JP4052544B2 - 線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法 - Google Patents

線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4052544B2
JP4052544B2 JP2000169971A JP2000169971A JP4052544B2 JP 4052544 B2 JP4052544 B2 JP 4052544B2 JP 2000169971 A JP2000169971 A JP 2000169971A JP 2000169971 A JP2000169971 A JP 2000169971A JP 4052544 B2 JP4052544 B2 JP 4052544B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
poly
dna
network structure
film
network
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2000169971A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2001348438A (ja
Inventor
知二 川合
裕行 田中
誉士 菅野
憲雄 三好
優 福田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Japan Science and Technology Agency
National Institute of Japan Science and Technology Agency
Original Assignee
Japan Science and Technology Agency
National Institute of Japan Science and Technology Agency
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Japan Science and Technology Agency, National Institute of Japan Science and Technology Agency filed Critical Japan Science and Technology Agency
Priority to JP2000169971A priority Critical patent/JP4052544B2/ja
Publication of JP2001348438A publication Critical patent/JP2001348438A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4052544B2 publication Critical patent/JP4052544B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Manufacture Of Macromolecular Shaped Articles (AREA)
  • Biological Depolymerization Polymers (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繰り返し単位を有する線状高分子物質、好ましくはポリヌクレオチド、さらに好ましくはDNA分子束が網目状にネットワーク構造を展開できるように成形されてなるフィルム、その製造方法、およびそれからなる機能性材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAなどのポリヌクレオチドは、遺伝子工学や分子生物学の分野においては広く研究されてきている。これらの分野においてはポリヌクレオチド中の塩基の配列に多大な興味がもたれ、その塩基配列の解明や、特定の塩基配列を有するポリヌクレオチドを用いたタンパク質の製造や、診断薬の開発などが行われてきている。しかし、このようなポリヌクレオチドを生体高分子物質の1種としての研究開発はあまり行われてきていない。
【0003】
DNAなどのポリヌクレオチドからなる生体高分子物質は、生分解性を有する線状高分子物質であり地球環境にやさしい材料であるばかりでなく、各種の生体機能を有している。例えば、DNA鎖を用いて内分泌撹乱物質(環境ホルモン)を補足することができるし(M.Yamada, et al., Nucleic Acids Sympo., Series 42(1999) 103)、抗DNA抗体を検出するための抗原として利用することができるし(K.Iwata, et al., Int. J. Biol. Macromol., 18(1996) 149 ; H.Kitamura, et al., Int. J. Biol. Macromol., 20(1997) 75 ; H.Kitamura, et al., Nucleic Acids Sympo., Series 37(1997) 145)、また抗菌フィルムとして使用することもできる(H.Kitamura, et al., Nucleic Acids Sympo., Series 37(1997) 273)ことが知られている。
【0004】
しかし、DNAは水溶性であり、かつDNA鎖自体では機械的強度、特にせん断力に弱くこれを構造体として使用することは困難であった。DNAを単純な鎖状ではなく、これを網目状に構成することができれば生体機能を有するフィルムやシートとして利用することが可能となる。また、このような網目状とすることにより微細な網目、ナノメートル(nm)単位の網目を有する構造体とすることができ、分子のフィルターとしての機能を有することにもなる。
【0005】
DNAを網目状に形成する方法としてはシーマン(Seeman)らの方法が知られている(C.Seeman, et al., J. Am. Chem. Soc., 1999, 121, 5437-5443)。この方法は、真菌類の遺伝子変換のホリデイモデル(Holliday model)に基づくものであり、縦横2本ずつの合計4本の1本鎖DNAからなる菱形の格子を基本格子として、これに縦−横−縦−横の順、又はその逆の順に相補的なDNAを組み合わせてハイブリダイズさせ、各々の交点が前記ホリデイモデル(Holliday model)の遺伝子のヘテロ二本鎖の交点のように配置したものである。この方法により菱形の格子を基本格子としたネットワーク状のDNA構造体を得ることができるとされているが、この方法では特定の塩基配列でないと網目が形成されないというDNAにおける制限と、形成された網目状物が小さい(最大で2000nm以下)という点で、機能材料としての利用は困難であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、DNAの塩基配列に関係なく、簡単な方法で基板全体にわたりDNA分子束からなる網目状のネットワーク構造を有するフィルムを提供するものである。また、本発明は、DNA溶液への無機イオン添加、網目状物の溶剤処理により、網目を密にしたり、変化したりする制御法を提供するものである。
さらに、本発明は、簡便な方法で得られる生体高分子からなる網目状のネットワーク構造を有する構造物及びその製造方法を提供するものであり、したがって、本発明は各種の生体線状高分子物質の網目状物を種々の機能材料として利用する道を開いたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、DNAなどの線状高分子物質の適度な濃度の水溶液を、基板上へ滴下し、その後、その溶液を吹き飛ばすだけという簡単な方法で、DNAの塩基配列に関係なく、基板全体にわたりDNA分子束などの線状高分子物質からなる網目状物が得られるということを見出した。さらに、本発明者らは、DNA溶液への無機イオン添加、網目状物の溶剤処理により、網目を密にしたり、変化したりする制御法も可能であることも見いだした。
【0008】
本発明は、線状高分子物質が網目状にネットワーク構造を有するように展開され、当該ネットワーク構造のスケールが2000nmを越えていることを特徴とするフィルムに関する。また、本発明は、ポリヌクレオチドが網目状にネットワーク構造を有するように展開されてなるフィルムからなる機能性材料に関する。
さらに、本発明は、線状高分子物質を含有する溶液を基板上にコーティングし、溶媒を吹き飛ばすことからなる、前記のフィルムを製造する方法に関する。また、本発明は、前記フィルムを製造するための線状高分子物質を含有する溶液に関する。
【0009】
シーマンらが提案した従来のDNAネットワークは、特定の塩基配列を有するDNAを特定の部分でハイブリダイズさせて製造されるものであり、ネットワーク構造の大きさに制限があり、大きなものであっても2000nmを越えることはできなかった。したがって、本発明のフィルムは、ネットワーク構造のスケールが2000nmを越えていることを特徴のひとつとするものである。
また、シーマンらが提案した従来のDNAネットワークは、真菌類の遺伝子交換のホリデイモデルを基礎とするものであり、ホリデイモデルによる特定の塩基配列を有することを必須とするものである。他方、本発明は、ホリデイモデルのように2本以上の複数のDNA鎖にハイブリダイズするDNAにより格子構造を形成するということに基づくものではなく、詳細な原理は不明であるが、長鎖の線状高分子物質が溶液中の当該線状高分子物質の密度やイオンの存在などの要因によって基板上に展延されたときに、当該線状高分子物質がネットワーク状に構築されるという現象を見出したことに起因するものである。したがって、本発明のフィルムは、網目状のネットワーク構造を形成する線状高分子物質が特定の塩基配列や化学構造に制限されるものではなく、線状構造を有している高分子物質を用いることを特徴のひとつとするものである。
【0010】
本発明の線状高分子物質としては、線状の高分子で生体機能を有しているものが好ましい。さらに、生分解性の高分子物質であるのが好ましい。
本発明の線状高分子物質は、前記の特性を有するものであればよく、繰り返し単位はあっても無くてもよいが、入手の容易性からは繰り返し単位を有するものが好ましい。本発明の線状高分子物質の具体例としては、DNAやRNAなどのポリヌクレオチドが挙げられる。入手の容易なDNAが好ましい。
DNAは容易に2本鎖とすることができ、かつ複製が容易であり、その塩基配列に基づく生体機能を有しており、さらに生分解性であり、水溶性であることから、本発明の好ましい線状高分子物質である。
【0011】
本発明のDNAは、任意の塩基配列を有することができるが、1〜10塩基、好ましくは1〜5塩基、より好ましくは1、2又は3塩基程度の繰り返し単位を有するDNAが、入手が容易であり好ましい。好ましいDNAとしては、ポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dG)、ポリ(dA)・ポリ(dT)、又はポリ(dG)・ポリ(dC)などが挙げられる。ここで、「・」はその前後のポリヌクレオチドが相互に2本鎖を形成していることを示している。これらのDNAの1種又は2種以上を、本発明の線状高分子物質として用いることができる。
【0012】
これらのDNAは、さらに特定の生体機能を付与するために、その前後、又はその中程に特定の塩基配列を有するDNAを挿入することもできる。このようなDNAを用いた本発明のフィルムは、その特定の塩基配列を有するDNAによる選択的な機能を付与することもできる。例えば、RNAポリメラーゼが特異的に認識することができる塩基配列を、本発明のDNAの中に挿入しておくことにより、RNAポリメラーゼを特異的に認識することができるフィルムを製造することもできる。
【0013】
本発明のフィルムは、フィルム自体として使用することもできるが、本発明のフィルムが薄い、例えば分子の厚さ程度(数十〜数百nm程度)である場合には基板上に固定化されているものが好ましい。このような基板としては、シリコン、ガラス、マイカなどが挙げられる。
固定化する方法としては、溶媒を除去するなどの方法で物理的に固定化してもよく、またDNAチップやマイクロアレイなどの技術に準じて化学的に固定化することもできる。
【0014】
本発明のフィルムは、前記した線状高分子物質がランダムに絡み合ってネットワークを形成して、直径が10〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度の空孔を有する、好ましくは2次元的な網目状のネットワーク構造を展開しているものである。当該空孔の形状は任意であり、円形、三角形、四角形、六角形などのいずれの形態であってもよく、これらの形状が混合したものでものでもよいが、このような空孔が整然とネットワーク構造ほぼ全体に亘って形成されているのが好ましい。
本発明のフィルムのネットワーク構造は、少なくとも2000nmを越えているものであればよく、好ましくは1辺が500nm以上、即ち500×500nm以上、より好ましくは1辺が1000nm以上、即ち1000×1000nm以上、さらに好ましくは1辺が3000nm以上、即ち3000×3000nm以上のものである。また、形成されたネットワーク構造を有する部分を連続的又は非連続的に繋げることにより1辺が1mm以上、1cm以上のフィルムとすることもできる。
【0015】
本発明のフィルムの厚さは、線状高分子物質が1層以上であり、1〜50層、好ましくは1〜10層、さらに好ましくは1〜3層程度にすることも可能である。また、これらの層を適宜重ねて、さらに厚いフィルムとすることもできる。
このように本発明のフィルムは、ネットワーク構造を有する最少部分が2000nmを越えているものであれば、その大きさや厚さに格別の制限はなく、nm単位の大きさから1cm以上の大きさの構造体をも包含するものである。
【0016】
本発明のフィルムは、前記した線状高分子物質を含有する溶液を基板上にコーティングし、溶媒を吹き飛ばすことにより製造することができる。本発明は線状高分子物質からなる網目状のネットワーク構造をこのような簡便な方法によって製造し得ることを見出したことを特徴とするものであり、より詳細には線状高分子物質を含有する溶液の濃度を適宜調整することにより網目状のネットワーク構造をこのような簡便な方法によって製造し得ることを見出したことを特徴とするものである。
前記した線状高分子物質を含有する溶液の溶媒としては、当該線状高分子物質を溶解し得るものであればよく、容易に揮発することができる溶媒が好ましい。また、溶媒は2種以上のものを組み合わせて使用することもでき、この場合には可溶性の溶媒のみならず不溶性の溶媒との組み合わせであってもよい。溶媒としては、例えば線状高分子物質がDNAの場合には、水、好ましくは脱イオン水、含水アルコールなどが挙げられる。環境保全の観点から水が好ましい。
【0017】
前記した線状高分子物質を含有する溶液の濃度としては、当該線状高分子物質からなるネットワーク構造を展開することができる濃度であればよく、例えば、100〜1000μg/ml、好ましくは100〜500μg/ml、より好ましくは100〜300μg/ml程度である。
溶液の濃度によりネットワーク構造の網目の大きさを制御することもできる。網目の大きさを密したければ、濃度の濃い溶液を使用し、網目の大きさを荒くする場合には濃度を比較的薄くするとよい。しかし、濃度があまり薄くなりすぎるとネットワーク構造が構築されない。
また、線状高分子物質が極性を有している場合には、溶液に食塩のようなイオン性の物質を添加することにより網目の大きさを調整することもできる。例えば、線状高分子物質がDNAのような陰イオン性の物質である場合には、ナトリウムイオンを存在させることにより比較的密なネットワーク構造を構築することができる。
また、より揮発性の高い溶媒との混合溶媒により、揮発性の差を利用してネットワーク構造の網目の大きさを調整することも可能と考えられる。
【0018】
得られた線状高分子物質の溶液を基板上にコーティングする方法としては、溶液の液滴を基板上に滴下して重力により薄く広げるだけでもよいし、刷毛のようなもので面状にコーティングしてもよいし、また必要に応じてスピンコーティングのように遠心力を利用して薄くコーティングしてもよい。コーティングの厚さは、得られるフィルムの厚さに応じて適宜調整することもできる。
【0019】
本発明のフィルムの製造における処理温度としては、線状高分子物質が安定な溶液を形成し得る温度範囲であれば特に制限はないが、通常は室温付近が好ましい。また、基板上に溶媒が残存している間に処理温度を変化させることにより、網目の大きさやフィルムの厚さを調整することも可能である。
さらに、得られたネットワーク構造を有するフィルムの表面をさらに溶媒で処理して網目の大きさや、層の厚さを調整することができる。例えば、DNAを滴下した基板に、50℃程度のエタノールを滴下することによりDNAを基板上で自己組織化させることもできる。また基板上に得られたネットワーク構造の表面を室温でエタノール処理することにより2〜3層部分を除去することもできる。
【0020】
本発明の前記フィルムを製造するための線状高分子物質を含有する溶液としては、前記した本発明のフィルムを製造し得る線状高分子物質を含有する溶液であり、溶媒としては前記した水などの線状高分子物質を溶解し得るものであればよい。本発明の当該溶液は、フィルムの網目の大きさを調整するための食塩などのイオン性の物質を含有していてもよいし、フィルムの製造に悪影響を及ぼさない範囲においてさらに他の成分を含有していてもよい。
【0021】
次に、線状高分子物質としてDNAを例にして、本発明をさらに詳細に説明する。
種々のDNAを用いてネットワーク構造の形成を観察した。濃度250μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖(平均1534bp)、ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の2本鎖(平均249bp)、ポリ(dA)・ポリ(dT)の2本鎖(極めて長鎖)、ポリ(dG)・ポリ(dC)の2本鎖(平均8560bp)の4種類の脱イオン水の水溶液を調製した。これらをそれぞれ10μlずつマイカ基板上に滴下し、1分待った後、基板上のDNA溶液を吹き飛ばした。
結果を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))で観察し、その映像を図1〜4にそれぞれ示す。図1〜4は、それぞれポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の場合を図1に、ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の場合を図2に、ポリ(dA)・ポリ(dT)の場合を図3に、ポリ(dG)・ポリ(dC)の場合を図4に示す。それぞれの図の下の段のヒストグラムはフィルムの厚さ(高さ)をヒストグラムとして示したものである。各図のヒストグラムの縦軸は度数、横軸の単位はnmである。
【0022】
図1〜4は、それぞれ2000nmの範囲でスキャンしたときのDNAネットワーク構造とここのネットワークの高さのヒストグラムである。DNAの種類に依らず、鎖状ならすべてのDNAで基板上にネットワークを形成することがわかる。しかしネットワークの構造のディティールは、DNAの種類により違いが見られる。もっとも顕著な違いは、ポリ(dA)・ポリ(dT)(図3参照)は他のものに比べ太いことと、ポリ(dA)・ポリ(dT)(図3参照)とポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)(図1参照)のヒストグラムだけに0.3nmのところにピークがみられることである。この値0.3nmは、AFMで観測される一重鎖一本の高さに相当する。すべてのDNAに関して観測されたDNAの高さは、AFMで観測される二重鎖一本の高さ(0.5〜1.2nm)に比べ高いことから数本が束になっていると考えられる。高さに関してはポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)、ポリ(dG)・ポリ(dC)、ポリ(dA)・ポリ(dT)、ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の順で均一である。
【0023】
ポリ(dA)・ポリ(dT)に関してはヘテロポリマーの三重鎖形成のためだと考えられる。ヘテロポリマーはポリプリン−ポリピリミジン二重鎖の主溝にもう一本のホモプリン鎖またはホモピリミジン鎖が結合することにより三重鎖を形成することが知られている。例えば、2ポリ(dA)・ポリ(dT)、2ポリ(dT)・ポリ(dA)などが考えられる。ヘテロポリマーのポリ(dA)・ポリ(dT)の溶液では、一重鎖、二重鎖、三重鎖が混在し、さらにそれらが束になる場のために、ネットワーク構造の高さの分布は、三重鎖を形成しないホモポリマーのそれより不均一になると考えられる。ただしもう一つのヘテロポリマーであるポリ(dG)・ポリ(dC)に関しては、ポリ(dA)・ポリ(dT)に比べ二重螺旋構造が充分に安定であるため、一重鎖、三重鎖を形成しにくい結果、ポリ(dA)・ポリ(dT)ほど高さが不均一にならないと考えられる。またネットワークの太さに関しては一重鎖が二重鎖に結合して三重鎖を形成するときに二重鎖DNAを架橋してしまうために太くなりやすいと考えられる。ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の高さの不均一さに関してはDNAの長さが短いためDNA−DNAの相互作用が弱く、基板上でDNAに吸着(絡まっていた)していたDNAがはがれて基板に吸着するためだと考えられる。ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)のヒストグラムだけ0.7nmあたりにピークがあり、この値はだいたい二重螺旋一本分に相当する。束になっているものと束が解けて基板に吸着しているものが混在するために高さの分布が不均一になっていると考えられる。以上のことから三重鎖をとりにくく、充分長い鎖状のDNAは高さが均一なネットワーク構造を形成するといえる。
【0024】
DNAは水溶性のため、形成後のDNAネットワークに純水を滴下すると、DNAネットワークは瞬時に完全に消え去る。つまり、水を用いてDNAネットワーク構造の極微な修正を行うことは難しい。一方、エタノールでは、DNAは僅かにしか溶けないので、極微な修正が可能かもしれない。そこですでにネットワークを形成した基板上に室温のエタノールを滴下乾燥させたのちAFM観察を行いDNAネットワーク構造にどのような変化が生じるかを調べた。まずポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)でネットワークを形成した基板上に室温エタノールを10μl、10μl、20μlの三回に分け滴下乾燥した後AFM観察を行った。
図5はAFM像と高さのヒストグラムである。図5からエタノールを加えてもDNAがネットワークを形成したまま基板に残っていることがわかる。このヒストグラムと図1のポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)のそれを比べると形状もシャープで1.9nmあたりにピークがあり、2.5nm以上のものが極端に少なくなっていることがわかる。
【0025】
一方、図6は基板の端のほうのAFM像と高さのヒストグラムである。このヒストグラムには2.9nmあたりに新しいピークが見られる。このことから吸着力の強いDNA(基板に吸着しているDNA)は動かないが吸着力の弱かったDNA(DNAに吸着しているDNA)はエタノールの張力により中央から端のほうに動かされたと考えられる。
次に、さらに、60℃に温めたエタノールを20μl、20μlの二回に分けて滴下し乾燥させ、AFMで観察した。図7は図5と同じスキャンエリアのAFM像であり、図8は図7より広いスキャンエリアのAFM像である。
この結果、室温エタノールでは動かなかった、基板に直に吸着しているDNAも、熱エタノールで動かされることがわかった。この図から60℃エタノールを滴下することによりDNAネットワークのあちこちに大きな溝ができることがわかる。このことから60℃エタノールだと吸着力の強いDNAまで動くことがわかる。
以上のことをまとめると、吸着力の弱いDNA(DNAに吸着しているDNA)は室温エタノールでも動かされ、吸着力の強いDNA(基板に吸着しているDNA)は60℃エタノールにより動かされることがいえる。室温エタノールにより高さの制御ができ、60℃エタノールによりネットワーク構造の網目の大きさの制御ができるといえる。
【0026】
次に、DNAの濃度による影響を、ポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)のDNAを用いて検討した。
前記と同様にして、25μg/ml、125μg/ml、250μg/mlの3種類の濃度のDNA水溶液を用いて、基板上のネットワーク構造を形成させた結果をAFMで観察した。結果を図9(濃度25μg/mlの場合)、図10(濃度125μg/mlの場合)、図11(濃度250μg/mlの場合)に示す。なお、図9の視野は2000nm×2000nmであり、図10及び図11の視野は5000nm×5000nmである。
この結果、25μg/mlの濃度のものは、DNA分子のクラスターが分散して、ネットワーク構造が構築されておらず、これに対して濃度が125μg/ml、及び250μg/mlのものは整然としたほぼ均一なネットワークが構築されていることが分かる。また、濃度が濃いほうが(図11参照)密なネットワークが形成されることもわかる。
【0027】
図12は、濃度100μg/mlのポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)のDNAを用いた場合のAFM像である。視野は5000nm×5000nmである。この場合もきれいなネットワーク構造が形成されていることがわかる。
【0028】
このように線状高分子物質であるDNAを濃度100μg/ml〜500μg/ml程度に調整することにより簡便な方法により、基板上に広範囲かつ均一な線状高分子物質による網目状のネットワーク構造からなるフィルムを形成することが初めて見出されたのである。本発明によるフィルムは、線状生体高分子物質、好ましくはDNAなどのポリヌクレオチドが分子デバイスとして利用し得ることを示すものであり、本発明のフィルムを利用して線状高分子物質の有する生体機能に基づく各種の機能性材料とすることができる。このような機能性材料としては、DNAやRNAなどのポリヌクレオチドからなるフィルムが好ましい。
このような機能性材料としては、例えば、DNAの特性による抗DNA抗体を検出するための抗原材料、網目を利用したDNAフィルター、DNAチップ、DNA親和性生体内物質の補足材料、内分泌撹乱物質の補足材料、DNA回路などの機能性材料として広範囲に利用することができる。
【0029】
また、DNAの水溶性や生体適合性を利用した各種の医療材料、例えば、手術用縫合糸、ガーゼ、オブラート、ステント、手術用手袋などにも応用することができる。さらに、本発明のポリヌクレオチドからなるフィルムや機能性材料は、生分解性であるために地球環境にもやさしいものであり、使用後の処分も簡便である。
【0030】
【実施例】
次に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1 ポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)を用いたフィルムの製造
平均長が1534bpのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)(アマーシャム・ファーマシア・バイオテック(東京))を、電気抵抗が17.4MΩの脱イオン水に、濃度が250μg/mlとなるように溶解した。
この溶液の10μlを、新たに剥離したきれいなマイカ(ニラコ株式会社(日本))上に滴下し、直径が約12mm程度になるように広げた。これを約1分間基板上で放置した後、空気により吹き飛ばした。
基板上に得られたポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)のフィルムの構造をAFMイメージング装置(セイコー株式会社、モデルSPI3700−SPA300)を用いて観察した。結果を図1に示す。
【0032】
実施例2〜4
実施例1と同様にして、濃度250μg/mlのポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の2本鎖(平均249bp)、ポリ(dA)・ポリ(dT)の2本鎖(極めて長鎖)、ポリ(dG)・ポリ(dC)の2本鎖(平均8560bp)DNAのネットワーク構造からなるフィルムを製造した。
【0033】
【発明の効果】
本発明は、簡便な方法により線状高分子物質が網目状にネットワーク構造を有するように展開されたフィルムを提供するものである。DNAなどの生体線状高分子物質が濃度を100μg/ml〜500μg/ml程度に調整することにより簡便な方法により、基板上に広範囲かつ均一な線状高分子物質による網目状のネットワーク構造からなるフィルムを形成することは本発明により初めて見出されたのである。本発明によるフィルムは、線状生体高分子物質、好ましくはDNAなどのポリヌクレオチドが分子デバイスとして利用し得ることを示すものであり、本発明のフィルムを利用して線状高分子物質の有する生体機能に基づく各種の機能性材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、濃度250μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖(平均1534bp)DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図1の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図2】図2は、濃度250μg/mlのポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の2本鎖(平均249bp)DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図1の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図3】図3は、濃度250μg/mlのポリ(dA)・ポリ(dT)の2本鎖(極めて長鎖)DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図1の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図4】図4は、濃度250μg/mlのポリ(dG)・ポリ(dC)の2本鎖(平均8560bp)DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図1の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図5】図5は、濃度250μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造の表面を室温エタノールで処理した後の網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図5の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図6】図6は、濃度250μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造の表面を室温エタノールで処理した後の、基板の末端部分における網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図6の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図7】図7は、図5と同じ部分をさらに60℃エタノールで処理した後の網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。図7の下段は、当該ネットワーク構造の厚さのヒストグラムを示し、横軸の単位はnmである。
【図8】図8は、図5と同じ部分をさらに60℃エタノールで処理した後の網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。
【図9】図9は、濃度25μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖DNAを用いて形成された網目状のDNA分子のクラスタ構造を示す図面に代わる写真である。
【図10】図10は、濃度125μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。
【図11】図11は、濃度250μg/mlのポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)の2本鎖DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。
【図12】図12は、濃度100μg/mlのポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)の2本鎖DNAを用いて形成された網目状のネットワーク構造を示す図面に代わる写真である。

Claims (3)

  1. ポリ(dA−dT)・ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)・ポリ(dG−dC)、ポリ(dA)・ポリ(dT)及びポリ(dG)・ポリ(dC)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の2本鎖状DNAである鎖状ポリヌクレオチドを100μg/mL〜1000μg/mLとなるように溶媒に溶解した溶液を基板上にコーティングする工程、および該基板上の溶液に気流を吹き付ける工程を含む、鎖状ポリヌクレオチドがランダムに絡み合って形成されるDNA分子束からなる網目状のネットワーク構造を有するフィルムの製造方法。
  2. 溶液がさらにナトリウムイオンを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 溶液に気流を吹き付ける工程の後に、エタノールを滴下する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
JP2000169971A 2000-06-07 2000-06-07 線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法 Expired - Fee Related JP4052544B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2000169971A JP4052544B2 (ja) 2000-06-07 2000-06-07 線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2000169971A JP4052544B2 (ja) 2000-06-07 2000-06-07 線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2001348438A JP2001348438A (ja) 2001-12-18
JP4052544B2 true JP4052544B2 (ja) 2008-02-27

Family

ID=18672750

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2000169971A Expired - Fee Related JP4052544B2 (ja) 2000-06-07 2000-06-07 線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4052544B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5200069B2 (ja) * 2010-07-27 2013-05-15 トヨタ自動車株式会社 三次元dnaネットワーク

Also Published As

Publication number Publication date
JP2001348438A (ja) 2001-12-18

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US6689478B2 (en) Polyanion/polycation multilayer film for DNA immobilization
Devereaux et al. Surface Features in Langmuir− Blodgett Monolayers of Predominantly Hydrophobic Poly (styrene)− Poly (ethylene oxide) Diblock Copolymer
CN106432761B (zh) 高分子超薄膜和多孔高分子超薄膜
Guarino et al. Electrospun polycaprolactone nanofibres decorated by drug loaded chitosan nano-reservoirs for antibacterial treatments
WO2005110624A2 (en) Methods for modifying carbon nanotube structures to enhance coating optical and electronic properties of transparent conductive coatings
US10493037B2 (en) Multiphasic particles fabricated by wettability engendered templated self-assembly (WETS) methods
Cutright et al. Surface‐bound microgels for separation, sensing, and biomedical applications
US20190389720A1 (en) Interfacial Convective Assembly for High Aspect Ratio Structures Without Surface Treatment
US9211519B2 (en) Methods to prepare patchy microparticles
TW201600455A (zh) 可縮放核酸奈米製造技術
CN101080316A (zh) 包含由氢键结合的多层膜的层叠体、由该层叠体获得的自支持薄膜、及它们的制法和用途
Alotaibi et al. Role of processing parameters on surface and wetting properties controlling the behaviour of layer-by-layer coated nanoparticles
JP4052544B2 (ja) 線状高分子物質のネットワーク構造からなるフィルム、及びその製造方法
AU2010273486A1 (en) Methods for forming hydrogels on surfaces and articles formed thereby
US10799618B2 (en) Methods of transferring carbon nanotubes on a hydrogel
CN107417945B (zh) 一种微纳有序阵列结构及其制备方法
Zhang et al. Fabrication and thermal analysis of layer-by-layer micro-and nanotubes
CN105218852A (zh) 一种自组装ps-cooh微球功能复合膜的制备方法
Geerts et al. Flying colloidal carpets
KR100588555B1 (ko) 온도-감응성 폴리머로 개질된 실리카 약물전달체
US20180148708A1 (en) Composites material with suspended particles and method of using the same
JP2005046665A (ja) 高分子固定化基板の製造方法およびこの方法により得られる高分子固定化基板
JP2019089824A (ja) 治療薬の持続放出のための多層の生体分解可能なマイクロ粒子
Mentovich et al. DNA-nanoparticle assemblies go organic: macroscopic polymeric materials with nanosized features
CN111132995A (zh) 表面活性大分子的结构化

Legal Events

Date Code Title Description
A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20041118

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20041207

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20050203

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20050204

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20050419

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20050530

A911 Transfer of reconsideration by examiner before appeal (zenchi)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A911

Effective date: 20050629

A912 Removal of reconsideration by examiner before appeal (zenchi)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A912

Effective date: 20050722

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20070808

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20071026

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20071130

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20101214

Year of fee payment: 3

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees