JP4171141B2 - 耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材 - Google Patents

耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材であって、耐糸さび (錆) 性に優れたAl-Mg-Si系アルミニウム合金材(以下、アルミニウムを単にAlと言う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車、船舶あるいは車両などの輸送機の外板や構造材あるいは部品用、また家電製品の構造材あるいは部品用、更には屋根材などの建築、構造物の部材用として、成形性に優れたAA乃至JIS5000 系や成形性や焼付硬化性に優れたAA乃至JIS 6000系 (以下、単に5000系乃至6000系と言う) のAl合金材が使用されている。この中でも、特に、自動車のドアやフェンダーあるいはボンネットなどのパネル材或いはホイール等の自動車用部材についても、前記材料特性やリサイクル性の点から、圧延板材、押出材、鋳鍛材などの、6000系Al合金材の使用が検討されている。
【0003】
6000系Al合金は、基本的にSi:0.2〜1.8% (質量% 、以下同じ) 、Mg:0.2〜1.6%を含有するAl-Mg-Si系Al合金である。そして、この6000系Al合金は、プレス成形加工時には成形加工性を低耐力により確保するとともに、プレス成形後の焼付塗装時に時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる。また、スクラップをAl合金溶解原料として再利用する際に、比較的合金量が少なく、元の6000系Al合金鋳塊を得やすい。したがって、従来から輸送機用として使用されてきたMg量などの合金量が多い5000系のAl合金に比して有利である。
【0004】
このAl合金材の内、例えば板材を輸送機用のパネルなどとして採用するためには、Al合金板を部材形状にするための、深絞り、張出し、曲げ、伸びフランジなどのプレス成形加工が施される。この際、深絞りや張出し、或いは伸びフランジ成形においては、高い深絞り性 (限界絞り比 LDRや限界絞り高さLDH0) や高い形状凍結性を確保することが必要である。そして製品乃至部材形状の複雑化に伴い、プレス成形加工条件は益々厳しいものとなっている。
【0005】
このため、従来から、6000系Al合金板の成形性を向上させる手段として、6000系Al合金板の化学成分組成を制御することが行われている。その代表例が、Cuなどを添加して成形性を向上させることであり、特開平6-2064号、特開平6-136478号、特開平8-109428号、特開平9-209068号、特開平9-202933号公報等で多数提案されている。また、板以外の押出材や鋳鍛材などでも、Cuは強度や靱性を向上させる手段としても汎用されている。
【0006】
しかし、Cuを添加すると確かに成形性は向上するものの、一方で、塗装後耐蝕性である耐糸さび性が劣化する。例えば、Cuを0.3%以上含有すると、Cuを含有しないもの(Cu が0.05% 未満のもの) に比して、極端に耐糸さび性が劣化する。
【0007】
近年、特に板の分野では、輸送機用の6000系Al合金の中でも、特に、人工時効処理後の高耐力化を狙い、Si量を高くするとともに、Siの粒界への析出の抑制のため、連続熱処理炉にて溶体化処理後に焼入れ処理されるAl合金材が主流となっている。そして、このような高Si系の6000系Al合金材において、前記Cuを0.05〜3.0%含有した場合、塗装後の糸さび発生の感受性が、バッチ式の熱処理炉により溶体化処理および焼入れされる場合に比して、著しく高くなる。したがって、このようなCuを含む6000系Al合金材、特に高Si系の6000系Al合金材の耐糸さび性を向上させることが課題となっている。
【0008】
一方、このような高Si系の6000系Al合金板ならずとも、Al合金材は、鋼板に比して、元々塗装下地処理としてのリン酸塩処理性に劣り、塗装後の耐糸さび性も劣ってくる。そして、このリン酸亜鉛等のリン酸塩処理性が劣ると、Al合金材表面に、均一で適当量のリン酸亜鉛等の皮膜が確保されにくく、その後の塗膜の密着性や耐糸さび性が劣化する。
【0009】
また、リン酸塩処理の側からも、Al合金材のリン酸塩処理性にとって、不利な条件となっている。例えば、輸送機のなかでも、自動車の製造ラインにおいては、成形、組み立て後の車体は、通常、リン酸塩処理およびカチオン電着塗装処理などの塗装下地処理を施された後、焼付け硬化する中塗り、上塗りなどの塗装を施される。そして、この製造ラインにおける各工程条件は、これまで主として使用されている鋼材に適した条件となっている。このため、鋼材とともに複合材化乃至併用されることが多いAl合金材は、鋼材とともに、或いは鋼材と同じ工程で処理される。この場合、Al合金材は、鋼材に適した処理条件では、よりリン酸塩処理性が劣ることになる。
【0010】
これに対し、Al合金材のリン酸塩処理性を改善するための方法として、従来からリン酸塩処理浴の側を改善することが行われている。例えば、その代表例としては、リン酸塩処理浴に数十〜数百ppm 程度の高濃度のフリーフッ素(F) イオンを添加することが行われている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このフリーフッ素(F) イオンの添加によって、確かに、Al合金材のリン酸塩処理性は改善される。しかし、Al合金材表面へのリン酸塩皮膜の形成は、Al合金材表面からのAlイオンの溶出によって促進されるため、Al合金材のリン酸塩処理性が良くなるほど、Al合金材表面からのAlイオンの溶出量が多くなる。そして、このAlイオンの溶出量が多くなると、肝心の鋼材の方のリン酸塩処理性が阻害されるという新たな問題を生じる。
【0012】
勿論、リン酸塩処理浴より、蓄積したAlイオンを除去してやれば良いが、除去に伴うリン酸塩浴のロス分や、処理設備のコストが大きく、省エネや効率化が厳しく追求される自動車などの製造ラインにとって、これらのコストアップは不利となってしまう。
【0013】
そして、何より問題なのは、後述する本発明者らの知見によれば、このようにリン酸塩浴中のフリーフッ素イオンの濃度が高くなった場合、本発明で対象とするCuを含む6000系Al合金材乃至高Si系の6000系Al合金材の場合、耐糸さび性が極端に低下する現象が生じるという点である。
【0014】
一方、Al合金材の素材側からのリン酸処理性の改善として、特開平6-287672号公報では、Cuを0.01〜5%添加した6000系などのAl合金板を、エッチングなどの処理により、表面にCuを0.1 〜10wt% 析出 (濃縮) させ、析出したCuをリン酸塩処理の際のカソード反応点として働かせて、リン酸塩処理性を改善することが開示されている。また、軽金属学会第93回秋期大会講演概要集(1997 年発行) にも、6000系Al合金にCuを0.30、0.69wt% 含有させて、酸洗などによりAl合金板表面にCuを0.98、3.98wt% 積極的に析出させて、リン酸塩処理性を改善することが開示されている。
【0015】
しかし、本発明者らの知見によれば、Al合金材の表面にCuを濃縮させた場合、確かに、Al合金材のリン酸塩処理性は改善されるものの、表面にCuを濃縮させた6000系Al合金板の耐糸さび性の方は、逆に、極端に低下してしまうという矛盾する現象が生じる。したがって、Al合金材の表面にCuを濃縮させる前記従来技術は、Cuを含む6000系Al合金材の耐糸さび性向上のためには、却って逆効果となってしまう。このため、塗装後の糸さび発生に対する感受性が著しく高い、Cuを含む6000系Al合金材の耐糸さび性を向上させる有効な技術は、今までに無かったのが実情である。
【0016】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、耐糸さび性を改善したCuを含む6000系Al合金材を提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明Al合金材の要旨は、Si:0.2〜1.8% (質量% 、以下同じ) 、Mg:0.2〜1.6%、Cu:0.05 〜1.5%を含み、化成処理後塗装されて用いられるAl-Mg-Si系アルミニウム合金材であって、表面に厚さが100 Å (オングストローム) 以下のアルミニウムの酸化皮膜を有するとともに、アルミニウムの酸化皮膜最表層部から少なくとも80Åの深さの表面部分におけるCu含有量を、アルミニウム合金材自体のCu含有量以下とすることである。
【0018】
本発明者らは、Cuを含む6000系Al合金材表面について、Al酸化皮膜最表層部から80Å程度の深さの表面部分の、Al酸化皮膜やAl酸化皮膜下のAl合金材生地最表面部 (Al酸化皮膜との界面部) のCu含有量が、Al合金材の耐糸さび性に大きく影響していることを知見した。
【0019】
Al酸化皮膜の組成乃至性状を左右するAl合金材の製造工程として、Al合金材の洗浄工程がある。通常、プレス成形用などの6000系Al合金板を製造する際、冷間圧延などの塑性加工後の最終の溶体化および焼入処理の後に、酸あるいはアルカリ、更にはこれらを組み合わせた洗浄液による、Al合金材の洗浄 (エッチング) が行われている。この洗浄工程は、その前の工程である冷間圧延などの塑性加工や溶体化処理によりAl合金材表面に付着している油や汚れを除去する、あるいは前記自動車製造ラインにおけるリン酸亜鉛などの化成処理性を阻害するMgO を含有する酸化皮膜を除去する目的で行われるものである。
【0020】
しかし、この洗浄により、Al合金材表面の酸化皮膜乃至Al合金板生地が強エッチングされると、残留する酸化皮膜、或いはエッチング後の乾燥工程以降で再生成する酸化皮膜中およびAl酸化皮膜下のAl合金材生地最表面部には、Al合金材生地のCu量よりもCuが濃縮する現象が生じる。
【0021】
このCuの濃縮自体については、前記特開平6-287672号公報などで公知である。しかし、前記した通り、これら従来技術により、Al合金材の表面にCuを濃縮させた場合、Al合金材のリン酸塩処理性は改善されるものの、Al合金材の耐糸さび性は、逆に、極端に低下してしまう。そして、このAl合金材の耐糸さび性低下の現象は、特に、フリーフッ素イオン量が高いリン酸塩処理を施した場合、例えば、フリーフッ素イオン濃度が150ppm程度以上の場合に顕著となる。
【0022】
これは、Al合金材の表面に濃縮したCuが、リン酸塩処理の際のカソード反応点として働き、確かに、リン酸塩処理性は改善されるものの、Cuの濃縮によって、リン酸塩処理および塗装後も、Al合金材の表面に、Cuが必然的に残留し、この表面のCuが耐糸さび性を著しく劣化させるものと考えられる。したがって、本発明では、Al合金材表面の、特に酸化皮膜中のCu含有量を、Al合金材生地のCu含有量以下とし、前記従来技術とは逆に、少なくとも、酸化皮膜などのAl合金材の表面にCuを析出乃至濃縮させないようにすることを骨子とする。
【0023】
また、これらの従来技術がCuの析出乃至濃縮の対象とする部分は、本発明で言うAl酸化皮膜下のAl合金材生地最表面部であって、本発明で言うAl酸化皮膜ではない。これら従来技術では、酸洗などのエッチングにより、一旦表面の酸化皮膜を全て除去し、更にAl合金材生地表面もエッチングして、Al合金材生地表面にCuの析出乃至濃縮を行うからである。
【0024】
【発明の実施の形態】
(Al酸化皮膜の厚さ)
Al合金材表面のAl酸化皮膜の厚さはリン酸亜鉛などの化成処理性の点からは薄いほど好ましい。Al酸化皮膜の厚さが100 Åを越えた場合には、却って化成処理時にAl酸化皮膜が溶解 (エッチング) しにくくなり、リン酸亜鉛などの化成処理皮膜の付着性が悪くなる。化成処理皮膜の付着性が悪くなると、皮膜の付着量が低下し、塗装後耐蝕性としての耐糸さび性を低下させる。したがって、Al合金材表面のAl酸化皮膜の厚さは100 Å以下とする。
【0025】
なお、Al合金材表面のAl酸化皮膜の膜厚は、X線光電子分光法(XPS) により、比較的簡単に、かつ精度良く測定することができる。Al酸化皮膜の膜厚の測定方法としては、他に、ハンターホール法や静電容量法等があるが、Al酸化皮膜は薄膜であり、測定方法が違うと、測定値のバラツキが生じる場合があるので、本発明のAl合金材表面のAl酸化皮膜の膜厚は前記XPS により測定するものとする。
【0026】
XPS による具体的な測定方法は、Al酸化皮膜中のAl原子から放出され、XPS の検出器で観測される光電子数(NOX) 、下地のAl基材中Al原子から放出され、XPS の検出器で観測される光電子数(NAl) を用い、d=20 cosθ In(1.15 NOX/NAl+1)の算出式 (但し、θは光電子の検出角度) により、酸化皮膜の膜厚d(Å: オングストローム) を算出する。
【0027】
(表層部のCu量)
本発明で、Al合金材表面のCu量を規定するに際し、Al酸化皮膜最表層部から少なくとも80Åの深さ (厚み) の表面部分としたのは、前記洗浄等によるCuの濃縮が、Al酸化皮膜やAl酸化皮膜下のAl合金材生地最表面部 (Al酸化皮膜との界面部) で進むことを知見したからである。そして、これら、Cuの濃縮が進み、耐糸さび性に大きく影響している表面部分は、Al酸化皮膜の厚みによっても勿論異なるが、概ね、Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さ範囲に含まれることを知見したからである。したがって、Cuの濃縮が問題となるAl酸化皮膜の最大厚さを、本発明では100 Åとしているので、本発明で規定する少なくとも80Åの深さとは、最大でも、このAl酸化皮膜の厚さ程度であれば良く、それ以上の、Al合金材生地最表面部を越えて、Al合金材の生地に至るような深さまでは不要である。
【0028】
本発明でいう、前記表面部分のCu含有量とは、エスカ(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis) とも呼称されるX 線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析により検出されるCuおよびCu量を言う。Al酸化皮膜のような薄膜中のCu量は、通常の材料の成分分析に使用されるカント分析 (発光分光分析) では不可能であり、本発明では、固体表面分析に汎用される、X 線光電子分光法を用いて、Al合金材の表層部のCu量を測定する。そして、より具体的には、このX 線光電子分光法により、Al酸化皮膜最表層部から深さ (厚み) 方向に対し80Åの深さまで、10Å毎の各ポイント (深さ位置) で検出されるCu量の平均を、この深さ部分のCu含有量(at%) とする。
【0029】
更に、本発明では、耐糸さび性をより向上させるために、前記アルミニウムの酸化皮膜最表層部から10Åまでの深さの表面部分における、前記X 線光電子分光法により検出される、Cu含有量を0at%とすることが好ましい (請求項2 に対応) 。これによって、耐糸さび性に影響している、酸化皮膜中乃至Al生地の最表面部 (酸化被膜とAl生地との界面部) に存在するCuが実質的に無くなり、Al合金材の耐糸さび性は更に向上する。
【0030】
なお、酸化皮膜中乃至Al生地の最表面部に存在するCuが耐糸さび性に影響していることは疑いがないものの、このCuの存在形態および特に耐糸さびに影響するCuの存在形態は、金属Cuであるのか、Cuの酸化物であるのか、必ずしも明確ではない。したがって、本発明では、種々存在すると推考されるCuの存在形態によらず、前記X 線光電子分光法による計測される、Al合金材の表層部のCu含有量を規定する。
【0031】
そして、一方、これと比較すべき、Al合金材の方のCu含有量は、本発明のAl合金材の主要成分量の測定などに用いる、通常のカント分析によるものではなく、Al合金材の表層部のCu量と同じく、前記X 線光電子分光法により測定されるCu含有量(at%) とする。そして、その規準測定位置は、Al酸化皮膜最表層部から300 Åの深さのAl合金材の生地部分とする。この規準測定位置は、300 Å以上の深さであれば、Al合金材の生地部分となり、いずれの深さでも良いが、測定位置による多少のばらつきを考慮して、本発明では前記300 Åとする。Al合金材の方のCu含有量の測定もX 線光電子分光法によるものとしたのは、Al合金材の表層部のCu量とAl合金材の生地のCu量との比較(Cu 量の濃縮度) を正確に行うために、両者の測定のベースを同じとするためである。また、本発明のようなÅ単位の極薄膜でもある、酸化皮膜や、これにつながるAl生地のCu量を求めるためには、通常のAl合金成分量を求める前記カント分析(wt%または質量%)では、測定が困難であることにもよる。
【0032】
本発明において、Al合金材自体のCu含有量は、前記した通り、0.05〜1.5%であり、このCu含有量に対応して、前記溶体化および焼入処理材の洗浄後、或いはリン酸塩処理などの化成処理前のAl合金材における、Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面部分のCu含有量を、前記Al合金材のCu含有量以下とする。
【0033】
Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面部分のCu含有量が、Al合金材の前記Cu含有量を越えて、濃縮して存在した場合、前記した通り、Al合金材の塗装後の糸さび発生の感受性が著しく高くなり、耐糸さびが著しく低下する。中でも、特に、人工時効処理後の高耐力化を狙い、Si量を1.0%程度と高くするとともに、Siの粒界への析出の抑制のため、連続熱処理炉にて溶体化処理および焼入れされる高Si系の6000系Al合金材において、Cuを0.05〜1.5%含有した場合、塗装後の糸さび発生の感受性が著しく高くなる。
【0034】
Al合金材表面のCu含有量は、最終の溶体化および焼入処理の後の、酸あるいはアルカリ、更にはこれらを組み合わせた洗浄液による、Al合金材の洗浄 (エッチング) 工程により大きく影響を受ける。言い換えると、この洗浄力乃至エッチング量を制御することにより、Cu含有量を制御することが可能である。
【0035】
前記特開平6-287672号公報等の、強エッチングを行い、Al酸化皮膜およびAl合金材の溶解量を大きくした場合、著しくCuは濃縮しやすくなる。前記特開平6-287672号公報等でも、Al合金板のCu量が0.01〜5wt%であるのに対し、強エッチングにより、表面のCu量は0.1 〜10wt% と数倍〜数十倍に濃縮析出している。この点は、本発明で規定する、Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面部分のCu含有量も同様である。
【0036】
したがって、本発明においては、硝酸、硫酸等の酸、カセイソーダ等のアルカリ溶液、あるいは市販の洗剤等を適宜組み合わせた洗浄条件 (洗浄液の濃度、温度、洗浄時間等) を、極力、酸化物皮膜やAl合金材をエッチングしない条件を選択する必要がある。なお、酸化物皮膜やAl合金材をエッチングしないために、Al合金材表面に圧延油などによる汚れの問題がなければ、無洗浄とすることも、勿論、選択肢の一つとなる。但し、Al合金材表面へのCuの濃縮量は、洗浄条件だけでは一義的に決まらない部分もあるので、Al合金材表面へのCuの濃縮の規制のためには、元のCu含有量や他の製造条件にも注意する必要がある。
【0037】
次に、本発明Al合金材に適用するAl合金を説明する。本発明Al合金材には、自動車、船舶などの輸送機材や構造材あるいは部品用などの、具体的な用途毎の特性を満足するために、AA乃至JIS 6000系のAl合金が適宜使用される。なお、Al合金材としては、圧延による板材のみではなく、押出による形材、或いは鍛造による鍛造材が適宜選択され、要はAl合金材の形状や製造方法は限定されない。
【0038】
Al-Mg-Si系の6000系Al合金は、特に自動車のパネル材やフレーム材として、基本的に、耐力が120N/mm2以上でプレス成形性や曲げ加工性に優れることや、成形後の塗装焼付後に150N/mm2以上、好ましくは200N/mm2以上の耐力となる人工時効硬化性、あるいは、合金元素量が少なく、スクラップが元の合金用の溶解原料として使用できるリサイクル性などの特性に優れている。
【0039】
以下、6000系Al合金における、好ましい化学成分組成について説明する。前記自動車のパネル材やフレーム材としての諸要求特性を満足するために、化学成分組成の好ましい範囲は、6000系Al合金の成分規格 (AA 6101 、6111、6003、6151、6061、6N01、6063など) に相当するものとして、基本的にSi:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%、Cu:0.3〜1.5%を含有し、その他、好ましくは、Zn:0.005〜1.0%、Ti:0.001〜0.1%の一種または二種以上、B:1 〜300ppm、Be:0.1〜100ppmの一種または二種、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.15%以下、V:0.15% 以下の一種または二種以上を、選択的に合計で0.01〜1.5%含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl合金とする。
【0040】
しかし、本発明では成形性の向上のために、Cuの含有を必須とするため、このCuの含有量は必ずしも各々のAA乃至JIS の成分規格内とはならない場合がある。また、基本となる成分のSi、Mg以外の元素は、AA乃至JIS の各成分規格通りにならずとも、前記基本的な特性を有してさえいれば、更なる特性の向上や他の特性を付加するための、適宜成分組成の変更は許容される。この点、用途および要求特性に応じて、Fe、Ni、V 、Mn、Cr、Zr、Sc、Agなどの他の元素を適宜含むことは許容される。更に、酸素や水素等の不純物は、Al合金材の諸特性を劣化させない程度の含有は許容される。
【0041】
次に、本発明Al合金材の各元素の含有量の好ましい範囲について説明する。
【0042】
Si:0.2〜1.8%。SiはMgとともに、人工時効処理により、Mg2 Siとして析出して、使用時の高強度 (耐力) を付与するために必須の元素であるが、0.2%未満、より厳密には0.8 % 未満の含有では人工時効で十分な強度が得られない。一方、1.8%を越えて、より厳密には1.3 % を越えて含有されると、鋳造時および焼き入れ時に粗大な粒子として析出して、伸びが低くなるなど、成形性を阻害する。したがって、Siの含有量は0.2 〜1.8%、また、特に、Siの粒界への析出の抑制のために、連続熱処理炉にて溶体化および焼入れ処理することを前提に、人工時効処理後の高耐力化を狙うためには、好ましくは0.8 〜1.3%の範囲とする。
【0043】
Mg:0.2〜1.6%。Mgは人工時効時 (成形、塗装後の焼き付け硬化処理など) により、SiとともにMg2 Siとして析出して、また、Cu含有組成では更にCu、Alと化合物相を形成して、使用時の高強度 (耐力) 乃至焼き付け硬化性を付与するために必須の元素である。Mgの0.2%未満の含有では加工硬化量が低下して、プレス成形や曲げ加工を受けた際の剪断変形に耐えられず、割れを生じる可能性がある。また、人工時効でも十分な強度が得られない。一方、1.6%を越えて、より厳密には0.7%を越えて含有されると、強度 (耐力) が高くなりすぎ 成形性を阻害する。したがって、Mgの含有量は0.2 〜1.6%、好ましくは0.2 〜0.7%の範囲とする。
【0044】
Cu:0.05 〜1.5%。Cuは焼き付け加熱時にMg、Alと化合物相を形成して析出し、焼き付け硬化性を付与するとともに、T4調質時の固溶状態において、成形性を向上させる。Cuの含有量が0.05% 未満では、これらの効果が無く、1.5%を越えると効果が飽和する。しかも、Cuの含有量が1.5%を越えると、Al合金材をエッチング処理した際に、Al合金材表面にCuが多量に析出 (濃縮) し、却って、Al合金材の耐糸さび性を劣化させる。したがって、Cuの含有量は0.05〜1.5%とする。
【0045】
次に、Zn、Ti、B 、Be、Mn、Cr、Zr、V は、各々目的に応じて、選択的に含有される元素である。
【0046】
Zn:0.005 〜1.0%。Znは人工時効時において、MgZn2 を微細かつ高密度に析出させ高い強度を実現させる。しかし、Znの0.005%未満の含有では人工時効で十分な強度が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、耐蝕性が顕著に低下する。したがって、Znの含有量は0.005 〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
Ti:0.0001 〜0.1%。Tiは鋳塊の結晶粒を微細化し、プレス成形性を向上させるために添加する元素である。しかし、Tiの0.001%未満の含有では、この効果が得られず、一方、Tiを0.1%を越えて含有すると、粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。したがって、Tiの含有量は0.0001〜0.1%の範囲とすることが好ましい。
【0048】
B:1 〜300ppm。B はTiと同様、鋳塊の結晶粒を微細化し、プレス成形性を向上させるために添加する元素である。しかし、B の1ppm未満の含有では、この効果が得られず、一方、300ppmを越えて含有されると、やはり粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。したがって、B の含有量は1 〜300ppmの範囲とすることが好ましい。
【0049】
Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.15%以下、V:0.15% 以下。これらの元素は均質化熱処理時およびその後の熱間圧延時に、Al20Cu2Mn3、Al12Mg2Cr 、Al3Zr 、Al2Mg3Zn3 などの分散粒子を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる。しかし過剰な含有は溶解、鋳造時に粗大な金属間化合物を生成しやすく、成形時の破壊の起点となり、成形性を低下させる原因となる。また、Zrの過剰な含有はミクロ組織を針長状にしやすく、特定方向の破壊靱性および疲労特性更には成形性を劣化させる。このため、これらの元素の含有量は各々、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.15%以下、V:0.15% 以下とする。
【0050】
Fe: 不純物として含まれるFeは、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2 、(Fe,Mn)Al6などの晶出物を生成する。これらの晶出物は、破壊靱性および疲労特性更には成形性を劣化させる。特に、Feの含有量が0.5%を越えると顕著にこれらの特性が劣化するため、Feの含有量は0.5%以下とすることが好ましい。なお、鋳造中に生じる晶出物は、前記Fe系以外に、Al2Cu2Mg、Al2Cu2、Mg2Si などの可溶のものがあり、これらは溶体化処理および焼入で、Alマトリックス中に十分に再固溶させることが好ましい。その他、Niは0.05% 以下とすることが好ましい。
【0051】
本発明におけるAl合金材自体は常法により製造が可能である。例えば、6000系Al合金成分規格範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。次いで、このAl合金鋳塊に均質化熱処理を施した後、熱間圧延および冷間圧延 (必要により中間焼鈍) 、または押出、或いは鍛造などの塑性加工方法により、板材、型材、線棒材、鍛造材など、所望のAl合金材の形状に塑性加工される。そして、塑性加工された圧延材あるいは押出材は、圧延あるいは押出や鍛造ままか、必要によりT6処理 (溶体化処理後焼入れ) 或いは時効処理、過時効処理などの調質処理が行われ、前記した所望の機械的性質とされる。
【0052】
但し、6000系Al合金板材のプレス成形性をより向上させるとともに、プレス成形後の焼付塗装時の時効硬化能をより向上させるためには、前記した通り、Si量を0.8 〜1.3%として、Si量を高めることが好ましい。しかし、Si量を高めた場合には、前記調質処理の際、粒界へのSi析出による成形性の低下の問題が大きくなる。このため、これを防止するためには、短時間で板を加熱および急速に冷却することが必要で、この点、特に最終的な溶体化処理および水焼入れ処理をバッチ式ではなく、コイルから板を連続的に通板して熱処理することのできる連続熱処理炉にて行うことが好ましい。
【0053】
更に、Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面部分のCu含有量を制御したAl合金材の、保管等によるAl酸化皮膜の経時変化 (酸化による膜厚の増加) や組成変化(Mg 量の増加) を抑制することが、リン酸塩処理性の点から好ましい。そのための実施態様として、表面に、更に亜鉛めっきを施すことが好ましい。亜鉛めっき( 純亜鉛や亜鉛合金めっきを含む) を施せば、リン酸塩処理などの化成処理性をより優れたものとすることができる。但し、この亜鉛めっきを施す場合には、リン酸塩処理などの化成処理後、亜鉛めっき層が残留すると、却って耐糸さび性などの塗装後の耐蝕性を劣化させる。したがって、リン酸塩処理などの化成処理後に、Al合金材の表面に亜鉛めっき層が残留しない量乃至厚さだけ亜鉛めっきを施すことが好ましい。
【0054】
また、Al合金材表面に防錆油や潤滑油など塗布することも、プレス成形などの成形性向上のためにも好ましい。言い換えると、単に無処理のAl合金材だけではなく、このような新たな特性向上のための表面処理が本発明では許容される。そして、以上のAl合金材製造上の対策を行うことにより、このAl合金材を使用する側における長期の保管も可能になる利点もある。
【0055】
なお、Al合金材表面へのCuの濃縮により、耐糸さび性が劣化する問題は、リン酸塩処理だけではなく、他の燐酸- クロム酸塩処理、クロム酸塩処理やジルコニウムやチタンを含む非クロム酸塩処理、或いはAlの水和酸化物系皮膜を設ける処理等の、塗装下地としての化成処理が施された上で塗装される場合でも同様に生じる。したがって、本発明で言う化成処理とは、塗装下地処理として汎用されているこれら化成処理も含む。
【0056】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示す組成のAl合金の鋳塊をDC鋳造法により溶製後、470 ℃×8 時間の範囲で均質化熱処理を施し、厚さ3.5mm まで熱間圧延した。次に厚さ1.0mm まで冷間圧延し、連続熱処理炉において、560 ℃で数秒溶体化処理した後、水冷による急冷を行ってAl合金板を作成した。
【0057】
更に、表1 に示す組成のAl合金鋳塊をDC鋳造法により150mmvφビレットを溶製後、470 ℃×8 時間の範囲で均質化熱処理を施し、押出温度500 ℃、押出速度10m/分で厚さ2mm 、幅100mm の平板材を押出した。この際、押出直後に、プラテン内で押出材の周囲と長手方向に水スプレーを延在させ、強制的に水冷した。そして、バッチ式熱処理炉において、560 ℃で数十分溶体化処理した後、水冷による急冷を行ってAl合金形材を作成した。
【0058】
そして、これら溶体化処理および焼入れ後の、種々のAl板乃至形材の、洗浄条件を変えることにより (洗浄を行わないことも含め) 、Al合金材表面のAl酸化皮膜の厚さと、Al酸化皮膜の最表層部から80Åの深さの表面部分におけるCu含有量を変えた供試材とした。
【0059】
表2 に示す洗浄条件は、洗浄を全く行わなかった「洗浄無し」と、30℃の中性洗剤によるエッチングを殆ど伴なわない洗浄を行った「弱洗浄」と、50℃の5wt%水酸化ナトリウム水溶液と80℃の10wt% 硫酸水溶液との2 段階のエッチングを伴う洗浄を行った「強洗浄」の3 種類とした。
【0060】
なお、表2 に示す発明例の内、No.5、6 は、洗浄後大気雰囲気下で1 カ月間放置し、比較例10、12は、洗浄後大気雰囲気下で3 カ月間放置した後のものを供試材とした。
【0061】
これら供試材表面のAl酸化皮膜の膜厚を前記XPS により測定した。また、Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面部分のCu含有量は、前記XPS により、深さ方向に10Å毎の各ポイントで検出されるCu量(at%) を測定し、これの平均値とした。更にAl合金材の生地のCu含有量は、前記XPS により、Al酸化皮膜最表層部から300 Åの深さ部分のCu量(at%) を測定した。これらの結果を表2 に示す。また、表2 の内、発明例No.1 (洗浄無し) 、比較例No.9 (弱洗浄) 、比較例No.11(強洗浄) の場合の、Al酸化皮膜最表層部からAl合金材の深さ( 厚み) 方向へのCuの濃度分布を図1 に示す。
【0062】
因みに、表2 の発明例の内、溶体化処理後に水量を大として水冷で焼入れ処理したAl板および前記押出後直ちに水量を大として水冷した形材は、いずれも、後述する塗装焼付後に200N/mm2以上の耐力を有していた。
【0063】
次に、これら供試材をそのまま( 発明例No.2のみはジンケート処理により亜鉛めっきを1g/m2 表面に付着させ、1 ケ月放置後) 、リン酸チタンのコロイド分散液による処理を行い、次いでフリーフッ素を150ppmの低濃度含むリン酸亜鉛浴に浸漬してリン酸亜鉛処理を行い、各々の供試材へのリン酸亜鉛の被覆率を測定した。リン酸亜鉛の被覆率の測定は、1000倍のSEM 観察により、各々の供試材表面の単位面積 (0.04mm2)当たりの、リン酸亜鉛が被覆された供試材表面面積率を求めて行った。
【0064】
そして、更にこのリン酸亜鉛皮膜を設けた供試材に、カチオン電着塗装およびスプレー塗装により2 コート2 ベークの塗装皮膜を設け、これら塗膜を設けた供試材に対し、耐糸さび性評価試験を行った。これらの結果を表3 に示す。なお、2 コート2 ベークの塗装皮膜は、中塗り塗装として、30μm 厚さのポリエステルメラミン系塗装皮膜を設けて、140 ℃×20分の焼き付けを行い、更に上塗り塗装として、30μm 厚さのポリエステルメラミン系塗装皮膜を設けて、180 ℃×20分の焼き付けを行った。
【0065】
耐糸さび性評価試験は、塗装試験片に一片が7cm のクロスカットを施した後、35℃の3%HCl 水溶液に2 分間浸漬した後、40℃、85RHの恒温恒湿の雰囲気に1500時間放置し、その後発生した糸さびの最大長さL(クロスカットより垂直方向の距離) を測定した。耐糸さび性評価は、表1 の比較例No.12 のAl合金塗装試験片に発生した糸さびの最大長さL を1 とし、これとの比較で、◎:L≦0.1 、○:0.1<L ≦0.5 、△:0.5<L <1 、×:L≧1 と評価した。なお、この耐糸さび性評価試験は、例えば5%NaCl溶液などに浸漬して同様の条件で試験を行うような他の耐糸さび性評価試験に比して、HCl 水溶液に浸漬しているなどの点で、より厳しい試験条件となっている。
【0066】
表2 から明らかな通り、Al酸化皮膜の厚さが100 Å以下で、かつAl酸化皮膜最表層部から80Å程度の深さの表面部分のCu含有量が、300 Åの深さ部分のAl合金材のCu含有量以下である発明例No.1〜8 は、この要件から外れる比較例No.9〜12に比して、リン酸亜鉛の被覆率は却って少ないものの、耐糸さび性が向上している。これは、比較例が、Cuの表面濃縮により、リン酸亜鉛の被覆率は向上しているものの、逆にCuの表面濃縮により、塗装Al合金材の耐糸さび性が低下していることを裏付けている。
【0067】
そして、Al酸化皮膜最表層部からAl合金材の深さ( 厚み) 方向へのCuの濃度分布を示す図1 から明らかな通り、比較例におけるCuの表面濃縮は、発明例No.1 (Alの酸化皮膜最表層部から80Åまでの深さにおけるCu含有量がAl合金材のCu含有量以下) に比して、比較例No.9 (弱洗浄) 、比較例No.11(強洗浄) の場合に顕著である。また、弱洗浄にも拘わらず、Al酸化皮膜最表層部から80Å程度の深さの表面部分のCu含有量が、Al合金材のCu含有量より僅かに高くなっている比較例No.9においても、耐糸さび性は発明例より劣っており、本発明のAl合金材表面におけるCu量の規定の臨界的意義が分かる。
【0068】
更に、図1 における発明例No.1の、Alの酸化皮膜最表層部から10Åまでの深さにおけるCu含有量の、より詳細な濃度分布を図2 に示す。図2 から明らかな通り、Alの酸化皮膜最表層部から10Åまでの深さにおけるCu含有量を0at%とした発明例No.1は、表1 に示す発明例の中でも、リン酸亜鉛被覆率や耐糸さび性に優れている。この耐糸さび性を、より具体的に糸さび長さL で示すと、耐糸さび性が特に優れる (◎印) の発明例No.1〜4 、7 、8 の糸さび長さL は0.1 以下であったが、その中でも発明例No.1の糸さび長さL は0.06程度であり、発明例No.2〜4 、7 、8 のL が0.08〜0.1 (Lは比較例No.12 の糸さび長さに対する比で表す) であるのに対して、糸さび長さが短くなっている。この例からも、酸化皮膜中乃至Al生地の最表面部 (酸化被膜とAl生地との界面部) に存在するCuが耐糸さび性に影響し、この部分に存在するCuを抑制するほど、リン酸亜鉛被覆率や耐糸さび性に優れることが分かる。
【0069】
なお、発明例の内でも、大気雰囲気下で3 カ月間放置したNo.5、6 は比較的Al酸化皮膜の厚さが厚くなっており、リン酸亜鉛の被覆率が他の発明例よりも低くなっており、耐糸さび性も他の発明例よりも低い。これは、前記Al酸化皮膜の厚さが厚くなるとともに、水分雰囲気下でAl酸化皮膜中の水酸化物等が増加し、Al酸化皮膜が変性しているのが一因となっていると推考される。そして、大気雰囲気下で、より長く3 カ月間放置した比較例No.10 、12において、これらの傾向はより顕著になっている。
【0070】
これらの結果から、本発明におけるAl酸化皮膜の厚さと、Al酸化皮膜最表層部から80Å程度の深さの表面部分のCu含有量の規定の臨界的意義が裏付けられる。
【0071】
【表1】
Figure 0004171141
【0072】
【表2】
Figure 0004171141
【0073】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた耐糸さび性を有する6000系Al合金板を提供することができる。したがって、Al合金板の自動車、車両、船舶などの輸送機材用への用途の拡大を図ることができる点で、多大な工業的な価値を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Al酸化皮膜最表層部から深さ方向へのCuの濃度分布を示す説明図である。
【図2】 Al酸化皮膜最表層部から深さ方向へのCuの濃度分布を示す説明図である。

Claims (8)

  1. Si:0.2〜1.8% (質量% 、以下同じ) 、Mg:0.2〜1.6%、Cu:0.05 〜1.5%を含み、化成処理後塗装されて用いられるAl-Mg-Si系アルミニウム合金材であって、表面に厚さが100 Å (オングストローム) 以下のアルミニウムの酸化皮膜を有するとともに、アルミニウムの酸化皮膜最表層部から少なくとも80Åの深さの表面部分におけるCu含有量を、アルミニウム合金材自体のCu含有量以下とすることを特徴とする耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  2. 前記アルミニウムの酸化皮膜最表層部から10Åまでの深さの表面部分における、X 線光電子分光法により検出される、Cu含有量を0at%とする請求項1に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  3. 前記アルミニウム合金材が、Si:0.8〜1.3%、Mg:0.2〜0.7%を含み、連続熱処理炉にて溶体化および焼入処理された板である請求項1または2に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  4. 前記化成処理がリン酸塩処理である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  5. 前記アルミニウム合金材が、リン酸塩処理の前処理としてコロイダルTiにより表面処理されるものである請求項4に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  6. 前記リン酸塩の浴中のフリーフッ素イオン量が100ppm以上である請求項4または5に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  7. 前記アルミニウム合金材が輸送機用である請求項1乃至6の何れか1項に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  8. 前記アルミニウム合金板が、前記溶体化および焼入処理された後に洗浄処理されたものである請求項1乃至7の何れか1項に記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
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