにしても特に変わるところはない。
したがって図19に示す制御例では、学習値DPLU1 が既に得られている場合には、油温が第1基準値THOH1 以上であることを条件として、ロックアップクラッチ11の係合圧についての学習制御が実行される。これに対して学習値が得られていない状態では、たとえ油温についての条件が満たされていても、ジャダーの発生履歴があればステップS126で肯定的に判断されるので、「phase」の設定などの制御がなくステップS140に進み、制御が開始されない。このように図19に示す制御を実行する構成では、学習値が既に得られていれば、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御およびそれに関連する学習制御が実行され、これに対して学習値が得られていない場合には、ジャダーの発生履歴が制御の禁止条件とされ、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御が禁止される。
また、図20に示す例は、ジャダーの発生履歴を制御の終了条件とした例であり、図18に示す制御例におけるステップS155の判断を、学習値が得られておらず、かつ油温が第4基準値THOL2 以上の場合におこなうように構成した例である。すなわち、油温がある程度高いことにより油圧の制御に支障がない場合であっても、ロックアップクラッチ11にジャダーの発生履歴があると(ステップS155で肯定的に判断されると)、直ちにステップS730に進んで制御終了のための制御が開始される。その結果、それ以降は、ロックアップクラッチ11を滑らせた後に再係合させる制御が実施されないので、ロックアップクラッチ11にジャダーが発生することを防止もしくは抑制することができる。
なお、学習値が得られている場合には、上記のステップS155を経由することがないので、ジャダーの発生履歴の有無が制御終了条件とはされない。したがってロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させ、それに伴って無段変速機構1のベルト挟圧力を低くして動力の伝達効率を向上させる機会が大きくなるので、燃費を向上させることができる。
上述した制御例は、ジャダーの発生履歴があった場合には、制御を一律に禁止し、もしくは終了させる制御例であるが、ジャダーを回避できる場合には、ジャダーの発生履歴があっても、ロックアップクラッチ11の係合圧についての学習を含む上記の制御を許可し、またその制御を終了することなく継続することとしてもよい。すなわち、摩擦式クラッチにおけるジャダーは、係合圧が、滑りの生じない範囲で最低の係合圧付近にある場合に発生しやすく、一旦発生すると、係合圧が僅かに変化した程度では、収束しない傾向がある。また、反対にそのような微妙な係合圧の状態にとどまらずに、係合圧が直ちに増大もしくは低下して変化する場合には、ジャダーが発生しにくい傾向がある。そこで、図21に示す制御例および図22に示す制御例では、ジャダーの発生履歴がある場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧を迅速に変化させてジャダーを発生しにくくし、それでもジャダーが生じる場合には、制御の開始を禁止し、また制御を終了するように構成してある。
図21に示す例は、前述した図17に示すフローチャートの一部を変更したものであって、定常走行の判定が成立している状態でジャダーの発生履歴のあることが判断された場合(ステップS126で肯定的に判断された場合)、ロックアップクラッチ11の係合圧を設定する油圧の変化勾配(スイープ勾配)を急にする要求が出力される(ステップS127)。このスイープ勾配は、前述した「phase2」ないし「phase4」におけるスイープ勾配DLPLU1,DLPLU2,DLPLU3であり、ステップS127ではこれらの値を大きくするように指令が出力される。
ついで、油圧の変化勾配を大きくしてもジャダーが発生したか否かが判断される(ステップS128)。このステップS128で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧を変化させる過程でジャダーが発生してしまうので、係合圧の学習を含む制御をおこなうことができない。したがってこの場合は、制御開始条件が成立しないとして、「phase」を設定するなどの処理をおこなうことなく直ちにステップS140に進む。すなわち制御を開始しない。
これに対してステップS128で否定的に判断された場合には、ジャダーの発生履歴があるとしても係合圧のスイープ勾配を急にすることにより、ジャダーを回避できることになる。このような否定的な判断は、例えばジャダーの発生履歴が誤りであった場合や、フルードが新品に交換された場合などに成立することが考えられる。したがってこの場合は、ジャダーの発生履歴が制御開始の阻害要因にならないので、前述したステップS122に進み、それ以降のステップS123ないしステップS125の制御を、図15あるいは図19を参照して説明したとおりに実行する。
したがって図21に示す制御を実行するように構成した場合には、ジャダーの発生履歴があっても、ジャダーを回避できる場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧の学習を含む制御を開始し、その結果、滑りに対する伝達トルクのいわゆる余裕を無段変速機構1における滑りに対する伝達トルクのいわゆる余裕よりも小さくする制御を実行できる機会が増大するので、無段変速機構1での動力の伝達効率を高くして燃費を向上させることができる。
一方、制御の終了条件の一つとして、油圧のスイープ勾配を急にしてもジャダーが発生するか否かが判断される。その例を図22に示してあり、前述したステップS151で定常走行の判定中であることが判断された場合に、前述したステップS127の制御に基づいて油圧のスイープ勾配を急にしてもジャダーが発生するか否かが判断される(ステップS156)。そして、このステップS156で肯定的に判断された場合には、ジャダーの発生履歴があり、かつジャダーの発生を回避できないことになるので、この場合は制御の終了条件が成立したとして直ちにステップS730に進み、制御終了のための処理がおこなわれる。
これに対してステップS156で否定的に判断された場合には、ジャダーを回避できるので、ステップS152に進み、それ以降のステップS153ないしステップS154の制御を、図16あるいは図20を参照して説明したとおりに実行する。なお、このような否定的な判断は、例えばジャダーの発生履歴が誤りであった場合や、フルードが新品に交換された場合などに成立することが考えられる。
したがって、ジャダーの発生履歴があることのみによっては制御の終了条件が成立したとはされずに、ジャダーを回避できる場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧の学習を含む制御を継続する。その結果、滑りに対する伝達トルクのいわゆる余裕を無段変速機構1における滑りに対する伝達トルクのいわゆる余裕よりも小さくする制御を実行できる機会が増大するので、無段変速機構1での動力の伝達効率を高くして燃費を向上させることができる。
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS150の機能的手段が、この発明の終了検出手段に相当し、ステップS683、ステップS684、ステップS686、ステップS750の機能的手段が、この発明の係合圧増大手段に相当する。
なお、上記の具体例では、無段変速機構の入力側に直列に配置されたロックアップクラッチを例に採って説明したが、この発明におけるクラッチは、要は、無段変速機構に対してトルクの伝達方向で直列に配列されたクラッチであればよく、したがって無段変速機構の出力側に配置されたクラッチでもよく、またロックアップクラッチ以外のクラッチであってもよい。また、無段変速機構はベルト式に限らず、トラクション式の無段変速機構であってもよい。また、上記の具体例では、クラッチの摩擦係数の変化要因として油温および劣化の程度(使用期間)を挙げたが、この発明における摩擦係数に関連する物理量は、これら以外に適宜のものを採用することができる。さらに、上記の具体例では、滑りがゼロの係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧とその時点の入力トルクに基づいて出力されている係合圧との差を学習値とするように構成したが、この発明における係合圧の学習値は、クラッチが再係合する際の係合圧あるいはこれに所定の余裕圧を付与した係合圧であってもよい。またさらに、上記の具体例では、学習値が偏った場合に無段変速機構の挟圧力を増大補正するように構成したが、この発明では、学習値の偏りが低下したことを検出した場合に、その増大補正した挟圧力を低下させるように構成してもよい。
1…無段変速機構、 3…トルクコンバータ、 4…エンジン(動力源)、 11…ロックアップクラッチ、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 26…駆動輪、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。