JP3912310B2 - 異方導電膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異方導電膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プリント配線板上に半導体パッケージを実装したり、あるいは2つのプリント配線板上の導体回路同士を電気的に接続するとともに、両プリント配線板を互いに結合、固定したりするエレクトロニクス実装の方法の1つに、フィルム状の異方導電膜を用いた方法がある(例えば特許文献1、特許文献2等参照)。
例えば半導体パッケージの実装の場合は、プリント配線板への実装面に複数のバンプを配列して接続部を形成した半導体パッケージと、当該半導体パッケージを実装する領域に、上記バンプとピッチを合わせて複数の電極を配列して接続部を形成したプリント配線板とを用意する。そしてこの両者の接続部を相対向させて、その間に異方導電膜を挟んだ状態で、両接続部の各々のバンプと電極とが1対1で膜の面方向に重なるように位置合わせしながら熱接着を行うことで、半導体パッケージが基板上に実装される。
【0003】
またプリント配線板同士の接続の場合は、それぞれの接続位置に、互いにピッチを合わせて複数の電極を配列して接続部を形成した2つのプリント配線板を用意する。そしてこの両者の接続部を相対向させて、その間に異方導電膜を挟んだ状態で、同様に両接続部の各々の電極が1対1で膜の面方向に重なるように位置合わせしながら熱接着を行うことで、配線板同士が接続される。
かかるエレクトロニクス実装に用いる異方導電膜は一般に、粉末状の導電成分を、例えば熱可塑性樹脂や硬化性樹脂等の結着剤を含む、感熱接着性を有する膜中に分散させた構造を有する。
【0004】
また異方導電膜は、膜の面方向に重なった各々のバンプ−電極対や電極−電極対が、隣接する他の対のバンプや電極と短絡する、膜の面方向の短絡が発生するのを防止すべく、面方向の導電抵抗(「絶縁抵抗」という)が高くなるように、導電成分の、式(1):
【0005】
【数1】
【0006】
で求められる充てん率を調整してある。なお式中の、固形分の総体積とは、膜を、前記のように導電成分と結着剤とを固形分として用いて形成する場合、この両者の体積の合計量である。
そして熱接着を行うと、その際の加熱、加圧によって異方性導電膜が厚み方向に圧縮されることで、当該厚み方向の導電成分の充てん率が上昇し、導電成分同士が互いに近接もしくは接触して導電ネットワークを形成する結果、厚み方向の導電抵抗(「接続抵抗」という)が低くなる。しかしこの際、異方導電膜の面方向における導電成分の充てん率は増加しないため、面方向は、絶縁抵抗が高く導電率が低い初期の状態を維持する。
【0007】
このため異方導電膜は、厚み方向の接続抵抗が低く、かつ面方向の絶縁抵抗が高い異方導電特性を有するものとなり、かかる異方導電特性に基づいて、
* 前述したような膜の面方向の短絡が発生するのを防止して、各バンプ−電極対や電極−電極対ごとの、それぞれ電気的に独立した状態を維持しつつ、
* 各対の、1対1で膜の面方向に重なったバンプ−電極間、電極−電極間を良好に導電接続する
ことが可能となる。
【0008】
またそれとともに、膜の持つ感熱接着性によって、プリント配線板上に、半導体パッケージを熱接着によって固定したり、プリント配線板同士を熱接着によって固定したりできる。
このため異方導電膜を用いれば、エレクトロニクス実装の作業が容易になる。従来の異方導電膜中に含まれる導電成分としては、例えば平均粒径が数μm〜数十μm程度で、かつその形状が粒状、球状、薄片状(鱗片状、フレーク状)などであるNi粉末や、あるいは表面に金メッキを施した樹脂粉末などの、種々の金属粉末が実用化されている。
【0009】
また従来の異方導電膜においては通常、上記の金属粉末を、前記式(1)で求められる充てん率が3〜10体積%となるように含有させている。
しかし近時、この充てん率の範囲では、熱接着後の厚み方向の接続抵抗の値が十分でなく、より一層、接続抵抗を低くすることを求められる場合が増加しつつある。
そこで、厚み方向の接続抵抗をこれまでよりもさらに低くするべく、導電成分としての金属粉末の充てん率を、上記の範囲より高くすることが考えられる。
【0010】
しかしそうした場合、前記の一般的な金属粉末を用いた従来の異方導電膜では、膜の面方向の絶縁抵抗まで低くなるため、同方向の短絡を生じやすくなるという問題がある。
そこで発明者は先に、金属のイオンと還元剤とを含む液中で、還元剤の作用によって金属のイオンを還元させて、微細な金属粒として析出させる還元析出法(特許文献3〜5参照)を利用して、当該金属粒が多数、鎖状に繋がった形状を有する金属粉末を製造し、それを異方導電膜の導電成分として用いることを検討した。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−102523号公報(第0009欄、第0010欄、図2)
【特許文献2】
特開平8−115617号公報(第0003欄、図1)
【特許文献3】
特開平11−302709号公報(第0007欄、第0008欄)
【特許文献4】
特許第3018655号公報(第0005欄)
【特許文献5】
特開2001−200305号公報(第0007欄〜第0010欄)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
発明者の検討によると、例えばNi、Fe、Coなどの強磁性を有する金属やその合金などを、上記還元析出法によって析出させると、液中で、多数の金属粒が、自身の持つ磁性によって自然に鎖状に繋がって、鎖状の金属粉末を形成する。
この鎖状の金属粉末を導電成分として用いて異方導電膜を形成するには、まず金属粉末を、結着剤などと配合して液状の複合材料を調製する。次にこの複合材料を膜状に塗布した状態で磁場をかけて、鎖状の金属粉末を膜の厚み方向に配向させながら固化させる。そうすると、鎖状の金属粉末が膜の厚み方向に配向された異方導電膜が製造される。
【0013】
かかる異方導電膜は、膜の厚み方向に配向した鎖状の金属粉末の作用によって、これまでよりも異方導電特性が向上する。
すなわち鎖状の金属粉末を膜の厚み方向に配向させると、膜の面方向では、隣り合う金属粉末同士が接触する機会を極力少なくすることができるので、金属粉末間に介在する樹脂の絶縁性によって十分な絶縁抵抗を確保することができる。また膜の厚み方向では、同方向に配向させた多数の、鎖状の金属粉末による良好な導電ネットワークが形成されるため、接続抵抗をこれまでよりも低くすることができる。
【0014】
ところが、前述した還元析出法によって製造される鎖状の金属粉末を、上記のように膜の厚み方向に配向させた異方導電膜は、確かに、粒状などの他の形状の金属粉末を用いたものに比べて異方導電特性は向上するものの、金属粉末の鎖の、長さのばらつきに基づいて、異方導電特性にもばらつきを生じると言う問題がある。
すなわち還元析出法によって製造される鎖状の金属粉末は、製造工程上、どうしても長さにある程度のばらつきを生じるのであるが、その最大長が膜の厚みを超える場合、かかる長寸の金属粉末は、たとえ磁場をかけても、物理的に、膜の厚み方向に配向させることができないため、当該長寸の金属粉末を介して電極間が短絡するおそれがある。このため、異方導電特性のうち面方向の絶縁抵抗が低下するおそれがある。
【0015】
一方、金属粉末の最大長を、上記の短絡を防止するために、膜の厚み以下に設定した場合には、金属粉末全体の長さの分布が、それに応じてより短い側にシフトすることになり、良好な導電ネットワークの形成に寄与しない、ごく短寸の金属粉末の割合が増加することになる。このため、異方導電特性のうち厚み方向の接続抵抗が上昇するおそれがある。
また、還元析出法によって形成した金属粉末は微細な金属粒の集合体であり、金属粒間の接続抵抗は、従来の、粒状などの金属粉末同士の接触抵抗に比べれば格段に小さくなるが、依然として、金属のバルクな抵抗値に比べればかなり高い値を示す。また、金属粉末の鎖の太さを太くすることにも限界がある。
【0016】
このため、還元析出法によって形成した金属粉末を用いた異方導電膜は、大電流を流した際に、ジュール熱によって局部的に高温となって溶断するおそれがあり、前述した半導体パッケージの実装などには適しているものの、例えば2つのプリント配線板上の、大電流の導体回路同士の接続などには使用できないという問題もある。
本発明の目的は、異方導電特性のばらつきを生じるおそれがない上、大電流の導体回路同士の接続などにも十分に対応することが可能な、新規な異方導電膜を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記課題を解決するため、発明者は、所定の平面形状を有する微小電極表面を多数、備えためっき金型を使用して、上記微小電極表面を陰極とする電気めっきによって、当該表面に選択的に、その平面形状に対応した微小な金属薄膜を形成したのち、はく離する、いわゆる微細電鋳法によって製造した金属粉末を、異方導電膜の導電成分として利用することを検討した。
【0018】
かかる微細電鋳法によって製造した金属粉末は、微小電極表面の平面形状を忠実に再現した平面形状を有しており、しかも微小電極表面の平面形状は、例えばリソグラフィーを利用した形成方法などを採用すれば、ミクロンレベルで任意の形状とすることが可能である。このため、多数の金属粉末の、長さを含む寸法、形状を均一化して、異方導電膜の、異方導電特性のばらつきをなくすることができると考えたのである。
【0019】
また、微細電鋳法によって製造した金属薄膜の抵抗値はバルクな金属のそれであり、微細な金属粒の集合体である鎖状の金属粉末に比べて抵抗値を著しく小さくすることができる。しかも、上記のように微小電極表面の平面形状を調整することで、金属粉末の幅を極力広くとることもできる。このため異方導電膜を、大電流の導体回路同士の接続などにも使用できるようになると考えたのである。
さらに、長さLと幅Dの比L/Dが1を超えるとともに、長さ方向の上下両端に、前記長さ方向と直交する短寸の両端部を繋いだ平面形状に形成すると、異方導電膜に良好な異方導電特性を付与できるとともに、異方導電膜の熱接着時に上下の両端部が支えとなって、金属粉末が横倒しになるのを確実に防止できると考えたのである。
したがって請求項1記載の発明は、長さLと幅Dの比L/Dが1を超えるとともに、長さ方向の上下両端に、前記長さ方向と直交する短寸の両端部を繋いだ平面形状を有する微小電極表面を多数、備えためっき金型を使用して、上記微小電極表面を陰極とする電気めっきによって、当該表面に選択的に、その平面形状に対応した微小な金属薄膜を形成したのち、はく離して製造した微細な金属粉末を、導電成分として含むことを特徴とする異方導電膜である。
【0020】
なお上記の異方導電膜においても、良好な異方導電特性を得るためには、金属粉末を、膜の厚み方向に配向させるのが好ましい。
したがって請求項2記載の発明は、金属粉末を、その長さ方向が膜の厚み方向と一致するように、膜中で配向させたことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜である。
【0021】
また上記の異方導電膜において、金属粉末を、面方向の絶縁抵抗が上昇しないように膜の厚み方向にきれいに配向させるためには、やはり金属粉末の長さLを、膜の厚み以下とするのが好ましい。その場合でも、本発明によれば全ての金属粉末の寸法、形状が均一であり、長さのたりない短寸の金属粉末を生じないため、膜の厚み方向に良好な導電ネットワークを形成することができ、厚み方向の接続抵抗が上昇するおそれはない。
【0022】
したがって請求項3記載の発明は、金属粉末の長さLを、膜の厚み以下としたことを特徴とする請求項2記載の異方導電膜である。
また金属粉末を、膜の厚み方向によりスムースに配向させるためには、当該金属粉末が、磁場をかけることによって容易に配向するように磁性を有しているのが好ましく、そのためには金属粉末が、磁性を有する金属を含んでいるのが好ましい。
【0023】
したがって請求項4記載の発明は、金属粉末を、磁性を有する金属単体、磁性を有する2種以上の金属の合金、磁性を有する金属と他の金属との合金、もしくは磁性を有する金属を含む複合体にて形成したことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜である。
また金属粉末は、良好な導電性と、当該導電性が、長期間使用した際の酸化によって低下するのを防止するための良好な耐酸化性とを有しているのが好ましく、そのためには金属粉末を、前述した微細電鋳法による製造過程を考慮して、磁性を有する金属薄膜からなる層と、導電性、耐酸化性に優れた金属薄膜からなる層との積層による複合構造とするのが好ましい。
【0024】
したがって請求項5記載の発明は、金属粉末を、微小電極表面に電気めっきによって積層、形成した2層以上の金属薄膜からなる複合体にて形成するとともに、その少なくとも1層を、磁性を有する金属単体、磁性を有する2種以上の金属の合金、または磁性を有する金属と他の金属との合金にて形成したことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜である。
また請求項6記載の発明は、他の少なくとも1層を、導電性、耐酸化性に優れた他の金属にて形成したことを特徴とする請求項5記載の異方導電膜である。
【0025】
さらに上記異方導電膜における、前記式(1)で求められる、導電成分としての金属粉末の充てん量は、0.05〜20体積%であるのが好ましい。
充てん率が0.05体積%未満では、異方導電膜の厚み方向の導通に寄与する金属粉末が少なすぎるため、同方向の接続抵抗を十分に低くできないおそれがある。また充てん率が20体積%を超える場合には、異方導電膜の面方向の絶縁抵抗が低くなりすぎて、隣接する電極間で短絡が発生しやすくなるおそれがある。
【0026】
したがって請求項7記載の発明は、固形分として金属粉末と結着剤とを含み、かつ固形分の総量に占める金属粉末の割合で表される充てん率を0.05〜20体積%としたことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜である。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を説明する。
本発明の異方導電膜は、前記のように微細電鋳法によって製造した、寸法、形状の揃った金属粉末を、導電性分として含有することを特徴とするものである。
(金属粉末)
微細電鋳法による金属粉末の製造工程の一例を図1(a)〜図1(c)に示す。なお、この例では、長さ方向の上下両端に、前記長さ方向と直交する短寸の両端部を繋いでいない、長円形の平面形状を有する金属粉末を製造する場合を例にとって説明しているが、以下の説明と同じ工程により、図3 (a)(b) に示した、前記上下両端に、短寸の両端部を繋いだ平面形状を有する金属粉末を形成できることは言うまでもない。
【0028】
まずこの例の製造工程では、図1(a)、図2(a)に示す構造を有するめっき金型Mを用意する。
図のめっき金型Mは、図2(b)(c)に示すようにその平面形状が長円形である金属粉末3を製造するためのものであって、平板状の導電性基板1の表面に、無機の絶縁材料からなり、上記金属粉末3の平面形状に対応した長円形の開口2aを多数、配列した絶縁層2を形成し、かつ絶縁層2の開口2aを通して露出した導電性基体1の表面を微小電極表面1aとしたものである。
【0029】
上記のうち導電性基板1は、例では、ステンレス鋼板等からなる基板11の、絶縁層2を積層する側の表面に、耐食性の表面層12を積層した2層構造に形成してあり、この表面層12の表面を、上記微小電極表面1aとして、絶縁層2の開口2aを通して露出してある。
基板11としては、導電性を有するまたは有しない種々の材料からなる板材がいずれも使用可能である。しかし表面層12とともに導電性基板1の良好な導電性を確保するとともに、電気めっき液に対する良好な耐食性を確保することを考慮すると、基板11は、例えばステンレス鋼板などで形成するのが好ましい。
【0030】
また表面層12は、微小電極表面1aの導電性を確保するとともに、電気めっき液に対する耐食性をさらに向上するために、チタンや、あるいはハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)などのニッケル系耐食合金などで形成するのが好ましい。
ただし、めっき金型Mの構造を簡略化するためには、基板11の全体を、ステンレス鋼やチタン、あるいはニッケル系耐食合金などで一体に形成してもよい。
【0031】
また例では、絶縁層2を、導電性基板1の表面に形成した中間層21と、この中間層21の上に積層した表層22の2層構造に形成してある。
このうち中間層21としてはケイ素や炭化ケイ素の薄膜が好ましく、表層22としては絶縁性のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の薄膜が好ましい。
かかる積層構造においては、表層22としてのDLCの薄膜が、高硬度でかつ高強度である上、中間層21としてのケイ素や炭化ケイ素の薄膜が、上記DLC薄膜と導電性基板1との密着性を向上するために機能するので、絶縁層2の耐久性を向上することができる。
【0032】
なお絶縁層2は、例えば酸化ケイ素、酸化アルミニウム、絶縁性のDLCなどの単層の薄膜からなる単層構造に形成してもよい。
絶縁層2に、金属粉末3の平面形状に対応した開口2aを形成するには、前述したようにリソグラフィーを利用した方法を実施すればよい。
例えば導電性基板1の表面に、リソグラフィーによって、上記開口2aに対応した平面形状を有するレジスト膜を形成した状態で、気相成長法などによって、導電性基板1の、レジスト膜を形成していない露出した表面に選択的に絶縁層2を積層、形成した後、レジスト膜を除去すれば、開口2aを形成することができる。また、導電性基板1の表面全面に形成した絶縁層2の上に、リソグラフィーによって、開口2aに対応した開口を有するレジスト膜を形成した状態で、気相エッチング法などによって、絶縁層2の、開口で露出した部分を選択的にエッチング除去して開口2aを形成した後、レジスト膜を除去してもよい。
【0033】
上記のめっき金型Mを用いて金属粉末を製造するには、図示していないが、当該めっき金型Mと、金属粉末3のもとになる金属やカーボンなどで形成した対向電極とをめっき液に浸漬した状態で、前者のうち導電性基板1を電源の陰極、後者を陽極に接続して電気めっきを開始する。
そうすると図1(b)に示すようにめっき金型Mの、絶縁層2の開口2aを通して露出した導電性基板1の微小電極表面1aに選択的に、その平面形状に対応した微小な金属薄膜30が成長する。
【0034】
そして、金属薄膜30が所定の厚みに成長した時点でめっき金型Mをめっき液中から取り出して洗浄などした後、その表面を不織布でこするなどして、図1(c)に示すように金属薄膜30を微小電極表面1aからはく離すると、図2(b)に示すように所定の平面形状(図では長円形)と一定の寸法とを有する、多数の金属粉末3を製造することができる。
【0035】
なお図2 (b) の金属粉末3は、1層の金属薄膜30からなる単層構造を有しており、かかる金属粉末3は、異方導電膜中で、その厚み方向に良好に配向させることを考慮すると、例えばNi、Fe、Coなどの強磁性を有する金属単体、これら金属の2種以上の金属の合金、またはこれらの金属と他の金属との合金などで形成して磁性を付与するのが好ましい。
【0036】
また金属粉末3に、良好な導電性と耐酸化性とを付与することを考慮すると、当該金属粉末3は、前記のようにして磁性を付与した金属薄膜31と、導電性、耐酸化性に優れた金属薄膜32とを積層した複合構造に形成するのが好ましい〔図2(c)参照〕。
【0037】
このうち金属薄膜32は、例えばCu、Rb、Rh、Pd、Ag、Re、PtおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の、導電性、耐酸化性に優れた金属やその合金などによって形成すればよい。
なお図では金属粉末3を2層構造としているが、例えば磁性を付与した金属薄膜31の両面に、それぞれ導電性、耐酸化性に優れた金属薄膜32を積層した3層構造や、あるいはそれ以上の多層構造に形成してもよい。
【0038】
かかる複合構造を有する金属粉末3は、各層ごとにめっき液を違えながら、連続して電気めっきを行うことによって形成できる。
金属粉末3の平面形状は、微細電鋳法に特有の、リソグラフィーによる加工精度の範囲内で任意の平面形状の金属薄膜を形成できるという利点を活かして、長さ方向の上下両端に、前記長さ方向と直交する短寸の両端部を繋いだ平面形状に形成される。
例えば図3(a)の金属粉末3は、直線状の本体部3aの上下両端に、当該本体部3aと直交する短寸の両端部3b、3bを繋いだ平面形状を有しており、異方導電膜の熱接着時に上下の両端部3b、3bが支えとなって、金属粉末3が横倒しになるのを確実に防止できる。
【0039】
また図3(b)の金属粉末3は、両端部3b、3b間をジグザグ状の本体部3dで繋いだ平面形状を有しており、異方導電膜の熱接着時に上下の両端部3b、3bが支えとなって、金属粉末3が横倒しになるのを確実に防止できる。またジグザグ状の本体部3dが、熱接着による圧を受けた際にばねのように変形して圧を吸収することによって折れにくいものとなる。
なお上記両金属粉末においては、異方導電膜の厚み方向に配向させた際に、当該膜に良好な異方導電特性を付与するため、それぞれの図中に示した長さLと幅Dの比L/Dが1を超える必要がある。
【0040】
また長さLは、異方導電膜の厚み以下であるのが好ましい。
また特に、熱接着時に金属粉末3が横倒しになった際に、隣り合う電極間を短絡させないためには、長さLは、当該電極間の距離未満とするのが好ましく、電極間の距離の0.9倍以下とするのがさらに好ましい。
ただし、前記のように両金属粉末3は、いずれも両端部3b、3bの働きによって、金属粉末3が横倒しになりにくいものであるため、長さLを、必ずしも隣り合う電極間の距離未満に設定する必要はない。その場合は、横倒しをより一層、確実に防止するために、幅Dに相当する両端部3b、3bの長さを、隣り合う電極間の距離未満の範囲でできるだけ大きくするのが好ましい。
【0041】
図3(a)(b)の金属粉末3はいずれも、磁性を付与した単層の金属薄膜からなる単層構造に形成してもよいし、磁性を付与した金属薄膜と、導電性、耐酸化性に優れた金属薄膜の、2層以上の積層構造に形成してもよい。
異方導電膜に良好な異方導電特性を付与するためには、製造した金属粉末3が、上記所定の平面形状を有するできるだけまっすぐな状態であることも重要である。そのためには、めっき時に金属薄膜に生じる残留応力をできるだけ小さくするのが好ましい。残留応力が大きい場合には、微小電極表面1aからのはく離時に、金属薄膜が反り返ってまっすぐな状態にならないためである。
【0042】
金属薄膜の残留応力を小さくするためには、めっき液にサッカリンなどの応力緩和剤を加えたり、めっき浴の温度、pH、濃度等を最適化したりすればよい。これにより金属薄膜の残留応力を、例えば20kg/mm2以下といった小さな値として、金属粉末3をできるだけまっすぐな状態に形成することができる。
(結着剤)
金属粉末とともに異方導電膜を形成する結着剤としては、当該用途において結着剤として従来公知の、成膜性および接着性を有する種々の化合物がいずれも使用可能である。かかる結着剤としては、例えば熱可塑性樹脂や硬化性樹脂、液状硬化性樹脂などがあり、特に好ましくはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、フェノール系樹脂などをあげることができる。
【0043】
(異方導電膜とその製造方法)
本発明の異方導電膜は、従来同様に、結着剤からなる膜中に、金属粉末を均一に分散させてなるものであって、特に前記のように、長さLと幅Dの比L/Dが1を超える平面形状に形成した金属粉末を、その長さ方向が膜の厚み方向と一致するように、膜中で配向させた状態で固定しているのが好ましい。
かかる異方導電膜は、
(A) 下地面と交差する方向に磁場をかけた下地上に、金属粉末と結着剤とを、適当な溶媒とともに所定の割合で配合して調製した複合材料を塗布して、金属粉末を、その長さ方向が、上記磁場の方向に沿う膜の厚み方向と一致するように配向させた状態で、複合材料を固化または硬化させることによって、金属粉末の配向を固定するか、あるいは
(B) 金属粉末を、下地面と交差する方向に磁場をかけた下地上に散布して、当該金属粉末の長さ方向が、上記磁場の方向と一致するように配向させた状態で、結着剤を含む、流動性を有する塗剤を塗布して固化または硬化させることによって、金属粉末の配向を固定したのち、
下地からはく離することによって製造できる。
【0044】
なお(A)の方法で使用する複合材料や(B)の方法で使用する塗剤は、液状硬化性樹脂等の液状の結着剤を用いることで、溶媒を省略してもよい。
これらの方法を実施する際にかける磁場の強さは、金属粉末中に含まれる、磁性を有する金属の種類や割合等によって異なるものの、異方導電膜中の金属粉末を、当該膜の厚み方向に十分に配向させることを考慮すると、磁束密度で表して1mT以上、中でも10mT以上、とくに40mT以上であるのが好ましい。
【0045】
磁場をかける方法としては、ガラス基板、プラスチック基板などの下地の上下に磁石を配置する方法や、あるいは下地として磁石の表面を利用する方法などをあげることができる。後者の方法は、磁石の表面から出る磁力線が、当該表面から、異方導電膜の厚み程度までの領域では、磁石の表面に対してほぼ垂直であることを利用したもので、異方導電膜の製造装置を簡略化できるという利点がある。
【0046】
かくして製造した異方導電膜における、前記式(1)で求められる、導電成分としての金属粉末の充てん量は、0.05〜20体積%とするのが好ましい。
またその厚みは、異方導電膜を介して電極とバンプ、あるいは電極と電極を圧着させた際に良好に導電接着させることを考慮すると、10μm〜100μmであるのが好ましい。
【0047】
【実施例】
参考例1
〔めっき金型の製造〕
縦200mm×横300mmのステンレス(SUS316L)鋼板(基板)11の片面に、スパッタリング法によって、チタンの薄膜からなる耐食性の表面層12(厚み100nm)を形成した。
【0048】
次にこの表面層12の上に、フォトリソグラフ法によって、図2(a)(b)に示す長円形の金属粉末3の平面形状に対応した、長さL=20μm、幅D=2μmのレジスト膜が多数、分布したレジストパターンを形成した。レジスト膜の厚みは2μmであった。
次に、上記表面層12上に、スパッタリング法によって、中間層21のもとになるケイ素薄膜を形成し、次いでその上に、プラズマCVD法によって、表層22のもとになる絶縁性のDLC薄膜を形成した。両層の合計の厚みは0.2μmであった。
【0049】
次に、上記の積層体をアセトンに浸漬してレジスト膜を溶解、除去したのち水洗して乾燥させた。
そしてそれにより、レジスト膜を除去した跡に、金属粉末3の形状に対応した長円形の、長さL=20μm、幅D=2μmの開口2aを多数、有する絶縁層2を形成し、かつ開口2aを通して露出した表面層12の表面を微小電極表面1aとして、図1(a)に示す積層構造を有するめっき金型Mを製造した。
【0050】
〔金属粉末の作製〕
次に、上記めっき金型Mと、下記組成のニッケルめっき液(pH=3)とを使用して、エアバブリング中、液温45℃の条件でニッケルの電気めっきを行った。
(成 分) (濃 度)
硫酸ニッケル6水和物 200g/リットル
塩化ニッケル6水和物 40g/リットル
ホウ酸 30g/リットル
サッカリン 1g/リットル
電気めっきは、めっき金型Mを陰極とし、かつ陽極にニッケル板を使用して、直流10A/dm2で30秒間の通電を行うことによって実施し、それによってめっき金型Mの微小電極表面1aに選択的に、ニッケル薄膜を成長させた。
【0051】
そして電気めっき後のめっき金型Mにポリプロピレン製の不織布を押し付けてこすることによって、微小電極表面1a上に形成されたニッケル薄膜をはく離してニッケル粉末を製造した。
得られたニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、図4に示すように、いずれの粉末も欠陥や変形のない、長さL=20μm、幅D=2μm、長円形の平面形状を有する、厚みt=1μmの粉末であることが確認された。
【0052】
〔異方導電膜の製造〕
2種の固形エポキシ樹脂〔旭化成(株)製の品番6099(樹脂Aとする)、6144(樹脂Bとする)〕と、マイクロカプセル型潜在性硬化剤〔旭化成(株)製の品番HX3721(硬化剤とする)〕とを、重量比で樹脂A/樹脂B/硬化剤=70/30/40の割合で、酢酸ブチルとメチルイソブチルケトンとの重量比75/25の混合溶媒に溶解して、樹脂分、すなわち樹脂A、樹脂Bおよび硬化剤の3成分の合計の濃度が40重量%である樹脂溶液を調製した。
【0053】
次にこの樹脂溶液に、前記式(1)で求められる充てん率が0.5体積%となるように、先に作製した金属粉末を配合し、遠心かく拌ミキサーを用いてかく拌して均一に分散させることで、異方導電膜用の液状の複合材料を調製した。
そしてこの複合材料を、PETフィルム上に、ドクターナイフを用いて塗布した後、40mTの磁場をかけながら80℃で5分間、次いで100℃で10分間、加熱して溶媒を乾燥、除去するとともに樹脂を予備硬化させて、金属粉末の長さ方向が膜の厚み方向と一致するように配向した状態で固定された、厚み30μmの異方導電膜を製造した。
【0054】
参考例2
参考例1で作製したのと同じ金属粉末を、その充てん率が2.0体積%となるように樹脂溶液に配合したこと以外は参考例1と同様にして、厚み30μmの異方導電膜を製造した。
比較例1
〔金属粉末の作製〕
純水に、硫酸ニッケルと、クエン酸三ナトリウムとを溶解し、次いで三塩化チタンを混合して還元析出反応用の液を調製した。次に述べるpH調整後の液における各成分のモル濃度は、Ni(II)が0.04モル/リットル、クエン酸が0.3モル/リットル、Ti(III)が0.1モル/リットルとした。
【0055】
次にこの液をかく拌下、アンモニア水と、必要に応じて少量の純水とを加えて液のpHを9に調整するとともに、各成分のモル濃度を上記の値に調整して、還元析出反応を開始させた。液温は23±1℃とし、液のかく拌速度は400rpmとした。
そして、15分経過時点で液中に析出した沈殿をロ別し、水、次いでエタノールで十分に洗浄した後、真空乾燥して、多数の金属粒が鎖状に繋がった形状を有する金属粉末を得た。
【0056】
得られた金属粉末は、その鎖長が5〜20μmの範囲で分布していた。また金属粉末を形成する個々の金属粒の一次粒子径は400nmであった。
〔異方導電膜の製造〕
上記の金属粉末を使用したこと以外は実施例1と同様にして、厚み30μmの異方導電膜を製造した。金属粉末の充てん率は0.5体積%であった。
比較例2
〔金属粉末の作製〕
液温を50±1℃、pHを10.5としたこと以外は比較例1と同様にして、多数の金属粒が鎖状に繋がった形状を有する金属粉末を得た。
【0057】
得られた金属粉末は、その鎖長が10〜35μmの範囲で分布していた。また金属粉末を形成する個々の金属粒の一次粒子径は400nmであった。
〔異方導電膜の製造〕
上記の金属粉末を使用したこと以外は実施例1と同様にして、厚み30μmの異方導電膜を製造した。金属粉末の充てん率は0.5体積%であった。
接続抵抗、絶縁抵抗の測定
幅15μm、長さ50μm、厚み8μmのAu電極が15μm間隔で配列された電極パターンを有するFPCの、上記電極パターン上に、実施例、比較例で製造した異方導電膜を重ねて、80℃に加熱しながら0.1N/mm2の圧力で10秒間、加圧して仮接着した。
【0058】
次にこの異方導電膜上に、同形状、同寸法の電極パターンを有するもう1枚のFPCを、異方導電膜を挟んで電極パターン同士を相対向させて、両電極パターンの各々の電極が1対1で膜の面方向に重なるように位置合わせした状態で、200℃に加熱しながら3N/mm2の圧力で加圧して本接着した。
そして異方導電膜を介して導電接続された、相対向する2つのAu電極間の抵抗値を測定して、異方導電膜の厚み方向の接続抵抗とした。
【0059】
また隣り合う2つのAu電極間の抵抗値を測定して、異方導電膜の面方向の絶縁抵抗とした。
限界電流値の測定
異方導電膜を介して導電接続された、相対向する2つのAu電極間に流す電流を徐々に増加させた際に、溶断による断線が発生した電流値を求めて限界電流値とした。
【0060】
以上の結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表より、最大長が膜の厚みを超える鎖状の金属粉末を用いた比較例2の異方導電膜は、長寸の金属粉末が膜の厚み方向にきれいに配向せず、斜めに存在していたことから、膜の面方向の絶縁抵抗が100MΩという低い値を示すことがわかった。
また最大長を膜の厚み以下とした鎖状の金属粉末を用いた比較例1の異方導電膜は、膜の面方向の絶縁抵抗を100GΩまで高くすることができるものの、相対的に導電ネットワークの形成に寄与しない短寸のものが多量に含まれるため、膜の厚み方向の接続抵抗が0.3Ωと高くなってしまうこともわかった。
【0063】
さらに比較例1、2の異方導電膜はいずれも、限界電流値が0.5Aと小さいため、大電流を流す回路などの接続には適さないこともわかった。
これに対し参考例1、2の異方導電膜はいずれも、長さLを膜の厚み以下とした金属粉末を用いているため、比較例2に比べて膜の面方向の絶縁抵抗を高くできるとともに、金属粉末の寸法、形状が揃っていて、導電ネットワークの形成に寄与しない短寸のものなどを含まないため、比較例1に比べて、膜の厚み方向の接続抵抗を低くできることが確認された。
【0064】
また両参考例の異方導電膜はいずれも、両比較例に比べて限界電流値が大きいことから、大電流を流す回路などの接続に適していることも確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】 同図(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の異方導電膜に含有させる金属粉末を、微細電鋳法によって製造する工程の一例を示す断面図である。
【図2】 同図(a)は、図1(a)〜(c)の工程に使用するめっき金型の一例を示す平面図、同図(b)(c)はそれぞれ、上記めっき金型を使用して製造される金属粉末の外観を示す斜視図である。
【図3】 同図(a)(b)はそれぞれ、本発明の異方導電膜に含有させる金属粉末の平面形状を示す平面図である。
【図4】 本発明の参考例1で作製した金属粉末の粒子構造を示す顕微鏡写真である。
Claims (7)
- 長さLと幅Dの比L/Dが1を超えるとともに、長さ方向の上下両端に、前記長さ方向と直交する短寸の両端部を繋いだ平面形状を有する微小電極表面を多数、備えためっき金型を使用して、上記微小電極表面を陰極とする電気めっきによって、当該表面に選択的に、その平面形状に対応した微小な金属薄膜を形成したのち、はく離して製造した微細な金属粉末を、導電成分として含むことを特徴とする異方導電膜。
- 金属粉末を、その長さ方向が膜の厚み方向と一致するように、膜中で配向させたことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜。
- 金属粉末の長さLを、膜の厚み以下としたことを特徴とする請求項2記載の異方導電膜。
- 金属粉末を、磁性を有する金属単体、磁性を有する2種以上の金属の合金、磁性を有する金属と他の金属との合金、もしくは磁性を有する金属を含む複合体にて形成したことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜。
- 金属粉末を、微小電極表面に電気めっきによって積層、形成した2層以上の金属薄膜からなる複合体にて形成するとともに、その少なくとも1層を、磁性を有する金属単体、磁性を有する2種以上の金属の合金、または磁性を有する金属と他の金属との合金にて形成したことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜。
- 他の少なくとも1層を、導電性、耐酸化性に優れた他の金属にて形成したことを特徴とする請求項5記載の異方導電膜。
- 固形分として金属粉末と結着剤とを含み、かつ固形分の総量に占める金属粉末の割合で表される充てん率を0.05〜20体積%としたことを特徴とする請求項1記載の異方導電膜。
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