JP3961244B2 - 浮遊粒子状物質の測定方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、大気中に存在する浮遊粒子状物質の粒度分布を測定する方法および装置に関し、更に詳しくは、浮遊粒子状物質の粒度分布を広い粒度範囲にわたって高分解能のもとに測定することのできる浮遊粒子状物質の測定方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
大気中に浮遊している粉じんのうち、粒径が10μm以下のものは浮遊粒子状物質(SPM)と称される。この浮遊粒子状物質は、巻き上げられた土なども含まれるが、ディーゼル車が排出する黒煙や未燃焼燃料、硫黄化合物などが多くを占め(関東では35%がディーゼル車からのもの)、これらは有害性もより高いと言われている。このディーゼル車からの排気ガスが原因の粒子状物質は、特にDEPと称される。また、より粒径の小さい2.5μm以下のものは微小粒子状物質(PM2.5)と称され、欧米では調査・研究が盛んになってきている。このPM2.5の場合、その排出原因はディーゼル車の排ガスである割合がより高くなると言われている。
【0003】
以上のような大気中の浮遊粒子状物質(SPM)や微小粒子状物質(PM2.5)の粒度分布を測定する装置として、従来、カスケードインパクタ方式に基づく装置が実用化されている。このカスケードインパクタ方式に基づく測定装置は、流体を捕集板に衝突させてその流れの方向を急変させることによって粒子を流体から分離するインパクタ法を利用したものであり、50%捕集効率の粒径を順次変化させたインパクタを多段に直列接続して、各段における50%捕集効率の粒径をそれぞれの段の代表径として、それぞれの段における捕集量の測定結果から、流体中の粒度分布を求めるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、SPMやPM2.5の測定に供されているカスケードインパクタ方式に基づく測定装置においては、その原理上、粒径の測定上限値が10μm程度に限定されてしまうという問題があるとともに、粒径の分解能が捕集板の数によって決まってしまうために、高い分解能で粒度分布を測定することは望めないという欠点もある。
【0005】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたもので、大気中の浮遊粒子状物質(SPM)や微小粒子状物質(PM2.5)の粒度分布を、粒子径10μm以上を含むより広い粒径範囲において高い分解能のもとに測定することのできる浮遊粒子状物質の測定方法および装置の提供を目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の浮遊粒子状物質の測定方法は、大気中に含まれる浮遊粒子状物質を測定する方法であって、大気をポンプにより吸引してフィルタに供給することによって当該フィルタに大気中の浮遊粒子状物質を付着させて捕集するとともに、その浮遊粒子状物質が付着したフィルタに対し、当該フィルタに液体を染み込ませて光学的に透明化した状態で、レーザ光を照射して得られる回折・散乱光の空間強度分布を測定し、その測定結果から浮遊粒子状物質の粒度分布を求めることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0007】
また、本発明の浮遊粒子状物質の測定装置は、上記した本発明方法を用いて大気中に含まれる浮遊粒子状物質を測定する装置であって、大気中の浮遊粒子状物質を付着させるためのフィルタと、大気を吸引してそのフィルタに供給するポンプと、大気の供給により浮遊粒子状物質が付着したフィルタに液体を染み込ませて透明化した状態で保持する保持手段と、その保持手段により保持されているフィルタに対してレーザ光を照射する照射光学系と、そのレーザ光のフィルタに付着している浮遊粒子状物質による回折・散乱光の空間強度分布を測定する測定光学系と、その測定された回折・散乱光の空間強度分布からフィルタに付着している浮遊粒子状物質の粒度分布を算出する演算手段を備えていることによって特徴づけられる(請求項2)。
【0008】
ここで、以上の各請求項において言うポンプとは、大気を吸引して圧送できる空気機械を言い、具体的には圧縮機もしくは送風機である。
【0009】
また、本発明において、浮遊粒子状物質を付着させるフィルタと、そのフィルタを光学的に透明化する液体としては、メンブレンフィルタと、そのメンブレンフィルタと略同等の屈折率を有するイマージョンオイルなどを好適に採用することができる。
【0010】
本発明は、広い粒径範囲において高い分解能のもとに粒度分布を測定することのできるレーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定を、大気中の浮遊粒子状物質の粒度分布の測定に利用するとともに、その利用に当たって、レーザ光の照射時に十分な強度の回折・散乱光が得られるように、直接的に大気中の浮遊粒子状物質に対してレーザ光を照射するのではなく、浮遊粒子状物質を効率的にフィルタで捕集して付着させ、そのフィルタを液体を用いて光学的に透明化した状態でレーザ光を照射することによって、所期の目的を達成しようとするものである。
【0011】
すわなち、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置においては、一般に、分散状態の被測定粒子群にレーザ光を照射して得られる回折・散乱光の空間強度分布を測定し、その光強度分布がミーの散乱理論ないしはフラウンホーファの回折理論に則ることを利用し、回折・散乱光の空間強度分布の測定結果からミーの散乱理論ないしはフラウンホーファの回折理論に基づく演算によって被測定粒子群の粒度分布を求める。このレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置装置によれば、被測定粒子群を適度な濃度範囲で媒体中に分散させることによって、広い粒径範囲において高い分解能で粒度分布を求めることができる。すなわち、濃度が低すぎると回折・散乱光の空間強度分布を正確に測定することができず、また、濃度が高すぎると多重散乱などを生じて正確な空間強度分布の測定ができない。
【0012】
ここで、大気中の浮遊粒子状物質に直接的にレーザ光を照射して回折・散乱光を測定しようとしても、大気中における浮遊粒子状物質の濃度が低すぎる関係上、粒度分布を求めるに十分な回折・散乱光を得ることができない。
【0013】
そこで、本発明においては、大気をポンプによって吸引してフィルタに供給することにより、大気中に含まれている浮遊粒子状物質をそのフィルタに付着させて捕集し、その浮遊粒子状物質が付着したフィルタを、液体を用いて光学的に透明化した状態でレーザ光を照射して回折・散乱光を測定する。フィルタに付着する浮遊粒子状物質の密度を、レーザ回折・散乱光の空間強度分布の正確な測定が可能な範囲とすることによって、通常のレーザ回折・散乱式の粒度分布測定と同等の広い粒子径範囲、つまりサブミクロンオーダーから10μmを越える広い粒子径範囲において、高い分解能のもとに浮遊粒子状物質の粒度分布を求めることができる。
【0014】
また、本発明においては、大気をポンプで吸引してフィルタに供給することによって、このフィルタに大気中に含まれている浮遊粒子状物質を付着させて捕集するので、ポンプの流量とその駆動時間によってフィルタに供給した大気の量を容易に把握することができ、かつ、フィルタを適宜に選定することによって、ポンプから供給された大気中の浮遊粒子状物質をほぼ漏れなく捕集することができ、従って一定量の大気中に存在する浮遊粒子状物質の粒子径ごとの量を簡単に割り出すことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図であり、光学的構成並びに機械的構成を表す模式図と、電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0016】
フィルタ1は、この例においてサブミクロンの細孔径を有するメンブレンフィルタであって、基体21とその基体21に対して着脱自在の蓋体22とからなるフィルタ保持部材2の内部に保持され、このフィルタ保持部材2の内部を上下に仕切っている。フィルタ保持部材2の基体21および蓋体22は、それぞれフィルタ1を保持する大径部21a,22aと小径の開口部21b,22bを備えた漏斗状の形状を有しており、基体21の開口部21bはポンプ(捕集用圧縮機)3の吸引口に連通しているとともに、蓋体22の開口部22bは大気に開放されて大気の流入口を形成している。
【0017】
以上の構成において、ポンプ3を駆動すると、大気が開口部22bを介してフィルタ保持部材2の内部に吸引され、フィルタ1を通過した後に開口部21bを介してポンプ3の吸引口に吸引される。このとき、大気中に存在する浮遊粒子状物質Pは、細孔径がサブミクロンオーダーのメンブレンフィルタを用いたフィルタ1を通過する際に、ほぼその全量が付着して捕集される。
【0018】
適宜量の浮遊粒子状物質Pが付着したフィルタ1は、フィルタ保持部材2から取り出されて、当該フィルタ1と同じ屈折率を持つイマージョンオイルが染み込まされ、これによってフィルタ1が透明化される。
【0019】
浮遊粒子状物質Pが付着し、かつ、透明化されたフィルタ1は、例えば2枚の透明なガラス板41a,41bとその支持材42からなるフィルタ保持具40によって保持された状態で、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置50の回折・散乱光の測定に供される。すなわち、浮遊粒子状物質Pが付着し、かつ、イマージョンオイルの染み込みにより透明化されたフィルタ1は、2枚のガラス板41a,41bの間に挟み込まれた状態で、その全体が鉛直方向に沿うように支持具42で支持されて、水平方向からレーザ光が照射されるレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置50の測定位置に配置される。
【0020】
レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置50は、フィルタ保持具40によって鉛直方向に沿うように保持されたフィルタ1に対して水平の光軸に沿ったレーザ光を照射する照射光学系51と、その照射光学系51からのレーザ光の回折・散乱光の空間強度分布を測定する測定光学系52と、その測定光学系52の出力をサンプリングするデータサンプリング回路53、およびそのデータサンプリング回路53によりサンプリングされた回折・散乱光の空間強度分布データを用いて、フィルタ1に付着している浮遊粒子状物質Pの粒度分布を算出するコンピュータ54を主体として構成されている。
【0021】
照射光学系51は、レーザ光源51a、集光レンズ51b、空間フィルタ51c、コリメートレンズ51dによって構成され、レーザ光源51aから出力されたレーザ光を平行光束としてフィルタ保持具40に保持され、かつ、透明化されたフィルタ1に照射する。このフィルタ1に照射されたレーザ光は、当該透明化されたフィルタ1に付着している浮遊粒子状物質Pにより回折・散乱を受ける。この回折・散乱光の空間強度分布は測定光学系52によって測定される。
【0022】
測定光学系52は、照射光学系51の光軸上にフィルタ1を挟んで配置された集光レンズ52aおよびリングディテクタ52bと、その外側に配置された前方広角度散乱光センサ群52cと、フィルタ1の側方および後方(照射光学系51側)に配置された側方/後方散乱光センサ群52dによって構成されている。リングディテクタ52bは、互いに異なる半径のリング状または1/2リング状もしくは1/4リング状の受光面を有する光センサを同心上に配置した光センサアレイであって、集光レンズ52aにより集光された前方所定角度以内の回折・散乱光の強度分布を検出することができる。従って、これらのセンサ群からなる測定光学系52により、フィルタ1に付着している浮遊粒子状物質Pによる回折・散乱光の空間強度分布が、前方微小角度から後方に至る広い範囲で測定される。
【0023】
以上の測定光学系52による各回折・散乱角度ごとの光強度検出信号は、それぞれのアンプ並びにA−D変換器を有してなるデータサンプリング回路53によって増幅された上でデジタル化され、回折・散乱光の空間強度分布データとしてコンピュータ54に取り込まれる。
【0024】
コンピュータ54では、その回折・散乱光の空間強度分布を用いて、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定において公知の、ミーの散乱理論およびフラウンホーファの回折理論に基づく演算手法により、レーザ光が回折・散乱した原因粒子である浮遊粒子状物質Pの粒度分布を算出する。
【0025】
以上の構成において、ポンプ3の単位時間当たりの流量とその駆動時間から、フィルタ1に供給した大気の総量を把握することができ、このフィルタ1に供給する空気の総量を適宜に設定することにより、フィルタ1に付着する浮遊粒子状物質Pの密度を、測定光学系52によって十分に回折・散乱光の空間強度分布を測定できる程度とすることができる。
【0026】
このレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置50による粒度分布の測定によれば、サブミクロンオーダーから10μmを越える広い粒径範囲において高い分解能でその粒度分布の測定が可能である。
【0027】
また、以上のように所定量の大気をフィルタ1に供給して浮遊粒子状物質Pを当該フィルタ1に付着させ、その付着させたフィルタ1をイマージョンオイルなどによって透明化してレーザ光を照射し、その回折・散乱光の空間強度分布を測定して粒度分布を求めてそのフィルタ1を廃棄した後、または同時に、フィルタ保持部材2に新たなフィルタ1をセットして上記と同様にそのフィルタ1に大気を供給して浮遊粒子状物質Pを付着させ、透明化したうえで次回の回折・散乱光の空間強度分布の測定を行う、という動作を一定時間ごとに繰り返し行えば、連続的に大気中に浮遊粒子状物質Pの状況を監視することができる。
【0028】
更に、各回の測定動作においてフィルタ1に供給する大気の総量を一定とすると、その各回の測定において得られる回折・散乱光の絶対強度は、大気中の浮遊粒子状物質Pの濃度に相関するので、その絶対強度の変化から大気中の浮遊粒子状物質Pの濃度の経時的変化を監視することができる。
【0029】
更にまた、フィルタ1の単位面積中に付着する個数が既知の標準粒子を用いてキャリブレーションを行っておけば、実際の測定時にフィルタ1に供給された大気の総量と、そのフィルタ1にレーザ光を照射して得られた回折・散乱光の空間強度分布とから、単位体積の大気に含まれる浮遊粒子状物質Pの粒度分布と、その各粒子径の粒子の個数との関係を計算することもできる。
【0030】
なお、フィルタ1に大気中を供給して浮遊粒子状物質Pを付着させるに当たって当該フィルタ1を保持するフィルタ保持部材2の構造については、以上の実施の形態で用いたものに限られることなく、吸引した大気を余すところなくフィルタ1に導くことができさえすれば、任意の構造のものを用いることができる。
【0031】
また、以上の実施の形態においては、フィルタ1としてメンブレンフィルタを用いるとともに、そのフィルタ1を透明化するのにイマージョンオイルを用いた例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、サブミクロンオーダーから10μmを越える粒子を付着させることができ、また、適宜の液体により透明化することのできるフィルタであれば任意のものを用いることができる。
【0032】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、ポンプによって大気をフィルタに供給し、そのフィルタに対して大気中に含まれている浮遊粒子状物質を付着させ、その浮遊粒子状物質が付着したフィルタを液体によって透明化した状態でレーザ光を照射することにより、フィルタに付着している浮遊粒子状物質による回折・散乱光の空間強度分布を測定し、その測定結果からレーザ回折・散乱式粒度分布測定の原理に基づいて浮遊粒子状物質の粒度分布を求めるので、従来のカスケードインパクタによる粒度分布の測定に比して、粒子径の分解能を大幅に向上させることができると同時に、10μm以上の粒径範囲の粒度分布をも測定することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の構成図であり、光学的構成並びに機械的構成を表す模式図と、電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【符号の説明】
1 フィルタ
2 フィルタ保持部材
21 基体
22 蓋体
21a,22a 大径部
21b,22b 開口部
3 ポンプ
40 フィルタ保持具
41a,41b ガラス板
42 支持材
50 レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置
51 照射光学系
52 測定光学系
53 データサンプリング回路
54 コンピュータ
P 浮遊粒子状物質
Claims (2)
- 大気中に含まれる浮遊粒子状物質を測定する方法であって、大気をポンプにより吸引してフィルタに供給することによって当該フィルタに大気中の浮遊粒子状物質を付着させて捕集するとともに、その浮遊粒子状物質が付着したフィルタに対し、当該フィルタに液体を染み込ませて光学的に透明化した状態で、レーザ光を照射して得られる回折・散乱光の空間強度分布を測定し、その測定結果から浮遊粒子状物質の粒度分布を求めることを特徴とする浮遊粒子状物質の測定方法。
- 大気中に含まれる浮遊粒子状物質を測定する装置であって、大気中の浮遊粒子状物質を付着させるためのフィルタと、大気を吸引してそのフィルタに供給するポンプと、大気の供給により浮遊粒子状物質が付着したフィルタに液体を染み込ませて透明化した状態で保持する保持手段と、その保持手段により保持されているフィルタに対してレーザ光を照射する照射光学系と、そのレーザ光のフィルタに付着している浮遊粒子状物質による回折・散乱光の空間強度分布を測定する測定光学系と、その測定された回折・散乱光の空間強度分布からフィルタに付着している浮遊粒子状物質の粒度分布を算出する演算手段を備えていることを特徴とする浮遊粒子状物質の測定装置。
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