JP3903163B2 - 磁気浮上式サスペンションユニット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の永久磁石を有する磁性バネを備えた磁気浮上式サスペンションユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車用シートあるいは救急車用ベッドには、車体フロアから伝わる振動を抑制する除振ユニットが取り付けられており、この除振ユニットには例えば金属バネ、エアサスペンション、エアダンパ等が使用されている。最近では、自動車用シートにアクチュエータを取り付け、振動をアクティブ制御することにより着座感を向上したアクティブサスペンションシートも提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金属バネ、エアサスペンション、エアダンパ等を使用した除振ユニットは、車体フロアから伝わる振動のうち4〜20Hzの振動の周波数を低下させて着座感あるいは使用感をさらに向上させることはできなかった。
また、上記アクティブサスペンションシートは重たく高価であるばかりでなく、アクチュエータを常に作動させておく必要があり、アクチュエータをOFFにすると振動がアクチュエータを介して乗員に直接伝わり、着座感が損なわれるという問題があった。
【0004】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、磁性バネの減衰特性を利用することにより除振性能を向上させた安価で簡素な構成の磁気浮上式サスペンションユニットを提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1に記載の発明は、相対移動自在に離間し、反発磁極を対向させた第1及び第2の永久磁石により磁性バネを構成し、上記第1の永久磁石をシートに取り付けるとともに、上記第2の永久磁石の磁束密度を調節可能な遮蔽手段を開閉自在に配設し、該遮蔽手段を互いに平行に延在する複数の遮蔽板で構成するとともに、上記第1及び第2の永久磁石の相対移動に伴う上記複数の遮蔽板の開閉動作を遅らせる位相遅れ発生手段を設け、上記第2の永久磁石に入力が加えられ、上記第2の永久磁石が第1の永久磁石に向かって接近すると、上記位相遅れ発生手段により位相を遅らせて上記複数の遮蔽板の開動作を行って上記第1及び第2の永久磁石の反発力を増大させ、さらに上記第2の永久磁石は上記第1の永久磁石との反発力により上記第1の永久磁石から離反しながら上記位相遅れ発生手段により位相を遅らせて上記複数の遮蔽板の閉動作を行って上記第1及び第2の永久磁石の反発力を減少させるようにしたことを特徴とする磁気浮上式サスペンションユニットである。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、上記遮蔽板とともに揺動するレバーに慣性部材を取り付け、該慣性部材をレバーに対し移動させることにより上記第1及び第2の永久磁石間で最大反発力が発生する位置を調節するようにしたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、上記遮蔽板の各々に強磁性材料の積層板を使用したことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、上記遮蔽板の各々に伝導性のある非磁性材料を使用したことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
互いに離間し同磁極を対向させた少なくとも二つの永久磁石を有する磁性バネ構造体の場合、離間した永久磁石同士は非接触のため、構造体自体の摩擦損失等を無視すると、その静特性は入力時(行き)と同一ライン上を非線形で出力され(帰り)、さらに、非接触対偶特有の自由度、浮上制御系の不安定度を利用することにより、小さな入力で静磁界(磁石の配置)を変化させることで負の減衰を生じやすい。
【0011】
本発明はこの事実に着目してなされたものであり、二つの永久磁石間の幾何学的寸法を運動行程内機構あるいは外力により入力側(行き)と出力側(帰り)で変化させ、その運動系内で反発力に変換させることにより、二つの永久磁石の平衡位置からの入力側の反発力より出力側の反発力を大きくしている。
【0012】
以下、その基本原理について説明する。
図1は、入力側と出力側における二つの永久磁石2,4の平衡位置を示した模式図で、図2は、いずれか一方の永久磁石に加えられた荷重と、二つの永久磁石の平衡位置からの変位量との関係を示した磁性バネ構造体の基本特性を示している。
【0013】
図1に示されるように、永久磁石2に対する永久磁石4の入力側の平衡位置とバネ定数をそれぞれx0,k1とし、出力側の平衡位置とバネ定数をそれぞれx1,k2とすると、x0〜x1の間で面積変換が行われ、各平衡位置では次の関係が成立する。
−k1/x0+mg=0
−k2/x1+mg=0
k2>k1
【0014】
従って、その静特性は、図2に示されるように負の減衰特性を示し、位置x1と位置x0におけるポテンシャルの差が発振のポテンシャルエネルギと考えることができる。
【0015】
また、図1のモデルを製作し、荷重と変位量との関係を、荷重を加える時間を変えて実測したところ、図3に示されるようなグラフが得られた。これは、二つの永久磁石2,4が最近接位置に近づくと、大きな反発力が作用すること、また、平衡位置からの変位量が微小に変化すると摩擦損失が磁性バネのダンパー効果により発生し、そのことにより減衰項が現れたものと解釈される。
【0016】
図3において、(a)は一定荷重を加えた場合のグラフで、(a)、(b)、(c)の順で荷重を加えた時間が短くなっている。すなわち、荷重の加え方により静特性が異なり、荷重を加える時間が長いほど力積が大きい。
【0017】
また、希土類磁石は、磁化の強さが磁界に依存しない。つまり、内部磁気モーメントが磁界による影響を受けにくいので、減磁曲線上で磁化の強さはほとんど変化せず、ほぼその飽和磁化の強さの値を保っている。従って、希土類磁石では、端面上に磁荷が均一に分布していると仮定したチャージモデルを用いて、入出力が考えられる。
【0018】
図4はその考え方を示しており、磁石を最小単位の磁石の集合と定義し、各単位磁石間の力の関係を三つに分類して計算したものである。
(a)吸引(r,mとも同一なので、2タイプを1つで定義する)
f(1)=(m2/r2)dx1dy1dx2dy2
fx (1)=f(1)cosθ
fz (1)=f(1)sinθ
(b)反発
fx (2)=f(2)cosθ
fz (2)=f(2)sinθ
(c)反発
fx (3)=f(3)cosθ
fz (3)=f(3)sinθ
従って、
−fx=2fx (1)−fx (2)−fx (3)−fz=2fz (1)−fz (2)−fz (3)ここで、クーロンの法則は次のように表されるので、
上記−fx,−fzを磁石の寸法の範囲で積分して力を求めることができる。
【0019】
これを図5に示されるように、対向する磁石を各磁気ギャップ毎に完全にラップした状態(x軸移動量=0mm)から完全にずれた状態(x軸移動量=50mm)まで移動させて計算したのが図6のグラフである。ただし、「内部磁気モーメントは一定」と定義してあるが、磁気ギャップが小さいときは磁石の周辺で乱れが生じるので、補正している。
【0020】
上記計算結果は実測値とも略一致しており、図2のポイントaからbに移動させる力がx方向荷重で、出力はz方向荷重で表されており、不安定系故の入力<出力の関係が静的に明確になっている。
【0021】
また、図7は、図5に示される磁石の離間距離を3mmに保持し、完全にずれた状態から完全にラップした状態まで移動させ、さらにこの状態から完全にずれた状態まで移動した時の関係を表したグラフである。このグラフは、x方向荷重の絶対値は同じで出力方向が逆になって出てくる特性で、完全ラップ状態に近づく場合は抵抗つまり減衰となり、完全ラップ状態から完全にずれた状態に移行する場合は加速されることを示している。この特性を非接触ダンパに活用することで、従来のダンパでは達成できなかった人が認知できる低・中・高周波領域(0〜50Hz)の振動エネルギの低減つまり振動伝達率の改善が可能になった。
【0022】
また、図8に示されるように、対向する磁石の回転角度を変化させると、図9に示されるようなグラフが得られた。当然のことながら、対向面積が減少すると最大荷重が減少し、所定の入力を加えることによる面積変換を介して出力を変化させることが可能なことを示している。
【0023】
図10は、永久磁石としてネオジム系磁石を採用した場合の磁石間距離と荷重との関係を示すグラフであり、反発力は質量増加とともに増加する。ここで、反発力Fは、
F∝Br2×(幾何学的寸法) Br:磁化の強さ
で表され、幾何学的寸法とは、対向する磁石の離間距離、対向面積、磁束密度、磁界の強さ等により決定される寸法を意味する。磁石材料が同一の場合、磁化の強さ(Br)は一定であるので、幾何学的寸法を変化させることにより磁石の反発力を変えることができる。
【0024】
図11は、永久磁石2,4間の磁束密度を変化させること(磁気回路変換)により幾何学的寸法を変化させるようにした具体的な磁性バネを示している。
図11において、互いに平行に延在する基台6と頂板8とは、2本のリンク10a,10bからなる左右一対のXリンク10により互いに接続されている。リンク10a,10bの一端は、基台6と頂板8にそれぞれ枢着されるとともに、リンク10a,10bの他端は、頂板8に摺動自在に取り付けられた上部スライダ12と、基台6に摺動自在に取り付けられた下部スライダ14にそれぞれ枢着されている。
【0025】
また、基台6には永久磁石2が固定される一方、頂板8には永久磁石4が永久磁石2に対し同一(反発)磁極を対向させた状態で固定されている。永久磁石2の上方には、等間隔に離間し互いに平行に延在する複数の遮蔽板66が開閉自在に配設されており、基台6に固定され遮蔽板66の両側に配設された一対の第1支持プレート62に遮蔽板66の下端が枢着されるとともに、第1支持プレート62と所定距離離間し平行に延在する一対の第2支持プレート64に遮蔽板66の上端が枢着されている。第2支持プレート64の一端は、アーム68を介して略L字状の揺動レバー70の曲折部に枢着されるとともに、揺動レバー70の一端は、基台6に固定された支持台72に枢着され、その他端側にはバランスウェイト24が慣性部材として取り付けられている。
【0026】
上記構成において、基台6にある入力が加えられ、基台6が頂板8に向かって移動すると、バランスウェイト24の慣性力により第2支持プレート64が図中矢印方向に移動し、永久磁石2の上方が遮蔽板66により遮蔽される。その結果、基台6に取り付けられた永久磁石2の磁束密度が低下し、頂板8に取り付けられた永久磁石4との反発力が減少する。
【0027】
バランスウェイト24が多少の位相遅れの後追随すると、第2支持プレート64は矢印の逆方向に移動するので、永久磁石2の上方が開放されて永久磁石2,4の反発力が増大し、基台6が頂板8から離反するように下降する。基台6が頂板8に対し一往復する間に、図11の磁性バネは図3に示されるような負の減衰特性を示す。なお、バランスウェイト24は基台6に対し多少の位相遅れがあるので、最大反発力が発生する位置は、入力に応じてバランスウェイト24を揺動レバー70に対して摺動させることにより適宜調節することができる。
【0028】
従って、基台6を車両等に固定し、頂板8の上にシートを載置すると、図11の磁性バネは磁気浮上式サスペンションユニットとして機能し、微小振動領域では周期的外力を減衰させるとともに、後述するように、磁性バネが持つ負の減衰を利用することにより低周波の改善が可能となり、かつ、永久磁石の非線形特性によりシートの着座者の体重に関係なく共振点をほぼ一致させることができる。
【0029】
また、複数の遮蔽板66の各々に、鉄等の強磁性材料を使用し、芯材として積層板を使用すると、遮蔽板66の内部に発生する渦電流損が低減され、磁束密度の変化が小さくなるので、磁性バネのバネ性を調整することができる。
【0030】
一方、複数の遮蔽板66の各々に、銅、アルミニウム等の伝導性のある非磁性材料を一体型芯材として使用すると、遮蔽板66の内部に発生する渦電流が増大し、この渦電流により減衰機能が発生するので、磁性バネの減衰性を調整することができる。
【0031】
次に、上記磁性バネの動特性を図12に示される簡略化した基本モデルを状態方程式で説明する。
図12の入力Fが、永久磁石の面積変換等の幾何学的寸法変化によってもたらされた力である。図12において、バネ定数をk、減衰係数をr、質量mに入力される調和振動をF(t)とすると、その状態方程式は、
【数1】
と表される。
【0032】
ここで、平衡位置をx0、平衡位置からの変位をyとすると、
【数2】
【0033】
ここで、k/x0 2=k′とおくと、
【数3】
【0034】
調和振動をF(t)=Fei ω tとおき、y=xei ω tとおくと、
【数4】
ここで、φは位相遅れを示す。
【数5】
従って、共振周波数ω0は、
【数6】
【0035】
ここで、式(2)はさらに、次のように表すこともできる。
【数7】
yをxとおいて、3次の項まで考慮すると、
【数8】
【0036】
式(3)には、2次の項に−bx2という減衰項が表れているが、式(3)をさらに簡単なイメージに置き換えると、
【数9】
【0037】
ここで、x=x0cosωtとおくと、
【数10】
【0038】
つまり、微小振動領域では、周期的な外力に対して、絶えず一定の反発力((b/2)x0 2)が加わっていて、その力で周期的外力を減衰させることになる。
【0039】
そこで、図13の装置を使用して、磁石単体の動特性を調べたところ図14及び図15に示されるような結果が得られた。
【0040】
図13の装置は、二つの永久磁石2,4を互いに対向せしめ、面積変換することなくXリンク10を介してその離間距離を変更するようにした装置である。
【0041】
また、図14及び図15において、横軸は周波数(Hz)を示し、縦軸は振動伝達率(G/G)を示している。また、図14において、(a),(b),(c),(d),(e),(f)はそれぞれ、50×50×10mm,50×50×15mm,50×50×20mm,75×75×15mm,75×75×20mm,75×75×25mmの磁石を使用して、同じ負荷30kgを加えているのに対し、図15においては、50×50×20mmの同じ磁石を使用して、53kgと80kgの異なる負荷を加えたものである。
【0042】
図14及び図15は磁性バネの非線形特性を示したもので、両図から、同じ負荷の場合は、磁石サイズが大きいほど共振点は低周波域へ移行し、磁石サイズが同じ場合には、負荷が変わっても共振点は変化せず、負荷の軽重で共振点における振動伝達率に大小が生ずることがわかる。
【0043】
また、図16は比較例としての、従来の乗用車シートの動特性を示すグラフであり、振動伝達率が全体として高く、負荷の変動にともない共振点及び振動伝達率はともに変動している。
【0044】
ところで、上記式(1)において、対向する永久磁石間の幾何学的寸法を運動行程内機構あるいは外力により変化させると、バネ定数kは、図17に示されるように、時間とともに変化する長方形波k(t)であって、周期T=2π/ωにおいて、+k’と−k’の値を1/2周期毎に交互にとる。従って、式(1)は次のように表される。
【数11】
(i)0<t<π/ωにおいて、
【数12】
(ii)π/ω≦t<2π/ωにおいて、
【数13】
【0045】
ここで、0<t<π/ωの時の平衡位置をx0、平衡位置からの変位をy1とすると、
【数14】
【0046】
ここで、(n−k’)/x0 2=k1′とおくと、
【数15】
【0047】
調和振動をF(t)=Fei ω tとおき、y1=xei ω tとおくと、
【数16】
ここで、φは位相遅れを示す。
【数17】
従って、共振周波数ω0は、
【数18】
【0048】
同様に、π/ω≦t<2π/ωの時、
【数19】
従って、y1<y2で、発散することとなる。
【0049】
一般に、自励振動系は負の粘性減衰を有するバネ−質量系と置き換えることができ、振動中に外部から振動エネルギが導入されるが、実際に発生する振動は、質点に空気抵抗や各種の抵抗が発生し、エネルギを消失する。
【0050】
しかしながら、本発明の負の減衰特性を有する磁性バネに外力として振動エネルギが導入されると、上記したように、y1<y2で発散し、発散し続けると振幅が次第に増大し系が破壊されるか、あるいは、変位の増大とともに大きくなる減衰項を上記状態方程式に追加することにより、正の減衰が作用し負の減衰と釣り合った状態で定常的な振動を行うようになる。すなわち、バネ定数k(t)と同様、減衰係数も可変で、式(1)はさらに次のように書き直すこともできる。
【数20】
【0051】
本発明の磁性バネを有する振動系は、持続振動、発散振動を誘発するエネルギ変化・変換系が振動系内部に存在しており、上記状態方程式に正の減衰項を機構的に加えることにより、さらに次の状態方程式を得ることができる。
【数21】
【0052】
この状態方程式は、r2≠0の時、xが増大すると左辺3項が大きくなり、かつ、バネ項の減衰項により正の減衰が働く。従って、永久磁石による内部励振特性として、変位が小さい時は負の減衰で、変位の増大とともに正の減衰が働き、正と負の減衰がつりあう振幅で振動が定常的になる。
【0053】
また、振動系の質量、減衰係数、バネ定数のうち一つ以上について、その大きさが時間とともに変化する場合、これによって生じる振動を係数励振振動と呼ばれているが、上記式(4),(5),(6)は励振源自体が振動する係数励振振動となっており、系内の非振動的エネルギが系内部で振動的な励振に変換されて振動を発生させる。
【0054】
通常は供給エネルギは動力エネルギの一部が変換したものであるから、動力エネルギに上限があると供給エネルギにも限りがあり、これが消費エネルギに等しくなった時点で振幅が抑えられる。永久磁石によるポテンシャルエネルギは、その系の動力エネルギとは独立しており、消費エネルギとの格差を広げることができるが、永久磁石の質量当たりの最大エネルギ積が増大すれば、さらにこの格差を大幅に広げることも可能で、1サイクル中で、負の減衰による供給エネルギを減衰による消費エネルギよりも大きくすることにより、振動エネルギは増大する。
【0055】
前述したように、式(1)において、減衰係数r及びバネ定数(係数)kは自由に制御することが可能で、例えば図1の模式図において、永久磁石4が最下端にある時、永久磁石2との対向面積を最大とすることで振幅を減衰でき、磁力ブレーキ、動吸振器等に応用することができる。また、最下端から最上端に向かって永久磁石4が離れ出してから対向面積を最大にすることで反発力を増大することができるので、発電機やアンプ等に応用することもできる。
【0056】
また、上記状態方程式の解から分かるように、本発明の係数励振振動系は、負荷の変動によって固有振動数が変化しても、励振振動数を移動させることで振幅の変動を少なくすることができる。すなわち、励振振動数を可変とし、手動又は自動的に共振振動数を追尾させて、常に周波数特性の共振振動数が低下するところで動作させることが可能で、自動車用シートの除振装置として使用することにより、振動絶縁性が向上でき、その個別性能を改善することができる。例えば、共振点を4Hz以下に下げることもできる。また、負の減衰を利用することによる低周波の改善と永久磁石の持つ非線形特性を特化させることによる体重差の吸収が可能となる。
【0057】
ここで、ウレタンとファイバを組み合わせたパッドあるいは本発明の磁性バネ構造を採用したベッド型除振ユニットを使用して振動実験を行ったところ、図18に示されるような結果が得られた。
【0058】
図18のグラフからわかるように、パッドとともに本発明の磁性バネ構造を採用したものは、パッドのみを採用したものに比べ、共振周波数が半分以下の3Hzまで減少し、除振ユニットとして極めて有効であることが認められた。さらに、セミアクティブ制御を行うことにより、共振点における振動伝達率を1/3程度に減少することができた。
【0059】
さらに、図19のマグレブ(magnetic levitation:磁気浮上)ユニットの動特性を調べたところ、図20のような結果が得られた。
【0060】
図19のマグレブユニットは、基台74の上に複数の揺動レバー76を介してシート78を揺動自在に支承し、基台74の上面に二つの永久磁石80,82を所定距離離間せしめて固定する一方、この永久磁石80,82に対し同磁極が対向する永久磁極84をシート78の下面に固定している。なお、永久磁極80,82,84としては、75×75×25mmのものを使用した。
【0061】
このマグレブユニットに53kg,75kg,80kgの異なる負荷を加えたが、図20に示されるように、負荷の変動による振動伝達率の差を小さく抑えることができるとともに、共振点を略一致させることができた。
【0062】
また、乗用車用シート、サスペンションシートA、サスペンションシートB、及び、本発明にかかるマグレブユニットの乗り心地評価を調べたところ、図21のような結果が得られた。なお、マグレブユニットの負荷は53kgとし、75×75×25mmの永久磁石を使用した。また、図中、「固定」はシートをサスペンションに固定しただけの状態を示すとともに、ウレタン、ゲル、スチレンはユニットの上に取り付けたクッション材を示している。
【0063】
ここで、乗り心地評価定数として、”SAE paper 820309”に記載され次式で表される乗り心地指数R(Ride Number)を使用した。
R=K/(A・B・fn)
変数A,B,fnはシートの伝達関数(T.F.)から求められ、それぞれ次の値を示している。
A: T.F.の最大値
B: 10HzにおけるT.F.値
fn:共振周波数あるいはAが現れた周波数
K: 全く異なったシートを表現する乗り心地係数(多様なシートを使用し たので、K値は"1”と定めた)
ISO乗り心地評価は小さい数値で乗り心地が良いことを表すのに対し、上記乗り心地指数Rはその数値が大きいほど良い乗り心地を意味している。
【0064】
図21からわかるように、乗り心地評価をしたシートのうち、乗用車用シートは0.2〜0.3(オールウレタン系)、0.3〜0.5(バネ系)、体重調整を行ったサスペンションシートは0.5〜0.7の値を示し、本発明のマグレブユニットの乗り心地は他のシートより良く、53kgの負荷に対して0.75〜1.60の乗り心地評価定数が得られた。
【0065】
また、図22は負荷を変えた場合のマグレブユニットの乗り心地評価定数を示しており、この図からわかるように、どの負荷に対しても0.7以上の乗り心地評価定数が得られ、本発明にかかるマグレブユニットの乗り心地の良さを示している。
【0066】
また、図23は、乗用車用シート、サスペンションシートA、サスペンションシートB、及び、本発明にかかるマグレブユニットの動特性を示しており,図中、(a)は乗用車用シート、(b),(c)はサスペンションシートAにそれぞれ53kg及び75kgの負荷を加えたもの、(d),(e)はサスペンションシートBにそれぞれ45kg及び75kgの負荷を加えたもの、(f),(g)は本発明にかかるマグレブユニットにおいてクッション材を変えたもの、(h)は本発明にかかるマグレブユニットをセミアクティブ制御したものをそれぞれ示している。
【0067】
図23からわかるように、マグレブユニットの共振点は2〜3Hzの間にあり、低・高周波領域の振動伝達率も小さいことがわかる。さらに、セミアクティブ制御を行うことにより、共振点をさらに減少させることができるとともに、その振動伝達率を広範囲の周波数領域において低減できることが確認できた。
【0068】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明のうちで、請求項1に記載の発明によれば、少なくとも二つの永久磁石の一方をシートに取り付けるとともに、他方の永久磁石の磁束密度を調節可能な遮蔽手段を配設し、他方の永久磁石に入力された外力に対し、遮蔽手段により磁束密度を変化させて内部運動系内のバネ定数あるいは減衰係数を変化させるようにしたので、サスペンションユニットのパッシブコントロール、セミアクティブコントロールあるいはアクティブコントロールを容易に行うことができる。
【0069】
また、遮蔽手段を二つの永久磁石の間に配設された開閉自在の複数の遮蔽板で構成したので、入力された外力に応答して遮蔽板を適宜開閉することにより上記コントロールを行うことができる。
【0070】
さらに、請求項2に記載の発明によれば、遮蔽板とともに揺動するレバーに慣性部材を取り付け、慣性部材をレバーに対し移動させることにより二つの永久磁石間で最大反発力が発生する位置を調節するようにしたので、ポテンシャルの場としての磁場を有効利用することができるばかりでなく、磁性バネに正、0又は負の任意の減衰特性を付与することができ、高周波領域の振動伝達率の低減、体重差の吸収、及び、共振点の低下等低周波領域の振動エネルギの低減にも効果がある。
【0071】
また、請求項3に記載の発明によれば、遮蔽板の各々に強磁性材料の積層板を使用したので、遮蔽板の内部に発生する渦電流損が低減され、磁性バネのバネ性を調整することができる。
【0072】
また、請求項4に記載の発明によれば、遮蔽板の各々に伝導性のある非磁性材料を使用したので、遮蔽板の内部に発生する渦電流が増大し、フレミングの法則に基づく力を利用した減衰力が生じ、磁性バネの減衰性を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる磁性バネにおいて、二つの永久磁石の入力側と出力側の平衡位置を示した模式図である。
【図2】 図1の磁性バネにおいて、加えられた荷重と永久磁石の平衡位置からの変位量との関係を示す基本特性のグラフである。
【図3】 実測された荷重と変位量との関係を示すグラフである。
【図4】 永久磁石の端面上に磁荷が均一に分布していると仮定したチャージモデルにおける入出力の考え方を示す模式図であり、(a)は吸引を、(b)は反発を、(c)は(b)とは異なる部位の反発をそれぞれ示している。
【図5】 同磁極を対向させた永久磁石において、一方を他方に対し移動させた(対向面積を変えた)場合の模式図である。
【図6】 図5に基づいて計算した場合のX軸移動量に対するX軸及びZ軸方向の荷重を示すグラフである。
【図7】 図5の永久磁石の離間距離を一定に保持し、一方を他方に対し完全にずれた状態から完全にラップした状態まで移動し、さらにこの状態から完全にずれた状態まで移動させた時の変位量と荷重との関係を示すグラフである。
【図8】 同磁極を対向させた永久磁石において、一方を他方に対し回転させた(対向面積を変えた)場合の模式図である。
【図9】 図8に基づいて永久磁石を回転させた場合の対向面積に対する最大荷重を示すグラフである。
【図10】 永久磁石としてネオジム系磁石を採用した場合の磁石間距離と荷重との関係を示すグラフである。
【図11】 磁気回路変換により幾何学的寸法を変化させるようにした磁性バネの正面図である。
【図12】 磁性バネの特性を説明するための基本モデルである。
【図13】 面積変換しない場合の磁性バネの静・動特性を得るために使用された装置の正面図である。
【図14】 図13の装置を使用して得られた磁性バネの動特性を示しており、(a)は50×50×10mmの磁石を使用した場合の、(b)は50×50×15mmの磁石を使用した場合の、(c)は50×50×20mmの磁石を使用した場合の、(d)は75×75×15mmの磁石を使用した場合の、(e)は75×75×20mmの磁石を使用した場合の、(f)は75×75×25mmの磁石を使用した場合のグラフである。
【図15】 図13の装置を使用して得られた磁性バネの動特性を示しており、同じ磁石を使用して負荷を変えた場合のグラフである。
【図16】 比較例としての従来の乗用車用シートの動特性を示すグラフである。
【図17】 本発明の磁性バネ構造におけるバネ定数及び係数の時間に対する変化を示すグラフである。
【図18】 パッドのみを使用した場合、パッドと磁性バネを使用した場合、及び、さらにセミアクティブ制御した場合のベッド型除振ユニットの動特性を示すグラフである。
【図19】 磁性バネの動特性を測定するために使用されたマグレブユニットの正面図である。
【図20】 図19のマグレブユニットを使用して測定されたマグレブユニットの動特性を示すグラフである。
【図21】 マグレブユニットを含む種々のシートを使用して測定された乗り心地評価定数を示すグラフである。
【図22】 負荷及びクッション材を変えて測定されたマグレブユニットの乗り心地評価定数を示すグラフである。
【図23】 マグレブユニットを含む種々のシートを使用して測定された動特性を示すグラフである。
【符号の説明】
2,4,26,28 永久磁石
6 基台
8 頂板
10 Xリンク
12 上部スライダ
14 下部スライダ
22 L字状レバー
24 バランスウェイト
Claims (4)
- 相対移動自在に離間し、反発磁極を対向させた第1及び第2の永久磁石により磁性バネを構成し、上記第1の永久磁石をシートに取り付けるとともに、上記第2の永久磁石の磁束密度を調節可能な遮蔽手段を開閉自在に配設し、該遮蔽手段を互いに平行に延在する複数の遮蔽板で構成するとともに、上記第1及び第2の永久磁石の相対移動に伴う上記複数の遮蔽板の開閉動作を遅らせる位相遅れ発生手段を設け、上記第2の永久磁石に入力が加えられ、上記第2の永久磁石が第1の永久磁石に向かって接近すると、上記位相遅れ発生手段により位相を遅らせて上記複数の遮蔽板の開動作を行って上記第1及び第2の永久磁石の反発力を増大させ、さらに上記第2の永久磁石は上記第1の永久磁石との反発力により上記第1の永久磁石から離反しながら上記位相遅れ発生手段により位相を遅らせて上記複数の遮蔽板の閉動作を行って上記第1及び第2の永久磁石の反発力を減少させるようにしたことを特徴とする磁気浮上式サスペンションユニット。
- 上記遮蔽板とともに揺動するレバーに慣性部材を取り付け、該慣性部材をレバーに対し移動させることにより上記第1及び第2の永久磁石間で最大反発力が発生する位置を調節するようにした請求項1に記載の磁気浮上式サスペンションユニット。
- 上記遮蔽板の各々に強磁性材料の積層板を使用した請求項1あるいは2に記載の磁気浮上式サスペンションユニット。
- 上記遮蔽板の各々に伝導性のある非磁性材料を使用した請求項1あるいは2に記載の磁気浮上式サスペンションユニット。
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-
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