JP3952423B2 - ガス発生剤組成物 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、エアバッグ用ガス発生剤に関するもので、特に、発生ガス中の有害なCO(一酸化炭素)含有量が極めて低く、且つ有害なNOx(NO,NO2 等の窒素酸化物)の発生を理論上無視でき、又、水分(水蒸気)の影響をも無視でき、更に、取扱い上も安全であり、加えて、外部環境、特に温度変化による燃焼挙動の変化の少ない理想的なガス発生剤組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のエアバッグ用ガス発生剤は、アジ化ナトリウム,アジ化カリウムに代表されるアジ化金属化合物を燃料成分とするものが一般的である。このガス発生剤は、瞬時に燃焼し且つ燃焼ガス成分が実質的に窒素のみであり、COやNOx等の有害ガスを発生させない事、及び燃焼温度が周囲の環境の影響、即ち、ガス発生器の構造の影響を受け難いのでガス発生器の設計が容易な事、等々の利点から代表的なガス発生剤として用いられている反面、重金属との反応によって生じたアジ化物は、衝撃や摩擦によって容易に爆発する性質を有しており、取扱いには最大限の注意が必要であった。又、アジ化金属化合物自体が有害物質であり、更に、水や酸の存在下では、分解して有害ガスを発生するという安全面に大きな問題を抱えていた。
【0003】
そこで、係る安全性の問題から、アジ化金属化合物に代わる安全なガス発生剤の開発・実用化の機運が高まり、その代替候補として、例えば特開平2−225159号公報,特開平2−225389号公報,特開平3−20888号公報,特開平5−213687号公報,特開平6−80492号公報,特開平6−239684号公報及び特開平6−298587号公報等々に、テトラゾール類、アゾジカルボンアミド類その他の含窒素有機化合物を燃料成分とするガス発生剤が提案されている。
【0004】
一方、既存の推進薬を応用した代替候補としては、例えば、特開平6−219882号公報,米国特許5531941号,米国特許5545271号,特開平8−225388号公報及び特開平9−118194号公報等によって、ニトラミン(RDX),シクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX),ニトロセルロース等の推進薬系燃料が提案されており、又、硝酸アンモニウム或いは過塩素酸アンモニウムを酸化剤成分として用いる方法を適用したガス発生剤等が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、含窒素有機化合物を燃料成分として使用した場合には、これらの化合物は、N(窒素)とC(炭素)とを主要骨格元素として含有している関係上、NOx等の有害ガスの発生を無視する事はできず、特に、COが同時に発生ガス中に併生する場合は、両者の抑制を非毒性のレベルまで低減させることは実際上困難である。
【0006】
又、高いガス化率が期待できる推進薬系ガス発生剤の場合は、燃料成分の耐熱性欠如による経時劣化や発生ガス中のCO濃度が高くなる等の問題が内在し、加えて、酸化剤として硝酸アンモニウムや過塩素酸アンモニウムといった高ガス化率が期待できる成分を用いると、発生ガス中の水分(水蒸気)含有量が増加するため、その影響が無視できなくなる。即ち、発生ガス中の水蒸気の凝縮量の変化による有効ガス量の変化を無視できなくなり、ガス発生器作動によるエアバッグ展開時の外部環境、特に外気温度の影響を受け易くなって、温度差によるエアバッグ展開挙動の変化が大きくなるといった問題が潜在している。
【0007】
又、最近では、特開平8−40793号公報に開示されている炭素,水素及び酸素からなる有機化合物を燃料成分として用い、窒素を含有しない酸化剤及び金属酸化剤等を組み合わせたガス発生剤組成物が提案されている。この公報における実施例では、確かに窒素由来のアンモニアやNOxといった有害ガスは発生せず、有害ガスとして約3000ppmのCOしか生じていない結果となっているが、発生ガス中の水分(水蒸気)の影響は理論上、無視できないレベルにあり、温度差によるバッグ展開挙動の変化が起こり得る可能性が大いに考えられる。
【0008】
本発明は、係る含窒素有機化合物系燃料の実用化上問題となっている発生ガス中の有害なNOxの濃度を実用化上無視でき得るレベルまで低減させ、且つ同時に発生するCOの濃度を極端に低減させる事のできるガス発生剤組成物を提供する事を目的とし、更に、付随して発生するガス中の水分(水蒸気)の存在によるエアバッグ展開挙動変化が、外部環境、特に温度差の影響を受ける問題をも同時に改善し得る非アジ化金属化合物系の安全なガス発生剤組成物を提供する事をも目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明では、ガス発生剤の燃料成分として、窒素及び水素を含有せず、炭素と酸素のみから構成される環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩を採用するものであり、好ましい環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩としては、次の構造式で示されるデルタ酸,スクエア酸,クロコン酸及びロジソン酸のアルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属の金属塩の群から選ばれた1種以上を用いるものである。
【0010】
【化2】
【0011】
又、併用する酸化剤は、アルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属の酸化物,塩素酸塩,過塩素酸塩、硝酸塩及び過酸化物の群から選ばれる1種以上で構成され、又、種々の目的で添加する添加剤として、次の一般式で示されるヒドロタルサイト類や窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素,炭化アルミニウム,アルミナ,二酸化珪素,クレイ,タルク及び酸化硼素からなる群から選ばれる1種以上を適宜添加したものである。
〔M2+ 1-X M3+ X (OH)2 〕X+〔An- x/n ・mH2 O〕X-
ここで、M2+:Mg2+,Mn2+,Fe2+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+等の2価金属
M3+:Al3+,Fe3+,Cr3+,Co3+,In3+等の3価金属
An-:OH- ,F- ,Cl- ,NO3 - ,CO3 2- ,SO4 2- ,Fe(CN)6 3- ,CH3 COO- ,蓚酸イオン,サリチル酸イオン等のn価のアニオン
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明のガス発生剤組成物の基本構成は、燃料成分と、これを燃焼させる酸化剤と適宜添加される添加剤とからなる。先ず、燃料成分について説明すると、本発明で使用する燃料成分は、窒素及び水素を含有せず、炭素と酸素のみから構成される環状オキソカーボン系有機化合物のアルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属から選ばれた金属塩の1種以上であり、前述の構造式で示されるデルタ酸,スチエア酸,クロコン酸及びロジゾン酸の金属塩が代表的なものとして例示される。
【0013】
これらの環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩の内、特に、合成上安価に製造可能なロジゾン酸の金属塩が好ましく、その中でもカリウム塩が好ましい。このロジゾン酸の金属塩は、耐熱性においても良好で300℃まで安定であり、水に対して難溶性で、しかも吸湿し難い特徴を有している。毒性の点においても特公昭42−12413号公報に開示されている様に、ネズミに対する経口的毒性(LD50)は6000mg/kg以上を示しており、極めて毒性の低い物質である。因みに、アジ化ナトリウムでは27mg/kgであり、代表的な含窒素有機化合物である5−アミノテトラゾールでは2500mg/kg(マウスに対する値)である。この事例からもわかる様に、本発明で使用する環状オキソカーボン系有機化合物は、従来から使用されているアジ化化合物やテトラゾール系化合物に比して、安全性の面で優れた特徴を有している事が分かる。この燃料成分のガス発生剤中の含有量は、相対する酸化剤の種類により増減するが、25〜75重量%が好ましい。又、他の燃料成分、例えば、テトラゾール系化合物等の含窒素有機化合物等と混合して使用する事も可能である。
【0014】
次に、本発明のガス発生剤で使用する酸化剤について説明する。本発明で使用する酸化剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属又は遷移金属の硝酸塩,塩素酸塩,過塩素酸塩,酸化物及び過酸化物の群から選ばれた1種以上である。又、本発明の課題の1つであるNOxの発生量を無視し得るレベルまで低減させるためには、窒素を含有していない酸化剤を使用するのが好ましいが、燃焼挙動及びスラグの捕捉性との兼ね合いから、少量の窒素含有酸化剤である硝酸塩を他の酸化剤成分と混合して用いる態様もあり得る。又、酸化剤の含有量は、ガス発生剤全体に対して25〜75重量%が好ましい。
【0015】
次に、本発明のガス発生剤で使用する添加剤について説明する。本発明で使用する添加剤の1つに、次の一般式で示されるヒドロタルサイト類がある。
〔M2+ 1-X M3+ X (OH)2 〕X+〔An- x/n ・mH2 O〕X-
ここで、M2+:Mg2+,Mn2+,Fe2+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+等の2価金属
M3+:Al3+,Fe3+,Cr3+,Co3+,In3+等の3価金属
An-:OH- ,F- ,Cl- ,NO3 - ,CO3 2- ,SO4 2- ,Fe(CN)6 3- ,CH3 COO- ,蓚酸イオン,サリチル酸イオン等のn価のアニオン
このヒドロタルサイト類は、多孔質の物質であり、ガス発生剤のバインダとしては極めて有効である。即ち、ヒドロタルサイト類をバインダとして錠剤成形したガス発生剤は、低い打錠圧力で成形しても、高い硬度を得る事が可能であり、更に、このバインダを用いて成形した錠剤は、高温・低温の繰り返しによる熱衝撃に対しても錠剤の特性及び燃焼特性に変化がなく、従って、ガス発生器内に装填して車両に搭載した後の経年変化が少ない安定した性能のガス発生剤を得る事ができる。上記ヒドロタルサイト類の内、特開平5−879号公報に開示され、次の化学式:Mg6 Al2 (OH)16CO3 ・4H2 Oで表される合成ヒドロタルサイトが、価格面及び入手の容易性の面から特に好ましい。このヒドロタルサイト類の添加量は、ガス発生剤全体に対して、2〜8重量%が好ましい。
【0016】
他の添加剤としては、特開昭49−87583号公報及び米国特許4386979号に開示されているアルミナ,二酸化珪素,クレイ,タルク,酸化硼素或いは本発明の出願人に係る特願平8−359158号に記載されている窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素及び炭化アルミニウムの群からなるスラグ補集成分から選ばれた1種以上がある。これらの成分は、前記特願平8−359158号,特開昭49−87583号公報或いは米国特許4386979号に開示されている様に、前記燃料成分及び酸化剤由来のアルカリ金属,アルカリ土類金属或いは遷移金属等由来の燃焼残渣物であるスラグ成分を、より効率的に捕捉する能力を有している。このスラグ捕集成分の添加量は、ガス発生剤全体に対して、0.5〜10重量%が好ましい。
【0017】
ここで特に好ましい添加剤の組合せ組成としては、合成ヒドロタルサイト及び窒化珪素,二酸化珪素或いはクレイである。合成ヒドロタルサイトは、前述の通り、ガス発生剤のバインダとして極めて有効であり、又、窒化珪素,二酸化珪素或いはクレイといった珪素化合物は、前述の燃料成分及び酸化剤由来のスラグ成分に対して、高い捕集能力を有している。
【0018】
次に本発明のガス発生剤は、顆粒、錠剤或いはディスク状に成形して使用されるのが一般的である。特に錠剤或いはディスクを成形する際には、粉体の流動性を改善する目的で、例えばステアリン酸系の金属塩,二硫化モリブデン,窒化硼素或いはグラファイト等が添加されるが、ガス発生剤の燃焼の際に水蒸気の影響を無視するためには、水素を含有しない二硫化モリブデン,窒化硼素或いはグラファイトをガス発生剤全体に対して0.05〜1.0重量%添加するのが好ましい。
【0019】
【実施例】
以下に本発明の実施例について説明する。以下の実施例において、調合されたガス発生剤の特性は、1リットルタンクテストにより評価した。この1リットルタンクテストは、点火具が着脱自在に取付可能に構成されている内容積1リットルのステンレス製容器内に圧力センサを取付け、この容器中に、調製したガス発生剤ペレットを装填し、点火具によって着火させ、点火具の点火電流が流れてから圧力が発生するまでの着火時間を測定すると共に、発生圧力を測定するものである。発生ガスの分析は、ステンレス製容器の下部に設けてあるボールバルブから着火後すばやくテドラーバッグにガスを捕集し、検知管により成分濃度を測定した。尚、点火具はZWPP型スクイブ(ジルコニウム/タングステン/過塩素酸カリウム)と1.0グラムの伝火薬(ボロン/硝石)を用いた。又この1リットルタンクテストで得られた特性を示すグラフの典型例を第1図に示す。図1において、t1は着火時間であり、Pmax は最高圧力であり、tPmax −t1は最高圧力到達時間(tPmax )から着火時間(t1)を差し引いた時間を示している。
【0020】
〔実施例1〕
燃料成分として、環状オキソカーボン系有機化合物の1種であるロジゾン酸二カリウム塩を44.0%(重量%。以下同じ)と、酸化剤としての硝酸ストロンチウムを50.2%と、バインダとしての合成ヒドロタルサイトを2.9%とスラグ捕集成分としてのクレイを2.9%と、各々V型混合機により乾式混合しこの混合粉末に対して0.1%の二硫化モリブデンを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量115mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間熱処理を行った。得られた錠剤25gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0021】
〔実施例2〕
燃料成分としてのロジゾン酸二カリウム塩を45.3%と、酸化剤としての硝酸ストロンチウム27.0%及び過塩素酸カリウム22.1%と、バインダとしての合成ヒドロタルサイトを2.8%と、スラグ捕集成分としてのクレイ2.8%を、各々V型混合機により乾式混合し、この混合粉末に対して0.1重量%の二硫化モリブデンを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量115mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間、熱処理を行った。得られた錠剤25gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0022】
〔実施例3〕
燃料成分としてのロジゾン酸二カリウム塩を47.8%と、酸化剤としての過塩素酸カリウムを46.6%と、バインダとしての合成ヒドロタルサイトを2.8%と、スラグ捕集成分としてのクレイを2.8%とを各々V型混合機により乾式混合し、この混合粉末に対して0.1重量%の二硫化モリブデンを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量115mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間、熱処理を行った。得られた錠剤25gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0023】
【比較例】
比較例として、特開平5−117070号に開示されている実施例の組成と同一の組成を用いた。即ち、燃料成分としての5−アミノテトラゾールを31.1%と、酸化剤としての硝酸ストロンチウムを55.4%と、スラグ捕集成分としてのクレイ7.5%及び炭酸カリウム6.0%とを各々V型混合機により乾式混合し、この混合粉末に対して0.3%のステアリン酸マグネシウムを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量124mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間、熱処理を行った。得られた錠剤10gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0024】
図2から明らかな様に、本発明のガス発生剤によれば、最高圧力(Pmax )は60atm前後と従来のアミノテトラゾール系ガス発生剤の35atm程度に比べて非常に高い値を示しており、エアバッグの速やかな展開が期待できる事を意味している。又、着火時間(t1)は、両者に殆ど差異はない。一方、最高圧力到達時間(tPmax −t1)は、前記比較例に比して、本発明のものは総じて大きな値を示しているが、実用上は全く問題はない。従って図2からは、本発明のガス発生剤組成物は、実用上は全く問題ない燃焼特性を示している事が分かる。
【0025】
次に、燃焼ガス中の有害ガス成分の含有量を示す図3によると、本発明のガス発生剤の燃焼ガス中には、有害な塩化水素(HCl)やアンモニア(NH3 )を全く含まず、又、一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NO,NO2 )の含有量は無視し得るレベルである。これは、安全なガス発生剤として認知されているテトラゾール系ガス発生剤でも、COで800ppm,NOx(NO,NO2 )で900ppmも含有されている事を考慮すると、本発明のガス発生剤の安全性のレベルの高さが理解されよう。これらの有害ガスの発生量が少ない理由としては、先ず、NOx及びアンモニアについては、本発明の上記燃料成分は、窒素を含有していないので、この窒素由来のNOxやアンモニアが生成し得ない。但し、酸化剤として硝酸塩やアンモニウム塩を使用した場合(実施例1,2)には、多少の生成が認められるが、無視し得るレベルとなる。一方、COについては、燃料成分中に含有されている炭素由来の生成ガス(不完全燃焼ガス)であるが、本発明の燃料成分は、炭素と酸素からなる環状オキソカーボン系有機化合物であるので、従来の燃料成分に比して多量の酸素を保有している事から、不完全燃焼が生じ難い燃焼条件となっており、COの生成も極めて低いレベルに止まっている。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明から明らかな様に、本発明のガス発生剤によれば、従来の各種ガス発生剤に比して、種々の顕著な効果を期待できるものである。先ず、本発明のガス発生剤組成物で使用する燃料成分は、窒素及び水素を含まず、炭素と酸素のみからなる環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩を用いているので、窒素由来の主たる有害ガスであるNOx或いはアンモニアは基本的には生成せず、酸化剤としての硝酸塩由来の窒素からこれらが生成した場合でも、その生成量は極めて低く、事実上無視し得るレベルでしか発生しない。
【0027】
同時に、水素由来の発生ガスである水分(水蒸気)を全く生成しないので、エアバッグの展開時に、環境温度(モジュール温度)による水蒸気の凝縮度合いによって、エアバッグの展開挙動が変化を受ける虞れは皆無となり、環境温度に影響を受けない安定したエアバッグの展開挙動を実現する事が可能となる。
【0028】
又、本発明に係る前記燃料成分中の炭素に由来するCOの発生量も、従来から安全と認知されているテトラゾール系ガス発生剤よりも著しく少量しか生成しないので、その安全性は、飛躍的に向上する事になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】1リットルタンクテストにおける時間(t)とタンク内圧力(P)との関係を示すP−t線図である。
【図2】1リットルタンクテストにおける各実施例と比較例の燃焼特性を示す表である。
【図3】1リットルタンクテストにおける各実施例と比較例の燃焼ガス中の有害成分の分析値を示す表である。
【符号の説明】
Pmax 最高圧力
t1 着火時間
tPmax −t1 最高圧力到達時間
【発明が属する技術分野】
本発明は、エアバッグ用ガス発生剤に関するもので、特に、発生ガス中の有害なCO(一酸化炭素)含有量が極めて低く、且つ有害なNOx(NO,NO2 等の窒素酸化物)の発生を理論上無視でき、又、水分(水蒸気)の影響をも無視でき、更に、取扱い上も安全であり、加えて、外部環境、特に温度変化による燃焼挙動の変化の少ない理想的なガス発生剤組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のエアバッグ用ガス発生剤は、アジ化ナトリウム,アジ化カリウムに代表されるアジ化金属化合物を燃料成分とするものが一般的である。このガス発生剤は、瞬時に燃焼し且つ燃焼ガス成分が実質的に窒素のみであり、COやNOx等の有害ガスを発生させない事、及び燃焼温度が周囲の環境の影響、即ち、ガス発生器の構造の影響を受け難いのでガス発生器の設計が容易な事、等々の利点から代表的なガス発生剤として用いられている反面、重金属との反応によって生じたアジ化物は、衝撃や摩擦によって容易に爆発する性質を有しており、取扱いには最大限の注意が必要であった。又、アジ化金属化合物自体が有害物質であり、更に、水や酸の存在下では、分解して有害ガスを発生するという安全面に大きな問題を抱えていた。
【0003】
そこで、係る安全性の問題から、アジ化金属化合物に代わる安全なガス発生剤の開発・実用化の機運が高まり、その代替候補として、例えば特開平2−225159号公報,特開平2−225389号公報,特開平3−20888号公報,特開平5−213687号公報,特開平6−80492号公報,特開平6−239684号公報及び特開平6−298587号公報等々に、テトラゾール類、アゾジカルボンアミド類その他の含窒素有機化合物を燃料成分とするガス発生剤が提案されている。
【0004】
一方、既存の推進薬を応用した代替候補としては、例えば、特開平6−219882号公報,米国特許5531941号,米国特許5545271号,特開平8−225388号公報及び特開平9−118194号公報等によって、ニトラミン(RDX),シクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX),ニトロセルロース等の推進薬系燃料が提案されており、又、硝酸アンモニウム或いは過塩素酸アンモニウムを酸化剤成分として用いる方法を適用したガス発生剤等が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、含窒素有機化合物を燃料成分として使用した場合には、これらの化合物は、N(窒素)とC(炭素)とを主要骨格元素として含有している関係上、NOx等の有害ガスの発生を無視する事はできず、特に、COが同時に発生ガス中に併生する場合は、両者の抑制を非毒性のレベルまで低減させることは実際上困難である。
【0006】
又、高いガス化率が期待できる推進薬系ガス発生剤の場合は、燃料成分の耐熱性欠如による経時劣化や発生ガス中のCO濃度が高くなる等の問題が内在し、加えて、酸化剤として硝酸アンモニウムや過塩素酸アンモニウムといった高ガス化率が期待できる成分を用いると、発生ガス中の水分(水蒸気)含有量が増加するため、その影響が無視できなくなる。即ち、発生ガス中の水蒸気の凝縮量の変化による有効ガス量の変化を無視できなくなり、ガス発生器作動によるエアバッグ展開時の外部環境、特に外気温度の影響を受け易くなって、温度差によるエアバッグ展開挙動の変化が大きくなるといった問題が潜在している。
【0007】
又、最近では、特開平8−40793号公報に開示されている炭素,水素及び酸素からなる有機化合物を燃料成分として用い、窒素を含有しない酸化剤及び金属酸化剤等を組み合わせたガス発生剤組成物が提案されている。この公報における実施例では、確かに窒素由来のアンモニアやNOxといった有害ガスは発生せず、有害ガスとして約3000ppmのCOしか生じていない結果となっているが、発生ガス中の水分(水蒸気)の影響は理論上、無視できないレベルにあり、温度差によるバッグ展開挙動の変化が起こり得る可能性が大いに考えられる。
【0008】
本発明は、係る含窒素有機化合物系燃料の実用化上問題となっている発生ガス中の有害なNOxの濃度を実用化上無視でき得るレベルまで低減させ、且つ同時に発生するCOの濃度を極端に低減させる事のできるガス発生剤組成物を提供する事を目的とし、更に、付随して発生するガス中の水分(水蒸気)の存在によるエアバッグ展開挙動変化が、外部環境、特に温度差の影響を受ける問題をも同時に改善し得る非アジ化金属化合物系の安全なガス発生剤組成物を提供する事をも目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明では、ガス発生剤の燃料成分として、窒素及び水素を含有せず、炭素と酸素のみから構成される環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩を採用するものであり、好ましい環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩としては、次の構造式で示されるデルタ酸,スクエア酸,クロコン酸及びロジソン酸のアルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属の金属塩の群から選ばれた1種以上を用いるものである。
【0010】
【化2】
【0011】
又、併用する酸化剤は、アルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属の酸化物,塩素酸塩,過塩素酸塩、硝酸塩及び過酸化物の群から選ばれる1種以上で構成され、又、種々の目的で添加する添加剤として、次の一般式で示されるヒドロタルサイト類や窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素,炭化アルミニウム,アルミナ,二酸化珪素,クレイ,タルク及び酸化硼素からなる群から選ばれる1種以上を適宜添加したものである。
〔M2+ 1-X M3+ X (OH)2 〕X+〔An- x/n ・mH2 O〕X-
ここで、M2+:Mg2+,Mn2+,Fe2+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+等の2価金属
M3+:Al3+,Fe3+,Cr3+,Co3+,In3+等の3価金属
An-:OH- ,F- ,Cl- ,NO3 - ,CO3 2- ,SO4 2- ,Fe(CN)6 3- ,CH3 COO- ,蓚酸イオン,サリチル酸イオン等のn価のアニオン
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明のガス発生剤組成物の基本構成は、燃料成分と、これを燃焼させる酸化剤と適宜添加される添加剤とからなる。先ず、燃料成分について説明すると、本発明で使用する燃料成分は、窒素及び水素を含有せず、炭素と酸素のみから構成される環状オキソカーボン系有機化合物のアルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属から選ばれた金属塩の1種以上であり、前述の構造式で示されるデルタ酸,スチエア酸,クロコン酸及びロジゾン酸の金属塩が代表的なものとして例示される。
【0013】
これらの環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩の内、特に、合成上安価に製造可能なロジゾン酸の金属塩が好ましく、その中でもカリウム塩が好ましい。このロジゾン酸の金属塩は、耐熱性においても良好で300℃まで安定であり、水に対して難溶性で、しかも吸湿し難い特徴を有している。毒性の点においても特公昭42−12413号公報に開示されている様に、ネズミに対する経口的毒性(LD50)は6000mg/kg以上を示しており、極めて毒性の低い物質である。因みに、アジ化ナトリウムでは27mg/kgであり、代表的な含窒素有機化合物である5−アミノテトラゾールでは2500mg/kg(マウスに対する値)である。この事例からもわかる様に、本発明で使用する環状オキソカーボン系有機化合物は、従来から使用されているアジ化化合物やテトラゾール系化合物に比して、安全性の面で優れた特徴を有している事が分かる。この燃料成分のガス発生剤中の含有量は、相対する酸化剤の種類により増減するが、25〜75重量%が好ましい。又、他の燃料成分、例えば、テトラゾール系化合物等の含窒素有機化合物等と混合して使用する事も可能である。
【0014】
次に、本発明のガス発生剤で使用する酸化剤について説明する。本発明で使用する酸化剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属又は遷移金属の硝酸塩,塩素酸塩,過塩素酸塩,酸化物及び過酸化物の群から選ばれた1種以上である。又、本発明の課題の1つであるNOxの発生量を無視し得るレベルまで低減させるためには、窒素を含有していない酸化剤を使用するのが好ましいが、燃焼挙動及びスラグの捕捉性との兼ね合いから、少量の窒素含有酸化剤である硝酸塩を他の酸化剤成分と混合して用いる態様もあり得る。又、酸化剤の含有量は、ガス発生剤全体に対して25〜75重量%が好ましい。
【0015】
次に、本発明のガス発生剤で使用する添加剤について説明する。本発明で使用する添加剤の1つに、次の一般式で示されるヒドロタルサイト類がある。
〔M2+ 1-X M3+ X (OH)2 〕X+〔An- x/n ・mH2 O〕X-
ここで、M2+:Mg2+,Mn2+,Fe2+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+等の2価金属
M3+:Al3+,Fe3+,Cr3+,Co3+,In3+等の3価金属
An-:OH- ,F- ,Cl- ,NO3 - ,CO3 2- ,SO4 2- ,Fe(CN)6 3- ,CH3 COO- ,蓚酸イオン,サリチル酸イオン等のn価のアニオン
このヒドロタルサイト類は、多孔質の物質であり、ガス発生剤のバインダとしては極めて有効である。即ち、ヒドロタルサイト類をバインダとして錠剤成形したガス発生剤は、低い打錠圧力で成形しても、高い硬度を得る事が可能であり、更に、このバインダを用いて成形した錠剤は、高温・低温の繰り返しによる熱衝撃に対しても錠剤の特性及び燃焼特性に変化がなく、従って、ガス発生器内に装填して車両に搭載した後の経年変化が少ない安定した性能のガス発生剤を得る事ができる。上記ヒドロタルサイト類の内、特開平5−879号公報に開示され、次の化学式:Mg6 Al2 (OH)16CO3 ・4H2 Oで表される合成ヒドロタルサイトが、価格面及び入手の容易性の面から特に好ましい。このヒドロタルサイト類の添加量は、ガス発生剤全体に対して、2〜8重量%が好ましい。
【0016】
他の添加剤としては、特開昭49−87583号公報及び米国特許4386979号に開示されているアルミナ,二酸化珪素,クレイ,タルク,酸化硼素或いは本発明の出願人に係る特願平8−359158号に記載されている窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素及び炭化アルミニウムの群からなるスラグ補集成分から選ばれた1種以上がある。これらの成分は、前記特願平8−359158号,特開昭49−87583号公報或いは米国特許4386979号に開示されている様に、前記燃料成分及び酸化剤由来のアルカリ金属,アルカリ土類金属或いは遷移金属等由来の燃焼残渣物であるスラグ成分を、より効率的に捕捉する能力を有している。このスラグ捕集成分の添加量は、ガス発生剤全体に対して、0.5〜10重量%が好ましい。
【0017】
ここで特に好ましい添加剤の組合せ組成としては、合成ヒドロタルサイト及び窒化珪素,二酸化珪素或いはクレイである。合成ヒドロタルサイトは、前述の通り、ガス発生剤のバインダとして極めて有効であり、又、窒化珪素,二酸化珪素或いはクレイといった珪素化合物は、前述の燃料成分及び酸化剤由来のスラグ成分に対して、高い捕集能力を有している。
【0018】
次に本発明のガス発生剤は、顆粒、錠剤或いはディスク状に成形して使用されるのが一般的である。特に錠剤或いはディスクを成形する際には、粉体の流動性を改善する目的で、例えばステアリン酸系の金属塩,二硫化モリブデン,窒化硼素或いはグラファイト等が添加されるが、ガス発生剤の燃焼の際に水蒸気の影響を無視するためには、水素を含有しない二硫化モリブデン,窒化硼素或いはグラファイトをガス発生剤全体に対して0.05〜1.0重量%添加するのが好ましい。
【0019】
【実施例】
以下に本発明の実施例について説明する。以下の実施例において、調合されたガス発生剤の特性は、1リットルタンクテストにより評価した。この1リットルタンクテストは、点火具が着脱自在に取付可能に構成されている内容積1リットルのステンレス製容器内に圧力センサを取付け、この容器中に、調製したガス発生剤ペレットを装填し、点火具によって着火させ、点火具の点火電流が流れてから圧力が発生するまでの着火時間を測定すると共に、発生圧力を測定するものである。発生ガスの分析は、ステンレス製容器の下部に設けてあるボールバルブから着火後すばやくテドラーバッグにガスを捕集し、検知管により成分濃度を測定した。尚、点火具はZWPP型スクイブ(ジルコニウム/タングステン/過塩素酸カリウム)と1.0グラムの伝火薬(ボロン/硝石)を用いた。又この1リットルタンクテストで得られた特性を示すグラフの典型例を第1図に示す。図1において、t1は着火時間であり、Pmax は最高圧力であり、tPmax −t1は最高圧力到達時間(tPmax )から着火時間(t1)を差し引いた時間を示している。
【0020】
〔実施例1〕
燃料成分として、環状オキソカーボン系有機化合物の1種であるロジゾン酸二カリウム塩を44.0%(重量%。以下同じ)と、酸化剤としての硝酸ストロンチウムを50.2%と、バインダとしての合成ヒドロタルサイトを2.9%とスラグ捕集成分としてのクレイを2.9%と、各々V型混合機により乾式混合しこの混合粉末に対して0.1%の二硫化モリブデンを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量115mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間熱処理を行った。得られた錠剤25gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0021】
〔実施例2〕
燃料成分としてのロジゾン酸二カリウム塩を45.3%と、酸化剤としての硝酸ストロンチウム27.0%及び過塩素酸カリウム22.1%と、バインダとしての合成ヒドロタルサイトを2.8%と、スラグ捕集成分としてのクレイ2.8%を、各々V型混合機により乾式混合し、この混合粉末に対して0.1重量%の二硫化モリブデンを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量115mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間、熱処理を行った。得られた錠剤25gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0022】
〔実施例3〕
燃料成分としてのロジゾン酸二カリウム塩を47.8%と、酸化剤としての過塩素酸カリウムを46.6%と、バインダとしての合成ヒドロタルサイトを2.8%と、スラグ捕集成分としてのクレイを2.8%とを各々V型混合機により乾式混合し、この混合粉末に対して0.1重量%の二硫化モリブデンを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量115mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間、熱処理を行った。得られた錠剤25gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0023】
【比較例】
比較例として、特開平5−117070号に開示されている実施例の組成と同一の組成を用いた。即ち、燃料成分としての5−アミノテトラゾールを31.1%と、酸化剤としての硝酸ストロンチウムを55.4%と、スラグ捕集成分としてのクレイ7.5%及び炭酸カリウム6.0%とを各々V型混合機により乾式混合し、この混合粉末に対して0.3%のステアリン酸マグネシウムを添加混合して回転式打錠機でプレス成形し、直径6mm、厚さ2mm、重量124mgのガス発生剤の錠剤を得た。成形後、この錠剤を110℃で12時間、熱処理を行った。得られた錠剤10gを1リットルタンク内に装填し、燃焼試験を実施した。得られた試験結果の内、燃焼特性を図2に示し、燃焼ガス中の有害成分の分析値を図3に示す。
【0024】
図2から明らかな様に、本発明のガス発生剤によれば、最高圧力(Pmax )は60atm前後と従来のアミノテトラゾール系ガス発生剤の35atm程度に比べて非常に高い値を示しており、エアバッグの速やかな展開が期待できる事を意味している。又、着火時間(t1)は、両者に殆ど差異はない。一方、最高圧力到達時間(tPmax −t1)は、前記比較例に比して、本発明のものは総じて大きな値を示しているが、実用上は全く問題はない。従って図2からは、本発明のガス発生剤組成物は、実用上は全く問題ない燃焼特性を示している事が分かる。
【0025】
次に、燃焼ガス中の有害ガス成分の含有量を示す図3によると、本発明のガス発生剤の燃焼ガス中には、有害な塩化水素(HCl)やアンモニア(NH3 )を全く含まず、又、一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NO,NO2 )の含有量は無視し得るレベルである。これは、安全なガス発生剤として認知されているテトラゾール系ガス発生剤でも、COで800ppm,NOx(NO,NO2 )で900ppmも含有されている事を考慮すると、本発明のガス発生剤の安全性のレベルの高さが理解されよう。これらの有害ガスの発生量が少ない理由としては、先ず、NOx及びアンモニアについては、本発明の上記燃料成分は、窒素を含有していないので、この窒素由来のNOxやアンモニアが生成し得ない。但し、酸化剤として硝酸塩やアンモニウム塩を使用した場合(実施例1,2)には、多少の生成が認められるが、無視し得るレベルとなる。一方、COについては、燃料成分中に含有されている炭素由来の生成ガス(不完全燃焼ガス)であるが、本発明の燃料成分は、炭素と酸素からなる環状オキソカーボン系有機化合物であるので、従来の燃料成分に比して多量の酸素を保有している事から、不完全燃焼が生じ難い燃焼条件となっており、COの生成も極めて低いレベルに止まっている。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明から明らかな様に、本発明のガス発生剤によれば、従来の各種ガス発生剤に比して、種々の顕著な効果を期待できるものである。先ず、本発明のガス発生剤組成物で使用する燃料成分は、窒素及び水素を含まず、炭素と酸素のみからなる環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩を用いているので、窒素由来の主たる有害ガスであるNOx或いはアンモニアは基本的には生成せず、酸化剤としての硝酸塩由来の窒素からこれらが生成した場合でも、その生成量は極めて低く、事実上無視し得るレベルでしか発生しない。
【0027】
同時に、水素由来の発生ガスである水分(水蒸気)を全く生成しないので、エアバッグの展開時に、環境温度(モジュール温度)による水蒸気の凝縮度合いによって、エアバッグの展開挙動が変化を受ける虞れは皆無となり、環境温度に影響を受けない安定したエアバッグの展開挙動を実現する事が可能となる。
【0028】
又、本発明に係る前記燃料成分中の炭素に由来するCOの発生量も、従来から安全と認知されているテトラゾール系ガス発生剤よりも著しく少量しか生成しないので、その安全性は、飛躍的に向上する事になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】1リットルタンクテストにおける時間(t)とタンク内圧力(P)との関係を示すP−t線図である。
【図2】1リットルタンクテストにおける各実施例と比較例の燃焼特性を示す表である。
【図3】1リットルタンクテストにおける各実施例と比較例の燃焼ガス中の有害成分の分析値を示す表である。
【符号の説明】
Pmax 最高圧力
t1 着火時間
tPmax −t1 最高圧力到達時間
Claims (5)
- 燃料成分と酸化剤とを主要成分とし、その他適宜添加剤を含有するガス発生剤組成物であって、前記燃料成分が、窒素及び水素を含有せず炭素と酸素のみから構成される環状オキソカーボン系有機化合物の金属塩である事を特徴とするガス発生剤組成物。
- 前記酸化剤がアルカリ金属,アルカリ土類金属及び遷移金属の酸化物,塩素酸塩,過塩素酸塩,硝酸塩の過酸化物の群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1又は2に記載のガス発生剤組成物
- 前記添加剤成分が、次の一般式で表されるヒドロタルサイト類或いは窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素,炭化アルミニウム,アルミナ,二酸化珪素,クレイ,タルク及び酸化硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1乃至3のいずれかに記載のガス発生剤組成物
〔M2+ 1-X M3+ X (OH)2 〕X+〔An- x/n ・mH2 O〕X-
ここで、M2+:Mg2+,Mn2+,Fe2+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+等の2価金属
M3+:Al3+,Fe3+,Cr3+,Co3+,In3+等の3価金属
An-:OH- ,F- ,Cl- ,NO3 - ,CO3 2- ,SO4 2- ,Fe(CN)6 3- ,CH3 COO- ,蓚酸イオン,サリチル酸イオン等のn価のアニオン - 前記ヒドロタルサイト類が、
化学式:Mg6 Al2 (OH)16CO3 ・4H2 Oで表される合成ヒドロタルサイト、又は、
化学式:Mg6 Fe2 (OH)16CO3 ・4H2 Oで表されるピロウライトである請求項4に記載のガス発生剤組成物
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