以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
(信号伝送回路の第1実施形態)
まず、図1及び図2に基づいて、第1実施形態に係る信号伝送回路の構成を説明する。図1は、第1実施形態に係る信号伝送回路を示す模式図である。図2は、第1実施形態に係る信号伝送回路を示す回路図である。
図1に示されるように、デジタルテレビ1とDVDプレーヤー2とは、HDMIケーブル3にて接続されている。HDMIケーブル3は、差動伝送方式を用いたケーブルであり、接続端子部5,6(コネクタ)を備えている。HDMIケーブル3の接続端子部5は、DVDプレーヤー2の出力部に接続されている。HDMIケーブル3の接続端子部6は、デジタルテレビ1の入力部に接続されている。DVDプレーヤー2から出力されたデジタル信号は、HDMIケーブル3を通してデジタルテレビ1に高速伝送される。
デジタルテレビ1は、その入力部に信号伝送回路SC1を備えている。信号伝送回路SC1は、図2に示されるように、互いに磁気結合される第1及び第2のインダクタ11,12を有するコモンモードフィルタ10と、互いに磁気結合される第3及び第4のインダクタ21,22を有するインダクタンス部20とが一体化されたインダクタンス素子100と、第1及び第2のバリスタ31,32と、を備えている。インダクタンス素子100の入力端子13,15は、HDMIケーブル3の接続端子部6がデジタルテレビ1の入力部に接続されることにより、信号線91,92を介して接続端子部6の対応する端子に接続されることとなる。
ここで、図3(a)及び(b)を参照して、コモンモードフィルタ10の構造及び動作について説明する。図3(a)及び(b)は、コモンモードフィルタの動作を説明する概略図である。
コモンモードフィルタ10は、互いに絶縁された2本の導線(コイル)17,18をフェライトコア19に複数回、同方向に巻きつけた構成となっている。導線17が第1のインダクタ11を構成することとなり、導線18が第2のインダクタ12を構成することとなる。図3に示すフェライトコア19の形状は、コモンモードフィルタ10の動作を説明するための模式的な形状であり、本実施形態では図示したリング形状ではない。実際の具体的構造については後述する。
本実施形態において、コモンモードフィルタ10は、信号に対して、デイファレンシャルモードで用いられる。デイファレンシャルモードでは、図3(a)に示されるように、信号SIは、導線17,18に互いに逆方向の信号として入力される。そのため、各導線17,18によってフェライトコア19に生じる磁束F1,F2は、互いに逆方向の磁束となり、打ち消し合うように作用することとなる。従って、導線17,18が生み出す磁界MFによって生じるインピーダンス(インダクタンス)がほとんどないので、信号SIは、ほとんど減衰することなく出力される。
一方、コモンモードノイズCNに対しては、コモンモードフィルタ10は、コモンモードで用いられる。コモンモードでは、図3(b)に示されるように、コモンモードノイズCNは、導線17,18の同方向に生じる。そのため、各導線17,18によってフェライトコア19に生じる磁束F1,F2は、互いに同方向の磁束となり、強め合うように作用することとなる。従って、導線17,18が生み出す磁界MFによって生じるインピーダンス(インダクタンス)が高くなり、コモンモードノイズCNはほとんど出力されない。このようにして、コモンモードフィルタ10は、ノイズを減衰させることができる。
再び、図2を参照する。インダクタンス部20は、上述の通り、第3及び第4のインダクタ21,22を有しており、第3のインダクタ21はコモンモードフィルタ10に含まれる第1のインダクタ11に直列接続され、第4のインダクタ22はコモンモードフィルタ10に含まれる第2のインダクタ12に直列接続されている。インダクタンス部20は、上述したコモンモードフィルタ10と同様、互いに絶縁された2つのインダクタ21,22をフェライトコアに複数回巻きつけた構成を有しており、これにより、第3及び第4のインダクタ21,22は互いに磁気結合している。しかしながら、インダクタンス部20は、コモンモードフィルタ10とは異なり、2つのインダクタを構成する2本の導線(コイル)の巻回方向が互いに逆方向とされている。このため、インダクタンス部20は、信号に対してコモンモードとなり、コモンモードノイズに対してデイファレンシャルモードとなる。
第1のバリスタ31は、入出力端子33,34を有している。第1のバリスタ31の入力端子33は、信号線93を介してインダクタンス素子100の出力端子24に接続されている。第1のバリスタ31の出力端子34は、接地電位に接続されている。これにより、第1のバリスタ31は、第1のインダクタ11及び第3のインダクタ21の後段に位置し、当該第1のインダクタ11及び第3のインダクタ21に電気的に並列接続されることとなる。また、第3のインダクタ21は、第1のインダクタ11と第1のバリスタ31との間に位置することとなる。
第2のバリスタ32は、入出力端子35,36を有している。第2のバリスタ32の入力端子35は、信号線94を介してインダクタンス素子100の出力端子26に接続されている。第2のバリスタ32の出力端子36は、接地電位に接続されている。これにより、第2のバリスタ32は、第2のインダクタ12及び第4のインダクタ22の後段に位置し、当該第2のインダクタ12及び第4のインダクタ22に電気的に並列接続されることとなる。また、第4のインダクタ22は、第2のインダクタ12と第2のバリスタ32との間に位置することとなる。
以上のように、第1実施形態においては、第1及び第2のバリスタ31,32の前段にコモンモードフィルタ10(第1及び第2のインダクタ11,12)を挿入すると共に、コモンモードフィルタ10と第1及び第2のバリスタ31,32との間に、インダクタンス部20を構成する第3及び第4のインダクタ21,22をそれぞれ挿入しているので、第1及び第2のバリスタ31,32による特性インピーダンスの低下を抑制することができる。
また、コモンモードフィルタ10とインダクタンス部20とが一体化されたインダクタンス素子100を用いていることから、信号伝送回路SC1のサイズを小型化することも可能となる。
しかも、第3及び第4のインダクタ21,22は互いに磁気結合しており、且つ、これらインダクタ21,22を構成する2本の導線の巻回方向が互いに逆方向とされていることから、磁気結合していない場合と比べ、より少ない巻数にて十分なインダクタンス値を確保することができる。このため、第3及び第4のインダクタ21,22を構成するインダクタンス部20のサイズを小型化することが可能となる。さらに、第3及び第4のインダクタ21,22が互いに別部品ではなく、磁気結合した1個の部品の一部であることから、インダクタンス値を精度良くバランスさせることができ、その結果、差動信号の対称性を維持することが可能となる。
また、第1実施形態においては、第1及び第2のバリスタ31,32の前段にコモンモードフィルタ10を挿入しているので、DVDプレーヤー2から出力された信号は、外来ノイズをほとんど伴うことなく、HDMIケーブル3及び信号伝送回路SC1を通してデジタルテレビ1に入力する。
次に、インダクタンス素子100の具体的な構成について説明する。
(インダクタンス素子の第1実施形態)
図4は、第1実施形態によるインダクタンス素子100の構造を示す略斜視図である。また、図5(a)はインダクタンス素子100の上面図であり、図5(b)はインダクタンス素子100の側面図である。
図4及び図5に示すように、本実施形態によるインダクタンス素子100は、ドラム型コア110と、第1〜第4のコイル121〜124とを備えて構成されている。ドラム型コア110は、棒状の巻芯部130とその両端に設けられた第1及び第2の鍔部141,142によって構成されている。第1の鍔部141には、第1及び第2の端子電極151,152が形成され、第2の鍔部142には、第3及び第4の端子電極153,154が形成されている。実際の使用状態においては、第1及び第2の端子電極151,152は、図2に示した一対の入力端子13,15として用いられ、第3及び第4の端子電極153,154は、図2に示した一対の出力端子24,26として用いられる。ドラム型コア110の材料については特に限定されないが、透磁率の高い材料、例えばフェライトなどを用いることが好ましい。
第1〜第4のコイル121〜124は、銅(Cu)などの導体の周囲を絶縁体でコーティングした配線部材であり、いずれもドラム型コア110の巻芯部130に巻回されている。また、第1及び第2のコイル121,122は、それぞれ図2に示した第1及び第2のインダクタ11,12を構成するコイルであり、第3及び第4のコイル123,124は、それぞれ図2に示した第3及び第4のインダクタ21,22を構成するコイルである。
より具体的に説明すると、第1及び第2のコイル121,122は、巻芯部130の第1の領域130aに巻回されており、第3及び第4のコイル123,124は、巻芯部130の第2の領域130bに巻回されている。図4及び図5に示すように、巻芯部130の第1の領域130aは、巻芯部130の所定の部分からみて第1の鍔部141側(図1では紙面の左側)に位置する領域であり、逆に、巻芯部130の第2の領域130bは、上記所定の部分からみて第2の鍔部142側(図1では紙面の右側)に位置する領域である。
本実施形態においては、第1のコイル121と第3のコイル123が連続する1本の導体によって構成されており、第2のコイル122と第4のコイル124が連続する1本の導体によって構成されている。したがって、これら2本の導体のうち、巻芯部130の第1の領域130aに巻回されている部分を第1及び第2のコイル121,122と呼び、巻芯部130の第2の領域130bに巻回されている部分を第3及び第4のコイル123,124と呼んでいるに過ぎない。しかしながら、本明細書においては、便宜上、第1〜第4のコイル121〜124に分けて説明する。
第1〜第4のコイル121〜124は、その一端121a〜124aがそれぞれ第1〜第4の端子電極151〜154に接続されている。第1のコイル121の他端121bと第3のコイル123の他端123bは、第1のコイル121と第3のコイル123の境界部である。同様に、第2のコイル122の他端122bと第4のコイル124の他端124bは、第2のコイル122と第4のコイル124の境界部である。
さらに、図4に示す矢印Aから見た場合、第1及び第2のコイル121,122は、いずれも一端121a,122aから他端121b,122bに向かって左回り(反時計回り)に巻回されている。換言すれば、第1の端子電極151を始点とした第1のコイル121の巻回方向と、第2の端子電極152を始点とした第2のコイル121の巻回方向は、互いに同一方向である。
尚、第1及び第2のコイル121,122の巻回方向については、互いに同一である限りその方向については特に限定されず、したがって、両者とも右回り(時計回り)であっても構わない。本実施形態においては、第1及び第2のコイル121,122は、巻芯部130に4回バイファイラ巻きされている。もちろん、本発明において第1及び第2のコイル121,122の巻数はこれに限定されず、何回であっても構わない。但し、第1及び第2のコイル121,122の対称性を保つためには、第1のコイル121の巻数と第2のコイル122の巻数については同一とする必要がある。
これに対し、図4に示す矢印Aから見た場合、第3のコイル123は一端123aから他端123bに向かって左回り(反時計回り)に巻回されている一方、第4のコイル124は一端124aから他端124bに向かって右回り(時計回り)に巻回されている。換言すれば、第3の端子電極153を始点とした第3のコイル123の巻回方向と、第4の端子電極154を始点とした第4のコイル124の巻回方向は、互いに逆方向である。
尚、第3及び第4のコイル123,124の巻回方向については、互いに逆方向である限りその方向については特に限定されず、したがって上記とは逆、すなわち、第3のコイルが右回り(時計回り)であり、第4のコイルが左回り(反時計回り)であっても構わない。また、第1及び第2のコイル121,122の巻回方向と、第3又は第4のコイル123,124の巻回方向との関係についても特に限定されるものではない。
本実施形態では、第3及び第4のコイル123,124が巻芯部130を1周するごとに、巻芯部130の上面131において第3及び第4のコイル123,124が1回交差するとともに、巻芯部130の下面132において第3及び第4のコイル123,124が1回交差している。本実施形態においては、第3のコイル123の巻数及び第4のコイル124の巻数はいずれも4回であることから、第3のコイル123と第4のコイル124との交差回数は、合計8回となる。つまり、交差回数は、第3のコイル123の巻数(4回)と第4のコイル124の巻数(4回)の和に等しくなる。このような巻回方式によれば、第3及び第4のコイル123,124の巻き方が均等となることから、高い対称性を確保することが可能となる。
もちろん、本発明において第3及び第4のコイル123,124の巻数はこれに限定されず、何回であっても構わない。但し、第3及び第4のコイル123,124の対称性を保つためには、第3のコイル123の巻数と第4のコイル124の巻数については同一とする必要がある。尚、信号を過度に減衰させないためには、第1及び第2のコイル121,122の巻数よりも、第3及び第4のコイル123,124の巻数を十分に少なくすればよい。但し、本明細書及び図面では、便宜上、いずれのコイルも巻数を4回としている。
図6は、インダクタンス素子100を実装する基板上の配線パターンを説明するための図である。
本実施形態によるインダクタンス素子100は、巻回方向が互いに逆方向である第3及び第4のコイル123,124を含んでいるにもかかわらず、一対の入力端子13,15として用いられる2つの端子電極(第1及び第2の端子電極151,152)が同じ鍔部に形成され、且つ、一対の出力端子24,26として用いられる2つの端子電極(第3及び第4の端子電極153,154)が同じ鍔部に形成されていることから、図6に示すように、基板190上において一対の信号線91,92を平行に敷設することができるとともに、一対の信号線93,94を平行に敷設することができる。これにより、基板190上における配線パターンの迂回などが不要となる。このため、基板190上における配線パターンの占有面積が必要以上に増大することがなく、しかも、高い対称性を確保することが可能となる。これにより、装置全体の小型化と信号品質の向上を両立させることが可能となる。
しかも、本実施形態によるインダクタンス素子100は、第1〜第4のコイルが互いに別部品ではなく、対となるコイルがそれぞれ磁気結合した1個の部品であることから、部品点数を削減することが可能となる。
以上が、第1の実施形態によるインダクタンス素子100の具体的な構成である。
次に、図7〜図9に基づいて、第1実施形態に係る信号伝送回路SC1の変形例の構成を説明する。図7〜図9は、第1実施形態に係る信号伝送回路の変形例を示す図である。
図7に示された変形例においては、HDMIケーブル3が信号伝送回路SC1を備えている。
図8に示された変形例においては、DVDプレーヤー2が、その出力部に信号伝送回路SC1を備えている。
図9に示された変形例においては、HDMIケーブル3の接続端子部6(コネクタ)が、信号伝送回路SC1を備えている。なお、HDMIケーブル3の接続端子部6が信号伝送回路SC1を備える代わりに、HDMIケーブル3の接続端子部5(コネクタ)が、信号伝送回路SC1を備えていてもよい。
図7〜図9に示されたいずれの変形例においても、第1及び第2のバリスタ31,32による特性インピーダンスの低下を抑制することができる。
(インダクタンス素子の第2実施形態)
図10は、第2実施形態によるインダクタンス素子60の構造を示す略斜視図である。また、図11(a)はインダクタンス素子60の主要部を示す上面図であり、図11(b)はインダクタンス素子60の主要部を示す下面図である。さらに、図12(a)は図11(a)のA1−A1線に沿った断面図であり、図12(b)は図11(b)のB1−B1線に沿った断面図である。本実施形態によるインダクタンス素子60は、巻芯部130の第1の領域130a側の構成において第1実施形態によるインダクタンス素子100と同一であることから、図11(a),(b)では同一の部分を省略して表示してある。
図10〜図12に示すように、本実施形態によるインダクタンス素子60では、巻芯部130の第1の領域130aと第2の領域130bとの間に第3の鍔部143が設けられており、第3の鍔部143には第5及び第6の端子電極155,156が設けられている。第5及び第6の端子電極155,156は中継端子として利用することによって、回路設計の自由度を高める目的で形成されている。
また、本実施形態では、第1のコイル121と第3のコイル123が1本の導体ではなく、第1及び第3のコイル121,123の他端121b,123aがいずれも第5の端子電極に接続された構成を有している。同様に、第2のコイル122と第4のコイル124も1本の導体ではなく、第2及び第4のコイル122,124の他端122b,124aがいずれも第6の端子電極に接続された構成を有している。
さらに、本実施形態では、巻芯部130の第2の領域130bにおいて、上面131に4本の溝部131a1〜131a4(これらをまとめて溝部131aと呼ぶ)が形成され、下面132に4本の溝部132a1〜132a4(これらをまとめて溝部132aと呼ぶ)が形成されている。溝部131a,132aには第3のコイル123が収容されている。これにより、第4のコイル124は、上面側の交差領域X1及び下面側の交差領域X2のいずれの領域においても、第3のコイル123上を離間しながら通過している。その他の点については、上記実施形態によるインダクタンス素子100と同様であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図12(b)に示すように、溝部131a,132aの深さD1は、少なくとも第3のコイル123の直径D2以上に設定されている。これにより、交差領域X1,X2においては、第3のコイル123と第4のコイル124は、距離D3(=D1−D2)だけ離間することになる。
このように、本実施形態によるインダクタンス素子60は、巻芯部130の第2の領域130bに形成された溝部131a,132aに第3のコイル123を収容することによって、交差領域X1,X2における第3のコイル123と第4のコイル124との接触を防止していることから、コイル同士の接触に起因するショート不良や断線などが生じることがなく、製品の信頼性を高めることが可能となる。尚、溝部131a,132aに収容するコイルは、第3のコイル123に限らず、第4のコイル124であっても構わない。
さらに、本実施形態によるインダクタンス素子60は、中継端子となる第5及び第6の端子電極155,156を備えていることから、多様な接続が可能となり、回路設計の自由度を高めることが可能となる。
図13及び図14は、インダクタンス素子60の製造方法を説明するための工程図である。
まず、図13に示すように、第1〜第6の端子電極151〜156が形成されたドラム型コア110を用意する。ドラム型コア110の巻芯部130の第2の領域130bには、上述した溝部131a,132aをあらかじめ形成しておく。
次に、第1のコイル121と第2のコイル122を平行に揃えた状態で、巻芯部130の第1の領域130aに巻回する。すなわち、いわゆるバイファイラ巻きを行う。そして、第1のコイル121の一端121a及び他端121bを、それぞれ第1及び第5の端子電極151,155に接続し、さらに、第2のコイル122の一端122a及び他端122bを、それぞれ第2及び第6の端子電極152,156に接続する。
次に、図14に示すように、溝部131a,132aに沿って第3のコイル122を巻芯部130の第2の領域に巻回する。そして、第3のコイル123の一端123aを第3の端子電極153に接続し、他端123bを第5の端子電極155に接続する。
そして、図10に示したように、第3のコイル123と交差させながら、第4のコイル124を巻芯部130の第2の領域130bに巻回する。そして、第4のコイル124の一端124aを第4の端子電極154に接続し、他端124bを第6の端子電極156に接続すれば、本実施形態によるインダクタンス素子60が完成する。このように、本実施形態によるインダクタンス素子60は、第3のコイル123を巻芯部130の第2の領域130bに全て巻回した後、第4のコイル124を巻芯部130に巻回することができることから、作業効率が良く、簡単に組み立てることが可能である。
(インダクタンス素子の第3実施形態)
図15(a),(b)は、それぞれ第3実施形態によるインダクタンス素子70の主要部を示す上面図及び下面図である。また、図16(a)は図15(a)のA2−A2線に沿った断面図であり、図16(b)は図15(b)のB2−B2線に沿った断面図である。第3実施形態によるインダクタンス素子70を斜め上方から見た斜視図については、図10と同様である。また、本実施形態によるインダクタンス素子70は、巻芯部130の第1の領域130a側の構成において第1実施形態によるインダクタンス素子100と同一であることから、図15(a),(b)では同一の部分を省略して表示してある。
図15及び図16に示すように、本実施形態によるインダクタンス素子70は、巻芯部130の第2の領域130bの上面131に溝部131aが形成され、下面132に溝部132aが形成されている点において、上述した第2実施形態によるインダクタンス素子60と同様であるが、溝部131aには第3のコイル123が収容され、溝部131bには第4のコイル124が収容されている点において、上記インダクタンス素子60と相違する。その他の点については、上記インダクタンス素子60と同様であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
このような構成により、巻芯部130の上面131側の交差領域X3においては、第4のコイル124が第3のコイル123上を離間しながら通過し、巻芯部130の下面132側の交差領域X4においては、第3のコイル123が第4のコイル124上を離間しながら通過している。このため、本実施形態では、交差領域X3,X4における第3のコイル123と第4のコイル124との接触が防止されるだけでなく、第3のコイル123と第4のコイル124の長さを等しくすることができるとともに、第3及び第4のコイル123,124に対する巻芯部130の影響を均等とすることが可能となる。このため、本実施形態によれば、第3のコイル123と第4のコイル124の対称性がより高くなることから、信号品質を向上させることが可能となる。
図17は、インダクタンス素子70の製造方法を説明するための工程図である。
まず、図13に示したように、第1〜第6の端子電極151〜156が形成されたドラム型コア110を用意し、第1及び第2のコイル121,122を巻芯部130の第1の領域130aにバイファイラ巻きする。そして、第1のコイル121の一端121a及び他端121bを、それぞれ第1及び第5の端子電極151,155に接続し、さらに、第2のコイル122の一端122a及び他端122bを、それぞれ第2及び第6の端子電極152,156に接続する。次に、図17に示すように、第3のコイル123の他端123bを第5の端子電極155に接続し、第4のコイル124の他端124bを第6の端子電極156に接続する。
この状態から、第3の鍔部143に最も近い1番目の溝部131a1に沿って第3のコイル123を巻芯部130の第2の領域130bに巻回した後、第3の鍔部143に最も近い1番目の溝部132a1(図17では裏面のため図示されない)に沿って第4のコイル124を巻芯部130の第2の領域130bに巻回する。続いて、2番目の溝部131a2に沿って第3のコイル123を巻回し、さらに、2番目の溝部132a2(図17では裏面のため図示されない)に沿って第4のコイル124を巻回する。このようにして、第3のコイル123と第4のコイル124を巻芯部130の第2の領域130bに交互に巻き進める。そして、図10に示すように、第3のコイル123の一端123aを第3の端子電極153に接続し、さらに、第4のコイル124の一端124aを第4の端子電極154に接続する。
以上により、本実施形態によるインダクタンス素子70が完成する。尚、インダクタンス素子70における第3及び第4のコイル123,124の巻回方法としては、上記のように交互に巻回する方法に限定されず、一方のコイル(例えば第3のコイル123)を巻芯部130の第2の領域130bに全て巻回した後、他方のコイル(例えば第4のコイル124)を、対応する溝部(例えば溝部132b)にくぐらせるようにして巻芯部130に巻回しても構わない。
(インダクタンス素子の第4実施形態)
図18は、第4実施形態によるインダクタンス素子80の構造を示す略斜視図である。また、図19(a),(b)は、それぞれインダクタンス素子80の主要部を示す上面図及び下面図である。さらに、図20は、図19(a)のB3−B3線に沿った断面図である。また、本実施形態によるインダクタンス素子80は、巻芯部130の第1の領域130a側の構成において第1実施形態によるインダクタンス素子100と同一であることから、図19(a),(b)では同一の部分を省略して表示してある。
図18〜図20に示すように、本実施形態によるインダクタンス素子80では、巻芯部130の第2の領域130bの上面131に4つの突起部131b1〜131b4(これらをまとめて突起部131bと呼ぶ)が形成され、下面132に4つの突起部132b1〜132b4(これらをまとめて突起部132bと呼ぶ)が形成されている。突起部131b,132bは、巻芯部130の一部であっても構わないし、巻芯部130に付加された別の部材であっても構わない。
巻芯部130の第2の領域130bの上面131側においては、突起部131bの上面に接するように第4のコイル124が巻回されており、これによって生じた巻芯部130の上面131と第4のコイル124の隙間をくぐるように、突起部131bを避けて第3のコイル123が巻回されている。逆に、巻芯部130の第2の領域130bの下面132側においては、突起部132bの上面に接するように第3のコイル123が巻回されており、これによって生じた巻芯部130の下面132と第3のコイル123の隙間をくぐるように、突起部132bを避けて第4のコイル124が巻回されている。その他の点については、上記実施形態によるインダクタンス素子100と同様であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図20に示すように、突起部131b,132bの高さD4は、少なくとも第3及び第4のコイル123,124の直径D2以上に設定されている。すなわち、交差領域X5,X6においては、第3又は第4のコイル123,124と巻芯部130の平坦面との間には最大で距離D4の隙間が生じることから、この隙間に第3又は第4のコイル123,124をくぐらせれば、第3のコイル123と第4のコイル124とを最大で距離D5(=D4−D2)だけ離間させることが可能となる。
このような構成により、巻芯部130の上面131側の交差領域X5においては、第4のコイル124が第3のコイル123上を離間しながら通過し、巻芯部130の下面132側の交差領域X6においては、第3のコイル123が第4のコイル124上を離間しながら通過する。このため、本実施形態においても、コイル同士の接触に起因するショート不良や断線などが生じることがなく、製品の信頼性を高めることが可能となる。
さらに、本実施形態によるインダクタンス素子80は、第3実施形態によるインダクタンス素子70と同様、第3のコイル123と第4のコイル124の長さを等しくすることができるとともに、第3及び第4のコイル123,124に対する巻芯部130の影響を均等とすることが可能となる。したがって、第3実施形態によるインダクタンス素子70と同様、信号品質を向上させることが可能となる。
但し、突起部を用いる場合に上記の構成を採用することは必須でなく、巻芯部130の上面131及び下面132の両方の側において、第3のコイル123(又は第4のコイル124)を突起部131b,132bの上面に接するように巻回しても構わない。
突起部の形状についても特に限定されるものではないが、突起部上に巻回されるコイルの脱落を防止するとともに、巻回作業の作業効率を高めるためには、図21(a)に示すように、各突起部131b,132bの上面に凹部131xを設けたり、図21(b)に示すように、各突起部131b,132bの上面にガイド部131yを設けておくことが好ましい。
尚、第2及び第3実施形態では巻芯部130に溝部を設け、第4実施形態では巻芯部130に突起部を設けることによって、交差領域における第3及び第4のコイル123,124の接触を防止しているが、要するに、巻芯部130に設けた凹凸によって第3及び第4のコイル123,124を離間させることができれば、どのような形状を採用しても構わない。また、凹部であるか凸部であるかの区別はあくまで相対的である。したがって、第2及び第3実施形態において溝部が形成されていない領域を凸部であると見ることもできるし、第4実施形態において突起部が形成されていない領域を凹部であると見ることもできる。
さらに、正面図及び側面図である図22に示すように、巻芯部130の断面が6角形である場合には、対向する角部138,139にそれぞれ複数のスリット138a,139aを形成しておけば、第2〜第4実施形態と同様の効果を得ることができる。つまり、上面図である図23に示すように、スリット138aに沿って第3のコイル123を巻回するとともに、これらスリット138aを跨ぐように第4のコイル124を巻回すれば、2つのコイルを離間させることが可能となる。図23に示す面の反対側についても同様に、スリット139aに沿って第4のコイル124を巻回するとともに、これらスリット139aを跨ぐように第3のコイル123を巻回すればよい。
(インダクタンス素子の第5実施形態)
図24は、第5実施形態によるインダクタンス素子90の構造を示す略斜視図である。
図24に示すように、本実施形態によるインダクタンス素子90では、巻芯部130の第2の領域130bの上面131側に、第3のコイル123と第4のコイル124との間に設けられた絶縁フィルム131cが追加され、巻芯部130の下面132側に、第3のコイル123と第4のコイル124との間に設けられた絶縁フィルム132cが追加されている。その他の点については、第1実施形態によるインダクタンス素子100と同様であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態によるインダクタンス素子90は、巻芯部130に設けられた凹凸によって第3及び第4のコイル123,124を離間させるのではなく、絶縁フィルム131c,132cによってこれらを離間させている。このような方法によっても、コイル同士の接触に起因するショート不良や断線などを防止することができることから、製品の信頼性を高めることが可能となる。絶縁フィルム131c,132cの材料については特に限定されないが、薄くて破れにくい材料を選択することが好ましい。
図25及び図26は、インダクタンス素子90の製造方法を説明するための工程図である。
まず、図25に示すように、第1〜第6の端子電極151〜156が形成されたドラム型コア110を用意し、第1及び第2のコイル121,122を巻芯部130の第1の領域130aにバイファイラ巻きする。そして、第1のコイル121の一端121a及び他端121bを、それぞれ第1及び第5の端子電極151,155に接続し、さらに、第2のコイル122の一端122a及び他端122bを、それぞれ第2及び第6の端子電極152,156に接続する。
次に、図25に示すように、第3のコイル123を巻芯部130の第2の領域130bに巻回し、その一端123aを第3の端子電極153に接続し、他端123bを第5の端子電極155に接続する。その後、図26に示すように、巻芯部130の上面131に位置する第3のコイル123を絶縁フィルム131cで被う。同様に、巻芯部130の下面132に位置する第3のコイル123についても、絶縁フィルム132cで被う。
そして、図24に示したように、絶縁フィルム131c,132cの上から第4のコイル124を巻芯部130に巻回し、その一端124aを第4の端子電極154に接続し、他端124bを第6の端子電極156に接続すれば、本実施形態によるインダクタンス素子90が完成する。このように、本実施形態によるインダクタンス素子90は、第3のコイル123を巻芯部130の第2の領域130bに全て巻回した後、第4のコイル124を巻芯部130に巻回することができることから、作業効率が良く、簡単に組み立てることが可能である。
以上、インダクタンス素子に関するいくつかの実施形態について説明したが、いずれの実施形態によるインダクタンス素子も、第1及び第2のコイル121,122によって構成されるコモンモードフィルタ10と、第3及び第4のコイル123,124によって構成されるインダクタンス部20とが一体化されていることから、信号伝送回路に用いる部品の点数を削減することが可能となる。
しかも、第3及び第4のコイル123,124が互いに磁気結合しており、且つ、巻回方向が互いに逆方向とされていることから、磁気結合していない場合と比べ、より少ない巻数にて十分なインダクタンス値を確保することができ、インダクタンス素子のサイズを小型化することが可能となる。しかも、各実施形態によるインダクタンス素子は、いずれもインダクタンス値を精度良くバランスさせることができ、差動信号の対称性を維持することが可能となる。このため、各実施形態によるインダクタンス素子を用いれば、装置全体の小型化と信号品質の向上を同時に達成することが可能となる。
(信号伝送回路の第2実施形態)
次に、図27に基づいて、第2実施形態に係る信号伝送回路の構成を説明する。図27は、第2実施形態に係る信号伝送回路を示す回路図である。
デジタルテレビ1は、第1実施形態と同じく、その入力部に信号伝送回路SC2を備えている。信号伝送回路SC2は、図27に示されるように、コモンモードフィルタ10及びインダクタンス部20が一体化されたインダクタンス素子100と、第1及び第2のバリスタ31,32と、第5及び第6のインダクタ41,42と、を備えている。
第5のインダクタ41は、入出力端子43,44を有している。第5のインダクタ41の入力端子43は、第3のインダクタ21の出力端子24に接続されており、第1のインダクタ11及び第3のインダクタ21に電気的に直列に接続されている。これにより、第5のインダクタ41は、第1のバリスタ31の後段に位置することとなる。
第6のインダクタ42は、入出力端子45,46を有している。第6のインダクタ42の入力端子45は、第4のインダクタ22の出力端子26に接続されており、第2のインダクタ12及び第4のインダクタ22に電気的に直列に接続されている。これにより、第5のインダクタ42は、第2のバリスタ32の後段に位置することとなる。
以上のように、第2実施形態においては、第1及び第2のバリスタ31,32の後段に第5及び第6のインダクタ41,42をそれぞれ挿入しているので、第1及び第2のバリスタ31,32による特性インピーダンスの低下をより一層抑制することができる。
信号伝送回路SC2は、図7〜図9に示されるように、HDMIケーブル3、DVDプレーヤー2あるいは接続端子部5,6(コネクタ)に備えられていてもよい。この場合でも、第1及び第2のバリスタ31,32による特性インピーダンスの低下をより一層抑制することができる。
続いて、信号伝送回路の第1及び第2実施形態によって、第1及び第2のバリスタによる特性インピーダンスの低下を抑制できることを、具体的に示す。ここでは、信号伝送回路の特性インピーダンスをTDR(Time Domain Reflectometry)法を測定する。TDR法とは、伝送線路にステップパルスを送出し、の特性インピーダンスの不連続箇所にて反射されたパルスを測定することにより、伝送線路の特性インピーダンスを計測する測定法である。
まず、図28に基づいて、TDR法による測定環境を説明する。図28に示される各測定環境では、高速オシロスコープ50とレシーバIC52とが、伝送路54を介して接続されている。伝送路54は、同軸ケーブル56と信号伝送回路58とを有している。高速オシロスコープ50は、TDRモジュール51を有している。高速オシロスコープ50は、TDRモジュール51を通して同軸ケーブル56と接続され、同軸ケーブル56の他端は信号伝送回路58と接続される。信号伝送回路58の他端にはレシーバIC52が接続される。
高速オシロスコープ50としては、アジレント・テクノロジー社(Agilent Technologies, Inc.)製のAgilent86100広帯域オシロスコープを用いる。TDRモジュール51としては、アジレント・テクノロジー社製の54754差動TDRプラグイン・モジュールを用いる。レシーバIC52は、電源がオフのときに無限大の入力インピーダンスを有し、高速オシロスコープ50からの信号を100%反射させる。同軸ケーブル56は、2本の差動信号線からなり、それぞれ50Ωの特性インピーダンスを有する。このため、同軸ケーブル56全体の特性インピーダンスは100Ωとなる。
次に、図28及び図29に基づいて、TDR法による測定方法について説明する。まず、高速オシロスコープ50が入射電圧ステップEiを発生させ、この入射電圧ステップEiを伝送路54に出力する。伝送路54上で特性インピーダンスの不連続点が存在しない場合には、入射電圧ステップEiがレシーバIC52でそのまま反射され、高速オシロスコープ50には、図29(a)に示すように、入射電圧ステップEiのみが表示される。一方、伝送路54の特性インピーダンスに不連続箇所が存在する場合には、その不連続箇所で入射電圧ステップの一部が反射される。この場合、高速オシロスコープ50には、図29(b)に示すように、反射波Erが入射電圧ステップEiに代数的に追加されて表示される。この結果より、特性インピーダンスの不連続箇所の位置と特性インピーダンスの値を求めることができる。すなわち、反射波Erが測定されるまでの時間Tにより特性インピーダンスの不連続箇所の位置を求めることができると共に、反射波Erの値により不連続箇所での特性インピーダンスを求めることができる。
コモンモードフィルタとしては、ACM2012D−900(TDK株式会社製)を用いた。ACM2012D−900の特性インピーダンスは、100Ωである。ACM2012D−900のカットオフ周波数は、3.5GHzである。第1及び第2のバリスタには、AVR161A1R1(TDK株式会社製)を用いた。AVR161A1R1の静電容量は、1.1pFである。第3〜第6のインダクタには、MLK1005シリーズ(TDK株式会社製)を用いた。
測定結果を図30〜図32に示す。
図30を参照する。特性I1は、信号伝送回路58が、第1及び第2のバリスタを備え、コモンモードフィルタ及び第3〜第6のインダクタを備えていない場合の測定結果である。特性I1から分かるように、第1及び第2のバリスタの影響を受けて特性インピーダンスが低下し、インピーダンス不整合が生じている。
特性I2は、信号伝送回路58が、第1及び第2のバリスタとコモンモードフィルタとを備え、第3〜第6のインダクタを備えていない場合の測定結果である。信号伝送回路58を構成するにあたり、コモンモードフィルタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわちコモンモードフィルタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との間の時間的な長さを23psに設定した。
特性I2から分かるように、信号伝送回路58の特性インピーダンスが100Ω±15%の範囲内にあるものの、依然として第1及び第2のバリスタの影響を受けて特性インピーダンスが低下している。
特性I3〜I5は、信号伝送回路58が第1及び第2のバリスタとコモンモードフィルタと第3及び第4のインダクタとを備える場合、すなわち信号伝送回路58が上述した第1実施形態に係る信号伝送回路SC1と同じ構成である場合の測定結果である。特性I3は、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を1.0nHとした場合の測定結果である。特性I4は、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を1.5nHとした場合の測定結果である。特性I5は、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を2.2nHとした場合の測定結果である。信号伝送回路58を構成するにあたり、コモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわちコモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との間の時間的な長さを20psに設定した。同じく、第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわち第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。
特性I3〜I5から分かるように、第1及び第2のバリスタの影響による特性インピーダンスの低下が抑制されている。
特性I5から分かるように、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を2.2nHとした場合、第1及び第2のバリスタの位置にて特性インピーダンスが低下しているものの、他の箇所にて特性インピーダンスが高くなってしまう。このように特性インピーダンスが高くなる箇所が生じるのは、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値に起因するものと考えられる。したがって、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値は1〜2nHであることが好ましい。
次に、図31を参照する。特性I6及び特性I7は、信号伝送回路58が第1及び第2のバリスタとコモンモードフィルタと第3〜第6のインダクタとを備える場合、すなわち信号伝送回路58が上述した第2実施形態に係る信号伝送回路SC2と同じ構成である場合の測定結果である。特性I6は、第3〜第6のインダクタのインダクタンス値を1.0nHとした場合の測定結果である。特性I7は、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を1.0nHとし、第5及び第6のインダクタをバイパスさせた場合の測定結果である。信号伝送回路58を構成するにあたり、コモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわちコモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。同じく、第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわち第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。同じく、第1及び第2のバリスタの入力端子と第5及び第6のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわち第1及び第2のバリスタの入力端子と第5及び第6のインダクタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。
特性I6から分かるように、第1及び第2のバリスタの影響による特性インピーダンスの低下がより一層抑制されている。
次に、図32を参照する。特性I8〜I10は、信号伝送回路58が第1及び第2のバリスタとコモンモードフィルタと第3〜第6のインダクタとを備える場合、すなわち信号伝送回路58が上述した第2実施形態に係る信号伝送回路SC2と同じ構成である場合の測定結果である。特性I8は、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を1.5nHとし、第5及び第6のインダクタのインダクタンス値を1.0nHとした場合の測定結果である。た場合の測定結果である。特性I9は、第3〜第6のインダクタのインダクタンス値を1.5nHとした場合の測定結果である。特性I10は、第3及び第4のインダクタのインダクタンス値を1.5nHとし、第5及び第6のインダクタをバイパスさせた場合の測定結果である。信号伝送回路58を構成するにあたり、コモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわちコモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。同じく、第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわち第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。同じく、第1及び第2のバリスタの入力端子と第5及び第6のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔、すなわち第1及び第2のバリスタの入力端子と第5及び第6のインダクタの入力端子との間の時間的な長さを0psに設定した。
特性I8及びI9から分かるように、第1及び第2のバリスタの影響による特性インピーダンスの低下がより一層抑制されている。
以上のことから、第1及び第2実施形態による信号伝送回路の有用性が確認された。
上述した測定結果から分かるように、第3〜第6のインダクタのインダクタンス値は、10nHより小さいことが好ましく、1〜2nHであることがより好ましい。これは、上述したように、第3〜第6のインダクタのインダクタンス値に起因して特性インピーダンスが高くなる箇所が生じてしまい、インピーダンス整合が不十分となるためである。
コモンモードフィルタの出力端子と第3及び第4のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔、第3及び第4のインダクタの出力端子と第1及び第2のバリスタの入力端子との伝送線路上での間隔、及び、第1及び第2のバリスタの入力端子と第5及び第6のインダクタの入力端子との伝送線路上での間隔は、短いほど好ましい。これは、各端子間の伝送線路(例えば、基板の導体パターン)がインダクタンス成分及び容量成分を有することとなり、これらのインダクタンス成分及び容量成分がインピーダンス整合を妨げる要因となるためである。
なお、コモンモードフィルタをノイズフィルタとして用いる場合、信号線間にコンデンサを接続する場合がある(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、信号伝送回路の第1及び第2実施形態において信号線間にコンデンサを接続した場合、不要な容量成分が生じることとなり、インピーダンス整合が図れなくなってしまう。したがって、信号伝送回路の第1及び第2実施形態においては、信号線間を接続するコンデンサを備えていない。
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしもこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、信号伝送回路SC1,SC2は、上述した位置に限らず、DVDプレーヤー2からの出力後、デジタルテレビ1の最初の回路の前に入っていればよい。DVDプレーヤー2は、パーソナルコンピュータや、セットトップボックス等の他のソース機器でもよい。HDMIケーブル3は、DVI、USB、IEEE等の規格に対応するケーブルでもよい。デジタルテレビ1は、LCDモニタやプロジェクタ等の他のシンク機器でもよい。
信号伝送回路の第1及び第2実施形態においては第1及び第2の容量性素子としてバリスタを用いたが、第1及び第2の容量性素子としてツェナーダイオード等の容量性素子を用いてもよい。
また、第2〜第4実施形態によるインダクタンス素子60,70,80では、巻芯部130に設けられた溝部や突起部によって、コイル同士の接触を防止しているが、巻芯部に設けられた凹凸によってコイル同士の接触が防止可能である限り、他の形状を用いることも可能である。
さらに、第5実施形態によるインダクタンス素子90では、絶縁フィルム131c,132cを用いてコイル同士の接触を防止しているが、コイル間に介在させる部材としては、絶縁体であればフィルム部材に限定されるものではない。したがって、例えば、一方のコイルを巻回した後に紫外線硬化性樹脂などを塗布し、これを硬化させた後に、他方のコイルを巻回することによってコイル同士の接触を防止することも可能である。
尚、第1〜第5実施形態として説明したインダクタンス素子100,60,70,80,90の適用範囲は、上述した信号伝送回路SC1,SC2に限定されるものではなく、他の用途にも使用することができる。
1…デジタルテレビ、2…DVDプレーヤー、3…HDMIケーブル、5,6…接続端子部、10…コモンモードフィルタ、11…第1のインダクタ、12…第2のインダクタ、21…第3のインダクタ、22…第4のインダクタ、31…第1のバリスタ、32…第2のバリスタ、41…第5のインダクタ、42…第6のインダクタ、SC1,SC2…信号伝送回路、20…インダクタンス部、60,70,80,90,100…インダクタンス素子、91〜94…信号線、110…ドラム型コア、121…第1のコイル、121a…第1のコイルの一端、121b…第1のコイルの他端、122…第2のコイル、122a…第2のコイルの一端、122b…第2のコイルの他端、123…第3のコイル、123a…第3のコイルの一端、123b…第3のコイルの他端、124…第4のコイル、124a…第2のコイルの一端、124b…第4のコイルの他端、130…巻芯部、130a…巻芯部の第1の領域、130b…巻芯部の第2の領域、131…巻芯部の上面、132…巻芯部の下面、131a,132a…溝部、131b,132b…突起部、131c,132c…絶縁フィルム、131x…凹部、131y…ガイド部、138,139…角部、138a,139a…スリット、141…第1の鍔部、142…第2の鍔部、143…第3の鍔部、151…第1の端子電極、152…第2の端子電極、153…第3の端子電極、154…第4の端子電極、155…第5の端子電極、156…第6の端子電極、190…基板