JP3945013B2 - Tig溶接の品質診断方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、TIG溶接の品質診断方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
TIG溶接は、図2に示すように、TIG溶接機1と母材2とを相対移動(図2ではTIG溶接機1を矢印A方向に移動)させ、溶接トーチ3に電極4の外周を包囲するようにシールドガス5を供給しつつワイヤ6の送給と電極4への給電(電圧と電流の制御)を行いながら、溶接トーチ3のウィービング(図2中矢印Bで示すように溶接方向にAに対して左右の方向へ溶接トーチ3を往復移動させること)を行って溶接するようにしている。
【0003】
上記TIG溶接機1により溶接する際には、溶接欠陥を生じさせないように作業することが非常に重要である。
【0004】
一般に溶接に当たっては、溶接電圧、溶接電流、溶接速度、ワイヤ送給速度、ウィービング速度、ウィービング幅、シールドガス流量等のパラメータを監視して適宜制御することにより、良好な溶接品質が得られるように作業している。しかし、種々の要因によって溶接欠陥が発生しているのが現状である。
【0005】
溶接欠陥としては、ビード不揃い、ビードの大小、ビード高さの大小、ピット、酸化等の溶着金属表面欠陥、アンダーカット、オーバーラップ等の母材との境界部(表面)欠陥、ポロシティ、タングステン巻込み等の溶着金属内部欠陥、融合不良、溶込み不足等の母材との境界部(内部)欠陥等があげられる。
【0006】
従来のTIG溶接方法では、前記パラメータの各々が過大或いは過小になることによって溶接欠陥が発生するので、前記パラメータの夫々についてしきい値を設定し、何れかのパラメータがしきい値を越えた時に、そのパラメータが要因となる溶接欠陥が発生すると判断し、しきい値を越えそうなパラメータを修正する作業を行っている。
【0007】
図3は、溶接速度がある値を越えて過大になることによってビード不揃いの欠陥が生じる点をしきい値として設定した場合であり、溶接速度の標準値が例えば6cm/分である場合において、溶接速度が9cm/分のしきい値を設定している。
【0008】
又、図4は、ウィービング速度がある値を越えて過小になることによってビード不揃いの欠陥を生じる点をしきい値として設定した場合であり、ウィービング速度の標準値が例えば100cm/分である場合において、ウィービング速度が40cm/分のしきい値を設定している。
【0009】
従って、従来の溶接方法では、溶接速度がしきい値の7cm/分を越えないように制御すると共に、ウィービング速度がしきい値の40cm/分を越えないように制御することによってビード不揃いの溶接欠陥が生じないようにしている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の制御方法では、夫々のパラメータについてしきい値を設定し、各パラメータに設定したしきい値を越えないように夫々のパラメータの値を単独で修正する制御を行っているために、次のような問題が生じていた。
【0011】
即ち、溶接速度がしきい値を越えて過大になっておらず、ウィービング速度もしきい値を越えて過小になっていないにも拘わらず、ビード不揃いの溶接欠陥が生じてしまうという問題がある。
【0012】
これは、溶接速度もウィービング速度もしきい値を越えてはいないが、溶接速度とウィービング速度の両方がしきい値に近い値になった場合であり、この場合には、溶接速度とウィービング速度の相互作用によってビード不揃いの溶接欠陥が生じてしまう。この問題は従来の方法では解決することができなかった。
【0013】
本発明は、かかる従来の問題点を解決すべくなしたもので、パラメータの相互作用によって生じる溶接欠陥を判断するTIG溶接の品質診断方法を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、TIG溶接機と母材とを相対移動させ、シールドガスを供給しつつワイヤの送給と電極への給電を行いながら溶接トーチをウィービングさせて溶接を行う際に、同一の溶接欠陥を生じる要因となる第1のパラメータと第2のパラメータを選定し、前記第1のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第1のしきい値を設定すると共に、第2のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第2のしきい値を設定し、前記第1のパラメータのしきい値を標準化した第1の標準しきい値をX−Y座標のX軸上にとり、更に第2のパラメータのしきい値を標準化した第2の標準しきい値を前記X−Y座標のY軸上にとり、前記第1の標準しきい値と第2の標準しきい値とを結ぶしきい値線を求め、前記第1のパラメータの測定信号を標準化した第1の標準測定信号と第2のパラメータの測定信号を標準化した第2の標準測定信号とによりX−Y座標上にとった座標点が、前記しきい値線よりX−Y座標の原点側にある時を品質正常と判定し、前記座標点がしきい値線に対して原点と反対側にある時を品質異常と判定することを特徴とするTIG溶接の品質診断方法、に係るものである。
【0015】
上記手段では、同一の溶接欠陥を生じる要因となる第1のパラメータと第2のパラメータを選定する。第1のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第1のしきい値を設定すると共に、第2のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第2のしきい値を設定し、第1のパラメータのしきい値を標準化した第1の標準しきい値をX−Y座標のX軸上にとり、更に第2のパラメータのしきい値を標準化した第2の標準しきい値を前記X−Y座標のY軸上にとる。更に、第1の標準しきい値と第2の標準しきい値とを結ぶしきい値線を求める。一方、第1のパラメータの測定信号を標準化した第1の標準測定信号と第2のパラメータの測定信号を標準化した第2の標準測定信号とにより、X−Y座標上に座標点をとり、この座標点が、前記しきい値線よりX−Y座標の原点側にある時を品質正常と判定し、前記座標点がしきい値線に対して原点と反対側にある時を品質異常と判定することができる。
【0016】
これにより、第1のパラメータと第2のパラメータの夫々の測定信号がしきい値を越えていないのに、第1のパラメータと第2のパラメータとの相互作用によって溶接欠陥が生じるといった問題を判断することができ、よって常に溶接品質の優れたTIG溶接が行えるように前記パラメータを適切に制御することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態例を図面を参照して説明する。
【0018】
表1は、本発明のTIG溶接の各パラメータと溶接欠陥との関係を示したものである。
【0019】
【表1】
【0020】
表1から明らかなように、TIG溶接のパラメータとしては、溶接電圧V、溶接電流A、溶接速度cm/分、ワイヤ送給速度cm/分、ウィービング速度cm/分、ウィービング幅mm、シールドガス流量L/分等があげられる。
【0021】
また、溶接欠陥としては、ビード不揃い、ビードの大小、ビード高さの大小、ピット、酸化等の溶着金属表面欠陥、アンダーカット、オーバーラップ等の母材との境界部(表面)欠陥、ポロシティ、タングステン巻込み等の溶着金属内部欠陥、融合欠陥、溶込み不足等の母材との境界部(内部)欠陥等があげられる。
【0022】
表1の各パラメータを要因として生じる溶接欠陥の種類の欄に丸印が付してある。
【0023】
前記各パラメータについては、良好な溶接を行うための標準値を予め求めておく。表1では、溶接電圧の標準値は9.7/8.5V(ウィービングにより電極が左右端部に移動した時のピーク電圧が9.7V、左右中間部を移動する時のベース値が8.5Vであることを示す)、溶接電流の標準値は200/140A(同上)、溶接速度の標準値は6cm/分、ワイヤ送給速度の標準値は100/60cm/分(同上)、ウィービング速度の標準値は100cm/分、ウィービング幅の標準値は6mm、シールドガス流量の標準値は20L/分である場合を示している。
【0024】
表1によれば、例えば溶接速度が過大になると、ビード不揃い、ビード小、ビード高さ小の溶接欠陥を生じ、またウィービング速度が過小になると、ビード不揃いの溶接欠陥を生じる。
【0025】
このようにビード不揃いという同一の溶接欠陥を発生する要因となる溶接速度(第1のパラメータ)とウィービング速度(第2のパラメータ)において、溶接速度の標準値6cm/分に対して溶接不揃いの欠陥を生じる過大のしきい値9cm/分(第1のしきい値)を設定し、またウィービング速度の標準値100cm/分に対してビード不揃いの欠陥を生じる過小のしきい値40cm/分(第2のしきい値)を設定する。
【0026】
このように、同一の溶接欠陥を発生する要因となる第1のパラメータと第2のパラメータについて、しきい値を夫々設定し、このしきい値を標準化するために夫々のしきい値について下記式(I)の計算を行う。
【0027】
【数1】
D=C/K−1…(I)
式中、C:設定したしきい値,D:標準化された標準しきい値,K:各パラメータの標準値である。
【0028】
また、パラメータの測定信号に対しても下記式(II)によって標準化する計算を行う。
【0029】
【数2】
G=F/K−1…(II)
式中、F:各パラメータの測定信号,G:標準化した標準測定信号である。
【0030】
第1のパラメータが溶接速度であり、第2のパラメータがウィービング速度である場合を例にとって説明すると、第1のパラメータである溶接速度の標準値が6cm/分であるのに対して、ビード不揃いの溶接欠陥が発生する第1のしきい値が9cm/分であった場合には、この第1のしきい値を前記式(I)に代入することにより、9/6−1=0.5の第1の標準しきい値(D1)を求め、この第1の標準しきい値0.5を、図1に示すようにX−Y座標のX軸上にとる。
【0031】
また、第2のパラメータであるウィービング速度の標準値が100cm/分であるのに対して、ビード不揃いの溶接欠陥が発生する第2のしきい値が40cm/分であった場合には、この第2のしきい値を前記式(I)に代入することにより、40/100−1=−0.6の第2の標準しきい値(D2)を求め、この第2の標準しきい値−0.6を図1に示すように前記X−Y座標のY軸上にとる。
【0032】
更に、前記溶接速度の第1の標準しきい値0.5とウィービング速度の第2の標準しきい値−0.6とを結ぶ直線、即ち、しきい値線Mを求める。
【0033】
このしきい値線Mは下記式(III)となる。
【0034】
【数3】
1/a・D1+1/b・D2=1…(III)
式中、a:X軸を切る点の座標,b:Y軸を切る点の座標,D1:第1の標準しきい値,D2:第2の標準しきい値である。
【0035】
一方、前記第1のパラメータである溶接速度を実際に測定し、測定した第1の測定信号を前記式(II)に代入して標準化することにより、第1の標準測定信号G1を得る。例えば、第1の測定信号が8cm/分であった場合には、第1の標準測定信号G1は0.33である。
【0036】
同様に、第2のパラメータであるウィービング速度を実際に測定し、測定した第2の測定信号を前記式(II)に代入して標準化することにより、第2の標準測定信号G2を得る。例えば第2の測定信号が60cm/分であった場合には、第2の標準測定信号G2は−0.4である。
【0037】
上記によって求めた、第1の標準測定信号0.33と第2の標準測定信号0.4をX−Y座標上にとり、X軸上の第1の標準測定信号0.33とY軸上の第2の標準測定信号0.4の前記X−Y座標上における座標点Pを求める。
【0038】
この時、前記座標点Pが、前記しきい値線MよりX−Y座標の原点0側にある時を品質正常と判定し、前記座標点がしきい値線Mに対してX−Y座標の原点0と反対側にある時を品質異常と判定する。
【0039】
即ち、前記式(III)の左辺の値が>1.0ならば品質異常、≦1.0ならば品質正常と判断することができる。
【0040】
従って、前記第1の標準測定信号0.33と第2の標準測定信号−0.4を、前記式(III)に代入すると0.33/0.5+(−0.4/−0.6)=0.66+0.67=1.33となり、>1.0であるので、品質異常であることが判定できる。
【0041】
これにより、図1の座標点Pのように、第1のパラメータと第2のパラメータの夫々の標準測定信号が標準しきい値を越えていないのに、第1のパラメータと第2のパラメータとの相互作用によって溶接欠陥が生じてしまうといった問題を判断することができる。
【0042】
上記では溶接速度とウィービング速度を例にとって説明したが、これ以外にも、別のパラメータを要因として同一の溶接欠陥を生じる場合に、種々のパラメータについて同様に実施することができる。即ち、表1に示されるように、溶接速度過大とワイヤ送給速度過小によるビード小の欠陥、溶接速度過小とワイヤ送給速度過大によるビード大の欠陥、或いは溶接電圧過大とシールドガス流量過小によるピットの欠陥等に適用できる。
【0043】
このように、別のパラメータを要因として同一の溶接欠陥を生じる第1のパラメータと第2のパラメータを選定し、第1のパラメータの第1の標準しきい値をX−Y座標のX軸上にとり、第2のパラメータの第2の標準しきい値を前記X−Y座標のY軸上にとり、第1の標準しきい値と第2の標準しきい値とを結ぶ直線を求め、続いて、第1のパラメータの測定信号と第2のパラメータの測定信号を夫々標準化した第1の標準測定信号と第2の標準測定信号とによりX−Y座標上における座標点を求めると、この座標点が前記しきい値線よりX−Y座標の原点側にある時を品質正常と判定し、前記座標点がしきい値線に対して原点と反対側にある時を品質異常と判定することができる。
【0044】
従って、溶接品質の優れたTIG溶接が行えるように、前記判定結果に基づいて前記パラメータを適切に制御することができる。
【0045】
尚、本発明は上記形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、同一の溶接欠陥を生じる要因となる第1のパラメータと第2のパラメータを選定し、前記第1のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第1のしきい値を設定すると共に、第2のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第2のしきい値を設定し、前記第1のパラメータのしきい値を標準化した第1の標準しきい値をX−Y座標のX軸上にとり、更に第2のパラメータのしきい値を標準化した第2の標準しきい値を前記X−Y座標のY軸上にとり、前記第1の標準しきい値と第2の標準しきい値とを結ぶしきい値線を求め、前記第1のパラメータの測定信号を標準化した第1の標準測定信号と第2のパラメータの測定信号を標準化した第2の標準測定信号とによりX−Y座標上の座標点を求め、この座標点が、前記しきい値線よりX−Y座標の原点側にある時を品質正常と判定し、前記座標点がしきい値線に対して原点と反対側にある時を品質異常と判定することができる。
【0047】
これにより、第1のパラメータと第2のパラメータの夫々の測定信号がしきい値を越えていないのに、第1のパラメータと第2のパラメータとの相互作用によって溶接欠陥が生じるといった問題を判断することができ、よって常に溶接品質の優れたTIG溶接が行えるように前記パラメータを適切に制御することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のTIG溶接の品質診断方法を説明するためのX−Y座標線図である。
【図2】TIG溶接機の一例を示す概略断面図である。
【図3】従来のTIG溶接方法における溶接速度のしきい値を設定する例を示す線図である。
【図4】従来のTIG溶接方法におけるウィービング速度のしきい値を設定する例を示す線図である。
【符号の説明】
1 溶接機
2 母材
3 溶接トーチ
4 電極
5 シールドガス
6 ワイヤ
D1 第1の標準しきい値
D2 第2の標準しきい値
G1 第1の標準測定信号
G2 第2の標準測定信号
A 矢印(相対移動方向)
B 矢印(ウィービング方向)
M しきい値線
P 座標点
Claims (1)
- TIG溶接機と母材とを相対移動させ、シールドガスを供給しつつワイヤの送給と電極への給電を行いながら溶接トーチをウィービングさせて溶接を行う際に、同一の溶接欠陥を生じる要因となる第1のパラメータと第2のパラメータを選定し、前記第1のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第1のしきい値を設定すると共に、第2のパラメータの標準値に対して溶接欠陥を生じる第2のしきい値を設定し、前記第1のパラメータのしきい値を標準化した第1の標準しきい値をX−Y座標のX軸上にとり、更に第2のパラメータのしきい値を標準化した第2の標準しきい値を前記X−Y座標のY軸上にとり、前記第1の標準しきい値と第2の標準しきい値とを結ぶしきい値線を求め、前記第1のパラメータの測定信号を標準化した第1の標準測定信号と第2のパラメータの測定信号を標準化した第2の標準測定信号とによりX−Y座標上にとった座標点が、前記しきい値線よりX−Y座標の原点側にある時を品質正常と判定し、前記座標点がしきい値線に対して原点と反対側にある時を品質異常と判定することを特徴とするTIG溶接の品質診断方法。
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JP11965098A JP3945013B2 (ja) | 1998-04-28 | 1998-04-28 | Tig溶接の品質診断方法 |
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