JP4062040B2 - 微小運動制御方法および微小運動ステージ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、精密領域下での加工、搬送、組立てなどの物体操作を行う多自由度パラレルメカニズムにおける微小運動制御方法および該制御方法に基づいて制御される微小運動ステージに関する。
【0002】
【従来の技術】
バイオテクノロジーやナノテクノロジーなどの分野では、顕微鏡下での微細な作業が必要とされており、これら多自由度の微細作業を実現するため、一体針式のマイクロマニピュレータや微細作業テーブルなどが提案されている。従来、これらの微小運動機構として直動式アクチュエータを複数組合せた直交座標型機構やパラレルメカニズムなどが採用されている。
上記直交座標型機構としては、XYテーブル方式などが主に使用されている。このXYテーブル方式では、アクチュエータなどの入力節の運動と、テーブルなどの出力節の運動との比率が1:1であり、出力節で得られる制御分解能は入力節の性能に制限される。よって出力節での微細な作業を可能とするため、入力節ではその制御分解能を高めるべく、精密加工ボールねじと回転式モータ、リニアモータと空気静圧軸受などを組合わせたものを用いている。また、圧電素子、超音波モータ、超磁歪素子などを利用した高制御分解能を有する駆動源も開発されている。
【0003】
これに対してパラレルメカニズムでは、入力節と出力節の運動を変換する比率を調整することが可能であり、機構パラメータの設定により入力節の制御量に対する出力節の運動変位を拡大または縮小することができる。また、この機構では自由度数の増加が容易であり、機構の小型化も図れる。
また、上記各機構では、その制御に支障が発生する機構上の特異点が可動範囲に広く点在するため、該特異点を検知し特異点およびその近傍領域への可動を制限した機構・方法なども開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−138180号公報 (特許請求の範囲)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記XYテーブル方式などの直交座標型機構を用いた微小運動装置では、入出力比率が1:1であるため出力節の制御分解能は入力節分解能より高くはできないという問題がある。また、入力節の分解能を向上させるためには精密部品および精密加工が必要となるため、装置コストが高くなるという問題、および可動部が細密構造となり装置耐久性に劣るという問題がある。さらに、この機構においては、多自由度の運動を得るために、駆動源を積層して構成する必要があり、各駆動源は、その駆動源よりエンドエフェクタ側に積層形成された他のすべての駆動源の重量も加味して駆動を行なうため、負荷が大きく駆動効率が悪いという問題がある。また、駆動源を積層形成するため、最終出力節であるエンドエフェクタではすべての駆動源で発生した駆動誤差が累積されてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、多自由度パラレルメカニズムを採用し、該メカニズムの特異点近傍領域をあえて利用することにより極微細な作業を可能とする微小運動制御方法および該制御方法に基づいて制御される高分解能を有する微小運動ステージを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の微小運動制御方法は、複数の並列に配置された駆動源をそれぞれ独立に駆動させ、該駆動源と中間リンクを介して連結されたエンドエフェクタの運動を制御する多自由度パラレルメカニズムにおける微小運動制御方法であって、上記複数の駆動源の少なくとも一つにおいて、該駆動源の駆動方向を示す方向単位ベクトルと、該駆動源に連結された上記中間リンクの方向を示す方向単位ベクトルとのなす角が、(駆動源の駆動量)/(エンドエフェクタの移動量)で示される入出力比率が 10 を超える範囲である 90 deg. 近傍で該駆動源の運動制御を行なうことを特徴とする。なお、上記駆動源の微小運動量に対する上記エンドエフェクタの微小運動量を表わし、上記駆動源の駆動方向を示す方向単位ベクトルと上記中間リンクの方向を示す方向単位ベクトルとの内積を対角成分に有するヤコビ行列において、上記なす角が 90 deg.の場合に該ヤコビ行列の行列式が 0 となり、劣可動特異点となる。
【0008】
本発明の微小運動制御原理を図4を参照して説明する。図4は、1自由度運動であるテコを示す図である。なお、図中において δc' はテコの力点(入力節)における微小運動量、δe' はテコの作用点(出力節)における微小運動量、lc、leはそれぞれ支点に対する力点、作用点までの変位である。
入出力節の幾何関係は図4中に示す式(7)で表わされる。式(7)においてlc=0とすると、作用点の位置が不定となり、力点が支点と重なるため入力には無限大の力が要求されることとなる。これは、多自由度パラレルメカニズム特有の任意方向に出力を失う特異点、いわゆる過可動特異点での現象と相似する。一方、le=0とすると、作用点の変位が 0 となり、シリアル、パラレル両機構に共通して存在し任意方向への動きを失う特異点、いわゆる劣可動特異点と相似する。図より、leが非常に小さく作用点が支点に近いほど、力点の運動量lcに対する作用点の運動量leが小さくなることが分かる。
【0009】
以上より、機構の運動は、その劣可動特異点の近傍では、入力節における運動が縮小されて出力節の運動となるため、該近傍領域で入力節を微小制御することにより出力節では極微小な運動が得られることが分かる。本発明はこのような知見に基づくもので、後記する駆動源の微小運動量と、エンドエフェクタの微小運動量との関係を表わす式(6)おいて、入力節である駆動源の微小運動量にかかるヤコビ行列 J2 の行列式が 0 となる場合が機構の劣可動特異点にあたることから、該特異点となる場合における配置角などの機構パラメータを明らかにするとともに、従来は回避すべき領域として考えられていた該特異点近傍領域を積極的に利用することにより微小運動制御を可能とするものである。
【0010】
本発明の微小運動ステージは、多自由度パラレルメカニズムによる微小運動制御を可能とした微小運動ステージであって、ベースと、該ベース上に複数並列に配置され中間リンクの一端と回動自在に連結してそれを駆動する駆動源と、上記中間リンクの他端と回動自在に連結されたエンドエフェクタとを備えてなり、上記駆動源による上記中間リンクの駆動は、上記微小運動制御方法に基づき行なうことを特徴とする。
また、上記多自由度パラレルメカニズムは、2自由度、3自由度、または6自由度パラレルメカニズムであることを特徴とする。
また、上記駆動源が直動式または回動式であることを特徴とする。
【0011】
上記微小運動ステージにおいて機構の劣可動特異点となるのは、直動式駆動源の場合は、該駆動源の駆動方向と、中間リンクの方向とのなす角が直角となるとき、回転式駆動源の場合は、機構空間における該駆動源の回転中心と、中間リンクのエンドエフェクタ側連結部とが一致するときであり、該特異点近傍の領域で駆動源を制御することにより、高制御分解能を得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の微小運動制御方法における運動学を図1を参照して説明する。図1は多自由度パラレルメカニズムの一例として並進6自由度パラレルメカニズムの幾何関係(デカルト座標系)を示した図である。ベース4上に配置された入力節である駆動源1と、出力節であるエンドエフェクタ2は中間リンク3を介して連結されている。駆動源1とエンドエフェクタ2の運動の関係は以下のようになる。なお、図中における各表記は以下のとおりである。
i :駆動源番号(6自由度 i=1〜6 )
p :エンドエフェクタ中心を示す位置ベクトル
ai :ベース対偶点から駆動源対偶点までの方向単位ベクトル
bi :ベース中心からベース対偶点までのベクトル
zi :駆動源対偶点からエンドエフェクタ対偶点までの方向単位ベクトル
esi :エンドエフェクタ中心からエンドエフェクタ対偶点までのベクトル(エンドエフェクタ座標系)
ci :駆動源制御量(スカラー量)
li :中間リンク長さ(スカラー量)
θ :ベース面と駆動源とのなす角度
R :回転行列
【0013】
図1においてベース4とエンドエフェクタ2の対偶点を結ぶ関係からその運動学は式(1)で表される。
【数1】
ここで、式(1)左辺をwiとし、両辺を2乗して整理すると、駆動源制御量ciについての2次式である式(2)を得る。
【数2】
2次方程式の解の公式より、駆動源制御量ciは下記式(3)で表わされる。但し、右辺第2項は負側とする。
【数3】
【0014】
次に、微小運動学として駆動源1とエンドエフェクタ2との微小運動の関係を示す。
式(1)の両辺を微分すると下記式(4)を得る。
【数4】
ここで、左辺3項、4項、および右辺2項、3項は機構各部の誤差成分や定数項であり、微小運動学では考慮しないこととする。式(4)の両辺にziで内積をとり整理すると下記式(5)を得る。
【数5】
ここで、δp はエンドエフェクタの微小並進運動を意味し、δΩはエンドエフェクタの微小回転運動を意味する。
上記式(5)はヤコビ行列を用い下記式(6)のように表現でき、この式は駆動源1とエンドエフェクタ2との微小運動の関係を示す。
【数6】
なお、上記6自由度以外の他の自由度の場合の各式は、駆動源番号 i の範囲が異なる以外は同様である。
【0015】
式(6)の右辺が 0 となることを定性的に解釈すると、エンドエフェクタの任意の方向、または軸回りの運動が失われることを示す。この状態が上述したようにシリアル機構にも共通する劣可動特異点であり、ヤコビ行列J2の行列式が 0 となる場合(rankJ2 < i ( i:機構の自由度))である。これは、ヤコビ行列J2が対角行列であることから、数学的に明らかなように対角要素のいずれか1つ以上が 0 となる場合である。具体的には、各対角要素は中間リンクの方向を示す方向単位ベクトルziと、駆動源の駆動方向を示す方向単位ベクトルaiとの内積であるから、これら2つのベクトルのなす角をαとすると、cosα=0 となる場合、すなわち直交(90deg.)するときに 0 となる。また、いずれかの対角要素が 0 となれば十分であるので、自由度 i の機構を構成する i 組の駆動源および中間リンクのうち、一組でも直交するとき上記特異状態となる。
【0016】
次に式(6)より、特異点の近傍領域での機構の運動特性を考える。ヤコビ行列J2の対角要素は、上記のとおり2つのベクトルの内積であり、これは2ベクトルのなす角αが90deg.の特異点で 0 となり、αが90deg.に漸近すると、内積も 0 に漸近する。よって、特異点の近傍領域では、駆動源に大きな運動を与えても、エンドエフェクタでは小さな運動しか得られないことが分かる。本発明の微小運動制御方法は、この特異点近傍における機構挙動に着目したものであり、一組以上の駆動源と中間リンクとのなす角が90deg.近傍となるように、駆動源を駆動させる方法である。なお、ヤコビ行列J2の性質より上記特異点となる条件は自由度 i に依存せず一律のため、任意の自由度を有するパラレルメカニズムに本発明の微小運動制御方法を用いることができる。機構の設計性、安定性などに優れることから、自由度は2、3、または6自由度とすることが好ましい。
【0017】
本発明の微小運動制御方法を用いた微小運動ステージの一実施例を図2を参照して説明する。図2は、平行4節リンクを組合わせた3自由度直動型パラレルメカニズムの微小運動ステージの模式図を示す。
微小運動ステージは、ベースとなる支持台4’と、該支持台4’上で同一間隔を空けて同心円状に配置した駆動源である3つのアクチュエータ1’と、各アクチュエータとエンドエフェクタであるステージ2’とを連結する3つの中間リンク3’とを備えてなる。中間リンク3’は1つのアクチュエータに対して一対が平行に接続され計6本でステージ2’を支持している。また、アクチュエータ1’は、図中の矢印方向に駆動する直動式であり、各関節はボールジョイントを用いることにより球対偶を構成している。また、図に示す構成要素のパラメータは、本発明の微小運動制御方法を利用するため、アクチュエータ1’と、中間リンク3’とのなす角αが90deg.近傍となるよう決定した。なお、Re,Rb,Riは図中に示す各ジョイント中心間の長さである。
【0018】
この微小運動ステージにおける分解能を調べるため、ステージ2’の z 位置 Pz を特異点近傍として0 mm 〜2 mm未満まで変化(x,y=0 一定)させた場合のアクチュエータ1’の駆動量(Control Value) Ci 、入出力比率 Ci/Pz 、中間リンク3’とアクチュエータ1’とのなす角 α を計算シミュレーションにより求めた。結果を図3に示す。なお、計算に用いた構成要素のパラメータは、図2中に示す値を用い、横軸に示すPz 位置が 2 mmのとき、中間リンク3’とアクチュエータ1’のなす角αが90deg.(右縦軸(right mesure)参照)となり特異点となる。
【0019】
本発明において特異点近傍領域とは入出力比率 Ci/Pz が1を超える場合をいう。図3に示すように、この微小運動ステージは、特異点近傍領域(Pz= 0mm〜2 mm未満)において入出力比率 Ci/Pz が1を超えるため、エンドエフェクタであるステージの分解能は、その駆動源であるアクチュエータの分解能より高い分解能を有する。具体的には、図3より Pz= 0〜1.5 mm の範囲では、ステージの分解能は、左縦軸(left mesure)より駆動源の 3 〜 6 倍の分解能を有することが分かる。また、特異点極近傍(Pz= 1.8mm〜2 mm未満)の範囲では、ステージは駆動源の 10 倍を超える分解能を有するため極微細な作業も可能となる。
【0020】
本発明の微小運動制御を可能とした微小運動ステージは、2自由度、3自由度、または6自由度パラレルメカニズムとすることができ、その駆動源は直動式または回動式のアクチュエータなどを用いることができる。また、駆動源の駆動方向がベースと平行な平面型と、そうでない空間型とに分別される。
これらを考慮すると微小運動ステージの形態としては、以下の表1に示す8つが考えられる。
【表1】
【0021】
表1中(a)〜(h)各場合における駆動源、中間リンクおよびステージとの関係を示す簡易機構構成図を平面型では平面図として、空間型では平面図およびその一部(A部)側面矢視図として図5に示す。図5中において、1''が駆動源、2''がステージ、3''が中間リンクであり、矢印は駆動源の駆動方向である。その他、ベース、各関節などの構成要素は図2に示すものと同一である。なお、表1中の空間3自由度直動式(e)は、上記図2に示す微小運動ステージと同一構成である。
【0022】
回転式駆動源の場合における劣可動特異点となる場合を空間3自由度回転式機構である図5(f)を参照して説明する。
該回転式駆動源を用いた機構においても、運動学的には、式(6)で示す微小運動の関係と同様の式が得られるため、劣可動特異点となるのは該駆動源の駆動方向と、中間リンクの方向とのなす角βが直角となるときである。回転式駆動源の駆動方向を示す方向単位ベクトルは、その回転制御角の関数であることから、機構空間における該駆動源の回転中心5と、中間リンクのステージ側連結部6とが一致するときに上記2つのベクトルが直交し特異点となる。
よって、図5(b)、(d)、(f)、(h)で示す回転式駆動源の場合は、駆動源の回転角制御をこの特異点近傍領域で行なうことにより、直動式と同様に高い分解能を実現することができる。
【0023】
【発明の効果】
本発明の微小運動制御方法は、複数の並列に配置された駆動源をそれぞれ独立に駆動させ、該駆動源と中間リンクを介して連結されたエンドエフェクタの運動を制御する多自由度パラレルメカニズムにおける微小運動制御方法であって、上記駆動源の微小運動量に対する上記エンドエフェクタの微小運動量を表わし、上記駆動源の駆動方向を示す方向単位ベクトルと前記リンクの方向を示す方向単位ベクトルとの内積を対角成分に有するヤコビ行列において、該ヤコビ行列の行列式が 0 となる劣可動特異点の近傍領域内で上記駆動源の運動制御を行なうので、高制御分解能を得ることができる。
【0024】
本発明の微小運動ステージは、多自由度パラレルメカニズムによる微小運動制御を可能とした微小運動ステージであって、ベースと、該ベース上に複数並列に配置され中間リンクの一端と回動自在に連結してそれを駆動する駆動源と、上記中間リンクの他端と回動自在に連結されたエンドエフェクタとを備えてなり、上記駆動源による上記中間リンクの駆動は、上記微小運動制御方法に基づき行なうので、駆動源の分解能より高い制御分解能を持つ機構であり、特異点極近傍領域で制御を行うことにより超微細な作業にも対応できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】平進3自由度パラレルメカニズムの幾何関係を示す図である。
【図2】空間3自由度直動型パラレルメカニズムの微小運動ステージの模式図である。
【図3】特異点近傍領域における機構挙動のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】本発明の微小運動制御原理を示す図である。
【図5】本発明の微小運動ステージの構成模式図を示す。
【符号の説明】
1 駆動源
2 エンドエフェクタ
3 中間リンク
4 ベース
Claims (4)
- 複数の並列に配置された駆動源をそれぞれ独立に駆動させ、該駆動源と中間リンクを介して連結されたエンドエフェクタの運動を制御する多自由度パラレルメカニズムにおける微小運動制御方法であって、
前記複数の駆動源の少なくとも一つにおいて、該駆動源の駆動方向を示す方向単位ベクトルと、該駆動源に連結された前記中間リンクの方向を示す方向単位ベクトルとのなす角が、(駆動源の駆動量)/(エンドエフェクタの移動量)で示される入出力比率が 10 を超える範囲である 90 deg. 近傍で該駆動源の運動制御を行なうことを特徴とする微小運動制御方法。 - 多自由度パラレルメカニズムによる微小運動制御を可能とした微小運動ステージであって、
該微小運動ステージは、ベースと、該ベース上に複数並列に配置され中間リンクの一端と回動自在に連結してそれを駆動する駆動源と、前記中間リンクの他端と回動自在に連結されたエンドエフェクタとを備えてなり、
前記駆動源による前記中間リンクの駆動は、請求項1記載の微小運動制御方法に基づき行なうことを特徴とする微小運動ステージ。 - 前記多自由度パラレルメカニズムは、2自由度、3自由度、または6自由度パラレルメカニズムであることを特徴とする請求項2記載の微小運動ステージ。
- 前記駆動源が直動式または回動式であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の微小運動ステージ。
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