JP3931573B2 - 直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気通路に直列に配置された高圧段側タービン及び低圧段側タービンと、吸気通路に直列に配置され該高圧段側タービン及び該低圧段側タービンによって各々駆動される高圧段側コンプレッサ及び低圧段側コンプレッサを備えた直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンのように出力の調整を吸入空気量によって行わないためターボチャージャーとの相性がよく、燃費の悪化や騒音の悪化を招くことなく出力の向上を図ることが出来ることはよく知られている。
【0003】
また、近年においては更なる出力及び燃費の向上を目指してターボチャージャーを複数個配設してより無駄のない排気エネルギーの回収を行い、燃費の向上とより高い過給圧力を得るためのシステムも提案されている(実開昭59−1833号、実開昭61−57135号)。
【0004】
例えば実開昭59−1833号に見られる過給エンジンでは、ディーゼルエンジンの排気通路に直列に配置された高圧段側タービン及び低圧段側タービンと、該ディーゼルエンジンの吸気通路に直列に配置され該高圧段側タービン及び該低圧段側タービンによって各々駆動される高圧段側コンプレッサ及び低圧段側コンプレッサと、該高圧段側タービンの上流側と該高圧段側タービンと低圧段側タービン間の排気通路を連結するバイパス通路、及び該バイパス通路の開度を調節するバイパス弁とを備え、バイパス弁をエンジン回転速度と負荷に基づき開度制御を行っている。
【0005】
一方、本出願人は、直列2段過給ディーゼルエンジンにおいて、少なくとも全負荷領域においてはバイパス弁開度をエンジン回転速度に対応して細かく線形的に制御するシステムを特願平11−327236号として提案した。これは、直列2段過給ディーゼルエンジンにおける高圧段側の吸気コンプレッサの圧力比が、エンジン回転速度とバイパス弁の開度を固定した場合、エンジン負荷(燃焼噴射量)にほぼ比例するのであり、エンジン負荷(燃料噴射量)は通常ドライバーの意思であるアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)とエンジン回転速度により略一義的に決められるものであるから、バイパス弁の開度を決める際には基本的にはエンジン回転速度のみに基づいて決定すればよい、という知見に基づくものである。
【0006】
以下、図8に基づき従来の直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置について説明する。
シリンダブロックおよびシリンダヘッド等からなるエンジン本体2には吸気マニホールド3及び排気マニホールド4が配設され、この吸気マニホールド3及び排気マニホールド4にはそれぞれ吸気通路5および排気通路6が接続されている。排気通路6にはエンジン側から順に高圧段側タービン71とその下流に低圧段側タービン81が配設されており、吸気通路5には上記高圧段側タービン71によって駆動される高圧段側コンプレッサ72と上記低圧段側タービン81によって駆動される低圧段側コンプレッサ82が配置されている。よって高圧段側タービン71と高圧段側コンプレッサ72により高圧段側ターボチャージャー7が構成され、低圧段側タービン81と低圧段側コンプレッサ82により低圧段側ターボチャージャー8が構成されている。また、排気通路6には高圧段側タービン7の上流側と高圧段側タービンの下流側で低圧段側タービンの上流側である排気通路を連結するバイパス通路9が設けられており、このバイパス通路9にはバイパス通路の断面積を変化させるバイパス弁10が配設されている。このバイパス弁10は、制御手段12によってエンジンの図示しないフライホイール近傍に設けられるエンジン回転速度検出手段である回転速度センサ11から検出したエンジン回転速度と、図9に示すようなエンジン回転速度をパラメータとするバイパス弁開度マップにより決定した値により開度が制御される。
【0007】
上記吸気通路5における低圧段側コンプレッサ82と高圧段側コンプレッサ72との間には低圧段側コンプレッサ82にて圧縮され温度が上昇した吸気を冷却するインタークーラ13が配設され、高圧段側コンプレッサ72の下流側には高圧段側コンプレッサ72にて圧縮され温度が上昇した吸気を冷却するインタークーラ14が配設されている。上記のバイパス弁開度マップは、各エンジン回転速度領域において良好な燃費と出力特性が得られるように設定される。図9に示す従来のバイパス弁開度マップは、対応するエンジン回転速度領域300回転毎にその領域の中央値に相当するNcを領域名として定義しており、検出したエンジン回転速度からNcを特定し、そのNcに対応するバイパス弁開度を決めてバイパス弁を制御している。例えば、エンジン回転速度が1101rpm〜1400rpmに含まれる場合は、Nc=1250の領域に含まれると判定し、1250rpmにおける予め定義された最適なバイパス弁開度、つまり15%開度に基づき制御を行う。
【0008】
なお、従来は図9に示すバイパス弁開度マップのNc領域毎にバイパス弁開度の制御を一律に行っているが、現実的には隣り合うNcのバイパス弁開度同士で線形補間し合い、エンジン回転速度毎にきめ細やかにバイパス弁開度の制御を行うことも出来る。例えばエンジン回転速度が1100rpmの時には、5%+(15%−5%)÷(1250−950)×(1100−950)=10%、つまりバイパス弁開度を10%とする、といった具合にである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記したような直列2段過給ディーゼルエンジンにおいては、各エンジンごとに性能や特性に多少ならずともばらつきがあり、またエンジン出荷後の運転状態により発生する経時変化もエンジン毎に異なってくる。特にバイパス通路の断面積を制御しているバイパス弁は高温で、且つ煤を含む排気ガスの通路に置かれるため、その開度特性が時間の経過とともに変化し、当初の目標開度が得られなくなってくるという問題が生じている。
【0010】
バイパス弁の開度が目標に対してずれてくると高圧段側タービンと低圧段側タービンとの仕事比率が目標と異なってくるため、エンジンの燃費率や出力にも影響が出てくる。また、経時変化に影響されないように、常に圧力を監視して目標の圧力比になるようにバイパス弁開度のフィードバック制御を行うことが考えられるが、エンジン回転速度と負荷の変化に対するターボチャージャーの応答、及びターボチャージャーの仕事の変化に対する圧力比変化には相当な時間遅れが介在し、運転状態が刻々と変化するディーゼルエンジンにおけるターボチャージャーに対して常にフィードバック制御を行うことはパラメータの設定(例えばPID制御を行う場合のPIDゲインの設定)が極めて困難であるとともに、制御値が定まらず、却って制御の安定性を損ねる畏れもある。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、その主たる技術的課題は、上記バイパス弁の開度を基本的にはマップに基づく制御で行いつつ、経時変化に対応して目標の圧力比が得られるようにバイパス弁の開度を制御する直列2段過給デーゼルエンジンの制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記した技術的課題を解決するために、本発明によれば、ディーゼルエンジンの排気通路に直列に配置された高圧段側タービン及び低圧段側タービンと、該ディーゼルエンジンの吸気通路に直列に配置され該高圧段側タービン及び該低圧段側タービンによって各々駆動される高圧段側コンプレッサ及び低圧段側コンプレッサと、該高圧段側タービンの上流側と該高圧段側タービンと低圧段側タービン間の排気通路を連結するバイパス通路、及び該バイパス通路の開度を調節するバイパス弁とを備え、エンジン回転速度に応じて該バイパス弁の開度を調整するように構成した直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置において、
エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、該高圧段側コンプレッサの上流側と下流側の給気圧力をそれぞれ検出する第1及び第2の圧力検出手段と、エンジンの負荷状態を検出するエンジン負荷検出手段と、少なくともエンジン回転速度をパラメータとするバイパス弁開度マップと、該バイパス弁開度マップの更新要求状態を検出する更新要求状態検出手段と、エンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとする高圧段側コンプレッサの目標圧力比マップと、これらの検出手段からの信号と各マップに基づき該バイパス弁の開度を決定し該バイパス弁を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、該更新要求状態検出手段により該バイパス弁開度マップの更新要求状態が検出されたときは、エンジン回転速度が所定の期間において変化がない場合で、該目標圧力比マップにより得られる目標圧力比と該第1、第2の圧力検出手段によって検出された検出値に基づく実圧力比を比較して該実圧力比が該目標圧力比よりも小さい場合は該バイパス弁に出力するバイパス弁開度信号をバイパス弁開度が小さくなるように補正し、該実圧力比が該目標圧力比よりも大きい場合は該バイパス弁開度信号をバイパス弁開度が大きくなるように補正し、該実圧力比と該目標圧力比との偏差が所定の期間所定範囲内であると認められるときに、該補正の結果得られたバイパス弁開度信号に基づいて該バイパス弁開度マップを更新する、
ことを特徴とする直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、ディーゼルエンジンの排気通路に直列に配置された高圧段側タービン及び低圧段側タービンと、該ディーゼルエンジンの吸気通路に直列に配置され該高圧段側タービン及び該低圧段側タービンによって各々駆動される高圧段側コンプレッサ及び低圧段側コンプレッサと、該高圧段側タービンの上流側と該高圧段側タービンと低圧段側タービン間の排気通路を連結するバイパス通路、及び該バイパス通路の開度を調節するバイパス弁とを備え、エンジン回転速度に応じて該バイパス弁の開度を調整するように構成した直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置において、
エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、該高圧段側コンプレッサの上流側と下流側の給気圧力をそれぞれ検出する第1及び第2の圧力検出手段と、エンジンの負荷状態を検出するエンジン負荷検出手段と、少なくともエンジン回転速度をパラメータとするバイパス弁開度マップと、該バイパス弁開度マップの更新要求状態を検出する更新要求状態検出手段と、エンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとする高圧段側コンプレッサの目標圧力比マップと、これらの検出手段からの信号と各マップに基づき該バイパス弁の開度を決定し該バイパス弁を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、該更新要求状態検出手段により該バイパス弁開度マップの更新要求状態が検出されたときは、エンジン回転速度が所定の期間において変化がない場合で、該目標圧力比マップにより得られる目標圧力比と該第1、第2の圧力検出手段によって検出された検出値に基づく実圧力比を比較してその偏差に基づきバイパス弁開度の補正値を演算し、該補正値に基づいて該バイパス弁開度マップを更新する、
ことを特徴とする直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置が提供される。
【0014】
上記バイパス弁開度マップの更新要求状態検出手段は、ディーゼルエンジンの運転積算値を検出しても良いし、人為的に与えられる更新を要求する外部スイッチの入力信号を検出しても良い。なお、運転積算値はエンジンの作動状態でタイマーを起動してエンジン作動状態での総時間を演算しても良いし、また、車両に搭載したディーゼルエンジンにおいては車両の走行距離を単純に監視することでも良い。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図1は本発明に基づき構成された直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置の一実施形態を示す概略図である。なお、図1に示す実施形態においては上記図8で示した従来の直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置と同じ構成部材には同一の番号を付して詳細な説明は省略する。以下、図1に示す実施形態について図8、図9に示す従来技術と相違する点を述べる。
【0016】
図1に示す実施形態においては、高圧段側コンプレッサ72の上流側と下流側の給気圧力をそれぞれ検出する第1の圧力センサ15及び第2の圧力センサ16を具備している。第1の圧力センサ15は高圧段側コンプレッサ72と低圧段側コンプレッサ82との間の吸気通路5に配設されており、第2の圧力センサ16は高圧段側コンプレッサ72の下流側の吸気通路5に配設されている。この第1の圧力センサ15及び第2の圧力センサ16による検出信号は制御手段12に随時送られる。また、制御手段12には、アクセル開度検出手段としてのアクセルセンサ17と、バイパス弁開度マップの更新を任意で要求するための更新要求スイッチ18が接続されている。なお、制御手段12は、アクセル開度とエンジン回転速度と図6に示す燃料噴射量マップとにより、エンジン負荷(LD)としての燃料噴射量(Q)を算出するエンジン負荷検出手段を有している。
【0017】
また、制御手段12は、上記第1の圧力センサ15及び第2の圧力センサ16からの検出値(P1、P2)を用いて高圧段側コンプレッサの過給仕事である実圧力比(PR=P2/P1)を演算する。更に制御手段12は制御上必要となる、時間計測のためのタイマ機能(T)およびプログラムルーチン回数をカウントするカウンタ機能(F)を有している。
【0018】
本発明の実施形態では、図2に示すようなエンジン回転速度をパラメータとするバイパス弁開度マップからバイパス弁開度を決定するようになっており、この点については上述した従来技術と変わりはない。従来技術のバイパス弁開度マップに対して異なる点は、各Nc毎にそのバイパス弁開度X(Nc)が定期的に更新され、最後に更新がなされた時の最新更新距離が記録されている点である。以下に本発明の作動を説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態における制御手段のフローチャートを図3に示す。フローチャートはエンジンが始動された後、通常の燃料噴射量に基づく制御に移行した後にスタートする。エンジンの始動制御及び通常の燃料噴射量の制御については本発明には関与しないのでここでは詳細を省略する。本フローチャートがスタートすると、まずステップS1においてエンジン回転速度検出手段としてのエンジン回転速度センサ17からの検出値Neをエンジン回転速度N1として読み込む。ステップS2ではステップS1で読み込んだN1に基づき、図2に示すバイパス弁開度マップを参照して対応するNc領域に対応するバイパス弁開度X(Nc)を特定し、バルブ開度制御信号Vとして出力する(V←X(Nc))。
【0020】
ステップS3の判断ステップはバイパス弁開度マップの更新要求状態検出手段として機能する。図2に示すバイパス弁開度マップには、Nc領域毎に最後に更新がなされた時点での走行距離が最新更新距離Y(Nc)として記録されている。ステップS2において現在のNc領域が特定されているので、該当するNc領域のバイパス弁開度の更新が最後に行われてからどのくらいの走行距離を走っているかを、最新更新距離Y(Nc)と現在の車両走行距離Yに基づき確認する(Y−Y(Nc))。過去所定期間の間(例えば5000km以内)に更新がなされていたか、または更新を要求する更新要求スイッチがONになっているかを判断する。ここで、所定期間内に更新がなされており、つまりY−Y(Nc)<5000kmで、かつ更新要求スイッチがONであると認められない場合は、更新要求がない、と判断してリターンする。ちなみに更新要求スイッチとは、工場出荷時や整備工場において、あるいは通常走行中でも操作者が任意に更新要求を制御手段に与えることが出来るスイッチ18のことである。
【0021】
なお、更新がいつなされたかをここでは走行距離を用いて判断したが、走行距離ではなく、運転の積算時間を用いても良いし、エンジン回転数の積算値などを用いても良い。要するにエンジンの使用頻度を検出するための代用値であれば如何なる値を用いても本ロジックに採用は可能である。また更新要求スイッチについてはドライバーが任意に操作できる手動スイッチで実施可能であるが、工場出荷時や定期点検整備時に制御装置に接続されるコンピュータからの更新要求信号であっても構わない。
【0022】
もし、 ステップS3において更新要求がある(現在の走行距離−最新更新距離>=5000km OR 更新要求スイッチON)と判断される場合はステップS4に進み、まず更新要求を検知してからの時間Tsについてリセット(Ts=0)しカウントを開始する。次にステップS5で、改めて現在のエンジン回転速度(N2)を検出し、ステップS6において上記ステップS2でバイパス弁開度マップにより特定されたエンジン回転速度領域の中央値としてのNcとの偏差を演算する。このNcはステップS1にて検出したN1とバイパス弁開度マップに基づくものである。そしてN2がNc近傍にある(前後50rpm内)ときにのみ更新可能であると判断する。更にステップS7ではTsの計時開始から3sec以上経過しているか否かを確認する。これはエンジン回転速度が変化してから吸気コンプレッサの圧力比が安定するまでの時間を考慮したものであり、ターボチャージャーの特性、及び許容する精度に応じて任意に設定できるものである。ただし、必ずしも時間によるタイマに限らず、繰返しルーチンによるカウンタによっても可能である。
【0023】
ステップS7においてTsの計時が3sec以上経過していない場合は、再びステップS5に戻り現在のエンジン回転速度N2がNc近傍にとどまり安定していることを確認(ステップS5,ステップS6)した上でカウントを継続する。Tsが3sec以上経過したことが確認されれば、ターボチャージャーによる吸気コンプレッサの圧力比が安定したと判断してステップS8に進む。
【0024】
ステップS8において、カウンタFをリセットし、次にステップS9にてエンジンの負荷検出手段から負荷(LD)を検出する。実際にはアクセルセンサ17からアクセル開度を読み取り、アクセル開度とエンジン回転速度(N2)をパラメータとする図6に示すような燃料噴射量マップから、燃料噴射量(Q)をエンジン負荷(LD)として検出する。
【0025】
次にステップS10では、先のステップS9にて検出したエンジン負荷(LD)とエンジン回転速度(N2)をパラメータとする図4に示すような目標圧力比マップにより高圧段吸気コンプレッサ前後の目標圧力比(PRt)を演算する。この目標圧力比マップは高圧段吸気コンプレッサの特性に合わせて主に燃費、出力、そして耐久性などを考慮し適宜決めることが出来る。更に高圧段側コンプレッサの上流側と下流側に配置された圧力検出手段としての第1の圧力センサ15及び第2の圧力センサ16からの検出信号(P1、P2)に基づいて圧力比を演算する。前述したように圧力比(PR)はPR=P2/P1である。
【0026】
ステップS11において、先のステップS10にて演算した圧力比(PR)及び目標圧力比(PRt)を用いてその偏差(ずれ量)を演算し、その目標圧力比(PRt)に対するずれ量の割合(|(PR−PRt)/PRt|)を求め、その値が許容範囲(ε)内か否か判断する。許容範囲(ε)も使用者のニーズに合わせ適宜決定することが出来るが、ここでは0.02〜0.03程度(2〜3%)が好ましい。また、許容範囲(ε)については、目標圧力比の絶対値に応じて変化させても良く、その時は目標圧力比が大きい程許容範囲(ε)を大きめに設定する方が望ましい。ステップS11で、偏差が所定値よりも大きい、つまり経年変化等による制御ずれが発生していると認められる場合はステップS12に進む。
【0027】
ステップS12ではバイパス弁開度信号Vのフィードバック制御を行う。具体的には目標圧力比が実際の圧力比よりも大きい場合はバイパス弁開度信号Vにより過給仕事を増やす必要があるのでバイパス弁開度信号Vを小さくするようにバイパス弁開度信号Vを補正し、目標圧力比が実圧力比よりも小さい場合はバイパス弁開度Vにより過給仕事を減らす必要があるのでバイパス弁開度信号Vを大きくするようにバイパス弁開度信号Vを補正する。このフィードバック制御についてはPID制御を採用し、偏差に比例したパラメータと偏差の変化率を考慮したパラメータと偏差の時間的変化の積分値に比例するパラメータを考慮してバイパス弁開度Vに対する補正値(α)が決定される(V←V+α)。詳細は一般的に用いられるPID制御を行うだけなのでここでは省略する。フィードバック制御を行っている最中ではステップS8にあるようにFは常にリセットされる。なお、実際の圧力比が目標圧力比に一致するようにフィードバック制御している間でも、ステップS5からのフローチャートを通すことによりエンジン回転速度がNcに対して前後50rpm以上ずれた場合は更新作業を即座に停止(S6でリターンされる)するようになっている。また、ここではPID制御を行うこと、としたがフィードバック制御におけるバイパス弁の作動特性によってはαを決定するための制御として、PI制御或いはPD制御とするなど適宜選択が可能である。
【0028】
上記ステップS11で実際の圧力比(PR)と目標圧力比(PRt)が略一致する(ずれがε以内)と判断された場合はFを1づつカウント(ステップS13)して所定回数中に圧力比が目標圧力比に対して殆ど変化しないか否か、つまり収束しているか否かを判断する。このFをカウント中に目標圧力比(PRt)から実際の圧力比(PR)がずれた場合(ステップS10)は再度フィードバック制御を実施することになり、エンジン回転速度N2がNcから50rpm以上ずれた場合も、即座に更新作業が停止される。
【0029】
ステップS14でFが20カウント超えたと判断された場合は高圧段側コンプレッサの圧力比が目標圧力比に対して所定の期間近接していると認められることを示し、バイパス弁開度に対して圧力比が収束していると判断されるので、ステップS15に進み、該当するバイパス弁開度X(Nc)を、補正された最新のバイパス弁開度信号Vで更新する。この時にはバイパス弁開度のみならず、その時の車両の走行距離を最新更新距離としてバイパス弁開度マップに保存される。なお、図2に示すように、バイパス弁開度が更新された場合には、更新前の値をNc毎にXold(Nc)として保存する。Xold(Nc)はX(Nc)の値が何らかの原因で消去(或いは破損)されてしまった場合のバックアップ用の代用値として使用したり、また、X(Nc)とXold(Nc)を比較してあまりに偏差が大きい場合は故障である、と判断する故障診断に用いることも可能である。
【0030】
以上により、バイパス弁開度マップを更新できるようになったので、経時変化や何らかの不具合によりエンジン回転速度によるバイパス弁開度制御が初期状態で意図したように働かなくなっていても、定期的にまたは任意に修正でき直列2段過給ディーゼルエンジンの制御が良好に行われる。また、バイパス弁開度のマップ更新にあたり、実際の圧力比を目標圧力比に一致させるようにフィードバック制御を実行し収束したのを確認した後にマップを書き換えているので、正確な信頼できる値に更新されることになる。
【0031】
次に第2の実施形態を以下に説明する。なお、全体構成は図1に示した第1の実施形態と全く同一であり、フローチャートが異なるのみであるので新たに示す図5のフローチャートに基づき説明する。
なお、ステップS1からステップS7までは上記図3に示す第1の実施形態と同一であるのでここでは説明を省略する。
【0032】
第1の実施形態と同様に、ステップS7においてタイマー機能によりTsが3sec以上になった場合はステップS9,ステップS10に進む。ステップS9、ステップS10における作動は第1の実施形態と全く同一のであり、目標圧力比(PRt)と実際の圧力比(PR)の演算を行う。次にステップS101に進み、目標圧力比(PRt)と実際の圧力比(PR)との偏差からその偏差に応じたバイパス弁開度信号V(=X(Nc))に対する補正値Hを演算する。具体的には
H=V×((PRt−PR)/PRt)×K
とする。なお、上記補正値Hを演算する式において、Kは補正値Hを決定する際に用いる係数値であり、図7に示すようなエンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとするマップに基づき決定される。係数値Kはエンジン回転速度が高く、エンジン負荷が大きい程大きく設定されるようになっている。V×(PRt−PR)/PRtは圧力比のずれ量を比率で演算し、現在のバイパス弁開度Vにかけることにより単純な補正値を演算するものである。この値で補正すれば1%の圧力比のずれに対して単純にバイパス弁開度が1%補正されるようになるが、実際にはコンプレッサを通過する吸気の流量によって圧力比の改善度合いが全く異なっているため一律に採用することは好ましくない。例えば吸気の流量が大きい場合はバイパス弁開度を変えても圧力比への影響が小さくなかなか変化しないが、逆に吸気の流量が少ない場合はバイパス弁開度を少し変えただけで圧力比が大きく変化してしまう。そこで、この図7のマップにより吸気の流量が大きくなる右上方の位置では係数値Kが大きくなるように、左下方部方向では係数値Kを小さくするように設定する。なお、この補正値の決定の仕方は、使用者が任意に決定できるものであり影響が少なければKを一律としても構わないし、更に他の要素を追加してKを決定したりしても良い。要するに重要なのは、目標と実際の圧力比の偏差に応じてバイパス弁開度の補正値が適切に決定されるところにある。
【0033】
次にステップS102では、ベースとなるバイパス弁開度信号VとステップS101において決定された補正値Hとに基づき、バイパス弁開度マップのバイパス弁開度X(Nc)が更新される。X(Nc)が新しいバイパス弁開度に更新された場合は第1の実施形態と同様にその時の車両の走行距離が記録され、また更新前のバイパス弁開度がXoldとして保存される。
【0034】
以上のように第2の実施形態では、高圧段吸気コンプレッサの実際の圧力比と目標圧力比との偏差に基づき直接的に補正量を求め、即座にマップが更新されるので更新が速やかに実行される。
【0035】
【発明の効果】
以上の発明によれば、直列2段過給のディーゼルエンジンにおいて高圧段側の排気タービンをバイパスするバイパス通路およびバイパス通路にバイパス弁を設けてコンプレッサの圧力比を制御するようにした場合においても、バイパス弁開度を基本的にはマップに基づく制御で行いつつ、経時変化に対応して目標の圧力比が得られるようにバイパス弁の開度を制御することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づき構成された直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置
【図2】直列2段過給ディーゼルエンジンの排気通路に設けられたバイパス弁の開度マップ
【図3】本発明の基づく第1の実施形態を示す直列2段過給ディーゼルエンジンの制御手段に関わるフローチャート
【図4】本発明における目標圧力比を求めるマップ
【図5】本発明の基づく第2の実施形態を示す直列2段過給ディーゼルエンジンの制御手段に関わるフローチャート
【図6】本発明に関わる燃料噴射量マップ
【図7】本発明に関わるバイパス弁開度補正係数マップ
【図8】従来の直列2段過給ディーゼルエンジンの構成図
【図9】従来技術におけるバイパス弁開度マップ
【符号の説明】
2 ディーゼルエンジン
3 吸気マニホールド
4 排気マニホールド
5 吸気通路
6 排気通路
7 高圧段側ターボチャージャー
71 高圧段側タービン
72 高圧段側コンプレッサ
8 低圧段側ターボチャージャー
81 低圧段側ターボチャージャー
9 バイパス通路
10 バイパス弁
11 エンジン回転速度センサ
12 制御手段
13、14 インタークーラ
15 第1の圧力センサ
16 第2の圧力センサ
17 アクセルセンサ
18 更新要求スイッチ
Claims (6)
- ディーゼルエンジンの排気通路に直列に配置された高圧段側タービン及び低圧段側タービンと、該ディーゼルエンジンの吸気通路に直列に配置され該高圧段側タービン及び該低圧段側タービンによって各々駆動される高圧段側コンプレッサ及び低圧段側コンプレッサと、該高圧段側タービンの上流側と該高圧段側タービンと低圧段側タービン間の排気通路を連結するバイパス通路、及び該バイパス通路の開度を調節するバイパス弁とを備え、エンジン回転速度に応じて該バイパス弁の開度を調整するように構成した直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置において、
エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、該高圧段側コンプレッサの上流側と下流側の給気圧力をそれぞれ検出する第1及び第2の圧力検出手段と、エンジンの負荷状態を検出するエンジン負荷検出手段と、少なくともエンジン回転速度をパラメータとするバイパス弁開度マップと、該バイパス弁開度マップの更新要求状態を検出する更新要求状態検出手段と、エンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとする高圧段側コンプレッサの目標圧力比マップと、これらの検出手段からの信号と各マップに基づき該バイパス弁の開度を決定し該バイパス弁を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、該更新要求状態検出手段により該バイパス弁開度マップの更新要求状態が検出されたときは、エンジン回転速度が所定の期間において変化がない場合で、該目標圧力比マップにより得られる目標圧力比と該第1、第2の圧力検出手段によって検出された検出値に基づく実圧力比を比較して該実圧力比が該目標圧力比よりも小さい場合は該バイパス弁に出力するバイパス弁開度信号をバイパス弁開度が小さくなるように補正し、該実圧力比が該目標圧力比よりも大きい場合は該バイパス弁開度信号をバイパス弁開度が大きくなるように補正し、該実圧力比と該目標圧力比との偏差が所定の期間所定範囲内であると認められるときに、該補正の結果得られたバイパス弁開度信号に基づいて該バイパス弁開度マップを更新する、
ことを特徴とする直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置。 - 該バイパス弁開度マップの更新要求状態検出手段は、該ディーゼルエンジンの運転積算値を検出する、請求項1に記載の直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置。
- 該バイパス弁開度マップの要求状態検出手段は、更新を要求する外部スイッチの入力信号を検出する、請求項1に記載の直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置。
- ディーゼルエンジンの排気通路に直列に配置された高圧段側タービン及び低圧段側タービンと、該ディーゼルエンジンの吸気通路に直列に配置され該高圧段側タービン及び該低圧段側タービンによって各々駆動される高圧段側コンプレッサ及び低圧段側コンプレッサと、該高圧段側タービンの上流側と該高圧段側タービンと低圧段側タービン間の排気通路を連結するバイパス通路、及び該バイパス通路の開度を調節するバイパス弁とを備え、エンジン回転速度に応じて該バイパス弁の開度を調整するように構成した直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置において、
エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、該高圧段側コンプレッサの上流側と下流側の給気圧力をそれぞれ検出する第1及び第2の圧力検出手段と、エンジンの負荷状態を検出するエンジン負荷検出手段と、少なくともエンジン回転速度をパラメータとするバイパス弁開度マップと、該バイパス弁開度マップの更新要求状態を検出する更新要求状態検出手段と、エンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとする高圧段側コンプレッサの目標圧力比マップと、これらの検出手段からの信号と各マップに基づき該バイパス弁の開度を決定し該バイパス弁を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、該更新要求状態検出手段により該バイパス弁開度マップの更新要求状態が検出されたときは、エンジン回転速度が所定の期間において変化がない場合で、該目標圧力比マップにより得られる目標圧力比と該第1、第2の圧力検出手段によって検出された検出値に基づく実圧力比を比較してその偏差に基づきバイパス弁開度の補正値を演算し、該補正値に基づいて該バイパス弁開度マップを更新する、
ことを特徴とする直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置。 - 該バイパス弁開度マップの更新要求状態検出手段は、該ディーゼルエンジンの運転積算値を検出する、請求項4に記載の直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置。
- 該バイパス弁開度マップの更新要求状態検出手段は、該バイパス弁開度マップの更新を要求する外部スイッチの入力信号を検出する、請求項4に記載の直列2段過給ディーゼルエンジンの制御装置。
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