JP4093221B2 - 鋳物用アルミニウム合金、アルミニウム合金鋳物およびその製造方法 - Google Patents

鋳物用アルミニウム合金、アルミニウム合金鋳物およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、疲労強度、耐熱疲労性等の実用疲労特性に優れたアルミニウム合金鋳物とその製造方法およびその製造に適した鋳物用アルミニウム合金に関するものである。
各種部材が軽量化の要請等によってアルミニウム合金製へと移行しつつある。既にアルミニウム合金製となっている部材であっても、さらなる軽量化等のために、各部の薄肉化等が図られる。そのため、アルミニウム合金には、従来以上に、強度や耐疲労性等の点で高い信頼性が求められる。特に、自動車用のエンジン用部材等にアルミニウム合金を用いる場合、高温環境下で使用されることが多いため、単なる高温強度やクリープ特性等の耐熱性のみならず、冷熱サイクルにも対応した高い疲労特性(耐熱疲労性)が要求される。このような部材として、例えば、レシプロエンジンのシリンダヘッドがある。
シリンダヘッドは形状が複雑で大型であるため、通常、鋳造によって製造される。その鋳物用アルミニウム合金として、AC2A、AC2B、AC4B、AC4C(JIS)等もあるが、この他にも多数のアルミニウム合金が開発されており、例えば、下記の特許文献等にその開示がある。下記特許文献1〜4に開示された実施例のアルミニウム合金は、CuおよびMgを含有しているものが多い。CuおよびMgは、基地相を析出強化して、シリンダヘッドの強度を高めるからである。これに対し特許文献5では、高耐熱疲労性の鋳物を得る観点から、CuおよびMgを不純物扱いとして、それらの上限を0.2質量%に規制している。その理由として、CuおよびMgは熱的に不安定な析出物を生成させて、鋳物の使用中にその析出物が粗大化して鋳物の延性や靱性を低下させる結果、耐熱疲労性も低下するためであると考えられる。
特開平10−251790号公報 特開平11−199960号公報 特開2001−303163号公報 特許第3415346号公報 特許第3164587号公報
しかし、上記特許文献5に開示されたアルミニウム合金は、CuおよびMgを実質的に含有しないために、その硬さおよび強度が極端に低くなって、母材としての実用強度等が不十分となり易い。そこで特許文献5では、母材としては別の高強度鋳物用アルミニウム合金を使用しつつ、熱歪みが集中して高耐熱疲労性が要求される部分(例えば、シリンダヘッドのバルブブリッジ部や副燃焼室孔−バルブ孔間)に、上記アルミニウム合金を肉盛り接合している。すなわち、特許文献5に開示されたアルミニウム合金は、所詮、高耐熱疲労性が必要となる部分で限定的に使用されるに過ぎないものである。このように、部位によって使用するアルミニウム合金の種類を変更すると、シリンダヘッド等の鋳物の製造コストが非常に上昇して好ましくない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、シリンダヘッド等に求められる強度や耐疲労性等を確保しつつ、耐熱疲労性にも優れた鋳物用アルミニウム合金を提供することを目的とする。また、そのようなアルミニウム合金鋳物およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Mgを含有させて鋳物全体を高強度化した場合であっても、必ずしも鋳物の延性や靱性が低下するとは限らず、母材としての強度や耐疲労性と、高い耐熱疲労性とを両立させ得ることを新たに発見し、本発明を完成するに至った。
(鋳物用アルミニウム合金)
すなわち、本発明の鋳物用アルミニウム合金は、全体を100質量%としたときに、ケイ素(Si):4〜12質量%と、銅(Cu):0.2質量%以下と、マグネシウム(Mg):0.2質量%を超え0.5質量%以下と、ニッケル(Ni):0.2〜3質量%と、鉄(Fe):0.1〜0.7質量%と、チタン(Ti):0.15〜0.3質量%と、残部がアルミニウム(Al)および不可避的不純物とからなり、実用疲労特性に優れたアルミニウム合金鋳物が得られることを特徴とする。
この本発明の鋳物用アルミニウム合金を用いて鋳造したアルミニウム合金鋳物は、高強度、高疲労強度(耐疲労性)を有すると共に高い耐熱疲労性を発揮する。この鋳物用アルミニウム合金を用いれば、例えば、全体的に高強度等が要求されると共に部分的に高い耐熱疲労性が要求されるシリンダヘッド等の鋳物であっても、同一合金によって、鋳物全体の鋳造が可能となり、鋳物の製造コストを大幅に削減できる。例えば、ガソリンエンジン用高性能シリンダヘッドや高強度、高耐疲労性等が要求されるディーゼルエンジン用シリンダヘッドなどの鋳造に本発明の鋳物用アルミニウム合金は最適である。
(アルミニウム合金鋳物)
本発明は、上記鋳物用アルミニウム合金のみならず、実用疲労特性に優れたアルミニウム合金鋳物としても把握できる。
すなわち、本発明は、全体を100質量%としたときに、Si:4〜12質量%と、Cu:0.2質量%以下と、Mg:0.2質量%を超え0.5質量%以下と、Ni:0.2〜3質量%と、Fe:0.1〜0.7質量%と、Ti:0.15〜0.3質量%と、残部がAlおよび不可避的不純物とからなり、α−Alを主とする基地相と該基地相をネットワーク状に囲繞すべく晶出した骨格相とからなる金属組織を有し、該基地相がMgによって析出強化された実用疲労特性に優れることを特徴とするアルミニウム合金鋳物としても良い。
(アルミニウム合金鋳物の製造方法)
本発明は、さらに、上記鋳物用アルミニウム合金の製造に好適な製造方法としても把握できる。
すなわち、本発明は、Alを主成分とするアルミニウム合金溶湯を鋳型に注入、凝固させてアルミニウム合金鋳物を得る鋳造工程と、該アルミニウム合金鋳物に溶体化熱処理および時効熱処理を施す熱処理工程とを備えてなり、
該熱処理工程後のアルミニウム合金鋳物は、全体を100質量%としたときに、Si:4〜12質量%と、Cu:0.2質量%以下と、Mg:0.2質量%を超え0.5質量%以下と、Ni:0.2〜3質量%と、Fe:0.1〜0.7質量%と、Ti:0.15〜0.3質量%と、残部がAlおよび不可避的不純物とからなり、α−Alを主とする基地相と該基地相をネットワーク状に囲繞すべく晶出した骨格相とからなる金属組織を有し、該基地相がMgを含有する析出物によって析出強化された実用疲労特性に優れることを特徴とするアルミニウム合金鋳物の製造方法としても良い。
(作用)
本発明のアルミニウム合金は、従来困難であった、アルミニウム合金鋳物の高強度または高疲労強度と、その高耐熱疲労性とを両立させた。これが可能となったメカニズムは必ずしも定かではないが、現状、次のように考えられる。なお、以降では、鋳物原料としての鋳物用アルミニウム合金、鋳造製品であるアルミニウム合金鋳物の両方を含めて、適宜、単にアルミニウム合金と呼ぶ。
従来、アルミニウム合金(鋳物)の疲労強度を高める際、先ず、その静的な引張強度の向上が考えられる。その手法として、CuやMg等の析出強化元素を含有させるのが一般的である。
しかし、このような手法を単純に適用しただけでは、アルミニウム合金の高強度化を図れたとしても、その一方で、延性や靭性の低下を招く。その結果、応力集中や平均応力等が影響する疲労強度まで高めることはできないし、さらには、その延性や靭性の低下によって耐熱疲労性の低下をも招くこととなる。従って、従来、アルミニウム合金の強度、耐疲労性および耐熱疲労性を共にハイレベルで満たすことは極めて困難であった。例えば、前述した各特許文献の開示内容を観ても、それらを高次元で同時に満たすものはなく、いずれか一方の特性に優れるものにすぎない。
これに対して本発明のアルミニウム合金は、Cuを実質的に含有させずに、Mgの含有量と共にNi、FeおよびTiの含有量を最適化することによって、強度、疲労強度および耐熱疲労性を両立させている。以下、各元素の作用について説明する。
先ず、本発明のアルミニウム合金は、Cuを実質的に含有していないので、基地相の組織が安定し、熱疲労環境下での基地相の脆化が抑止されて、耐熱疲労性の向上に寄与する。ちなみに、Cuによる基地相の脆化は、熱疲労環境下で基地相中に析出したCu化合物が粗大化することで生じると考えられる。
ただ、本発明のアルミニウム合金は、Cuを実質的に含有しないため、Cuによる析出強化は期待できない。そこで本発明者は、アルミニウム合金中にMgを含有させて、その強度を高めることを考えた。なお、CuではなくMgを選択したのは耐蝕性を考慮したからでもある。
このとき、Mgを従来のアルミニウム合金と同程度含有させると、母材としての強度向上は図れるとしても、前述したように、アルミニウム合金の延性や靱性の低下による疲労強度や耐熱疲労性の劣化は避けがたいと考えられる。しかし、本発明者が鋭意研究したところ、Mgの含有量を本発明の範囲内とすることで、アルミニウム合金の耐熱疲労性等をほとんど阻害しないで、その硬さ、強度、疲労強度等を高められることを新たに見いだした。勿論、Mgの含有量が増加すると、アルミニウム合金の延性や靱性が低下し、疲労強度や耐熱疲労性が僅かながら劣化することも考えられる。しかし、その劣化分は、NiやFe等の化合物が晶出して強化された骨格相により十分に補充されると考えられる。特に、Ni含有量を適切に調整することで、従来のアルミニウム合金と同等以上の高耐熱疲労性が得られる。この点をさらに説明すると次の通りである。
骨格相はネットワーク状に展開して基地相を囲繞している。この骨格相により、合金に作用する応力や歪みは、局部に集中することなく、全体的に均一に分布し易くなる。その際、この骨格相中でのNi化合物やFe化合物の晶出物量が増加すると、その部分で応力集中が生じ易くなり、アルミニウム合金の疲労強度等の低下も懸念される。ところが、本発明のアルミニウム合金の場合、Cuを実質的に含有しないことで基地相は適度に軟らかくなっており、Mgの含有量も多くはないため、Ni化合物やFe化合物の晶出部分での応力集中はあまり問題とはならない。
本発明のアルミニウム合金は、さらに、Tiを含有している。このため、アルミニウム合金中の結晶粒が極めて微細となる。これに伴い、ネットワーク状の晶出物からなる骨格相の分布が等方的になり、印加された応力や歪みもより一層、均一に分散され易くなって、疲労強度や耐熱疲労性の向上に寄与する。また、Tiは、基地相に固溶して基地相を固溶強化するため、アルミニウム合金の強度向上にも有効となる。このように本発明のアルミニウム合金は、含有量が最適化され各合金元素が相乗的に作用し合うことによって初めて、従来達成困難であった、強度、疲労強度および耐熱疲労性をハイレベルで満たすことができるようになったと考えられる。
なお、本発明のアルミニウム合金鋳物は、使用中のごく初期にその組織が部位によって多少変化することはあり得る。例えば、シリンダヘッドのように、部位によって曝される温度環境が異なる場合、シリンダヘッドの燃焼室付近は比較的高温となって、例えば、基地相中から析出したMg化合物が使用初期に粗大化することもあり得る。但し、本発明の場合、析出物の粗大化は早期に終了し、さらなる加熱により延性や靱性が回復する。また、使用初期にやや延性や靱性が低下したとしても、Ni化合物等の晶出した骨格相によって基地相が補強されるため、耐熱疲労性まで低下することはほとんどない。逆に、シリンダヘッドの中でも、さほど高温とならない部分は基地相がMg化合物により析出強化された状態となっており、母材として十分な強度や硬さを発揮する。このように、本発明のアルミニウム合金は、部材の部位によって要求される特性が異なるとしても、それらの要求を同時に満たすことができる。
ところで本明細書でいう「強度」とは、アルミニウム合金の使用初期の破断強度である。この強度は、室温〜150℃の温度範囲でほぼ維持される。この強度は、引張強度で指標しても良いが、合金全体の硬さによって指標しても良い。なお、後述の疲労強度が高い場合は、一般的にこの引張強度も高いと考えられる。
「疲労」とは、一般的な高サイクル疲労に対する強度であり、「耐疲労性」とはその疲労に対する耐性である。「疲労強度」は、アルミニウム合金鋳物に所定温度で、繰返応力を付与したときの破断強度である。平均応力、応力振幅、繰返数(破断までの寿命)によって指標される。
「熱疲労」とは、低サイクル疲労の1種であって、温度、歪みが周期的に変化する場合に生じる疲労であり、「耐熱疲労性」とはその疲労に対する耐性である。熱疲労は、より詳しくいうと、熱膨張および熱収縮が拘束されて、加熱時に圧縮方向または引張方向に歪みが生じると共に冷却時に引張方向または圧縮方向に歪みが生じる結果もたらされる疲労現象である。温度と歪みとの位相差によりout−of−phaseとin−phaseとがある。この熱疲労は熱疲労寿命によって指標される。その試験方法については後述する。特に、アルミニウム合金の場合、熱膨張係数が大きいので、熱膨張の拘束により加熱時に圧縮、冷却時に引張りの歪みが生じるout−of−phaseの熱疲労が生じ易く、これに対する耐性が必要とされる。なお、上記耐疲労性と、上記耐熱疲労性との両方を併せて、本明細書では「実用疲労特性」と呼んでいる。
発明の実施形態を挙げて、本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る鋳物用アルミニウム合金、アルミニウム合金鋳物およびその製造方法にも適宜適用されるものであることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、鋳造対象、鋳物の要求性能等によって異なることを断っておく。
(1)組成
本発明のアルミニウム合金中のSiは、4〜12質量%が好適である。Siが4質量%未満では、鋳造性が悪く、鋳物中に鋳造欠陥を生じやすい。また、鋳物の熱膨張係数が大きくなる。一方、Siが12質量%を超えると、合金溶湯が凝固する際に指向性が高まり、金属組織が不均質になる。また、鋳物の最終凝固部に多量の鋳造欠陥を生じるおそれもある。さらに、脆いSi粒子が増加して、鋳物の延性や靭性が低下するおそれもある。
Siが5〜9質量%であるとより好ましい。Si量がこの範囲内であると、最も安定した鋳造性が得られる。また、骨格相を形成する共晶Si量も適量となり、強度、延性に優れたアルミニウム合金鋳物が得られる。さらに、最適なSi量は、7〜8質量%である。Si量がこの範囲内であると、鋳造性がより安定し、強度、延性のバランスも最適になる。
Cuは、0.2質量%以下とすると好適である。Cuが0.2質量%を超えると、シリンダヘッド等が使用される高温域で、熱的に不安定な析出物が合金中に多く生成される。その析出物は、アルミニウム合金鋳物の使用中に徐々に粗大化し、その延性や靭性の低下をもたらして、アルミニウム合金鋳物の耐熱疲労性を著しく低下させるおそれがある。また、Cuが0.2質量%を超えると、その析出強化によって基地相が過度に硬化する。特に、本発明のアルミニウム合金のように晶出物量が多い場合、応力集中に伴う疲労強度の低下が懸念される。このようなCuは、含有量が少ない程好ましく、その上限は0.1質量%さらには0.05質量%とする程良い。特に、不可避的不純物として存在する場合は別にして、Cuを0質量%にすると最適である。
上述した延性や靱性の低下に伴う耐熱疲労性の低下傾向は、Cuに限らず後述するMgにも少しはある。しかし、少量のMg量であれば、使用初期に析出物がやや粗大化するものの、その後の加熱による組織変化は小さく延性や靱性は早期に回復する。Cuは、アルミニウム合金を腐蝕させる傾向が強い。従って、耐蝕性を確保する観点からも、Cu量は上記範囲とするのが好ましい。但し、リサイクル性や製造コスト等を考慮すれば、不純物程度のCuがアルミニウム合金中に存在することもある。そこで本発明では、Cu量の上限を実質的に0質量%とはせずに、0.2質量%としている。これにより、アルミニウム合金鋳物の製造コストが削減され、また、そのリサイクル性も向上する。
Mgは、その下限を0.1質量%、0.15質量%さらには0.2質量%とし、その上限を0.5質量%さらには0.4質量%とすると好適である。例えば、Mgが0.1〜0.5質量%さらには0.2〜0.4質量%であると好ましい。
本発明のアルミニウム合金は、前述したように、析出強化元素であるCuを実質的に含有させてはいない。従って、シリンダヘッド等の母材となるアルミニウム合金の強度や疲労強度を確保する上で、Mgを適量含有させることが非常に重要となる。Mgが過少では基地相が軟らか過ぎてその効果が薄い。Mgが過多ではアルミニウム合金の延性や靱性を低下させることとなり、結果的に耐熱疲労性の低下を招く。
Niは、0.2〜3質量%であると好適である。Niは、Ni化合物を晶出させて、ネットワーク状の骨格相を強固にする。Niが0.2質量%未満では、Ni化合物の生成量が少なく、晶出物からなるネットワーク状の骨格相の形成が不十分となり得る。Niが3質量%を超えると、粗大なNi化合物が生成され易くなり、延性や靭性が著しく低下するおそれがある。特に、Niが2質量%を超えるとNi化合物がやや大きくなり組織の均質性が低下し始める。そこで、Niを0.5〜2質量%とすると、Ni化合物の晶出量とその大きさが適度で均質な凝固組織が得られるので好ましい。さらに、最適なNi量は、0.7〜1.5質量%である。Ni量をこの範囲内とすると、Ni化合物の晶出量と大きさとが最適になり、耐熱疲労性が安定して高くなる。なお、Ni化合物とはNiを含む化合物の総称である。Ni化合物として、例えば、Al−Ni化合物、Al−Ni−Cu化合物、Al−Fe−Ni化合物等がある。
Feは、0.1〜0.7質量%であると好適である。Feが0.1質量%未満では、Fe化合物の生成が少なく、晶出物からなるネットワーク状の骨格相の形成が不十分となり得る。Feが0.7質量%を超えると、粗大なFe化合物が生成し易くなり、延性や靭性が著しく低下するおそれがある。Feが0.2〜0.6質量%であるとより好ましい。さらに、最適なFe量は、0.3〜0.5質量%である。Fe量をこの範囲内とすると、Fe化合物の晶出量と大きさとが最適になり、耐熱疲労性の向上効果が最大限に発揮される。なお、Fe化合物とはFeを含む化合物の総称である。その一例として、Al−Si−Fe−Mn化合物、Al−Si−Fe化合物、Al−Fe−Ni化合物等がある。
Tiは、0.15〜0.3質量%であると好適である。Tiは、結晶粒を微細化させると共に基地相を固溶強化する。結晶粒が十分に微細化されると、晶出物からなるネットワーク状の骨格相も等方的となる。また、基地相中にTiが固溶することで、基地相が適度に硬化して、基地相における歪み集中が抑制され、歪みの分布がさらに均一化するようになる。こうして、鋳物に作用する応力や歪みの分布が均一化して、その疲労強度が向上する。Tiが0.15質量%未満では、結晶粒の微細化が不十分となり、鋳造組織特有のデンドライト組織が発達して、等方的なネットワーク状の骨格相が得られない。Tiが0.3質量%を超えると、基地相に固溶するTiが増加して、基地相が硬くなりすぎ、鋳物がせん断破壊を生じるおそれがある。また、基地相中に粗大なTi化合物を生成するようになり、鋳物の延性や靭性を著しく低下させるおそれもある。Tiは、0.2〜0.3質量%であるとより好適であり、さらに0.2〜0.25質量%であると最適である。
なお、Tiは、原料を溶解する最終工程で、Al−Ti合金、Al−Ti−B合金またはAl−Ti−C合金などを添加して含有させることができる。このようにTiを母合金(アルミニウム合金)として添加すると、Ti化合物の凝集等を抑制でき、結晶粒の十分な微細化や金属組織の等方化、均質化を図り易い。Tiの添加材として、Al−Ti−B合金等を用いた場合、ホウ素(B)等が合金中に混在する。Bが多くなると、アルミニウム合金の耐熱性が低下するので、その含有量は0.01質量%以下とするのが好ましい。
ちなみに、本発明のアルミニウム合金の結晶粒径dと二次デンドライトアーム間隔DASとの比d/DASは、例えば、5〜20程度となる。この結晶粒径dは、例えば、JlS−H−0501「伸銅品結晶粒度試験方法」に準じて測定して求められる。
本発明のアルミニウム合金は、さらに、マンガン(Mn)を0.1〜0.7質量%含有すると好適である。Mnは、Mn化合物として晶出し、骨格相をより強固にする。Mnが0.1質量%未満であると、その効果が薄い。Mnが0.7質量%を超えると、粗大なMn化合物が生成して、鋳物の延性や靭性が著しく低下するおそれがある。なお、Mnには、Fe化合物が粗大な針状になるのを抑止して鋳物の延性や靭性の低下を妨げる効果もある。Mnが0.2〜0.5質量%であるとより好ましい。さらに、最適なMn量は、0.3〜0.5質量%である。Mn量をこの範囲内とすると、上記効果を最大限に発揮させることができる。なお。Mn化合物とはMnを含む化合物の総称である。その一例として、Al−Si−Fe−Mn化合物、Al−Si−Mn化合物、Al−Mn化合物等がある。
本発明のアルミニウム合金は、さらに、0.03〜0.5質量%のジルコニウム(Zr)および0.02〜0.5質量%のバナジウム(V)の一方または両方を含有すると好ましい。両元素は、結晶粒を微細にし、デンドライトの整列を防止して、晶出物からなるネットワーク状の骨格相をより等方的にする効果がある。また、両元素は基地相を固溶強化し、基地相の高温強度を適度に向上させる。また、基地相への歪み集中を防止する効果もある。両元素の含有量が過少であるとこれらの効果が薄い。両元素の含有量が過多となると、粗大な初晶化合物が生成して鋳物の延性や靭性が著しく低下する。また、両元素の含有量が過多となると、溶湯の温度を高めないと、均一な溶解が難しくなる。さらに、両元素の含有量が0.5質量%を超えると、Tiを含有する粗大なTi化合物が生成されて、鋳物の延性や靭性の低下するのみならず、前述した結晶粒の微細化に有効なTi量が減少して、結晶粒が粗大化するおそれがある。その結果、鋳物の金属組織の等方性や均質性が阻害され得る。Zrは0.03〜0.15質量%、Vは0.02〜0.15質量%であるとより好ましく、両元素を共に含有すると一層好ましい。
本発明のアルミニウム合金は、さらに、カルシウム(Ca)を0.0005〜0.003質量%を含有すると好適である。上述の範囲内のTi、ZrまたはVと共にCaが微量添加されると、結晶粒の微細化がより安定する。Caが0.0005質量%未満ではその効果がない。Caが0.003質量%を越えると、デンドライト組織が発達しやすく、晶出物からなるネットワーク状の骨格相の等方性が崩れ、鋳造組織が不均質になるおそれがある。また、Ca量が多くなると、鋳造欠陥であるポロシティも生じ易くなるため、その上限を0.002質量%とするとより好ましい。また、不可避的不純物は少ない方が好ましく、例えば、0.5質量%未満とするとよい。より好適には0.25質量%未満、さらには0.1質量%未満とすると最適である。
(2)組織
本発明のアルミニウム合金鋳物または本発明の鋳物用アルミニウム合金を用いて鋳造した鋳物(便宜上、両者を併せて「アルミニウム合金鋳物」または単に「鋳物」という。)は、基地相と骨格相とからなる。基地相は主にα−Alからなり、骨格相はこの基地相をネットワーク状に囲繞する晶出物からなる(図1参照)。このような金属組織は、例えば、基地相が初晶として凝固した後に、骨格相がその基地相の周囲に共晶反応によって晶出して得られる。この場合の金属組織は、主に、アルミニウム合金の溶湯が鋳型内で粥状凝固して得られた亜共晶組織となる。
基地相は、α−Alのみではなく、そこに固溶した各合金元素や析出した化合物粒子(例えば、Mg化合物の析出粒子)等も含む。骨格相も同様に、Al−Si共晶のみではなく、その共晶と共に晶出した化合物やそこに固溶した各合金元素等も含む。なお、骨格相中に晶出または析出して骨格相を強化する化合物粒子を、以降、骨格相の強化粒子と呼ぶ(図1参照)。このような強化粒子には、例えば、Al−Ni系化合物、Al−Si−Ni系化合物、Al−Fe系化合物、Al−Si−Fe系化合物、Al−Si−Fe−Mn化合物、共晶Si等がある。中でも、Ni化合物やFe化合物からなる晶出粒子は、強化粒子としての効果が大きい。この他、SiC粒子、Al2O3粒子、TiB2粒子等も強化粒子となり得る。
ここで骨格相は、高弾性で降伏応力の高い晶出物や硬質の強化粒子からなる。これらがネットワーク状に連なって基地相を囲繞しており、その組織は微細で均一であるため、鋳物に作用する応力は骨格相で均一に分散されて、疲労亀裂の発生源となる基地相の応力分担は低下し易くなる。その結果、本発明のアルミニウム合金鋳物の耐疲労性や耐熱疲労性などの疲労特性が向上したと考えられる。
本発明のアルミニウム合金鋳物は、初晶Siの存在しない亜共晶組織であると好ましい。シリンダヘッドのように内部に空洞を有する複雑形状の大型鋳物を鋳造する場合、凝固の指向性を完全に制御して、ポロシティを鋳物外部にある押し湯部に逃がすことは困難である。そこで、溶湯を粥状凝固させて亜共晶組織からなる鋳物が得られれば、局部的なポロシティの集中が抑止されて、応力集中部分等にポロシティが集中して鋳物の疲労特性が低下するといった事態を回避できる。また亜共晶組織とすることで、晶出物がネットワーク状に分散生成し、少量の晶出物でも骨格相が有効に形成される。
また、鋳物中の初晶Siは、疲労破壊の起点になり得る。特に、シリンダヘッドのような大型鋳物の場合、全体的な凝固が遅いため、凝固途中で生成した初晶Siは比重差によって、溶湯の上方に浮上して偏析することがあり、その部分は疲労破壊の起点となり易い。従って、初晶Siは実質的に存在しないのが好ましい。本発明の場合、Si量がAl−Si二元系合金の共晶点よりも少ないため、初晶Siは比較的晶出し辛い。しかし、Si以外の合金元素やその含有量によっては、共晶点が低Si側に移行して初晶Siが晶出することもあり得る。そのような場合は、鋳造性等を損なわない範囲でSi量を調整すると良い。
また、本発明のアルミニウム合金溶湯中に、ストロンチウム(Sr)、ナトリウム(Na)、アンチモン(Sb)等の共晶Siを微細化させる元素を適量含有させて、アルミニウム合金鋳物を鋳造しても良い。これにより、その鋳物の延性や靭性がさらに改善され得る。Srは0.003〜0.03質量% 含有すると良い。Srの含有量が0.03質量%を超えると、共晶Si粒子の微細化効果が飽和するとともにガス吸収が激しくなる。また、Srの含有量が0.003質量%未満であれば、共晶Si粒子の微細化効果が十分に認められない。
Sbは0.02〜0.3質量% 含有すると良い。Sbの含有量が0.3質量%を超えると溶湯の流動性が低下し湯周り不良が生じるおそれがある。また、Sbの含有量が0.02質量%未満であれば、共晶Si粒子の微細化効果が十分に認められない。
Naは0.003〜0.03質量% 含有すると良い。Naの含有量が0.03質量%を超えると靱性が低下する。また、Naの含有量が0.003質量%未満であれば、共晶Si粒子の微細化効果が十分に認められない。
ところで、本発明のアルミニウム合金鋳物は、適量のMgを含有することにより、上記骨格相のみならず、基地相も析出強化されて、耐熱疲労性のみならず、母材としての硬さ、強度、耐疲労性等も確保されている。基地相の使用時の初期硬さは、例えば、ビッカース硬さ(HV)で64HV以上であり、より好ましくは67HV以上である。この硬さの上限はMg量や熱処理条件等によって異なるが、概ね100HV程度である。ちなみに、「使用時の初期硬さ」とは、アルミニウム合金鋳物が熱履歴を受け前の硬さ(バージン状態の硬さ)である。アルミニウム合金鋳物の一例としてエンジンのシリンダヘッドを考えれば、「使用時の初期硬さ」とはそのエンジンの最初の運転前(つまり、火入れ前)の硬さである。
アルミニウム合金鋳物の使用環境が比較的低温(例えば、150℃以下)である場合や鋳物の特定部分の温度が低温である場合、そこでの基地相の硬さはほぼ上記の硬さが維持されると考えられる。この傾向は、合金全体としての硬さについても同様であり、その硬さは97HV以上より好ましくは105HV以上となる。
基地相をMg等によって析出強化する際、熱処理を施すのが有効である。アルミニウム合金鋳物の熱処理として、溶体化熱処理および時効(硬化)熱処理がある。溶体化熱処理は、鋳物を高温で保持した後に水冷等によって急冷し、過飽和固溶体を形成する処理である。時効熱処理は、その鋳物を比較的低温で加熱保持し、過飽和に固溶していた元素を析出させて、適度な硬さを付与する処理である。これらの熱処理によって、微細な析出物が均一に分散し、強度、延性および靭性が高度にバランスした鋳物が得られる。さらに、晶出物の角部も丸くなり、応力集中が低減されて実用疲労特性の向上が期待される。本発明の場合、それらの熱処理によって、基地相中のMgが化合物(主にAl−Mg−Si系化合物)として析出し、基地相の硬さが適度に高められる。
それらの熱処理条件は、鋳物の組成や所望特性に応じて適宜選択される。所望する処理温度や処理時間等によって、一般的にT6処理、T4処理、T5処理、T7処理等がある。一例を挙げると、溶体化熱処理は、例えば、450℃〜550℃、1〜10時間の加熱保持後に急冷すれば良い。また、時効熱処理は、例えば、140℃〜300℃、1〜20時間加熱保持して行えば良い。
また、本発明のアルミニウム合金鋳物の気孔率は、0.3vol%未満であることが好ましい。気孔率が0.3vol%以上であると、鋳物の耐熱疲労性を充分に発揮させることができない。気孔率が低いほど、合金本来の優れた耐熱疲労性が発揮される。このため、気孔率は、0.1vol%未満であることが好ましく、0.05vol%未満が最適である。このような気孔率の値は、例えば、シリンダヘッドの燃焼室の弁間部等、鋳物の耐熱疲労性が特に要求される部位で達成されていればよい。
(3)用途
本発明の鋳物用アルミニウム合金は、当然ながらアルミニウム合金鋳物の原料として使用される。その鋳物用アルミニウム合金の形態は問わないが、通常、インゴット状態である。
本発明のアルミニウム合金鋳物は、そのサイズ、形状、使用環境等を問わないが、強度、耐疲労性および耐熱疲労性等が同時に要求される部材に好適である。例えば、エンジン用部材、モータ用部材、放熱用部材等がある。例えば、エンジン用部材には、シリンダヘッド、ターボロータ等がある。本発明のアルミニウム合金鋳物は、高い耐食性も有するため、排気系部材(排気管、排気管理バルブ等)にも適している。さらに、本発明のアルミニウム合金鋳物は、疲労強度および耐蝕性に優れるので、これら両性能が要求される部材、例えば、自動車の足回り部材、シャーシ部材等に好適であり、それらへの使用により、各部材の軽量化および性能向上を図れる。より具体的には、足回り部材として、例えば、ディスクホイール、アッパーアーム、ロワーアーム、サスペンションアーム、アクスルキャリア、アクスルビームなどがある。シャーシ部材には、例えば、サイドメンバー、クロスメンバーなどがある。また、エンジン用部材やその周辺部材を取付けるブラケット類やトランスミッションケースなどに使用して良い。さらに、自動車分野に限らず、それ以外の分野であっても、耐蝕性や疲労強度が要求される部材を本発明のアルミニウム合金鋳物で製造すると、それらの軽量化および性能向上を図れる。
本発明のアルミニウム合金鋳物は、特に、母材としての硬さ、強度等と共に耐熱疲労性が要求される高性能なレシプロエンジン用シリンダヘッドに好適である。シリンダヘッドは、過酷な冷熱環境に曝されて、繰返し熱歪みを受ける。特に、燃焼室の弁間部(バルブブリッジ部)には、極めて高い耐熱疲労性が求められる。一方、それ以外の母材材部分には耐熱疲労性よりもむしろ高強度や高耐疲労性が求められる。また、ウォータジャケット部では、腐食生成膜の形成による伝熱性能の低下、つまりは冷却効率の低下を長期的に抑止する観点から、高い耐蝕性も要求される。本発明のアルミニウム合金鋳物からなるシリンダヘッドは、これらの要求をいずれも高次元で満たすものである。また、シリンダヘッドなどは形状が複雑で大型であるが、本発明の鋳物用アルミニウム合金等は鋳造性も良いため、その原料合金として最適である。また、シリンダヘッドは、鋳造後の鋳物に切削、研磨等の機械加工を施して、組み付け面、カムシャフトの軸受け等が形成されるが、本発明のアルミニウム合金鋳物はこのような加工性を阻害することもない。
なお、本発明のアルミニウム合金鋳物の鋳造方法は特に拘らない。砂型鋳造でも金型鋳造でも良いし、重力鋳造、低圧鋳造または高圧鋳造でも良い。鋳物の量産性を考慮すれば、ダイキャスト鋳造、低圧鋳造が好適である。
実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(第1実施例)
(1)試験片の製造
表1に示すように、組成の異なる鋳物用アルミニウム合金を溶解して溶湯を調製した後、JIS4号試験片作製用の金型にそれらを注湯し、放冷して凝固させた(鋳造工程)。得られた鋳物に、530℃x5.5hr加熱した後、50℃の温水中に入れて焼入れる溶体化熱処理を施した。その後、さらに、160℃x5hr加熱する時効熱処理を施した。この熱処理後の鋳物からφ4mmx長さ6mmの平行部を有する熱疲労試験片を採取し、表1に示す試験片No.1−1〜1−8を得た。
(2)耐熱疲労性の評価
各試験片の耐熱疲労性は次のように評価した。
低熱膨張合金製の拘束ホルダに、上記各試験片を取り付けて、加熱・冷却を繰り返す方式で実施した。この試験温度範囲は50℃〜250℃、繰り返し速度は加熱2min、冷却3minの5min/サイクルとした。その他、熱疲労試験方法の詳細は、例えば、特開平7−20031合公報、「材料」、Vol.45(1996)、pp.125−130、「軽金属」、Vol.45(1995)、pp.671−676に示されている。
上記の熱疲労試験で得られた各試験片の熱疲労寿命を表1に併せて示す。ちなみに、JIS−AC2Bのアルミニウム合金製試験片に、高温歪みゲージを貼付して測定した試験初期の全歪み範囲は約0.6%であった。
表1の各試験片を比較すれば解るように、Cuが0.2質量%以下で、かつ、適量のNi、Fe、Mn、Tiを含有する場合に、熱疲労寿命が著しく延びている。特に、試験片No.1−1〜1−6と試験片No.1−8とを比較すれば解るように、Cuが0.2質量%以下であっても、Niを0.2〜3質量%含有することで熱疲労寿命が大きく延びている。
また、試験片No.1−1、1−5と、試験片No.1−2、1−6とを比較すれば解るように、適量のMn、ZrおよびVを含む試験片は、他の試験片よりも、その熱疲労寿命が大きく延びることも解った。
(第2実施例)
表2に示すように、組成の異なる鋳物用アルミニウム合金を用いて、第1実施例と同様に、試験片No.2−1〜2−6を製作した。これらの試験片は、Mg量がそれぞれ異なる。
これらの試験片の硬さを測定した。硬さ測定は室温雰囲気でビッカース硬さ計またはマイクロビッカース硬さ計を用いて行った。表2中、「全体の平均硬さ」は、荷重10kgf、負荷時間30secで大きな圧痕を打って測定したものであり、試験片全体の平均的な硬さを示す。「初期の基地相の硬さ」は、加熱前の試験片に、荷重100g、負荷時間30secで基地相の中央に小さな圧痕を打って測定したものである。「加熱後の基地相の硬さ」は、250℃x100hrの加熱をした試験片の基地相の硬さを、上記「初期の基地相の硬さ」と同様の方法で測定したものである。
表2から解るように、Mg量が0.1質量%より多い試料で、全体の硬さおよび初期の基地相の硬さは大きい。特に、Mgが0.2質量%を超える試験片No.2−1〜2−3では、「全体の平均硬さ」がMg量にあまり依存しておらず、いずれも100HV以上と大きい。
逆に、Mg量が0.1質量%以下となる試験片No.2−4および2−5は、Mg量に依存せず、「全体の平均硬さ」が著しく低い。これらの傾向は、「初期の基地相の硬さ」についても同様である。
このため、Mg量が0.2質量%を超える鋳物は、高温に加熱される部位以外で、高硬度、高強度が維持されるので、例えば、シリンダヘッドや排気系部品等のエンジン用高強度部品の母材としても好ましいと考えられる。
「加熱後の基地相の硬さ」は、加熱前の「初期の基地相の硬さ」に比べて、いずれの試験片でも低下している。特に、Mg量が0.2質量%を超える試験片の場合、その低下量が大きい。しかし、「加熱後の基地相の硬さ」自体は、いずれの試験片でも、Mg量の多少に拘わらず同程度に落ち着いている。従って、Mgを適量含有する鋳物であっても、Mgを実質的に含有しない鋳物と同様に、基地相が十分に軟化して合金としての延性が向上している考えられる。言い換えるなら、母材としての硬さ、強度、疲労強度等を高めるために0.5質量%以下のMgを合金中に含有させたとしても、250℃もの高温に曝される部位の耐熱疲労性を大きく阻害する要因とはなり得ないと考えられる。例えば、Mgを0.2質量%〜0.5質量%含有するシリンダヘッドの場合、高温環境下に曝される部位では優れた耐熱疲労性を発揮すると共に、その周囲の比較的温度が低い部位では高い初期強度等を維持すると考えられる。
本発明のアルミニウム合金がこのような優れた特性を発揮するのは、表1および表2からも解るように、適量のMgおよびNiを含有させたことの相乗効果と考えられる。
(第3実施例)
表3に示すように、組成の異なる鋳物用アルミニウム合金を用いて、第1実施例と同様に、試験片No.3−1〜3−3を製作した。これらの試験片は、Cu量がそれぞれ異なるものである。
これらの試験片に対して塩水噴霧試験を行い、各試験片の耐蝕性を評価した。塩水噴霧試験は、JIS Z2371−1994に準拠しつつ、塩水濃度5%、噴霧塩水の温度35℃、試験時間100hrとして行った。なお、各試験片の表面は、#600の耐水研磨紙で試験前に均一に研磨しておいた。
塩水噴霧試験後に水洗した各試験片No.3−1〜3−3の表面写真を、それぞれ図2(a)〜(b)に示した。Cu量が多い試験片ほど腐蝕が激しく、Cu量が少ない試験片ほど腐蝕し難いことが解る。特に、Cuが0.2質量%以下の試験片No.3−1はほとんど腐蝕しておらず、極めて高い耐蝕性を示した。
従って、例えば、本発明のアルミニウム合金からなるシリンダヘッド等は、前述した高強度、高耐熱疲労性等と共に高耐蝕性を備えるものとなり、信頼性が非常に高いものといえる。
(第4実施例)
表4に示すように、組成の異なる鋳物用アルミニウム合金を用いて、第1実施例と同様に、試験片No.4−1〜4−3を製作した。これらの試験片はB量がそれぞれ異なるものである。これらの試験片を150℃x100hr加熱した後に、それぞれのビッカース硬さを測定した。その結果を表4に併せて示す。なお、この硬さ測定は室温雰囲気で行った。
表4の結果から、B量が少ない程、長時間加熱後の硬さが大きいことが解る。従って、Bは不純物としてその上限を0.01質量%以下に規制するのが好ましいといえる。
(第5実施例)
表5に示すように、組成の異なる鋳物用アルミニウム合金を用いて、第1実施例と同様に、試験片No.5−1〜5−4を製作した。これらの試験片はCa量がそれぞれ異なるものである。
各試験片の凝固組織を光学顕微鏡で調べた。表5に組織の均質性を有無を○、△およびXで示した。晶出物からなる等方的なネットワーク組織が形成されている場合は○、デンドライト組織が発達している場合は×、一部に整列したデンドライトが認められる場合は△とした。
Caが0.0005〜0.003質量%の試験片No.5−1、5−2は、晶出物による等方的なネットワーク状の骨格相が全体に形成された均質な組織であった。これに対し、Ca量が0.0005質量%未満の試験片No.5−3は、一部にデンドライトの整列が認められやや不均質な組織であった。Ca量が0.003質量%を超える試験片No.5−4は、デンドライトの整列が組織全体に認められる不均質な組織であった。従って、Ca量は0.0005〜0.003質量%とするのが好ましいといえる。
Figure 0004093221
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本発明のアルミニウム合金鋳物の金属組織を模式的に示した説明図である。 Cu量を変化させたアルミニウム合金鋳物に塩水噴霧試験を施したときの腐蝕状況を示す写真であり、同図(a)はCu:0質量%、同図(b)はCu:0.5質量%、同図(c)はCu:5質量%のものである。

Claims (12)

  1. 全体を100質量%としたときに、ケイ素(Si):4〜12質量%と、銅(Cu):0.2質量%以下と、マグネシウム(Mg):0.2質量%を超え0.5質量%以下と、ニッケル(Ni):0.2〜3質量%と、鉄(Fe):0.1〜0.7質量%と、チタン(Ti):0.15〜0.3質量%と、残部がアルミニウム(Al)および不可避的不純物とからなり、
    実用疲労特性に優れたアルミニウム合金鋳物が得られることを特徴とする鋳物用アルミニウム合金。
  2. さらに、マンガン(Mn):0.1〜0.7質量%を含有する請求項1に記載の鋳物用アルミニウム合金。
  3. さらに、ジルコニウム(Zr):0.03〜0.5質量%およびバナジウム(V):0.02〜0.5質量%の1種以上を含有する請求項1に記載の鋳物用アルミニウム合金。
  4. さらに、ホウ素(B):0.01質量%以下である請求項1に記載の鋳物用アルミニウム合金。
  5. さらに、カルシウム(Ca):0.0005〜0.003質量%を含有する請求項1または3に記載の鋳物用アルミニウム合金。
  6. 全体を100質量%としたときに、Si:4〜12質量%と、Cu:0.2質量%以下と、Mg:0.2質量%を超え0.5質量%以下と、Ni:0.2〜3質量%と、Fe:0.1〜0.7質量%と、Ti:0.15〜0.3質量%と、残部がAlおよび不可避的不純物とからなり、
    α−Alを主とする基地相と該基地相をネットワーク状に囲繞すべく晶出した骨格相とからなる金属組織を有し、
    該基地相がMgを含有する析出物によって析出強化された実用疲労特性に優れることを特徴とするアルミニウム合金鋳物。
  7. 前記骨格相は、少なくともNi化合物およびFe化合物からなる強化粒子によって強化されている請求項6に記載のアルミニウム合金鋳物。
  8. 前記基地相の使用時の初期硬さは、ビッカース硬さ(HV)で64HV以上である請求項6に記載のアルミニウム合金鋳物。
  9. 前記金属組織は、初晶Siを含まない請求項6に記載のアルミニウム合金鋳物。
  10. 前記アルミニウム合金鋳物は、エンジン用部材である請求項6に記載のアルミニウム合金鋳物。
  11. 前記エンジン用部材は、レシプロエンジンのシリンダヘッドである請求項10に記載のアルミニウム合金鋳物。
  12. Alを主成分とするアルミニウム合金溶湯を鋳型に注入、凝固させてアルミニウム合金鋳物を得る鋳造工程と、
    該アルミニウム合金鋳物に溶体化熱処理および時効熱処理を施す熱処理工程とを備えてなり、
    該熱処理工程後のアルミニウム合金鋳物は、全体を100質量%としたときに、Si:4〜12質量%と、Cu:0.2質量%以下と、Mg:0.2質量%を超え0.5質量%以下と、Ni:0.2〜3質量%と、Fe:0.1〜0.7質量%と、Ti:0.15〜0.3質量%と、残部がAlおよび不可避的不純物とからなり、
    α−Alを主とする基地相と該基地相をネットワーク状に囲繞すべく晶出した骨格相とからなる金属組織を有し、
    該基地相がMgを含有する析出物によって析出強化された実用疲労特性に優れることを特徴とするアルミニウム合金鋳物の製造方法。
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