JP3906631B2 - インクジェットプリンタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイピングやプライミング等のメンテナンスと記録とを併行して行うことにより記録速度を向上させたインクジェットプリンタに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インクジェットプリンタが使用されている。このインクジェットプリンタにおける印字方法は、印字ヘッドの吐出ノズルからインクの液滴を吐出させ、このインク滴を紙、布などの被記録材に吸収させて文字や画像等の印字(印刷)を行なうものである。この印字方式は、騒音の発生が少なく静粛性に富み、特別な定着処理を要することもなく、しかも比較的高速な印字が行えて且つフルカラー印刷も可能な印字方法である。
【0003】
フルカラー印刷は、通常、減法混色の三原色であるイエロー(黄色)、マゼンタ(赤色染料名)及びシアン(緑味のある青色)の3色のインクに、文字や画像の黒色部分等に用いられるブラック(黒)を加えた4色のインクを用いて印字する。すなわち、1個の印字ヘッドに各色専用のノズル列を配設し、これらのノズル列からイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクを、各々の色の吐出量を制御しながら吐出し、例えば被記録材の1画素領域に各々のインクを混合吸収させてフルカラーの印字を行う。
【0004】
上記の吐出ノズルからインク滴を吐出させるインクジェットプリンタの印字ヘッドには、微細なインク加圧室に発熱素子を配して、これに電気パルスを与えて加熱し、発生する気泡の成長力を利用してインク滴を吐出させるサーマル式インクジェットヘッドと、ピエゾ素子などの電気機械変換素子を用いて、同様に微細なインク加圧室に機械的変形による圧力を生じさせ、この圧力により吐出ノズルからインク滴を吐出させるピエゾ式インクジェットヘッドとがある。
【0005】
更に上記のサーマル式インクジェットヘッドには、インク滴の吐出方向により、二通りの構成がある。一つは発熱素子の発熱面に平行な方向へインク滴を吐出するサイドシュータ型と呼ばれるものであり、他の一つは発熱素子の発熱面に垂直な方向にインク滴を吐出するルーフシュータ型と呼ばれるものである。中でもルーフシュータ型の印字ヘッドは、サイドシュータ型の印字ヘッドに比較して、消費電力が極めて小さくて済むことが知られている。
【0006】
このルーフシュータ型の印字ヘッド(サーマル式インクジェットヘッド)の製法としては、例えば直径が6×25.4mm以上の一枚のシリコンウエハ上に、10mm×15mm程度の大きさで90個以上にも区画されたの多数のチップ基板の上に、シリコンLSI形成技術と薄膜形成技術を利用して、多数の発熱体とこれらを個々に駆動する電極配線、駆動回路、インク流路、吐出ノズル等を一括してモノリシックに形成する方法がある。
【0007】
図8(a) はそのようなサーマル式ルーフシュータ型の印字ヘッドのインク吐出面を示す斜視図であり、同図(b) はそのA−A′断面矢視図である。尚、同図(a) には、印字用の用紙Pを透視的に示している。
同図(a),(b) により印字ヘッドの構成と概略の製法を説明する。印字ヘッド1は、チップ基板2の上面に拡散層からなる駆動回路3がLSI形成処理技術により形成されている。そして、その駆動回路3に接続する個別配線電極4、この個別配線電極4にそれぞれ一端が接続する発熱部5及びこの発熱部5の他端に接続された共通電極6が、スパッタリング等の薄膜形成技術と、フォトリソグラフィー等のマスクパターン形成技術と、エッチング等のパターン化技術によって形成されている。
【0008】
上記の発熱部5は、設計上の方針にもよるが例えば64個、128個、256個等の多数の発熱部が例えば20〜40μmという微細な配設ピッチで形成されている。また、共通電極6には、チップ基板2の長手方向に細長く延在する中央開口部が形成されている。また、このとき配線電極と共に、チップ基板2の長手方向の一方の端部に、駆動回路3や共通電極6と外部とを接続するための接続電極端子7が形成される。
【0009】
そして、共通電極6の中央開口部内には、その開口部の形状に沿ってインク供給溝8が例えばサンドブラスト処理技術により穿設され、このインク供給溝8の底面からチップ基板2の裏面に貫通するインク供給孔9が同様にサンドブラストによる穿設処理により形成されている。
【0010】
また、チップ基板2の上記接続電極端子7が形成されている部分を除く全周囲を取り囲む部分と個別配線電極4上と各発熱部5間とに、高さおよそ10μmの隔壁11(11−1、11−2、11−3)が、スパッタリングによる薄膜形成、フォトリソグラフィーによるマスク形成、エッチングによるパターン化、及び焼成による固化処理によって、積層されている。
【0011】
上記のチップ基板2の全周囲を取り巻く隔壁11−1は、チップ基板2上の内部構造を外部から遮断しており、個別配線電極4上を連続して覆っている隔壁13−2とこの隔壁13−2から各発熱部5と発熱部5の間に延び出して形成された隔壁13−3とは、発熱部5を個々に三方から囲むインク加圧室12を形成している。
【0012】
そして、これらの隔壁11の上に天板13が加熱・圧着による貼設されている。この天板13の積層により、インク供給溝8からインク加圧室12に至る高さおよそ10μmのインク流路14が形成されている。その天板13の上記発熱部5に対向する位置にそれぞれ、金属マスクパターン形成技術と例えばヘリコン波エッチング技術等により、吐出ノズル15が穿設されている。これにより、発熱部5の数だけの吐出ノズル15が、1列のノズル列16を天板13上に形成している。
【0013】
このような形状で、不図示のシリコンウェハ上に区画されている多数のチップ基板2上に印字ヘッド1がそれぞれ完成する。そして、最後に、ダイシングソーなどを用いスクライブラインに沿ってシリコンウェハをカッテングしてチップ基板2毎に個別に切り離し、実装基板にダイボンデングし、ワイヤボンディング等により端子接続して、実用単位の印字ヘッドモジュールが完成する。
【0014】
この印字ヘッド1は、外部の例えばインクカートリッジ等からインク供給孔9へ供給されるインクがインク供給溝8とインク流路14を介してインク加圧室12に供給され、印字に際しては発熱部5が印字情報に応じて選択的に通電されて瞬時に発熱し、発熱部5とインクとの界面に膜沸騰現象を発生させ、その膜気泡の成長圧力により、発熱部5に対応する吐出ノズル15からインク滴が吐出される。インク滴は略その倍の径の大きさの印字ドットとなって図8(a) の矢印Bで示す副走査方向に搬送されていく用紙Pの印刷面上に着弾する。これによって用紙面に画像が形成される。
【0015】
一般に、プリンタには、大別してシリアル式プリンタとライン式プリンタの2通りがある。シリアル式プリンタは、印字ヘッドを印字領域の幅方向(主走査方向)に走査させて印字を行うものである。これに対して、ライン式プリンタは、主走査方向の印字領域一杯に吐出ノズルを配列して長尺化したフルアレイ式の印字ヘッドを用い、その印字ヘッドをプリンタ本体側に固定して用紙のみを搬送する方式である。このライン式プリンタは、機械的動作が用紙の搬送のみであるため駆動系の負荷が小さくて消費電力が少なく経済的である。
【0016】
また、ライン式プリンタは、その方式自体が高速性に対応したプリンタであるため、近年のように特にビジネス面において印字速度をより高速にしたいという強い要望に応えるためには、シリアル式のプリンタよりも、ライン式のプリンタの方が有力視されており、これが今後の開発の中心となってくる。
【0017】
図9(a),(b) は、そのようなライン式プリンタの印字ヘッドの構成二例を模式的に示す図である。ライン式プリンタの印字ヘッドを実現する方法には大別して2通りの方法がある。図9(a) はその第1の方法を示している。同図(a) に示す印字ヘッド17は、長尺化した単体のヘッドチップ18を親基板19に実装したものである。親基板19はプリンタ本体に固定され、不図示の用紙が図の矢印Cで示す副走査方向に搬送されて印字が実行されていく。
【0018】
また、図9(b) は第2の方法を示しており、同図(b) に示す印字ヘッド20は、複数の図8(a),(b) に示したような小さなヘッドチップ21を、親基板22の長手方向に千鳥足状に実装配置したものである。このように、ヘッドチップ21を互い違いにずらして千鳥足状に配置するのは、ヘッドチップ21の端部には吐出ノズルのない縁部があるからであり、ヘッドチップをたとえ直線状に密着配置しても、隣接するヘッドチップの最端部の吐出ノズル間が縁部の2倍の距離を隔てて存在することになるため、各ヘッドチップ21の吐出ノズルが正しい間隔で連続しないからであり、千鳥状に配列することによって主走査方向の全吐出ノズルが正しい間隔で連続するようになるからである。この印字ヘッド20の場合も、親基板22がプリンタ本体に固定され、不図示の用紙が図の矢印Dで示す副走査方向に搬送されて印字が実行されていく。
【0019】
上記の第1の方法による印字ヘッド17は、シリコンウエハのような半導体基板に作成されることが多いが、その場合、長尺化したヘッドチップ18は、ほぼ円形のシリコンウエハの中央部という限られた部分にしか形成できない。したがって取り数が減少して歩留まりが低下し、コスト高になるという欠点を有しているが、印字ヘッド17全体としては小型になるという長所を有している。
【0020】
また第2の方法による印字ヘッド20は、ヘッドチップ21の製造歩留りが良いので低コストになるという長所があるが、ヘッドチップ21を千鳥状に配列するため印字ヘッド20全体が大型化するとともに、外付けされるインクタンクからヘッドチップ21へのインク供給経路が複雑になって信頼性の低下とコストアップを招くといった欠点を有している。このように何れの方法によって作成した印字ヘッド(17又は20)にも一長一短がある。
【0021】
また、上記のようなインクジェット方式の印字ヘッドにおいては、吐出ノズル内には印字待機状態でインクが常時滞留しているから、たとえキャッピングなどの乾燥防止機構が印字ヘッドに設けてあっても、インクの水分の蒸発によって乾燥が進み粘度が上昇する。したがって、そのままでは吐出ノズルが目詰まりを起こす虞がある。また、印字実行中においても個々の吐出ノズルには休止期間ができるものもあることから、そのまま印字を行っていると、やはり印字に使用されなかった吐出ノズル内のインクが乾燥して増粘し、多数の吐出ノズルの中には目詰まりを起こして吐出不良となるものが出る虞がある。
【0022】
したがって、プリンタ本体が使用休止されていた後の電源投入時には勿論のことであるが、印字実行中においても、発生しているかもしれない目詰まりによる吐出機能不良の回復のために、ワイピング部材によるインク吐出面の払拭処理であるワイピングや、全ての吐出ノズルによるインクの空吐出処理(印字を伴わないインクの吐出)であるプライミングが回復機構によって定期的に行われるように構成されている。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図9(a),(b) に示す構成のいずれの印字ヘッド17又は20においても、上述した回復機構による吐出機能回復の処理、なかでもワイピングにおけるワイピング部材によるインク吐出面の払拭処理は、印字ヘッドの長手方向に行うようになっているため時間が掛かり、このため、折角ライン式ヘッドという高速記録が可能な印字ヘッドを使用しても、実際の記録速度は期待するほど速くはならないという問題を有していた。
【0024】
本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、ワイピングやプライミング等のメンテナンスと記録とを併行して行うことにより記録速度を向上させたインクジェットプリンタを提供することである。
【0025】
【課題を解決するための手段】
以下に、本発明に係わるインクジェットプリンタの構成を述べる。
本発明のインクジェットプリンタは、インクに圧力を作用させて該インクを吐出ノズルから所定の方向に噴射させ用紙上に着弾させて記録を行うインクジェットプリンタであって、複数の印字ヘッドを有しプリンタ装置本体に固定されたインクジェットヘッドと、上記複数の印字ヘッドの各記録位置に対して夫々設けられた用紙搬送経路と、上記複数の印字ヘッドの各々のインク吐出面に着脱自在に被装されて上記吐出ノズルの適正な吐出性能を維持するためのメンテナンス処理を行い、それぞれ印字時退避位置とメンテナンス位置とに移動可能に配設した複数のメンテナンス手段と、上記複数の印字ヘッドのうちの一部の印字ヘッドが記録中に残りの印字ヘッドのメンテナンス処理を行なわせる駆動制御手段と、を有して構成される。
【0027】
また、例えば請求項2記載のように、上記印字ヘッドを2個設け、該2個の印字ヘッドを、固設された基台の直方体をなす対向する端面に夫々設置して構成してもよい。
【0028】
また、上記メンテナンス処理は、例えば請求項3記載のように、キャッピン、ワイピング、プライミングの少なくとも何れかを行う処理である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、第1の実施の形態におけるライン式インクジェットプリンタ(以下、単にプリンタという)のヘッドモジュールの斜視図であり、図2(a),(b) 及び図3(a),(b) は、このヘッドモジュールの製造工程順を示す図である。先ず、図2(a),(b) 、図3(a),(b) そして図1と工程順に説明する。
【0030】
図2(a),(b) に示すように、このヘッドモジュールは、基板23がセラミックからなる平板状の基板であり、対向する一対の大きい主平面24(24−1、24−2但し24−2は図2(a),(b) では下側になっていて見えない)と、これら主平面24よりも面積が小さい上記主平面24の長辺側の1対の端面25(25−1、25−2但し25−2は図2(a),(b) では斜め左向こう側になっていて見えない)と、これらの長辺側端面25よりも面積が小さい上記平面24の短辺側の1対の端面26(26−1、26−2但し26−2は図図2(a),(b) では斜め右向こう側になっていて見えない)からなる6面体(直方体)の形状をなしている。
【0031】
上記4つの端面25−1、25−2、26−1、26−2の内の短辺側の1対の端面26−1、26−2間には、一方の端面から他方の端面まで貫通するインク導入路27が形成されており、長辺側の1対の端面25−1、25−2と上記インク導入路27間には、それら各端面から上記インク導入路27まで貫通する4個のインク供給孔28がそれぞれ形成されている。これらのインク導入路27及びインク供給孔28は、基板23形成時に同時に形成される。
【0032】
上記一対の主平面24の各長辺部には、長辺に直交する方向に長く形成され、その長辺側端面25の縁部に直角に曲がって短く形成された複数の個別配線電極29が所定ピッチで配置されている。そして、長辺側端面25には、上記短く形成された個別配線電極29及びインク供給孔28を除く部分一面に共通電極31が形成される。
【0033】
個別配線電極29及び共通電極31は、基板23に電極材料を積層し、フォトリソグラフィー技術によるパターン化とエッチングによって形成する。あるいは、共通電極31の抵抗が多少大きくなってもよい場合は、感光性導体ペーストを用いフォトリソグラフィー技術で形成してもよい。また、加工精度が十分取れる場合は、スクリーン印刷技術を用いて形成してもよい。
【0034】
続いて同図(b) に示すように、個別配線電極29と共通電極31との間に、個別配線電極29の数に対応する数の発熱部32が形成される。発熱部32は、発熱抵抗体膜をパターン化してなり、個別配線電極29及び共通電極31に少なくとも一部がオーバラップするように形成される。このように発熱部32を形成しても、実際に発熱するのは下に個別配線電極29又は共通電極31がない部分だけであるので支障はなく、発熱部32の寸法は個別配線電極29と共通電極31の形成時において既に決定されている。
【0035】
上記の発熱部32は、図3(a),(b) に明らかなように、共通電極31を挟むようにして長手方向に2列配置されており、列間の発熱部32の配置は、列中の発熱部32の配設ピッチの1/2だけずれて配置されている。
尚、図2(a),(b) 及び図3(a),(b) には、図示する上での便宜上、基板23の長辺方向の長さを実際よりも短く図示しており、また、個別配線電極29の数つまり発熱部32の数を実際よりも少なく図示している。また基板23は、この発熱部32が形成される長辺側の両端面の平滑度が一番高くなるように形成することが望ましい。
【0036】
図3(a) は、長辺側端面25(25−1、25−2)を正面から見た図であり、この図3(a) は、高さおよそ10μmの隔壁33(33−1、33−2)を形成した状態を示している。隔壁33は、長辺側端面25の発熱部32とインク供給孔28が形成されている領域の周囲を取り囲んで、個別配線電極29と共通電極31の上に積層されたシール隔壁33−1と、このシール隔壁33−1から各発熱部32と発熱部32の間に延び出して形成された区画隔壁33−2とから成り、個々の発熱部32をそれぞれ三方から囲むインク加圧室34と、このインク加圧室34にインク供給孔28からのインクを導くインク流路35を形成している。この隔壁33は、感光性ポリイミド等を用い、スパッタリング、フォトリソグラフィー、エッチング、及び焼成により形成されている。
【0037】
ところで、セラミック等の剛性材料が適する基板23とポリイミド等の樹脂材料が適する隔壁33の熱膨張率は一般的に異なっている。したがって、このようにヘッドモジュールを長尺化すると、温度変化によって発生した内部応力により、ヘッドモジュールが破壊される虞がある。
【0038】
そこで、図3(b) に示すように、長尺方向のシール隔壁33−1及びこのシール隔壁33−1から延設される区画隔壁33−2のインクと接しない部分に、スリット36を形成しておくことが望ましい。ここでは図3(a),(b) を別個の工程の如く示しているが、実際には、スリット36を形成する場合は隔壁33の形成と同時にスリット36も一度に形成する。
【0039】
上記に続いて、図1に示すように、隔壁33の上に天板37を貼設する。そして、その天板37の上記発熱部32に対向する位置に2列の吐出ノズル38を形成する。尚、前述したように吐出ノズル38が対応している2列の発熱部32の配置は、列中の発熱部32の配設ピッチの1/2だけ列方向に相互にずれて配置されているから、これらに対応して形成された2列の吐出ノズル38の配置も同様に列中の配設ピッチの1/2だけ列方向に相互にずれて形成される。
【0040】
また、これら天板37の貼設も吐出ノズル38の形成も、図8(a),(b) の場合とほぼ同様である。尚、この天板37にも、上記のスリット36に対応する位置にスリットを形成しておくと、温度変化による内部応力の悪影響をより一層抑止することができる。
【0041】
最後に、駆動回路チップ39を個別配線電極29に接続して基板23に固定すると、長辺側両端面25(25−1、25−2)に、上述したインク供給孔28、個別配線電極29、共通電極31、発熱体32、隔壁33、インク加圧室34、インク流路35、スリット36、天板37、及び吐出ノズル38から成る印字ヘッド(インクジェットヘッド)40(40a、40b)をそれぞれ形成されたヘッドモジュール41が完成する。
【0042】
このように本例では、セラミック基板を用いて、ヘッドモジュールを作成しているので、シリコン基板に比べて、歩留まりや工数等の製造面、及び原価の面で有利なヘッドモジュールヘッドを提供することが可能である。
尚、個別配線電極29の露出部分には適宜の保護膜を形成し、また、駆動回路29も適宜の樹脂等を用いて封止することが好ましい。また、駆動回路チップ39の制御信号入力端子(不図示)は、基板23上に形成した制御線(不図示)に接続してもよいし、基板23に連設したFPCに形成した制御線(不図示)に接続するようにしてもよい。
【0043】
図1に示されるように、上記ヘッドモジュール41は、天板37に近接して図の矢印Eで示す副走査方向に搬送されていく用紙42に、2列の吐出ノズル38からモノカラー(例えば黒)のインクを吐出して印字(印刷、記録)を行う。インクは外部のインクタンク等から、インク導入路27、インク供給孔28、及びインク流路35を介してインク加圧室34に供給される。
【0044】
また、上述したように2列の吐出ノズル38の配置は列中の配設ピッチの1/2だけ列方向に相互にずれて形成されている。したがって、このヘッドモジュール41で記録される記録ドットの密度(解像度)は、2列の吐出ノズル38から吐出されるインク滴を、用紙42の記録面の同一ライン上に並べて着弾させることにより、吐出ノズル38の列中の配設ピッチの2倍の密度で、高解像度の記録を行うことができる。
【0045】
図4は、上記のフルアレイ式ヘッドモジュール41を用いたプリンタの記録動作とメンテナンス動作を説明する図である。尚、ここで言うメンテナンスは、吐出ノズル38の適正な吐出性能を維持するための処理としての、印字ヘッド40のインク吐出面のキャッピン、ワイピング、プライミングの少なくとも何れかを行う処理を含んでいる。また、同図は、記録動作とメンテナンス動作の説明に必要な主要部の構成のみを示しており、駆動系、用紙搬送系、及びこれらの制御系の構成は図示を省略している。
【0046】
同図に示すように、ヘッドモジュール41は、基板23の短辺側両端面に回転軸43を固設されており、この回転軸43は不図示のプリンタ本体のフレームに支持されて、図の両方向矢印Fで示すように交互に半回転するように不図示の駆動手段により駆動制御される。
【0047】
同図は、回転軸43の回転により印字ヘッド40aが右方向を向いた位置に位置決めされた状態を示しており、したがって、印字ヘッド40aと対向する端面に配設されている印字ヘッド40bは左方向を向いて位置決めされている。この印字ヘッド40aが位置決めされている右位置が記録位置であり、他方の印字ヘッド40bが位置決めされている左位置がメンテナンス位置である。
【0048】
一方の記録位置では用紙42が矢印Eで示す副走査方向に搬送されて、この用紙42に対して印字ヘッド40aにより記録が行われる。この記録位置の印字ヘッド40aの反対側には、キャップ部材44−1が記録位置に対して矢印K方向に進退自在に配設されている。このキャップ部材44−1は、プリンタ全体が印字停止中において、記録位置に在る一方の例えば印字ヘッド40aの吐出面を被装する。外部のインクタンクからインク導入路27へのインクの供給は、回転軸43に設けられている不図示の孔に接続したチューブを介して行われる。
【0049】
そして、これと同時に、他方のメンテナンス位置では印字ヘッド40bのメンテナンス処理が行われる。メンテナンス位置にはメンテナンスユニット44−2が配置されており、印字ヘッド40bの吐出ノズル38によるメンテナンスユニット44へのプライミング、又はメンテナンスユニット44による印字ヘッド40bのインク吐出面のワイピング、又はメンテナンスユニット44による印字ヘッド40bのインク吐出面のキャッピング、又はこれらを組み合わせた処理が、例えば記録枚数など予め定められている記録周期毎に行われる。
【0050】
そして、その予め定められた記録周期後に、回転軸43の回転によりヘッドモジュール41が半回転して、印字ヘッド40bが右位置の記録位置に位置決めされ、印字ヘッド40aが左位置のメンテナンス位置に位置決めされて、上記の記録とメンテナンス処理が行われる。このようにヘッドモジュール41の半回転とそれに続く記録とメンテナンス処理が同時進行する状態が繰り返されて用紙への記録が進行する。
【0051】
すなわち、ヘッドモジュール41が半回転する期間だけ記録動作が停滞するだけであり、メンテナンス処理中であっても他方の印字ヘッドで記録が行われるので、記録動作を長期間中断させることなく記録を高速に行うことができる。
尚、上記第1の実施の形態では、ヘッドモジュール41の印字ヘッド40は、単色インクを吐出する印字ヘッド、すなわちモノクロ記録のみに対応する印字ヘッドを示しているが、基板の長辺側端面に例えば4個又は6個の印字ヘッドを構成して個々の印字ヘッドに対応する4色又は6色のインクを供給してカラー記録を行うヘッドモジュールを構成するようにしてもよい。
【0052】
また、あるいは、図4に示すヘッドモジュール41、回転軸43、メンテナンスユニット44を1組として、これを4組又は6組並設して、各組毎に対応する4色又は6色のインクを供給してカラー記録を行うプリンタを構成するようにしてもよい。
【0053】
更に、プリンタ停止中における記録位置に在る印字ヘッドに被装するキャップ部材44−1は、プリンタ停止中に記録位置に在る印字ヘッド部のインクを吸引排出して印字ヘッド部を空にしておく等の方法をとることにより、省略することも可能である。
【0054】
加えて、上記実施形態では、直方体の基台の対向する一対の端面に2個の印字ヘッドを設けたが、これに限らず、1個の基台の異なる表面の内の3つ以上の面に例えば、3個或いは4個以上の印字ヘッドを設けてもよい。そのような実施形態の一例を次に述べる。
【0055】
図5は、第2の実施の形態におけるヘッドモジュールの構成と動作状態を示す図である。同図に示すように、このヘッドモジュール45は、回転軸46に回転可能に支持されたセラミック等から成る三角柱形の基台47と、この基台47の三面それぞれに形成された長尺の印字ヘッド48a、48b、48cとから成る。印字ヘッド48は、図1に示したヘッドモジュール41を印字ヘッド40a、40b毎に半分に裁断した形状にほぼ近似の構成をなしている。
【0056】
同図において、印字ヘッド48aは真横右位置の記録位置に位置決めされて、図の矢印Eで示す副走査方向に搬送される用紙42に対して記録を実行する。他の一つの印字ヘッド48bは、斜め左上方向に向く第1のメンテナンス位置に位置決めされて、キャッピング専用の第1のメンテナンスユニット49によってキャッピングされている。そして、残る他のもう一つの印字ヘッド48cは、斜め左下方向に向く第2のメンテナンス位置に位置決めされて、第2のメンテナンスユニット51により、プライミングとワイピングのいずれも可能な状態に設定されている。
【0057】
このヘッドモジュール45は、所定の周期で図の矢印Gで示す反時計回り方向に1/3回転して、印字ヘッド48aが印字ヘッド48bの位置に、印字ヘッド48bが印字ヘッド48cの位置に、印字ヘッド48cが印字ヘッド48aの位置にそれぞれ入れ代わって位置決めされ、印字ヘッド48cが記録を実行し、印字ヘッド48aがキャッピングされ、印字ヘッド48bに対してはプライミング、又はワイピング、又はワイピングとプライミングのメンテナンス処理が実行される。そして、これが順次繰り返される。
【0058】
この場合も、ヘッドモジュール45が1/3回転する期間だけ記録動作が停滞するだけであり、2つの印字ヘッドがメンテナンス処理中に残る1つの印字ヘッドで記録が行われるので、複数のメンテナンス処理を充分に実施しながら記録動作を長期間中断させることなく記録を高速に行うことができる。
【0059】
図6は、第3の実施の形態におけるプリンタの主要部の構成と動作状態を示す図である。尚、同図には、このプリンタの発明の主要部であるヘッドモジュール52と二つのメンテナンスユニット53(53−1、53−2)と不図示の二つの用紙搬送路を搬送中と待機中の用紙42a、42bを示してしる。
【0060】
同図に示すヘッドモジュール52は、図1に示したヘッドモジュール41と同一の構成であり、プリンタ本体のフレームに固定されている。このようにヘッドモジュール52がプリンタ本体に固定された状態で、ヘッドモジュール52の対向する二つの端面に配設された二つの印字ヘッド54a及び54bによって印字が実行される。
【0061】
先ず、図6に示すように、印字ヘッド54aが図の矢印Hで示す副走査方向に搬送される用紙42aに印字実行中は、この印字ヘッド54aに専用のメンテナンスユニット53−1は、図に示す退避位置に移動している。他方の印字ヘッド54bには、この印字ヘッド54bに専用のメンテナンスユニット53−2が移動して近接しており、所定のメンテナンス処理が施されている。更に、次に記録される用紙42bが、印字ヘッド54bに専用の搬送路を途中まで矢印Jで示す副走査方向に搬送されて、待機位置に待機している。
【0062】
この状態から用紙42aが機外に排出されて所定の印字周期となることにより、印字ヘッド54a専用のメンテナンスユニット53−1が図の矢印Kで示す左方向に移動してメンテナンス位置に位置決めされ、メンテナンス処理が開始され、印字ヘッド54b専用のメンテナンスユニット53−2が図の矢印Lで示す左方向に移動して退避位置に退避すると共に、待機中の用紙42bの搬送が開始されて印字ヘッド54bによる記録が開始される。
【0063】
そして、所定枚数の用紙42bの記録が行われて所定の印字周期になると、印字ヘッド54b専用のメンテナンスユニット53−2が上記の退避位置から図のメンテナンス位置に移動してメンテナンス処理が行われ、印字ヘッド54a専用のメンテナンスユニット53−1が上記のメンテナンス位置から図の退避位置に退避して、待機中の用紙42aの搬送が開始されて印字ヘッド54aによる記録が開始される。
【0064】
このように、所定の印字周期ごとに記録実行とメンテナンス処理が繰り返され一方の印字ヘッド54(54a又は54b)がメンテナンス処理中に、他方の印字ヘッド54(54b又は54a)によって印字が実行されるので、メンテナンスユニット53−1及び53−2の移動期間中だけ記録動作が停滞するだけであり、2つの印字ヘッドがメンテナンス処理中に残る1つの印字ヘッドで記録が行われるので、記録動作を長期間中断させることなく記録を高速に行うことができる。
【0065】
尚、この場合も、基板の長辺側端面に4個又は6個の印字ヘッドを構成してカラー記録を行うヘッドモジュールとしてもよく、また、ヘッドモジュール52と二つのメンテナンスユニット53を1組として、これを4組又は6組並設してカラー記録を行うプリンタを構成するようにしてもよい。
【0066】
尚、上記第1〜第3の実施の形態においては、いずれも印字モジュールとして複数の印字ヘッドを1個の基板又は基台に一体に配設したヘッドモジュールを用いているが、これに限ることなく、個別に配設されて個別に記録を実行する複数の印字ヘッドを備え、記録中であった印字ヘッドがメンテナンス処理に入ったとき、他の印字ヘッドが記録を引き継いで、上記のメンテナンス処理と記録とを併行して行う構成であれば、上述の構成とは異なる構成であってもよい。そのような構成のプリンタを例として、これを第4の実施の形態として以下に説明する。
【0067】
図7(a),(b),(c) は、第4の実施の形態のプリンタの構成と動作を説明する図である。尚、同図(a),(b),(c) には、説明に必要な構成部分のみを示し、その他の構成部分は図示を省略している。同図(a),(b),(c) に示すように、このプリンタ55は、図示を省略したガイドシャフトと駆動ベルトにより記録位置とメンテナンス位置とに自在に移動可能な第1の印字ヘッドユニット56と第2の印字ヘッドユニット57、中央に配置され、駆動ローラ58及び従動ローラ59により図の時計回り方向に循環移動する搬送兼プラテン用ベルト61、この搬送兼プラテン用ベルト61の両側のメンテナンス位置に固設された第1のメンテナンスユニット62と第2のメンテナンスユニット63を備えている。
【0068】
尚、用紙は、特には図示しないが、同図(a) の矢印Mで示すように、プリンタ本体の図の左方下側から挿入され、搬送兼プラテン用ベルト61に吸着されて図の右方に搬送され、記録位置を通過しながら印字され、従動ローラ59でUターンして機外に排出される。
【0069】
同図(a) は、第1の印字ヘッドユニット56が記録位置において記録を実行中であることを示しており、この間、第2の印字ヘッドユニット57は図示を省略したスライド機構によって右方にある第2のメンテナンス位置に移動し、第2のメンテナンスユニット63のキャップ部材63aを被装されて休止している。
【0070】
次に所定の印字周期になると、同図(b) に示すように、記録を実行していた第1の印字ヘッドユニット56がスライド機構によって左方にある第1のメンテナンス位置に移動して第1のメンテナンスユニット62のキャップ部材62aを被装されて所定のメンテナンス処理を行い、これと同時に第2の印字ヘッドユニット57が右方のメンテナンス位置から記録位置に移動して記録を実行する。
【0071】
記録中は上記の図7(a) と同図(b) を繰り返し、記録休止又は停止中は、同図(c) に示すように、第1の印字ヘッド56及び第2の印字ヘッド57ともに、それぞれのメンテナンス位置において第1のメンテナンスユニット62のキャップ部材62a又は第2のメンテナンスユニット63のキャップ部材63aを被装されて休止する。
【0072】
尚、本発明はサーマルインクジェットプリンタに限らず、ピエゾ素子を用いる圧電方式等の他の方式のインクジェットプリンタにも適用できることは、勿論である。
【0073】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、複数の印字ヘッドを備え、記録中であった印字ヘッドがワイピングやプライミングのメンテナンス処理に入ったとき、これと同時に他の印字ヘッドにより記録を続行するので、記録動作がメンテナンス処理によって停滞することがなく、記録動作を高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態におけるプリンタのヘッドモジュールの斜視図である。
【図2】 (a),(b) は第1の実施の形態におけるプリンタのヘッドモジュールの製造工程順を示す図(その1)である。
【図3】 (a),(b) は第1の実施の形態におけるプリンタのヘッドモジュールの製造工程順を示す図(その2)である。
【図4】第1の実施の形態におけるプリンタの記録動作とメンテナンス動作を説明する図である。
【図5】第2の実施の形態における3個の印字ヘッドを備えたヘッドモジュールの構成と動作状態を示す図である。
【図6】第3の実施の形態のプリンタの主要部の構成と動作を説明する図である。
【図7】 (a),(b),(c) は第4の実施の形態のプリンタの主要部の構成と動作を説明する図である。
【図8】 (a) は従来のサーマル式ルーフシュータ型の印字ヘッドのインク吐出面を示す斜視図、(b) はそのA−A′断面矢視図である。
【図9】 (a),(b) は従来のライン式プリンタの印字ヘッドの構成二例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1 印字ヘッド
2 チップ基板
3 駆動回路
4 個別配線電極
5 発熱部
6 共通電極
7 接続電極端子
8 インク供給溝
9 インク供給孔
11(11−1、11−2、11−3) 隔壁
12 インク加圧室
13 天板
14 インク流路
15 吐出ノズル
16 ノズル列
17、20 印字ヘッド
18、21 ヘッドチップ
19、22 親基板
23 基板
24(24−1、24−2) 主平面
25(25−1、25−2) 長辺側端面
26(26−1、26−2) 短辺側端面
27 インク導入路
28 インク供給孔
29 個別配線電極
31 共通電極
32 発熱部
33(33−1、33−2) 隔壁
34 インク加圧室
35 インク流路
36 スリット
37 天板
38 吐出ノズル
39 駆動回路チップ
40(40a、40b) 印字ヘッド
41 ヘッドモジュール
42、42a、42b 用紙
43 ヘッドホルダ
44−1 キャップ部材
44−2 メンテナンスユニット
45 ヘッドモジュール
46 ヘッドホルダ
47 基台
48(48a、48b、48c) 印字ヘッド
49 第1のメンテナンスユニット
51 第2のメンテナンスユニット
52 ヘッドモジュール
53(53−1、53−2) メンテナンスユニット
54(54a、54b) 印字ヘッド
55 プリンタ
56 第1の印字ヘッドユニット
57 第2の印字ヘッドユニット
58 駆動ローラ
59 従動ローラ
61 搬送兼プラテン用ベルト
62 第1のメンテナンスユニット
62a キャップ部材
63 第2のメンテナンスユニット
63a キャップ部材
Claims (3)
- インクに圧力を作用させて該インクを吐出ノズルから所定の方向に噴射させ用紙上に着弾させて記録を行うインクジェットプリンタであって、
複数の印字ヘッドを有しプリンタ装置本体に固定されたインクジェットヘッドと、
前記複数の印字ヘッドの各記録位置に対して夫々設けられた用紙搬送経路と、
前記複数の印字ヘッドの各々のインク吐出面に着脱自在に被装されて前記吐出ノズルの適正な吐出性能を維持するためのメンテナンス処理を行い、それぞれ印字時退避位置とメンテナンス位置とに移動可能に配設した複数のメンテナンス手段と、
前記複数の印字ヘッドのうちの一部の印字ヘッドが記録中に残りの印字ヘッドのメンテナンス処理を行なわせる駆動制御手段と、
を有することを特徴とするインクジェットプリンタ。 - 前記印字ヘッドを2個設け、該2個の印字ヘッドを、固設された基台の直方体をなす対向する端面に夫々設置したことを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ。
- 前記メンテナンス処理は、キャッピング、ワイピング、プライミングの少なくとも何れかを行う処理であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ。
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