JP4027517B2 - 構造物の補強方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、構造物に繊維材または繊維強化材からなる補強材を貼り付けることで、その構造物を補強する、構造物の補強方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来、構造物として、例えば、橋や高架道路等のコンクリート桁あるいはプレストレストコンクリート桁を後から補強するにあたって、その桁の下面等に、補強材としての炭素繊維シートを何枚も貼り付けることで、その桁を補強することがあった。
【0003】
しかし、この補強方法を、例えば、プレストレストコンクリート桁に用いた場合は、炭素繊維シートを桁の断面係数の増加分にしか反映できず、炭素繊維シートを有効に利用しているとはいえなかった。すなわち、炭素繊維シートの設計引張強度が24,490キログラム/平方センチメートルであるのに対して、桁の破断時における炭素繊維シートの引張応力が、例えば、5,750キログラム/平方センチメートルというように、設計引張強度の1/4程度しか使用しておらず、この炭素繊維シートの強度を十分に活かしていなかった。
【0004】
この発明は、上記した従来の欠点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、補強材の強度を活かして、構造物を効果的に補強することができる、構造物の補強方法を提供することにある。
【0005】
【0006】
【0007】
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る構造物の補強方法は、前記目的を達成するために、次の構成からなる。すなわち、
請求項1に記載の発明に係る構造物の補強方法は、構造物に繊維材または繊維強化材からなる補強材を貼り付けることで、その構造物を補強する方法であって、前記補強材を緊張して、その緊張した補強材を前記構造物の貼付面に貼り付けることで、前記構造物に圧縮応力を与えるものである。前記補強材の緊張にあたっては、前記補強材を、その一端側を前記構造物に取り付けるとともに、前記貼付面に面して配備し、前記補強材の他端側を、前記貼付面から離れるように延ばし、その延びた先端部を前記貼付面から離れるように延ばす方向に引っ張る。こうして、構造物は、繊維材または繊維強化材からなる補強材が貼り付けられることによりその補強材の追加分によって、補強されるだけでなく、構造物自身に圧縮応力が与えられることにより、直接的に補強される。ここにおいて、補強材の他端側が、貼付面から離れるように延びて引っ張られることで、この補強材に緊張力が付与される。そして、この補強材を緊張する作業を、補強材の他端側の、貼付面から離れるように延びた先端部を引っ張ることで、構造物から離れた作業の行い易い場所を選んで安全に行うことができる。なお、補強材の一端側においては、その一端側を、構造物に、引っ張ることができないように固定的に取り付けてもよく、また、引っ張り可能に取り付けてもよい。このように、補強材の一端側を、構造物に引っ張り可能に取り付けた場合には、補強材の他端側だけでなく、一端側をもまた、引っ張ることで、その補強材を緊張してもよい。
【0009】
また、請求項2に記載の発明に係る構造物の補強方法のように、前記補強材の他端側は、ほぼ直角に折れ曲がって、前記貼付面から離れるように延びてもよい。
【0010】
また、請求項3に記載の発明に係る構造物の補強方法は、構造物に繊維材または繊維強化材からなる補強材を貼り付けることで、その構造物を補強する方法であって、前記構造物は、コンクリート桁からなり、前記補強材を緊張して、その緊張した補強材を前記コンクリート桁の下面の貼付面に貼り付けることで、前記コンクリート桁に圧縮応力を与えるものである。前記補強材の緊張にあたって、前記補強材を、その一端側を前記コンクリート桁に取り付けるとともに、前記貼付面に面して配備し、前記補強材の他端側を、前記貼付面から離れるように下方に延ばし、その延びた先端部を、前記コンクリート桁が載った橋脚の側面に固定された反力台に取り付けられた引張手段により、下方に引っ張る。こうして、コンクリート桁は、繊維材または繊維強化材からなる補強材が貼り付けられることによりその補強材の追加分によって、補強されるだけでなく、コンクリート桁自身に圧縮応力が与えられることにより、直接的に補強される。ここにおいて、補強材の他端側が、貼付面から離れるように下方に延びて引っ張られることで、この補強材に緊張力が付与される。そして、この補強材を緊張する作業を、補強材の他端側の、貼付面から離れるように下方に延びた先端部を引っ張ることで、コンクリート桁から離れた作業の行い易い場所、例えば、地面に近い場所で安全に行うことができる。さらに、橋脚の側面に固定された 反力台を介して、補強するコンクリート桁以外の橋脚から反力を取ることで、一層安全に作業を行うことができる。なお、補強材の一端側においては、その一端側を、コンクリート桁に、引っ張ることができないように固定的に取り付けてもよく、また、引っ張り可能に取り付けてもよい。このように、補強材の一端側を、コンクリート桁に引っ張り可能に取り付けた場合には、補強材の他端側だけでなく、一端側をもまた、引っ張ることで、その補強材を緊張してもよい。
【0011】
また、請求項4に記載の発明に係る構造物の補強方法のように、前記補強材の他端側は、方向変換具を介すことで、ほぼ直角に折れ曲がって、前記貼付面から離れるように下方に延びてもよい。ここで、前記方向変換具は、前記コンクリート桁の自重を利用するようにして、そのコンクリート桁と前記橋脚との間に突っ張るようにして取り付けられる。このように、方向変換具の取り付けにあたって、補強する構造物であるコンクリート桁の自重を利用することで、アンカー等をコンクリート桁に埋め込む必要がなくなり、コンクリート桁を痛めることがない。
【0012】
【0013】
また、請求項5に記載の発明に係る構造物の補強方法のように、前記補強材の貼り付けにあたって、前記補強材の中間部分の適宜箇所を前記貼付面に押し付けるようにして、前記補強材を前記貼付面に貼り付けてもよい。こうして、補強材を構造物の貼付面に貼り付ける際に、補強材の中間部分の適宜箇所が、貼付面に押し付けられるので、補強材の中間部分が貼付面から浮くことなく、補強材は、貼付面に貼り付けられる。
【0014】
【0015】
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明に係る構造物の補強方法を、コンクリート構造物に適用した実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1ないし図3は、参考例ではあるが、構造物の補強方法および、補強材の貼付装置の第一の実施の形態を示す。この補強方法は、繊維材からなる補強材としての炭素繊維シート1を緊張して、その緊張した炭素繊維シート1を、構造物としての、例えば、橋や高架道路等のコンクリート桁2の貼付面2aに貼り付けることで、そのコンクリート桁2に圧縮応力を与えるものである。図中符号3および4は、コンクリート桁2の両端部分のそれぞれを支持する、ローラー支点およびヒンジ支点である。
【0018】
炭素繊維シート1の緊張にあたっては、炭素繊維シート1を、その一端側1aをコンクリート桁2の長手方向の一端側2bの下面側に取り付けるとともに、コンクリート桁2の下面の貼付面2aに面して配備し、炭素繊維シート1の他端側1bを平板矩形状の支持板5に貼り付けるなどして取り付ける。そして、その支持板5を、コンクリート桁2の長手方向の他端側2cの下面側に固定した、移動手段としてのジャッキ6により、炭素繊維シート1の一端側1aから他端側1bに向かう方向に移動させることで、その炭素繊維シート1の他端側1bを引っ張り、炭素繊維シート1を緊張させる。ここで、ジャッキ6は、コンクリート桁2へ、そのコンクリート桁2にアンカー7により固定された平板矩形状の固定板8を介して、固定される。このように、支持板5、ジャッキ6および固定板8は、補強材としての炭素繊維シート1を緊張する緊張装置9となっている。また、図示実施の形態においては、炭素繊維シート1の一端側1aもまた、他端側1bと同様の、支持板10、ジャッキ11、固定板12およびアンカー13を介して、コンクリート桁2に取り付けられており、その一端側1aもまた、支持板10を、ジャッキ11により、他端側1bから一端側1aに向かう方向に移動させることで、炭素繊維シート1の一端側1aもまた引っ張ることができるようになっている。したがって、これら支持板10、ジャッキ11および固定板12もまた、補強材としての炭素繊維シート1を緊張する緊張装置14となっている。当然ながら、炭素繊維シート1の一端側1aもしくは他端側1bのいずれか一方を、引っ張ることができないように、コンクリート桁2に、固定的に取り付けても構わない(後述する第二および第三の実施の形態についても同様である。)
また、コンクリート桁2の貼付面2aへの炭素繊維シート1の貼り付けにあたっては、予め、コンクリート桁2の貼付面2aまたは(および)炭素繊維シート1に、エポキシ樹脂等の接着剤を塗布しておくことで、その接着剤を介して、炭素繊維シート1は、貼付面2aに貼り付けられる。
【0019】
このとき、コンクリート桁2の貼付面2aと、その貼付面2aに面して配備した炭素繊維シート1との間に隙間があり、接着剤の効きが十分でない場合には、貼付装置15により、炭素繊維シート1の中間部分1cの適宜箇所(例えば、2〜3mピッチで、炭素繊維シート1の緊張方向に並ぶ複数箇所)を貼付面2aに押し付けるようにして、炭素繊維シート1を貼付面2aに貼り付ける。この貼付装置15は、図3に示されるように、ベース部材15aと、押え部材15bと、付勢手段15cとからなる。ベース部材15aは、コンクリート桁2の下側フランジ部2dを囲むように、縦断面略U字形状をしており、ベース部材15aの両先端部分15d、15dは、内側に倒れるように回動可能に形成されている(その回動する構造は図示せず)。そして、ベース部材15aは、両先端部分15d、15dが、コンクリート桁2の側面を挟むようにして、そのコンクリート桁2に取り付けられ、また、両先端部分15d、15dが、互いに離れるように回動することで、コンクリート桁2から取り外し可能となっている。押え部材15bは、コンクリート桁2の貼付面2aに面して配備された炭素繊維シート1の中間部分1cに対向して、炭素繊維シート1の、その緊張方向に直交する幅方向に、その炭素繊維シート1を横切るように延びた角材状のものからなる。付勢手段15cは、ベース部材15aの略U字形状の下部部分を構成する下部片15eと押え部材15bとの間に位置し、下部片15eに支持されて押え部材15bを炭素繊維シート1側に付勢するものであり、例えば、ターンバックルやジャッキあるいはスプリング等からなっている。
【0020】
こうして、緊張した炭素繊維シート1を、コンクリート桁2の貼付面2aに貼ることができ、接着剤の養生期間終了後に、炭素繊維シート1は、支持板5、10との付け根部分で切断等される。ここで、炭素繊維シート1は、一枚だけとは限らず、コンクリート桁2を補強する程度に応じて、複数枚が、同様の手順を繰り返すことで、コンクリート桁2の貼付面2aに、積み重なるように貼り付けられる。そして、貼付装置15および緊張装置9、14が、コンクリート桁2から取り外される。こうして、コンクリート桁2の特に下部側に圧縮応力が与えられる。
【0021】
次に、以上の構成からなる構造物の補強方法および、補強材の貼付装置の作用効果について説明する。コンクリート桁2は、炭素繊維シート1が貼り付けられることにより、その炭素繊維シート1の追加分によって、補強されるだけでなく、緊張された炭素繊維シート1により、コンクリート桁2自身に圧縮応力が与えられて、直接的に補強される。こうして、炭素繊維シート1の強度を活かして、コンクリート桁2に圧縮応力が与えられることにより、コンクリート桁2を効果的に補強することができる。
【0022】
また、炭素繊維シート1の、緊張装置9による緊張にあたっては、炭素繊維シート1の他端側1bが、支持板5に貼り付けなどによって取り付けられることで、その他端側1bは、支持板5を介して、ジャッキ6により、幅全体が安定して容易に引っ張られて、この炭素繊維シート1に緊張力が容易に付与される。さらに、緊張装置9は、支持板5、ジャッキ6および固定板8という簡単な構造からなっており、その簡単な構造の緊張装置9によって、炭素繊維シート1に緊張力が付与される。また、炭素繊維シート1の一端側1aもまた、他端側1bと同様に、緊張装置14により、引っ張ることが可能となっており、炭素繊維シート1の他端側1bだけでなく一端側1aもまた引っ張ることで、炭素繊維シート1に緊張力を付与することもできる。
【0023】
また、炭素繊維シート1をコンクリート桁2の貼付面2aに貼り付ける際に、貼付装置15を使用することにより、そのベース部材15aに支持された押え部材15bが、付勢手段15cにより炭素繊維シート1側に付勢されて、炭素繊維シート1の中間部分1cの適宜箇所が、貼付面2aに押し付けられる。したがって、炭素繊維シート1の中間部分1cが貼付面2aから浮くことなく、炭素繊維シート1は、貼付面2aに貼り付けられ、その貼り付けは確実となる。
【0024】
図4および図5は、参考例ではあるが、構造物の補強方法の第二の実施の形態を示す。この補強方法は、第一の実施の形態に示す補強方法とは、炭素繊維シート1を緊張する方法が異なるが、他は同一であり(但し、貼付装置15は、 図示せず、省略する。)、以下に、その異なる部分を主に説明する。
【0025】
炭素繊維シート1の緊張にあたっては、炭素繊維シート1を、その一端側1aをコンクリート桁2の長手方向の一端側2bの下面側に取り付けるとともに、コンクリート桁2の下面の貼付面2aに面して配備し、炭素繊維シート1の他端側1bをコンクリート桁2の長手方向の他端側2cの下面側に回転可能に支持されたローラー21に巻く。そして、この炭素繊維シート1の他端側1bをローラー21に巻き付けるように、そのローラー21を回転することで、炭素繊維シート1の他端側1bを引っ張り、この炭素繊維シート1を緊張させる。ここで、ローラー21は、そのコンクリート桁2にアンカー22により固定された断面略コの字状のフレーム23に回転可能に支持されており、こうして、このローラー21は、フレーム23を介すことで、コンクリート桁2に回転可能に支持されている。そして、フレーム23には、ローラー21と一体となって回転するように、歯車24、24が取り付けられている。そして、この歯車24は、モーターや人力等の動力により作動する駆動部(図示せず)により、回転駆動するようになっており、この回転駆動する歯車24と一体となってローラー21が回転することとなる。こうして、歯車24および駆動部は、ローラー21を回転させる駆動手段となっている。また、このように、フレーム23、ローラー21および駆動手段は、補強材としての炭素繊維シート1を緊張する緊張装置25となっている。また、図示実施の形態においては、炭素繊維シート1の一端側1aもまた、他端側1bと同様の、ローラー26、フレーム27およびアンカー28を介して、コンクリート桁2に取り付けられている。そして、炭素繊維シート1の他端側1bと同様に、歯車を含む駆動手段により、炭素繊維シート1の一端側1aをローラー26に巻き付けるように、ローラー26を回転することで、その一端側1aもまた引っ張ることができるようになっている。したがって、これらフレーム27、ローラー26および駆動手段もまた、第1の実施の形態と同様に、補強材としての炭素繊維シート1を緊張する緊張装置30となっている。
【0026】
以上の構成からなる構造物の補強方法の作用効果は、第一の実施の形態とほぼ同様であるが、この第二の実施の形態においては、炭素繊維シート1の緊張にあたって、この炭素繊維シート1の他端側1bがローラー21に巻き付けられるように、駆動手段を通じてローラー21を回転するだけで、炭素繊維シート1の他端側1bは、容易に引っ張られて、この炭素繊維シート1に緊張力が容易に付与される。
【0027】
図6は、本発明に係る構造物の補強方法の実施の形態(第三の実施の形態)を示す。この補強方法は、第一の実施の形態に示す補強方法とは、炭素繊維シート1を緊張する方法が異なるが、他はほぼ同一であり(但し、貼付装置15は、図示せず、省略する。)、以下に、その異なる部分を主に説明する。
【0028】
炭素繊維シート1の緊張にあたっては、炭素繊維シート1を、その一端側1aをコンクリート桁2の長手方向の一端側2bの下面側に取り付けるとともに、コンクリート桁2の下面の貼付面2aに面して配備し、炭素繊維シート1の他端側1bをコンクリート桁2の長手方向の他端側2cで貼付面2aから離れるように延ばし、その延びた先端部1dを引っ張り、炭素繊維シート1を緊張させる。具体的には、コンクリート桁2の長手方向の他端側2cには、炭素繊維シート1の延びる方向を変換するための、方向変換具31が、補強する構造物であるコンクリート桁2の自重を利用するようにして、コンクリート桁2とそのコンクリート桁2が載った橋脚32との間にジャッキ構造等で突っ張るようにして取り付けられている。そして、炭素繊維シート1は、その他端側1bが、方向変換具31のローラー31aを介すことで、ほぼ直角に折れ曲がって、貼付面2aから離れるように下方に延びている。さらに、炭素繊維シート1の他端側1bは、その延びた先端部1dが、補強するコンクリート桁2以外の構造物である橋脚32の側面に固定された反力台33に取り付けられた引張手段としての、例えばジャッキ34により、下方に引っ張られて、炭素繊維シート1は緊張される。こうして、方向変換具31、反力台33およびジャッキ34は、補強材としての炭素繊維シート1を緊張する緊張装置35となっている。また、炭素繊維シート1の一端側1aは、コンクリート桁2に取り付けられた他の方向変換具36および、他の引張手段としての、例えば他のジャッキ37を介して、コンクリート桁2に取り付けられており、その一端側1aは、方向変換具36のローラー36aを介すことで、ほぼ直角に折れ曲がって下方に延びている。そして、その一端側1aの延びた先端部1eを、ジャッキ37により、下方に引っ張ることができるようになっている。したがって、これら方向変換具36およびジャッキ37もまた、第1の実施の形態と同様に、補強材としての炭素繊維シート1を緊張する緊張装置38となっている。
【0029】
以上の構成からなる構造物の補強方法の作用効果は、第一の実施の形態と同様であるが、この第三の実施の形態においては、炭素繊維シート1の緊張にあたって、その緊張する作業を、炭素繊維シート1の他端側1bの、貼付面2aから離れるように延びた先端部1dを引っ張ることで、コンクリート桁2から離れた作業の行い易い場所、例えば、地面に近い場所で安全に行うことができる。さらに、橋脚32に反力台33を取り付けて、その反力台33を介して、補強するコンクリート桁2以外の構造物である橋脚32から反力を取ることで、一層安全に作業を行うことができる。また、方向変換具31の取り付けにあたって、補強する構造物であるコンクリート桁2の自重を利用することで、アンカー等をコンクリート桁2に埋め込む必要がなくなり、コンクリート桁2を痛めることがない。
【0030】
図7は、参考例ではあるが、構造物の補強方法の第四の実施の形態を示す。この補強方法は、第一の実施の形態に示す補強方法とは、炭素繊維シート1の緊張方法が異なるが、他はほぼ同一であり(但し、貼付装置15は、図示せず、省略する。)、以下に、その異なる部分を主に説明する。
【0031】
炭素繊維シート1の緊張にあたっては、炭素繊維シート1を、緊張方向の両端部1f、1fを固定するようにして緊張した状態で保持した、保持具41を用意しておくことで、この炭素繊維シート1は、緊張された状態に保持される。ここで、保持具41は、平板状の基台41aと、その基台41aの両端から上方に向かって立設する取付部41b、41bとからなる。そして、炭素繊維シート1は、緊張した状態で、その両端部1f、1fが保持具41の取付部41b、41bに貼り付けなどによって固定されるようにして、この保持具41に取り付けられている。
【0032】
そして、炭素繊維シート1をコンクリート桁2の貼付面2aに宛てがうように、前記保持具41を配備するとともに、炭素繊維シート1を貼付面2aに、エポキシ樹脂等の接着剤により貼り付ける。この接着剤の養生期間終了後に、炭素繊維シート1は、保持具41の取付部41b、41bとの付け根部分で切断等されて、この炭素繊維シート1から、保持具41が取り除かれる。ここで、一枚の炭素繊維シート1は、コンクリート桁2の貼付面2aの一部を覆うのみであるが、複数枚の炭素繊維シート1、1を、順次、貼付面2aに貼り付けることで、貼付面2a全体が、これら炭素繊維シート1、1で覆われる。
【0033】
以上の構成からなる構造物の補強方法の作用効果は、第一の実施の形態とほぼ同様であるが、この第四の実施の形態においては、緊張した炭素繊維シート1が取り付けられる、コンクリート桁2とは独立した保持具41を、使用することで、炭素繊維シート1を緊張する作業と、コンクリート桁2の貼付面2aへの炭素繊維シート1の貼り付け作業とを独立して行うことができる。
【0034】
従って、例えば、炭素繊維シート1を緊張する作業を工場で行い、コンクリート桁2の貼付面2aへの炭素繊維シート1の貼付作業を現場で行うことができる。また、現場で、炭素繊維シート1を緊張する作業も行う場合には、コンクリート桁2の貼付面2aに炭素繊維シート1を何枚も重ねて貼り付ける際に、保持具41を複数使用することで、貼付面2aへの炭素繊維シート1の貼り付け作業と、次に貼り付ける炭素繊維シート1を緊張する作業とを並行して行うこともできる。このように、緊張した炭素繊維シート1が取り付けられる保持具41を使用することで、その炭素繊維シート1を緊張する作業と、コンクリート桁2の貼付面2aへの炭素繊維シート1の貼り付け作業とを独立して行うことができるので、それら緊張作業と貼り付け作業とを効率的に行うことができる。
【0035】
また、一枚の炭素繊維シート1は、コンクリート桁2の貼付面2aの一部を覆うのみであるので、貼付面2aが湾曲している等平面でない場合であっても、炭素繊維シート1は、貼付面2aに容易に倣って、貼付面2aの一部を覆うことができる。したがって、炭素繊維シート1を、コンクリート桁2の貼付面2aにしっかりと貼り付けることができる。
【0036】
図8は、参考例ではあるが、構造物の補強方法の第五の実施の形態を示す。この補強方法は、第一の実施の形態に示す補強方法と比較すると、補強材として、炭素繊維シート1の代わりにプレート状に形成された炭素繊維プレート51を使用する点、押えシート52が追加される点が異なるが、他は同一であり、以下に、その異なる部分を主に説明する。
【0037】
炭素繊維プレート51は、炭素繊維シートを、例えば、八枚程度、エポキシ樹脂等の樹脂を含浸させながら層状に重ねたものである。この炭素繊維プレート51は、緊張した状態で、図示実施の形態においては、二本が、コンクリート桁2の幅方向に並ぶようにして、そのコンクリート桁2の貼付面2aに貼り付けられる。
【0038】
押えシート52は、繊維シートその他のシート材からなり、炭素繊維プレート51、51を貼付面2aに貼り付けた後に、その炭素繊維プレート51、51に密着してその炭素繊維プレート51、51を覆うようにして、コンクリート桁2の下面に、エポキシ樹脂等の接着剤により貼り付けられる。
【0039】
以上の構成からなる構造物の補強方法の作用効果は、第一の実施の形態とほぼ同様であるが、この第五の実施の形態においては、炭素繊維プレート51、51がプレート状であるために、貼付面2aが例えば湾曲している等平面でないとか、接着面積が小さくなる等の理由により、貼付面2aへの炭素繊維プレート51、51の貼り付けが十分でない場合がある。かかる場合であっても、押えシート52を、炭素繊維プレート51、51に密着してその炭素繊維プレート51、51を覆うようにして、コンクリート桁2の下面に貼り付けることで、貼付面2aへの炭素繊維プレート51、51の貼り付けの弱さを補うことができ、その貼り付けを確実にすることができる。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。例えば、炭素繊維シート1や炭素繊維プレート51は、コンクリート桁2の下面に貼り付けられなくとも、側面や上面に貼り付けられてもよい。また、補強される構造物は、コンクリート桁2だけでなく、橋脚、梁、柱、床版、その他のコンクリート構造物(鉄筋コンクリート構造物とかプレストレストコンクリート構造物等)であってもよく、また、コンクリート製の構造物に限定されるものでもない。また、第一ないし第四の実施の形態において、炭素繊維シート1の代わりに炭素繊維プレートを使用してもよい。また、繊維材からなる補強材は、炭素繊維シート1あるいは炭素繊維プレート51でなくとも、ガラス繊維、アラミド繊維等の、繊維シートあるいは繊維プレートであってもよい。また、補強材は、繊維材からなるものでなくとも、ガラス繊維強化プラスチック、その他の繊維強化プラスチック等の、繊維強化材からなるものであってもよい。
【0041】
また、第一の実施の形態において、炭素繊維シート1を支持板5、10に取り付ける方法として、貼り付けだけでなく、くさび方式、モルタル充填方式によって取り付けてもよい。
【0042】
また、第三の実施の形態において、炭素繊維シート1の他端側1bの、貼付面2aから離れるように延びた他端側1bの先端部1dを引っ張るには、反力台33およびジャッキ34を使用しなくとも、第一または第二の実施の形態に示す緊張装置9、25を橋脚32に固定するようにして使用してもよい。
【0043】
また、第四の実施の形態における保持具41は、図9に示すように、基台41aが、中央から両端に延びるにつれて、上方に向かうように傾斜して形成され、その基台41aの両端が、炭素繊維シート1が固定される取付部41b、41bとなっていてもよい。
【0044】
また、第四の実施の形態における保持具41は、図10または図11に示すように、その保持具41自身に、炭素繊維シート1に緊張力を付与する緊張構造を備えていてもよい。すなわち、図10にあっては、基台41aは、二つの基部材41c、41cからなり、これら基部材41c、41cは、それらの一方端が、互いにヒンジ41eで結合されて、V字形状に形成されている。そして、これら基部材41c、41cの他方端が、炭素繊維が貼り付けられる取付部41b、41bとなっている。また、突っ張り手段としての、例えばジャッキ41dが、二つの基部材41c、41cの中間部分をつなぐように取り付けられる。こうして、炭素繊維シート1が取り付けられた保持具41の基部材41c、41cを互いに開くように、ジャッキ41dを突っ張るように操作することにより、取付部41b、41bは互いに離れて、炭素繊維シート1に緊張力が付与される。また、図11にあっては、基台41aは、ガイド孔41fを備えた第1の基部材41gと、スライド可能となるようガイド孔に挿通されて案内される第2の基部材41hとからなる。そして、突っ張り手段としての、例えばジャッキ41dが、第1および第2の基部材41g、41hの端部から上方に向かって立設する取付部41b、41bの中間部分をつなぐように取り付けられる。こうして、炭素繊維シート1が取り付けられた保持具41の基部材41g、41hを互いにスライドさせて離すように、ジャッキ41dを突っ張るように操作することで、取付部41b、41bは互いに離れて、炭素繊維シート1に緊張力が付与される。
【0045】
また、第五の実施の形態において、コンクリート桁2の貼付面2aに貼り付けられる炭素繊維プレート51は、ニ本でなくとも、一本あるいは三本以上であってもよい。
【0046】
【発明の効果】
以上、詳述したところから明らかなように、この発明に係る構造物の補強方法によれば、以下の効果がある。
【0047】
請求項1および2に記載された構造物の補強方法によれば、繊維材または繊維強化材からなる補強材の強度を活かして、構造物に圧縮応力が与えられることにより、構造物を効果的に補強することができる。そして、補強材を緊張する際に、その緊張する作業を、構造物から離れた作業の行いやすい場所で行うことで、その緊張を安全に行うことができる。
【0048】
【0049】
また、請求項3に記載された構造物の補強方法によれば、繊維材または繊維強化材からなる補強材の強度を活かして、コンクリート桁に圧縮応力が与えられることにより、コンクリート桁を効果的に補強することができる。そして、補強材を緊張する際に、その緊張する作業を、コンクリート桁から離れた作業の行い易い場所、例えば、地面に近い場所で安全に行うことができる。さらに、橋脚の側面に固定された反力台を介して、補強するコンクリート桁以外の橋脚から反力を取ることで、一層安全に作業を行うことができる。
【0050】
また、請求項4に記載された構造物の補強方法によれば、方向変換具の取り付けにあたって、補強する構造物であるコンクリート桁の自重を利用することで、アンカー等をコンクリート桁に埋め込む必要がなくなり、コンクリート桁を痛めることがない。
【0051】
【0052】
また、請求項5に記載された構造物の補強方法によれば、補強材を構造物の貼付面に貼り付ける際に、補強材の中間部分が貼付面から浮くことなく、補強材を、貼付面に貼り付けることができ、その貼り付けを確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例ではあるが、構造物の補強方法および、補強材の貼付装置の第一の実施の形態の、正面図である。
【図2】 同じく、要部拡大底面図である。
【図3】 図1における、A−A線による拡大断面図である。
【図4】 参考例ではあるが、構造物の補強方法の第二の実施の形態の、正面図である。
【図5】 同じく、要部拡大底面図である。
【図6】 この発明に係る構造物の補強方法の実施の形態(第三の実施の形態)の、正面図である。
【図7】 参考例ではあるが、構造物の補強方法の第四の実施の形態の、正面図である。
【図8】 参考例ではあるが、構造物の補強方法の第五の実施の形態の、図3相当の拡大断面図である。
【図9】 参考例ではあるが、構造物の補強方法の他の実施の形態の、保持具を示す正面図である。
【図10】 参考例ではあるが、構造物の補強方法のさらに他の実施の形態の、保持具を示す正面図である。
【図11】 参考例ではあるが、構造物の補強方法のさらに他の実施の形態の、保持具を示す正面図である。
【符号の説明】
1 炭素繊維シート(補強材) 1a 一端側
1b 他端側 1c 中間部分
1d 先端部
2 コンクリート桁(構造物) 2a 貼付面
31 方向変換具 32 橋脚
33 反力台 34 ジャッキ(引張手段)
Claims (5)
- 構造物に繊維材または繊維強化材からなる補強材を貼り付けることで、その構造物を補強する、構造物の補強方法であって、
前記補強材を緊張して、その緊張した補強材を前記構造物の貼付面に貼り付けることで、前記構造物に圧縮応力を与えるものであり、
前記補強材の緊張にあたって、前記補強材を、その一端側を前記構造物に取り付けるとともに、前記貼付面に面して配備し、前記補強材の他端側を、前記貼付面から離れるように延ばし、その延びた先端部を前記貼付面から離れるように延ばす方向に引っ張ることを特徴とする、構造物の補強方法。 - 請求項1に記載の、構造物の補強方法であって、
前記補強材の他端側は、ほぼ直角に折れ曲がって、前記貼付面から離れるように延びることを特徴とする、構造物の補強方法。 - 構造物に繊維材または繊維強化材からなる補強材を貼り付けることで、その構造物を補強する、構造物の補強方法であって、
前記構造物は、コンクリート桁からなり、
前記補強材を緊張して、その緊張した補強材を前記コンクリート桁の下面の貼付面に貼り付けることで、前記コンクリート桁に圧縮応力を与えるものであり、
前記補強材の緊張にあたって、前記補強材を、その一端側を前記コンクリート桁に取り付けるとともに、前記貼付面に面して配備し、前記補強材の他端側を、前記貼付面から離れるように下方に延ばし、その延びた先端部を、前記コンクリート桁が載った橋脚の側面に固定された反力台に取り付けられた引張手段により、下方に引っ張ることを特徴とする、構造物の補強方法。 - 請求項3に記載の、構造物の補強方法であって、
前記補強材の他端側は、方向変換具を介すことで、ほぼ直角に折れ曲がって、前記貼付面から離れるように下方に延び、
前記方向変換具は、前記コンクリート桁の自重を利用するようにして、そのコンクリート桁と前記橋脚との間に突っ張るようにして取り付けられることを特徴とする、構造物の補強方法。 - 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の構造物の補強方法であって、
前記補強材の貼り付けにあたって、
前記補強材の中間部分の適宜箇所を前記貼付面に押し付けるようにして、前記補強材を前記貼付面に貼り付けることを特徴とする、構造物の補強方法。
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