JP3973997B2 - プロピレン系重合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なプロピレン系重合体に関する。詳しくは、本発明は塩素のようなハロゲン原子を含有せず、プロピレン系重合体基材に対し、優れた接着性や塗装性を有する新規なプロピレン系重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロピレン重合体やプロピレン・オレフィン共重合体は安価であり、しかも、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れていることから、広い分野で使用されている。例えば、プロピレン系重合体からなる成形体の表面に塗膜を形成させる場合があるが、プロピレン系重合体は、分子中に極性基を持たないため一般に低極性であり、塗装や接着が困難であるという欠点を有している。従って、この欠点を改善するために、▲1▼あらかじめ該プロピレン系重合体の成形体の表面を薬剤などで化学的に処理したり、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などの手法で成形体表面を酸化処理するといった種々の手法が試みられてきている。しかるに、これらの方法では、特殊な装置が必要であるばかりでなく、また、塗装性や接着性の改良効果が十分であるとは言えない。
【0003】
また、▲2▼プロピレン系重合体の成形体表面に、塩素化ポリプロピレンを下塗りする方法が知られている。この塩素化ポリプロピレン塗膜の形成により、その後の塗膜性は改善される。すなわち、塩素化ポリプロピレンは、一般にトルエンやキシレンのような炭化水素溶媒に可溶であり容易に下塗りできる上、基材となるプロピレン系重合体との密着性が良好であり、分子に炭素−塩素結合に由来する極性が付与されているため、プロピレン系重合体の塗装性や接着性を改良することができる。なお、塩素化ポリプロピレンを、さらに極性モノマーのグラフト共重合により変性した変性塩素化ポリプロピレンは、塗装性や接着性の改良効果がさらに優れていることが知られている。
【0004】
しかし、ここで下塗り剤として用いる塩素化ポリプロピレン、もしくは変性塩素化ポリプロピレンは、塩素を大量に含有した樹脂であり、その使用は環境上好ましくない。これは近年、樹脂のリサイクルや焼却にともなう有害物質の発生問題で、塩化ビニル樹脂の使用が社会的問題となっているからである。塩素化ポリプロピレンについても、塩化ビニル樹脂同様、塩素のようなハロゲンを含有しない代替樹脂の開発が強く望まれている。しかし従来、ハロゲンを含まない樹脂で、有機溶媒に対する溶解性が良好であり、かつ接着性が良好なプロピレン系重合体は存在しなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、塩素のようなハロゲンを含有せずとも、基材としてのプロピレン系重合体に対して、良好な接着性、塗装性を付与することが可能な新規プロピレン系重合体を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、塩素化ポリプロピレンもしくはグラフト変性塩素化ポリプロピレンを代替しうる樹脂を開発するにあたり、塩素化ポリプロピレンの接着性発現機構を詳細に検討し、上記課題の解決を試みた。
アイソタクチックポリプロピレン(以下、iPPと称する)を塩素化して得られた塩素化アイソタクチックポリプロピレン(以下、Cl-iPPと称する)については、詳細な研究結果が報告されている[青木, 高分子, 16, 687(1967)]。本報文には、Cl-iPPは結晶性を有する樹脂であり、このiPPを塩素化して得られるCl-iPPの方が、非晶性のアタクチックポリプロピレン(以下、aPPと称する)を塩素化して得られる塩素化アタクチックポリプロピレン(以下、Cl-aPPと称する)よりもiPPに対する接着性が高く、また、Cl-iPPにおいても、iPPを溶媒に完全に溶解した状態で塩素化したCl-iPPよりも、懸濁状態で塩素化したCl-iPPの方が、iPPに対して高い接着性を示すことが記載されている。
【0007】
また、この報文には、懸濁状態で塩素化したCl-iPPでは、塩素がiPP分子中にブロック状に導入されていることが示されている。したがって、Cl-iPP主鎖中には、導入塩素が比較的多いブロックと少ないブロックとが共存しており、塩素の多いブロックでは、塩素化によるiPPのミクロタクティシティ低下により非晶性が高く、他方、塩素が少ないブロックでは、iPP本来の構造に基づいて、結晶性が高くなっていることが推察される。換言すれば、このCl-iPPは、主鎖中に、結晶性が比較的高いブロックと非晶性が比較的高いブロックが共存する構造のポリマーであると考えられる。
【0008】
これに対し、原料のiPPを溶媒に完全に溶解した状態で塩素化した場合、塩素化反応は比較的均一に進行しやすいため、上述のような、結晶性ブロックと非晶性ブロックが主鎖中に共存する特異な構造のCl-iPPは、生成しがたいと考えられる。これらの事実と、iPPに対する接着性の差とをあわせて考えると、主鎖中に結晶性ブロックと非晶性ブロックが共存する構造が、良好な接着性発現のためのひとつの要件であると推察することができる。
【0009】
さらに本報文中では、Cl-iPPのiPPに対する接着性発現機構が、結晶学の観点から論じられている。すなわち、Cl-iPPの結晶系がiPPの結晶系と同じ単斜晶系であるとして、Cl-iPPの単位格子(unit cell)を計算すると、結合塩素量によってa軸、c軸およびβはほとんど変化しないが、b軸長さのみが結合塩素量の増加と共に増大することが示されている。ところで、高分子結晶相互間に少なくとも2次元的類似性(dimensional analogy)があれば、高分子結晶相互間にエピタキシー(epitaxy)が存在する[堀尾ら, 第12回高分子学会年次大会講演要旨集, 102 (1963)]とされている。Cl-iPPとiPPとは、単位格子のa軸, c軸がほとんど同じであるため、エピタキシーの条件である2次元的類似性の要件を満たしていることになる。
【0010】
そして、上記報文中では、一軸延伸iPPフィルム上にCl-iPP薄膜を溶液からの析出によって形成した後、140℃で熱処理し、熱処理前後の電子線回折写真を比較している。それによると、熱処理前には、一軸配向したiPPの干渉と無配向のCl-iPPの干渉が見られるのに対し、熱処理後では、一軸配向したiPPの結晶干渉の上に一軸配向したCl-iPPの結晶干渉が重なっていることが示されている。この事実は、Cl-iPPのiPPへの熱接着において、Cl-iPPの結晶がiPPの結晶上でエピタキシャル(epitaxial)成長するという仮説を支持するものである。なお、Cl-iPPのiPPへの熱接着において、Cl-iPPがいったん溶融した後、再結晶化することは、上記報文中において、X線回折によって別途確認されている。
【0011】
さらに、Cl-iPPの単位格子のb軸長さと固有仕事接着量Aとの関係においては、Cl-iPPの製造条件に関わりなく、固有仕事接着量Aはb軸長さの関数であり、かつ、b軸長さがiPPの結晶に近いほど固有仕事接着量が大きい、すなわち接着性が高いことが明らかにされている。
本発明者らは、これらを総合的に考察した結果、Cl-iPPは、基材としてのiPP上でエピタキシャル成長によって結晶を形成し、Cl-iPPのiPPに対する接着性の本質は、形成されたCl-iPPの結晶と基材のiPPの結晶との結晶間分子間力にあると推論した。そして、この考察から、接着性の要因となるある条件を満たす樹脂を設計できれば、塩素化ポリプロピレンに代わる新しい樹脂、つまり、塩素のようなハロゲン原子を用いなくても、iPPとエピタキシーが可能な新規樹脂を提案できるとの考えに達した。
【0012】
その条件を以下に挙げる。
(1) 主鎖において、結晶性を有するブロックと非晶性のブロックとが共存する構造とする。
(2) 主鎖中の結晶性の高いブロックは、アイソタクティック性(isotacticity)に富む構造とする。
【0013】
さらに、本発明のプロピレン系重合体の用途ならびに特性の改質を意図する場合には、次の条件を満たすことが必要である。すなわち、
(3) 分子量を比較的低く設定する。
本発明の目的とするプロピレン系重合体の主用途においては、iPP成形体への塗布が重要であるため、本発明のプロピレン系重合体は、溶媒に対する溶解性が高いことも重要である。上述の(1)の要件は、溶解性を上げるためのひとつの条件であるが、さらに、(3)の条件を満たすことにより、溶媒への良好な溶解性もあわせて期待できることになる。
(4) 極性基をグラフト重合した変性樹脂とする。
【0014】
本発明のプロピレン系重合体のさらなる用途開発として、単に、iPPへの接着性が高いだけなく、塗料のように極性基を含有する物質とも良好な接着性を有する、特殊な樹脂の開発が挙げられる。この目的を達成するためには、この(4)の条件はきわめて有効な手段である。
また、本発明のプロピレン系重合体の、溶媒に対する溶解性を向上させる目的で、
(5) 比較的少量のオレフィンをプロピレンと共重合する。
【0015】
前述したように、本発明の目的とするプロピレン系重合体の主用途においては、iPP成形体への塗布が重要であるため、本発明のプロピレン系重合体は、溶媒に対する溶解性が高いことも重要であるが、プロピレンとエチレン等のオレフィンを少量共重合することによって、本発明のプロピレン系重合体の、溶媒に対する溶解性を向上させることができる。
【0016】
本発明者らは、こうした考えのもとに、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、下記特性(1)〜(3)を有する融点を有さないプロピレン系重合体に存する。
(1) GPCで測定した重量平均分子量Mwが5,000以上かつ1,000,000未満。
(2) 13C−NMRにて、head to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとした場合、19.8ppmから22.2ppmに現れるピークの総面積Sに対し、21.8ppmをピークトップとするピークの面積S5の比率が10%以上かつ60%以下であり、かつ、21.5〜21.6ppmをピークトップとするピークの面積をS6としたとき、4+2S5/S6>5。
(3) 2,1−挿入したプロピレン単量体および/または1,3−挿入したプロピレン単量体に基づく位置不規則単位が主鎖中に存在し、全プロピレン挿入に対する2,1−挿入と1,3−挿入に基づく位置不規則単位の比率の和が0.05%以上。
【0017】
なお、本発明にいたる発明者らの推論は、本発明の理解を助けるためのものであり、該推論における記載事項は、本発明を限定するものではない。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の主ポイントのひとつは、本発明プロピレン系重合体が実質的にハロゲン、とりわけ塩素を含有していないという点である。従来技術においては、Cl-iPPのように、プロピレン重合体を塩素化することにより良好な接着性が付与されてきた。しかしながら、本発明では、基材としてのiPPに対する塗布樹脂の接着性の本質が、樹脂の基材上でのエピタキシャルな成長、および、基材iPP結晶と樹脂結晶間の結晶間分子間力に依存するとの観点から、塗布した接着性樹脂の単位格子のb軸長さが基材iPPの単位格子のb軸に近いほど良好な接着性が発現するとの推察の基に、接着性樹脂の主鎖中に、ある量の結晶性ブロックを存在させることにより、塩素を導入することなく接着性を発現させるのである。一般に、塩素の導入によってb軸長さは拡大するが、本発明の場合には塩素を導入しないので、結晶性の高いアイソタクティックブロックは基本的にiPPと同様の構造になると考えられ、b軸長さの観点からはiPPによく似た構造が発現することになる。したがって、本発明の樹脂においては、従来のCl-iPPを上回る良好な接着性が期待できるのである。
【0019】
本発明におけるプロピレン系重合体は、上記特性(1)〜(3)を有する融点を有さないものである。具体的には、プロピレンを単量体とする重合体、プロピレンを主要なモノマーとし、オレフィン、好ましくはエチレンをコモノマーとする共重合体が挙げられる。なおプロピレン・エチレン共重合体は、本発明の主旨を損なわない限りにおいて、エチレン以外のコモノマーを主鎖に少量(5mol%未満)存在させることもできる。
【0020】
本発明におけるプロピレン系重合体の第1の特性は、所定量の分子量を有することである。すなわち、その分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定した重量平均分子量Mwが5,000以上かつ1,000,000未満である。Mwが5,000より小さい場合には、重合体を用いて基材上に塗布した後の造膜性の悪化が顕著になるばかりでなく、べたつきも顕著であり、好ましくない。また、Mwが1,000,000以上となる場合には、造膜性やべたつきについては大きな問題はないものの、重合体を溶媒に溶解した際の粘度が高くなりすぎ、製造上あるいはポリマー溶液のハンドリング上、不都合を生じるために好ましくない。本発明重合体において、重量平均分子量Mwの範囲は5,000以上かつ1,000,000未満であるが、好ましくは、10,000以上かつ500,000未満、さらに好ましくは、30,000以上かつ300,000未満である。
【0021】
なお本発明に係るプロピレン系重合体がホモポリマーである場合には、重量平均分子量Mwは5,000以上かつ200,000未満が好ましい。重量平均分子量Mwが5,000未満では、上述のように造膜性の悪化及びべたつきが顕著になる。また重量平均分子量Mwが200,000以上の場合には、造膜性やべたつきについては大きな問題はないが、重合体を溶媒に溶解した際の粘度が高くなりすぎ、製造上あるいは溶液のハンドリング上不都合を生ずることがある。これらの点からして、ホモポリマーの好適な重量平均分子量Mwの範囲は10,000以上、150,000未満、特に30,000以上100,000未満である。ただし、重量平均分子量Mwが200,000以上のものも、水性分散体などとした場合には、その高い分子量に基づく高い凝集力を利用し得るので、塗料原料などとしてはむしろ好適に使用できる。
【0022】
なお、本発明において、分子量のGPCによる測定は、以下の方法で行われる。はじめに、試料20 mgを30 mlのバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを0.04 wt.%含有するオルトジクロロベンゼン20 gを添加する。135℃に加熱したオイルバスを用いて試料を溶解させた後、孔径3 μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターにて熱濾過を行い、ポリマー濃度0.1 wt.%の試料溶液を調製する。次に、カラムとしてTSKgel GMH-HT(30 cm×4本)およびRI検出器を装着したウォーターズ(Waters)社製GPC 150CVを使用し、GPC測定を行う。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量: 500 μl、カラム温度: 135℃、溶媒: オルトジクロロベンゼン、流量: 1.0 ml/minを採用する。分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、プロピレン系重合体の分子量の算出を行う。なお、粘度式としては、[η]K・Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E-4、α=0.70、プロピレン系共重合体に対しては、K=1.03E-4、α=0.78を使用する。
【0023】
本発明におけるプロピレン系重合体の分子量分布については、特に制限はない。ただし、過度に広すぎる分子量分布は、低分子量成分の含有量が必然的に多いことを意味するので避けた方が良い。分子量分布の指標として重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnを用いた場合、好ましくはMw/Mn<20、さらに好ましくはMw/Mn<10、最も好ましくはMw/Mn<6のものが好適に使用される。
【0024】
本発明におけるプロピレン系重合体の第2の特性として、主鎖中に結晶性の高いブロックと非晶性の高いブロックが共存し、かつ、結晶性の高いブロックがアイソタクティック性に富む構造となっていることを挙げることができる。ただし、結晶性の高いブロックが多すぎると溶媒への溶解性が悪化するので、結晶性の高いブロックと非晶性の高いブロックのバランスが重要である。本発明においては、このバランスを表す指標の一部として、13C-NMRスペクトルによって規定される要件を適用する。
【0025】
本発明における13C-NMRスペクトルの測定方法は、下記の通りである。
試料350〜500 mgを、10 mmφのNMR用サンプル管中で、約2.2 mlのオルトジクロロベンゼンを用いて完全に溶解させる。次いで、ロック溶媒として約0.2 mlの重水素化ベンゼンを加え、均一化させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法により測定を行う。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔5T1以上(T1は、メチル基のスピン格子緩和時間のうち最長の値)とする。プロピレン系重合体において、メチレン基およびメチン基のスピン格子緩和時間はメチル基のそれよりも短いので、この測定条件では、すべての炭素の磁化の回復は99%以上である。なお、定量精度を上げるため、13C核の共鳴周波数として125 MHz以上のNMR装置を使用し、20時間以上の積算を行うのが好ましい。
【0026】
ケミカルシフトは、頭尾(head to tail)結合からなるプロピレン単位連鎖部の10種類のペンタッド(mmmm, mmmr, rmmr, mmrr, mmrm, rmrr, rmrm, rrrr, rrrm, mrrm)のうち、メチル分岐の絶対配置がすべて同一である、すなわち、mmmmで表されるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基にもとづくピークのピークトップのケミカルシフトを21.8 ppmとして設定し、これを基準として、他のピークのピークトップのケミカルシフトを決定する。この基準では、例えば、その他のプロピレン単位5連鎖の場合、第3単位目のメチル基にもとづくピークのピークトップのケミカルシフトはおおむね次のようになる。すなわち、mmmr: 21.5〜21.7 ppm、rmmr: 21.3〜21.5 ppm、mmrr: 21.0〜21.1 ppm、mmrmおよびrmrr: 20.8〜21.0 ppm、rmrm: 20.6〜20.8 ppm、rrrr: 20.3〜20.5 ppm、rrrm: 20.1〜20.3 ppm、mrrm: 19.9〜20.1 ppmである。なお、これらのペンタッドに由来するピークのケミカルシフトは、NMRの測定条件によって多少の変動があること、および、ピークは必ずしも単一ピーク(single peak)ではなく、微細構造にもとづく複雑な***パターン(split pattern)を示すことが多い点に注意して帰属を行う必要がある。
【0027】
本発明におけるプロピレン系重合体は、13C-NMRスペクトルによって規定される次の要件を満たす。すなわち、13C-NMRにて、head to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8 ppmとした場合、19.8 ppmから22.2 ppmに現れるピークの総面積Sに対し、21.8 ppmをピークトップとするピークの面積S5の比率(S5/S)が10%以上かつ60%以下であり、かつ、21.5〜21.6 ppmをピークトップとするピークの面積をS6としたとき、4+2S5/S6>5である。
【0028】
これらの要件は、本発明のプロピレン系重合体において、主鎖中に結晶性の高いブロックと非晶性の高いブロックが共存し、かつ、結晶性の高いブロックが合いアイソタクティック性に富む構造となっていることと関係している。なお、Sに対するS5の比率が10%未満である場合には、結晶性が低すぎ、十分な接着性が得られず、さらに、べたつきなどの問題も起こりやすいために好ましくない。一方、Sに対するS5の比率が60%を越える場合には、逆に結晶性が高すぎ、溶媒への溶解性が低下するため、これも好ましくない。本発明で規定するSに対するS5の比率の範囲は、10%以上かつ60%以下であるが、好ましくは15%以上かつ55%以下、さらに好ましくは20%以上かつ50%以下である。
【0029】
上述の4+2S5/S6>5という関係式(すなわちS5/S6>0.5)は、Waymouthらによりアイソタクチックブロックインデックス(BI)と名づけられた指数(特表平9-510745号:参照)と密接な関連がある。BIは、重合体のステレオブロック性を表す指標であり、BI=4+2[mmmm]/[mmmr]で定義される。より具体的には、BIは、4個以上のプロピレン単位を有するアイソタクチックブロックの平均連鎖長を表す(J. W. Collete et al., Macromol., 22, 3858 (1989); J. C. Randall, J. Polym. Sci. Polym. Phys. Ed. , 14, 2083 (1976))。統計的に完全なアタクチックポリプロピレンの場合、BI=5となる。したがって、BI=4+2[mmmm]/[mmmr]>5は、重合体中に含まれるアイソタクチックブロックの平均連鎖長が、アタクチックポリプロピレンのそれよりも長いことを意味する。
【0030】
本発明の要件に関わる4+2S5/S6は、上述のBIと完全には同一でないものの、おおむね対応していることから、4+2S5/S6>5という要件は、本発明の重合体が、アタクチックポリプロピレンとは異なり、結晶化可能な連鎖長のアイソタクチックブロックを含有することを意味する。また、アイソタクチックブロックが存在するということは、言い換えれば、アイソタクティシティー(isotacticity)が乱れたシークエンスからなるブロックも同時に主鎖に存在することを意味する。さらに、プロピレン・オレフィン共重合体においては、オレフィンがコモノマーとして含まれているので、オレフィンによって結晶性が低下したブロックも同時に存在している。
【0031】
このように、本発明のプロピレン系重合体においては、前述のごとく、主鎖中に結晶性を有するブロックと非晶性のブロックとが共存し、かつ、結晶性を有するブロックが、比較的長い平均連鎖長を有するアイソタクチックブロックから形成され、アイソタクチック性に富む構造になっているという特異な構造が実現される。
【0032】
本発明においては、5<4+2S5/S6であれば良いが、好ましくは、5<4+2S5/S6<50、さらに好ましくは、6<4+2S5/S6<30である。プロピレン系重合体がホモポリマーである場合には、6<4+2S5/S6<25であるのが特に好ましい。
S5とS6を本発明の要件で規定した範囲となるように制御する方法としては、(i) 重合触媒の構造によって制御する方法、(ii) 重合温度によって制御する方法、(iii) モノマー濃度によって制御する方法; 等を挙げることができる。S5, S6の温度依存性や、モノマー濃度依存性は、使用する触媒によって異なるので一概に言うことはできない。したがって、使用する触媒の性質にもとづいて、これらの条件を制御することが肝要である。なお、重合触媒の構造によって制御する方法については後述する。
【0033】
本発明のプロピレン系重合体を特徴づけるさらなる要件として、プロピレン単量体の位置不規則単位に関する要件、すなわち、2,1-挿入したプロピレン単量体および/または1,3-挿入したプロピレン単量体に基づく位置不規則単位が鎖中に存在し、全プロピレン挿入に対する該2,1-挿入と1,3-挿入に基づく位置不規則単位のそれぞれの比率の和が0.05%以上であることが挙げられる。
【0034】
プロピレンの重合は、メチレン基が触媒の活性サイトと結合する1,2-挿入で進行するのが普通であるが、まれに、2,1-挿入あるいは1,3-挿入することがある。プロピレン連鎖において2,1-挿入されたプロピレン単量体は、下記部分構造(I)および(II)で表される位置不規則単位を形成する。このように、部分構造(I)および(II)の両者が主鎖中に存在するのは、本発明のプロピレン系重合体の特徴のひとつである。また、プロピレン連鎖において1,3-挿入されたプロピレン単量体は、重合体主鎖中において、下記部分構造(III)で表される位置不規則単位を形成する。
【0035】
また、プロピレンが2,1-挿入した後に、オレフィン、例えばエチレンが挿入し、ついでプロピレンが正常に1,2-挿入するという構造(部分構造IV)も、本発明のプロピレン系重合体の特徴のひとつである。
【0036】
【化1】
【0037】
本発明において、全プロピレン挿入に対する2,1-挿入したプロピレンの割合、および、1,3-挿入したプロピレンの割合は、下記式で計算される。
(i)プロピレン単独重合体の場合
【0038】
【数1】
【0039】
式中、ΣI(x-y)は、13C-NMRスペクトルにおいて、xppmからyppmに現れる信号の積分強度和を表し、ΣI(CH3)は、末端を除く全メチル基に由来する信号の積分強度和である。これは、次の式で求められる。
【0040】
【数2】
【0041】
なお、14.5〜18.0ppmに現れる信号は、2,1-挿入したプロピレンのメチル基の炭素に由来するものであり、19.5〜24.4ppmに現れる信号は、1,2-挿入したプロピレンのメチル基の炭素に由来するものである。また、27.5〜28.0ppmに現れる信号は、1,3-挿入したプロピレン中の2個のメチレン炭素に由来するものである。
(ii) プロピレン・エチレン共重合体の場合
【0042】
【数3】
【0043】
式中、ΣI(x-y)は、上記と同様、13C-NMRスペクトルにおいて、x ppmからy ppmに現れる信号の積分強度和を表す。
なお、14.2〜18.0 ppmに現れる信号は、2,1-挿入したプロピレンのメチル基の炭素に由来するものであり、33.5〜34.2 ppmに現れる信号は、tPEPなる構造において、2,1-挿入したプロピレンのメチル基の炭素に由来する。ここで、Pはプロピレン、tPは2,1-挿入したプロピレン、Eはエチレンを示す。14.2〜23.5 ppmに現れる信号は、1,2-挿入および2,1-挿入したプロピレンのメチル基の炭素に由来するものであり、また、27.5〜28.0 ppmに現れる信号は、1,3-挿入したプロピレン中の2個のメチレン炭素に由来するものである。
【0044】
なお、厳密には他の構造、例えば、tPEtP、tPEE、EtPEに由来する2,1-挿入したプロピレンのメチル基の炭素のシグナルを考慮する必要があるが、本発明のプロピレン系重合体においては、2,1-挿入量が1,2-挿入量に比べて相対的にかなり少ないことから、これらの構造に由来するシグナルは無視しうる。
このような位置不規則単位は、一般に重合体の結晶性を低下させるため、本発明においては、重合体の溶媒への溶解度を向上させる作用をしているものと考えられる。プロピレン系重合体の結晶性を低下させる別の手段として、メチル基の立体規則性を低下させる方法があるが、一般に、この手法でできたポリマーを基材に塗布して塗膜を形成させると、塗膜のべたつきが顕著になる傾向があり、応用上好ましくない。また、塗膜のべたつきを抑制しようとしてメチル基の立体規則性を上げると、今度は、溶媒への溶解性が低下し、塗膜の平滑性が損なわれる傾向があり、これも応用上好ましくない。このように、溶媒への溶解性ならびに塗膜性状を考慮すると、位置不規則単位を適度に主鎖に持つ構造が、両者のバランス上好ましいと言える。
【0045】
本発明においては、2,1-挿入したプロピレン単量体および1,3-挿入したプロピレン単量体の少なくともいずれかに基づく位置不規則単位が主鎖中に存在し、全プロピレン挿入に対する2,1-挿入と1,3-挿入に基づく位置不規則単位の比率の和が通常0.05%以上、好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.5%以上である。また、全プロピレン挿入に対する2,1-挿入と1,3-挿入に基づく位置不規則単位の比率の和は通常5%以下、好ましくは4.5%以下、更に好ましくは4%以下である。
【0046】
2,1-挿入したプロピレン単量体および1,3-挿入したプロピレン単量体の両者に基づく位置不規則単位が主鎖中に存在するものが、より効果的に結晶性を低下させ、溶媒への溶解度を向上させるうえで好ましい。また、1,3-挿入に基づく位置不規則単位の比率が2,1-挿入に基づく位置不規則単位の比率よりも多い方が、溶媒への溶解性や塗膜物性などを総合した性能において良好な物性となるため、より一層好ましい。
【0047】
主鎖中における2,1-挿入および/または1,3-挿入の量を制御する方法については、(i) 重合触媒の構造によって制御する方法、(ii) 重合温度によって制御する方法、(iii) モノマー濃度によって制御する方法、(iv) 重合時の水素濃度によって制御する方法等を挙げることができる。2,1-挿入および/または1,3-挿入量の温度依存性や、モノマー濃度依存性、水素濃度依存性は、使用する触媒によって異なるので一概に言うことはできない。したがって、使用する触媒の性質にもとづいて、これらの条件を制御することが肝要である。なお、重合触媒の構造によって制御する方法については後述する。
【0048】
本発明に係るプロピレン系重合体におけるプロピレン・オレフィン共重合体は、13C-NMRスペクトルによって規定される次の要件を満たすことにより、溶媒への溶解性に一層すぐれ、かつ、べたつきのないものとなる。すなわち、13C-NMRスペクトルにて、頭尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8 ppmとして、24.5 ppmから25.0 ppm、33.5 ppmから34.2 ppm、14.2 ppmから23.5 ppm、27.5から28.0 ppmに現れるピークの積分強度をそれぞれS1、S2、S3、S4とした場合、0<(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)<0.05である。
【0049】
該要件は、本発明のプロピレン系重合体中のオレフィン含量と密接な関係がある。以下、プロピレン・エチレン共重合体を例にとり説明する。ここで、プロピレンをP、2,1-挿入したプロピレンをtP、エチレンをEで表す。本発明のプロピレン系重合体の主鎖において、大部分のエチレンが、PEP、tPEtP、PEtPの形で存在している場合、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)は、共重合体中のエチレン分率に等しいと言ってよい。したがって、該要件は、本発明のプロピレン系重合体中のエチレン含量が比較的少ないことを意味する。特に、プロピレン系重合体の主鎖において、大部分のエチレンが、PEP、tPEtP、PEtPの形で存在しているという条件が満たされる場合は、エチレン含量が5 mol%未満であることを意味する。
【0050】
なお、本発明において、プロピレン単位をP、2,1-挿入したプロピレン単位をtP、エチレン単位をEで表したとき、PEE、tPEE、EEE、EPE、EtPEで表される部分構造が存在しないか、または、該部分構造が、P、tP、Eからなる全トライアッドの3%以下であることが好ましい。
PEEまたはtPEEは、27.3 ppmにピークを有し、EEEは30.0 ppmにピークを有する。また、EPEまたはEtPEは33.5 ppmにピークを有するので、これらのピークの積分強度をもとに、該部分構造の存在比率を計算することができる。なお、13C-NMRのケミカルシフトは、測定条件によって微妙に変化することがあるので、この点については考慮が必要である。
【0051】
ところで、PEE、tPEE、EEE、EPE、EtPEで表される部分構造が存在しないか、または、P、tP、Eからなる全トライアッドの3%以下であるという要件は、本発明の重合体において、エチレンが、PEP(またはtPEtP)、tPEPの形で存在し、エチレンが2個続けて挿入していないこと、言い換えれば、エチレンのランダム性が高いことを示す。このように、エチレンのランダム性が高い場合には、より効果的に重合体の結晶性を低下させることができる。
【0052】
S1〜S4を、0<(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)<0.05となるように制御する方法としては、重合時に使用するプロピレンとエチレンの比率を制御するのが最も実用的である。プロピレンとエチレンの具体的な比率は、使用する触媒によって異なるので一概には言えないが、所望の温度・圧力等の条件のもとで、重合に使用するプロピレン・エチレンの比率と、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)との関係をあらかじめ求めておくことにより、この関係を利用して、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)を所望の値に制御することができる。
【0053】
なお、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)≧0.05となる場合には、樹脂の溶媒への溶解性は向上するものの、樹脂のべたつきが顕著になる傾向がある。
本発明においては、0<(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)<0.05であればよいが、好ましくは、0<(S1+2)/(S1+S2+S3+0.5S4)<0.03である。
本発明のプロピレン系重合体の製法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば、いかなる製法であってもよい。好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般にシングルサイト触媒が、リガンドのデザインによりミクロタクティシティを制御できること、分子量分布や立体規則性分布がシャープであること、比較的分子量の低い重合体を容易に製造できることなどが挙げられる。シングルサイト触媒としては、メタロセン触媒や、いわゆるポストメタロセン触媒が本発明の重合体を製造する触媒として使用できる。ここで、メタロセン触媒とは、シクロペンタジエニル配位子を有する遷移金属化合物を含む触媒であり、ポストメタロセン触媒とは、シクロペンタジエニル配位子を含有せず、窒素、酸素、リンなどのヘテロ原子を有する配位子を含有する遷移金属化合物を含む触媒を指す。これらの触媒は、一般に、共触媒と呼ばれる化合物であって、これらの遷移金属を活性化することのできる化合物と組み合わせて用いられるのが普通である。これらのなかでも、メタロセン触媒がミクロタクティシティを精密に制御できる点で、好適に用いられる。
【0054】
メタロセン触媒としては、架橋基を有するC1-対称性アンサメタロセン(ansa-metallocene)が好ましい。非架橋のメタロセンも本発明のプロピレン系重合体の製造に適用可能であるが、一般に、架橋基を有するアンサメタロセンの方が熱安定性などに優れているため、特に工業的な見地から好ましい。
本発明において好適に用いられる架橋基を有するアンサメタロセンは、共役5員環配位子を有する架橋された4族遷移金属化合物のC1-対称性を有するメタロセンである。このような遷移金属化合物は公知であり、それを(オレフィン重合用触媒成分として使用することも知られている。
【0055】
本発明プロピレン系重合体の製造に好ましく用いられるメタロセンは、一般式: Q(C5H4-aR2 a)(C5H4-bR3 b )MXYで表され、かつ、C1-対称性を有する化合物である。また、該一般式で表される複数のメタロセンを混合して用いてもよい。
以下、該一般式を有するメタロセンについて、詳しく説明する。該一般式において、Qは2つの共役5員環配位子を架橋する結合性基を、Mは周期律表4族遷移金属を、XおよびYは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のリン含有炭化水素基または炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基を、R2およびR3はそれぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ケイ素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基またはホウ素含有炭化水素基を示す。また、隣接する2個のR2および/またはR3がそれぞれ結合して4〜10員環を形成していてもよい。aおよびbは、それぞれ独立して、0≦a≦4、0≦b≦4を満足する整数である。
【0056】
2個の共役5員環配位子の間を架橋する結合性基Qとしては、具体的には下記のようなものが挙げられる。すなわち、メチレン基、エチレン基のようなアルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、フェニルメチリデン基、ジフェニルメチリデン基のようなアルキリデン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジプロピルシリレン基、ジフェニルシリレン基、メチルエチルシリレン基、メチルフェニルシリレン基、メチル-t-ブチルシリレン基、ジシリレン基、テトラメチルジシリレン基のようなケイ素含有架橋基、ジメチルゲルミレン基、ジエチルゲルミレン基、ジフェニルゲルミレン基、メチルフェニルゲルミレン基のようなゲルマニウム含有架橋基、アルキルフォスフィン、アミン等である。これらのうち、アルキレン基、アルキリデン基、ケイ素含有架橋基、ゲルマニウム含有架橋基が特に好ましく用いられる。
【0057】
上記一般式において、R2および/またはR3は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、t-ブチルフェニル基、ナフチル基等の置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、フルオロメチル基、フルオロエチル基、フルオロフェニル基、フルオロナフチル基、フルオロビフェニル基、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロフェニル基、クロロナフチル基、クロロビフェニル基等のハロゲンを含有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ペンタメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等のケイ素含有炭化水素基、または、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基である。
【0058】
R2が複数個存在するときは、それらは同一でも異なっていてもよい。また、2個のR2がシクロペンタジエニル環の隣接する炭素原子に存在する場合は、相互に結合して4〜10員環を形成し、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、オクタヒドロフルオレニル基、アズレニル基、ヘキサヒドロアズレニル基等となってもよい。同様に、R3が複数個存在するときは、それらは同一でも異なっていてもよい。また、2個のR3がシクロペンタジエニル環の隣接する炭素原子に存在する場合は、相互に結合して4〜10員環を形成し、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、オクタヒドロフルオレニル基、アズレニル基、ヘキサヒドロアズレニル基等となってもよい。本発明においては、一般式: Q(C5H4-aR2 a)(C5H4-bR3 b )MXYで表されるメタロセンがC1-対称性を有していればよいので、C1-対称性が保持されるかぎり、R2とR3は同じであっても良いし、異なっていてもよい。
【0059】
Mは、周期律表4族遷移金属のチタニウム、ジルコニウム、ハフニウムであり、好ましくは、ジルコニウム、ハフニウムである。
XおよびYは、それぞれ水素、ハロゲン、炭素数1〜20、好ましくは1〜10の炭化水素基、炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基、アルキルアミド基、炭素数1〜20、好ましくは1〜12のリン含有炭化水素基、炭素数1〜20、好ましくは1〜12のケイ素含有炭化水素基等である。XとYは同一でも異なっていてもよい。これらのうちハロゲン、炭化水素基およびアルキルアミド基が好ましい。
【0060】
Mがジルコニウムである場合、この遷移金属化合物の具体例としては、
(1)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(2)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(3)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-フェニル-1-インデニル)ジルコニウム]
(4)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-イソプロピル-1-インデニル)ジルコニウム]
(5)ジクロロ[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(6)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(7)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-フェニル-1-インデニル)ジルコニウム]
(8)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(9)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(10)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-フェニル-1-インデニル)ジルコニウム]
(11)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-イソプロピル-1-インデニル)ジルコニウム]
(12)ジクロロ[エチレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(13)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-1-インデニル)ジルコニウム]
(14)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-フェニル-1-インデニル)ジルコニウム]
(15)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(16)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(17)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-フェニルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(18)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-イソプロピルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(19)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(20)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(21)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-フェニルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(22)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(23)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(24)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-フェニルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(25)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-イソプロピルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(26)ジクロロ[エチレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(27)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
(28)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-フェニルテトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウム]
等が例示される。
【0061】
また、チタニウム化合物、ハフニウム化合物等の他の第4族遷移金属化合物についても、上記と同様の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物については、複数の異なる構造を有する化合物の混合物を用いてもよい。またさらに、公知の三塩化チタンを主成分とする固体触媒やマグネシウム、チタン、ハロゲンを必須成分として含有する担体担持型触媒を補助的に用いることもできる。
【0062】
特に好ましく用いられる遷移金属化合物は、下記の一般式(I)で表され、かつC1-対称性を有する化合物である。
【0063】
【化2】
【0064】
一般式(I)中、A1およびA2は、共役5員環配位子であって、A1およびA2の少なくとも一方は、共役5員環配位子上の隣接した置換基が結合し、5員環の2原子を含めて形成された7〜10員の縮合環を有し、Qは、2つの共役5員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基、Mは、周期律表4族から選ばれる遷移金属原子を示し、そして、XおよびYは、それぞれ独立して、Mと結合した水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルキルアミド基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、硫黄含有基を示す。
【0065】
上記の共役5員環配位子の典型例としては、例えば、置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基を挙げることが出来る。該置換基の具体例としては、炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜15の炭化水素基を挙げることができる。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基、ブテニル基、ブタジエニル基、トリフェニルカルビル基などが挙げられる。
【0066】
上記の炭化水素基以外の置換基としては、ケイ素、酸素、窒素、リン、ホウ素、硫黄などの原子を含有する炭化水素残基が挙げられる。その典型例としては、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、トリメチルシリル基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピラゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ジメチルフォスフィノ基、ジフェニルフォスフィノ基、ジフェニルホウ素基、ジメトキシホウ素基、チエニル基などが挙げられる。
【0067】
その他の置換基としては、ハロゲン原子又はハロゲン含有炭化水素基などが挙げられる。その典型的例としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素、トリクロロメチル基、クロロフェニル基、クロロビフェニル基、クロロナフチル基、トリフルオロメチル基、フルオロフェニル基、フルオロビフェニル基、フルオロナフチル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0068】
また、前記したように、A1およびA2の少なくとも一方は、共役5員環配位子上の隣接した置換基が結合し、5員環の2原子を含めて7〜10員の縮合環を形成する。このような具体例としては、アズレン等の化合物やその誘導体を挙げることができる。さらに具体的には、ヒドロアズレニル基、メチルヒドロアズレニル基、エチルヒドロアズレニル基、ジメチルヒドロアズレニル基、メチルエチルヒドロアズレニル基、メチルイソプロピルヒドロアズレニル基、メチルフェニルイソプロピルヒドロアズレニル基、各種アズレニル基の水添体、ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、メチル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、エチル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、フェニル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、メチルフェニル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、エチルフェニル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、メチルジフェニル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカニル基、メチル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカジエニル基、メチルフェニル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカジエニル基、エチルフェニル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカジエニル基、メチルイソプロピル-ビシクロ-[6.3.0]-ウンデカジエニル基、ビシクロ-[7.3.0]-ドデカニル基及びその誘導体、ビシクロ-[7.3.0]-ドデカジエニル基及びその誘導体、ビシクロ-[8.3.0]-トリデカニル基及びその誘導体、ビシクロ-[8.3.0]-トリデカジエニル基及びその誘導体などが例示される。
【0069】
上記の各基の置換基としては、前述した炭化水素基、ケイ素、酸素、窒素、リン、ホウ素、硫黄などの原子を含有する炭化水素基、ハロゲン原子又はハロゲン含有炭化水素基などが挙げられる。
Qは、2つの共役5員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基を示す。すなわち、Qは、2価の結合性基であり、A1とA2とを架橋する。Qの種類に特に制限はないが、その具体例として、(a) 炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜12の2価の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基、具体的には、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン等の不飽和炭化水素基、ハロアルキレン基、ハロシクロアルキレン基、(b) シリレン基またはオリゴシリレン基、(c) 炭素数が通常1〜20、好ましくは1〜12の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を置換基として有するシリレン基またはオリゴシリレン基、(d)ゲルミレン基、(e) 炭素数が通常1〜20の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を置換基として有するゲルミレン基などを挙げることができる。これらの中では、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、炭化水素基を置換基として有するシリレン基またはゲルミレン基が好ましい。
【0070】
Mは、周期律表4族から選ばれる遷移金属原子を示し、好ましくは、ジルコニウムまたはハフニウムである。
XおよびYは、それぞれ独立して、Mと結合した水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルキルアミド基、ハロゲン化炭化水素基、酸素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、硫黄含有基を示す。上記の各炭化水素基における炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜12である。これらの中では、水素原子、塩素原子、メチル基、イソブチル基、フェニル基、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、スルフィナト基が好ましい。
【0071】
本発明における遷移金属化合物の具体例としては次の化合物が挙げられる。
(29)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(30)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(31)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-フェニル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(32)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(33)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-エチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(34)ジクロロ[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(35)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(36)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(37)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-フェニル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(38)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(39)ジクロロ[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(40)ジクロロ[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(41)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(42)ジクロロ[エチレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(43)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-フェニル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(44)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(45)ジクロロ[エチレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(46)ジクロロ[エチレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(47)ジクロロ[エチレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(48)ジクロロ[エチレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(49)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-フェニル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(50)ジクロロジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(51)ジクロロ[エチレン(9-フルオレニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(52)ジクロロ[エチレン(9-フルオレニル)(2-エチル-4-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(53)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-n-プロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(54)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-イソプロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(55)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-n-ブチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(56)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-n-プロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(57)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-イソプロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(58)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-n-ブチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(59)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,8-トリメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(60)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,6-トリメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(61)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(62)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-6-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(63)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-7-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(64)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-8-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(65)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-6-エチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(66)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-7-エチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(67)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-8-エチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(68)ジクロロ[[ジ(クロロメチル)シリレン](シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(69)ジクロロ[[ジ(4-クロロフェニル)シリレン] (シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(70)ジクロロ[ジメチルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(71)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(72)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(73)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(74)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(75)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(76)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(2-n-プロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(77)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(2-イソプロピル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(78)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(2-n-ブチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(79)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(80)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(81)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(9-フルオレニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(82)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2-n-プロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(83)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2-n-プロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(84)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(9-フルオレニル)(2-n-プロピル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(85)ジクロロ[ジメチルシリレン(3-トリメチルシリル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(86)ジクロロ[ジメチルシリレン(3-トリメチルシリル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(87)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(3-トリメチルシリル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(88)ジクロロ[ジメチルゲルミレン(3-トリメチルシリル-1-シクロペンタジエニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(89)ジブロモ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(90)ジブロモ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(91)ジブロモ[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(92)ジブロモ[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(93)ジヨード[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(94)ジヨード[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(95)ジヨード[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(96)ジヨード[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(97)ジメチル[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(98)ジメチル[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(99)ジメチル[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(100)ジメチル[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(101)ジヒドリド[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(102)ジヒドリド[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(103)ジヒドリド[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(104)ジヒドリド[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(105)ビス(ジメチルアミド)[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(106)ビス(ジメチルアミド)[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(107)ビス(ジメチルアミド)[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(108)ビス(ジメチルアミド)[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(109)ビスフェノキシ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(110)ビスフェノキシ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(111)ビスフェノキシ[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(112)ビスフェノキシ[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(113)ビスメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(114)ビスメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(115)ビスメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(116)ビスメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(117)ビストリフルオロメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(118)ビストリフルオロメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(119)ビストリフルオロメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(120)ビストリフルオロメタンスルフィナト[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(121)ビス-p-トルエンスルフィナト[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(122)ビス-p-トルエンスルフィナト[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(123)ビス-p-トルエンスルフィナト[ジメチルシリレン(2,3-ジメチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(124)ビス-p-トルエンスルフィナト[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(125)ジクロロ[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(126)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(127)ジクロロ[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(128)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(129)ジブロモ[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(130)ジブロモ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(131)ジブロモ[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(132)ジブロモ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(133)ジヨード[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(134)ジヨード[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(135)ジヨード[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(136)ジヨード[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(137)ジメチル[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(138)ジメチル[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(139)ジメチル[ジメチルシリレン(1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(140)ジメチル[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2-エチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(141)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル4H-5,6,7,8-テトラヒドロ-1-アズレニル)]ハフニウム
(142)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-5,6,7,8-テトラヒドロ-1-アズレニル)]ハフニウム
(143)ジクロロ[ジメチルシリレン(2-メチル-1-インデニル)(2,4-ジメチル-4H-5,6,7,8-テトラヒドロ-1-アズレニル)]ハフニウム
(144)ジクロロ[ジメチルシリレン(9-フルオレニル)(2,4-ジメチル-4H-5,6,7,8-テトラヒドロ-1-アズレニル)]ハフニウム
(145)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-クロロメチル-4-メチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
(146)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2-メチル-4-クロロメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム
また、先に例示した化合物の中心金属Mがハフニウムの代わりに、チタン、ジルコニウムに代わった化合物も例示することが出来る。これらは2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合の第1段階終了時や第2段階の重合開始前に、新たに遷移金属成分を追加してもよい。
【0072】
本発明において、助触媒としては、(1) 有機アルミニウムオキシ化合物、(2) 遷移金属成分と反応して、該成分をカチオンに交換することが可能なイオン性化合物、(3) ルイス酸、(4) ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物または無機ケイ酸塩、からなる群より選択される一種以上の物質を用いるのが好ましい。(1)の有機アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には、次の一般式(II)、(III)、(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0073】
各一般式中、R4は、水素原子または炭化水素残基、好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは、炭素数1〜6の炭化水素残基を示す。また、複数のR4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。またpは0〜40、好ましくは2〜30の整数を示す。
【0074】
【化3】
【0075】
一般式(II)および(III)で表される化合物は、アルミノキサンとも呼ばれる化合物であって、一種類のトリアルキルアルミニウムまたは二種類以上のトリアルキルアルミニウムと水との反応により得られる。具体的には、(a) 一種類のトリアルキルアルミニウムと水とから得られる、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、(b) 二種類のトリアルキルアルミニウムと水とから得られる、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサン等が挙げられる。これらの中では、メチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
【0076】
一般式(IV)で表される化合物は、一種類のトリアルキルアルミニウムまたは二種類以上のトリアルキルアルミニウムと次の一般式(V)で表されるアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることができる。一般式(V)中、R5は、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の炭化水素残基またはハロゲン化炭化水素基を示す。
【0077】
【化4】
【0078】
具体的には、以下の様な反応生成物、すなわち、(a) トリメチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1の反応物、(b) トリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1反応物、(c) トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の1:1:1反応物、(d) トリメチルアルミニウムとエチルボロン酸の2:1反応物、(e) トリエチルアルミニウムとブチルボロン酸の2:1反応物などを挙げることができる。
【0079】
また、(2) 遷移金属成分と反応して、該成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物としては、一般式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0080】
【化5】
【0081】
一般式(VI)中、Kはカチオン成分であって、例えば、カルボニウムカチオン、トロピリウムカチオン、アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスフォニウムカチオン等が挙げられる。また、それ自身が還元されやすい金属の陽イオンや有機金属の陽イオン等も挙げられる。
上記のカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウム、ジフェニルカルボニウム、シクロヘプタトリエニウム、インデニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、N,N-ジメチルアニリニウム、ジプロピルアンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、トリフェニルホスホニウム、トリメチルホスホニウム、トリス(ジメチルフェニル)ホスホニウム、トリス(ジメチルフェニル)ホスホニウム、トリス(メチルフェニル)ホスホニウム、トリフェニルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、トリフェニルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、ピリリウム、銀イオン、金イオン、白金イオン、銅イオン、パラジウムイオン、水銀イオン、フェロセニウムイオン等が挙げられる。
【0082】
上記の一般式(VI)中、Zは、アニオン成分であり、遷移金属成分が変換されたカチオン種に対して対アニオンとなる成分(一般には非配位の成分)である。Zとしては、例えば、有機ホウ素化合物アニオン、有機アルミニウム化合物アニオン、有機ガリウム化合物アニオン、有機ヒ素化合物アニオン、有機アンチモン化合物アニオン等が挙げられ、具体的には次の化合物が挙げられる。すなわち、(a) テトラフェニルホウ素、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、テトラキス[3,5-ジ(t-ブチル)フェニル]ホウ素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等、(b) テトラフェニルアルミニウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)アルミニウム、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アルミニウム、テトラキス[3,5-ジ(t-ブチル)フェニル]アルミニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム等、(c) テトラフェニルガリウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)ガリウム、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ガリウム、テトラキス[3,5-ジ(t-ブチル)フェニル]ガリウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム等、(d) テトラフェニルリン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)リン等、(e) テトラフェニルヒ素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ヒ素等、(f) テトラフェニルアンチモン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アンチモン等、(g) デカボレート、ウンデカボレート、カルバドデカボレート、デカクロロデカボレート等である。
【0083】
また、(3) ルイス酸、特に遷移金属成分をカチオンに変換可能なルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、金属ハロゲン化合物、固体酸などが例示され、その具体例としては次の化合物が挙げられる。すなわち、(a) トリフェニルホウ素、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等の有機ホウ素化合物、(b) 塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化臭化マグネシウム、塩化ヨウ化マグネシウム、臭化ヨウ化マグネシウム、塩化マグネシウムハイドライド、塩化マグネシウムハイドロオキシド、臭化マグネシウムハイドロオキシド、塩化マグネシウムアルコキシド、臭化マグネシウムアルコキシド等の金属ハロゲン化合物、(c) アルミナ、シリカ・アルミナ等の固体酸などを挙げることができる。
【0084】
(4) ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物は、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、含有するイオンが交換可能なものを言う。
ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物は、六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl2 型、CdI2型等の層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物等を例示することができる。具体的には、(α-Zr(HAsO4 )2・H2O、(α-Zr(HPO4)2、(α-Zr(KPO4)2・3H2O、(α-Ti(HPO4)2、(α-Ti(HAsO4)2 ・H2O、(α-Sn(HPO4)2・H2O、(γ-Zr(HPO4)2、(γ-Ti(HPO4)2、(γ-Ti(NH4PO4)2 ・H2O等の多価金属の結晶性酸性塩があげられる。
【0085】
また、無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土等が挙げられる。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。
粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
【0086】
人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライト等が挙げられる。
これら具体例のうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロサイト、ハロサイト等のハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0087】
これら、ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物、または無機ケイ酸塩は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸等による酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2 、MgCl2 、Li2SO4、MgSO4、ZnSO4、Ti(SO4)2、Zr(SO4)2、Al2 (SO4)3等の塩類処理を行ったほうが好ましい。なお、処理にあたり、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。また、粉砕や造粒等の形状制御を行ってもよく、粒子流動性に優れた固体触媒成分を得るためには、造粒することが好ましい。また、上記成分は、通常脱水乾燥してから用いる。これら助触媒成分としては、重合活性等の触媒性能の面で、(4)のケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物または無機ケイ酸塩を用いることが好ましい。
【0088】
本発明の重合においては、助触媒成分の任意成分として、有機アルミニウム化合物を用いてもよい。このような有機アルミニウム化合物は、AlR1 mZ3-m(式中、R1は、炭素数1〜20の炭化水素基、Zは、水素、ハロゲン、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基、mは0<m≦3の数)で示される化合物である。
具体的にはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、またはジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムエトキシド等のハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウム、または、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素含有有機アルミニウム化合物である。またこの他、メチルアルミノキサン等のアルミノキサン等も使用できる。これらのうち、特に好ましいのはトリアルキルアルミニウムである。これら任意成分は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合開始後等に、新たに該任意成分を追加してもよい。
【0089】
本発明の触媒は、遷移金属成分、助触媒成分、任意に有機アルミニウム化合物成分の接触によって得られるが、その接触方法については特に限定がない。この接触は、触媒調製時だけでなく、プロピレンによる予備重合時または重合時に行ってもよい。
触媒各成分の接触時、または接触後にポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、アルミナ等の無機酸化物の固体を共存させるか、もしくは接触させてもよい。
【0090】
接触は窒素等の不活性ガス中で行ってもよいし、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。これらの溶媒は、水や硫黄化合物などの被毒物質を除去する操作を施したものを使用するのが好ましい。接触温度は、-20℃ないし、使用する溶媒の沸点の間で行い、特には、室温から使用する溶媒の沸点の間で行うのが好ましい。
【0091】
触媒各成分の使用量に特に制限はないが、助触媒成分として、ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物、または無機ケイ酸塩を用いる場合は、助触媒成分1gあたり、遷移金属成分が0.0001〜10 mmol、好ましくは0.001〜5 mmolであり、任意成分である有機アルミニウム化合物が0〜10,000 mmol、好ましくは0.01〜100 mmolとなるように設定することにより、重合活性などの点で好適な結果が得られる。また、遷移金属成分中の遷移金属と任意成分である有機アルミニウム化合物中のアルミニウムの原子比が1:0〜1,000,000、好ましくは、0.1〜100,000となるように制御することが、同様に重合活性などの点で好ましい。
【0092】
このようにして得られた触媒は、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素溶媒で洗浄して使用してもよいし、洗浄せずに用いてもよい。
洗浄の際に、必要に応じて、新たに上述の有機アルミニウム化合物を組合せて用いてもよい。この際に用いられる有機アルミニウム化合物の量は、遷移金属成分中の遷移金属に対する有機アルミニウム化合物中のアルミニウムの原子比で1:0〜10,000になるようにするのが好ましい。
【0093】
触媒として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等のα−オレフィンを予備的に重合し、必要に応じて洗浄したものを使用することもできる。この予備重合は窒素等の不活性ガス中、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。
【0094】
本発明における重合反応は、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の不活性炭化水素や液化α−オレフィン等の液体の存在下あるいは不在下に行われる。これらのうち、上述の不活性炭化水素存在下で重合を行うのが好ましい。また、ここで記載した化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。
【0095】
具体的には、遷移金属成分と助触媒成分、もしくは、遷移金属成分、助触媒成分および任意成分としての有機アルミニウム化合物の存在下に、プロピレン系重合体を製造するのが好ましい。重合温度、重合圧力および重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は通常−20℃から150℃、好ましくは0℃から100℃、重合圧力は、0.1 MPaから100 MPa、好ましくは、0.3 MPaから10 MPa、さらに好ましくは、0.5 MPaから4 MPa、重合時間は、0.1時間から10時間、好ましくは、0.3時間から7時間、さらに好ましくは0.5時間から6時間の範囲から選ぶことができる。
【0096】
本発明においては、前記したように、重合体の重量平均分子量Mwを5000以上かつ1,000,000未満の範囲にする必要がある。重合体の分子量調節には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を調節する方法、モノマー濃度を制御して分子量を調節する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法等が挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合には、水素が好ましい。また、触媒の構造によって分子量を制御することもできる。特に、架橋メタロセンを用いる場合には、架橋基の橋頭を基点としてα-位の構造が重要である。一般的に、α-位が水素原子である場合には、重合時に成長ポリマー鎖からのβ-水素脱離が起きやすいため、生成する重合体は低分子量になりやすい。これに対して、α-位になんらかの置換基(たとえば、メチル基など)がある場合には、成長ポリマー鎖からのβ-水素脱離が抑制されるので、高分子量の重合体が生成しやすい。
【0097】
前述したように、本発明においては、head to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部の立体選択性を制御して、13C-NMRにて、head to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8 ppmとした際に、19.8 ppmから22.2 ppmに現れるピークの総面積Sに対し、21.8 ppmをピークトップとするピークの面積S5の比率(S5/S)が10%以上かつ60%以下であり、かつ、21.5〜21.6 ppmをピークトップとするピークの面積をS6としたとき、4+2S5/ S6>5を満足させる必要がある。
【0098】
立体選択性の制御方法に特に制限はないが、一般的には、先に述べたように、触媒の構造で制御する方法、重合条件を制御して制御する方法等が挙げられる。触媒の構造で制御する場合には、遷移金属成分を構成する配位子の構造が重要である。特に、架橋メタロセンを用いる場合には、架橋基の橋頭を基点としてα-位の置換基が重要である。一般的には、α-位にある程度かさだかい置換基がある場合に、立体選択性が向上しやすい。さらに、インデニル基やアズレニル基などの縮合環を有する配位子を含む架橋メタロセンを用いる場合には、4-位の置換基の構造も立体選択性に大きな影響を与える。一般的には、4-位にある程度かさだかい置換基がある場合に、立体選択性が向上しやすい。逆に、4-位に、立体的に比較的小さい置換基を導入することにより、効果的に立体選択性を低下させ、生成重合体の結晶性を低下させるという制御が可能となる。
【0099】
さらに、本発明においては、プロピレン挿入における位置不規則単位の量を制御する必要がある。位置不規則単位量の制御因子としては、(a) メタロセンの構造、(b) 共触媒の種類、(c) 重合温度、(d) 重合圧力、(e) 水素などの連鎖移動剤の種類と使用量などを挙げることができる。これらの因子が異種結合量におよぼす影響については、用いる化合物の種類によって異なるので一概には言えないが、一般的には、遷移金属としてハフニウムを使用することにより、比較的位置不規則単位量の多いプロピレン系重合体が得られる傾向にある。また、ハフニウムを使用すると、2,1-挿入よりも1,3-挿入が多くなりやすく、この点に関しても、ハフニウムの使用が有利といえる。
【0100】
本発明のプロピレン系重合体は、溶媒に溶解させることができる。溶媒の具体例としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンのような炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素類、n-ブチルアセテート、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシドのような極性溶媒類を挙げることができる。これらのうち、炭化水素類が溶媒として好ましい。
【0101】
その溶解性は通常の高立体規則性アイソタクチックポリプロピレン変性体に比べ非常に優れており、沸騰ヘプタン(98℃)に10重量%濃度で溶解した際に、その不溶成分がその重合体全量の1重量%以下である。好ましくは0.1重量%以下であり、さらに好ましくは不溶成分が検出限界以下の状態である。また、室温のトルエン(25℃)に10重量%濃度で溶解した場合も、上記と同じレベルの溶解性を示すものが好ましい。
【0102】
本発明の98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに対するプロピレン系重合体の溶解性の測定方法は、以下の通りである。
溶剤(ヘプタン又はトルエン)にプロピレン系重合体を濃度10wt%で攪拌翼付きセパラブルフラスコに仕込み、ヘプタンは外温110℃、トルエンは外温120℃に昇温し溶解する。内温が一定となった後2時間攪拌を続ける。ヘプタンは沸騰時の温度(98℃)で素早く、トルエンは25℃まで自然冷却してから1時間静置し、SUS金網400番にてろ過する。金網に残ったものを不溶分、溶液として通ったものを可溶分とし、真空乾燥器で80℃、1mmHg以下、4時間乾燥させる。秤量し、不溶分の分率を計算する。
【0103】
本発明のプロピレン系重合体は、融点を有さない。そのため、上述のように非常に高い溶解性を示す。なお融点は、例えばデュポン(DuPont)社製熱分析システムTA2000を用いて、試料(約5〜100mg)を200℃で5分間融解後、10℃/minの速度で20℃まで降温し、5分間同温度で保持した後、10℃/minで200℃まで昇温して融解曲線を作成し、最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点とすることにより、測定できる。本発明における「融点を有さない」とは、このピークトップ温度を有さないことを意味する。なお、ベースラインの変動等により、一見ピークトップ温度に類似したDSC曲線が得られることがあるが、この場合には、上記した降温過程において対応する結晶化ピークの有無により、これがピークトップ温度か否かを判定する。すなわち、対応する結晶化ピークが認められない場合には、ピークトップ温度は存在しないものとする。
【0104】
本発明のプロピレン系重合体は、上述のように溶媒に可溶なので、結晶性を有するオレフィン系重合体の成形体(基材)に塗布することができる。基材として用いるオレフィン系重合体としては、高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、ポリ-1-ブテン、ポリスチレン等のオレフィン系重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のオレフィン共重合体等が挙げられる。これらのオレフィン共重合体のうち、プロピレン系重合体が好ましく用いられる。
【0105】
本発明のプロピレン系重合体を基材に塗布した際に形成される塗膜は、基材であるオレフィン系重合体に対して良好な密着性を示す。したがって、本発明のプロピレン系重合体は、該オレフィン系重合体に対する接着性樹脂として使用することができる。なお、良好な密着性を得るためには、塗布後に加熱させることが好ましい。加熱温度に特に制限はないが、実用性を考慮して50〜150℃、さらには60〜130℃とするのが好ましい。塗布の方法にも特に制限はなく、スプレーで塗布する方法、ローラーで塗布する方法、刷毛で塗布する方法など、従来公知の方法が使用できる。
【0106】
また、本発明のプロピレン系重合体は溶媒に可溶であるため、溶媒中で極性モノマーをグラフト共重合させ、グラフト変性プロピレン系重合体の製造に使用することが可能である。グラフト変性に用いられるモノマーの具体例としては、モノオレフィンジカルボン酸およびその無水物、ならびにモノオレフィンジカルボン酸のモノアルキルエステルが挙げられる。該モノオレフィンジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、クロロマレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、3-メチル-2-ペンテン二酸、2-メチル-2-ペンテン二酸、2-ヘキセン二酸等が挙げられる。これらのうち、マレイン酸が好ましい。また、これらのモノオレフィンジカルボン酸の無水物、および、そのカルボキシル基のひとつがアルキルアルコールによりエステル化されたもの、すなわちモノオレフィンジカルボン酸のモノアルキルエステルも、グラフト変性に用いられるモノマーの具体例として挙げられる。
【0107】
ここで得られたグラフト変性プロピレン系系共重合体も溶媒に可溶であり、結晶性を有するオレフィン系重合体の成形体(基材)に塗布することができる。塗布により形成される塗膜は、基材と良好な密着性を示す。オレフィン系重合体としては、高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、ポリ-1-ブテン、ポリスチレン等のオレフィン系重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のオレフィン共重合体等が挙げられる。これらのオレフィン共重合体のうち、プロピレン系重合体が好ましく用いられる。また、ポリプロピレンと合成ゴムとからなる成型品、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂等からなる成型品、例えば自動車用バンパー等の成型品、さらには鋼板や電着処理用鋼板等の表面処理にも用いることができる。さらに、ポリウレタン樹脂、脂肪酸変性ポリエステル樹脂、オイルフリーポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等を主成分とする塗料、プライマー、接着剤等を塗布した表面に下塗りし、その表面への塗料等の付着性を改善すると共に、鮮映性、低温衝撃性等にも優れる塗膜を形成するためにも用いることができる。
【0108】
本発明のプロピレン系重合体を極性モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系共重合体を塗布し、塗膜を形成した成形品の表面には、静電塗装、吹き付け塗装、刷毛塗り等の方法によって、塗料を塗布することができる。
塗料の塗布は、下塗りした後、上塗りする方法で行ってもよい。塗料を塗布した後、ニクロム線、赤外線、高周波等によって加熱する通常の方法に従って塗膜を硬化させて、所望の塗膜を表面に有する成形品を得ることができる。塗膜を硬化させる方法は、成形品の材質、形状、使用する塗料の性状等によって適宜選ばれる。
【0109】
また、本発明のプロピレン系重合体を極性モノマーでグラフト変性して得られた変性プロピレン系共重合体は、付着性、剥離強度および耐水性に優れる特徴を生かして、上記の成形品のプライマーとしての用途以外にも、広範囲の用途に適用可能なものであり、例えば、接着剤や塗料のための添加剤、インキバインダー等の用途にも適用可能である。
【0110】
本発明に係るプロピレン系重合体は、界面活性剤および水を含有する水性分散体とすることもできる。界面活性剤は、少なくとも2種のノニオン性界面活性剤を含有することが望ましい。すなわち、得られた水性分散体の分散粒子の粒子径及び塗膜の耐水性の観点から、異なるHLB値を有する2種のノニオン性界面活性剤を組合せ使用することである。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0111】
なお、水性分散体の形成にあたり、ノニオン性界面活性剤の他にアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤のいずれも用いることが出来るが、得られた水性分散体の分散粒子の粒子径及び塗膜の耐水性の観点から、アニオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。係るアニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物等が挙げられる。
【0112】
2種以上を併用するノニオン性界面活性剤の組合せとしては、特にH.L.B.が13.5以上14.5以下の範囲のノニオン性界面活性剤(b1)と、H.L.B.が16.0以上17.0以下の範囲のノニオン性界面活性剤(b2)のそれぞれから少なくとも1種選ぶのが好ましい。2種以上のノニオン性界面活性剤の配合割合としては、配合比が(b1)/(b2)=1/9〜9/1の範囲となるようにすることが、得られた水性分散体の分散粒子の粒子径及び塗膜の耐水性の観点からとりわけ好ましい。
【0113】
界面活性剤成分のH.L.B.が13.5以上14.5以下の範囲のノニオン性界面活性剤(b1)としては、H.L.B.が13.5以上14.5以下の範囲のポリオキシエチレンセチルエ−テル、ポリオキシエチレンステアリルエ−テル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テルの中から選んだ1種類又は2種類の混合物が挙げられる。特に、ポリオキシエチレンセチルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:10〜14モルの範囲)、ポリオキシエチレンステアリルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:11〜14モルの範囲)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:10〜14モルの範囲)の中から選んだ1種類又は2種以上の混合物が好ましく、より好ましくはポリオキシエチレンセチルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:10〜14モルの範囲)が挙げられる。
【0114】
界面活性剤成分のH.L.B.が16.0以上17.0以下の範囲のノニオン性界面活性剤(b2)としては、H.L.B.が16.0以上17.0以下の範囲のポリオキシエチレンラウリルエ−テル、ポリオキシエチレンオレイルエ−テル、ポリオキシエチレンプロピレンアルキルエーテルの中から選んだ1種類又は2種類の混合物が挙げられる。特に、ポリオキシエチレンラウリルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:18〜22モルの範囲)、ポリオキシエチレンオレイルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:33〜39モルの範囲)、ポリオキシエチレンプロピレンアルキルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:12〜19モルの範囲及びプロピレンオキサイド付加モル数:1〜5モルの範囲)中から選んだ1種類又は2種類以上の混合物が好ましく、より好ましくはポリオキシエチレンラウリルエ−テル(エチレンオキサイド付加モル数:18〜22モルの範囲)が挙げられる。
【0115】
なお、界面活性剤成分のH.L.B.の算出式としてはGriffinによるH.L.B.値−数方式を用いる。
(1)多価アルコール脂肪酸エステルの場合
H.L.B.値=20(1-S/A)
S:エステル鹸化価 A:脂肪酸の中和価
(2)トール油、松脂、密蝋、ラウリン多価アルコール誘導体の場合
H.L.B.値=(E+P)/5
E:オキシエチレン含量(%) P:多価アルコール含量(%)
(3)親水基がオキシエチレン基のみである場合
H.L.B.値=E/5
ノニオン性界面活性剤(b1)とノニオン性界面活性剤(b2)の好ましい配合比は(b1)/(b2)=1/9〜9/1であり、より好ましくは3/7〜7/3である。配合比が1/9未満であると、塗膜の耐水性が若干不良となり、9/1を超えると、得られた水性分散体の分散粒子の粒子径が若干大きく分散安定性が若干不良となることがある。
【0116】
なお、水性分散体の形成にあたり、塩基性物質を含有させることもできる。塩基性物質は、これを水系溶媒中に含有させることにより、本発明に係るプロピレン系重合体の分散安定性を向上させる。塩基性物質としては、無機塩基性類、アンモニア及びアミン類が挙げられ、中でもアミン類が好ましい。無機塩基性類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムが挙げられ、アンモニア及びアミン類としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン等のアルキルアミン類;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアルカノールアミン類;モルホリン等が挙げられ、好ましくは2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが挙げられる。
【0117】
水性分散体は、本発明のプロピレン系重合体100重量部に対し、上記した2種以上のノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤1〜100重量部、好ましくは51〜100重量部、水100〜1000重量部、好ましくは200〜800重量部からなる。プロピレン系重合体の分散安定性の向上の為に塩基性物質を用いる場合は、プロピレン系重合体100重量部に対し、塩基性物質0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部含有させる。
【0118】
2種以上のノニオン性界面活性剤を含む界面活性剤成分が、1重量部未満であると、得られた水性分散体の分散粒子の粒子径が大きく分散安定性が不良となり、100重量部を超えると、塗膜の耐水性が不良となる。塩基性物質成分が、0.01重量部未満であると、分散安定性の改良効果が不十分となり、10重量部を超えると、分散安定性の改良効果が飽和に達するので、それを超えて添加しても分散安定性の向上は期待できない。水成分が、100重量部未満であると、得られた水性分散体の固形分濃度が高くなりすぎて分散安定性が不良となり、1000重量部を超えると、得られた水性分散体の有効成分濃度が低すぎて実用上問題がある。
【0119】
プロピレン系重合体の水性分散体は、前記プロピレン系重合体を、必要に応じて用いられる塩基性物質を含有する水系溶媒に分散させることによって調製出来る。分散方法については、特に制限はなく、例えば、プロピレン系重合体を、界面活性剤及び水と共に水中に投入して分散させる粉砕法;有機溶媒に溶解したプロピレン系重合体を、界面活性剤及び水と混合した後、有機溶媒を除去する方法;ホモミキサ−を用いて分散を行うホモミキサ−法;内部せん断力により乳化を行うミキサ−を用いる方法;転相法等いずれの方法を利用しても良く、分散するプロピレン系重合体の物性等に応じて適宜選択される。特に、内部せん断力により乳化を行うミキサ−を用いる方法が、プロピレン系重合体をより微細分散させることが出来、分散安定性を改良出来るという面で好ましく用いられる。
【0120】
プロピレン系重合体の水性分散体中の分散粒子の平均粒径は0.5μm以下であるので、平滑性やポリオレフィン基材に対する密着性に優れているが、更に層分離を起こし難く、貯蔵安定性がより改善されるので好ましい。平均粒径の下限値については特に制限はないが、一般的には0.05μm以上である。
プロピレン系重合体の水性分散体に、乾燥速度を上げたり或いは仕上がり感の良好な表面を得る目的で、水以外の親水性有機溶媒を配合することが出来る。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコ−ル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコ−ル類及びそのエーテル類等が挙げられる。
【0121】
またプロピレン系重合体の水性分散体に、必要により他の水性樹脂、例えば水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂、水性アルキド樹脂、水性フェノ−ル樹脂、水性アミノ樹脂、水性ポリブタジエン樹脂、水性シリコン樹脂等を配合して用いられる。その他、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱防止剤等の各種安定剤、酸化チタン、有機顔料等の着色剤、カ−ボンブラック、フェライト等の導電性付与剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤等の各種添加剤も配合使用してもよい。さらに塗布される基材との濡れ性を改善するために、必要に応じて少量の有機溶媒を添加しても良い。
【0122】
増粘剤としては、例えばアルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系増粘剤;ベントナイトクレー等の鉱物性増粘剤;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリルエマルジョンコポリマー、架橋アクリルエマルジョンコポリマー等のアクリル酸系増粘剤;カルボキシルメチルセルロ−ス、メチルセルロ−ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス、ヒドロキシエチルセルロース等の繊維誘導体;等を挙げることができる。
【0123】
消泡剤としては、例えばヒマシ油、大豆油、アマニ油等の植物油;スピンドル油、流動パラフィン等の鉱物油;ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸;オレイルアルコール、ポリオキシアルキレングリコール、オクチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等の脂肪酸エステル;トリブチルホスフェ−ト、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル;ポリオキシアルキレンアミド類のアミド類;ステアリン酸アルミニウム、オレイン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸;ジメチルシリコン、ポリエーテル変性シリコン等のシリコン類;ジメチルアミン、ポリオキシプロピレンアルキルアミン等のアミン類;等が挙げられる。
【0124】
安定剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、メタオクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェノール)ブタン等のフェノール系安定剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等のイオウ系安定剤;トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト等のリン系安定剤等を挙げることができる。また、用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、パラオクチルフェニルサリチレート等を挙げることができる。
【0125】
プロピレン系重合体の水性分散体は、基材の主たる成分としてα-オレフィン(共)重合体やその他の重合体からなる成型品の表面に塗布し、その表面へのインク及び塗料の付着性や耐水性及び耐ガソリン性といった塗膜性能を改善するためのプライマー等として用いることが出来る。特に、上記したプロピレン系重合体の水性分散体は、例えば高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、ポリ-1-ブテン、ポリスチレン等のα-オレフィン重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のα-オレフィン共重合体等からなる成型品に好適に用いることが出来る。
【0126】
又、上記プロピレン系重合体の水性分散体が適用される成型品は、上記の各種重合体が、射出成型、圧縮成型、中空成形、押出成形、回転成形等の公知の成型法のいずれかの方法によって成型されたものであってもよい。
プロピレン系重合体の水性分散体を成型品の表面に適用する方法としては、噴霧塗布が好適であり、例えばスプレ−ガンにて成型品の表面に吹き付けられる。成型品への塗布は常温で行えばよく、塗布した後、自然乾燥や加熱強制乾燥等、適宜の方法によって乾燥され塗膜を形成することが出来る。
【0127】
以上のように、成型品の表面に本発明の水性分散体を塗布し、乾燥させた後、該成型品の表面には、静電塗装、吹き付け塗装、刷毛塗り等の方法によって、塗料を塗布することが出来る。塗料の塗布は、下塗りした後、上塗りする方法で行ってもよい。塗料を塗布した後、電熱線、赤外線、高周波等によって加熱する通常の方法に従って塗膜を硬化させて、所望の塗膜を表面に有する成型品を得ることが出来る。塗膜を硬化させる方法は、成型品の材質、形状、使用する塗料の性状等によって適宜選ばれる。
【0128】
又、上記プロピレン系重合体の水性分散体は、付着性、剥離強度及び耐水性に優れる特徴を生かして、上記のプライマーとしての用途以外にも、広範囲の用途に適用可能なものであり、例えば、ポリオレフィンを基材とする各種成型品、フィルム及びシ−ト用のインク、塗料、接着剤用樹脂として利用される。
【0129】
【実施例】
次に実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれら実施例によって制約を受けるものではない。
プロピレン系重合体の分子量の測定については、本明細書記載の方法で行った。
【0130】
プロピレン系重合体の融点は、デュポン(DuPont)社製熱分析システムTA2000を使用して、以下の方法で求めた。試料(約5〜10 mg)を200℃で3分間融解後、10℃/minの速度で30℃まで降温した後に、10℃/minで200℃まで昇温することにより融解曲線を得て、最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点として求めた。
【0131】
プロピレン系重合体の98℃へプタンおよび25℃トルエンに対する溶解性は本明細書記載の方法で行った。
層間密着性試験は、JIS K5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて、碁盤目を付けた試験片を作成し、ニチバン社製セロテープ(R)を、試験片の碁盤目上に張り付けた後、これを速やかに垂直方向に引っ張って剥離させ、碁盤目100個のうちで剥離されなかった碁盤目の数を数え、密着性の指標とした。
【0132】
また、以下の諸例において、触媒合成工程および重合工程は、全て精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は、モレキュラーシーブ(MS-4A)で脱水した後に、精製窒素でバブリングして脱気して使用した。
実施例1
(i)ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)ハフニウムの合成
(i)-1 配位子合成
2-メチルアズレン(4.01g)をテトラヒドロフラン(56ml)に溶解し、アイスバスにて0℃に冷却した後、同温度でメチルリチウムのジエチルエーテル溶液(1.14mol/l) 24.8mlを滴下した。滴下終了後、アイスバスを外して2時間攪拌した。この溶液を、アイスバスにて0℃に冷却したジメチルシリルジクロリド(34.0ml, 0.280mol)のテトラヒドロフラン溶液(140mL)にゆっくり滴下した。滴下終了後、アイスバスを外して3時間攪拌した後、減圧下に溶媒および未反応のジメチルシリルジクロリドを留去した。テトラヒドロフラン(80ml)を加えて0℃まで冷却し、シクロペンタジエニルナトリウム(2.1mol/l, 26.9ml, 56.5mmol)を徐々に滴下し、滴下終了後、室温で12時間撹拌した。攪拌終了後、水を加え、ジエチルエーテルで目的とする化合物を抽出した。抽出溶液を硫酸マグネシウムで脱水した後、乾固することにより目的配位子の未精製品を得た。n-ヘキサンを溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで、該未精製品を精製することにより、目的の配位子(6.29g)を収率79%で得た。
【0133】
(i)-2 錯体合成
(i)-1で得られた配位子(6.29g)をテトラヒドロフラン(100ml)に溶解し、アイスバスにて0℃に冷却した。ここに同温度で、n-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液(1.56mol/l, 28.4ml)を、ゆっくり滴下した。滴下終了後、アイスバスをはずして3時間攪拌し、減圧下に溶媒を留去した。留去後得られた残渣にトルエン(60ml)を加えた後、-78℃に冷却した。ここに、-78℃に冷却したハフニウムテトラクロリド(7.17g)のトルエン(140ml)懸濁液をゆっくり添加した。その後、冷却浴をはずして終夜攪拌した。攪拌終了後、反応液をG3フリットを用いて濾過した。フリット上の固体をさらにトルエンで洗浄し、濾液を濃縮することにより、褐色の粉末が得られた。この褐色の粉末から、ホットn-ヘキサン(180ml×3回)で目的錯体を抽出した。抽出溶液を乾固させた後、得られた固体をn-ヘキサン(20ml×5回)で懸濁洗浄した後、減圧下で乾燥させることにより、目的とするジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-1-アズレニル)]ハフニウム(2.90g)を得た(収率25%)。
1H-NMR (CDCl3): δ0.85 (s, 3H), 0.86 (s, 3H), 1.47 (d, J = 7.1 Hz, 3H), 2.25 (s, 3H), 3.42-3.52 (m, 1H), 5.42 (dd, J = 4.7, 10.1 Hz, 1H), 5.80-5.85 (m, 2H), 5.90-5.95 (m, 1H), 6.16-6.20 (m, 2H), 6.65 (d, J = 11.4H), 6.80-6.85 (m, 1H), 6.98-7.02 (m, 1H)。
【0134】
(ii) 粘土鉱物の化学処理
1,000ml丸底フラスコに、脱塩水(110ml)、硫酸マグネシウム・7水和物(22.2g)および硫酸(18.2g)を採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製;ベンクレイSL, 16.7g)を分散させ、2時間かけて100℃まで昇温し、100℃で2時間攪拌を行った。その後、1時間かけて室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1,000ml丸底フラスコにて、脱塩水(500ml)にて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥し、化学処理モンモリロナイト(13.3g)を得た。
【0135】
(iii) 重合
上記(ii)で得られた化学処理モンモリロナイト(0.44g)に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.4mmol/ml, 2.0ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン(8ml)を加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー(スラリー濃度=99mg粘土/ml)を得た。
【0136】
別のフラスコに、東ソー・アクゾ社製トリイソブチルアルミニウム(0.114mmol)を採取し、ここで得られた粘土スラリー(3.8ml)および上記(i)-2で得られた錯体(6.02mg, 11.4μmol)のトルエンでの希釈液を加え、室温で10分間撹拌し、触媒スラリーを得た。
次いで、内容積2リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン(750ml)、トリイソブチルアルミニウム(1.9mmol)および液体プロピレン(180ml)を導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、60℃まで昇温し、同温度で1時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を一部回収し、溶媒ならびに粘土残渣を除去したところ、6.8gのプロピレン系重合体が得られた。
【0137】
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw:110,000。
13C-NMRによるhead to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク:Sに対するS5の比率=36.4(%)、4+2S5/S6=8.8
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率:0.61(%)、13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率:0.63(%)。
【0138】
オルトジクロロベンゼンによる昇温溶出分別を行ったところ、45℃でポリマー全量が溶出した。DSCを測定したところ、明確な融点ピークは観測されなかった。
(iv) 物性評価
上記(iii)で得られたプロピレン系重合体を、98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製した。いずれの溶媒に対しても溶解性は良好で、不溶成分は存在しなかった。ここで得られたトルエン溶液を、日本ポリケム社製高結晶性ポリプロピレンMA3Uの射出成形片(イソプロピルアルコールで表面を清拭したもの)に塗布し(塗布量:6.7g/m2)、90℃で30分間処理した後、形成された塗膜の密着性を評価した。得られた塗膜は表面平滑性に優れ、べたつきもなく、碁盤目試験の結果、剥離した碁盤目はなく、基材であるMA3Uへの密着性も良好であった。
【0139】
実施例2
(1) 重合
重合時の全圧を0.7Mpaで一定に保持し、重合で得られたポリマーを全量回収した以外は、実施例1(iii)と同様にして重合を行い、プロピレン系重合体23.2gを得た。
【0140】
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw:110,000。
13C-NMRによるhead to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク:Sに対するS5の比率=41.1(%)、4+2S5/S6=9.0。
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率:0.52(%)、13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率:0.61(%)。
【0141】
オルトジクロロベンゼンによる昇温溶出分別を行ったところ、55℃でポリマー全量が溶出した。DSCを測定したところ、明確な融点ピークは観測されなかった。
また、得られたプロピレン系重合体を98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製した。いずれの溶媒に対しても溶解性は良好で、不溶成分は存在しなかった。
(2) プロピレン系重合体の無水マレイン酸変性
温度計、攪拌機のついたステンレス耐圧反応容器中に、トルエン(200ml)および上記(1)で得られたプロピレン系重合体(20g)を加え、容器内を窒素ガスで置換し、125℃に昇温した。昇温後、ポンプを用いて、無水マレイン酸のトルエン溶液(0.1g/ml)およびジクミルペルオキシドのトルエン溶液(0.015g/ml)を、別々の導管から6時間供給し、最終的に無水マレイン酸1.2gおよびジクミルペルオキシド0.18gを系内に供給して反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。さらにアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーをアセトンで洗浄した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の変性樹脂が得られた。この変性樹脂の赤外線吸収スペクトル測定および中和滴定等を行った結果、無水マレイン酸基の含量は、1.0wt.%であった。
【0142】
ここで得られた無水マレイン酸変性プロピレン系重合体15gにトルエン135gを加え、100℃に昇温し、1時間かけて溶解させた。得られた溶液を室温付近まで冷却した後、#400のSUS金網を通して、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体の10 wt.%溶液を調製した。
(3) 変性プロピレン系重合体の物性評価
日本ポリケム社製高結晶性ポリプロピレンMA3Uの射出成形片(イソプロピルアルコールで表面を清拭したもの)に、上記(2)で得られた無水マレイン酸変性プロピレン系重合体のトルエン溶液を噴霧塗布した。なお、塗布量は、3〜5g/m2とした。次にこの成形片を25℃にて1時間静置した後、セーフベンドライヤー中にて80℃、30分間乾燥させた。次いで、この乾燥品を25℃にて1時間静置させた後、その塗膜の上からベースコートとしてアクリルポリオールウレタン塗料レタンPG80III(関西ペイント社製:商品名)を、所定量の硬化剤を配合し、フォードカップ4番にて専用シンナーで粘度調整を行い、粘度が12〜13秒となるように調整した後、乾燥塗布量が50〜60gになるように噴霧塗装し、セーフベンドライヤー中にて100℃、30分間焼き付けを行った。さらに、25℃にて10日間静置した後、層間密着性試験を行った。試験の結果、剥離した碁盤目はなく、上記(2)で得られた無水マレイン酸変性プロピレン系重合体は、基盤である高結晶性ポリプロピレンおよびベースコート塗料の両者に対して、優れた密着性を有していた。また、塗膜のべたつきもなかった。
【0143】
実施例3
(i) 重合
実施例1の(ii)で得られた化学処理モンモリロナイト(1.02 g)に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.45 mmol/ml, 4.5 ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン(40 ml)を加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリーを得た。
【0144】
別のフラスコに、東ソー・アクゾ社製トリイソブチルアルミニウム(0.08 mmol)を採取し、実施例1の(i)-2で得られた錯体(3.86 mg, 7.45μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で5分間撹拌した。この錯体溶液の全量を上記粘土スラリーに加え、室温で40分間攪拌し、触媒スラリーを得た。
次いで、内容積2リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トリイソブチルアルミニウム(0.25 mmol)および上記触媒スラリーを全量導入した。25℃で、液体プロピレン(1,250 ml)を導入し、さらにエチレンをエチレン分圧として0.70 MPaとなるように導入した。60℃まで昇温後、同温度で1時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応モノマーをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放したところ、144 gのプロピレン・エチレン共重合体が得られた。
【0145】
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw: 91,000。
13C-NMRによるhead to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク: Sに対するS5の比率=35.7(%)、4+2S5/S6=8.8、
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率: 2.5(%)、13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率: 0.3(%)。
【0146】
また、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)= 0.004であった。
なお、13C-NMRスペクトルにおいて、27.3 ppm, 30.0 ppm, 33.5 ppmには、シグナルが観測されなかった。
得られた重合体についてDSCを測定したところ、明確な融点ピークは観測されなかった。
【0147】
オルトジクロロベンゼンによる昇温溶出分別を行ったところ、5℃で全体の79.5 wt.%が溶出し、85℃でポリマー全量が溶出した。
(ii) 物性評価
上記(i)で得られたプロピレン・エチレン共重合体を、98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製した。いずれの溶媒に対しても溶解性は良好で、不溶成分は存在しなかった。また、実施例1(iv)と同様にして、塗膜の密着性を評価した。得られた塗膜は表面平滑性に優れ、べたつきもなく、碁盤目試験の結果、剥離した碁盤目はなく、基材であるMA3Uへの密着性も良好であった。
【0148】
実施例4
(i) 粘土鉱物の化学処理
1,000 ml丸底フラスコに、脱塩水(72 ml)、硫酸マグネシウム・7水和物(11.2 g)および硫酸(17.0 g)を採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL, 22.0 g)を分散させ、100℃まで昇温し、5時間攪拌を行った。その後、1時間かけて室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1,000 ml丸底フラスコにて、脱塩水(500 ml)にて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下200℃で1時間減圧下に乾燥し、化学処理モンモリロナイト(15.6 g)を得た。
(ii) 重合
上記(i)で得られた化学処理モンモリロナイト(0.65 g)に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5 mmol/ml, 2.6 ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン(15 ml)を加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリーを得た。
【0149】
別のフラスコに、日本アルキルアルミ社製トリイソブチルアルミニウム(0.08 mmol)を採取し、実施例1の(i)-2で得られた錯体(10.1 mg, 19.5μmol)のトルエン希釈液 (7.0 ml) を加え、室温で5分間撹拌した。この錯体溶液の全量を上記粘土スラリーに加え、室温で10分間攪拌し、触媒スラリーを得た。
次いで、内容積5リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トリイソブチルアルミニウム(0.32 mmol)、トルエン (2750 ml) および上記触媒スラリーを全量導入した。25℃で、液体プロピレン(660 ml)を導入し、さらにエチレンをエチレン分圧として0.05 MPaとなるように導入した。80℃まで昇温後、容器内全圧が0.85 MPa一定となるようにプロピレンを逐次添加しつつ、同温度で1時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応モノマーをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放し、得られた反応溶液に水を加えて触媒および有機アルミニウムを失活させ、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、濾過により不溶物を除去したのち、濾液を減圧濃縮したところ、467 gのプロピレン・エチレン共重合体が得られた。
【0150】
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw: 38,000。
13C-NMRによるhead to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク: Sに対するS5の比率=34.4 (%)、4+2S5/S6=8.1、
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率: 0 (%)、13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率: 1.2 (%)。
【0151】
また、(S1+S)/(S1+S2+S3+0.5S4)= 0.004であった。
なお、13C-NMRスペクトルにおいて、27.3 ppm, 30.0 ppm, 33.5 ppmには、シグナルが観測されなかった。
得られた重合体についてDSCを測定したところ、明確な融点ピークは観測されなかった。
(iii) 物性評価
上記(ii)で得られたプロピレン・エチレン共重合体を98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製した。いずれの溶媒に対しても溶解性は良好で、不溶成分は存在しなかった。また、実施例1(iv)と同様にして、塗膜の密着性を評価した。得られた塗膜は表面平滑性に優れ、べたつきもなく、碁盤目試験の結果、剥離した碁盤目はなく、基材であるMA3Uへの密着性も良好であった。
【0152】
実施例5
(i) 重合
実施例4の(i)で得られた化学処理モンモリロナイト(0.12 g)に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5 mmol/ml, 0.5 ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン(3 ml)を加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリーを得た。
【0153】
別のフラスコに、日本アルキルアルミ社製トリイソブチルアルミニウム(0.008 mmol)を採取し、実施例1の(i)-2で得られた錯体(2.0 mg, 3.8μmol)のトルエン希釈液 (0.63 ml) を加え、室温で5分間撹拌した。この錯体溶液の全量を上記粘土スラリーに加え、室温で10分間攪拌し、触媒スラリーを得た。
次いで、内容積5リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トリイソブチルアルミニウム(0.13 mmol)、トルエン (1100 ml) および上記触媒スラリーを全量導入した。25℃で、液体プロピレン(260 ml)を導入し、さらにエチレンをエチレン分圧として0.05 MPaとなるように導入した。80℃まで昇温後、別途用意したエチレンと水素の混合ガスのバッファタンクから、該混合ガスを15分間隔で、バッファタンクの圧減が50 kPaとなるように添加した。なお、バッファタンク中のエチレンと水素のモル比は9:1とした。同時に、オートクレーブ内の全圧が0.85 MPa一定となるようにプロピレンを逐次添加した。80℃で1時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応モノマーをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放し、得られた反応溶液に水を加えて触媒および有機アルミニウムを失活させ、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、濾過により不溶物を除去したのち、濾液を減圧濃縮したところ、185 gのプロピレン・エチレン共重合体が得られた。
【0154】
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw: 30,000。
13C-NMRによるhead to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク: Sに対するS5の比率=33.9 (%)、4+2S5/S6=7.7、
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率: 0 (%)、13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率: 0.78 (%)。
【0155】
また、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)= 0.036であった。
なお、13C-NMRスペクトルにおいて、27.3 ppm, 30.0 ppm, 33.5 ppmには、シグナルが観測されなかった。
得られた重合体についてDSCを測定したところ、明確な融点ピークは観測されなかった。
(ii) 物性評価
上記(i)で得られたプロピレン・エチレン共重合体を98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製した。いずれの溶媒に対しても溶解性は良好で、不溶成分は存在しなかった。また、実施例1の(iv)と同様に塗膜の密着性を評価した。得られた塗膜は表面平滑性に優れ、べたつきもなく、碁盤目試験の結果、剥離した碁盤目はなく、基材であるMA3Uへの密着性も良好であった。
【0156】
実施例6
(1) 重合
20 mlナス型フラスコに、実施例1(i)-2で得られた錯体(20 mg)を採取し、トリイソブチルアルミニウム(0.5 mmol/ml, 0.13 ml)を加え、室温で0.5時間撹拌した。この錯体溶液にトルエン(2.7 ml)を加え、錯体溶液を得た。
【0157】
一方、100 mlナス型フラスコに、実施例1(ii)で得られた化学処理モンモリロナイト(1.0 g)を採取し、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5 mmol/ml, 4.0 ml)を加え、室温で0.5時間攪拌した。この懸濁液にトルエン(25 ml)を加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を再度繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリーを得た。得られた粘土スラリーに、上記錯体溶液を2.5 ml加え、触媒スラリーとした。
【0158】
次いで、内容積24リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、室温でトルエン13リッターを仕込み、50℃に昇温した。同温度で攪拌しながら、トリイソブチルアルミニウム(1.5 mmol)および上記触媒スラリーを全量導入した。プロピレン(1,600 g)を導入し重合を開始した。重合中は、全圧が0.65 MPaで一定となるように、適宜プロピレンを追加した。同温度で2時間重合を行った後、メタノール(13 ml)を加えて重合を停止し、未反応モノマーをパージした。オートクレーブを開放して内容物を取り出し、トルエンを減圧下に除去したところ、1439 gのプロピレン系重合体が得られた。
【0159】
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw: 240,000。
13C-NMRによるhead to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク: Sに対するS5の比率=49.0(%)、4+2S5/S6=10.5。
【0160】
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率: 0.01(%)、13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率: 0.34(%)。
得られた重合体についてDSCを測定したところ、明瞭な融点ピークは観察されなかった。広角X線回折により、結晶化度を測定したところ、19%であった。
(2) プロピレン系重合体の変性
温度計、冷却管、攪拌機及び滴下漏斗を備えたガラスフラスコ中に、上記(1)で合成したプロピレン系重合体(300 g)およびトルエン(900 g)を仕込み、窒素雰囲気下、系内温度を85℃に昇温し、プロピレン系重合体を溶解させた。続いて、トルエン(300 g)に無水マレイン酸(15 g)およびベンゾイルパ−オキサイド(5 g)を溶解した溶液を、同温度で1時間かけて滴下した後、5時間熟成反応を行った。反応終了後、室温付近まで冷却し、反応液を4.5 kgのアセトン中に投入し、析出した無水マレイン酸変性プロピレン系重合体を濾別した。この変性樹脂を再度4.5 kgのアセトン中に投入して精製した後、濾別し真空乾燥した。得られた白色粉末状の変性樹脂の赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含有量は0.5重量%であった。
(3) 水系分散体の調製
温度計、冷却管及び攪拌機を備えたガラスフラスコ中に、上記の無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(100 g)とトルエン(400 g)とを加え、100℃に昇温し、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体を溶解させた。70℃まで冷却し、この溶液の中に、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンセチルエ−テル(花王社製エマルゲン220, HLB=14.2, 30 g)および、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエ−テル(花王社製エマルゲン147, HLB=16.3) 30 gを添加し、溶解させた後、室温付近まで冷却した。これをビーカーに移し替え、水(700 g)を少量ずつ添加して十分攪拌混合した後、内部せん断型の乳化機(エム・テクニック社製クレアミックスCLM-0.8S)を用い、21,000 rpmで15分間乳化を行った。続いて、系内に塩基性物質として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノ−ルを水で10重量%に希釈した水溶液を2.1 g添加して、pH=8に調整した。この粗乳化物から、エバポレーターにてトルエンを留去し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン系水性分散体を得た。得られた水性分散体の分散粒子の粒子径をレ−ザ回折式粒径分布計(日機装社製マイクロトラックUPA)で測定したところ、平均粒径は0.25 μmであった。
(4) 水性分散体の密着性試験
はじめに、試験片を以下のようにして作成した。日本ポリケム社製ポリプロピレン系共重合体(60重量部)、JSR社製エチレン・プロピレンランダム共重合体ゴム(30重量部)、および、富士タルク社製タルク(10重量部)の配合物に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン (チバガイギー社製IRGANOX 1010, 0.1重量部)を配合して、ヘンシェルミキサーで5分間混合した。その後、神戸製鋼社製二軸混練機(KCM50)にて、設定温度=210℃で混練造粒することにより熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに、この組成物を東芝機械社製射出成型機(東芝IS170)を用いて、成形温度設定=220℃で成形し、150 mm×70 mm×2 mmから成る形状の試験片を得た。
【0161】
密着性試験は、以下のようにして行った。上記試験片の表面をイソプロピルアルコールで洗浄し、固形分20重量%になるように濃度調整した上記水性分散体を、塗布量6〜8 g/m2になるように噴霧塗布した。次にこの塗布後の試験片(塗装板)を25℃にて1時間静置した後、セーフベンドライヤ−中において100℃で30分間乾燥させた。これをさらに25℃にて1時間静置した後、その塗膜の上に、所定量の硬化剤を配合し、かつ専用シンナーで粘度調整を行ったアクリルポリオールウレタン塗料(関西ペイント社製レタンPG 80III)を、塗布量が50〜60 g/m2になるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤ−中において100℃で30分間焼き付けた。続いて、25℃にて10日間静置した。
【0162】
JIS K5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて、得られた塗装板に碁盤目を付けた試験片を作製し、ニチバン社製セロテ−プ(R)を試験片の碁盤目上に貼り付けた後、これを速やかに90°の方向に引っ張って剥離させた。その結果、碁盤目100のうち、剥離せずに塗装板に残った碁盤目の数は100であった。
(5) 水性分散体の耐水性試験
密着性試験の場合と同様に作製した塗装板を、40℃の温水中に10日間浸漬し、塗膜外観を目視判定したところ、異常は認められなかった。又、密着性試験の場合と同様に碁盤目剥離試験を行った結果、碁盤目100のうち、剥離しなかった碁盤目の数は100であった。
(6) 水性分散体の耐ガソホ−ル性試験
密着性試験の場合と同様に作製した塗装板を、20℃に保ったレギュラーガソリンとエタノールとの混合溶液(重量比: レギュラーガソリン/エタノール=9/1)中に浸漬し、塗膜に剥離が生じるまでの時間を測定した。120分後でも剥離は認められなかったため、この段階で試験を終了した。
【0163】
比較例1
(1) ジクロロ{1,1’-ジメチルシリレンビス[2-エチル-4-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)-4H-アズレニル]}ハフニウムのラセミ体の合成
2-フルオロ-4-ブロモビフェニル(6.35g, 25.3mmol)を、ジエチルエーテル(50ml)とn-ヘキサン(50ml)の混合溶媒に溶かし、t-ブチルリチウムのn-ペンタン溶液(33ml,50.6mmol,1.54N)を-78℃で滴下した。-10℃で2時間攪拌し、この溶液に2-エチルアズレン(3.55g,22.8mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。n-ヘキサン(30ml)を加え、上澄みをデカンテーションで除去した。さらに、この操作をもう一度繰り返した。得られた黄色沈殿に、0℃でn-ヘキサン(30ml)とテトラヒドロフラン(40ml)を加えた。次いで、N-メチルイミダゾール(50μl)とジメチルジクロロシラン(1.4ml, 11.4mmol)を加え、室温まで昇温し、室温で1時間攪拌した。この後、希塩酸を加え、分液して後有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下に溶媒を留去すると、ジメチルシリレンビス(2-エチル-4-(2-フルオロ-4-ビフェニル)-1,4-ジヒドロアズレン)の粗生成物(8.3g)が得られた。
【0164】
次に、上記で得られた粗生成物をジエチルエーテル(30ml)に溶かし、-70℃でn-ブチルリチウムのn-ヘキサン溶液(14.9ml,22.8mmol,1.53N)を滴下し、徐々に昇温して、室温で一夜攪拌した。さらに、トルエン(200ml)を加え、-70℃に冷却し、四塩化ハフニウム(3.6g,11.4 mmol)を加え、徐々に昇温し、室温で4時間攪拌した。得られたスラリーから、減圧下に大部分の溶媒を留去し、ジエチルエーテル(50ml)を加え、得られたスラリーを濾過した。ジエチルエーテル(5ml×2)、エタノール(15ml×2)、n-ヘキサン(10ml×2)で洗浄すると、ジクロロ{1,1’-ジメチルシリレンビス[2-エチル-4-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)-4H-アズレニル]}ハフニウムのラセミ・メソ混合物(4.53g, 収率42%)が得られた。得られたラセミ・メソ混合物を1H-NMRで分析した結果、ラセミ体76.6%、メソ体23.4%の混合物であることがわかった。
【0165】
ここで得られたラセミ・メソ混合物(4.5g)をジクロロメタン(35ml)に懸濁し、高圧水銀灯(100W)を用いて1時間光照射した。減圧下に溶媒を留去し、得られた固体にトルエン(25ml)とジクロロメタン(11ml)を加え、60℃に加熱すると均一溶液となった。減圧下にジクロロメタンを留去すると結晶が析出した。得られた結晶を濾過して、ヘキサン(5ml)で2回洗浄し、減圧下乾燥すると、ラセミ体(1.79g)が得られた。
【0166】
(2) 粘土鉱物の化学処理
500ml丸底フラスコに、脱塩水55.85gと硫酸32.70gおよび水酸化リチウム8.01gを加えて攪拌した後、モンモリロナイト(水澤化学社製:水澤スメクタイト)51.65gを添加し、昇温して還流下に140分間処理した。脱塩水300mlを加えて吸引濾過した後、脱塩水600mlに固体成分を分散させて吸引濾過した。この操作をさらにもう1度繰り返した。濾過して得られた残留物を100℃で乾燥し、酸および金属塩処理モンモリロナイトを得た。
ここで得られた酸および金属塩処理モンモリロナイト1.05gを100ml丸底フラスコに採取し、減圧下、200℃で2時間加熱乾燥させた。これに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5mmol/ml)を、精製窒素下で4.0ml添加して、室温で30分反応させた後、トルエン30mlで2回洗浄し、化学処理モンモリロナイトを含有するトルエンスラリーを得た。
【0167】
(3) 予備重合
上記(2)で得られたスラリー(固形分として914.2mg含有)からトルエンを抜き出し、残存トルエン量を1.0mlとした。このスラリーに、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5mmol/ml, 0.5ml)を加え、さらに、上記(1)で合成したジクロロ{1,1’-ジメチルシリレンビス[2-エチル-4-(2-フルオロ-4-ビフェニリル)-4H-アズレニル]}ハフニウムのラセミ体のトルエン溶液(3.0mmol/ml, 9.2ml)を加え、室温で1時間攪拌し、触媒スラリーを得た。
2リッターの誘導攪拌式オートクレーブに、精製窒素下、トルエン40mlと上記触媒スラリー全量を導入した。攪拌下にプロピレン11.0gを導入し、30℃で2時間、次いで50℃で0.5時間予備重合を行った。予備重合後、未反応のプロピレンをパージし、精製窒素0.5Mpaで2回加圧置換した後予備重合触媒を取り出した。このものは、化学処理モンモリロナイト成分1gあたり9.7gの重合体を含有していた。
【0168】
(4) 重合
いかり型攪拌翼を内蔵する2リッターの誘導攪拌式オートクレーブを精製窒素で置換し、次いで、25℃で液化プロピレン750gを装入した。トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.1mmol/ml,5.0ml)を同温度で圧入後、70℃まで昇温した。水素を、気相中の水素濃度で0.2mol%になるように加えた後、70℃で、上記(3)で得られた予備重合触媒を化学処理モンモリロナイト成分として30.0mg加え、重合を開始した。1時間後、未反応のプロピレンをパージし、重合を終了した。得られたプロピレン系重合体の量は384gであった。
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw:110,000。
13C-NMRによる頭−尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク:Sに対するS5の比率>99.9(%)であり、他のペンタッドに由来するピークはほとんど見られなかった。
【0169】
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する2,1-挿入の比率:0.11(%)。
13C-NMRにより測定した全プロピレン挿入に対する1,3-挿入の比率:0.17(%)。
また、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)= 0であった。
オルトジクロロベンゼンによる昇温溶出分別を行ったところ、120℃でポリマー全量が溶出した。DSCを測定したところ、融点ピークは156.5℃に観測された。
(5)物性評価
上記(4)で得られたプロピレン系重合体を、98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製しようと試みたが、該重合体は実質的に98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解しなかった。
【0170】
比較例2
(1) 固体触媒成分の製造
攪拌翼、温度計、ジャケット、冷却コイルを備えた100リッターの反応器に、Mg(OEt)2:30molを仕込み、次いで、Ti(OBu)4を、仕込んだMg(OEt)2中のマグネシウムに対して、Ti(OBu)4/Mg=0.60(モル比)となるように仕込んだ。さらに、トルエンを19.2kg仕込み、攪拌しながら昇温した。139℃で3時間反応させた後、130℃に降温して、MeSi(OPh)3のトルエン溶液を、先に仕込んだMg(OEt)2中のマグネシウムに対して、MeSi(OPh)3/Mg=0.67(モル比)になるように添加した。なお、ここで用いたトルエン量は、7.8kgであった。添加終了後、130℃で2時間反応させ、その後、室温に降温し、Si(OEt)4を添加した。Si(OEt)4の添加量は、先に仕込んだMg(OEt)2中のマグネシウムに対して、Si(OEt)4/Mg=0.056(モル比)となるようにした。
次に、得られた反応混合物に対して、マグネシウム濃度が、0.58(mol/L-TOL)になるように、トルエン(TOL)を添加した。さらに、フタル酸ジエチル(DEP)を、先に仕込んだMg(OEt)2中のマグネシウムに対して、DEP/Mg=0.10 (モル比)になるように添加した。得られた混合物を、引き続き攪拌しながら-10℃に冷却し、TiCl4を2時間かけて滴下して均一溶液を得た。なお、TiCl4は、先に仕込んだMg(OEt)2中のマグネシウムに対して、TiCl4/Mg=4.0(モル比)になるようにした。TiCl4添加終了後、攪拌しながら0.5℃/minで15℃まで昇温し、同温度で1時間保持した。次いで、再び0.5℃/minで50℃まで昇温し、同温度で1時間保持した。さらに、1℃/minで118℃まで昇温し、同温度で1時間処理を行った。処理終了後、攪拌を停止し、上澄み液を除去した後、トルエンで、残液率=1/73になるように洗浄し、スラリーを得た。
【0171】
次に、ここで得られたスラリーに、室温で、トルエンとTiCl4を添加した。なお、TiCl4は、先に仕込んだMg(OEt)2中のマグネシウムに対して、TiCl4/Mg(OEt)2=5.0(モル比)となるようにした。また、トルエンは、TiCl4濃度が、2.0(mol/L-TOL)になるように調製した。このスラリーを攪拌しながら昇温し、118℃で1時間反応を行った。反応終了後、攪拌を停止し、上澄み液を除去した後、トルエンで、残液率=1/150となるように洗浄し、固体触媒成分のスラリーを得た。
(2)固体触媒成分の処理
100mlなすフラスコに、上記(1)で得られた固体触媒成分のスラリーを、固体触媒成分として117.3mg採取した。このスラリーを攪拌しながら0.27mmolのトリエチルアルミニウムを室温で滴下した。滴下終了後、引き続き室温で30分間攪拌した。
(3)プロピレンの重合
誘導攪拌式オートクレーブ(容量:2リットル)に、室温、窒素気流下で、トリエチルアルミニウム:2.0mmolと、t-BuEtSi(OMe)2:0.05mmolを仕込んだ。ついで、液体プロピレン:750gを仕込んだ後、水素を、70℃における気相の水素濃度で、13mol%になるように加えた。攪拌しながら70℃に昇温し、70℃になった時点で、上記(2)において、トリエチルアルミニウムで処理した固体触媒成分を、固体触媒成分として11.6mg添加して重合を開始した。70℃で1時間重合を行った後、余剰のプロピレンをパージして重合を停止した。得られたプロピレン系重合体は、505gであった。また、得られたプロピレン系重合体を分析したところ、MFR=118.5(g/10min)であった。また、13C-NMRで分析したところ、プロピレンの2,1-挿入と1,3-挿入は観測されなかった。
【0172】
(4)プロピレン系重合体の変性
U. W. Suter et al., J. Am. Chem. Soc., 14, 528 (1981)を参考にして以下の反応を行った。
上記(3)で得られたプロピレン系重合体2.0gを容量50mlのミクロオートクレーブに採取し、ついで、n-ヘプタン8.0ml、およびPd/C 0.5gを加え、水素圧5.0Mpaのもと、320℃で5時間反応させた。反応終了後、触媒を濾別し、溶媒を減圧下に除去して変性プロピレン系重合体2.0gを得た。
得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw:100,000。
13C-NMRによる頭−尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク:Sに対するS5の比率=17.5(%)、4+2S5/S6=7.0。プロピレンの2,1-挿入と1,3-挿入は、13C-NMRでは観測されなかった。
また、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)= 0であった。
【0173】
(5) 物性評価
上記(4)で得られた変性プロピレン系重合体を、実施例1(iv)と同様にして物性評価を行った。98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製した。いずれの溶媒に対しても溶解性は良好で、不溶成分は存在しなかった。ここで得られたトルエン溶液を、日本ポリケム社製高結晶性ポリプロピレンMA3Uの射出成形片(イソプロピルアルコールで表面を清拭したもの)に塗布し(塗布量:6.7g/m2)、90℃で30分間処理した。形成された塗膜は、正常な密着性試験が実施できないほどべたつきが顕著であった。
【0174】
比較例3
(1) プロピレン系重合体の変性
反応時間を0.7時間にした以外は、比較例2(4)と同様にして反応を行った。得られた重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによるMw:110,000。
13C-NMRによる頭−尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピーク:Sに対するS5の比率=72.8(%)、4+2S5/S6=36.0。プロピレンの2,1-挿入と1,3-挿入は、13C-NMRでは観測されなかった。
また、(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)= 0であった。
(2) 物性評価
上記(1)で得られた変性プロピレン系重合体を、実施例1(iv)と同様にして物性評価を行った。98℃におけるヘプタンおよび25℃におけるトルエンに溶解させ10wt.%溶液を調製しようと試みたが、溶解性は不良であり、不溶成分の粒子が存在した。調製したトルエン溶液を、日本ポリケム社製高結晶性ポリプロピレンMA3Uの射出成形片(イソプロピルアルコールで表面を清拭したもの)に塗布し(塗布量:6.7g/m2)、90℃で30分間処理した。形成された塗膜は、不溶成分のために表面が平滑でなく、正常な密着性試験が実施できなかった。
【0175】
【発明の効果】
本発明を用いることにより、塩素のようなハロゲンを含有せず、かつ、プロピレン系重合体からなる基材に対して良好な接着性、塗装性をべたつきなしで付与することが可能である。また、得られた塗膜の外観も良好である。よって、本発明は工業的に価値が高い。
Claims (10)
- 下記特性(1)〜(3)を備えた融点を有さないプロピレン系重合体。
(1) GPCで測定した重量平均分子量Mwが5,000以上かつ1,000,000未満であること。
(2) 13C−NMRにて、head to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとした場合、19.8ppmから22.2ppmに現れるピークの総面積Sに対し、21.8ppmをピークトップとするピークの面積S5の比率が10%以上かつ60%以下であり、かつ、21.5〜21.6ppmをピークトップとするピークの面積をS6としたとき、4+2S5/S6>5であること。
(3) 2,1−挿入したプロピレン単量体および/または1,3−挿入したプロピレン単量体に基づく位置不規則単位が主鎖中に存在し、全プロピレン挿入に対する2,1−挿入と1,3−挿入に基づく位置不規則単位の比率の和が0.05%以上であること。 - プロピレン重合体又はプロピレン・オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1記載のプロピレン系重合体。
- プロピレン・オレフィン共重合体がプロピレンとエチレンの共重合体であることを特徴とする請求項2記載のプロピレン系重合体。
- 下記特性(4)を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体。
(4) 13C−NMRにて、head to tail結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとして、24.5ppmから25.0ppm、33.5ppmから34.2ppm、14.2ppmから23.5ppm、27.5ppmから28.0ppmに現れるピークの積分強度をそれぞれS1、S2、S3、S4とした場合、0<(S1+S2)/(S1+S2+S3+0.5S4)<0.05であること。 - プロピレン単位をP、2,1−挿入したプロピレン単位をtP、エチレン単位をEで表したとき、PEE、tPEE、EEE、EPE、EtPEで表される部分構造が存在しないか、または、該部分構造の比率の合計が、P、tP、Eからなる全トライアッドの3%以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載のプロピレン系重合体。
- GPCで測定した重量平均分子量Mwが5,000以上かつ200,000未満であり、重合体がプロピレン単独重合体であることを特徴とする請求項1記載のプロピレン系重合体。
- 2,1−挿入したプロピレン単量体、および、1,3−挿入したプロピレン単量体に基づく位置不規則単位の両者が主鎖中に存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体。
- 2,1−挿入したプロピレン単量体及び1,3−挿入したプロピレン単量体に基づく位置不規則単位の両者が主鎖中に存在し、且つ、全プロピレン挿入に対する該1,3−挿入に基づく位置不規則単位の比率が、該2,1−挿入に基づく位置不規則単位の比率よりも多いことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体。
- 98℃におけるヘプタンに10重量%の濃度で溶解した際に、その不溶分が1重量%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体。
- 25℃におけるトルエンに10重量%の濃度で溶解した際に、その不溶分が1重量%以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体。
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