斜めからの画像取り込み,あるいは画像投写に関する結像光学系を実現する手段(以下これらを総称して,単に斜入射結像光学系と呼ぶことにする)は,次の2つの方式に大別される。即ち,
(1)ディセンタ方式
(2)ティルト方式
である。
図24にディセンタ方式の基本原理を示す。この方式では,互いに共役関係にある物体面4と像面2とが基本的に平行であり,結像光学系30の光軸3Aは,両平面に直交している。斜入射結像光学系を実現するためには,像平面2に置かれた例えば画像検出領域201を光軸3Aから下方向に移動させておく。この操作により,物体平面4上の対応する撮影領域401は図の上方向に変位し,結果として,特別な光学系を用いることなく斜入射結像光学系が実現できる。この方式の利点は余分な歪曲が発生しないことである。欠点は光軸3Aから変位させるため,結像光学系30のイメージサークルをあらかじめ十分大きく取らなければならず,収差補正が難しくなる事,及び,結像光学系30が大型化する傾向を有する事である。
もう一つの方式であるティルト方式の基本原理を図25に示す。ディセンタ方式と大きく異なる点は物体平面4に対して,結像光学系30の光軸3Aが斜交していることである。それと同時に像平面2も光軸3Aと斜交している。更に,像平面2,物体平面4及び結像光学系30の主平面3Hはそれぞれの延長線上の交線Aにおいて交わっており,ティルト方式の結像条件であるいわゆるScheinmpflugの原理を満足している。この方式の長所は,結像光学系30があまり大きくならず,解像力も比較的良好なことである。欠点は大きな歪曲が新たに発生することである。この時発生する歪曲の典型的な例を図26に示す。これは図25の結像に関する倍率の関係を考察すれば容易に理解できる。
斜入射結像光学系は,上記2つのいずれかの方式,或いはその複合タイプに分類される。結像光学系としては,大きさ,解像力,歪曲等の光学系に要求される所定の仕様を満足しなければならない。従来技術においても,上記いずれかの方式を踏襲しながら,それらが抱える問題を解決するために様々な工夫を行い,目的にあった光学系を提供しようと努力してきた。次にその幾つかの具体例を見てみよう。
図27は,特開平05−273460号のプロジェクタの投写レンズに関する断面図である。屈折光学素子より構成される投写レンズ30と画像形成素子2とをその光軸3Aと垂直方向に相対的に移動させることにより,斜入射結像光学系を実現する。その際,画像形成素子2の近傍にあるコンデンサレンズ301まで含めて移動することを避けるため,投写レンズ30を移動させると同時に,投写レンズの光軸を傾ける。これは基本的にディセンタ方式に分類され,補正の自由度として,偏心を用いていると考えられる。なお,この具体例では最大画角2ωが約51°の投写を実現している。
図28は,米国特許第5871266号の断面図で,本出願人によりプロジェクタ装置として考案されたものである。光源を含む照明部1,液晶等の画像素子を含む画像形成部2,結像部3をその基本構成として,照明部1と結像部3の総合的な最適化を図ることで,斜入射結像光学系を実現しようとするものである。その具体的構成例において,特に結像部3を少数の反射鏡のみにより構成した実施例も開示されている。照明部1からの光束は,ダイクロイックミラー2a,2bで3原色に分解され,3枚の反射型画像形成素子2g,2h,2iを照明する。各画像形成素子で反射された光束は,ダイクロイックミラー2a,2bで再び合成され,結像部3に向かう。結像部3は3枚の反射鏡,3a,3b,3dで構成されており,画像形成素子2g,2h,2iからの光束を順次反射する事により図示していないスクリーン4上に結像する。この明細書では,投写装置における斜入射結像光学系の意義が詳細に論じられている。また,薄型背面投写装置への応用例として,最大画角2ωが100度を越えるものも開示されている。この方式も基本的には,ディセンタ方式に分類されるものである。
この様な画期的な投写装置が実現可能であるにも関わらず,米国特許第5871266号の方式は,幾つかの欠点を有している。その1つが,結像系に反射鏡を使用する場合,屈折光学素子に比較し高い面精度が要求される事である。これは,結像に寄与する光束が,反射鏡で反射される様子を思い浮かべれば容易に理解できる。例えば,画像素子から射出し,スクリーン上の一点に結像する任意の光束が反射面上で形成する一定のスポット領域を考える。この領域内で例えばλ/4の形状誤差があったとすると(λは例えば0.55μm),反射することにより,約λ/2の波面収差が発生する。これは結像系にとっては無視できない解像力低下をもたらす。言い換えれば,反射光学系の場合,反射面自体のうねり誤差に非常に弱いと言える。
もう一つの欠点が画像素子からの取り込み角度である。簡単な構成で斜入射結像光学系を実現するため,その請求項にも記載されている様に,角度幅が8度以下の発散光束を利用する。この特許の場合には,照明系を含めて全体の最適化を行うことにより,光束の利用効率を高めているが,入手できる光源の大きさ,装置の大きさ,コスト要求等,種々の制約条件を考えた場合,その適用範囲を狭める結果となっている。
特開平10−206791号も,プロジェクタの投写系に関するもので,これまでの例と同様ディセンタ方式に分類されるものである。この発明では,設計の自由度を上げるため,図29の結像系30に,偏心光学素子や自由曲面を採用しており,最大画角2ω=68度を越える投写系を実現している。そして,図30の様な斜め投写を行う結像系として利用する。この場合,2つの共役面2,4はほぼ平行となっている。しかしながら,この様な偏心光学素子の採用にもかかわらず,画角そのものはさして増加しておらず,その一方で部品製造や組立上の困難さが増大する。
以上,主としてディセンタ方式に分類される幾つかの公知例に関する説明を行った。次に,主としてティルト方式に基づく公知例を見てみよう。
図31の米国特許第5274406号も投写装置,特に背面投写型表示装置への応用に関するものである。この例は,図32に示す屈折光学素子より構成される対称型の投写レンズ30と,図33(b)に示される像面の近傍に設けられたフレネル状の微細な階段構造を有する自由曲面ミラー301とから構成されている。この例では,背面投写装置の奥行きを薄くするため,投写レンズ30の光軸をスクリーン4及び画像形成素子2に関し,斜めに傾けるティルト方式を採用している。また,光軸を傾けることにより発生する歪曲に関しては,図33(a)に示す自由曲面ミラーを使用して補正すると同時に,この様なミラーの使用により新たに発生する結像条件の不整合の問題に関しては,ミラーをフレネル化することで対応する。
この様な工夫により,対角36inchの背面投写型表示装置を厚さ28cmで実現している。背面投写装置では,表示部の対角長を”inch”で表し,それを”cm”で読み替えた数値が1つの目標数値であるが,この例では,目標以上の薄型化を実現している。以上の方法により,確かに装置の薄型化が可能となっているが,投写レンズ30からフレネルミラー301までの任意の光束に沿う距離をD1,フレネルミラーからスクリーンまでの同じ光束に沿う距離をD2とする時,D1>D2となるように構成されており,フレネルミラーが必然的に大型化する。結果として,自由曲面,且つフレネルミラーの製造は非常に難しい課題となってしまう。また,解像力低下を防ぐために導入したフレネル構造は,有限の段差構造を持つため,その段差自体が解像力を悪化させる要因となってしまう。
図34の特開平6−265814,及び特開平7−151994は同じくティルト方式に属する他の例である。これらの例では,ティルト方式を多段で用いることにより歪曲を補正しようとするものである。例えば,図35に2段で構成する場合の模式図を示す。2に置かれた画像素子からの光束は第1の結像系3により,4に中間像を形成する。その中間像を,第2の結像系3'でスクリーン4’上に再結像させる。この様な構成に関し,各光学系の設置角度,倍率,焦点距離等に一定の条件を課することで,原理的に歪曲をなくすことが可能となると同時に,解像力も確保できる。この方式の場合,共通の中間像4に対して各結像系3及び3'の光軸が所定の角度を持って交わるため,実際の光束がけられなく3から3'へと伝達される必要がある。通常,中間像が形成される位置に,図36の様な偏心フレネルレンズ等の瞳結合素子を置くことで,それを実現しているが,例えば画像素子が液晶パネルなどのように最小画素構造を有する場合,フレネルの周期構造と干渉しモアレを生じる。この公知例では,その様な瞳結合素子を中間像からずらして置くことでこの問題を回避しようとしている。
この方式の欠点としては,各光学系3,3’の光軸と中間像4或いは画像素子2の傾きが大きく,機械的要求を満足するのが困難である場合が多い。その詳細はここでは触れないが,図36の瞳結合素子も最後まで問題となる課題の1つである。
特開平07−13157は,図37に示すように,光源1aからの平行光束を画像素子2に導き,その反射光を第1の放物鏡3aにより投写レンズ3bの瞳に集光する。更に投写レンズ3bを通過した光束は第2の放物鏡3cで反射され,スクリーン4上に拡大像を形成する。この方式は,基本的にティルト方式であるが,照明光束とのカプリングに放物鏡3aを,スクリーンに一定角度の光束として入射させるために第2の放物鏡3cを追加することで,薄型の背面投写装置を得ようとするものである。明細書に具体的構成例が記載されておらずその実現性は不明であるが,確かに原理的な絵を描くことは可能かも知れないが,この様な構成では実際の光学的仕様を満足できないと思われる。
図38に示される特開平09−179064号もティルト方式に分類され,米国特許第5871266号や特開平07−13157と同様,屈折光学素子より構成される結像系30と凹面反射ミラー31とを組み合わせた構成を持つ。画像素子2からの光束は,図39の屈折光学素子3a〜3gで構成される光学系30を通過し,更に凹面反射鏡31で反射され,スクリーン4に対して同じ傾きを持つ光束として入射する。この方式は,ティルト方式の歪曲を補正するために,アフォーカル系の特性を利用する。
図40の様に2つの光学系30,31でアフォーカル系を構成し,2つの光学素子の間隔が各焦点距離の和になるように設定した場合,良く知られているように,物体の位置に関係なく常に倍率が一定となる。この様な光学系を,屈折光学素子からなる正の焦点距離の光学系30と,同じく正の焦点距離の凹面鏡31により構成し,スクリーン4に対して一定の角度で入射するようにすることで,歪曲を補正することが出来る。
この従来例の場合,物体面に相当するスクリーン4の法線に対して,例えば70度という急角度で入射する実施例も記載されている。更に,歪曲を小さくし,解像力を向上するため,偏心光学素子や自由曲面を採用し自由度を確保している。この方式の欠点は,2つの光学系でアフォーカル系を構成し,更に拡大系とするため,どうしても2つの光学系30と31の間隔が長くなってしまう事である。即ち,投写レンズ30から凹面鏡31までの光束に沿う距離をD1,凹面鏡31からスクリーン4までの同じ光束に沿う距離をD2とする時,大部分の光束に関しD1>D2となり,必然的に凹面鏡31が大きくなる。このため,量産性に問題を生じる。
以上の公知例は主として投写装置に関連した技術であるが,斜入射結像光学系の他の用途として,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)装置の例を見てみる。
この用途に於ける設計上重要な項目は,
・広い視野角(大きな拡大像)
・装置が小型である
・軽いこと
等が上げられる。視野角に関して言えば,瞳の大きさがほぼ決まっているため,必要な視野角が決まれば,画像素子からの取り込み角度との関係で必要な画像素子の大きさがほぼ決まってしまう。図41はその標準的な方式を示している。画像素子2からの光束は,リレ−光学系30により一旦中間像4を作り,それを凹面鏡31で拡大し,303に置かれた眼で観察する。凹面鏡31は,瞳に主光線を集める役割も果たす。この例の場合,基本的に共軸系であるため,設計しやすい光学系である。但し,眼と凹面鏡31との間に間隔が必要なのと,リレー部30を格納する空間も合わせると,かなり大きくなってしまう。
図42は,特開平5−303055記載のHMD光学系である。画像素子2からの光束は,結像光学系を構成するリレー系30,凹面鏡31を通して拡大像を作り,301に置かれた眼で観察するものである。これも基本的に上記の構成と同じであるが,ビームスプリッタを省き装置の薄型化を図るために偏心系を採用している。これは,ティルト系に分類される斜入射結像光学系である。
特開平7−191274は,特開平5−303055を発展させ,図43や図44に示すように,1枚の凹面鏡を複数の凸面鏡と凹面鏡で構成することにより,収差の補正をより確実にしようとするものである。凸面鏡を加えることにより,像高収差補正の自由度が大きくなり設計の幅が広がる。この場合も,眼に最も近い反射鏡は凹面鏡となっている。また,実施例の中には,リレー系30も反射鏡で構成し,全て反射光学系で構成した例も開示されている。これは,投写装置の項で述べた,米国特許第5871266号の投写光学系と同様,反射鏡だけで構成できる事を示した点で類似している。
図45に示す特開平10−239631は,特開平7−191274の反射面の組み合わせを空間的に折り畳む事によりコンパクトにまとめた例である。小さいながらも,2つの屈折面301,304及び2つの反射面302,303を利用し効果的に収差補正を行っている。更に自由度を確保するため,各光学面に自由曲面が使用される。HMDの様に,両眼用の2つの画像素子が利用できかつ,比較的大きなFnoが許容される応用においては画期的な方式である。
以上,斜入射結像光学系の2つの応用分野に関する従来例を見てきたが,その他にも様々な用途に於いて斜入射結像光学系が活用されるようになってきており,製品への応用も広がりの傾向を見せている。例えばHMD分野では,上記の特開平10−239631で提案されたような現在の要求を満足する新しい斜入射結像光学系も提案されているが,今後要求される広視野角・高画質化には不十分である。特開平7−191274に開示される様に,反射面を増加することで,自由度の不足を補うことも考えられるが,反射面を増やすことは,高い面精度を必要とし,コストに跳ね返ってくる。この分野での更なる技術開発が要求されている。
一方,投写装置や撮像系への応用の場合には,眼で観察する場合と異なり,一段と厳しい性能が要求される。特に,液晶等の画像素子やCCD等の撮像素子の小型化が進み,同時に1画素の大きさもμmの1桁台となっている。その結果,光学系には高い解像力と同時に,明るさも要求される。反面,素子の小型化は,光学系の小型化にとって有利な条件でもある。この応用分野において米国特許第5871266号にもあるように,半画角70°を越える画角での投写が出来れば,従来に比べて1/3以下の奥行きのディスプレイも可能となる。また,図46の特開平6−133311に示されるテレビ電話システムへの応用や,投写装置だけでなく,スキャナ等の薄型でなおかつ画像を一度に取り込める画像読みとり装置,立体画像読みとり装置,カメラ等,様々な入出力装置への応用展開が可能である。
技術的な課題として要求される事は,斜入射結像光学系を実現する手段を出来る限り増やすことである。残念ながら,従来例で見てきたように,それらの光学系は,明るさ,解像力,大きさ,生産性,コスト等何らかの問題を抱えており,広範囲な用途に適した斜入射結像光学系が少ないのが現状である。
本発明は,斜入射結像光学系の新たな実現手段を提供し,それが様々な用途に応用されることを目的とするものである。また,従来技術では実際上困難であった半画角が70°を越えながら,歪曲の制御可能な,明るい斜入射結像光学系の実現手段も提供するものである。
本発明によれば,結像光学系は,共役関係にある一方の共役面A上において,結像に寄与する所定の範囲にある点における光束が,角度幅10°以上の開き角を有することが最初の条件である。次の条件として,光学系の基本構成が,複数の光学素子より構成され少なくともその基準軸近傍において光束の収束作用を有する第1光学系と,少なくともその基準軸近傍に於いて光束の発散作用を有する第2光学系とから構成される。共役面Aから発した光束は,上記2つの光学系を順次経由し,もう一方の共役面B上に収束する。
これらの光学系を通過する各光束に関し,一定の条件を満足するように光学系を構成する。即ち,第1光学系から第2光学系迄の第1光学系の基準軸に沿う距離をS1,第2光学系から共役面B迄の第2光学系の基準軸に沿う距離S2とする。次に,第1光学系を射出後の任意の光束に関し,光束の主光線を含むあらゆる光束断面内の中で,第1光学系の基準軸に沿う距離が最長となる収束点迄の距離をL1,この光束断面とは異なる光束断面内において,第1光学系の基準軸に沿う距離が最短となる収束点迄の距離をL2とする。以上の様にして各光束に関し順次算出された距離L1の中で,第1光学系の基準軸の最も近傍から射出する光束に関するL1の値をL11,同じくL2の中で第1光学系の基準軸の最も近傍から射出する光束に関するL2の値をL21,更にL1の中で第1光学系の基準軸から最も離れて射出する光束に関する値をL1n,同じくL2の中で第1光学系の基準軸から最も離れて射出する光束に関する値をL2nとする。これらの距離に関し下記の各条件が成り立つ。
S1≦L11≦S1+S2
S1≦L21≦S1+S2
L11/L1n<0.25
0<L21/L2n<1.5
更に,共役面A上の所定の範囲から発し,共役面B上に集光する任意の光束に関し,第1光学系から第2光学系迄のこの光束に沿う距離をD1,第2光学系から共役面B迄の同じ光束に沿う距離をD2とする時,
D1<D2
を満足する。
結像光学系は,更に,第1光学系から第2光学系迄の第1光学系の基準軸に沿う距離S1,第2光学系から共役面B迄の第2光学系の基準軸に沿う距離S2,各光束断面に於ける最長収束点迄の距離L1の中で第1光学系の基準軸の最も近傍から射出する光束に関する距離L11,最短収束点迄の距離L2の中で第1光学系の基準軸から最も離れて射出する光束に関する距離L2n,及び各光束に関するS1とL1との比S1/L1の最大値と最小値との差ΔSLについて,下記の各条件
S1/L11>0.6
(S1+S2)/L2n<1
ΔSL>0.6
の少なくとも一つの条件を満たすのが良い。
結像光学系は,共役面Aの拡大像を共役面B上に形成する結像作用を有するか,共役面Bの縮小像を共役面A上に形成するいずれかの結像作用を有する。
結像光学系は,第1光学系及び第2光学系とが,それぞれ少なくとも1面の非球面,あるいは自由曲面を有する光学素子を含むことが望ましい。
結像光学系は,第1光学系を主として屈折光学素子より構成すると共に,第2光学系を主として反射光学素子より構成することが出来る。
結像光学系は,第1光学系,及び第2光学系とを,主として反射光学素子より構成することが出来る。
結像光学系は,第1光学系,及び第2光学系の少なくとも一方の光学系が,その基準軸に関して偏心した光学素子を有しても良い。
結像光学系は,第1光学系,及び第2光学系の少なくとも一方の光学系を回転対称光学素子より構成することが出来る。
結像光学系は,第1光学系,及び第2光学系をそれぞれ共通の回転対称軸を有する回転対称光学素子より構成すると共に,各光学系の基準軸と共通の回転対称軸とを全て一致させることも出来る。
結像光学系は,共役面Bの法線に関して,全ての光束が45°以上の角度となるようにすることもできる。
以上の内容に於いて,まず光束が10°以上の角度幅を持つことは,斜入射結像光学系が一定の明るさを保つための重要な条件である。これにより,明るい結像光学系が構成でき,本斜入射結像光学系の適用範囲を広げる事が可能となる。
次に,第1光学系と第2光学系間の任意の光束に沿う距離D1,第2光学系と共役面B間の同じ光束に沿う距離D2に関し, D2>D1を満たすことで,第2光学系に使用される各光学素子の大きさが過度に大きくなることを防ぎ,光学系全体の大きさ,素子の量産性,コスト等,実際面での問題を解決できる。
第1光学系がその基準軸近傍において収束作用を,第2光学系がその基準軸近傍において発散作用を有する事は,その他いくつかの条件を併せ,光学系全体が大型化することを回避し,比較的簡単な構成ながら大きな画角を有する斜入射結像光学系を実現する条件である。また,投写装置等において長いバックフォーカスが必要な場合にも有利である。
第1光学系を射出する任意の光束の主光線を含むあらゆる光束断面内で,第1光学系の基準軸に沿う距離が最長の収束点までの距離L1及び,最短の収束点までの距離L2の中で,第1光学系の基準軸に最も近い位置から射出する光束に関する収束点までの距離をそれぞれL11,L21とする時,
S1≦L11≦S1+S2
S1≦L21≦S1+S2
の条件を満足することで,第2光学系の基準軸側の発散作用とのバランスを保ち,以下の基準軸から離れた光束に関する条件と併せ,大きな角度を有する斜入射結像光学系が可能となる。上記2つの条件は,第1光学系の基準軸に最も近い光束に関し,そのすべての光束断面における収束点が,第2光学系と共役面Bとの間にあることを意味している。
光束断面中,第1光学系の基準軸に沿う距離が最長の収束点までの距離L1の中で,第1光学系の基準軸より最も離れた位置から射出する光束に関する距離をL1nとする時,そのL11との比が,次の関係を満足する。
L11/L1n<0.25
この条件は,第1光学系の基準軸に近い光束と比較し,基準軸から離れた光束の収束点迄の距離L1を第1光学系からより遠くに形成することで,第2光学系の基準軸より離れた位置での光学系の収差補正条件との整合性を保つためのものである。なお,L1,L2等の距離は,第1光学系の基準軸に沿うものであるが,光束断面に於ける光束が収束から発散に転じ,第1光学系の入射側に虚の収束点を有する(距離が負となる)場合は,∞より更に遠い収束点(距離)として扱う。これにより,条件式が矛盾なく構成できる。
本発明の結像光学系が基本的に満たすべきもう一つの条件が,L2の中で第1光学系の基準軸に最も近い位置から射出する光束に関するL21と,最も遠くから射出する光束に関するL2nとが満たすべき条件である。即ち,
0<L21/L2n<1.5
を満足する。
他の条件の説明に進む前に,以上の条件に関する基本的な考え方の背景を説明する。
実用的な斜入射結像光学系を提供するためには,光学系が小型で,しかも出来るだけ簡単な構成で実現できることが大切である。本発明の基本構成のように,基準軸近傍に於いて,それぞれ収束,及び発散作用を有する第1,第2光学系を組み合わせる場合,如何にして発散作用を有する第2光学系を小型化し,かつ構成を簡単に出来るかがポイントとなる。2つの光学系の役割を完全に分離できる訳ではないが,第2光学系の主な役割は,各光束を共役面B上の目的の位置に配分することである。第2光学系を出来るだけ簡単な構成にする場合,第2光学系の自由度の多くがこの目的のために使用される。従って,第1光学系の主な役割は,第2光学系で整合の取れない光束の結像条件,及び角度条件の整合性を図り,光学系全体のバランスを保つことである。上記の様に,基本的な構成条件と併せ,光束の収束位置に関する4つの条件を満たすことにより,このような相反する条件を同時に満足し,目的とする斜入射結像光学系を実現する事が可能となる。
他の条件の説明に戻る。次の3つの条件は,特に大きな斜入射角を有する結像光学系を構成する上で有利な条件である。
S1/L11>0.6
(S1+S2)/L2n<1
ΔSL>0.6
特に,非常に近い位置からの投写を可能とする投写装置や,極端に薄型の背面投写装置等を実現する上で重要となる条件である。これらの装置を実現する場合,上記3条件の少なくとも1つの条件を満たすことが望ましい。
本発明の結像光学系は,共役面Aを物体面として共役面Bに拡大像を形成する拡大光学系として利用できる。また,光学系の構成そのものは同一であるが,物体と像の役割を逆にして,共役面Bの縮小像を共役面A上に形成する縮小光学系として用いることもできる。
光学系の中に,少なくとも1面の非球面あるいは自由曲面を有する光学素子を使用することは,設計の自由度を広げると同時に,できるだけ簡単な構成で要求される仕様を満足し,各光学系の役割分担を実現する上で必須の条件でもある。これらの光学素子を,第1,第2の両方の光学系に採用することがより効果的である。
第1光学系を主として複数の屈折光学素子より構成し,第2光学系を主として反射光学素子より構成することは,反射系の製造上の問題を回避し,実現性のある斜入射結像光学系を提供する上で重要である。更に,第2光学系を単独の反射光学素子により構成する事で,光学系の簡略化ができ,コスト的にも有利である。
第1光学系,第2光学系の両方を主として反射光学系により構成することは,量産性の難しさはあるものの,本発明の基本条件を適用することで,より明るく,且つ非常に薄型の斜入射光学系を実現することが可能となり,反射光学素子の製造技術と併せ,今後の技術として期待できる。
光学系の構成要素である共役面A,第1光学系,第2光学系,共役面Bの少なくとも1つの構成要素及び,それらを構成する各光学素子に,偏心の自由度を持たせることで,光学系全体の設計自由度を増すことができる。
逆に,第1光学系,あるいは第2光学系の少なくとも一方を,回転対称光学素子から構成する事ができれば,従来の製造方法や組込方法が適用でき,製造コスト,組立性を大幅に向上することが出来る。更に,全て共通の回転対称軸を有する回転対称光学素子より構成し,その軸と各光学系の基準軸を一致させることにより,より大きな効果が期待できる。
共役面Bの法線に関し,すべての光束を一定の角度以上で入射させることにより,ある特定の応用分野における問題点を解決することが可能となる。例えば,背面投写装置におけるスクリーンの問題や投写装置の収納スペースの問題等が解決できる。
本発明により,斜入射結像光学系の応用分野において,特に実像を形成する分野,例えば,投写装置,画像読み取り装置,カメラ等に応用が可能である。特に,従来では困難であった,半画角60°を越える斜入射結像光学系が実現できる。
それでは,次に具体的な構成例を基にして,図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明を行う。
本発明の応用例は多岐に渡り,それら全ての例を説明するのは冗長である。ここでは,具体応用事例として,共役面Aに置かれた画像形成素子2の拡大像を共役面B上に置かれたスクリーン4上に形成する,投写装置を例にとって説明する。また,投写装置には,本来照明部が必要であるが,本発明にとって本質的ではないため,本発明の結像光学系の周辺に限って説明を行う。従って,説明に使用する図面に関しても,説明に必要な部分以外は省略する。
以下に取り上げる第1の実施形態から第7の実施形態までは,第1光学系及び第2光学系が,全て共通の回転対称軸を有する光学素子より構成される事例である。これらの例では,両光学系の基準軸は,共通の直線上にあり,いわゆる光軸と一致している。同様に,画像形成素子2及びスクリーン4は,この光軸と直交し,互いに平行である。第8及び第9の実施形態では,偏心系や非回転対称系である自由曲面を使用した例を取り上げる。この2つの実施の形態を通して,設計の自由度を増やすことの効果を確認する。
各実施形態について順次説明を行う。
図1は本発明の第1の実施形態である投写装置の断面図である。
共役面Aには画像形成素子2が置かれている。この例における画像形成素子2は,対角長0.7inchの4:3のアスペクト比を有する透過型の液晶素子である。図1の画像形成素子2の左側には,画像形成素子2に光束を導く照明部1が設けられているが,前述の理由で図から省略している。画像形成素子2から射出する光束は,屈折光学素子より構成される第1光学系30を通過し,更に1枚の反射鏡により構成される第2光学系31で反射されて,共役面Bに相当するスクリーン4上に,100inchの大きさの拡大像を形成する。
第1光学系30,及び第2光学系31は,それぞれ基準軸3A及び3Bを有しており,無限遠方の物点から入射する平行光束に関し,第1光学系30は基準軸3Aの近傍において収束作用を,第2光学系31は基準軸3Bの近傍で発散作用を有する。画像形成素子2は,第1光学系30の基準軸3Aより図中下側に置かれている。スクリーン4の下部に集光する光束321は,第1光学系30の基準軸3Aに最も近い点から射出する光束である。同じくスクリーン4の上部に収束する光束328はこの断面図の中で,基準軸3Aより最も遠い点から射出する光束である。第2光学系31からスクリーン4までの基準軸3Bに沿う距離S2は2mである。また,光学系30,31から構成される結像光学系は,スクリーン4の下側に置かれており,観察側の下から上向きにスクリーンめがけて投写する前面投写装置である。
図2は,第1光学系30を通過後の光束に関し,第2光学系31が作用しない場合の光束の収束具合を示す図で,図1の断面図と同じ断面内での光束311〜318を併記している。図1と異なるのは,第2光学系31を構成する反射面が反射面として機能せず,そのまま透過するものして図示している点である。スクリーン4は,第2光学系31の基準軸3Bから,図1と同じ距離2mに置かれている。図2の基準軸3Bより離れた光束ほど,第1光学系の基準軸3Aから離れた点より射出した光束に対応している。更に,図中に各光束の収束点(各光束断面で光束径が最も小さくなる点)を示している。(△)印は,図2の紙面内での収束点を,(●)印は紙面に直交する光束断面内での収束点を示している。曲線31S及び31Tは,それぞれの点をつないだ曲線である。各光束に関する収束点(●)は,その光束のあらゆる光束断面中,第1光学系30の基準軸3Aに沿う最も距離の短い収束点迄の距離でもある。同様に,収束点(△)は,最も距離の長い収束点に対応する。
この図から,第1光学系30を通過した紙面内の光束の収束点(△)は,第1光学系からの射出位置が基準軸3Aから遠ざかるに従って,第1光学系30からより遠くに収束点を有するとともに,その収束点での収束角が徐々に小さくなってゆくことがわかる。一方,それに直交する断面内の収束点(●)には,大きな距離の変化が見られない。ここでの収束角とは,着目する光束断面における収束点での最大開き角として定義する。第1光学系30を射出後に,収束点を持たない発散光束の場合には,発散の最大開き角として定義し,符号を負とする。従って,光束の収束角が徐々に小さくなって更に発散に移行する場合も,収束角は統一して小さくなると表現する。
なお実際の光学系では,紙面奥行き方向にもスクリーン4が空間的に広がっており,そこに向かう光束も存在している。図2に全ての光束を図示すると非常に煩雑になるため,これらの光束についてはあえて図示していない。これらに関しては,本発明の成立条件をまとめた一覧表3に,他の実施の形態と併せ,数値データとしてまとめて記載する。この例の場合,紙面内に主光線を有する任意の光束に関し,全ての収束点が,第2光学系31と共役面Bに相当するスクリーン4の間に形成されている。但し,表3に示すように,紙面外の光束で,例えばスクリーン4の対角に向かう光束のように,基準軸から更に離れた光束ではスクリーン4を越えた位置に収束点を有する。
図3は第1光学系30の断面図である。6群8枚の屈折光学素子から構成され,全ての面が基準軸3Aの回りの回転対称形状を有している。従って,基準軸3Aは,いわゆる第1光学系の光軸と一致している。偏心系を含む一般の場合には,この様な対応は成り立たない。その場合,基準軸の選び方に,任意性が生じるが,最も合理的或いは便利と思われる軸を基準軸に設定すれば良い。画像形成素子2から発する光束は,画像形成装置2の側から,r1,r2,・・・,r14で示される屈折面を順次透過して,第2光学系31に導かれる。第1光学系射出後の光束に関する第1光学系30の基準軸に沿う距離は,この例の場合,r14の面の頂点から,基準軸3Aに沿った距離となる。本例の第1光学系30は,回転対称系のため,通常の意味での焦点距離が定義でき,f=37.1mmである。
表1は,図2の第1光学系通過後の光束311〜318に関する,主光線の射出角を示すものである。表中,像高とは,第1光学系の基準軸3Aから画像形成素子2の光束の射出点までの距離である。射出角度の欄が実際の各主光線が基準軸3Aとなす角,計算角度の欄が,像高をhとして,h=f×tanθが成り立つとしてθを算出した時の計算射出角度である。この表から,基準軸3Aから離れるに従って,計算角度より実際の射出角度が大きくなっている。基準軸3Aに近い部分では殆ど差が見られない。
次に,図1の第2光学系を構成する反射鏡31は,基準軸3Bを回転軸とする回転対称形状を有する非球面である。従って,この場合も光軸と基準軸Bが一致する。この反射鏡は基準軸近傍において曲率半径約400mmの凸面で,入射光束を発散させる働きを持つ。基準軸近傍に於ける焦点距離f=−200mmである。
更に,本実施の形態において,光学系30及び31は,それぞれの基準軸が同一直線に一致するように置かれており,結果として共通の光軸としての基準軸が定義される。光軸近傍に於ける光学系30と31を併せた全系の焦点距離f=14.7mmとなっている。表2は第2光学系31で反射後の各主光線の光軸とのなす角度と全系の焦点距離から求めた計算角度を示している。多少の差はあるもの,実際の射出角度と計算射出角度が良く一致している。本実施例の場合,TVディストーションは0.5%以下である。
共通の光軸に沿う第1光学系30と第2光学系31の距離S1=280mm,第2光学系31とスクリーン4の距離S2=2000mmである。従って,第1光学系30と第2光学系31間の任意の光束に沿う距離D1と,同じ光束の第2光学系31とスクリーン4までの光束に沿う距離D2に関し,明らかにD2>D1の関係が成立している。また,第1光学系30は,画像形成素子2の任意の一点から開き角23度(Fno2.5)の光束を取り込んでおり,投写系にとって十分な明るさを確保している。画像形成素子2とスクリーン4は平行に置かれ,共通の光軸3A,3Bはそれらの法線ともなっている。
以上,第1の実施形態に関し,その具体的構成に関する説明を行った。最後に,本発明の結像光学系の成立条件を見てみる。
表3は,後述の各実施形態も含む,光束の収束位置に関する一覧表である。第1光学系と第2光学系との第1光学系の基準軸に沿う距離S1,第2光学系と共役面Bとの第2光学系の基準軸に沿う距離S2,第1光学系の基準軸に沿う距離が最長となる光束断面における収束点迄の距離L1,この光束断面とは異なる光束断面内において,第1光学系の基準軸に沿う距離が最短となる収束点迄の距離L2を示している。L1,L2の値は,第1光学系の基準軸の最も近傍から射出するL11,L12(表3の像高の欄が1の行)及び,第1光学系の基準軸から最も離れて射出する光束に関するL1n,L2n(像高の欄がnの行)のみを記載している。この様な条件式計算に必要なデータに加えて,収束点L1,L2の光束断面角度として,共役面Aから射出した直後の光束断面角度を基準に示している。反射屈折を繰り返すことで,波面形状が変化するため,この光束断面角度はあくまでも1つの目安である。
表4は,各実施形態の条件式を確認するため,表3をもとにして算出した一覧表である。例えば,
S1≦L11≦S1+S2
の条件式については,上記表4のS1/L11が1より小さいこと,及び(S1+S2)/L11が1より大きい事で確認できる。他の条件式も同様である。以上で第1の実施形態に関する基本的な説明を終えるが,第1光学系と第2光学系の基本構成を定め,光束の収束位置を制御することで,比較的簡単な構成ながら目的の斜入射結像光学系を実現することが出来る。考え方の基本は,第1光学系の役割を,第2光学系に関する光束の整合系と位置づけたことである。
図4は,本発明の第2の実施形態を示す投写光学系である。共役面Aに相当する画像形成素子2として,透過型の1.3inchの素子を用い,共役面Bに相当するスクリーン4上に50inchの拡大像を形成するものである。以下に第1の実施形態と異なる主な点について説明する。まず,基準軸3Aを有する第1光学系30は,2枚の屈折光学素子から構成されており,画像形成素子2側に正,第2光学系31側に負のパワーを有する光学素子を配している。基準軸3Bを有する第2光学系は,単独の屈折光学素子31により構成されている。第2の光学素子31が屈折光学素子より構成されている点を除けば,基本的には第1の実施形態と類似している。
図5に,第1の実施形態の図2に相当する,光束の収束の様子を示す。各記号の意味は,図2の場合と同様である。また,実際の光束には,スクリーン4の対角に向かう光束等,紙面奥行き方向の光束が存在する事も図2と同様である。
図の光束中,基準軸3Aから最も離れた光束319の収束点(△)が,スクリーン4を越えた位置にある他は,図2の場合と同様の傾向を示している。即ち,紙面内の収束点(△)は,曲線31T上にあり,基準軸3Aから離れるに従って徐々に第1光学系30の基準軸3Aに沿ってより遠くの距離に収束する。また,収束角も徐々に小さくなる。これに対し,紙面に垂直な断面の収束点(●)は,曲線31S上にあり,第1光学系30により近い位置にある。更に,図5及び表3の数値からも分かる様に,収束点(●)は基準軸3Aから離れるに従って,逆に第1光学系に近い距離に収束点を有する。図4の第2光学系31からスクリーン4迄の基準軸3Bに沿う距離S2=700mmであり,第1光学系と第2光学系との基準軸3Aに沿う距離S1=300mmである。また,第1光学系30が,画像形成素子2から取り込む光束の開き角は10度(約Fno5.6)である。第1光学系の焦点距離はf1=61.3mmで,第1,第2光学系を併せた合成焦点距離はf=15.7mmである。表5に,第1光学系30から射出する光束の射出角度と,上記焦点距離から求めた計算角度を示す。
この例でも,計算角度より,実際の角度が大きくなっている。表6に,第2光学系31を射出後の光束の射出角度と,全系の焦点距離から計算した射出角度を示す。
第1の実施の形態とは異なり,実際の角度と,計算角度が大きく異なっている。これは,光学系の周辺に於いて,近軸的な焦点距離が意味を持たない事を示唆している。この事実にも関わらず,スクリーン4上での画像としての歪曲は,0.16%以下に抑えられている。更に,ここで注目すべき事は,第1光学系の基準軸3Aに関する表5の射出角度と,それに対応する第2光学系の基準軸3Bに関する表8の射出角度が大きく異なっていることである。これは,第2光学系の射出角度増加に果たす役割が相対的に大きいことを示している。本実施例は,ここで取り上げる実施例を通じて増加の割合が比較的小さい方の例である。それでも,射出角度の正接の比,即ち射出角のtanθの比は,光線番号319でも2を越えている。
図6は,本発明の第3の実施形態を示す投写装置の断面図である。画像形成素子2として,反射型の0.9inchの素子を用い,そこからの光束を屈折型光学素子から構成される第1光学系30と1枚の反射鏡から構成される第2光学系31により,スクリーン4上に60inchの拡大像を形成する。途中結像には寄与しないが,光路を折り畳むための平面鏡301が設けられている。そして,投写の形態としては,第1及び第2の実施形態と同様,スクリーン中心下部から上方への投写光学系である。この例は,本発明の斜入射結像光学系を投写装置として用いる場合の典型的な例の1つである。比較的簡単な構成ながら,投写系としての十分な性能も有している。第2光学系31からスクリーン4迄の距離S2=450mmである。また,第1光学系が画像形成素子2から取り込む光束の開き角は14.4度(Fno4)である。図6の断面図中,最も大きな画角を有する光束328が光軸3Aとなす角は63度(紙面外の光束を含む最大角度は64.7度)である。この様に非常に大きな画角を持ちながら,歪曲は0.03%と殆どない。また,第1光学系30から第2光学系31及び,第2光学系31からスクリーン4までの光束に沿う距離D1,D2の中で,最も差が小さくなるのが光束321であるが,D1=298.2,D2=520.7で,これも条件D2>D1を満足している。
図7は,これまでの例と同様,各光束断面に於ける収束点の位置を示している。この例では,曲線31Tで表される収束点が,スクリーン4を越える割合が更に増えており,光束315以降は全て,スクリーン4を越える位置に収束点を有する。光束318では収束点を持たず,ほぼ平行光となる(無限遠に収束)。前の2つの実施形態では,収束点(△)は常に第1光学系の基準軸に沿って光束の進む方向に収束点を持っていたが,本実施形態では,表3からも分かるように,L1nの光束の収束点は負の距離であり,光束は発散光となる。
図8は,第1光学系30の断面図である。この実施例では,画像形成装置2として,反射型の液晶を使用している。一般的に反射型の素子では,照明光束を導くための空間として,十分なバックフォーカスを要求される。本例でも,画像形成素子2と第1光学系30の最も画像形成素子側の光学素子との間に,十分な空気間隔を確保しており,実に合成焦点距離の8倍以上に達している。ちなみに,第1光学系の焦点距離f1=35.5mm,第2光学系の焦点距離f2=−96mm,全系の焦点距離はf=7.9mmである。各光学系の焦点距離に比して,非常に小さな合成焦点距離を有する。
また,本例は,下記の本発明の追加条件
S1/L11>0.6
(S1+S2)/L2n<1
ΔSL>0.6
を満たす最初の事例でもある。実際の数値としては,表4から,それぞれ
S1/L11=0.69
(S1+S2)/L2n=0.95
ΔSL=0.87
となっており,上記全ての条件を満たしている。本実施形態のように斜入射角度が大きくなると,結像特性のバランスを取るために,通常の条件に加えて,より厳しい条件を課することも必要になる。上記最初の条件は,第1光学系の基準軸の最も近くから射出する光束の,最も遠くにある収束点を第2光学系のより近傍に近づける事を意味する。第2の条件は,第1光学系の基準軸から最も離れた位置から射出する光束の,最も近くにある収束点が,共役面Bを越えた位置で収束することを意味する。最後の条件は,第2光学系の基準軸の最も近くから射出する光束と最も離れて射出する光束の収束点に関し,最も遠くにある収束点の距離差を一定以上確保することを意味している。大きな斜入射角を実現する各光学系の構成要素は,この様な条件の少なくとも1つを満たすような,構造,並びに形状を有することが望ましい。以下に説明する残りの実施形態は,上記3つのうち少なくとも1つの条件を満たす例となっている。
図9は本発明の第4の実施形態を示す断面図である。これまでの例と同様,観察側からスクリーンに投写する前面投写型の投写装置の断面図である。これまでと異なる点は,この投写装置がスクリーン4の真横に設置されており,更に投写する画像位置を移動する事が出来ることである。図9はスクリーン4の上下2等分線を含む水平面で切断した断面図である。また,図10は図9の装置を,観察側から見た様子を表している。
使用する画像形成素子2は,0.7inchの反射型素子である。画像形成素子2から射出する光束は,屈折光学素子から構成される第1光学系30と,1枚の反射鏡から構成される第2光学系31を通過してスクリーン4の上に60inchの大きさの画像を形成する。投写される画像は,水平方向に移動可能であり,水平方向の端が光束321と光束328とで形成される60inchの画像位置から,光束321’と光束328’とで形成される同じ60inchの大きさの画像位置へと,画面の半分に相当する距離を移動できる様に構成されている。観察者側から見ると,図10のスクリーン4から点線で示される4’へ移動するように見える。本例のように,斜めからの投写が可能で,しかも投写距離が短い投写装置では,映像を見る際,投写装置自身がじゃまになることは少ない。それでも投写装置の設置場所に自由度を与える意味で,この機能は重要である。
図11は,図10と同じ断面内において,第1光学系30を射出した光束の収束点を示した図である。第1光学系30を射出した光束は,第2光学系31で反射し,スクリーン4の上に収束するが,この図は,第2光学系31の作用を受けず,そのまま透過し,スクリーン4に相当する位置に向かうとして描いている。第2光学系31とスクリーン相当面4との距離S2=700mmである。△印は紙面内での収束点,●は紙面に直交する光束断面内での収束点を表す。図から明らかなように,紙面内の収束点は,光束の第1光学系における射出点が基準軸3Aから離れるに従って,第1光学系から遠くに収束し,光束318'の場合は収束点を持たない発散光になる。従って,収束角は光束311から徐々に小さくなり,光束318'では負である。紙面に直交する断面内の光束の収束点(●)は,紙面内の収束点(△)より,第1光学系30に近い側に出来ている。光束318'ではほぼスクリーンの位置に形成される。なお,第1光学系30が画像形成素子2から取り込む光束の開き角は14.4度(Fno4),歪曲は最大0.23%である。図12には,第1光学系30の断面図を示す。
図13は,本発明の第5の実施形態を示す図である。これは,通常のテレビと同様,スクリーンの背面から投写される画像をスクリーンの前面から観察する背面投写装置である。
共役面Aに相当する画像形成装置2は透過型の液晶表示装置で,そこから発する光束は,第1光学系を構成する2枚の反射鏡30aと30b,第2光学系を構成する1枚の反射鏡31,更に平面鏡301で折り返され,もう一方の共役面Bであるスクリーン4上に拡大像を形成する。画像形成素子2の大きさは1.3inch,スクリーン上の画像の大きさは50inchである。この様に平面鏡301を使用し,光束を折り畳むことで,薄型の背面投写が可能となる。この投写装置の中で,最も厚みのある部分は,平面鏡301とスクリーン4の間で280mmである(但しS2=520mm)。これは従来の約半分の厚さである。図14はこの装置をスクリーンの背面から見た図である。図15に光束の収束の様子を,図16に結像系部分の拡大図を示す。なお,第1光学系30が画像形成素子2から取り込む光束の開き角は11.5度(Fno5),歪曲は最大0.57%である。
図17は本発明の第6の実施形態を示す断面図である。これも実施の形態5と同様,背面投写装置である。図17は,その上面図である。
0.7inchの画像形成装置2から発する光束は,屈折型光学素子より構成される第1光学系30,平面鏡301,1枚の反射鏡から構成される第2光学系31,平面反射鏡302を通過して,スクリーン4上に100inchの大きさの像を結ぶ。この背面投写装置も薄型化が可能で,平面反射鏡302とスクリーン4の距離が400mmとなっている。また,投写装置の下部にある第1光学系30からスクリーン4の下端までの高さも低く,全体的に背丈の低い理想的な投写装置となっている。第1光学系30が,画像形成装置2から取り込む光束の開き角は23.1度(Fno2.5)である。また,歪曲は0.06%以下である。図18は,投写装置の全体の正面図,図19は第1光学系30の断面図である。
図20は本発明の第7の実施形態を示す断面図である。画像形成装置2は,0.7inchの16:9の横長の素子である。この画像形成装置2から発する光束は,屈折光学素子で構成される第1光学系30,1枚の反射鏡から構成される第2光学系31を通過して,スクリーン4上に投写される。この形態で特徴的なのは,スクリーン下端への光束の角度とスクリーン上端への光束の角度差が小さいことである。具体的には,下端側が63度,上端側が77度で,角度差は14度となっている。また投写距離も短く,第2光学系の基準軸3Bの頂点からスクリーン4迄の距離S2=167mmである。逆に,第1光学系30から第2光学系31迄の距離の方が長く,S1=300mmである。実際の応用では,ここに平面ミラーを追加し,折り畳むことも自由に出来る。この様にS1>S2であるが,実際の光束321に沿う距離にはD1<D2の条件を満たす。図21は,第1の光学系30の断面図であり,画像形成素子2から取り込む光束の開き角は23°(Fno2.5)となっている。
図22は本発明の第8の実施形態を示す断面図である。これは,第1光学系,第2光学系とも全て反射鏡で構成されており,第5の実施例に類似する背面投写装置の例である。第5の実施例と異なるのは,第1の光学系が,30a,30b,30cの3枚の反射鏡で,第2の光学系31が1枚の反射鏡で構成されている事である。0.7inchの大きさの画像形成装置2からの光束をスクリーン4上に40inchの大きさの画像として投写する。全ての反射鏡は,回転対称軸を有する回転対称非球面で構成されているが,全ての反射鏡が偏心しており,共通の光軸は存在しない。この例では,便宜的な基準軸として,各反射鏡の偏心を定義するための基準軸3Aを第1光学系,第2光学系共通の基準軸としている。この軸には物理的な意味はなく,あくまでも便宜的なものである。画像形成装置2から取り込む光束の開き角は16.4度(FNo3.5)と十分な明るさを持っている。また,平面鏡301からスクリーン4迄の投写装置としての厚さは,160mmである。
図23は本発明の第9の実施形態を示す断面図である。これは,第8実施例と基本構成は殆ど同じであるが,更に薄くするために,第1光学系30構成する3枚の反射鏡を自由曲面化した例である。同じ40inchの投写画像に対して,平面鏡301からスクリーン4迄の厚さは僅か125mmである。これは対角の25%という画期的な厚みである。自由曲面化には様々な定義式が使用可能であるが,この例ではZernike多項式を採用している。また,偏心量も大きく第1光学系30の第3反射鏡30cは35°近い回転偏心を有している。この様な光学系では,近軸的な考え方はもはや成り立たない。例えば,近軸量から計算した第1光学系の焦点距離f1=−5.49mm,全系の焦点距離f=−1.34mm等を見ても明らかである。但し,基準軸近傍で第1光学系が収束系,第2光学系が発散系という基本的性質はもちろん成立している。画像形成装置2から取り込む光束の開き角は14.4度(FNo4)である。
以上,各実施の形態について,投写装置の例を中心に説明した。重要なことは,基本的条件を満足することで,屈折系・反射系等の具体的な光学系の構成要素に関わらず,斜入射光学系が構成できることである。これは,その時の技術レベルや製造コストに合わせ,斜入射光学系を実現する具体的手段の選択の幅を広げる事につながる。
最後に,各実施の形態に対応する実施例を,具体的な数値例として示す。
実施の形態1に対応する第1の数値例を表7に示す。表7の左端の番号1〜14は,第1光学系30を表す図3の1〜14の各記号に対応する。特に図示はしていないが,屈折率,分散も各面の値に対応している。番号0は,画像形成素子2に相当し,d0は画像形成素子2から第1光学系の最初の面であるr1迄の光軸に沿う距離である。
表7の番号の欄に*印を付してある面は,その面が非球面であることを示している。以下の第1〜第8実施例迄は,光学系設計の自由度を確保するための非球面として,次の非球面式を採用している。これ以外の定義式を採用することももちろん可能であり,選択は,通常よく使用されるという便宜的な理由に過ぎない。
ここでZは,各非球面の頂点を通る基準平面からの光軸方向の深さである。また,cは面の曲率半径Rの逆数,hは面の光軸からの距離を表している。kは円錐定数,A
4〜A
26は非球面補正係数である。それぞれの各係数の値は,表8に与えられる。
表7の番号15に相当する面は,第2光学系31を構成する反射面に関するデータである。この面も,同じ式で表される非球面である。d14は,第1光学系のr14から第2光学系31迄の光軸に沿う距離,d15は第2光学系からスクリーン4迄の光軸に沿う距離を表している。番号16はスクリーンである。
第2の実施形態に対応する数値例を,表9及び表10に示す。
番号3,4が図4の第1光学系30を構成する画像形成素子2側の凸レンズの面データ,番号5,6が同じく第1光学系30のスクリーン側の凹レンズの面データに対応している。番号7,8は第2光学系31を構成する光学素子の面データである。番号0が画像形成素子2に,番号9がスクリーン4に相当する。なお,番号1,2は色合成用プリズムに相当する。
第3の実施形態に対応する数値例を,表11及び表12に示す。番号1〜11が,図8のr1〜r11に対応する。また,番号0が画像形成素子2,番号12が折り返し用平面ミラー,番号13が第2光学系を構成する非球面ミラー31にそれぞれ対応している。番号14がスクリーンに対応する。
第4の実施形態に対応する数値例を,表13及び表14に示す。
番号1〜13迄が,図12のr1〜r13に対応している。r14が第2光学系を構成する反射面31に対応する面データである。この光学系は,像の移動を考慮して,より広い範囲の像高に対し収差補正を行っている。番号0が画像形成素子,番号15がスクリーンにそれぞれ対応する。
第5の実施形態に対応する数値例を,表15及び表16に示す。
これは,結像系が全て反射鏡より構成される背面投写装置の数値例である。表15の番号3及び4が,図16の反射鏡30a及び30bにそれぞれ対応する面データである。また,表15の番号5が,第2光学系31を構成する反射鏡31の面データに対応する。面データ0が画像形成素子2,面データ6が平面反射鏡301,面番号1,2は色合成用プリズムである。
第6の実施形態に対応する数値例を,表17及び表18に示す。番号1〜14が,図19の第1光学系断面図r1〜r14に対応する。番号15が90°折り曲げ平面ミラー,番号16が第2光学系を構成する非球面反射鏡31,番号17が折り返し用平面反射鏡301にそれぞれ対応している。番号0が画像形成装置2,番号18がスクリーン4である。
第7の実施形態に対応する数値例を,表19及び表20に示す。番号1〜17が,図21の第1光学系断面図r1〜r17に対応する。番号18が第2光学系を構成する非球面反射鏡31にそれぞれ対応している。番号0が画像形成装置2,番号19がスクリーン4である。なお,図21には,画像形成装置2に隣接して,色分解用プリズムがあるが表では空気換算長として示している。
第8の実施形態に対応する数値例を,表21,表22及び表23に示す。表21の番号3,4,5が,図22の第1光学系を構成する反射鏡30a,30b,30cにそれぞれ対応する面データである。また,表21の番号6が,第2光学系31を構成する反射鏡31の面データに対応する。面データ0が画像形成素子2,面データ7が平面反射鏡301,面データ8がスクリーン4である。面番号1,2はカバー硝子である。表23には,それぞれの反射鏡の偏心量を示している。Yディセンタが紙面上方向への移動,x軸回転が紙面内時計回りの回転がそれぞれの偏心の正の向きである。
第9の実施形態に対応する数値例を,表24,表25,表26及び表27に示す。基本的な説明は第8の実施形態の数値例と同じである。異なる点は,非球面を自由曲面に拡張するための係数表27が追加されていることである。これは,非球面式に加えて,自由曲面を表現するために新たに付加したZernikeの多項式の係数を示している。この選択も,非球面の定義式の選択と同様に便宜的なもので,他の定義式を採用することも可能である。各係数に対応する多項式の形は,表27の後に記している。
以下に,Zernikeの付加項の中で,上記表27のゼロでない項だけを取って,その具体的な式の形を順に列挙する。左側の数字が表27の次数に対応している。
以上,各実施の形態に対応する,具体的な数値データを示した。これらのデータの中で,第2光学系を全て1枚の反射鏡あるいは1枚の屈折素子で構成した例のみを取り上げたが,第2光学系は構成上比較的大きくなるため,複数の構成にする場合,製造的・コスト的に種々の問題を生じる。この理由から,本実施例では全て単一の素子から構成した例のみを取り上げた。これらを複数の枚数で構成することにより,自由度を増やせることは言うまでもない。また,第2光学系に全て回転対称素子を使用した例のみを載せたのも,同様の理由による。これを自由曲面とすることでも,設計の自由度は増加する。