JP3933006B2 - 面内異方性の小さい冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、家電製品等に適用可能な面内異方性が小さい冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車、家電製品等で回転対称形状の部品では、面内異方性が小さい鋼板が要望されている。面内異方性を小さくすることにより、深絞り成形後の耳形成が小さくなり、板厚分布等の品質が均一化するとともに、耳切り作業による作業コストの増加および材料歩留りの低下を抑制することができる。また、材料の板取り方向が任意に可能となり、ユーザーの使い勝手も向上する。
【0003】
この場合、面内異方性としては、特に塑性歪比r値の面内異方性が大きく影響しており、そのパラメータとして、圧延方向に対し0゜、45°、90°方向のr値r0、r45、r90を使って計算されるΔr=(r0+r90-2r45)/2が知られている。通常、冷延鋼板のΔrの絶対値は、冷圧率の増加に伴い低下して最小値となった後、更に冷圧率が高くなると再度増加することが知られている。
【0004】
冷延鋼板の面内異方性の低減については、例えば、特公昭61-7455号公報には、熱延における仕上圧延板厚比(圧下比)を13以上、熱延終了後は冷却速度20〜65℃/secの強制冷却を行い、その際、仕上圧延入口温度と熱延終了後の強制冷却の温度域をC,Mn,P含有量の式で規定することで、深絞り性、面内異方性を改善する方法が提案されている。
【0005】
一方、缶用材料の分野では、近年、缶体軽量化、工程省略、材料コスト低減の観点から、2ピース缶への移行、缶体薄肉化が進められている。缶体の薄肉化については、熱延板の板厚を薄くすることと、冷圧率を上げることが考えられるが、前者は熱延の生産性を著しく阻害し、後者はイヤリングを増加させる。
【0006】
このような冷圧率が高い場合にΔrの絶対値を低下させるため、例えば、特開平8-3638号公報には、製缶工程で鋼板歩留り、生産性の向上に有利な耳発生の小さい鋼板、及びそれを高生産性にて製造する方法が提案されている。この技術は、必要に応じてTi,Nb,Bを添加した低炭素鋼を、熱間圧延、酸洗した後、冷延圧下率90%以上の冷間圧延を行い、そのうちの50%以上を100〜500℃の温間で圧延し、焼鈍を行うというものである。
【0007】
また、特開平10-330845号公報には、飲料缶で用いられる底と胴の部分を深絞りとしごき加工により一体成形する2ピース缶のイヤリングを小さくする容器用鋼板の製造方法が提案されている。その技術は、熱間圧延の際、先行材の後端に後行材の先端を接合して仕上圧延に供し、さらに、合計圧下率が50%以上の仕上圧延を潤滑を施して行い、冷間圧延、再結晶焼鈍、スキンパス圧延を、冷間圧延とスキンパス圧延の全圧下率が90〜95%となる条件で、行うことを特徴とする低イヤリング容器用鋼板の製造方法というものである。
【0008】
冷延鋼板のプレス成形性に関しては、従来より主として深絞り性と張出し成形性の観点から検討されている。深絞り性に関しては、r値を高めることに主眼が置かれ、例えば、特開平8-92656号公報には、高いr値を示す極低炭素鋼板が提案されている。この技術は、熱延のα域で熱間潤滑を施して圧延された熱延鋼板を、再結晶処理して冷間圧延および焼鈍することにより、r値が3.0以上の冷延鋼板が得られるというものである。
【0009】
張出し成形性に関しては、例えば、「薄板のプレス加工」(実教出版)には、全伸び測定や荷重-伸び曲線から求めた高歪域のn値(例えば、10%,20%の2点法により測定されたn値)を高めることが重要であると記載されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術には次の問題点がある。例えば、特公昭61-7455号公報記載の技術では、結局のところC,Mn,P量等を規定した一般的な低炭素冷延鋼板の製造方法にすぎず、得られるΔrは、その実施例(第2表発明例)に見られるように0.15〜0.25であり、これでは面内異方性が十分に改善されているとは言えない。
【0011】
一般に、缶用材料の従来技術では、板厚0.3mm以下の板厚の薄い鋼板を対象としており、いずれも冷圧率の高い領域における技術である。例えば、特開平8-3638号公報記載の技術では、冷圧率90%以上の冷間圧延を行う必要があり、これを板厚0.5mm以上の冷延鋼板に適用すると、熱延鋼板の板厚が5mm以上となり、通常のタンデム圧延機では圧延荷重、ミルパワー等の限界から、営業生産が困難となる場合が多い。
【0012】
また、一般に、缶用材料は冷間圧延-焼鈍後、強スキンパス圧延(2次冷間圧延)を施して製造される。特開平10-330845号公報記載の技術も、冷間圧延とスキンパス圧延を組み合わせて板厚の薄い缶用材料を製造している。しかし、この従来技術では、熱延の仕上圧延において潤滑を施しているため、材料のロールバイトへの噛み込み不良やスリップなどが起こる可能性が高くなる。
【0013】
そこで、粗圧延後、(粗バーの)先行材の後端に後行材の先端を接合して仕上圧延を行っているが、このような潤滑圧延および連続熱延は、いずれも潤滑用および粗バー接続用の特別な設備を必要とする。また、操業上も潤滑条件の調整や粗バーの接合等の作業を必要とする。従って、通常の熱延の設備および操業では実施困難である。
【0014】
さらに、通常、自動車、家電製品用冷延鋼板は、焼鈍後、軽スキンパス圧延により製造され、缶用材料とは根本的に製造方法が異なる。
【0015】
以上のように、冷延鋼板の従来技術では面内異方性が十分に改善されておらず、缶用材料の従来技術では冷圧率が高すぎるか、強スキンパスや特殊な熱延方法を採用する必要があり、本発明が目的とする面内異方性が小さい自動車、家電製品用の冷延鋼板(好ましくは板厚0.5mm以上)の製造に適用することはできない。
【0016】
さらに、冷延鋼板の従来技術では、n値を高めることにより張出し成形性が向上するとしているが、例えば、自動車の外板パネルをプレスする場合、圧延方向あるいは板幅方向のn値というように、単に一方向のn値を高くするだけでは十分ではないことがわかった。
【0017】
本発明は以上の問題点を解決し、自動車、家電製品等に適用可能なr値の面内異方性が小さい冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は次の発明により解決される。その発明は、化学成分が、mass%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.01%以下で、残部が鉄および不可避的不純物からなり、|Δr|<0.15である面内異方性の小さい板厚が0.5mm以上の冷延鋼板である。
【0019】
この発明はさらに、n値の面内平均値n*が次の関係式(1)を満たし、張出し成形性に優れていることを特徴とする面内異方性の小さい板厚が0.5mm以上の冷延鋼板とすることもできる。
【0020】
n*≧0.1×|Δr|+0.175 (1)
これらの発明は、従来技術では極めて困難であった板厚0.5mm以上で面内異方性が小さい(|Δr|<0.15)冷延鋼板を製造するため、特に化学成分、熱延条件に着目して詳細な検討を行った結果なされた。検討の過程で、仕上圧延後の冷却条件が、冷延鋼板の面内異方性に影響を及ぼす極めて重要なファクターであり、最適な条件の範囲を見出すことにより、目的が達成されている。
【0021】
以下、発明の個々の限定理由について説明する。
【0022】
C: 0.1%以下
Cは、鋼の引張強度を確保するために必要な元素であるが、0.1%を超えると延性の低下が著しくなる。一方、C量が0.01%未満では面内異方性が大きくなる傾向を示す。従って、C量を0.1%以下、好ましくは0.01〜0.1%の範囲内とする。
【0023】
Si: 0.5%以下
Siは、強度確保に有効な元素であるが、0.5%を超えると、表面性状が劣化し、めっき鋼板とした場合にめっき密着性が著しく劣化する。従って、Si量を0.5%以下とする。
【0024】
Mn: 1.0%以下
Mnは、鋼中のSをMnSとして析出させてスラブの熱間割れを防止し、また、めっき密着性を劣化させることなく強度を高くするために有効な元素である。しかし、Mn量が1.0%を超えると、スラブコストが著しく上昇するだけでなく、加工性の劣化を招く。従って、Mn量は1.0%以下とする。
【0025】
P: 0.05%以下
Pは、強度確保に有効な元素であるが、0.05%を超えて添加するとプレス成形後の耐二次加工脆性を劣化させ、亜鉛めっき鋼板とした場合に合金化処理性の低下を引き起こす。従って、P量を0.05%以下とする。
【0026】
S: 0.03%以下
Sは、熱間加工性を低下させ、スラブの熱間割れ感受性を高め、0.03%を超えると微細なMnSの析出により加工性を劣化させる。従って、S量を0.03%以下とする。
【0027】
Al: 0.01〜0.1%
Alは鋼の脱酸に寄与するとともに、鋼中の不要な固溶Nを窒化物として固定する役割がある。この効果は、Alが0.01%未満では十分ではなく、0.1%を超えても添加量に見合う効果が得られない。従って、Al量を0.01〜0.1%の範囲内とする。
【0028】
N: 0.005%以下
Nは、時効性の観点から固溶状態で残存させることはできず、その含有量は少ないほどよい。N量が0.005%を超えると、過剰な窒化物の存在により延性、靭性が劣化する。従って、N量を0.005%以下とする。
【0029】
板厚: 好ましくは0.5mm以上
本発明は、自動車および家電製品用の冷延鋼板を対象としている。通常これらの冷延鋼板の板厚としては、パネル剛性等の部品強度の観点から0.5mm以上であることが好ましい。従って、好ましくは板厚を0.5mm以上に限定する。
【0030】
面内異方性Δr: 絶対値で0.15未満
r値の面内異方性指数Δrの絶対値|Δr|を小さくすることにより、回転対称形状の部品を均一に成形することができる。この|Δr|が0.15以上となると、深絞り成形後の耳形成が大きくなり、板厚分布等の品質が不均一となる。さらに、耳切り作業による作業コストの増加と、材料歩留りの低下を招く。従って、|Δr|を0.15未満とする。
【0031】
n値の面内平均値n*とΔrの関係: n*≧0.1×|Δr|+0.175
n値とr値について、張出し成形性に及ぼす影響を検討したところ、n値の面内平均値n*とr値の面内異方性の絶対値|Δr|が、張出し成形性に大きく影響することがわかった。そこで、板厚1mmで400mm×400mmの試験片について、直径160mmの球頭ポンチを用いた球頭張出し試験を行い、張出し成形性(限界張出し高さ)を調査した。その結果、単にn値が高いだけでは十分な張出し成形性は得られず、同時に面内異方性を低減する必要があることがわかった。結果の解析により、前述の関係式(1)を満足することにより、非常に良好な張出し成形性が得られることを解明した。図1に、上記n*および|Δr|と張出し成形性の関係を示す。
【0032】
上述の冷延鋼板を得ることが可能な製造方法の発明は、次のようになる。その発明は、上述の発明の化学成分を有する鋼を、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延を行い、仕上圧延終了後2秒以内に冷却を開始し、その冷却を70℃/s以上の冷却速度で100℃以上の温度域にわたって行い、得られた熱延鋼板を冷間圧延して焼鈍することにより、|Δr|<0.15とすることを特徴とする面内異方性の小さい板厚が0.5mm以上の冷延鋼板の製造方法である。
【0033】
この発明は、上記の発明の冷延鋼板を得ることが可能な製造条件について検討した結果なされたものであり、以下、その詳細を説明する。
【0034】
仕上温度: Ar3変態点以上
熱間圧延の仕上圧延は、板温度がAr3変態点以上となる温度で行う。仕上温度がAr3変態点未満になると、材料の変形抵抗の不連続性(オーステナイトとフェライトの変形抵抗の違い)により圧延荷重が大きく変動し、安定した通板ができなくなる。それに伴い、均一かつ良好な材質および板形状も得られなくなる。従って、熱延鋼板の粒径の均一化および細粒化の観点から、仕上温度をAr3変態点以上とする。
【0035】
圧延後の冷却開始時間: 仕上圧延終了後2秒以内
仕上圧延終了後、冷却開始までの時間は、変態前のオーステナイト結晶粒の粒成長を抑制するために特に重要であり、この時間が2秒を超えると粒成長が顕著となる。従って、仕上圧延終了後2秒以内に冷却を開始する。また、面内異方性を低減するためには、さらに冷却開始までの時間を短縮することが効果的であり、1秒以内とすることが望ましい。
【0036】
圧延後の冷却条件: 100℃以上の温度域を冷却速度70℃/s以上
熱間圧延後の冷却においては、冷却を行う温度域の温度幅ΔTおよび冷却速度の制御が、極めて重要である。これは、本発明の化学成分を有する鋼から、実機を用いて種々の冷却条件で熱延鋼板を製造し、それらの冷延鋼板について詳細に検討した結果得られた知見である。
【0037】
図2および図3は、冷延鋼板の面内異方性|Δr|および張出し成形性(限界張出し高さ)に及ぼす冷却温度幅ΔTの影響を示す図である。これらの図より、冷却温度幅ΔTが100℃以上になると、面内異方性|Δr|および張出し成形性が顕著に低下していることがわかる。
【0038】
図4および図5は、冷延鋼板の面内異方性|Δr|および張出し成形性(限界張出し高さ)に及ぼす冷却速度の影響を示す図である。これらの図より、冷却速度が70℃/s以上になると、|Δr|および張出し成形性が顕著に低下しており、これは、熱延鋼板の組織が微細化したためと考えられる。
【0039】
以上より、本発明では、圧延後の冷却条件として、100℃以上の温度域について冷却速度70℃/s以上とする。
【0040】
また、以上の発明の冷延鋼板は、電気亜鉛系めっき鋼板あるいは溶融亜鉛系めっき鋼板としても、目的の効果が得られることは言うまでもない。これらの本発明の亜鉛系めっき鋼板においては、めっき後にさらに有機被膜処理を施してもよい。本発明では、SiとPを低く抑えているので、亜鉛系めっき鋼板の表面性状への悪影響もなく、自動車の外板パネル等へも適用可能である。
【0041】
なお、これらの発明において「残部が実質的に鉄である」とは、発明の作用・効果を損なわない限り、不可避的不純物をはじめ、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれることを意味する。
【0042】
【発明の実施の形態】
本発明においては、スラブを熱間圧延するにあたって、加熱炉で加熱後に圧延するか、または加熱することなく直接圧延することができる。熱延の巻取温度については、冷間圧延後の焼鈍工程が連続焼鈍かバッチ焼鈍かにより、それぞれの適正温度を採用する。
【0043】
冷延鋼板の冷圧率および焼鈍温度については、よく知られているように化学成分に応じて適正な範囲が存在する。前述の製造方法の発明により熱延鋼板を製造すれば、冷圧率は通常の範囲内(90%未満)でよく、焼鈍温度も連続焼鈍あるいはバッチ焼鈍の通常の温度でよい。但し、鋼板の組織をフェライト単相組織とするために、焼鈍温度はAc3変態点以下の温度とすることが望ましい。
【0044】
なお、圧延方向に対し90°方向のr値r90については、1.3以下であることが望ましい。これは、r0<r45<r90の大小関係となった場合、Δrは計算上減少するが、r0とr90の差(LC差)が拡大するので、r90に上限を設けることによりLC差を低く抑えるためである。実用上は、r90を1.3以下とすれば、このLC差も考慮した面内異方性が十分に小さくなったと言える。
【0045】
【実施例】
[実施例1]
表1に示す鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブを製造した。
【0046】
【表1】
【0047】
この表1に示すように、本発明例の鋼番1〜6は、いずれも化学成分が本発明の範囲内の本発明鋼であるが、鋼番7〜10は、本発明の範囲から外れた比較鋼である。すなわち、鋼番7はN量が上限超え、鋼番8はC量が上限超え、鋼番9はAl量が下限未満、鋼番10は発明範囲外のBが添加されている。
【0048】
このスラブを1200℃に加熱後、熱間圧延を行い、その後、種々の冷却条件により冷却し、通常の巻取温度の範囲内で巻取ることにより熱延鋼板を製造した。この熱延鋼板に酸洗、冷間圧延を行い、連続焼鈍もしくは箱焼鈍により冷延鋼板、又は溶融亜鉛めっき鋼板もしくは電気亜鉛めっき鋼板とした。これらの冷延鋼板および亜鉛めっき鋼板に、圧下率0.5〜2.0%の調質圧延を施した。以上の熱延条件(仕上温度、冷却速度、冷却温度域の温度幅ΔT)および焼鈍(めっき)条件を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
これらの冷延鋼板および亜鉛めっき鋼板について、圧延方向に対して0゜45°、90°方向のr値を測定し、Δrを求めた。試験結果を表2に併せて示す。
【0051】
表2に示すように、化学成分および製造条件が発明範囲内である本発明例No.1〜3,7,8,10では、いずれも|Δr|<0.15を満足し、発明の目的が達成されている。一方、化学成分あるいは製造条件が発明範囲を外れている比較例では、面内異方性が増加し、本発明の目標とするΔrの抑制効果が得られない。
【0052】
例えば、比較例No.4〜6,9は、化学成分は発明範囲内(鋼番3,5)であるが、製造条件が発明範囲から外れているため、Δrが目標範囲を超えている。No.4,5はそれぞれ圧延後の冷却速度、冷却温度幅ΔTが発明範囲から外れており、No.6は仕上温度が、またNo.9は冷却速度および冷却温度幅ΔTが、それぞれ発明範囲から外れている。
【0053】
また、比較例No.11〜14は、化学成分が発明範囲を外れている(鋼番7〜10)ため、異方性が大きくなっている。No.11,13(鋼番7,9)は、N量又はAlが発明範囲外のため、固溶Nにより耐時効性が劣化し、本発明が対象とする自動車用あるいは家電製品用鋼板としては使用できない。No.12(鋼番8)は、面内異方性は目標範囲を少し外れた程度であるが、C量が過剰なため延性に劣り、やはり本発明が対象とする自動車用・家電用鋼板としては使用できない。No.14(鋼番10)は、添加されたBが再結晶集合組織の形成に悪影響を及ぼし、面内異方性が非常に悪化している。
【0054】
[実施例2]
表3に示す化学成分を有する鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブを製造した。
【0055】
【表3】
【0056】
この表3に示すように、本発明例の鋼番11〜16は、いずれも化学成分が本発明の範囲内の本発明鋼であるが、鋼番17〜20は、本発明の範囲から外れた比較鋼である。すなわち、鋼番17はN量が上限超過、鋼番18はC量が上限超過、鋼番19はAl量が下限未満、鋼番20は発明範囲外のBが添加されている。
【0057】
このスラブを1200℃に加熱後、熱間圧延を行い、その後、種々の冷却条件により冷却し、通常の巻取温度の範囲内で巻取ることにより熱延鋼板を製造した。この熱延鋼板に酸洗、冷間圧延を行い、連続焼鈍もしくは箱焼鈍により冷延鋼板、又は溶融亜鉛めっきもしくは電気亜鉛めっきにより亜鉛めっき鋼板を製造した。これらの冷延鋼板および亜鉛めっき鋼板に、圧下率0.5〜2.0%の調質圧延を施した。以上の熱延条件(仕上温度、冷却速度、冷却温度域の温度幅ΔT)および焼鈍(めっき)条件を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
これらの冷延鋼板および亜鉛めっき鋼板について、圧延方向に対して0゜45°、90°方向のn値とr値を測定し、n値の面内平均値n*と面内異方性Δrを求めた。さらに、400mm×400mmの試験片について、直径160mmの球頭ポンチを用いた球頭張出し試験を行い、張出し成形性(限界張出し高さ)を調査した。試験結果を表4に併せて示す。
【0060】
表4に示すように、化学成分および製造条件が発明範囲内である本発明例No.21〜23,27,28,30では、いずれも|Δr|<0.15およびn*とΔrの関係式(1)を満足し、発明の目的が達成されている。
【0061】
一方、化学成分あるいは製造条件が発明範囲を外れている比較例では、面内異方性が増大し、本発明の目標とするΔrの抑制効果が得られず、n値の面内平均値n*とΔrの関係式(1)を満足していない。
【0062】
例えば、比較例No. 24〜26, 29は、化学成分は発明範囲内(鋼番13, 15)であるが、製造条件が発明範囲から外れているため、n*とΔrの関係式(1)を満足せず、Δrが目標範囲を超えている。No.24,25はそれぞれ圧延後の冷却速度、冷却温度幅ΔTが発明範囲から外れており、No.26は仕上温度が、またNo.29は冷却速度と冷却温度幅ΔTが、それぞれ発明範囲から外れている。
【0063】
また、比較例No.31〜34は、化学成分が発明範囲を外れている(鋼番17〜20)ため、n*とΔrの関係式(1)を満足せず、面内異方性が大きくなっている。ここで、No.31(鋼番17)はN量が上限超過、No.32(鋼番18)はC量が上限超過、No.33(鋼番19)はAl量が下限未満である。また、No.34(鋼番20)は、添加されたBが再結晶集合組織の形成に悪影響を及ぼし、面内異方性が非常に悪化しており、関係式(1)も満足していない。
【0064】
【発明の効果】
この発明は、化学成分を特定の範囲内に制御するとともに、熱延仕上圧延およびその後の冷却条件を制御することにより、板厚0.5mm以上で面内異方性が小さい冷延鋼板あるいは亜鉛めっき鋼板を製造することに成功した。その結果、この発明の鋼板は、自動車用鋼板を始め、家庭用電器製品等に広く活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 n値の面内平均値n*および面内異方性|Δr|と張出し成形性の関係を示す図。
【図2】冷延鋼板の面内異方性に及ぼす冷却温度幅ΔTの影響を示す図。
【図3】冷延鋼板の張出し成形性に及ぼす冷却温度幅ΔTの影響を示す図。
【図4】冷延鋼板の面内異方性に及ぼす冷却速度の影響を示す図。
【図5】冷延鋼板の張出し成形性に及ぼす冷却速度の影響を示す図。
Claims (3)
- 化学成分が、mass%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下で、残部が鉄および不可避的不純物からなり、|Δr|<0.15である面内異方性の小さい板厚が0.5mm以上の冷延鋼板。
- n値の面内平均値n*が次の関係式を満たし、張出し成形性に優れていることを特徴とする請求項1記載の面内異方性の小さい板厚が0.5mm以上の冷延鋼板。
n*≧0.1×|Δr|+0.175 - 請求項1記載の化学成分からなる鋼を、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延を行い、仕上圧延終了後2秒以内に冷却を開始し、その冷却を70℃/s以上の冷却速度で100℃以上の温度域にわたって行い、得られた熱延鋼板を冷間圧延して焼鈍することにより、|Δr|<0.15を満たす範囲に制御することを特徴とする面内異方性の小さい板厚が0.5mm以上の冷延鋼板の製造方法。
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