JP3895287B2 - サファイア基板の分割方法及び分割装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体素子用絶縁基板として使用されるサファイヤ基板を分割する方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体を成長させたサファイア基板の分割方法がいくつか提示されている。サファイア基板は劈開性に乏しいために、劈開し易い半導体の分割に通常用いられるダイシングやスクライビングといった手法によりチップへ分割することが困難とされていた。ダイシング法は、ダイヤモンド刃を具備する回転ブレードにより、ハーフカット(溝切り込み)若しくはフルカット(直接切断)する方法であるが、サファイア基板にクラックや損傷が発生し易い。スクライビング法は、ダイヤモンド針で直線状にスクライブラインを罫書いた後、外力により基板を割る方法であるが、基板が斜めに割れ易いという欠点があると同時に、やはり損傷し易い。この結果、素子歩留まりの低下、素子性能や寿命の悪化等の悪影響を及ぼしていた。
【0003】
特許文献1では、サファイア基板を特定方向に割ることにより上記問題を解決している。特許文献2では、半導体結晶の一部を除去して割溝を形成するために湿式エッチャントを用いている。特許文献3では、基板裏面に窒化金属薄膜を設けることにより任意方向への切断を可能とする。
【0004】
一方、半導体ウェハ等の硬質非金属膜の切断方法として、スクライビングとレーザを併用した方法が知られている。例えば、特許文献4では、ウェハ表面にダイシングでハーフカット溝を形成した後、ウェハ裏面から当該ハーフカット溝に沿ってレーザ光を照射し、熱歪により割断する方法が開示されている。
【特許文献1】
特開平9−219560号公報
【特許文献2】
特開平10−189498号公報
【特許文献3】
特開2000−101195号公報
【特許文献4】
特開2001−196332号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の通り、サファイア基板を分割する方法には、スクライビング又はダイシングが用いられているが、何らかの手段で基板表面、裏面に切溝を設けた後に基板を割る方法が好ましい。サファイアは、非常に硬質であるのでフルカットすると長時間を要する上に、前述の通り、損傷し易いためである。
【0006】
尚、サファイア基板は、将来的に半導体素子用絶縁基板技術の主流を担うと予想されている、その工業的分割方法の確立は重要な課題である。
【0007】
以上の現状に鑑み、本発明は、確実に、精度よく、高い歩留まりかつ低コストでサファイア基板を分割する方法及び装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明は、以下の構成を提供する。
(1)請求項1に係るサファイア基板の分割方法は、サファイア基板の第1面に対しスクライブ溝を形成する第1のステップと、形成された前記スクライブ溝に対応する位置にて前記サファイア基板の前記第1面側若しくは第2面側からレーザ光を照射する第2のステップとを含み、前記レーザ光の波長が、前記サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長であり、前記レーザ光の集光点が、前記サファイア基板の断面内において前記スクライブ溝の最深位置と前記第2面との間にあってかつ前記レーザ光によるレーザアブレーションを生じない位置にあることを特徴とする。
【0013】
(2)請求項2に係るサファイア基板の分割装置は、サファイア基板の第1面に対しスクライブ溝を形成する第1の手段と、形成された前記スクライブ溝に対応する位置にて前記サファイア基板の第2面側からレーザ光を照射する第2の手段とを有し、前記レーザ光の波長が、前記サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長であり、前記レーザ光の集光点が、前記サファイア基板の断面内において前記スクライブ溝の最深位置と前記第2面との間にあってかつ前記レーザ光によるレーザアブレーションを生じない位置にあることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。本発明によるサファイア基板の分割方法を適用されるサファイア基板は、半導体素子用の絶縁基板に用いられるものを想定しており、通常、その一方の面上に回路素子を形成する半導体結晶を成長させる。
【0019】
本発明によるサファイア基板の分割方法の基本形態は、主要な2ステップを含む。第1のステップは、図1(A)に示すように、サファイア基板10の第1面10aに対しスクライブ溝11を形成するステップである。図1(A)は、サファイア基板10の平面図である。スクライブ溝11は、例えば公知のダイヤモンドスクライバ20により罫書くことにより形成することができる。ダイヤモンドスクライバ20は、その先端にダイヤモンドチップ22のスクライバ刃を具備する。図1(A)に示すように、スクライブ溝11は例えばX軸方向とY軸方向に格子状に形成される。斯かる格子状のスクライブ溝を形成するためにダイヤモンドスクライバ20の2次元的位置制御を行うスクライバ装置は、周知技術である。一実施例では、45g荷重で各スクライブ溝につき1回のみ罫書きを行ったが、これに限定されない。
【0020】
図1(B)は、図1(A)の1−1拡大断面を概略的に示している。破線は、X軸方向のスクライブ溝11の最深位置を示している。サファイヤ基板の厚さは、例えば100〜数100μmであり、スクライブ溝11の深さは、例えば5〜10μm程度であるが、これに限定されない。
【0021】
第2のステップは、図2(A)に示すように、第1のステップで第1面10aに形成されたスクライブ溝11に対応する位置であってサファイア基板10の反対側の位置11’にて、第2面10bの側からレーザ光32を照射するステップである。図2(A)は、サファイア基板10の概略的な部分断面図である。レーザ光32は、適宜のレーザ照射装置30により照射される。
【0022】
図2(B)は、図2(A)の2−2拡大断面を概略的に示した図である。水平方向の破線11aは、スクライブ溝11の底すなわち最深位置を示している。第2面10bからスクライブ溝11に向かってレーザ光32を照射すると、レーザ光32の集光点32aからスクライブ溝11の方向に沿って割断面(斜線部)が生じ、成長する。この割断面は、サファイア基板10の両面10a、10bに垂直である。また、この割断面の形成において、サファイア基板10に欠けや損傷を生じない。従って、レーザ照射装置30を、例えば矢印の方向に移動することにより、サファイア基板10をスクライブ溝11に沿って完全に切断することができる。このレーザ照射装置30の移動を、図1(A)に示したX軸方向及びY軸方向について繰り返すことによりサファイア基板10はチップに分割される。斯かる操作を実行するためにレーザ照射装置30の2次元的位置制御を行う装置は、周知である。
【0023】
尚、上記第2のステップについて、別の実施例においては、第1面10aに形成されたスクライブ溝11に対応する位置にて、第1面10aの側からレーザ光32を照射してもよい。幾つかの試験結果では、図2のようにスクライブ溝11の反対側の第2面10bの側からのレーザ光照射の方が良好な結果が得られた。しかしながら、スクライブ溝11の形成面と同じ側からレーザ光を照射することは、ダイヤモンドスクライバ20とレーザ照射装置30がサファイア基板10に対して同じ側に設置されている装置にあってはサファイア基板10を裏返す工程やスクライブ溝形成面の保護処理等の工程が不要である点で有利である。
【0024】
本発明によるサファイア基板の分割装置は、上記の第1及び第2のステップからなるサファイア基板の分割方法を実施可能な装置である。例えば、サファイア基板を適宜手段で固定することができ、本発明に適用可能なダイヤモンドスクライバとレーザ照射装置の双方を具備し、これらの各々について2次元的位置制御を行うことができる装置である。特に、ダイヤモンドスクライバについては、そのスクライブ刃の形状並びにスクライビング時の荷重及び速度等を適宜選択可能であり、レーザ照射装置については、その波長、パルス幅、照射エネルギー、スポット径、集光点の位置及び偏光等を適宜選択可能とすることが好適である。
【0025】
以下、本発明の好適な形態について説明する。
本発明の好適例においては、レーザ光の波長を、サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長とする。多光子吸収は、原子・分子の初期状態から最終状態に遷移する過程で多光子を吸収する場合であり、2光子吸収は多光子吸収の最も簡単な場合である。このような波長の選択にあたっては、サファイア基板の吸収スペクトルの吸収端よりも長波長側の波長を選択することが一応の目安となるが、サファイア基板の吸収スペクトルの吸収末端は、使用するサファイア基板の不純物によってばらつきがあるので、この選択手法はあくまで目安である。このように、本発明では、サファイア基板の吸収スペクトルにおける吸収の大きい波長範囲をあえて用いず、サファイアが吸収できる波長より小さなエネルギー(長波長側)のレーザ光を照射する。これは、サファイアが直接吸収できる波長のレーザ光を照射すると、サファイア基板の表面が破壊されるおそれがあるためである。これに対し、サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長を照射すると、透明材料であるサファイア内部にレーザ光が侵入することにより、内部加工が可能となる。従って、レーザ光の波長として、ほぼ可視光〜赤外の全範囲から任意に選択することができる。
【0026】
本発明の方法では、第1のステップのスクライブ溝形成により内部にストレスや微小なクラックを発生させておき、第2のステップでその部分にレーザ照射することにより、サファイア基板をスクライブ溝に沿って割断することができる。また、長波長側の波長とすることにより、低エネルギーレーザによる加工が可能となり、コスト的にも有利である。
【0027】
一実施例では、パルス幅200fs、波長800nm、繰り返し周波数1kHzのレーザ光を用いたが、これらに限定されない。例えば、パルス幅は、数十psまで可能である。
【0028】
さらに、本発明の好適例では、レーザ光の照射エネルギーを、サファイアのブレークダウンエネルギーとすると、集光点より発生するクラックは、スクライブ溝付近の微小なクラックにガイドされるよう到達し、ランダムな方向へのクラックの生成を防ぐことができる。ここで、「ブレークダウンエネルギー」とは、スクライブ溝を形成していない部分に照射した場合、照射部位の変質(屈折率の変化等)やクラックが生じるエネルギー範囲であることをいう。一実施例では、レーザ光の照射エネルギーを集光点付近で0.5〜1μJ/パルスとしたが、これに限定されない。
【0029】
またさらに、本発明の好適例では、レーザ光のスポット径を、スクライブ溝の幅を超えない大きさとする。スクライブ溝形成による内部ストレスや内部クラック発生部分に対して的確にレーザ光を照射するためである。限定はしないが一実施例では、集光系として、倍率40倍、開口数0.55のドライ対物レンズを用いた。このときのレーザ光のスポット径は、光軸と垂直方向に2〜3μm、光軸方向に5μm程度であり、一方、スクライブ溝の幅は4〜5μm程度であった。
【0030】
またさらに、本発明の好適例では、レーザ光の集光点が、サファイア基板の断面内においてスクライブ溝の最深位置と第2面との間にあってかつ前記レーザ光によるレーザアブレーションを生じない位置である(例えば、図2(B)参照)。これは、サファイア基板の断面内においてスクライブ溝に近すぎる位置にレーザ光の集光点があると、サファイアのアブレーションが生じ、表面に穴を生じてしまうためである。また、サファイア基板の断面内において第2面の表面に近すぎる位置にレーザ光の集光点がある場合についても同様の現象が生じる。限定はしないが一実施例では、スクライブ溝の最深位置は、第1面から6〜7μmの位置にあり、このときのレーザ光の集光点は、スクライブ溝の最深位置よりも第2面側へさらに5μm程度寄った点であった。この実施例では、サファイア基板が極めて良好な状態で分割された。
【0031】
またさらに、本発明の好適例では、レーザ光の偏光方向が、スクライブ溝の方向に対して垂直方向である。一実施例では、レーザ光の偏光方向がスクライブ溝と同方向の場合よりも、スクライブ溝に対して垂直方向の場合にサファイア基板が良好な状態で分割された。但し、このことは、レーザ光が、スクライブ溝と同方向に直線偏光される場合並びに円偏光される場合を、本発明の実施態様から排除するものではない。
【0032】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によるサファイア基板の分割方法及び装置では、サファイア基板の第1面に対しスクライブ溝を形成した後、スクライブ溝の形成位置に相当する位置にてサファイア基板の第1面側若しくは第2面側から、サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長のレーザ光を照射する。このように、スクライブ溝形成による内部ストレスや微小クラックの部分にレーザ照射されることにより、サファイア基板をスクライブ溝に沿って割断することができる。また、長波長側の波長とすることにより、低エネルギーレーザによる加工が可能となり、コスト的にも有利である。
【0033】
さらに、レーザ光の照射エネルギーを、サファイアのブレークダウンエネルギーとすると、集光点付近のクラックはランダム方向に生成するのではなく、スクライブ溝付近の微小なクラックに向かってガイドされるよう到達し、スクライブ溝に沿った割断が可能になる。
【0034】
またさらに、レーザ光のスポット径が、スクライブ溝の幅を超えないことにより、スクライブ溝形成による内部ストレスや微小クラックに対し、的確かつ効率的にレーザ光を照射することができ、良好な分割が実現される。
【0035】
またさらに、レーザ光の集光点が、サファイア基板の断面内においてスクライブ溝の最深位置と第2面との間にあってかつ前記レーザ光によるレーザアブレーションを生じない位置にあることによっても、スクライブ溝形成による内部ストレスや微小クラックに対し、的確かつ効率的にレーザ光を照射することができ、良好な分割が行われる。
【0036】
またさらに、レーザ光の偏光方向が、スクライブ溝の方向に対して垂直方向であることによっても、良好な分割が行われる。
【0037】
本発明による分割方法及び装置では、サファイア基板の欠けや損傷を生じず歩留まりが向上し、かつ、速やかに精確な分割を行うことができる。また、低コストでシンプルな装置及び操作により全工程を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は、本発明によるサファイア基板の分割方法の第1のステップを示す平面図である。(B)は、(A)の1−1拡大断面図である。
【図2】(A)は、本発明によるサファイア基板の分割方法の第2のステップを示す断面図である。(B)は、(A)の2−2拡大断面図である。
【符号の説明】
10 サファイア基板
10a 第1面
10b 第2面
11 スクライブ溝
13 割断部分
20 スクライバ
22 ダイヤモンドチップ
30 レーザ照射装置
32 レーザ光
32a 集光点
Claims (2)
- サファイア基板の第1面に対しスクライブ溝を形成する第1のステップと、形成された前記スクライブ溝に対応する位置にて前記サファイア基板の前記第1面側若しくは第2面側からレーザ光を照射する第2のステップとを含み、
前記レーザ光の波長が、前記サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長であり、
前記レーザ光の集光点が、前記サファイア基板の断面内において前記スクライブ溝の最深位置と前記第2面との間にあってかつ前記レーザ光によるレーザアブレーションを生じない位置にあることを特徴とするサファイア基板の分割方法。 - サファイア基板の第1面に対しスクライブ溝を形成する第1の手段と、形成された前記スクライブ溝に対応する位置にて前記サファイア基板の前記第1面側若しくは第2面側からレーザ光を照射する第2の手段とを有し、
前記レーザ光の波長が、前記サファイア基板が2光子吸収を含む多光子吸収を生じ得る波長であり、
前記レーザ光の集光点が、前記サファイア基板の断面内において前記スクライブ溝の最深位置と前記第2面との間にあってかつ前記レーザ光によるレーザアブレーションを生じない位置であることを特徴とするサファイア基板の分割装置。
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