JP3903305B2 - 粘度測定用試薬および粘度測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粘度測定用試薬および該粘度測定用試薬を用いる粘度測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、様々な蛍光物質について、蛍光特性が試料の粘度、特に蛍光物質周囲の微視的な粘度(microscopic viscosity, microviscosity)に依存することが知られている。例えば、Kaholek M. et al, Polymer, 41, 991-1001, 2000には、3位を様々な置換基で置換されたクマリンの誘導体について、蛍光特性が、蛍光物質周囲の粘度に強く影響される旨記載されている。Wang Z. J. et al, Journal of Polymer Science Part B-Polymer Physics 34, 325-333, 1996には、ダンシルアミド誘導体などについて、蛍光発光が、媒体の微視的粘度に大きく依存する旨記載されている。
【0003】
このような蛍光特性の微視的粘度への依存性を利用して、蛍光物質を粘度センサーとして使用し、未知試料の粘度を測定することが試みられている。特に、蛍光特性が蛍光物質周囲の微視的な粘度に依存することを利用して、一般的な粘度測定器では測定できない微視的領域の粘度(例えばミセル内の粘度など)を測定する方法が模索されている。
【0004】
しかしながら、公知の蛍光物質の蛍光特性は、蛍光物質周囲の粘度だけでなく試料の極性にも依存するので、極性が未知の試料については粘度を求めることができない。例えば、ミセル内の粘度を測定する試みがなされているが、ミセル内の極性が明らかになっていないので、信頼性のある値は得られていない。
【0005】
また、極性が既知の試料であっても、公知の蛍光物質を用いて粘度を測定する場合には、極性に関する補正が必要である。
【0006】
このように、試料の極性に関する補正を行わずに粘度を求めることができる方法を開発することが望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の問題点を鑑み成されたものであって、主として、試料の極性に関する補正を行わずに粘度を測定できる粘度測定用試薬および該粘度測定用試薬を用いる粘度測定方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の構造を有する粘度測定用試薬を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の粘度測定用試薬および該粘度測定用試薬を用いる粘度測定方法に係るものである。
1.以下の式(I)で示されるベンゼンカルボン酸エステルを含む粘度測定用試薬。
【0010】
【化2】
【0011】
[式中、Rは、炭素数3以上の分枝状アルキル基、置換されていてもよい脂環式炭化水素基および置換されていてもよい糖残基から選択される基を示し、nは5または6を示し、各々のCO2Rは、同一または相異なっていてもよい。]
2.試料中の微視的粘度を測定するための上記1に記載の粘度測定用試薬。
3.上記1に記載の粘度測定用試薬を含む未知試料について求めた二重蛍光の相対強度の対数の値と、
上記粘度測定用試薬を含み、粘度が既知である少なくとも2種以上の試料における二重蛍光の相対強度の対数の値と粘度の逆数から求めた以下の式(A)で示される直線関係とから、未知試料の粘度を求めることを特徴とする粘度測定方法。
【0012】
【式2】
【0013】
[式中、aおよびbは、任意の定数を示す。]
4.未知試料中の微視的粘度を求めることを特徴とする上記3に記載の粘度測定方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に係る粘度測定用試薬は、以下の式(I)で示されるベンゼンカルボン酸エステルを含む。
【0015】
【化3】
【0016】
[式中、Rは、炭素数3以上の分枝状アルキル基、置換されていてもよい脂環式炭化水素基および置換されていてもよい糖残基から選択される基を示し、nは5または6を示し、各々のCO2Rは、同一または相異なっていてもよい。]
本発明の粘度測定用試薬を含む試料は、二重蛍光を発する。即ち、蛍光スペクトルにおいて極大値が二つ得られる。以下、長波長側の蛍光を「RX」、短波長側の蛍光を「FC'」ということがある。また、長波長側の極大波長における蛍光強度を「IRX」、短波長側の極大波長における蛍光強度を「IFC'」、各蛍光強度の比:IRX / IFC'を「二重蛍光の相対強度」ということがある。
【0017】
Rで示される炭素数3以上の分枝状アルキル基、置換されていてもよい脂環式炭化水素基および置換されていてもよい糖残基は、式(I)の化合物を含む試料が二重蛍光を発する限り特に制限されない。各々のCO2Rは、同一であっても、相異なっていてもよい。
【0018】
式(I)の化合物としては、二つの蛍光極大波長が離れている化合物が好ましい。例えば、二つの蛍光極大波長の差が、通常10nm以上程度、好ましくは40nm以上程度離れている化合物を示すことができる。上記のような値を示す化合物を用いると、より簡便にまたはより高い精度で粘度を測定することができる。
【0019】
式(I)の化合物としては、粘度が0.2〜4mPa・s程度である溶媒中における二重蛍光の相対強度の対数:ln(IRX / IFC')の値が、0.1〜50程度の化合物が好ましく、0.3〜20程度を示す化合物が特に好ましい。粘度測定用試薬として上記のような値を示す化合物を用いると、より高い精度で粘度を測定することができる。
【0020】
Rで示される炭素数3以上の分枝状アルキル基は、飽和分枝状アルキル基であっても、不飽和分枝状アルキル基であってもよい。分枝状アルキル基としては、飽和分枝状アルキル基が好ましい。
【0021】
Rで示される分枝状アルキル基の炭素数は、通常3以上である。炭素数の上限は限定されないが、通常20程度以下、好ましくは12程度以下、より好ましくは8程度以下とすればよい。分枝状アルキル基としては、2級以上の炭素を含む分枝状アルキル基が好ましい。
【0022】
Rで示される炭素数3以上の分枝状アルキル基として、例えば、イソプロピル基;イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基;
ネオペンチル基、t-ペンチル基、イソペンチル基、1-メチルブチル、2-メチルブチル、1-エチルプロピル、2-エチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1,3-ジメチルプロピル、2,3-ジメチルプロピル;
1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、4,4-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,4-ジメチルブチル基、3,4-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、4-エチルブチル基、イソヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、5-メチルペンチル基;
1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、5,5-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、1,5-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、2,5-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、3,5-ジメチルペンチル基、4,5-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、4-エチルペンチル基、5-エチルペンチル基、イソヘプチル基、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、;
1,1-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、6,6-ジメチルヘキシル基、1,2-ジメチルヘキシル基、1,3-ジメチルヘキシル基、1,4-ジメチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、1,6-ジメチルヘキシル基、2,3-ジメチルヘキシル基、2,4-ジメチルヘキシル基、2,5-ジメチルヘキシル基、2,6-ジメチルヘキシル基、3,4-ジメチルヘキシル基、3,5-ジメチルヘキシル基、3,6-ジメチルヘキシル基、4,5-ジメチルヘキシル基、4,6-ジメチルヘキシル基、5,6-ジメチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基、6-エチルヘキシル基、イソオクチル基などを例示することができる。
【0023】
Rで示される置換されていてもよい脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基であっても、不飽和脂環式炭化水素基であってもよい。脂環式炭化水素基としては、飽和脂環式炭化水素基が好ましい。脂環式炭化水素基は、単環性炭化水素基であっても、多環性炭化水素基であってもよい。
【0024】
Rで示される単環性脂環式炭化水素基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基などを例示することができる。
【0025】
多環性脂環式炭化水素基として、例えば、架橋環式炭化水素基、スピラン系炭化水素基、環集合型炭化水素基などを例示することができ、これらの中では、架橋環式炭化水素基が好ましい。Rで示される多環性脂環式炭化水素基の環の数は、特に制限されないが、通常2〜4程度であり、多環性脂環式炭化水素基としては、2環性脂環式炭化水素基および3環性脂環式炭化水素基が好ましい。
【0026】
Rで示される2環性脂環式炭化水素基として、例えば、ビシクロ[1.1.0]ブチル基、ビシクロ[1.1.1]ペンチル基、ビシクロ[2.1.0]ペンチル基、
ビシクロ[3.1.0]ヘキシル基、ビシクロ[2.1.1]ヘキシル基、ビシクロ[2.2.0]ヘキシル基、ビシクロ[4.1.0]ヘプチル基、
ビシクロ[3.2.0]ヘプチル基、ビシクロ[3.1.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、
ビシクロ[5.1.0]オクチル基、ビシクロ[4.2.0]オクチル基、ビシクロ[4.1.1]オクチル基、ビシクロ[3.3.0]オクチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基などを例示することができる。Rで示される3環性脂環式炭化水素基として、例えば、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基などを例示することができる。
【0027】
脂環式炭化水素基の炭素数は、通常3以上である。炭素数の上限は限定されないが、通常20程度以下、好ましくは16程度以下、より好ましくは12程度以下とすればよい。脂環式炭化水素基としては、2級以上の炭素を含む分枝状アルキル基が好ましい。
【0028】
脂環式炭化水素基の置換基としては、例えば、低級アルキル基、アルコキシル基、エステル基(-COOR基)、アミド基などを例示することができる。合成が比較的容易であるという点では、これらの中では低級アルキル基が好ましい。低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基などを例示することができる。低級アルキル基の炭素数は、通常1〜10程度であり、好ましくは1〜3程度である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などを例示することができる。エステル基としては、−COOCH3、−COOC2H5、−COOC3H7などを例示することができる。
【0029】
脂環式炭化水素基における置換基の数は、通常1〜5程度であり、好ましくは1〜3程度である。置換基の数が2以上の場合、置換基は全て同一であっても、相異なっていてもよい。例えば、複数の低級アルキル基により置換されている場合、低級アルキル基は、全て同一であっても、相異なっていてもよい。
【0030】
低級アルキル基により置換された脂環式炭化水素基としては、例えば、メンチル基、ボルニル基などを例示することができる。
【0031】
Rは、糖残基であってもよい。糖残基とは、糖から水酸基が脱離した基である。脱離する水酸基の位置は糖の種類に応じて適宜選択することができ、糖残基として、例えば糖の1位、2位、3位、6位などの水酸基が脱離した糖残基を示すことができる。糖残基は、アルドースから水酸基が脱離した基であっても、ケトースから水酸基が脱離した基であってもよい。糖残基は、通常ピラノース型、フラノース型、セプタノース型などの環状構造を有するが、分枝糖から水酸基が脱離した糖残基の場合には、鎖状構造(開環構造)であっても環状構造であってもよい。環状構造を有するアルドースとしては、例えばエリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、インドース、ガラクトース、タロースなどを例示することができる。環状構造を有するケトースとしては、例えばリブロース、キシルロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトースなどを例示することができる。分枝糖としては、例えばアピオース、ストレプトース、エバロース、ノガロース、ビネロース、ハマメロースなどを例示することができる。
【0032】
糖残基に含まれる炭素数は、特に制限されず、例えば4〜6程度であり、好ましくは5または6である。
【0033】
Rで示される糖残基は、置換基を有していても良い。置換基としては、例えば、糖残基の水酸基を保護する保護基を例示することができる。糖残基の保護基は、当該分野において公知の保護基を用いることができ、例えばイソプロピリデン、シクロヘキシリデンなどを例示することができる。
【0034】
Rで示される置換基を有する糖残基として、例えば1,2:5,6-ジ-O-イソプロピリデン-α-D-グルコフラノース、1,2:3,5-ジ-O-イソプロピリデン-α-D-グルコフラノース、1,2:4,5-ジ-O-イソプロピリデン-β-D-フルクトピラノース、1,2:5,6-ジ-O-イソプロピリデン-α-D-アロフラノース、1,2;4,5-ジ-O-イソプロピリデン-β-D-プシコース、1,2;4,6-ジ-O-イソプロピリデン-α-L-ソルボフラノース、2,3;5,6-ジ-O-イソプロピリデン-α-D-マンノフラノース、1,2;3,4-ジ-O-イソプロピリデン-D-ガラクトピラノースなどの糖から水酸基が脱離した基を例示することができる。
【0035】
nは、式(I)の化合物を含む試料が二重蛍光を発する限り特に制限されず、5または6を示し、Rの種類などに応じて適宜選択することができる。例えば、Rが置換基されていてもよい糖残基の場合には、nは5が好ましい。
【0036】
式(I)におけるRとしては、イソプロピル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、1-メチルヘプチル基、メンチル基、ボルニル基、2-アダマンチル基、1,2;5,6-ジ-O-イソプロピリデン-α-D-グルコフラノースなどが好ましく、t-ブチル基、メンチル基、ボルニル、2-アダマンチル基がより好ましく、t-ブチル基が特に好ましい。
【0037】
本発明の粘度測定用試薬は、所望の効果が得られる範囲内において他の成分を含んでいてもよい。この様な添加成分として、例えば、各種塩類(例えば過塩素酸塩など)、界面活性剤、不溶性の固形物(例えばシリカゲル、ゼオライトなど)などの照射光を吸収しない成分を例示することができる。
【0038】
本発明の粘度測定用試薬を含む試料は、二重蛍光を発する。本発明の粘度測定用試薬を含む試料の二重蛍光の相対強度の対数:ln(IRX/IFC')は、試料の粘度(η)の逆数と直線関係を示す。即ち、以下の関係が成立する。
【0039】
【式3】
【0040】
[式中、aおよびbは、任意の定数を示す。]
従って、本発明の粘度測定用試薬を含む未知試料について、二重蛍光の相対強度の対数の値:ln(IRX / IFC')を求め、上記粘度測定用試薬を含み、粘度が既知である少なくとも2種以上の試料における二重蛍光の相対強度の対数の値と粘度の逆数とが示す直線関係(式A)に、未知試料のln(IRX / IFC')を代入する方法などにより、未知試料の粘度を求めることができる。本発明の粘度測定用試薬を含む試料は、例えば、前記試薬を試料に溶解する方法などにより調製することができる。
【0041】
式A中のaおよびbの値は、用いる粘度測定用試薬の種類に応じて適宜決定すればよい。aおよびbの値は、例えば、粘度が既知である少なくとも2種以上の試料について二重蛍光の相対強度を測定し、相対強度の対数と粘度の逆数との値を満足する値を得ることにより求めることができる。3種以上の既知試料について二重蛍光の相対強度を測定する場合には、例えば、回帰分析法などによりaとbの値を得ることができる。
【0042】
二重蛍光の相対強度は、例えば、蛍光スペクトルにおける二つの蛍光強度の極大値から、その比を得る方法;それぞれの発光について極大波長における蛍光強度の経時変化を測定することにより蛍光強度の最大値を求めて、その比を得る方法などにより得ることができる。どの方法を用いるかは、用いる粘度測定用試薬の種類などに応じて適宜選択することができる。例えば、蛍光寿命が短い場合などには、蛍光スペクトルにおける二つの蛍光強度の極大値から、その比を得る方法が好ましい。本発明の試薬においては、短波長側の蛍光(FC')は、長波長側の蛍光(RX)よりも発光寿命が短い。両者の発光寿命の差が大きな場合なども、蛍光スペクトルにおける二つの蛍光強度の極大値から、その比を得る方法が好ましい。未知試料の二重蛍光の相対強度と粘度が既知である試料の二重蛍光の相対強度とは、同様の方法により測定することができ、測定条件は同一とすることが好ましい。例えば、粘度は温度に依存するので、既知試料の二重蛍光を測定する時の温度と未知試料の二重蛍光を測定する時の温度とを同一とすることが好ましい。
【0043】
粘度が既知である試料としては、例えば、二重蛍光を検知できる程度まで粘度測定用試薬を溶解することができる溶媒を例示することができる。溶媒は、極性溶媒であっても非極性溶媒であってもよい。非極性溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカンなどの直鎖または分枝状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの環状脂肪族炭化水素などを例示することができる。極性溶媒は、プロトン性極性溶媒であっても、非プロトン性極性溶媒であってもよい。プロトン性極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコールどを例示することができる。非プロトン性極性溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル;アセトニトリル;ジメチルスルフォキシド;ジメチルホルムアミドなどを例示することができる。式Aの関係を求める場合には、なるべく様々な粘度を示す既知試料を用いるのが好ましい。
【0044】
粘度測定用試薬の試料中の濃度は、二重蛍光が検出される限り特に制限されない。粘度測定用試薬の試料中の濃度は、通常0.001〜10mmol/l程度、好ましくは0.01〜1mmol/l程度、より好ましくは0.05〜1mmol/l程度である。
【0045】
二重蛍光の相対強度を測定する時の励起光の波長は、用いる粘度測定用試薬の種類、溶媒の種類などに応じて適宜設定することができる。例えば、粘度測定用試薬が紫外−可視吸収スペクトルにおいて吸収を示す波長を利用することができる。励起光の波長は、通常220〜320nm程度、好ましくは230〜300nm程度、より好ましくは240〜280nm程度である。粘度測定用試薬が紫外−可視吸収スペクトルにおいて吸収を示す波長範囲内では、二重蛍光の相対強度(IRX/IFC')は、励起光の波長が短いほど大きな値を示す。
【0046】
試料の温度は、二重蛍光が検知できる限り特に制限されず、用いる粘度測定用試薬の種類、溶媒の種類などに応じて適宜設定することができる。試料の温度は、通常-125〜150℃程度であり、好ましくは0〜50℃程度である。試料温度が、低温であるほど二重蛍光は検知しやすい。例えば、Rがイソプロピル基である粘度測定用試薬を用いる場合には、試料の温度を-100〜-10℃程度に冷却するのが好ましい。
【0047】
本発明の試薬は、溶媒、溶液などの等方性の試料の粘度だけでなく、ミセル内、ベシクルなどの2分子膜内、液晶内などの異方性の分子集合体内の局所的な粘度、即ち微視的粘度(microscopic viscosity、microviscosity)を測定する試薬として好適に用いることができる。
【0048】
【作用】
本発明において用いるベンゼンカルボン酸エステルは、二重蛍光を発する。その発現機構は、励起状態におけるベンゼンの置換基同士の立体障害、即ち置換基の回転緩和の阻害に起因するものである。本発明の粘度測定用試薬は、光により励起されるとフランク−コンドン類似状態(FC')と完全緩和状態(RX)とが順次生成し、それぞれの状態から独立に発光がみられる。短波長側の蛍光はFC'からの発光であり、長波長側の蛍光はRXからの発光である。
【0049】
本発明において用いるベンゼンカルボン酸エステルの二重蛍光の相対強度は、エステル分子自身と周囲の分子との間に働く摩擦の大きさに依存する。よって、前記エステル分子の二重蛍光の相対強度は、エステル分子周囲の粘度、即ち微視的粘度を検知することができる。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、試料の極性に関する補正を行わずに粘度を測定できる。
【0051】
本発明によれば、極性が未知である試料についても粘度を測定することができる。
【0052】
本発明によれば、溶媒、溶液などのいわゆるバルクの粘度だけでなく、ミセル内の粘度などの微視的粘度(microscopic viscosity、microviscosity)を測定することができる。
【0053】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と共に挙げ、本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0054】
以下の実施例または比較例では、以下のようにして調製したベンゼンヘキサカルボン酸エステルを用いた。ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサメチルエステル (東京化成株式会社製)は、メタノールから数回再結晶することにより精製したものを使用した。その他のベンゼンへキサカルボン酸エステルは、文献(Yamasaki, N et al., J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 1933)に従って合成および精製したものを使用した。
【0055】
蛍光分光光度計として日本分光(株)製蛍光分光光度計FP-770型を使用し、光源として150Wキセノンランプからの発光をモノクロメータで単色化(半値幅10nm)したものを使用した。
【0056】
全ての実施例または比較例において用いた試料は、脱気せずに蛍光特性を測定した。
【0057】
実施例1
粘度測定用試薬として、ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサt-ブチルエステルを使用して、ミセル内部の粘度を測定した。
1.既知試料における二重蛍光の相対強度の測定
蛍光分光光度計を用いて、粘度が既知である様々な溶媒中における粘度測定用試薬の蛍光スペクトルを測定することにより、二重蛍光の相対強度(IRX/IFC')を求めた。励起波長は、250nmとした。
【0058】
先ず、非極性溶媒である脂肪族炭化水素について、二重蛍光の相対強度および各発光の発光極大波長を求めた。全ての場合において、粘度測定用試薬の濃度は、0.1mmol/lとした。溶媒として用いた脂肪族炭化水素の極性は、ほぼ等しい。縦軸にln(IRX/IFC')の値をとり、横軸に粘度(η)の逆数の値をとってグラフを作成したところ、よい直線性を示した。
【0059】
次に、様々な極性溶媒についても、脂肪族炭化水素の場合と同様にして、二重蛍光の相対強度および各発光の発光極大波長を求めた。得られたln(IRX/IFC')の値を上記のグラフに追加したところ、非極性溶媒である脂肪族炭化水素の測定結果から得られた直線上に、様々な極性溶媒の測定結果が乗った。表1に各溶媒の粘度、発光極大およびln(IRX/IFC')を示した。表中の粘度の値は、文献値である(Murov, S. L. Handbook of Photochemistry; Marcel Dekker: New York, 1973)。図1に得られたグラフを示す。図中の直線は、全ての測定結果を考慮した回帰直線であり、ln(IRX / IFC') = a・η-1+bにおいて、a=0.26であり、b=0.83であった。
【0060】
図1においてよい直線性がみられたことから、本発明の粘度測定用試薬における二重蛍光の相対強度は、試料の極性に依存しないことが判った。
【0061】
【表1】
【0062】
2.ドデシル硫酸ナトリウム (SDS) ミセル内部の粘度測定
ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサt-ブチルエステルを粘度測定用試薬として使用し、二重蛍光を測定することにより、SDSミセル内部の粘度を求めた。SDSを含む試料の濃度は、SDSが確実にミセルを形成するように、臨界ミセル濃度(0.008mmol/l)の10倍とした。粘度測定用試薬の濃度は、0.15mmol/lとした。溶媒として水を用いた。
【0063】
SDSを含む試料における二重蛍光の相対強度の対数:ln(IRX/IFC')は、1.01であった。図1の回帰直線からSDSミセル内部の粘度は、1.44mPa・sであることが判った。
【0064】
比較例1
粘度測定用試薬として、ベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサt-ブチルエステルの代わりにベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサメチルエステルを使用した以外は、実施例1と同様にして、ペンタン溶液の蛍光特性を測定した(試薬濃度:0.1mmol/l)。
【0065】
二重蛍光はみられず、緩和状態からの一重蛍光(RX)のみがみられた。発光極大波長は366nmであり、発光寿命は1.05nsであった。二重蛍光がみられなかったので、粘度測定用試薬としては使用できなかった。
【0066】
実施例2
粘度測定用試薬として、ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサシクロヘキシルエステルを使用し、励起波長を270nmとした以外は実施例1と同様にして、粘度が既知である様々な溶媒中における粘度測定用試薬の蛍光スペクトルを測定し、二重蛍光の相対強度(IRX/IFC')を求めた。
【0067】
ln(IRX/IFC')の粘度依存性を図2に示す。様々な極性を有する溶媒を用いたのにも拘わらず、ln(IRX/IFC')と粘度の逆数は、良好な直線関係を示した。このことから、ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサシクロヘキシルエステルが、粘度測定用試薬として好適に使用できることが判る。
【0068】
実施例3
粘度測定用試薬として、ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサシクロドデシルエステルを使用し、励起波長を270nmとした以外は、実施例1と同様にして、粘度が既知である様々な溶媒中における粘度測定用試薬の蛍光スペクトルを測定し、二重蛍光の相対強度(IRX/IFC')を求めた。
【0069】
ln(IRX/IFC')の粘度依存性を図3に示す。様々な溶媒を用いたのにも拘わらず、ln(IRX/IFC')と粘度の逆数は、良好な直線関係を示した。このことから、ベンゼンへキサカルボン酸ヘキサシクロドデシルエステルが、粘度測定用試薬として好適に使用できることが判る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において作成したグラフを示す。粘度測定用試薬として、ベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサt-ブチルエステルを使用した場合について、ln(IRX/IFC')の値の粘度依存性を示す。
【図2】実施例2において作成したグラフを示す。粘度測定用試薬として、ベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサシクロヘキシルエステルを使用した場合について、ln(IRX/IFC')の値の粘度依存性を示す。
【図3】実施例3において作成したグラフを示す。粘度測定用試薬として、ベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサシクロドデシルエステルを使用した場合について、ln(IRX/IFC')の値の粘度依存性を示す。
Claims (4)
- ベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサシクロヘキシルエステル又はベンゼンヘキサカルボン酸ヘキサシクロドデシルエステルを含む粘度測定用試薬。
- 試料中の微視的粘度を測定するための請求項1に記載の粘度測定用試薬。
- 以下の式(I)で示されるベンゼンカルボン酸エステル
【式1】
[式中、aおよびbは、任意の定数を示す。] - 未知試料中の微視的粘度を求めることを特徴とする請求項3に記載の粘度測定方法。
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