JP3911966B2 - 耐食性に優れた有機被覆鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、家電、建材用途などに最適な耐食性に優れた有機被覆鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板として、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的でクロメート皮膜とその上層の有機皮膜を形成した表面処理鋼板が幅広く用いられている。
【0003】
ところで、近年、環境問題から家電製品や自動車をはじめとする製品の廃棄物の処理が大きな問題となっており、廃棄物量を削減することが社会的課題となりつつある。特に、廃棄物の最終処分場の処理能力が限界となりつつあることから、リサイクルや部品の再利用の要求が高まりつつある。このような背景の下、素材となる表面処理鋼板についても、再利用が可能となる性能、すなわち長寿命でより耐食性に優れた鋼板に対する要求が高まりつつある。
【0004】
このような背景から、これまでにも亜鉛系めっき鋼板の耐食性向上を目的として以下のような技術が開示されている。
(1)クロメート皮膜と、エチレン−アクリル共重合体などの樹脂及びブロック化イソシアネートに粒子径2〜12mμのシリカ等の水分散ゾルを配合した樹脂層を形成した鋼板(特公平8−11215号)
(2)クロメート皮膜と、オレフィンとアクリル酸を共重合させた樹脂及び粒子径1〜10mμのコロイダルシリカを配合した皮膜を形成した鋼板(特開平8−243488号)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1)、(2)の従来技術のように有機樹脂とシリカの粒子径を規定しただけでは十分な耐食性は得られない。これは、有機皮膜が自己補修効果を有していないことに一因がある。すなわち、クロメート皮膜は、3価クロムの水和酸化物によるバリア性と、皮膜中に極微量含有する6価クロムによる自己補修効果(腐食の起点で保護皮膜を自発的に形成する能力)の両者の相乗効果によって耐食性を得ることができる。一方、上層に形成される有機皮膜は樹脂やシリカによりバリヤー性を付与しているが、自己補修効果を有していないため、一旦腐食が発生するとその速度は著しく高い。このため、上記従来技術の表面処理鋼板において得られる耐食性は、従来から用いられている有機樹脂とシリカからなる有機複合皮膜の耐食性のレベルを超えるものではなく、鋼板の顕著な長寿命化をもたらすものではない。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、有機樹脂層に自己補修効果を付与することにより、優れた耐食性が得られる有機被覆鋼板を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面にクロメート皮膜を形成し、その上層に特定の自己補修性発現物質を含有する有機皮膜を形成することにより、極めて優れた耐食性を有する有機被覆鋼板が得られることを見い出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴とする構成は以下の通りである。
【0009】
[1]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)、(g)及び(h)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)、(g)及び(h)の配合比が固形分の重量比で(e)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(g)/(h)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(g)酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上
(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0011】
[2]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(f)、(g)及び(h)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(f)、(g)及び(h)の配合比が固形分の重量比で(f)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(g)/(h)=20/80〜80/20である、
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(g)酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上
(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0012】
[ 3 ]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(f)及び(i)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(f)及び(i)の配合比が固形分の重量比で(f)/(i)=20/80〜80/20である、
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(i)Caイオン交換シリカ
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0013】
[ 4 ]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)及び(f)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)及び(f)の配合比が固形分の重量比で(e)/(f)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0014】
[5]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)、(f)、(g)及び(h)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)、(f)、(g)及び(h)の配合比が固形分の重量比で(e)/(f)=20/80〜80/20、(e)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(f)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(g)/(h)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(g)酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上
(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0015】
[ 6 ]亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)、(f)及び(i)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)、(f)及び(i)の配合比が固形分の重量比で(e)/(f)=20/80〜80/20、(e)/(i)=20/80〜80/20、(f)/(i)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(i)Caイオン交換シリカ
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0016】
[ 7 ]上記[ 1 ]〜[ 6 ]のいずれかの有機被覆鋼板において、有機皮膜が、さらに固形潤滑剤(C)を含有し、該固形潤滑剤(C)の含有量が前記皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して1〜80重量部(固形分)であることを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
[ 8 ]上記[ 1 ]〜[ 7 ]のいずれかの有機被覆鋼板において、皮膜形成有機樹脂(A)がOH基及び/又はCOOH基を有する有機高分子樹脂であることを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0017】
[ 9 ]上記[ 8 ]の有機被覆鋼板において、有機高分子樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
[ 10 ]上記[ 9 ]の有機被覆鋼板において、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂及び/又は変性エポキシ樹脂であることを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
[ 11 ]上記[ 1 ]〜[ 10 ]のいずれかの有機被覆鋼板において、クロメート皮膜が、6価Cr/全Crの濃度比率(モル比)が0.1以下であるクロメート処理組成物により形成されたものであることを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。
【0018】
本発明の有機被覆鋼板の基本的な特徴は、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に所定の付着量でクロメート皮膜を形成し、その上層に、皮膜形成有機樹脂(A)、好ましくはOH基及び/又はCOOH基を有する有機高分子樹脂(さらに好ましくは熱硬化性樹脂、特に好ましくはエポキシ樹脂及び/又は変性エポキシ樹脂)に自己補修性発現物質(防錆添加成分)として、(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、(h)リン酸塩及び酸化ケイ素、(i)Caイオン交換シリカ、のなかから選ばれる成分を特定の組み合わせで複合添加した防錆添加成分(B)を配合した有機皮膜を形成した点にある。
【0019】
上記のように有機皮膜中に、
(a)Caイオン交換シリカ及びリン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ、リン酸塩及び酸化ケイ素
(c)カルシウム化合物及び酸化ケイ素
(d)カルシウム化合物、リン酸塩及び酸化ケイ素
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
のうちのいずれかの、若しくは上記(e)及び/又は(f)に他の成分を複合添加した防錆添加成分(B)(自己補修性発現物質)を適量配合することにより、特に優れた防食性能(自己修復効果)を得ることができる。このような有機皮膜中に上記(a)〜(f)の成分を配合したことにより得られる防食機構は以下のように考えられる。
【0020】
まず、上記(a)〜(d)の成分は沈殿作用によって自己補修性を発現するもので、その反応機構は以下のステップで進むと考えられる。
[第1ステップ]:腐食環境下において、めっき金属である亜鉛やアルミニウムよりも卑なカルシウムが優先溶解する。
[第2ステップ]:リン酸塩の場合、加水分解反応により解離したリン酸イオンと上記第1ステップで優先溶解したカルシウムイオンが錯形成反応を起こし、また酸化ケイ素の場合、表面に上記第1ステップで優先溶解したカルシウムイオンが吸着し、表面電荷を電気的中和して凝集する。その結果、いずれの場合も緻密且つ難溶性の保護皮膜が生成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
【0021】
また、上記(e)の成分は不動態化効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食環境下で溶存酸素と共にめっき皮膜表面に緻密な酸化物を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
また、上記(f)の成分は吸着効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食によって溶出した亜鉛やアルミニウムが、上記(f)の成分が有する窒素や硫黄を含む極性基に吸着して不活性皮膜を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
【0022】
また、上記(a)〜(d)、(e)、(f)の各成分によって得られる自己補修効果からして、より高度な自己補修性を得るには上記(e)及び/又は(f)を必須成分とし、これに他の成分を複合させた以下のような組み合せの防錆添加成分(B)を調整(配合)するのが好ましく、特に、下記(5) 及び (6)の場合に最も高度な自己補修性(すなわち、耐白錆性)が得られる。
【0023】
(1)(e)モリブデン酸塩、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分
( 2 )(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分
( 3 )(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、及び(i)Caイオン交換シリカ、を配合した防錆添加成分
【0024】
( 4 )(e)モリブデン酸塩、及び(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、を配合した防錆添加成分
( 5 )(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分
( 6 )(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、及び(i)Caイオン交換シリカ、を配合した防錆添加成分
【0025】
また、上記のような自己補修性発現物質による防食作用に加え、有機皮膜の皮膜形成有機樹脂(A)にOH基及び/又はCOOH基を有する有機高分子樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂、さらに好ましくはエポキシ樹脂及び/又は変性エポキシ樹脂)を使用することにより、この有機高分子樹脂が架橋剤との反応により緻密なバリヤー皮膜を形成し、このバリヤー皮膜は、酸素などの腐食因子の透過抑制能に優れ、また分子中のOH基やCOOH基により素地との強固な結合力が得られるため、特に優れた耐食性(バリヤー性)が得られる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明の有機被覆鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金めっき鋼板、Zn−Fe合金めっき鋼板(電気めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板)、Zn−Cr合金めっき鋼板、Zn−Mn合金めっき鋼板、Zn−Co合金めっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Ni合金めっき鋼板、Zn−Cr−Fe合金めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板、Zn−55%Al合金めっき鋼板)、Zn−Mg合金めっき鋼板、Zn−Al−Mgめっき鋼板、さらにはこれらのめっき鋼板のめっき皮膜中に金属酸化物、ポリマーなどを分散した亜鉛系複合めっき鋼板(例えば、Zn−SiO2分散めっき鋼板)などを用いることができる。
【0027】
また、上記のようなめっきのうち、同種又は異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
また、本発明の有機被覆鋼板のベースとなるアルミニウム系めっき鋼板としては、アルミニウムめっき鋼板、Al−Si合金めっき鋼板などを用いることができる。
また、めっき鋼板としては、鋼板面に予めNiなどの薄目付めっきを施し、その上に上記のような各種めっきを施したものであってもよい。
めっき方法としては、電解法(水溶液中での電解又は非水溶媒中での電解)、溶融法及び気相法のうち、実施可能ないずれの方法を採用することもできる。
【0028】
また、後述するような二層皮膜をめっき皮膜表面に形成した際に皮膜欠陥やムラが生じないようにするため、必要に応じて、予めめっき皮膜表面にアルカリ脱脂、溶剤脱脂、表面調整処理(アルカリ性の表面調整処理、酸性の表面調整処理)などの処理を施しておくことができる。また、有機被覆鋼板の使用環境下での黒変(めっき表面の酸化現象の一種)を防止する目的で、必要に応じて予めめっき皮膜表面に鉄族金属イオン(Niイオン、Coイオン、Feイオン)を含む酸性又はアルカリ性水溶液による表面調整処理を施しておくこともできる。また、電気亜鉛めっき鋼板を下地鋼板として用いる場合には、黒変を防止する目的で電気めっき浴に鉄族金属イオン(Niイオン、Coイオン、Feイオン)を添加し、めっき皮膜中にこれらの金属を1ppm以上含有させておくことができる。この場合、めっき皮膜中の鉄族金属濃度の上限については特に制限はない。
【0029】
亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面には、第1層皮膜としてクロメート皮膜を形成する。
クロメート皮膜としては、反応型クロメート処理皮膜、電解型クロメート処理皮膜、塗布型クロメート処理皮膜のいずれでもよい。
塗布型クロメート処理皮膜は、部分的に還元されたクロム酸水溶液を主成分とし、これに必要に応じて下記▲1▼〜▲9▼の成分の中から選ばれる1種以上を添加したクロメート処理液を用い、このクロメート処理液をめっき鋼板に塗布し、水洗することなく乾燥させることにより得ることができる。
【0030】
▲1▼ 水溶性又は水分散性のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの有機樹脂
▲2▼ シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛などの酸化物のコロイド類及び/又は粉末
▲3▼ モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸などの酸及び/又はその塩類
▲4▼ リン酸、ポリリン酸などのリン酸類
▲5▼ ジルコニウムフッ化物、ケイフッ化物、チタンフッ化物、リン酸フッ化物等のフッ化物
▲6▼ 亜鉛イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオンなどの金属イオン▲7▼ リン化鉄、アンチモンドープ型酸化錫などの導電性微粉末
▲8▼ フッ化水素
▲9▼ シランカップリング剤
【0031】
また、この塗布型クロメート処理では、6価Crの含有量を抑制するために、クロメート処理液中の還元率を高めることが有効である。特に、処理液中の6価クロムの割合を低減させて、6価Cr/全Crの比率(固形分)を0.1以下、望ましくは0.01以下としたクロメート処理液を用いるのが有効である。このようなクロメート処理液を調整する方法としては、無水クロム酸水溶液に還元剤として過剰のシュウ酸及び/又はオキシカルボン酸を添加して還元率を高めるととともに、pH上昇によって還元生成物である3価Crが沈殿しないようにするため、リン酸などでpHを低下させることことが有効であり、これにより3価Crを主成分とするクロメート皮膜を安定して得ることができる。
塗布型クロメート処理は、通常、ロールコーター法により処理液を塗布するが、浸漬法やスプレー法により塗布した後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量を調整することも可能である。
【0032】
電解クロメート処理皮膜は、例えば、部分的に還元されたクロム酸水溶液と硫酸を主成分とし、必要に応じて、
▲1▼ 金属イオン(例えば、Zn、Ni、Co、Fe、Mg、Mn、Al、Caなどのイオン)、
▲2▼ 酸化物のコロイド類及び/又は微粉末(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化アンチモンなど)
▲3▼ 塩素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、リン酸イオンなどのアニオン
▲4▼ ジルコニウムフッ化物、ケイフッ化物、チタンフッ化物、ホウ素フッ化ホウ素物、リン酸フッ化物などのフッ化物
▲5▼ ポリエチレングリコール、水系アクリル樹脂などの有機化合物
の中から選ばれる1種以上が添加され、pH1〜5に調整されたクロメート処理液を用い、めっき鋼板を30〜70℃の温度で0.5〜40C/dm2の電気量でカソード電解することによって得ることができる。
【0033】
反応型クロメート皮膜は、例えば、無水クロム酸と硫酸を主成分とし、全Cr中の3価Crの含有量が50重量%以下、好ましくは20〜35重量%であって、必要に応じて適量の金属イオン(例えば、Znイオン、Coイオン、Niイオン、Feイオンなど)や他の鉱酸類(例えば、リン酸、塩酸、フッ酸など)などが添加されたクロメート処理液を用い、クロメート処理液でめっき鋼板を処理することにより得ることができる。
【0034】
これらのクロメート皮膜の付着量は、金属クロム換算で1〜1000mg/m2、望ましくは5〜200mg/m2、特に望ましくは10〜100mg/m2とする。付着量が1mg/m2未満では耐食性が不十分であり、一方、1000mg/m2超えるとクロメート皮膜にクラックが形成されたり、溶接性が低下するなどの問題が生じる。
【0035】
上記クロメート皮膜の上層には、特定の自己補修性発現物質を含有する有機皮膜を形成する。
有機皮膜の基体樹脂としては特に制限はなく、水溶性樹脂、水分散性樹脂、有機溶剤可溶性樹脂のいずれでも用いることができるが、特に耐食性の観点からはOH基及び/又はCOOH基を有する有機高分子樹脂(A)を用いることが好ましい。また、そのなかでも熱硬化性樹脂が好ましく、さらにエポキシ樹脂または変性エポキシ樹脂が最も好ましい。
【0036】
OH基及び/又はCOOH基を有する有機高分子樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、アルキッド樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミン樹脂、ポリフェニレン樹脂類及びこれらの樹脂の2種以上の混合物若しくは付加重合物などが挙げられる。
【0037】
(1)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラックなどをグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、ビスフェノールAにプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド又はポリアルキレングリコールを付加し、グリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、さらには脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂などを用いることができる。
これらエポキシ樹脂は、特に低温での硬化を必要とする場合には、数平均分子量1500以上のものが望ましい。なお、上記エポキシ樹脂は単独又は異なる種類のものを混合して使用することもできる。
【0038】
変性エポキシ樹脂としては、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基又はビドロキシル基に各種変性剤を反応させた樹脂が挙げられる。例えば、乾性油脂肪酸中のカルボキシル基を反応させたエポキシエステル樹脂、アクリル酸、メタクリル酸などで変性したエポキシアクリレート樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ樹脂にイソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂にアルカノールアミンを付加したアミン付加ウレタン変性エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0039】
上記ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は、単核型若しくは2核型の2価フェノール又は単核型と2核型との混合2価フェノールを、アルカリ触媒の存在下にほぼ等モル量のエピハロヒドリンと重縮合させて得られる重合体である。単核型2価フェノールの代表例としてはレゾルシン、ハイドロキノン、カテコールが挙げられ、2核型フェノールの代表例としてはビスフェノールAが挙げられ、これらは単独で使用しても或いは2種以上を併用してもよい。
【0040】
(2)ウレタン樹脂
ウレタン樹脂としては、例えば、油変性ポリウレタン樹脂、アルキド系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などを挙げることができる。
(3)アルキド樹脂
アルキド樹脂としは、例えば、油変性アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、スチレン化アルキド樹脂、シリコン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂、高分子量オイルフリーアルキド樹脂などを挙げることができる。
【0041】
(4)アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸エステル及びその共重合体、ポリメタクリル酸エステル及びその共重合体、ポリメタクリル酸エステル及びその共重合体、ウレタン−アクリル酸共重合体(又はウレタン変性アクリル樹脂)、スチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられ、さらにこれらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂を用いてもよい。
【0042】
(5)エチレン樹脂(ポリオレフィン樹脂)
エチレン樹脂としては、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、カルボキシル変性ポリオレフィン樹脂などのエチレン系共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体、エチレン系アイオノマーなどが挙げられ、さらに、これらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂を用いてもよい。
【0043】
(6)アクリルシリコン樹脂
アクリルシリコン樹脂としては、例えば、主剤としてアクリル系共重合体の側鎖又は末端に加水分解性アルコキシシリル基を含み、これに硬化剤を添加したものなどが挙げられる。これらのアクリルシリコン樹脂を用いた場合、優れた耐候性が期待できる。
【0044】
(7)フッ素樹脂
フッ素樹脂としては、フルオロオレフィン系共重合体があり、これには例えば、モノマーとしてアルキルビニルエーテル、シンクロアルキルビニルエーテル、カルボン酸変性ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、テトラフルオロプロピルビニルエーテルなどと、フッ素モノマー(フルオロオレフィン)とを共重合させた共重合体がある。これらフッ素樹脂を用いた場合には、優れた耐候性と優れた疎水性が期待できる。
【0045】
また、樹脂の乾燥温度の低温化を狙いとして、樹脂粒子のコア部分とシェル部分とで異なる樹脂種類、又は異なるガラス転移温度の樹脂からなるコア・シェル型水分散性樹脂を用いることができる。
また、自己架橋性を有する水分散性樹脂を用い、例えば、樹脂粒子にアルコキシシラン基を付与することによって、樹脂の加熱乾燥時にアルコキシシランの加水分解によるシラノール基の生成と樹脂粒子間のシラノール基の脱水縮合反応を利用した粒子間架橋を利用することができる。
また、有機皮膜に使用する樹脂としては、有機樹脂をシランカップリング剤を介してシリカと複合化させた有機複合シリケートも好適である。
【0046】
本発明では有機皮膜の耐食性や加工性の向上を狙いとして、特に熱硬化性樹脂を用いることが望ましい。この場合、尿素樹脂(ブチル化尿素樹脂など)、メラミン樹脂(ブチル化メラミン樹脂)、ブチル化尿素・メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、ブロックイソシアネート、オキサゾリン化合物、フェノール樹脂などの硬化剤を配合することができる。
【0047】
以上述べた有機樹脂の中で、耐食性、加工性、塗装性を考慮すると、エポキシ樹脂、エチレン系樹脂が好ましく、特に、酵素などの腐食因子に対して優れた遮断性を有する熱硬化性のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂が特に好適である。これらの熱硬化性樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性変性エポキシ樹脂、エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂、エポキシ基を有するポリブタジエン樹脂、エポキシ基を有するポリウレタン樹脂、及びこれらの樹脂の付加物もしくは縮合物などが挙げられ、これらのエポキシ基含有樹脂の1種を単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0048】
有機皮膜中に自己補修性発現物質である下記(a)〜(f)のうちのいずれかの防錆添加成分(B)、
(a)Caイオン交換シリカ及びリン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ、リン酸塩及び酸化ケイ素
(c)カルシウム化合物及び酸化ケイ素
(d)カルシウム化合物、リン酸塩及び酸化ケイ素
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
若しくは上記(e)及び/又は(f)に他の成分を配合した防錆添加成分(B)を添加する。
これら成分(a)〜(f)による防食機構については先に述べた通りである。
【0049】
上記成分(a)、(b)中に含まれるCaイオン交換シリカは、カルシウムイオンを多孔質シリカゲル粉末の表面に固定したもので、腐食環境下でCaイオンが放出されて沈殿膜を形成する。
Caイオン交換シリカとしては任意のものを用いることができるが、平均粒子径が6μm以下、望ましくは4μm以下のものが好ましく、例えば、平均粒子径が2〜4μmのものを用いることができる。Caイオン交換シリカの平均粒子径が6μmを超えると耐食性が低下するとともに、塗料組成物中での分散安定性が低下する。
Caイオン交換シリカ中のCa濃度は1wt%以上、望ましくは2〜8wt%であることが好ましい。Ca濃度が1wt%未満ではCa放出による防錆効果が十分に得られない。なお、Caイオン交換シリカの表面積、pH、吸油量については特に限定されない。
【0050】
以上のようなCaイオン交換シリカとしては、商品名でW.R.Grace&Co.製のSHIELDEX C303(平均粒子径2.5〜3.5μm、Ca濃度3wt%)、SHIELDEX AC3(平均粒子径2.3〜3.1μm、Ca濃度6wt%)、SHIELDEX AC5(平均粒子径3.8〜5.2μm、Ca濃度6wt%)、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX(平均粒子径3μm、Ca濃度6〜8wt%)、SHIELDEX SY710(平均粒子径2.2〜2.5μm、Ca濃度6.6〜7.5wt%)などを用いることができる。
【0051】
上記成分(a)、(b)、(d)中に含まれるリン酸塩は、単塩、複塩などの全ての種類の塩を含む。また、それを構成する金属カチオンに限定はなく、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのいずれの金属カチオンでもよい。また、リン酸イオンの骨格や縮合度などにも限定はなく、正塩、二水素塩、一水素塩又は亜リン酸塩のいずれでもよく、さらに、正塩はオルトリン酸塩の他、ポリリン酸塩などの全ての縮合リン酸塩を含む。
【0052】
上記成分(c)、(d)中に含まれるカルシウム化合物は、カルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、カルシウム塩のいずれでもよく、これらの1種または2種以上を使用できる。また、カルシウム塩の種類にも特に制限はなく、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのようなカチオンとしてカルシウムのみを含む単塩のほか、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムなどのようなカルシウムとカルシウム以外のカチオンを含む複塩を使用してもよい。
【0053】
上記成分(b)、(c)、(d)中に含まれる酸化ケイ素は、コロイダルシリカ、乾式シリカのいずれでもよい。コロイダルシリカとしては、水系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、例えば、商品名で日産化学工業(株)製のスノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスC、スノーテックスS、触媒化成工業(株)製のカタロイドS、カタロイドSI−350、カタロイドSI−40、カタロイドSA、カタロイドSN、旭電化工業(株)製のアデライトAT−20〜50、アデライトAT−20N、アデライトAT−300、アデライトAT−300S、アデライトAT20Qなどを用いることができる。
【0054】
また、溶剤系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、例えば、商品名で日産化学工業(株)製のオルガノシリカゾルMA−ST−M、オルガノシリカゾルIPA−ST、オルガノシリカゾルEG−ST、オルガノシリカゾルE−ST−ZL、オルガノシリカゾルNPC−ST、オルガノシリカゾルDMAC−ST、オルガノシリカゾルDMAC−ST−ZL、オルガノシリカゾルXBA−ST、オルガノシリカゾルMIBK−ST、触媒化成工業(株)製のOSCAL−1132、OSCAL−1232、OSCAL−1332、OSCAL−1432、OSCAL−1532、OSCAL−1632、OSCAL−1722などを用いることができる。
【0055】
特に、有機溶剤分散型シリカゾルは、分散性に優れ、ヒュームドシリカよりも耐食性に優れている。
また、ヒュームドシリカとしては、例えば、商品名で日本アエロジル(株)製のAEROSIL R971、AEROSIL R812、AEROSIL R811、AEROSIL R974、AEROSIL R202、AEROSIL R805、AEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 300、AEROSIL 300CFなどを用いることができる。
【0056】
微粒子シリカは、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制することができると考えられている。
耐食性の観点からは、微粒子シリカは粒子径が5〜50nm、望ましくは5〜20nm、さらに好ましくは5〜15nmのものを用いるのが好ましい。
前記成分(e)のモリブデン酸塩は、その骨格、縮合度に限定はなく、例えばオルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタモリブデン酸塩などが挙げられる。また、単塩、複塩などの全ての塩を含み、複塩としてはリン酸モリブデン酸塩などが挙げられる。
【0057】
上記成分(f)の有機化合物のうち、トリアゾール類としては、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾールなどが、またチアジアゾール類としては、5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどが、またチアゾール類としては、2−N,N−ジエチルチオベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール類などが、またチウラム類としては、テトラエチルチウラムジスルフィドなどが、それぞれ挙げられる。
【0062】
上記の防錆添加成分(a)〜(f)は、先に述べたように腐食環境下において沈殿効果(成分(a)〜(d)の場合)、不動態化効果(成分(e)の場合)、吸着効果(成分(f)の場合)により、それぞれ保護皮膜を形成する。
また、上記(a)〜(d)、(e)、(f)の各成分によって得られる自己補修効果(上述した3つのタイプの保護皮膜形成効果)からして、より高度な自己補修性を得るには上記(e)及び/又は(f)に他の成分を複合添加した以下のような組み合せの防錆添加成分(B)を調整(配合)するのが好ましく、特に、下記(5) 及び (6)の場合に最も高度な自己補修性(すなわち、耐白錆性)が得られる。
【0063】
(1)(e)モリブデン酸塩、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分
( 2 )(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分
( 3 )(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、及び(i)Caイオン交換シリカ、を配合した防錆添加成分
【0064】
( 4 )(e)モリブデン酸塩、及び(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、を配合した防錆添加成分
( 5 )(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分
( 6 )(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、及び(i)Caイオン交換シリカ、を配合した防錆添加成分
ここで、適用し得るカルシウム化合物、リン酸塩、酸化ケイ素、Caイオン交換シリカについては、先に(a)〜(d)の成分に関して述べたものと同様である。
【0065】
上記(1)の(e)モリブデン酸塩、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分において、これら(e)、(g)及び(h)の配合比は固形分の重量比で(e)/(g)+(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、また(g)/(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当である。
【0066】
ここで、(e)/(g)+(h)が1/99未満又は99/1超えでは、異なる自己補修効果を複合させることによる効果が十分に得られない。また、(g)/(h)が1/99未満ではカルシウム溶出量が少なく、腐食起点を封鎖するだけの保護皮膜を形成できず、一方、99/1を超えると、保護皮膜の形成にとって必要以上の量のカルシウムが溶出するばかりでなく、そのカルシウムと錯形成反応を起こすのに必要なリン酸イオンやカルシウムを吸着させるのに必要な酸化ケイ素が十分に供給されないため、十分な自己補修効果が得られない。
【0068】
上記(2)の(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分において、これら(f)、(g)及び(h)の配合比は固形分の重量比で(f)/(g)+(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、また、(g)/(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当である。
【0069】
ここで、(f)/(g)+(h)が1/99未満又は99/1超えでは、異なる自己補修効果を複合させることによる効果が十分に得られない。また、(g)/(h)が1/99未満ではカルシウム溶出量が少なく、腐食起点を封鎖するだけの保護皮膜を形成できず、一方、99/1を超えると、保護皮膜の形成にとって必要以上の量のカルシウムが溶出するばかりでなく、そのカルシウムと錯形成反応を起こすのに必要なリン酸イオンやカルシウムを吸着させるのに必要な酸化ケイ素が十分に供給されないため、十分な自己補修効果が得られない。
【0070】
上記(3)の(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物及び(i)Caイオン交換シリカ、を配合した防錆添加成分において、(f)及び(i)の配合比は固形分の重量比で(f)/(i)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当である。
ここで、(f)/(i)が1/99未満又は99/1超えでは、異なる自己補修効果を複合させることによる効果が十分に得られない。
【0071】
上記(4)の(e)モリブデン酸塩、及び(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、を配合した防錆添加成分において、(e)及び(f)の配合比は固形分の重量比で(e)/(f)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当である。
ここで、(e)/(f)が1/99未満又は99/1超えでは、異なる自己補修効果を複合させることによる効果が十分に得られない。
【0072】
上記(5)の(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、(g)カルシウム化合物、及び(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素、を配合した防錆添加成分において、これら(e)、(f)、(g)及び(h)の配合比は固形分の重量比で(e)/(f)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、(e)/(g)+(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、(f)/(g)+(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、(g)/(h)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当である。
【0073】
ここで、(e)/(f)、(e)/(g)+(h)、(f)/(g)+(h)が、それぞれ1/99未満又は99/1超えでは、異なる自己補修効果を複合させることによる効果が十分に得られない。また、(g)/(h)が1/99未満ではカルシウム溶出量が少なく、腐食起点を封鎖するだけの保護皮膜を形成できず、一方、99/1を超えると、保護皮膜の形成にとって必要以上の量のカルシウムが溶出するばかりでなく、そのカルシウムと錯形成反応を起こすのに必要なリン酸イオンやカルシウムを吸着させるのに必要な酸化ケイ素が十分に供給されないため、十分な自己補修効果が得られない。
【0074】
上記(6)の(e)モリブデン酸塩、(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物、及び(i)Caイオン交換シリカ、を配合した防錆添加成分において、これら(e)、(f)及び(i)の配合比は固形分の重量比で(e)/(f)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、(e)/(i)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当であり、(f)/(i)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20が適当である。
ここで、(e)/(f)、(e)/(i)、(f)/(i)が、それぞれ1/99未満又は99/1超えでは、異なる自己補修効果を複合させることによる効果が十分に得られない。
【0075】
有機皮膜中での上記防錆添加成分(B)の配合量(複合添加した自己補修性発現物質の合計の配合量)は、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して、1〜100重量部(固形分)、好ましくは5〜80重量部(固形分)、さらに好ましくは10〜50重量部(固形分)とする。防錆添加成分(B)の配合量が1重量部未満では耐食性向上効果が小さい。一方、配合量が100重量部を超えると、耐食性が低下するので好ましくない。
【0076】
また、有機皮膜中には上記の防錆添加成分に加えて、腐食抑制剤として、他の酸化物微粒子(例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アンチモンなど)、リンモリブデン酸塩(例えば、リンモリブデン酸アルミニウムなど)、有機リン酸及びその塩(例えば、フィチン酸、フィチン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩、及びこれらの金属塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)、有機インヒビター(例えば、ヒドラジン誘導体、チオール化合物、ジチオカルバミン酸塩など)などの1種又は2種以上を添加できる。
【0077】
有機皮膜中には、さらに必要に応じて、皮膜の加工性を向上させる目的で固形潤滑剤(C)を配合することができる。
本発明に適用できる固形潤滑剤(C)としては、例えば、以下のようなものが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(1)ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス:例えば、ポリエチレンワックス、合成パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、塩素化炭化水素など
(2)フッ素樹脂微粒子:例えば、ポリフルオロエチレン樹脂(ポリ4フッ化エチレン樹脂など)、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂など
【0078】
また、この他にも、脂肪酸アミド系化合物(例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、オレイン酸アミド、エシル酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミドなど)、金属石けん類(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛、ラウリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウムなど)、金属硫化物(例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなど)、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、ポリアルキレングリコール、アルカリ金属硫酸塩などの1種又は2種以上を用いてもよい。
【0079】
以上の固形潤滑剤の中でも、特に、ポリエチレンワックス、フッ素樹脂微粒子(なかでも、ポリ4フッ化エチレン樹脂微粒子)が好適である。
ポリエチレンワックスとしては、例えば、ヘキスト社製のセリダスト 9615A、セリダスト 3715、セリダスト 3620、セリダスト 3910、三洋化成(株)製のサンワックス 131−P、サンワックス 161−P、三井石油化学(株)製のケミパール W−100、ケミパール W−200、ケミパールW−500、ケミパール W−800、ケミパール W−950などを用いることができる。
【0080】
また、フッ素樹脂微粒子としては、テトラフルオロエチレン微粒子が最も好ましく、例えば、ダイキン工業(株)製のルブロン L−2、ルブロン L−5、三井・デュポン(株)製のMP1100、MP1200、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンディスパージョン AD1、フルオンディスパージョン AD2、フルオン L141J、フルオン L150J、フルオン L155Jなどが好適である。
また、これらのなかで、ポリオレフィンワックスとテトラフルオロエチレン微粒子の併用により特に優れた潤滑効果が期待できる。
【0081】
有機皮膜中での固形潤滑剤(C)の配合量は、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して、1〜80重量部(固形分)、好ましくは3〜40重量部(固形分)とする。固形潤滑剤(C)の配合量が1重量部未満では潤滑効果が乏しく、一方、配合量が80重量部を超えると塗装性が低下するので好ましくない。
【0082】
本発明の有機被覆鋼板が有する有機皮膜は、通常、皮膜形成有機樹脂(A)に自己補修性発現物質である特定成分を複合添加した防錆添加成分(B)が配合され、必要に応じて、固形潤滑剤(C)及び硬化剤などが添加されるが、さらに必要に応じて、添加剤として、有機着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料など)、着色染料(例えば、有機溶剤可溶性アゾ系染料、水溶性アゾ系金属染料など)、無機顔料(例えば、酸化チタンなど)、キレート剤(例えば、チオールなど)、導電性顔料(例えば、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなどの金属粉末、リン化鉄、アンチモンドープ型酸化錫など)、カップリング剤(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤など)、メラミン・シアヌル酸付加物などの1種又は2種以上を添加することができる。
【0083】
また、上記皮膜形成有機樹脂および添加成分を含む皮膜形成用の塗料組成物は、通常、溶媒(有機溶剤及び/又は水)を含有し、さらに必要に応じて中和剤などが添加される。
有機皮膜の乾燥膜厚は0.1〜5μm、好ましくは0.3〜3μm、さらに好ましくは0.5〜2μmとする。有機皮膜の膜厚が0.1μm未満では耐食性が不十分であり、一方、膜厚が5μmを超えると導電性、加工性が低下する。
【0084】
次に、本発明の有機被覆鋼板の製造方法について説明する。
本発明の有機被覆鋼板は、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面をクロメート処理した後、上述した皮膜形成有機樹脂(A)に対して、上述した特定の成分を複合添加した防錆添加成分(B)が添加され、さらに必要に応じて固形潤滑剤(C)などが添加された塗料組成物を塗布し、加熱乾燥させることにより製造される。
なお、めっき鋼板の表面は、上記処理液を塗布する前に必要に応じてアルカリ脱脂処理し、さらに密着性、耐食性を向上させるために表面調整処理などの前処理を施すことができる。
【0085】
めっき鋼板面にクロメート皮膜を形成する形成する場合、上述した塗布型、電解型、反応型のいずれかのクロメート処理を行い、必要に応じて水洗した後、加熱乾燥を行う。処理液をめっき鋼板表面にコーティングする方法としては、塗布方式、浸漬方式、スプレー方式のいずれでもよく、塗布方式ではロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの塗布手段を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
【0086】
クロメート処理後の加熱乾燥方法は任意であり、例えば、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などの手段を用いることができる。
この加熱乾燥処理は到達板温で40〜350℃、望ましくは80〜200℃、さらに望ましくは80〜160℃の範囲で行うことが好ましい。加熱乾燥温度が40℃未満では皮膜中に水分が多量に残り、耐食性が不十分となる。一方、加熱乾燥温度が350℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜にクラックなどの欠陥が生じやすくなり、耐食性が低下する。
【0087】
以上のようにクロメート皮膜を形成した後、有機皮膜形成用の塗料組成物を塗布する。塗料組成物を塗布する方法としては、塗布法、浸漬法、スプレー法などの任意の方法を採用できる。塗布法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの方法を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理又はスプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
【0088】
塗料組成物の塗布後、通常は水洗することなく加熱乾燥を行うが、塗料組成物の塗布後に水洗工程を実施しても構わない。
加熱乾燥処理には、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等を用いることができる。加熱処理は、到達板温で50〜350℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲で行うことが望ましい。加熱温度が50℃未満では皮膜中の水分が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、加熱温度が350℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下するおそれがある。
【0089】
本発明は、以上述べたようなクロメート皮膜と有機皮膜を両面または片面に有する鋼板を含むものである。したがって、本発明鋼板の形態としては、例えば、以下のようなものがある。
(1)片面:めっき皮膜−クロメート皮膜−有機皮膜、片面:めっき皮膜
(2)片面:めっき皮膜−クロメート皮膜−有機皮膜、片面:めっき皮膜−その他の化成処理皮膜
(3)両面:めっき皮膜−クロメート皮膜−有機皮膜
(4)片面:めっき皮膜−クロメート皮膜−有機皮膜、片面:めっき皮膜−有機皮膜
【0090】
【実施例】
有機皮膜形成用の有機樹脂として表2に示すものを用い、この樹脂組成物には表3に示す自己補修性発現物質、表4に示す固形潤滑剤を適宜配合し、塗料用分散機(サンドグラインダー)を用いて必要時間分散させて所望の塗料組成物とした。
【0091】
家電、建材、自動車部品用の有機被覆鋼板を得るため、板厚:0.8mm、表面粗さRa:1.0μmの冷延鋼板に各種亜鉛系めっき又はアルミニウム系めっきを施した表1に示すめっき鋼板を処理原板として用い、このめっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理及び水洗乾燥した後、下記する塗布型クロメート処理、電解型クロメート処理、反応型クロメート処理のいずれかでクロメート処理し、クロメート皮膜を形成させた。次いで、有機皮膜形成用の塗料組成物をロールコーターにより塗布し、加熱乾燥して有機皮膜を形成させ、本発明例および比較例の有機被覆鋼板を製造した。有機皮膜の膜厚は、塗料組成物の固形分(加熱残分)または塗布条件(ロールの圧下力、回転速度など)により調整した。
【0092】
▲1▼ 反応型クロメート処理
無水クロム酸:30g/l、リン酸:10g/l、NaF:0.5g/l、K2TiF6:4g/lを含む処理液を用い、浴温40℃の条件でスプレー処理した後、水洗・乾燥した。クロム付着量は、処理時間、遊離酸度を変えることにより調整した。
【0093】
▲2▼ 電解型クロメート処理
無水クロム酸:30g/l、硫酸:0.2g/l、浴温40℃の処理液を用いて陰極電解処理を行い、水洗・乾燥した。クロム付着量は電解処理の通電量を制御することにより調整した。
【0094】
▲3▼ 塗布型クロメート処理(a)
無水クロム酸水溶液:100g/lに還元剤(澱粉)を加えて80℃の温度に調整して2時間放置し、無水クロム酸の一部を還元して6価Cr/3価Cr:3/2の水溶液を調整した。次いで、この水溶液にシリカゾルをシリカ/全Cr:6/1になるように添加し、さらに、酸化亜鉛とリン酸とを溶解させて得られたリン酸亜鉛水溶液を、PO4イオン/全Cr:1/4、2価Zn/6価Cr:3/20となるように添加して、クロメート処理液を調整した。このクロメート処理液を所定濃度に希釈し、各種めっき鋼板の表面にロールコーターにより塗布し、水洗することなく板温70〜250℃で加熱乾燥した。クロム付着量は、処理液の濃度とコーティング条件を変えることで調整した。
【0095】
▲4▼ 塗布型クロメート処理(b)
無水クロム酸水溶液:20g/l(1L)に還元剤(シュウ酸飽和水溶液:1L)及びリン酸:100mlを徐々に加えて室温で24時間放置し、無水クロム酸を還元して6価Cr/全Cr<0.1、pH=1のクロメート処理液を調整した。このクロメート処理液を所定濃度に希釈し、各種めっき鋼板の表面にロールコーターにより塗布し、水洗することなく板温70〜250℃で加熱乾燥した。クロム付着量は、処理液の濃度とコーティング条件を変えることで調整した。
【0096】
得られた有機被覆鋼板について、品質性能(耐クロム溶出性、耐白錆性、アルカリ脱脂後の耐白錆性、塗料密着性、加工性)の評価を行った。その結果を化成処理皮膜および有機皮膜の皮膜構成等とともに表5〜表18に示す。
有機被覆鋼板の品質性能の評価は以下のようにして行った。
【0097】
(1) 耐クロム溶出性(クロム固定率)
各サンプルについて、日本パーカライジング(株)製の脱脂剤パルクリーンN364Sによって標準条件での脱脂処理を行い、脱脂前後のクロムの固定率を測定した。なお、クロム固定率={(脱脂前のクロム付着量−脱脂後のクロム付着量)/脱脂前のクロム付着量}×100(%)である。
評価基準は以下のとおりである。
◎:クロム固定率100%
○:クロム固定率90%以上、100%未満
△:クロム固定率80%以上、90%未満
×:クロム固定率80%未満
【0098】
(2) 耐白錆性
各サンプルについて以下に示す複合腐食試験(CCT)を行い、所定サイクル後の白錆発生面積率で評価した。
[複合腐食試験(CCT)の1サイクル内容]
3wt%塩水噴霧試験(30℃;0.5時間)
↓
湿潤試験(30℃、95%RH;1.5時間)
↓
熱風乾燥試験(50℃、20%RH;2.0時間)
↓
熱風乾燥試験(30℃、20%RH;2.0時間)
評価基準は、以下の通りである。
◎ :白錆発生なし
○+:白錆発生面積率5%未満
○ :白錆発生面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆発生面積率25%以上、50%未満
× :白錆発生面積率50%以上
【0099】
(3) アルカリ脱脂後の耐白錆性
各サンプルについて、日本パーカライジング(株)製のアルカリ処理液CLN−364S(60℃,スプレー2分)でアルカリ脱脂を行った後、上記の複合腐食試験(CCT)を行い、所定サイクル後の白錆面積率で評価した。評価基準は、以下の通りである。
◎ :白錆発生なし
○+:白錆発生面積率5%未満
○ :白錆発生面積率5%以上、10%未満
○−:白錆発生面積率10%以上、25%未満
△ :白錆発生面積率25%以上、50%未満
× :白錆発生面積率50%以上
【0100】
(4) 塗料密着性
各サンプルについて、メラミン系の焼付塗料(膜厚30μm)を塗装した後、沸水中に2時間浸漬し、直ちに碁盤目(1mm間隔で10×10の碁盤目)のカットを入れて、粘着テープによる貼着・剥離を行い、塗膜の剥離面積率で評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:剥離なし
○:剥離面積率5%未満
△:剥離面積率5%以上、20%未満
×:剥離面積率20%以上
【0101】
(5) 加工性
ブランク径φ120mm、ダイス径φ50mmで深絞り成形(無塗油条件)を行い、割れが生ずるまでの成形高さで評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:絞り抜け
○:成形高さ30mm以上
△:成形高さ20mm以上、30mm未満
×:成形高さ20mm未満
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
下記の表5〜表18において、表中に記載してある *1〜*6 は以下のような内容を示す。
*1:表1に記載のめっき鋼板No.
*2:明細書本文に記載のクロメート処理種別
*3:表2に記載の第2層皮膜用樹脂組成物No.
*4:表3に記載の防錆添加成分No.
*5:表4に記載の固形潤滑剤No.
*6:樹脂組成物の固形分100重量部に対する配合量(重量部)
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
【表8】
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
【表11】
【0114】
【表12】
【0115】
【表13】
【0116】
【表14】
【0117】
【表15】
【0118】
【表16】
【0119】
【表17】
【0120】
【表18】
【0121】
【表19】
【0122】
【表20】
【0123】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の有機被覆鋼板は従来の鋼板に較べて極めて優れた耐食性を有している。
Claims (11)
- 亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)、(g)及び(h)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)、(g)及び(h)の配合比が固形分の重量比で(e)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(g)/(h)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(g)酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上
(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。 - 亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(f)、(g)及び(h)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(f)、(g)及び(h)の配合比が固形分の重量比で(f)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(g)/(h)=20/80〜80/20である、
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(g)酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上
(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。 - 亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(f)及び(i)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(f)及び(i)の配合比が固形分の重量比で(f)/(i)=20/80〜80/20である、
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(i)Caイオン交換シリカ
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。 - 亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)及び(f)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)及び(f)の配合比が固形分の重量比で(e)/(f)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。 - 亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)、(f)、(g)及び(h)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)、(f)、(g)及び(h)の配合比が固形分の重量比で(e)/(f)=20/80〜80/20、(e)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(f)/(g)+(h)=20/80〜80/20、(g)/(h)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(g)酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムの中から選ばれる1種又は2種以上
(h)リン酸塩及び/又は酸化ケイ素
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。 - 亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、金属クロム換算でのクロム付着量が1〜1000mg/m2のクロメート皮膜を形成し、その上部に、皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して下記(e)、(f)及び(i)の防錆添加成分(B)を合計で1〜100重量部(固形分)含有し、且つ下記(e)、(f)及び(i)の配合比が固形分の重量比で(e)/(f)=20/80〜80/20、(e)/(i)=20/80〜80/20、(f)/(i)=20/80〜80/20である、
(e)モリブデン酸塩
(f)トリアゾール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
(i)Caイオン交換シリカ
膜厚が0.1〜5μmの有機皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れた有機被覆鋼板。 - 有機皮膜が、さらに固形潤滑剤(C)を含有し、該固形潤滑剤(C)の含有量が前記皮膜形成有機樹脂(A)100重量部(固形分)に対して1〜80重量部(固形分)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の耐食性に優れた有機被覆鋼板。
- 皮膜形成有機樹脂(A)がOH基及び/又はCOOH基を有する有機高分子樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の耐食性に優れた有機被覆鋼板。
- 有機高分子樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項8に記載の耐食性に優れた有機被覆鋼板。
- 熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂及び/又は変性エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項9に記載の耐食性に優れた有機被覆鋼板。
- クロメート皮膜が、6価Cr/全Crの濃度比率(モル比)が0.1以下であるクロメート処理組成物により形成されたものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の耐食性に優れた有機被覆鋼板。
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