JP4032801B2 - 鋼管用ねじ継手 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井管ねじ継手の締結時に焼付き防止のために塗布されている重金属粉を含むコンパウンドグリスの使用を不必要にすることができる、耐焼付き性と気密性に優れた鋼管用ねじ継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
油井掘削に用いられる鋼管である油井管は、鋼管用ねじ継手で締結される。このねじ継手は、雄ねじを備えたピンと、雌ねじを備えたボックスとから構成される。図1に模式的に示すように、通常は鋼管Aの両端の外面に雄ねじ3Aを形成してピン1とし、別部材のスリーブ型の継手部材Bの内面に両側から雌ねじ3Bを形成してボックス2とする。図1に示す通り、鋼管Aは、その一方の端部に予め継手部材Bを締付けた状態で出荷されるのが普通である。
【0003】
鋼管用ねじ継手には、鋼管と継手の重量に起因する軸方向引張力や地中での内外面圧力などの複合した圧力に加え、地中での熱が作用するので、このような環境下でも破損せずに気密性 (シール性) を保持することが要求される。また、油井管の降下作業時には、一度締込んだ継手を緩め、再度締直して締結することがある。そのため、API (米国石油協会) では、チュービング継手においては10回の、ケーシング継手においては3回の締付け (メイクアップ) 、緩め (ブレークアウト) を行っても、ゴーリングと呼ばれる焼付きの発生が無く、気密性が保持されることを求めている。
【0004】
近年では、気密性向上の観点から、金属対金属接触によるメタルシールが可能な特殊ねじ継手が一般に使用されるようになっている。この種のねじ継手では、ピンとボックスのいずれも、雄ねじまたは雌ねじからなるねじ部に加えて、ねじ無し金属接触部を有しており、この両部分が接触表面となる。ピンとボックスのねじ無し金属接触部同士が当接して、金属−金属接触によるメタルシール部が形成され、気密性が向上する。
【0005】
このようなねじ継手では、金属接触部の焼付きを防止するため、コンパウンドグリスと呼ばれる高潤滑のグリスが使用されてきた。液体潤滑剤であるこのグリスを、締付け前にピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に塗布する。しかし、このグリスには有害な重金属が多量に含まれており、締付けに伴って周囲にはみ出たグリスを洗浄液で洗浄するが、この作業でコンパウンドグリスやその洗浄液が海洋や土壌に流出して環境汚染を引き起こすことが問題視されるようになった。また、締付けを繰り返すたびに必要となるグリス塗布と洗浄が、現場での作業効率を低下させるという問題もあった。
【0006】
そこで、コンパウンドグリスの塗布が不要な鋼管用ねじ継手として、特開平8−103724号、特開平8−233163号、特開平8−233164号各公報には、ねじ部やねじ無し金属接触部 (即ち、接触表面) に、樹脂と固体潤滑剤である二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンとからなる固体潤滑被膜を、ピンおよび/またはボックスの接触表面に形成したねじ継手が開示されている。
【0007】
特開平8−103724号公報には、固体潤滑剤の二硫化モリブデンとして、フイッシャー法により測定した粒子径が0.45〜10μm、好ましくは2〜5μmの粉末を使用することが開示されている。0.45μm未満では耐ゴーリング性に対する潤滑機能向上効果が得られず、10μmを超えると潤滑性向上効果が飽和するとともに、固体潤滑被膜の厚さの調整が困難になることが示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の固体潤滑被膜によりピンまたはボックスの接触表面に潤滑性を付与したねじ継手を使用すると、コンパウンドグリスの塗布が不要となり、前述した環境問題や作業効率の問題は解消できるはずである。
【0009】
しかし、従来の固体潤滑被膜では、コンパウンドグリスを塗布した場合に得られるような高い焼付き防止効果が得られず、依然として締付け・緩めを繰り返すうちに、10回以内でゴーリングと呼ばれる焼付き疵を生じ、安定して焼付き発生を防止し、気密性を確保することができないという問題があった。
【0010】
本発明は、コンパウンドグリスを塗布せずに、耐焼付き性および気密性を安定して確保することができる固体潤滑被膜を備えた鋼管用ねじ継手を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、固体潤滑被膜の性能差が現れる理由について、固体潤滑被膜の構造に着目して検討した結果、締付け・緩め試験による耐焼付き性は、特開平8−103724号公報に記載されるような潤滑性粉末それ自体の粒子径ではなく、被膜中の潤滑性粉末の存在形態 (凝集形態) により支配されることが判明した。
【0012】
つまり、固体潤滑被膜中の固体潤滑剤の多くが凝集して、後で定義する等面積相当径で15〜60μmの大きな塊、即ち、二次粒子の状態で存在していると、安定した耐焼付き性が確保できることを見出した。
【0013】
ここに、本発明は、ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンおよびボックスから構成される鋼管用ねじ継手であって、
ピンおよびボックスの少なくとも一方の接触表面に、固体潤滑剤と結合剤とからなる固体潤滑被膜を有し、固体潤滑被膜の厚み方向断面において、平均粒径が 15 μmより小さい固体潤滑剤の一次粒子が凝集してなる等面積相当径15〜60μmの固体潤滑剤の二次粒子が占める面積率が5〜90%であることを特徴とする鋼管用ねじ継手である。
【0014】
本発明において、二次粒子の粒子径とは、形成された固体潤滑被膜における粉末集合体(二次粒子)の粒子径を意味する。固体潤滑剤の等面積相当径については後で説明する。
【0015】
本発明の好適態様において、前記固体潤滑剤は二硫化モリブデン、二硫化タングステン、有機モリブデン化合物、黒鉛、窒化ホウ素、およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれた1種または2種以上である。結合剤は有機樹脂と無機高分子のいずれでもよい。また、前記固体潤滑被膜と前記接触表面との間に、下地処理層として多孔質被膜層を有することが好ましい。この多孔質被膜層が、燐酸塩化成処理被膜または亜鉛もしくは亜鉛合金被膜であることが好ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】
図2は、代表的な鋼管用ねじ継手の構成を模式的に示す概要図である。符号1はピン、2はボックス、3はねじ部、4はねじ無し金属接触部、5はショルダー部を示す。以下、ねじ無し金属接触部を単に金属接触部ともいう。
【0017】
図2に示したように、典型的なねじ継手は、鋼管端部の外面に形成された、ねじ部3(即ち、雄ねじ部)及びねじ無し金属接触部4を有するピン1と、ねじ継手部材の内面に形成された、ねじ部3(即ち、雌ねじ部)およびねじ無し金属接触部4を有するボックス2とで構成される。ただし、ピンとボックスは図示のものに制限されない。例えば、継手部材を使用せず、鋼管の一端をピン、他端をボックスとしたり、あるいは継手部材をピン (雄ねじ) として、鋼管の両端をボックスとすることも可能である。
【0018】
ピン1とボックス2のそれぞれに設けたねじ部3と (ねじ無し) 金属接触部4がねじ継手の接触表面である。この接触表面、中でも、より焼付きの起こりやすい金属接触部には、耐焼付き性が要求される。従来は、そのために、重金属粉を含有するコンパウンドグリスを接触表面に塗布していたが、前述したように、コンパウンドグリスの使用には環境面と作業効率の面で問題が多い。
【0019】
この問題を解決するため、特開平8−103724号公報等に開示されるように、溶媒中に樹脂と潤滑性粉末とを含む塗布液をピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に塗布し、塗膜を加熱して接触表面に固体潤滑被膜を形成した、コンパウンドグリスの塗布が不要なねじ継手が開発された。しかし、従来のこの種のねじ継手では、前述したように、耐焼付き性や気密性を安定して確保することができなかった。
【0020】
本発明者らは、固体潤滑剤として平均粒径3.5 μmの二硫化モリブデンの粉末を、結合剤としてポリアミドイミド樹脂を、樹脂を溶解させ固体潤滑剤を分散させる溶媒としてエタノール:トルエン=50:50の混合溶媒を使用し、固体潤滑被膜を形成するための塗布液を試作した。その際に、塗布液の粘度と攪拌・混合した後の静置時間を調整することによって、二硫化モリブデンの凝集の程度を変化させることができ、凝集により生成した二次粒子の大きさにより、形成された固体潤滑被膜の耐焼付き性の性能が大きく変動することを突き止めた。
【0021】
つまり、平均粒径が3.5 μmの二硫化モリブデン粉末という同じ固体潤滑剤を使用し、かつ樹脂および溶媒も同じものを使用しても、形成された固体潤滑被膜の耐焼付き性にバラツキが見られる。この耐焼付き性のバラツキを支配する因子の1つが、固体潤滑被膜中の固体潤滑剤の凝集の程度であることを見出した。
【0022】
固体潤滑剤の粉末の平均粒径 (一次粒子径) が、例えば10μmまたはそれ以下と小さいと、固体潤滑剤の粉末を樹脂溶液中に分散させた塗布液において、粉末は凝集して二次粒子を形成する。そのため、この塗布液の塗布と乾燥により形成された固体潤滑被膜中においても、固体潤滑剤のほとんどは、一次粒子 (上の例では平均粒径3.5 μmの二硫化モリブデン粉末) が凝集して生ずる二次粒子の状態で存在することになる。
【0023】
本発明者らは、上記の固体潤滑剤、樹脂および溶媒を使用し、塗布液の粘度や攪拌による粉末分散後の静置時間を変化させて固体潤滑剤の凝集の程度を変化させた塗布液を用いて、粉末の凝集程度が異なる固体潤滑被膜を形成し、その耐焼付き性 (焼付き発生までの寿命) と被膜中の二次粒子の粒径 (等面積相当径の平均値) との関係を調べたところ、図3に示す結果を得た。この図から、固体潤滑被膜中に存在する固体潤滑剤の二次粒子の等面積相当径が15〜60μmの範囲であると、耐焼付き性が良好であることがわかる。
【0024】
しかし、実際には、固体潤滑被膜中の固体潤滑剤の凝集の程度はバラツキがあり、一次粒子のままで存在したり、凝集度の小さい粒子もかなりある。そこで、凝集の程度の影響についても調べた。その結果、図4に示すように、固体潤滑被膜の厚み方向断面において、等面積相当径15〜60μmの二次粒子が占める面積率が(被膜全断面積の)5〜90%である時に、被膜の耐焼付き性が著しく向上することがわかった。
【0025】
本発明において、固体潤滑被膜の断面における固体潤滑剤の二次粒子の等面積相当径は、固体潤滑被膜の厚み方向断面を走査電子顕微鏡により観察することにより求めた値である。即ち、この被膜断面の電子顕微鏡画像をコンピュータ画像解析することにより、個々の二次粒子の断面積を求め、この断面積と同面積の真円の直径を、その粒子の等面積相当径とする。以下、等面積相当径を、単に相当径という。
【0026】
固体潤滑被膜の断面における粒子の面積率は、固体潤滑被膜の厚み方向の断面を走査電子顕微鏡により観察した際の、200 倍画像における無作為に選んだ100 mm×100 mmの大きさの5視野について、コンピュータ画像解析により各粒子の断面積を測定することにより求める。各視野について、相当径が 0.3〜100 μmに入る全ての粒子の断面積を計測する。そのうち相当径15〜60μmの二次粒子が占める断面積の合計面積を求め、視野面積に対する割合(面積率)を算出し、その面積率を5視野について平均した値が、本発明における「相当径15〜60μmの二次粒子が占める面積率」である。なお、本発明では、被膜中の相当径0.3 μm未満または100 μm超の固体潤滑剤は、無視できるものとして扱った。
【0027】
本発明に係る鋼管用ねじ継手では、ピンおよびボックスの少なくとも一方の接触表面に、固体潤滑剤と結合剤とからなる固体潤滑被膜が形成されており、この固体潤滑被膜の厚み方向断面において、固体潤滑の相当径15〜60μmの二次粒子が占める面積率 (以下、15〜60μm二次粒子面積率ともいう) が5〜90%である。それにより、重金属粉を含有するコンパウンドグリスを使用せずに、従来固体潤滑被膜に生じていた問題、すなわち耐焼付き性に劣るねじ継手の出現確率が高いというという、工業製品にとって致命的ともいえる欠点を克服することができる。
【0028】
固体潤滑被膜の断面において15〜60μm二次粒子の面積率が5〜90%であると安定して優れた耐焼付き性が発揮できる理由は、完全に解明されたわけではないが、現状では次のように考えられる。
【0029】
ねじ継手に形成された固体潤滑被膜は、ねじ継手の締結・緩め時に繰り返しの摺動摩擦を受け、固体潤滑剤と結合剤を含む摩耗粉を発生し、それが接触界面で金属間接触の防止と摩擦軽減に寄与し、焼付き防止効果を発揮するものと推定される。固体潤滑剤の粒子が例えば 0.4〜10μm程度と小さいと、固体潤滑被膜の摺動摩擦により発生した摩耗粉が小さなものとなり、摩擦界面での金属間接触防止効果が不十分となり、焼付きを発生しやすくなる。一方、固体潤滑剤が凝集により大粒径になると、摩耗粉の大きさも大きくなり、接触界面において、金属間接触が効果的に抑制され、耐焼付き性が大幅に向上する。
【0030】
耐焼付き性の改善に有効な固体潤滑剤の二次粒子の相当径は15〜60μmである。相当径が15μm未満では、上記理由により、金属間接触、すなわち焼付きの防止効果が不十分となる。一方、相当径が60μmを超えると、固体潤滑被膜の強度が低下するばかりではなく、下地との密着性も低下するため、締付け・緩め時に被膜が剥離し易くなって、焼付きの発生を抑制できない。耐焼付き性と固体潤滑被膜の強度と密着性の観点から、前記二次粒子の相当径は好ましくは20〜50μmである。
【0031】
相当径が15〜60μmの二次粒子の被膜中の存在割合は、被膜断面の全面積に対する面積率で5〜90%である。この面積率が5%未満では接触界面に存在する15〜60μmの固体潤滑剤の量が少なく、焼付き防止効果が不足し、90%を超えると被膜の強度低下や下地との密着性低下を来たし、やはり焼付き防止効果が不足する。耐焼付き性、密着性の観点から、この面積率は好ましくは10〜85%、さらに好ましくは30〜85%、最も好ましくは50〜85%である。
【0032】
固体潤滑被膜は、本質的には固体潤滑作用を有する固体潤滑剤の二次粒子と結合剤とからなる。この被膜は、結合剤を溶媒に溶解 (または分散) させた結合剤溶液に固体潤滑剤の粉末を分散させた塗布液の塗布と乾燥により形成することができる。
【0033】
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン以外に、二硫化タングステン、黒鉛、有機モリブデン化合物(例、モリブデンジアルキルチオホスフェート、モリブデンジアルキルチオカルバメート)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、BN(窒化硼素)でも同様の潤滑効果が得られることが認められており、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0034】
結合剤としては、有機樹脂と無機高分子のいずれも使用できる。
有機樹脂としては、耐熱性と適度な硬さと耐摩耗性を有するものが好適である。そのような樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素(ウレア)樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を例示できる。
【0035】
有機樹脂に対する溶媒は、炭化水素系(例、トルエン)、アルコール系(例、イソプロピルアルコール)をはじめとする、各種の低沸点溶媒を単独あるいは混合して用いることができる。
【0036】
結合剤が有機樹脂の場合、固体潤滑被膜の密着性と耐摩耗性の観点から、塗布液を塗布した後、加熱して被膜を硬質化することが好ましい。この加熱温度は、好ましくは120 ℃以上、より好ましくは 150〜380 ℃であり、加熱時間は、鋼管用ねじ継手のサイズにより設定されればよいが、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜60分である。
【0037】
本発明において結合剤として用いる無機高分子とは、Ti−O 、Si−O 、Zr−O 、Mn−O 、Ce−O 、Ba−O といった、金属−酸素結合が三次元架橋した構造からなる被膜形成材料であり、ゾルゲル法と呼ばれる造膜法により形成される。このような無機高分子は、金属アルコキシドの加水分解と縮合により形成することができる。金属アルコキシドとしては、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ブトキシ、tert−ブトキシなどの低級アルコキシ基である化合物が使用できる。好ましい金属アルコキシドは、チタンまたはケイ素のアルコキシドであり、特にチタンアルコキシドが好ましい。中でも、チタンイソプロポキシドが造膜性に優れていて好ましい。金属アルコキシド以外に、四塩化チタンといった金属塩化物や金属カルボン酸塩も使用できる。
【0038】
この無機高分子を形成する金属アルコキシドは、シランカップリング剤のように、アルコキシ基の一部が官能基を有していてもよいアルキル基で置換されている化合物であってもよい。
【0039】
結合剤が、無機高分子である場合、溶媒としては、アルコール(例、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール)やケトン等の極性溶剤、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等、各種の有機溶媒が使用できる。造膜を促進するため、溶液中の金属アルコキシドを塗布前に予め部分加水分解しておいてもよい。また、塗布後の加水分解を促進するため、金属アルコキシドの溶液に、水および/または加水分解触媒の酸を少量添加してもよい。
【0040】
このような金属アルコキシドまたは他の無機高分子形成材料の溶液に、固体潤滑剤の粉末を分散させて塗布液を形成し、ピンおよび/またはボックスの接触表面に塗布し、塗膜を乾燥させる。塗布後の加水分解による被膜形成を促進させるため、塗布後に加湿処理を実施してもよい。これは、大気中に所定時間放置することでも行うことができるが、湿度70%以上の大気中であるとより望ましい。好ましくは、加湿処理後に加熱を行う。加熱により加水分解および加水分解物の縮合と、加水分解の副産物であるアルコールの排出が促進され、短時間で造膜でき、形成される固体潤滑被膜の密着性が強固となり、耐焼付き性が向上する。この加熱は、溶媒が蒸発した後に行うことが好ましい。加熱温度は副生するアルコールの沸点に近い 100〜200 ℃の温度とするのがよく、熱風を当てるとより効果的である。
【0041】
本発明では、固体潤滑被膜中に固体潤滑剤の相当径15〜60μmの二次粒子を被膜断面の全面積に対して5〜90%の面積率で存在させる。
このような被膜を得る1つの可能な手段は、固体潤滑剤として、一次粒子径が15〜60μmである粉末を面積率(体積率で近似できる)で5〜90%となるように含む粉末を使用し、かつ塗布液中での凝集を抑える方法である。例えば、平均粒径が25〜50μmといった粗大な粉末からなる固体潤滑剤を使用し、塗布液を高粘度のものとすれば、塗布液中で粉末は凝集しにくく、多くの粉末が一次粒子としてとどまる。凝集しない場合、一次粒子の粒子径がそのまま二次粒子の粒子径となる。そのため、本発明で規定する固体潤滑剤二次粒子の面積率の範囲を満たした固体潤滑被膜を確実に形成することができる。しかし、この方法は、固体潤滑剤の粉末が粗大であり特に、面積率が小さい場合には固体潤滑剤の分布が不均一になりやすいといった問題がある。
【0042】
より好ましいのは、一次粒子の平均粒径が15μmより小さい固体潤滑剤の粉末を用い、これを樹脂や溶媒と混合した後の塗布液中で凝集させ、多数の粉末が合一した二次粒子に成長させることにより、相当径15〜60μmの二次粒子が面積率で5〜90%になるようにする方法である。この方法の場合、固体潤滑剤の粉末の平均粒径は 0.5〜15μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜10μmである。粉末の凝集の程度 (即ち、二次粒子の粒子径) は、溶媒の量および/または塗布液の粘度と静置時間とで調整することができる。つまり、溶媒の量が多く、粘度が低いほど、静置中に凝集が進み易い。もちろん、静置時間が長くなると、凝集が進行する。
【0043】
従来の一般的な考えでは、被膜を均質化するために、粉末が可及的に均一に分散した塗布液を使用する、つまり、攪拌直後の塗布液を塗布するのが好ましいとされてきたが、本発明では、逆に静置させて、固体潤滑剤の粉末を凝集させてから塗布に使用する。
【0044】
前記二次粒子の面積率は、結合剤と固体潤滑剤との体積比にも依存する。即ち、被膜中の固体潤滑剤の粉末が全て相当径15〜60μmの二次粒子になっていれば、前記面積率は、結合剤と固体潤滑剤との合計体積率に対する固体潤滑剤の体積率で近似できる。その場合、結合剤と固体潤滑剤の合計体積率に対する固体潤滑剤の体積率が5〜90%になるように塗布液を調製することにより、前記面積率が5〜90%の固体潤滑被膜を形成することができる。ただし、全ての固体潤滑剤が相当径15〜60μmの二次粒子に成長しない場合もあるので、そのような場合には、凝集の程度を考慮して、前記体積率での添加量を目的とする面積率より多くすればよい。
【0045】
固体潤滑被膜の厚みは、5μm以上、50μm以下とすることが望ましい。固体潤滑被膜に含まれる固体潤滑剤は、高い面圧を受けて接触面全体に広がり、優れた耐焼付き性を発揮するものであるが、固体潤滑被膜の厚さが5μm未満では固体潤滑剤の含有量が少なくなり、潤滑性向上の効果が少なくなることがある。固体潤滑被膜の厚さが50μmより大きくなると、締付け量が不十分となって気密性が低下したり、気密性を確保するために面圧を高めると焼付きが発生し易くなったり、固体潤滑被膜が剥離し易くなることがある。耐焼付き性の観点からより好ましくは、固体潤滑被膜の厚さは、15μm以上、40μm以下である。
【0046】
固体潤滑被膜を形成する鋼管用ねじ継手の接触表面は、普通に切削したままでは、表面粗さがRmax で3〜5μm程度と小さいため、その上に形成された固体潤滑被膜の密着性が低下することがある。被膜の密着性を向上させるには、接触表面を粗面化した表面粗さをより大きくすることが望ましい。
【0047】
粗面化の方法としては、サンドまたはグリッドを投射する方法、硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸などの強酸液に浸漬し肌を荒らす方法といった、表面それ自体の粗さを大きくする方法に加え、接触表面の上に粗面の下地処理層を形成する方法がある。即ち、接触表面と固体潤滑被膜との間に下地処理層を介在させる。
【0048】
表面が粗面となる下地処理層としては、燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸鉄マンガン、燐酸亜鉛カルシウムなどの燐酸塩系化成処理被膜(生成する結晶の成長に伴い、結晶表面の粗さが増す)、銅めっきまたは鉄めっきのような電気めっき被膜(凸部が優先してめっきされるため、僅かであるが表面が粗くなる)、鉄芯に亜鉛または亜鉛−鉄合金等を被覆した粒子を遠心力またはエアー圧を利用して投射する乾式衝撃めっきにより形成した亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜、などが挙げられる。
【0049】
固体潤滑被膜の密着性の観点からは、上記の粗面化方法のうち、下地処理層として多孔質被膜層を形成する方法が好ましい。具体的には、燐酸塩系化成処理被膜や、乾式衝撃めっきにより形成した亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金の被膜が多孔質被膜である。このような多孔質被膜を下地として、その上に固体潤滑被膜層を形成すると、固体潤滑被膜の密着性が高まるので、固体潤滑被膜の性能が最大限に生かされ、コンパウンドグリスを使用しなくても、優れた耐焼付き性、気密性が得られる。
【0050】
また、下地が多孔質でも、上層に有機樹脂または無機高分子を結合剤とする固体潤滑被膜を形成することにより、下地の多孔質被膜の空隙が封鎖され、防錆性や気密性が一層高まる。さらに、この多孔質被膜層が乾式衝撃めっきによって形成された亜鉛−鉄合金被膜であると、亜鉛は鉄より卑な金属であるため、鉄より優先的にイオン化して、鉄の腐食を防ぐ犠牲防食能を発揮するため、格段に優れた防錆性、気密性を実現することができる。
【0051】
このような粗面化処理により、固体潤滑被膜を形成する接触表面の表面粗さをRmax で5〜40μmとしておくことが好ましい。5μm未満では、固体潤滑被膜の密着性を確保できないことがある。一方、表面粗さがRmax で40μmを超えると、気密性の確保が難しくなることや固体潤滑被膜表面にまで粗面化の影響が及び、接触時の摩擦が高くなり、耐焼付き性の確保が困難になることがある。
【0052】
下地処理層が上記多孔質被膜である場合、その膜厚には特に制約はないが、防錆性と密着性の観点から5〜40μmであることが好ましい。5μm未満では、十分な防錆性が確保できないことがある。一方、40μmを超えると、固体潤滑被膜との密着性が低下することがある。
【0053】
本発明に係る固体潤滑被膜は、ピンとボックスの一方の接触表面に形成するだけで本発明の目的は十分に達成できるので、コスト面からは、これらのいずれか一方だけに形成することが有利である。その場合、ボックスの方が被膜の形成作業、特に加熱が容易である。固体潤滑被膜を形成しない他方の部材(好ましくはピン)の接触表面は、未被覆のままでもよい。特に、図1のように、組立て時にピンとボックスが仮に締付けられる場合には、他方の部材、例えば、ピンの接触表面が裸(切削加工まま)でも、組立て時にボックスの接触表面に形成された被膜と密着するので、ピンの接触表面の錆びも防止できる。
【0054】
しかし、組立て時に鋼管の一方の端部のピンだけにボックスが取り付けられると、他端のピンは露出したままとなる。そのため、特にこのような露出するピンに対して防錆性、あるいは防錆性と潤滑性を付与するために、適当な表面処理を施して被膜を形成するか、および/または適当なプロテクタを装着して保護することができる。もちろん、他方の接触表面が露出しない場合でも、この表面に被膜を形成してもよい。
【0055】
本発明に従って表面処理した鋼管用ねじ継手は、コンパウンドグリスを塗布せずに締付けられるが、所望により、固体潤滑被膜や相手部材の接触表面に油を塗布してもよい。その場合、塗布する油に特に制限はなく、鉱物油、合成エステル油、動植物油などのいずれも使用できる。この油には、防錆添加剤、極圧添加剤といった、潤滑油に慣用の各種添加剤を添加することができる。また、それらの添加剤が液体である場合、それらの添加剤を単独で油として使用し、塗布することもできる。
【0056】
防錆添加剤としては、塩基性金属スルホネート、塩基性金属フェネート、塩基性金属カルボキシレートなどが用いられる。極圧添加剤としては、硫黄系、リン系、塩素系、有機金属塩など公知のものが使用できる。その他、酸化防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤なども油に添加することができる。
【0057】
【実施例】
表1に示した炭素鋼A、Cr−Mo鋼B、13%Cr鋼Cまたは高合金鋼Dからなる鋼管(外径:7インチ<178 mm>、肉厚:0.408 インチ<10.4 mm>)のねじ継手のピンおよびボックスの接触表面に、表2に示す表面処理 (下地処理と場合により固体潤滑被膜の形成) を施して、接触表面に固体潤滑被膜を有する実施例および比較例のねじ継手を作製した。
【0058】
こうしてピンおよび/またはボックスの接触表面に固体潤滑被膜を形成したねじ継手を用いて、締付け速度10 rpm、締付けトルク10340 ft・lbs で最大20回の締付け・緩めの作業を行い、焼付き発生状況を調査した。いずれも、5回目までは焼付きを発生しなかったため、表3に6回目以降の焼付き発生状況ならびに錆発生状況を示す。
【0059】
【表1】
Figure 0004032801
【0060】
【表2】
Figure 0004032801
【0061】
【表3】
Figure 0004032801
【0062】
【実施例1】
表1に示した組成Aの炭素鋼製ねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、#80番のサンドを吹き付ける下地処理により、表面粗さを10μmとした後、その上に二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ25μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0063】
塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、65質量%)にポリアミドイミド樹脂と体積率80% (樹脂と粉末の合計量に対する粉末の体積率、以下同じ) の平均粒径12μmの二硫化モリブデン粉末を投入し、攪拌した後、静置して、二硫化モリブデン粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中260 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬質化させ、固体潤滑被膜を形成した。
【0064】
被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmの二硫化モリブデンの面積率は80%、即ち、上記体積率と同じであることを確認した。従って、投入した粉末の実質的に全てが凝集により15〜60μmの二次粒子になっていた。
【0065】
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ2μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、18回目までは焼付きの発生は無く、19回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより20回まで締付け・緩めができた。
【0066】
【実施例2】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ2μm)後、膜厚25μmの燐酸マンガン化成処理被膜を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ25μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0067】
塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、83質量%)にポリアミドイミド樹脂と平均粒径3.5 μmの二硫化モリブデン粉末 (体積率80%) を投入し、攪拌した後、静置して二硫化モリブデン粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中260 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬質化させ、固体潤滑被膜を形成した。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子の面積率は80%であることを確認した。
【0068】
ピンの接触表面は機械研削仕上げ(表面粗さ2μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、19回目までは焼付きの発生はく、20回目に軽度の焼付きが発生したたものの、20回まで締付け・緩めができた。
【0069】
【実施例3】
表1に示した組成BのCr−Mo鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、膜厚20μmの燐酸マンガン化成処理被膜を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化タングステンを含有するエポキシ樹脂からなる、厚さ20μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0070】
塗布液は、溶媒(テトラヒドロフラン:シクロヘキサノン=50:50、68質量%)にエポキシ樹脂と平均粒径2.0 μmの二硫化タングステン粉末 (体積率80%) を投入し、攪拌した後、静置して二硫化タングステン粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中230 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬化させ、固体潤滑被膜を形成した。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmの二硫化タングステン粒子の面積率は80%であることを確認した。
【0071】
ピンの接触表面は機械研削仕上げ(表面粗さ2μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、19回目までは焼付きの発生は無く、20回目に軽度の焼付きが発生したものの、20回まで締付け・緩めができた。
【0072】
【実施例4】
表1に示した組成Cの13%Cr鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、乾式衝撃めっきにより6μmの亜鉛−鉄合金層を形成する下地処理を行った後、その上に黒鉛を含有するフェノール樹脂からなる、厚さ30μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0073】
塗布液は、溶媒(N−メチル−2−ピロリドン:キシレン=65:35、70質量%)にフェノール樹脂と平均粒径1.0 μmの黒鉛粉末 (体積率60%) を投入し、攪拌した後、静置して黒鉛粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中170 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬化させ、固体潤滑被膜を形成した。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmの黒鉛粒子の面積率は60%であることを確認した。
【0074】
ピンの接触表面は機械研削仕上げ(表面粗さ2μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、20回まで焼付きの発生は無く、極めて良好であった。
【0075】
【実施例5】
表1に示した成分組成Dの高合金製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、乾式衝撃めっきにより5μmの亜鉛−鉄合金層を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0076】
塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、85質量%)にポリアミドイミド樹脂と平均粒径1.5 μmの二硫化モリブデン粉末 (体積率80%) を投入し、攪拌した後、静置して二硫化モリブデン粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中260 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬質化させ、固体潤滑被膜を形成した。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における粒径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子の面積率で80%であることを確認した。
【0077】
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、乾式衝撃めっきにより5μmの亜鉛層を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデン粉末(平均粒径15μm)を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる厚さ12μmの固体潤滑被膜を形成した。溶媒は、キシレン、ブチルアルコール、シクロへキサンを20:10:30で混合した混合溶媒を使用し、溶媒70質量%に、固形分として結合剤のチタンテトライソプロポキシドのTiO2換算量と上記固体潤滑剤とを合計30質量%の割合 (結合剤と固体潤滑剤の合計量に対する固体潤滑剤の体積率55%) で混合し、静置し、潤滑性粉末を凝集させた塗布液を用いた。塗布後に塗膜を大気中で3時間放置した後、150 ℃の熱風を10分間吹き付けて塗膜を硬化させた。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の断面において無機高分子中の相当径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子の面積率は50%であることを確認した。
【0078】
表3に示したように、締付け・緩め試験では、20回まで焼付きの発生は無く、極めて良好であった。
【0079】
【実施例6】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、膜厚15μmの燐酸亜鉛化成処理被膜を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデン粉末(平均粒径12μm)を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ10μmの固体潤滑被膜を形成した。溶媒は、キシレン、ブチルアルコール、シクロヘキサンを20:10:30で混合した混合溶媒を使用し、溶媒70質量%に、固形分として結合剤のチタンテトライソプロポキシドのTiO2換算量と上記固体潤滑剤とを合計30質量%の割合 (結合剤と固体潤滑剤の合計量に対する固体潤滑剤の体積率40%) で混合し、静置し、潤滑性粉末を凝集させた塗布液を用いた。塗布後に塗膜を大気中で3時間放置した後、150 ℃の熱風を10分間吹き付けて塗膜を硬化させた。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の断面において無機高分子中の相当径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子の面積率は40%であることを確認した。
【0080】
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、19回目までは焼付きの発生は無い。20回目に軽度の焼付きが発生したが、20回まで締付け・緩めができた。
【0081】
【実施例7】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、その表面に膜厚25μmの燐酸マンガン化成処理被膜を形成する下地処理を行った後、その上に窒化硼素(平均粒径6μm)を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ15μmの固体潤滑被膜を形成した。溶媒は、キシレン、ブチルアルコール、シクロへキサンを20:10:30で混合した混合溶媒を使用し、溶媒70質量%に、固形分として結合剤のチタンテトライソプロポキシドのTiO2換算量と上記固体潤滑剤とを合計30質量%の割合 (結合剤と固体潤滑剤の合計量に対する固体潤滑剤の体積率20%) で混合し、静置し、潤滑性粉末を凝集させた塗布液を用いた。塗布後に塗膜を大気中で3時間放置した後、150 ℃の熱風を10分間吹き付けて塗膜を硬化させた。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の断面において無機高分子中の相当径15〜60μmの窒化硼素粒子の面積率は10%であることを確認した。
【0082】
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、表3の17回目までは焼付きの発生は無かった。18回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより20回まで締付け・緩めができた。
【0083】
【実施例8】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、その表面に膜厚20μmの燐酸マンガン化成処理被膜を形成する下地処理を行った後、その上にPTFEを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ30μmの固体潤滑被膜を形成した。塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、85質量%)にポリアミドイミド樹脂とPTEF粉末 (平均粒径1.0 μm)(体積率90%) を投入し、攪拌した後、静置してPTFE粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中260 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬質化させ、固体潤滑被膜を形成した。被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmのPTFE粒子の面積率は88%であることを確認した。
【0084】
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、表6の18回目までは焼付きの発生は無い。19回以降は軽度の焼付きが発生したが手入れにより20回まで締付け・緩めができた。
【0085】
【比較例1】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、化成処理により18μmの燐酸マンガン被膜を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ30μmの固体潤滑被膜を形成した。塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、50質量%)にポリアミドイミド樹脂と平均粒径3.2 μmの二硫化モリブデン粉末 (体積率80%) を投入し、十分に攪拌した後、静置せずに直ちに塗布に使用し、二硫化モリブデン粉末を凝集させないようにした。塗布後、260 ℃で30分の加熱硬化処理を実施した。被膜分析の結果、形成された固体潤滑被膜断面に相当径15〜60μmの二硫化モリブデンは存在しないことを確認した。
【0086】
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表3に示したように、締付け・緩め試験では、8回目までは焼付きの発生は無かった。しかし、9 〜10回目に軽度の焼付きが発生したため、手入れをしながら試験を続けたが、11回目で激しい焼付きを発生したため試験を終了した。固体潤滑被膜中には平均粒径3.2 μmの二硫化モリブデンが凝集せずに存在し、焼付き防止に効果のある平均粒径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子が存在しないと、耐焼付き性が不十分になった。
【0087】
【比較例2】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、化成処理により20μmの燐酸マンガン被膜を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜を形成した。塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、28質量%)にポリアミドイミド樹脂と平均粒径4.0 μmの二硫化モリブデン粉末 (体積率5%) を投入し、攪拌した後、静置して二硫化モリブデン粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中260 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬質化させ、固体潤滑被膜を形成した。
【0088】
被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子の面積率は3%であることを確認した。
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
【0089】
表3に示したように、締付け・緩め試験では、6回目までは焼付きの発生は無かった。しかし、7〜8回目に軽度の焼付きが発生したため、手入れを続けたが、9回目で激しい焼付きを生じたため試験を終了した。固体潤滑被膜中に平均粒径15〜60μmの二硫化モリブデンが少ないと耐焼付き性が不十分となった。
【0090】
【比較例3】
表1に示した組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックスの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、化成処理により22μmの燐酸マンガン被膜を形成する下地処理を行った後、その上に二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ25μmの固体潤滑被膜を形成した。塗布液は、溶媒(エタノール:トルエン=50:50、80質量%)にポリアミドイミド樹脂と平均粒径7.0 μmの二硫化モリブデン粉末 (体積率95%) を投入し、攪拌した後、静置して二硫化モリブデン粉末を凝集させた。この塗布液をボックスの接触表面に塗布した後、雰囲気炉内で大気中260 ℃に30分加熱して、塗膜を乾燥・硬質化させ、固体潤滑被膜を形成した。
【0091】
被膜分析の結果、この固体潤滑被膜の厚み方向断面における相当径15〜60μmの二硫化モリブデン粒子の面積率は95%であることを確認した。
ピンの接触表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
【0092】
表3に示したように、締付け・緩め試験では、表6の5回目までは焼付きの発生は無かった。しかし、6〜7回目に軽度の焼付きが発生したため、手入れを続けたが、8回目で激しい焼付きを生じたため試験を終了した。固体潤滑被膜中において平均粒径15〜60μmの二硫化モリブデンが95%と過剰に存在するため、固体潤滑被膜の強度と密着性が極端に低下し、耐焼付き性が不足したものと考えられる。
【0093】
【発明の効果】
本発明に係る固体潤滑被膜を有する鋼管用ねじ継手は、コンパウンドグリスなどの重金属粉を含む液体潤滑剤を用いることなく、繰返しの締付け・緩めの際の焼付きの発生を安定して確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼管出荷時の鋼管とねじ継手部材の組立構成を模式的に示す概要図である。
【図2】本発明の鋼管用ねじ継手の締付け部を模式的に示す概要図である。
【図3】固体潤滑被膜中の固体潤滑剤の相当径と耐焼付き性との関係を示す概要図である。
【図4】固体潤滑被膜中の相当径15〜60μmの固体潤滑剤の面積率と耐焼付き性との関係を示す概要図である。
【符号の説明】
A:鋼管、 B:ねじ継手部材、
1:ピン、 2:ボックス、
3:ねじ部、4:ねじ無し金属接触部、
5:ショルダー部。

Claims (5)

  1. ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンおよびボックスから構成される鋼管用ねじ継手であって、
    ピンおよびボックスの少なくとも一方の接触表面に、固体潤滑剤と結合剤とからなる固体潤滑被膜を有し、固体潤滑被膜の厚み方向断面において、平均粒径が 15 μmより小さい固体潤滑剤の一次粒子が凝集してなる等面積相当径15〜60μmの固体潤滑剤の二次粒子が占める面積率が5〜90%であることを特徴とする鋼管用ねじ継手。
  2. 固体潤滑剤が二硫化モリブデン、二硫化タングステン、有機モリブデン化合物、黒鉛、窒化ホウ素、およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれた1種または2種以上である請求項1記載の鋼管用ねじ継手。
  3. 結合剤が有機樹脂または無機高分子である請求項1または2記載の鋼管用ねじ継手。
  4. 前記固体潤滑被膜と前記接触表面との間に、下地処理層として多孔質被膜層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  5. 多孔質被膜層が、燐酸塩化成処理被膜または亜鉛もしくは亜鉛合金被膜である請求項4記載の鋼管用ねじ継手。
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