JP4016573B2 - 延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板およびその製造方法と、耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法 - Google Patents

延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板およびその製造方法と、耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス加工や曲げ加工などによって成形される高強度構造部材の素材として好適な、延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板およびその製造方法と、耐衝撃特性を有する構造部材製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車における衝突安全性の向上と軽量化に対応して、構造部材の高張力化が進められている。その際、高強度鋼板を自動車の構造部材に適用するにあたっていくつかの課題が指摘されている。
【0003】
一般的に鋼板の強度と成形性は相反する関係にあり、鋼板の強度が高くなるにつれてプレス成形が困難になり、高強度鋼板の適用が可能な部材が制限されるという問題がある。この課題に対しては、残留オーステナイトのTRIP(Transformaion Induced Plasticity)効果を利用した、強度−延性バランスに優れた鋼板が開発されている。
【0004】
例えば、特開平5−117761号公報には、化学組成が質量%で(以下、化学組成の%表示は質量%を意味する)、C:0.08〜0.30%、Mn:1.0〜2.0%、Si:0.5〜2.5%、Al:0.5〜1.5%を含有する熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板を特定条件で焼鈍することにより、残留オーステナイト相を有する結晶組織を備えて、強度と加工成形性を兼備した高強度薄鋼板の製造方法が開示されている。
【0005】
また、鋼板の強度を高めるにつれて静動比が小さくなり、高強度鋼板を使用した割には耐衝突特性が向上しない、という問題がある。ここで、静動比とは、静的引張試験(歪み速度が10-4/秒前後)での強度に対する、自動車が衝突する際に構造部材に作用する歪み速度(103 /秒前後)における強度の比を意味し、静動比が小さい鋼では静的強度が高くても高速変形時の強度が小さい。この課題に対しては、動的引張試験における強度もしくは静動比を高める方法が開示されている。
【0006】
例えば、特開平11−80879号公報には、C:0.04〜0.30%、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.0%含有し、フェライトと3体積%以上のオーステナイトを含む第2相からなり、予変形を加える前後におけるオーステナイト相の体積率変化と、予変形した鋼板の準静的変形強度と動的変形強度の差を特定した、動的変形特性に優れた加工誘起変態型高強度鋼板が開示されている。
【0007】
また、特開平7−34186号公報には、C:0.01%以下、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜3.0%、Al:0.02〜0.06%、P:0.15%以下を含有し、鋼板表面から50μmまでの領域がフェライト組織中にベイナイトまたはマルテンサイトを含む複合組織、それを除く領域がフェライト単相組織であり、成形、塗装焼付け後における鋼板の表面から1/4t(t:板厚)までの平均硬度が、板厚中央部(1/4t〜3/4t)の平均硬度の1.5倍以上の硬度になる組織を有する、耐衝撃性に優れる成形加工用薄鋼板が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、強度−延性バランスに優れた鋼板や静動比が高い鋼板が種々開発されてはいるものの、従来の方法では必ずしも満足な解決を得るに至っていないのが現状である。すなわち、特開平5−117761号公報に開示された技術では、残留オーステナイト鋼板を得る製造方法において熱延条件には言及されておらず、焼鈍前組織が好ましくない場合などでは必ずしも良好な特性向上効果が得られないという問題がある。特に残留オーステナイト鋼板は、局部延性が乏しく、孔拡げ加工や微小曲げ加工など局部延性が左右する加工に供するにはその性能が十分ではないという問題もある。
【0009】
また、特開平11−80879号公報においては成形の影響は相当歪みで評価され、動的強度は引張試験で評価されている。しかしながら実際のプレス製品は成形時にダイ肩部で曲げ曲げ戻し変形を受けるために機械的性質が板厚方向で異なったものになること、および、衝突時に鋼板に作用する変形様式は、上記のような単純な引張変形ではないこと、などから、上記方法では十分な効果が得られない場合があるという問題がある。例えば衝突時に鋼板が曲げ変形される時には表面ひずみが特に大きくなるので、鋼板表面の強度は高いことが望ましいが、引張試験方法では、板厚方向の平均値の強度しか評価できないので、正確な評価が困難であった。
【0010】
特開平7−34186号公報では、歪み速度感受性(静動比)を向上させるには、歪み速度感受性に関して異なる特性を有する組織を同一鋼板の組織内に分布させることが有効と記載されており、鋼板表面のみに硬質な複合組織を得る方法として、焼鈍中の表面浸炭や、表層部のみを二相域温度に加熱急冷することが述べられている。しかしながらこれらの方法は、鋼板の一般的な製造プロセスにて実現することは必ずしも容易ではない。
【0011】
本発明の目的はこれらの問題点を解決し、より成形性が良好で、耐衝突特性に優れ、かつ、低コストで製造できる高強度鋼板およびその製造方法と、耐衝撃特性を有する構造部材製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
衝突安全にかかわる構造部材においては、成形した部材を高速圧壊変形した際に吸収されるエネルギが大きいことが重要となる。構造部材としては薄鋼板で製造された閉断面構造のものが多いが、これらが高速圧壊変形されると蛇腹状に圧壊したり、折れ曲がり変形などが生じて運動エネルギを吸収する。
【0013】
高速圧壊変形時に薄鋼板製の部材に生じるこのような変形様式は単純な引張変形ではなく、曲げ曲げ戻し変形(曲げ変形に続いて曲げ戻しが生じる変形)が主体になっている。曲げ曲げ戻し変形に伴って、曲げの外側面では、引張変形の後に圧縮変形が生じ、曲げの内側面では圧縮変形の後に引張変形が生じる。いずれにしても鋼板の板厚中心部よりも表面部のほうが生じる歪みが大きい。
【0014】
本発明者の研究結果によれば、鋼板表面部の硬度と板厚中心部の硬度が特定の関係を満足する場合に、衝撃変形を加えた際に部材で吸収することができる衝突吸収エネルギ吸収能を飛躍的に改善できることを知った。
【0015】
図1は、構造部材で多用されている閉断面構造をした部材を模した試験体の斜視図であり、符号1はハット断面部品、符号12は平板部品で、両者はスポット溶接で接合されている。符号2はハット断面部品1の縦壁部、符号11はその底部である。
【0016】
図2はハット断面部品1のプレス成形状態を説明するための断面図であり、符号3はポンチ、符号4はポンチ肩、符号5はダイ、符号6はダイ肩、符号7はダイ溝、符号8はしわ押さえである。
【0017】
ダイ5としわ押さえ8間で挟持された鋼板は、ポンチ3の下降に伴ってポンチ肩6の曲面に沿って曲げ変形され、ダイ溝7に引き込まれる。ポンチ肩6を通過するした曲げ部はダイ側壁により曲げ戻しされる。
【0018】
縦壁部2はダイ肩6で曲げ曲げ戻し変形が加えられることにより、厚さ方向でひずみ量が異なり、硬度差が生じる。すなわち鋼板表面部の硬度が板厚中心部に比較して高くなる。また縦壁部2には、曲げ曲げ戻し変形に加えて、ポンチとしわ押さえ間で生じる引張り力が作用するので板厚ひずみが発生し、その厚さが薄くなる。
【0019】
プレス加工された部品は、溶接などにより構造部材として組み立てられ、塗装された後、170℃で20分間程度保持される塗装焼付け処理(以下、単に「焼付け処理」とも記す)が施される。この段階で鋼中の固溶原子(C、N原子など)が析出して歪み時効が発生し、鋼の硬度が高くなる。
【0020】
本発明者の研究結果によれば、特定の条件で製造された残留オーステナイト鋼は、上記のような引張り曲げ変形を伴う予成形と焼付け処理を施すと、表面部の硬化性が従来の鋼に比較して遙かに高くなり、これを構造部材に使用すれば、高速の軸方向圧壊変形する際のエネルギ吸収能が大幅に向上し、極めて優れた耐衝撃特性を発揮することが判明した。
【0021】
そのメカニズムは必ずしも明らかでないが、以下のように推定される。一般的な、曲げ曲げ戻しでは、表面部に大きい歪みが生じて加工硬化(転位密度が上昇することよる硬化)が生じるが、バウシンガ効果により、曲げによる加工硬化と曲げ戻しによる加工硬化は加算的にはならないと考えられる。
【0022】
残留オーステナイトを含有する鋼においては、歪みの増加に伴って転位が増殖して生じる加工硬化に加え、残留オーステナイトが硬質なマルテンサイトへ変態することによる硬化も生じる。このマルテンサイトによる硬化は、バウシンガ効果とは無関係であり、曲げと曲げ戻しの両方において、硬度が加算的に増加する結果、表面部の硬度が著しく高くなるものと考えられる。
【0023】
また、所望の表面硬化特性を得るために、残留オーステナイトを5体積%以上含有し、残部は実質的にフェライトからなる結晶組織を有する鋼が好ましいことを知った。実質的にとの意味は、冷間圧延後の焼鈍において残留オーステナイトを得る際に、不可避的に生成するベイナイト組織などが混在しても構わないことを意味する。
【0024】
本発明者はさらに、残留オーステナイト鋼板の成形性、特に従来の残留オーステナイト鋼板において問題とされている局部延性不足を改善する方法について種々研究を重ねた結果、残留オーステナイト鋼板の局部延性は、特定の化学組成を有する鋼を特定の条件で製造することにより、大幅に改善できることを知った。
【0025】
すなわち、残留オーステナイトを有する冷間圧延鋼板の局部延性向上には、冷間圧延鋼板の母材となる熱延板の製造に際して熱延条件を最適化し、熱延板の結晶組織における硬質第2相の体積率を低減させること、および、硬質第2相は、ベイナイトやマルテンサイトではなくて、より軟質なパーライトにするのが重要である。さらに、熱延板において、MnやPの凝固偏析に起因する第2相のバンド状組織(点列状組織)を低減させることが冷間圧延鋼板の延性向上に有効である。
【0026】
そのメカニズムは必ずしも明らかでないが、以下のように推定される。
フェライト相と第2相の間に大きな硬度差があると、冷間圧延時に一様に塑性変形が起きず、第2相との界面でミクロボイドが発生する。第2相の硬度が著しく高かったり、第2相が点列状に存在するバンド状組織であると、多数のミクロボイドが点列状に発生し、焼鈍後も残留してしまう。製品の成形時に、大きな歪みを受けた領域では、これらのミクロボイドが連結して破断に至りやすい。すなわち、このようなミクロボイドが多い場合には局部延性が著しく損なわれ、引張試験における局部伸びが小さくなってしまう。したがい、第2相の体積率と硬度を低下させ、バンド状組織を解消することが、局部延性の改善に有効であると考えられる。
【0027】
本発明はこれらの知見を基にして完成されたものであり、その要旨は下記(1)〜(8)にある。
【0028】
(1) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含有し、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であり、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足することを特徴とする延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板
(HVs−HVc)/HV ≧0.12、
ただし、HV :上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
(2) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含み、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、さらに、Tiおよび/またはNbを、Ti:0.003〜0.05%、Nb:0.003〜0.05%、かつ、(Ti+Nb)≦0.05%を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であり、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足することを特徴とする延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板
(HVs−HVc)/HV ≧0.12、
ただし、HV :上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
(3) 化学組成がさらに、質量%で、Cu、Ni、Coからなる群の内の1種、または、2種以上を、Cu:0.2〜1.0%、Ni:0.1〜0.5%、Co:0.0005〜1.0%、かつ(Cu+Ni+Co)≦1.5%を満足する範囲で含有する、上記(1)または(2)に記載の延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板。
【0029】
(4) 上記( ) ( ) のいずれかに記載の化学組成を備えた鋼片に、熱間仕上圧延開始温度が1050℃以下、終了温度が800℃以上である熱間仕上圧延を施した後、20℃/秒以上の冷却速度で750℃まで冷却し、700℃以下、下記式で計算されるTc(℃)以上で巻取る工程を有する熱間圧延を施し、得られた鋼板を酸洗し、その後、合計圧下率が40%以上、80%以下となる範囲で冷間圧延を施し、次いで、フェライト+オーステナイトの2相温度域で30秒以上、90秒以下保持し、その後700℃以下、450℃以上の温度範囲を30℃/秒以上で冷却し、450℃以下、370℃以上の温度範囲で200秒以上、400秒以下保持した後、室温まで冷却する焼鈍を施すことを特徴とする、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上である延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板の製造方法;
Tc(℃)=430+70×Mn(%)+1000×P(%)。
(5) 熱間仕上圧延を施す前の鋼片に補助加熱を施すことを特徴とする上記(4)に記載の延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板の製造方法。
(6) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含有し、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であるとともに、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足する高張力鋼板に、曲げ曲げ戻し変形を伴う成形を施したのちに塗装焼付け処理を施すことを特徴とする耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法;
(HVs−HVc)/HV≧0.12、
ただし、HV:上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
【0030】
(7) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含み、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、さらに、Tiおよび/またはNbを、Ti:0.003〜0.05%、Nb:0.003〜0.05%、かつ、(Ti+Nb)≦0.05%を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であるとともに、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足する高張力鋼板に、曲げ曲げ戻し変形を伴う成形を施したのちに塗装焼付け処理を施すことを特徴とする耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法;
(HVs−HVc)/HV≧0.12、
ただし、HV:上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
(8) 化学組成がさらに、質量%で、Cu、Ni、Coからなる群の内の1種、または、2種以上を、Cu:0.2〜1.0%、Ni:0.1〜0.5%、Co:0.0005〜1.0%、かつ(Cu+Ni+Co)≦1.5%を満足する範囲で含有する、上記(6)または(7)に記載の高張力鋼板に、曲げ曲げ戻し変形を伴う成形を施したのちに塗装焼付け処理を施すことを特徴とする耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を詳細に述べる。
鋼板の化学組成;
C:最も強力なオーステナイト安定化元素であり、本発明の必須構成要素の一つである。焼鈍後室温において安定なオーステナイトを得るには、焼鈍温度におけるオーステナイトのC濃度を1%程度以上に高めておく必要がある。そのため鋼のC含有量を0.05%以上とする。
【0034】
C含有量を増すことにより、鋼の強度を高めることができるが、0.25%を超えて含有させると強度が高くなりすぎて塑性加工用途に適さず、溶接性も劣化する。従ってC含有量の上限は0.25%とする。好ましくは0.20%以下である。
【0035】
SiおよびAl:これらの元素はフェライト安定化元素である。これらを適量含有させることにより、焼鈍時のフェライト+オーステナイト2相域温度においてフェライトの体積率が増加し、平衡するオーステナイトのC濃度が高められて、オーステナイトが安定になるという効果が得られる。
【0036】
Siは必須元素ではないが、Siには炭化物の析出を抑制する作用があり、2相域焼鈍からの冷却時のベイナイト変態時にもオーステナイト中にCを濃縮させる効果も得られる。
【0037】
これらの効果を十分に得るために、Siおよび/またはAlを、Alはsol.Alとして、合計で1.0%以上含有させる。なお、本発明におけるAl含有量は、すべてsol.Alを意味する。これらの元素によるフェライト安定化作用は、その含有量が合計で2.5%を超えると飽和し、それを超えて含有させるのは経済性を損なうのみであるので、両元素の含有量合計で2.5%以下とする。
【0038】
Siはフェライトを強化する作用があるので鋼の強度を高めるのにも有用であるが、Si含有量が2.0%を超えると、Si添加鋼板特有の高Siスケールによる表面品質の劣化が顕著になる。これを避けるためにSi含有量は2.0%以下とする。Siには溶融亜鉛の濡れ性を阻害する作用があるので、溶融亜鉛めっきや合金化溶融亜鉛めっきを施す場合には、Si含有量を0.8%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.6%以下である。
【0039】
Alは溶融亜鉛めっき時のめっき濡れ性を阻害しないので、溶融亜鉛めっきを施す場合にはAlを含有させるのが好ましい。また、Alは製鋼時に脱酸材として使われるが、十分な脱酸効果を得るために、0.005%以上含有させる。Al含有量が2.0%を超えると鋼板中に介在物が多くなり延性を損ねるので、Al含有量は2.0%以下とする。
【0040】
Mn:オーステナイト安定化作用があり、本発明の高張力鋼板の必須元素の一つである。2相域焼鈍後の冷却過程において、オーステナイトをマルテンサイトに変態させることなく室温まで残留させるためにMn含有量は0.8%以上とする。他方、Mnは凝固時に偏析し易い元素であり、過剰に含有させると偏析してバンド状組織が生じ、延性が低下する。これを避けるためにMn含有量は2.5%以下とする。好ましくは、2.0%以下である。
【0041】
P:必須元素ではないが、フェライトに固溶して鋼を強化する作用がある。また、Cuと共存させると鋼の表層に安定な保護皮膜を形成して耐食性を改善する作用もあるので、これらの効果を得るためにPを0.01%以上含有させてもよい。しかしながらPは凝固時に偏析し易く、過剰に含有させると偏析に起因するバンド状組織が生じて延性を損なううえ、鋼の溶接性も劣化する。したがって含有させる場合でも0.05%以下とする。好ましくは0.02%以下である。
【0042】
Ti、Nb:これらの元素は必須ではないが、いずれも炭化物生成元素であり、微細な析出物を形成し、熱延板結晶組織を微細化して鋼板の強度を高める作用がある。このような効果を得るためにこれらの元素のいずれかまたは双方を、0.003%以上、0.05%以下含有させても構わない。ただし、2種の合計含有量が0.05%を超えると強度の上昇よりも延性の低下が顕著になるので、2種類を同時に含有させる場合にはその合計量の上限は0.05%とする。
【0043】
またTiはNと結合し易く、AlNの析出に優先してTiNが析出し、AlNによるスラブ割れを防止する効果もある。この効果を得るためには、Tiを0.003%以上、かつ、(Ti/48)/(N/14)≧2を満足する範囲で含有させるのが好ましい。
【0044】
Cu、Ni、Co:これらの元素は必須ではないが、いずれも鉄炭化物中に溶け難く、ベイナイト変態時に炭化物の析出を抑制するので、残留オーステナイトが得やすくなるという効果が得られる。これらの効果を得るために、Cu、Ni、Coからなる群の内の1種または2種以上を、Cuは0.2%以上、Niは0.1%以上、Coは0.0005%以上含有させてもよい。いずれの元素も過剰に含有させるとベイナイト変態が不十分になるので、含有させる場合の上限は、Cuは1.0%、Niは0.5%、Coは1.0%、2種以上を含有させる場合にはその合計量で1.5%以下とする。また、CuはPと共存すると耐食性を向上するのでこの目的のために添加してもよい。
【0045】
なお、Cuはスラブ割れの要因となるので、Cuを含有させる場合には、Niを、Ni≧Cu/2を満足する範囲で複合して含有させるのが好ましい。
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物の中でも、Sは、MnSとして析出し、延性を阻害するのみならず、オーステナイト安定化元素として添加されるMnを析出物として消費するので、その含有量は0.01%以下とするのがよい。また、N含有量が多いとAlNにるスラブ割れの原因になるほか、製品中でもAlNの延性を低下させるので、その含有量は0.005%以下とするのがよい。
【0046】
表面硬化特性;
前述したように、予成形して焼付け処理を施した部材において、鋼板表面部の硬度が中心部の硬度よりも一定の割合以上に高いという表面硬化特性を備えていることが、本発明の高張力鋼板にとって極めて重要である。構造部材には種々の形状があり、成形方法、歪み分布などが様々であるので、この表面硬化特性は、鋼板に、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ曲げ戻し変形(以下、単に「引張り曲げ変形」とも記す)を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度の差の、予成形前の鋼板の板厚中心部の硬度に対する比(下記式で表されるX、以下、単に「硬度比」とも記す)が、0.12以上となる関係を満足するもの、と規定する。
X=(HVs−HVc)/HV0
ここで、HV0 は、上記予成形前の鋼板の板厚中心部のビッカース硬度、HVcは、上記予成形と焼付け処理を施した後の板厚中心部のビッカース硬度、HVsは上記予成形と焼付け処理を施した後の表面部のビッカース硬度である。ここで、表面部のビッカース硬度とは、鋼板表面から板厚の1/8離れた部分で測定した硬度を両表面について平均した値を意味する。また、上記予成形における曲げ半径は板厚(t)の2.5倍(2.5t)とする。
【0047】
本発明の硬度比が高い鋼板によれば、高速変形した際の衝突吸収エネルギが高い構造部材を得ることができる。硬度比が0.12に満たない場合には得られる部材の衝突特性は不十分であり、良好な衝突特性を備えた構造部材を得るには、硬度比が0.12以上である鋼板を使用するのが有効である。従って本発明の高張力鋼板は、硬度比、つまりXが0.12以上のものとする。より優れた衝突特性を選るには、硬度比が0.15以上である鋼板が好ましい。
【0048】
本発明の高張力鋼板は、ダイ、ポンチおよびしわ押さえを有するプレス工具で成形され、その成形過程において少なくともダイ肩部近傍で曲げ曲げ戻し変形があり、成形後には通常の塗装焼付け処理が施される部品に使用すれば、優れた耐衝撃特性を有する構造部材が得られる。プレス工具がしわ押さえビードなどを備えている場合には、鋼板がそのビード部を通過する際に受ける曲げ曲げ戻しも、表面硬化に寄与する。
【0049】
上記曲げ曲げ戻し変形される部分は構造部材を構成する部品の一部分に使用するだけでも耐衝撃特性改善の効果が得られる。図1に示す閉断面構造部材を例として説明すれば、曲げ曲げ戻し変形される部分はハット断面部品の縦壁部2である。ハット断面部品の底部11や、平板部品12には曲げ曲げ戻し変形はされておらず、従って表面硬化特性もないが、それでも構わない。
【0050】
本発明の高張力鋼板は、鋼板冷間圧延鋼板のほか、電気めっき、溶融めっき、などの処理を施した表面処理鋼板としても、所望の効果が得られる。
製造方法;
本発明の延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板は、上記化学組成を有する鋼を以下の方法で熱間圧延し、冷間圧延し、再結晶焼鈍を施して製造するのが好適である。
【0051】
上記化学組成を有する鋼は常法により鋳造されて鋳片(スラブ)とされる。鋳塊を分解圧延して鋼片とし、この鋼片をスラブとしても構わない。スラブは常法により加熱して粗圧延されたのち、仕上圧延に供されるが、鋳造後のスラブ温度が高く、後述する仕上温度が確保できる場合には、スラブ加熱を省略して粗圧延しても構わない。また、ストリップキャストなど公知の方法により薄い鋳片が得られる場合には、粗圧延を省略しても構わない。
【0052】
仕上圧延:本発明の高張力鋼板の母材となる熱延板は、最終製品において優れた局部延性を有する鋼板とするために、フェライトと軟質なパーライトからなり、かつパーライトの分散状態が均一な結晶組織を備えたものとする。
【0053】
熱間圧延における仕上圧延開始温度が過度に高温であると、圧延中のオーステナイトの回復再結晶が急速に進行して歪み蓄積が不十分となり、圧延後の冷却過程でのフェライト変態が遅延し、軟質なフェライトの体積率が減少する。これを避けるために、仕上圧延開始温度は1050℃以下とする。仕上圧延開始温度の下限は特に限定するものではなく、以下に述べる仕上圧延出側温度を満足する限り、低いことが望ましい。
【0054】
仕上圧延終了温度は800℃以上とする。仕上圧延終了温度が800℃に満たない低温になると圧延中にフェライト変態が生じ、結晶粒が伸展した加工フェライト組織を有するものとなり、第2相が均一に分散した熱延鋼板組織が得られなくなる。
【0055】
補助加熱:前述の仕上圧延の入り側温度と出側温度は、熱延コイルの全長にわたって満足する必要がある。鋼片が長い場合には、圧延途中で鋼片温度が低下し、熱間圧延後期などにおいて上記仕上げ温度が確保できない場合が生じる。また、仕上圧延の入り側温度を低く制限しているので鋼片幅方向端部などでの温度低下が原因で上記仕上げ温度が確保できない場合も生じる。このような場合には仕上圧延入り側で補助加熱を施すのがよい。補助加熱方法は限定しないが、仕上圧延入り側でのスラブの温度分布に応じて加熱入熱量の制御が容易である電磁誘導加熱方式が好ましい。
【0056】
仕上圧延後の冷却:仕上圧延完了後は、フェライト変態を促進するため、750℃まで20℃/秒以上の冷却速度で急速冷却する。急速冷却終了温度が750℃よりも高かったり、冷却速度が20℃/秒に満たない場合には、上記冷却途中でオーステナイトの回復が生じて加工歪みが消失し、フェライト変態が進行しにくくなるのでよくない。
【0057】
フェライト変態を促進させるため、上記急速冷却に引き続き、巻取り開始までの温度領域で2秒以上滞留させるのが望ましい。この滞留処理は、上記温度範囲の冷却を空冷もしくは緩冷却とすることによりおこなうのがよい。上記滞留時間が2秒間に満たない場合にはフェライト変態が不十分となるのでよくない。より好ましい滞留時間は5秒以上である。滞留時間が10秒間を超えると、必要な冷却テーブルが長くなるので滞留時間は10秒以下とするのがよい。上記滞留処理後は巻取温度まで任意の冷却速度で急速冷却しても構わない。
【0058】
巻取温度:巻取温度が高温になるとスケールロスが増加するうえ、鋼が軟らかくなり巻き取ったコイルの巻姿が崩れる。これを避けるために巻取温度は700℃以下とする。好ましくは680℃以下、さらに好ましくは650℃以下である。
【0059】
MnはAr3点を低くし、Pは高くする作用がある。従って鋼が凝固する際にこれらの元素の偏析が生じると、Mnの場合は正偏析、Pの場合は負偏析の部分でフェライト変態が遅延してパーライトがバンド状に析出してバンド状組織が生じる。このような鋼は冷間圧延後にミクロボイドが生じやすく、製品鋼板の局部延性を損なうことがある。MnとPの含有量が高い鋼では、巻取温度を高くしてフェライト変態を促進させることにより、パーライトのバンド状組織を軽減することができる。このため、本発明においては、巻取温度の下限(Tc)をMnおよびP含有量と関連づけて規定する。
【0060】
すなわち巻取温度の下限Tc( ℃) は、430+70×Mn( %) +1000×P( %) で計算される値以上とする。巻取温度を低くしすぎると、第2相としてベイナイトおよびマルテンサイトが生成するので、この観点でも、前述のTc以上の温度で巻取る必要がある。
【0061】
冷間圧延:上記方法で熱間圧延して得られた熱延鋼板は常法により酸洗などでスケールを除去した後、冷間圧延される。冷間圧延は常法に従っておこなえばよいが、冷間圧下率は合計で40%以上、80%以下とする。冷間圧下率が40%に満たない場合には圧延効率が低下し、80%を超えるとフェライトと第2相間のミクロボイドが増加して再結晶焼鈍後の延性に悪影響を及ぼすのでよくない。好ましい冷間圧下率は合計で70%以下である。
【0062】
焼鈍:焼鈍温度は、フェライト+オーステナイトの2相にしてCをオーステナイトに濃縮するためAc1変態点以上、Ac3変態点以下の温度域とする。焼鈍温度が低すぎるとセメンタイトが再固溶するのに時間がかかりすぎ、高すぎるとオーステナイトの体積率が大きくなりすぎてオーステナイト中のC濃度が以下する。好ましくは800℃以上、850℃以下の範囲である。
【0063】
均熱時間は、セメンタイトの再溶解を十分におこなわせるために30秒以上とする。均熱時間が90秒を超えるとオーステナイト粒が粗大化して好ましくないので均熱時間は90秒以下とする。
【0064】
均熱終了後は、パーライト変態を抑制するために、700〜450℃の温度範囲を30℃/秒以上で急速冷却する。均熱温度から700℃までの間の冷却速度は限定しないが、フェライトの体積率を増やして、オーステナイト中にCを濃縮するために、700℃までを10℃/秒以下で冷却することが好ましい。
【0065】
上記急速冷却に引き続く450℃以下、370℃以上の温度範囲で200秒間以上、400秒間以下滞留させる。この滞留方法は、一定温度に保持する方法でもよいし、450℃以下、370℃までの間を、200秒間以上、400秒間以下の範囲で徐々に温度を低下させる方法でもよい。上記滞留温度が450℃を超えるとベイナイト変態が生じず、370℃に満たない場合には、下部ベイナイトになり、オーステナイトへのCの濃縮があまり起こらなくなり、所望の残留オーステナイト鋼板が得られない。
【0066】
上記滞留後の冷却については限定しないが、設備を簡素にするために、冷却速度を速めても構わない。また、溶融めっき鋼板を製造するために、連続溶融めっきラインを用いて上記焼鈍処理を行ってもよい。合金化溶融亜鉛めっきとするために、合金化熱処理を行っても良い。
【0067】
調質圧延:焼鈍後は、表面粗度調整、平坦強制、降伏点伸びの低減を目的にして、公知の方法により、調質圧延を施しても構わない。その場合には、延性を低下させないために、調質圧延伸び率は2.0%以下にすることが好ましい。
【0068】
上記以外は公知の方法によって製造すればよい。
【0069】
【実施例】
(実施例1)
表1に記載の化学組成を有する鋼を実験室において溶解し、厚さ:60mm、幅:150mm、質量:17kgの鋼塊とし、これを熱間鍛造して厚さ25mm、幅:150mmの鋼片を得た。
【0070】
【表1】
Figure 0004016573
これらの鋼片を加熱炉に装入し、1200℃で30分間保持した後、炉から取り出して1000℃まで自然冷却し、圧延開始温度を1000℃とする熱間仕上圧延を施した。仕上圧延のパス回数は合計3パスで、仕上圧延後の厚さは3.5mmであり、仕上圧延終了温度は850℃であった。熱間仕上圧延終了後、ただちに4秒間水スプレー冷却して720℃とし(平均冷却速度33℃/秒)、次いで8秒間自然放冷して680℃とし、さらに2秒間の水スプレー冷却を施して620℃とし(平均冷却速度30℃/秒)、これを620℃に加熱した炉に装入して30分間保持した後、20℃/時で室温まで冷却した。
【0071】
得られた熱延板は、塩酸溶液を用いて酸洗してスケールを除去した後、合計圧下率66%で1.2mmまで冷間圧延した。得られた冷延板を、820℃に加熱して40秒間均熱した後、5℃/秒で700℃まで徐冷した後、50℃/秒で400℃まで冷却し、400℃で300秒間保持した後、30℃/秒で室温まで冷却した。得られた焼鈍板に伸び率1.0%の調質圧延を施した。
【0072】
これらの鋼板の圧延方向について、JIS−Z2201に規定された5号試験片を用い、JIS−Z2241の規定に準拠して引張試験をおこなった。引張試験時の応力−歪み曲線における最大荷重時の歪みを一様伸びとし、全伸びと一様伸びの差を求めて局部伸び値とした。
【0073】
上記調質圧延済みの鋼板から得た圧延方向を長手方向とするブランクを、図2に示すプレス工具を用いてプレス成形し、幅40mm、高さ30mm、フランジ幅10mm、全長200mmのハット断面部品1を得た。ポンチとダイの肩半径は、共に3.0mmとした。しわ抑え力は、縦壁部2の板厚歪みが10%となるように調整した。得られたハット断面部品には170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後、縦壁部から小片を切り出し、圧延方向に垂直な断面のビッカース硬さを測定した。
【0074】
図3は、ビッカース硬さの測定位置を示す配置図である。ビッカース硬さ試験はJIS−Z2244の規定に準拠しておこない、試験荷重は4.9Nとした。断面内での測定位置は、板厚中心と両表面(板厚の1/8だけ内側の位置)について、それぞれ、0.5mm間隔で5点測定し、板厚中心の平均をHVc、両表面の測定値の平均をHVsとした。なお、予成形前の鋼板についても、圧延方向に垂直な断面の板厚中心において、0.5mm間隔で5点のビッカース硬さを測定し、その平均をHV0 とした。これらの値から硬度比Xを計算した。
【0075】
上記プレス成形で得たハット断面部品と、同じ冷間圧延し、焼鈍と調質圧延を施した鋼板から得た幅60mm、長さ200mmの平板部品12を20mm間隔でスポット溶接し、閉断面構造部材を作製し、これに170℃で20分間加熱する焼付け処理を施して試験体を作製した。
【0076】
この試験体を、その長手方向を鉛直にして試験台に装着し、上方から質量が60kgの錘体を落下させ、10m/秒の速度で試験体上端に衝突させる落重式軸圧壊試験をおこなった。試験体下部にはロードセルを設置して試験体に作用する荷重を測定し、別途錘体の位置変化を測定して、これらの荷重−変位関係から、錘体が停止するまでに試験体に作用した荷重の平均値P(kN)を求め、この軸圧壊平均荷重により耐衝撃特性を判定した。
【0077】
表2に、加工前の鋼板の引張特性、予成形し焼付け処理したハット断面部品の縦壁部で測定した硬度比および試験体の軸圧壊平均荷重測定結果を示す。
【0078】
【表2】
Figure 0004016573
表2において試番3〜11は鋼の化学組成が本発明の規定する条件を満足するものであり、その硬度比Xは0.12以上で、いずれも本発明例である。試番1はC含有量が低い鋼Aを使用し、試番2、12および13はSi+Al含有量が低い鋼B、LおよびMを使用したもので、これらは硬度比が0.12に満たず、いずれも比較例として評価したものである。試験体の軸圧壊平均荷重は、素材とした鋼板の引張強さ(TS)レベルにより異なるので、耐衝撃特性は鋼板の引張強さに応じてその良否を判断するのが妥当である。表2に示されているように、本発明例である鋼板を用いた試番3〜11はいずれも優れた軸圧壊平均荷重を示していた。また、本発明鋼はTS×ELで代表される強度−延性バランスにも優れていた。
【0079】
図4に、表2の軸圧壊平均荷重と、それぞれの加工前の鋼板の引張強さととの関係を示す。図4からわかるように、硬度比Xが0.12以上のものは、比較例に比べ同じ引張強さでも約10%高い軸圧壊平均荷重を示した。硬度比Xが0.15以上のものはさらに優れていることが判る。
【0080】
(実施例2)
表1に示した化学組成を有する鋼D、EおよびHの鋼片に、巻取温度以外は実施例1と同一条件とする熱間仕上圧延を施して実施例1と同一寸法の熱延板とし、実施例1と同様の酸洗、冷間圧延、焼鈍および調質圧延を施して、種々の冷間圧延鋼板を作製した。これらの鋼板について実施例1に記載したのと同様の方法で試験して、引張特性と局部伸びを調査した。得られた結果を、巻取温度と共に表3に示す。
【0081】
【表3】
Figure 0004016573
表3に示されているように、熱間圧延後の巻取温度が本発明の製造方法で規定する条件を満たす試番16、17、21および26は特に優れた局部延性を有していた。また、通常の延性(El)や、TSとElの積(いわゆる延性バランス)も良好なものであった。
【0082】
【発明の効果】
本発明の高張力鋼板は、局部延性に優れるので自動車に代表される複雑な形状を備えた構造部材への加工が容易であるうえ、プレス加工時の曲げ曲げ戻しを伴うプレス成形と焼付け処理により、構造部材としての耐衝撃特性を大幅に向上させることができる。従って本発明の高張力鋼板は、自動車の構造部材の高強度が容易で鋼板の薄肉化による軽量化に有効であるうえ、衝突安全性向上にも有効であり、これらを同時に達成できるので利用価値が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】構造部材で多用される閉断面構造部材を模した試験体の斜視図である。
【図2】ハット断面部品のプレス成形状態を説明するための断面図である。
【図3】ハット断面部品の縦壁部でのビッカース硬さ測定点を示す模式図である。
【図4】鋼板の引張強さとこれを用いて作製した閉断面構造部材の軸圧壊平均荷重との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1:ハット断面部品、2:縦壁部、3:ポンチ、4:ポンチ肩、5:ダイ、6:ダイ肩、7:ダイ溝、8:しわ押さえ、11:底部、12:平板部品、
図2で符号である。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含有し、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であり、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足することを特徴とする延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板
    (HVs−HVc)/HV0≧0.12、
    ただし、HV0:上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
  2. 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含み、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、さらに、Tiおよび/またはNbを、Ti:0.003〜0.05%、Nb:0.003〜0.05%、かつ、(Ti+Nb)≦0.05%を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であり、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足することを特徴とする延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板
    (HVs−HVc)/HV ≧0.12、
    ただし、HV :上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
  3. 化学組成がさらに、質量%で、Cu、Ni、Coからなる群の内の1種、または、2種以上を、Cu:0.2〜1.0%、Ni:0.1〜0.5%、Co:0.0005〜1.0%、かつ(Cu+Ni+Co)≦1.5%を満足する範囲で含有する、請求項1または2に記載の延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の化学組成を備えた鋼片に、熱間仕上圧延開始温度が1050℃以下、終了温度が800℃以上である熱間仕上圧延を施した後、20℃/秒以上の冷却速度で750℃まで冷却し、700℃以下、下記式で計算されるTc(℃)以上で巻取る工程を有する熱間圧延を施し、得られた鋼板を酸洗し、その後、合計圧下率が40%以上、80%以下となる範囲で冷間圧延を施し、次いで、フェライト+オーステナイトの2相温度域で30秒以上、90秒以下保持し、その後700℃以下、450℃以上の温度範囲を30℃/秒以上で冷却し、450℃以下、370℃以上の温度範囲で200秒以上、400秒以下保持した後、室温まで冷却する焼鈍を施すことを特徴とする、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上である延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板の製造方法;
    Tc(℃)=430+70×Mn(%)+1000×P(%)。
  5. 熱間仕上圧延を施す前の鋼片に補助加熱を施すことを特徴とする請求項4に記載の延性と耐衝撃特性に優れた高張力鋼板の製造方法。
  6. 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含有し、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であるとともに、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足する高張力鋼板に、曲げ曲げ戻し変形を伴う成形を施したのちに塗装焼付け処理を施すことを特徴とする耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法;
    (HVs−HVc)/HV≧0.12、
    ただし、HV:上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
  7. 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:2.0%以下、Al:0.005〜2.0%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.05%以下を含み、かつ、(Si+Al):1.0〜2.5%を満足し、さらに、Tiおよび/またはNbを、Ti:0.003〜0.05%、Nb:0.003〜0.05%、かつ、(Ti+Nb)≦0.05%を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を備え、引張強さ(TS)と全伸び(El)との積(TS×El)が21900MPa・%以上であるとともに、板厚ひずみにして10%の引張り曲げ変形を伴う予成形を施し、次いで170℃で20分間保持する焼付け処理を施した後の鋼板表面部と板厚中心部の硬度が下記式を満足する高張力鋼板に、曲げ曲げ戻し変形を伴う成形を施したのちに塗装焼付け処理を施すことを特徴とする耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法;
    (HVs−HVc)/HV≧0.12、
    ただし、HV:上記予成形前の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVc:上記予成形と焼付け処理後の板厚中心部のビッカース硬度、
    HVs:上記予成形と焼付け処理後の表面部のビッカース硬度。
  8. 化学組成がさらに、質量%で、Cu、Ni、Coからなる群の内の1種、または、2種以上を、Cu:0.2〜1.0%、Ni:0.1〜0.5%、Co:0.0005〜1.0%、かつ(Cu+Ni+Co)≦1.5%を満足する範囲で含有する、請求項6または7に記載の高張力鋼板に、曲げ曲げ戻し変形を伴う成形を施したのちに塗装焼付け処理を施すことを特徴とする耐衝撃特性を有する構造部材の製造方法。
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