以下、添付図面を参照して、本発明の望ましい実施の形態を詳細に説明する。
今、光パルスが分散媒質中を伝搬する場合を考える。チャープしていないパルスが分散媒質を透過する際、正常分散媒質(∂2 β/∂ω2 >0)の場合には、パルスの立ち上がりにおいて低周波側にシフトし、立ち下がりにおいて高周波側にシフトする。異常分散媒質(∂2 β/∂ω2 <0)の場合には、パルスの立ち上がりにおいて高周波側にシフトし、立ち下がりにおいて低周波側にシフトする。ここで、βは伝搬定数、ωは光の角周波数を表す。そして、正常分散媒質においては波長が長いほど群速度が速く、異常分散媒質においては波長が短いほど群速度が速いため、いずれの場合にもパルス幅が広がることになる。
一方、光の強度が大きい場合には、光カー効果によって屈折率が
Δn(t)=n2 |E(t)|2
だけ変化する。ここに、n2 は非線形屈折率と呼ばれる量であり、通常のシリカファイバの場合にはその値は例えば約3.2×10-20 m2 /Wである。光パルスが非線形媒質中で光カー効果を受けると、
Δω(t)=−∂Δφ(t)/∂t
=−(2πn2 /λ)(∂|E(t)|2 /∂t)Δz
だけスペクトルが拡散(チャープ)する。ここにΔzは相互作用長である。
この現象は、一般に自己位相変調(Self-phase modulation:SPM)と称される。このSPMにより光パルスの立ち上がりにおいては低周波側にシフトし、立ち下がりにおいては高周波側にシフトする。このSPMによるチャーピングのために分散の影響がより顕著になり、その結果、パルスの歪みがより著しくなる。そのため、光パルスが分散媒質中で光カー効果を受けると、正常分散媒質の場合には、パルスが分散だけの場合よりも更に拡散するが、異常分散媒質の場合にはパルス圧縮が起きる。
従って、上記の波長分散の効果を考え合わせると、正常分散媒質の場合には大きなパルス拡散が発生し、異常分散媒質の場合には波長分散によるパルス拡散とSPMによるパルス圧縮のうち大きい方の効果が表れる。これら2つの効果をバランスさせたものが光ソリトンである。
一般に異常分散媒質においてSPMのよるパルス圧縮を加えた方が高い信号対雑音比(S/N)を保持できて都合がよいように考えがちであるが、最近光アンプを用いて高いレベルの光パワーで伝送できるようになったことと、分散シフトファイバの開発により比較的小さな波長分散値が実現できるようになったことにより、一概にパルス圧縮を加えた方がよいとも言えなくなってきた。
つまり、パルス圧縮効果が大きくなり過ぎて大きな波形歪みが発生するのである。特に、NRZパルスの場合には、パルスの立ち上がり、立ち下がり部分において集中的にパルス圧縮が起こるため、急激な波形変化や、極端な場合には、立ち下がり部分が立ち上がり部分を追い抜き、パルスが3つに***するようなことも起こる。また、長距離光増幅多中継伝送の場合には、信号光を励起光として光アンプの自然放出光との間で四光波混合が生じ、S/Nが著しく低下するという問題もある(変調不安定性;modulation instability)。
上述したような波長分散及び非線形性に起因する光パルスの歪みは、位相共役光学の適用によって補償することができる。例えば、第1の光ファイバ伝送路によって伝送された信号光ビームが位相共役光発生器によって位相共役光ビームに変換され、位相共役光ビームは第2の光ファイバ伝送路によって伝送される。第1及び第2の光ファイバにおける波長分散及び非線形性に関連するパラメータを適切に設定しておくことによって、第2の光ファイバの出力端で実質的に歪みのない光パルスを得ることができる。
しかし、位相共役光発生器における信号光ビームから位相共役光ビームへの変換効率は信号光ビームの偏波状態に依存するのが一般的であるから、変換効率に偏波依存性のない位相共役光発生器が求められているのである。
変換効率に偏波依存性のない位相共役光発生器を構成するには、偏波スクランブル法、偏波ダイバーシティ法又は偏波能動制御法を適用することができる。更には、偏波維持ファイバ(Polarization Maintaining Fiber:PMF)からなる光ファイバ伝送路を用いることによっても、位相共役光発生器における変換効率の偏波依存性を排除することができる。本発明では、変換効率の偏波依存性を排除するために、偏波ダイバシティ法が採用される。
図1は本発明による装置の第1実施形態を示す図である。同図において、符号2は入力ポート、4はポンプ光源、6は光カプラ、8は光サーキュレータ、10は偏波ビームスプリッタ、12は偏波維持ファイバ(PMF),14は光バンドパスフィルタ、16は出力ポートを示している。この装置の構成及び動作の詳細は後述する。
図2は本発明による装置の動作原理の説明図である。まず、偏波分離のプロセスにおいては、信号光ES が2つの偏波成分ES (#1)及びES (#2)に分離される。偏波成分ES (#1)及びES (#2)は互いに直交する偏波面を有している。次いで、変換のプロセスにおいては、偏波成分ES (#1)及びES(#2)がそれぞれ対応する位相共役光EC (#1)及びEC (#2)に変換される。位相共役光EC (#1)及びEC (#2)の偏波面はそれぞれ偏波成分ES (#1)及びES (#2)の偏波面に一致している。そして、偏波合成のプロセスにおいて、位相共役光EC (#1)及びEC (#2)が偏波合成されて、位相共役光(変換信号光)EC (#1)及びEC (#2)が得られる。
図1に示される装置においては、偏波分離及び偏波合成の各プロセスは偏波ビームスプリッタ10において実行され、変換のプロセスは非線形光学媒質としてのPMF12において実行される。
図3はPMF12の偏波モードの説明図である。PMF12は、比較的高屈折率なコア18と、コア18を覆う比較的低屈折率なクラッド20と、クラッド20内のコア18の両側に設けられる一対の応力付与部22とから構成されている。PMF12の断面において、コア18及び応力付与部22のそれぞれの中心を通る軸をX軸とし、コア18の中心を通りX軸に垂直な軸をY軸とする。X軸及びY軸の各々は主軸と称される。X軸に平行な偏波面を有する偏波成分の伝搬定数はY軸に平行な偏波面を有する偏波成分の伝搬定数と大きく異なるので、各偏波成分はその偏波状態を維持したままPMF12内を伝搬することができる。
発明者の測定によると、X軸に平行な偏波面を有する偏波成分に対する零分散波長は、Y軸に平行な偏波面を有する偏波成分に対する零分散波長と異なることが明らかになった。
従って、PMF12の2つの主軸(X軸及びY軸)の両方を用いて1チャンネル分の偏波ダイバーシティを行なう場合には、零分散波長の違いにより、変換帯域を広くすることができない。
本発明では、2つの主軸のいずれ一方だけを偏波モードとして用いて偏波ダイバーシティを行なっているので、変換帯域の拡大が可能になる。具体的には以下の通りである。
図1において、入力ポート2には、変換されるべき信号光ES (波長λS )が供給される。ポンプ光源4はポンプ光EP (波長λP )を出力する。ポンプ光源4は例えばレーザダイオードにより提供され得る。この場合、ポンプ光EP は実質的に直線偏波であり、その偏波面は後述のように設定される。信号光ES の偏波状態は任意である。
信号光及びポンプ光は光カプラ6により合波されあるいは加え合わされて光サーキュレータ8のポート8Aに供給される。光サーキュレータ8は、ポート8Aに供給された光をポート8Bから出力し、ポート8Bに供給された光をポート8Cから出力し、ポート8Cに供給された光をポート8Aから出力するように機能する。尚、3つ目の機能はこの実施形態では用いられていない。
偏波ビームスプリッタ10はポート10A,10B及び10Cを有している。ポート10Aは光サーキュレータ8のポート8Bに光学的に接続される。ポート10A及び10Bは、紙面に垂直な第1の偏波面を有するTM成分(第1の偏波成分)によって結合されており、ポート10A及び10Cは、紙面に平行な第2の偏波面を有するTE成分(第2の偏波成分)によって結合されている。
PMF12の両端はそれぞれ偏波ビームスプリッタ10のポート10B及び10Cに光学的に接続されている。説明の便宜上、PMF12によって維持されるべき偏波モードは図3に示されるY軸によって与えられているものとする。ポート10Bにおいては、紙面に垂直な第1の偏波面がPMF12の偏波モードに適合し、ポート10Cにおいては、紙面に水平な第2の偏波面が偏波モードに適合している。つまり、ポート10BではPMF12のY軸は紙面に垂直であり、ポート10CではY軸は紙面に平行である。PMF12はポート10B及び10C間で空間的には90°捩じれているのである。
光サーキュレータ8のポート8Aに供給された信号光及びポンプ光は、ポート8Bから出力される。この出力された光は偏波ビームスプリッタ10によってTM成分及びTE成分に分けられる。TM成分はポート10Bからポート10Cに向かってPMF12内を伝搬し、TE成分はこれとは逆にポート10Cからポート10Bに向かってPMF12内を伝搬する。TM成分はポート10Bから出力された時点では紙面に垂直な偏波面を有しているが、その偏波面はPFM12を通過した後には90°回転させられて紙面に平行になっているので、時計周りに伝搬してきたTM成分はポート10Cからポート10Aに通過する。一方、TE成分は、ポート10Cから出力された時点では紙面に水平な偏波面を有しているが、その偏波面はPMF12内において90°回転させられて、ポート10Bでは紙面に垂直となる。従って、PMF12内を反時計回りに伝搬してきたTE成分はポート10Bからポート10Aに通過する。
このようにして偏波合成された光は、偏波ビームスプリッタ10のポート10Aから光サーキュレータ8のポート8Bに供給され、ポート8Cから出力される。出力された光は光バンドパスフィルタ14を通って出力ポート16から出力される。
偏波合成の結果偏波ビームスプリッタ10のポート10Aから出力される光には、信号光及びポンプ光が含まれる他、PMF12内において新たに発生した位相共役光(変換信号光)EC (波長λC )が含まれている。つまり、信号光の一部は、PMF12における信号光及びポンプ光に基づく四光波混合により位相共役光に変換されるのである。波長λS 、λP 及びλC は前述した関係を満足しているので、互いに異なり、従って、光バンドパスフィルタ14により位相共役光を抽出するものである。つまり、光バンドパスフィルタ14は、波長λC を含み且つλS 及びλP を含まない通過帯域を有している。
このように、PMF12の一方の主軸(Y軸)に対応する偏波モードを用いているので、PMF12のY軸に関する零分散波長にポンプ光の波長を正確に一致させることができ、変換帯域が拡大される。従来精々40nm程度であった変換帯域を本発明により約100nmに拡大することができる。
ポンプ光源4としてレーザダイオードが用いられている場合、ポンプ光は実質的に直線偏波で与えられる。この場合、ポンプ光の偏波面は、信号光から位相共役光への変換における変換効率が信号光の偏波状態に依存しないように設定される。具体的には、TM成分及びTE成分へのポンプ光の分配比が等しくなるように、ポンプ光の偏波面は偏波ビームスプリッタ10のポート10Aにおいて紙面に45°傾斜するように設定されるであろう。
このように本発明による装置では偏波ダイバーシティが適用されているので、偏波依存性のない変換器の提供が可能になる。
図4は本発明による装置の第2実施形態を示す図である。ここでは、ポンプ光源4から出力されたポンプ光の位相又は周波数を変調又は攪乱(dithering )するために、変調回路24がポンプ光源4に接続されている。PMF12における四光波混合の発生効率を高めるためには、ポンプ光のパワーを高めることが有効であるが、ポンプ光のパワーを高め過ぎると誘導ブリユアン散乱(SBS)によりポンプ光がPMF12内で反射されてしまう。本実施形態では、ポンプ光の位相又は周波数を変調又は攪乱しているので、SBSの発生が抑圧され、変換効率の高い変換器の提供が可能になる。変調周波数は数100KHz(例えば150KHz)でよい。この実施形態では、例えばLDにより提供されるポンプ光源4に直接変調を適用しているが、外部変調器を用いた間接変調を適用してもよい。
図5は本発明によるシステムの第1実施形態を示す図である。ここでは、光ファイバ伝送路の波長分散及び非線形光カー効果による波形歪みが補償される。そのために、光ファイバ伝送路の概ね中間点に、図1又は図4に示される装置が変換器(あるいは位相共役光発生器:Phase Conjugator)PCとして用いられている。
送信機(TX)からの出力信号光ES を第1の光ファイバF1(長さL1 、分散D1 、非線形係数γ1 )で光伝送した後、位相共役光発生器(PC)に入力する。PCで位相共役光EC に変換し、第2の光ファイバF2(長さL2 、分散D2 、非線形係数γ2 )で受信機(RX)まで光伝送する。受信機では、この位相共役光を受光器で受けて信号検出する。尚、送信信号の変調方式には光振幅(強度)、周波数、位相等あらゆる方式が適用可能であり、信号検出には位相共役光を帯域フィルタで抽出した後の光直接検波や光ヘテロダイン検波等が考えられる。
また、ここで用いる光ファイバは多くの場合単一モードの石英ファイバ(SMF)であり、光通信において一般的に用いられている1.3μm零分散光ファイバや1.55μm分散シフトファイバ(DSF)等がその代表例である。
さらに、信号光は波長の異なる複数の光信号を波長分割多重して得られた波長分割多重(WDM)信号光でもよい。この場合、複数の光信号の波長を波長軸上で不等間隔に配列しておくことによって、光ファイバ伝送路における不所望なFWMの発生を抑制してクロストークを防止することができる(後述の図10の説明においても同様)。
光ファイバ内の波長分散と自己位相変調(Self Phase Modulation)による波形歪を図5に示したシステムで補償するためには、PCを挟んで対応する部分の分散と非線形効果の大きさを同じにすればよい。ここで、対応する部分とは、PCから測った分散又は光カー効果の累積値が等しくなる2つの部分をいう。つまり、伝送路を分割したときに、PCに近い側から順にPCに関して上記の意味で対象な位置にある各分割区間において分散と非線形効果の大きさを同じにすればよい。このことはまた、各分割区間内の分散値を同じにするとともに、各区間内で、
D1 /γ1 P1 =D2 /γ2 P2 … (1a)
が成り立つようにすればよいことを示している。ここにP1 ,P2 は各部分における光パワーであり、
γj =ωn2j/cAeffj … (2a)
は光ファイバ内の光カー効果の非線形係数を表す。ここに、ωは光角周波数、cは真空中の光速を表し、n2jとAeffjは光ファイバFj(j=1,2)の非線形屈折率と有効コア断面積をそれぞれ表す。
伝送路に沿って非線形効果の損失による減少を補償するためには、分散を小さくしていくか光カー効果を大きくすればよい。分散の値を変化させることは、光ファイバの設計により可能であり有望である。例えば、分散シフトファイバ(Dispersion Shifted Fiber)の零分散波長を変化させることや、光ファイバのコアとクラッドの比屈折率差やコア径を変えることにより現在盛んに行われている。一方、光カー効果を変化させることは、非線形屈折率を変化させたり光強度を変化させることにより可能となる。
分散補償ファイバ(Dispersion Compensation Fiber) の分散値を、長手方向に光カー効果の変化に比例するように逓減する構造の分散逓減DCF(DD−DCF)と正常分散のDSFによる伝送路によりシステムを構成することにより、高速・長距離伝送が可能となる。
光アンプを用いた長距離伝送においては、正常分散ファイバを用いるのが光アンプの雑音光による非線形歪(変調不安定性;modulation instability)を低減する上でよいことがわかっており、この構成は有望である。
上記の厳密な補償法の他に、光カー効果の変化がさほど大きくない場合(光アンプの中継間隔が非線形長に比べて十分短い場合など)には、以下のような平均パワーによる近似が成り立つ。
D1 ′L1 =D2 ′L2 … (3a)
γ1 P1 ′L1 =γ2 P2 ′L2 … (4a)
ここに、P1 ′,P2 ′は、それぞれ光ファイバFj(j=1,2)内の平均パワーであり、また、D1 ′,D2 ′はそれぞれ光ファイバFjの平均分散である。
さらに、理想的な波形補償条件式(1a)は満たさないが、伝送路に逆符号の分散を配置することによる分散補償器を適宜配置することも可能である。
この方法は、特に海底伝送のような長距離伝送において有効である。その理由は以下の通りである。
即ち、PCを用いた補償においては、その前後の光ファイバ内の波形歪を同じにする必要がある。このため、最も波形が歪んでいるのは、PCの前後においてである。従って、PCの位置においては、最も光パルスのスペクトルの拡がった状態になっている。一方、PC及び伝送路の光アンプからは雑音が付加されるが、この雑音によるS/N劣化はスペクトルが広いほど大きい。従って、PCの前後でのスペクトル拡がりが少ないようにシステムを設計することは、伝送距離を延ばす上で非常に有効である。
この意味において、伝送路途中の分散補償により伝送路の総分散値を小さくすることは有効である。
通常のDSF(分散シフトファイバ)の非線形係数γは2.6W-1km-1程度と小さいので、位相共役光を発生させるための非線形光学媒質として通常のDSFを用いる場合に十分な変換効率を得るためには、ファイバ長を10km以上にすることが要求される。従って、ファイバ長を短くするのに十分大きな非線形係数γを有するDSFの提供が要望されているのである。位相共役光を発生させるための非線形光学媒質として使用されるDSFの長さを短くすることができるとすれば、その零分散波長を高精度に管理することができ、従ってポンプ光の波長をDSFの零分散波長に正確に一致させるのが容易になり、その結果広い変換帯域を得ることができる。ここで、変換帯域は、あるパワーの位相共役光が得られる条件下におけるポンプ光及び信号光の最大の離調波長(離調周波数)として定義される。
非線形係数γを大きくするためには、非線形屈折率n2 を大きくし或いは有効コア断面積Aeff に対応するモードフィールド径(MFD)を小さくすることが有効である。非線形屈折率n2 を大きくするためには、例えば、クラッドにフッ素等をドープし或いはコアに高濃度のGeO2 をドープすればよい。コアにGeO2 を25乃至30mol%ドープすることによって、非線形屈折率n2 として5×10-20 m2 /W以上の大きな値が得られている(通常のシリカファイバでは約3.2×10-20 m2 /W)。MFDを小さくすることは、比屈折率差Δ又はコアの形状の設計により可能である。このようなDSFの設計はDCF(分散補償ファイバ)の場合と同様である。例えば、コアにGeO2 を25乃至30mol%ドープし、且つ、比屈折率差Δを2.5乃至3.0%に設定することによって、4μmよりも小さなMFDの値が得られている。これらの総合効果として、15W-1km-1以上の大きな非線形係数γの値が得られている。
他に重要な要素として、このような大きな値の非線形係数γを提供するDSFがポンプ帯域に含まれる零分散波長を有するべきであることが挙げられる。零分散波長とポンプ帯域とのこのような一致性は、ファイバパラメータ(例えば比屈折率差Δ及びMFD)を次のようにして設定することにより可能である。通常の光ファイバにおいては、MFDを一定にした条件で比屈折率差Δを大きくすると、分散値は正常分散領域で大きくなる。位相共役器による前置補償或いは後置補償に用いられる前述のようなDD−DCFはこのような原理により実現するものである。一方、コア径を大きくすると分散は減少し、コア径を小さくすると分散は大きくなる。従って、MFDをポンプ帯域に適合するある値に設定した後に、零分散波長がポンプ光の予め定められた値に一致するようにコア径を調節することによって、ポンプ光に対する零分散が得られる。
長さL、損失αの光ファイバにおける変換効率ηC は、
ηC =exp (−αL)(γPP L)2 … (5a)
で近似することができる。ここで、PP は平均ポンプ光パワーである。従って、非線形係数γが15W-1km-1のファイバは通常のDSFに比べて2.6/15≒1/5.7程度の長さで同じ変換効率を達成可能である。通常のDSFにあっては、十分大きな変換効率を得るためには前述のように10km程度の長さが必要であるのに対して、このように大きな非線形係数γを有するファイバにあっては、1乃至2km程度の長さで同様の変換効率を得ることができる。実際には、ファイバ長が短くなる分損失も小さくなるので、同じ変換効率を得るために更にファイバ長を短くすることができる。このような短い長さのDSFにおいては、零分散波長の制御性が良くなり、従って、ポンプ光の波長を零分散波長に正確に一致させることができ、広い変換帯域を得ることができる。更に、数kmのファイバ長であれば、偏波面保存能力が確保されているので、このようなDSFの使用は、高い変換効率及び広い変換帯域を達成し偏波依存性を排除する上で極めて有効である。
光ファイバを用いて四光波混合を有効に発生させるためには、信号光、ポンプ光及び位相共役光の位相を整合させることが重要である。位相不整合量Δkは次のように近似される。
Δk=δω2 β2 (ωP )+2γPP … (6a)
ここに、β2 (ωP )はポンプ光周波数ωP における波長分散であり、δωは信号光及びポンプ光の周波数差である。特別大きなパワー(例えば100mW以上)のポンプ光を用いない限り、(6a)式の第2項は第1項に比べて十分小さいのでこれを無視することができる。従って、位相整合(Δkを限りなく0に近付けること)は、ポンプ光の波長をファイバの零分散波長に一致させることにより得られる。しかし、実際のファイバにおいては、零分散波長が長手方向にばらついているので、位相整合条件をファイバ全長に渡って保つことが容易ではない。
このように、位相共役光を発生するための非線形光学媒質として光ファイバを有している装置においては、変換帯域は光ファイバの分散により制限される。従って、光ファイバの長手方向の分散が完全に制御され、例えば全長(正確には非線形長)に渡り唯一の零分散波長を有する光ファイバが作られたとすれば、ポンプ光波長をその零分散波長に合わせることにより、事実上無限大の(分散傾斜が直線上である範囲内で制限のない程広い)変換帯域が得られる。しかし、実際には、光ファイバの製造技術上の問題により零分散波長が長手方向にばらつくため、位相整合条件が理想状態からずれ、これにより変換帯域が制限される。
しかし、このような場合であっても、光ファイバを切断して複数の小区間に分割し、零分散波長の似ている区間同士をスプライス等により繋ぎ合わせていく(当初のファイバ端から数えた順番とは違う順番で)ことにより、全長における平均分散は同じであるにも関わらず、広い変換帯域を有する位相共役器を提供するのに適した光ファイバを得ることができる。
或いはまた、十分広い変換帯域を得るのに必要な程度に高精度な分散制御が可能な長さ(例えば数100m以下)のファイバを予め多数用意しておき、所要の零分散波長のものを組み合わせてスプライスして所要の変換効率を得るのに必要な長さのファイバを得、これを用いて位相共役器を提供することによって、広い変換帯域を得ることができる。
このようにして変換帯域を拡大する場合には、非線形光学媒質のポンプ光入力端の近くでポンプ光のパワーが高いので、ポンプ光入力端の近くに零分散波長の小さい部分或いは零分散波長のばらつきが小さい部分を集めることが有効である。また、必要に応じて順次分割数を増やしたり、ポンプ光入力端から離れた位置で比較的分散値の大きなところでは、分散値の正負を交互に配置する等により適切に組み合わせることによって、更に変換帯域を拡大することができる。
光ファイバを分割するに際して各区間をどの程度短くすれば十分か否かの目安としては、例えば、非線形長を基準にすればよい。非線形効果の補償におけるのと同様、非線形長に比べて十分短いファイバ内でのFWM(四光波混合)においては、位相整合はそのファイバの平均分散値に依存すると考えることができる。一例として、非線形係数γが2.6W-1m-1のファイバで30mW程度のポンプ光パワーを用いたFWMにおいては、非線形長は12.8km程度になるから、その1/10程度、即ち1km程度が1つの目安となる。他の例としては、非線形係数γが15W-1km-1のファイバで30mW程度のポンプ光パワーを用いたFWMにおいては、非線形長は2.2km程度になるから、その1/10程度、即ち200mが1つの目安となろう。何れにしても、非線形長に比べて十分短いファイバの平均零分散波長を測定し、ほぼ同じ値のものを組み合わせて所要の変換効率を有する非線形光学媒質を提供すれば、広い変換帯域の位相共役器を得ることができる。
このように、本発明によると、位相共役光を発生するための非線形光学媒質を有する装置を製造するための第1の方法が提供される。この方法では、まず、光ファイバが切断されて複数の区間に分割され、次いで、非線形光学媒質を用いた非縮退四光波混合における変換帯域が最大になるように複数の区間が並べ替えられて繋ぎ合わされることにより非線形光学媒質が提供される。この非線形光学媒質にポンプ光及び信号光を供給することによって、位相共役光が発生する。信号光から位相共役光への変換帯域は十分に広くなっているので、例えば信号光として、異なる波長を有する複数の光信号を波長分割多重してなるWDM信号光が用いられている場合に、複数の光信号は一括して位相共役光(複数の位相共役光信号)に変換される。
望ましくは、複数の区間の各々の分散値(例えばポンプ光に対する分散値)が測定され、非線形光学媒質にポンプ光を入力するときの入力端に近い側に比較的分散値の小さい区間が配置されるように複数の区間が並べ替えられる。これにより、ポンプ光のパワーが高い部分で効果的に位相整合条件を得ることができるので、変換帯域が効果的に拡大される。
望ましくは、複数の区間の少なくとも一部は分散値の正負が交互になるように繋ぎ合わされる。これにより、光ファイバの各部分の平均分散を小さく抑えることができるので、変換帯域の効果的な拡大が可能になる。
また、本発明によると、位相共役光を発生するための非線形光学媒質を有する装置を製造するための第2の方法が提供される。この方法では、まず、光ファイバが切断されて複数の区間に分割され、次いで、複数の区間の各々の分散値(例えばポンプ光に対する分散値)が測定され、その後、非線形光学媒質を用いた非縮退四光波混合による所要の変換帯域を得るのに十分小さい分散値を有する区間だけが選ばれて繋ぎ合わされることにより非線形光学媒質が得られる。この第2の方法により得られた非線形光学媒質を用いて位相共役器を構成した場合にも、広い変換帯域が得られているので、WDM信号光の一括変換が可能である。
本発明による第1及び第2の方法の各々においては、最初に光ファイバが切断されて複数の区間に分割されるが、本発明はこれに限定されない。例えば、次のように必要に応じて光ファイバを切断することもできる。
即ち、本発明によると、位相共役光を発生するための非線形光学媒質を有する装置を製造するための第3の方法が提供される。この方法では、まず、光ファイバの零分散波長の偏差が測定され、次いで、測定された偏差が予め定められた範囲を越えている場合に光ファイバが切断され切断された各ファイバの零分散波長の偏差が予め定められた範囲内に入るようにされ、その後、ポンプ光の波長に実質的に等しい零分散波長を有する光ファイバ又は切断されたファイバが選ばれて、選ばれたファイバを繋ぎ合わせることにより非線形光学媒質が得られる。
零分散波長の偏差の測定は、例えば、零分散波長に従って四光波混合の発生効率が異なることを用いて行うことができる。一般に、波長分散は群速度の波長依存性を測定することにより求めることができるのであるが、上述のように、四光波混合の位相整合はポンプ光波長と零分散波長とが一致するときに最良の条件となるので、零分散波長は、ポンプ光と信号光の波長差を例えば10〜20nm程度の比較的大きな一定の値にした状態でポンプ光波長に対する四光波混合(位相共役光)の発生効率を測定し、最大の発生効率を与えるポンプ光波長として求めることができる。また、四光波混合の発生効率はポンプ光の強度の二乗に比例する。従って、零分散波長が光ファイバの長手方向に変化している場合、一般的には、信号光及び励起光を光ファイバの一方の端面から入力した場合と他方の端面から入力した場合とで異なる零分散波長が測定される。従って、これら2つの零分散波長の測定値に基づいてその光ファイバの零分散波長の偏差を求めることができる。具体的には次の通りである。
図6を参照すると、零分散波長の偏差が小さい非線形光学媒質の製造プロセス120が示されている。ステップ122においては、零分散波長の許容範囲Δλ0 が決定される。範囲Δλ0 は、所要の変換帯域からシステムの要求特性として決定することができ、その具体的な値は例えば2nmである。次いでステップ124では、零分散波長の偏差δλが測定される。例えば、光ファイバF1が与えられると、前述の四光波混合の発生効率により、信号光及び励起光を光ファイバF1の第1端から入力した場合に得られる零分散波長λ01と、光ファイバF1の第2端から信号光及びポンプ光を入力した場合に得られる零分散波長λ02とが測定される。この場合、|λ01−λ02|を以て零分散波長の偏差δλの代替値とすることができる。
続いてステップ126では、偏差δλが範囲Δλ0 よりも小さいか否かが判断される。ここでは、δλ≧Δλ0 であるとして先のフローを説明すると、ステップ128では、光ファイバF1が切断により光ファイバF1A及びF1Bに二分割される。ステップ128の後ステップ124に戻り、光ファイバF1A及びF1Bの各々について偏差δλが測定され、各測定値についてステップ126で判断がなされる。ここでは、各偏差δλがΔλ0 より小さいとすると、このフローは終了する。尚、ステップ128における光ファイバF1の切断点は任意であり、従って、光ファイバF1A及びF1Bの長さは等しいかもしれないし異なるかもしれない。
上述の説明では、ステップ124及び126が繰り返されているが、ステップ124及び126は繰り返されないかもしれないし更に多く繰り返されるかもしれない。例えば、零分散波長の偏差が小さい光ファイバF2が与えられた場合には、ステップ126の1回目の判断で条件が満たされ、この場合には光ファイバF2は切断されない。一方、零分散波長が長手方向に大きくばらついている光ファイバF3が与えられると、光ファイバF3は最初のステップ128で光ファイバF3A及びF3Bに分割され、2度目の判断ステップ126で光ファイバF3Aは条件を満足するものの光ファイバF3Bが条件を満足しない場合には、2度目のステップ128において光ファイバF3Bが光ファイバF3B1及びF3B2に分割されてこのフローが終了するかもしれない。この場合、オリジナルの光ファイバF3から3つの光ファイバF3A,F3B1及びF3B2が得られており、各ファイバの零分散波長の偏差は許容範囲Δλ0 よりも小さくなっていることとなる。
このようにして得られた複数の光ファイバ片(光ファイバF1A,F1B,…)を零分散波長の値毎に整理しておき、四光波混合のためのポンプ光の波長に実質的に等しい零分散波長を有する光ファイバ片を選んで繋ぎ合わせて所要の変換効率を得ることができる長さにすることによって、長手方向おける零分散波長のばらつきが極めて小さい非線形光学媒質を得ることができる。この非線形光学媒質を用いて位相共役器を構成することによって、広い変換帯域を得ることができる。
零分散波長λ01及びλ02の値がほぼ一致しているとしても、零分散波長の長手方向のバラツキが大きい光ファイバも想定される。例えば、零分散波長の長手方向の分布が光ファイバの長手方向の中央に対して対称な場合である。このような場合には、プロセス120に先立って、その光ファイバを少なくとも2つの光ファイバ片に分割することを行って、各光ファイバ片についてプロセス120を適用すればよい。或いは、プロセス120を複数回繰り返してもよい。
以上説明した非線形光学媒質の製造方法はPMFにも適用することができる。それによる効果は次の通りである。
理想的な分散管理が実現した場合は、各光波の偏波状態が位相整合の制限条件となる。信号光、ポンプ光及び位相共役光の偏波状態をファイバ入力端で一致させたとしても、ファイバを伝搬中に偏波分散の影響で波長の異なる各光波の偏波状態は次第にずれて来る。このずれは波長偏差が大きいほど大きくなるため、変換帯域を制限する。この制限を回避する最も有効な方法は、ファイバ内の偏波状態を固定することである。具体的には、図1又は図4の装置で説明したように、PMFを非線形光学媒質として用いればよい。従って、非線形定数が大きく、零分散波長の管理が理想的であり、しかもPMF化されたDSFはファイバ四光波混合器として理想的なものであり、ポンプ光の波長をこのファイバの零分散波長に一致させることにより、極めて広い変換帯域を有する四光波混合器を提供することができる。
図7は本発明による装置の第3実施形態を示す図である。ここでは、偏波ビームスプリッタ10及びPMF12の動作の対称性により、双方向伝送用として使用可能な装置が示されている。
信号光ES (波長λS )及びポンプ光EP1(波長λP1)に基づくPMF12内の四光波混合により位相共役光EC1(波長λC1)が発生する点は図1に示される実施形態と同様である。ここでは、偏波ビームスプリッタ10はもう1つのポート10Dを有しており、第2の信号光ES2(波長λS2)及び第2のポンプ光EP2(波長λP2)に基づくPFM12内における四光波混合により第2の位相共役光EC2(λC2)を発生させるために、それぞれ入力ポート2、ポンプ光源4、光カプラ6、光サーキュレータ8、光バンドパスフィルタ14及び出力ポート16に対応する入力ポート2′、ポンプ光源4′、光カプラ6′、光サーキュレータ8′、光バンドパスフィルタ14′及び出力ポート16′が設けられている。ポート10B及び10D間は紙面に水平な偏波成分により結合されており、ポート10C及び10D間は紙面に垂直な偏波面を有する偏波成分により結合されている。従って、信号光ES1が偏波ビームスプリッタ10において偏波成分TM1及びTE1に分けられるのと同様にして、第2の信号光ES2は偏波成分TM2及びTE2に分けられる。
この構成によると、信号光ES1及びポンプ光EP1による位相共役光EC1の発生はPMF12の一方の主軸(Y軸)に関連して行なわれるのに対して、第2の信号光ES2及び第2のポンプ光EP2に基づく位相共役光EC2の発生はPMF12の他方の主軸(X軸)に関連して行なわれることとなり、互いに干渉し合うことなく2つの位相共役光EC1及びEC2を発生させることができる。
従って、2チャネルの光伝送路を有するシステムにおいて、入力ポート2及び出力ポート16を一方のチャネルに適用し、入力ポート2′及び出力ポート16′を他方のチャネルに適用することによって、1台の装置で2チャネルの伝送路に関して変換を行なうことができる。尚、図1の実施形態で説明した効果については両チャネルについて得られるが、その詳細は前述した通りであるのでその説明を省略する。
次に、位相共役光発生器を用いた光波ネットワークの実現例について説明する。図8は光波ネットワークの原理を説明するための図である。
光送信機(OS)202は信号ビームを出力する。
第1の光ファイバ(ファイバスパン)204は、信号ビームの入力端及び出力端にそれぞれ相当する第1端204A及び第2端204Bを有している。第2端204Bには第1の位相共役光発生器(1st PC)206が動作的に接続されている。
第1の位相共役光発生器206は、第1の光ファイバ204から供給された信号ビームを第1の位相共役ビームに変換して出力する。
第2の光ファイバ(ファイバスパン)208は、第1の位相共役ビームの入力端及び出力端にそれぞれ相当する第3端208A及び第4端208Bを有している。第4端208Bには第2の位相共役光発生器(2nd PC)210が動作的に接続される。
第2の位相共役光発生器210は、第2の光ファイバ208から供給された第1の位相共役ビームを第2の位相共役ビームに変換して出力する。
第3の光ファイバ212は、第2の位相共役ビームの入力端及び出力端にそれぞれ相当する第5端212A及び第6端212Bを有している。
第3の光ファイバ212によって伝送された第2の位相共役ビームを受けるために、光受信機(OR)214が設けられている。
第2の光ファイバ208の途中にはシステム中間点216が設定される。システム中間点216は後程定義される。
第2の光ファイバ208は、第3端208A及びシステム中間点216の間の第1の部分281と、システム中間点216及び第4端208Bの間の第2の部分282とからなる。
本発明では、光ファイバ204,208及び212における各パラメータが次のようにして設定される。
先ず、第1の光ファイバ204がN個(Nは1より大きい整数)の区間204(#1,…,#N)に仮想的に分割され、第2の光ファイバ208の第1の部分281も同じ数の区間281(#1,…,#N)に仮想的に分割される。このとき、第1の位相共役光発生器206から数えて対応する2つの区間の波長分散の平均値及び区間長の積が実質的に一致するようにされる。即ち、第1の光ファイバ204において第1の位相共役光発生器206から数えてi(1≦i≦N)番目の区間204(#i)の波長分散(または分散パラメータ)の平均値及び区間長をそれぞれD1i及びL1iとし、第2の光ファイバ208の第1の部分281において第1の位相共役光発生器206から数えてi番目の区間281(#i)の波長分散(または分散パラメータ)の平均値及び区間長をそれぞれD2i及びL2iとするときに、
D1iL1i=D2iL2i … (1)
が満足される。
更に、区間204(#i)における光パワーの平均値及び非線形係数の平均値をそれぞれP1i及びγ1iとし、区間281(#i)における光パワーの平均値及び非線形係数の平均値をそれぞれP2i及びγ2iとするときに、
P1iγ1iL1i=P2iγ2iL2i … (2)
が満足される。
一方、第2の光ファイバ208の第2の部分282がM個(Mは1より大きい整数)の区間282(#1,…,#M)に仮想的に分割され、第3の光ファイバ212も同じ数の区間212(#1,…,#M)に仮想的に分割される。
このとき、第2の光ファイバ208の第2の部分282において第2の位相共役光発生器210から数えてj(1≦j≦M)番目の区間282(#j)の波長分散の平均値及び区間長をそれぞれD3j及びL3jとし、第3の光ファイバ212において第2の位相共役光発生器210から数えてj番目の区間212(#j)の波長分散の平均値及び区間長をそれぞれD4j及びL4jとするときに、
D3jL3j=D4jL4j … (3)
が満足される。更に、区間282(#j)における光パワーの平均値及び非線形係数の平均値をそれぞれP3j及びγ3jとし、区間212(#j)における光パワーの平均値及び非線形係数の平均値をそれぞれP4j及びγ4jとするときに、
P3jγ3jL3j=P4jγ4jL4j … (4)
が満足される。
図8においては、第1の位相共役発生器206の前後で波形歪みは一旦大きくなるが、(1)式及び(2)式の条件により、システム中間点216において波長分散及び非線形性が補償され、波形は一旦元の状態に戻る。この回復した波形は再び第2の位相共役発生器210の前後で歪むが、(3)式及び(4)式の条件により、光受信機214においては、波長分散及び非線形性が補償された結果、波形は再び元に戻る。
また、図8の構成は、海底等に敷設される可能性のある第2の光ファイバ208についての長さ等のパラメータの設定誤差に対して寛容である。即ち、システム中間点216において例え波形が完全に元の状態に戻らないとしても、この不完全性を第2の部分282、第2の位相共役光発生器210及び第3の光ファイバ212で再現することによって、光受信機214において波形を完全に元に戻すことができるのである。
図9を参照すると、波長分散及び非線形性の補償の原理が示されている。この補償原理は他の実施形態においても同じである。ここでは、光送信機202からシステム中間点216に至るまでの補償の原理が説明される。先ず、図9の説明に先立ち、位相共役波の一般的事項について説明する。
光ファイバ伝送における光信号E(x,y,z,t)=F(x,y)φ(z,t)exp〔i(ωt−kz)〕の伝搬は、一般に以下の非線形波動方程式によって記述可能である。ここに、F(x,y)は横方向のモード分布、φ(z,t)は光の複素包路線を表し、このφ(z,t)は光の周波数ωに比べて十分にゆっくり変化すると仮定する。
ここに、T=t−β
1 z(β
1 は伝搬定数)、αはファイバの損失、β
2 はファイバの波長分散を表し、
は、3次の非線形係数(光カー効果の係数)を表す。ここに、n
2とA
eff はそれぞれファイバの非線形屈折率と有効コア断面積を表す。cは真空中の光速である。ここでは1次分散までを考慮し、それより高次の分散は省略した。また、α,β,γはzの関数であるとし、それぞれα(z),β(z),γ(z)と表されるものとする。更に、位相共役光発生器の位置を原点(z=0)とする。ここで、以下の規格化関数を導入する。
は、振幅を表し、α(z)>0の場合は伝送路が損失を持ち、α(z)<0の場合は利得を持つことをそれぞれ表す。A(z)≡A(0)は損失無しの場合を表す。また、A(z)
2 =P(z)は光パワーに相当する。(7),(8)式を(5)式に代入すると、次の発展方程式が得られる。
ここで、sgn[β
2 ]≡±1は、β
2 >0,即ち正常分散の場合には+1を、β
2 <0,即ち以上分散の場合には−1をそれぞれとる。(11)式が成り立てばその複素共役も成り立ち、次の式が得られる。
複素共役光u
* はuに対する発展方程式と同じ発展方程式に従う。但し、その際の伝搬方向は反転する。この動作は正しく位相共役器の動作である。特に透過型の位相共役器においては上記のことは波長分散とSPMとによる位相シフトを反転させることと等価である。
ここで、図9においては、第1の光ファイバ204の長さはL1 であり、第2の光ファイバ208の第1の部分281の長さはL2 であるとする。また、位相共役光発生器206はz軸座標及びζ座標の原点z=0(ζ=0)に配置される。システム中間点216のz座標及びζ座標はそれぞれL2 及びζ0 である。
第1の光ファイバ204においては、信号ビームu(Es)は発展方程式(11)に従って伝搬する。位相共役光発生器206により信号ビームuは位相共役ビームu* (Ec)に変換される。位相共役ビームu* は第2の光ファイバ208の第1の部分281において発展方程式(12)式に従って伝搬する。
このときζ軸上の位相共役光発生器206の位置(ζ=0)に関して対称な位置にある任意の2点−ζ,ζにおける規格化距離dζ内において、(11)式の右辺第1、2項の係数が等しくなるように各パラメータの値を設定すれば、ζにおけるu* は−ζにおけるuの位相共役波となる。即ち、次の2式が条件となる。
(13)式は第1の光ファイバ204及び第1の部分281の分散の符号が等しい必要性を示している。ファイバ内では、γ>0,A(z)
2 >0であることを考慮すると、上記条件は次のようにまとめることができる。
第1の光ファイバ204内の(−ζ)における波長分散とSPMとによる位相シフトは位相共役光発生器206により符号が反転する。従って、この位相シフトによる波形歪みは第1の部分281内の(ζ)における位相シフトによる歪みにより補償される。このように区間毎に上記のような設定による補償を繰り返していけば、全長に渡る補償が可能となる。
次に、上記の補償条件をz座標で記述する。(15)式より、
を得る。即ち、各区間内での非線形係数と光パワーの積に対する波長分散の比を等しくすることが条件となる。ここで、−z
1 ,z
2 は次の式を満足させる2点である。
(16),(17)式より(18),(19)式が得られる。
dz
1 ,dz
2 はそれぞれ−z
1 ,z
2 における小区間の長さであり、各区間長は当該区間内の分散に反比例するか或いは非線形係数と光パワーの積に反比例する。ここで、分散β
2 と分散パラメータDの関係、D=−(2πc/λ
2 )β
2を考慮すれば、(18),(19)式より以下の関係が得られる。Dはzの関数であり、D(z)とも表される。
分散及び非線形性についていずれも位相共役光発生器206に関して対称な2つの位置の一方における増加分と他方の減少分とが等しいことが補償の条件であることがわかる。
(20),(21)式は、補償のための必要条件であり、対応する2つの区間で総分散量と光カー効果の総量とが等しくなることを示している。即ち、(1)式乃至(4)式の条件の有効性が確認された。
特にα,D及びγが一定であり且つパワーの変動が小さい場合には(20),(21)式を積分すれば、
D1 L1 =D2 L2 … (22)
γ1 P1 L1 =γ2 P2 L2 … (23)
を得る。ここで、P1 ,P2 はそれぞれ第1の光ファイバ204及び第1の部分281における平均パワーである。また、D1 ,γ1 はそれぞれ第1の光ファイバ204の分散パラメータの平均値及び非線形係数の平均値、D2 ,γ2 はそれぞれ第1の部分281の分散パラメータの平均値及び非線形係数の平均値である。(22),(23)式は分散補償及び平均値近似によるSPMの補償法における条件と一致する。
実用的には、(22)式の条件を満足するだけでも本発明を実施することができる。即ち、本発明によると、信号ビームの入力端及び出力端にそれぞれ相当する第1端及び第2端を有する第1の光ファイバと、上記第2端に動作的に接続され上記信号ビームを位相共役ビームに変換して出力する位相共役光発生器と、上記位相共役ビームの入力端及び出力端にそれぞれ相当する第3端及び第4端を有する第2の光ファイバとを備え、上記第1の光ファイバの波長分散の平均値及び長さの積は上記第2の光ファイバの波長分散の平均値及び長さの積に実質的に一致する光ファイバ通信システムが提供される。
望ましくは、(23)式の条件を満足するために、上記第1の光ファイバにおける光パワーの平均値及び非線形係数の平均値並びに上記第1の光ファイバの長さの積は上記第2の光ファイバにおける光パワーの平均値及び非線形係数の平均値並びに上記第2の光ファイバの長さの積に実質的に一致する。
第1及び第2の光ファイバを含む光路上に複数の光増幅器が設けられている場合には、これらのうちの隣り合う2つの光増幅器の間隔を光路(光ファイバ)の非線形長よりも短く設定するのが望ましい。
図9においては、システム中間点216の上流側における補償の原理が示されている。システム中間点216の下流側における補償の原理はこれと同じようにして理解することができるのでその説明を省略する。
図9による説明においては、(10)式に示されるように、位相共役光発生器206からの波長分散の累積値によって規格化座標が定義されている。その結果、要求される条件は、(15)式により示されているように、位相共役光発生器206からの波長分散の累積値が等しい第1の光ファイバ204及び第1の部分281上の2点の各々における光パワー及び非線形係数の積と波長分散との比が実質的に一致することである。
図9においては、位相共役光発生器206からの非線形効果の累積値(即ち光パワー及び非線形係数の積の累積値)によって規格化座標が定義されてもよい。この場合には、位相共役光発生器206からの当該累積値が等しい第1の光ファイバ204及び第1の部分281上の2点の各々における光パワー及び非線形係数の積と波長分散との比が実質的に一致することが条件となる。
以上の説明の通り、位相共役光発生器に接続される第1の光ファイバと第2の光ファイバとの間で、光ファイバの総分散量と光カー(Kerr)効果との総量とが等しくなるように設定することにより、第1の光ファイバに入力される光パルス波形と第2の光ファイバから出力される光パルス波形とがほぼ同一の形状を有するように位相共役光発生器により補償されることがわかる。即ち、光パルスの送信側(第1の光ファイバの入力端)と光パルスの受信側(第2の光ファイバの出力端)において、ほぼ同一形状の光パルス波形が得られることとなり、これらの入力端、出力端に光ADM(Add Drop Multiplexer:光信号挿入分岐装置)を設けることにより、光ADMでは、受信光パルスが送信光パルスとほぼ同一の状態で受信することが可能となる。そのため、各ADMにおいて、受信光パルスのSNRを劣化させることなく、受信光パルスの再生(波形整形・タイミング再生)処理を不要にすることが可能となり、柔軟性に富んだシステムの構築が可能になる。この原理を応用した所謂光波ネットワークについて以下に説明する。
本発明による装置は広い変換帯域を有しているので、波長分割多重に効果的に適用することができる。具体的には次の通りである。
図10は、広い変換帯域を有する位相共役器によるWDM信号光の一括変換を説明するための図である。WDM信号光は、異なる波長λ1 ,λ2 ,…,λN を有するNチャネルの光信号を波長分割多重(WDM)することにより得られる。ここでは、λ1 が最短波長であり、λN が最長波長であるとする。ポンプ光の波長λPは例えばλ1 よりも短く設定される。ポンプ光を用いた非縮退四光波混合によって、WDM信号光は変換光に変換される。変換光は、異なる波長λ1 ′,λ2 ′,…,λN ′を有するNチャネルの変換光信号からなる。WDM信号光における各チャネルの光信号と変換光における各変換光信号の配置はポンプ光の波長λP に対して対称である。
非線形光学媒質として光ファイバ又はPMFを用いた四光波混合においては、変換帯域がほぼ平坦であるため、各チャネルの光信号に対してほぼ同じ変換効率で波長変換及び位相共役変換を行うことができる。従って、各チャネルに対して伝送路の波長分散と非線形効果とによる波形歪みを補償可能であり、長距離大容量の伝送が可能である。図10においては、長波長帯から短波長帯への変換を示しているが、光ファイバによる変換帯域は零分散波長に関して対称であるから、短波長帯から長波長帯への変換も同様にして可能であることは言うまでもない。
図11は、本発明によるシステムの第2実施形態を示す図である。各々WDMが適用される複数の光ファイバネットワークNW1,NW2及びNW3は、光ファイバ伝送路140及びノード142によって接続されている。ネットワークNW1及びNW2間における変換を行うために、光ファイバ伝送路140の途中には位相共役器PC11が設けられ、ネットワークNW2及びNW3間の変換を行うために、光ファイバ伝送路140の途中には位相共役器PC23が設けられている。ネットワークNW1,NW2及びNW3においては、それぞれ、異なる波長帯λ1j,λ2j,λ3jのWDM伝送が行われているものとする。位相共役器PC11は波長帯λ1j及びλ2j間で波長変換及び位相共役変換を行い、位相共役器PC23は波長帯λ2j及びλ3j間で波長変換及び位相共役変換を行う。光ファイバ伝送路140の途中には、波長分散及び非線形効果による波形歪みが本発明に従って最も改善される位置が幾つかできるので、各ノード142はそのような位置に設けられている。各ノード142は、光信号の付加及び抽出を行うための光アッド/ドロップ装置を含む。光アッド/ドロップ装置はWDM信号光或いは変換光における全チャネル或いは一部のチャネルに対して機能する。例えば、光ファイバネットワークNW1の波長帯λ1jが図10に示されるWDM信号光により与えられており、位相共役器PC11におけるポンプ光の波長がλP であるとすると、光ファイバネットワークNW2の波長帯λ2jは変換光の帯域によって与えられる。
このようなシステム構成によると、位相共役器による波形歪みの補償と波長変換機能とが有効に活かされるので、柔軟性に富んだ長距離大容量システムの構築が可能になる。また、このようなネットワーク間伝送への応用は、次の点で最近特に重要である:
(1)光増幅器の広帯域化;
(2)伝送路として使用される光ファイバの分散のバラエティー化。
これらのうち、(1)は最近におけるEDFA(エルビウムドープファイバ増幅器)の広帯域化に関係しており、(2)は伝送信号の高速化とWDM伝送を行うための分散制御に関係している。最近、50nmを超えるような広帯域でしかもWDMを指向した利得の平坦性に優れたEDFAが開発されている。将来的に更に帯域が拡大し、60〜80nm程度の広帯域なEDFAが開発されよう。このようなEDFAの広帯域化は、WDMのチャネル数(伝送容量)を大きくするのに役立っているのは勿論であるが、図11に示されるようなネットワーク間伝送等において新しい概念の導入を可能とする。
例えば、図12に示されるように、図11の光ファイバネットワークNW1及びNW2の波長帯が設定されている場合、光ファイバネットワークNW1及びNW2間において本発明による有効な伝送が可能である。図12において、符号144は光増幅器(例えばEDFA)の比較的平坦な利得帯域を示している。
このようにネットワーク毎に用いる波長帯が異なることの理由の1つは、ネットワーク毎に用いる伝送路としての光ファイバが異なる処にある。既に実用化されている光ファイバとしては、1.3μm零分散シングルモードファイバ(所謂標準SMF)と、1.55μm分散シフトファイバ(DSF)とがある。一方、最近におけるEDFAの開発により、特に高速長距離伝送の中心は1.55μm帯となってきている。標準SMFが+16〜+20ps/nm/km程度の大きな異常分散値を示すのに対して、DSFでは±1〜2ps/nm/km程度の小さな分散値に抑えることができるので、1.55μm帯における高速長距離伝送に対してはDSFの方が有利である。しかし、既に多くの標準SMFが敷設されており、これを伝送路として用いなければならないネットワークも多い。こうしたネットワークからDSFを用いたネットワークへの接続においては、DSFの最適な分散値となる波長帯への波長変換が必要になり、従って、このような場合に本発明は有効である。
一方、各々DSFを用いたネットワーク間の接続においても本発明は有効である。その理由は、WDMにおいては必ずしも分散が小さい方が有利である訳ではないからである。比較的高速のWDMにおいては、所要の信号対雑音比(SNR)を確保するために、各チャネルのパワーレベルはかなり高く設定する必要がある。この場合、伝送路として使用される光ファイバの分散が小さいと、四光波混合により隣接チャネル間のクロストークが発生し、伝送特性が劣化する。この影響を避けるため、最近では、零分散波長を信号帯域から大きくシフトさせた比較的大きな分散のファイバ(Nonzero dispersion-shifted fiber) を用いることがある。このように伝送路として使用される光ファイバのバラエティーが豊富になった分、いろいろな波長帯でのネットワーク構成が可能となり、こうしたネットワーク間を接続する場合において本発明のような広帯域な波長変換及び位相共役変換が有効となる。
最近では、光ファイバと共にEDFAのバラエティーも豊富になっているが、何といっても一般的なEDFAは1.53μm帯及び1.55μm帯に利得ピークを有するタイプである。このうち前者はブルーバンド、後者はレッドバンドと称されている。
図13は、図11における波長帯の他の設定例を示す図である。ここでは、光ファイバネットワークNW1の波長帯は符号146で示されるEDFAのレッドバンドに含まれ、光ファイバネットワークNW2の波長帯は符号148で示されるEDFAのブルーバンドに含まれている。このような設定によると、光ファイバ伝送路140或いは各ネットワークがインライン型のEDFAを含む場合に、レッドバンド及びブルーバンド間における位相共役変換を容易に行うことができる。
図14は、図11における分散配置の例を示す図である。D1 及びD2 (各々単位はps/nm/km)は、それぞれ、光ファイバネットワークNW1及びNW2における分散を表している。図では、各ネットワーク内で正常分散ファイバを用いてWDMを行う例が示されている。図10に示されるように、波長変換によりチャネル配置が反転するので、各チャネルに対する変換前後の分散の影響が異なることが予想されるが、中心付近のチャネルに対して分散の影響がほぼ同じになるようにするとともに、各ネットワーク内で分散補償を行うことにより、この問題は解決可能である。尚、各ネットワーク内の分散は正常分散であってもよいし異常分散であってもよい。
以上のように、本発明によると、異なる波長を有する複数の光信号を波長分割多重(WDM)してなるWDM信号光のための複数の光ファイバネットワーク
と、これらを結ぶための少なくとも1つの変換器とを備えた光ファイバ通信システムが提供される。変換器が、複数の光信号の波長変換及び位相共役変換を一括に行うことによって、柔軟性に富んだ長距離大容量のシステムの構築が容易になる。
最近、レッドバンド及びブルーバンド全般に渡って平坦な利得を有するEDFAが開発されている。エルビウムと共に主としてアルミニウムを高濃度に共ドープすると共に、利得等化器を組み合わせることにより、約40nm(概ね1525−1565nm)の帯域の光増幅器が実現している。この帯域はCバンドと称されることがある。
一方で、Cバンドよりも長波長側の1570−1610nmの帯域において平坦な利得を有する光増幅器も開発されつつある。この帯域はLバンドと称されることがある。この光増幅器は利得シフトEDFAと称され、アルミニウムを共ドープしたEDFAの長さをCバンドのものに比べて長くすることにより、本来単位長さ当たりの利得が小さなLバンドにおける利得を確保したものである。
Cバンド用の光増幅器及びLバンド用の光増幅器をパラレルに組み合わせることにより、80nm近い帯域の光増幅器が開発されている。更に、テルライドベースのEDFAを用いてやはり80nm近い帯域の光増幅器が開発されつつある。
図15は図11における波長帯の他の設定例を示す図である。ここでは、光ファイバネットワークNW1の波長帯は、符号152で示されるようにLバンドに含まれ、光ファイバネットワークNW2の波長帯は符号154で示されるようにCバンドに含まれている。
このように、本発明によると、広い変換帯域が得られるので、本発明による装置と広帯域な光増幅器との組み合わせは、柔軟性に富んだ長距離大容量のシステムを構築する上で極めて有用である。
図16に示されるように、一般に、四光波混合器FWMにWDM信号光を入力すると、WDM信号光と変換光とがそれぞれ出力される。四光波混合器FWMは本発明による装置によって提供され得る。効率の十分高い四光波混合器においては、信号光はパラメトリック効果により増幅される。この場合、信号光に対するパラメトリック利得をGとすれば、変換光は(G−1)の利得を得る。このように、四光波混合器は、信号機をスルーすると共に、変換光も出力可能であることを大きな特徴としており、この特徴を生かして以下のようにWDMネットワークへの応用が可能である。
図17は本発明によるシステムの第3実施形態を示す図である。ここでは、図11で説明したような光ファイバネットワークNW1及びNW2の間を四光波混合器FWMにより接続し、波長帯λ1jと波長帯λ2jとの間での変換を可能にしている。四光波混合器FWMとしては、例えば、双方向伝送に可能な図7に示される装置を用いることができる。
図18は本発明によるシステムの第4実施形態を示す図である。図17に示される光ファイバネットワークNW1及びNW2の各々は、通常の伝送路としての機能を含むものとして解釈されるべきである。即ち、図18に示されるような双方向伝送が行なわれている場合に、下り回線及び上り回線をそれぞれ光ファイバネットワークNW1及びNW2として理解すべきである。
図18に示されるシステムでは、下り回線から上り回線へのループバックを行なうために、四光波混合器FWMにより波長帯λ1jを波長帯λ2jに変換し、上り回線から下り回線へのループバックを行なうために、もう1つの四光波混合器FWMにより波長帯λ2jを波長λ1jに変換している。各四光波混合器FWMとしては図1又は図4に示される装置を用いることができる。あるいは、これら2つの四光波混合器FWMは図7に示されるような装置1つによって提供されてもよい。
これまでは、一括して波長変換されたWDM信号光の全てをやり取りする応用について説明したが、前述した光ADMと組み合わせることによって、WDM信号光のうちの任意のチャネルをやり取りすることができるようになり、より柔軟性に富んだシステムの構築が可能になる。
図19は本発明によるシステムの第5実施形態を示す図である。ここでは、光ファイバネットワークNW1における波長帯λ1jのWDM信号光を四光波混合器FWMにより変換光に変換し、この変換光に基づき光アッドマルチプレクサADMが任意の波長チャネルを抽出し、抽出された信号が光ファイバネットワークNW2に送り込まれる。また、光ファイバネットワークNW2における波長帯λ2jのWDM信号光がもう1つの四光波混合器FWMにより変換光に変換され、この変換光に基づき光アッドマルチプレクサADMが任意の波長のチャネルを抽出し、抽出された信号が光ファイバネットワークNW1に送り込まれる。
図20は本発明によるシステムの第6実施形態を示す図である。このシステムは、図19に示されるシステムと対比して、各四光波混合器FWMが光ファイバネットワークNW1及びNW2の各々の内部に配置されている点で特徴付けられる。従って、光ファイバネットワークNW1及びNW2の各々においては、各波長帯のWDM信号光は四光波混合器FWMをスルーすることもできる。この構成も図18に示されるシステムと同様に双方向伝送等にも応用可能である。
図21は本発明によるシステムの第7実施形態を示す図である。伝送路内に順次配置された光アッドマルチプレクサADMにより適宜抽出された波長チャネルの信号が四光波混合器FWMにより光ファイバネットワークNW1及びNW2の各波長帯に波長変換された後、各ネットワークに送り込まれる。一方、各ネットワークのWDM信号光も四光波混合器FWMにより伝送路の帯域に波長変換され、必要な波長チャネルの信号が伝送路に送り込まれる。
図22は本発明によるシステムの第8実施形態を示す図である。このシステムは、図11に示されるシステムと対比して、各ノード142に代えて光アッドマルチプレクサADMが設けられている点で特徴付けられる。即ち、各位相共役光発生器PCにより波形歪みが最も補償されるポイントに各光アッドマルチプレクサADMを設け、ここで任意の波長チャネルの信号を出し入れするようにしているのである。
図23は本発明によるシステムの第9実施形態を示す図である。ここでは、光ファイバ伝送路140には共通の波長帯λS が設定されており、各位相共役光発生器PCは光ファイバネットワークNW1,NW2及びNW3の各々の内部に設けられている。各位相共役光発生器PCでは波長変換及び波形歪みの補償が行なわれ、そのうちの任意の波長の信号が光アッドマルチプレクサADMにより光ファイバ伝送路140に送り込まれると共に、光ファイバ伝送路140から光アッドマルチプレクサADMにより抽出された任意の波長チャネルの信号を、位相共役光発生器PCを用いて各ネットワークの波長帯に変換して取り込むようにしている。