JP4093598B2 - 新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、酵母由来の新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼ(以下、アルコールアセチルトランスフェラーゼをAATaseとし、本発明による新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼを新AATaseという)、新AATaseの生物工学的産生能を有するDNA鎖、およびこのDNA鎖により形質転換されてエステル生産能が増加している酵母に関するものである。本発明は、既知のAATaseに比べ、より安定した新AATaseが増強された形質転換体により、エステル香味の強化された酒類製造を可能にするものである。
【0002】
【従来の技術】
AATaseは、アルコール類とアセチルCoAを縮合させて酢酸エステルを産生する、酵母によるエステル類産生の重要な酵素である。酵母のAATaseによって産生された酢酸イソアミルを代表とするエステル類は、清酒、ビール等の酒類において、その品質の評価を左右する事は周知の事実である。
【0003】
AATaseの完全な精製は峰時らによって報告されている(Biosci.Biotech.Biochem.,57(12),p2094,1993)。峰時らが完全精製したAATaseは、精製の最初のカラムクロマトグラフィーで溶出される大小2つのAATaseのピークのうちで、AATaseIと命名したメインピークについて精製したものである。もう一つのAATaseIIとしたサブピークについては、AATaseIより熱安定性に優れ、至適温度も高いAATaseであると報告されているが(日本醸造協会誌,87(5),p334,1992)、AATaseIに比較してはるかに少量しか存在しないため、AATaseIと同様な方法ではAATaseIIの完全な精製は不可能であり、酵素学的性質の詳細な解明、遺伝子の取得はできなかったのである。このように、酵母には複数種のAATaseが存在するという報告は他にもあるが(Eur.J.Biochem.210,p1015,1992)、本発明者らの知る限りでは、酵母由来で、性質の異なる他のAATaseについての詳細な報告はない。従って、既知のAATaseとは、峰時らが完全精製したAATaseについての知見を指すものである。AATase遺伝子に関しても、峰時らが完全精製したAATaseの遺伝子の取得と解析について報告されているが(Appl.Environ.Microbiol.,60(8),p2786,1994)、それ以外のAATaseを産生するDNA鎖に関しての報告はない。
【0004】
酵母のAATase活性を増強し、エステル香味の強化された酒類を製造する方法として、峰時らが精製したAATaseにより取得した遺伝子を利用することが知られている(特開平06−62849号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、熱安定性について、峰時らが完全精製したAATaseは、4℃まで比較的安定であるがそれ以上の温度では極めて不安定であり、さらには、リノール酸等の不飽和脂肪酸によって著しく酵素活性が阻害を受ける等の問題点があった(Agric.Biol.Chem.,45(10),p2183,1981、Agric.Biol.Chem.,54(6),p1485,1990等)。従来なされてきた酒類の製造において、原料の選定や処理、発酵管理は、これらの問題点を結果として回避する事につながっている点も多いのである。清酒の製造を例に挙げるならば、特に吟醸酒と呼ばれるエステル香味の強化された清酒製造において、原料となる玄米をその重量比で40%あるいはそれ以上を糠として除去することは、玄米中に含まれる油脂成分等を除去することにつながり、結果としてリノール酸等の不飽和脂肪酸によるAATaseの活性阻害を低減することになる。そのうえ、その発酵温度も通常行われる清酒製造に比べ、より低温でしかも発酵期間は長期に及ぶことは、AATaseの熱による失活を抑え、より長くその活性を維持することにつながっているのである。これらの工程管理は原料処理から生成酒の取得に至るまで、熟練者の経験および勘に頼るところが多い。従って、既知のAATaseに比べ、より安定性の高いAATase産生能のある酵母を用いることができれば、熟練を要する製造工程が簡便となり、その製造期間も短縮してエステル香味の強化された清酒の製造を可能にするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上記問題点を解決すべく、酵母に存在している他のAATaseについて種々検討した結果、熱安定性のある、しかもリノール酸等の不飽和脂肪酸によって酵素活性阻害を受けない、酵母由来の新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼを完全精製し、その遺伝子の単離および構造決定することに成功し、更に、この新AATase産生能を強化した形質転換酵母を得ることを知り、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、温度30℃で安定であり、不飽和脂肪酸によって阻害を受けない、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される分子量がおよそ63000であることを特徴とする、酵母由来の新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼである。
【0008】
第2は、配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドであることを特徴とする、新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼである。
第3は、配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列からなることを特徴とする新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子である。
【0009】
第4は、配列表の配列番号1に示したDNA配列、または少なくともその一部と実質的に相同な塩基配列を有し、新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドを生産し得るDNA鎖である。
【0010】
第5は、前記本発明の第3および第4の新規なアルコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子またはDNA鎖を含む外来遺伝子の導入によって形質転換されて新AATase産生能の富化された酵母である。
【0011】
なお、本発明では、「遺伝子」、「DNA鎖」、および「DNA配列」を実質的に同義のものとして使用している。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明による新AATaseは酵母由来のものであって、配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドであるが、いくつかのアミノ酸の付加、挿入、欠失、削除または置換によってそのペプチドの生理活性が変化しないことがあることは遺伝子工学あるいは蛋白質工学の明らかにするところである。従って、本発明で示したアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列と全く同一である場合にのみに限られず、AATase活性が保存されている限り、上記のようないくつかのアミノ酸の改変を包含するものである。
【0013】
本発明の新AATaseは、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から得られたものである。本発明でいうサッカロマイセス・セレビシエとは、The yeast,a Taxonomic study 3rd.Edition(ed.by N.J.W.Kreger−van Rij.Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam,p379,1984)に記載されているところのサッカロマイセス・セレビシエおよびそのシノニムないし変異株である。
【0014】
本発明の新AATaseの性質のうち、既知のAATaseと異なる代表的なものをいくつかあげるならば、至適温度、熱安定性、不飽和脂肪酸による阻害および分子量である。既知のAATaseの至適温度は25℃であるが、新AATaseの至適温度は40℃と高い。既知のAATaseは4℃を超える温度では失活しやすく、本発明者らが検討したところによると、30℃、30分でその活性は30%程度に低下するが、新AATaseは同条件で、90%以上の酵素活性を維持している。また、既知のAATaseは、リノール酸のような不飽和脂肪酸によって大きく酵素活性が阻害されるが、新AATaseはリノール酸を2mM添加した場合でも90%以上の活性を維持している。既知のAATaseは、2mMのリノール酸の添加によって4.3%にまで酵素活性が低下してしまう。新AATaseの分子量はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果、約63000であり、峰時らが完全精製したAATase(分子量約60000)やAATaseIIに相当するAATase(分子量約56000(日本醸造協会誌,87(5),p334,1992))の分子量と異なっている。従って、いくつかの重要な酵素学的性質や分子量の違いなどから本発明によるAATaseは、新規なAATaseである。塩基配列から推定される分子量は、約62000である。
【0015】
本発明による新AATaseの酵素学的な性質をあげれば、下記の通りである。
(1) SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量 約63000
(2) 至適および安定pH
至適pH:7.5
安定pH:6.5−9.5
(3) 至適および安定温度
至適温度:40℃
安定温度:30℃以下で安定
(4) 阻害剤などの影響
パラクロロ水銀安息香酸、ジチオビス安息香酸により強い阻害を受ける。
(5) 各種脂肪酸の活性におよぼす影響
飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸により強い阻害を受けない。
(6) イソアミルアルコールおよびアセチルCoAに対するKm値
イソアミルアルコール:84.6mM
アセチルCoA:82.3μM
【0016】
この新AATaseは、サッカロマイセス・セレビシエである清酒酵母協会7号の培養菌体内容物からの可溶化粗酵素の調製ならびに各種クロマトグラフィーからなる精製方法によって得ることができる。これらの単位工程からなる新AATaseの取得の実際は、後記の実施例に示したとおりであって、当業者にとって可能である。
【0017】
本発明の新AATase遺伝子の取得方法の一つは、本発明の提供する新AATaseを産生する能力を有するDNA鎖の一部をプローブとして使用し、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、PCR等の手段を行うことであり、これらの手段はいずれも当該分野に関わる当業者に周知であって、容易に実施できるものである。
【0018】
また、新AATaseを産生する能力を有するDNA鎖を取得するための遺伝子源として有用なものは、酵母に限られず、細菌、植物等が考えられ、特に望ましい遺伝子源は、酒類あるいは発酵食品の製造に使用されている酵母類である。
【0019】
このDNA鎖は、配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列にちょうど対応するものであってもよく、また、その上流側または下流側および双方にDNA配列が結合した構造のものであってもよい。後者の具体例は、適当なベクターに組み込まれたプラスミドの形状のものである。
【0020】
配列表の配列番号2のアミノ酸に対応するものとして、配列表の配列番号1に特定のDNA配列が示されているが、これは清酒酵母協会7号から取得した新AATase遺伝子について分析を行い、得たものであって、本発明によるDNA配列の好ましい具体例である。
【0021】
本発明による、新AATaseを産生する能力を有するDNA鎖ないしDNA配列とは、新AATaseの特徴を示すAATase活性を有するポリペプチドをコードするDNA鎖ないしDNA配列のことであり、前記したようにポリペプチドの変動に対応して変動するわけであるが、いわゆる遺伝暗号に関する知見にしたがってその最も広い意味に解するものとする。したがって、縮重(または縮退)によって所与のアミノ酸をコードする核酸のトリプレットは複数種ありえる。また、本発明で対象とするDNA鎖は、天然物由来のものでも、全合成あるいは半合成のものでもよい。
【0022】
形質転換体の作製のための方法は、遺伝子工学の分野において慣用されているものであり、たとえばプロトプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,75,p1929,1978)、あるいは金属処理法(J.Bacteriol.,113,p727,1983)によって行われる。この際用いられるベクターとしては、酵母用として知られているものであれば如何なるものでもよく、たとえば、YEp系、YCp系、YIp系等は文献上公知であるばかりでなく、容易に作成することができる。
【0023】
一方、本発明のDNA鎖の遺伝子を酵母内で発現させるため、あるいは発現を増加もしくは減少させるためには、転写および翻訳を制御するプロモーターを本発明のDNA鎖の5'上流域に、ターミネーターを3'下流域にそれぞれ組み込めばよい。このプロモーターおよびターミネーターとしては、新AATase遺伝子自身に由来するものの他、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(J.Bio.Chem.,257,p3018,1982)、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(NucleicAcid Res.,10,p7791,1982)、グリセロールアルデヒド−3−燐酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(J.Biol.Chem.,254,p9839,1979)等、既に知られているあらゆる遺伝子由来のもの、もしくは人工的にそれを改良したものの使用が可能である。
【0024】
本発明において、形質転換すべき酵母、すなわち宿主となる酵母は分類学上酵母の範疇に入る任意のものでよいが、本発明の目的からすれば、サッカロマイセス・セレビシエに属する酒類製造用酵母、具体的には清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母、ウイスキー酵母が望ましい。たとえば、清酒酵母:IFO 2347、ビール酵母:ATCC26292、ワイン酵母;IFO 2260、ウイスキー酵母:IFO 2112等を例示することができる。宿主として好ましい他の一群は、パン酵母である。具体的にはATCC32120を例示することができる。
【0025】
上記のようにして得た新AATase産生能の富化された形質転換酵母は、それぞれの用途に利用することができる。宿主酵母が酒類製造用酵母である場合は、本発明により新AATase産生能が富化されているため、安定したAATaseの活性によりエステル香味の富化ないし強化された酒類を製造することができる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1 新AATaseの製造
本発明の酵素は、サッカロマイセス属に属し、前記特性を有する酵素を生産する酵母を培養し、その培養物から得ることができる。好ましい製造法の一例を示せば次の通りである。
【0027】
1−(1) 粗酵素液の調製
AATase活性は、峰時らの方法(Biosci.Biotech.Biochem.,57(12),p2094,1993)に従い測定した。
清酒酵母協会7号をYPD培地(1% 酵母エキス、2% ペプトン、2% グルコース)500mlに植菌し、15℃で3日間培養した。その培養液を30リットルのYPD培地を入れた40リットル容ポリ容器に500ml接種し、25℃で12時間嫌気的に攪拌培養した。次に、遠心(3000回転/分、10分)により菌体を回収し、その菌体重量の10倍容の緩衝液(25mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)、1.5M ソルビトール)に懸濁させ、菌体重量の1000分の1量のザイモリエース100T(生化学工業(株)より入手)を加えた。これを30℃で1時間振盪し、生じたプロトプラストを2000回転/分、5分間の遠心によって回収した。回収したプロトプラストを400mlの菌体破砕用緩衝液(25mM イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、0.5M ソルビトール)に懸濁させ、ポリトロンPT10型(KINEMATICA社製)の菌体破砕装置を用いて細胞を破砕した。破砕後、4500回転/分、10分間遠心し、さらにその上清を14000回転/分、20分間の遠心により破砕残渣を取り除き上清に50%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、氷中に1時間保持した後、10000回転/分、20分間の遠心により沈澱を得た。得られた沈澱を洗浄液(25mM イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、50%飽和硫酸アンモニウム、1mM ジチオスレイトール)に懸濁し、洗浄した後、10000回転/分、20分間の遠心により沈澱を回収した。この沈澱を緩衝液(25mM イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、1mM ジチオスレイトール)に溶解し、粗酵素液を得た。
【0028】
1−(2) ミクロソーム画分の調製
1−(1)で得られた粗酵素液を、100000×Gで2時間遠心し、生じた沈澱(ミクロソーム画分)を40mlの緩衝液(25mM イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、1mMジチオスレイトール)に懸濁させた。直ちに使用しない場合は、これを−20℃で保存した。
【0029】
1−(3) 可溶化酵素の調製
1−(2)で得られたミクロソーム画分を三角フラスコに移し、100分の1容のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを加え、4℃で泡立たないように注意して60分間マグネチックスターラーを用いて攪拌した。その後、100000×Gで2時間遠心し、上清を緩衝液A(25mM イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、0.1% ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、0.5%イソアミルアルコール、1mM ジチオスレイトール、20% グリセロール)に対して1晩透析した。
【0030】
1−(4) 酵素の精製
酵素の精製は、1−(1)および1−(2)の操作を50回繰り返して取得・保存したミクロソーム画分に対して1−(3)の操作を行い、得られた可溶化酵素液を用いて行った。まず、可溶化酵素液を2回に分けてポリバッファーエクスチェンジャー94(ファルマシア社より入手)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した(吸着:緩衝液A、溶出:緩衝液A 0.0−0.6M 塩化ナトリウム濃度勾配)。溶出した活性画分のうち図1に示した矢印の画分を集め、再度ポリバッファーエクスチェンジャー94により精製を行った。溶出した活性画分は、さらに下記に示す▲1▼から▲6▼までの各種のカラムクロマトグラフィーにより順次精製した。すなわち、
▲1▼イオン交換カラムクロマトグラフィーDEAEトヨパール650M(TOSOH社より入手)
吸着:緩衝液A、溶出:緩衝液A 0.0−0.3M 塩化ナトリウム濃度勾配
▲2▼ゲル濾過カラムクロマトグラフィートヨパールHW55(TOSOH社より入手)
緩衝液B(10mM リン酸緩衝液(pH7.5)、0.1% ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、0.5% イソアミルアルコール、1mM ジチオスレイトール、0.1M 塩化ナトリウム、20% グリセロール)
▲3▼ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー(和光純薬社より入手)
吸着:緩衝液B、溶出:緩衝液B 10−80mM リン酸緩衝液(pH7.5)濃度勾配
▲4▼オクチルセファロースカラムクロマトグラフィーCL4B(ファルマシア社より入手)
吸着:50mM イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、0.5% イソアミルアルコール、1mM ジチオスレイトール、0.1M 塩化ナトリウム、20% グリセロール 溶出:イミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)、0.1%ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、0.5% イソアミルアルコール、1mM ジチオスレイトール、0.1M 塩化ナトリウム、20% グリセロール
▲5▼▲3▼と同様に再度ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー
▲6▼1−ヘキサノールアフィニティーカラムクロマトグラフィー
6−アミノ−1−ヘキサノール(和光純薬社より入手)を、担体にCNBr活性化セファロース4B(ファルマシア社より入手)を用いてファルマシア社のマニュアルにしたがって、1−ヘキサノールセファロース4Bを作製した。
吸着:5mM リン酸緩衝液(pH7.5)、0.1% ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、20% グリセロール、1mM ジチオスレイトール 溶出:5mM リン酸緩衝液(pH7.5)、0.1% ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、20% グリセロール、1mM ジチオスレイトール、0.0−0.2M 塩化ナトリウム濃度勾配により精製した。
この段階で得られた活性画分のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、銀染色を行ったところ、AATase活性のない小さな分子量のバンドが認められたため、セントリカットU−50(クラボウ社より入手)を用いて添付のマニュアルに従い、限外濾過することにより、小分子量のものを除き、図2に示したように、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、銀染色で単一バンドとなる精製標品を得た。
【0031】
実施例2 新AATaseの特徴
2−(1) 至適および安定pH
酵素の安定性に及ぼすpHの影響を調べるために、pHの幅を3〜11(pH3〜6:50mM クエン酸−リン酸緩衝液、pH6〜8:50mM リン酸緩衝液、pH8〜9:50mM トリス−リン酸緩衝液、pH9〜11:50mM グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液)の範囲で4℃、22時間放置したのち、0.2M リン酸二ナトリウムでpH7.5に調製し、峰時らの方法により酵素活性を測定した。
また、酵素活性に及ぼすpHの影響を調べるために、pHの幅を3〜11(pH3〜6:50mM クエン酸−リン酸緩衝液、pH6〜8:50mM リン酸緩衝液、pH8〜9:50mM トリス−リン酸緩衝液、pH9〜11:50mM グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液)の範囲で変化させて、峰時らの方法により酵素活性を測定した。pH安定性については、pH6.5〜9.5の範囲で安定であった。また、至適pHは7.5であった。
【0032】
2−(2) 至適および安定温度
酵素活性に及ぼす温度の影響を調べるために、峰時らの方法により各温度で酵素活性を測定した。また、酵素の安定性に及ぼす温度の影響を調べるために、各温度で酵素液を30分間保持した後、峰時らの方法により酵素活性を測定した。
結果を図3に示す。温度安定性については、30℃までは安定であり、40℃でも60%の活性を維持していた。また、至適温度は、40℃であった。
【0033】
2−(3) 阻害剤の影響
各種阻害剤の酵素活性に及ぼす影響を調べるために、各種阻害剤を表1に示した濃度で酵素反応液中に加えた後、峰時らの方法により酵素活性を測定した。結果を表1に示す。パラクロロ水銀安息香酸、ジチオビス(2−ニトロ)安息香酸により強い阻害を受けたことから、本酵素はSH酵素であると考えられる。
【0034】
【表1】
【0035】
2−(4) 脂肪酸の影響
各種脂肪酸の酵素活性に及ぼす影響を調べるために、表2に示した各種脂肪酸を、酵素反応液中に2mMの濃度になるように加えて、峰時らの方法により酵素活性を測定した。結果を表2に示す。峰時らが精製したAATaseはリノレン酸の添加によって無添加の32%に、リノール酸では4.3%にまで活性が低下するが(Biosci.Biotech.Biochem.,57,(12),p2094,1993)、本酵素はいずれの脂肪酸によっても阻害を受けないことがわかる。
【0036】
【表2】
【0037】
実施例3 部分アミノ酸配列の決定
部分アミノ酸配列の決定は岩松のポリビニリデンジフロリド膜(以下、PVDF膜と略記)を利用した方法(生化学,63,p139,1991)に従って行った。1−(4)で取得した精製酵素を10mM ギ酸3リットルで1時間透析した後に、凍結乾燥した。これを泳動用緩衝液(10% グリセロール、2.5% SDS、2% 2−メルカプトエタノール、62mM トリス塩酸緩衝液(pH6.8))に懸濁させて、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。泳動後、エレクトロブロッティングにより当該酵素をゲルより10cm×7cmのPVDF膜「ProBlot」(アプライド・バイオシステムズ社より入手)へ転写した。エレクトロブロッティング装置はKS−8460型(マリソル社製)を用いて、島津製作所編の「プロテインシーケンサの試料前処理方法について(1)」に従って、エレクトロブロッティングを160mAで1時間行った。転写後、当該酵素の転写された部分の膜を切りとり、約300μlの還元用緩衝液(6M グアニジン塩酸−0.5Mトリス塩酸緩衝液(pH8.5)、0.3% EDTA、2% アセトニトリル)に浸し、1mgのジチオスレイトールを加えて、アルゴン下で60℃、約1時間の還元を行った。これに、2.4mgモノヨード酢酸0.5N 水酸化ナトリウム液10μlに溶かしたものを加えて、遮光下で20分間攪拌した。つぎに、PVDF膜を取り出し、2% アセトニトリル水溶液で十分洗浄した後、0.1% SDS溶液中で5分間攪拌した。次に、PVDF膜を水で軽く洗浄後、0.5% ポリビニルピロリドン40−100mM 酢酸に浸し、30分間静置した。この後、PVDF膜を水で十分洗浄し、約1mm四方に切断した。これを消化用緩衝液(8% アセトニトリル、90mM トリス塩酸緩衝液(pH9.0)に浸し、Achromobacter ProteaseI(和光純薬社より入手)を1pmol加え、室温で15時間消化した。その消化物をC18カラム(和光純薬より入手、Wakosil−II5C18AR、2.0×150mm)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(日立社製、モデルL6200)により分離して、数種のペプチド断片を得た。さらに、Achromobacter ProteaseI消化後のPVDF膜を、10% アセトニトリル水溶液で洗浄後、これを消化用緩衝液(8% アセトニトリル、100mM 重炭酸アンモニウム緩衝液(pH7.8))に浸し、Endoproteinase Asp−N(ベーリンガーマンハイム社より入手)を1pmol加え、40℃で15時間消化した。この消化物からも、上記と同様の逆相高速液体クロマトグラフィーにより、数種のペプチド断片を得た。ペプチドの溶出溶媒としては、A溶媒(0.05% トリフルオロ酢酸)、B溶媒(0.02% トリフルオロ酢酸を含む2−プロパノール/アセトニトリル(7:3))を用い、B溶媒に関し、2〜50% 2−プロパノール/アセトニトリル(7:3)直線濃度勾配で0.25ml/minの流速で40分間溶出させた。両プロテアーゼ消化物から得られたペプチド断片について、アミノ酸配列決定試験を、島津製作所社の気相プロテインシークエンサーPSQ−2型をマニュアルに従って用い、自動エドマン分解法により行った。結果を表3に示す。
決定されたアミノ酸配列と、峰時らが精製したAATaseをもとに取得したAATase遺伝子から翻訳されるアミノ酸配列(Appl.Environ.Microbiol.,60(8),p2786,1994)と比較した結果、同一の配列は見い出されず、新規なAATaseである。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例4 新AATaseを産生するDNA鎖の清酒酵母協会7号よりのクローニング
4−(1) 清酒酵母協会7号の染色体DNAの調製
清酒酵母協会7号をYPD培地1000mlにO.D.600=10まで培養し、集菌後オートクレーブ処理した水で洗浄した。これを菌体1gあたり2mlのSCE液(1M ソルビトール、0.125M EDTA、0.1M クエン酸3ナトリウム(pH7)、0.75% 2−メルカプトエタノール、0.01% ザイモリエース100T(生化学工業(株)より入手))に懸濁させた後、37℃で約2時間緩やかに振盪し、酵母を完全にプロトプラスト化させた。これに、菌体あたり3.5mlの溶菌液(0.5M トリス塩酸緩衝液(pH9)、0.2M EDTA、3% SDS)を加えて緩やかに攪拌した。これを、65℃で15分間保温し、完全に溶菌させた。溶菌後、室温まで冷却し、あらかじめ日立超遠心チューブ40PAに作製しておいた23.5mlの10%−40%シュークロース密度勾配液(0.8M 塩化ナトリウム、0.02M トリス塩酸緩衝液(pH8)、0.01M EDTA、10%−40% シュークロース)に10mlずつ静かにのせた。これを、日立超遠心機SCP85Hを用いて、4℃で26000回転/分、3時間遠心した。遠心後、駒込ピペットを用いてチューブ底になるべく近いところから液を約5mlずつ回収した。回収したサンプルを1000mlのTE液(10mM トリス塩酸緩衝液(pH8)、1mM EDTA)で一晩透析し、染色体DNAを得た。
【0040】
4−(2) ゲノムライブラリーの作製
次に、こうして得られた染色体DNAをFrischauらの方法(Methods in Enzymology,152,p183,Academic press,1987)に準じて、制限酵素Sau3AI(宝酒造社より入手)で部分消化し、再び10%−40% シュークロース密度勾配液にのせ、20℃で25000回転/分、22時間遠心を行った。遠心後、注射針で超遠心チューブの底に穴をあけ、0.5mlずつサンプリングチューブに分取した。分取したそれぞれの一部をアガロースゲル電気泳動し、分取した液中に含まれる染色体DNAの分子量を確認した後、15〜20kbの染色体DNAを集めて、エタノール沈澱によって回収した。この染色体DNA1μgとλEMBL3 BamHIベクターキット(ストラタジーン社より入手)のλEMBL3ベクターDNA1μgとを、T4 DNAリガーゼ(宝酒造社より入手)1ユニットで16℃で一晩ライゲーションした。これをGIGAPACK GOLD(ストラタジーン社より入手)を用いて、付属のマニュアルに従ってパッケージングを行い、λEMBL3 BamHIベクターキットに付属の大腸菌P2392に感染させ、約20000個のプラークを得た。得られたプラークをナイロンメンブレンフィルターHybond−N(アマシャム社より入手)に、アマシャム社のプロトコールに従いブロッティングした。
【0041】
4−(3) プローブの合成と標識
実施例3で得られた部分アミノ酸配列のうち、AP−3およびAP−7の配列をもとに、DNAシンセサイザー(アプライド・バイオシステムズ社製、モデル391)を用いて、下記のような合成プローブ(A:アデニン、C:シトシン、G:グアニン、T:チミン)を作製した。
【0042】
【0043】
【0044】
合成試薬(FODホスホアミダイト等)は全て同社のものを用い、付属のオペレーターズマニュアルに従って使用した。得られた合成DNAを、27% アンモニア水2mlで55℃、1時間処理し、これをOPCカートリッジ(アプライド・バイオシステムズ社より入手)で精製した。この2種の合成DNA1μgをそれぞれECL3'オリゴラベリング・ディテクションシステム(アマシャム社より入手)により付属のプロトコールに従い標識し、プラークハイブリダイゼーションのプローブとした。
【0045】
4−(4) プラークハイブリダイゼーションによる新AATase遺伝子の単離ハイブリダイゼーションおよびシグナルの検出方法は、ECL3'オリゴラベリング・ディテクションシステム付属のプロトコールに従って行った。
まず、第一スクリーニングとして、4−(2)で作製したゲノムライブラリーのファージDNAをトランスファーしたメンブレン25枚を、4−(3)で合成・標識したプローブ1を用い、32℃、一晩のハイブリダイゼーションとシグナルの検出を行った後、同メンブレンからプローブを除去し、引き続きプローブ2を用いて同様の操作を行い、プローブ1およびプローブ2で共通に陽性のシグナルを示すプラーク25個を第二スクリーニングに用いた。なお、メンブレンからのプローブの除去は、検出終了後のメンブレンを0.4M 水酸化ナトリウム溶液を用い45℃で30分間緩やかに振盪した後、中和溶液(0.2M トリス塩酸緩衝液(pH7.5)、0.1% SDS、0.1×SSC(15mM 塩化ナトリウム、1.5mM クエン酸ナトリウム))にメンブレンを移し、45℃で30分間穏やかに振盪することで除去した。
第二スクリーニングは、プローブ1およびプローブ2で共通のシグナルを示した25個のプラークをもとの寒天培地より、滅菌チップで寒天ごと打ち抜き、それぞれ100μlのSM液(0.1M 塩化ナトリウム、10mM 硫酸マグネシウム、0.01% ゼラチン、50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5))に懸濁させた。この溶液をSM液を用いて、出現するプラーク数がプレート1枚当たり50個程度となるように適宜それぞれ希釈し、大腸菌P2392に感染させた。出現した25クローンのプラークは、ライブラリー作製と同様にそれぞれナイロンメンブレンにブロッティングした。プローブ1を用い、35℃、一晩のハイブリダイゼーションを行い、12個の陽性クローンを取得した。
次に、単離した陽性クローンのファージDNAを常法(Molecular Cloning,p77,Cold Spring Harbor,USA,1982)に従って調製した。取得したファージDNAを各種制限酵素で消化し、アガロースゲル電気泳動により比較した結果、12個の陽性クローン中7クローンが酵母染色体上の同じ部位をクローニングしたものであった。
【0046】
4−(5) 新AATase遺伝子の解析
7クローン中に含まれる共通のDNA断片について、プローブ1およびプローブ2を用いたサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、5.9kbのHindIII断片上に新AATase遺伝子が含まれることがわかったので、この断片をアガロースゲル電気泳動後、遠心濾過チューブウルトラフリーC3HV(ミリポア社より入手)により精製し、pUC18に挿入した。得られた組み換えプラスミドを用いて、Bst DNAシークエンシングキット(バイオラッド社より入手)により塩基配列の決定を行った。当該DNA鎖の完全長を含む5.9kbのHindIII断片の制限酵素地図を図4に示す。新AATaseをコードする部分の塩基配列を配列表の配列番号1に、該DNAから翻訳されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。新AATase遺伝子は1605塩基のコーディング領域をもち、535個のアミノ酸をコードしていた。
【0047】
4−(6) 他の酵母における新AATase遺伝子の存在
いくつかの酵母から染色体DNAを抽出し、新AATase遺伝子をプローブとしたゲノムサザン解析により、その存在を検討した。酵母からの染色体DNAの抽出は、Davis,R.Wらの方法(Method in Enzymology,65,p404,1980)に従った。抽出した染色体DNA6μgを制限酵素PstI(宝酒造社より入手)で消化した後、常法(Molecular Cloning,p382,Cold Spring Harbor Laboratory,USA,1982)に従ってサザントランスファーした。プローブは図4に示した1.5kbのPstI断片(矢印の範囲)を用い、ECLランダムプライムオリゴラベリング・ディテクションシステム(アマシャム社より入手)により標識し、ハイブリダイゼーションおよびシグナルの検出は付属のプロトコールに従った、なお、ハイブリダイゼーションとメンブレンの洗浄は50℃で行った。結果を図5に示す。実験室株を含めた全ての株(ビール酵母AJL2155はS accharomyces uvarumであり、他は全てS accharomyces cerevisiaeに分類される)において、清酒酵母協会7号の1.5kbのシグナルと同一のシグナルが認められ、これらの酵母には新AATaseと同一の遺伝子が存在している。また、ハイブリダイゼーションを通常(60℃程度)より緩い条件で行ったにもかかわらず、他のシグナルが全く無いことより、これらの酵母に存在している既知のAATase遺伝子(Appl.Environ.Microbiol.,60(8),p2786,1994)ともハイブリダイズせず、新AATase遺伝子と相同性のあるDNA断片は他に存在しないことを示している。また、既知のAATase遺伝子をプローブにして同様にハイブリダイゼーションを行っても、新AATase遺伝子に相当するシグナルは全く観察されないことからも、本発明によるAATase遺伝子は新規な遺伝子である。
【0048】
実施例5 新AATase遺伝子を含むベクターの作製およびこのベクターにより形質転換された酵母のAATase活性
4−(5)で得られた新AATase遺伝子を挿入したpUC18から、当該DNA鎖の完全長を含む5.4kbのBamHI断片を取得した。得られたDNA断片を、酵母2μmDNAの複製起点とLEU2遺伝子をマーカーに持つ酵母用ベクターYEp13(Gene,8,p121,1979)を制限酵素BamHI(宝酒造社より入手)で切断したものと連結して発現ベクターYAT24を作製した(図6)。酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,p163,1983)を用い、YAT24をサッカロマイセス・セレビシエTD4(a,his,leu,ura,trp)に形質転換し、形質転換体TD4−AT2−4株を得た。なお、該株は工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P−14590として寄託されている。形質転換体TD4−AT2−4株および対照株のAATase活性の測定は、次のようにして行った。すなわち、ロイシンを除いたアミノ酸混合液を添加したSD液体培地(0.67% イーストナイトロジェンベース(除アミノ酸、ディフコ社より入手)、2%グルコース)5mlで30℃、約16時間振盪培養したものを、50mlの同培地に1ml添加し、30℃、24時間静置培養した。培養液を3000回転/分、10分間遠心して菌体を回収し、可溶化液(25mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)、0.1% ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、0.5% イソアミルアルコール、0.1M 塩化ナトリウム、1mM ジチオスレイトール、20% グリセロール)5mlで一度洗浄後、0.4mlの可溶化液に懸濁した。これに0.8gのガラスビーズ(MK−2GX(直径0.25−0.5mm)、シンマルエンタープライゼス社より入手)を加えて、30秒間、3回激しく攪拌することにより細胞を破砕した。これに可溶化液を0.8ml加えて軽く攪拌後、パスツールピペットを用いて液部を回収し、15000回転/分、5分間遠心して取得した上清を、AATase活性測定の試料とした。なお、対照株としては、サッカロマイセス・セレビシエTD4にベクターのYEp13を形質転換した株を用いた。活性の測定は峰時らの方法に従って行い、新AATase遺伝子の組み換え体から得た試料について、不飽和脂肪酸であるリノール酸1mMを添加して活性を測定したもの、および、試料を30℃で1時間放置した後のAATase活性も測定した。また、蛋白質の定量は、バイオラッドプロテインアッセイキット(バイオラッド社より入手)を用い、付属のマニュアルに従って行った。結果を表4に示す。組み換え体のAATase活性は、対照株に比べ2.8倍高くなり、不飽和脂肪酸の阻害も少なく、さらには、30℃で1時間放置しても80%以上の活性を保持していることが認められた。
【0049】
【表4】
【0050】
実施例6 形質転換酵母TD4−AT2−4株による発酵試験
実施例5で取得した、新AATase遺伝子により形質転換されたサッカロマイセス・セレビシエTD4−AT2−4株を用いて発酵試験を行い、酢酸エステル生成量について検討した。TD4−AT2−4株をロイシンを除いたアミノ酸混合液を添加したSD液体培地(0.67%、イーストナイトロジエンベース(除アミノ酸、ディフコ社より入手)、2% グルコース)5mlで30℃、約16時間振盪培養した培養液を、YM改変培地(0.3% 酵母エキス、0.5% ペプトン、0.3% 麦芽エキス、15% グルコース、0.5% りん酸二水素カリウム、0.2% 硫酸マグネシウム、pH6.0)に2%添加して、30℃、48時間発酵させた。培養液を遠心処理(8000回転/分、10分)し、その上澄み液の香気成分を分析した。結果を表5に示す。本発明の酵母を用いた場合、ベクターのみの対照株と比較して酢酸エチルでは1.4倍、酢酸イソアミルでは4.8倍も生成量が増大し、発酵試験においても酢酸エステル生成量が増加することがわかる。
【0051】
【表5】
【0052】
【発明の効果】
本発明による新AATase遺伝子を用いることによって、酢酸イソアミル等の酢酸エステル産生能の増強した、しかも、より安定したAATase活性を持つ株を育種することができる。
【0053】
【配列表】
【0054】
【0055】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による新AATaseのポリバッファーエクスチェンジャー94による活性画分の溶出パターンを示す図面である。
【図2】 本発明による新AATaseのフアィニティーカラム溶出活性画分の、セントリカットによる限外濾過前および濾過後のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、銀染色の写真である。
【図3】 本発明による新AATaseの酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図面である。
【図4】 本発明による新AATase遺伝子の制限酵素地図である。
【図5】 本発明による新AATase遺伝子を用いたゲノムサザン解析の電気泳動の写真である。
【図6】 本発明による新AATase遺伝子の酵母用発現ベクターYAT24の構築工程を示す図面である。
Claims (3)
- SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される分子量がおよそ63000であることを特徴とする、酵母由来のアルコールアセチルトランスフェラーゼであって、配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列を有するポリペプチドであることを特徴とするアルコールアセチルトランスフェラーゼをコードするDNA配列からなることを特徴とするアルコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子。
- 配列表の配列番号1に示したDNA配列、または配列表の配列番号2に示したアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸が付加、挿入、欠失、削除または置換されているアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するDNA鎖であって、アルコール類とアセチルCoAを縮合させて酢酸エステルを産生する活性を有し、かつ温度30℃で安定であり、不飽和脂肪酸によって阻害を受けないアルコールアセチルトランスフェラーゼを生産し得るDNA鎖。
- 外来遺伝子の導入によって該外来遺伝子の形質を導入してなる酵母において、該外来遺伝子が請求項1に記載のアルコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子または請求項2に記載のDNA鎖であることを特徴とする、形質転換されてアルコールアセチルトランスフェラーゼ産生能の富化された酵母。
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