JP3932995B2 - 高周波焼もどし用鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼入後の焼きもどし処理において短時間の高周波誘導加熱により焼きもどしを施すことにより製造される、ねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼およびその製造方法に関するものである。特に、本発明の鋼は、自動車用ドライブシャフトおよび等速ジョイント等に適用される機械構造用鋼として用いるのが好適である。
【0002】
従来、自動車用ドライブシャフトや等速ジョイント等の機械構造用部材は、熱間圧延棒鋼に熱間鍛造、あるいは切削、冷間鍛造等により所定の形状に加工した後、高周波焼入れ−炉加熱焼もどしを行い、機械構造用部材としての重要な特性であるねじり強度およびねじり疲労強度を確保しているのが一般的である。
【0003】
他方、近年環境問題から自動車部材に対して部品の軽量化の要求が強く、この点から自動車用部材のねじり強度およびねじり疲労強度の向上が要求されている。
また製造プロセスに関し近年、生産性向上の観点から従来の炉加熱による焼きもどしに替わり、高周波加熱による焼きもどしプロセスの採用が検討されつつある。高周波焼きもどしによれば、加熱時間が数秒間から長くても数分間以下と従来の炉加熱等による焼きもどしの数十分間から数時間といった加熱時間に比べ大幅に短くでき、これにより、焼きもどし処理時間の短縮が可能となり生産性向上が期待される。
【0004】
さらに後に述べるように本発明者らの検討では、高周波加熱の特徴である短時間急速加熱を活用することにより、ねじり特性向上の可能性が期待される。
例えば、特開平7−90484号公報には、特定成分の鋼を用い、これに高周波焼入れを施した部材のある特定の式で定義される断面平均硬さが560以上であることを特徴とする軸部品において、ねじり強度160kgf/mm2以上が得られることが示されている。しかしながら、上掲公報には、機械構造用部材として他の重要な特性であるねじり疲労強度に関しては言及されていない。また、上掲公報においては、高周波焼入条件に関しては種々検討されているが、焼きもどし条件に関しては検討されておらず、また焼きもどし条件は170℃で1時間という記載があるのみであり、この記載からすると、焼もどしは短時間で行える高周波焼きもどしではなく、通常の炉加熱等による焼きもどしであると考えられる。
【0005】
また、ねじり疲労強度に関しては、特開平8−253842号公報に、重量比として、C:0.35〜0.65%、Si:0.35〜2.5%、Mn:1.0〜1.8%、Mo:0.05〜0.8%、S:0.01〜0.15%、Al:0.015〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、B:0.0005〜0.005%、N:0.002〜0.01%を含有し、またはさらに、P、Cu、O量を特定以下に制限し、またはさらに特定量のNb、Vの1種または2種を含有し、またはさらに、特定量のCr、Niの1種または2種を含有し、かつフェライトの組織分率が35%以下で、フェライト結晶粒径が20μm 以下であることを特徴とする捩り疲労強度の優れた高周波焼入れ軸部品用鋼材が開示されている。しかしながら、特開平8−253842号公報に記載によれば、実施例中の焼きもどし条件が170℃で1時間という記載のみであり、この記載からすると、短時間で行う高周波焼きもどしではなく、炉加熱等による加熱による通常の焼きもどしプロセスを前提として検討がされている。
また、特開平8−253842号公報には、ねじり疲労強度に関しても記述があり、ねじり強度とねじり疲労強度を両立した鋼材であることが示されている.しかしながら、当該鋼材では、5×105サイクルの繰り返し数におけるねじり疲労強度が最大で771MPaであり、近年の高強度化要求に対しては強度が不足する場合が生じる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の上記したような問題を解決し、近年生産性向上の観点から従来の炉加熱焼きもどしに替わり採用が検討されつつある、短時間の高周波焼きもどしプロセスで製造される部材に好適なねじり強度およびねじり疲労強度に優れた高周波焼もどし用鋼およびその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、短時間の高周波焼きもどし処理を行うことを前提としたねじり強度およびねじり疲労強度の向上について鋭意検討を行った。
その結果、高周波焼きもどし処理を行うことを前提として鋼の化学組成および組織を工夫することにより、下記(1)〜(5)に示す理由によって、優れたねじり強度ならびにねじり疲労強度が得られるという知見を得た。
【0008】
すなわち、
(1)ベイナイト相を本発明で規定する組織分率で含有させることにより、ベイナイト組織がフェライト−パーライト組織に比べ炭化物が微細に分散した組織であるために、焼入加熱時に炭化物の溶解が促進され、高周波焼きもどし時の炭化物生成の核となる焼きもどし前の焼入組織(マルテンサイト組織)の粒界に残留する炭化物(以下「粒界残留炭化物」という。)が減少する結果、高周波焼きもどし時の粒内核生成数が増加する。これにより、粒界強度に悪影響を与える粒界炭化物が減少し、粒界強度が向上する結果、ねじり応力下での粒界破壊が抑制され、ねじり強度及びねじり疲労強度が増加する。
【0009】
(2)ベイナイト相を本発明で規定する組織分率で含有させることにより、高周波焼きもどし前の焼入加熱時のオーステナイト粒径が、前記組織分率が本発明範囲外の場合に比べて微細化する。その結果、粒界残留炭化物が減少する。このため高周波焼きもどし後の粒界炭化物が減少する。また、粒界面積が増加するため、P等の粒界偏析不純物量が減少する。これらのことにより、粒界強度が向上するため、ねじり応力下での粒界破壊が抑制され、ねじり強度及びねじり疲労強度が増加する。
【0010】
(3)Si、Al、さらにはMo、Cu、NiおよびCoのうちの1種または数種を適量添加することで、炭化物が不安定化し焼入加熱時に炭化物の溶解が促進され、高周波焼きもどし時の炭化物生成の核となる焼きもどし前の焼入組織(マルテンサイト組織)の粒界に残留する炭化物が減少する結果、高周波焼きもどし時の粒内核生成数が増加する。これにより、粒界強度に悪影響を与える粒界炭化物が減少し、粒界強度が向上する結果、ねじり応力下での粒界破壊が抑制され、ねじり強度及びねじり疲労強度が増加する。
【0011】
(4)Crの添加は炭化物を安定化させ、残留炭化物生成を促進するため、その添加量を規制あるいは無添加とすることで、炭化物が不安定化し焼入加熱時に炭化物の溶解が促進され、高周波焼きもどし時の炭化物生成の核となる焼きもどし前の焼入組織(マルテンサイト組織)の粒界に残留する炭化物が減少する結果、高周波焼きもどし時の粒内核生成数が増加する。これにより、粒界強度に悪影響を与える粒界炭化物が減少し、粒界強度が向上する結果、ねじり応力下での粒界破壊が抑制され、ねじり強度及びねじり疲労強度が増加する。
【0012】
(5)Ti、又はTiとNbおよび/またはVとを適量添加することで、Ti、Nb、Vの微細球状炭化物あるいは微細球状炭窒化物が生成し、これが高周波焼きもどし時の炭化物生成核となり炭化物形状が球状となる。この球状の炭化物あるいは炭窒化物は、粒内の他、(マルテンサイトの)粒界にも存在するが、通常の炉加熱焼きもどし時に一般的に生成する棒状あるいは板状のものに比べると、粒界での存在体積が小さく粒界強度に対する悪影響が小さいため、ねじり応力下における粒界破壊が抑制され、ねじり強度およびねじり疲労強度が向上する。
【0013】
本発明は以上の知見をもとになされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
すなわち、本発明は
1)質量%で
C:0.35〜0.7%、
Si:0.08〜1.5%、
Mn:0.2〜2.5%、
P≦0.020%、
S≦0.06%、
Al:0.005〜0.25%、
Ti:0.005〜0.1%、
B:0.0003〜0.0060%、
N:0.002〜0.02%、および
O≦0.0030%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる組成を有し、かつ焼入加熱前におけるベイナイト相の組織分率が10%以上であることを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。
【0014】
2) 上記1)において、さらに質量%で、Cr≦0.20%を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。
【0015】
3) 上記1)または2)において、さらに質量%で、
Mo:0.02〜1.0%、
Cu≦1.0%、
Ni:0.05〜3.5%、および
Co:0.01〜1.0%
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。
【0016】
4)上記1)〜3)のいずれかにおいて、さらに質量%で、
Nb:0.005〜0.1%、および
V:O.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。
5)上記1)〜4)のいずれかにおいて、前記鋼に適用される高周波焼きもどし条件は、加熱温度 230 〜 600 ℃、加熱時間 5 〜 60 秒であることを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。
【0017】
6) 質量%で
C:0.35〜0.7%、
Si:0.08〜1.5%、
Mn:0.2〜2.5%、
P≦0.020%、
S≦0.06%、
Al:0.005〜0.25%、
Ti:0.005〜0.1%、
B:0.0003〜0.0060%、
N:0.002〜0.02%、および
O≦0.0030%
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物よりなる組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施し、熱間圧延終了後に0.2〜10℃/sの冷却速度で冷却することにより、焼入加熱前におけるベイナイト相の組織分率が10%以上であることを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。
【0018】
7) 上記6)記載の製造方法において、前記鋼素材がさらに質量%で、Cr≦0.20%を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。
【0019】
8) 上記6)または7)記載の製造方法において、前記鋼素材がさらに質量%で、
Mo:0.02〜1.0%、
Cu≦1.0%、
Ni:0.05〜3.5%、および
Co:0.01〜1.0%
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。
【0020】
9) 上記6)乃至8)記載の製造方法において、前記鋼素材がさらに質量%で、
Nb:0.005〜0.1%、および
V:O.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の限定理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
C:0.35〜0.7%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入硬化層の硬さおよび深さを高めて、ねじり強度を向上させる上で有用である。しかしながら、C含有量が0.35%に満たないと、必要とされるねじり強度を確保するため焼入硬化深さを飛躍的に高めなければならず、その際、焼割れの発生が顕著になることから、C含有量は0.35%以上とする。一方、C含有量が0.7%を超えると、切削性および冷間鍛造性が低下し、また、ねじり試験時に脆性破壊を起こし、かえってねじり強度が低下する他、耐焼割れ性も低下する。したがって、C含有量は、0.35〜0.7%の範囲とし、好ましくは0.4〜0.6%の範囲とする。
【0022】
Si:0.08〜1.5%
Siは、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。また、フェライト中に固溶して強化するほか、焼入れ後の焼もどし時の焼もどし軟化抵抗を向上させる元素であり、このことにより、ねじり強度を向上させる。さらに、Siは脱酸元素としても有用であるため、それらの効果を発揮させる観点から、Si含有量は0.08%以上とする必要がある。しかしながら、Si含有量が1.5%を超えると、フェライトの固溶硬化により硬さが上昇し、切削性および冷間鍛造性の低下を招く。したがってSi含有量は、0.08〜1.5%の範囲とし、好ましくは0.1〜1.5%の範囲とする。
【0023】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、焼入性を向上させ、焼入時の硬化深さを確保する上で必須の成分であり積極的に添加するが、0.2%未満の添加ではその効果に乏しく、また、2.5%を超えて添加すると、焼入後の残留オーステナイトを増加させることにより、かえって表面硬さを低下させ、ねじり強度および疲労強度を低下させることになることから、Mn含有量は0.2〜2.5%の範囲とし、好ましくは0.3〜1.5%の範囲とする。
【0024】
P:0.020%以下
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、ねじり強度および疲労強度を低下させ、また、焼割れを助長する。したがって、P含有量は極力低下させるのが望ましく、具体的には、0.020%以下とする。
【0025】
S:0.06%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させるため添加するが、0.06%を超えて添加すると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、Sは、0.06%以下の添加とする。
【0026】
Al:0.005〜0.25%
Alは、脱酸に有効な元素であり低酸素化のために有用な元素であるとともに、Nと結合して、AlNを形成しこれが焼入加熱時のオーステナイト粒の成長を抑制する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。これらのことにより、ねじり強度及びねじり疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Al含有量が0.005%未満ではその効果が小さく、また、0.25%を超えてもその向上効果は期待できないばかりか、成分コストの上昇を招くことから、Alは、0.005〜0.25%の範囲の添加とし、好ましくは0.02〜0.15%の範囲とする。
【0027】
Ti:0.005〜0.1%
Tiは、鋼中でC、Nと結合し微細球状の炭化物あるいは炭窒化物を形成し、これが高周波焼きもどし後の粒界炭化物形状を球状化することで粒界強度の低下を抑制し、ねじり強度及びねじり疲労強度を向上させる。また、TiはNと結合する事で、BがBNとなりBの焼入性向上効果が消失するのを防止するため、Bの焼入性向上効果を十分発揮させるために添加する。
Tiは、0.005%未満の添加ではその効果は小さく、また、0.1%を超えて添加すると、TiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となってねじり疲労強度の低下が顕著となることから、Tiは、0.005〜0.1%の範囲とし、好ましくは0.01〜0.08%の範囲とする。
【0028】
B:0.0003〜0.0060%
Bは、微量の添加により焼入性を向上させ、焼入れ時の焼入深さを高めることによりねじり強度を向上させる。また、Bは、ベイナイト相の生成を促進し、焼入加熱時のオーステナイト粒径を微細化して粒界残留炭化物を減少させ粒界強度を高めて、ねじり強度およびねじり疲労強度を向上させる。さらに、Bは、粒界に優先的に偏析し、粒界に偏析するPの濃度を低減し、粒界強度を高めてねじり強度およびねじり疲労強度を向上させる。このため、Bは、ねじり強度およびねじり疲労強度を向上させるのに有効な元素であるため積極的に添加する。しかしながら、Bは、0.0003%未満の添加ではその効果が小さく、0.0060%を超えて添加しても、その向上効果は期待できないばかりか、成分コストの上昇を招くことから、Bは0.0003〜0.0060%の範囲の添加とし、好ましくは0.0005〜0.0040%の範囲の添加とする。
【0029】
N:0.002〜0.02%
Nは、Al、TiまたはNbと窒化物を形成し、あるいはAl、TiまたはNbとCとともに結合して炭窒化物を形成することにより、これが焼入加熱時のオーステナイトの成長を抑制することにより、粒界強度を高め、ねじり強度およびねじり疲労強度を向上させる元素であるので積極的に添加する。しかしながら、Nは、0.002%未満の添加ではその効果が小さく、また、0.02%を超えて添加すると熱間変形能を低下させることにより、連続鋳造時に鋳片の表面欠陥を著しく増加させることになることから、Nは、0.002〜0.02%の範囲の添加とし、好ましくは0.002〜0.015%の範囲の添加とする。
【0030】
O:0.0030%以下
Oは、硬質の酸化物系非金属介在物として存在するとともに、粒界に偏析し粒界強度を低下させる。また、O含有量の増大は、酸化物系非金属介在物のサイズを非常に粗大化させる。これらは、特にねじり疲労強度に有害であるため、O含有量は、極力低減することが望ましく、具体的には0.0030%以下に低減する必要がある。なお、O含有量は、好ましくは0.0020%以下とする。
【0031】
上記の化学組成の他に本発明においては、必要に応じて、Cr:0.20%以下を含有させることができる。
Cr:0.20%以下
Crは、焼入性向上元素であり、この目的のために添加することができる。しかしながら、Crは、炭化物を安定化させて残留炭化物生成を促進し、粒界強度を低下させるため、ねじり強度及びねじり疲労強度を劣化させることから、Cr添加量は極力低下させるべきであり、具体的には0.20%以下とし、好ましくは0.05%以下とする。
【0032】
また、本発明においては、必要に応じて、Mo:0.02〜1.0%、Cu≦1.0%、Ni:0.05〜3.5%、およびCo:0.01〜1.0%から選ばれる1種または2種以上を含有させることができる。これらの元素の添加範囲の限定理由は以下の通りである。
【0033】
Mo:0.02〜1.0%
Moは、粒界に偏析するP等の不純物元素を低減させることにより粒界強度を高め、脆性破壊を抑制することにより、ねじり強度およびねじり疲労強度を向上させる作用がある。また、Moはベイナイト相の生成を促進する効果がある。さらに、Moは焼入性向上に有用な元素であり、焼入性を調整するため必要量添加することが好ましい。加えて、Moは、焼もどし軟化抵抗を向上させるので、ねじり強度の向上にも有効な元素である。このように本目的においては、Moは好適な選択的添加元素である。しかしながら、Moは、0.02%未満の添加ではその効果が小さい。一方、Moを1.0%を超えて添加すると、圧延材の硬さが著しく増加して加工性を低下させるとともに、例えば高周波焼入のような急速短時間加熱の場合には、オーステナイト中への溶解が困難な炭化物を形成しやすくなる。このため、Moは、0.02〜1.0%の範囲の添加とすることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.7%の範囲の添加とする。
【0034】
Cu:1.0%以下
Cuは、炭化物生成を抑制することにより炭化物による粒界強度の低下を抑制して、ねじり強度及びねじり疲労強度を向上させる元素である。また、Cuは、焼入性向上に有効な元素であり、さらに、フェライト中に固溶して鋼を強化して、ねじり強度を向上させる。しかしながら、Cuは、1.0%を超えて添加すると熱間加工性を阻害するため1.0%以下の添加とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下とする。
【0035】
Ni:0.05〜3.5%
Niは、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制してねじり強度及びねじり疲労強度を向上させる元素である。また、Niは、焼入性を向上させる元素であるので、焼入性を調整する場合に用いることができる。しかしながら、Niは、0.05%未満の添加ではその効果が小さい。一方、Niは極めて高価な元素であるので3.5%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するため好ましくない。このため、Niは、0.05〜3.5%の範囲の添加とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0%の範囲とする。
【0036】
Co:0.01〜1.0%
Coは、炭化物生成を抑制することにより炭化物による粒界強度の低下を抑制し、ねじり強度及びねじり疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは、0.01%未満の添加ではその効果が小さい。一方、Coは、極めて高価な元素であるので、1.0%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するため好ましくない。このため、Coは、0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.5%の範囲とする。
【0037】
さらに本発明においては、必要に応じて、Nb:0.005〜0.1%およびV:O.01〜0.5%から選ばれる1種または2種を添加することができる。これらの元素の添加範囲の限定理由は以下の通りである。
【0038】
Nb:0.005〜0.1%
Nbは、鋼中でC、Nと結合し微細球状の炭化物あるいは炭窒化物を形成し、これが高周波焼きもどし後の粒界炭化物形状を球状化することで粒界強度の低下を抑制する。また、Nbは、析出強化作用の極めて強い元素であることと、焼もどし軟化抵抗を向上させる元素である。これらのことにより、ねじり強度およびねじり疲労強度を向上させる。しかしながら、Nbは、0.005%未満の添加ではその効果が小さい。一方、Nbは0.1%を超えて添加しても、その向上効果は期待できないばかりか、成分コストの上昇を招くため好ましくない。このため、Nbは、0.005〜0.1%の範囲の添加とすることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.05%以下の範囲の添加とする。
【0039】
V:O.01〜0.5%
Vは、鋼中でC、Nと結合し微細球状の炭化物あるいは炭窒化物を形成し、これが高周波焼きもどし後の粒界炭化物形状を球状化することで粒界強度の低下を抑制する。またVは、析出強化作用の極めて強い元素であることと、焼もどし軟化抵抗を向上させる元素である。これらのことにより、ねじり強度およびねじり疲労強度を向上させる。しかしながら、Vは、0.01%未満の添加ではその効果が小さい。一方、Vは0.5%を超えて添加しても、その向上効果は期待できないばかりか、成分コストの上昇を招くため好ましくない。このため、Vは、0.01〜0.5%の範囲の添加とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.3%の範囲の添加とする。
【0040】
また、本発明においてはベイナイト相の組織分率(面積率)を10%以上とする。この理由は、ベイナイト相の組織分率が10%未満の場合、焼入加熱時、特に高周波加熱のような急速短時間加熱の場合の炭化物溶解が遅くなることおよびベイナイト相の組織分率が10%以上(本発明範囲内)の場合に比べ、オーステナイト粒径が粗大化するため、高周波焼きもどし後に粒界炭化物が多数存在するようになる。さらに、オーステナイト粒径が粗大化することにより、P等の粒界偏析不純物量が増えるため粒界強度が低下する。これらのことにより、粒界強度が低下するため、ねじり強度およびねじり疲労強度が低下する。なお、ベイナイト相の組織分率は好ましくは20%以上とする。ベイナイト組織以外の残りの組織は、フェライト、パーライト等いずれでも良く特に規定はしない。
【0041】
さらに、本発明における高周波焼もどし用鋼の製造方法は、上記化学組成を満足する鋼素材、例えば鋳片に仕上温度900℃以上にて熱間圧延を施し、熱間圧延終了後に0.2〜10℃/sの冷却速度で冷却することを特徴とする。熱間圧延終了後の冷却は、0.2℃/s未満の冷却速度の場合、フェライト、パーライト等の徐冷組織が生成してベイナイト組織が得られがたくなり、ベイナイト相の組織分率を10%以上にすることができなくなる場合が生じ、かかる場合には、十分なねじり強度およびねじり疲労強度が得られなくなる。一方、冷却速度が10℃/sを超えると、マルテンサイト等の硬質相が生成促進される結果、ベイナイト相の組織分率を10%以上にすることができなくなる場合が生じ、かかる場合には、十分なねじり強度およびねじり疲労強度が得られなくなる。このため、熱間圧延終了後の冷却は、0.2〜10℃/sの冷却速度で行うことが必要である。なお、かかる冷却速度は、好ましくは0.3〜6℃/sの範囲とする。
また、熱間圧延の仕上温度は、適正組織分率のベイナイト相生成の観点から、900℃以上とする。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
表1に示す化学組成の鋼を転炉−連続鋳造プロセスにより溶製した。鋳造時の鋳片サイズは300mm×400mmあった。この鋳片をブレークダウン工程を経て150mm角ビレットに圧延したのち24〜60mmφの棒鋼に熱間圧延した。熱間圧延の仕上温度は、850〜960℃の範囲で行った。熱間圧延後の冷却は、0.3〜15℃/sの各種冷却速度で行った。この棒鋼を用いて、段付ねじり試験片(段底部応力集中係数1.5、段底部径20mmφ)を作製し、周波数15kHzの高周波焼入装置を用いて焼入れた後、同じく高周波焼入装置により表2に示すような条件で高周波加熱を行うことによって焼もどし処理を行った後、ねじり試験を行った。ねじり強度試験は、最大トルク4900N・mのねじり試験機を用いて、最大ねじりせん断応力を求め、ねじり強度とした。ねじり疲労強度試験は、最大トルク4900N・mのねじり試験機を用いて、両振りで応力条件を変えて行い、1×105回で寿命となる応力を疲労強度として評価した。これらの評価結果を表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表2において、試験片No.1〜No.8は本発明例であり、試験片No.9〜No.19は比較例である。
表2に示す結果から、本発明例である試験片No.1〜8はいずれも、ねじり強度が2000 MPa以上であり、かつ、ねじり疲労強度が777 MPa以上であり、ねじり強度およびねじり疲労強度に優れている。
一方、比較例である試験片No.9〜16はいずれも、鋼中の化学組成が本発明の範囲外であるため、ねじり強度およびねじり疲労強度とも本発明例に比較して低い。
比較例である試験片No.17は、鋼中の化学組成については本発明の範囲内であるが、熱間圧延終了後の冷却速度が本発明の範囲外であるため、その結果、ベイナイト相の組織分率が本発明の範囲外となり、ねじり強度およびねじり疲労強度ともに本発明例に比較して低い。
比較例である試験片No.18は、化学組成については本発明の範囲内であるが、高周波焼入後の焼もどしが本発明範囲外の炉加熱により行った場合であり、焼きもどし時間が高周波焼きもどしの場合に比べ30分間と長時間を要しており、しかも、ねじり強度およびねじり疲労強度ともに本発明例に比較して低い。
比較例である試験片No.19は、化学組成については本発明の範囲内であるが、仕上温度が低いため、結果としてベイナイト相の組織分率が低く、ねじり強度およびねじり疲労強度ともに本発明例に比較して低い。
【0046】
【発明の効果】
本発明の高周波焼もどし用鋼およびその製造方法を用いれば、その後に施される高周波焼入−高周波焼もどしプロセスによって製造される製品、すなわち、ねじり強度およびねじり疲労強度に優れた鋼材を提供することが可能であり、これは、産業上の利用価値が大である。
Claims (9)
- 質量%で
C:0.35〜0.7%、
Si:0.08〜1.5%、
Mn:0.2〜2.5%、
P≦0.020%、
S≦0.06%、
Al:0.005〜0.25%、
Ti:0.005〜0.1%、
B:0.0003〜0.0060%、
N:0.002〜0.02%、および
O≦0.0030%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる組成を有し、かつ焼入加熱前におけるベイナイト相の組織分率が10%以上であることを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。 - 請求項1において、さらに質量%で、
Cr≦0.20%を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。 - 請求項1または2において、さらに質量%で、
Mo:0.02〜1.0%、
Cu≦1.0%、
Ni:0.05〜3.5%、および
Co:0.01〜1.0%
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。 - 請求項1〜3のいずれかにおいて、さらに質量%で、
Nb:0.005〜0.1%、および
V:O.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。 - 請求項1〜4のいずれかにおいて、前記鋼に適用される高周波焼きもどし条件は、加熱温度 230 〜 600 ℃、加熱時間 5 〜 60 秒であることを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼。
- 質量%で
C:0.35〜0.7%、
Si:0.08〜1.5%、
Mn:0.2〜2.5%、
P≦0.020%、
S≦0.06%、
Al:0.005〜0.25%、
Ti:0.005〜0.1%、
B:0.0003〜0.0060%、
N:0.002〜0.02%、および
O≦0.0030%
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物よりなる組成を有する鋼素材に、仕上温度900℃以上で熱間圧延を施し、熱間圧延終了後に0.2〜10℃/sの冷却速度で冷却することにより、焼入加熱前におけるベイナイト相の組織分率が10%以上であることを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。 - 請求項6記載の製造方法において、前記鋼素材がさらに質量%で、Cr≦0.20%を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。
- 請求項6または7記載の製造方法において、前記鋼素材がさらに質量%で、
Mo:0.02〜1.0%、
Cu≦1.0%、
Ni:0.05〜3.5%、および
Co:0.01〜1.0%
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。 - 請求項6〜8のいずれか記載の製造方法において、前記鋼素材がさらに質量%で、
Nb:0.005〜0.1%、および
V:O.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする、短時間の高周波焼きもどし処理を行った場合でもねじり強度およびねじり疲労強度に優れる高周波焼もどし用鋼の製造方法。
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