JP3928856B2 - 熱型赤外線センサ、放射温度計および赤外線吸収膜の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、赤外線吸収膜を有する熱型赤外線センサとこの熱型赤外線センサを用いた放射温度計、更にこの熱型赤外線センサに用いる赤外線吸収膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、近赤外線を受光するには、量子型の赤外線センサが高感度で、高速応答で用いられているが、体温(37℃程度)程度の温度から輻射される赤外線のピーク波長は9から10μm程度であり、量子型の赤外線センサでは、冷却が必要で、大型となり高価なものであった。これに対し、非冷却かつ簡便で高感度の赤外センサが求められ、赤外線受光部にサーミスタ材料やサーモパイルなどの感温センサ部を形成し、宙に浮く構造の基板から熱分離した薄膜受光部とした熱型の赤外線センサが報告されてきた。
【0003】
従来、熱型赤外線センサの受光部で赤外線の吸収効率を上げ、感度を増加するために、赤外線吸収膜を受光部に形成しているが、その赤外線吸収膜として、金黒(ゴールドブラック)を用いたり、グラファイト状のカーボンを用いたり(特開平6−109535)、カーボンブラックを高分子材料に分散させた薄膜材料(特開平6−74821)を用いたりしていた。
【0004】
また、従来、金黒などの赤外吸収膜を形成した赤外線受光部を有する熱型赤外線センサの応用として、体温計や受光部をアレー化した非冷却イメージセンサ、また、熱型赤外線センサを搭載した放射温度計として、被測定物体の温度を計測する装置が報告されてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金黒は真空度の悪いところで形成するために、付着力が弱く、剥がれ易く、金黒形成後のパターン化が困難なこと、更に互いにマイグレーションするなど経時変化が大きいという問題がある。また、グラファイト状のカーボンでは、適当な化学的エッチャントが無く、ドライプロセスによるパターン化の必要性があり、製作工程に大きな制限があった。さらに、酸素を含む気体中での熱処理は、カーボンを酸化し気体化してしまうという問題もあった。
【0006】
また、カーボンブラックを高分子材料に分散させた薄膜材料を赤外線吸収膜とした場合には、熱型赤外線センサの受光部を基板から熱分離する空洞形成のためのシリコン基板のエッチャントであるヒドラジンやKOH溶液などの強アルカリ性エッチャントに高分子材料が侵されるという問題があった。このために、熱分離用の空洞形成後に赤外線吸収膜を形成する必要があり、赤外線吸収膜のパターン化が困難になるという問題があった。
【0007】
本発明は、赤外線受光部に付着力が大きく、経時変化の極めて少なく、アルカリ性エッチャントに耐性が大きく、フォトエッチングによるパターン化が容易である赤外線吸収膜を持つ熱型赤外線センサとこの熱型赤外線センサを搭載して、被測定対象物からの赤外線を受光して、この熱型赤外線センサからの対応する電気信号を利用して、被測定対象物の温度を計測する放射温度計、及びこの熱型赤外線センサに用いる赤外線の吸収効率が大きな赤外線吸収膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる熱型赤外線センサは、赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサにおいて、赤外線吸収膜20として、二種類以上の異なる物質25、26を分散形成させた薄膜のうち、少なくともそのうちの一種類の物質26を除去して、電気導体微粒子からなる多孔質層21を形成して、この多孔質層が被測定赤外線の波長で吸収が大きいような赤外線吸収膜20になるようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2に係わる熱型赤外線センサは、赤外線吸収膜20の厚み方向の密度が赤外線の入射方向に向かって小さくなるように形成したことにより、この赤外線吸収膜20に向かって入射した赤外線は最初に赤外線吸収膜20の表面付近の密度が小さく、その付近での反射が小さく、表面から深く入り込むにしたがって、赤外線吸収膜20の密度が大きくなり、吸収が大きくなると言う、いわゆる赤外線吸収膜20を傾斜型の材料にすることにより、反射が少ない高吸収材料にするための構造にした場合である。
【0010】
本発明の請求項3に係わる熱型赤外線センサは、赤外線吸収膜20が、クロム(Cr)などの強固な表面皮膜を形成する金属、もしくは、ニクロム(NiとCrの合金)や白金などの酸化され難い金属材料で形成した場合である。赤外線を効率よく吸収するには、自由電子が吸収膜にあるべきで、このためには、時間とともに酸化されて、その絶縁膜がどんどん厚く形成されてしまうような材料ではだめである。したがって、表面のみは極めて薄く酸化されても、その内側は酸化されない、又は、酸化され難い金属が最適な赤外線吸収膜20となる。
【0011】
本発明の請求項4に係わる熱型赤外線センサは、基板から熱分離した赤外線の受光部5に赤外線吸収膜20を形成した場合で、薄膜の受光部5の下部に空洞を形成して、さらに、基板との間には、熱伝導がし難いように幅が狭く長く、かつ薄い支持梁となるビームを形成し、受光部が宙に浮いた構造にすると良い。
【0012】
本発明の請求項5に係わる放射温度計は、上記請求項に記載した特徴のある赤外線吸収膜20を受光部に有する熱型赤外線センサを用いて、被測定対象物からの赤外線を受光し、該熱型赤外線センサからの赤外線の受光量に対応する電気信号を利用して該被測定対象物の温度を計測するようにした放射温度計を提供するもので、安定で、赤外線の吸収効率が良い赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサが得られるので、経時変化の極めて少ない安定で高感度の放射温度計となる。
【0013】
本発明の請求項6に係わる熱型赤外線センサの赤外線吸収膜の形成方法は、基板の受光部になるべき領域に、例えば、クロム(Cr)と銅(Cu)などの2種類以上の異なる物質25、26が分散されて薄膜状に堆積形成させる分散堆積工程と、この分散形成された複数の物質25、26からなる薄膜組成のうち、少なくとも一種類の物質26である、例えば、銅(Cu)を化学的エッチングなどで除去して、電気導体微粒子からなる多孔質層21を形成する多孔質層形成工程とを含むことを特徴とする赤外線吸収膜20の形成方法である。もちろん、クロム(Cr)の代わりに、酸化し難い金属であるニッケル(Ni)とクロム(Cr)の合金膜の堆積でもよい。
【0014】
赤外線吸収膜の分散堆積工程は、各種金属の同時スパッタリング法、同時真空蒸着法や電気メッキ法などで形成することができる。
【0015】
本発明の請求項7に係わる熱型赤外線センサの赤外線吸収膜20の形成方法は、分散堆積工程における2種類以上の異なる物質の分散堆積した薄膜の組成に関し、堆積膜厚が大きくなるに連れ、その後の多孔質層形成工程における除去すべき物質26の成分の割合が多くなるようにして形成してあり、この多孔質層形成工程により、堆積膜厚が大きくなるに連れ、残存する多孔質層21の密度が小さくなるように形成した請求項6記載の赤外線吸収膜20の場合である。すなわち、赤外線吸収膜20の赤外線入射側の表面付近の密度を小さくさせるものである。分散堆積工程により堆積された膜のうち、化学的エッチングなどで除去される物質26は、多孔質層形成工程で無くなり、その部分に孔が発生するので、残存する多孔質層21は、赤外線の入射側は、極めて疎になる。したがって、この膜に入射する赤外線の反射が極めて少なく、この多孔質層21から成る赤外線吸収膜20は、徐々に赤外線を吸収し、高効率の赤外線吸収膜20が達成できる。もちろん、多孔質層21の孔の直径は受光赤外線の波長に対して、吸収効率が良い大きさに調整すべきで、一般には、対象の赤外線波長より十分小さくするようにした方が吸収効率が良い。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき、図面を参照して説明する。
【0017】
【実施例1】
図1は、本発明の赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサのうち、基板としてSOI基板1を用いたときの熱型赤外線センサチップの構造の一実施例を示したもので、図1(a)はその平面図、図1(b)は、図1(a)におけるX−Xからみた断面図を示した概略図である。SOI基板のシリコン単結晶薄膜であるSOI層110は、この場合、n型層32であり、赤外線の受光部5a,5bで温度を検出するために温度感応部となるpn接合ダイオードからなる温度センサ30a,30bを形成している。このために不純物を拡散してp型層31a,31bを形成してある。ここでは、受光部5a,5bは、基板であるSOI基板1から空洞15と溝14により熱分離してあり、高速応答で、微少の受光赤外線量で温度上昇が大きくなるようにしている。n型層32からアルミニウムの電極202a,202bを形成し、オーム性接触を得るために高濃度n+領域60a,60bを不純物拡散で形成してあり、p型層31a,31bにもオーム性の電極201a,201bを形成し、更に窒化シリコン膜などの絶縁層51の上を配線し、電極パッド211a,211b,212に導くようにしている。また、ここでは描いていないが電極パッド211a,211b,212を通して外部回路に接続される。
【0018】
なお、本実施例の図1(a)には、3個のpn接合ダイオードからなる温度センサ30a、30b、30cを設けた場合を示してあり、温度センサ30aは、実際に被測定対象物体からの赤外線を受光する赤外線受光素子の役目をし、温度センサ30bは、被測定対象物体からの赤外線を遮光板または遮光膜で遮断して、雰囲気温度を検出して補償素子としての役目を果たすものである。この場合、放射温度計として実施する場合は、赤外線受光素子と補償素子との差動動作させるとよい。なお、pn接合ダイオードからなる温度センサ30cは、SOI基板1の温度を必要に応じ検出するために設けたものである。
【0019】
pn接合ダイオードからなる温度センサ30a、30b、30cは、順方向バイアスを固定して、順方向電流の温度依存性から温度を検出しても良いし、順方向電流を固定して、そのときの順電圧の温度依存性から温度を検出しても良い。
【0020】
また、温度センサとして、pn接合ダイオードの代わりにトランジスタサーミスタを用いることもできるし、サーモパイルやサーミスタなどを用いることもできる。
【0021】
本実施例では、受光部5a,5bには、電極201a,201b;202a,202bが、短絡されないようにシリコン酸化膜やシリコン窒化膜である絶縁膜52を介して、赤外線吸収膜20を形成してある。この赤外線吸収膜20は、クロム(Cr)などの極めて薄く強固な皮膜を形成する金属で多孔質層21を形成し、これを赤外線吸収膜20とした場合で、一般に赤外線吸収膜20としての金黒などの場合は、多孔質層21を形成する電気導体微粒子の直径が数nmから数十nmが体温からの輻射赤外線のピーク波長である9−10μmの赤外線に有効であると言われている。
【0022】
このクロム(Cr)などの極めて薄く強固な皮膜を形成する金属で多孔質層21からなる赤外線吸収膜20は、例えば、次のようにして形成される。先ず、多孔質層21となる物質25としてのクロム(Cr)と除去される物質26としての銅(Cu)のような異なる2種類以上の金属を、同時スパッタリングにより3μm厚程度の薄膜状で分散形成となるように少なくとも受光部5a,5bとなる領域に堆積しておき、その後、必要な形状にエッチングなどでパターン化して、受光部5a,5bとなる領域に形成しておく。この時、クロム(Cr)と銅(Cu)の同時スパッタリング堆積を、除去される物質26としての銅(Cu)の堆積量を徐々に多くなるようにすれば、堆積の厚み方向である表面方向に向かって、銅(Cu)の成分が多くなる堆積膜が得られる。
【0023】
その後、分散形成された堆積膜のうち、クロム(Cr)は、強酸である王水や硝酸に浸すと極めて薄く強固な皮膜が形成され不動態化する性質があるので残存するが、同時スパッタリング堆積された銅(Cu)はエッチング除去されるので、クロム(Cr)からなる多孔質層21が形成される。銅(Cu)の成分が表面付近では多くしているので、その分、表面付近はエッチング除去による孔が多く存在して、入射赤外線は、表面付近の疎なる孔質層21のため反射され難く、深さ方向に入るにつれて有効に吸収される良好な赤外線吸収膜20となる。このようにして形成されたクロム(Cr)からなる多孔質層21を赤外線吸収膜20とする熱型赤外線センサの基板から熱分離した受光部の断面概略図を図2に示す。この図2に示す実施例は、図1におけるX-X断面における赤外線受光部の断面に対応している。
【0024】
したがって、上述のような良好な赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサは、入射赤外線を効率よく吸収するので、高感度の熱型赤外線センサが提供される。
【0025】
なお、同一の熱型赤外線センサチップに下部に空洞15を有する受光部5のマットリックス状アレーを持つ熱型赤外線センサとして、非冷却型イメージセンサを作成することもできる。この場合、補償素子は、マットリックス状に形成された多数の受光部5のアレーに対して、1個だけで済ませることもできる。
【0026】
【実施例2】
図3には、クロム(Cr)の多孔質層21からなる赤外線吸収膜20の断面概略図を示す。この赤外線吸収膜20の作成方法は、例えば、次のようにして形成される。
【0027】
先ず、SOI基板1に温度センサ30となるpn接合ダイオードを3個形成し、そのうちの2個を一対として、実際に赤外線を受光する受光素子(その受光部5a)とこの受光素子とは、遮光板を除き、全く同一構造と成るようにした補償素子(その受光部5b)を公知の半導体のIC化技術により電極、電極パッドなどの金属化も含めて形成しておく。そして、その上に赤外線吸収膜20の形成による電気的短絡を防止するための絶縁膜52を形成しておく。この工程を温度センサ作成工程と呼ぶことにする。
【0028】
次に、多孔質層21となる物質25と除去される物質26の異なる2種類以上の金属を、同時スパッタリングにより1μmから3μm厚程度に分散形成となるように、少なくとも受光部5a,5bとなる領域に堆積する。この工程を分散堆積工程と呼ぶことにする。
【0029】
なお、この時、多孔質層となる物質25とエッチングなどで除去される物質26の同時スパッタリング堆積を何度かに分割して行うか、または、これらの異なる物質25,26のスパッタリングターゲットへの投入電力の割合を徐々に変化させるなどして、堆積されてゆく分散形成堆積膜の組成のうち除去される物質26の堆積成分が多くなるように調整しておけば、堆積の厚み方向である表面方向に向かって、除去される物質26の成分が多くなる堆積膜が形成される。このようにして得られた堆積膜の断面の概略図を図4(a)に示す。実際の実験では多孔質層となる物質25として、王水や硝酸のような強酸により極めて薄く強固な皮膜が形成されるクロム(Cr)を選択し、これらの強酸により容易にエッチング除去される物質26として銅(Cu)を選択した。
【0030】
なお、同時スパッタリング時に基板1の温度を300℃程度に上げておくと堆積されながら、多孔質層となる物質25や除去される物質26がそれぞれクラスターを形成しやすく、適度な電気導体微粒子径となるようで、良好な分散形成堆積膜が形成されることも判明した。
【0031】
その後、フォトリソグラフィにより受光部5a,5bとなる領域にのみに多孔質層となる物質25と除去される物質26とからなる分散形成した堆積膜が残るようにその他の領域の堆積膜をエッチング除去してパターン化する。この工程を堆積膜のパターン化工程と呼ぶことにする。なお、クロム(Cr)と銅(Cu)を堆積膜として用いた場合は、フェリシアン化カリウムや塩化第二鉄水溶液などのエッチントを用いるとエッチング除去が容易である。
【0032】
その後、多孔質層21となる物質25として強酸により極めて薄く強固な皮膜が形成され不動態化する金属を用い、そして、その強酸により容易にエッチング除去される物質26である金属を選択しておくと、分散堆積工程により形成された分散堆積膜は、王水や硝酸などの強酸に晒されると物質26のみエッチング除去されるので、物質25からなる多孔質層21が形成される。この工程を多孔質層形成工程と呼ぶことにする。
【0033】
なお、上述のように分散堆積工程により形成された分散堆積膜は、その厚み方向の表面付近では、多孔質層21となる物質25であるクロム(Cr)の成分が少ないので、エッチング除去される物質26である銅(Cu)がなくなったために生じた孔27が多くなり、その分、表面付近の密度が疎になったクロム(Cr)の電気導体微粒子の集まりである多孔質層21が形成され、これが良好な赤外線吸収膜(20)として作用する。このようにして、赤外線が入射する表面付近の多孔質層21の密度が小さい赤外線吸収膜(20)が形成される。このとき得られた赤外線吸収膜(20)の断面図を図4(b)に示す。
【0034】
なお、上述の分散堆積工程、パターン化工程及び多孔質層形成工程を赤外線吸収膜形成工程と呼ぶことにする。必要に応じ、パターン化工程を省略することもできる。赤外線吸収膜形成工程のフローチャートを図5に示す。
【0035】
なお、その後、図1の実施例に示すように、SOI基板1を用いたときは、受光部5a,5bになる領域とその支持梁であるビーム16とを残すように、その領域周辺に溝14をフォトリソグラフィにより形成し、更にSOI基板1の裏面から下地基板10の受光部5a,5bに対応する箇所の下部をヒドラジンや水酸化カリウム溶液などのアルカリエッチャントである異方性エッチング液を用いて、エッチング除去して空洞15を形成する。このようにして、基板から熱分離した赤外線の受光部5が形成される。これを空洞部形成工程と呼ぶことにする。
【0036】
また、エッチング除去される物質26として、アルミニウムや亜鉛などの金属、プラスチックなど有機物を用いるとアルカリエッチャントである異方性エッチング液によりエッチング除去されるので、この空洞部形成工程を多孔質層形成工程と兼用にすることもできる。
【0037】
上述のようにして、熱型赤外線センサチップが形成される。
【0038】
その後、熱型赤外線センサチップの電極パッド211,212a,212b,212cからリード線を引き出し、パッケージにマウントする。この工程をパッケージング工程と呼ぶことにする。
【0039】
このようにして熱型赤外線センサが完成する。この熱型赤外線センサを製作する重要な工程のフローチャートを図6に示す。
【0040】
【実施例3】
本発明の放射温度計は、上述のようにして容易に作成された安定で高効率吸収可能などの特徴を有する赤外線吸収膜を持つ熱型赤外線センサを搭載するもので、熱型赤外線センサに非測定対象物からの赤外線を有効に集める光学系を持ち、非測定対象物からの赤外線に対応した熱型赤外線センサからの差動出力を増幅する差動増幅器、非測定対象物の温度を割り出す演算回路とメモリ機能、温度として表示する表示回路と表示部、及び温度のデータ出力、駆動電源部などを有するものである。この本発明の放射温度計の構成で、その主要部のブロック図を図7に示す。なお、電源部は省略した。
【0041】
上述の実施例は本発明の一実施例に過ぎず、本発明の主旨および作用、効果が同一でありながら、本発明の多くの変形があることは明らかである。
【0042】
【発明の効果】
熱型赤外線センサの感度を向上させるため設ける空洞の形成後に赤外線吸収膜を形成しようとしたときには、空洞上の受光部は極めて薄いので、取り扱いが困難であるばかりでなく、フォトリソグラフィのためのフォトレジストが段差や溝が表面に形成されているとエッジ付近で塗布され難いなどの問題があった。
【0043】
しかし、以上説明したように、本発明の赤外線吸収膜を有する熱型赤外線センサと赤外線吸収膜の形成方法によると、赤外線吸収膜をニクロム(Ni−Cr)合金やクロム(Cr)などの酸化しにくい金属や強酸により強固な極めて薄い皮膜を形成する金属などから成り、赤外線の波長に比べ十分小さな直径を有する電気導体微粒子から成る多孔質層が容易に形成でき、この多孔質層から成る赤外線吸収膜が容易に形成できるので、赤外線の受光部を基板からの熱分離のための空洞を形成するために使用するヒドラジンなどの強アルカリエッチャントに対しても極めて高い耐性を有する。したがって、この受光部下部の空洞形成のための異方性エッチング工程を赤外線吸収膜形成後に行うことができるので、熱型赤外線センサの作製工程が容易になり、経時変化が少なく安価で高感度の熱型赤外線センサが提供できる。
【0044】
また、本発明の赤外線吸収膜の形成方法によると、多孔質層から成る赤外線吸収膜は、赤外線の入射に対してその表面付近が疎なる多孔質層と成っているので、赤外線の反射が少なく、その分、赤外線吸収膜で多く吸収されるので、吸収効率の良い効率の良い、高感度の熱型赤外線センサが提供できる。
【0045】
また、本発明の熱型赤外線センサを搭載した放射温度計は、高感度で、経時変化の少ない装置として提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサチップの基板としてSOI基板1を用いた場合の熱型赤外線センサチップの概念図で、図1(a)はその平面図、図1(b)は断面図である。
【図2】 本発明の熱型赤外線センサチップに形成される赤外線吸収膜20を有する赤外線受光部を拡大した断面図の一実施例の概略図で、温度センサ30としてのpn接合ダイオード、多孔質層21から成る赤外線吸収膜20を有する基板から熱分離した構造の受光部5を示している。
【図3】本発明の熱型赤外線センサの赤外線吸収膜20のみの断面図構造図の一実施例を示す概略図である。
【図4】本発明の熱型赤外線センサの赤外線吸収膜20を形成する方法に関し、その主要作成工程による形成膜の断面構造の概略を示したもので、図4(a)は、分散堆積工程により得られた分散堆積膜の断面構造概略図を示し、図4(b)は、多孔質層形成工程の結果得られた多孔質層21の断面構造概略図である。
【図5】本発明の熱型赤外線センサの赤外線吸収膜20を形成する方法に関し、その主要工程をフローチャートにした一実施例を示したものである。
【図6】本発明の赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサ作成の主要工程をフローチャートにした一実施例を示したものである。
【図7】本発明の赤外線吸収膜20を有する熱型赤外線センサを搭載した放射温度計の主要な構成をブロック図にした一実施例を示したものである。
【符号の説明】
1 SOI基板
5、5a、5b 受光部
10 下地基板
14 溝
15 空洞
16 ビーム
20 赤外線吸収膜
21 多孔質層
25 物質(多孔質層となる物質)
26 物質(除去される物質)
27 孔
30、30a、30b、30c 温度センサ
31、31a p型層
32 n型層
60 高濃度n+領域
50、51、52、53 絶縁層
110 SOI層
201a、201b、202a、202b 電極
211a、211b、211c、212 電極パッド
Claims (7)
- 赤外線吸収膜(20)を有する熱型赤外線センサにおいて、二種類以上の異なる物質(25、26)を分散形成させた薄膜のうち、少なくともそのうちの一種類の物質を除去して、電気導体微粒子からなる多孔質層(21)を赤外線吸収膜(20)としたことを特徴とする熱型赤外線センサ。
- 赤外線吸収膜(20)の厚み方向の密度が赤外線の入射方向に向かって小さくなるように形成した請求項1記載の熱型赤外線センサ。
- 赤外線吸収膜(20)が、強固な表面皮膜を形成する金属、もしくは、酸化され難い金属材料で形成されている請求項1または2記載の熱型赤外線センサ。
- 基板から熱分離した赤外線の受光部(5)に赤外線吸収膜(20)を形成した請求項1、2または3記載の熱型赤外線センサ。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の熱型赤外線センサで、被測定対象物からの赤外線を受光し、該熱型赤外線センサからの赤外線の受光量に対応する電気信号を利用して該被測定対象物の温度を計測するようにした放射温度計。
- 熱型赤外線センサの赤外線吸収膜(20)の形成方法において、基板のうち受光部になるべき領域に、2種類以上の異なる物質(25、26)が分散されて薄膜状に堆積形成させる分散堆積工程と、この分散形成された複数の物質(25、26)からなる薄膜組成のうち、少なくとも一種類の物質(26)を除去して、電気導体微粒子からなる多孔質層(21)を形成する多孔質層形成工程とを含むことを特徴とする赤外線吸収膜(20)の形成方法。
- 分散堆積工程における2種類以上の異なる物質(25、26)の分散堆積した薄膜の組成に関し、堆積膜厚が大きくなるに連れ、その後の多孔質層形成工程における除去すべき物質(26)の成分の割合が多くなるように形成してあり、該多孔質層形成工程により、堆積膜厚が大きくなるに連れ、残存した多孔質層(21)の密度が小さくなるように形成した請求項6記載の赤外線吸収膜(20)の形成方法。
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