JP3896564B2 - 新規バクテリアセルロース産生微生物およびそれを利用した石油の増進回収方法 - Google Patents

新規バクテリアセルロース産生微生物およびそれを利用した石油の増進回収方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、バクテリアセルロースを産生する新規微生物、その微生物を利用したバクテリアセルロースの製造方法、およびその微生物または該微生物が産生するバクテリアセルロースを利用した石油の増進回収方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースを産生するバクテリアとしては、従来から、ある種の微生物が知られ、その微生物としては、例えばアセトバクター属、アルカリゲネス属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、スファエロチルス属、サルシナ属、アクロモバクター属、アエロバクター属、アゾトバクター属およびズーグレア属に属する各種菌ある。それらのうちでも、特にアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)が著名であり、従来からアセトバクター属に属する微生物は、高いセルロース生産能を有していることが知られていることから、バクテリアセルロースの工業的な製造に用いられている〔Biochem.J., 158, 345 (1954)〕。
【0003】
バクテリアセルロースは木材パルプなどから製造されるセルロースに較べ、フィブリルの断片幅が2ケタ程度も小さいことを特徴とする。従って、このようなバクテリアセルロースの離解物を紙状または固型状に固化した物質は高い引張弾性率を示すため、フィブリルの構造的特徴に基づくすぐれた機械特性が期待され、各種産業用素材として応用されている。例えば、アセトバクター・キシリナムATCC23769が生産するシート状のバクテリアセルロースは医療用パッドに利用できることが知られている(特開昭59-120159号公報)。
【0004】
従って、従来から、バクテリアセルロースの生産性向上を目的として、培養条件の最適化やセルロース生成促進因子の探索などが試みられている。例えば、特開昭62−265990号公報、特開昭63−202394号公報および特公平6−43443号公報などにバクテリアセルロースの製造方法に関する記載がある。バクテリアセルロース生産菌の培養に適当な栄養培地としては、炭素源、ペプトン、酵母エキス、燐酸ナトリウムおよびクエン酸からなる Schramm/Hestrin 培地(Schramm ら、J. General Biology, ll, pp.123-129, l954)が知られている。また、このような栄養培地に、培地中の特定栄養素によるセルロース生成促進因子である、イノシトール、フィチン酸およびピロロキノリンキノン(PQQ)(特公平5-1718号公報)などを添加したり、更には、カルボン酸又はその塩(特願平5-191467号公報)、インベルターゼ(特願平5-331491号公報)およびメチオニン(特願平5-335764号公報)を添加することによって、セルロース性物質の生産性が向上することが見い出されている。また、セルラーゼ製剤をセルラーゼ活性を保持させた形で微量添加することにより、収率が高まった例(特開昭63-74490号公報)や、失活させたセルラーゼ製剤を生産培地に含有させる方法なども報告されている(特開平2-238888号公報)。
【0005】
アセトバクター属に属する微生物は好気性の細菌である。このため、菌の生育は酸素を十分供給した方が良く、静置培養よりも数倍速いことから、酢酸発酵などでは一般に通気撹拌培養が行われている。しかしながら、バクテリアセルロースの生産に関しては、静置培養の方が効率的であることが知られている。このような菌の性質を利用したバクテリアセルロースの製造方法に関しては、例えば特開平1-243997号公報に、セルロース性物質生産能を有する微生物を用いたバクテリアセルロースの製造方法として、まず通気塔培養槽中で酸素含有ガスを通気しながら気泡培養し、続いてこれを棚段培養器に分注して培養面積を拡大して静置培養する方法が記載されている。
【0006】
このように微生物、特にアセトバクテリウム属等の好気性微生物を利用したバクテリアセルロースの効率的な生産には、微生物の培養(増殖)とバクテリアセルロースの生産といった異なる条件下での二段階工程が必要であるから、結果として生産工程が複雑になり、期待するほど大幅な生産コストの軽減が図られていないのが実情である。バクテリアセルロースには前述のような多様な可能性が秘められているにも関わらず、今日まで用途開発が余り進んでいない背景には、このような生産コストに見合う用途が見つかっていないという生産コスト面での問題があり、この問題を解決できれば、さらに多様な用途展開が図れるものと期待される。
【0007】
一方、微生物を利用した石油の増進回収技術(以下「微生物攻法」と称す)は、油層内に蓄積されている自噴エネルギーを利用した自噴採油(一次回収)や油層内に水を圧入し、油を生産井に押し進めることによって減衰した生産能力を回復させる水攻法(二次回収)の後に、なおも油層に残留する65〜70%以上の石油を強制的に回収する三次採収技術の一つである。
【0008】
微生物攻法は、一般の自然環境や油層環境下に棲息する微生物を利用する方法であるため、経済性に優れており、また微生物の使い方によっては、原油回収率の低迷原因を全て改善できる可能性をもっているなどの理由から、近年注目されている石油の採取技術である。
【0009】
微生物攻法における微生物の効果的な利用手段の一つに、微生物を油層内でin situ 生育させ、微生物にバイオフィルムなどの不溶性ポリマーを生産させることによって、フラクチャーや破砕帯などの浸透性が高く優先的に水で掃攻される流路を選択的にプラッギングし、水攻法の掃攻効率の改善ならびに石油回収効果を期待する攻法がある。
【0010】
この攻法は、特に、水攻法による石油回収過程でチャネリング現象(油層内の特定の高浸透率領域のみを圧入水が通り抜けてしまう現象)を生じ、石油の掃攻効率が著しく低下している油層に対して効果的と考えられている。
【0011】
これまでの主な研究成果としては、Jackらが、不溶性のデキストランを生産するLeuconostoc mesenteroides について油層モデルを用いた詳細なプラッギング実験を行っており、多孔質メディアに対して明確なプラッギングを観察している[Jack, T. R. and Diblasio, E., Thompson, B. G., and Ward, V., 1983 : Bacterial Systems for Selective plugging in Secondary Oil Production, Preprints, Symposia, Division of Petroleum Chemistry, American Chemical Society, 27, 773-784; Jack, T. R. and Diblasio, E., 1985 : Selective Plugging For Heavy Oil Recovery, In "Microbial Enhanced Oil Recovery", Vol. 1, Int'l. Bioresources Journal, ed. by Zajic J. E. and Donaldson E. C., Bioresource Publications, E1 Paso, TX, 213-225; Jack, T. R. and Diblasio, E., 1985 : Microbes and Oil Recovery, Proceedings of the International Conference on Microbial Enhancement of Oil Recovery, Fountainhead, Oklahoma, May 20-25, 1984. . ed. by Zajic J. E. and Donaldson E. C., Petroleum Bioresource, El Paso, pp. 205-212; Jack, T. R. and Stehmeier, L., 1988 : Selective plugging in Watered Out Wells, In the proceedings of the Symposium on Application if Microorganisms to Petroleum Technology, Bartlesville, Oklahoma, August 12-13, 1987, ed. by Linville, W., U.S. Department of Energy, Bartlesville; Jack, T. R., Shaw, J. C., Wardlaw, N. C., and Costerton, J. W., 1989 ; Microbial Plugging in Enhanced Oil Recovery, Chapter 7 in Microbial Enhancement of Oil Recovery, ed. by Donaldson E. C., Chilingarian, G. V., and Yen, T. F., Elsevier, Amsterdam, pp.125-149の文献も参照されたい]。
【0012】
しかし、一般に、Leuconostoc mesenteroidesの至適生育温度範囲は20〜30℃と比較的低温であり、さらに、デキストランの生産温度範囲は10〜25℃、至適生産温度範囲は10〜20℃程度の低温域であることから、油層温度が30℃以上の油層に対しては、高浸透性領域の効果的なプラッギングが期待できない。
【0013】
また、Leuconostoc mesenteroidesは、ヘテロ型乳酸菌(乳酸と同時にCO2やエタノール、酢酸を生成する微生物)として知られており、自らが生産した乳酸や酢酸などの有機酸によって著しい生育阻害を受けることから、大量培養に際しては、これらの代謝産物を除去するための培養装置が必要となる。
【0014】
さらに本菌株は、増殖にグルタミン酸やバリンなどのアミノ酸を必要とするため、大量培養に用いる培地も自ずと高価になるなどの問題があった。
【0015】
以上のことから、微生物攻法に利用できる微生物としては、操業コストを可能な限り低減できる微生物、すなわち、簡易な地上施設で、安価な培地を用いて大量培養が可能であり、かつ、油層環境で活発に増殖してバイオフィルムなどの不溶性ポリマーを生産しうる微生物が好ましい。しかしながら、これらの条件を満たす微生物はこれまでに発見されていない。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、より安価なコストで前述する石油採取の微生物攻法に有効に利用できる、新規なバクテリアセルロース産生微生物を提供することを目的とするものである。さらに本発明は、当該微生物を利用したバクテリアセルロースの製造方法、並びにその微生物ならびにそれが産生するバクテリアセルロースを利用した石油の増進回収方法を提供することを目的とするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく日夜鋭意研究を重ねていたところ、通性嫌気性の細菌であって、水に不溶性のバクテリアセルロースを生産できる細菌を発見し、当該細菌が培地として安価な廃糖蜜などを利用することによって大量培養できることを見出し、このような性質等から当該細菌が石油採取の微生物攻法に適して極めて有用な微生物であることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて開発されたものである。
【0018】
すなわち本発明は第一に、下記の(1) 掲げる新規なバクテリアセルロース産生微生物である:
(1) Enterobacter sp. CJF-002 FERM BP-8227 )菌株、または当該菌株の菌学的性質およびバクテリアセルロース産生能を有するその子孫もしくは変異体であるバクテリアセルロース産生微生物。
【0019】
また本発明は第二に、下記(2) (4)に掲げる、上記微生物を利用したバクテリアセルロースの製造方法である:
(2) 上記 (1) に記載するバクテリアセルロース産生微生物を培養し、培養物からバクテリアセルロースを採取回収することを特徴とするバクテリアセルロースの製造方法。
(3) 上記 (1) に記載するバクテリアセルロース産生微生物を単糖類または二糖類の少なくとも1種を含有する液体培地中で培養することを特徴とする(2)記載のバクテリアセルロースの製造方法。
(4) 静置培養法によって培養することを特徴とする(2) 又は (3)に記載のバクテリアセルロースの製造方法。
【0020】
さらに本発明は第三に、上記微生物の石油の増進回収における用途を提供するものである。すなわち、第三の本発明は、下記(5) (6)に掲げる、上記微生物及びそれが産生するバクテリアセルロースを利用した石油の増進回収方法である:
(5) 上記 (1) に記載するバクテリアセルロース産生微生物または当該微生物が産生するバクテリアセルロースを用いることを特徴とする石油の増進回収方法。
(6) 上記 (1) に記載するバクテリアセルロース産生微生物を油層内で増殖させ、バクテリアセルロースを産生させることを特徴とする(5)記載の石油の増進回収方法。
【0021】
本発明の新規微生物を利用したバクテリアセルロースの製造方法は、微生物を利用した従来のバクテリアセルロースの製造方法の欠点を解消するものであって、安価にしかも複雑な操作をすることなく、簡便にバクテリアセルロースが製造できる点で有用な方法である。また本発明の石油増進回収方法は、安価な培地で大量培養でき、嫌気性条件下でも活発に増殖してバイオフィルムなどの不溶性ポリマーを生産する性質を有する本発明の微生物を利用するものであって、当該微生物の性質に基づいて、微生物を予め地上施設で安価な培地で大量培養し、次いで嫌気性の油層環境に導入して該油層環境内で増殖させることによって油層内で不溶性ポリマーを効率よく生産させることによって実施され、安価でしかも水掃攻流路を選択的にプラッキングすることによって優れた石油回収効果が期待できる有用な方法である。
【0022】
【発明の実施の形態】
(1)バクテリアセルロース産生微生物
本発明のバクテリアセルロース産生微生物は、Enterobacter属に属するバクテリアセルロース産生性の細菌であることを特徴とする。
【0023】
本発明が対象とするバクテリアセルロース産生微生物には、Enterobacter属に属する細菌であって、しかもその16S-rRNA遺伝子の塩基配列中に後述する配列表の配列番号1に記載する塩基配列を含有するものが含まれる。尚、当該塩基配列は後述する本発明のバクテリアセルロース産生微生物の性質を損なわないことを限度として1若しくは数個の塩基が欠失、置換または付加されることを何ら妨げるものではない。
【0024】
当該塩基配列はEnterobacter属細菌の16S-rRNA遺伝子の任意箇所に位置することができるが、好ましくは16S-rRNA遺伝子の5’末端から数えて435〜469位に位置することが好ましい。より好ましくは本発明のバクテリアセルロース産生微生物は、Enterobacter属に属する細菌であって、16S-rRNA遺伝子が配列番号2に記載する塩基配列を有するものである。また、当該塩基配列も前記と同様に、本発明のバクテリアセルロース産生微生物の性質を損なわないことを限度として1若しくは数個の塩基が欠失、置換または付加されることを何ら妨げるものではない。
【0025】
また、本発明が対象とするバクテリアセルロース産生微生物には、Enterobacter属に属する細菌であって、下記の菌学的特徴を有するものが含まれる。
A.形態的性質(寒天培地)
(1) 細胞の形と大きさ:桿状、0.5-1.0μm×1.5-3.0μm
(2) 運動性の有無: 有
B.培養的性質:各種培養条件下での生育
(1) 肉汁液体培養:(+)
(2) 好気性条件下での生育(+)
(3) 嫌気性条件下での生育(+)。
【0026】
C.生理学的性質:
(1) グラム染色性: 陰性
(2) O-F試験[Hugh leifson法]:(F)
(3) グルコースからのガスの生産:(+)
(4) インドールの生成:(−)
(5) 硫化水素の生成:(−)
(6) 有機酸の利用: クエン酸 資化性(+)
(7) 色素の生産: (−)
(8) ウレアーゼ: (−)
(9) オキシダーゼ: (−) [シトクロムcオキシダーゼ]
(10) カタラーゼ:(+)
(11) アルギニンジヒドロラーゼ:(+)
(12) リジンジカルボキシラーゼ:(−)
(13) オルニチンデカルボキシラーゼ:(+)
(14) フェニルアラニンジアミナーゼ:(−)
(15) ゼラチン分解性:(−)
(16) マロン酸分解性:(−)
(17) ONPG:(+)
(18) 生育の範囲: 温度;4-45℃/pH;2.2-9.5
(19) L-アラビノースを利用した発酵性:(+)
(20) イノシトール を利用した発酵性: (−)
(21) D-ソルビトールを利用した発酵性:(−)
(22) D-ラムノースからの酸の生成: (+)
(23) D-マンニトールからの酸の生成:(+)
(24) D-アドニトールからの酸の生成:(−)
(25) D-ラフィノースからの酸の生成:(−)
(26) D-スクロースからの酸の生成:(+)
D.その他の特徴的性質: エスクリンの分解 (+)。
【0027】
上記のバクテリアセルロース産生微生物の菌学的性質はEnterobacter cloacaeの菌学的性質と相同性が高い。よって、本発明が対象とする微生物にはバクテリアセルロース生産能を有するEnterobacter cloacaeが包含される。
【0028】
本発明が対象とするバクテリアセルロース産生微生物の具体的な一例として、平成12年3月29日付けで日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に住所を有する通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに、微生物の表示(寄託者が付した識別のための表示)「Enterobacter sp. CJF-002」、受託番号「FERM P-17799」として寄託されているEnterobacter属微生物(以下、単に「CJF-002」ともいう)を挙げることができる。
【0029】
本発明のバクテリアセルロース産生微生物には、上記の微生物を例えばNTG(ニトロソグアニジン)などの変異剤を利用した化学的処理や放射線照射などの各種の物理的処理など、公知の方法によって変異処理することにより創製される各種の変異株が含まれる。変異剤を用いる化学的変異処理方法としては、例えばBio Factors, Vol. 1, p.297-302 (1988)および J. Gen. Microbiol, Vol.135, p.2917-2929(1989) などに記載されている方法を挙げることができる。当業者であればこれらの公知方法に基づいて本発明のバクテリアセルロース産生微生物の変異株、特にCJF-002株の変異株を容易に得ることができる。
【0030】
また、本発明のバクテリアセルロース産生微生物には、本発明の効果を妨げないことを限度に上記菌学的性質並びにバクテリアセルロース産生能を実質的に有する子孫(例えば、CJF-002株の継代培養微生物等)や変異体が包含される。
【0031】
本発明が対象とするバクテリアセルロースには、水可溶性及び水不溶性の別なく、従来公知の又は将来見出され得るバクテリアセルロースが包含され、例えばセルロースおよびセルロースを主鎖とするヘテロ多糖を含むもの、1,2結合、1,3結合及び1,6結合などのα-あるいはβ-結合を有するグルカンを含むものが含まれる。ヘテロ多糖の場合、セルロース以外の構成成分には、特に制限されないが、通常マンノース、フラクトース、ガラクトース、ラムノースなどの六単糖、キシロース、アラビノース等の五単糖、ウロン酸など有機酸などが含まれる。なおこれらの多糖は、単一物質であってもよいし、また2種以上の多糖が水素結合などにより混在していてもよい。
【0032】
これらのバクテリアセルロースは、前述する本発明のバクテリアセルロース産生微生物を培地中で培養することによって生成される。
【0033】
(2)バクテリアセルロースの製造方法
従って、本発明は前述するバクテリアセルロース産生微生物を利用したバクテリアセルロースの製造方法を提供するものである。本発明は、上記微生物を適当な培地で培養し、得られる培養物からバクテリアセルロースを採取回収することによって実施することができる。
【0034】
本発明の方法で用いられる培地は、本発明の微生物がバクテリアセルロースを生成することのできる培地組成を有するものであればよく、各種の合成培地並びに天然培地をいずれも用いることができる。好ましくは単糖類や二糖類などの糖類を含有する液体培地である。かかる糖類としては、グルコース、フルクトース及びガラクトース等の単糖類;シュークロース、マルトース、スクロース及びフラクトース等の二糖類;レバン等の多糖類;マンニトール、ソルビトール及びエリスリット等の糖アルコールを挙げることができる。より好ましくは単糖類または二糖類のいずれか1種の糖を含有する液体培地である。またこれらの糖類に代えて、これらの糖類を有する組成物を用いることもでき、例えば澱粉水解物、シトラスモラセス、ビートモラセス、ケーンモラセス、ビート搾汁、サトウキビ搾汁、柑橘類等の果汁成分を例示することができる。
【0035】
具体的には、炭素源としてグルコース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、エリスリット、グリセリン、エチレングリコール、澱粉、糖蜜、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物、シトラスモラセス、ビートモラセス、ケーンモラセス、ビート搾汁、サトウキビ搾汁、柑橘類等の各種果汁成分、有機酸等を単独または二種以上混合したもの;窒素源としてアンモニウム塩(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなど)、硝酸塩(硝酸ナトリウム等)などの無機性窒素源や、ファーマメディア、ペプトン、大豆粉、肉エキス、酵母エキス、カゼイン、尿素、豆濃などの有機性窒素源を単独または二種以上混合したものを挙げることができる。尚、有機性窒素源として、好適にはBact-Peptone, Bact-Soytone, Yeast-Extract, 豆濃等の有機性含窒素天然栄養源が例示できる。
【0036】
また培地には、必要に応じて、有機微量栄養素としてアミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸などを、また無機塩類としてリン酸塩、鉄塩、マンガン塩、その他の金属塩をそれぞれ単独あるいは2以上併用して用いることができる。
【0037】
本発明では、天然培地と人工培地を併用することもでき、これら培地中の各成分の組成割合および培地に対する菌体の接種(量、方法)などは、微生物の使用目的や培養条件などに応じて当業者が適宜選択し得るものである。
【0038】
本発明のバクテリアセルロース産生微生物の培養は、上記組成を有する、予め高圧蒸気滅菌もしくは濾過滅菌した培地あるいは無処理の培地に、本発明の微生物を接種することによって開始される。
【0039】
本発明で用いられるバクテリアセルロース産生微生物は通性嫌気性細菌である。このため本発明の方法は、好気性もしくは嫌気性条件下での培養であってもセルロース生産性に影響を及ぼさず、バクテリアセルロースの生産コストを著しく軽減できることを特徴の1つとするものである。
【0040】
従って、本発明の微生物の培養並びに該培養によるバクテリアセルロースの製造は、培養形式に制限を受けず、原則的に微生物の培養に用いられる公知の方法を広く用いて実施できる。例えば静置培養、振盪培養もしくは通気攪拌培養などの培養方法がいずれも使用できる。好ましくは静置培養である。なお、攪拌培養とは、培養液を攪拌しながら行なう培養法であり、例えば、簡便には、ジャーファーメンターおよびタンクなどの攪拌槽;ならびにバッフル付きフラスコ、坂口フラスコおよびエアーリフト型の攪拌槽;発酵ブロスのポンプ駆動循環などの手段や装置を任意に選択して用いることによって実施できる。なおこれらは1つ若しくは2種以上を組み合わせて使用できる。また攪拌培養は、必要に応じて、攪拌と同時に通気を行ないながら実施することもできる。通気は、例えば空気などの酸素を含有するガス、ならびに例えばアルゴンおよび窒素などの酸素を含有しないガスのいずれを用いて行うことができ、これらガスは培養系の条件に合わせて当業者により適宜、選択できる。また、培養操作法においても公知の方法、例えば回分発酵法、流加回分発酵法、反復回分発酵法および連続発酵法などが使用できるが、さらにこれら培養形式、培養操作方法に適宜、修正又は変更を加えた方法も使用することもできる。
【0041】
培養時の培地のpHも特に制限されず、酸性領域〜アルカリ性領域の広い範囲で実施できるが、通常pH2.2〜9.5、好ましくはpH5.5〜9.3の範囲である。また培養温度は、本発明の微生物が良好に生育する温度、好適にはバクテリアセルロースが効率よく産生される温度が望ましく、通常4〜45℃、望ましくは25〜35℃付近の温度が好ましい。
【0042】
上述した各種の培養条件は、使用する微生物の種類や特性並びに外部条件等に応じて適宜変更でき、各種の状況に応じて、上記の範囲から最適条件を適宜選択調製することができる。
【0043】
培養によって培地中にに生成、蓄積されるバクテリアセルロースはそのまま回収してもよく、また培養物中の菌体を始めとするバクテリアセルロース以外の物質を除去する処理を施すこともできる。不純物を取り除く方法としては、特に制限はされないが、水洗処理、加圧脱水処理、希酸洗浄処理、アルカリ洗浄処理、次亜塩素酸ソーダや過酸化水素などの漂白剤による処理、リゾチームなどの菌体溶解酵素による処理、ラウリル硫酸ソーダやデオキシコール酸などの界面活性剤による処理、常温から200℃の範囲での加熱洗浄処理などの方法が例示でき、これらは単独および併用して行うことができる。
【0044】
培養物からのバクテリアセルロースの分離回収は、発酵生産物を回収採取する一般的な方法に準じて行うことができる。例えば、溶媒抽出、並びにゲルろ過、分配及び吸着クロマトグラフィーなどの手段を単独又は2種以上、任意の順序で組み合わせて用いることができる。例えば、バクテリアセルロースが水溶解性のものである場合は、該セルロースは培養液中に存在するので、常法に従って濾過や遠心分離などの方法で菌体を含む固形物を除去して培養濾液を取得し、得られた濾液から常法に従って、バクテリアセルロースを単離する。またバクテリアセルロースが水不溶性のものである場合は、該セルロースは培養物の不溶成分中(固形分)に存在するので、常法に従って濾過や遠心分離などの方法で菌体を含む固形物を取得し、得られた固形物の中から比重、分子量や溶解性等の違いを利用して常法に従ってバクテリアセルロースを単離する。なお、単離されたバクテリアセルロースは必要に応じて精製することもでき、かかる精製は溶媒抽出法やカラムクロマトグラフィーなどの常法に従って行うことができる。
【0045】
なお、生成されたバクテリアセルロースの確認は、後述する実施例において詳述するように、常法に従って糖成分の組成を分析したり、糖成分の結合様式を分析することによって行うことができる。
【0046】
(3)石油増進回収方法
本発明は、また前述するバクテリアセルロース産生微生物並びに該微生物によって産生されるバクテリアセルロースを利用する石油増進回収方法である。
【0047】
本発明の石油増進回収方法は、具体的には、本発明の微生物を油層に圧入して該油層内で増殖させてバクテリアセルロースを産生させることを特徴とするものであり、油層内で産生されたバクテリアセルロースによって高浸透性領域が閉塞されることによって、効率的なプラッキングを可能とし、水攻法の掃攻効率の改善並びに石油の回収の高率化を図るものである。
【0048】
従って、本発明で用いられる方法は、本発明の微生物を油層内で増殖させて当該油層内でバクテリアセルロースを産生させる方法を含むものであればいかなる方法でもよい。
【0049】
例えば本発明の石油増進回収方法として、具体的には、油田に建設された地上施設で予め前培養された本発明の微生物を含む培養液を、単独あるいはバクテリアセルロースの生産に必要若しくは有用な培地成分とともに、生産井から油層内に圧入し、次いで生産井の稼働を一定期間停止して、該油層内で微生物の増殖およびバクテリアセルロースの生産を行ってバクテリアセルロースを油層内の高浸透性領域に導出させて閉塞し、引き続き生産井を再稼働することによって石油を回収する方法を挙げることができる。また、他の方法として、地上施設で予め前培養された本発明の微生物の培養液を、単独あるいはバクテリアセルロースの生産に必要若しくは有用な培地成分とともに、圧入井から油層内に連続的に圧入し、圧入した流体が油層内の高浸透性領域を通過して生産井に到達するまでの間に、該高浸透性領域内で微生物を増殖させ且つバクテリアセルロースを生産させて、バクテリアセルロースを高浸透性領域に導出して閉塞させ、次いで常法の水攻法に従って石油を回収する方法などを挙げることができる。
【0050】
本発明の石油増進回収方法に用いられるバクテリアセルロース産生微生物は、前述する各種のEnterobactorに属する微生物の中でも、水不溶性のバクテリアセルロースを産生する微生物であることが好ましい。より好ましくはCJF-002株である。
【0051】
なお、当該方法において、本発明の微生物は、バクテリアセルロースを効率的に産生できる菌体量を確保するために、また産生油層内での微生物の増殖及びバクテリアセルロースの産生効率を上げるために、前述するように油層内に入れる前に予め地上施設で前培養することが望ましい。かかる前培養に用いられる培地や培養条件は、当該微生物が増殖できる培地成分及び培養条件であれば特に制限を受けないが、地上施設から油層内への送液ラインなどの閉塞トラブルを考慮すると、バクテリアセルロースの生産が抑制される培地若しくは培地条件であるか、若しくは塊状のバクテリアセルロースの生産が抑制される薬剤を添加した培地等を用いることが好ましく、例えば、本発明の微生物の増殖のみをもたらす炭素源を含有する培地や糖濃度の低い培地の使用、低温条件下での培養、またはNaClあるいはセルラーゼなどのバクテリアセルロースの塊化を抑制する薬剤を添加した培地などが例示できる。
【0052】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例等に何ら制されるものではない。
実施例1:不溶性ポリマー産生微生物の単離
微生物攻法に利用する微生物は、嫌気性条件である油層内で確実に増殖しうるものが望ましく、さらに微生物による選択的なプラッギングを目的とした攻法に対しては、油層環境下でバイオフィルムなどの不溶性のポリマーを生産するものであることが望ましい。
【0053】
そこで、中国石油天然気株式有限公司吉林石油分公司(中華人民共和国吉林省松原市郭爾羅斯大路76號)の扶余油田から油層岩を採取し、これを菌分離用試料とした。具体的には、回収した油層岩のホールコア(直径約11cm、長さ約17cm)を鉈を用いて破砕し、その直後に、予めピック部を火炎滅菌しておいたピック型ハンマーにて、破砕したコアの中心部分から小片を掻き落としてこれを菌分離用試料として、滅菌済みのシャーレに封入した。
【0054】
次いで得られた菌分離用試料から目的の微生物を単離した。具体的には、上記試料約2gを滅菌した乳鉢を用いて粒径が約0.5mm程度になるまで粉砕し、得られた油層岩粉末に滅菌水5mlを加えて滅菌水中に懸濁させた後、超音波処理(1分照射→1分静置)を10サイクル繰り返し、微生物を浮遊させた。さらに、これらの微生物懸濁液を高圧蒸気滅菌した寒天培地に塗布し、30℃で菌体の十分な増殖が目視で確認できるまで嫌気環境下で培養を継続した。なお、上記寒天培地として、中国産ビートモラセス(組成を表1に示す)を4%(v/v)の割合で含む水溶液に寒天を15g/lの割合で加えて調製したものを使用した。
【0055】
【表1】
Figure 0003896564
【0056】
また、上記培養の嫌気環境は嫌気培養システム(Becton Dickinson and Company社製)および添付のプロトコルに従って構築した。
【0057】
以上の分離手順で、菌分離用試料から約47株の微生物が分離され、そのうちの2株がコロニー周辺に顕著な粘性物質を生産するのが確認された。次にこれらの分離株を、4%(v/v)中国産ビートモラセス含有水溶液を高圧蒸気滅菌して調製した液体培地に接種し、気相部を窒素で3分間置換して培養系内を嫌気環境とした後、30℃で1日間静置培養して、培養液中への不溶性ポリマーの生産状況を指標として(目視)、不溶性ポリマーを形成する菌株を単離した。当該菌は顕微鏡観察やその菌体の大きさから、細菌であると認められた。
【0058】
この菌株を、後述する菌学的特徴に基づいてEnterobacter属細菌(Enterobacter sp. CJF-002)と命名し、平成12年3月29日に茨城県つくば市東町1丁目1番3号に所在の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した(受託番号 FERM P-17799)。以下実施例において当該菌を単に「CJF-002株」と称する。
【0059】
実施例2:菌学的性質(形態、生理学的性質)
実施例1にて単離されたCJF-002株の菌学的位置づけを行うために、CJF-002株の形態的性質、培地における生育状態および生理学的性質について分析した。
A.形態的性質
寒天培地を用いて、30℃で24時間の培養条件下で生育した細菌について、次の形態学的性質が認められた。
【0060】
(1) 細胞の形:桿状
(2) 細胞の大きさ:幅0.5-1.0μm、長さ1.5-3.0μm(光学顕微鏡観察)
(3) 運動性の有無:有
(4) コロニーの色:白色
(5) コロニーの形状:皺状の歪つな形状
B.培養的性質(培地における生育状態)
(1) 肉汁液体培養:(+)
(2) 好気性条件下での生育:(+)
(3) 嫌気性条件下での生育:(+)。
【0061】
C.生理学的性質
CJF-002株の生理学的性質の決定には、ブドウ糖発酵性桿菌の同定キットであるIDテスト・EB-20(日水製薬製)を用いた。具体的には、高圧蒸気滅菌したNutrient broth(Difco社製)液体培地に1白金耳のCJF-002株を接種した後、30℃で一夜静置培養して前培養液を得た。この前培養液をキットに添付のプロトコールに従って処理し、生理学的性質に関する種々の測定を行った。結果を以下に示す。
【0062】
(1) グラム染色性: 陰性
(2) O-F試験[Hugh leifson法]:(F)
(3) グルコースからのガスの生産:(+)
(4) インドールの生成:(-)
(5) 硫化水素の生成:(-)
(6) 有機酸の利用: クエン酸 資化性(+)
(7) 色素の生産: (-)
(8) ウレアーゼ: (-)
(9) オキシダーゼ: (-)[シトクロムcオキシダーゼ]
(10) カタラーゼ:(+)
(11) アルギニンジヒドロラーゼ:(+)
(12) リジンジカルボキシラーゼ: (-)
(13) オルニチンデカルボキシラーゼ:(+)
(14) フェニルアラニンジアミナーゼ:(-)
(15) ゼラチン分解性:(-)
(16) マロン酸分解性:(-)
(17) ONPG:(+)
(18) 生育の範囲: 温度;4-45℃/pH;2.2-9.53
(19) L-アラビノースを利用した発酵性:(+)
(20) イノシトールを利用した発酵性:(-)
(21) D-ソルビトールを利用した発酵性:(-)
(22) D-ラムノースからの酸の生成:(+)
(23) D-マンニトールからの酸の生成:(+)
(24) D-アドニトールからの酸の生成:(-)
(25) D-ラフィノースからの酸の生成:(-)
(26) D-スクロースからの酸の生成:(+)
D.その他の特徴的性質: エスクリンの分解 (+)。
【0063】
上記で得られたCJF-002株の生理学的性質をBergey's Manual of Systematic Bacteriology[Vol.1(1984), Vol.2(1986), Vol.3(1989), Vol.4(1989), Williams & Wilkins, Baltimore]に記載される種々の微生物の諸性質と対比したところ、本発明のCJF-002株は、これまでに報告されているEnterobacter 属に属する細菌の生理学的性質と最もよく一致していた。
【0064】
実施例3:菌学的性質(化学的性質)
実施例1で得られたCJF-002株の菌学的位置づけを遺伝子工学的側面から特徴付けるために、CJF-002株の16S-rRNA遺伝子のクローニング、及びその塩基配列の決定(解析)を行った。
(1)CJF-002株が保有する遺伝子のクローニング
鋳型DNAには、InstaGene Matrix法[Lamballerie et al., A one-step microbial DNA extraction method using "Chelex 100" suitable for gene amplification. Res Microbiol 143: 785-790 (1992)] を用いて調製したCJF-002株染色体DNAを用いた。そして、上流側プライマーに、5'-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3'(配列番号:3)を、下流側プライマーに、5'- AAAGGAGGTGATCCAGCC-3'(配列番号:4)のプライマーを用い、Taq DNA ポリメラーゼ(宝酒造社製)でPCR増幅した。PCRにおける変性反応、アニーリング反応及び伸長反応はそれぞれ94℃で1分、52℃で2分及び72℃で2分の条件で行い、かかる反応サイクルを30回繰り返した。PCR増幅断片をpMOS Blue T-vector Kit (Amersham International plc, 製)を用いてプラスミドベクターにクローニングした。当該組み換えプラスミドは、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて大量調製した。宿主菌として、E. coli JM109[recA1, endA1, gryA96, thi, hsdR17, supE44, relA1, △(lac-proAB),F'(traD36, proAB+, lac1y, lacZ △ M15)]を用いた。当該宿主大腸菌の形質転換は、Sambrookら[Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (1989)]の方法に従った。なお、培地はL培地(トリプトン10 g/l、酵母エキス 5 g/l、NaCl 5 g/l、グルコース 1 g/l、pH 7.2)を用い、抗生物質として100μg/mlアンピシリンを用いた。
(2)CJF-002株が保有する遺伝子の解析
CJF-002株のクローンが保有する遺伝子の塩基配列を、自動解析装置ABI DNA Sequencer (Perkin-Elmer Co.製)とABI PRISM Dye Cycle Sequencing Kit(Perkin-Elmer Co.製)を用いて解析し、微生物分類の重要な指標の一つである、16S-rRNA遺伝子の塩基配列を解読した。当該遺伝子配列を配列番号:2に示す。この配列を基に、Gene Bank等の遺伝子データベースに登録された他の微生物が保有する16S-rRNA遺伝子の配列と比較して両者の相同性をみた。結果を表2に示す。なお、これらの相同性解析にはBLAST search program[Altschul et al., Basic local alignment search tool. J. Mol. Biol., 215, 403-410 (1990)]を使用した。
【0065】
【表2】
Figure 0003896564
【0066】
この表からわかるように、CJF-002株の16S-rRNA遺伝子の塩基配列はEnterobacter属細菌の16S-rRNA遺伝子の塩基配列と98%以上の高い割合で一致していた。特にEnterobacter cloacaeの16S-rRNA遺伝子の塩基配列と極めて高い割合で一致していた。
【0067】
以上の実施例2及び3で示す菌学的性質(生理学的性質等、化学的性質)から、本発明のCJF-002株はEnterobacter属に最も近縁にある細菌であると判断された。
【0068】
実施例4:微生物産生バクテリアセルロースの評価
実施例1で単離したCJF-002株に関して、当該微生物が生産する不溶性ポリマー物質を以下の手順に従って評価した。
【0069】
まず、水で4%(v/v)に希釈した中国産ビートモラセス液体培地と2.0%のスクロースを添加したPolysaccharide-production medium [Akihiko Shimada, Viva Origino, 23, 1, 52-53, 1995](以下「PPM培地」と称す)の2種類の培地を基本培地とし、これらを高圧蒸気滅菌処理した培地30mlをそれぞれ50ml容のバイアル瓶に分注して、CJF-002株を接種し、30℃で1日間静置培養した。なお、上記CJF-002株には、予め高圧蒸気滅菌したNutrient broth(Difco社製)液体培地を用いて30℃で一夜静置培養したもの(前培養物)を用いた。
【0070】
次いで、上記2種類の基本培地中でCJF-002株が生産する不溶性ポリマーについてそれぞれ(1)糖成分の組成、及び(2)糖成分の結合様式を分析した。なお、これらの分析は、前記培養により得られた不溶性ポリマーを500mlの滅菌蒸留水で数回水洗し、次いで加熱洗浄して得られた不溶性ポリマーの凍結乾燥品を用いて行った。
【0071】
(1)糖成分の組成、
糖成分の組成分析は、前記不溶性ポリマーの凍結乾燥品を糖成分が含まれていないことを予め確認した市販のセルラーゼで加水分解し、次いでこれらの加水分解物について、以下に示す条件で中性糖およびウロン酸の分析を行うことにより実施した。尚、上記不溶性ポリマーは、トリフルオロ酢酸(TFA)、塩酸及び硫酸などの有機酸や無機酸では加水分解され難く、加水分解率はそれぞれ12-13%、5-9%及び20-33%程度であった。一方、セルラーゼ等による酵素分解処理では65-75%の分解率が得られた。なお、当該ポリマーの分解性はその生産条件、すなわち、生産に使用した培地の違いより影響を受けなかった。
【0072】
(i) 中性糖の分析条件
HPLC装置 : LC-9A(島津製作所製)
カラム : TSK-gel Sugar AXG(φ4.6 mm×150 mm、東ソー社製)
使用溶離液 : 0.5 mMのホウ酸カリウム緩衝液(溶離液A)
流速 : 0.4 ml/min
ポストカラム標識: 1%アルギニン及び3%ホウ酸を用いて、流速を0.5ml/min、反応温度を150℃とした。
【0073】
(ii) ウロン酸の分析条件
HPLC装置 : LC-9A(島津製作所製)
カラム : Shimpal ISA-07(φ4.6 mm×250 mm、島津製作所製)
使用溶離液 : 0.5 mMのホウ酸カリウム緩衝液(溶離液A)
流速 : 0.8 ml/min
ポストカラム標識: 1%アルギニンおよび3%ホウ酸を用い、流速を 0.8ml/min、反応温度を150℃とした。
【0074】
4%(v/v)モラセス培地で得られた不溶性ポリマーとPPM培地(2%スクロース含有)で得られた不溶性ポリマーについて、各測定条件によって得られた糖成分の組成比を表3に示す。
【0075】
【表3】
Figure 0003896564
【0076】
中性糖の分析において、主たるピークの保持時間は市販のグルコースの標品の保持時間と一致し、その組成比は前記2種の液体培地で生産された不溶性ポリマーはいずれも97%以上であった。またグルコース以外の糖成分としては、マンノース、アラビノース、ガラクトースが1%程度かそれ以下の濃度で検出された。一方、グルクロン酸やガラクチュロン酸などのウロン酸はいずれも検出されなかった。
【0077】
(2)糖成分の結合様式
不溶性ポリマーの糖成分の結合様式は、ガスクロマトグラフィー(GC)およびガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)を用いたメチル化分析で得られた結果から推定した。
【0078】
具体的には、まず前記不溶性ポリマーの凍結乾燥品について、粉末NaOH法によってその糖成分を完全メチル化し、生成したメチル化多糖をTFAにより加水分解して単糖にした後、無水酢酸-ピリジン溶液にて還元アセチル化して部分メチル化糖アルコールのアセチル誘導体(部分メチル化アルジトールアセテート)の形にした。これを下記の条件によるGC分析およびGC−MS測定に供した。
【0079】
(i) GC分析条件
GC装置 : HP5890A(Hewlett-Packerd社製)
カラム : SPB-5(fused silica capillary、25m×0.25mm I.D. スペルゴジャパン社製)
キャリアーガス: He
検出モード : FID。
【0080】
(ii) GC−MS測定条件
GC装置および質量分析部分: JMS DX-303(日本電子社製)
イオン化 : EI法。
【0081】
中国産ビートモラセス液体培地で生産された不溶性ポリマーのメチル化分析の結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
Figure 0003896564
【0083】
試料の部分メチル化アルジトールアセテートのガスクロマトグラムにおいて、主たるピークのマススペクトルは、1,4,5-トリ-O-アセチル-2,3,6-トリ-O-メチルグルシトールの標準マススペクトルと一致し、1,4結合の結合様式が推定された。さらに、ガスクロマトグラムにおいて得られた各ピークとの面積比から、主たるピークの組成比は、非還元末端グルコース(1,5-ジ-O-アセチル-2,3,4,6-テトラ-O-メチルグルシトール)を1とした場合29.22であり、かつ、他の1,3結合や1,6結合などの組成比が0.5以下であったことから、前記不溶性ポリマーの主要な結合様式は1,4結合であると推定された。以上のことから、前記不溶性ポリマーは1,4結合のグルコースが主成分であることが明らかになった。
【0084】
さらに、前述するように、当該ポリマーは有機酸や無機酸では加水分解され難いが、グルコースのβ1,4結合を選択的に分解する基質特異性を有するセルラーゼによっては比較的容易に分解されるといった性質を有しており、かかる性質を考え合わせると、前記不溶性ポリマーはβ1,4結合のグルコースを主骨格とするセルロースかあるいはそれに極めて類似した物質であると判断された。
【0085】
なお、当該ポリマーの酸やセルラーゼによる分解性、および糖成分の組成などは、当該ポリマーの生産条件、すなわち生産に使用した培地の違いによって影響を受けない。このことから、PPM培地や中国産ビートモラセス液体培地で生産された不溶性ポリマーは同一かあるいは極めて類似した物質と推定される。これらのことから、当該不溶性ポリマーの生産にはPPM培地の様な人工培地だけでなく、製糖工場からの廃棄物であるモラセスなどの安価な天然物質を培地として利用できるものと考えられる。
【0086】
実施例5:微生物のモラセス培地での増殖性及びバクテリアセルロースの生産性
実施例1で単離したCJF-002株に関して、安価なモラセス培地での増殖性およびバクテリアセルロースの生産性を以下の手順に従って評価した。
【0087】
まず、前培養として、CJF-002株を、高圧蒸気滅菌した2mlの4%(v/v)中国産ビートモラセス液体培地で30℃で一夜静置培養した。続いて本培養として、高圧蒸気滅菌した0.1および1%(v/v)中国産ビートモラセス液体培地30mlを用いて、CJF-002株の初期濃度を2.2×104 および2.2×102 CFU/mlとして30℃で72時間静置培養を行った。培養期間中、培養から4、6、8、10、12、14、16、20、24、28、32、36、40、44、48、56、64及び72時間後に培養物を採取し、各採取ポイントでのCJF-002株の増殖度を下記(1)に示す直接計数法を用いて評価した。また同時に、培地中のバクテリアセルロース濃度を下記の(2)の手順に従って測定して、バクテリアセルロースの生産性を評価した。
【0088】
(1) CJF-002株の増殖度の測定
CJF-002株は不溶性のバクテリアセルロースを生産し、またそのバクテリアセルロース内にも多数の菌体が存在している。このため、次の分析方法により系内のCJF-002株の総菌数を測定した。すなわち、まず、採取した培養液に500mMリン酸緩衝液(pH5.5)、0.2%ナリジクス酸、およびセルラーゼ(糖成分不含)(1%溶液)を添加し、30℃で10時間インキュベートする。ポリマーの分解を目視で確認したら、その溶液に8%パラホルムアルデヒドを添加して、菌体細胞を固定化する。次いで、固定化菌体溶液をブラックフィルターでろ過し、2mlのPBS(20mMリン酸buffer+130mM NaCl, pH7.4)で洗浄した後、0.01%アクリジンオレンジ溶液(0.01M Tris-HCl, pH7.4)で5分間染色し、検鏡する。
(2) バクテリアセルロース濃度の測定
採取した培養液に3倍量のアセトンを加えて、ポリマー成分を析出させ(アセトン抽出)、遠心処理によってポリマー成分を回収した後、常温で一晩乾燥し、常法のphenol-sulfuric acid reaction法にて糖濃度を測定する。
【0089】
図1に、CJF-002株の増殖性(図A)およびバクテリアセルロースの生産性(図B)の経時変化を示す。これから、CJF-002株の初期濃度が104 CFU/mlの場合、培養10時間後に対数増殖期から定常期に移行し、CJF-002株は極めて早期に増殖することが判明した。増殖速度はモラセス濃度の違いによって左右されないが、最大増殖濃度はモラセス濃度に依存し、中国産ビートモラセスの濃度が1%の場合には約109 CFU/ml、0.1%の場合には約108 CFU/mlであった。CJF-002株の初期濃度が102 CFU/mlの場合は、培養14時間後に対数増殖期から定常期に移行し、初期濃度が104 CFU/mlの場合よりも4時間程度後期にシフトした。この場合の増殖速度も中国産ビートモラセスの濃度の違いによって左右されず、最大増殖濃度も初期濃度が104 CFU/mlの場合と同様な結果となった。これらの結果から、CJF-002株の増殖速度を計算すると対数増殖期の倍加時間(Doubling time)はおよそ40分であることが判明した。
【0090】
バクテリアセルロースの生産性については、CJF-002株の初期濃度を104 CFU/ml、中国産ビートモラセスの濃度を1%とした場合、培養開始後約14時間までに0.2-0.25 g/lものバクテリアセルロースが生産され、その後はほぼ一定になることがわかった。また、CJF-002株の初期濃度が102 CFU/mlの場合には、培養開始後約16-20時間までに同濃度のバクテリアセルロースが生産された。中国産ビートモラセスの濃度が0.1%の場合も、前記の結果と同様な傾向が見られたが、バクテリアセルロースの生産量は大きく低下し、最大でも0.05g/l以下であった。
【0091】
得られたCJF-002株の増殖曲線とバクテリアセルロースの生産曲線との対比により、CJF-002株によるバクテリアセルロースの生産は、その増殖に約4時間遅れて進行することが判明した。
【0092】
実施例6:バクテリアセルロース生産性に対するモラセス濃度の影響
次に、CJF-002株のバクテリアセルロースの生産性に対するモラセス濃度の影響について評価した。まず、CJF-002株を高圧蒸気滅菌した2mlの4%(v/v)中国産ビートモラセス液体培地を利用して30℃で一夜静置培養して前培養液を調製し、該前培養液を用いて本培養を行った。本培養には、高圧蒸気滅菌した0.001、0.01、0.1、1、5および10%の中国産ビートモラセス液体培地30mlを用い、CJF-002株の初期濃度を1.0×106 CFU/mlとして30℃で24時間、静置培養した。培養終了後、CJF-002株の生菌数をNutrient broth(Difco社製)寒天培地を用いたCFU法(colony forming unit)により測定し、バクテリアセルロースの生産性を、培養液から取り出したバクテリアセルロースの乾燥重量を測定することにより評価した。
【0093】
結果を図2に示す。図2に示すように、CJF-002株は中国産ビートモラセスの濃度が0.1%(v/v)以上で増殖するが、バクテリアセルロースの生産は1%以上の中国産ビートモラセス培地を用いた場合において活発化し、10%濃度の液体培地を用いた場合には、0.4g/l以上ものバクテリアセルロースが生産された。これらの結果から、バクテリアセルロースの生産性はモラセス濃度の上昇に依存して増大すること、並びにCJF-002株は安価なモラセスを利用して極めて短時間に大量のバクテリアセルロースを生産できることが判明した。
【0094】
実施例7:バイオフィルムの形成能力
実施例1で単離したCJF-002株について、油層岩に対するバイオフィルムの形成能力を評価した。
【0095】
具体的には、前記扶余油田から採取した後、高圧蒸気滅菌した油層岩小片(厚さ3mm、直径37mm、浸透率[Kair]607md)を1Lビーカー内に垂直に固定し、そこに4%(v/v)の中国産ビートモラセスと合成油層水成分を混和した液体培地500mlを注ぎ込んで、ここに実施例6と同様な手法により調製したCJF-002株の前培養液を初期濃度が1.0×106 CFU/mlになるように接種した。
【0096】
なお、上記合成油層水は、中国石油天然気株式有限公司吉林石油分公司の扶余油田に位置する生産井から採取した、原油とともに生産される産出流体の化学成分分析の結果に基づいて決定された、NaCl;1210 mg/l、KCl;23 mg/l、NaHCO3;2820 mg/l、CaCl2;140 mg/l、MgCl2;253 mg/l、FeCl3;2 mg/l、KH2PO4;10 mg/l、NaHSO4;3 mg/lの組成からなるものである [米林英治, 田口充, 藤原和弘, 吉田信一郎, 榎本兵治, 微生物攻法に関する研究の現状とフィールドテストへの展望, 石油技術協会誌, Vol. 61 (6), 487-493(1996)、Yonebayashi, H., Ono, K., Enomoto, H., Chida, T., Hong, C. X., Fujiwara, K., Microbial Enhanced Oil Recovery Field Pilot in a Waterflooded Reservoir, Society of Petroleum Engineers, 38070(1997)なども参照されたい]。
【0097】
また、より油層環境に近い条件下でCJF-002株のバイオフィルムの形成能力を把握するため、およびCJF-002株を接種した前記液体培地の入った1Lビーカーを嫌気ジャー(Becton Dickinson and Company,社製)内に静置して油層内に類似した嫌気性の環境を構築するとともに、1Lビーカー内に撹拌子を入れ、約1.7cm/secの回転流速で培地を撹拌することにより、油層内の流体の流れを加速試験的に再現した。さらに培養温度は前記扶余油田の油層温度である30℃とし、36時間培養を行った。
【0098】
培養終了後、培養液中のCJF-002株の生菌数をNutrient broth(Difco社製)寒天培地を用いたCFU法により測定し、油層岩表面へのバイオフィルムの形成状況を目視観察により評価した。
【0099】
図3のBは、油層岩表面にバイオフィルムが形成されている状態を示す図面であり、この図からわかるようにバイオフィルムは油層岩全体を覆い尽くしていた。また培養液中のCJF-002株の濃度は2.2×108 CFU/mlであり、初期濃度よりも2オーダー以上高濃度であったことから、油層岩表面に形成されたバイオフィルムはCJF-002株が増殖することにより生産したバクテリアセルロースに由来するものと推定された。これらの結果から、CJF-002株は油層環境条件下で増殖し、強固なバイオフィルムを油層岩表面に形成することが判明した。また、バイオフィルムの形成に要する時間も短時間であることから、CJF-002株は油層内で早期に高浸透性領域を閉塞しうるものと考えられた。このことからCJF-002株は、微生物攻法の短時間処理化乃至は効率化に多いに寄与するものであり、微生物攻法の原料微生物として使用することにより圧入操業コストを低減し得ることを示唆するものである。
【0100】
実施例8:原油増進回収能力
実施例1で単離したCJF-002株に関して、原油を飽和させた油層岩を用いて原油増進回収能力を評価した。まず、中国石油天然気株式有限公司吉林石油分公司の扶余油田から油層コアを採取し、深度359.2mのコア(直径約11cm、長さ約17cm)からプラグコア(直径約3.7cm、長さ約11cm、孔隙容積[PV];23.7ml、孔隙率[φ];29.4%、浸透率[Kair];1051md)を準備した。次いでプラグコアを180℃で3日間乾熱滅菌し、実施例7に記載の合成油層水に浸漬して、真空ポンプを用いて一昼夜脱気することにより、プラグコア内の孔隙部分を合成油層水で飽和した。続いて、当該プラグコアをコアホルダーに装着し、121℃で240分滅菌した後、水浸透率を測定し、約5.3PVの扶余油田産の原油を60 ml/minの流速でプラグコア内に送液して、プラグコアの孔隙部分を原油で飽和させた。そして、前記合成油層水を40 ml/minの流速で再度送液して、水攻法により回収されうるプラグコア内の原油を全て回収することにより、水攻末期の油層を再現した(水飽和率[%PV];56.9%、油飽和率[%PV];31.6%、浸透率[Kwater];208.0md)。
【0101】
次に、これに引き続いて、CJF-002株の圧入を行った。まず、CJF-002株を高圧蒸気滅菌した0.1%(v/v)の中国産ビートモラセス、合成油層水成分および0.005%のセルラーゼ(糖成分不含)をそれぞれ混和した液体培地を使用して、30℃で24 時間培養した。次いで、当該培養液を合成油層水に1:100の割合で混和し、プラグコア内に10ml/minの流速で1日間圧入した。このときのCJF-002株の圧入濃度はおよそ106 CFU/mlであった。なお、CJF-002株の圧入にあたっては、CJF-002株の圧入溶液を適当容積のボトルに入れておき、これを送液ポンプで順次プラグコア内に送液するという手順で行ったが、その際、CJF-002株がプラグコア内に圧入される前にボトル内あるいは送液ライン内でバイオフィルムを生産するのを抑止するため、ボトルおよび送液ラインの温度を15℃に保持した。そして、前記手順で調製した新鮮なCJF-002株の培養液に、高圧蒸気滅菌した0.1%(v/v)の中国産ビートモラセス、合成油層水成分および0.01%のセルラーゼ(糖成分不含)をそれぞれ混和したものを栄養源溶液として、前記CJF-002株の圧入と同条件でプラグコア内に圧入し、さらに同条件で合成油層水を圧入した。
【0102】
本実験では、実験期間を通じて回収された溶出液について、総菌体濃度をNutrient broth(Difco社製)寒天培地を用いたCFU法により測定し、さらにCJF-002株の生存濃度を本発明者らが以前に確立した遺伝子工学的手法を用いてモニタリングした [Fujiwara, K., Tanaka, S., Ohtsuka, M., Ichimura, N., Yonebayashi, H., Hong, C. X., Enomoto, H., Evaluation of the Use of Amplified 16S rRNA Gene-Restriction Fragment Length Polymorphism Analysis to Detect Enterobacter cloacae and Bacillus licheniformis for Microbial Enhanced Oil Recovery Field Pilot, Sekiyu Gakkaishi, 42 (5), 342-351 (1999)も参照されたい]。また実験期間を通じて、回収された原油量およびプラグコア内の圧力変化(各種溶液の圧入圧力と溶出圧力との差圧)を評価するとともに、実験終了後のプラグコア内に生存するCJF-002株の濃度をCFU法および上記遺伝子工学的手法を用いて測定し、またバイオフィルム形成の有無を実施例5に記載の方法により評価した。
【0103】
結果を図4に示す。図4に示すように、栄養源溶液の圧入直後から、溶出液中のCJF-002株の濃度、並びに圧入圧力と溶出圧力との差圧が上昇した。これは、栄養源溶液の圧入によりCJF-002株がプラグコア内で増殖し、それに伴ってバイオフィルムが形成されたことを示唆する結果と考えられる。また、前記差圧の上昇に少し遅れて原油回収率が上昇し、最高で25%もの原油回収率が観測されたが、この結果は、プラグコアのなかでも浸透性の高い領域がバイオフィルムにより閉塞され圧入流体の流路が変化して、圧入流体の水/油の置換効率が改善されたことによると考えられる。さらに、圧入実験終了後、プラグコア内に生存するCJF-002株の濃度を測定したところ、プラグコア1g(乾燥重量)あたり107 CFUのCJF-002株がプラグコア内にほぼ均一に分布していることが判明し、またバイオフィルムの形成も確認された。
【0104】
以上のことから、CJF-002株によれば、嫌気性環境である油層環境下で増殖し、バイオフィルムを形成することができ、よって形成されたバイオフィルムが油層の高浸透性領域を閉塞して、優れた原油増進回収効果をもたらしうることが示唆された。
【0105】
実施例9:実油層における原油増進回収効果
実施例1で単離したCJF-002株に関して、実油層における原油増進回収効果を評価した。実験は中国石油天然気株式有限公司吉林石油分公司の扶余油田に位置する生産井#22-264(実油層)に対して行い、圧入方法として「圧入→密閉(生産中止)→生産再開」のプロセスを一巡させる、1サイクルハフ&パフ攻法を採用した。以下にCJF-002株の圧入実験の手順を示す。
【0106】
まず、高圧蒸気滅菌した液体培地(1L)(1%中国産ビートモラセスおよび0.01%のセルラーゼ含有)を用いてCJF-002株を30℃で一夜静置培養し、得られた前培養液を前記と同様な培地10L(8本)に接種して、さらに30℃で一夜静置培養することにより、圧入に使用するCJF-002株の培養液を得た。
【0107】
次に、4台の15klタンクローリー(積載容量約12kL)を用意し、これらのタンク内部を蒸気滅菌処理するとともに、1台目のタンクローリーに地上施設の地下水貯蔵タンクから地下水をタンクローリーに積み込み、そこに前記CJF-002株の10L培養液8本(平均9.1×108 CFU/ml = 7.3×1010 CFU/80L)を混合して坑井元まで運搬した。坑井元までの道路は悪路で、運搬には約30分を要し、この間にタンク内の圧入溶液を撹拌していたことになる。坑井元では、タンクローリーと同様な手順で加熱滅菌処理したポンプ車によって、坑井のアニュラス部から圧入を行った。続いて2台目はスペーサーとして地下水のみを、3台目以降は、地下水で5%程度を目処として希釈した中国産ビートモラセス溶液を前記と同様な手順で順次圧入した(圧入総量:130kl)。これらの圧入における圧入レートは平均するとおよそ0.5kl/min(30 kl/h)であった。そして所定量の前記圧入溶液を圧入後、アニュラス部に残留している当該溶液を全て油層内に圧入するため、タンクローリー半載分に相当する約6klの地下水を後押し水として圧入した。
【0108】
圧入終了後、油層内に圧入したCJF-002株がモラセスを利用して油層内で増殖し、バイオフィルムを形成するのに要する期間を考慮して、坑井を10日間密閉(生産中止)した。
【0109】
坑井を所定期間密閉した後、生産を再開し、生産井から産出される流体の産液量および含水率(Water cut)の変化を測定することにより、石油増進回収効果を評価した。さらに、生産再開後、チュービング内に停滞している油層水を排出した後に、坑口装置のドレイン部から滅菌ボトル内に前記産出流体を経時的に採取し、実施例8に記載の手法を用いて前記産出流体中に生存するCJF-002株の濃度をモニタリングした。
【0110】
図5に、当該圧入実験における前記産出流体および原油の生産挙動を示した。CJF-002株の圧入により、前記産出流体の産液量がおよそ35%低下し、さらに、4-5倍もの原油回収量の増加が認められた。また、経時的に採取した前記産出流体中には、104-105 CFU/ml程度のCJF-002株が高頻度に検出された。これらの結果から、生産井#22-264の近傍油層に存在する高浸透性領域が、CJF-002株の生産するバイオフィルムにより閉塞されたことによって、産出流体の産液量の低下がもたらされ、さらにそれと同時に、油層内の流体の流路が変化たことにより、未回収の原油が掃攻されて、原油回収量が増加したものと考えられる。
【0111】
以上の実施例8及び9におけるCJF-002株を用いた原油掃攻撃実験及びハフ&パフテストの結果から、CJF-002株は石油増進回収効果をもたらすことが確認でき、当該菌が微生物攻法において極めて有効に利用できる菌であることが判明した。
【0112】
【発明の効果】
このように、本発明によると、初期の目的であった、バクテリアセルロースを産生する新規微生物、その微生物が生産するバクテリアセルロース、バクテリアセルロースの製造方法、およびその微生物ならびにバクテリアセルロースの石油の増進回収法への利用方法が提供される。
【0113】
本発明の微生物は、簡易な装置で安価な培地を用いて大量培養が可能であり、かつ嫌気性条件下で活発に増殖してバイオフィルムなどの不溶性ポリマーを生産しうる微生物であることから、微生物攻法による石油回収を低コストで且つ効率よく実施するための微生物として有用である。
【0114】
本発明によれば、地球環境問題に対して環境適合性材料の開発が急がれている昨今、天然材料として注目されているバクテリアセルロースが安価に供給できるものと期待される。また、本発明において、微生物攻法における微生物の効果的な利用手段の一つである、微生物産生不溶性ポリマーによる高浸透性領域の選択的なプラッギングに対して、本発明の微生物は効果的に利用できることが判明し、多様な油田における石油の増進回収も大いに期待される。
【0115】
【配列表】
Figure 0003896564
Figure 0003896564
Figure 0003896564

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のバクテリアセルロース産生微生物(CJF-002株)をビートモラセス培地で培養した場合の、菌の増殖性(図A)及びセルロースの生産性(図B)を示す図である(実施例5)。
【図2】本発明のバクテリアセルロース産生微生物(CJF-002株)の増殖性及びバクテリアセルロースの生産性に対するビートモラセス濃度の影響を示す図である(実施例6)。
【図3】油層岩表面にバイオフィルムが形成されている状況を示す図である(実施例7)。尚、図Aは実験に使用する前の油層岩小片の様子を示す図であり、図Bは油層岩小片にCJF-002株を接種して培養した後の油層岩小片の様子を示す図である(実施例7)。
【図4】実施例8において、原油を飽和させた油層岩を用いて原油の増進回収能力を調べた結果を示す図である。
【図5】実施例9において行ったハフ&パフテストの結果を示す図である。

Claims (6)

  1. Enterobacter sp. CJF-002(FERM BP-8227)菌株、または当該菌株の菌学的性質およびバクテリアセルロース産生能を有するその子孫もしくは変異体であるバクテリアセルロース産生微生物。
  2. 請求項1に記載するバクテリアセルロース産生微生物を培養し、培養物からバクテリアセルロースを採取回収することを特徴とするバクテリアセルロースの製造方法。
  3. 請求項1に記載するバクテリアセルロース産生微生物を単糖類または二糖類の少なくとも1種を含有する液体培地中で培養することを特徴とする請求項記載のバクテリアセルロースの製造方法。
  4. 静置培養法によって培養することを特徴とする請求項2または3に記載のバクテリアセルロースの製造方法。
  5. 請求項1に記載のバクテリアセルロース産生微生物または当該微生物が産生するバクテリアセルロースを用いることを特徴とする石油の増進回収方法。
  6. 請求項1に記載のバクテリアセルロース産生微生物を油層内で増殖させ、バクテリアセルロースを産生させることを特徴とする請求項に記載の石油の増進回収方法。
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