JP3891637B2 - イソチオシアネート化合物の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、イソチオシアネート化合物の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イソチオシアネート基を有する化合物の製造方法は、各種が知られている。例えば、(1)オレフィン、エポキシ化合物、ハロゲン化物とチオシアン酸の反応(Chem.Pharm.Bull.(Tokyo),8,486(1960) 、Chem.Pharm.Bull.,17,2110(1969)、米国特許3,111,536 号公報等)、(2)ジチオカルバミン酸塩とクロルギ酸エステルによる反応(Org.Synth.,III,599(1955)、J.Org.Chem.,29,3093(1964) )、(3)アミノ化合物とチオホスゲンの反応(米国特許2,824,887 号公報、GB 999,221号公報)が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1)では、異性体であるチオシアン酸の生成を制御することが容易でなく、(2)では、クロルギ酸エステルが比較的高価であり、また有毒な硫化カルボニルが反応で生成する。さらに、クロロギ酸エステルを用いると、反応溶液中に副生成物として塩酸が発生し発熱するため、反応をコントロールする必要が生じる。さらにまた、この塩酸が反応してさらなる副生成物を生じる傾向がある。また、(3)では、高価かつ有毒のチオホスゲンを使用するという問題点を有する。さらに、(1)〜(3)のいずれも、収率が満足できるものではないという問題点も有している。
【0004】
そこで、この発明の課題は、安全にかつ収率よくイソチオシアネート化合物を製造することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明においては、化学式〔2〕
R1 −NCS 〔2〕
(式中、R1 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体、又は、HO−R3 −で表される水酸基含有基を表す。上記のR3 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体を表す。)
で表されるイソチオシアネート化合物の製造法として、化学式〔1〕
【0006】
【化4】
【0007】
(式中、R1 は、化学式〔1〕におけるR1 と同様であり、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、無置換又は置換されたアンモニウムを表す。)
で表されるジチオカルバミン酸又はその塩を酸無水物と反応させることを見いだしたのである。
【0008】
また、化学式〔4〕
SCN−R2 −NCS 〔4〕
で表されるジイソチオシアネート化合物の製造法として、式〔3〕
【0009】
【化5】
【0010】
(式中、R2 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体、又は、下記
【0011】
【化6】
【0012】
で表される水酸基含有基を表す。上記のR4 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体を表す。また、M1 及びM2 は、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、無置換又は置換されたアンモニウムを表す。)
で表されるジジチオカルバミン酸又はその塩を酸無水物と反応させることを見いだしたのである。
【0013】
上記反応において、ジチオカルバミン酸又はその塩を酸無水物との反応に供与するので、チオホスゲン等の有毒物質を用いることなく、また、硫化カルボニル等の有毒ガスを発生することなく、安全にイソチオシアネート化合物を生成することができ、また、収率も向上させることができる。さらに、酸無水物との反応は、クロロギ酸エステルを用いた場合に比べ反応が穏やかなため、容易に反応をコントロールすることができる。
【0014】
これらの化合物は、医農薬や化学品の合成原料として用いることができ、また、抗菌作用や抗かび作用を有する。
【0015】
【発明の実施の形態】
この発明について、更に詳しく説明する。
【0016】
この発明にかかる製造法に用いられるジチオカルバミン酸又はその塩は、一般的に式〔1〕で表される。
【0017】
【化7】
【0018】
なお、化学式〔1〕中、R1 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体、又は、HO−R3 −で表される水酸基含有基を表す。上記のR3 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体を表す。また、Mは、水素原子、Na、K等のアルカリ金属原子、無置換又は置換されたアンモニウムを表す。
【0019】
上記のジチオカルバミン酸又はその塩は、任意の方法で得ることができる。その例として、アミノ化合物をジチオカルバメート化する方法があげられる。このジチオカルバメート化反応の原料としては、一般的に化学式〔5〕で表されるアミノ化合物が用いられる。
【0020】
R1 −NH2 〔5〕
ここでR1 は、化学式〔1〕におけるR1 と同様である。このようなR1 を有する上記化学式〔5〕で表されるアミノ化合物の具体例としては、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、s−ブチルアミン、t−ブチルアミン、イソブチルアミン、n−アミルアミン、t−アミルアミン、1,2−ジメチルプロピルアミン、1−エチルプロピルアミン、イソアミルアミン、1−メチルブチルアミン、2−メチルブチルアミン、ジイソプロピルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、n−ヘキシルアミン、2−ヘプチルアミン、3−ヘプチルアミン、n−ヘプチルアミン、1,5−ジメチルヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1−メチルヘプチルアミン、n−オクチルアミン、t−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、アリルアミン、プロパルギルアミン、1,1−ジメチルプロパルギルアミン、(アミノメチル)シクロプロパン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロヘキサンメチルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、1−シクロヘキシルエチルアミン、シクロオクチルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、2−(1−シクロヘキシル)エチルアミン、アリルシクロヘキシルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、エチルアニリン、o−アニシジン、m−アニシジン、p−アニシジン、o−フェネチジン、m−フェネチジン、p−フェネチジン、2−(アミノメチル)−1−エチルピロリジン、2−(アミノエチル)−1−メチルピロリジン、3−(アミノメチル)ピリジン、4−(アミノメチル)ピリジン、2−(2−アミノエチル)−1−メチルピロール、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−ブロモアニリン、m−ブロモアニリン、p−ブロモアニリン等をあげることができる。
【0021】
R1 の置換基として水酸基を有するものは、特に限定されるものではない。このようなR1 を有する上記化学式〔1〕で表されるアミノ化合物の具体例としては、3−アミノ−1−プロパノール、4−アミノ−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノール、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパノール、6−アミノ−1−ヘキサノール、6−アミノ−2−メチル−2−ヘプタノール、4−アミノシクロヘキサノール、trans−2−アミノシクロヘキサノール、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノール、4−(2−アミノエチル)フェノール、4−アミノフェノール、4−アミノクレゾール、4−アミノベンジルアルコール、4−アミノフェネチルアルコール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N−アミノエチルエタノールアミン、N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン等をあげることができる。
【0022】
また、ジチオカルバメート化反応に供与するアミノ化合物としては、一分子中に1級アミノ基を2つ含有するジアミノ化合物であってもよい。これは、化学式〔6〕
H2 N−R2 −NH2 〔6〕
で表され、これを用いると、一分子中にジチオカルバメート基を2つ含有するジジチオカルバミン酸又はその塩を製造することができる。
【0023】
上記化学式〔6〕のR2 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物又はこれらの置換体、又は、下記
【0024】
【化8】
【0025】
で表される水酸基含有基を表す。上記のR4 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環、ヘテロ化合物、2級又は3級アミノ化合物、若しくはこれらの置換体を表す。
【0026】
上記R2 としては、特に限定されるものではない。このようなR2 を有する上記化学式〔6〕で表されるジアミノ化合物の具体的としては、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、5−アミノ−2,2,4−トリメチル−1−シクロペンタンメチルアミン、5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン、1,8−p−メンタンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレンジアニリン、ジエチレントリアミン等があげられる。
【0027】
R2 の置換基として水酸基を有するものは、特に限定されるものではない。このようなR2 を有する上記化学式〔6〕で表されるアミノ化合物の具体例としては、2,4−ジアミノフェノール、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、2,4−ジアミノ−6−ヒドロキシピリミジン等をあげることができる。
【0028】
上記化学式〔5〕で表されるアミノ化合物を、塩基の存在下で二硫化炭素とジチオカルバメート化反応をおこなうことにより、上記化学式〔1〕で表されるジチオカルバミン酸又はその塩が生成される。
【0029】
また、アミノ化合物として上記化学式〔6〕で表される化合物を用いてジチオカルバメート化反応をおこなうと、下記化学式〔3〕で表されるジジチオカルバミン酸又はその塩を生成することができる。
【0030】
【化9】
【0031】
なお、化学式〔3〕中、R2 は化学式〔6〕におけるR2 と同様であり、M1 及びM2 は、それぞれ水素原子、Na、K等のアルカリ金属原子、無置換又は置換されたアンモニウムを表す。
【0032】
上記ジチオカルバメート化反応における上記アミノ化合物と二硫化炭素の使用割合は、特に限定されるものではないが、反応効率の面から、上記アミノ化合物中のアミノ基1当量当たりの二硫化炭素の使用割合は、1.0〜10.0倍当量がよく、1.5〜5.0倍当量が好ましい。1.0倍当量未満だと、完全にジチオカルバミン酸が生成しないため遊離のアミノ基が残存する。この残存アミノ基は、この発明にかかるイソチオシアネート化反応において酸無水物と反応してアミド化合物を生成するため、イソチオシアネート化合物の収率低下の原因となる。また、二硫化炭素を10.0倍当量を越えて添加してもこの反応には特に影響はしないが、反応効率や容積効率の面から好ましくない。
【0033】
上記ジチオカルバメート化反応に使用される塩基は、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属アルコキシド、2級、3級又は4級アミン、複素環式アミン等があげられ、好ましくは、水酸化アルカリ金属として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、3級アミンとしてトリエチルアミンが用いられる。塩基を添加しない場合は、反応が極めて遅くなるので好ましくない。
【0034】
また、上記塩基が反応溶液に溶解しないときは、両者を相溶させるため、水を少量用いることができる。水の使用量は特に限定されないが、反応効率の面から、上記塩基が反応溶液と均一状態になり得る量を用いればよい。
【0035】
塩基の使用量は、上記アミノ化合物の有する官能基の種類によって異なる。すなわち、上記アミノ化合物が、反応生成物であるイソチオシアネート化合物中のイソチオシアネート基と反応し、副反応物を容易に生じさせる官能基を有していない場合は、上記アミノ化合物中のアミノ基1当量に対し、0.2〜10倍当量用いるのがよく、0.6〜2倍当量が好ましい。0.2倍当量未満だと、反応の進行が遅くなり、10倍当量を越えて添加しても反応には影響ないが、反応効率や容積効率の面から好ましくない。
【0036】
この発明の方法で製造される下記化学式〔2〕で表されるイソチオシアネート化合物
R1 −NCS 〔2〕
(式中、R1 は、化学式〔1〕におけるR1 と同様である。)
は、上記の化学式〔1〕で示されるジチオカルバミン酸又はその塩に酸無水物を加えて混合無水物の中間体を作り、これを分解することにより製造することができる。
【0037】
この反応に用いられる酸無水物は、2つの酸性官能基から水1分子を失って縮合した化合物であり、例えば、2つのカルボキシル基が縮合した化合物、2つのスルホニル基が縮合した化合物、1つのカルボキシル基と1つのスルホニル基が縮合した化合物等をあげることができる。
【0038】
上記化学式〔2〕で表されるイソチオシアネート化合物を生成するイソチオシアネート化反応の反応式は、例えば、下記反応式〔7〕で表すことができる。この場合、酸無水物として2つのカルボキシル基が縮合した化合物を用い、中間体の分解のために塩基を用いた場合を示した。
【0039】
【化10】
【0040】
なお、反応式〔7〕中、R1 、Mは、化学式〔1〕におけるR1 、Mと同様であり、Y1 、Y2 は、鎖状パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、シクロアルキン、芳香環又はこれらの置換体を表し、M3 + は、アルカリ金属イオンを表す。
【0041】
この反応式〔7〕において、酸無水物として2つのスルホニル基が縮合した化合物を用いる場合は、反応式〔7〕中の酸無水物の2つのカルボニル基のいずれもスルホニル基とすればよく、酸無水物として1つのカルボキシル基と1つのスルホニル基が縮合した化合物を用いる場合は、〔7〕中の酸無水物の1つのカルボニル基をスルホニル基とすればよい。また、中間体の分解のために一般に塩基を用いるが、この場合、例えば、反応式〔7〕中のM3 OHで示すような塩基があげられる。
【0042】
イソチオシアネート化反応に供与するジチオカルバミン酸又はその塩として単離したものを用いるときは、アミノ化合物生成の副反応を防ぐため、二硫化炭素を添加することが好ましい。また、上記のアミノ化合物をジチオカルバメート化反応を行ってジチオカルバミン酸又はその塩を得る場合は、特に単離することなく、反応液をそのままイソチオシアネート化反応に供与することができる。この場合は、単離するためのロス、時間を節約することができ、効率をあげることができる。
【0043】
また、化学式〔3〕で表されるジジチオカルバミン酸又はその塩を用いた場合は、それぞれのジチオカルバミノ基が同様の化学反応式を経由して下記化学式〔4〕で表されるジイソチオシアネート化合物を製造できる。
【0044】
SCN−R2 −NCS 〔4〕
なお、式中、R2 は、化学式〔3〕におけるR2 と同様である。
【0045】
上記イソチオシアネート化反応に用いられる酸無水物の例としては、2つのカルボキシル基が縮合したものの例として、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水イソ酪酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸等をあげることができる。また、2つのスルホニル基が縮合したものの例として、無水ベンゼンスルホン酸等をあげることができ、1つのカルボキシル基と1つのスルホニル基が縮合したものの例として、無水o−スルホ安息香酸等をあげることができる。
【0046】
この酸無水物の使用量は、反応に供与されたジチオカルバミン酸又はその塩1当量に対して、1.0〜10.0倍当量、好ましくは、1.1〜2.0倍当量である。10.0倍当量を越える添加は、収率に対しては特に影響を与えないが、反応効率の点から好ましくない。
【0047】
上記イソチオシアネート化反応において、ジチオカルバミン酸又はその塩に酸無水物を反応させた場合、上記反応式〔7〕に示すような中間体が生成する。この中間体を分解してイソチオシアネート化合物を生成するため、反応式〔7〕に示すように塩基を用いて分解させたり、熱分解が行われる。
【0048】
この反応において塩基が用いられる場合、例として、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属アルコキシド、2級、3級又は4級アミン、複素環式アミン等があげられ、好ましくは、水酸化アルカリ金属として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、3級アミンとしてトリエチルアミンがあげられる。なお、ジチオカルバミン酸又はその塩が上記ジチオカルバメート化反応等で得られた反応液をそのまま用いてこの反応に供与する場合において、この反応液に既に塩基を有しているときは、当該塩基をそのままこの反応に利用することができる。
【0049】
また、上記塩基がこの反応の反応溶液に溶解しない場合は、両者を相溶させるため、水を少量加えてもよい。加えられる水の量は、特に限定されるものではないが、反応効率の面から、上記塩基が反応溶液と均一状態になり得る量を用いることが好ましい。
【0050】
上記塩基の使用量は、ジチオカルバミン酸又はその塩中のジチオカルバメート基1当量に対し、0.5〜10倍当量がよく、1〜2倍当量が好ましい。触媒量が0.5倍当量未満だと副反応がおこりやすく、また、過剰の塩基はイソチオシアネートと遊離の酸から生じるアミド化反応を触媒化するため好ましくない。なお、ジチオカルバミン酸又はその塩が上記ジチオカルバメート化反応等で得られた反応液をそのまま用いてこの反応に供与する場合において、この反応液に既に塩基を有しているときは、上記の塩基添加量から、既に加えられている添加量を差し引いた量を加えればよい。
【0051】
上記イソチオシアネート化反応において用いられる反応溶媒は、ジチオカルバミン酸又はその塩が塊状に固化しない溶媒、すなわち、ジチオカルバミン酸又はその塩を溶解状態又はスラリー状態にする溶媒であればよい。そのような溶媒として例えば、水、テトラヒドロフランやジオキサン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、メタノールやエタノール、2−プロパノール等のアルコール類、アセトニトリルやジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、ピリジン等の塩基性溶媒、あるいは、水と上記水溶性有機溶媒との混合溶媒をあげることができる。また、塩基としてトリエチルアミン等を用いる場合は、上記の溶媒に加え、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、ベンゼン等の疎水性有機溶媒を用いることもできる。
【0052】
この反応は低温でも進行するため、反応温度を限定する必要はないが、低温から室温、詳しくは0〜40℃で反応させることが好ましい。この温度範囲を逸脱すると、加熱装置や冷却装置が必要となり、エネルギー効率上、好ましくない。
【0053】
反応時間は、この反応自体が非常に速やかに進行することから、酸無水物添加後、3時間以内で充分であり、1〜30分間が好ましい。3時間を越えて反応させると、反応物たる遊離の酸とイソチオシアネート化合物が反応し、収率の低下を招く。
【0054】
このようにして生成した反応液中のイソチオシネート化合物は、一般的な方法によって回収することができる。例えば、反応液をn−ヘキサン等で抽出した後、酸で洗浄し、溶媒を留去することにより回収することができる。また、精製が必要な場合は、蒸留、再結晶及びカラムクロマトグラフィーによって精製を行うことができる。
【0055】
上記回収時において、酸で洗浄した後に水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリで洗浄したり、酸で洗浄する前に上記アルカリで洗浄することにより、遊離酸等の副生成物を除去することができる。
【0056】
ところで、上記反応式〔7〕において塩基を使用する場合、洗浄に用いられる上記アルカリによっても同様に中間体を分解するので、上記反応式〔7〕における塩基の使用量を減らすことができる。
【0057】
【実施例】
〔実施例1〕 n−ブチルイソチオシアネートの合成
n−ブチルアミン20mmol、トリエチルアミン20mmol、テトラヒドロフラン50mlの溶液に、二硫化炭素100mmolを加え1時間攪拌添加し、n−ブチルアミンをジチオカルバメート化した。
次いで、上記反応液に無水酢酸22mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってn−ブチルイソチオシアネート2.07g(収率90%)を得た。
【0058】
〔実施例2〕 3−メトキシプロピルイソチオシアネートの合成
3−メトキシプロピルアミン50mmol、トリエチルアミン50mmol、テトラヒドロフラン125mlの溶液に、二硫化炭素250mmolを加え10分間攪拌し、3−メトキシプロピルアミンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸55mmol及びトリエチルアミン50mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによって3−メトキシプロピルイソチオシアネート5.90g(収率90%)を得た。
【0059】
〔実施例3〕 3−ジエチルアミノプロピルイソチオシアネートの合成
N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン20mmol、トリエチルアミン20mmol、テトラヒドロフラン/水=7/3の混合溶媒50mlに、二硫化炭素60mmolを加え1時間攪拌し、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸22mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによって3−ジエチルアミノプロピルイソチオシアネート3.06g(収率89%)を得た。
【0060】
〔実施例4〕 1,6−ヘキサメチレンジイソチオシアネートの合成
1,6−ヘキサメチレンジアミン20mmol、トリエチルアミン40mmol、テトラヒドロフラン/水=7/3の混合溶媒50mlに、二硫化炭素120mmolを加え1時間攪拌し、1,6−ヘキサメチレンジアミンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸44mmol及びトリエチルアミン40mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによって1,6−ヘキサメチレンジイソチオシアネート3.76g(収率94%)を得た。
【0061】
〔実施例5〕 フェニルイソチオシアネートの合成
アニリン20mmol、トリエチルアミン20mmol、蒸留水50mlに、二硫化炭素100mmolを加え5時間攪拌し、アニリンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸40mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってフェニルイソチオシアネート2.48g(収率92%)を得た。
【0062】
〔実施例6〕 p−メトキシフェニルイソチオシアネートの合成
p−アニシジン20mmol、トリエチルアミン20mmol、蒸留水50mlに、二硫化炭素100mmolを加え1時間攪拌し、p−アニシジンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸40mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってp−メトキシフェニルイソチオシアネート3.07g(収率93%)を得た。
【0063】
〔実施例7〕 o−メトキシフェニルイソチオシアネートの合成
o−アニシジン20mmol、トリエチルアミン20mmol、蒸留水50mlに、二硫化炭素100mmolを加え1時間攪拌し、o−アニシジンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸40mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってo−メトキシフェニルイソチオシアネート2.64g(収率80%)を得た。
【0064】
〔実施例8〕 m−メトキシフェニルイソチオシアネートの合成
m−アニシジン20mmol、トリエチルアミン20mmol、蒸留水50mlに、二硫化炭素100mmolを加え1時間攪拌し、m−アニシジンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸40mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってm−メトキシフェニルイソチオシアネート2.44g(収率74%)を得た。
【0065】
〔実施例9〕 p−クロロフェニルイソチオシアネートの合成
p−クロロアニリン20mmol、トリエチルアミン20mmol、蒸留水50mlに、二硫化炭素100mmolを加え1時間攪拌し、p−クロロアニリンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸40mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってp−クロロフェニルイソチオシアネート2.68g(収率79%)を得た。
【0066】
〔実施例10〕 o−クロロフェニルイソチオシアネートの合成
o−クロロアニリン50mmol、トリエチルアミン50mmol、蒸留水125mlに、二硫化炭素150mmolを加え65時間攪拌し、o−クロロアニリンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸55mmol及びトリエチルアミン50mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってo−クロロフェニルイソチオシアネート5.59g(収率66%)を得た。
【0067】
〔実施例11〕 m−クロロフェニルイソチオシアネートの合成
m−クロロアニリン50mmol、トリエチルアミン50mmol、蒸留水125mlに、二硫化炭素150mmolを加え5時間攪拌し、m−クロロアニリンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸55mmol及びトリエチルアミン50mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってm−クロロフェニルイソチオシアネート5.42g(収率64%)を得た。
【0068】
〔実施例12〕 n−ブチルイソチオシアネートの合成
n−ブチルアミン20mmol、トリエチルアミン20mmol、テトラヒドロフラン50mlの溶液に、二硫化炭素20mmolを加えて反応温度を15℃に制御しながら1時間攪拌し、n−ブチルアミンをジチオカルバメート化した。次いで、無水酢酸22mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってn−ブチルイソチオシアネート2.05g(収率89%)を得た。
【0069】
〔実施例13〕 n−ブチルイソチオシアネートの合成
n−ブチルアミン20mmol、トリエチルアミン20mmol、蒸留水50mlの溶液に、二硫化炭素60mmolを加えて30分間攪拌し、n−ブチルアミンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸22mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってn−ブチルイソチオシアネート1.89g(収率82%)を得た。
【0070】
〔実施例14〕 n−ブチルイソチオシアネートの合成
n−ブチルアミン20mmol、水酸化ナトリウム20mmol、9/1のテトラヒドロフラン/蒸留水の混合溶液50mlの溶液に、二硫化炭素100mmolを加えて1時間攪拌し、n−ブチルアミンをジチオカルバメート化した。
次いで、無水酢酸40mmol及び水酸化ナトリウム20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってn−ブチルイソチオシアネート1.84g(収率80%)を得た。
【0071】
〔実施例15〕 n−ブチルイソチオシアネートの合成
テトラヒドロフラン50mlに、n−ブチルジチオカルバメート・トリエチルアミン塩20mmolを加えて溶解させた。
次いで、無水酢酸22mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液をn−ヘキサンで抽出した後、1N−硫酸と1N−水酸化カリウムで洗浄した。n−ヘキサン相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、硫酸マグネシウムを取り除き、減圧留去することによってn−ブチルイソチオシアネート1.91g(収率83%)を得た。
【0072】
〔実施例16〕 2−(2−イソチオシアネートエトキシ)エタノールの合成
2−(2−アミノエトキシ)エタノール20mmol、トリエチルアミン20mmol、テトラヒドロフラン50mlの溶液に、二硫化炭素60mmolを加え30分間攪拌した。
次いで、上記反応液に無水酢酸22mmol及びトリエチルアミン20mmolを加え10分間攪拌した。その溶液を酢酸エチルで抽出した後、0.1N−硫酸と飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄した。酢酸エチル相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーで精製することによって、2−(2−イソチオシアネートエトキシ)エタノール2.35g(収率80%)を得た。
【0073】
【発明の効果】
この発明は、ジチオカルバミン酸化合物と酸無水物とを反応させるので、チオホスゲン等の有毒物質を用いることなく、安全にイソチオシアネート化合物を生成することができ、また収率も向上させることができる。
【0074】
また、この発明により得られるイソチオシアネート化合物は、医農薬や化学品の合成原料として用いることができる。さらに、抗菌作用や抗カビ作用を有するので、抗菌剤や抗カビ剤として用いることもできる。
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