JP3972278B2 - 衛生性に優れるポリエステル系繊維製品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は衛生性に優れるポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維製品の加工法、更に詳しくはポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維組織内に殺菌剤を固定化して該繊維に衛生性を持たせる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
靴下、肌着、スポーツ衣料、寝具等は使用者の皮膚よりの分泌物、汗、皮膚の剥離物等が付着し、これらが栄養源となって細菌、ダニ等の微生物が繁殖する良好な培地となり、微生物の生産物によって不快感を発生し、場合によっては皮膚病等の感染原因ともなる。また、蒲団、敷物、カーテン、壁布地等は保管の際や湿度の高い場所で使用する場合等に黴が発生して繊維の劣化汚染等による品位の低下がおこる。
【0003】
繊維製品を細菌、ダニ等の微生物や黴から保護して衛生的に保ち、また品位を良好に維持する目的で繊維製品に殺菌剤を固着させる試みがなされ、今までに幾つかの方法が実施されている。最も一般的には殺菌剤を含む液に繊維製品を浸漬或いは噴霧する方法が、更に殺菌剤の固着を強力にする方法として、例えば、殺菌性第4級アンモニュウム塩の分子の一部を有機シリコン化合物を介して繊維分子の一部に結合する方法、或いは有機塩素化合物等の殺菌性化合物を展開性のよい合成樹脂で繊維表面に被覆接着して固定化する方法、或いは無機金属(銀系など)を繊維中に練込む方法、或いは繊維物質の組成中に有機金属化合物を結合させて抗菌性を持たせる方法などが知られている。
【0004】
しかしこれらの対象として用いられる繊維は専ら木綿、毛、絹、アセテート、アクリル系、ポリアミド系、塩化ビニール系、ポリウレタン系等である。
【0005】
これらの物質は原則として繊維構成分子中に第三物質分子と化学的または物理的に結合する性能を有する官能基を持ているか又は改質によりこのような官能基を導入したもの、或いは繊維表面の物性が合成樹脂接着剤との親和性に優れたものである。
【0006】
また、一般に繊維との親和性が高いカチオン活性剤系殺菌剤を付着させることも行われているが耐久性に問題がある上に、塵埃を吸着して汚れ現象が目立つ欠点があるとされている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維は、接着剤との親和性が悪いため接着剤併用による殺菌剤固定も不十分であり、繊維仕上げ行程の処理条件に耐え、繊維本来の風合をそこなわず、また十分な耐光性と耐洗濯性を備え、かつ長期間効力を持続し得るポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維の衛生加工方法は知られていなかった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者はポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維製品に良好な衛生性を付与する方法につき、種種検討し、ポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維を形成する鎖状高分子の集合体の間隙に殺菌剤を侵入させて固定化させることを試み、耐光、耐洗濯性に優れ、長期間殺菌高価を持続させる本発明の衛生加工法に到達した。すなわち本発明は、リン含有エステル形成性化合物を共重合した変性ポリエステル系繊維製品に殺菌剤または殺菌剤を含む昇華性染料を付与した転写紙を用いて170〜210℃下で転写捺染することで殺菌剤を繊維製品に固着することを特徴とする衛生性に優れるポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維製品の加工法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明方法の対象としては織編物、不織布等、その他の転写捺染可能な全てのポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維製品が含まれる。
【0010】
本発明の方法に用いる変性ポリエステル系繊維としては、化1や化2に示したリン含有エステル形成性化合物を練込みあるいは共重合した難燃性ポリエステル繊維
【化1】
(式中、R1は1価のエステル形成性官能基であり、R2、R3は同じかまたは異なる基であって、それぞれハロゲン原子、炭素原子数1〜10の炭化水素基、R1より選ばれ、Aは2価もしくは3価の有機残基を表わす。またn1は1または2、n2、n3、はそれぞれ0〜4の整数を表わす。)、
カチオン可染性エステル形成性化合物を共重合したカチオン可染ポリエステル繊維、イソフタル酸を共重合した高収縮ポリエステル、ポリエチレングリコールを練込みあるいは共重合した常圧可染ポリエステル繊維、その他の変性ポリエステル系繊維が含まれる。
【0011】
【化2】
【0012】
本発明の衛生性に優れるとは、抗菌性、防臭性、防黴性など微生物から生活環境を衛生的に保つのに優れていることを意味する。
【0013】
本発明の方法に用いる殺菌剤としては親水性の強いもの、着色性のあるもの、臭気または刺激の強いもの、昇華性の強いもの、日光に照射されると変質するもの、毒性が強いもの、塩素を含むもの等を除いてほとんどのものが適用できるが、特に染色不良、退色促進、染料滲出、移染、黄変、異臭等による繊維製品の品位低下を起こさない好ましい殺菌性化合物の例としては、3−メチル−4−イソプロピルフェノール(3M4P)、チモール、p−オキシ安息香酸アルキルエステル(アルキルはメチル、エチル、n−およびiso−プロピル、n−およびsec−またはter−ブチル、ペンチル等)、 グルセリンモノ脂肪酸エステル(脂肪酸はカブリル酸、カブリン酸、ラウリン酸等)、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール(TBZ)、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール(MBC)、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール、4′−n−ドデシルベンゼンスルホン酸塩(MBC-S)、10,10′−オキシビスフェノキシアルシン、8−オキシキノリン銅、キャプタン、ダイホルタン等が挙げられ、2種以上混合してもよく、特に、3M4Pがその加工性、耐久性、安全性等の特性が良く、抗菌剤として好ましい。
【0014】
本発明方法による繊維加工方法は被処理繊維製品に殺菌剤、または、殺菌剤を含む昇華性染料を付与した転写紙を用いて両面転写捺染して浸透固着させる方法である。この場合処理温度170〜210℃、処理時間20〜70秒から選ばれた条件で処理される。なお、本法では常圧で高温で処理されるので処理温度において蒸気圧が低い殺菌性化合物を選ぶ必要がある。
【0015】
また本発明に係る転写捺染は少なくとも片面、好ましくは両面の転写捺染であり、その両面転写捺染布帛の製造方法は、転写紙に付与された昇華性染料を布帛の両面に昇華転写する方法において、第1の転写紙を前期布帛の片面側に重ね合せ、且つ第2の転写紙を前記布帛の他面側に重ね合せて、少なくとも3層の積層構造とし、該積層構造の両面から圧し付けた状態で加熱して、前記第1、2の転写紙の夫々の昇華性染料を前記布帛の夫々の面に昇華移行させるものである。
【0016】
いずれの方法においても殺菌性化合物が繊維の重量に対して殺菌剤の殺菌効力に応じて0.001〜2.0%の範囲内の所定量以上が繊維内に取り込まれることが必要で、処理方法、使用殺菌剤に応じた有効率(殺菌剤を含む水溶液中の殺菌性化合物が繊維中に取り込まれる割合)を実験的に確認して実際に必要な殺菌剤量が決定される。
【0017】
本発明の方法はポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維の鎖状高分子の集合体の間隙に適切な殺菌性化合物を侵入させて安定に固定化させたもので、効力は長期間安定に持続し優れた耐洗濯性を示す。本発明方法で処理されたポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維製品は風合の劣化、撥水性や塵埃吸着性の付与その他変性ポリエステル系繊維の持つ特性(難燃性、カチオン可染性、高収縮性、分散常圧可染性等)を損なう性質が発現することはない。また、吸着された殺菌剤有効成分は究めて微量に抑制されており安全性が高い。
【0018】
また、汎用ポリエステル繊維に対し、変性ポリエステル系繊維は、鎖状高分子の集合体の間隙が多く存在し、そのために殺菌性化合物の固定化率が高く、殺菌性化合物の使用量を極力削減し、廃水中に含まれて排出される殺菌性化合物を最小限に止めることが出来る。
【0019】
【実施例】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に制約されるものではない。なお、実施例中「%」とあるは特に断りない限り「重量%」を示す。
【0020】
実施例1
1.殺菌剤
3−メチル−4−イソプロピルフェノール(3M4P)
イルガサンDP-300
2.供試布
変性ポリエステル系布(化1のリン化合物を5モル%共重合した難燃性ポリエステル布)
汎用ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)布
【0021】
3.処理条件
前記殺菌剤を含む昇華性染料を付与した転写紙を用いて所定の温度及び時間で供試布を両面転写捺染処理した。 次に還元洗浄〔処理条件;ハイドロサルファイト2g/l、ソーダ灰1g/l70℃、10分間〕を行い風乾した。
4.吸着量分析
供試繊維1gをジクロロメタン50mlに浸漬して超音波振動を与えながら20分間抽出した後ジクロロメタン層を採る。この作業を2回繰り返した後ジクロロメタン層を合わせジクロロメタンを留去した後エタノールで20mlとしてガスクロマトグラフ法により定量した。
5.分析結果
【0022】
【表1】
本発明の方法による試験No1〜4は殺菌性化合物が検出されたが、対照の温度では検出されなかった(殺菌剤が繊維に吸着されていなかったことが示された。)
また、汎用ポリエステル繊維に対し、変性ポリエステル系繊維の殺菌性化合物吸着量は、約2倍であった。
【0023】
実施例 2
1.供試布
試験No.1〜8はそれぞれ実施例1の試験No.1〜8で処理した変性、及び汎用ポリエステル系布を使用した。各試験布はさらにJAFET標準洗剤を使用し、 JIS L 0217 103号(制菌加工繊維製品一般用途の洗濯方法)により10回洗濯をし、また、 JAFET標準配合洗剤を使用し、厚生省令第13号に準拠(制菌加工繊維製品特定用途の洗濯方法)により50回洗濯を行い抗菌試験に供した。
【0024】
2.抗菌能力試験
黄色ぶどう球菌(ATCC6538P)、肺炎桿菌(ATCC4352)、MRSA(IID1677)を供じて、抗菌能力試験方法としては、JIS L1902-1998準じて実施した。抗菌性は下記式による殺菌活性値で評価する。数値の高いものほど抗菌性に優れている。
殺菌活性値 logA-logC
但し、試験成立条件(logB-logA)>1.5を満たす。
A;未加工標準布の接種直後に回収した菌数の平均値
B;未加工標準布の18時間培養直後に回収した菌数の平均値
C;加工布の18時間培養直後に回収した菌数の平均値
試験結果−1黄色ぶどう球菌(ATCC6538P)
【0025】
【表2】
試験結果−2肺炎桿菌(ATCC4352)
【0026】
【表3】
試験結果−3MRSA(IID1677)
【0027】
【表4】
本発明の方法による供試布は明らかに抗菌効果が認められ、耐洗濯性も優れている。対照は抗菌剤が吸着しておらず抗菌性はまったく認められない。
【0028】
実施例3
1.供試布
試験No.1〜8はそれぞれ実施例1の試験No.1〜8で処理した変性、及び汎用ポリエステル系布を使用した。
2.抗菌効果試験
アスペルギルス ニゲル(A.niger)ATCC6275、ペニシリウム シトリヌム(P.citrinum)ATCC9849、ケトミウム クロボサム(C.globosum)ATCC6205およびミロテシウム ベルカリア(M.verrucaria)USDA1334.2を供試してJIS Z 2911-1976繊維製品のかび抵抗性試験方法ー湿式法に準じて実施した。
試験結果
【0029】
【表5】
(注) かび抵抗性値
〔3〕 試験片上に菌糸の発育が認められない。
〔2〕 試験片上に菌糸の発育面積が1/3以下。
〔1〕 試験片上に菌糸の発育面積が1/3以上。
本発明の方法による試験No1〜4の供試布はいずれも良好な防黴効果を示した。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、バインダー樹脂等による風合の硬化がなく、洗濯耐久性が高く、衛生性に優れるポリエステルおよび変性ポリエステル系繊維であるので、家庭用はもちろん、医療機関並びにそれに準ずる施設用として、衣料品(白衣、寝巻など)、寝装品(敷布、布団側地など)、インテリア製品(カーテンなど)、雑貨品(マット、カバーなど)など広範囲な用途に使用することができる。
Claims (2)
- リン含有エステル形成性化合物を共重合した変性ポリエステル系繊維製品に殺菌剤または殺菌剤を含む昇華性染料を付与した転写紙を用いて170〜210℃下で転写捺染することにより殺菌剤を繊維製品に固着することを特徴とする衛生性に優れるポリエステル系繊維製品の製造方法。
- 前記の殺菌剤が塩素を含有しない有機系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の衛生性に優れるポリエステルまたは変性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
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